(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】炭酸ガスボリュームが高い炭酸飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
A23L2/00 T
A23L2/00 Z
(21)【出願番号】P 2021101303
(22)【出願日】2021-06-18
(62)【分割の表示】P 2018193109の分割
【原出願日】2017-05-16
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2016098334
(32)【優先日】2016-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】レー クイ
(72)【発明者】
【氏名】高橋 みずほ
(72)【発明者】
【氏名】指宿 大悟
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】Industrie delle Bevande,2000年,vol.29, no.165,pp.14-20
【文献】Beverage Japan,2010年,no.342, pp.3-4, 11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-2/84
FSTA/CAplus/REGISTRY/AGRICOLA/
BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
日経テレコン
Mintel GNPD
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1ppb~1000ppbのエレミシン
及び10ppb~1000ppbのミリスチシン
の少なくとも1つを含有し、
炭酸ガスボリュームが4.0v/v以上であり、
酸度が0.010g/100g~0.800g/100gである、
炭酸飲料。
【請求項2】
前記酸度に対する前記エレミシンの含有量の割合が1.25×10
-7~0.01
、及び/又は前記酸度に対する前記ミリスチシンの含有量の割合が1.25×10
-6~0.01
である、請求項1に記載の炭酸飲料。
【請求項3】
カラメル、カフェイン、ショ糖、及び高甘味度甘味料からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する請求項1
又は2に記載の炭酸飲料。
【請求項4】
容器詰め炭酸飲料である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の炭酸飲料。
【請求項5】
エレミシン
及びミリスチシン
からなる群から選ばれる少なくとも1つ、並びに酸味料を配合する工程、
製造直後の容器内の炭酸ガスボリュームを4.5v/v以上に調整する工程、
を含む、炭酸飲料の製造方法であって、
該炭酸飲料
がエレミシンを1ppb~1000ppb
及び/又はミリスチシンを10ppb~1000ppb
含有する、前記炭酸飲料の製造方法。
【請求項6】
エレミシン
及びミリスチシン
の少なくとも1つを含有する炭酸感増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガスボリュームが高い炭酸飲料、その製造方法、炭酸飲料の炭酸感増強剤、及び炭酸飲料の炭酸感を増強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸飲料の風味上の特徴として、飲用者への炭酸感の付与が挙げられる。炭酸飲料の炭酸感は飲料中の炭酸ガスボリュームに影響される。例えば、商品設計などの様々な事情から炭酸ガスボリュームを低く設定しなければならない場合、保存中に炭酸ガスボリュームが低下した場合、又は開栓後に炭酸ガスが脱気した場合等の理由によって、飲料の炭酸感が不足することがある。炭酸飲料の炭酸ガスボリュームが高い程、上記の問題が生じやすい傾向にあることが知られている。炭酸飲料の炭酸感を増強するために、カプシカム抽出物等から選ばれる辛味成分を使用すること(特許文献1)、ウンデカトリエン類等を使用すること(特許文献2)、及びリン酸塩を使用すること(特許文献3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-068749号公報
【文献】特開2015-047148号公報
