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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】試料支持体、及び試料支持体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20221213BHJP
【FI】
G01N27/62 F
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019570315
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2018044298
(87)【国際公開番号】W WO2019155740
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2018021898
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】小谷 政弘
(72)【発明者】
【氏名】大村 孝幸
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-500507(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038710(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0123411(US,A1)
【文献】小野幸子,アノード酸化により生成する多孔質皮膜の構造と成長機構 ―アルミニウムおよびマグネシウムについて―,表面科学,1998年,Vol.19/No.12,PP.790-798
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のイオン化用の試料支持体であって、
互いに対向する第1表面及び第2表面に開口し且つ前記第1表面に垂直な方向に沿って延在する複数の第1貫通孔が形成された基板と、
少なくとも前記第1表面における前記第1貫通孔の周縁部に設けられた導電層と、を備え、
隣り合う前記第1貫通孔同士の間に設けられた隔壁部には、前記隣り合う第1貫通孔同士を連通する複数の第2貫通孔が形成されている、試料支持体。
【請求項2】
前記複数の第2貫通孔は、前記基板における前記第2表面側に偏在している、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項3】
前記第2貫通孔の幅は、前記第1貫通孔の幅よりも小さい、請求項1又は2に記載の試料支持体。
【請求項4】
前記基板は、バルブ金属又はシリコンを陽極酸化することにより形成されている、請求項1~3の何れか一項に記載の試料支持体。
【請求項5】
前記第1貫通孔の幅は、1nm~700nmであり、
前記第2貫通孔の幅は、1nm~350nmである、請求項1~4の何れか一項に記載の試料支持体。
【請求項6】
前記導電層の材料は、白金又は金である、請求項1~5の何れか一項に記載の試料支持体。
【請求項7】
試料のイオン化用の試料支持体であって、
導電性を有し、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口し且つ前記第1表面に垂直な方向に沿って延在する複数の第1貫通孔が形成された基板を備え、
隣り合う前記第1貫通孔同士の間に設けられた隔壁部には、前記隣り合う第1貫通孔同士を連通する複数の第2貫通孔が形成されている、試料支持体。
【請求項8】
前記複数の第1貫通孔のそれぞれは、前記第1表面に垂直な方向から見た場合に、円形状を呈している、請求項1~7の何れか一項に記載の試料支持体。
【請求項9】
試料のイオン化用の試料支持体の製造方法であって、
ベース基板を用意する第1工程と、
前記ベース基板を陽極酸化することにより、前記ベース基板の第1表面に前記第1表面に垂直な方向に沿って延在する複数の凹部が設けられた陽極酸化皮膜を形成する第2工程と、
前記陽極酸化皮膜を剥離することにより、前記複数の凹部のそれぞれに対応して前記第1表面及び前記第1表面と対向する第2表面に開口する複数の第1貫通孔が形成された基板を得る第3工程と、
少なくとも前記第1表面における前記第1貫通孔の周縁部に導電層を設ける第4工程と、を含み、
前記第2工程において、隣り合う前記凹部同士の間に設けられた隔壁部に、前記隣り合う凹部同士を連通する複数の第2貫通孔を形成する、試料支持体の製造方法。
【請求項10】
前記第2工程において、第1の陽極酸化により前記複数の凹部の形成を進行させた後、前記第1の陽極酸化とは異なる条件下での陽極酸化である第2の陽極酸化により前記複数の凹部の形成をさらに進行させると共に前記複数の第2貫通孔を形成する、請求項に記載の試料支持体の製造方法。
【請求項11】
前記第1の陽極酸化において、前記ベース基板を第1電解液に浸した状態で前記ベース基板に第1電圧を印加し、
前記第2の陽極酸化において、前記ベース基板を前記第1電解液とは異なる第2電解液に浸した状態で前記ベース基板に前記第1電圧を印加する、請求項10に記載の試料支持体の製造方法。
【請求項12】
前記第1の陽極酸化において、前記ベース基板を第1電解液に浸した状態で前記ベース基板に第1電圧を印加し、
前記第2の陽極酸化において、前記ベース基板を前記第1電解液とは異なる第2電解液に浸した状態で前記ベース基板に前記第1電圧とは異なる第2電圧を印加する、請求項10に記載の試料支持体の製造方法。
【請求項13】
試料のイオン化用の試料支持体の製造方法であって、
ベース基板を用意する第1工程と、
前記ベース基板を陽極酸化することにより、前記ベース基板の第1表面に前記第1表面に垂直な方向に沿って延在する複数の凹部が設けられた陽極酸化皮膜を形成する第2工程と、
前記陽極酸化皮膜を剥離することにより、前記複数の凹部のそれぞれに対応して前記第1表面及び前記第1表面と対向する第2表面に開口する複数の第1貫通孔が形成された導電性を有する基板を得る第3工程と、を含み、
