IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

特許7193433分散体及びこれを用いた導電性パターン付構造体の製造方法
<>
  • 特許-分散体及びこれを用いた導電性パターン付構造体の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】分散体及びこれを用いた導電性パターン付構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20221213BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20221213BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H01B13/00 503D
C09D11/52
H05K3/12 610J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019168677
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021048012
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2020-12-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】譽田 祥己
(72)【発明者】
【氏名】湯本 徹
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 雅典
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】佐藤 智康
【審判官】小田 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/051562(WO,A1)
【文献】特開2013-77602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/12
H01B 13/00
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銅と、分散剤と、還元剤と、増粘剤とを含む分散体であって、
前記分散剤が、
グリセリン及び/又はジエチレングリコールである第1成分と、
ポリエチレングリコール及び/又はアルコキシポリエチレングリコールであり、分子量が200~400であり、且つ分解温度が50℃以上300℃以下である第2成分とを含み、
前記還元剤が、ヒドラジン及び/又はヒドラジン水和物を含み、
前記増粘剤が、カルボキシメチルセルロース並びにそのアンモニウム塩及びナトリウム塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、並びに、アルデヒド基を有する化合物、からなる群から選択され、
前記分散体において、
前記酸化銅の含有量が10質量%以上50質量%以下であり、
前記分散剤の含有量が30質量%以上85質量%以下であり、
前記第1成分の含有量が25質量%以上72質量%以下であり、
前記第2成分の含有量が5質量%以上13質量%以下であり、
前記第1成分と前記第2成分との質量比率(第1成分/第2成分)が3.0以上8.0以下であり、
粘度が100mPa・s以上5000mPa・s以下であり、
前記増粘剤の含有量が0.05質量%以上3質量%以下であり、
[還元剤質量]/[酸銅質量]の比率が0.0001以上0.1以下である、分散体。
【請求項2】
前記増粘剤の含有量が、下記式(1):
0.00004≦(増粘剤質量/酸銅質量)≦0.3 (1)
の範囲である、請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
前記増粘剤が、アルデヒド基を有する化合物である、請求項1又は2に記載の分散体。
【請求項4】
酸化銅と、分散剤と、還元剤と、増粘剤とを混合することを含む、分散体の製造方法であって、
前記分散剤が、
グリセリン及び/又はジエチレングリコールである第1成分と、
ポリエチレングリコール及び/又はアルコキシポリエチレングリコールであり、分子量が200~400であり、且つ分解温度が50℃以上300℃以下である第2成分とを含み、
前記還元剤が、ヒドラジン及び/又はヒドラジン水和物を含み、
前記増粘剤が、カルボキシメチルセルロース並びにそのアンモニウム塩及びナトリウム塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、並びに、アルデヒド基を有する化合物、からなる群から選択され、
前記分散体において、
前記酸化銅の含有量が10質量%以上50質量%以下であり、
前記分散剤の含有量が30質量%以上85質量%以下であり、
前記第1成分の含有量が25質量%以上72質量%以下であり、
前記第2成分の含有量が5質量%以上13質量%以下であり、
前記第1成分と前記第2成分との質量比率(第1成分/第2成分)が3.0以上8.0以下であり、
粘度が100mPa・s以上5000mPa・s以下であり、
前記増粘剤の含有量が0.05質量%以上3質量%以下であり、
[還元剤質量]/[酸銅質量]の比率が0.0001以上0.1以下である、分散体の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の分散体を、基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜にレーザ光を照射し、前記基板上に導電性パターンを形成する工程と、
を含む、導電性パターン付構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の分散体を、所望のパターンで基板上に塗布して、塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を焼成処理して、前記基板上に導電性パターンを形成する工程と、
を含む、導電性パターン付構造体の製造方法。
【請求項7】
前記焼成処理が、還元性ガス含有雰囲気下及び温度150℃以上での熱処理である、請求項6に記載の導電性パターン付構造体の製造方法。
【請求項8】
前記塗布をスクリーン印刷によって行う、請求項5~7のいずれか一項に記載の導電性パターン付構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散体及びこれを用いた導電性パターン付構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板は、基板上に導電性の配線を施した構造を有する。回路基板の製造方法は、一般的に、次の通りである。まず、金属箔を貼り合せた基板上にフォトレジストを塗布する。次に、フォトレジストを露光及び現像して所望の回路パターンのネガ状の形状を得る。次に、フォトレジストに被覆されていない部分の金属箔をケミカルエッチングにより除去してパターンを形成する。これにより、高性能の回路基板を製造することができる。
【0003】
しかしながら、従来の方法は、工程数が多く、煩雑であると共に、フォトレジスト材料を要する等の欠点がある。
【0004】
これに対し、金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選択された微粒子を分散させた分散体で基板上に所望の配線パターンを直接印刷する直接配線印刷技術(以下、PE(プリンテッド エレクトロニクス)法と記載する)が注目されている。この技術は、工程数が少なく、フォトレジスト材料を用いる必要がない等、極めて生産性が高い。
【0005】
分散体としては、金属インク及び金属ペーストが挙げられる。金属インクは、平均粒子径が数~数十ナノメートルの金属超微粒子を分散媒に分散させた分散体である。金属インクを基板に塗布乾燥させた後、これを熱処理すると、金属超微粒子特有の融点降下によって、金属の融点よりも低い温度で焼結し、導電性を有する金属膜(以下、導電膜ともいう)を形成できる。金属インクを用いて得られた金属膜は、膜厚が薄く、金属箔に近いものになる。
【0006】
一方、金属ペーストは、マイクロメートルサイズの金属の微粒子と、バインダ樹脂とを共に分散媒に分散させた分散体である。金属ペーストは、微粒子のサイズが大きいことから、沈降を防ぐために、通常はかなり粘度の高い状態で供給される。そのため、金属ペーストの塗布には、粘度の高い材料に適したスクリーン印刷及びディスペンサーによる塗布が適している。金属ペーストは、金属粒子のサイズが大きいため、膜厚が厚い金属膜を形成できるという特徴を有する。
【0007】
このような金属粒子に利用される金属として銅が注目されている。特に、投影型静電容量式タッチパネルの電極材料として広く用いられているITO(酸化インジウムスズ)の代替として、抵抗率、イオン(エレクトロケミカル)マイグレーション、導体としての実績、価格、埋蔵量等の観点から、銅が最も有望である。
【0008】
しかしながら、銅は、数十ナノメートルの超微粒子では酸化が起こりやすく酸化防止処理が必要である。酸化防止処理は、焼結の妨げになるという課題があった。
【0009】
このような課題を解決するために、銅酸化物の超微粒子を前駆体とし、適切な雰囲気下で、熱、活性光線等のエネルギーによって銅酸化物を銅に還元し、銅薄膜を形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
銅酸化物の超微粒子における表面拡散自体は、300℃よりも低い温度で起こるため、適切な雰囲気下でエネルギーにより、銅酸化物を銅に還元すると、銅の超粒子相互が焼結により緻密なランダムチェーンを形成し、全体がネットワーク状となり、所望の電気導電性が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2003/051562号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載された銅酸化物の超微粒子を前駆体として用いたPE法により得られる金属膜は、抵抗率の経時的安定性、特に経時的なクラック発生の防止について検討されておらずいまだ改善の余地がある。さらに分散体の分散安定性、スクリーン印刷への適用性、及び金属膜としたときのハンダ付け容易性についても改良の余地がある。
【0013】