【文献】特許第5774310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、炭酸感が増強された、炭酸ガスボリュームが高い炭酸飲料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
鋭意検討の結果、クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、又は5-MFと酸度の組み合わせが、炭酸ガスボリュームが高い炭酸飲料の炭酸感の増強に有効であることを見出した。このような知見に基づいて、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、限定されないが、以下を提供する。
(1)クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、及び5-MFからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、以下:
クマリンを10ppb~1000ppb含有する;
エレミシンを1ppb~1000ppb含有する;
ミリスチシンを10ppb~1000ppb含有する;
5-HMFを100ppb~5000ppb含有する;
5-MFを10ppb~1000ppb含有する;
の少なくとも1つの条件を満たし、
炭酸ガスボリュームが4.0v/v以上であり、
酸度が0.010g/100g~0.800g/100gである、
炭酸飲料。
(2)以下:
前記酸度に対する前記クマリンの含有量の割合が1.25×10-6~0.01;
前記酸度に対する前記エレミシンの含有量の割合が1.25×10-7~0.01;
前記酸度に対する前記ミリスチシンの含有量の割合が1.25×10-6~0.01;
前記酸度に対する前記5-HMFの含有量の割合が1.25×10-5~0.05;
前記酸度に対する前記5-MFの含有量の割合が1.25×10-6~0.01;
の少なくとも1つの条件を満たす、(1)に記載の炭酸飲料。
(3)クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、及び5-MFからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、飲料中のこれらの含有量の合計が1ppb~9000ppbであり、
炭酸ガスボリュームが4.0v/v以上であり、
酸度が0.010g/100g~0.800g/100gである、
炭酸飲料。
(4)前記酸度に対する、クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、及び5-MFの含有量の合計の割合が1.25×10-7~0.09である、(3)に記載の炭酸飲料。
(5)カラメル、カフェイン、ショ糖、及び高甘味度甘味料からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する(1)~(4)のいずれかに記載の炭酸飲料。
(6)容器詰め炭酸飲料である、(1)~(5)のいずれかに記載の炭酸飲料。
(7)クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、及び5-MFからなる群から選ばれる少なくとも1つ、並びに酸味料を配合する工程、
製造直後の容器内の炭酸ガスボリュームを4.5v/v以上に調整する工程、
を含む、炭酸飲料の製造方法であって、飲料が以下:
クマリンを10ppb~1000ppb;
エレミシンを1ppb~1000ppb;
ミリスチシンを10ppb~1000ppb;
5-HMFを100ppb~5000ppb;
5-MFを10ppb~1000ppb;
の少なくとも1つの条件を満たす、前記炭酸飲料の製造方法。
(8)クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、及び5-MFからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する炭酸感増強剤。
(9)炭酸ガスボリュームが4.0v/v以上及び酸度が0.010g/100g~0.
800g/100gである炭酸飲料の炭酸感の増強に用いる、(8)に記載の炭酸感増強剤。
(10)クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、及び5-MFからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する炭酸感増強剤を配合することを含んでなる、炭酸ガスボリュームが4.0v/v以上及び酸度が0.010g/100g~0.800g/1
