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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電気化学式水素ポンプ
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/00 20060101AFI20221213BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20221213BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20221213BHJP
   C25B 9/77 20210101ALI20221213BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20221213BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20221213BHJP
【FI】
C25B15/00 302A
C25B1/02
C25B9/23
C25B9/77
C25B11/032
H01M8/0606
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021046010
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022144830
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼杉 將司
(72)【発明者】
【氏名】吉村 大士
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-152958(JP,A)
【文献】特開2008-198385(JP,A)
【文献】国際公開第2021/033366(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/00
C25B 1/02
C25B 9/23
C25B 9/77
C25B 11/032
H01M 8/0606
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素イオン伝導性を有する電解質膜と、
前記電解質膜の一方の主面側に積層されたアノード給電体と、
前記アノード給電体に対向配置される支持部材と、
前記電解質膜の他方の主面側に積層されたカソード給電体と、
を有する単位セルを備え、
前記アノード給電体は、複数の通気孔を有する親水性の導電性材料によって形成されると共に、前記支持部材と対向する面に撥水処理が施されており、
前記アノード給電体には、前記電解質膜から離れた側の主面から前記電解質膜に近接した側の主面に連通する前記通気孔が設けられ、
前記通気孔の断面積は、前記電解質膜に近接するにしたがって徐々に増大する、
電気化学式水素ポンプ。
【請求項2】
請求項記載の電気化学式水素ポンプであって、
前記アノード給電体は、前記電解質膜に近接した側に設けられた親水性の内側給電体と、前記電解質膜から離れた側に設けられた外側給電体と、を有し、
前記外側給電体に撥水処理が施されている、電気化学式水素ポンプ。
【請求項3】
請求項記載の電気化学式水素ポンプであって、
前記内側給電体の前記通気孔は、前記外側給電体の前記通気孔よりも大きい、電気化学式水素ポンプ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の電気化学式水素ポンプであって、
前記アノード給電体の全域に撥水処理を施してなる第1セル構造の単位セルと、前記アノード給電体の前記電解質膜から離れた側の主面側に撥水処理が施された第2セル構造の単位セルと、が厚さ方向に複数積層されたセル積層体を有し、
前記第2セル構造の単位セルは、前記セル積層体の積層方向の端部から離間した位置に配置されている、電気化学式水素ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素イオン伝導性を有する電解質膜を利用した電気化学式水素ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