金属インク及び金属ペーストを用いたPE法により得られる金属薄膜には、抵抗率が低いだけでなく、経時的変化が少ないことが求められる。金属酸化物の微粒子を還元により金属化して金属膜を得る、金属ペーストを用いたPE法においては、粒子径が小さくなるほど焼結が進みやすく、焼成処理中にクラックが発生し、抵抗率が増加しやすい。これは、焼結により、互いに接触した複数の微粒子がその界面を融合し、相互に相手を取り込むことによって大きな粒子に成長し、その際に、粒子の表面積の減少が進み、複数の微粒子間に存在していた隙間が消滅するためである。この結果、塗膜の体積収縮が起こり、これが原因でクラックが生じ、金属膜の抵抗率の上昇を招く。
【0014】
さらに、金属ペーストの塗膜の厚みが1μmより大きくなると、焼成処理中にクラックが発生しやすくなるだけでなく、焼成処理後にも経時的にクラックが発生し、金属膜の抵抗率の経時的な悪化が起こりやすくなる。
【0015】
また、工業的利用においては、分散体が、高濃度で経時的変化に対して優れた分散安定性を有することも求められる。
【0016】
さらに、PE法に用いられる分散体は、比較的膜厚が小さい塗膜が得られるインクジェット印刷だけでなく、比較的膜厚が大きい塗膜が得られるスクリーン印刷にも適用可能であることが求められる。
【0017】
また、金属膜に対しては、ハンダ付けが容易であり、ハンダとの密着性が高いことも求められる。例えば、一般的な汎用の導電性ペーストでは、バインダ樹脂の硬化収縮により金属粒子(平均粒子径0.5~2.0μm)を物理的に接触させて電気的導通をとる。このため、バインダ樹脂が金属膜の表面に滲み出して被膜を形成するため、ハンダ付けが難しくなる。
【0018】
本発明は、上記課題を解決し、一態様において、経時的な分散安定性が高く、スクリーン印刷法に適用可能である分散体を提供することを目的とし、一態様において、当該分散体を用いて、基板上に、低抵抗で、抵抗率の経時安定性に優れ、ハンダ付け性にも優れた導電性パターンを形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
[1] 銅及び/又は酸化銅と、分散剤と、還元剤と、増粘剤とを含む分散体であって、
前記分散剤が、
1分子あたり水酸基を2つ以上有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物である第1成分と、
前記第1成分とは異なりかつポリオキシエチレン鎖を有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物である第2成分とを含む、分散体。
[2] 前記第2成分が、ポリエチレングリコールを含む、上記態様1に記載の分散体。
[3] 前記第1成分が、グリセリン及び/又はジエチレングリコールを含む、上記態様1又は2に記載の分散体。
[4] 前記増粘剤の含有量が、下記式(1):
0.00004≦(増粘剤質量/銅と酸化銅との合計質量)≦0.3 (1)
の範囲である、上記態様1~3のいずれかに記載の分散体。
[5] 前記増粘剤が、アルデヒド基を有する化合物である、上記態様1~4のいずれかに記載の分散体。
[6] 前記還元剤の含有量が、下記式(2):
0.0001≦(還元剤質量/銅と酸化銅との合計質量)≦0.1 (2)
の範囲である、上記態様1~5のいずれかに記載の分散体。
[7] 前記還元剤が、ヒドラジン及び/又はヒドラジン水和物を含む、上記態様1~6のいずれかに記載の分散体。
[8] 銅及び/又は酸化銅、
1分子あたり水酸基を2つ以上有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物である第1成分と、前記第1成分とは異なりかつポリオキシエチレン鎖を有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物である第2成分とを含む分散剤、
還元剤、並びに
増粘剤、
を混合することを含む、分散体の製造方法。
[9] 上記態様1~7のいずれかに記載の分散体を、基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜にレーザ光を照射し、前記基板上に導電性パターンを形成する工程と、
を含む、導電性パターン付構造体の製造方法。
[10] 上記態様1~7のいずれかに記載の分散体を、所望のパターンで基板上に塗布して、塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を焼成処理して、前記基板上に導電性パターンを形成する工程と、
を含む、導電性パターン付構造体の製造方法。
[11] 前記焼成処理が、還元性ガス含有雰囲気下及び温度150℃以上での熱処理である、上記態様10に記載の導電性パターン付構造体の製造方法。
[12] 前記塗布をスクリーン印刷によって行う、上記態様9~11のいずれかに記載の導電性パターン付構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、経時的な分散安定性が高く、スクリーン印刷法に適用可能である分散体が提供され得る。また本発明の一態様によれば、当該分散体を用いて、基板上に、低抵抗で、抵抗率の経時安定性に優れ、ハンダ付け性にも優れた導電性パターンを形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一態様に係る方法で形成された導電性パターン付構造体の例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を例示するが、本発明は本実施の形態に限定されるものではない。
【0023】
本開示の分散体、及び導電性パターン付構造体の製造方法は、種々の電子部品に好適に適用できる。電子部品の例は、半導体、集積回路、ダイオード、液晶ディスプレイ等の能動部品、抵抗、コンデンサ等の受動部品、及び、コネクタ、スイッチ、電線、ヒートシンク、アンテナ等の機構部品のうち、少なくとも1種である。以下、分散体、及び導電性パターン付構造体の製造方法の例示の態様について説明する。
【0024】
≪分散体≫
<第一の実施形態>
第一の実施形態は、銅及び/又は酸化銅と、分散剤と、還元剤と、増粘剤とを含む分散体を提供する。一態様において、分散体は、銅及び/又は酸化銅に加えて、銅及び/又は酸化銅以外の金属及び/又は金属酸化物(本開示で、非銅系金属成分ともいう。)とを含む。非銅系金属成分が金属単体である場合の当該金属としては金、銀、ニッケル、白金、パラジウム、モリブデン、アルミニウム、アンチモン、スズ、クロム、インジウム、ガリウム、及びゲルマニウムが挙げられ、これらは粒子の形態であってよい。非銅系金属成分が金属酸化物である場合の当該金属酸化物としては酸化金、酸化銀、酸化銅、酸化ニッケル、酸化白金、酸化パラジウム、酸化モリブデン、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化クロム、酸化インジウム、酸化ガリウム、及び酸化ゲルマニウムが挙げられ、これらは粒子の形態であってよい。なお本開示では、銅、酸化銅及び非銅系金属成分を総称して、金属成分ということもある。
【0025】
[銅及び酸化銅]
一態様において、分散体は、銅及び/又は酸化銅を含む。酸化銅は、大気雰囲気下で銅よりも安定である。この観点から、一態様においては酸化銅を単独で用いる(すなわち銅を用いない)ことが好ましい。一方、別の態様においては、クラック抑制等の観点から、銅を単独で、又は銅と酸化銅との両方を用いてよい。
【0026】
(酸化銅)
酸化銅の粒子径は1nm以上、100nm以下であることが好ましい。分散安定性の観点から、粒子径は1nm以上であることが好ましく、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。また、粒子径が小さいほど焼結が進みやすく、分散体を用いて形成される導電性パターンの抵抗率を小さくできる観点から、粒子径は100nm以下であることが好ましく、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。酸化銅の粒子径は、例えば後述する酸化銅粒子の製造方法における合成温度の調整によって上記の範囲に制御することができる。なお本開示の粒子径は、キュムラント法で測定される値である。
【0027】
分散体における酸化銅は、プラズマ処理、100℃以上の熱処理、光処理等により容易に還元され金属になり、これが焼結されることにより導電性を発現する。酸化銅と銅との組合せを用いる場合、酸化銅は銅粒子に対して結合剤として働き、焼結後には酸化銅由来部分と銅由来部分とが一体化されていることができる。このような一体化された構造は、導電性パターンの低抵抗化及び強度向上に寄与する。酸化銅としては、酸化第一銅(Cu2O)及び酸化第二銅(CuO)を例示できるが、酸化第一銅(Cu2O)が好ましい。これは、金属酸化物の中でも還元が容易であること、例えば微粒子を用いた場合には焼結が容易であること、及び価格的にも銅であるがゆえに銀等の貴金属類と比較し安価であること、マイグレーションに対し有利であることによる。
【0028】
酸化第一銅は、市販品であってもよいし、合成して用いてもよい。市販品としては、(株)希少金属材料研究所製の粒子径5~50nmのものがある。酸化第一銅の合成法としては、次の方法が挙げられる。
(1)ポリオール溶剤中に、水と銅アセチルアセトナト錯体を加え、いったん有機銅化合物を加熱溶解させ、次に、反応に必要な水を後添加し、さらに昇温して有機銅の還元温度で加熱還元する方法。
(2)有機銅化合物(銅-N-ニトロソフェニルヒドロキシアミン錯体)を、ヘキサデシルアミン等の保護材存在下、不活性雰囲気中で、300℃程度の高温で加熱する方法。
(3)水溶液に溶解した銅塩をヒドラジンで還元する方法。
この中では(3)の方法は操作が簡便で、かつ、粒子径の小さい酸化第一銅が得られるので好ましい。
【0029】
酸化第二銅の合成方法としては、以下の方法が挙げられる。
(1)塩化第二銅や硫酸銅の水溶液に水酸化ナトリウムを加えて水酸化銅を生成させた後、加熱する方法。
(2)硝酸銅、硫酸銅、炭酸銅、水酸化銅等を空気中で600℃の温度に加熱して熱分解する方法。
この中で(1)の方法は粒子径が小さい酸化第二銅が得られるので好ましい。
【0030】
