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特許7193521改善されたビタミンD2およびD3の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】改善されたビタミンD2およびD3の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 401/00 20060101AFI20221213BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
C07C401/00
C07B61/00 300
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020214774
(22)【出願日】2020-12-24
(62)【分割の表示】P 2017533507の分割
【原出願日】2015-12-18
(65)【公開番号】P2021059577
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2021-01-20
(31)【優先権主張番号】62/093,904
(32)【優先日】2014-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512122126
【氏名又は名称】チーブス ヨーロッパ ベー.フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】トレイバー,ラスズロ
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04388242(US,A)
【文献】国際公開第2008/128783(WO,A2)
【文献】特表2009-530317(JP,A)
【文献】Organic Syntheses,1999年,Vol. 76,pp. 275-286
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発物質としてエルゴステロールを用いたビタミンDの製造方法であって、
(a)プレビタミンDを含有する生成物を得るために、塩基を含む溶液中の前記出発物質に紫外線を照射する工程であって、
前記塩基が、メチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、フェニルアミン(別名、アニリン)、ベンジルアミン、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ヒスチヂン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミンおよびN-メチルピロリジンからなる群から選択される、工程、および
(b)前記プレビタミンDをビタミンDに変換するために、前記生成物を加熱する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記紫外線が245~360nmの間の光を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶液が、245~360nmの波長帯の光を透過する溶媒を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶液が、アルコール、アルケン、水素結合の溶解度パラメータが9を超える極性溶媒、20℃で測定した場合に誘電定数が5以下となる非極性溶媒、シクロアルカン、エーテル、カルボン酸エステルおよび芳香族溶媒からなる群から選択される溶媒を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記溶液が、アセトニトリル、トルエン、ピリジン、トリクロロエチレン、アセトン、1,2-エタンジオール、エタノール、メタノール、イソプロパノール、ジエチルエーテル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジエチルアミン、トリエチルアミン、クロロホルム、アニソール、ベンゼン、1-ブタノール、クロロホルム、シクロヘキサン、酢酸ブチル、ヘキサン、2-プロパノール、1-ヘキセン、ナフタレン、テトラヒドロフラン、m-キシレン、p-キシレン、o-キシレン、n-メチル-2-ピロリドン、1,3-ブタジエン、およびヘキサデカンまたはこれらの混合物からなる群から選択される溶媒を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基:前記溶媒の割合が体積比で1:99~100:0の間である、請求項1~いずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基:前記溶媒の割合が体積比で10:90~100:0の間である、請求項1~いずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基:前記溶媒の割合が体積比で100