00gの炭酸飲料の炭酸感を増強する方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<炭酸飲料>
本発明は炭酸飲料を提供する。炭酸飲料は、炭酸ガスを含有する飲料であればよく、清涼飲料水、非アルコール飲料、及びアルコール飲料等を広く包含する。炭酸飲料として、例えば、スパークリング飲料、コーラ、ダイエットコーラ、ジンジャーエール、サイダー、果汁風味が付与された炭酸水、チューハイ、スパークリングワイン等が例示できるが、これらに限定されない。
【0008】
本発明の炭酸飲料は、炭酸感増強成分を含有する。本明細書でいう炭酸感増強成分とは、飲料の炭酸感を増強する成分をいう。そして、炭酸感を増強するとは、炭酸感を強くすること、低下した炭酸感を回復させること、及び/又は炭酸感を維持すること等を意味する。ここで、炭酸感とは、飲料の飲用時に炭酸の刺激が感じられることをいう。飲料の炭酸感は、以下の実施例で説明するように、官能試験により評価することができる。炭酸感増強成分は、クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、又は5-MFからなる群より選ばれる少なくとも1つを含有する。
【0009】
クマリン(cumarin;C9H6O2;分子量146.15)、エレミシン(elemicin;C12H16O3;分子量208.25)、ミリスチシン(myristicin;C11H12O3;分子量192.21)、5-HMF(5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-(Hydroxymethyl)-2-furaldehyde);C6H6O3;分子量126.11)、及び5-MF(5-メチルフルフラール(5-methyl-2-furaldehyde);C6H6O2;分子量110.11)は、植物に存在するか、植物素材の加熱等により生成する化合物として知られている。これら化合物は、植物等の天然素材からの抽出及び/又は精製、微生物発酵等による生物学的な生産、化学的な合成、或いは市販品の購入等により入手することができる。
【0010】
炭酸感増強成分の炭酸飲料中の含量は、クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、及び5-MFの合計含量として規定することができる。例えば、炭酸飲料中の炭酸感増強成分の含量(これら5成分の合計含量)は、1ppb~9000ppb、好ましくは10ppb~7000ppb、より好ましくは100ppb~5000ppb、より好ましくは200ppb~2500ppb、さらに好ましくは400ppb~1250ppbとすることができる。これに替えて又はこれと組み合わせて、クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、及び5-MFの少なくとも1つについて、炭酸飲料中の含量を規定することができる。例えば、炭酸飲料が、以下:
・クマリンを10ppb~1000ppb、好ましくは50ppb~700ppb、さらに好ましくは100ppb~500ppb含有する;
・エレミシンを1ppb~1000ppb、好ましくは5ppb~100ppb、さらに好ましくは5ppb~50ppb含有する;
・ミリスチシンを10ppb~1000ppb、好ましくは100ppb~500ppb、さらに好ましくは100ppb~300ppb含有する;
・5-HMFを100ppb~5000ppb、好ましくは100ppb~1000ppb、さらに好ましくは100ppb~500ppb含有する;
・5-MFを10ppb~1000ppb、好ましくは100ppb~1000ppb、さらに好ましくは100ppb~500ppb含有する;
の少なくとも1つの条件を満たすようにすることができる。
【0011】
炭酸感増強成分(クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、及び5-MF)の測定は、クマリン、ミリスチシン、及びエレミシンはLC-MSで測定、5-MFはGC-MSで測定、5-HMFはLC-UVで測定することができる。本発明において、特に言及がなければ、当該手段により飲料中の炭酸感増強成分を測定するものとする。
【0012】
