(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】浸透およびハイドロゲルを併用した子宮頸管拡張器およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
A61M 29/04 20060101AFI20221213BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20221213BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20221213BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20221213BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20221213BHJP
A61L 31/02 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
A61M29/04
A61P15/00
A61L31/14 300
A61L31/12 100
A61L31/12 110
A61L31/04 100
A61L31/04
A61L31/14
A61L31/02
A61L31/14 100
A61L31/04 110
(21)【出願番号】P 2019519322
(86)(22)【出願日】2017-10-06
(86)【国際出願番号】 IB2017056187
(87)【国際公開番号】W WO2018065956
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-10-01
(32)【優先日】2016-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519122769
【氏名又は名称】メディケム テクノロジー スポレチノスト エス ルチェニム オメゼニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ストイ,ウラジミール
(72)【発明者】
【氏名】ドルネッキー,トマス
(72)【発明者】
【氏名】ドゥディッチ,ミロスラヴ
(72)【発明者】
【氏名】ステリチェク,ペトル
(72)【発明者】
【氏名】ヴォコノヴァ,ズデンカ
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】特表昭59-501345(JP,A)
【文献】特表2003-510129(JP,A)
【文献】特開2013-185119(JP,A)
【文献】特開平4-227705(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0068180(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 29/04
A61P 15/00
A61L 31/14
A61L 31/12
A61L 31/04
A61L 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液からの水の吸収により半径方向に拡張
して第一の浸透脱水を引き起こすことができる水不溶性の
浸透活性合成親水性ポリマーを含む部分的または完全に脱水されたハイドロゲルを含むステム;および
前記ハイドロゲル内に分散
して第二の浸透脱水を引き起こす少なくとも1つの
第二の浸透活性化合物
を含み、
前記水不溶性の
浸透活性合成親水性ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリウレア、ならびにペンダントニトリル基およびペンダントカルボキシレート基を有するアクリルコポリマーからなる群より選択され、
前
記少なくとも1つの第二の浸透活性化合物は、
カルボキシレート基、前記カルボキシレート基の塩、硫酸基、前記硫酸基の塩、リン酸基、前記リン酸基の塩、スルホン酸基、および前記スルホン酸基の塩からなる群から選択されるペンダント置換基を有するポリマーである、水溶性ポリマー電解質、または
ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウムおよび有機アミン陽イオンからなる群から選択される一価の陽イオン、ならびに塩化物、臭化物、硫酸、リン酸、チオシアン酸および酢酸の陰イオンからなる群から選択される陰イオンからなる群より選択されるアニオンを有する非毒性の水溶性塩もしくは非毒性の水溶性塩の混合物
から選択される、子宮頸管拡張器。
【請求項2】
前記少なくとも1つの
第二の浸透活性化合物の少なくとも1つが、前記脱水されたハイドロゲルステムに対して、1重量%~60重量%の濃度で存在するポリマー電解質である、請求項1に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項3】
前記ポリマー電解質が、カルボキシレート基、前記カルボキシレート基の塩、硫酸基、前記硫酸基の塩、リン酸基、前記リン酸基の塩、スルホン酸基、および前記スルホン酸基の塩からなる群から選択されるペンダント置換基を有するポリマーを含む、請求項2に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項4】
前記ポリマー電解質が、前記ハイドロゲルを形成する前記水不溶性の
浸透活性親水性ポリマーとの相互侵入ネットワークを形成する、請求項2または3に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項5】
前記ポリマー電解質が、前記ハイドロゲル内に分散した分離したドメインの形態で存在する、請求項2または3に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項6】
前記少なくとも1つの
第二の浸透活性化合物が、非毒性の水溶性塩または非毒性の水溶性塩の混合物を含む、請求項1に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項7】
前記非毒性の水溶性塩が、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウムおよび有機アミン陽イオンからなる群から選択される一価の陽イオンを有する、請求項6に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項8】
前記非毒性の水溶性塩が、塩化物、硫酸、リン酸、チオシアン酸および酢酸の陰イオンからなる群から選択される陰イオンを有する、請求項6に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項9】
前記一価の陽イオンが、ナトリウムの陽イオンである、請求項7に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項10】
前記陰イオンが、塩化物の陰イオンである、請求項8に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項11】
