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特許7193601CD47によって媒介される食作用を操作するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】CD47によって媒介される食作用を操作するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20221213BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221213BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20221213BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
A61K39/395 E ZNA
A61K39/395 T
A61P35/02
A61P43/00 121
C07K16/28
C07K16/46
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021166657
(22)【出願日】2021-10-11
(62)【分割の表示】P 2020126940の分割
【原出願日】2009-01-15
(65)【公開番号】P2022001593
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】61/011,324
(32)【優先日】2008-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/189,786
(32)【優先日】2008-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ジャイスワル シッダールタ
(72)【発明者】
【氏名】ウェイスマン アービング エル.
(72)【発明者】
【氏名】ジェイミーソン カトリオーナ ヘレン エム.
(72)【発明者】
【氏名】マジェティ ラビンドラ
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-518514(JP,A)
【文献】国際公開第2005/044857(WO,A1)
【文献】Blood(ASH Annual Meeting Abstracts), (2005), 106, Abstract.3260
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食細胞上のSIRPα受容体への、骨髄異形成症候群(MDS)細胞上のCD47の結合を妨げ、それにより食作用についてMDS細胞をターゲティングする、第1の抗体を含み、HAVCR2に特異的に結合する第2の抗体と組み合わせて用いるための、ヒト対象においてMDS細胞に対する食作用を増大させることによるMDSの治療において使用するための医薬。
【請求項2】
CD47のSIRPαとの結合を妨害する抗体が、CD47に特異的に結合する、請求項1記載の医薬
【請求項3】
第1の抗体が、ヒト化またはキメラモノクローナル抗体である、請求項1または2記載の医薬
【請求項4】
第2の抗体が、ヒト化またはキメラモノクローナル抗体である、請求項1または2記載の医薬
【請求項5】
第1の抗体および第2の抗体が、CD47およびHAVCR2に結合する二重特異性抗体として提供される、請求項1記載の医薬。
【請求項6】
MDSが、前白血病である、請求項1記載の医薬
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
細網内皮系(RES)は、免疫系の一部分である。RESは、細網性結合組織中に位置する食作用細胞、主として単球およびマクロファージからなる。RESは、1)循環血中の単球;2)肝臓、脾臓、リンパ節、胸腺、気道および消化管の粘膜下組織、骨髄、ならびに結合組織中の在住マクロファージ;ならびに3)リンパ節中の樹状細胞、皮膚中のランゲルハンス細胞、および中枢神経系中のミクログリア細胞を含むマクロファージ様細胞からなる。これらの細胞はリンパ節および脾臓中で蓄積する。RESは、病原体、血液循環中の粒子状物質、および老化または損傷した造血細胞をクリアランスする機能を果たす。
【0002】
先天性免疫応答において外来の細胞または粒子を排除するために、アポトーシス細胞およびネクローシス細胞などの死細胞の膜の外に提示され得るホスファチジルセリン(PS)にホスファチジルセリン受容体(PSR)が反応すると、マクロファージの媒介による食作用が誘導される。そして次に、PSとPSRの相互作用が、マクロファージによるアポトーシス細胞のクリアランスにおいて非常に重要な役割を果たす。マクロファージによって食作用が実行されると、IL-10、TGF-β、およびプロスタグランジンE2(PGE2)などの因子の増加によって炎症応答が下方調節される。先天性免疫および適応免疫の両方における炎症応答と抗炎症応答との厳密なバランスは、細胞の恒常性を維持し、外来性の侵入から宿主を保護する際に決定的に重要な役割を果たす。
【0003】
炎症と腫瘍進行との因果関係は、広く認められている概念である。現在、免疫系の生理的機能の内の1つは、形質転換細胞を認識し破壊することであるという癌免疫監視の概念がデータで裏付けられている。しかしながら、いくつかの腫瘍細胞は、免疫系による認識および破壊を回避することができる。腫瘍細胞が一旦エスケープすると、免疫系は、例えば腫瘍の血管新生を促進することによってそれらの増殖に関与し得る。
【0004】
適応免疫細胞および先天性免疫細胞の両方が腫瘍細胞の監視および排除に関与するが、単球/マクロファージは、迅速にコロニーを形成し、樹状細胞(DC)およびNK細胞を誘引し活性化するサイトカインを分泌し、その結果として、形質転換細胞に対する適応免疫応答を開始させることができるため、腫瘍における防御の最前線であり得る。
【0005】
