(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】多孔質ケイ素材料および導電性ポリマーバインダー電極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20221213BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221213BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20221213BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221213BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20221213BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/1395
(21)【出願番号】P 2019513353
(86)(22)【出願日】2017-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2017071864
(87)【国際公開番号】W WO2018046385
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-06-08
(32)【優先日】2016-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ゲンチェフ・アン-クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】ランガー・トールステン
(72)【発明者】
【氏名】ルックス・ジーモン
(72)【発明者】
【氏名】ガオ・リウ
(72)【発明者】
【氏名】ウェン・ユアン
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0288126(US,A1)
【文献】特開2016-072286(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119256(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/077113(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/00-10/0587
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質ケイ素と導電性ポリマーバインダーとを含み、導電性ポリマーバインダーが下記式の繰り返し単位を有するポリマー組成物からなる群から選択される:
【化1】
ここで、n=1~10百万、
【化2】
ここで、m+n=1~10百万であり、m/n比は9/1~1/9であり、かつmは0ではなく;および
【化3】
ここで、ここでm+n=1~10百万であり、m/n比は9/1~1/9であり、かつmは0ではなく、
リチウム化度10.0%~
16.2%までリチウム化された、
リチウムイオン電池に使用される複合電極。
【請求項2】
前記m/n比が7/3である、請求項1に記載の複合電極。
【請求項3】
前記導電性ポリマーバインダーが、1~20質量%までの量で存在する、請求項1に記載の複合電極。
【請求項4】
前記導電性ポリマーバインダーが、5~12質量%の量で存在する、請求項1に記載の複合電極。
【請求項5】
前記導電性ポリマーバインダーが、5質量%の量で存在する、請求項1に記載の複合電極。
【請求項6】
前記電極が、80~99質量%の多孔質ケイ素からなる、請求項1に記載の複合電極。
【請求項7】
前記電極が、0.5~5質量%の導電性炭素をさらに含む、請求項1に記載の複合電極。
【請求項8】
前記多孔質ケイ素が保護層で被覆されている、請求項1に記載の複合電極。
【請求項9】
前記多孔質ケイ素が導電性キャリア材料上に堆積されている、請求項1に記載の複合電極。
【請求項10】
前記多孔質ケイ素が導電性キャリア材料上に堆積され、保護層で被覆されている、請求項1に記載の複合電極。
【請求項11】
前記多孔質ケイ素が導電性キャリア材料上に堆積され、保護層で被覆されており、前記多孔質ケイ素の空隙に対するケイ素の体積比が1:1である、請求項1に記載の複合電極。
【請求項12】
前記多孔質ケイ素が、10~99質量%のSiおよび1~90質量%のCを含む、請求項1に記載の複合電極。
【請求項13】
リチウムイオン電池に使用するためのリチウム化度10.0%~
16.2%までリチウム化された複合電極を製造する方法であって、
溶媒および導電性ポリマーバインダーとの溶液を形成するステップ;