前記第2工程において、隣り合う前記凹部同士の間に設けられた隔壁部に、前記隣り合う凹部同士を連通する複数の第2貫通孔を形成する、試料支持体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料支持体、及び試料支持体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体試料等の試料の質量分析において、試料をイオン化するための試料支持体が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような試料支持体は、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6093492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような質量分析においては、イオン化された試料(試料イオン)が検出され、その検出結果に基づいて試料の質量分析が実施される。このような質量分析においては、信号強度(感度)の向上が望まれている。
【0005】
そこで、本開示は、試料イオンの信号強度を向上させることができる試料支持体、及び試料支持体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る試料支持体は、試料のイオン化用の試料支持体であって、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の第1貫通孔が形成された基板と、少なくとも第1表面における第1貫通孔の周縁部に設けられた導電層と、を備え、隣り合う第1貫通孔同士の間に設けられた隔壁部には、隣り合う第1貫通孔同士を連通する複数の第2貫通孔が形成されている。
【0007】
上記試料支持体は、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の第1貫通孔が形成された基板を備える。これにより、例えば生体試料等の試料上に、第2表面が試料に対向するように試料支持体を配置した場合に、毛細管現象を利用して、基板の第2表面側から第1貫通孔を介して第1表面側に向けて試料の成分を移動させることができる。さらに例えばレーザ光等のエネルギー線を基板の第1表面に対して照射した場合に、第1表面側に移動した試料の成分に導電層を介してエネルギーが伝達されることにより、試料の成分をイオン化することができる。しかも、上記試料支持体では、隣り合う第1貫通孔同士の間に設けられた隔壁部には、隣り合う第1貫通孔同士を連通する複数の第2貫通孔が形成されている。これにより、第2表面側から第1貫通孔を介して第1表面側に向かって移動する試料の成分を、第2貫通孔を介して当該第1貫通孔と隣り合う他の第1貫通孔にも移動させることができる。これにより、第2表面側から第1表面側に吸い上げられる試料の成分の回り込み(他の第1貫通孔を介した移動)が可能となる。その結果、第2表面側から第1表面側への試料の成分の移動を促進させることができる。従って、上記試料支持体によれば、試料イオンの信号強度を向上させることができる。
【0008】
複数の第2貫通孔は、基板における第2表面側に偏在していてもよい。例えば上述したように第2表面を試料に対向させた場合において、第2表面側に偏在する複数の第2貫通孔により、試料の成分の回り込みを適切に実現できる。さらに、基板において第2貫通孔が存在しない(或いは第2表面側と比較して少ない)第1表面側の部分により、基板の強度を確保することができる。従って、上記試料支持体によれば、試料の成分の回り込みによる試料イオンの信号強度の向上を図ると共に、基板強度の向上を図ることができる。
【0009】
第2貫通孔の幅は、第1貫通孔の幅よりも小さくてもよい。この場合、第2貫通孔の幅が第1貫通孔の幅以上である場合に比べて、基板の強度を確保することができる。
【0010】
基板は、バルブ金属又はシリコンを陽極酸化することにより形成されていてもよい。この場合、バルブ金属又はシリコンの陽極酸化によって得られた基板により、毛細管現象による試料の成分の移動を適切に実現することができる。
【0011】
第1貫通孔の幅は、1nm~700nmであり、第2貫通孔の幅は、1nm~350nmであってもよい。この場合、上述した毛細管現象による試料の成分の移動、及び試料の成分の回り込みを適切に実現することができる。
【0012】
導電層の材料は、白金又は金であってもよい。この場合、導電層に一定の電圧を容易に且つ安定して付与することができる。
【0013】
本開示の他の側面に係る試料支持体は、試料のイオン化用の試料支持体であって、導電性を有し、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の第1貫通孔が形成された基板を備え、隣り合う第1貫通孔同士の間に設けられた隔壁部には、隣り合う第1貫通孔同士を連通する複数の第2貫通孔が形成されている。
【0014】
この試料支持体によれば、導電層を省略することができると共に、上述した導電層を備える試料支持体と同様の効果を得ることができる。
【0015】
本開示の一側面に係る試料支持体の製造方法は、試料のイオン化用の試料支持体の製造方法であって、ベース基板を用意する第1工程と、ベース基板を陽極酸化することにより、ベース基板の第1表面に複数の凹部が設けられた陽極酸化皮膜を形成する第2工程と、陽極酸化皮膜を剥離することにより、複数の凹部のそれぞれに対応して第1表面及び第1表面と対向する第2表面に開口する複数の第1貫通孔が形成された基板を得る第3工程と、少なくとも第1表面における第1貫通孔の周縁部に導電層を設ける第4工程と、を含み、第2工程において、隣り合う凹部同士の間に設けられた隔壁部に、隣り合う凹部同士を連通する複数の第2貫通孔を形成する。
【0016】
