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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】音点検システム
(51)【国際特許分類】
   G10L 25/51 20130101AFI20221213BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20221213BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20221213BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G10L25/51
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
G05B23/02 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020029516
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021135585
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小埜 和夫
(72)【発明者】
【氏名】西村 卓真
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 悠一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 隆
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/157278(WO,A1)
【文献】特開2006-163517(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107360(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0158278(US,A1)
【文献】特開2018-95429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
G01M 99/00
G01H 17/00
G10L 25/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点検対象物の音に基づいて前記点検対象物の異常状態を判定する音点検システムであって、
集音部により前記点検対象物から検出された音の波形データを、下位側モデルに基づいてデータ処理し、その処理結果を出力する下位側装置と、
前記下位側装置から受信された前記処理結果を上位側モデルに基づいて解析する上位側装置と、
を備え、
前記上位側装置から発行される上位側学習フラグにより、前記下位側装置内では前記下位側モデルが追加学習されて更新されると共に、前記上位側装置内でも前記上位側モデルが追加学習されて更新され、
前記下位側装置の出力する前記処理結果には、少なくとも、前記上位側学習フラグに対応する下位側学習フラグと、前記波形データから抽出される特徴量と、前記下位側モデルを用いて算出された前記波形データについての異常度とが含まれており、
前記上位側装置は、前記下位側装置の出力する前記処理結果を時系列データとして保存し、前記処理結果に基づいて前記上位側モデルを追加学習させるとともに、前記異常度に基づいて前記点検対象物の異常状態を判定する
音点検システム。
【請求項2】
前記上位側学習フラグは、所定のタイミングで生成されて、前記下位側装置へ送信される、
請求項1に記載の音点検システム。
【請求項3】
前記所定のタイミングは、前記上位側装置の有するユーザインターフェース部から入力されるユーザの操作に基づく、
請求項2に記載の音点検システム。
【請求項4】
前記上位側装置は、時系列データとして保存された前記処理結果からトレンドを解析するトレンド解析部を有しており、
前記所定のタイミングは、前記トレンド解析部によるトレンド解析結果に基づく、
請求項2に記載の音点検システム。
【請求項5】
前記上位側装置は、前記上位側モデルを追加学習する際に、追加学習前の旧上位側モデルを保存する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の音点検システム。
【請求項6】
前記処理結果には、さらに前記波形データが含まれる、
請求項5に記載の音点検システム。
【請求項7】
前記集音部は、マイクロフォンアレイを含んで構成される、
請求項1に記載の音点検システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音点検システムおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント、化学プラント、鉄鋼プラントなどの現場では、作業員が機器の稼動音を聞いて正常かどうかを判断することがある。しかし、異音を聞き分けることができるためには、経験が必要である。さらに、作業員は広い現場をあちこち歩き回って耳で点検するため、作業員の負荷も大きい。しかも近年では、熟練作業員の高齢化が進み、新たな作業員の確保も難しい。そこで、特許文献1では、対象物の音響データをマイクロフォンで検出し、対象物から離れた場所の装置へ無線伝送するシステムが提案されている。
【0003】
なお、音の点検に関する技術ではないが、特許文献2には、異常度のスコアにより検査結果の良否を判定する検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-273113号公報
【文献】特開2019-159820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現場作業員の高齢化と現場機器に関するノウハウの喪失とに伴い、音の点検の自動化、省力化が求められている。このため、点検対象である機器の稼動音をマイクロフォンセンサによりモニタリングし、異常音を検知することにより、機器の不調を早期に発見するシステムが注目されている。