水素イオン伝導性を有する電解質膜の両面に触媒層及び電極を設けた電気化学セルは、燃料電池や、水電解装置や、電気化学式水素ポンプ等に用いられている。例えば、電気化学式水素ポンプは、水電解装置と同様な構成であり、1段のみで燃料電池電気自動車等に必要な高圧水素を生み出すことができる。電気化学式水素ポンプは、機械式水素圧縮機に比べて小型で作動音が小さいといった利点がある。
【0003】
電気化学式水素ポンプにおいて、電解質膜の触媒層には給電体が接合されており、電解質膜は給電体によって挟持されて電解質膜・電極構造体が構成される。給電体には、例えば撥水処理を行ったカーボン繊維層や金属メッシュの積層体等の導電性を有する多孔質の材料が用いられる(特許文献1)。また、電気化学式水素ポンプでは、電解質膜に差圧が作用するため、アノード側の給電体に隣接してセパレータ等の支持部材が配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-020037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気化学式水素ポンプにおいて、電解質膜は、抵抗の増大を防ぐためにある程度の水分が含まれている必要がある。そのため、電気化学セルに供給するアノードガス(例えば、水素ガス)には、事前にバブラー等で水分(水蒸気)が添加されている。
【0006】
ところが、電気化学水素ポンプの運転条件やレイアウト条件によっては、温度が所定温度以上となり、電解質膜が乾燥傾向となる場合がある。その結果、電解質膜の抵抗値が増大して、両極間の電位差が上昇しすぎるのを防止するため、電気化学セルで処理する水素の量が制約されてしまうという問題がある。
【0007】
電解質膜への水分の供給量を増大させるべく、給電体の素材を変えることが考えられるが、差圧が作用した条件の下で、給電体と支持部材との摩擦抵抗が増大する場合があり、摩耗によって生じた破片により給電体の通気孔が閉塞するという問題が生じる。
【0008】
そこで、一実施形態は、電解質膜の乾燥を防ぎつつ、給電体の通気孔の閉塞を防止できる電気化学式水素ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下に開示の一観点は、水素イオン伝導性を有する電解質膜と、前記電解質膜の一方の主面側に積層されたアノード給電体と、前記アノード給電体に対向配置される支持部材と、前記電解質膜の他方の主面側に積層されたカソード給電体と、を有する単位セルを備え、前記アノード給電体は、複数の通気孔を有する親水性の導電性材料によって形成されると共に、前記支持部材と対向する面に撥水処理が施されており、前記アノード給電体には、前記電解質膜から離れた側の主面から前記電解質膜に近接した側の主面に連通する前記通気孔が設けられ、前記通気孔の断面積は、前記電解質膜に近接するにしたがって徐々に増大する、電気化学式水素ポンプにある。
【発明の効果】
【0010】
上記観点の電気化学式水素ポンプによれば、アノード給電体を親水性としているため、電解質膜の乾燥を防ぐことができる。また、アノード給電体が支持部材側に押圧されたとしても、撥水処理された部分が支持部材に対して容易に滑ることができるため、相互の摩耗を防いでアノード給電体の閉塞を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る電気化学式水素ポンプを含む水素圧縮機の構成を示す概略図である。
図2図1の電気化学式水素ポンプの断面図である。
図3図2の湿潤領域に配置される単位セルの構成を示す断面図である。
図4図2の乾燥領域に配置される単位セルの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、電気化学式水素ポンプについて好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本実施形態に係る水素圧縮機10は、図1に示すように、水素供給部12と、電気化学式水素ポンプ14と、電源装置16とを有する。水素供給部12は、電気化学式水素ポンプ14に水素ガスを供給する部分であり、水素供給源18と電気化学式水素ポンプ14の導入ポート20とを結ぶ水素ガス導入路22を有している。水素ガス導入路22の途上には、バブラー24が設けられている。バブラー24は、水を貯留した容器内に水素ガスを気泡として通過させることで、水素ガスに水蒸気を含有させる。水素ガス中の水蒸気の含有量は、容器内部の水温によって調整を行う。
