(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】腐食及びスケールを抑制するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/173 20060101AFI20221213BHJP
C02F 5/00 20060101ALI20221213BHJP
C02F 5/10 20060101ALI20221213BHJP
C02F 5/12 20060101ALI20221213BHJP
C02F 5/14 20060101ALI20221213BHJP
C02F 1/50 20060101ALI20221213BHJP
C23F 11/167 20060101ALI20221213BHJP
C23F 14/02 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C23F11/173
C02F5/00 610F
C02F5/10 610A
C02F5/10 620
C02F5/10 620A
C02F5/10 620B
C02F5/10 620C
C02F5/10 620D
C02F5/00 620B
C02F5/12
C02F5/14 B
C02F1/50 510A
C02F1/50 520K
C02F1/50 531L
C02F1/50 531M
C23F11/167
C23F14/02 A
(21)【出願番号】P 2019572071
(86)(22)【出願日】2018-06-04
(86)【国際出願番号】 US2018035861
(87)【国際公開番号】W WO2019005429
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-05-24
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506041682
【氏名又は名称】エヌシーエイチ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】NCH CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドリューニアク,マルタ
(72)【発明者】
【氏名】ステイメル,ライル エイチ.
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102838216(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106315880(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0118103(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00- 17/00
C02F 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-2.5乃至3である水LSI値の範囲にわたってスケールを抑制するために水を有する水システムを処理する方法であって、
アミノ酸系ポリマー又はその水溶性塩と、ヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩と、第2のホスホン酸又はその水溶性塩とを水システムの水に加える工程を含んでおり、
前記加える工程は、2ppm~50ppmのアミノ酸系ポリマー又はその水溶性塩の有効濃度と、2ppm~50ppmのヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩の有効濃度と、1.5ppm~20ppmの第2のホスホン酸又はその水溶性塩の有効濃度とを、水システムの水にもたらしてスケールを抑制し、
亜鉛又はモリブデンが、或いは亜鉛及びモリブデンを含む化合物が、水システムの水に加えられ
ず、
1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸が冷却システムの水に加えられず、
水システムは冷却システムである、
方法。
【請求項2】
第2のホスホン酸は、HEDP、PBTC、又はそれらの両方であって、水のLSIは、前記加える工程の前で0.2~0.3であり、
スケールを形成させることなく、前記加える工程後の水のLSIを前記加える工程の前のLSIよりも増加させることを更に含
んでおり、
アクリル酸-アクリル酸メチル-無水マレイン酸共重合体が冷却システムの水に加えられない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
-2.5乃至3である水LSI値の範囲にわたって腐食を抑制する工程を更に含んでおり、
前記加える工程は、
(1)水システムの水の量において、3ppm~50ppmのアミノ酸系ポリマー又はその水溶性塩の有効濃度と、2ppm~20ppmのヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩の有効濃度と、1.5ppm~10ppmのホスホノカルボン酸又はその水溶性塩の有効濃度とをもたらしてスケールを抑制する、或いは、
(2)アミノ酸系ポリマー又はその水溶性塩の3ppm~50ppmの有効濃度と、ヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩の3ppm~50ppmの有効濃度と、2ppm~20ppmの第2ホスホン酸又はその水溶性塩の有効濃度とをもたらして腐食を抑制する、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記加える工程は、アミノ酸系ポリマーとして少なくとも5.2ppmのポリアスパラギン酸又はその水溶性塩の有効濃度と、少なくとも5.0ppmのヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩の有効濃度と、第2のホスホン酸として少なくとも1.5ppmのHEDP又はその水溶性塩の有効濃度、或いは、第2のホスホン酸として少なくとも3.4ppmのPBCT又はその水溶性塩の有効濃度とをもたらす、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記加える工程は、水システムにおいて少なくとも6.5ppmであるアミノ酸系ポリマー又はその水溶性塩、ヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩、及び第2ホスホン酸又はその水溶性塩の総有効濃度をもたらす、請求項1乃至4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