前記塩が、前記ハイドロゲルの重量に対して、3重量%~60重量%の範囲内の濃度で存在する、請求項6に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項12】
前記塩が、7重量%~45重量%の範囲内の濃度で存在する、請求項11に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項13】
前記塩が、9重量%~35重量%の範囲内の濃度で存在する、請求項11に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項14】
前記塩が、前記ステムの中心におけるよりも前記ステムの表面上により高い濃度の前記塩が存在するような濃度勾配で前記ステム内に分散している、請求項6~12のいずれか1項に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項15】
前記ハイドロゲルが、前記ハイドロゲルの重量に対して、3重量%~25重量%の非毒性の可塑剤を含有する、請求項1に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項16】
前記可塑剤が、グリセロール、グリセロールモノアセテート、グリセロールジアセテート、グリセロールホルメート、グリコール酸、1,2プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)および水からなる群から選択される化合物の少なくとも1つを含む、請求項15に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項17】
前記ハイドロゲルが、5重量%~22重量%の水を含有する、請求項16に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項18】
前記部分的または完全に脱水されたハイドロゲルステムが、その脱水時の直径の200%より大きく半径方向に拡張でき、かつその軸方向の寸法の変化が、同じ条件下でのその脱水時の長さの+25%~-25%である、請求項1に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項19】
前記ハイドロゲルが、ペンダントニトリル基およびペンダントカルボキシレート基を有するアクリルコポリマーを含む、請求項1に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項20】
前記ペンダントニトリル基が、X線回折によって検出可能な結晶性ドメインに編成されている、請求項19に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項21】
前記コポリマーが、ポリアクリロニトリル(PAN)の部分的な加水分解またはアミノ分解の生成物である、請求項19または20に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項22】
水および水蒸気を透過しない容器中に包まれた滅菌されたデバイスである、請求項1~21のいずれか1項に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項23】
少なくとも1つの
第二の浸透活性化合物が分散した部分的または完全に脱水された状態のハイドロゲルを提供し、
前記水不溶性の
浸透活性合成親水性ポリマーのガラス転移温度より高い温度で前記ハイドロゲルを軸方向に伸ばして、前記部分的または完全に脱水されたハイドロゲルを含み、半径方向の拡張能力を獲得したステムを製造し、さらに
その後に、前記部分的または完全に脱水されたハイドロゲルを含むステムを軸方向の応力下で周囲温度にまで冷却すること
を有する、請求項1に記載の子宮頸管拡張器を製造する方法。
【請求項24】
少なくとも1つの
第二の浸透活性化合物が分散した水和状態のハイドロゲルを提供し、
前記ハイドロゲルを軸方向に伸ばし、前記ハイドロゲルを乾燥しながら前記ハイドロゲルの所定の長さを維持して、前記部分的または完全に脱水されたハイドロゲルを含み、半径方向の拡張能力を獲得したステムを製造すること
を有する、請求項1に記載の子宮頸管拡張器を製造する方法。
【請求項25】
前記ハイドロゲルが、ペンダントニトリル基およびペンダントカルボキシレート基を有するアクリルコポリマーを含み、前記コポリマーが、ポリアクリロニトリル(PAN)の部分的な加水分解またはアミノ分解の生成物であり、さらに、前記部分的な加水分解またはアミノ分解が、アルカリ金属の水酸化物の存在下で、チオシアン酸ナトリウムの濃縮溶液中に溶解した前記PANを反応させて、前記部分的に加水分解またはアミノ分解されたポリアクリロニトリルコポリマーの粘性溶液を得ることによって行われる、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記部分的な加水分解またはアミノ分解が、30℃~100℃の範囲内の温度で行われる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記部分的に加水分解またはアミノ分解されたポリアクリロニトリルコポリマーの粘性溶液が、前記溶液を水性の液体を用いて凝固させた後、前記チオシアネート溶媒の完全または部分的な抽出およびその後の乾燥ステップによって前記ハイドロゲルに変換される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記少なくとも1つの
第二の浸透活性化合物が、非毒性の水溶性塩または非毒性の水溶性塩の混合物を含み、前記ハイドロゲルが、3重量%~25重量%の非毒性の可塑剤を含有し、さらに、前記ハイドロゲルが、乾燥する前に、前記少なくとも1つの
第二の浸透活性化合物および/または前記少なくとも1つの
第二の浸透活性化合物の前駆物質および/または前記可塑剤の水溶液と接触され続け、
前記前駆物質が、カルボキシレート基、硫酸基、リン酸基、スルホン酸基およびそれらの各々の塩からなる群から選択される負に荷電した官能基を有する水溶性モノマーである、請求項23または24に記載の方法。
【請求項29】
前記少なくとも1つの
第二の浸透活性化合物が、平衡濃度の少なくとも半分の濃度まで前記ハイドロゲルに浸透する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
水および水蒸気を透過しない容器内で前記子宮頸管拡張器を電離放射線に曝露することによって前記子宮頸管拡張器を滅菌することをさらに含む、請求項23または24に記載の方法。
【請求項31】
前記電離放射線がガンマ放射線である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記電離放射線が電子ビーム放射線である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの
第二の浸透活性化合物が、非毒性の水溶性塩または非毒性の水溶性塩の混合物を含み、前記ハイドロゲルが、3重量%~25重量%の非毒性の可塑剤を含有し、さらに、前記塩および前記可塑剤を前記部分的または完全に脱水されたハイドロゲル内に分散しながら、前記放射線をあてる、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記ポリマー電解質が前記脱水されたハイドロゲルステムに対して5重量%~40重量%の濃度で存在する、請求項2に記載の子宮頸管拡張器。