得られた酸化銅を分散媒に分散させて酸化銅分散体を調製し、印刷等による塗布に使用できる。酸化銅の合成終了後、合成溶液と酸化銅とを、遠心分離等の既知の方法で遠心分離してよい。また、得られた酸化銅に後述の分散剤及び分散媒を加えホモジナイザー等既知の方法で攪拌し酸化銅を分散させてよい。分散媒によっては酸化銅が分散し難く分散が不充分な場合があるが、このような場合は一例として、酸化銅が分散しやすいアルコール類、例えばブタノール等の分散媒を用い分散させた後、所望の分散媒への置換と所望の濃度への濃縮を行うことができる。方法の一例としてUF膜による濃縮、所望の分散媒による希釈及び濃縮を繰り返す方法が挙げられる。このようにして得られた酸化銅分散体は、後述の方法で銅粒子等と混合してもよい。以上のようにして、本実施形態の分散体を得ることができる。この分散体が印刷等による塗布に用いられる。
【0031】
本実施形態の分散体において、酸化銅の含有量は10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましく、30質量%以上50質量%以下がさらに好ましい。本実施形態の分散体における酸化銅の含有量が10質量%以上あれば、基板上で抵抗がより低い導電性パターンを形成することが可能であり、70質量%以下であれば、スクリーン印刷法に好適に適用可能である。
【0032】
(銅)
本実施形態において、銅を用いることはクラック発生を抑制する観点で有利である。粒子径が0.1μm以上100μm以下の銅粒子は、クラック発生抑制の点で特に好ましい。銅粒子は酸化銅との組合せで用いられることが好ましい。その理由として、銅粒子は、酸化銅が還元されて生じる金属銅と同種金属であることから、銅食われ及び金属間化合物の形成が問題にならないこと、及び、最終的に得られる導電性パターンの電気導電性が良好であり、且つ、機械的強度が充分であることが挙げられる。
【0033】
銅粒子の粒子径は、導電性パターンの所望の形状及びサイズに従って、例えば、パターンが線で構成される場合はその太さ及びピッチに従って、決定すればよい。また、銅粒子の粒子径は、塗布膜の形成方法、すなわち、印刷方法等の塗布方法を考慮して決定すればよい。
【0034】
特にスクリーン印刷においては、分散体中に含まれる成分、特に銅粒子をスクリーンメッシュに目詰まりさせることなく、通過させることが重要であり、版のメッシュサイズを考慮して粒子径を選定する必要がある。例えば、スクリーンメッシュへの目詰まり、粒子が抜けることによるピンホールの発生、及び、塗布膜の表面の平滑性の低下を防止する観点からは、粒子が大き過ぎないようにすることが好ましい。特に、塗布膜のパターンを細いラインで構成する場合、スクリーンにメッシュ数の大きいメッシュが使用され、その結果、開口部寸法が小さくなり、目詰まりによるピンホール発生による断線が発生し易いため、粒子径の制御が特に望まれる。
【0035】
銅粒子としては、市販品を用いてもよく、又は合成して用いてもよい。市販品としては、三井金属鉱業株式会社製の1110、1030Y、1100Y、1200Y、1300Y、1400Y、MA-C02K、MA-C03K、MA-C04K、MA-C05K、MA-CKU、1100YP、1200YP、1300YP、1400YP、MA-C02KP、MA-C03KP、MA-C04KP、MA-C05KP等を例示できる。銅(特に銅粒子)の合成法としては、次の方法が挙げられる。
(1)電解によって製造する方法。
(2)水溶液中の銅化合物を還元抽出する方法。
(3)アトマイズ法で製造する方法。
この中で(1)の方法はコストの観点から安価であるため好ましい。
【0036】
なお、銅粒子は、金属銅のみで構成された粒子であってもよいし、銅粒子の表面が、酸化銅(具体的には、酸化第一銅又は酸化第二銅)、或いは非銅系金属成分(例えば、銀又は銀酸化物)で被覆されていてもよい。このような、被覆された銅粒子を用いる場合にも、クラック発生を抑制する効果が良好に発揮される。特に、銅粒子の表面を、銅酸化物又は銀酸化物等で被覆した場合、そのような被膜は焼成時に容易に還元されるため、導電膜の導通性を保つことができる。また、銀及び銀酸化物は、導電性が良好である点で好ましい。
【0037】
分散体において、酸化銅と非銅系金属成分としての金属酸化物との合計質量に対する、銅と非銅系金属成分としての金属との合計質量の比(以下、金属質量比率と記載する)は、0.5以上10以下であることが好ましく、1.0以上7.0以下がより好ましく、1.5以上6.0以下がさらに好ましく、2.0以上5.0以下が特に好ましい。金属質量比率がこの範囲内であれば、金属酸化物が豊富に存在し、これが還元されて得られる金属同士の接合が良好になるため、焼成後の導電膜の機械的強度が高くなる。また、金属酸化物が還元されて得られる金属によるクラック抑制効果が良好に発揮される。例えば、分散体が酸化銅と銅とを含む場合、上記金属質量比率は、酸化銅の質量に対する銅の質量の比である銅質量比率である。銅質量比率が上記範囲である場合、導電膜の機械的強度及びクラック抑制効果が特に良好である。
【0038】
銅粒子としては、針金状、樹枝状又は鱗片状の銅粒子が、クラック防止効果が特に大きく好ましい。これらの銅粒子は、単独で或いは球状、サイコロ状、多面体等の銅粒子、及び/又は非銅系金属成分と組み合わせて使用してよい。
【0039】
銅以外の金属粒子で、形状が針金状、樹枝状、及び鱗片状の一種又は複数種である粒子もまた、同様の形状の銅粒子と同様にクラック防止効果を有し得る。従って、一態様においては、針金状、樹枝状又は鱗片状の銅粒子と、針金状、樹枝状又は鱗片状の非銅系金属粒子との組合せを使用できる。非銅系金属粒子は、マイグレーション、粒子強度、抵抗値、銅食われ、金属間化合物の形成、コスト等を考慮して選択することが好ましい。非銅系金属粒子としては、例えば金、銀、錫、亜鉛、ニッケル、白金、ビスマス、インジウム、及び/又はアンチモンの粒子を挙げることができる。
【0040】
また、一態様においては、銅酸化物粒子と、非銅系金属酸化物粒子との組合せを使用できる。非銅系金属酸化物粒子は、マイグレーション、粒子強度、抵抗値、銅食われ、金属間化合物の形成、コスト等を考慮して選択することが好ましい。一態様において、非銅系金属粒子及び非銅系金属酸化物粒子の添加は、導電膜の焼結、抵抗、導体強度、光焼成の際の吸光度等の調整に有用である。針金状、樹枝状又は鱗片状の銅粒子が存在する場合には、非銅系金属粒子及び/又は非銅系金属酸化物粒子を加えても、クラックは良好に抑制される。非銅系金属粒子及び非銅系金属酸化物粒子は、それぞれ単独で若しくは二種類以上組み合わせて用いてよく、形状の制限は無い。例えば銀及び酸化銀は、抵抗低下、焼成温度低下等の効果が期待される。
【0041】
しかしながら、銀は貴金属類でありコストがかさむこと、及びクラックを良好に防止する観点から、銀の添加量は、針金状、樹枝状又は鱗片状である銅粒子の総質量を超えない範囲が好ましい。また、錫は安価であり、また融点が低いため焼結を容易にするという利点を有する。しかしながら、錫は抵抗を上昇させる傾向があること、及びクラック防止の観点から、錫の添加量は、針金状、樹枝状又は鱗片状である銅粒子と酸化第一銅との総質量)を超えない範囲が好ましい。また、酸化第二銅は、フラッシュランプ、レーザ等の光、又は赤外線等の熱線を用いた工程において光吸収剤又は熱線吸収剤として働く。しかしながら、酸化第二銅は酸化第一銅と比べて、還元され難いこと、及び還元時のガス発生が多いこと(これにより基板から剥離し易い傾向がある)から、酸化第二銅の添加量は酸化第一銅より少ない方が好ましい。
【0042】
針金状、樹枝状又は鱗片状以外の銅粒子が存在する場合、非銅系金属成分が分散体中に更に存在しても、クラック防止効果、抵抗の経時安定性向上効果を発揮させることができる。しかしながら、分散体中の、針金状、樹枝状又は鱗片状以外の銅粒子と、非銅系金属成分との合計質量は、針金状、樹枝状又は鱗片状の銅粒子と、酸化銅との合計質量よりも少ない方が好ましい。また、針金状、樹枝状又は鱗片状の銅粒子と、酸化銅との合計質量に対する、針金状、樹枝状又は鱗片状以外の銅粒子と、非銅系金属成分との合計質量の割合は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0043】
[分散剤]
本実施形態において、分散体は分散剤を含む。分散剤は、1分子あたり水酸基を2つ以上有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物である第1成分と、該第1成分とは異なり、かつポリオキシエチレン鎖を有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物である第2成分とを含む。一態様において、分散剤は、第1成分及び第2成分に加えて、追加の分散剤を含んでよい。第1成分、第2成分及び追加の分散剤は、それぞれ、1種又は2種以上の化合物の組合せであってよい。
【0044】
分散剤の量(すなわち、第1成分、第2成分及び任意の追加の分散剤の合計量)は、金属成分の量(一態様においては酸化銅の量)に比例させてよく、要求される分散安定性を考慮し調整されることが好ましい。一態様において、分散剤中、[分散剤質量]/[金属成分の合計質量]の比率、及び[分散剤質量]/[銅と酸化銅との合計質量](分散体中に銅及び酸化銅のうち一方しか含まれない場合は当該一方のみの質量である。以下同じ。)の比率は、それぞれ、0.25以上8.0以下であることが好ましく、より好ましくは0.40以上4.0以下であり、さらに好ましくは0.60以上2.4以下である。
【0045】
分散体における分散剤の含有率(すなわち、第1成分、第2成分及び任意の追加の分散剤の合計含有率)は20質量%以上であることが好ましく、より好ましくは30質量%以上である。また、85質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。分散剤の量は分散安定性に影響し、量が少ないと凝集しやすく、多いと分散安定性が向上する傾向がある。但し、本実施形態の分散体における分散剤の含有率を85質量%以下、特に70質量%以下にすると、焼成によって得られる導電膜において分散剤由来の残渣の影響を抑え、導電性を向上できる。
【0046】
(第1成分)