この溶液に多孔質ケイ素活物質を添加してスラリーを形成するステップ;
スラリーを混合して均質混合物を形成するステップ;
このようにして得られた混合物の薄膜を基板の上に堆積させるステップ;そして
得られた複合体を乾燥して前記電極を形成するステップ、
を含み、
導電性ポリマーバインダーが、以下の式の繰り返し単位を有するポリマー組成物からなる群から選択される:
【化4】
ここで、n=1~10百万、
【化5】
ここで、m+n=1~10百万であり、m/n比は9/1~1/9であり、かつmは0ではなく;および
【化6】
ここで、ここでm+n=1~10百万であり、m/n比は9/1~1/9であり、かつmは0ではない、
前記方法。
【請求項14】
前記m/n比が7/3である、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記導電性ポリマーバインダーが、1~20質量%までの量で存在する、請求項
13に記載の方法。
【請求項16】
前記導電性ポリマーバインダーが、5~12質量%の量で存在する、請求項
13に記載の方法。
【請求項17】
前記導電性ポリマーバインダーが、5質量%の量で存在する、請求項
13に記載の方法。
【請求項18】
前記電極が、80~99質量%の多孔質ケイ素からなる、請求項
13に記載の方法。
【請求項19】
前記電極が、0.5~5質量%の導電性炭素をさらに含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項20】
前記多孔質ケイ素が保護層で被覆されている、請求項
13に記載の方法。
【請求項21】
前記多孔質ケイ素が導電性キャリア材料上に堆積されている、請求項
13に記載の方法。
【請求項22】
前記多孔質ケイ素が導電性キャリア材料上に堆積され、保護層で被覆されている、請求項
13に記載の方法。
【請求項23】
前記多孔質ケイ素が導電性キャリア材料上に堆積され、保護層で被覆されており、前記多孔質ケイ素の空隙に対するケイ素の体積比が1:1である、請求項
13に記載の方法。
【請求項24】
前記多孔質ケイ素が、10~99質量%のSiおよび1~90質量%のCを含む、請求項
13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援の陳述
本明細書に記述されかつ特許請求の範囲に記載される本発明は、一部、契約No.DE-AC02-05CH11231の下、米国エネルギー省によって供給された資金を利用して行われた。政府は、本発明において、ある一定の権利を有する。
【0002】
本開示は、一般にリチウムイオン電池に関し、より詳細には、多孔質ケイ素および導電性ポリマーバインダーの複合電極を使用し、導電性添加剤を含まないかその使用量を大幅に減少させた、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン再充電可能電池は、その高いエネルギー容量および軽い重量に起因して、電気自動車(EV)およびハイブリッド電気自動車(HEV)の用途を含む様々なデバイスの有力候補である。全てのセルは、薄いセパレータによって電気的に絶縁されかつ液体輸送媒体、電解質と組み合わされた、正極(カソード)および負極(アノード)から構築される。典型的には、従来のLiイオン・セルのアノードは、少なくとも1種の活物質、即ち炭素質材料、導電性添加剤、およびポリマーバインダーを含む複合電極であり、カソードは、典型的にはやはり複合電極であって、活物質としての金属酸化物、導電性添加剤、およびポリマーバインダー、ならびに電解質を持つ複合電極である。アノードおよびカソードは共に、リチウムイオンが内部に挿入され抽出される活物質を含有する。リチウムイオンは、放電中に、電解質中を負極(アノード)から正極(カソード)まで移動し、再充電中は逆に正極(カソード)から負極(アノード)まで移動する。
【0004】
電極のデザインは、電気自動車(EV)の電池に必要なエネルギーおよび電力密度、ならびに寿命性能を実現するのに重要なポイントであった。現況技術のリチウムイオン電極は、寸法安定性のある積層体を目的として複合電極の一体性を確実にするのに、ポリマーバインダーを使用してきた。ポリマーバインダーは、リチウムの挿入および除去プロセス中、機械的電極安定性および電気伝導を維持するのに、極めて重要な機能を発揮する。使用することができる典型的なバインダーは、デンプン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ジアセチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチレングリコール、ポリアクリレート、ポリ(アクリル酸)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリエチレンe-オキシド、ポリ(フッ化ビニリデン)、およびゴム、例えばエチレン-プロピレン-ジエンモノマー(EPDM)ゴムもしくはスチレンブタジエンゴム(SBR)、これらのコポリマー、またはこれらの混合物である。