:0である、請求項1~いずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生成物が50℃~100℃の間で少なくとも2時間、加熱される、請求項1~いずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記生成物が3時間~16時間、75℃~90℃の間で加熱される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも35%の収率のビタミンDが生成される、請求項1~10いずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ルミステロールおよびタキステロールが少なくとも10%の収率で生成される、請求項1~11いずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記溶液が前記塩基以外の溶媒を含まない、請求項1~12いずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
10g/L~80g/Lの間のビタミンDが生成される、請求項1~13いずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
10g/L~40g/Lの間のビタミンDが生成される、請求項1~14いずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも30g/LのビタミンDが生成される、請求項1~15いずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも40g/LのビタミンDが生成される、請求項1~15いずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連案件の相互参照
本出願は、2014年12月18日出願の米国特許仮出願第62/093、904の利益を主張し、表、図および特許請求の範囲を含むその全体が本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景に関する次の議論は、発明を理解する上で単に読み手を助けるために提供するものであり、本発明の先行技術を記載または構成すると認めるものではない。
【0003】
ビタミンDは、腸でのカルシウム、鉄、マグネシウム、リン酸および亜鉛の吸収促進を担う一群の脂溶性セコステロイドを意味する。ヒトにとって、この群の中で最も重要な化合物はビタミンD(コレカルシフェロール)およびビタミンD(エルゴカルシフェロール)である。ビタミンDは、特定の食品の中に天然に存在し、他のものに添加され、栄養補助食品として入手できる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の目的は、収率を改善し副生成物混入を減少させる、ビタミンDの製造方法を提供することである。種々の態様において、これらの方法は、プロビタミンDとしてエルゴステロールもしくは出発物質としてそのジヒドロキシ誘導体を用いたビタミンDの製造またはプロビタミンDとして7-デヒドロコレステロールもしくは出発物質としてそのジヒドロキシ誘導体を用いたビタミンDの製造を提供する。本明細書記載の方法は、有機または無機塩基を含む溶液中で波長帯が245~360ナノメートル(nm)の光で出発物質を照射し、プレビタミンDまたはプレビタミンDを含有する生成物を得て、この生成物を加熱することによって得られたプレビタミンDまたはプレビタミンDをビタミンDまたはビタミンDに変換することを含む。各種実施形態では、これらの方法は更に、精製生成物としてこの反応からビタミンDまたはビタミンDを回収することを含む。
【0005】
ビタミンDは、プロビタミンである7-デヒドロコレステロールへの紫外線照射(UV)の作用を通して生成され、ヒトの体内におけるビタミンDの主要な形態である。ヒトの皮膚ではビタミンDが作られ、ヒトにとって約90%のビタミンDが供給される。7-デヒドロコレステロールからビタミンDへ変換する形質転換は2つの工程で生じる。最初に、7-デヒドロコレステロールは紫外線によって6個の電子による同旋的な開環電子環状反応で光分解される。生成物はプレビタミンDである。二番目に、プレビタミンDは、自然にビタミンD(コレカルシフェロール)へと異性化する。有機溶媒中のプレビタミンDからビタミンDへの形質転換は、室温で完了するのに約12日間要する。皮膚内でのプレビタミンDからビタミンDへの変換は、有機溶媒中より約10倍速い。ビタミンDは、エルゴステロールの誘導体であり、ヒトによって生成されない分子である。したがって、すべてのビタミンDは食物によって提供されなければならない。ビタミンDは、植物プランクトン、無脊椎動物、酵母菌およびキノコの一部の種類によって生成され、ビタミンD3の場合と同様にそのプロビタミンへの紫外線照射によって生成される。ビタミンDおよびDの変換に関する一般的なスキームは図4に図示されている。
【0006】