【請求項35】
前記アルカリ金属の水酸化物が水酸化ナトリウムである、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
前記部分的な加水分解またはアミノ分解が、50℃~85℃の範囲内の温度で行われる、請求項25に記載の方法。
【請求項37】
前記電離放射線がベータ放射線である、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年10月6日に出願された、米国仮特許出願第62/404,997号に対する優先権を主張する。該仮出願の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明の分野
本発明は、子宮頸管拡張器、および子宮頸管拡張器を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
組織の拡張は様々な外科的処置において使用される。組織の拡張は一時的な場合もあるし、永久的な場合もある。一時的な拡張の1つの既知の例として、婦人科における子宮頸管の拡張がある。それは分娩中に自然に達成されるが、プロスタグランジンの投与などの、様々な手段によって人工的に達成することもできる(MJ Keirse, Prostaglandins in preinduction cervical ripening. Meta-analysis of worldwide clinical experience, The Journal of reproductive medicine (1993) 38: 89-100を参照)。子宮頸管は、機械的拡張器を使用する短期間の半径応力に反応して一時的に拡張されることもある。機械的拡張器は、通常、子宮頸管中に逐次的に押し入れていくにつれ直径が増加する様々な設計のプラスチックまたは金属ロッドのセット(例えば、ヘーガル拡張器、ハンク拡張器)である。より新しい機械的拡張器は、例えば、米国特許第7,105,007号(タイトル:Cervical medical device, system and method)に記載されている。これらのデバイスによって生成される機械的圧力は、組織を部分的かつ可逆的に脱水し、それにより組織はより柔らかくかつより変形可能になる。しかしながら、機械的圧力によって生成される部分的脱水の最大速度は、細胞壁の透水率(hydraulic permeability)によって制御され、組織からの水の排出はある程度時間がかかる。結果として、機械的拡張器は、脱水速度が許容するよりも早く組織を拡張させ、これにより、細胞膜の破砕およびその結果として組織損傷、瘢痕さえも引き起こすことがある。
【0004】
したがって、様々な設計の膨張式拡張カテーテルが開発され(例えば、米国特許出願公開第2004/0116955号および米国特許第4,664,114号を参照)、いくぶんより安全で、より遅く、より制御可能な子宮頸管の拡張を可能とした。しかしながら、拡張速度の制御はまだ容易でなく、したがって組織からの体液の排出速度に由来する安全限界を容易に超えることがある。
【0005】
子宮頸管組織の機械的脱水の代替法としては、局所的な浸透非平衡に反応した組織からの水の排出を利用する浸透脱水(osmotic dehydration)がある。この方法は、合成スポンジキャリアの孔の中に分散された硫酸マグネシウム塩を使用することによって子宮頸管組織を脱水するLamicel(登録商標)浸透拡張器によって利用されている(米国特許第4,467,806号を参照)。このような組織の軟化および拡張は、ホルモンレベルの最小の変化または子宮頸管組織の永久的な変化を伴って可逆的である。塩のキャリアとして使用されるハイドロゲルスポンジは生来的に柔らかく、組織に対していかなる大きな機械的圧力も生成し得ないので、これらのデバイスは純粋に浸透原理で作用する。
【0006】
局所的な浸透性組織脱水(local osmotic tissue dehydration)とデバイスの膨張による機械的拡張とを組み合わせた浸透性ハイドロゲル子宮頸管拡張器はよりいっそう効果的である。この方法は、脱水ハイドロゲル(または「キセロゲル」)ステムの子宮頸管への挿入を用いる。キセロゲルは接触組織に対して高張であり、したがって組織から水を引き出す。平衡に達するまでは、オスモル濃度が組織中で増加し、ハイドロゲルステム中で減少するにつれて、浸透圧勾配は徐々に減少する。ステムは、キセロゲルが水和してハイドロゲルになるにつれてその体積を増大させる。この拡張は、子宮頸管組織に対して制御された機械的圧力を生成してその脱水を補助する。加えて、この拡張は、水の浸透輸送のために必要とされる組織とデバイスとの間の密接な接触を維持するのを助ける。結果として、ハイドロゲル子宮頸管拡張器は、最適な結果のために機械的拡張器および浸透拡張器の方式を組み合わせる。
【0007】
ハイドロゲルは、しばらくの間、組織拡張のために使用されてきた。子宮頸管の拡張の「天然」の手段として、海藻であるマコンブ(seewead Laminaria Japonica)(「LJ」)の乾燥した茎が何世紀にもわたって子宮頸管の拡張のために使用されてきた(例えば、米国特許第4,624,258号、およびMH Goldrath, Vaginal removal of the pedunculated submucous myoma: the use of laminaria, Obstetrics and gynecology (1987) 70: 670-2を参照)。LJの茎は、体液から水を水和する間、再水和すると乾燥した茎を拡張させて、水の浸透輸送およびの機械的拡張の両方を生成することができる天然多糖のハイドロゲルを含む。しかしながら、LJの拡張器は様々な欠点を有する:水和が比較的遅く、かなり不規則であり、乾燥した茎の形状および幾何学的配列がかなり不規則であり、浸透圧が比較的低く、(例えば内子宮口にある)堅い子宮頸管組織の圧力に対する機械的拡張が制限され、最大水和の状態における機械的強度が崩壊を防止するためには低すぎ、製造物の滅菌が確実でなく、また、複数回の使用を防止し、したがって感染症のリスクを減少させる設計上の特徴または特性がない。
【0008】
これらの短所は、改良された合成ハイドロゲル拡張器の探索に繋がった。例えば、化合物ハイドロゲル拡張器がA.Michaelsによって米国特許第4,237,893号において提案された一方、V.Stoyらは、米国特許第4,480,642号において異方的に膨張する合成ハイドロゲル拡張器のために合成アクリルハイドロゲルを用いた。そのため、例えば、DILAPAN S(登録商標)子宮頸管拡張器などの製品は今や、乾燥したLJの茎および浸透性Lamicel(登録商標)拡張器の両方に取って代わることができる(例えば、DA Grimes et al., Lamicel versus laminaria for cervical dilation before early second-trimester abortion: a randomized clinical trial, Obstetrics and gynecology (1987) 69: 887-90; and EC Wells et al., Cervical dilation: A comparison of Lamicel and Dilapan, American journal of obstetrics and gynecology (1989) 161: 1124-6を参照)。