【0006】
特許文献1に記載の監視処理装置は、現場の監視装置から受信した音響データから周波数スペクトルを算出し、ニューラルネットワークモデルにより監視対象物の異常発生を検知する(特許文献1 段落0066)。しかし、特許文献1では、環境雑音の変化や機器の運転状態の変化に伴う稼動音の変化に応じて、状態判定モデルを強化および変更する必要があるという課題が全く配慮されていないため、正常運転であるにもかかわらず警報を発報してしまうような事態を招きかねない。
【0007】
音点検システムに関する技術ではないが、特許文献2に記載の検査装置は、追加学習前の第1識別器と追加学習後の第2識別器との2つの識別器を保有しており、第1識別器および第2識別器の出力結果から識別器の更新を判断する。
【0008】
しかし、特許文献2には、どのようなタイミングで追加学習を行うかについては十分検討されていない。特許文献2には、追加学習を学習装置で行い、追加学習後の識別器を検査装置にネットワークを介してダウンロードする運用が示されているが、この場合、通信の不調により識別器が正常に検査装置にダウンロードされないという不具合が全く考慮されていない。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、より信頼性の高い音点検システムおよび制御方法を提供することにある。
を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決すべく、本発明に従う音点検システムは、点検対象物の音に基づいて状態を判定する音点検システムであって、集音部により前記点検対象物から検出された音の波形データを、下位側モデルに基づいてデータ処理し、その処理結果を出力する下位側装置と、下位側装置から受信された処理結果を上位側モデルに基づいて解析する上位側装置と、を備え、上位側装置から発行される上位側学習フラグにより、下位側装置内では下位側モデルが追加学習されて更新されると共に、上位側装置内でも上位側モデルが追加学習されて更新される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上位側学習フラグが発行されることにより、上位側装置と下位側装置とはそれぞれのモデルを追加学習させて更新することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】音点検システムの全体を示す説明図。
図2】音点検システムを含む監視システムのシステム構成図。
図3】見える化装置の詳細を示す説明図。
図4】異音診断装置から見える化装置へ送信される処理結果の説明図。
図5】異音診断装置の取り付け例を示す説明図。
図6】異音診断装置の他の取り付け例を示す説明図。
図7】異音診断装置の処理を示すフローチャート。
図8図7中の測定処理の詳細を示すフローチャート。
図9】見える化装置の処理を示すフローチャート。
図10】異常度をユーザに提示する画面例。
図11】(1)は、初期学習のための追加学習フラグの設定例。(2)は、現場状態変更に伴う追加学習フラグの設定例。(3)は、周囲の騒音レベルの変化に伴う追加学習フラグの設定例。
図12】追加学習を行う処理のフローチャート。
図13】異音診断装置のモデルを上書きする処理を示すフローチャート。
図14】第2実施例に係り、測定処理の詳細を示すフローチャート。
図15】第3実施例に係り、音点検システムの全体を示す説明図。
図16】音点検システムを設置する際の手順を示すフローチャート。
図17】点検対象物の配置を示す現場図面の概略図。
図18】集音部アレイを基準とする角度に応じた強度分布を示すグラフ。
図19】点検対応表の例。
図20】測定処理のフローチャート。
図21】第4実施例に係り、追加学習を行う処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態では、後述のように、点検対象機器の正常な運転状態が変化した場合、または点検対象物の周囲の音響環境が変化した場合でも、その変化後の状態を新たな正常状態として、異音診断装置および見える化装置の両方で追加学習させる。これにより、本実施形態の音点検システムでは、正常とすべき状態が変化した場合に異音診断装置から誤った警報が出力されるのを抑制することができる。
【0014】
さらに本実施の形態では、異音診断装置の持つモデルと見える化装置の持つモデルとは、見える化装置で発行される学習フラグによって同期するように制御される。したがって、異音診断装置が、正常とすべき状態の変化に追従する際に、見える化装置から異音診断装置へモデルのデータを送信する必要がない。これにより、見える化装置と異音診断装置とが、通信容量の少ない(通信速度の低い)ネットワークを介して接続されている場合でも、状況の変化(正常とすべき状態の変化)に速やかに対応することができ、信頼性の高い音点検システムを提供することができる。
【0015】
本実施形態の音点検システム3は、点検対象物4の音に基づいて状態を判定する音点検システムであって、音点検システムは異音診断装置1と見える化装置2とを有して構成されている。異音診断装置1は、点検対象物4の稼動音を収集する集音部14と、稼動音を解析して異常度を算出するデータ処理部13と、解析結果を保持するデータ保存部12と、通信部11とを有する。見える化装置2は、異音診断装置1からの通信を受信する通信部23と、データを蓄積するデータ蓄積部22と、解析結果を表示する表示部21と、データを解析する解析部25と、ユーザインターフェース部24とを有する。
【0016】
見える化装置2は、解析部25において、データ蓄積部22に保持された学習フラグFUに基づいてモデルの追加学習を行った後、そのアップデートされたモデルMLをデータ蓄積部22へ蓄積する。
【0017】
異音診断装置1は、データ保存部12に保持された学習フラグFE(=学習フラグFU)に基づいてモデルの追加学習を行った後、そのアップデートされたモデルMKを保持する。異音診断装置1は、アップデートされたモデルMKを用いて、点検対象物4の異音を診断する。