エルゴステロールおよび7-デヒドロコレステロールのビタミンDおよびDへの変換は、共役ジエンの紫外線(UV)活性化によるステロールのB環の開環を伴う。紫外線エネルギーの吸収は、分子を活性化し、そのπ→π励起(250~310nmの吸収、λmax=291nm、ε=12,000)は、9、10位の結合を開き、プレビタミンDまたはプレビタミンDである(Z)-ヘキサジエンの形成をもたらす。7-デヒドロコレステロールまたはエルゴステロールの紫外線照射は、プロビタミンの濃度の着実な減少をもたらし、最初に主にプレビタミンDを生じる。プロビタミンのレベルが約10%未満に下がったとき、プレビタミンのレベルは最大に到達する。ビタミンD、タキステロールおよびルミステロールへと変換されるにつれ、プレビタミンの濃度が低下するが、続く照射によってプレビタミンの濃度が増す。温度、光の周波数、照射時間および基質の濃度のすべてが、生成物の比率に影響を及ぼす。シスビタミン(エルゴカルシフェロール)またはコレカルシフェロールを得るための80℃以下の温度での熱異性化によるプレビタミンDの変換は、図3に示すような平衡を伴う。TianおよびHolick,J.Biol.Chem.270:8706-11,1995;Hirsch,2000,VitaminD.Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology内,DOI:10.1002/0471238961.2209200108091819.a01
【0007】
本発明で使用する場合、量的な用語の「約」は、プラスまたはマイナス10%を意味する。例えば、「約3%」は、2.7~3.3%を包含し、「約10%」は9~11%を包含するであろう。更に、「約」が本発明で量的な用語と共に使用される場合、プラスまたはマイナス10%の値に加えて量的な用語の正確な値も検討され、記載されていると理解されている。例えば、用語「約3%」は、ちょうど3%を明示的に意図し、記載し、含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の方法に従うビタミンDを生成するための実験において、図1Aは282nmの波長での7-デヒドロコレステロール(1)、タキステロール(8)およびルミステロール(7)の検出および定量化のためのHPLCの記録を示し、図1Bは、265nmの波長でのビタミンD(4)およびプレビタミンD(6)の検出および定量化のためのHPLCの記録を示す。
図2】塩基の非存在下でビタミンDの生成に関し、対照として、図2Aは、282nmの波長での7-デヒドロコレステロール、タキステロールおよびルミステロールの検出および定量化のためのHPLCの記録を示し、図2Bは、265nmの波長でのビタミンDおよびプレビタミンDの検出および定量化のためのHPLCの記録を示す。
図3図3は、前駆体からビタミンDへの光変換および熱異性化に関する一般的なスキームを示す。
図4図4は、ビタミンD、ビタミンDおよびそれらの前駆体の構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書で記載されているように、ビタミンDは、塩基の存在下でプロビタミンである7-デヒドロコレステロールまたはエルゴステロールに照射と、照射で形成されたプレビタミンDの異性化によって製造規模で調製され得る。本発明の照射方法において、プレビタミンに加えて、その他の副生成物、特にルミステロールおよびタキステロールが形成される。
【0010】
上記のように、照射工程は、無機または有機塩基の存在下で生じる。無機塩基の場合、そのような塩基は、水酸化炭酸マグネシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、重炭酸マグネシウム、水酸化アンモニウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、マグネシウム-アルミナの水酸化物(magnesium-alumina hydroxide)、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、酸化アルミニウムマグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムおよび合成ハイドロタルサイトまたはこれらの組合せからなる群から選択することができる。このリストは、限定を意図したものではない。
【0011】
有機塩基の場合、そのような塩基は、脂肪族アミンまたは芳香族アミンからなる群から選択することができ、ある種の実施形態にて、メチルアミン、エチルアミン、およびイソプロピルアミン、フェニルアミン(別名、アニリン)、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ヒスチヂン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミンおよびN-メチルピロリジンまたはこれらの組合せからなる群から選択されてよい。このリストは限定を意図したものではない。