【0014】
電気化学式水素ポンプ14は、導入ポート20と、排出ポート26と、高圧水素ポート28とを有する。導入ポート20は、水素ガス導入路22を通じて水素供給部12の水素ガスが導入される。電解質膜58(図3参照)で高圧側に輸送されなかった水素ガスが集められて排出される。電気化学式水素ポンプ14の排出ポート26は、循環流路30を介して、バブラー24に接続されている。
【0015】
高圧水素ポート28は、後述する単位セル46のカソード側に連通しており、高圧に圧縮された水素ガスが流出する。
【0016】
電源装置16は、電気化学式水素ポンプ14の各単位セル46に駆動電力を供給することで、高圧水素ガスを発生させる。本実施形態の水素圧縮機10は、概略以上のように構成される。以下、電気化学式水素ポンプ14の構成について説明する。
【0017】
図2に示すように、電気化学式水素ポンプ14は、複数の単位セル46が厚さ方向に積層してなるセル積層体32を備える。セル積層体32の積層方向の一端には第1端板34が配置され、セル積層体32の積層方向の他端には第2端板36が配置されている。セル積層体32は、第1端板34と第2端板36とにより挟持され、所定の締め付け荷重が付与される。
【0018】
第1端板34及び第2端板36は、セル積層体32より大きな平面形状に形成されている。第1端板34の外周部と第2端板36との外周部とを架け渡すように、側部38が設けられている。側部38は、セル積層体32の外周部を囲み、セル積層体32が配置された内部空間38aを気密に仕切る。側部38には、導入ポート20が設けられる。また、側部38の導入ポート20と対向する部分には、排出ポート26が設けられている。
【0019】
内部空間38aにおいて、導入ポート20に隣接する部分には、複数の単位セル46のアノード側に連通する分配流路40が設けられている。分配流路40は、図の矢印に示すように、導入ポート20から導入された水素ガスを分配し、各単位セル46のアノード側に供給する。
【0020】
また、内部空間38aにおいて、排出ポート26に隣接する部分には複数の単位セル46のアノード側に連通する集合流路42が設けられている。集合流路42では、矢印に示すように各単位セル46で消費されなかった余分な水素ガスが合流し、排出ポート26から排出される。
【0021】
セル積層体32の中央部には、各単位セル46を厚さ方向に貫通した連通孔44が形成されている。連通孔44は、各単位セル46のカソード側に連通する。連通孔44は、高圧水素ポート28に接続されており、各単位セル46のカソード側と高圧水素ポート28とを連通させる。各単位セル46で圧縮された高圧水素ガスは、連通孔44を通じて高圧水素ポート28に導かれる。
【0022】
上記のセル積層体32において、水素ガスの圧縮動作に伴って各単位セル46から熱が発生する。各単位セル46の熱は、主に第1端板34と第2端板36側から排熱される。そのため、第1端板34及び第2端板36に隣接する単位セル46bでは、運転時の温度が比較的低くなり、積層方向の中央付近の単位セル46a、46cでは、運転中の温度が相対的に高くなる。
【0023】
また、分配流路40で加湿された水素ガスが分配される際の流量分配により、導入ポート20に対向する部分の単位セル46a及び比較的低温な単位セル46bにおいて、十分な量の水分が確保される一方で、中央付近の単位セル46cで水分が不足する傾向がある。
【0024】
そこで、本実施形態では、以下に説明するように、セル積層体32の単位セル46a、46bは、凝縮水の排水性に優れた第1セル構造48(図3参照)とし、乾燥しやすい単位セル46cは水分供給能力を高めた第2セル構造50(図4参照)としている。
【0025】
図3に示すように、第1セル構造48は、電解質膜・電極構造体(以下、「MEA56」という。)と、アノードセパレータ52と、カソードセパレータ54と、流路部材55(支持部材)とを備える。MEA56は、アノードセパレータ52及びカソードセパレータ54により挟持される。アノードセパレータ52及びカソードセパレータ54は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、或いはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属薄板の断面を波形にプレス成形して構成される。