アミノ酸系ポリマーがポリアスパラギン酸又はポリアスパラギン酸の水溶性塩である、請求項1乃至5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
アミノ酸系ポリマー又はその水溶性塩、ヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩、第2ホスホン酸又はその水溶性塩、及びトレーサが、前記加える工程の前に処理用組成物中で組み合わされ、
トレーサの測定に基づいて、水システムの処理用組成物の量を定期的に測定する工程を含む、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項8】
必要に応じて追加の処理用組成物を加えて、少なくとも2ppmのアミノ酸系ポリマー又はその水溶性塩の有効濃度と、少なくとも2ppmのヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩の有効濃度とを維持する工程を更に含んでおり、ここで、これらの濃度は、水システムの水に加えられたときのものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水システムの水は殺生物剤を含む、請求項1乃至8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
水システムの水は7を超えるpHを有する、請求項1乃至9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
前記加える工程前のLSI値は、0.2乃至3.0であり、
前記加える工程前のLSIと比較して、スケール形成なしで前記加える工程後の水のLSIを増加させる工程を更に含む、請求項1乃至10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
第2のホスホン酸はHEDP又はその水溶性塩であり、アミノ酸系ポリマーはポリアスパラギン酸又はその水溶性塩であ
り、
水システムの水にスズが加えられない、請求項1乃至11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
水システムの水にスズが加えられない、請求項1乃至
11の何れかに記載の方法。
【請求項14】
第2のホスホン酸は、HEDP、PBTC、又はそれらの両方であって、水のLSIは0.2より小さい、請求項3に記載の方法。
【請求項15】
水システムは再循環水システムである、請求項1乃至14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
前記加える工程は、2.6~5.2ppmのアミノ酸系ポリマー又はその水溶性塩の有効濃度と、2.5~5.0ppmのヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩の有効濃度と、3.2~8.5のppmの第2ホスホン酸又はその水溶性塩の活性濃度をもたらし、
第2のホスホン酸は、PBTC又はその水溶性塩、或いは、HEDP又はその水溶性塩であり、
(1)前記加える工程後のLSI値は、スケールが形成されることなく前記加える工程のLSI値と比較して少なくとも1増加する、及び/又は、(2)水システムが再循環水システムであって、濃縮サイクルは、スケールが形成されることなく前記加える工程後4を超えて増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
冷却システムは冷却塔
である、請求項1乃至16の何れかに記載の方法。
【請求項18】
スケールを抑制するために、水システムの水の量におけるアミノ酸系ポリマー又はその水溶性塩と、ヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩と、第2のホスホン酸又はその水溶性塩の総有効濃度は、5.5ppm~13.6ppmであって、
第2のホスホン酸はHEDPである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、2017年6月27日出願の米国特許出願第15/634,416号の利益を主張する。
【0002】
<本発明の分野>
本発明は、LSI(ランゲリア飽和指数)が低い水システムにおける金属部品の腐食又は白さび(white rust)を抑制し、LSIが高い水システムにおけるスケール形成を抑制する処理用組成物及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0003】
水システム、例えば開放型再循環システム、閉ループ冷却システム又は閉ループ加熱システム、冷却塔、及びボイラー中の水溶液と接触がある金属部品での腐食、ミネラルスケール(mineral scale)及び白さびの発生を引き下げて、これらのシステムの金属部分の保護を補助するために、様々な水処理用組成物が用いられている。これらの水システムで典型的に用いられる金属としては、鉄を含む金属(亜鉛メッキ鋼が挙げられる)、アルミニウム及びその合金、銅及びその合金、鉛、並びにはんだが挙げられる。多くの既知の腐食抑制剤が、規制されている毒性金属、例えば亜鉛、クロム酸塩、及びモリブデン酸塩を含有する。これらは環境に有害であり、且つコストを増大させる。亜鉛は、一般的に、高腐食性(低LSI)の水を含む水システムにおいて、腐食抑制剤として用いられている。しかしながら、その使用は、毒性問題が原因で所望されず、一部の場所では規制を受けてしまう。亜鉛の無毒性代替物としてスズも用いられているが、より高価である。
【0004】
また、多くの既知の腐食抑制剤及びスケール腐食抑制剤の性能は、殺生物剤の使用により悪影響を受けてしまう。殺生物剤は、水システムにおいて、微生物の増殖を制御するのに頻繁に用いられている。米国特許第5,523,023号では、ポリアスパラギン酸及び単一のホスホン酸の使用が、ホスホン酸が2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)である場合において、殺生物剤の存在下でさえも、腐食及びスケールを抑制するのに有効であると開示されている。米国特許第5,523,023号においては、好ましいホスホン酸はPBTCであるが、他のホスホン酸(1-ヒドロキシエタン1,1-ジホスホン酸及びヒドロキシホスホノ酢酸(HPA)が挙げられる)もまた適していると言及されている。ポリアスパラギン酸及びPBTCの使用に基づいた、米国特許第5,523,023号に示されている腐食度の結果は、他の腐食抑制剤よりも良好であるが、特に殺生物剤の存在下での、より一層優れた腐食抑制が依然として必要とされている。ポリアスパラギン酸とPBTCの使用に基づいた米国特許第5,523,023号に示されているスケール形成結果は、PBTCのみを使用して得られた結果とほぼ同じであって、米国特許第5,523,023号の2成分配合では、スケール抑制が実際に改善されないことを示している。