本発明の炭酸飲料の酸度は特定範囲に設定される。本明細書において、炭酸飲料について酸度というときは、総酸度を意味する。炭酸飲料の酸度は、いずれの酸を用いて調整してもよい。例えば、クエン酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸、シュウ酸、グルコン酸、コハク酸、乳酸、酢酸、硫酸、塩酸、フマル酸、フィチン酸、イタコン酸、又はその他の酸を用いて炭酸飲料の酸度を調整することができるが、これに限定されない。炭酸飲料の酸度は、飲料100g当たり、0.010g~0.800g、好ましくは0.020g~0.300g、より好ましくは0.060g~0.100gである。一態様として、炭酸飲料100g当たりの酸度は0.080gであるが、限定されない。酸度は次の方法で測定することができる。試料20mlをホールピペットで100mlのビーカーにとり、蒸留水を加えて総量を約50mlに調整した後、当該液にpHメーターの電極を挿入し、撹拌しながら1/10N水酸化ナトリウム溶液をビュレットから滴下し、pHメーターの目盛りが8.0を示すところを終点とする。水酸化ナトリウムの滴定量から酸度を計算する。なお、滴定には自動滴定装置を用いることもできる。
【0013】
本発明の炭酸飲料は、酸度に対する炭酸感増強成分の含有量の割合が特定範囲に設定される。本明細書において、酸度に対する炭酸感増強成分の含有量の割合とは、(炭酸感増強成分の含有量)/(酸度)を意味する。炭酸飲料における、酸度に対する炭酸感増強成分の含有量の合計の割合は、1.25×10-7~0.09、好ましくは6.25×10-6~0.07とすることができる。これに替えて又はこれと組み合わせて、酸度に対するクマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、及び5-MFの少なくとも1つの割合を規定することができる。例えば、炭酸飲料が以下:
・酸度に対するクマリンの含有量の割合((クマリンの含有量)/(酸度))が1.25×10-6~0.01、好ましくは6.25×10-6~0.007、より好ましくは1.25×10-5~0.005;
・酸度に対するエレミシンの含有量の割合((エレミシンの含有量)/(酸度))が1.25×10-7~0.01、好ましくは6.25×10-7~0.001、より好ましくは6.25×10-7~5×10-4;
・酸度に対するミリスチシンの含有量の割合((ミリスチシンの含有量)/(酸度))が1.25×10-6~0.01、好ましくは1.25×10-5~0.005、より好ましくは1.25×10-5~0.003;
・酸度に対する5-HMFの含有量の割合((5-HMFの含有量)/(酸度))が1.25×10-5~0.05、好ましくは1.25×10-5~0.01、より好ましくは1.25×10-5~0.005;
・酸度に対する5-MFの含有量の割合((5-MFの含有量)/(酸度))が1.25×10-6~0.01、好ましくは1.25×10-5~0.01、より好ましくは1.25×10-5~0.005;
の少なくとも1つの条件を満たすようにすることができる。
【0014】
本発明の炭酸飲料は、高い炭酸ガスボリュームを有する。炭酸飲料の炭酸ガスボリュームが高いと、炭酸感増強成分による炭酸感の増強効果が高くなり得る。本明細書において、炭酸ガスボリューム又はガスボリュームというときは、飲料中の炭酸ガスの含有量をいう。高い炭酸飲料の炭酸ガスボリュームとは、4.0v/v以上であればよいが、好まし
くは4.2v/v以上、より好ましくは4.5v/v以上、さらに好ましくは5.0v/v以上であってよいが、これに限定されない。一態様として、炭酸飲料の炭酸ガスボリュームの値は、限定されないが、製造後、室温で14日保存した時点での値とすることができる。ここで室温とは、1℃~35℃、好ましくは10℃~30℃などであってよく、例えば23℃であってよいが、これらに限定されない。また、これに替えて又は組合わせて、工場の製造直後の炭酸飲料の炭酸ガスボリュームを、4.5v/v以上、好ましくは5.
0v/v以上とすることができる。炭酸ガスボリュームの測定は、液温を20℃に調整し
た炭酸飲料をガス内圧計に固定し、一度ガス内圧計活栓を開いてガスを抜き、再度活栓を閉じ、ガス内圧計を振り動かして指針が一定の位置に達した時の値を読み取ることにより行うことができる。本明細書においては、別段の記載がなければ、ガスボリューム測定装置GVA-500A(京都電子工業株式会社製)を用いて、当該方法により炭酸飲料の炭酸ガスボリュームを測定する。
【0015】