【0026】
MEA56は、電解質膜58と、電解質膜58の一方の面に設けられたアノード電極60と、電解質膜58の他方の面に設けられたカソード電極62とを有する。電解質膜58は、例えば、固体高分子電解質膜(陽イオン交換膜)であり、例えば、水分を含んだパーフルオロスルホン酸の薄膜よりなる。電解質膜58は、そのアノード側が繊維状の骨格を含む保護シート(図示せず)で補強されてもよい。また、電解質膜58は、フッ素系電解質の他、HC(炭化水素)系電解質を使用することができる。電解質膜58は、アノード電極60及びカソード電極62に挟持される。
【0027】
詳細は図示しないが、アノード電極60は、電解質膜58の一方の面に接合されるアノード触媒層を有する。アノード触媒層は、例えば白金等の触媒粒子を担持したカーボン多孔質体で構成される。アノード触媒層の上にはアノード給電体64が積層される。
【0028】
アノード給電体64は、金属やカーボン等の導電性を有する材料によって形成された板状の部材でありMEA56のアノード触媒層に当接してMEA56に電流を供給する。アノード給電体64は、アノード触媒層に、水素ガスを供給するガス拡散層を兼ねており、複数の通気孔68を有している。なお、アノード給電体64の通気孔68は、多孔質又は多層メッシュ構造等の水素ガスを厚さ方向に流通させる流路構造で構成される。
【0029】
アノード給電体64は、異なる径の通気孔68が形成された複数の金属メッシュを複数重ねて積層したものであってもよい。すなわち、通気孔68は必ずしも1本で厚さ方向に貫通するものに限定されず、複数の孔が厚さ方向に連通して構成されてもよい。この場合、図中の通気孔68の径の変化は、厚さ方向に存在する各層の孔のサイズを反映している。アノード給電体64は、例えば、メッシュ径の異なる金属メッシュで構成してもよく、又は直径の異なる炭素繊維シートを積層して構成してもよい。
【0030】
また、通気孔68は、電解質膜58から離れた側の主面から電解質膜58に近接した側の主面に貫通しした孔として設けられてもよい。この場合には、通気孔68の断面積は、電解質膜58に近接した側の主面に接近するにしたがって徐々に増大する。通気孔68を含むアノード給電体64の表面は、厚さ方向の全域に亘って撥水加工が施されており、撥水剤で覆われている。
【0031】
カソード電極62は、電解質膜58の他方の面に接合されるカソード触媒層を有する。カソード触媒層の上にはカソード給電体66が積層される。カソード給電体66は、例えば、メッシュ径の異なる複数の金属メッシュを積層して構成される。カソード給電体66を構成する各金属メッシュの孔のサイズ(メッシュ径)は、MEA56に接近する層ほど細かくなる。
【0032】
MEA56とカソードセパレータ54との間には、カソード電極62を通じて圧縮された水素ガスが流れる高圧水素排出流路70が設けられている。高圧水素排出流路70は、図2のセル積層体32を厚さ方向に貫通する連通孔44に連通する。
【0033】
図3に示すように、MEA56とアノードセパレータ52との間には、MEA56を支持する流路部材55が配置される。流路部材55は、アノードセパレータ52側に形成された流路溝72が形成されている。流路溝72は、流路幅方向に間隔を開けて複数設けられている。導入ポート20から流入した水素ガスは、流路溝72を通じてMEA56に供給される。
【0034】
流路溝72は、図の紙面に垂直な方向に延びている。流路溝72の幅方向側には凸部74が形成されている。凸部74はアノードセパレータ52に当接して、MEA56を支持する。流路溝72の図の紙面手前側の端部は、分配流路40に連通する。また、流路溝72の図の紙面奥側の端部は、集合流路42に連通する。流路溝72には、図の紙面手前側から紙面奥側に向かう向きで水素ガスが流通する。
【0035】
流路部材55の流路溝72の奥部72cには、貫通孔76の一端が開口している。貫通孔76は、流路部材55を厚さ方向に貫通し貫通孔76の他端は流路部材55のMEA56側の面に開口する。貫通孔76の他端は、アノード給電体64の通気孔68に接続され、流路溝72と通気孔68とを連通させる。貫通孔76は、流路溝72の延在方向(図の紙面奥行き方向)に間隔を開けて複数配置されている。
【0036】
第1セル構造48は以上のように構成される。次に、第2セル構造50について図4を参照しつつ説明する。なお、第2セル構造50の構成において図3の第1セル構造48と同様の構成には、同一符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0037】