【0012】
本明細書に記載したように有機または無機塩基を含む溶液中で望ましい波長帯の光を用いて効果的に出発物質に照射するために、溶液は、好ましくは望ましい波長帯の光を実質的に透過する溶媒を含む。120分以内に所望の生成物に対して少なくとも出発物質の10%を変換し、より好ましくは少なくとも25%を変換し、更により好ましくは少なくとも35%を変換し、最も好ましくは45%を変換するために、用語「実質的に透過」は、十分な光が出発物質に到達できる溶媒を意味する。逆相C18カラムのHPLCおよび紫外線吸光度検出などの標準的な分析方法を用いて変換をモニターしてもよい。例えば、Kaushikら、Food Chemistry 151:225-30,2014を参照のこと。
【0013】
ある種の実施形態にて、溶液は、アルコール、アルケン、極性溶媒、シクロアルカン、エーテル、カルボン酸エステルおよび芳香族溶媒またはこれらの混合物からなる群から選択される溶媒を含む。好ましい実施形態では、溶液は、アセトニトリル、トルエン、ピリジン、トリクロロエチレン、アセトン、1,2-エタンジオール、エタノール、メタノール、イソプロパノール、ジエチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジエチルアミン、クロロホルム、アニソール、ベンゼン、1-ブタノール、クロロホルム、シクロヘキサン、酢酸ブチル、ヘキサン、2-プロパノール、1-ヘキセン、ナフタレン、テトラヒドロフラン、m-キシレン、p-キシレン、o-キシレン、n-メチル-2-ピロリドン、1,3-ブタジエンおよびヘキサデカンまたはこれらの混合物からなる群から選択される溶媒を含む。このリストは限定を意図したものではない。塩基の選択は、望ましい溶媒における混和性を基準にして調製しても良い。
【0014】
塩基:溶媒の相対比は、1:99~100:0の範囲で変動させることができる。好ましい実施形態では、飽和またはニート溶液の塩基と溶媒の相対比は、体積比で5:95~100:0であり、より好ましくは10:90~100:0である。例として、トリエチルアミンは純度>99%のニート溶液として、ジベンジルエチレンジアミンは97%の溶液として、水酸化アンモニウムは30%の溶液として入手可能である。
【0015】
用語「アルカン」は、本明細書中および特許請求の範囲で使用されるときはいつでも飽和炭化水素化合物を意味する。その他の識別名はアルカン中、特定の基が存在すること示すために利用することができる(例えば、ハロゲン化アルカンは、アルカン中で1個または複数のハロゲン原子が存在し、同等数の水素原子と置き換わっていることを示す)。用語「アルキル基」は、IUPACによって明記された定義に従って本明細書で用いられ、アルカンから1個の水素原子を取り除くことにより形成された一価の基である。同様に、「アルキレン基」は、アルカンから2個の水素原子(1個の炭素原子から水素原子2個または2個の異なる炭素原子由来から水素原子1個)を取り除くことにより形成された基を意味する。「アルカン基」は、アルカンから(特定の基に対して必要に応じて)1個または複数の水素原子を取り除くことにより形成された基を意味する一般的な用語である。他に明示されない限り、「アルキル基」、「アルキレン基」および「アルカン基」は非環式または環式および/または直鎖または分枝鎖であり得る。第一級、第二級および第三級アルキル基は、アルカンの第一級、第二級および第三級炭素原子からそれぞれ1個の水素原子を取り除くことにより誘導される。n-アルキル基は、直鎖アルカンの末端炭素原子から水素原子を取り除くことにより誘導することができる。RCI(R≠H)、RCH(R≠H)およびR3C(R≠H)基は、それぞれ第一級、第二級および第三級アルキル基である。
【0016】
シクロアルカンは、側鎖含有または非含有の飽和環状炭化水素であり、例えば、シクロブタンがある。その他の識別名はシクロアルカン中、特定の基が存在することを示すために利用することができる(例えば、ハロゲン化シクロアルカンは、シクロアルカン中で1個または複数のハロゲン原子が存在し、同等数の水素原子と置き換わっていることを示す)。1つの環内二重結合または1つの環内三重結合を有する不飽和環状炭化水素は、それぞれシクロアルケンおよびシクロアルキンと呼ばれる。このような複数の結合を2つ以上有する、シクロアルカジエン、シクロアルカトリエンなどがある。その他の識別名は、シクロアルカン、シクロアルカジエン、シクロアルカトリエンなどに、特定の基が存在することを示すために利用することができる。
【0017】
「シクロアルキル基」は、シクロアルカンの環員炭素原子から水素原子を取り除くことにより誘導される一価の基である。
【0018】