本発明の炭酸飲料は、カラメル色素を更に含有することができる。カラメル色素の定義については、食品添加物公定書(1999年)に従うものとする。カラメル色素は、その製法によりI、II、III、及びIVに分類することができるが、そのいずれも本発明において用いることができる。カラメル色素は市販品を入手することが簡便である。その一方、カラメル色素として、砂糖又はブドウ糖に代表される炭水化物を熱処理することにより得られるもの、酸もしくはアルカリを加えて炭水化物を熱処理して得られるもの、又は果汁や野菜汁に含まれる糖分をカラメル化したものを使用することができるが、これらに限定されない。本発明においては、目的とする色合や風味、コスト、及び入手の容易性等の観点から、適切なカラメル色素を選択することができる。炭酸飲料におけるカラメル
色素の含有量は、発明の効果が発揮される範囲で適宜設定することができる。
【0016】
本発明の炭酸飲料は、カフェインを更に含有することができる。カフェインの供給源は特に限定されない。例えば、カフェインを含有する植物や食品をそのまま用いてもよいし、当該植物や食品から抽出し又は精製したカフェインを用いてもよいし、微生物等の生物学的手法により合成したカフェインを用いてもよいし、有機合成したカフェインを用いてもよいし、又は市販品を用いてもよい。より詳細には、食品へ配合することができる精製品(カフェイン含量98.5%以上の精製品)や、粗精製品(カフェイン含量50%~98.5%)の他、カフェインを含有する植物(茶葉、コーラの実、コーヒー豆、ガラナ等)の抽出物又はその濃縮物を、カフェインとして用いてもよい。本発明の炭酸飲料におけるカフェイン含量は、発明の効果が発揮される範囲で適宜設定することができる。
【0017】
本発明の炭酸飲料は、甘味料を更に含有することができる。甘味料として、ショ糖、ブドウ糖、果糖、異性化液糖、及び高甘味度甘味料を例示することができるが、これらに限定されるものではない。高甘味度甘味料として、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK、及びステビアを例示することができる。これらは、炭酸飲料が目的とするカロリーや風味に応じて適宜選択することができる。例えば、高甘味度甘味料の使用により低カロリーや無糖の炭酸飲料を調製することができる。例えば、ショ糖等の糖類の使用により有糖炭酸飲料を調製することができる。本発明の炭酸飲料における甘味料の含量は、発明の効果が発揮される範囲で適宜設定することができる。
【0018】
本発明の炭酸飲料は、香味増強成分としてバニリンを更に含有することができる。バニリンの配合により、炭酸感増強成分の香り立ちが増強される結果、炭酸飲料の炭酸感がより強くなり得るが、これに限定されるものではない。例えば、バニリンは、クマリン、エレミシン、又はミリスチンとの組み合わせが好ましく、クマリンとの組み合わせが特に好ましい。炭酸飲料中の香味増強成分の含量は、発明の効果が発揮される限り特に制限されないが、例えば、0.1ppb~100ppbとすることができる。バニリンの測定は、公知のいずれの測定法によって行うことができるが、上記炭酸感増強成分と同様、GC-MSで測定することができる。
【0019】
本発明の炭酸飲料は、香料(スパイス、シンジャー、レモン香料、ライム香料、梅香料、イチゴ香料、アップル香料、オレンジ香料、グレープフルーツ香料、及びグレープ香料)、酸味料(クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、リン酸、乳酸など)、着色料、果汁、果汁ピューレ、乳製品、強化剤(ビタミン類、カルシウム、ミネラル類、アミノ酸類など)、並びに保存料(安息香酸ナトリムなど)等の、一般的に用いられる成分を更に含むことができる。これらの成分は、発明の効果が発揮される範囲で、単独又は複数の組み合わせで用いることができ、その含有量も適宜設定することができる。
【0020】
本発明の炭酸飲料は、容器詰めとすることができる。容器は、いずれの形態・材質のものを用いてもよく、ガラス瓶、缶、樽、又はペットボトル等が例示される。用いる容器が、炭酸ガスが抜けやすい容器であるほど本発明の利点が得られ易い。また、容器は、密閉可能なものが好ましく、開栓した後に再度密閉可能なものがより好ましい。ペットボトルは開栓及び経時変化による炭酸ガスの損失が起こり得るため、本発明において特に好ましく用いることができる容器の一例である。なお、炭酸飲料の容器への充填方法も特に制限されない。
【0021】
<炭酸飲料の製造方法>