【発明の概要】
【0009】
発明の要約
本発明は、体液からの水の吸収により半径方向に拡張できる水不溶性の合成親水性ポリマーを含む部分的または完全に脱水されたハイドロゲルを含むステムを含む、子宮頸管拡張器(cervical dilator)に関する。子宮頸管拡張器は、ハイドロゲル内に分散した少なくとも1つの浸透活性化合物(osmotically active compound)をさらに含む。
【0010】
加えて、この子宮頸管拡張器を製造する方法が本明細書に記載される。上記方法は、部分的または完全に脱水された状態のハイドロゲルを提供し、前記水不溶性の合成親水性ポリマーのガラス転移温度より高い温度でハイドロゲルを軸方向に伸ばして、部分的または完全に脱水されたハイドロゲルを含み、半径方向の拡張能力を獲得したステムを製造することを有する。その後、部分的または完全に脱水されたハイドロゲルを含むステムを軸方向の応力下で周囲温度にまで冷却する。
【0011】
さらには、この子宮頸管拡張器を製造する別の方法が本明細書に記載される。上記方法は、水和状態のハイドロゲルを提供し、ハイドロゲルを乾燥しながら、ハイドロゲルを軸方向に伸ばし、ハイドロゲルの所定の長さを維持して、部分的または完全に脱水されたハイドロゲルを含み、半径方向の拡張能力を獲得したステムを製造することを有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図面の簡単な説明
【
図1】
図1は、NaCl溶液と平衡状態のハイドロゲル中および実施例1による最終のキセロゲルステム中のNaClの濃度のグラフを示す。
【
図2】
図2は、脱水状態(上図)および水和状態(下図)の子宮頸管拡張器の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
本発明は、部分的または完全に脱水された合成ハイドロゲルステム内に少なくとも1つの浸透活性化合物(osmotically active compound)を分散させることによって、子宮頸管組織の浸透脱水(osmotic dehydration)の1つより多くの手段を1つのデバイス中に組み合わせることによって、より効果的なハイドロゲル子宮頸管拡張器を可能とする。浸透活性化合物は、水を吸収することができ、ハイドロゲル内に組み込まれていない場合には、水溶液を形成できる、イオン性の水溶性物質である。浸透活性化合物は、ステムのハイドロゲル材料(すなわち、ハイドロゲルマトリックス)中に分散される。
【0014】
子宮頸管拡張器の一実施形態では、低分子量またはポリマーの塩が、異方的に拡張する脱水ハイドロゲル中に分散される。浸透勾配を生成して周囲組織からいくらかの水を引き出すために塩および脱水ハイドロゲルの両方を使用することができるが、これら2つの間には相違点がある。具体的には、組織から引き出される水の浸透圧および体積は、塩の方が、対応して部分的に脱水されたハイドロゲル(キセロゲル)よりも高い。本明細書で使用される場合、「キセロゲル」という用語は、堅くなった状態、すなわち、ガラス転移温度(Tg)が周囲温度または体温より高い温度よりも高くなる残留水濃度を有する状態まで脱水されたハイドロゲルを指す。本明細書で使用される場合、「部分的に脱水されたハイドロゲル」という用語は、水含有量がTgを周囲温度未満に減少させるために充分であるが、等張水溶液と平衡状態の液体含有量より低い可塑化された(すなわち、可逆的に変形可能な)またはゴムのような(すなわち、弾性のある)状態のハイドロゲルを指す。これらの用語は、脱水レベルが異なるハイドロゲル成分を指すので、「キセロゲル」と「部分的に脱水されたハイドロゲル」とを区別する具体的な理由がない限り、これらの2つの用語は本明細書において区別しないで使用される。加えて、塩は拡散によってまたは溶解された時に流れ去ることによって拡張部位から離れるように移動することがあるが、他方でハイドロゲルは、除去されるまでその場所に留まる。また、塩は、ハイドロゲルがそうであるように、子宮頸管組織に対して機械的圧力を生成することができない。最後に、塩からの多価イオン(例えば、Ca2+、Al3+、Zn2+またはMg2+)が高浸透圧を生成することがあるが、組織コンポーネント(例えば、タンパク質)と相互作用して有害反応を引き起こすこともある。対照的に、ハイドロゲルは、一般に、組織コンポーネントに対して不活性であり、かつ生体適合性が高い。
【0015】
子宮頸管拡張器の他の実施形態では、少なくとも1つの浸透活性化合物が、高分子電解質、好ましくは、例えば、カルボン酸単位、硫酸単位、スルホン酸単位またはリン酸単位などの、負に荷電するペンダント単位を含む一定の負電荷を有する高分子電解質の塩である。このような高分子電解質の例としては、アクリル酸およびメタクリル酸のポリマーおよびコポリマー;ポリ(エチレンスルホン酸);ポリ(リン酸);ポリ(スチレンスルホン酸);ポリ(ビニル硫酸);ポリ(ビニルホスホン酸);ポリ(マレイン酸);ポリ(2-メタクリロイルオキシエタン-1-スルホン酸);ポリ(3-メタクリロイルオキシプロパン-1-スルホン酸);ポリ(3-(ビニルオキシ)プロパン-1-スルホン酸);ポリ(4-ビニルフェニル硫酸);およびそれらの各々の塩、特に、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウムなどの一価の対カチオンまたはNR4
+もしくはNR3H+(式中、Rは、1~4個の炭素原子を有するアルキルまたはヒドロキシアルキル置換基を示す)、ピリジンなどの有機塩基などとの塩がある。なお、有機塩基の多くは、生物学的に活性があり、痛み、感染症などを抑制するように作用することもできる。加えて、浸透活性化合物として有用な水溶性高分子電解質は、当業者に既知の他の水溶性のイオン性ポリマーおよびコポリマーによって形成されてもよい。
【0016】
好適には、高分子電解質は、ハイドロゲルネットワーク中に捕捉されている(entrapped)。好ましくは、少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも90重量%の捕捉された高分子電解質が、子宮頸管の拡張操作中にハイドロゲル内に捕捉されたままとなる。高分子電解質は、例えば、ハイドロゲルネットワーク内での高分子電解質を形成する水溶性モノマーの重合によって、ハイドロゲルネットワーク内で形成されてもよい。この方法により、1種類の相互侵入ネットワーク(interpenetrating network)が得られる。反対に、ハイドロゲルネットワークは、モノマー分子の重合によって、または高分子電解質の存在下でのハイドロゲルを形成する鎖の凝固によって、または当業者に公知のポリマー形成の他の技術によって、高分子電解質の鎖または粒子の周りに形成されてもよい。これにより、異なる種類の相互侵入ネットワーク(interpenetrating network)、または、連続的なハイドロゲル材料内に分散した離散的浸透セル(discrete osmotic cells)を有する構造が得られる。