免疫機構をエスケープする腫瘍は、免疫監視段階の間に起こる改変の結果であり得る。例として、一部の腫瘍細胞は、IFN-γ受容体シグナル伝達経路の構成要素の欠如または異常な機能など、抗原プロセシング経路および抗原提示経路に欠陥を持つようになり、それによって適応免疫応答からの回避が容易になる。他の腫瘍は、炎症誘発性危険シグナルの誘導を抑制して、例えば、DC成熟の障害をもたらす。最後に、多くの腫瘍細胞それら自体だけでなくマクロファージまたは調節性T細胞によっても産生され得る抗炎症性サイトカインIL-10およびTGF-βの過剰産生など免疫系の防御機能の阻害もまた、腫瘍エスケープを促進し得る。
【0006】
腫瘍は、蓄積した変異を介して無限増殖能力を獲得した腫瘍形成性癌細胞によって開始される異常器官と考えることができる。腫瘍を異常器官とするこの観点から考えると、腫瘍が発生する方法をより良く理解するために正常幹細胞生物学の原理を適用することができる。多くの観察結果から、正常幹細胞と腫瘍形成性細胞の類似性が適切であることが示唆されている。正常幹細胞および腫瘍形成性細胞の両方とも、大きな増殖能力および新しい(正常または異常)組織を生じる能力を有する。腫瘍および正常組織の両方とも、表現型特徴が異なり増殖能力が異なる細胞の異種性組合せから構成される。
【0007】
幹細胞は、自己複製によって自身を永続化させ、分化によって特定の組織の成熟細胞を生成する能力を有する細胞と定義される。大半の組織では、幹細胞はまれである。結果として、幹細胞の特性を研究するには、幹細胞をプロスペクティブに同定し、慎重に精製しなければならない。おそらく、幹細胞の最も重要かつ有用な特性は、自己複製という特性である。この特性を通じて、幹細胞と癌細胞との著しい類似点を見出すことができる:腫瘍はしばしば正常幹細胞の形質転換から生じ得、類似したシグナル伝達経路が幹細胞および癌細胞の自己複製を調節し得、癌は、腫瘍形成を推進する自己複製能力が無限である珍しい細胞を含み得る。
【0008】
癌細胞に特異的であるか、または癌細胞において特異的に上方調節される細胞表面マーカーの研究は、癌細胞の増殖を低減させるため、または癌細胞を枯渇させるための標的を提供する際に極めて重要である。骨髄性白血病のマーカー、特に、急性骨髄性白血病(AML)のマーカーが本明細書において提供される。本発明者らの研究により、食作用によるクリアランスをAML幹細胞が逃れるのを助ける際のこのマーカーの役割が明らかになった。AML幹細胞(AML SC)の食作用を増大させるため、ならびに造血幹細胞および前駆幹細胞の移植を改善するためにこのマーカーを使用するための方法が提供される。
【0009】
興味深いことに、ある種のマーカーは白血病幹細胞および造血幹細胞(HSC)に共通していることが示されている。正常な発達の間、HSCは血流を介して、胎児の生活および成人の生活における異所的微小環境に遊走する。血流中に一度入ると、HSCは、微小環境に落ち着く前に脾臓および肝臓の血管床を通過しなければならない。これらの血管床では、マクロファージは、血流から損傷細胞および外来粒子を除去する機能を果たす。さらに、炎症状態の間に、マクロファージの食作用はより活発になる。したがって、新しく到着する幹細胞は、付加的な保護を生じ得る場合を除いては、途中で貪食される可能性に直面する。内因性HSCが食作用によるクリアランスを逃れるメカニズムを検査することにより、造血幹細胞および前駆幹細胞の移植成功を改善するための方法への洞察が提供され得る。本発明は、これらおよび他のニーズを満たす。
【発明の概要】
【0010】
循環血中の造血細胞、例えば骨髄細胞を含む造血細胞の食作用を操作する方法が提供される。本発明のいくつかの態様において、循環血中の細胞は、特に、食作用からの保護が望ましい移植環境における、造血幹細胞または造血前駆細胞である。他の態様において、循環血中の細胞は、食作用の増大が望ましい白血病細胞、特に、急性骨髄性白血病(AML)である。本発明の一定の態様において、循環血中の造血細胞のマクロファージ食作用を操作する方法が提供される。本発明のさらに別の態様において、固形腫瘍の食作用を操作する方法が提供される。
【0011】
本発明のいくつかの態様において、造血幹細胞または造血前駆細胞は、マクロファージのような食作用細胞上のSIRPαと相互作用し、食作用を低減させるCD47模倣分子を宿主動物に提供することにより、循環血中の食作用から保護される。CD47模倣体は、可溶性CD47、保護しようとする細胞の表面にコーティングされたCD47、およびSIRPαのCD47結合部位に結合するCD47模倣体などでよい。本発明のいくつかの態様において、CD47は、融合タンパク質、例えば、Fc断片、例えば、IgG1 Fc、IgG2 Fc、IgA Fcなどに融合された可溶性CD47として提供される。
【0012】
他の態様において、腫瘍細胞、例えば、固形腫瘍細胞、白血病細胞などは、細胞表面上のCD47をブロックすることによって食作用の標的とされる。白血病細胞、特にAML細胞は、CD47発現の上方調節によってマクロファージ監視を回避することが示されている。CD47タンパク質を遮断する作用物質、例えば、CD47に結合し、CD47とSIRPαとの相互作用を妨げる抗体の投与が患者に施されると、食作用を介したAML細胞のクリアランスが増大する。他の局面において、CD47を遮蔽する作用物質は、1種または複数種のその他のAMLSCマーカー、例えばCD96などを対象とするモノクローナル抗体と組み合わせられ、これらの組成物は、単一の作用物質を使用する場合と比べて、AMLSCの食作用および排除を強化するにあたって相乗的であり得る。他の態様において、固形腫瘍の細胞は、細胞表面上に存在するCD47をブロックすることによって食作用の標的とされる。
【0013】