上記試料支持体の製造方法によれば、ベース基板の陽極酸化により複数の第1貫通孔及び複数の第2貫通孔を備えた基板を容易に得ることができる。その結果、上述したような効果を奏する試料支持体を容易に製造することができる。
【0017】
第2工程において、第1の陽極酸化により複数の凹部の形成を進行させた後、第1の陽極酸化とは異なる条件下での陽極酸化である第2の陽極酸化により複数の凹部の形成をさらに進行させると共に複数の第2貫通孔を形成してもよい。この場合、第1の陽極酸化を行った後に第1の陽極酸化とは異なる条件下での第2の陽極酸化を行うことにより、第1の陽極酸化で凹部の形成をある程度進行させた後に、第2の陽極酸化でさらに凹部の形成を進行させつつ第2貫通孔を形成することができる。これにより、第2表面側に複数の第2貫通孔が偏在した基板を得ることができ、上述したような効果を奏する試料支持体を得ることができる。
【0018】
第1の陽極酸化において、ベース基板を第1電解液に浸した状態でベース基板に第1電圧を印加し、第2の陽極酸化において、ベース基板を第1電解液とは異なる第2電解液に浸した状態でベース基板に第1電圧を印加してもよい。陽極酸化により形成される第1貫通孔の幅(孔径)は、印加電圧の大きさに依存する。従って、上記構成によれば、第1の陽極酸化及び第2の陽極酸化の両方において印加電圧(第1電圧)を一定にすることにより、第1貫通孔の幅を一定に保つことができる。
【0019】
第1の陽極酸化において、ベース基板を第1電解液に浸した状態でベース基板に第1電圧を印加し、第2の陽極酸化において、ベース基板を第1電解液とは異なる第2電解液に浸した状態でベース基板に第1電圧とは異なる第2電圧を印加してもよい。この場合、幅広い条件下において、より柔軟に電解液又は印加電圧を選択して、基板における第2表面側に複数の第2貫通孔を偏在させることができる。
【0020】
本開示の他の側面に係る試料支持体の製造方法は、試料のイオン化用の試料支持体の製造方法であって、ベース基板を用意する第1工程と、ベース基板を陽極酸化することにより、ベース基板の第1表面に複数の凹部が設けられた陽極酸化皮膜を形成する第2工程と、陽極酸化皮膜を剥離することにより、複数の凹部のそれぞれに対応して第1表面及び第1表面と対向する第2表面に開口する複数の第1貫通孔が形成された導電性を有する基板を得る第3工程と、を備え、第2工程において、隣り合う凹部同士の間に設けられた隔壁部に、隣り合う凹部同士を連通する複数の第2貫通孔を形成する。
【0021】
この試料支持体の製造方法によれば、導電層を設ける工程を省略することができると共に、上述した導電層を備える試料支持体と同様の効果を奏する試料支持体を製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、試料イオンの信号強度を向上させることができる試料支持体、及び試料支持体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、一実施形態に係る試料支持体の平面図である。
図2図2は、図1に示されるII-II線に沿っての試料支持体の断面図である。
図3図3は、図1に示される基板の厚さ方向から見た当該基板の拡大像を示す図である。
図4図4は、図1に示される基板の断面の拡大像を示す図である。
図5図5は、図1に示される基板の製造方法の手順を示す図である。
図6図6は、一実施形態に係る質量分析方法の手順を示す図である。
図7図7は、一実施形態に係る質量分析方法の手順を示す図である。
図8図8は、一実施形態に係る質量分析方法の手順を示す図である。
図9図9は、変形例に係る試料支持体の断面図である。
図10図10は、図9に示される基板の製造方法の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面に示される各部材(又は部位)の寸法又は寸法の比率は、説明をわかり易くするために、実際の寸法又は寸法の比率とは異なることがある。
【0025】
[試料支持体の構成]
図1及び図2に示されるように、試料支持体1は、基板2と、フレーム3と、導電層4と、を備えている。試料支持体1は、試料のイオン化用の試料支持体である。試料支持体1は、例えば質量分析を行う際に、測定対象の試料の成分をイオン化するために用いられる。基板2は、互いに対向する第1表面2a及び第2表面2bを有している。基板2には、複数の第1貫通孔2cが一様に(均一な分布で)形成されている。各第1貫通孔2cは、基板2の厚さ方向(第1表面2a及び第2表面2bに垂直な方向)に沿って延在しており、第1表面2a及び第2表面2bに開口している。隣り合う第1貫通孔2c同士の間に設けられた隔壁部2d(基板2の一部)には、複数の第2貫通孔2eが形成されている。第2貫通孔2eは、隣り合う第1貫通孔2c同士を連通する。第2貫通孔2eは、第1表面2aから第2表面2bに亘って形成されている。
【0026】
基板2は、例えば、絶縁性材料によって長方形板状に形成されている。基板2の厚さ方向から見た場合における基板2の一辺の長さは、例えば数cm程度であり、基板2の厚さは、例えば1μm~50μm程度である。基板2の厚さ方向から見た場合における第1貫通孔2cの形状は、例えば略円形である。第1貫通孔2cの幅は、1nm~700nmである。第1貫通孔2cの幅とは、基板2の厚さ方向から見た場合における第1貫通孔2cの形状が略円形である場合には、第1貫通孔2cの直径を意味し、当該形状が略円形以外である場合には、第1貫通孔2cに収まる仮想的な最大円柱の直径(有効径)を意味する。各第1貫通孔2c間のピッチは、1nm~1000nmである。各第1貫通孔2c間のピッチとは、基板2の厚さ方向から見た場合における第1貫通孔2cの形状が略円形である場合には、当該各円の中心間距離を意味し、当該形状が略円形以外である場合には、第1貫通孔2cに収まる仮想的な最大円柱の中心軸間距離を意味する。
【0027】