【0018】
本実施形態では、上述のように、環境音または運転状態の変化に伴う正常な範囲内の稼動音の変化に対して、追加学習が必要な場合にアクティベートされる追加学習用のフラグを設けている。そして、本実施形態では、学習フラグに基づいて追加学習を行わせることにより、異音診断装置1から誤報が出力されるのを抑制する。この結果、本実施形態では、ロバストな異音点検を実現する音点検システムを実現できる。
【0019】
さらに、本実施形態によれば、異音診断装置1と見える化装置2との間でモデルデータを交換することなく、異音診断装置1と見える化装置2との両方で追加学習を行わせることができる。したがって、通信速度の遅いネットワークを用いる場合であっても、見える化装置2から異音診断装置1へのモデルデータのダウンロードが失敗する事態が発生せず、信頼性の高い異音点検システムを実現できる。
【0020】
以下、図面に基づいて、本実施形態を説明する。本実施形態では、以下に詳述するように、異音診断装置1は、プラントで使用される現場機器のような点検対象物4で発生する稼働音データを収集し、収集した音データを解析し、さらに異常度を算出して、それら処理結果を見える化装置2へ送信する。なお、点検対象物4は、設備または機器と呼ぶこともできる。
【実施例1】
【0021】
図1図7を用いて第1実施例を説明する。本実施例の音点検システム3は、点検対象物4の音に基づいて状態を判定するシステムである。音点検システム3は、点検対象物4の音を収集し、収集した音を解析して処理結果5を送信するとともに、学習フラグFEに基づいて追加学習を実施する異音診断装置1と、異音診断装置1からの処理結果5を時系列データとして格納し、処理結果5を用い、学習フラグFEに基づいて追加学習を行うことで、異音診断装置1と同じモデルを生成すると共に、異常度を可視化する機能を有した、見える化装置2とを備える。
【0022】
図1は、音点検システム3の全体構成図を示す。音点検システム3は、見える化装置2と、異音診断装置1とを有して構成されている。音点検システム3は、例えば、発電プラント、化学プラント、鉄鋼プラント等のプラントに適用される。異音診断装置1は、一つの見える化装置2に対して複数設けられてもよい。後述のように、音点検システム3は、点検対象物4の電流、電圧、温度、回転数などを監視するプラント監視システムの一部として設けられてもよい。
【0023】
なお、本実施例の音点検システム3は、点検対象物4の発する音(稼働音)が正常か異常かを自動的に判別するが、音の波長範囲は人間の可聴域に限定されない。後述のように、可聴域よりも高音または低音の音が点検対象の音として含まれてもよい。さらに、本実施例では、点検対象物4の音を監視するが、音に代えてまたは音に加えて、点検対象物4の振動を監視してもよい。
【0024】
以下、「下位側装置」の例である異音診断装置1について先に説明し、次に「上位側装置」の例である見える化装置2について説明する。
【0025】
異音診断装置1は、例えば、通信部11と、データ保存部12と、データ処理部13と、集音部14とを含んで構成される。異音診断装置1は、例えば、マイクロプロセッサ、メモリ、入出力インターフェース、通信インターフェースなどのハードウェア資源(いずれも不図示)と、コンピュータプログラムとオペレーティングシステムなどのソフトウェア資源(いずれも不図示)とを用いて、上述の機能11,12,13を実現する。
【0026】
プラントには、例えば、モータ、ポンプ、コンプレッサ、タービン、ボイラ、ソレノイド、バルブ等の音を発生させる点検対象物4が設けられている。これらの稼動音は、異音診断装置1に備えられた集音部14によりデジタル信号に変換され、データ保存部12に波形データ122として保存される。以下、波形データ122を波形122と略記する場合がある。
【0027】
集音部14は、例えばマイクロフォンとアナログ/デジタル変換器(ADC)で構成される。マイクロフォンの周波数に対する感度特性は、点検対象物4に応じて選択されることが望ましい。
【0028】
例えば、人間の可聴音帯域を重視する場合には、可聴域用のマイクロフォンを選択すればよい。超音波帯域を重視する場合には、超音波マイクロフォンを選択すればよい。これにより、音点検の精度を向上させることが可能である。上記ADCもまたマイクロフォンとの組み合わせにより、サンプリングレートが決定されることが望ましい。マイクロフォンの帯域の2倍以上の頻度でサンプリングできるものが望ましい。
【0029】
データ処理部13は、データ保存部12に保存された学習フラグFEと波形122とモデルMKとを入力とし、特徴量123と異常度124とモデルMKとを出力する。ここでモデルに更新があった場合は、追加学習により更新後の最新モデルがモデルMKとして出力される。追加学習を行うか否かは、学習フラグFUに起因して格納される学習フラグFEに基づいて決定される。学習フラグFUは見える化装置2で発行されるフラグであるが、詳細は後述する。
【0030】
データ保存部12には、k回の追加学習を経た最新モデルであるモデルMKだけが保存される。最新モデルだけをデータ保存部12に保持することにより、データ保存部12の記憶容量を削減することができる。さらに、データ保存部12に最新モデルだけを保存することにより、データ処理部13により、どのモデルを用いて処理を実行したかトレースすることが容易となる。これにより、データ保存部12のハードウェアコストを削減することができる。
【0031】
データ処理部13は、例えば、モデル生成部131と、特徴量抽出部132と、異常度算出部133を備える。
【0032】
特徴量抽出部132は、波形122を解析し、その特徴量を抽出する。モデル生成部131は、特徴量抽出部132により抽出された特徴量と、学習フラグFEとに基づいて、追加学習(モデルが存在しない場合には学習)によりモデルを生成する。異常度算出部133は、最新のモデルを用いて、波形122の異常度124を算出する。
【0033】