【0005】
白さび防止に現在利用されている解決策として、炭酸亜鉛による金属表面の不動態化と、白さび発生の可能性を引き下げるような水化学の制御とが挙げられる。既知の処理として、無機リン酸塩、チオカルバメート、有機リン化合物、及びタンニンの使用が挙げられる。例えば、米国特許第5,407,597号及び米国特許第6,468,470号は、有機リン化合物(PBTCが挙げられる)、モリブデン、チタン、タングステン、又はバナジウムのアルカリ金属塩、及びカルバメート化合物又はタンニン化合物を含む組成物を開示している。米国特許第6,183,649号は、循環水システムを処理するための、PBTC、ポリアクリル酸ナトリウム、トリルトリアゾールナトリウム、モリブデン酸アルカリ金属、及び臭化アルカリ金属を含む白さび処理用組成物を開示している。米国特許第6,183,649号はまた、デシルチオエチルエーテルアミン(decyl thioethyletheramine)(DTEA)の1.5%水溶液を、25lb/1,000ガロンの水/週の割合にて循環水システムに加えてから、DTEAの付加後の10サイクルの再循環について、1サイクルあたり600ppmの割合にて白さび処理用組成物を加えることを開示している。
【0006】
互いに悪影響を与え得る別々の処理を必要とすることなく、水システムの腐食、白さび、及びスケールを抑制するために使用できる効果的なオールインワンの(all-in-one)処理用組成物及び処理方法が必要である。また、より環境に優しくて、殺生物剤と共に適切に実行できる効果的なオールインワンの処理が必要である。
【発明の概要】
【0007】
本発明の好ましい一実施形態によれば、向上した腐食抑制、白さび抑制及びスケール抑制組成物は、アミノ酸ベースのポリマー(AAP)、ヒドロキシホスホノ酢酸(HPA)又はその水溶性塩、及び別のホスホン酸又はその水溶性塩を含む。ヒドロキシホスホノ酢酸は、以下の一般構造を有する:
【0008】
【0009】
最も好ましくは、アミノ酸ベースのポリマーは、ポリアスパラギン酸又はその水溶性塩であるが、他の化合物、例えばポリグリシン酸、ポリグルタミン酸、及びそれらの塩が用いられてもよい。最も好ましくは、アミノ酸ベースのポリマーは、以下の式を有する:
【0010】
【0011】
式中、ポリアスパラギン酸については、R1=H、R2=OH、R3=COOHであり、そしてx=1である。最も好ましくは、他のホスホン酸は、ホスホノカルボン酸であり、又は任意の有機ホスホン酸塩が用いられてもよい。最も好ましくは、ホスホノカルボン酸は、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、2-ホスホノブテン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)、又はホスホノコハク酸である。好ましくは、抑制組成物中のAAPの、HPAに対する重量比は、90:10から10:90であり、組み合わせたAAP及びHPAの、他のホスホン酸に対する比率は、90:10から60:40の範囲である。より好ましくは、抑制組成物中のAAPの、HPAに対する重量比の範囲は、80:20から80:20であり、組み合わせたAAP及びHPAの、他のホスホン酸に対する比率は、80:20から70:30である。
【0012】
最も好ましくは、本発明の好ましい実施形態に従う組成物は全て、有機質であり、規制されている金属、例えば亜鉛、クロム酸塩、及びモリブデン酸塩を含有せず、その性能は、殺生物剤を加えても影響されない。最も好ましくは、本発明の好ましい実施形態に従う組成物は、スズを含有しない。
【0013】
HPA及びAAP(例えばポリアスパラギン酸)の両方を、別々に腐食抑制剤として用いることは、以前に知られていた。また、米国特許第5,523,023号において、AAPがホスホノカルボン酸と一緒に用いられて、腐食を抑制することができると開示されているが、AAP及びHPAを一緒に、別のホスホン酸、好ましくはホスホノカルボン酸又は有機ホスホン酸塩と共に用いて、腐食又はスケールを抑制することは以前に知られてはいなかった。
【0014】
処理されることとなる水システム中の水に加えられた場合、腐食を抑制するために本発明に従う好ましい組成物は、少なくとも3ppmの有効AAPと、少なくとも3ppmの有効HPAと、少なくとも2ppmの他のホスホン酸とをもたらす。より好ましくは、処理されることとなる水システム中の水に加えられた場合、好ましい組成物は、3ppm~50ppmのAAPと、3ppm~50ppmのHPAと、2ppm~20ppmの他のホスホン酸とを、最も好ましくは5ppm~30ppmのAAPと、3ppm~20ppmのHPAと、2ppm~10ppmの他のホスホン酸とをもたらす。加えて、好ましい組成物の3つの成分の組合せ全体は、処理されることとなる水に加えられた場合、少なくとも8ppmの有効腐食抑制剤をもたらす。これらの成分は、毒性金属の使用を必要としなく、そして殺生物剤によって悪影響を受けることなく、低LSI水システム(LSI<-0.5)における腐食抑制の向上という予想外の相乗効果を有する。
【0015】
低LSI水での鉄金属腐食抑制に及ぼす抑制組成物の予想外の相乗効果に加えて、同組成物はまた、亜鉛メッキ鋼での白さびの発生を妨げるプラスの効果を有する。亜鉛メッキ鋼は、鋼基板に融合した亜鉛の薄いコーティングからなる。白さびは、通常、膨大な白色の沈着として現れる、亜鉛への急速で局所的な腐食侵食である。この急速な腐食は、局所的な領域において亜鉛を完全に除去する虞があり、結果として装置寿命が短縮する。白さびの形成は、水のアルカリ度の増加に伴って増加する傾向がある。ヒドロキシホスホノ酢酸もアミノ酸ベースのポリマー(例えばポリアスパラギン酸)も、単独でも組み合わせても、市販の製品について白さび防止のために以前に利用されていない。理論によって拘束されるものではないが、本発明に従う組成物は、亜鉛メッキ鋼の表面に保護層を形成して、白さびの発生を引き下げているかもしれないと考えられる。本発明に従って白さびを処理するために、ヒドロキシホスホノ酢酸、アミノ酸ベースのポリマー、及び別のホスホン酸を、先で示した量で用いて腐食を抑制するのが好ましい(重量比及び濃度は両方とも、処理されることとなる水システム中の水に加えた場合のものである)。また、ヒドロキシホスホノ酢酸も他のホスホン酸も伴わないアミノ酸ベースのポリマーの使用が、白さびを抑制するのに有益であることも見出された。別の好ましい実施形態によれば、白さびを処理するための組成物は、アミノ酸ベースのポリマー及びヒドロキシホスホノ酢酸を、別のホスホン酸を伴わずに含む。更に別の好ましい実施形態によれば、白さびを処理するための組成物は、アミノ酸ベースのポリマーを、ヒドロキシホスホノ酢酸を少しも伴わずに含む。白さびについて処理される水にこれらの成分を添加した場合における好ましい濃度及び範囲は、腐食を抑制する場合と同じである。