典型的には、アノードおよびカソードは、異なるバインダーを必要とする。例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)は、アノード電極を作製するのに主に使用されるバインダーである。ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)は、カソード電極を作製するのに主に使用される。リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)および黒鉛粉末などの昔からの電極材料は、電気化学プロセス中に寸法安定性のある材料である。ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)などのポリマーバインダーの材料は、これらの粒子を一緒に接着しかつ積層体内での電気接続のために物理的接触を保持するのに、適している。
【0005】
この現況技術の手法は、複合電極にケイ素(Si)などのより高い容量の電極材料が導入されるまで、非常にうまく働く。ケイ素(Si)材料は、従来の黒鉛ベースのアノードよりも10倍以上大きい理論的比容量を提供することができるので、リチウムイオン電池の最も将来性あるアノード候補の1つとして広く調査されてきた。さらにケイ素は豊富にあるので、リチウムイオン電池の用途に関するその他の代替例と比較したとき、使用するのにそれほどコストがかからない。しかし、サイクリング中のSi体積変化は、複合電極内で過剰な応力および運動を創出し、表面反応を増大させてきた。特に、LiとSiとの電気化学的合金化は、最終リチウム化状態としてのLi4.4Siと、4,200mAh/gの容量をもたらした。しかし、充電中に材料がSiからLi4.4Si相に遷移するときに、ほぼ320%の体積膨張が生ずる。この高い体積変化により、複合電極の電子的一体性は崩壊し、高く連続的な表面副反応が誘発され、共に電池の高速容量減退をもたらし、全体として短縮された電池寿命になる。
【0006】
Si材料を使用するためには、Si表面安定化と一緒に、Si活物質の物品を組み立てる新しい方法を導入しなければならない。Si表面特性に関する深い知識、および電池用途に向けたSiの商業供給の増大により、電極用途に向けたさらに良好なSiアセンブリおよび安定化を調査する機会/需要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Parkら、J. Am. Chem. Soc.、2015年、137巻、2565~2571頁
【文献】Dai, H.、J. Am. Chem. Soc.、2001年、123巻、3838~3839頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来技術に関する1つまたは複数の難点および欠点を克服し、少なくとも軽減することである。本発明のこれらおよびその他の目的および特徴は、以下の開示から明らかにされよう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、多孔質ケイ素構造体と導電性ポリマーバインダーとを組み合わせて、リチウムイオン電池で使用される複合電極を作成する。一実施形態では、リチウムイオン電池で使用される複合電極が提供される。電極は、比容量が500から2200mAh/gの間である多孔質ケイ素と導電性ポリマーバインダーとを含み、導電性ポリマーバインダーは、ポリ(1-ピレンメチルメタクリレート)(PPy)、ポリ(1-ピレンメチルメタクリレート-コ-メタクリル酸)(PPy-MAA)およびポリ(1-ピレンメチルメタクリレート-コ-トリエチレングリコールメチルエーテル)(PPyE)からなる群から選択される。一実施形態では、導電性ポリマーバインダーは、約1質量%から最大20質量%の量で存在する。好ましい実施形態では、導電性ポリマーバインダーは約5~12質量%の量で存在する。最も好ましい実施形態では、導電性ポリマーバインダーは約5質量%の量で存在する。
【0011】