別の態様において、AML癌幹細胞をターゲティングするかまたは枯渇させるための方法が提供され、この方法は、AMLSCをターゲティングするかまたは枯渇させるために、CD47に特異的に結合する反応物に、細胞集団、例えば白血病患者の血液を接触させる段階を含む。一定の局面において、反応物は、細胞障害性物質、例えば、放射性同位体、化学療法剤、毒素などに結合された抗体である。いくつかの態様において、枯渇、例えば、急性骨髄性白血病患者のための自家移植で使用するための自己由来幹細胞産物(動員された末梢血または骨髄)の浄化は、細胞のエクスビボの集団において実施される。別の態様において、CD47に対する抗体を対象に投与することによって、ヒト対象において固形腫瘍の癌細胞をターゲティングするための方法が提供される。
[本発明1001]
CD47を介したシグナル伝達を調整する作用物質を導入することによって、ヒト対象において造血細胞の食作用を操作する方法。
[本発明1002]
造血細胞が、循環血中の造血細胞である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
造血細胞の集団とCD47模倣体とを含む組成物を対象に投与する段階を含む方法であって、該CD47模倣体がSIRPα受容体に結合し、かつ食作用を下方調節する、本発明1001の方法。
[本発明1004]
CD47模倣体が可溶性CD47である、本発明1003の方法。
[本発明1005]
CD47模倣体が、IgG1 Fcに融合された可溶性CD47を含む、本発明1003の方法。
[本発明1006]
前記細胞が造血幹細胞である、本発明1003の方法。
[本発明1007]
前記細胞が造血前駆細胞である、本発明1003の方法。
[本発明1008]
AML患者の血液細胞を、食作用を上方調節するCD47阻害物質と接触させる段階を含む、本発明1001の方法。
[本発明1009]
CD47阻害物質が、CD47に特異的に結合しかつSIRPα受容体とCD47との相互作用を阻害する抗体である、本発明1008の方法。
[本発明1010]
AMLSCをターゲティングするかまたは枯渇させるために、CD47に特異的に結合する抗体に、反応物血液細胞を接触させる段階を含む、AML癌幹細胞をターゲティングするかまたは枯渇させる方法。
[本発明1011]
前記抗体が細胞障害性物質に結合されている、本発明1010の方法。
[本発明1012]
細胞障害性物質が、放射性同位体、化学療法剤、および毒素からなる群より選択される、本発明1011の方法。
[本発明1013]
前記枯渇が、エクスビボの前記血液細胞において実施される、本発明1012の方法。
[本発明1014]
ヒト対象において固形腫瘍の癌細胞の食作用を増大させる方法であって、該癌細胞の食作用を上方調節するCD47阻害物質を含む組成物を該対象に投与する段階を含む、方法。
[本発明1015]
ヒト対象において固形腫瘍の癌細胞をターゲティングする方法であって、該癌細胞をターゲティングするために、CD47に特異的に結合する抗体を含む組成物を該対象に投与する段階を含む、方法。
[本発明1016]
CD47阻害物質が、CD47に特異的に結合しかつSIRPα受容体とCD47との相互作用を阻害する抗体である、本発明1015の方法。
[本発明1017]
前記抗体が細胞障害性物質に結合されている、本発明1015の方法。
[本発明1018]
前記抗体が二重特異性抗体である、本発明1015の方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】骨髄異形成症候群(MDS、青)、慢性骨髄性白血病、移行期(CML AP、緑)、および正常骨髄(赤)に由来するヒトHSCおよび前駆細胞におけるCD47発現のFACS解析。
図2】ET対PV。ヒト正常骨髄(赤)と比べた、本態性血小板血症(ET、青)および真性赤血球増加症(PV、緑)などのヒト骨髄増殖性障害のHSC、前駆細胞、および系統陽性細胞によるCD47発現のFACS解析。
図3図3A:正常骨髄(左)、骨髄化生を伴う多血症後骨髄線維症(PPMM)、およびCML急性転化の前駆細胞プロファイル。図3B:ヒト正常骨髄(赤)、UMPD(緑)、PV(青=ML)、非定型CML(オレンジ)のHSC、前駆細胞、および系統陽性細胞のCD47発現のFACS解析。
図4】疾患進行と共に正常骨髄(赤)と比べて増大した、CMML前駆細胞(青)によるCD47発現。
図5図5A~5B:(A)正常骨髄(左)およびAML(右)の前駆細胞プロファイル。(B)ヒト正常骨髄(赤)およびAML(青)のHSC、前駆細胞、および系統陽性細胞(芽球)のCD47発現のFACS解析。
図6】CD47は、AML LSCにおいての方が、それらの正常な対応物においてよりも高発現される。A:正常骨髄のHSC(Lin-CD34+CD38-CD90+)およびMPP(Lin-CD34+CD38-CD90-CD45RA-)、ならびにヒトAML試料に由来するLSC(Lin-CD34+CD38-CD90-)およびバルク白血病細胞における相対的なCD47発現をフローサイトメトリーによって測定した。様々な日の解析を説明するために、平均蛍光強度を細胞サイズおよび系統陽性細胞に対して正規化した。正常骨髄(赤、n=3)またはAML(青、n=13)の同じ試料は、異なる集団中の同じ記号で表示する。両側性のスチューデントのt検定を用いたところ、HSCとLSC(p=0.003)、HSCとバルク白血病(p=0.001)、MPPとLSC(p=0.004)、およびMPPとバルク白血病(p=0.002)の平均発現の差は統計学的に有意であった。対応のある両側性のスチューデントのt検定を用いたところ、バルクAMLと比べたAML LSCの平均発現の差は、統計学的に有意ではなかった(p=0.50)。B:インビトロおよび/またはインビボで操作した初代ヒトAML試料の臨床的特徴および分子的特徴。
図7】抗CD47抗体は、初代ヒトAML LSCのインビトロでのマクロファージ食作用を刺激する。2つの初代ヒトAML試料からFACSによってAML LSCを精製し、蛍光色素CFSEで標識し、アイソタイプ対照抗体(A)または抗CD47抗体(B)の存在下でマウス骨髄由来マクロファージと共にインキュベートした。免疫蛍光顕微鏡検査法により、蛍光標識したLSCがマクロファージ内部に存在するかどうかこれらの細胞を評価した。(C)マクロファージ100個当たりの摂取された細胞の数を算出することによって、各条件における食作用指数を決定した。