第2貫通孔2eの断面形状は、例えば略円形である。つまり、第2貫通孔2eは、例えば円筒状を呈している。第2貫通孔2eの幅は、第1貫通孔2cの幅よりも小さい。例えば、第2貫通孔2eの幅は、1nm~350nmである。第2貫通孔2eの幅とは、第2貫通孔2eの断面形状が略円形である場合には、第2貫通孔2eの直径を意味し、当該形状が略円形以外である場合には、第2貫通孔2eに収まる仮想的な最大円柱の直径(有効径)を意味する。各第2貫通孔2e間のピッチは、各第1貫通孔2c間のピッチよりも小さい。各第2貫通孔2e間のピッチは、1nm~1000nmである。各第2貫通孔2e間のピッチとは、第2貫通孔2eの形状が略円形である場合には、当該各円の中心間距離を意味し、当該形状が略円形以外である場合には、第2貫通孔2eに収まる仮想的な最大円柱の中心軸間距離を意味する。
【0028】
フレーム3は、基板2の第1表面2aに設けられている。具体的には、フレーム3は、接着層5によって基板2の第1表面2aに固定されている。接着層5の材料としては、放出ガスの少ない接着材料(例えば、低融点ガラス、真空用接着剤等)が用いられることが好ましい。フレーム3は、基板2の厚さ方向から見た場合に基板2と略同一の外形を有している。フレーム3には、開口3aが形成されている。基板2のうち開口3aに対応する部分は、後述する試料の成分を第1表面2a側に移動させるための実効領域Rとして機能する。
【0029】
フレーム3は、例えば、絶縁性材料によって長方形板状に形成されている。基板2の厚さ方向から見た場合におけるフレーム3の一辺の長さは、例えば数cm程度であり、フレーム3の厚さは、例えば1mm以下である。基板2の厚さ方向から見た場合における開口3aの形状は、例えば円形であり、その場合における開口3aの直径は、例えば数mm~数十mm程度である。このようなフレーム3によって、試料支持体1のハンドリングが容易化すると共に、温度変化等に起因する基板2の変形が抑制される。
【0030】
導電層4は、基板2の第1表面2aに設けられている。具体的には、導電層4は、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口3aに対応する領域(すなわち、実効領域Rに対応する領域)、開口3aの内面、及びフレーム3における基板2とは反対側の表面3bに一続きに(一体的に)形成されている。導電層4は、実効領域Rにおいて、第1表面2aにおける第1貫通孔2cの周縁部に設けられている。すなわち、導電層4は、実効領域Rにおいて、基板2の第1表面2aのうち第1貫通孔2cが形成されていない部分を覆っている。つまり、実効領域Rにおいては、各第1貫通孔2cが開口3aに露出している。
【0031】
導電層4は、導電性材料によって形成されている。ただし、導電層4の材料としては、以下に述べる理由により、試料との親和性(反応性)が低く且つ導電性が高い金属が用いられることが好ましい。
【0032】
例えば、タンパク質等の試料と親和性が高いCu(銅)等の金属によって導電層4が形成されていると、後述する試料のイオン化の過程において、試料分子にCu原子が付着した状態で試料がイオン化され、Cu原子が付着した分だけ、後述する質量分析法において検出結果がずれるおそれがある。したがって、導電層4の材料としては、試料との親和性が低い金属が用いられることが好ましい。
【0033】
一方、導電性の高い金属ほど一定の電圧を容易に且つ安定して印加し易くなる。そのため、導電性が高い金属によって導電層4が形成されていると、実効領域Rにおいて基板2の第1表面2aに均一に電圧を印加することが可能となる。また、導電性の高い金属ほど熱伝導性も高い傾向にある。そのため、導電性が高い金属によって導電層4が形成されていると、基板2に照射されたレーザ光等のエネルギー線のエネルギーを、導電層4を介して試料に効率的に伝えることが可能となる。したがって、導電層4の材料としては、導電性の高い金属が用いられることが好ましい。
【0034】
以上の観点から、導電層4の材料としては、例えば、Au(金)、Pt(白金)等が用いられることが好ましい。導電層4は、例えば、メッキ法、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)、蒸着法、スパッタ法等によって、厚さ1nm~350nm程度に形成される。なお、導電層4の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)等が用いられてもよい。
【0035】
図3は、基板2の厚さ方向から見た場合における基板2の拡大像を示す図である。図3において、黒色の部分は第1貫通孔2cであり、白色の部分は第1貫通孔2c間の隔壁部2dである。図3に示されるように、基板2には、略一定の幅を有する複数の第1貫通孔2cが一様に形成されている。実効領域Rにおける第1貫通孔2cの開口率(基板2の厚さ方向から見た場合に実効領域Rに対して全ての第1貫通孔2cが占める割合)は、実用上は10~80%であり、特に60~80%であることが好ましい。複数の第1貫通孔2cの大きさは互いに不揃いであってもよいし、部分的に複数の第1貫通孔2c同士が互いに連結していてもよい。
【0036】
図4は、基板2の断面の拡大像を示す図である。図4に示されるように、第1貫通孔2c間の隔壁部2d(白色に近い色の部分等)には、複数の第2貫通孔2e(黒色の小さい孔)が形成されている。第1貫通孔2c間の隔壁部2dにおける第2貫通孔2eの開口率(隔壁部2dに直交する方向から見た場合に隔壁部2dに対して全ての第2貫通孔2eが占める割合)は、実用上は10~80%であり、特に40~60%であることが好ましい。上記開口率は、例えば電子顕微鏡によって測定される場合の値である。複数の第2貫通孔2eの大きさは互いに不揃いであってもよいし、部分的に複数の第2貫通孔2e同士が互いに連結していてもよい。
【0037】
[試料支持体の製造方法]