異音診断装置1に備わった通信部11は、データ保存部12に蓄積された処理結果5を、見える化装置2へ送信する。さらに、通信部11は、見える化装置2から設定情報6を受信する機能も有する。
【0034】
異音診断装置1と見える化装置2との間では、処理結果5と設定情報6がやり取りされる。異音診断装置1から見える化装置2へは、処理結果5が送信される。見える化装置2から異音診断装置1へは、設定情報6が送信される。処理結果5および設定情報6の詳細は後述する。
【0035】
設定情報6は、図3の下側に示すように、例えば、見える化装置2で生成された学習フラグFUとモデルMaとを含む。見える化装置2で発行され、異音診断装置1へ送信された学習フラグFUは、異音診断装置2では学習フラグFEとしてデータ保存部12に保存される。
【0036】
モデルMaは、例えば、異音診断装置1のモデルMKが異音診断に適していないと判断された場合に、見える化装置2から異音診断装置1へ送信される。すなわち、異音診断装置1の保持するモデルを適切なモデルと置き換えるために、見える化装置2から異音診断装置1へモデルMaが送信される。
【0037】
図1に示す処理結果5および設定情報6といった通信データは、異音診断に関係するデータだけを例示している。システムエラー情報および測定指示情報などのシステム動作に関係する信号は、別途、通信部11,23を通じて、必要に応じて送受信される。
【0038】
見える化装置2を説明する。見える化装置2は、例えば、表示部21と、データ蓄積部22と、通信部23と、ユーザインターフェース部24と、解析部25を備える。
【0039】
通信部23は、異音診断装置1から処理結果5を受信する機能と、見える化装置2から異音診断装置1へ設定情報6を送信する機能とを有する。データ蓄積部22は、各種データを蓄積する。解析部25は、データ蓄積部22に蓄積された各種データを用いて、データ解析を実施する。ユーザインターフェース部24は、ユーザが操作する装置であり、学習フラグFUの生成などを見える化装置2に指示する。表示部21は、処理結果5をそのままで、あるいは加工して表示する。ユーザは、表示部21から提供される情報(処理結果5、トレンド解析の結果など)を参考にして、学習フラグFUの生成を指示するかを判断することができる。
【0040】
上述のデータ蓄積部22は、異音診断装置1から通信部23を通じて受信した処理結果5を蓄積する。図4は、或る時刻での診断結果を示す処理結果5の記憶例である。図4に示すように、処理結果5は、例えば、学習フラグFE(121)と、波形122と、特徴量123と、異常度124とを含むことができる。解析部25で生成された学習フラグFU25とモデルMLも、データ蓄積部22に蓄積される。
【0041】
図3は、見える化装置2の記憶内容を詳細に示す説明図である。データ蓄積部22には、処理結果5と学習フラグFUとモデルMLとが、最新のデータだけでなく、過去のデータもに蓄積される。各異音診断装置1に対応するデータのグループ220(1)~220(n)には、測定時刻ごとの処理結果5のセットDt0~Dtnが含まれる。上述の通り、各異音診断装置1で測定されて診断された処理結果5は、見える化装置2のデータ蓄積部22に保存される。見える化装置2は、現場に設置される小型な異音診断装置1とは異なり、大容量の記憶装置を備えることができるため、各異音診断装置1の測定結果の履歴(処理結果5の履歴Dt0から最新履歴Dtnまで)と学習フラグFUとモデルMLとのセットを異音診断ごとに保存しておくことができる。すなわち、データ蓄積部22には、各異音診断装置1の診断結果などが上書きされずに記憶されていく。適宜、ユーザは、データ蓄積部22の記憶内容を消去させることもできる。
【0042】
図1に戻る。表示部21は、データ蓄積部22に蓄積されたデータを可視化してユーザに表示する機能を有する。上述の通りデータ蓄積部22には、測定毎に(異音診断毎に)時系列のデータが蓄積されるため、異常度および学習フラグの時系列データや、測定毎の波形等を確認することが可能となる。
【0043】
解析部25は、異音診断装置1から受信された処理結果5を解析する。解析部25は、例えば、モデル生成部251と、特徴量抽出部252と、異常度算出部253と、トレンド解析部254と、異常検知部255を含む。
【0044】
解析部25は、データ蓄積部22から特徴量123、波形122、過去のモデルを読み出して学習することにより、もしくは追加学習することにより、モデルMLを生成する機能を有する。
【0045】
モデルMLは、モデルMKと同じになるのが正しい動作である。異常度算出部253がモデルMLを用いて算出した異常度の計算結果と、異音診断装置1で算出された異常度124とを比較することにより、モデルMKがモデルMLと同じであることを確認することができる。これにより、異音診断装置1内でモデルの更新が適切になされたかを、見える化装置側で確認することができる。
【0046】
加えて、解析部25は、トレンド解析部254により、異常度124の時系列データを用いてトレンド解析を行う機能を有する。点検対象物4の稼動音における経時変化を解析することにより、故障の予兆などを知ることができる。トレンド解析部254の解析結果と異常検知部255の演算結果とに基づいて追加学習が必要と判断された場合、解析部25は、学習フラグFU25を生成することができる。
【0047】
異常検知部255は、トレンド解析部254の解析結果または、ユーザの設定した閾値などに基づいて、異常を検知する機能を有する。異常検知部22の検知結果は、表示部21からユーザへ通知される。
【0048】
ユーザインターフェース部24は、ユーザによる各種設定を行う機能を有する。ユーザは、例えば閾値、学習期間などの値をユーザインターフェース部24を介して見える化装置2に設定することができる。さらに、ユーザは、表示部21に表示された情報から追加学習の必要性を判断すると、ユーザインターフェース部24へ指示を入力することにより、見える化装置2に学習フラグFUを生成させることができる。
【0049】