図8図8A~C:ヒトCD47に対するモノクローナル抗体は、ヒトマクロファージおよびマウスマクロファージによるヒトAML LSCの食作用を優先的に可能にする。A、B。CFSEで標識したAML LSCを、IgG1アイソタイプ対照抗体、抗CD45 IgG1抗体、または抗CD47(B6H12.2)IgG1抗体の存在下で、ヒト末梢血由来マクロファージ(A)またはマウス骨髄由来マクロファージ(B)と共にインキュベートした。免疫蛍光顕微鏡検査法により、蛍光標識したLSCがマクロファージ内部に存在するかどうかこれらの細胞を評価した(矢印で示した)。C。CFSEで標識したAML LSCまたは正常骨髄CD34+細胞を、指定した抗体の存在下でヒトマクロファージ(左)またはマウスマクロファージ(右)と共にインキュベートし、次いで、免疫蛍光顕微鏡検査法によって食作用について評価した。マクロファージ100個当たりの摂取された細胞の数を算出することによって、各条件における食作用指数を決定した。AML LSCでは、アイソタイプ抗体または抗CD45抗体処置の場合と抗CD47遮断抗体(B6H12.2およびBRIC126)処置の場合の差は、ヒトマクロファージおよびマウスマクロファージを用いたすべての対比較において統計学的に有意であった(p<0.001)。ヒトマクロファージに関しては、AML LSCと正常CD34+細胞の差はB6H12.2(p<0.001)およびBRIC126(p=0.002)の場合に統計学的に有意であった。
図9】抗CD47抗体は、初代ヒトAML LSCのインビトロでのマクロファージ食作用を刺激する。4つの初代ヒトAML試料からFACSによってAML LSCを精製し、蛍光色素CFSEで標識し、アイソタイプ対照抗体、アイソタイプを一致させた抗CD45抗体、または抗CD47抗体の存在下でヒト末梢血マクロファージと共にインキュベートした。(A)免疫蛍光顕微鏡検査法により、蛍光標識したLSCがマクロファージ内部に存在するかどうかこれらの細胞を評価した。マクロファージ100個当たりの摂取された細胞の数を算出することによって、各条件における食作用指数を決定した。(B)マクロファージを回収し、蛍光標識した抗ヒトマクロファージ抗体で染色し、フローサイトメトリーによって解析した。hMac+CFSE+という二重陽性事象によって、CFSEで標識したLSCを貪食したマクロファージが確認される。各試料を異なる色で表す。
図10図10A~B:ヒトCD47に対するモノクローナル抗体はインビボでAML LSC生着を阻害する。新生仔NOGマウスに移植する前に、3つの初代ヒトAML試料をIgG1アイソタイプ対照抗体、抗CD45 IgG1抗体、または抗CD47 IgG1抗体(B6H12.2)と共にインキュベートした。これらの細胞の一部分を、抗マウスIgG二次抗体で染色することによってコーティングに関して解析し、フローサイトメトリーによって解析した(A)。13週後、これらのマウスを屠殺し、ヒトCD45+CD33+骨髄性白血病細胞の百分率を求めるためにフローサイトメトリーによって骨髄を解析した(B)。抗CD47でコーティングした細胞とアイソタイプでコーティングした細胞(p<0.001)および抗CD45でコーティングした細胞(p=0.003)の両方との平均生着の差は統計学的に有意であった。
図11】CD47は、マウスの急性骨髄性白血病において上方調節されている。対照の非白血病動物と比べた、白血病性hMRP8bcrabl×hMRP8bcl2細胞の典型的な幹細胞(stem)および前駆細胞のプロットを示す。対照骨髄(a)および白血病性脾臓(b)由来のLin-c-Kit+Sca-1+にゲートをかけた細胞、ならびに対照骨髄(c)および白血病性脾臓(d)由来のLin-c-Kit+Sca-1-にゲートをかけた細胞は、白血病マウスの正常な造血の混乱(perturberance)を示す。出現率は、骨髄または脾臓の単核画分全体に対する百分率として示す。(e)定量的RT-PCRにより、白血病性BM細胞においてCD47が上方調節されていることが示される。白血病性BM細胞または対照hRMP8bcrabl×hMRP8bcl2 BM細胞のいずれかを移植し、次いで2~6週間後に屠殺した3セットのマウスから得たデータを示す。結果はβ-アクチンおよび18S rRNAの発現に対して正規化した。完全なBcl-2+ BM細胞を移植された対照と比べた変化率を決定した。誤差棒は、1 s.dに相当する。(f)ヒストグラムは、白血病マウス(灰色)および対照マウス(黒)のゲートをかけた集団におけるCD47の発現を示す。
図12A】ヒト骨髄性白血病におけるGMP増殖およびCD47上方調節。a)正常骨髄(BM)、ならびにaCML、BC CML、およびAMLにおける、骨髄共通前駆細胞(CMP)、巨核球赤血球前駆細胞(MEP)、および顆粒球マクロファージ前駆細胞(GMP)を含む骨髄系前駆細胞(CD34+CD38+Lin-)の代表的なFACSプロット。
図12B】ヒト骨髄性白血病におけるGMP増殖およびCD47上方調節。b)正常(赤;n=6)および急性骨髄性白血病(AML、青;n=6)の造血幹細胞(HSC;CD34+CD38-CD90+Lin-)および前駆細胞(CD34+CD38+Lin-)によるCD47発現の比較FACSヒストグラム。
図12C】ヒト骨髄性白血病におけるGMP増殖およびCD47上方調節。c)正常(赤)および慢性骨髄性白血病の造血幹細胞(HSC;CD34+CD38-CD90+Lin)および拘束された前駆細胞(CD34+CD38+Lin-)によるCD47発現の比較FACSヒストグラム。上側のパネル:正常(n=7)および慢性期CML(n=4)のHSC、前駆細胞、および系統陽性細胞。中央のパネル:正常(n=7)および移行期CML(n=7)のHSC、前駆細胞、および系統陽性細胞。下側のパネル:正常(n=7)および急性転化CML(n=4)のHSC、前駆細胞、および系統陽性細胞。