別の実施形態では、リチウムイオン電池で使用される複合電極を作製するための方法が提供される。方法は:溶媒および導電性ポリマーバインダーの溶液を形成するステップ;溶液に多孔質ケイ素を添加して、スラリーを形成するステップ;スラリーを混合して、均質な混合物を形成するステップ;このように得られた前記混合物の薄膜を基材の上面に堆積するステップ;および得られた複合体を乾燥して、前記電極を形成するステップを含む。導電性ポリマーバインダーは、ポリ(1-ピレンメチルメタクリレート)(PPy)、ポリ(1-ピレンメチルメタクリレート-コ-メタクリル酸)(PPy-MAA)およびポリ(1-ピレンメチルメタクリレート-コ-トリエチレングリコールメチルエーテル)(PPyE)からなる群から選択される。一実施形態では、導電性ポリマーバインダーは、約1質量%から最大20質量%の量で存在する。好ましい実施形態では、導電性ポリマーバインダーは約5~12質量%の量で存在する。最も好ましい実施形態では、導電性ポリマーバインダーは約5質量%の量で存在する。
【0012】
一実施形態では、多孔質ケイ素は、主にケイ素コアからなる材料を指し、少なくとも1:1の空隙に対するケイ素の体積比を有する。一実施形態では、多孔質ケイ素は、電解質に対して外側表面を安定化させるために炭素質材料の層で覆うことができる。別の実施形態では、多孔質ケイ素を導電性キャリア材料、すなわちカーボンおよび/または銅の上に堆積させることができる。他の実施形態では、導電性キャリア材料上に堆積された多孔質ケイ素は外側保護層で覆われている。多孔質ケイ素粒子は、ミクロンからナノサイズの範囲であり得る。典型的には、多孔質シリコンは、約10~99質量%のSiおよび約1~90質量%のCを含有する。
【0013】
一実施形態では、電極は、約80~99質量%の多孔質ケイ素からなる。一実施形態では、約0.5~5質量%の導電性炭素が電極に添加される。
【0014】
本発明のその他の目的、利点、および新規な特徴は、添付図面と合わせて考慮したときに、1つまたは複数の好ましい実施形態の以下の詳細な説明から明らかにされよう。本開示は、当業者に向けて書かれたものである。本開示は、専門家以外の者にあまり馴染みのない専門用語および略語を使用するが、当業者なら本明細書で使用される専門用語および略語に馴染みがあるであろう。
【0015】
特許または出願ファイルは、色を付けて描かれた少なくとも1つの図面を含有する。着色図面(複数可)を含む本特許または特許出願公開のコピーは、要求によって、および必要な料金の支払いによって、監督官庁により提供されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(a)は、420mAh/g(10.0%リチウム化)、680mAh/g(16.2%リチウム化)および1000mAh/g(23.8%リチウム化)のCCCモードにおける、本発明の実施形態による多孔質Si/5質量%PPy複合電極のサイクル性能データを示す。
図1(b)は、420mAh/g(10.0%リチウム化)、680mAh/g(16.2%リチウム化)および1000mAh/g(23.8%リチウム化)のCCCモードにおける同じ複合電極のクーロン効率データを示す。
図1(c)は、420mAh/g(10.0%リチウム化)、680mAh/g(16.2%リチウム化)および1000mAh/g(23.8%リチウム化)のCCCモードにおける同じ複合電極の各リチウム化半サイクルの終わりの電圧データ対サイクル数をプロットしたものである。
図1(d)は、2つの他の電極(対照として)と共に本発明の実施形態による多孔質Si / 5wt%PPy複合電極のサイクル性能を示す:非導電性バインダー/多孔質Si電極および導電性バインダー/420mAh/gのCCCモードの無孔質Si電極。
【
図2】
図2(a)は、本発明の一実施形態による多孔質Si/5質量%PPy複合電極の420mAh/g(10.0%リチウム化)のCCCモードで試験した、1、2、3、4、5、10、50、100、150、200サイクルで観察された電圧-比容量曲線を示す。
図2(b)は、1、2、3、4、5、10、50、100、150、200サイクルで観察された、680mAh/g(16.2%リチウム化)のCCCモードで試験された同じ複合電極の電圧-比容量曲線を示す。
図2(c)は、1、2、3、4、5、10、50、100、150、200サイクルで観察された、1000mAh/g(23.8%リチウム化)のCCCモードで試験された同じ複合電極の電圧-比容量曲線を示す。
【
図3】
図3は、(a)420mAh/g(10.0%リチウム化)、(b)680mAh / gおよび(c)1000mAh/g(23.8%リチウム化)CCCモードで試験した、10、20、30、40、50、100、150、200サイクルの半リチウム化における、本発明の一実施形態による多孔質Si/PPy複合電極の電気化学インピーダンス分光法(EIS)を示す。
【
図4】
図4は、10サイクル毎、150サイクルまでのLi/Li対称コインセルの電気化学インピーダンス分光法(EIS)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語には、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味がある。本明細書に記述されるものに類似のまたは同等の任意の方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料について次に記述する。