見える化装置2で生成された学習フラグFUと異音診断装置1で生成された学習フラグFEとをを比較することにより、追加学習の実行または非実行が正しくなされたかを、見える化装置側から確認することができる。
【0050】
図2は、音点検システムを含む監視システムのシステム構成図である。上述の通りプラント内には、各種の点検対象物4が設けられている。監視システムの見える化装置2は、各点検対象物4についての点検項目を遠隔監視し、監視結果をユーザに提供する。
【0051】
図2では、見える化装置2が異なる種類の点検項目を監視する場合を示すが、これに代えて、一つの見える化装置2が複数の点検対象物4の稼働音だけを監視する構成であってもよい。
【0052】
見える化装置2は、第1通信ネットワークCN1を介して、無線親機71に接続されている。無線親機71は、第2通信ネットワークCN2を介して、複数の無線中継器72に接続されている。各無線中継器72は、第2通信ネットワークCN2を介して、現場の各診断装置1,73A,73B,73Cに接続されている。
【0053】
異音診断装置1は、上述の通り、モータなどの点検対象物4の稼働音を集音部14により検出し、学習フラグに基づいて異常の有無を診断し、その処理結果5を無線中継器72および無線親機71を経由して見える化装置2へ送信する。
【0054】
温度診断装置73Aは、点検対象物4の温度を温度センサ74Aにより検出し、温度に異常が生じているかを診断し、その診断結果を無線中継器72および無線親機71を介して見える化装置2へ送信する。
【0055】
メータ読取り装置73Bは、点検対象物4Bであるメータの値をカメラ74Bにより検出し、メータ値の画像を認識した結果を無線中継器72および無線親機71を介して見える化装置2へ送信する。
【0056】
電流診断装置73Cは、点検対象物4Cの駆動電流を電流センサ74Cにより検出し、電流値に異常が生じているかを診断し、その診断結果を無線中継器72および無線親機71を介して見える化装置2へ送信する。
【0057】
同一の点検対象物4に複数の異なる診断装置が設けられてもよいし、一つの診断装置が複数の異なる点検対象物4を診断してもよい。また、診断装置の種類は図2に記載の例に限定されない。圧力診断装置、色彩診断装置、流量診断装置、重量診断装置、電圧診断装置、周波数診断装置、照度診断装置などを監視システムに加えてもよい。
【0058】
本実施例では、無線通信ネットワークCN2に複数の(多数の)診断装置を接続し、定期的または不定期に処理結果(診断結果)を見える化装置2へ送信する。そして、通常、プラントなどに設けられる監視用無線通信ネットワークCN2は、一般的な移動体通信サービスに比べて、通信容量および通信速度に対する制限が厳しい。そのような通信制限のある監視用無線通信ネットワークCN2に、複数の診断装置から見える化装置2へ複数のパケットが随時送出される。本実施例は、このような無線通信環境下において、効率的かつ信頼性高く、遠隔から監視できるようにしている。
【0059】
図5および図6を用いて、異音診断装置1の取り付け例を説明する。図5に示すように、異音診断装置1および集音部14を点検対象物4に接触させて取り付けてもよい。あるいは、図6に示すように、異音診断装置1および集音部14を点検対象物4から離して設けることもできる。すなわち、異音診断装置1は、接触式装置または非接触式装置のいずれであってもよい。さらには、一つの異音診断装置1に、接触式の集音部14と非接触式の集音部14とを接続してもよい。
【0060】
図7のフローチャートを用いて、異音診断装置1の処理を説明する。測定指示を受信するまで(S11)、異音診断装置1は待機する。測定指示を受信すると(S11:YES)、異音診断装置1は、設定情報を受信する(S12)。
【0061】
異音診断装置1は、測定処理(S13)に移行し、点検対象物4の音を集音部14を用いて取得し、取得した音を解析する。測定処理の後、異音診断装置1は、処理結果5を通信部11へ送信する(S14)。通信部11は、処理結果5を見える化装置2へ送信する(S15)。その後、異音診断装置1は、ステップS11へ戻って待機する。
【0062】
図8は、図7のステップS13で示す測定処理を示すフローチャートである。異音診断装置1は、点検対象物4の稼動音を波形122として集音部14により取得し、デジタル変換してメモリ(不図示)に保存する(S21)。
【0063】
異音診断装置1は、メモリに保存された波形122を用いて、雑音除去処理(S22)および周波数解析処理(S23)を行った後、特徴量を抽出する(S24)。
【0064】
そして、異音診断装置1は、ステップS24で抽出された特徴量とモデルMKとから、異常度を計算する(S25)。
【0065】
異音診断装置1は、学習フラグが設定されているか判定する(S26)。学習フラグが設定されていない場合(S26:NO)、追加学習は不要のため、本処理は終了する。これに対し、学習フラグが設定されている場合(S26:YES)、異音診断装置1は、モデルMKに対して追加学習を実施し(S27)、本処理を終了する。
【0066】
図9のフローチャートを用いて、見える化装置2の処理を説明する。見える化装置2は、異音診断装置1から処理結果5を受信する(S31)。見える化装置2は、受信した処理結果5を時系列情報に対応させ、時系列データとしてデータ蓄積部22に登録させる(S32)。
【0067】
見える化装置2は、データ蓄積部22に登録された時系列データを用い、解析部25によりトレンド解析および異常検知処理を行う(S33)。ステップS33の演算結果は、表示部21により表示される(S34)。
【0068】
見える化装置2は、学習フラグFUが設定されていない場合(S35:NO)、本処理を終了する。見える化装置2は、学習フラグFUが設定されている場合(S35:YES)、モデル作成による追加学習(S36)を行った後で、本処理を終了する。
【0069】
図10は、表示部21からユーザへ公開されるデータの一例を示す。図10の縦軸は異常度を示し、横軸は時間を示す。ユーザは、例えば、図10に示す異常度のトレンドチャートから、点検対象物4に異常が発生していることと、その進行状況とを把握することができる。