図13A】マウスCD47の過剰発現により、MOLM-13細胞の腫瘍形成能が増大する。a)MOLM-13細胞に、対照ウイルスまたはマウスCD47 cDNA(2型)を発現するウイルスのいずれかを形質導入した。TetまたはTet-CD47と呼ぶ得られた細胞株を、非形質導入MOLM-13細胞を有するRAG/共通γ鎖欠損マウスに競合的に移植した(5×105個のTet細胞(n=6)またはTet-47細胞(n=8)と5×105個のMOLM-13)。瀕死の際、GFPおよびヒトCD45キメラ化に関してマウスを解析した。
図13B】マウスCD47の過剰発現により、MOLM-13細胞の腫瘍形成能が増大する。b)ヒトCD45キメラ化および腫瘍病変サイズの測定に基づいて、造血組織におけるMOLM-13キメラ化を判定した。
図13C】マウスCD47の過剰発現により、MOLM-13細胞の腫瘍形成能が増大する。c)MOLM-13細胞およびTet MOLM-13細胞またはTet-CD47 MOLM-13細胞を競合的に移植したマウスの生存をプロットした。対照マウスは、注射部位の多量の腫瘍量が原因で死亡したが、造血組織中に生着はなかった。
図13D】マウスCD47の過剰発現により、MOLM-13細胞の腫瘍形成能が増大する。d)Tet-CD47 MOLM-13を移植した肝臓のヘマトキシリンおよびエオシン切片(200倍)。門脈周囲(矢印)および類洞(矢印の先)での腫瘍浸潤が明らかである。
図13E】マウスCD47の過剰発現により、MOLM-13細胞の腫瘍形成能が増大する。e)1×106個のTet MOLM-13細胞(n=5)またはTet-CD47 MOLM-13細胞(n=4)を、RAG2-/- Gc-/-マウスの右大腿に注射し、50~75日後に組織を解析し、骨髄中のMOLM-13細胞のキメラ化を判定した。
図13F】マウスCD47の過剰発現により、MOLM-13細胞の腫瘍形成能が増大する。f)大腿内にTet MOLM-13細胞またはTet-CD47 MOLM-13細胞を移植されたマウスの生存曲線。
図13G】マウスCD47の過剰発現により、MOLM-13細胞の腫瘍形成能が増大する。g) Tet-CD47 MOLM-13を移植したマウスおよび対照を移植したマウスにおける肝臓腫瘍形成および肝腫大の例。GFP蛍光から、腫瘍結節形成ならびにびまん性の浸潤が示される。
図14A】CD47の過剰発現によって、オプソニンを作用させていない肝臓MOLM-13細胞の食作用が妨げられる。a)Tet MOLM-13細胞またはTet-CD47 MOLM-13細胞を骨髄由来マクロファージ(BMDM)と共に2時間、4時間、または6時間インキュベートし、食作用指数を測定した。誤差棒は、1 s.dに相当する。(各時点でn=6)。
図14B】CD47の過剰発現によって、オプソニンを作用させていない肝臓MOLM-13細胞の食作用が妨げられる。b)Tet細胞またはTet-CD47細胞のいずれかと共にインキュベートしたBMDMのFACS解析。
図14C】CD47の過剰発現によって、オプソニンを作用させていない肝臓MOLM-13細胞の食作用が妨げられる。c)Tet MOLM-13細胞またはTet-CD47 MOLM-13細胞と共にインキュベートしたBMDMの2時間目および24時間目の顕微鏡写真(400倍)。
図14D】CD47の過剰発現によって、オプソニンを作用させていない肝臓MOLM-13細胞の食作用が妨げられる。d)Tet MOLM-13細胞またはTet-CD47 MOLM-13細胞をRAG2-/- Gc-/-マウスに移植し、2時間後に骨髄、脾臓、および肝臓のマクロファージを解析した。マクロファージのGFP+画分にゲートをかけている。結果は、3つの実験の代表である。
図15A】MOLM-13細胞におけるCD47の高発現は、腫瘍形成能力および食作用の回避に相関している。a)前述したようにして、Tet-CD47 MOLM-13細胞を高発現クローンと低発現クローンに分けた。ヒストグラムは、MOLM-13高発現(high)細胞(黒)、MOLM-13低発現(low)細胞(灰色)、およびマウス骨髄細胞(網掛け)におけるCD47発現を示す。MFI/FSC2(×109)から得られた値を表示している。
図15B】MOLM-13細胞におけるCD47の高発現は、腫瘍形成能力および食作用の回避に相関している。b)CD47hi MOLM-13細胞を移植したマウスにドキシサイクリンを2週間与えた。ヒストグラムは、未治療マウス(網掛け)および治療マウス(網掛け)におけるCD47発現レベルを示し、MFI/FSC2(×109)の値を表示している。
図15C】MOLM-13細胞におけるCD47の高発現は、腫瘍形成能力および食作用の回避に相関している。c)1×106個のCD47hi MOLM-13細胞を移植するか、CD47lo MOLM-13細胞を移植するか、またはCD47hi MOLM-13細胞を移植し、移植後2週目にドキシサイクリンを投与したRAG2-/- Gc-/-マウスの生存率。
図15D】MOLM-13細胞におけるCD47の高発現は、腫瘍形成能力および食作用の回避に相関している。d)剖検時、または1×106個のCD47hi MOLM-13細胞の移植、CD47lo MOLM-13細胞の移植、もしくは移植後2週目のドキシサイクリン投与を伴うCD47hi MOLM-13細胞の移植後75日目のマウスの肝臓および脾臓のサイズ。
図15E】MOLM-13細胞におけるCD47の高発現は、腫瘍形成能力および食作用の回避に相関している。e)剖検時、または1×106個のCD47hi MOLM-13細胞の移植、CD47lo MOLM-13細胞の移植、もしくは移植後2週目のドキシサイクリン投与を伴うCD47loi MOLM-13細胞の移植後75日目のマウスにおけるヒト細胞の骨髄および脾臓でのキメラ化。
図15F】MOLM-13細胞におけるCD47の高発現は、腫瘍形成能力および食作用の回避に相関している。f)元の細胞株(網掛け)と比べた、骨髄(白抜き(open))中に生着したCD47lo MOLM-13細胞におけるマウスCD47発現。MFI/FSC2(×109)の値を表示している。
図15G】MOLM-13細胞におけるCD47の高発現は、腫瘍形成能力および食作用の回避に相関している。g)2.5×105個のCD47hi MOLM-13細胞またはCD47lo MOLM-13細胞を5×104個のBMDMと共に2時間インキュベートした。食作用指数を表示している。