第1成分としての、1分子あたり水酸基を2つ以上有する化合物としては、ポリオール(例えば、テトラオール、トリオール、ジオール等)が挙げられる。1分子当たりの水酸基の数は、好ましくは2~4、より好ましくは2又は3、特に好ましくは2である。1分子あたり水酸基を2つ以上有する化合物の炭素数は、好ましくは2~10、より好ましくは2~8、更に好ましくは2~6である。具体例としては、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,2-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、ペトリオール、ジグリセリンが挙げられる。一態様において、第1成分は、リン含有有機化合物(例えばホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスホン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルから選ばれる1種以上)を含む。
【0047】
第1成分の分散体中の含有量は、分散安定性の観点から、下限が好ましくは17質量%以上、より好ましくは25質量%以上であり、製膜性の観点から、上限が好ましくは72質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0048】
(第2成分)
第2成分としての、ポリオキシエチレン鎖を有する化合物としては、ポリエチレングリコール、アルコキシポリエチレングリコール等が挙げられる。ポリオキシエチレン鎖を有する化合物の数平均分子量は、100以上1000以下であることが好ましく、より好ましくは150以上600以下であり、さらに好ましくは200以上400以下である。なお本開示において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い、標準ポリスチレン換算で求められる値である。ポリオキシエチレン鎖を有する化合物の末端構造としては水素、水酸基、アルコキシ基、アミン基、及びチオール基が挙げられ、分散体の凝集抑制の観点から水酸基が好ましい。ポリオキシエチレン鎖を有する化合物は、分散体の凝集抑制の観点から、好ましくはポリエチレングリコールである。一態様において、第2成分は、リン含有有機化合物(例えばホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスホン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルから選ばれる1種以上)を含む。
【0049】
第2成分の分散体中の含有量は、分散安定性の観点から、下限が好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、製膜性の観点から、上限が好ましくは13質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0050】
分散体中の、第1成分と第2成分との質量比率(第1成分/第2成分)は、第1成分と第2成分との併用による効果を良好に得る観点から、3.0以上8.0以下であることが好ましく、より好ましくは4.0以上7.0以下であり、さらに好ましくは5.0以上6.0以下である。
【0051】
分散剤は、分散体を取り扱う際の各々の工程での作業効率の観点から、金属成分を分散させて任意の濃度とするために用いるいわゆる分散媒としての機能を有していてもよい。
【0052】
例えば酸化銅粒子を用いる場合、酸化銅粒子の分散安定性とスクリーン印刷性の観点から、第1成分がグリセリン及び/又はジエチレングリコールを含むことが好ましい。また、酸化銅粒子を用いる場合、焼成処理中のクラック抑制の観点から、第2成分がポリエチレングリコールを含むことが好ましい。特に好ましい態様においては、酸化銅粒子の分散安定性、スクリーン印刷性、及び焼成処理中のクラック抑制の観点から、分散剤が、上述のグリセリン及び/又はジエチレングリコールと、ポリエチレングリコールとを共に含むことが好ましい。
【0053】
第1成分及び第2成分は、光又は熱によって分解又は蒸発しやすい化合物であることが好ましい。光又は熱によって分解又は蒸発しやすい化合物を用いることによって、焼成後に分散剤由来の有機物の残渣が残りにくくなり、抵抗率の低い導電性パターンを得ることができる。
【0054】
例えば、第1成分及び第2成分の分解温度は、それぞれ、600℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。上記分解温度は、分散体の凝集抑制効果に優れる分散剤の選定が容易であるという観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは75℃以上、更に好ましくは100℃以上である。本開示で、分解温度は、熱重量示差熱分析法で測定される値である。
【0055】
第1成分及び第2成分の沸点は、焼成後の分散剤由来の有機物の残渣を低減する観点から、それぞれ、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下であり、分散体の凝集抑制効果に優れる分散剤の選定が容易であるという観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは150℃以上である。例えば、第1成分及び/又は第2成分としてリン含有有機化合物を用いる場合、当該リン含有有機化合物の沸点は、300℃以下、又は200℃以下であってよい。
【0056】
第1成分及び第2成分は、それぞれ、焼成に用いる光を吸収できることが好ましい。例えば、焼成のための光源としてレーザ光を用いる場合は、その発光波長(例えば355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、1056nm等)の光を吸収する化合物を第1成分及び/又は第2成分として用いることが好ましい。このような化合物としては、リン含有有機化合物、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物等を例示でき、リン含有有機化合物がレーザー焼成後に導電性に影響を与えないという観点から特に好ましい。なお、光を吸収するとは、吸光度測定において、その光の波長で吸光係数を持つことを意味する。基板が樹脂の場合、特に好ましくは、355nm、405nm、445nm、及び/又は450nmの波長の光を吸収する分散剤を用いる。
【0057】
(追加の分散剤)
分散剤は、第1成分及び第2成分に加えて、追加の分散剤を更に含んでよい。追加の分散剤として、例えば、第1成分及び第2成分に包含されない構造のリン含有有機化合物が挙げられる。リン含有有機化合物は酸化銅に吸着してもよく、この場合立体障害効果により凝集を抑制する。また、リン含有有機化合物は、絶縁領域において電気絶縁性を示す材料である。リン含有有機化合物は、単一分子であってよいし、複数種類の分子の混合物でもよい。
【0058】
追加の分散剤の数平均分子量は、特に制限はないが、例えば300~300000であることが好ましい。300以上であると、絶縁性に優れ、得られる分散体の分散安定性が増す傾向があり、30000以下であると、焼成しやすい。また、構造としては酸化銅に親和性のある基を有するポリマー(例えば高分子量共重合物)のリン酸エステルが好ましい。
【0059】
分散体が酸化銅含有インクである場合の、酸化銅と追加の分散剤との状態について、説明する。追加の分散剤がリン酸エステル塩である場合、分散体においては、酸化銅の周囲を、追加の分散剤が、リンを内側に、エステル塩を外側にそれぞれ向けて取り囲んでいる。リン酸エステル塩は電気絶縁性を示すため、隣接する酸化銅同士の電気的導通は妨げられる。また、リン酸エステル塩は、立体障害効果により分散体の凝集を抑制する。
【0060】
したがって、酸化銅は半導体であり導電性であるが、電気絶縁性を示すリン酸エステル塩で覆われているので、分散体は電気絶縁性を示し、断面視で、分散体の両側に隣接する導電性パターン領域(後述)の間の絶縁を確保することができる。
【0061】
一方、導電性パターン領域は、酸化銅及びリン含有有機化合物を含む塗膜の一部の領域に光照射し、当該一部の領域において、酸化銅を銅に還元する。このように酸化銅が還元された銅を還元銅という。また、当該一部の領域において、リン含有有機化合物としてのリン酸エステル塩は、リン酸化物に変性する。すなわち、上述のリン酸エステル塩のような有機物は、レーザ等の熱によって分解し、電気絶縁性を示さないようになる。
【0062】
また、酸化銅が用いられている場合、レーザ等の熱によって、酸化銅が還元銅に変化すると共に焼結し、隣接する酸化銅同士が一体化する。これによって、優れた電気導電性を有する領域(以下、「導電性パターン領域」という)を形成することができる。
【0063】
導電性パターン領域において、還元銅の中にリン元素が残存している。リン元素は、リン元素単体、リン酸化物及びリン含有有機化合物のうち少なくとも1つとして存在している。このように残存するリン元素は導電性パターン領域中に偏析して存在しており、導電性パターン領域の抵抗が大きくなる恐れはない。
【0064】
追加の分散剤は、光や熱によって分解又は蒸発しやすいものであることが好ましい。光や熱によって分解又は蒸発しやすい有機物を用いることによって、焼成後に有機物の残渣が残りにくくなり、抵抗率の低い導電性パターン領域を得ることができる。
【0065】
追加の分散剤の分解温度は、限定されないが、600℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。追加の分散剤の沸点は、限定されないが、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。
【0066】
追加の分散剤の吸収特性は、限定されないが、焼成に用いる光を吸収できることが好ましい。例えば、焼成のための光源としてレーザ光を用いる場合は、その発光波長の、例えば355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、1056nm等の光を吸収する化合物を用いることが好ましい。基板が樹脂の場合、特に好ましくは、355nm、405nm、445nm、450nmの波長である。
【0067】
追加の分散剤としては公知のものを用いることができ、例えば、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩等の塩基性基を有する高分子が挙げられる。また、アクリル系ポリマー、アクリル系共重合物、変性ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸等の高分子のアルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミドアミン塩等が挙げられる。これら分散剤としては、市販品を使用することもできる。