【0017】
好ましくは、高分子電解質は、脱水ハイドロゲルステムの重量に対して、約1重量%~約60重量%、より好ましくは約1重量%~約50重量%、よりいっそう好ましくは約5重量%~約40重量%、さらにより好ましくは約5重量%~約20重量%の濃度で子宮頸管拡張器中に存在する。
【0018】
高分子電解質は、好適には、Na+、K+、Li+、NH4
+、NR4
+もしくはNR3H+(式中、Rは、1~4個の炭素原子を有するアルキルまたはヒドロキシアルキル置換基を示す)またはその混合物などの正に荷電した一価の対カチオンと組み合わさって、浸透活性化合物の別の実施形態を形成してもよい。
【0019】
子宮頸管拡張器の他の実施形態では、浸透活性化合物の少なくとも1つは、少なくともその完全に水和した状態においてハイドロゲルから拡散して出て行くことができ、一価の陽イオンと一価、二価、三価または多価の陰イオンとの組合せによって形成される低分子量の、非毒性の水溶性の塩である。好ましくは、一価の陽イオンは、Na+、K+、Li+、NH4
+、NR4
+もしくはNR3H+(式中、Rは、1~4個の炭素原子を有するアルキルまたはヒドロキシアルキル置換基を示す)、またはその任意の混合物である。
【0020】
他の実施形態では、これらの一価の陽イオンは、例えば、Cl-、F-、Br-、SO4
2-、CNS-、PO3
3-、PO3H2-、PO3H2
-、CO2
2-、CO2H-、HCOO-、CH3COO-、HO(CH2)nCOO-(式中、nは1~6の整数である)、または有機ヒドロキシ酸もしくはアミノ酸に由来する陰イオン、またはこれらの組合せなどの水溶性の負に荷電した対イオンと組み合わさっている。好ましい塩の1つは、体液中に天然に存在し、温度から比較的独立したその溶解性のため、塩化ナトリウムである。
【0021】
陽イオンと陰イオンとの組合せは、固体物質の塩の形態、高度に濃縮した塩水溶液の形態、またはこれらの組合せで、ハイドロゲル内に分散され得る。例えば、塩は、連続的なハイドロゲルマトリックス中に均一に分散することができ、または、そのバルク内に位置するよりも多くの塩がハイドロゲル表面に位置する濃度勾配を形成してもよい。一実施形態では、塩は、脱水ハイドロゲルマトリックス中に完全または部分的に組み込まれた結晶を形成し得る。好ましくは、ハイドロゲルは、その拡張により有意な外圧力を生成し得ないスポンジではなく連続的なポリマーマトリックスを形成する。
【0022】
好ましくは、塩は、2つの基本ステップでハイドロゲル中に組み込まれる。最初に、所定の塩および塩イオン(陽イオンおよび陰イオン)の過剰の水溶液とハイドロゲルを接触させてハイドロゲル中に拡散させる。ハイドロゲル内の塩濃度は、ハイドロゲルの中および外の濃度の比が各々の分配係数に対応する平衡値に徐々に近づく。ハイドロゲル中へのイオンの拡散は、温度の増加によって加速させることができる。
【0023】
次に、予め定められた時間の後にまたはイオンの濃度が所望の最終塩濃度に基づく予め定められた値に達したときに、ハイドロゲルを水溶液から取り出し、好適なドライラック上に置く。ハイドロゲルの脱水状態と水和状態との間の寸法の所望の軸方向および半径方向の変化を達成するために算出された予め定められた比でハイドロゲルを伸ばす。脱水ハイドロゲルステムは生理的条件における最大膨張によっていずれの方向にも好ましくは約4分の1(+または-25%)より大きくその長さを変化させるべきではないことが確立された。よりいっそう好ましくは、水和によるステム長さの軸方向の変化は、-20%~+10%であるべきである。軸方向の長さ変化は、水和によっておよびこの乾燥ステップの始まりにおける伸びの程度によって制御することができる。ハイドロゲルが乾燥の前により大きく伸ばされる場合、水和によるハイドロゲルの拡張はより小さくなり、または縮むことさえある。
【0024】
例えば、伸びの比は以下の通りに決定することができる。最初に、体積膨張率(Volume Expansion Factor)、またはVEXFを算出することができる。VEXFは、初期キセロゲル状態0における体積に対する最終ハイドロゲル状態1における体積の比である。必要とされるパラメーターはシミュレーション実験の条件で決定されて、状態1および0はin vivoまたはin vitroであってよいことが理解される。
【0025】
状態0では、g10グラムの溶媒、水溶性塩または可塑剤(残留水など)およびg20グラムのポリマーから構成される質量G0のキセロゲルから始め、溶媒の重量分率はw10=g10/G0となり、ポリマーの重量分率はw20=g20/G0となり、かつw10+w20=1となる。ポリマーの密度をdp、溶媒の密度をdsとし、ポリマーおよび溶媒の体積分率を加法的なものと仮定すると(すなわち、混合物を「理想溶液」に近似すると)、初期状態におけるエキスパンダーの密度は、de0=d10*(1-w20)+d20*w20となり、体積はV0=G0/de0となる。
【0026】
状態1では、ポリマーを膨張させる外部等張媒体に溶媒が交換されるにつれてハイドロゲルの重量はG1に達する。このとき、拡張器は、異なる量の等張媒体gm1ではなく、同じ量のポリマーg20からなる(ポリマーは等張媒体中に不溶性であることが自然に仮定される)。それゆえ、G1=g20+gm1であり、かつ等張媒体およびポリマーの重量分率はそれぞれwm1=gm1/G1およびw21=g20/G1であり、この際、wm1+w21=1である。状態1におけるエキスパンダーの密度は、体積分率が初期状態において使用されたように加法的であるという同じ仮定の下では、de1=dm1*(1-w21)+d20*w21となる。このとき、エキスパンダーの体積は、V1=G1/de1およびVEXF=V1/V0となる。
【0027】
ポリマーの体積分率は、v20=(g20*d20)/(G0*de0)およびv21=(g20*d20)/(G1*de1)、したがってv20*G0*de0=v21*G1*de1、それゆえv20*V0=v21*V1であり、したがってVEXF=v20/v21であることも考察できる。
【0028】
換言すると、2つの異なる液体含有量を有する2つの異なる状態間のハイドロゲルの体積膨張率(VEXF)は、これらの2つの状態におけるポリマーの体積分率の逆比に等しい。あるいは、VEXFは、相対重量変化からVEXF=(G1/G0)*(de1/de0)と算出することができる。
【0029】
所定のキセロゲル-ハイドロゲル系についてVEXF値が分かったら、3つの異なる方向における線形膨張率(Linear Expansion Factor)、またはLINEXFを算出することができる。等方性の変化の場合には、
【0030】
【0031】
異方性の膨張では、線形膨張率は、例えば、LINEXFx、LINEXFyおよびLINEXFzというように3つの別の次元について定義する必要があり、VEXF=LINEXFx*LINEXFy*LINEXFzが成り立つ。
【0032】
一例として、最終VEXF=8となることができるマルチブロックのアクリルコポリマーの円筒形のキセロゲルステム、および直径の3倍の増加(例えば、キセロゲル状態における約4mm+/-0.2mmから完全に水和した状態における約12mm)が必要とされる場合を考える。キセロゲルが等方的に膨張する場合、
【0033】
【0034】