本発明の別の側面によれば、炭酸飲料の製造方法が提供される。当該製造方法は、炭酸ガスボリュームを調整する工程、炭酸感増強成分を配合する工程、酸味料を配合する工程、及び容器に充填する工程を含有する。また、香味増強成分としてバニリンを添加する工
程を含有してもよい。これらの工程の順序は特に限定されず、任意の順序で行うことができる。
【0022】
炭酸ガスボリュームを調整する工程は、飲料に炭酸ガスを供給することによって行われる。炭酸ガスの飲料への供給はいずれの方法によって行ってもよく、当業者は公知の方法から適宜選択することができる。炭酸飲料の炭酸ガスボリュームは、上記で記載された範囲に調整することができる。
【0023】
炭酸感増強成分を配合する工程により、炭酸飲料における炭酸感増強成分の含有量を上記で記載した範囲に調整することができる。炭酸感増強成分が、クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、及び5-MFからなる群より選ばれる少なくとも1つを含有すること、並びにこれらの飲料中の含有量も上記で説明した範囲に調整することができる。
【0024】
酸味料を配合する工程により、炭酸飲料の酸度を上記で記載した範囲に調整することができる。そして、当該工程により、酸度に対する炭酸感増強成分の含有量の割合を上記で記載した範囲に調整することもできる。
【0025】
香味成分としてバニリンを添加する工程により、炭酸飲料のバニリン含量を上記で記載した範囲に調整することができる。
本発明の製造方法は、カラメル、カフェイン、甘味料、及びその他の成分を配合する工程を更に含むことができる。これらの成分については上記で例示した通りであり、そして、本発明の効果が発揮される限り、これらの成分の含量は適宜調整することができる。
【0026】
<炭酸感増強剤及び炭酸感の増強方法>
本発明の別の側面によれば、炭酸感増強剤が提供される。炭酸感増強剤は、炭酸感増強成分を含有する。炭酸感増強成分は、クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、又は5-MFからなる群の少なくとも1つから選ばれる。そして、炭酸飲料の炭酸感を増強する方法が更に提供される。当該方法は、炭酸感増強剤を炭酸飲料に配合することを含んでなる。炭酸感増強成分、並びにクマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、及び5-MFは、炭酸飲料における含有量が上記で記載した範囲となるように配合することができる。炭酸感増強成分は、炭酸ガスボリューム及び酸度が上記で記載した範囲にある炭酸飲料に対して配合するのが好ましい。例えば、炭酸ガスボリュームが4.0v/
v以上及び酸度が0.010g/100g~0.800g/100gである炭酸飲料が挙げられる。また、酸度に対する炭酸感増強成分の含有量の割合を上記に記載した範囲にするとより好ましい。
<発明の効果>
本発明の炭酸感増強成分は、酸度が特定の範囲に調整された炭酸飲料の炭酸感を増強することができる。
【実施例】
【0027】
以下において本発明についてより詳細に説明する。以下の説明は、本発明の理解を容易にすることを目的とするものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0028】
[試験例1]クマリンの炭酸感への影響
以下の配合表(表1)に従い、ペットボトル容器(500ml容)詰の無糖炭酸飲料及び有糖炭酸飲料を調製した。炭酸飲料の酸度を0.08g/100gに調整した。各炭酸飲料にクマリンを配合し、飲料中のクマリン含量を0ppb~1000ppbに調整した(表2を参照)。炭酸飲料の調製時において、炭酸ガスボリュームは、5.0v/vとした
。
【0029】
【0030】
上記の炭酸飲料を23℃で14日間保存した。保存後の炭酸飲料の炭酸ガスボリュームは4.2v/vであった。各炭酸飲料を官能試験に供した。
(炭酸感の評価)
試験サンプルを5℃に冷却した後、専門パネラーが炭酸飲料の炭酸感を評価した。クマリンを含有しない(0ppb)炭酸飲料の炭酸感を3点とし、当該炭酸飲料に比べて、
1点:炭酸感が弱い
2点:炭酸感がやや弱い
3点:変わらない
4点:炭酸感が強い
5点:炭酸感が非常に強い
と評価した。各パネラーの評価点の平均を算出した(表2)。
【0031】
【0032】
無糖炭酸飲料に関して、クマリンを配合することによって炭酸感が増強されることが示された。クマリン含量を10ppb~1000ppbにすることによって、炭酸感が増強された。特に、クマリン含量を50ppb~500ppbにすることによって、炭酸感がより増強されることが示された。その一方、炭酸飲料の香味は、クマリン含量が1000ppb以上になると苦味を呈し、飲みにくくなることが示唆された。有糖炭酸飲料に関しても、無糖炭酸飲料と同様の結果であった。