図15H】MOLM-13細胞におけるCD47の高発現は、腫瘍形成能力および食作用の回避に相関している。h)2.5×105個のCD47hi MOLM-13 RFP細胞およびCD47lo MOLM-13 GFP細胞を5×104個のBMDMと共に2時間インキュベートした。CD47hi MOLM-13 RFP細胞(赤)およびCD47loMOLM-13 GFP細胞(緑)の3つの個別試料の食作用指数を示す。
図15I】MOLM-13細胞におけるCD47の高発現は、腫瘍形成能力および食作用の回避に相関している。i) 2.5×105個のCD47hi MOLM-13 RFP細胞およびCD47lo MOLM-13 GFP細胞を5×104個のBMDMと共に24時間インキュベートした。顕微鏡写真は、明視野画像(左上)、RFP画像(右上)、GFP画像(左下)、および合成画像(右下)を示す。
図16】a)非白血病性Fas lpr/lpr hMRP8bcl-2(青)および白血病性Fas lpr/lpr hMRP8bcl-2(緑)の骨髄造血幹細胞(c-kit+Sca+Lin-)、骨髄系前駆細胞(c-kit+Sca-Lin-)または芽球(c-kit lo Sca-Lin-)におけるCD47発現のFACS解析。b)以前に説明されているようにして24、p210 bcr/ablを含むレトロウイルスをマウス骨髄に形質導入した。瀕死になった場合、マウスを屠殺し、脾臓を解析した。2匹の白血病マウスの脾臓(網掛け無しのヒストグラム)および野生型マウス由来の骨髄(網掛けしたヒストグラム)中のc-Kit+Mac-1+細胞におけるCD47発現を示す。c)ヒストグラムは、hMRP8bcrabl×hMRP8bcl2白血病マウス(赤)、hMRP8bcl2非白血病マウス(青)、および野生型マウス(緑)のゲートをかけた集団におけるCD47発現を示す。FITCを結合させた抗マウスCD47(Pharmingen)を用いて、CD47を染色した。
図17A】a)ヒト白血病細胞株および臍帯血HSCにおけるヒトCD47の発現(黒のヒストグラム)を示す。アイソタイプ対照の染色を灰色で示す。
図17B】b)バックグラウンドを超えるCD47 MFIは、FSC2で割ることによって細胞サイズに対して正規化した。各細胞型について得られる値を棒の上に示す。
図17C】c)HL-60細胞はマウス骨髄に生着する。5×105個の細胞をRAG2-/- Gc-/-動物の静脈内に注射し、4週間後にマウスを解析した。
図17D】d)細胞をCFSEで染色し、BMDMと同時培養した。2時間後に食作用事象を計数した。放射線照射する場合、2グレイの線量をJurkat細胞に与え、食作用アッセイ法に先立って16時間インキュベートした。
図18A】(a)IAP+/+マウス、IAP+/-マウス、およびIAP-/-マウスの骨髄に由来する幹細胞および前駆細胞の解析。幹細胞(左)は、系統-c-Kit+Sca-1+細胞にゲートがかけられている。骨髄系前駆細胞(右)は、系統-c-Kit+Sca-1+細胞にゲートがかけられている。骨髄全体における出現率を、ゲートをかけられた各集団の近くに示している。
図18B】(b)個々に選別したLT-HSCの7日目のコロニー形成量。G-顆粒球;M-マクロファージ;GM-顆粒球およびマクロファージ;GEMM-顆粒球、マクロファージ、赤血球、および巨核球;Meg-巨核球。
図18C】(c)9.5グレイの放射線線量を与えられ、図に示した細胞を移植されたレシピエントマウスの生存曲線。放射線照射の対照マウスは12~15日以内にすべて死亡した。各群についてn=5。
図18D】(d)移植後4週目の時点のCD45.1/CD45.2キメラ化のプロットの例。CD45.1マウスに50個のLT-HSC(CD45.2)および2×105個のCD45.1ヘルパー骨髄を移植した。細胞は、B220-CD3-Mac-1+側方散乱mid/hi細胞にゲートがかけられている。IAP-/-細胞は生着できない。
図18E】(e)50個または500個のIAP+/+細胞またはIAP-/-細胞を移植したマウスのキメラ化解析の要約。
図18F】(f)IAP+/+またはIAP-/-のc-Kit濃縮細胞を野生型BMDMと共にインキュベートした。結果は、3つの個別試料から算出した平均食作用指数を示す。誤差棒は、1s.dに相当する。
図18G】(g)2時間後に撮影した食作用アッセイ法の顕微鏡写真。-Kit濃縮細胞の遺伝子型を示す。
図19A】(a)Cy/Gを用いてマウスを動員し、2日目に骨髄を解析した。c-Kit+細胞におけるCD47発現レベルを示す。
図19B】(b)骨髄系前駆細胞のゲートおよび幹細胞のゲートを、動員後2日目の骨髄に関して示す。左のヒストグラムは、定常状態(網掛けヒストグラム)、動員後2日目(黒の線)、および動員後5日目(灰色の線)の骨髄LT-HSCおよびGMPにおけるCD47発現レベルを示す。
図19C】(c)Cy/G動員から0~5日目のGMPにおけるCD47の相対的MFI。定常状態のGMPが100に等しくなるように結果を正規化した。
図19D】(d)骨髄系前駆細胞のゲートおよび幹細胞のゲートを、LPS処置後2日目の骨髄に関して示す。ヒストグラムは、LPS後2日目(黒の線)、LPS後5日目(濃い灰色の網掛けヒストグラム)、定常状態(明るい灰色の網掛けヒストグラム)、およびIAP-/-(黒の網掛けヒストグラム)のLT-HSCおよびGMPにおけるCD47発現レベルを示す。
図19E】(e)2日目~5日目の、動員されたIAP+/+マウスおよびIAP-/-マウスの造血器官中のKLS細胞の評価。1日当たり遺伝子型当たり2匹のマウスを解析した。
図20】(a)IAP+/+ LT-HSC、IAP+/- LT-HSC、およびIAP-/- LT-HSCのCD47発現レベル。各群のMFI数値を示す。(b)IAP+/+マウス(上)またはIAP+/-マウス(下)の移植片のドナーキメラ化解析。移植後2週目、8週目、および40週目にマウスから採血した。致死線量以下の放射線を照射した類遺伝子性レシピエントにドナー細胞2×106個を移植した。