【0070】
あらかじめ指定された異常度の閾値(ここでは例えば、正常レベル、警戒レベル、発報レベル)に基づいて、点検対象物4の状態を定義することもできる。例えば、ユーザは、時刻T1において、点検対象物4に異常が生じたと判定することができる。そして、ユーザは、例えば、異常度が警戒レベルに近づいたら、メンテナンスを計画して準備する。ユーザは、異常度が発報レベルに近づいた時刻T2において、点検対象物4のメンテナンスを実行することができる。本実施例の音点検システムは、このようなCBM(Condithin Based Maintenance)を実現することができる。
【0071】
閾値は、ユーザが定義してもよいし、音点検システムに管理されている過去の実績に基づいて自動的に算出してもよい。他の方法から閾値を決定してもよい。点検対象物4の種類または環境などに応じて、閾値を柔軟に決定してもよい。
【0072】
図11を用いて、学習フラグの生成方法を説明する。 図11(1)に示す学習フラグ生成方法は、あらかじめ決められた初期学習期間は追加学習を行い、通常運用期間に入ると学習フラグをオフする方法である。初期学習期間は、ユーザがあらかじめ設定しておくことができる。例えば、点検対象物4の正常な稼働音を学習させるために、初期学習期間として1週間以上の期間を設定すると、曜日による正常な稼働音(正常音)の違いを学習することができる。図11(1)では、初期学習期間が終了する時刻T3になると、初期学習から通常運用に自動的に切り替わる。
【0073】
図11(2)は、通常運用中に、現場のレイアウト変更が起きたために追加学習を実施する場合の、学習フラグの作り方を示す。例えば、現場のレイアウト変更により、点検対象物4の周囲の音環境が変化し、この結果異常度が増大し、異音診断装置1が警報を出力することがありえる。
【0074】
そこで、現場レイアウト変更に伴って変化した環境雑音をモデルに追加学習させることにより、現場レイアウト変更後に集音部14で検出される音を新たな正常音として認識させることができる。これにより、誤った警報が出力されるのを抑制することができ、点検対象物4に真に異常が生じた場合に、その異常を検出する精度が向上する。
【0075】
図11(2)の例では、時刻T4に現場レイアウトが変更されたため、ユーザは、時刻T5において、追加学習の実施を手動で決定している。
【0076】
図11(3)は、例えば、現場のレイアウト変更により、点検対象物4の近くに騒音を発する装置が設置され、環境雑音レベルが増大した様子を示す。異常度は急激に増大しているが、点検対象物4は正常である。したがって、変化した環境雑音をモデルに追加学習させる。
【0077】
なお、レイアウト変更だけでなく、他の現場の状態変化にも対応できる。例えば、点検対象物4の運転モードが変更されたり、点検対象物4の周囲にある装置の稼動が停止されたりした場合も、上述の方法と同様に対応できる。
【0078】
学習フラグの生成方法としては、上述の例に限定されない。カメラなどのプラントに設けられた他のセンサシステム、生産管理システム、工場オペレーションシステムなどの他システムと連携することにより、音点検システムの学習フラグを生成してもよい。
【0079】
図12のフローチャートを用いて、追加学習処理を説明する。見える化装置2は、図11に示したような方法で追加学習のトリガを取得する(S41)。上述の通り、追加学習のトリガは、手動で生成されてもよいし、自動的に生成されてもよい。
【0080】
見える化装置2は、追加学習のトリガを取得すると、学習フラグFUを生成し(S42)、通信部23から異音診断装置1へ送信させる(S43)。
【0081】
異音診断装置1は、見える化装置2から学習フラグFUを受信すると(S51)、学習フラグFUに対応する学習フラグFEを生成する(S52)。異音診断装置1は、モデル生成部131にて追加学習を実行する(S53)。異音診断装置1は、処理結果5を通信部11から見える化装置2へ送信させる(S54)。そして、異音診断装置1は、学習フラグFEを消去する(S55)。
【0082】
見える化装置2は、異音診断装置1から処理結果5を受信すると(S44)、見える化装置2で生成された学習フラグFUと異音診断装置1で生成された学習フラグFEとが一致するか確認する(S45)。
【0083】
学習フラグFUと学習フラグFEとが一致すると、見える化装置2は、処理結果5に含まれている波形122を用いて追加学習することにより(S46)、最新モデルMLを生成する(S47)。見える化装置2は、最新のモデルMLと、学習フラグFEと、学習フラグFUと、異常度124と、波形122と、特徴量123と、タイムスタンプとを対応付けて、データ蓄積部22に保存する(S48)。
【0084】
図13のフローチャートを用いて、モデルを上書きする場合の処理を説明する。何らかの理由により、異音診断装置1のモデルMKの性能が低下した場合、見える化装置2から異音診断装置1へモデルMaを送信し、異音診断装置1で使用中のモデルMKをモデルMaで上書きさせる。
【0085】
ユーザは、例えば、誤報の発生率が上昇して、異音診断装置1の診断性能が低下したと判断すると、異音診断装置1で使用中のモデルMKを上書きするためのトリガを見える化装置2へ手動入力する(S61)。モデルを上書きするためのトリガを自動的に生成し、ユーザの承認を得た後に見える化装置2へ入力してもよい。
【0086】
見える化装置2は、モデル上書き用のトリガが入力されると、データ蓄積部22に保存されているモデル群の中から過去のモデルMaを一つ選択し(S62)、異音診断装置1へ送信する(S63)。見える化装置2は、データ蓄積部22に保存されているモデル群の中から、性能低下前の最も新しいモデルMaを選択することができる。モデルMaは、ステップS61で入力されるトリガによって指定されてもよいし、見える化装置2が自動的に候補モデルを抽出し、ユーザにより選択を待ってもよい。
【0087】