【0016】
低LSI水での白さび及び鉄金属腐食抑制に関する抑制組成物の予想を超えた相乗的な効果に加えて、同組成物は、高LSI水(LSI>1)におけるミネラルスケールの形成を防止する確かな効果もある。ミネラルスケールには、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、及びシリカが含まれる。温度が上昇すると炭酸カルシウムとリン酸カルシウムの溶解度が低下することから、冷却塔などの高温の水システムでは、炭酸カルシウムとリン酸カルシウムがより問題になる。LSIは、次の式で決定される。
【0017】
LSI=pH-pH。pHは、CaCO3の飽和点でのpHである。
【0018】
LSI>0はスケーリングを示す。スケールが形成可能であって、CaCO3の沈殿が発生し得るからである。LSI≦0はスケーリングしないことを示す。スケールが生じる可能性がなく、水がCaCO3を溶解するからである。当業者によって理解されるように、LSIは駆動力の指標であって、水の特性、温度、水システムの動作に依存するであろう、スケール形成の厳密な定量的指標ではない。しかしながら、スケール抑制剤なしでは、スケールは通常、LSIが0.2を超えると水から沈殿する。本発明の好ましい実施形態に基づく処理用組成物を用いるならば、1~3のLSI値でスケールは形成されない(炭酸カルシウムが水から沈殿しない)。
【0019】
処理される水システム中の水に加えられる場合、スケールを抑制するための本発明に基づく好ましい組成物は、少なくとも2ppmの有効AAPと、少なくとも2ppmの有効HPAと、少なくとも1.5ppmのその他のホスホン酸とを規定する。より好ましくは、処理される水システムの水に加えられる場合、好ましい組成物は、2ppm~50ppmのAAPと、2ppm~50ppmのHPAと、1.5ppm~20ppmのその他のホスホン酸を規定し、最も好ましくは、3ppm~30ppmのAAPと、2ppm~20ppmのHPAと、1.5ppm~10ppmのその他のホスホン酸とを規定する。加えて、好ましい組成物の3つの成分の合計は、処理される水に添加されると、少なくとも6.5ppmの有効スケール抑制剤を与える。これらの成分は、有毒金属の使用を必要とせず、殺生物剤による悪影響を受けることなく、高LSI水システム(LSI>1)での腐食抑制を改善するという予想を超えた相乗的な効果を有している。
【0020】
本発明の好ましい実施形態に基づく処理用組成物は、オールインワン処理をもたらし、当該オールインワン処理は、鉄金属、アルミニウム及びその合金、銅及びその合金、亜鉛及びその合金、亜鉛メッキ鋼(白さびを含む)、鉛、はんだ等の金属の腐食を抑制して、ミネラルスケールの形成を防止する。処理用組成物は、低LSI(高い腐食性水)水及び高LSI(スケール傾向が高い)水の両方での使用をするような開放再循環システム、閉ループ冷却又は加熱システム、ボイラー等の水システムで特に有用であって、当該水システムは、様々な期間中に、或いは、様々な運転条件下で、腐食、白さび、及びスケールの形成を経験し得る。
【0021】
他の好ましい実施形態によれば、腐食、白さび、又はスケールを抑制するための組成物はまた、以下の成分の1又は複数を含む:中和アミン、塩素安定化剤、例えばモノエタノールアミン(MEA);補助的スケール抑制剤(組成物自体もスケール抑制剤として機能するからである)及び分散剤、例えば、ポリカルボキシレートポリマー及び/又はカルボキシレート/スルホネート機能性コポリマー(代表例:ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMAA)、ポリマレイン酸(PMA)、及び、アクリル酸と2‐アシルアミド‐メチルプロパンスルホン酸のコポリマー(AA/AMPS);他のスケール抑制剤及び腐食抑制剤、キレート化剤;アゾール腐食抑制剤、例えば、ベンゾトリアゾール、アルキルベンゾトリアゾール(トリルトリアゾール);並びに/又は蛍光色素トレーサ、例えば1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸テトラナトリウム塩(PTSA)。組成物全体は、約2重量%~15重量%のアミノ酸ベースのポリマー(例えばポリアスパラギン酸)、約2重量%から10重量%のヒドロキシホスホノ酢酸、及び約2重量%から10重量%の別のホスホン酸を含むのが好ましい。
【0022】
水システム中での金属部品の腐食、亜鉛メッキ鋼部品上の白さび、及び/又はスケールを妨げる好ましい一方法に従えば、先に記載される本発明の好ましい実施形態に従う処理用組成物が、水システムに加えられる。先に記載されるAAP、HPA、及び別のホスホン酸の1又は複数を組み合わせた組成物について、腐食及び白さびを抑制する好ましい方法は、当該組成物を水中に、処理用組成物の20ppm~600ppm、より好ましくは100~300ppmの有効供給レートにて供給することを含む。これは、処理される水の化学、及び処理用組成物中の任意選択の成分の量によって異なってくる。好ましくは、少なくとも3ppmのAAP、少なくとも3ppmのHPA、及び少なくとも2ppmの別のホスホン酸の3つの処理成分の1又は複数の効果的有効量(白さびが処理されることとなるか、腐食と白さびの両方が処理されることとなるかによって異なってくる)を与えるのに十分な量の処理用組成物が、水システムに加えられる(濃度はそれぞれ、処理されることとなる水システム中の水の量に加えた場合のものである)。より好ましくは、処理用組成物は、水システム中の水に加えられた場合に、3ppm~50ppmのAAP、3ppm~50ppmのHPA、及び2ppm~20ppmの別のホスホン酸の1又は複数の成分の効果的有効量を与えるのに十分な量で加えられる。最も好ましくは、これらの効果的有効量は、水システム中の水に加えられた場合に、5ppm~30ppmのAAP、3ppm~20ppmのHPA、及び2ppm~10ppmの他のホスホン酸である。
【0023】