図21A】差次的なCD47発現に基づいた、同じ患者に由来する正常前駆細胞および白血病前駆細胞の同定および分離。A:標本SU008のLin-CD34+CD38-LSC濃縮画分におけるCD47発現をフローサイトメトリーによって測定した。CD47高発現細胞およびCD47低発現細胞を同定し、FACSを用いて精製した。左のパネルでは、系統陰性細胞にゲートがかけられているのに対し、右のパネルでは、Lin-CD34+CD38-細胞にゲートがかけられている。
図21B】差次的なCD47発現に基づいた、同じ患者に由来する正常前駆細胞および白血病前駆細胞の同定および分離。B:Lin-CD34+CD38-CD47lo細胞およびLin-CD34+CD38-CD47hi細胞を、骨髄系コロニーすべての増殖を支援できる完全メチルセルロースに播種した。14日後に、形態学的評価によって骨髄系コロニー形成を判定した。代表的なCFU-G/M(左)およびBFU-E(右)を提示する。
図21C】差次的なCD47発現に基づいた、同じ患者に由来する正常前駆細胞および白血病前駆細胞の同定および分離。C:Lin-CD34+CD38-CD47lo細胞を新生仔NOGマウス2匹に移植した。12週後、これらのマウスを屠殺し、ヒトCD45+CD33+骨髄性細胞およびヒトCD45+CD19+リンパ系細胞の存在について、フローサイトメトリーによって骨髄を解析した。
図21D】差次的なCD47発現に基づいた、同じ患者に由来する正常前駆細胞および白血病前駆細胞の同定および分離。D:Lin-CD34+CD38-CD47lo細胞を移植したマウスの骨髄から精製した正常骨髄HSC、バルクSU008白血病細胞、Lin-CD34+CD38-CD47hi細胞、Lin-CD34+CD38-CD47lo細胞、またはヒトCD45+細胞を、FLT3-ITD変異の存在に関してPCRによって評価した。野生型FLT3の産生物およびFLT3-ITDの産生物を表示している。
図22】ヒトAMLにおけるCD47発現の増大は、不良な臨床転帰に関連する。細胞遺伝学的に正常なAML患者132名(A、B)およびFLT3-ITD変異の無い患者74名のサブセット(C、D)の無再発生存(A、C)および全生存(B、D)。独立した学習用データセットからマイクロアレイ解析によって決定した最適閾値に基づいて、患者をCD47低発現群とCD47高発現群に層別化した(28%が高発現、72%が低発現)。有意性測定値は、2分類としてCD47発現モデルを処理する場合、p値の対数尤度推定値に基づいている。
図23A図23A~E:ヒトCD47に対するモノクローナル抗体はインビボでAMLを排除する。新生仔NOGマウスにAML LSCを移植し、8~12週後、末梢血(A、B)および骨髄(C~E)を、抗CD47抗体(B6H12.2)または対照IgG抗体で治療する前のベースライン生着に関して解析した(0日目)。毎日100μgを腹腔内注射してマウスを14日間治療し、終了時にマウスを屠殺し、ヒトCD45+CD33+白血病の百分率に関して末梢血および骨髄を解析した。A:フローサイトメトリーによって測定した、抗CD47抗体で治療した代表的マウスおよび対照IgGで治療した代表的マウスから得た末梢血における治療前および治療後のヒト白血病性キメラ化
図23B図23A~E:ヒトCD47に対するモノクローナル抗体はインビボでAMLを排除する。新生仔NOGマウスにAML LSCを移植し、8~12週後、末梢血(A、B)および骨髄(C~E)を、抗CD47抗体(B6H12.2)または対照IgG抗体で治療する前のベースライン生着に関して解析した(0日目)。毎日100μgを腹腔内注射してマウスを14日間治療し、終了時にマウスを屠殺し、ヒトCD45+CD33+白血病の百分率に関して末梢血および骨髄を解析した。B:治療過程の間の複数の日に評価した末梢血のヒト白血病性キメラ化の概要から、対照IgG治療と比べて、抗CD47抗体で治療したマウスにおいての方が白血病が消失していることが実証された(p=0.007)。
図23C図23A~E:ヒトCD47に対するモノクローナル抗体はインビボでAMLを排除する。新生仔NOGマウスにAML LSCを移植し、8~12週後、末梢血(A、B)および骨髄(C~E)を、抗CD47抗体(B6H12.2)または対照IgG抗体で治療する前のベースライン生着に関して解析した(0日目)。毎日100μgを腹腔内注射してマウスを14日間治療し、終了時にマウスを屠殺し、ヒトCD45+CD33+白血病の百分率に関して末梢血および骨髄を解析した。C:フローサイトメトリーによって測定した、抗CD47抗体で治療した代表的マウスおよび対照IgGで治療した代表的マウスから得た骨髄における治療前および治療後のヒト白血病性キメラ化。
図23D図23A~E:ヒトCD47に対するモノクローナル抗体はインビボでAMLを排除する。新生仔NOGマウスにAML LSCを移植し、8~12週後、末梢血(A、B)および骨髄(C~E)を、抗CD47抗体(B6H12.2)または対照IgG抗体で治療する前のベースライン生着に関して解析した(0日目)。毎日100μgを腹腔内注射してマウスを14日間治療し、終了時にマウスを屠殺し、ヒトCD45+CD33+白血病の百分率に関して末梢血および骨髄を解析した。D:0日目と比べた14日目の骨髄におけるヒト白血病性キメラ化の概要から、対照IgG治療と比べて、抗CD47抗体で治療したマウスにおいての方が白血病量が劇的に減少していることが実証された(p<0.001)。
図23E図23A~E:ヒトCD47に対するモノクローナル抗体はインビボでAMLを排除する。新生仔NOGマウスにAML LSCを移植し、8~12週後、末梢血(A、B)および骨髄(C~E)を、抗CD47抗体(B6H12.2)または対照IgG抗体で治療する前のベースライン生着に関して解析した(0日目)。毎日100μgを腹腔内注射してマウスを14日間治療し、終了時にマウスを屠殺し、ヒトCD45+CD33+白血病の百分率に関して末梢血および骨髄を解析した。E:対照IgG(パネル1、2)または抗CD47抗体(パネル4、5)のいずれかによる治療後の、SU004を移植したマウスから得た代表的なマウス骨髄腔のヘマトキシリン・エオシン染色切片。IgGで治療した骨髄は、単形性白血病芽球が詰まっていたのに対し、抗CD47抗体で治療した骨髄は低細胞性であったことから、ヒト白血病の消失が実証された。白血病が残存していた、抗CD47抗体で治療した数匹のマウスでは、貪食された核濃縮細胞を含むマクロファージが検出され、ヒト白血病の消失がとらえられた(パネル3、6の矢印)。