最終直径はわずか8mmとなる。同時に、ステムの長さも2倍増加し、例えば、65mmから130mmに増加する。等方性の拡張により12mmの必要とされる直径を得るためには、長さを195mmに増加させる必要があり、これは子宮頸部の解剖学の観点から大きすぎる。また、VEXFは27の値を有する必要があり、すなわち、体積が27倍に大きくなる必要があり、それにより最終のハイドロゲルは非常に低濃度のポリマーを含有する。これは、子宮頸管組織に対して非常に低い機械的強度および非常に低い膨張圧力を結果としてもたらすことになる。
【0035】
ここで、最終水和状態にあり、かつ最終の所望の寸法(例えば、12mmの水和時の直径(hydrated diameter)および55mmの水和時の長さ(hydrated length))を有するハイドロゲルロッドで開始した場合、Z軸方向における長さを考慮すると、LINEXFz×=55/65=0.85である。これは、
【0036】
【0037】
ハイドロゲルがキセロゲル状態に乾燥するまでこの長さに固定した場合に達成することができる。ハイドロゲル状態からキセロゲル状態への直径の減少は、
【0038】
【0039】
したがって、キセロゲルステムは、3.9mmの直径および65mmの長さを有し、完全に水和した状態ではその寸法を12mmの必要とされる直径および55mmの長さに変化させる。
【0040】
伸ばされたハイドロゲルロッドを予め定められた水含有量まで乾燥させることができる。ハイドロゲルに軸方向の張力をかけながら蒸発させることによって予め定められた量の水を除去する。一定の長さでの乾燥は、優先的に軸方向にポリマー鎖を配向させる応力を生成する。また、体液からの水を介してハイドロゲルが再加水するにつれ、配向した鎖の無作為化は、軸方向の拡張を減少させて半径方向の拡張を増加させ、これは子宮頸管の拡張のために有利である。
【0041】
軸方向に応力を加えた状態での空気乾燥は、滑らかな表面および均一なキセロゲルロッドの直径をもたらす様々な条件下(温度、気流、空気湿度など)で実行することができる。最適な乾燥条件は、所望の乾燥時間、所望のキセロゲル表面の質およびキセロゲルステムの直径の許容されるばらつきに関連する。一実施形態では、好ましい乾燥処理は、最初に、50重量%より多くの水が除去されるまで50%より低い相対湿度の空気中、周囲温度で行われた後、ステムロッドをドライラックに固定したままで70℃より高温で乾燥を完了させる。別の乾燥方法は、完全に脱水されたポリマーでさえゴムのような状態となる約105℃を超える高い乾燥温度を使用する。
【0042】
一般的に言えば、乾燥の条件は、表面から蒸発した水を、外側スキンを部分的に水和した変形可能な状態に保つのに充分な程度まで内部からの拡散によって置き換えることができるように選択される。蒸発が早すぎるおよび/または温度が低すぎる場合には、外側表面は、変形した「スキン」を形成することがある。
【0043】
得られたキセロゲルロッドは、予め設定された濃度の塩を含有するが、この濃度は、当業者によってよく理解される、拡散時間、拡散速度、分配係数、所定の塩濃度でのポリマーの水和などのパラメーターに依存する。例えば、キセロゲルは、約3重量%~50重量%の塩または異なる塩の混合物を含有し得る。より高い塩濃度はより高い浸透脱水を提供するが、一般に、ある特定の塩の溶解度が限られているため、およびハイドロゲルの浸透脱水により達成がより難しい。したがって、塩濃度は、キセロゲルの質量に対して、7重量%~25重量%の範囲内であることが好ましく、塩濃度は9重量%~19重量%の範囲内であることがいっそうより好ましい。
【0044】
キセロゲル内の塩濃度の様々な分布は、塩濃度および乾燥条件を変化させることによって得ることができる。例えば、実施形態の1つとして、キセロゲルの中心から周囲に向かって塩濃度を増加させる条件があり、この際、上記塩はキセロゲルの表面層中に組み込まれた微細な結晶の形態でキセロゲル表面上に存在した。そのような塩分布により、組織をより迅速に脱水させ、子宮頸部の成熟(ripening)および拡張を改善することができる。塩分布は、その濃度によっておよび乾燥処理の条件によって制御される。より高い塩濃度(例えば、塩の種類およびハイドロゲルの組成に応じて、典型的に10重量%~15重量%より高い)は、より急な濃度勾配、またはキセロゲル中に組み込まれた微細な塩結晶の「スキン」さえも生成する。より遅い乾燥レジメン(より低い乾燥温度、相対湿度のより高い乾燥空気)は、この塩分離およびより大きい塩結晶の形成をさらに支持する傾向がある。好ましくは、キセロゲル中の塩濃度は5重量%~15重量%であるが、50重量%までの塩濃度を達成し、用いることができる。
【0045】
子宮頸管拡張器の別の実施形態では、拡張器中のハイドロゲルは、ハイドロゲルを形成する水不溶性の合成親水性ポリマーのガラス転移温度を押し下げることができる適切な非毒性の極性の液体によって可塑化される。そのような可塑剤は、特により低い温度において、キセロゲルをより壊れにくくかつ割れにくくする。加えて、可塑剤は、ハイドロゲル中への水の拡散を加速させ、したがってハイドロゲル中の非晶相の膨張を増加させる。可塑化されたキセロゲルは、より容易に曲がるまたは子宮頸管の特定の形状に合うように形成することができるようにより変形可能である。そして最後に、可塑剤はキセロゲルステムをより柔らかくすることができ、それにより挿入中の組織損傷のリスクが減少する。最も好ましい可塑剤は、グリセロール、グリセロールモノアセテート、グリセロールジアセテート、グリセロールホルメート、グリコール酸、1,2プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水、またはこれらの任意の混合物である。
【0046】
好ましくは、可塑剤は、キセロゲルの重量に対して、約3重量%~25重量%の範囲内の濃度で存在する。より好ましくは、可塑剤は、キセロゲルの重量に対して、約5重量%~22重量%の範囲内の濃度で存在する水である。特に好ましい可塑剤は、オートクレーブまたはガス滅菌用に設計された透過性の滅菌パウチなどの、半透膜を介して滅菌されたキセロゲル中に吸収され得る水である。キセロゲル中で水の所望の濃度に達したら、水または水蒸気を透過しない二次的なパウチ中にデバイスを密封することができる。
【0047】
可塑剤としての水の他の利点としては、ガンマ放射線またはベータ放射線などの電離放射線によるキセロゲルの滅菌を促進することがある。特に、水性可塑剤の存在下での滅菌は、キセロゲルの変色を減少させ、その完全な水和後にハイドロゲルの機械的特性を向上させる。ガンマ放射線またはベータ放射線による滅菌のための推奨される照射線量は、20kGy~50kGy、好ましくは25kGy~45kGyである。
【0048】