同様に、「シクロアルキレン基」は、シクロアルカンから(その少なくとも1個が環員炭素)2個の水素原子を取り除くことにより誘導される基を意味する。したがって、「シクロアルキレン基」は、シクロアルカンから誘導され、同じ環員炭素から2個の水素原子が形式的に取り除かれる基、シクロアルカンから誘導され、2個の水素原子が2個の異なる環員炭素から形式的に取り除かれる基、およびシクロアルカンから誘導され、第一の水素原子が環員炭素から形式的に取り除かれ、第二の水素原子が環員炭素ではない炭素原子から形式的に取り除かれる基が挙げられる。シクロアルカン基は、シクロアルカンから(その少なくとも1個が環員炭素で特定の基に関して必要に応じて)1個または複数の水素原子を取り除くことにより形成された、一般化された基を意味する。
【0019】
用語「アルケン」は、本明細書中および特許請求の範囲で使用されるときはいつでも、1個の炭素-炭素二重結合を有し、一般式がC2nである直鎖または分岐鎖炭化水素オレフィンを意味する。アルカジエンは、2個の炭素-炭素二重結合を有し、一般式がC2n-2である直鎖または分枝鎖炭化水素オレフィンを意味し、アルカトリエンは、3個の炭素-炭素二重結合を有し、一般式がC2n-4である直鎖または分岐鎖炭化水素オレフィンを意味する。アルケン、アルカジエンおよびアルカトリエンは、更に、炭素-炭素二重結合の位置により識別することができる。その他の識別名は、アルケン、アルカジエンまたはアルカトリエン中、特定の基が存在、または存在しないことを示すために利用することができる。例えば、ハロアルケンは、1個または複数の水素原子がハロゲン原子で置換されたアルケンを意味する。
【0020】
「アルケニル基」は、アルケンの任意の炭素原子から水素原子を取り除くことによりアルケンから誘導される一価の基である。したがって、「アルケニル基」は、水素原子がsp2混成(オレフィン性)炭素原子から形式的に取り除かれる基および水素原子が任意の他の炭素原子から形式的に取り除かれる基が挙げられる。例えば、他に明示されない限り、1-プロペニル(-CH=CHCH)、2-プロペニル(-CHCH=CH)および3-ブテニル(-CHCHCH=CH)基は、用語「アルケニル基」で包含される。同様に、「アルケニレン基」は、アルケンから2個の水素原子(1個の炭素原子から水素原子2個または2個の異なる炭素原子から水素原子1個)を形式的に取り除くことにより形成される基を意味する。「アルケン基」は、アルケンから(特定の基に関して必要に応じて)1個または複数の水素原子を取り除くことにより形成される一般化された基を意味する。炭素-炭素二重結合に関与する炭素原子から水素原子が取り除かれるとき、水素原子が取り除かれる炭素の位置化学、および炭素-炭素二重結合の位置化学の両方について明記することができる。その他の識別名は、アルケン中、特定の基が存在、または存在しないことを示すために利用することができる。アルケン基は、更に炭素-炭素二重結合の位置によっても識別される。
【0021】
アレーンは、側鎖含有または非含有の芳香族炭化水素である。(例えば、数ある中でベンゼン、トルエンまたはキシレン)。「アリール基」はアレーンの芳香環炭素から形式的に水素原子を取り除くことにより誘導される基である。アレーンは単一の芳香族炭化水素環(例えば、ベンゼンまたはトルエン)、縮合芳香族環(例えば、ナフタレンまたはアントラセン)および1個または複数の個々の芳香環が1つの結合を介して共有結合したもの(例えば、ビフェニル)、または非芳香族炭化水素基を介して共有結合したもの(例えば、ジフェニルメタン)を含有することができるという点に留意すべきである。「アリール基」の一例は、ここで示されているオルト-トリル(o-トリル)である。
【0022】
「エーテル」は、2個の炭化水素基が酸素原子によって連結したある種類の有機化合物のいずれかである。
【0023】
本発明で使用する場合、用語「極性溶媒」は9を超える水素結合の溶解度パラメータを有する溶媒を意味する。水素結合の溶解度パラメータの定義に関して、「ハンセン(Hansen)溶解度パラメータ」、Charles M.Hansen,ISBN0-8493-7248-8を参照のこと。
【0024】
本発明で使用する場合、用語「非極性溶媒」は、イオン性液体と不混和性の化合物を意味する。一実施形態では、用語「極性溶媒」は、ASTMD924-92に従って20℃かつ大気圧で測定され、5以下、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下の誘電定数を有する溶媒を意味する。好ましい実施形態では、用語「非極性溶媒」は、環式および非環式脂肪族炭化水素ならびに特に環式および非環式飽和脂肪族炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンなどのアルカンおよびシクロアルカンなど)を意味する。前述の非極性脂肪族炭化水素は、同一のまたは異なる、1個または複数のハロゲン原子によって置換されてよいが、非置換であることが好ましい。
【0025】
本発明で使用する場合、用語「カルボン酸エステル」はカルボン酸のモノまたはジエステルを意味し、それぞれ、次式を有する。
【0026】
C(O)ORまたはRO(O)CRC(O)OR
【0027】