図4に示すように、第2セル構造50は、MEA56Aと、アノードセパレータ52と、カソードセパレータ54と、流路部材55をと備える。MEA56Aは、電解質膜58と、電解質膜58の一方の面に設けられたアノード電極60Aと、電解質膜58の他方の面に設けられたカソード電極62とを有する。すなわち、第2セル構造50において、アノード電極60A以外の構成は第1セル構造48と同様であるので説明を省略する。
【0038】
アノード電極60Aは、図示しないアノード触媒層と、アノード触媒層の上に積層されたアノード給電体64Aを備える。アノード触媒層は、電解質膜58の一方の面に接合された触媒層であり、第1セル構造48のアノード触媒層と同じである。アノード給電体64Aは、アノード触媒層の上に積層される。
【0039】
本実施形態のアノード給電体64Aは、複数の通気孔78を有する導電性材料によって形成されると共に、電解質膜58から離れた側の主面64aにのみ撥水処理が施されている。アノード給電体64Aは、電解質膜58に近接した側に設けられた内側給電体80と、電解質膜58から離れた側に設けられた外側給電体82と、を有している。
【0040】
内側給電体80は、金属やカーボン等の導電性を有する親水性材料によって形成された板状の部材でありMEA56Aのアノード触媒層に当接している。ここで、親水性材料とは、静止した水をその材料の表面に接触させた際に、水の自由表面と材料の表面とのなす角(接触角)が90°以下となる材料である。内側給電体80は、撥水加工が施されておらず、第1セル構造48のアノード給電体64よりも、通気孔78の内部に水分を保持しやすい。内側給電体80(図4参照)の部分を貫通する通気孔78aの内径は、外側給電体82を貫通する部分の通気孔78bの内径よりも大きなサイズに形成されている。
【0041】
外側給電体82は、金属やカーボン等の導電性を有する材料によって形成された板状の部材であり、内側給電体80の上(外側)に積層されている。外側給電体82は、撥水加工が行われている。そのため、外側給電体82を貫通する通気孔78bの内表面は、撥水層で覆われている。なお、外側給電体82の通気孔78bと内側給電体80を貫通する通気孔78aとは、繋がって形成されている。内側給電体80の通気孔78aの内径は、外側給電体82の通気孔78bの内径よりも大きい。
【0042】
第2セル構造50は以上のように構成され、以下、実施形態に係る電気化学式水素ポンプ14の作用について説明する。
【0043】
図1に示すように、電気化学式水素ポンプ14には、バブラー24を通じて加湿された水素ガスが供給される。図2に示すように、導入ポート20から水素ガスが流入し、分配流路40で分配されて各単位セル46に供給される。
【0044】
図3に示す第1セル構造48の単位セル46a、46bでは、水素ガスは、流路部材55の流路溝72を流れて供給される。流路溝72を流れる水素ガスの一部は、貫通孔76を通じてアノード給電体64に供給される。水素ガスは、アノード給電体64の通気孔68を通じてアノード触媒層に供給されて触媒反応によりプロトン(H+イオン)に変換され、プロトンは電圧の作用下に電解質膜58の内部をカソード電極62側に輸送される。プロトンは、カソード触媒層において電気化学反応により水素ガス(高圧)に変換される。その結果、カソード電極62からは、圧縮された水素ガスが放出される。高圧の水素ガスは、高圧水素排出流路70を通じて、図2の連通孔44に集められ、高圧水素ポート28から排出される。
【0045】
水素ガスに含まれる水蒸気の一部は、電解質膜58の加湿に用いられる。電解質膜58の余剰な水分は、圧力勾配によってアノード電極60側に戻り、アノード電極60側に結露水が生じる。結露水は撥水処理が施されたアノード給電体64によってスムーズに排出され、流路部材55の流路溝72を流れる水素ガスと共に排出される。
【0046】
一方、単位セル46のうち、第2セル構造50を有する単位セル46cでは、図4に示す流路溝72を通じて水素ガスが供給される。第2セル構造50のアノード給電体64Aは、内側給電体80が親水性となっている。そのため、水分を保持する能力が高く、電解質膜58の乾燥を防止できる。また、アノード給電体64Aに形成された通気孔78は、電解質膜58に接近するにしたがってその断面積が増大する形状に形成されている。これにより、通気孔78に負圧が発生し、より効果的に水蒸気(水分)をアノード触媒層の近傍に供給できる。