本明細書に開示される子宮頸管拡張器の一態様として、部分的または完全に脱水されたキセロゲルから組織および体液から吸収された水により水和したハイドロゲルへの異方的な膨張がある。例えば、キセロゲルステムは、その元々の直径の少なくとも2倍、および少なくとも3倍にさえも半径方向に拡張することができる一方、その軸方向の拡張ははるかにより小さく、負になることさえある(すなわち、ステムが長手方向に縮む)。実際、軸方向の変化は、キセロゲルステムの元々の長さの4分の1(すなわち、+または-25%)未満であるべきである。ステム拡張の異方性は、子宮頸部の拡張のために重要である。例えば、4mmの直径から12mmの直径への半径方向の拡張が必要とされる場合、等方性の拡張では、ステムの長さが元々の例えば65mmから195mmという過度の長さに増加してしまう。より重要なことには、全ての方向において等しい3倍の拡張は、ステムの体積における27倍の増加となる。それにより、ハイドロゲルは、非常に小さい体積分率のポリマー成分を有することとなる(元々のキセロゲルがポリマーのみを含有する場合、約3.7体積%)。そのような低濃度のポリマーネットワークは、充分な機械的強度または充分な膨張圧力を提供する可能性が低い。
【0049】
本明細書に開示される子宮頸管拡張器はまた、部分的または完全に脱水されたハイドロゲルを含むステムも含む。ハイドロゲルの機械的および物理化学的特性は子宮頸管拡張器が機能するために重要である。例えば、物理化学的特性としては、最大水和率(例えば、平衡液体含有量として表される)および特定の水和率で生成される膨張圧力が挙げられ、完全に水和した状態における機械的特性としては、引張り強度、相対的な破断伸びおよび破壊伝播への抵抗が挙げられる。好ましくは、ハイドロゲルの水和率は、35℃で7~7.5のpHの等張溶液に対して平衡状態で75重量%~95重量%、より好ましくは85重量%~93重量%の液体含有量に対応する。加えて、ハイドロゲルは、いかなる毒性または刺激性の抽出可能物もなく、充分に安定かつ滅菌可能であるべきである。
【0050】
子宮頸管拡張器用の好適なハイドロゲルとしては、共有結合ではなく物理的相互作用に少なくとも部分的に基づくネットワークを有するハイドロゲルが挙げられる。そのようなハイドロゲルの例としては、例えば以下の米国特許に記載される、ポリビニルアルコール(PVA)を使用したハイドロゲルがある:米国特許第4,734,097号、米国特許第4,663,358号、米国特許第5,981,826号、米国特許第6,231,605号および米国特許第7,332,117号(これらのそれぞれは、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0051】
子宮頸管拡張器用のハイドロゲルの他の好適なクラスとしては、親水性ポリウレタンおよびポリウレア(HPU)がある。そのような親水性ポリウレタンおよびポリウレアの例としては、米国特許第5,688,855号に見出すことができ、これは参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0052】
PVAおよびHPUのハイドロゲルは双方とも水和状態において良好な機械的特性を有するが、スルホ基、硫酸基またはカルボキシル基などの、膨張圧力を向上させる固定負電荷密度(Fixed Negative Charge Density)(FNCD)を有するハイドロゲルを提供するイオン基を欠くことがある。
【0053】
したがって、子宮頸管拡張器用のハイドロゲルのための最も好ましいポリマーとしては、マルチブロックコポリマー(MBC)を使用した物理的に架橋されたアクリルハイドロゲルがある。例えば、これらの「熱可塑性」ハイドロゲルは、加水分解またはアミノ分解されたポリアクリロニトリル(PAN)を用いるものがあり、米国特許第4,943,618号、米国特許第5,252,692号、米国特許第6,593,451号、米国特許第6,451,922号、米国特許第6,232,406号、米国特許第5,252,692号、米国特許第4,420,589号、米国特許第4,379,874号、米国特許第4,369,294号、米国特許第4,370,451号、米国特許第4,337,327号、米国特許第4,331,783号、米国特許第4,107,121号および米国特許第3,948,870号などのいくつもの米国特許に記載され、これらのそれぞれは、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0054】
加水分解またはアミノ分解されたPANを用いたこれらのハイドロゲルは、高い水含有量においてさえ高い機械的強度(および破壊伝播および疲労への高い耐性)で知られている。それらのペンダントニトリル基(pendant nitrile groups)は、アクリルアミド、N-置換アクリルアミド、アクリルアミジン、N-置換アクリルアミジンおよびアクリル酸ならびにこれらの塩から選択される親水性アクリル基の配列と交互に存在する配列(または「ブロック」)に編成される。ペンダントニトリル基を有するモノマー単位からの配列は、それ自体、例えばX線回折または固体状態NMRによって検出できるPANに典型的な結晶化度を有する結晶性ドメインとして他のポリマー構造から分離している。結晶性ドメインは、高い水含有量においてさえ高い機械的強度を有するハイドロゲルを提供する3Dネットワークを形成する。親水性アクリレートモノマー単位は、水性の液体を吸収し、水和の結果として拡張する親水性の非晶相を形成する。N-置換アミドおよびアミジン中のスルホ基もしくはカルボキシレート基、またはアクリル酸単位中のカルボキシレートなどの非晶性ドメイン中の高含有量の負に荷電したペンダント基を有するハイドロゲルが特に好ましい。ポリマー中のペンダントの負に荷電した基の濃度は、多くの場合、モノマー単位1モルあたりの荷電基のモルとして固定電荷密度(FCD)で表される。高いFCDは、特に高い水含有量において、浸透圧および膨張圧力の生成のために有利である。MBC鎖中のFCDは、ポリマーブレンドまたは相互侵入ネットワーク(interpenetrating network)(IPN)の形態でハイドロゲル構造中に組み込まれた高分子電解質からの電荷によって補完することができる。ブレンドは、例えば、MBC溶液中の高分子電解質の分散物を形成することまたはハイドロゲル形成前のその融解によって調製することができる。そのような高分子電解質は、乾燥した粉末形態で組み込むことができる。好適な高分子電解質の例としては、アクリル酸およびメタクリル酸のポリマーおよびコポリマー;ポリ(エチレンスルホン酸);ポリ(リン酸);ポリ(スチレンスルホン酸);ポリ(ビニル硫酸);ポリ(ビニルホスホン酸);ポリ(マレイン酸);ポリ(2-メタクリロイルオキシエタン-1-スルホン酸);ポリ(3-メタクリロイルオキシプロパン-1-スルホン酸);ポリ(3-(ビニルオキシ)プロパン-1-スルホン酸);ポリ(4-ビニルフェニル硫酸);およびこれらの各々の塩があり、塩は、ブレンドの前または後に中和することによって形成することができる。好ましい塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、またはNR4
+もしくはNR3H+(ただし、Rは、1~4個の炭素原子を有するアルキルまたはヒドロキシアルキル置換基を示す)、ピリジンなどの有機塩基などの一価の対カチオンとの塩がある。
【0055】
その後、当該技術分野において理解されるように、浸透活性化合物(osmotically active compound)および任意な可塑剤を含有するロッドの形態のキセロゲルステムを切断し、トリミングし、好適なハンドルおよびガイディングスレッドを取り付ける。好ましくは、その後、最終の子宮頸管拡張器製品は、滅菌容器中に封入され、滅菌される。滅菌は、例えば、酸化エチレンなどの気体によって、オゾンによって、過酢酸の蒸気によってまたは当業者に公知の他の手段によって実施できる。滅菌の好ましい方式は、ガンマ線、ベータ線などの電離線による、または加速された電子ビームによる照射である。照射は、好ましくは、3重量%~25重量%、より好ましくは5重量%~19重量%の濃度範囲内の水を含有する部分的に脱水されたキセロゲルに対して実施される。