異音診断装置1は、見える化装置2からモデルMaを受信すると(S71)、現在使用中のモデルMKをモデルMaで置き換える(S72)。この時点で、データ保存部12には、見える化装置2から受信したモデルMaだけが保存される。
【0088】
異音診断装置1は、集音部14で検出された波形122とモデルMaとを用いて、波形122の異常度124を算出し(S73)、図4で述べた処理結果5を見える化装置2へ送信する(S74)。
【0089】
このように構成される本実施例によれば、異音診断装置1と見える化装置2とは、学習フラグFUを介して、異音診断装置1の持つモデルMKと見える化装置2の持つモデルMLとを追加学習させて、同期させることができる。つまり、異音診断装置1と見える化装置2とは、基本的にモデルのデータを送信することなく、互いのモデルを一致させることができる。したがって、いわゆる貧弱な通信環境下において、見える化装置2は、異音診断装置1の性能を更新させて管理することができ、音点検システム3の信頼性とユーザにとっての音点検システム3の使い勝手とを向上させることができる。
【0090】
さらに本実施例では、異音診断装置1のモデルMKを見える化装置2の持つ過去のモデル群のうち最新のモデルMaで上書きすることもできる。したがって、一時的な環境音の変化によりモデルMKが誤った学習を行った場合であっても、その一時的な環境音の変化が生じる前のモデルMaに戻すことにより、異音診断装置1の性能を回復させることができる。
【実施例2】
【0091】
図14を用いて、第2実施例を説明する。本実施例を含む以下の各実施例では、第1実施例との相違を中心に述べる。
【0092】
図14のフローチャートは、本実施例に係る異音診断装置1の測定処理を示す。本実施例の測定処理と図8で述べた第1実施例の測定処理との違いは、周波数を解析するステップS23と特徴量を抽出するステップS24との間に、機器別フィルタ処理(S28)が挿入されている点である。
【0093】
対象とする点検対象物4の種類によって、稼動音の周波数帯域が異なる。したがって、本実施例では、特徴量123を抽出する前に、機器別フィルタ処理(S28)を実施して、特徴が出やすい周波数帯を切り出して処理する。これにより、より正確に特徴量123を抽出することができ、異音診断装置1での診断精度が向上する。
【0094】
例えば、機器別フィルタは、バンドパスフィルタバンクで構成することができる。見える化装置2から各異音診断装置1へ送信される設定情報6において、点検対象物4ごとの通過周波数帯域を指定すればよい。この場合、図3の下側に示す設定情報6には、通過周波数帯域の値が含まれることになる。
【0095】
さらに、点検対象物4の環境音の変化に追従させるべく、機器別フィルタを更新できるようにしてもよい。例えば、モデルを更新させる仕組みと同様に、機器別フィルタの設定値を更新させるための更新フラグを用いて、異音診断装置1の機器別フィルタ処理を点検対象物4の状況に合わせて更新させてもよい。
【0096】
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、本実施例では、機器別フィルタ処理を実行するため、音点検システムの判定精度を向上させることができる。
【実施例3】
【0097】
図15図20を用いて、第3実施例を説明する。本実施例の音点検システム3Aでは、異音診断装置1Aの集音部として集音部アレイ14Aを用いる。
【0098】
図15は、音点検システム3Aの全体を示す説明図である。本実施例の音点検システム3Aは、異音診断装置1Aと見える化装置2Aとを含み、異音診断装置1Aは集音部アレイ14Aを備える。
【0099】
本実施例の音点検システム3Aでは、異音診断装置1Aが集音部アレイ14Aを用いるため、点検対象物4(1)~4(6)のような複数の機器を一台の異音診断装置1Aにより点検できる。異音診断装置1Aのデータ保存部12には、点検物対応表126が保存される。点検物対応表126は、点検対象となる複数の機器の位置情報を管理する。なお、点検対象物4(1)~4(6)の6個の点検対象物4を例に挙げて説明するが、点検対象物4の個数は1個以上であればよい。
【0100】
図19を用いて、点検対象物対応表126の例を説明する。点検対象物対応表126は、例えば、管理番号と、点検対象物名、形式、角度、距離、強度分布算出結果から抽出したピーク強度とが項目として含まれる。
【0101】
図15に戻る。本実施例の異音診断装置1Aでは、点検対象物4の数に対応して、波形122と、モデルMKと、異常度124と、特徴量123と、モデルMa(不図示)とがそれぞれ生成または解析され、データ保存部12に保存される。
【0102】
集音部アレイ14Aは、マイクロフォンアレイとして構成できる。マイクロフォンアレイを用いることにより、音源の方向を特定することができる。異音診断装置1Aのデータ処理部13は、各点検対象物4から検出される音を分離する音源分離処理機能(不図示)を持つ。
【0103】
図16図19を用いて設置オペレーションを説明する。図16は、設置オペレーションの手順を示すフローチャートである。
【0104】
設置オペレーションでは、集音部アレイ14Aを用いて各点検対象物4の音を聞き分けるために、音点検システム3Aでは、まず最初に、異音診断装置1Aと各点検対象物4の位置関係が分かる現場図面が作成される(S81)。
【0105】
図17は、現場図面8の一例を示す。現場図面8には、異音診断装置1Aと各点検対象物4(1)~4(6)の相対位置が示されている。図17に「0」と記載されている点は、基準となる方向である。
【0106】
図16に戻る。次に、音点検システム3Aは、異音診断装置1Aと各点検対象物4との、距離および角度を現場図面8から抽出する(S82)。角度は、例えば、基準方向を定め、その基準方向と点検対象物4とがなす角度として定義することができる。
【0107】
音点検システム3Aは、異音診断装置1Aの集音部アレイ14Aを用いて、各点検対象物4の音を測定させる(S83)。
【0108】
図18は、各点検対象物4からの音による、角度ごとの強度分布を算出する。図18の縦軸は音の強度を示し、横軸は基準方向からの角度を示す。