上述したAAP、HPA、及び別のホスホン酸の1又は複数を組み合わせた組成物について、スケール抑制の好ましい方法は、処理される水の化学的性質と処理用組成物中の任意成分の量とに応じて、20ppm~600ppm、又は、より好ましくは50~300ppmである処理用組成物の有効供給レートで組成物を水に供給する工程を含む。好ましくは、十分な量の処理用組成物が水システムに加えられて、水システムにおける処理される量の水に加えられる場合の濃度として、少なくとも2ppmのAAP、少なくとも2ppmのHPA、及び少なくとも1.5ppmの別のホスホン酸であるような、3つの処理成分における1又は複数の成分の有効量をもたらす。より好ましくは、処理用組成物は十分な量で添加されて、水システムにおける処理される量の水に加えられる場合の濃度として、2ppm~50ppmのAAP、2ppm~50ppmのHPA、及び1.5ppm~20ppmの別のホスホン酸であるような、3つの処理成分の有効量をもたらす。最も好ましくは、処理用組成物は十分な量で添加されて、水システムの水に加えられる場合には、3ppm~30ppmのAAP、2pm~20ppmのHPA、及び1.5ppm~10ppmの別のホスホン酸のような3つの成分の有効量をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の組成物及び方法は、以下の図に関連して更に記載且つ説明される。
【
図1】
図1は、3フィート/秒、そして5フィート/秒の流量でのスピナー試験後における、鋼切取試片の腐食レベルを示す写真である。
【
図2】
図2は、3フィート/秒、そして5フィート/秒の流量にて、殺生物剤の存在下で行われたスピナー試験後における、鋼切取試片の腐食レベルを示す写真である。
【
図3】
図3は、3フィート/秒の流量でのスピナー試験後における、鋼切取試片の腐食レベルを示す写真である。
【
図4】
図4は、スピナー試験後における、亜鉛メッキ切取試片の白さびレベルを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
幾つかのラボ試験を行って、本発明に従う種々の組成物の有効性を試験した。本発明に従う組成物を、水システム中の金属部品上を流れる水をシミュレートするスピナー試験を用いて評価した。各スピナー試験の設定では、水のステンレス鋼コンテナにおいて、4枚の金属切取試片(軟鋼切取試片(C1010)及び銅切取試片(CDA 11)を用いた)を、各コンテナ内の水中に、回転シャフトからぶら下がっているホルダーから吊るした。シャフトが、ステンレス鋼コンテナ内の水中で、147回転/分にて切取試片を回転させると、回転シャフトの中心からの切取試片距離に応じて、3~5フィート/秒の流量の代わりになる。各スピナー試験で用いた初期量の水は、水システムにおいて典型的に見られる腐食性の低硬度水の特徴を有した。用いた水は、以下の表1に示す特性を有した。
【0026】
【0027】
各スピナー試験の間、水に空気を通して、且つ、120Fの一定温度と一定量とに水を維持する(水位がセンサーレベル未満に下がると、脱イオン水の自動追加で蒸発を補償する)。標準的な試験期間は、48時間である。
【0028】
スピナー試験設定を用いて、本発明の好ましい実施形態に従う、亜鉛又はスズを少しも加えていない組成物(AAP、HPA、及び別のホスホン酸(HEDP)を含む実施例1~3)(表2に示す)を、亜鉛のみ(比較例4)、スズのみ(比較例5)、AAPのみ(比較例6)、HPAのみ(比較例7)、スズと組み合わせたHPA(比較例8)、及びスズと組み合わせたAAP(比較例9)を主たる抑制剤として用いた組成物(全て表3に示す)と比較した。種々の処理のppm濃度は、スピナー試験コンテナ内の水の量に加えた場合の濃度である。亜鉛又はスズ入り組成物は、それらの入っていない組成物との比較用であった。亜鉛は、典型的に、高度に腐食性(低LSI)の水を含む水システムにおいて、腐食抑制剤として用いられている。しかしながら、その使用は、毒性問題に起因して、所望されず、その使用は、一部の場所では規制を受ける。スズは、亜鉛の無毒性代替物として推進されており、且つ特許化されているが、より高価である。表2及び表3に一覧にした主たる腐食抑制剤成分に加えて、全ての試験を、4ppmの有効AA/AMPSコポリマー及び4ppmの有効TTAの存在下で実行した。これらの成分を、スピナー試験の各設定内の水に加えて、それらの濃度レベルを実現した。種々の抑制剤の存在下でのスピナー試験後の軟鋼切取試片についての腐食レベル及びピッチングレベルを、
図1に示す。
【0029】
【0030】
【0031】
約3フィート/秒に等しい流量にて、また、約5フィート/秒に等しい流量にて、各組成物を用いてスピナー試験を行った。如何なる処理もしない対照試験もまた、比較のために実行した。
図1は、対照による、そして実施例組成物1~9による各スピナー試験後の代表的な軟鋼切取試片の写真を示す。切取試片の腐食の量及びピッチングが、写真に示されている。見られるように、対照切取試片は、広範囲にわたる腐食(写真上の暗い領域)を示す。本発明の好ましい実施形態に従う組成物(実施例2~3)に用いた切取試片は、もしあったとしてもほとんど、腐食もピッチングも示さない(写真上の暗い領域は極めて少ない)。腐食抑制のための、本発明の好ましい実施形態に従う3つ全ての成分を含有するが、2.5ppm(少なくとも3ppmのより好ましい量を下回る)のHPAしか含有していない実施例1に用いた切取試片は、対照及び比較例(比較例4~9)に勝る結果の向上を示すが、5ppmのHPAを用いた実施例2~3よりも僅かに多くの腐食を示す。比較組成物(比較例4~9)に用いた切取試片は、対照よりも顕著に良好であるが、実施例1~3によるよりも大きな腐食及びピッチングの証拠を示す。結果に基づくと、AAP、HPA、及び別のホスホン酸(当該実施例において、HEDP)の組合せは、相乗的に相互作用して、亜鉛、スズ、又は他の規制されている金属の使用を必要とせずとも腐食制御の向上を実現するのは明らかである。
【0032】
一部の先行技術の水処理腐食抑制組成物は、酸化殺生物剤を同系に用いて生物学的増殖を妨げる場合に、効果的な保護を実現しない。最も広く用いられている酸化殺生物剤は、塩素及び安定化臭素である。追加のスピナー腐食試験を、実施例組成物2及び3を用いて実行して、比較例組成物4(亜鉛のみ)及び7(HPAのみ)と、安定化臭素殺生物剤組成物(Chem-Aqua 42171として市販されている)の存在下で比較した。実施例組成物4及び7を選択した理由は、比較例のスピナー試験で最良の結果を示したためである。比較例4及び7は両方とも、低LSI水中でかなり適切に実施されるが、以下で考察するように、殺生物剤を加えると顕著に悪くなる。また、実施例4は、亜鉛を用いており、毒性が懸念されるため、使用が所望されない。先の試験と同様に、これらの試験は、4ppmの有効AA/AMPSコポリマー及び4ppmの有効TTAの存在下で実行した。40ppmのスラグ量(slug dose)の殺生物剤を、各スピナー試験の始めに(腐食抑制組成物を加えて、試験を始めた後に)加えて、約1ppmのFHR(遊離ハロゲン残基)をもたらした。
【0033】