【0018】
本明細書で使用される「活物質」は、リチウムイオンを貯蔵する、電極の部分を意味する。カソードの場合、活物質は、リチウム金属酸化物複合体などのリチウム含有化合物であり得る。対アノード電極の場合、活物質は、ケイ素またはリチウム化ケイ素とすることができる。
【0019】
本明細書で使用されるとき、「CCCモード」は、電池の充電状態または温度に関係なく、充電器が比較的均一な電流を供給することを単に意味する定電流充電を指す。
【0020】
多孔質ケイ素構造体(pSi)は、一般に、例えばリチウムイオン電池で使用されるように、球状粒子および/または他のナノ構造体よりも良好に、複合電極内の大きな体積膨張に本質的に適応することができる。多孔質ケイ素は、その高い表面積および/またはボイド体積のためにサイクル挙動が改善され得、これは、材料のリチウム化および脱リチウム化に関連した体積変化の適応を促進し得る。しかしながら、多孔質ケイ素はまた、劣化効果、例えば表面劣化および亀裂を被り、特に時間がたつにつれて活物質粒子間の電気的接触が失われる可能性がある。研究者らは、導電性炭素添加剤またはコーティング層を多孔質ケイ素上に導入すると、電気化学セルの寿命の初めに電気的接触が増加することを見出した。しかしながら、大量の炭素添加剤は、これらの粒子上の不動態化層の形成のために、数サイクル後に活物質と非粘着性導電性炭素粒子との間の接触を失うことになる。加えて、多量の炭素添加剤を有することは、セル内の活物質の量を減少させ、それ故、セル内のエネルギーを減少させるであろう。炭素添加剤の大きな炭素質表面積はまた、セルにより多くの副反応をもたらし、最終的にそれらの可逆性を低下させ、その結果クーロン効率が低下する。要するに、電極に炭素添加剤のみを添加しても、最終的には多孔質ケイ素の寿命の問題は解決されないであろう。
【0021】
最近、米国特許第9,153,353号(特許文献1)に記載されるように、ケイ素含有電極の製造に使用するために導電性ポリマーバインダーが開発され合成されている。これらの導電性ポリマーバインダーは、活物質と導電性ポリマーマトリックスとの間に分子レベルの電子的接続を提供する。ケイ素電極のサイクル安定性はこの方法によって著しく向上する。さらに、それ自体が導電性であるので、導電性ポリマーバインダーを使用すると、追加の導電性炭素添加剤が不要になる。これは活物質の装填量をかなり増加させる。さらに、炭素添加剤の使用を回避することによって、より多くの副反応の原因を排除する。これらの副反応は、追加の固体電解質界面(SEI)層をもたらす可能性があり、この層の体積は通常、ケイ素と同じ体積率では増加しないので、体積干渉をもたらす。一方、活物質とSi粒子の両方に対する接着性が改善された導電性ポリマーバインダーを使用すると、Si粒子間および活物質と銅箔との間のいずれにおいても、アノードでの接触損失を防ぐことができる。
【0022】
本発明者らは、炭素添加剤を添加することなく、活性材料としてのSi多孔質粒子と、少量の導電性ポリマーバインダーとを含む複合電極を提供する。多孔質Siと導電性ポリマーバインダーとから調製された複合電極をリチウムイオン電池中のアノード材料として導入した。ここで、導電性ポリマーバインダーは、-機械的要素に加えて-さらに導電性を提供する柔軟な網状組織を提供する。ポリマーバインダーの柔軟性と導電性、および体積膨張のかなりの部分を吸収するpSiの特性の組み合わせは、寿命とセルのクーロン効率を大幅に延ばすことになる。我々は、限られた容量で導電性ポリマーバインダーを組み込んだpSiアノードを絶えず充電することによって、非常に長いサイクル寿命および99.5%を超える高いクーロン効率を有する安定したサイクルセルを発見した。本発明者らはまた、形態研究および電気化学的キャラクタリゼーションの両方が、これらの電極がセル操作中にいかなる容量低下も伴わずに50%を超える体積変化に適応することを可能にすることを示唆する。
【0023】
一実施形態では、500~2200mAh / gの比容量を有する多孔質ケイ素と導電性ポリマーバインダーとを含む複合電極を有するリチウムイオン電池が提供される。一実施形態では、多孔質ケイ素は、約1質量%から最大20質量%の導電性ポリマーバインダーを組み込んでいる。好ましい実施形態では、導電性ポリマーバインダーは、導電性ポリマーバインダーの約5質量%から12質量%までの量で存在する。最も好ましくは、それは5質量%の導電性ポリマーバインダーを含む。導電性ポリマーバインダーは、以下の式の繰り返し単位を有するポリマー組成物からなる群から選択される:
【化1】
ここで、n=1~10百万、