【0109】
集音部アレイ14の持つセンサ数から「1」を減じた数だけ、音源方向を分離することができる。図18は7個以上のセンサを持つ集音部アレイ14Aにより測定された例を示している。
【0110】
なお、点検対象物4と集音部アレイ14Aの間の距離に応じて音の強度が変化し、かつ、基準方向から角度に応じて音のピークが分離される位置に、異音診断装置1Aが設置されていることが望ましい。しかし、この記載は、好ましい一例を述べたに過ぎず、異音診断装置1Aの設置位置を限定するものではない。
【0111】
図16に戻る。音点検システム3Aは、最後に現場図面8と角度による強度分布算出結果(図18)とに基づいて、図19に示す点検対象物対応表126を作成する。
【0112】
図20のフローチャートを用いて、本実施例の異音診断装置1Aにより実施される測定処理を説明する。
【0113】
異音診断装置1Aは、集音部アレイ14Aにより、集音部アレイ14Aのセンサ数と同じ数の音の波形データを取得する(S91)。以降は、ステップS91で検出された波形データを用いて全ての処理が実施される。
【0114】
異音診断装置1Aは、処理対象の点検対象物4を設定する(S92)。通常、異音診断装置1Aは、点検対象物対応表126の先頭番号から順に計算する。異音診断装置1Aは、点検対象物対応表126から、処理対象の点検対象物4の角度を設定し(S93)、その角度情報を用いて音源分離および雑音除去を実行する(S94)。
【0115】
異音診断装置1Aは、波形データについて周波数解析を実施し(S95)、さらに特徴量を抽出する(S96)。異音診断装置1Aは、ステップS96で抽出された特徴量を用いて異常度を計算する(S97)。
【0116】
異音診断装置1Aは、学習フラグが設定されているか確認する(S98)。異音診断装置1Aは、学習フラグが設定されている場合(S98:YES)、モデル作成を伴う追加学習(S99)を実施する。これに対し、学習フラグが設定されていない場合(S98:NO)、異音診断装置1Aは、ステップS99をスキップする。
【0117】
学習フラグは、点検対象物4の数に関係なく1つしか存在しない。つまり、学習フラグが設定されている場合には、全ての対象点検対象物4に対してモデルが作成される。
【0118】
異音診断装置1Aは、点検対象物対応表126に載っている全ての点検対象物4に対して上述の各ステップでの計算が行われたか確認する(S100)。未処理の点検対象物4がある場合(S100:NO)、異音診断装置1Aは、ステップS92に戻る。異音診断装置1Aは、点検対象物対応表126に記載された全ての点検対象物4について上述の各ステップでの計算を完了した場合(S100:YES)、本処理を終了する。
【0119】
図14で述べた測定処理と同様に、本実施例の測定処理においても、周波数を解析するステップS95と特徴量を抽出するステップ(S96)との間に、点検対象物別のフィルタ処理を実施するステップを挿入してもよい。点検対象物別フィルタは、バンドパスフィルタバンクから構成することができる。点検対象物対応表126に記載された全ての点検対象物4に対して個別の点検対象物別フィルタを用いるのが望ましい。
【0120】
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、本実施例では、集音部アレイ14Aを用いるため、点検対象物毎に集音部を設置する場合に比べて、全体構成を簡素化することができる。
【実施例4】
【0121】
図21を用いて、第4実施例を説明する。本実施例では、異音診断装置1から見える化装置2へ送信する処理結果5に、波形122は含まれていない。したがって、見える化装置2のデータ蓄積部22には、波形122は蓄積されない。
【0122】
図21のフローチャートは、本実施例による追加学習処理を示す。本実施例の追加学習処理と図12で述べた追加学習処理とは、ステップS54BおよびステップS46Bが異なる。
【0123】
本実施例のステップS54Bでは、処理結果5に学習フラグFE(121)と特徴量123と異常度124が含まれており、波形122は含まれない。本実施例のステップS46Bにおいて、見える化装置2は、異音診断装置1から受信した特徴量に基づいて追加学習を実施する。
【0124】
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、異音診断装置1から見える化装置2へ送信される処理結果5に波形データを含まないため、処理結果5のデータサイズを低減することができる。これにより、混雑した無線通信ネットワークや、通信速度の低い無線通信ネットワークであっても、見える化装置2は多くの異音診断装置1を管理することができる。
【0125】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。上述の実施形態において、添付図面に図示した構成例に限定されない。本発明の目的を達成する範囲内で、実施形態の構成や処理方法は適宜変更することが可能である。
【0126】
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれる。さらに特許請求の範囲に記載された構成は、特許請求の範囲で明示している組合せ以外にも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0127】
1,1A:異音診断装置、2,2A:見える化装置、3,3A:音点検システム、4,4B,4C:点検対象物、5:処理結果、6:設定情報、11:通信部、12:データ保存部、13:データ処理部、14:集音部、14A:集音部アレイ、21:表示部、22:データ蓄積部、23:通信部、24:ユーザインターフェース部、25:解析部、71:無線親機、72:無線中継器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
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