【実施例】
【0056】
実施例1:
子宮頸管拡張器用のハイドロゲルは、米国特許第6,232,406号明細書(参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)にしたがって調製した。200,000g/molの重量平均分子量のPANを55重量%のNaSCN水溶液に溶解して、10重量%のポリマー溶液を形成した。55重量%のNaSCN水溶液に溶解したNaOHを、PAN/NaOHの質量比を1:10とするために必要とされる量で周囲温度において加えた。その後、溶液をジャケット付の管状反応器中に移し、70℃で60時間加熱した。得られたマルチブロックアクリルコポリマーの溶液を40℃に冷却し、圧力容器に移し、加圧ガスによってプログレッシブキャビティロータ(progressing cavity rotor)を有する定量ポンプに供給した。冷却したノズルを通じて溶液を1~5重量%のNaSCN濃度を有するNaSCN水溶液で満たした凝固浴中に押し出した。凝固したハイドロゲルロッドを実質的に全てのNaSCNが除去されるまで洗浄した。その後、ハイドロゲルを異なるNaClの濃度(約1%、7.5%、10%、12.5%および20重量%)を有する過剰の水溶液中に合計で48時間浸漬し、溶液を24時間間隔で2回、新鮮な塩溶液と置き換えて、ハイドロゲルと液相との間で平衡なNaCl分布を得た。
【0057】
異なるNaCl濃度を有するハイドロゲルロッドの切片を25%の相対的な長さの伸長を有するドライラック中で伸ばし、クランプで固定した。ラックを気流流している乾燥オーブン中に入れ、125℃で24時間乾燥させた。その後、キセロゲルロッドを約75mmの長さの切片に切断し、それぞれに、一方の側にはプラスチックハンドルを接着して取り付け(equipped with a glued-on plastic handle)、他方の側は丸い形状となるように研磨した。その後、キセロゲルを湿潤空気中で貯蔵し、約15重量%の水分を吸収させた。
【0058】
NaCl溶液と平衡状態のハイドロゲル中および最終のキセロゲルステム中のNaClの濃度は、蒸留水中へのNaClの抽出および塩化物の銀滴定によって確立した。ハイドロゲル中および最終のキセロゲルステム中のNaCl濃度を
図1に示す。
【0059】
水可塑化およびNaCl積載セル(water-plasticized and NaCl-loaded cells)を有する子宮頸管拡張器を滅菌パウチ中に密閉し、25~50kGyの線量でのガンマ照射によって滅菌した。同じ条件下で滅菌された完全に乾燥した子宮頸管拡張器と比較した場合、水可塑化状態で滅菌された製品は、緩衝化等張溶液中での膨張後にはるかに小さい変色および向上した機械的強度を示した。水可塑化キセロゲルはまた、より迅速な初期膨張も示し、破壊に対して耐性があった。子宮頸管拡張器の推奨される水含有量は、ステムの重量に対して、4~20重量%、好ましくは8~15重量%である。
【0060】
実施例1のキセロゲルおよび塩を組み合わせた滅菌製品は、水溶性塩を含有しない類似のハイドロゲル拡張器と比較して加速された子宮頸管組織の成熟および子宮頸管組織の拡張を提供する。
【0061】
実施例2:
実施例1にしたがって調製したハイドロゲルを以下のモノマーの10重量%の水溶液に浸した:
1.アクリル酸ナトリウム
2.メタクリロイルオキシプロパン-1-スルホン酸
3.4-ビニルフェニル硫酸
4.ビニルホスホン酸。
【0062】
各溶液中で平衡に達した後、モノマーに浸したハイドロゲルロッドを実施例1と同様にドライラック上で伸ばし、80℃で18時間乾燥させた。開始剤を使用せず、空気の存在下で乾燥を行ったが、全てのモノマーは重合し、マルチブロックコポリマーハイドロゲル内に高分子電解質の相互侵入ネットワークが形成された。等張溶液中で膨張させた場合、高分子電解質はハイドロゲル構造内に堅固に固着されるらしく、高分子電解質の溶出は観察されなかった。
【0063】
その後、プラスチックハンドルをキセロゲルステムに接着により取り付け、照射または気体によって滅菌することができる。
図2は、脱水状態(上段図)および水和状態(下団図)の子宮頸管拡張器を示す。
図2において、「1
x」は、完全または部分的に脱水された、元々の滅菌された状態の異方的に膨潤性のキセロゲルステムを示し;「1
H」は、35℃でpH=7.0~7.5の等張溶液中に完全に水和した、水和したハイドロゲルステムを示し;「2」は、ステムに接着したプラスチックハンドルを示し;「3」はロケーターループ(locator loop)を示す。
図2に関して、キセロゲルステムの長さL
Xおよび直径D
Xは、水和したハイドロゲルステムの長さL
Hおよび直径D
Hに変化する。異方性の膨張により、(D
H/D
X)>>(L
H/L
X)である。(D
H/D
X)は、好ましくは2~5、より好ましくは3~4である。(L
H/L
X)は、好ましくは0.7~1.5、より好ましくは0.85~1.15である。また、ロケーターループ3は、例えば、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタンまたはセルロースから作られた糸であってよい。
【0064】
実施例1による塩を含まないハイドロゲルロッドからのデバイスと比較して、実施例2の子宮頸管拡張器製造物は、半径方向の膨張圧力および膨張速度が増加する異方性の半径方向の拡張の増加を示し、さらにはより強い浸透脱水による子宮頸管組織のより迅速な成熟を伴う。
【0065】
実施例3:
ポリ(メタクリロイルオキシプロパン-1-スルホン酸)モノマーを有する実施例2とのハイドロゲル相互侵入ネットワークを、5重量%の硫酸ナトリウム、3重量%の1,2-プロピレングリコールおよび1重量%のトリエタノールアミンを含有する過剰の水溶液に浸した。その後、残留水含有量が約18重量%に達するまで70℃で半径方向の応力下で乾燥した。その後、先行する実施例と同様にして、製品を切断し、トリミングし、ハンドルを取り付け、滅菌パウチ中に密封した。子宮頸管拡張器デバイスを40kGyの電子ビームによって滅菌した。この子宮頸管拡張器デバイスは、強い半径方向の拡張および挿入前に子宮頸管の任意の特定の幾何学形状に合うように成形できる能力を有して迅速な子宮頸部の成熟を提供する。
【0066】
以上の実施例および説明は、特許請求の範囲によって規定される本発明を限定するものではなく、例により示すものであると解されるべきである。容易に理解されるように、特許請求の範囲に記載された本発明から逸脱しない限り、上記に記載した特徴の多数の変形および組合せを利用することができる。そのような変形は本発明の精神および概念から逸脱するものとはみなされず、全てのそのような変形は以下の特許請求の範囲内に包含されることが意図される。
【0067】
本明細書において参照される全ての論文、参考文献および特許は、参照することによりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。