【0047】
外側給電体82は、内側給電体80と流路部材55との間に配置されている。カソード側とアノード側との差圧によってMEA56Aがアノード側に付勢され、それに伴って外側給電体82が流路部材55に向けて押圧される。外側給電体82は、撥水処理が施されており、潤滑性に優れる撥水層で覆われている。そのため、外側給電体82と流路部材55とは相対的に滑りやすくなっている。この状態で、外側給電体82と流路部材55とは、部材の熱膨張や、圧力変動に伴う双方向の変形や、外部からの振動により互いに摺動する。外側給電体82と流路部材55との相互の摩耗が撥水層によって抑制されるため、摩耗による破片を生じにくく、その結果、通気孔78bの閉塞が防止される。このように、第2セル構造50においては、電解質膜58の乾燥を防ぐことができる、かつ通気孔78bの閉塞を防ぐことで水素ガスの処理量を維持できる。
【0048】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ14は、以下の効果を奏する。
【0049】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ14は、水素イオン伝導性を有する電解質膜58と、電解質膜58の一方の主面側に積層されたアノード給電体64、64Aと、アノード給電体64、64Aに対向配置される支持部材(例えば、流路部材55又はアノードセパレータ52)と、電解質膜58の他方の主面側に積層されたカソード給電体66と、を有する単位セル46を備え、アノード給電体64Aは、複数の通気孔78を有する親水性の導電性材料によって形成されると共に、支持部材と対向する面に撥水処理が施されている。
【0050】
上記の構成によれば、電解質膜58に十分な量の水分を供給できる。また、アノード給電体64Aが支持部材側に押圧されたとしても、撥水処理された部分で支持部材に対して相対的に滑らせることができるため、相互の摩耗を防ぐことができ、アノード給電体64Aの通気孔78bの閉塞を防止できる。
【0051】
上記の電気化学式水素ポンプ14において、アノード給電体64Aには、電解質膜58から離れた側の主面から電解質膜58に近接した側の主面に貫通する通気孔78が設けられ、通気孔78の断面積は、電解質膜58に近接するにしたがって徐々に増大してもよい。この構成によれば、通気孔78の内部に負圧が発生するため、より効率的に水蒸気を電解質膜58に供給できる。
【0052】
上記の電気化学式水素ポンプ14において、アノード給電体64Aは、電解質膜58に近接した側に設けられた親水性の内側給電体80と、電解質膜58から離れた側に設けられた外側給電体82と、を有し、外側給電体82に撥水処理が施されてもよい。この構成によれば、簡単な構造で電解質膜58から離れた側の主面にのみ撥水処理が施されたアノード給電体64Aを構成できる。
【0053】
上記の電気化学式水素ポンプ14において、内側給電体80の通気孔78aは外側給電体82の通気孔78bよりも大きくてもよい。
【0054】
上記の電気化学式水素ポンプ14においてアノード給電体64の全域に撥水処理を施してなる第1セル構造48の単位セル46a、46bと、アノード給電体64Aの電解質膜58から離れた側の主面側に撥水処理が施された第2セル構造50の単位セル46cとが厚さ方向に複数積層されたセル積層体32を有し、第2セル構造50の単位セル46cは、セル積層体32の積層方向の端部から離間した位置に配置されてもよい。
【0055】
この構成の電気化学式水素ポンプ14によれば、高温になり乾燥しやすい電解質膜58に対して十分な量の水分を供給することができ、電解質膜58の乾燥を防ぐことでき、水素ガスの処理量を維持できる。
【0056】
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0057】
14…電気化学式水素ポンプ 32…セル積層体
46、46a、46b、46c…単位セル 48…第1セル構造
50…第2セル構造 58…電解質膜
64、64A…アノード給電体 66…カソード給電体
68、78、78a、78b…通気孔 76…貫通孔
80…内側給電体 82…外側給電体
図1
図2
図3
図4