【0068】
上記市販品としては、例えば、DISPERBYK(登録商標)―101、DISPERBYK―102、DISPERBYK-110、DISPERBYK―111、DISPERBYK―112、DISPERBYK-118、DISPERBYK―130、DISPERBYK―140、DISPERBYK-142、DISPERBYK―145、DISPERBYK―160、DISPERBYK―161、DISPERBYK―162、DISPERBYK―163、DISPERBYK―2155、DISPERBYK―2163、DISPERBYK―2164、DISPERBYK―180、DISPERBYK―2000、DISPERBYK―2025、DISPERBYK―2163、DISPERBYK―2164、BYK―9076、BYK―9077、TERRA-204、TERRA-U(以上ビックケミー社製)、フローレンDOPA-15B、フローレンDOPA-15BHFS、フローレンDOPA-22、フローレンDOPA-33、フローレンDOPA-44、フローレンDOPA-17HF、フローレンTG-662C、フローレンKTG-2400(以上共栄社化学社製)、ED-117、ED-118、ED-212、ED-213、ED-214、ED-216、ED-350、ED-360(以上楠本化成社製)、プライサーフM208F、プライサーフDBS(以上第一工業製薬製)等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0069】
(分散剤の酸価、及びアミン価と酸価との差)
分散剤の第1成分、第2成分、及び追加の分散剤として用いる化合物の各々の酸価(mgKOH/g)は、20以上、130以下が好ましく、30以上、100以下がより好ましい。酸価が上記範囲に入ると分散安定性に優れる。特に平均粒子径が小さい酸化銅を用いる場合、上記範囲の酸価は有効である。例えば、上記範囲の酸化を有する追加の分散剤としては、ビックケミ―社製「DISPERBYK―102」(酸価101)、「DISPERBYK-140」(酸価73)、「DISPERBYK-142」(酸価46)、「DISPERBYK-145」(酸価76)、「DISPERBYK-118」(酸価36)、「DISPERBYK-180(酸価94)等が挙げられる。
【0070】
また、分散剤の第1成分、第2成分、及び追加の分散剤として用いる化合物の各々のアミン価(mgKOH/g)と酸価の差(アミン価-酸価)は、-50以上0以下であることが好ましい。アミン価は、遊離塩基、塩基の総量を示すものであり、酸価は、遊離脂肪酸、脂肪酸の総量を示すものである。アミン価、酸価はJIS K 7700或いはASTM D2074に準拠した方法で測定する。アミン価と酸価との差が-50以上0以下である場合、分散安定性に優れるため好ましい。アミン価と酸価との差は、より好ましくは-40以上0以下であり、さらに好ましくは-20以上0以下である。
【0071】
[増粘剤]
本実施形態において、分散体は増粘剤を含む。本開示の増粘剤とは、非銅系金属成分を含まない分散体においては、0.003質量%以上3質量%以下の範囲のいずれかの濃度にて添加された際の分散体の粘度が増粘剤添加前の分散体の粘度の1.1倍以上になる化合物を意味し、非銅系金属成分を含む分散体においては、0.2質量%以上20質量%以下の範囲のいずれかの濃度にて添加された際の分散体の粘度が増粘剤添加前の粘度の1.1倍以上になる化合物を意味する。すなわち、増粘剤は、上記の各々の添加濃度範囲の全てにおいて粘度を1.1倍以上にすることを要するものではなく、上記範囲のいずれかで粘度が1.1倍となればよい。また上記は本開示の増粘剤に包含される化合物の定義の説明であって、本開示の分散体に含まれる増粘剤の量が、分散体の粘度を添加前の1.1倍以上にする量であることを必須とするものではない。本開示で、分散体の粘度は、コーンプレート型回転粘度計を用いて測定される値である。なお増粘剤は、前述の分散剤とは異なる化合物である。すなわち、前述の分散剤に包含される化合物は、増粘剤の上記定義を満たすものであっても増粘剤には包含されない。
【0072】
本実施形態において、増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース若しくはそのアンモニウム塩又はナトリウム塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルデヒド基を有する化合物等が挙げられる。分散剤の第1成分(すなわち1分子あたり水酸基を2つ以上有する化合物)との相互作用による顕著な増粘効果の観点から、アルデヒドを有する化合物が好ましい。アルデヒド基を有する化合物としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、蟻酸、アクロレイン、及びベンズアルデヒドが挙げられる。
【0073】
第一の実施形態の分散体において、銅と酸化銅との合計質量に対する増粘剤の質量比([増粘剤質量]/[銅と酸化銅との合計質量])は、スクリーン印刷性の観点から0.00004以上0.3以下であることが好ましい。より好ましくは0.00025以上0.066以下、より好ましくは0.00070以上0.03以下である。
【0074】
また、第一の実施形態の分散体において、増粘剤の含有量は、分散剤の増粘効果を良好に得る観点から、下限が0.003質量%以上が好ましく、0.017質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましく、上限は、焼成後の導電膜における増粘剤由来の残渣低減の観点から、3質量%以下が好ましく、0.66質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下がさらに好ましい。
【0075】
[還元剤]
一態様において、分散体は還元剤を含む。本開示で、還元剤とは、酸化銅を還元させることができる化合物を意味する。還元剤の具体例としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩等が挙げられる。なお還元剤としては、増粘剤としての機能も有する化合物(例えば上記の蟻酸)を用いてもよい。このような化合物の量は、還元剤及び増粘剤の両者に算入される。焼成において、酸化銅、特に酸化第一銅の還元に良好に寄与し、より抵抗の低い銅膜を作製できる観点から、還元剤は、ヒドラジン及び/又はヒドラジン水和物であることが最も好ましい。また、ヒドラジン及び/又はヒドラジン水和物を用いることにより、分散体の分散安定性を良好に維持でき、銅膜の抵抗を低くできる。
【0076】
還元剤の量は、金属成分の量(一態様においては銅及び/又は酸化銅の量)に比例させてよく、要求される還元性を考慮し調整されることが好ましい。一態様において、分散体中、[還元剤質量]/[金属成分の合計質量]の比率、及び[還元剤質量]/[銅と酸化銅との合計質量]の比率は、それぞれ、好ましくは0.0001以上0.1以下、より好ましくは0.001以上0.05以下、さらに好ましくは0.005以上0.03以下である。還元剤の上記比率は、0.0001以上であれば分散安定性が向上し、かつ銅膜の抵抗が低下する。また、0.1以下であれば分散体の長期安定性が向上する。
【0077】
[分散媒]
一態様において、分散体は、上述の構成成分(すなわち、金属成分、分散剤、還元剤、及び増粘剤)の他に分散媒(溶媒)をさらに含んでよい。なお上述の構成成分に包含される化合物は分散媒には包含されない。例えば、前述の分散剤、還元剤、及び増粘剤の例示の中には分散媒としても機能し得る化合物が含まれ得るが、分散剤、還元剤、及び増粘剤の各々に包含される化合物は分散媒には包含されない。したがって、一態様において、分散剤、還元剤及び/又は増粘剤として、分散媒としても機能する化合物を用いる場合、分散体は分散媒を含まないことができる。
【0078】
分散媒の沸点は、印刷連続性の向上という点では高い方が好ましく、例えば、好ましくは50℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。一方、上記沸点は、分散媒としての機能を良好に得る観点から、好ましくは400℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは250℃以下である。
【0079】
一態様において、分散媒は、分散体における各成分の良好な分散という観点から、分散剤を溶解可能な化合物から選択する。一方、分散体を用いて導電性パターンを形成する際には分散媒の揮発性が作業性に影響を与えるため、導電性パターンの形成方法、例えば印刷等の塗布の方式に適する分散媒を選定することが好ましい。従って、分散体における各成分の分散性と、印刷等の塗布の作業性に合わせて、例えば下記のような分散媒が好適である。
【0080】
分散媒の具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、トリ-1,2-プロピレングリコール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、2-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、n-ノニルアルコール、2、6ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3、3、5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。これらに具体的に記載したもの以外にも、アルコール類、グリコールエーテル類、グリコールエステル類等の溶剤を分散媒として用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよく、塗布様式(例えば、印刷における、分散媒の蒸発性、印刷機材、及び被印刷基板の耐溶剤性)を考慮し選択できる。
【0081】
本実施形態の分散体において、分散媒の含有量は、下限が5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、上限が60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0082】