【化2】
ここで、m+n=1~10百万であり、m/n比は9/1~1/9であり;そして
【化3】
ここで、ここでm+n=1~10百万であり、m/n比は9/1~1/9である。好ましくは、m/n比は7/3である。これらの導電性ポリマーバインダーは、米国特許第9,153,353号に記載されている方法に従って調製することができる。これらの導電性ポリマーバインダーは、それらが経時的な電極劣化を防ぐことによって多孔質ケイ素のサイクル性能を著しく改善するので、電極材料としての多孔質ケイ素の使用を可能にする。特に、初回充電時に導電性になり、電極のケイ素粒子への結合を向上させるこれらのポリマーは、充放電中の電極の体積膨張および収縮によりよく適応するように柔軟であり、電池の流れを促進するのに役立つ。
【0024】
多孔質ケイ素粒子は、ミクロンからナノサイズの範囲であり得る。典型的には、多孔質ケイ素は、約10~99質量%のSiおよび約1~90質量%のCを含有する。一実施形態において、多孔質ケイ素粒子は、ハンド-ミリング、ローターミリング、ボールミリングおよびジェットミリングなどの当技術分野で公知の技術を使用して粉末形態に粉砕するのが好ましい。一実施形態では、多孔質ケイ素は電極中に約80~99質量%の量で存在する。他の実施形態では、約0.5~5質量%の導電性カーボンが電極に添加される。一実施形態では、多孔質Siは0.14cm3/gの計算細孔容積および~10nmの細孔径を有する。別の実施形態では、多孔質ケイ素は主にケイ素コアからなり、少なくとも1:1の空隙に対するケイ素の体積比を有する。一実施形態では、多孔質ケイ素は、電解質に対して外側表面を安定化させるために炭素質材料の層で覆うことができる。別の実施形態では、多孔質ケイ素を導電性キャリア材料、すなわちカーボンおよび/または銅の上に堆積させることができる。他の実施形態では、導電性キャリア材料上に堆積された多孔質ケイ素は外側保護層で覆われている。
【0025】
別の実施形態では、リチウムイオン電池に使用するための複合電極を製造する方法が提供される。この方法は、以下のステップを含む:溶媒および導電性ポリマーバインダーの溶液を形成する;溶液に多孔質ケイ素を添加して、スラリーを形成する;スラリーを混合して、均質な混合物を形成する;このように得られた前記混合物の薄膜を基材の上面に堆積する;および得られた複合体を乾燥して、前記電極を形成する。導電性ポリマーバインダーは、以下の式の繰り返し単位を有するポリマー組成物からなる群から選択される:
【化4】
ここで、n=1~10百万、
【化5】
ここで、m+n=1~10百万であり、m/n比は9/1~1/9であり;そして
【化6】
ここで、ここでm+n=1~10百万であり、m/n比は9/1~1/9である。好ましくは、m/n比は7/3である。複合電極を製造する方法においては、任意の非プロトン性溶媒を使用することができる。溶媒はポリマーを溶解し、スラリーを作成し、そしてリチウムイオン電極を製造するために使用される。使用される典型的な非プロトン性溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、トルエンおよびクロロベンゼンである。典型的には、得られた複合体を乾燥させて前記電極を形成する際に、乾燥のために選択される温度および時間は、活物質および電極の組成、スラリー溶媒および所望の電極厚さに基づいて設定される。
【0026】
本発明の複合電極においてSi外部膨潤なしに体積変化に適応することができる多孔質ケイ素の特性を調べるために、本発明者らは、多孔質Si電極をリチウム化度10.0%、16.2%および23.8%まで部分的にリチウム化し、これらは、それぞれ420、680、および1000mAh/gの比容量に対応する。リチウム化を所望のレベルに制御した後、我々は次に、1Vの同じカットオフ電圧までSiを脱リチウム化した。より低いリチウム化カットオフ電圧は10mVに設定される。放電と充電の両方とも420mA / gの定電流に設定される。この定電荷容量(CCC)を使用して、多孔質SiがSiにさまざまな量のリチウムを挿入することによって、さまざまな体積膨張にどのように対応するかを評価できる。我々は、体積変化、予想されるSi細孔体積、リチウム化度およびそれに対応する比容量の間の関係を表1(下記に示す)にまとめた。
【0027】
【0028】
実施された様々な実施形態の多孔質Si / PPy複合電極の性能についての様々な試験の結果が、以下の
図1~
図4のプロットに報告されている。
【0029】
図1(a)は、可変リチウム化度を有する本発明の一実施形態による多孔質Si/5質量%PPy複合電極についてのサイクル数の関数としての電極容量を示す。多孔質Si電極を10.0%、16.2%、および23.8%のリチウム化度に部分的にリチウム化し、これはそれぞれ420、680および1000mAh/gの比容量に相当する。