図2は、殺生物剤の存在下での実施例組成物による各スピナー試験の後の代表的な軟鋼切取試片の写真を示す。見られるように、本発明の好ましい実施形態に従う組成物(実施例2~3)に用いた切取試片は、もしあったとしてもほとんど、腐食もピッチングも示さない。このことは、本発明に従う好ましい組成物の機能性が、殺生物剤によって悪影響を受けないことを示している。比較組成物(比較例4及び7)に用いた切取試片は、実施例2~3よりも実質的に多くの腐食を示す。なお、比較例7は、HPA及びHEDPを用いており、AAPを全く用いておらず、殺生物剤なしで良好な結果を示したが、殺生物剤を加えると、顕著に多くの腐食が生じた。AAP及びHEDPを有し、HPAを全く用いていない比較組成物(比較例6)は、殺生物剤なしでは不十分であった(上述の
図1)ので、殺生物剤ありで試験しなかった。なぜなら、結果が、
図1におけるよりも更に悪くなると予想されたからである。結果に基づくと、AAP、HPA、及び別のホスホン酸の組合せは、一緒に相乗的に相互作用して、腐食制御の向上を、殺生物剤の存在下でさえ実現して、HPA単独での使用に勝る結果の向上を示すのは明らかである。
【0034】
また、軟鋼切取試片についての腐食度を、切取試片の重量損失から測定且つ算出した。殺生物剤を加えていない、そして殺生物剤を加えたスピナー試験の両方の結果を、表4に纏める。また、腐食様式、特にピッチングの存在に関する情報(これは多くの用途において重要であり、一部の腐食抑制剤(単独で用いられるHPAが挙げられる)は、ピッチングに対して不十分な保護物質であることが知られている)を、表4に含めている。最も好ましくは、本発明の実施形態に従う腐食抑制組成物は、殺生物剤の存在下でさえ、腐食について3MPY以下の腐食度を達成する。
【0035】
【0036】
本発明の好ましい実施形態に従う組成物は、HPA由来の、そしてこれらの実施例に用いた他のホスホン酸(HEDP)由来の有機リン酸塩を含有する。殺生物剤の存在下で、有機リン酸塩は、多くの場合、オルトリン酸塩に逆戻りし、これは、腐食又はスケールを妨ぐのに良好なものではなく、そのうえリン酸カルシウムによるスケールを形成する問題を発生させる虞がある。AAP、HPA、及びHEDP(又は別のホスホン酸)の組合せを、本発明の好ましい実施形態に従う腐食抑制剤として用いる場合、有機リン酸塩の、オルトリン酸塩への逆戻りは、実質的に検出されなかった。実施例2及び3及び比較例7の組成物に由来するサンプルを、オルトリン酸塩の存在について、当該組成物の混合直後に、そして再度48時間後に試験した。結果を、以下の表5に一覧にする。AAP、HPA、及びHEDPを用いる(そして、上述のように、AA/AMPS及びTTAを含有する)実施例2及び3は、48時間にわたって、オルトリン酸塩の増大をほとんど示さなかったが、HPA及びHEDPを含有する(そして、上述のように、AA/AMPS及びTTAを含有する)が、AAPを含有しない比較例7は、実質的な増大を示した。
【0037】
【0038】
別の好ましい実施形態によれば、表6に一覧にした水処理用組成物(先で試験した実施例2と同じである)が、水システムにおいて、広範囲のLSI値(-2.5乃至>3)にわたって、そして殺生物剤の存在下で、腐食及びスケールを抑制するのに有効である。
【0039】
【0040】
好ましくは、NaOH及び/又はKOHもまた、本発明の実施形態に従う組成物に加えられる。これらの成分は、典型的には、水処理製剤に加えられて、酸を中和して、最終組成物のpHを所望のレベルに至らせるものである。ほとんどの組成物は、pHが>8であり、pHが>12のものもある。(本発明に従う組成物の好ましい実施形態と同様に)TTAを用いる組成物において、TTAの溶解性を確実にするために、組成物のpHがより高い(>11)ことが所望される(pHが低いと、溶解性が非常に悪い)。
【0041】
低LSI水中での追加のスピナー試験を実行して、本発明の好ましい実施形態に従う、腐食を抑制するための処理用組成物の種々の濃度の有効性を試験した。先で記載したのと同じスピナー試験パラメーター及び低LSI水(表1)を、当該試験に用いた。スピナー試験水に加えた場合の成分の濃度、及び当該試験の結果を、以下の表7に示す。
図3は、試験が終わった後の、各組成物についての試験切取試片(3フィート/秒の流量にて試験した)の写真を示す。
【0042】
【0043】
比較例10、13、及び15は、AAP、HPA、及びHEDPを用いているが、好ましい濃度未満の量である。これらの例は、抑制剤の低いレベルにて、腐食の増大を示す(そして、比較例10は、中程度のピッチングを示した)。本発明の好ましい実施形態に従う実施例11~12、14、及び16(腐食度は低く、且つピッチングはない)は、様々な任意選択の成分、並びにAAPの、HPAに対する変動する濃度及び比率について、良好な性能を示す。当該実施例はまた、HEDPからPBTCへの変更(実施例16)と、二次的キレートの減少とが、本発明の好ましい実施形態に従う組成物の腐食抑制性能に影響を与えないことを示す。実施例17は、AAP及びHPAを用い、第2のホスホン酸を用いなかった(米国特許第5,523,023号に記載される組成物と類似する)。これは、低LSI水における腐食の制御が向上した結果を示すが、当該結果は、本発明の好ましい実施形態に従う実施例における結果ほどは良好でない。
【0044】
追加のスピナー試験を実行して、米国特許第5,523,023号に開示されたAAP及びPBTCを用いる組成物を、本発明の好ましい実施形態に従う組成物と比較した。試験設定は、低LSI水、軟鋼(C1010)切取試片、及び3フィート/秒の流量を用いる、先に記載のものと同じであった。結果を、以下の表8に示す。
【0045】
【0046】
見られるように、AAP、HPA、及び第2のホスホン酸(HEDP又はPBTC)を有する本発明の好ましい実施形態に従う実施例(実施例20、21、及び12)は、AAP及びPBTCのみ(少しのHPAもなし)を用いる比較例よりも、非常に良好な腐食抑制結果を示す。また、比較例18~19は、トータルで20ppmの抑制剤(AAP及びPBTC)を用いた場合でさえも、腐食度が3MPYよりも大きくなった。これは、トータルで実質的により少ない抑制剤を用いた本発明に従う好ましい組成物によって達成可能な腐食度よりも高い。例えば、実施例11は、トータルで13.5ppmの抑制剤(AAP、HPA、HEDP)しか用いないで、腐食度が2.3MPYであり、実施例16は、トータルで12.6ppmの抑制剤(AAP、HPA、PBTC)しか用いないで、腐食度が2.1MPYであった。加えて、比較例18~19の腐食度は、AAP、HPA、及び第2のホスホン酸を用いる比較例13及び15の腐食度に匹敵するが、比較例18~19における結果を達成するのに必要な抑制剤の総量(合計20ppm)は、比較例13及び15において必要な総量(それぞれ合計10.76及び15.76ppm)よりもかなりに高い。これらの実験の結果は、第2のホスホン酸の付加は、AAP及びHPAと組み合わせて、トータルでより少ない抑制剤を用いる場合でさえ、そして殺生物剤の存在下でさえ、腐食抑制を向上させるという予想外の相乗効果をもたらすことを示している。