[分散体中のその他の成分]
分散体は、前述した各種成分に加えて、有機バインダ、酸化防止剤等の添加剤をさらに含んでもよく、また不純物としての金属、金属酸化物、金属塩及び/又は金属錯体の存在は排除されない。
【0083】
分散体において、酸化銅粒子の質量に対する有機成分の総質量の比が0.4以上9以下であることが好ましい。ここで有機成分とは、分散体中における金属成分(具体的には金属粒子及び金属酸化物粒子)以外の成分(具体的には還元剤、分散剤、増粘剤、溶剤等を含むすべての有機成分)をいう。
【0084】
<第二の実施形態>
本発明の第二の実施形態は、銅及び/又は酸化銅と、アルデヒド基を有する化合物と、分散剤と、還元剤とを含む分散体を提供する。銅及び/又は酸化銅、並びに還元剤の具体的態様は、第一の実施形態において前述したのと同様であってよい。
【0085】
アルデヒド基を有する化合物としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、蟻酸、アクロレイン、及びベンズアルデヒドを例示できる。アルデヒド基を有する化合物、特に上記に列挙する化合物を用いることにより、分散体の増粘が容易になり、当該分散体を、高粘度が要求される塗布様式(例えばスクリーン印刷)に適用する際のハンドリング性が向上する。
【0086】
第二の実施形態において、分散剤は、1分子あたり水酸基を2つ以上有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物である第1成分と、該第1成分とは異なる化合物からなる群から選択される1種以上の化合物である第2成分とを含む。第1成分の好適例は、第一の実施形態において第1成分として前述したのと同様であってよい。第2成分の好適例は、第一の実施形態において第2成分として前述したのと同様であってよいが、当該好適例以外に、例えば第一の実施形態において追加の分散剤として例示したものも挙げられる。
【0087】
特に、第二の実施形態において、分散剤として、1分子あたり水酸基を2つ以上有する化合物(第1成分として)を用いることは、アルデヒド基を有する化合物による分散体の増粘効果を良好に得る観点から好ましい。アルデヒド基を有する化合物と水酸基とが相互作用することで増粘がより著しくなると考える。またこの観点から、分散剤として、1分子あたり水酸基を2つ以上有する化合物(第1成分として)とポリオキシエチレン鎖を有する化合物(第2成分として)との組合せを用いることがさらに好ましい。
【0088】
第二の実施形態において、銅と酸化銅との合計質量に対するアルデヒド基を有する化合物の質量比([アルデヒド基を有する化合物の質量]/[銅と酸化銅との合計質量])は、下記式(3):
0.003≦(アルデヒド基を有する化合物の質量/銅と酸化銅との合計質量)≦2 (3)
の範囲であることが好ましい。上記質量比は、分散体の増粘効果を良好に得る観点から、0.003以上が好ましく、0.007以上がより好ましく、0.014以上がさらに好ましい。また、焼成処理後の導電膜の抵抗を低くするという観点から、2以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1以下がさらに好ましい。
【0089】
第二の実施形態の分散体において、アルデヒド基を有する化合物の含有量は、下限が0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、上限は、焼成後の導電膜における有機物残渣低減の観点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0090】
<第三の実施形態>
本発明の第三の実施形態は、金属成分として本開示の非銅系金属成分を用いかつ銅及び酸化銅は用いない分散体も提供する。一態様においては、このような分散体もまた本開示で言及する利点の1つ以上を発現し得る。
【0091】
≪分散体の製造方法≫
本発明の一態様は、上記の第一~第三の実施形態に関して前述した各成分を混合することを含む分散体の製造方法を提供する。一態様において、分散体の製造方法は、銅及び/又は酸化銅、1分子あたり水酸基を2つ以上有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物である第1成分と、該第1成分とは異なりかつポリオキシエチレン鎖を有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物である第2成分とを含む分散剤、還元剤、並びに増粘剤、を混合することを含む。
【0092】
例示の方法においては、金属成分と、分散剤と、増粘成分(具体的には、第一の実施形態に関して前述した増粘剤、又は第二の実施形態に関して前述したアルデヒド基を有する化合物)と、還元剤と、分散媒とを含む予備分散体を調製し、必要に応じて所定量の追加の分散媒を当該予備分散体に混合し、例えば、ミキサー法、超音波法、3本ロール法、2本ロール法、アトライター、ホモジナイザー、バンバリーミキサー、ペイントシェイカー、ニーダー、ボールミル、サンドミル、自公転ミキサー等を用いて分散処理することにより、目的の分散体を製造できる。
【0093】
分散媒の少なくとも一部は予備分散体に含まれているため、予備分散体に含まれている分散媒で充分な場合は予備分散体に対して追加の分散媒を添加する必要はない。一方、予備分散体の粘度を低下させることが必要な場合は、必要に応じて追加の分散媒を予備分散体に加えればよい。また、上記の分散処理後に分散媒を更に添加してもよい。予備分散体中の分散媒と追加の分散媒とは、互いに同種でも異なる種類でもよい。
【0094】
分散体の粘度は、目的の塗布様式に応じて設計できる。例えばスクリーン印刷用の分散体の粘度は、好ましくは50mPa・s以上、より好ましくは100mPa・s以上、さらに好ましくは200mPa・s以上であり、好ましくは50000mPa・s以下、より好ましくは10000mPa・s以下、さらに好ましくは5000mPa・s以下である。
【0095】
≪導電性パターン付構造体の製造方法≫
本発明の一態様は、本開示の分散体を用いる、導電性パターン付構造体の製造方法を提供する。以下、当該方法の各構成を例示するが、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
【0096】
一態様において、導電性パターン付構造体の製造方法は、本開示の分散体を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、塗膜にレーザ光を照射し、基板上に導電性パターンを形成する工程と、を含む。
【0097】
一態様において、導電性パターン付構造体の製造方法は、分散体を、所望のパターンで基板上に塗布して、塗膜を形成する工程と、塗膜を焼成処理して、基板上に導電性パターンを形成する工程と、を含む。この方法によれば、基板上に塗布液を所望のパターンに直接形成できるため、例えばフォトレジストを用いた手法と比較し、生産性を向上させることができる。
【0098】
[塗膜を形成する工程]
本工程では、分散体を基板上の一部又は全部の領域に塗布して塗膜を形成する。分散体の塗布方法は特に制限されず、エアロゾル法、スクリーン印刷、凹版ダイレクト印刷、凹版オフセット印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷等の印刷法、及びディスペンサー描画法等を用いることができる。塗布法としては、ダイコート、スピンコート、スリットコート、バーコート、ナイフコート、スプレーコート、ディツプコート等の方法を用いることができる。印刷性の点において、本実施形態の分散体はスクリーン印刷に適していることから、スクリーン印刷による塗布が好適に用いられる。
【0099】
(基板)
本実施形態で用いられる基板は、塗膜を形成する表面を有するものであって、板形状を有していてもよく、立体物であってもよい。本開示で、基板とは、配線パターンを形成するための回路基板シートの基板材料、又は配線付き筐体の筐体材料等を意味する。筐体の一例としては、携帯電話端末、スマートフォン、スマートグラス、テレビ、パーソナルコンピュータ等の電気機器の筐体が挙げられる。また、筐体の他の例としては、自動車分野では、ダッシュボード、インストルメントパネル、ハンドル、シャーシ等が挙げられる。基板は、特に限定されず、無機材料若しくは有機材料又はこれらの組合せで構成されてよい。
【0100】
無機材料としては、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、石英ガラス等のガラス、及びアルミナ等のセラミック材料が挙げられる。
【0101】
有機材料としては、高分子材料、紙等が挙げられる。高分子材料としては樹脂フィルムを用いることができ、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、ナイロン樹脂(PA6、PA66)、ポリブチルテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエーテルスルホン樹脂(PESU)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びシリコーン樹脂等を挙げることができる。特に、PI、PET及びPENは、フレキシブル性、コストの観点から好ましい。
【0102】
紙としては、一般的なパルプを原料とした紙(例えば、上質紙、中質紙、コート紙、ボール紙、段ボール等の洋紙)、及びセルロースナノファイバーを原料としたものが挙げられる。高分子材料の溶解物、ゾルゲル材料等を、紙に含浸した後硬化させ、又は紙にラミネート等で貼り付けることによって得られる複合紙も使用できる。
【0103】
基板としては、例えば、紙フェノール基材、紙エポキシ基材、ガラスコンポジット基材、ガラスエポキシ基材等の複合基材、テフロン(登録商標)基材、アルミナ基材、低温低湿同時焼成セラミックス(LTCC)、シリコンウェハ等が挙げられる。
【0104】
基板の厚さは、例えば1μm~10mmとすることができ、好ましくは25μm~250μmである。基板の厚さが250μm以下である場合、作製される電子デバイスを、軽量化、省スペース化、及びフレキシブル化できるため特に好ましい。基板が筐体である場合の厚さは、例えば1μm~10mmとすることができ、好ましくは、200μm~5mmである。このような厚み範囲は、成型後の良好な機械的強度及び耐熱性の点で有利である。