式中、Rは、アルキル、シクロアルキルおよびアリールからなる群から独立して選択されるC1~C6ヒドロカルビル基であり、前記ヒドロカルビル基は少なくとも1個のヒドロキシル基で任意に置換され、RはC1~C4(1~4個の炭素原子)直鎖または分岐鎖アルキル基である。好ましい実施形態では、Rはエタノールまたはメタノールである。本発明で使用する場合、用語「カルボン酸」は、次式を有するカルボン酸を指すために使用されるであろう。
【0028】
C(O)OHまたはHO(O)CRC(O)OH
【0029】
式中、Rは、アルキル、シクロアルキルおよびアリールからなる群から独立して選択されるC1~C6ヒドロカルビル基であり、前記ヒドロカルビル基は少なくとも1個のヒドロキシル基で任意に置換される。
【0030】
好ましい実施形態では、選択された溶媒は、また反応の塩基として作用する。例として、溶媒かつ塩基の両方として作用するトリエチルアミンは、蒸留および共沸蒸留によって容易に取り除かれるという追加の利点も提供する。
【0031】
好適な照射条件は、石英、ポリエチレン、ポリプロピレンなどから作製されたリアクタなどの紫外線透過リアクタ中に7-デヒドロコレステロールまたはエルゴステロールの濃度が約0.5~10g/Lの間の溶液を入れ、その溶液を紫外線にさらすこと含む。あるいは、紫外線ランプを保持し、水中石英ウェル(submersible quartz well)を備えたリアクタを用いることができる。紫外線照射時間は、用いられる装置ごとに最適化される。本発明の方法では、いずれの異性体の損失も阻害され、反応は照射時間に影響を受けない平衡に達することができる。光化学反応の変換速度で反応液に補充するように出発物質である7-デヒドロコレステロールまたはエルゴステロールを連続的に添加することによって、約10g/L~約80g/Lの間の濃度またはそれより多くの反応生成物を得ることができる。続くであろう熱異性化工程に使用するために、好ましくは、20g/L~40g/Lまたはそれより多くの反応生成物を得る。熱異性化工程は、照射工程の時と同一の溶液中または異なる溶液中で実施することができる。最も好ましくは、その熱異性化工程が照射工程の時と同一の溶液中で実施されることである。
【0032】
典型的な光源として、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、発光ダイオード(LED)、337nmで機能する窒素レーザー、または353nmで機能するYAGレーザー、350nmで機能するXeFレーザー、ラマンシフトXeClレーザー、およびXeClまたはKrFエキシマレーザーによってポンピングされたブロードバンド色素レーザーを含み、最後の2つのレーザーは、必要な330~360nmの範囲で作用するように調整することができる。照射中の溶液の温度は、0~10℃の範囲内、または望む範囲内で保持してよい。
【0033】
ビタミンDが紫外線変換するためのピーク波長値は、約295nmに生じ、作用スペクトルが広く、有用な光は約245~360nmである。好ましい波長は、約250nm~約320nmの間であり、より好ましくは約270nm~約300nmの間である。例えば、Oldsら、NIWA UV Workshop,Poster53,Queenstown April 7-9,2010を参照のこと。所望であれば、照射は、例えば、第一の照射を245~260nm内の波長帯で実施し、続いて第二の照射を300~350nm内の波長帯で実施する工程であってよい。
【0034】
加熱は必ずしも必要ではないが、ビタミンDに変換する前駆体の変換速度は、温度とともに増加する。Yatesら、VitaminD内:Molecular,Cellular and Clinical Endocrinology.Proceedings of the Seventh Workshop on VitaminD,Rancho Mirage,California,USA,April 1988,pp.83-92.したがって、照射工程に続いて、生成物を少なくとも2時間、約50℃~約150℃間で加熱し、プレビタミンDまたはプレビタミンDからビタミンDまたはビタミンDへの変換を生じる「熱異性化」と呼ばれるプロセスを導くことが好ましい。ある種の実施形態にて、生成物を、3時間~16時間、約40℃~約120℃の間で加熱し、更により好ましくは約75℃~90℃の間で加熱する。
【0035】
通常、少なくとも10%のビタミンDまたはビタミンDの収率、より好ましくは少なくとも25%、更により好ましくは少なくとも35%および最も好ましくは45%、またはそれより多くが、出発物質から生成される。ある種の実施形態にて、著しい濃度のルミステロールおよびタキステロールが生成された。「著しい濃度」とは、本方法から生じる少なくとも10%の生成物を意味し、ルミステロールおよびタキステロールの全収率がビタミンDまたはビタミンDの収率未満という条件で、ルミステロールおよびタキステロールの1つまたは両方を含む。
【0036】
当業者でれば、本発明は、目的を実行し、前述の結果および利点、ならびにそれに備わるものを得るように良好に適合されていることが容易に分かる。本明細書で示される例は、好ましい実施形態の代表例であり、例示であり、本発明の範囲を限定するものとして意図されていない。