【0033】
[試験例2]エレミシンの炭酸感への影響
クマリンの代わりにエレミシンを0ppb~1000ppbで配合(表3を参照)する以外は、試験例1に沿って炭酸飲料(酸度0.08g/100g、炭酸ガスボリューム5.0v/v)を調製した。23℃で14日間保存した後の炭酸飲料(炭酸ガスボリューム
4.2v/v)について、試験例1の条件に従って官能試験を行った。
【0034】
【0035】
無糖炭酸飲料に関して、エレミシンを配合することによって炭酸感が増強されることが示された。エレミシン含量を1ppb~1000ppbにすることによって、炭酸感が増強された。特に、エレミシン含量を5ppb~1000ppbにすることによって、炭酸感がより増強されることが示された。その一方、炭酸飲料の香味は、エレミシン含量が1
000ppb以上になると苦味を呈し、飲みにくくなることが示唆された。このことから、飲みやすさを考慮するのであれば、エレミシン含量は1000ppb以下又はそれ未満にすることができ、例えば、1ppb~1000ppb未満、1ppb~100ppb、5ppb~100ppb、又は5ppb~50ppbにすることができる。有糖炭酸飲料に関しても、無糖炭酸飲料と同様の結果であった。
【0036】
[試験例3]ミリスチシンの炭酸感への影響
クマリンの代わりにミリスチシンを0ppb~1000ppbで配合(表4を参照)する以外は、試験例1に沿って炭酸飲料(酸度0.08g/100g、炭酸ガスボリューム5.0v/v)を調製した。23℃で14日間保存した後の炭酸飲料(炭酸ガスボリュー
ム4.2v/v)について、試験例1の条件に従って官能試験を行った。
【0037】
【0038】
無糖炭酸飲料に関して、ミリスチシンを配合することによって炭酸感が増強されることが示された。ミリスチシン含量を10ppb~1000ppbにすることによって、炭酸感が増強された。特に、ミリスチシン含量を100ppb~1000ppbにすることによって、炭酸感がより増強されることが示された。その一方、炭酸飲料の香味は、ミリスチシン含量が1000ppbになると苦味を呈し、飲みにくくなることが示唆された。このことから、飲みやすさを考慮するのであれば、ミリスチシン含量は1000ppb以下又はそれ未満にすることができ、例えば、10ppb~1000ppb未満、10ppb~500ppb、又は100ppb~500ppbにすることができる。有糖炭酸飲料に関しても、無糖炭酸飲料と同様の結果であった。
【0039】
[試験例4]5-HMFの炭酸感への影響
クマリンの代わりに5-HMFを0ppb~5000ppbで配合(表5を参照)する以外は、試験例1に沿って炭酸飲料(酸度0.08g/100g、炭酸ガスボリューム5.0v/v)を調製した。23℃で14日間保存した後の炭酸飲料(炭酸ガスボリューム
4.2v/v)について、試験例1の条件に従って官能試験を行った。
【0040】
【0041】
無糖炭酸飲料に関して、5-HMFを配合することによって炭酸感が増強されることが示された。5-HMF含量を100ppb~5000ppbにすることによって、炭酸感が増強された。特に、5-HMF含量を1000ppb~5000ppbにすることによって、炭酸感がより増強されることが示された。その一方、炭酸飲料について、炭酸感を含めた香味を総合的に評価すると、100ppb~500ppbが好ましかった。有糖炭酸飲料に関しても、無糖炭酸飲料と同様の結果であった。
【0042】
[試験例5]5-MFの炭酸感への影響
クマリンの代わりに5-MFを0ppb~1000ppbで配合(表6を参照)する以外は、試験例1に沿って炭酸飲料(酸度0.08g/100g、炭酸ガスボリューム5.0v/v)を調製した。23℃で14日間保存した後の炭酸飲料(炭酸ガスボリューム4
.2v/v)について、試験例1の条件に従って官能試験を行った。
【0043】
【0044】
無糖炭酸飲料に関して、5-MFを配合することによって炭酸感が増強されることが示された。5-MF含量を10ppb~1000ppbにすることによって、炭酸感が増強された。特に、5-MF含量を100ppb~1000ppbにすることによって、炭酸
感がより増強されることが示された。その一方、炭酸飲料の香味は、5-MFの配合による影響を受けないことが示された。有糖炭酸飲料に関しても、無糖炭酸飲料と同様の結果であった。
【0045】