図1(a)から、本発明の複合電極は、420mAh/g(10.0%リチウム化)および680mAh/g(16.2%リチウム化)のCCCモードで安定したサイクル性能を提供することがわかる。10.0%のリチウム化または16.2%のリチウム化で200サイクル後に容量の減衰はない。
図1(b)は、同じ多孔質Si/5質量%PPy複合電極についてのクーロン効率(%)対サイクル数のプロットである。
図1(b)に示すように、第1サイクルのクーロン効率は、固体電解質界面(SEI)層の形成および副反応のために低い。数サイクル後、クーロン効率は10%のリチウム化で99.7%に、そして16.2%のリチウム化で99.4%に急速に増大する。多孔質Siに対する10%のリチウム化と比較して16.2%の追加の6.2%のリチウム化を用いても、容量はいかなる褪色(フェーディング)もなく680mAh/gを維持することを我々は見出した。一定のクーロン効率は、多孔質ケイ素構造がSEI層を(再)形成しないことを示している。これは、活物質自体の機械的強度によるものか、または柔軟で導電性のPPyポリマーバインダーによるものであると考えられる。しかしながら、1000mAh/gのCCCモードの電池は、25サイクル後に容量の損失で最終的に故障する。これは、多孔質Siのリチウム化度がその体積膨張に対応できなくなり、Si粒子が破砕することに起因すると考えられる。
【0030】
図1(c)では、各サイクルのリチウム化終止電圧が集められ、サイクル数の関数としてプロットされている。異なるリチウム化度を適用すると、電極性能に明らかな影響があることが分かる。特に、1000mAh/g(23.8%リチウム化)のCCCモードの電極の場合、10mVのカットオフ電圧に達する前の最初の25サイクル以内において、多孔質Siアノードを予想される容量まで充電することができる。
【0031】
図1(d)においては、本発明の実施形態による多孔質Si/5質量%PPy複合電極のサイクル性能が、2つの他の電極、すなわち非導電性バインダー/多孔質Si電極および導電性バインダー/非多孔質Si電極と420mAh/gのCCCモードで比較された。多孔質構造を有さず、5質量%のPPy導電性バインダーを含まないマイクロサイズのSi粒子(1~5μmの直径を有する)で作製された複合電極について420mAh/gのCCCモードにおいて、数サイクルでは、この電極の容量は250mAh/gに達することすらできず、ほぼゼロに低下する。これは確かに、多孔質Siが不可逆的な構造的損傷なしにリチウムとケイ素との合金化から生じる体積膨張に本質的に適応するのに重要な役割を果たすことを実証している。同じ条件下で、本発明者らは、スーパーP炭素導電性添加剤と共に、一般的に使用される非導電性ポリマーバインダーカルボキシメチルセルロース(CMC)と組み合わせて多孔質Siで作られた複合電極を使用して調べた。製造されたSiハーフセルは可逆的サイクルを示したが、200サイクル後に約99.3%のより低いクーロン効率を示した。非導電性バインダーは活物質間の電気的接触を提供するために常に一定量の導電性炭素粒子を必要とするので、添加剤の体積がケイ素と同じ速度では増加しないので必然的により多くの副反応および追加のSEI層形成および体積干渉を生じる。
【0032】
図2は、(a)1、2、3、4、5、10、50、100、150および200サイクルにおける420mAh/g(10.0%リチウム化)、680mAh/g(16.2%リチウム化)、および(c)1000mAh/g(23.8%リチウム化)のCCCモードで試験された3つの固定容量における、本発明の一実施形態による多孔質Si/5質量%PPy複合電極の電圧-容量曲線を示す。比容量を420mAh/gまたは680mAh/gに固定すると(
図2(a)および2(b))、最初の5サイクルはSEI形成および他の副反応で完了し、95%未満のクーロン効率が得られる。10番目のサイクルから始めて、セルは可逆的なサイクル挙動を示し、電圧-容量曲線は互いに完全に重なる。
図2(c)に示されるように、比容量を1000mAh/gに固定すると、電圧-容量曲線は420mAh/gおよび680mAh/gと同様の挙動を示す。しかし、25サイクル目で容量低下が見られたため(
図1(a)参照)、50サイクル目から200サイクル目まで容量は低下し続ける。
【0033】
図3は、200サイクルまでの異なるサイクルにおける、本発明の一実施形態による多孔質Si/PPyバインダー複合電極のインピーダンス測定値を提供する。
図4は、150サイクルまでの10サイクル毎のLi/Li対称コインセルのEISを提供する。
図3を