次に、図2及び図5を参照して、試料支持体1の製造方法について説明する。まず、図5の(a)に示されるように、ベース基板50が用意される(第1工程)。ベース基板50の材料は、例えば、純度が99.9%(3N)以上のAl(アルミニウム)である。続いて、図5の(b)に示されるように、ベース基板50を陽極酸化することにより、ベース基板50の第1表面50aに複数の凹部51aが設けられた陽極酸化皮膜(アルミナポーラス皮膜)51が形成される(第2工程)。具体的には、まず、ベース基板50が電解液に浸される。ここで、陽極酸化によって上述した第2貫通孔2eが形成されるか否かは、陽極酸化に用いられる電解液の種類又は処理電圧(印加電圧)の大きさ(或いはこれらの組み合わせ)に応じて決定される。そこで、第2工程においては、後述する貫通孔51c(第2貫通孔2eになる予定の貫通孔)を形成することが可能な電解液が用いられる。このような電解液としては、例えば、リン酸、酒石酸、エチドロン酸、クエン酸等が挙げられる。本実施形態では一例として、電解液としてリン酸が用いられる。
【0038】
続いて、ベース基板50に所定の大きさの電圧が印加される。印加電圧の大きさは、使用される電解液に応じて決定される。電解液としてリン酸が用いられる場合には、印加電圧の大きさは、リン酸に適した電圧(ボルト)の範囲(例えば50V~200V)から選択され得る。ベース基板50は、電解液(ここではリン酸)に浸された状態で上記電圧の範囲に含まれる所定の大きさの電圧が印加されると、第1表面50aに、陽極酸化皮膜51が形成される。この際、隣り合う凹部51a同士の間に設けられた隔壁部51b(陽極酸化皮膜51の一部)に、当該隣り合う凹部51a同士を連通する複数の貫通孔51cが形成される。
【0039】
続いて、図5の(c)に示されるように、陽極酸化皮膜51をベース基板50から剥離することにより、陽極酸化皮膜52が得られる(第3工程)。この際、陽極酸化皮膜52には、複数の凹部51aのそれぞれに対応して、第1表面50a及び第1表面50aと対向する第2表面52bに開口する複数の貫通孔52aが形成される。この陽極酸化皮膜52が、基板2に相当する。なお、上述した陽極酸化皮膜52に対して、貫通孔52a及び貫通孔51cを拡幅するための公知のポアワイドニング処理が実施されてもよい。この場合、ポアワイドニング処理が実施された後の陽極酸化皮膜52が、基板2に相当する。陽極酸化皮膜52の貫通孔52a(ポアワイドニング処理が実施される場合には、拡幅後の貫通孔52a)は、基板2の第1貫通孔2cに相当する。陽極酸化皮膜52の貫通孔51c(ポアワイドニング処理が実施される場合には、拡幅後の貫通孔51c)は、基板2の第2貫通孔2eに相当する。なお、基板2は、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Zn(亜鉛)、W(タングステン)、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)等のAl以外のバルブ金属を陽極酸化することにより形成されてもよいし、Si(シリコン)を陽極酸化することにより形成されてもよい。すなわち、これらのバルブ金属又はシリコンが、ベース基板50として用いられてもよい。
【0040】
続いて、接着層5によってフレーム3が基板2の第1表面2aに固定される(図2参照)。続いて、基板2の第1表面2aにおける第1貫通孔2cの周縁部に、導電層4が設けられる(第4工程)。具体的には、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口3aに対応する領域、開口3aの内面、及びフレーム3における基板2とは反対側の表面3bに、導電層4が形成される。導電層4は、第1貫通孔2cを塞がない程度に形成される。以上により、試料支持体1が製造される。
【0041】
[試料のイオン化方法]
次に、図6図8を参照して、試料支持体1を用いた試料のイオン化方法について説明する。ここでは一例として、レーザ光(エネルギー線)を用いたレーザ脱離イオン化法(質量分析装置10による質量分析方法の一部)について説明する。図6図8においては、試料支持体1における第1貫通孔2c、第2貫通孔2e、導電層4及び接着層5の図示が省略されている。また、図1及び図2に示される試料支持体1と図6図8に示される試料支持体1とでは、図示の便宜上、寸法の比率等が異なっている。
【0042】
まず、上述した試料支持体1が用意される。試料支持体1は、イオン化法及び質量分析方法を実施する者によって製造されることで用意されてもよいし、試料支持体1の製造者又は販売者等から取得されることで用意されてもよい。
【0043】
続いて、図6の(a)に示されるように、質量分析対象となる試料Sが、スライドグラス(載置部)6の載置面6aに載置される。スライドグラス6は、ITO(Indium Tin Oxide)膜等の透明導電膜が形成されたガラス基板であり、透明導電膜の表面が載置面6aとなっている。なお、スライドグラス6に限定されず、導電性を確保し得る部材(例えば、ステンレス等の金属材料等からなる基板等)を載置部として用いることができる。
【0044】
続いて、図6の(b)に示されるように、試料Sに第2表面2bが接触するように、試料S上に試料支持体1が配置される。このとき、試料Sは、基板2の厚さ方向から見た場合に実効領域R内に配置される。ここで、試料Sは、例えば生体試料(含水試料)である。試料Sの成分S1(図7参照)の移動をスムーズにするために、成分S1の粘性を低くするための溶液(例えばアセトニトリル混合液、アセトン等)が、試料Sに添加されてもよい。
【0045】
続いて、図7の(a)に示されるように、試料Sに基板2の第2表面2bが接触させられた状態で、スライドグラス6に対して試料支持体1が固定される。試料支持体1は、導電性を有するテープ7(例えば、カーボンテープ等)によって、スライドグラス6に対して固定される。具体的には、テープ7は、フレーム3の表面3b上の導電層4に接触し、且つ、スライドグラス6の載置面6aに接触することにより、試料支持体1をスライドグラス6に対して固定する。テープ7は、試料支持体1の一部であってもよいし、試料支持体1とは別に用意されてもよい。テープ7が試料支持体1の一部である場合(すなわち、試料支持体1がテープ7を備える場合)には、例えば、テープ7は、予め、基板2の周縁部において第1表面2a側に固定されていてもよい。より具体的には、テープ7は、フレーム3の表面3b上に形成された導電層4上に固定されていてもよい。