[試験例6]酸度の炭酸感への影響
以下の配合表(表7)に従い、無糖炭酸飲料及び有糖炭酸飲料を調製した。炭酸飲料100g当たりの酸度を0.001g~0.800gに調整した。各炭酸飲料にクマリンを配合し、飲料中のクマリン含量を100ppbに調整した。炭酸飲料の調製時において、炭酸ガスボリュームは、5.0v/vとした。
【0046】
【0047】
上記の炭酸飲料を23℃で14日間保存した。保存後の炭酸飲料の炭酸ガスボリュームは4.2v/vであった。試験例1に示した条件に従って、各炭酸飲料を官能試験に供した(表8)。
【0048】
【0049】
無糖炭酸飲料に関して、炭酸感増強成分の存在下において、酸度を調節することによって炭酸感が増強されることが示された。酸度を0.010g/100g~0.800g/100gにすることによって、炭酸感が増強された。特に、酸度を0.080g/100g~0.800g/100gにすることによって、炭酸感がより増強されることが示された。炭酸飲料の香味は、酸度0.800g/100gの場合に評価が低くなった。このことから、香味を考慮するのであれば、酸度は0.800g/100g未満にすることができ、例えば、0.010g/100g~0.800g/100g未満にすることができる。有糖炭酸飲料に関しても、無糖炭酸飲料と同様の結果であった。クマリンの代わりに、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、又は5-MFを配合した場合にも同様の結果になることが推察される。
【0050】
以上の結果より、炭酸感増強成分による炭酸感の増強効果が発揮されるためには、炭酸飲料の酸度が適切な範囲に調整されている必要があることが示された。
[試験例7]バニリンの影響
クマリンの含量を100ppbに調整する以外は、試験例1に沿って炭酸飲料(酸度0.08g/100g、炭酸ガスボリューム5.0v/v)を調製した。炭酸飲料を2群に分け、一方の群にバニリンを20ppbとなるように配合し、他の群はバニリンを未配合とした。23℃で14日間保存した後の炭酸飲料(炭酸ガスボリューム4.2v/v)について、以下の条件に従って香味(香り立ち)を評価した。
(香味(香り立ち)評価)
試験サンプルを5℃に冷却した後、専門パネラーによる炭酸飲料の炭酸感を評価した。バニリンを含有しない炭酸飲料の香味(香り立ち)を3点とし、当該炭酸飲料に比べて、
1点:香り立ちが弱い
2点:香り立ちがやや弱い
3点:変わらない
4点:香り立ちが強い
5点:香り立ちが非常に強い
と評価した。各パネラーの評価点の平均を算出した(表9)。
【0051】
【0052】
バニリンの配合により炭酸飲料の香り立ちが改善されることが示された。
[試験例8]炭酸ガスの影響
無糖炭酸飲料及び有糖炭酸飲料(酸度0.08g/100g)を、試験例1の配合表(表1)に従って調製した。飲料の炭酸ガスボリュームを4.2v/v又は3.5v/vに調整した。そして、クマリン、5-HMF、及び5-MFをそれぞれ単独で、以下のように飲料に配合した:
飲料中の含量が500ppbとなるようにクマリンを配合
飲料中の含量が5000ppbとなるように5-HMFを配合
飲料中の含量が1000ppbとなるように5-MFを配合
また、対照の炭酸飲料として、クマリン、5-HMF、及び5-MFのいずれも配合しない炭酸飲料を調製した。
【0053】
上記のように調製した炭酸飲料を23℃で14日間保存した。保存後の炭酸飲料を5℃に冷却し、試験例1に示したように炭酸飲料の炭酸感を評価した。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
クマリンを配合した炭酸飲料は、クマリンを配合しない炭酸飲料に比べて、炭酸感が増強されることが示された(表10)。炭酸ガスボリューム3.5v/vの炭酸飲料において、クマリンによる炭酸感の増強効果はほとんど得られなかった。一方、炭酸ガスボリューム4.2v/vの炭酸飲料において、クマリンによる炭酸感の増強効果は高かった。なお、炭酸飲料が無糖であるか有糖であるかは、炭酸感の増強効果に影響しなかった。5-HMF(表11)及び5-MF(表12)を配合した場合にも、上記と同様の結果が得られた。
【0058】
以上より、クマリン、5-HMF、及び5-MFは、炭酸飲料の炭酸感の増強効果を有するが、炭酸ガスボリュームが高い(好ましくは4.0v/v以上)程、効果的であることが判明した。エレミシン、ミリスチシンについても同様であった。高い炭酸ガスボリュームを有する飲料での上記のような効果は予想外であった。