図4と比較すると、インピーダンスは実際にはSi電極とLi電極の両方の寄与によるものであることが見いだされる。所与の420mAh/g(10.0%)および680mAh/g(16.2%)のリチウム化では、インピーダンス応答に明らかな変化はないように見られ、これは限られたSEI層成長を実証する。しかしながら、1000mAh/g(23.8%)の一定のリチウム化では、目に見える連続的な抵抗の増加が観察され、これはSEI層の成長を示している。
【0034】
行った様々な試験に基づいて、多孔質ケイ素構造体と少量の導電性ポリマーバインダーとの組み合わせにより、長期間のサイクル中のケイ素粒子劣化の固有の問題を克服することが可能になることが示された。この組成物を用いて製造された本発明の複合電極は、「標準の」非多孔質ケイ素を用いた積層体、および多孔質Si、「非導電性」市販の従来のバインダー、および導電性添加剤を用いた積層体より優れていた。本発明の複合電極は、420または680mAh/gの定容量サイクルに対応する52%までの体積変化に対応することが可能であり、サイクルレート1Cで200サイクル後に容量褪色はなかった。
【0035】
本開示における1つまたは複数の例は非限定的な例であり、本発明はこれらの例の変形形態および均等物を包含することを意図していることを認識されたい。
【0036】
例
電極組成物:
全ての電極積層体は、導電性ポリマーバインダーおよびケイ素活性材料でできている。多孔質Siは市販されており、VestaSiおよび他の供給源から入手することができる。ミクロサイズの非多孔質Siは市販されており、Alfa Aesarから入手することができる。ピレン系導電性バインダーは、米国特許第9,153,353号に記載されているように合成した。
【0037】
化学物質:導電性ポリマーを合成するための全ての出発化学材料は、Sigma-Aldrichから購入した。電解質は、電池・グレードのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、および炭酸フルオロエチレン(FEC)に溶かしたものも含めて、NovolyteTechnologies(現在はBASFの一部)から購入した。Celgard3501セパレータ膜は、Celgardから購入した。その他の化学物質はSigmaAldrichから購入し、他のいかなる精製もなしに使用した。
【0038】
電極を作製するためのプロセス:
全ての電極積層体を、ミツトヨのドクターブレードおよびヨシミツ精機の真空ドローダウン・コータを使用して、活物質を単位面積当たりほぼ同じ負荷まで、20μmの厚さの電池・グレードのCuシート上に流延した。被膜および積層体を、溶媒のほとんどが蒸発しかつ乾燥したように見えるまで、最初に赤外線ランプの下で1時間乾燥した。被膜および積層体を、10-2torrの動的真空の下で24時間、130℃でさらに乾燥した。被膜および積層体の厚さを、精度が±1μmのミツトヨ・マイクロメータで測定した。4.8mAh/com2までのいくつかの負荷および厚さを行い、電極も、連続的に調節可能な隙間を備えたInternationalRollingMill製のカレンダ機を使用して加圧し、および非加圧状態にした。
【0039】
コインセルを製作するためのプロセス:
コインセルの組立ては、標準の2325コインセル・ハードウェアを使用して行った。1.47cmの直径のディスクを積層体から打ち抜いて、作用電極としてコインセル・アセンブリに使用した。リチウム箔(FMCコーポレーションから得られた)を、対電極を作製するのに使用した。対電極を、1.5cmの直径のディスクに切断した。作用電極を、コインセル・アセンブリの外殻の中心に配置し、2滴の30%FEC、1.2MLiPF6をBASFから購入したEC/DEC=3/7電解質に溶かしたものを添加して、電極を濡らした。直径2cmのCelgard2400多孔質ポリエチレン・セパレータを、作用電極の最上部に配置した。さらに3滴の電解質を、セパレータに添加した。対電極を、セパレータの最上部に配置した。作用電極の上方に対称的に対電極を位置合わせするのに、特に注意を払った。ステンレス鋼スペーサおよびBellevilleバネを、対電極の最上部に配置した。プラスチック・グロメットを、電極アセンブリの外縁の最上部に配置し、カナダのNationalResearchCouncilにより製造された特注の圧着機で密接に圧着した。セル製作手順の全体は、Ar雰囲気グローブ・ボックス内で行った。
【0040】
コインセルを試験するためのプロセス:
コインセル性能を、MaccorSeries4000電池試験システムにより、30℃の熱チャンバ内で評価した。一定の充電容量サイクリングでは、コインセルを、計算された特定の容量に該当するある程度まで最初にリチウム化し、次いで元の1Vまで脱リチウム化した。より低いカットオフ電圧は、10mVに設定された。材料の容量を、理論容量、および電極内で使用される材料の量に基づいて計算した。