【0047】
当業者であれば、他の適切な、又は同等の化合物、及び他の処理化合物(他の腐食抑制剤が挙げられる)が、本発明の範囲内で、先の成分のいずれかの代用とされてよく、又は先の成分のいずれかに加えられてよいことを理解するであろう。本発明の実施形態に従う組成物は、LSI値が広範囲にわたる(LSI<0を含む)水システムにおいて、そして規制されている毒性金属の使用を必要とすることなく、金属部品の腐食の抑制に有効である。当該組成物はまた、より高いpH値(7~9)(典型的には水システム、例えば冷却塔及びボイラーにおいて見られる)でも有効である。一方、一部の先行技術抑制剤は、そのようなpHレベルにて無効であり、又はその有効性が引き下げられる(例えば、ポリアスパラギン酸/第一スズ塩処理は、pH5~7にてのみ有効である)。本発明に従う当該組成物はまた、有機リン酸塩の、オルトリン酸塩への逆戻りを妨げて、殺生物剤の存在下で有効性を維持する。
【0048】
電気化学的方法を用いる他の実験を実行して、白さびを妨げるための、本発明に従う組成物を試験した。以下の表9の結果は、白さびの発生を引き下げる際の、HPA及びAAP(別のホスホン酸なし)の組合せの相乗効果を示しており、個々の成分(HPA単独、及びAAP単独)の使用と比較している。サイクリックボルタンメトリー試験を、0.1M炭酸ナトリウム溶液中で、亜鉛電極を用いて実行した。酸化の尺度は、観察される酸化曲線ピーク下面積である;面積が狭いほど、酸化が生じておらず、腐食度が低いことを意味する。結果は、6~10回の実験の平均と標準偏差である。
【0049】
【0050】
追加のスピナー腐食試験を、ステンレス鋼コンテナ内で、亜鉛メッキ表面上で白さびが発生することが知られている高アルカリ度の水中で実行して、白さびの発生を妨げるための、本発明の好ましい実施形態に従う組成物の有効性を試験した。当該試験における水化学(高アルカリ度の合成水の特徴を有する)を、以下の表10に詳述する。4枚の溶融亜鉛メッキ鋼切取試片(HDG G70)(寸法1.0×4.0×0.02インチ)を、各コンテナ内で、回転シャフトからぶら下がっているホルダー上に設置した。回転シャフトを、147回転/分にて回転させて、回転シャフトの中心からの切取試片距離に応じて、3~5フィート/秒の流量の代わりとした。試験の間、水に空気を通して、水を120Fの一定温度且つ一定量に維持した(水位がセンサーレベル未満に下がると、DI水の自動追加により、蒸発を補償した)。標準的な試験期間は、48時間であった。2つの比較例に用いた有効成分、及び本発明に従う好ましい組成物の3つの実施例を、腐食度と共に、表11に一覧にする。
【0051】
【0052】
【0053】
重量損失法を用いて腐食度を算出するために、これらの試験由来の亜鉛メッキ切取試片を、標準的な手順に従って、濃縮酢酸アンモニウム中に浸漬してリンスすることによってクリーニングした。
図4は、表12に記載する組成物によるスピナー試験後の、クリーニング前後の亜鉛メッキ切取試片の写真を示す。クリーニング前の切取試片上に見える白色の沈着が、白さびである。腐食(暗い点として示される)に起因する亜鉛メッキ層の損傷が、クリーニング後の切取試片上に見える。ブランク(比較例22-非処理)切取試片は、完全に、白色の沈着でカバーされ、そしてクリーニング後、亜鉛メッキ層のほとんどが除去されて、軟鋼の腐食が見られた。HPA及びHEDP(アミノ酸ベースのポリマーなし)(比較例23)で処理した切取試片は、白さびの実質的な発生を示したが、対照(比較例22)よりもずっと優れた向上を示した。より顕著に良好な結果が、実施例24~26の組成物で得られた。最良の結果は、AAP、HPAを3ppm超にて、そして第2のホスホン酸(HEDP)を用いる実施例24で達成された。HPAの使用は、軟鋼の腐食を抑制するのに重要であるが、その使用は、白さび処理について、任意選択である。実施例26から分かるように、AAP及びHEDPをHPAなしで用いた結果は、3つを組み合わせたのとほぼ同じくらい良好であった。従って、本発明に従う、白さびを処理するための好ましい組成物は、2~15%のアミノ酸ベースのポリマー、0~10%のHPA、及び0~10%の第2のホスホン酸を含む。好ましくは、本発明に従う処理用組成物中の有効アミノ酸ベースのポリマーの量は、少なくとも3ppm、より好ましくは3ppm~50ppm、最も好ましくは5ppm~30ppmである(濃度は全て、処理されることとなる水システム中の水の量に加えた場合のものである)。より好ましくは、AAPを、HPAと併せて、少なくとも3ppm、より好ましくは3ppm~50ppm、最も好ましくは約3ppm~20ppmの量で、及び/又は別のホスホン酸と併せて、少なくとも2ppm、より好ましくは2ppm~20ppm、最も好ましくは約2ppm~10ppmの量で用いる。
【0054】
本発明に従って白さびを処理するために、ヒドロキシホスホノ酢酸及びアミノ酸ベースのポリマーの両方を、より好ましくは第2のホスホン酸と併せて、先で示した重量範囲の量で用いることが好ましい。しかし、アミノ酸ベースのポリマー又はヒドロキシホスホノ酢酸の、他を伴わない使用が、白さびを抑制するのに有益であることも見出された。
【0055】
本発明の好ましい実施形態に基づく組成物を用いてパイロット冷却塔スケール試験も行って、高LSI水(LSI>1)におけるスケール形成を抑制する能力を試験した。冷却塔スケール試験の目的は、スケーリングなく塔が動作できるサイクル数と、サイクル上昇に伴ってスケーリング特性を有する典型的な水での処理におけるLSI限界とを決定することであった。冷却塔のパイロット試験では、4本の伝熱表面棒と、800ワットで動作するDATS(デポジット堆積試験システム(Deposit Accumulation Testing System))とを用いた。濃縮サイクル数(COC)は、冷却塔の水における任意のイオンの濃度と、補給(始動)水における同じイオンの濃度の比として計算される。導電率もまた、COCの計算にも使用できる。水の使用量を減らすために、できるだけ高COCで運転することが望ましい。通常、冷却塔のCOCは、水の導電率を測定し、導電率が設定限界を超えるとシステムから水を抜き取って補給水を追加することで、一定のレベルに維持される。冷却塔のパイロットテストで使用された初期量の水は、高LSI水の特性であって、冷却塔の水システムで通常見られるように、CaCO3として100ppmのアルカリ度とCaCO3として100ppmのカルシウム硬度とを有していた。使用された水は、以下の表12に示される特性を有していた。