【0046】
図7の(b)に示されるように、試料Sの成分S1は、毛細管現象によって、試料支持体1の第2表面2b側から各第1貫通孔2c(図2参照)を介して第1表面2a側に向かって移動する。この際、一の第1貫通孔2c内を移動する成分S1の一部は、第2貫通孔2eを介して、当該一の第1貫通孔2cと隣り合う他の第1貫通孔2cに移動する(回り込む)ことができる。基板2の第1表面2a側に移動した成分S1は、表面張力によって第1表面2a側に留まる。
【0047】
続いて、図8に示されるように、スライドグラス6と試料支持体1との間に試料Sが配置された状態で、スライドグラス6、試料支持体1及び試料Sが、質量分析装置10の支持部12(例えば、ステージ)上に載置される。続いて、質量分析装置10の電圧印加部14によって、スライドグラス6の載置面6a及びテープ7を介して試料支持体1の導電層4(図2参照)に電圧が印加される。
【0048】
続いて、質量分析装置10のレーザ光照射部13によって、フレーム3の開口3aを介して、基板2の第1表面2aに対してレーザ光Lが照射される。つまり、レーザ光Lは、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口3aに対応する領域(すなわち、実効領域Rに対応する領域)に対して照射される。ここでは、レーザ光照射部13は、実効領域Rに対応する領域に対してレーザ光Lを走査する。なお、実効領域Rに対応する領域に対するレーザ光Lの走査は、支持部12及びレーザ光照射部13の少なくとも1つが動作させられることにより、実施可能である。
【0049】
このように、導電層4に電圧が印加されつつ基板2の第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されることにより、基板2の第1表面2a側に移動した成分S1がイオン化され、試料イオンS2(イオン化された成分S1)が放出される。具体的には、レーザ光Lのエネルギーを吸収した導電層4(図2参照)から、基板2の第1表面2a側に移動した成分S1にエネルギーが伝達され、エネルギーを獲得した成分S1が気化すると共に電荷を獲得して、試料イオンS2となる。以上の各工程が、試料支持体1を用いた試料Sのイオン化方法(ここでは一例として、質量分析方法の一部としてのレーザ脱離イオン化法)に相当する。
【0050】
放出された試料イオンS2は、試料支持体1とイオン検出部15との間に設けられたグランド電極(図示省略)に向かって加速しながら移動する。つまり、試料イオンS2は、電圧が印加された導電層4とグランド電極との間に生じた電位差によって、グランド電極に向かって加速しながら移動する。そして、質量分析装置10のイオン検出部15によって試料イオンS2が検出される。ここでは、イオン検出部15は、レーザ光Lの走査位置に対応するように、試料イオンS2を検出する。なお、ここでの質量分析装置10は、飛行時間型質量分析法(TOF-MS:Time-of-Flight Mass Spectrometry)を利用する質量分析装置である。以上の各工程が、試料支持体1を用いた質量分析方法に相当する。
【0051】
以上説明したように、試料支持体1は、互いに対向する第1表面2a及び第2表面2bに開口する複数の第1貫通孔2cが形成された基板2を備える。これにより、例えば生体試料等の試料S上に、第2表面2bが試料Sに対向するように試料支持体1を配置した場合に、毛細管現象を利用して、基板2の第2表面2b側から第1貫通孔2cを介して第1表面2a側に向けて試料Sの成分S1を移動させることができる。さらに例えばレーザ光Lを基板2の第1表面2aに対して照射した場合に、第1表面2a側に移動した試料Sの成分S1に導電層4を介してエネルギーが伝達されることにより、試料Sの成分S1をイオン化することができる。しかも、試料支持体1では、隣り合う第1貫通孔2c同士の間に設けられた隔壁部2dには、隣り合う第1貫通孔2c同士を連通する複数の第2貫通孔2eが形成されている。これにより、第2表面2b側から第1貫通孔2cを介して第1表面2a側に向かって移動する試料Sの成分S1を、第2貫通孔2eを介して当該第1貫通孔2cと隣り合う他の第1貫通孔2cにも移動させることができる。これにより、第2表面2b側から第1表面2a側に吸い上げられる試料Sの成分S1の回り込み(他の第1貫通孔2cを介した移動)が可能となる。その結果、第2表面2b側から第1表面2a側への試料Sの成分S1の移動を促進させることができる。従って、試料支持体1によれば、質量分析において信号強度(感度)を向上させることができる。
【0052】
第2貫通孔2eの幅は、第1貫通孔2cの幅よりも小さい。これにより、第2貫通孔2eの幅が第1貫通孔2cの幅以上である場合に比べて、基板2の強度を確保することができる。
【0053】
基板2は、バルブ金属又はシリコンを陽極酸化することにより形成されていている。このため、バルブ金属又はシリコンの陽極酸化によって得られた基板2により、毛細管現象による試料Sの成分S1の移動を適切に実現することができる。
【0054】
第1貫通孔2cの幅は、1nm~700nmであり、第2貫通孔2eの幅は、1nm~350nmである。これにより、上述した毛細管現象による試料Sの成分S1の移動、及び試料Sの成分S1の回り込みを適切に実現することができる。
【0055】
導電層4の材料は、白金又は金である。このため、導電層4に一定の電圧を容易に且つ安定して付与することができる。
【0056】
上述した試料支持体1の製造方法によれば、ベース基板50の陽極酸化により複数の第1貫通孔2c及び複数の第2貫通孔2eを備えた基板2を容易に得ることができる。その結果、上述した試料支持体1を容易に製造することができる。