【0105】
以下、酸化銅を用いた分散体の場合について、導電性パターンを形成する方法の各工程を例示するが、これら工程は他の金属成分を用いた分散体にも適用され得る。
【0106】
[導電性パターンを形成する工程]
本工程では、塗膜を焼成処理して、基板上に導電性パターンを形成する。導電性パターンの形成方法としては、
1)基板上にパターン状に形成された塗膜を焼成する方法、及び
2)基板上の全体に形成された塗膜に対してパターン状のレーザー描画をすることによって描画部分の塗膜を焼成し、所望のパターンを作製する方法、
が挙げられる。1)及び2)のいずれの方法においても、塗膜由来の導電性パターンが基板側に残るため、基板と導電性パターンとの良好な密着性を実現できる。一態様において、導電性パターンは配線であり、配線幅は0.5μm以上、10000μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上、1000μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上、500μm以下である。また一態様において、導電性パターンはメッシュ状(例えば格子状)に形成されていて良い。メッシュ状の導電性パターンは、光の透過率が高く、一態様においては透明であることができ好ましい。
2)の方法において、焼成処理としては、低抵抗化の観点から、還元性ガスを含む雰囲気下で150℃以上の熱処理行うことが好ましい。
【0107】
焼成処理の方法は特に限定されないが、上記1)の方法は、焼成炉を用いる方法、プラズマ焼成法等で実施でき、上記2)の方法は、光焼成法等で実施できる。
【0108】
(焼成炉を用いる方法)
焼成炉を用いて行う焼成方法では、酸化銅を還元して銅にし、銅を焼結させるために、例えば100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上の熱で塗膜を焼成する。
【0109】
焼成炉で焼成を行う方法は、酸素の影響を受けやすいため、非酸化性雰囲気で分散体の塗膜を焼成処理することが好ましい。また分散体中に含まれる有機成分だけでは酸化銅が還元されにくい場合、還元性雰囲気で焼成することが好ましい。非酸化性雰囲気とは、酸素等の酸化性ガスを含まない雰囲気であり、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等の不活性ガスで満たされた雰囲気である。また還元性雰囲気とは、水素、一酸化炭素等の還元性ガスが存在する雰囲気を指し、還元性ガスのみ、又は還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスで満たされた雰囲気である。これらのガスを焼成炉中に充填し、密閉系で又はガスを連続的に流しながら、分散体の塗膜を焼成してよい。焼成は、常圧、加圧及び減圧のいずれの雰囲気で行ってもよい。
【0110】
(プラズマ焼成法)
プラズマ焼成法は、焼成炉を用いる方法と比較し、より低い温度での処理が可能であり、耐熱性の低い樹脂フィルムを基材とする場合の焼成法として、よりよい方法の一つである。またプラズマ焼成法によれば、プラズマによってパターン表面の有機物、酸化膜等の除去が可能であるため、良好なハンダ付け性を確保できるという利点もある。具体的には、還元性ガス、又は還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスをチャンバ内に流し、マイクロ波によりプラズマを発生させ、これにより生成する活性種を、還元又は焼結に必要な加熱源として、さらには分散剤等に含まれる有機物の分解に利用して、導電性パターンを得る。
【0111】
プラズマ焼成法では、特に金属部分において活性種の失活が多く、金属部分が選択的に加熱され、基板自体の温度は上がりにくいため、基板が樹脂フィルムである場合にも適用可能である。分散体は金属として銅を含み、酸化銅は焼成が進むにつれて銅に変化するためパターン部分のみの加熱が促進される。また導電性パターン中に分散剤、バインダ成分等の有機物が残ると焼結の妨げとなり、抵抗が上がる傾向にあるが、プラズマ焼成法は導電性パターン中の有機物除去効果が大きい。還元性ガスとしては水素等、不活性ガスとしては窒素、ヘリウム、アルゴン等を用いることができる。これらは単独で、又は還元ガスと不活性ガスとを任意の割合で混合して用いてよい。また不活性ガス成分を二種以上混合し用いてもよい。
【0112】
プラズマ焼成法は、マイクロ波投入パワー、導入ガス流量、チャンバ内圧、プラズマ発生源から処理サンプルまでの距離、処理サンプル温度、及び処理時間の調整が可能であり、これらを調整することで処理の強度を変えることができる。従って、上記調整項目の最適化を図れば、無機材料の基板はもちろんのこと、有機材料の熱硬化性樹脂フィルム、紙、耐熱性の低い熱可塑性樹脂(例えばPET、PEN等)フィルムを基板として利用し、抵抗の低い導電膜を得ることが可能となる。但し、最適条件は装置構造及びサンプル種類により異なるため、状況に合わせ調整するのがよい。
【0113】
(光焼成法)
光焼成法では、光源としてキセノン等の放電管を用いたフラッシュ光方式又はレーザ光方式が適用可能である。これらの方法は強度の大きい光を短時間露光し、基板上に塗布した分散体の温度を短時間で高温に上昇させ焼成する方法で、酸化銅の還元、銅粒子の焼結、これらの一体化、及び有機成分の分解を行い、導電膜を形成する方法である。焼成時間がごく短時間であるため基板へのダメージが少ない方法であり、耐熱性の低い樹脂フィルム基板への適用が可能である。光焼成法におけるレーザ照射によれば、塗膜へのレーザ照射によって、焼成とパターニングとを一度に行うことができる。
【0114】
フラッシュ光方式とは、キセノン放電管を用い、コンデンサーに蓄えられた電荷を瞬時に放電する方式で、大光量のパルス光を発生させ、基板上に形成された分散体に照射することにより酸化銅を瞬時に高温に加熱し、導電膜に変化させる方法である。露光量は、光強度、発光時間、光照射間隔、及び回数で調整可能であり、基板の光透過性が大きければ、耐熱性の低い樹脂基板、例えばPET、PEN、紙等へも、分散体による導電性パターンの形成が可能となる。
【0115】
発光光源は異なるが、レーザ光源を用いてもフラッシュ光方式と同様な効果が得られる。レーザの場合は、フラッシュ光方式の調整項目に加え、波長選択の自由度があり、パターンを形成した分散体の光吸収波長及び基板の吸収波長を考慮して、発光波長を選択可能である。またビームスキャンによる露光が可能であり、基板全面への露光、又は部分露光の選択等、露光範囲の調整が容易であるといった特徴がある。レーザの種類としてはYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、YVO(イットリウムバナデイト)、Yb(イッテルビウム)、半導体レーザ(GaAs、GaAlAs、GaInAs)、炭酸ガス等を用いることができ、基本波だけでなく必要に応じ高調波を取り出して使用してもよい。
【0116】
特に、レーザ光を用いる場合、その発光波長は、300nm以上1500nm以下が好ましく、例えば355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、1056nm等が好ましい。基板が樹脂の場合には、塗膜の吸収領域から、355nm、405nm、445nm、450nm、及び/又は532nmのレーザ波長が特に好ましい。レーザを用いることで所望のパターンを平面又は立体に自由に作製することができる。導電性層又は導電性パターンの表面粗さは、1nm以上500nm以下であることが、ハンダが載りやすくハンダ密着性を高くできる点で好ましい。本開示で、表面粗さは、表面粗さ測定器を用い、日本工業規格(JIS)B0601に準拠した方法で測定される値である。
【0117】
[導電性パターンへのハンダ層の形成]
本開示の分散体を用いて作製された導電性パターン付構造体は、ハンダ付け性を悪化させる成分(特に分散剤及び分散媒)が、焼成処理の工程で分解しているため、導電性パターンに被接合体(例えば、電子部品等)をハンダ付けするとき、溶融ハンダがのりやすいという利点がある。さらに、典型的な態様において、本開示の分散体から形成される導電性パターンは空壁を有する。これにより、ハンダが導電性パターン中に浸入できるため、ハンダ密着性が良好であり好ましい。なお本開示で、ハンダとは、鉛と錫とを主成分とする合金、及び鉛を含まない鉛フリーハンダを包含する。例えば、グレインサイズが1μm以上、10μm以下の銅粒子を含む分散体を用いる場合、錫を含み、グレインサイズが1μm以上、5μm以下であるハンダを用いることが、密着性向上の点で特に好ましい。
【0118】
導電性パターンへのハンダ層の形成は、リフロー法で行われることが好ましい。リフロー法では、まず、ハンダ付けは、形成された導電性パターン領域の一部(例えばランド)の表面にソルダペースト(クリームハンダ)を塗布する。ソルダペーストの塗布は、例えば、メタルマスク及びメタルスキージを用いたコンタクト印刷により行われる。これにより、導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成される。すなわち、導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成された導電性パターン付構造体が得られる。ハンダ層が形成される導電性パターンの表面の一部の面積は特に限定されず、導電性パターンと電子部品とが接合可能な面積であればよい。
【0119】
(電子部品の接合)
ソルダペースト(ハンダ層)を塗布した後、その一部に、電子部品の被接合部を接触させた状態になるように電子部品を導電性基板上に載置する。その後、電子部品が載置された導電性基板を、リフロー炉に通して加熱して、導電性パターン領域の一部(ランド等)及び電子部品の被接合部をハンダ付けする。図1は、本実施形態に係るハンダ層が形成された導電性パターン付構造体の上面図である。
【0120】
図1に示すように、フレキシブル性を有する基板11上には、分散体としての酸化銅インクが焼成されて形成された導電性パターンAが形成されている。導電性パターンAの表面には、ハンダ層12が形成されている。ハンダ層12により、導電性パターンAと、導線13とが適切にハンダ付けされており、導線13を介して導電性パターンAと電子部品14が適切に接続されている。