【0056】
【0057】
HTR(伝熱抵抗)が安定レベルを超えて急に増加して、12x10-6℃m2/Wを超えると、及び/又は、ヒーターの%清浄度が97%未満に低下すると(伝熱係数の汚染値(UF)及び清浄値(UC)から決定される。ここで、UF=1/HTR(スケール有り)+UC 及び %清浄度=UF/UCx100)、スケールが表示される。LSI限界(スケールが形成されるLSIの測定値)は、水の化学的性質、水の濁度の変化を監視することで、及び、スケールの形成を視覚的に観察することで視覚的に決定できる。(パイロット冷却塔システムの水に加えられる場合)表6の組成物は100ppmの濃度で、冷却塔の運転限界を6COC及び3.2のLSIに増加させることが、HTRと水の化学的性質データとに基づいてわかった。スケールが形成される前に、パイロット冷却塔を7日間運転した。この試験は、約1であるLSIの高スケール水で開始され、6COCまで循環された。これにより、LSIが3.2に増加した後、スケールが形成された。
【0058】
比較のために、典型的な従来技術のスケール処理、例えば、Chem-Aqua 31155(PBTC、トリルトリアゾールナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリマレイン酸(ナトリウム塩)、及び水酸化ナトリウムを含む)は、同じ100ppmの濃度で、僅か2.6のLSI限界で3COCだけ冷却塔を動作させる。2倍の処理濃度(200ppm)でもChem-Aqua 31155は、冷却塔のCOCは3.4までしか増加させることができず、LSI限界は2.85であって、これは、本発明の組成物の好ましい実施形態を使用して達成されるCOC増加とLSI限界を顕著に下回る。別の実験では、前のパイロット冷却塔スケール試験で使用した同じ処理用組成物を50ppmで使用すると(パイロット冷却塔システムの水に加えると)、システムが4.3COCと2.84のLSIに達した後に、スケールの形成が開始した。これらの結果は、この3成分配合は、PBTCを含む従来技術の配合が2~4倍の濃度で使用される場合であっても、PBTCを含む従来技術の配合よりもスケール防止においてかなり優れていることを示している。本発明による処理用組成物を用いることで、水システム(例えば、冷却塔)の水は、従来技術の処理と比較して、スケール形成が始まる前により多い回数、循環/再循環される。これによって、ブローダウンと給水システムに追加される補給水とが少なくなることから、水が大幅に節約される。
【0059】
水システム中での金属部品の腐食、及び/又は、亜鉛メッキ鋼部品上の白さび、及び/又は、ミネラルスケールの形成を妨げる好ましい一方法に従えば、先に記載した本発明に従う処理用組成物が、好ましい有効供給レートで水システムに加えられる。上記のAAP、HPA、及び別のホスホン酸の1又は複数を組み合わせた組成物の場合、腐食及び白さびを抑制するための好ましい方法は、処理される水の化学的性質と処理用組成物中の任意成分の量とに応じて、20ppm~600ppm、より好ましくは100~300ppmである処理用組成物の有効供給レートで組成物を水に供給する工程を含む。好ましくは、十分な量の処理用組成物が水システムに加えられると、水システムにおける処理対象の水の量に加えられたときの濃度として、少なくとも3ppmのAAP、少なくとも3ppmのHPA、少なくとも2ppmの別のホスホン酸の3つの処理成分の1又は複数の有効な有効量が(白さびが処理されるか、或いは、腐食と白さびの両方が処理されるかに応じて)もたらされる。より好ましくは、処理用組成物は十分な量で加えられて、水システムの水に加えられる場合には、3ppm~50ppmのAAP、3pm~50ppmのHPA、2ppm~20ppmの別のホスホン酸であるような1又は複数の成分の有効量をもたらす。最も好ましくは、これらの効果的有効量は、水システムの水に加えられる場合、5ppm~30ppmのAAP、3ppm~20ppmのHPA、及び2ppm~10ppmの別のホスホン酸である。白さびを処理するためのHPAの使用は、任意選択であるので、本発明に従う好ましい方法に用いられる処理用組成物は、AAPを、少しのHPAも伴わずに含んでもよく、そして、処理されることとなる水システムの水中でのこれらの同じ濃度範囲のAAPを与えるのに十分な量で加えられてよい。
【0060】
上記のAAP、HPA、別のホスホン酸の1又は複数を組み合わせた組成物の場合、スケール抑制の好ましい方法は、処理される水の化学的性質と処理用組成物中の任意成分の量とに応じて、20ppm~600ppm、又は、より好ましくは50~300ppmの処理用組成物の有効供給レートで組成物を水に供給する工程を含む。好ましくは、十分な量の処理用組成物が水システムに加えられて、処理対象の水システムの水の量に加えられる場合の濃度として、少なくとも2ppmのAAP、少なくとも2ppmのHPA、少なくとも1.5ppmの別のホスホン酸であるような3つの処理成分の又は複数の有効量がもたらされる。より好ましくは、処理用組成物は十分な量で加えられて、処理対象の水システムの水の量に加えられる場合の濃度として、2ppm~50ppmのAAP、2ppm~50ppmのHPA、1.5ppm~20ppmの別のホスホン酸であるような3つの処理成分の有効量がもたらされる。最も好ましくは、処理用組成物は十分な量で加えられて、水システムの水に加えられる場合に、3ppm~30ppmのAAP、2pm~20ppmのHPA、1.5ppm~10ppmの別のホスホン酸であるような3成分の有効活性量をもたらす。
【0061】
別の好ましい実施形態によれば、(腐食、白さび、及び/又はスケールを処理するために)水システムに加えられる組成物は、水システム中の組成物のレベルが測定且つ監視され得るように、蛍光トレーサを含む。トレーサ測定に基づいて、水システム内での処理の有効量を維持するために、必要に応じて、追加の処理用組成物が水システムに加えられる。
【0062】
本明細書中に記載される実施例の試験における種々の処理のppm濃度は全て、スピナー試験において水に加えられた場合の濃度であり、処理されることとなる水システム中の水に加えられた場合の濃度に関連することとなる。具体的に除外されない限り、本明細書中の、そして請求項中の酸への言及は全て、酸の水溶性塩を含み、このことは当業者によって理解されるであろう。また、当業者であれば、本明細書中に含まれる実施例を含めて本明細書を読めば直ぐに、水を処理するための組成物及び当該組成物を用いる方法の好ましい実施形態に対する修正及び変更が、本発明の範囲内でなされ得ることを理解するであろう。本明細書で開示される本発明の範囲は、本発明者らが法的に権利付与される添付の特許請求の範囲の最も広い解釈によってのみ制限されることが意図されている。