【0057】
[変形例]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0058】
図9は、変形例に係る試料支持体の断面図である。図9に示されるように、変形例の試料支持体1Aは、基板2Aを備えている点で試料支持体1と相違する。基板2Aにおいては、複数の第2貫通孔2eが、基板2Aにおける第2表面2b側に偏在していている。偏在とは、基板2Aにおける第1表面2a側よりも第2表面2b側に、第2貫通孔2eがより多く形成されていることを意味する。例えば、基板2Aの厚さ方向における基板2Aの中央部に対して第1表面2a側の領域よりも、当該中央部に対して第2表面2b側の領域に、より多くの第2貫通孔2eが形成されている。なお、上記中央部に対して第1表面2a側の領域には、第2貫通孔2eが形成されていなくてもよい。このような構成によれば、例えば上述したように第2表面2bを試料に対向させた場合において、第2表面2b側に偏在する複数の第2貫通孔2eにより、試料Sの成分S1の回り込みを適切に実現できる。さらに、基板2Aにおいて第2貫通孔2eが存在しない(或いは第2表面2b側と比較して少ない)第1表面2a側の部分により、基板2Aの強度を確保することができる。従って、上記試料支持体1Aによれば、試料Sの成分S1の回り込みによる試料イオンS2の信号強度の向上を図ると共に、基板2Aの強度の向上を図ることができる。
【0059】
次に、試料支持体1Aの製造方法について説明する。試料支持体1Aの製造方法は、基板2Aの製造方法が異なる点で試料支持体1の製造方法と相違する。ここでは、基板2Aの製造方法について説明し、その他の説明については省略する。まず、基板2の製造方法と同様に、図10の(a)に示されるように、ベース基板50が用意される(第1工程)。続いて、ベース基板50に対して、第1の陽極酸化と第1の陽極酸化とは異なる条件下での陽極酸化である第2の陽極酸化とが段階的に実施される。具体的には、第1の陽極酸化により、複数の凹部51a(第1貫通孔2cになる予定の部分)の形成が進行させられた後、第2の陽極酸化により、複数の凹部51aの形成がさらに進行させられると共に複数の貫通孔51c(第2貫通孔2eになる予定の貫通孔)が形成される(第2工程)。
【0060】
具体的には、まず、図10の(b)に示されるように、第1の陽極酸化により、複数の凹部51aの形成が進行させられる。第1の陽極酸化においては、ベース基板50が第1電解液に浸された状態で、ベース基板50に第1電圧が印加される。第1電解液及び第1電圧の組み合わせは、隣り合う凹部51a同士を連通する横孔(すなわち貫通孔51c)が形成されないように凹部51aの形成を進行させることが可能な組み合わせのうちから選択される。第1電解液としては、例えば、硫酸、シュウ酸、マロン酸等が挙げられる。変形例では一例として、第1電解液としてマロン酸が用いられる。第1電圧は、マロン酸を用いた陽極酸化に適した電圧(ボルト)の範囲(例えば30V~150V)から選択され得る。図10の(b)に示されるように、ベース基板50が第1電解液に浸された状態で、ベース基板50に第1電圧が印加されると、第1表面50aに複数の凹部51aが設けられた陽極酸化皮膜51Aが形成される。
【0061】
続いて、図10の(c)に示されるように、第2の陽極酸化により、複数の凹部51aの形成がさらに進行させられると共に、複数の貫通孔51cが形成される。以下、第2の陽極酸化の2つの例について説明する。
【0062】
[第1の例]
第1の例の第2の陽極酸化においては、ベース基板50が第1電解液とは異なる第2電解液に浸された状態で、ベース基板50に第1電圧が印加される。第2電解液は、基板2の製造方法において用いられる電解液と同様である。すなわち、第2電解液としては、後述する貫通孔51c(第2貫通孔2eになる予定の貫通孔)を形成することが可能な電解液が用いられる。第2電解液としては、例えば、リン酸、酒石酸、エチドロン酸、クエン酸等が挙げられる。第1の例では一例として、第2電解液としてリン酸が用いられる。
【0063】
第1電圧は、例えば、マロン酸を用いた陽極酸化、及び、リン酸を用いた陽極酸化に適した電圧に設定される。ここで、マロン酸を用いた陽極酸化に適した電圧の範囲(例えば30V~150V)、及び、リン酸を用いた陽極酸化に適した電圧の範囲(例えば50V~200V)には、重複範囲(ここでは50V~150V)が存在する。つまり、第1電圧の大きさは、当該重複範囲から選択され得る。例えば、第1電圧は100Vである。ベース基板50は、第2電解液に浸された状態で第1電圧が印加されると、複数の凹部51aの形成がさらに進行させられる。この際、隣り合う凹部51aの第2陽極酸化によって形成された部分同士の間に設けられた隔壁部51b(陽極酸化皮膜51Aの一部)の部分に、当該隣り合う凹部51a同士を連通する複数の貫通孔51cが形成される。
【0064】
続いて、基板2の製造方法と同様に、図10の(d)に示されるように、陽極酸化皮膜51Aをベース基板50から剥離することにより、陽極酸化皮膜52Aが得られる(第3工程)。この際、陽極酸化皮膜52Aには、複数の凹部51aのそれぞれに対応して、第1表面50a及び第1表面50aと対向する第2表面52bに開口する複数の貫通孔52aが形成される。この陽極酸化皮膜52Aが、基板2Aに相当する。なお、上述した陽極酸化皮膜52Aに対して、貫通孔52a及び貫通孔51cを拡幅するための公知のポアワイドニング処理が実施されてもよい。この場合、ポアワイドニング処理が実施された後の陽極酸化皮膜52Aが、基板2Aに相当する。陽極酸化皮膜52Aの貫通孔52a(ポアワイドニング処理が実施される場合には、拡幅後の貫通孔52a)は、基板2Aの第1貫通孔2cに相当する。陽極酸化皮膜52Aの貫通孔51c(ポアワイドニング処理が実施される場合には、拡幅後の貫通孔51c)は、基板2Aの第2貫通孔2eに相当する。