【0037】
実施例1
【0038】
7-デヒドロコレステロールの溶液(4.86mg/mL)をエタノール中で調製した。1ミリリットルの7-デヒドロコレステロール溶液を石英の試験管に移した。有機塩基(トリエチルアミン0.2mL)を添加した。試験管を密閉した。
【0039】
対照として、1ミリリットルの7-デヒドロコレステロール溶液を石英の試験管に移した。有機塩基の代わりにエタノール(0.2mL)を添加した。試験管を密閉した。
【0040】
双方の試験管を石英のイマージョンウェル(immersion well)に並べて取り付け、水浴中へと下げ、温度を5~10℃で維持した。始動後、Hanovia紫外線ランプ、型式No.608A036をウェル中に15分間置いた。両溶液に3時間、光を当てた。
【0041】
トリエチルアミン含有溶液および対照の双方をその後、2.5時間、85℃まで加熱した。双方の溶液を、図1A(塩基)および図1B(塩基)ならびに図2A(対照)および図2B(対照)に示すように、HPLCにて分析した。図1Aおよび図1Bの凡例:7-デヒドロコレステロール(1)、プレビタミンD3(6)、ルミステロール(7)、ビタミンD3(4)およびタキステロール(8)。得られた収率は以下の通りだった。
【表1】
【0042】
塩基の存在下にて操作が実施されるとき、はるかにより高いビタミンDの収率およびより高い7-デヒドロコレステロール残留物の回収率に加えて、3つの主要な異性体つまりプレビタミンD、ルミステロール、タキステロールが著しい濃度で試料中に確認された。一方、対照ではそれらのいずれも検出されなかった。低濃度のビタミンDならびに対照中に残留する微量のプロビタミンD(7-デヒドロコレステロール)とは対照的に試料中の対応する画分が高濃度であることは、トリエチルアミン非存在下の顕著な光化学分解とトリエチルアミン存在下の顕著な改善を示す証拠である。
【0043】
実施例2
【0044】
メチル-tert-ブチルエーテル中、29.05g/Lの濃度でプロビタミンD(7-デヒドロコレステロール)の溶液を調製した。溶液を等容積で2つに分けた。1つの溶液に0.1容積(0.1vol.)の塩基(DIBED=ジベンジルエチレンジアミン)を添加し、容積を等しくするために、対照に0.1容積(0.1vol.)のMTBEを添加した。
【0045】
それぞれの溶液、1ミリリットルを石英の試験管に移した。試験管を密閉した。双方の試験管を石英のイマージョンウェル(immersion well)に並べて取り付け、水浴中へと下げ、温度を5~10℃で維持した。始動後、Hanovia紫外線ランプ、型式No.608A036をウェル中に15分間置いた。両溶液に3時間、光を当てた。
【0046】
ジベンジルエチレンジアミン含有溶液および対照の双方をその後、2.5時間、85℃まで加熱した。双方の溶液をHPLCにて分析した。
【0047】
本実験からもたらされる変換を、次表に提示する。
【表2】
【0048】
本発明について、当業者が、製造し使用できるように、十分詳しく記載し例示してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなしに、様々な代替、修正および改善が、明らかであろう。本明細書で示される例は、好ましい実施形態の代表例であり、例示であり、本発明の範囲を限定するものとして意図されていない。当業者は、本発明の修正およびその他の使用を思いつくであろう。これらの修正は本発明の趣旨に包含され、特許請求の範囲によって規定される。
【0049】
本発明の精神および範囲から逸脱することなしに、様々な置換および修正を本明細書に開示した発明に行ってもよいことが、当業者には容易に明らかになるであろう。
【0050】
明細書に言及されたすべての特許および刊行物は、本発明が関連する分野の当業者の水準を示すものである。すべての特許および刊行物は、あたかも個々の刊行物が参照により援用されることを明確にかつ個別に示されることと同程度に参照により本明細書に援用される。
【0051】
本明細書において例示的に記載した発明は、本明細書に具体的に開示されていない、いかなる要素または限定がなくとも適切に実施され得る。したがって、例えば、それぞれの事例において、「含んでいる」、「から本質的になる」および「からなる」のいずれかの用語は、その他、2つの用語のどちらか一方で置き換えてよい。用いられてきた用語および表現は、説明のための用語として使用しており、限定するものではなく、示されかつ説明される特徴の任意の同等物またはその一部を排除するような用語および表現の使用は意図しておらず、特許請求される本発明の範囲内で様々な修正が可能であると認識されている。したがって、本発明が、好ましい実施形態および任意の特徴によって具体的に開示されてきたが、開示された本明細書の概念の修正および変更は、当業者により実施が可能であり、そのような修正および変更は、添付の特許請求の範囲により定義されるように本発明の範囲内であると見なされることを理解すべきである。
【0052】
その他の実施形態は、次の特許請求の範囲に記述されている。
図1
図2
図3
図4