【0121】
本実施形態に係る導電性パターン付構造体の製造方法によれば、分散体を焼成して導電性パターンを形成するため、分散体に含まれる有機成分(有機バインダ等)が分解される、これにより、得られた導電性パターンにおいて、ハンダのぬれ性が高くなり、導電性パターンの表面にハンダ層を容易に形成できる。このため、電子部品のハンダ付が可能となる。この結果、導電性パターン領域と、電子部品の被接合部とを接合するハンダ層の不良の発生を防ぎ、高い歩留まりで、電子部品がハンダ付けされる導電性パターン付構造体を製造できる。
【0122】
また、本実施形態の導電性パターン付構造体の製造方法によれば、例えば粒子径が1nm以上100nm以下の銅酸化物粒子を含む分散体を用いて形成した塗膜では、ハンダのぬれ性が特に高いため、溶けたハンダで塗膜表面が被覆された後にハンダが引けた状態となってハンダの非常に薄い部分が生じる現象(すなわち、ディウェッティング)の発生を抑制することができる。この結果、導電膜と電子部品の被接合部とを接合するハンダ接合部の不良の発生を防ぎ、高い歩留まりで、電子部品付基板を製造することができる。
【実施例
【0123】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0124】
<実験例1>
[ヒドラジン定量方法]
標準添加法によりヒドラジンの定量を行った。
【0125】
サンプル(銅ナノインク)50mgに、ヒドラジン33μg、サロゲート物質(ヒドラジン1524)33μg、ベンズアルデヒド1質量%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0126】
同じく、サンプル(銅ナノインク)50mgに、ヒドラジン66μg、サロゲート物質(ヒドラジン1524)33μg、ベンズアルデヒド1質量%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0127】
同じく、サンプル(銅ナノインク)50mgに、ヒドラジン133μg、サロゲート物質(ヒドラジン1524)33μg、ベンズアルデヒド1質量%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0128】
最後に、サンプル(銅ナノインク)50mgに、ヒドラジンを加えず、サロゲート物質(ヒドラジン1524)33μg、ベンズアルデヒド1質量%アセトニトリル溶液1mlを加え、最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0129】
上記4点のGC/MS測定からm/z=207のクロマトグラムラムよりヒドラジンのピーク面積値を得た。次にm/z=209のマスクロマトグラムよりサロゲートのピーク面積値を得た。x軸に、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量、y軸に、ヒドラジンのピーク面積値/サロゲート物質のピーク面積値をとり、標準添加法による検量線を得た。
【0130】
検量線から得られたY切片の値を、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量で除しヒドラジンの重量を得た。
【0131】
(実施例1)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)1890g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)874gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)202gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。得られた溶液にヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)59gを20分間かけて加え、窒素雰囲気下で30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、90分間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物98gに、ジエチレングリコール(メルク社製)160g、メトキシポリエチレングリコール350(メルク社製)30gを加え、ホモジナイザーを用いて分散した。分散液にベンズアルデヒド(東京化成工業株式会社製)9g加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散体(酸化銅インク)297gを得た。
【0132】
分散体は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は23質量%であり、ヒドラジン割合は1200ppmであった。
【0133】
(実施例2)
実施例1と同様の操作によって得られた沈殿物98gに、グリセリン(関東化学株式会社製)160g、メトキシポリエチレングリコール350(メルク社製)30gを加え、ホモジナイザーを用いて分散した。分散液にベンズアルデヒド(東京化成工業株式会社製)9g加え、ホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散体(酸化銅インク)297gを得た。
【0134】
分散体は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は23質量%であり、ヒドラジン割合は1200ppmであった。
【0135】
(比較例1)
実施例1と同様の操作によって得られた沈殿物98gに、ジエチレングリコール(メルク社製)169g、メトキシポリエチレングリコール350(メルク社製)30gを加え、ホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散体(酸化銅インク)297gを得た。
【0136】
分散体は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は23質量%であり、ヒドラジン割合は1200ppmであった。
【0137】
(比較例2)
実施例1と同様の操作によって得られた沈殿物98gに、エタノール(関東化学株式会社製)160g、メトキシポリエチレングリコール350(メルク社製)30gを加え、ホモジナイザーを用いて分散した。分散液にヒドロキシエチルセルロース(東京化成工業株式会社製)9g加え、ホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅分散体(酸化銅インク)297gを得た。
【0138】
分散体は時間経過とともに酸化銅が沈殿した。酸化第一銅の含有割合は23質量%であった。ヒドラジン割合は1200ppmであった。
【0139】
[分散安定性]
酸化銅インクの分散安定性は、以下の通りに評価した。
A・・・沈殿が生じない期間が20日以上
B・・・沈殿が生じない期間が5日以上20日未満
C・・・沈殿が生じない期間が5日未満
【0140】
[粘度測定]
酸化銅インクの粘度(単位;mPa・s)は、東機産業株式会社製のTV-33形粘度計・コーンプレートタイプを用いて測定した。実施例1、比較例1においては、ずり速度2×102-1で測定を行った。実施例2においては、ずり速度1×102-1で測定を行った。
【0141】
[抵抗測定]
酸化銅インクをポリイミドフィルム上にアプリケータを用いて90~120μm厚みの膜を作製し、IR炉で、窒素水素混合ガス(水素濃度2.4%)下、300℃で30分間加熱焼成して還元し、銅膜を作製した。導電膜の体積抵抗率(単位;10-6Ω・cm)は、三菱化学製の低抵抗率計ロレスターGPを用いて測定した。酸化銅インクと塗膜の性能結果を表1及び2に示す。導電膜のハンダ付け試験を行った。
【0142】
[スクリーン印刷性]
酸化銅インクを、紙基板上にスクリーン印刷法により、ラインパターンにて印刷し、スクリーン印刷の連続印刷性を評価した。連続印刷性は、紙基板上へのスクリーン印刷を連続して複数回行い、スクリーン印刷が連続的に行える印刷回数が5回以上である場合をAと、スクリーン印刷が連続的に行える印刷回数が5回未満である場合をBと、評価した。
【0143】
[ハンダ付け試験]
ハンダ付け試験は、導電膜が形成された紙基板に、フラックス入り糸ハンダ(錫60質量%鉛40質量%)を、ハンダゴテを用いてハンダ付けし、ハンダ部分を目視で観察した。ハンダ付け性は、次の通り評価した。導電膜の表面がハンダで完全にぬれ、全くはじきの状態が確認できなかった場合、「A:ディウェッティングなし」と評価し、少しでもはじきが確認できた場合、「B:ディウェッティングあり」と評価した。
【0144】
【表1】
【0145】
【表2】
【0146】
実施例1及び実施例2においては、酸化銅インク中の酸化銅が良好に分散されており、またPIフィルム上に銅膜を作製した際に低い抵抗が維持できていた。実施例において、分散剤は2種類以上を併用し、そのうちの1種類として1分子あたり水酸基を2つ以上有する化合物を用いたことで、分散剤の粘度が担保され、酸化銅インクの分散性が良好であったと考えられる。また、アルデヒド基を有する化合物を添加することで、酸化銅インクをPIフィルムに塗布できる程度に粘度を調節することができた。還元剤としてヒドラジンを用いることで、酸化銅の還元が促進され、抵抗の低い銅膜が作製されていたと考えられる。
【0147】
アルデヒド基を有する化合物を含まない比較例1では、酸化銅インクの粘度が低すぎ、PIフィルム上に酸化銅インクを塗布することができなかった。また、1分子あたり水酸基を2つ以上有する化合物を分散剤に用いず、増粘剤がヒドロキシエチルセルロースである比較例2では、分散体に沈殿が生じてしまい、粘度評価及びPIフィルム上に酸化銅インクを塗布することができなかった。
【0148】
なお、本発明は、以上に記載した実施形態や、各実施例に限定されるものではない。当業者の知識に基づいて実施形態や各実施例に設計の変更等を加えてもよく、また、実施形態や各実施例を任意に組み合わせてもよく、そのような変更等を加えた態様も本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本開示の分散体は、例えば各種電子部品における導電性パターン形成用に好適に適用される。
図1