【0065】
以上述べたように、試料支持体1Aの製造方法では、第2工程において、第1の陽極酸化が行われた後に第1の陽極酸化とは異なる条件下での第2の陽極酸化が行われることにより、第1の陽極酸化で凹部51aの形成がある程度進行させられた後に、第2の陽極酸化でさらに凹部51aの形成が進行させられつつ第2貫通孔2eが形成される。これにより、第2表面2b側に複数の第2貫通孔2eが偏在した基板2Aを得ることができ、上述したような効果を奏する試料支持体1Aを得ることができる。
【0066】
なお、陽極酸化により形成される第1貫通孔2cの幅(孔径)は、印加電圧の大きさに依存する。凹部51aの幅は、印加電圧に略正比例している。すなわち、例えば、ベース基板50に印加される電圧が増加すると、ベース基板50の第1表面50aに形成される凹部51aの幅も増加する。また、上述した通り、各電解液は、それぞれに適した電圧の範囲内で用いられる。
【0067】
第1の陽極酸化において、ベース基板50が第1電解液(上記例ではマロン酸)に浸された状態で、ベース基板50に第1電圧(上記例ではマロン酸に適した電圧範囲とリン酸に適した電圧範囲との重複範囲から選択された電圧)が印加され、第2の陽極酸化において、ベース基板50が第1電解液とは異なる第2電解液(上記例ではリン酸)に浸された状態でベース基板50に第1電圧が印加される。従って、上記構成によれば、第1の陽極酸化及び第2の陽極酸化の両方において印加電圧(第1電圧)を一定にすること(すなわち、用いられる電解液のみを変更すること)により、第1貫通孔2cの幅を一定に保つことができる。
【0068】
[第2の例]
第2の例の第2の陽極酸化においては、ベース基板50が第2電解液に浸された状態で、ベース基板50に第1電圧とは異なる第2電圧が印加される。第2の例では一例として、第2電解液として酒石酸が用いられる。第2電圧は、酒石酸を用いた陽極酸化に適した電圧の範囲(例えば100V~300V)から選択され得る。例えば、第2電圧は200Vである。ベース基板50は、第2電解液に浸された状態で第2電圧が印加されると、複数の凹部51aの形成がさらに進行させられる。この際、隣り合う凹部51aの第2陽極酸化によって形成された部分同士の間に設けられた隔壁部51bの部分に、当該隣り合う凹部51a同士を連通する複数の貫通孔51cが形成される。この構成によれば、幅広い条件下において、より柔軟に電解液又は印加電圧を選択して、基板2Aにおける第2表面2b側に複数の第2貫通孔2eを偏在させることができる。
【0069】
導電層4は、基板2,2Aの第2表面2b及び第1貫通孔2cの内面に設けられていなくてもよいし、基板2,2Aの第2表面2b及び第1貫通孔2cの内面に設けられていてもよい。つまり、導電層4は、少なくとも基板2,2Aの第1表面2aにおける第1貫通孔2cの周縁部に設けられていればよい。
【0070】
基板2,2Aは、導電性を有していてもよく、質量分析方法において基板2,2Aに電圧が印加されてもよい。基板2,2Aが導電性を有する場合には、試料支持体1,1Aにおいて導電層4を省略することができると共に、上述した導電層4を備える試料支持体1,1Aを用いる場合と同様の効果を得ることができる。
【0071】
ベース基板50の材料は、例えばCu、Fe(鉄)及びZn等の不純物が混入されることによって、純度が99.5%以下となっているAlであってもよい。この場合、Alの純度は、99.0%~99.5%であることが好ましい。上記不純物が混入されているAlが陽極酸化されると、電解研磨により不純物の周縁部に熱が生じる。複数の貫通孔51cは、この熱により、隔壁部51bにおける当該不純物が混入されている部位に形成される。従って、このような材料のベース基板50を用いる場合には、任意の電解液及び電圧の組み合わせでベース基板50の陽極酸化を行うことにより、複数の貫通孔51cが形成された基板2を得ることができる。
【0072】
第2貫通孔2eの幅は、第1貫通孔2cの幅以上であってもよい。各第2貫通孔2e間のピッチは、各第1貫通孔2c間のピッチ以上であってもよい。
【0073】
また、試料支持体1の用途は、レーザ光Lの照射による試料Sのイオン化に限定されない。試料支持体1は、レーザ光L以外のエネルギー線(例えば、イオンビーム、電子線等)の照射による試料Sのイオン化に用いられてもよい。
【0074】
試料支持体1は、テープ7以外の手段(例えば、接着剤、固定具等を用いる手段)で、スライドグラス6に対して固定されてもよい。また、質量分析方法においては、スライドグラス6の載置面6a及びテープ7を介さずに導電層4に電圧が印加されてもよい。その場合、スライドグラス6及びテープ7は、導電性を有していなくてもよい。
【0075】
上述した試料のイオン化方法は、試料Sを構成する分子の質量分析だけでなく、イオンモビリティ測定等の他の測定・実験にも利用することができる。
【0076】
基板2の厚さ方向から見た場合におけるフレーム3の開口3aは、様々な形状を呈していてもよい。フレーム3の開口3aの形状は、例えば矩形であってもよい。
【0077】
試料Sは、乾燥試料であってもよい。この場合、試料Sの成分S1を毛細管現象によって基板2の第2表面2b側から第1表面2a側に移動させるために、試料Sには例えば溶媒(例えばアセトニトリル混合液、アセトン等)が添加されてもよい。
【0078】
質量分析方法において、試料Sは、直接質量分析装置10の支持部12に載置されてもよい。この際、質量分析装置10の支持部12がスライドグラス6に相当する。
【符号の説明】
【0079】
1,1A…試料支持体、2,2A…基板、2a,50a…第1表面、2b,52b…第2表面、2c,52a…第1貫通孔、2d…隔壁部、2e,51c…第2貫通孔、4…導電層、50…ベース基板、51,51A,52,52A…陽極酸化皮膜、51a…凹部、S…試料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10