図24】CD47発現の増大から、DLBCLおよび卵巣癌の全生存率の低下が予測される。(A)びまん性大型B細胞リンパ腫に罹患した患者230名のコホート(p=0.01)。(B)進行期(III/IV)の卵巣癌に罹患した患者133名のコホート(p=0.04)。
図25】抗CD47抗体は、インビトロにおいて固形腫瘍幹細胞の食作用を可能にする。図に示した細胞をIgG1アイソタイプ抗体、抗HLA抗体、または抗CD47抗体の存在下でヒトマクロファージと共にインキュベートし、免疫蛍光顕微鏡検査法によって食作用指数を決定した。統計:膀胱癌細胞では、IgG1アイソタイプを抗HLA(p=0.93)および抗CD47(p=0.01)と比較した;正常膀胱尿路上皮では、IgG1アイソタイプを抗HLA(p=0.50)および抗CD47(p=0.13)と比較した;卵巣癌細胞では、IgG1アイソタイプを抗HLA(p=0.11)および抗CD47(p<0.001)と比較した。各データポイントはそれぞれ、別個の腫瘍試料または正常組織試料を表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
態様の詳細な説明
循環血中の造血細胞を含む造血細胞を操作する方法が提供される。本発明のいくつかの態様において、造血幹細胞または造血前駆細胞は、マクロファージのような食作用細胞上のSIRPαと相互作用し、食作用を低減させるCD47模倣分子を宿主動物に提供することにより、循環血中の食作用から保護される。他の態様において、白血病細胞は、細胞表面のCD47をブロックすることによって食作用の標的とされる。他の態様において、固形腫瘍の細胞は、細胞表面のCD47をブロックすることによって食作用の標的とされる。別の態様において、AML癌幹細胞をターゲティングするかまたは枯渇させるための方法が提供され、この方法は、AMLSCをターゲティングするかまたは枯渇させるために、CD47に特異的に結合する抗体に反応物血液細胞を接触させる段階を含む。別の態様において、CD47に対する抗体を対象に投与することによって、ヒト対象において固形腫瘍の癌細胞をターゲティングするための方法が提供される。
【0016】
本発明をさらに説明する前に、本発明は説明される特定の態様に限定されず、したがって、当然、変化し得ることを理解すべきである。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書において使用される専門用語は、特定の態様を説明することだけを目的とし、限定することを意図しないことも理解すべきである。
【0017】
ある範囲の値が提供される場合、文脈において特に規定がない限り、その範囲の上限値と下限値の間にある、その下限値の単位の10分の1までの各介在値、およびその記載範囲中の他の任意の記載値または介在値が本発明に包含されることが理解される。これらのより小さな範囲の上限値および下限値は、それらのより小さな範囲に独立に含まれてよく、また、本発明に包含されるが、記載範囲中の特に除外される任意の限界値に従うことを条件とする。記載範囲がこれらの限界値の一方または両方を含む場合、これらの含まれる限界値のいずれかまたは両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
【0018】
本明細書において説明する方法は、列挙した事象を論理的に可能である任意の順序で、ならびに事象を列挙した順序で行ってよい。
【0019】
他に規定されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において説明されるものと同様または等価な任意の方法および材料もまた、本発明の実践または試験において使用することができるが、好ましい方法および材料を以下に説明する。
【0020】
本明細書において言及される刊行物はすべて、これらの刊行物が関連して引用される方法および/または材料を開示および説明するために、参照により本明細書に組み入れられる。
【0021】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈において特に規定がない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。特許請求の範囲は任意の自由選択要素を除外するように立案してもよいことに、さらに留意されたい。したがって、本明細書は、「単に(solely)」および「だけ(only)」などの排他的用語を請求項の構成要素の詳説とともに使用するため、または「消極的」限定を使用するための先行基準となることが意図される。
【0022】
本明細書において考察される刊行物は、本出願の出願日より前にそれらの開示があったことを示すためだけに提供される。本明細書における何事も、以前の発明によるそのような刊行物に本発明が先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。さらに、提供される刊行物の日付は、実際の出版日と異なる場合があり、別個に確認する必要がある場合がある。
【0023】
定義
CD47ポリペプチド。ヒトCD47の3種の転写変異体(変異体1、NM 001777;変異体2、NM 198793;および変異体3、NM 001025079)は、CD47ポリペプチドの3種のアイソフォームをコードする。3種のアイソフォームの内で最も長いCD47アイソフォーム1(NP 001768)は323アミノ酸長である。CD47アイソフォーム2(NP 942088)は、305アミノ酸長である。CD47アイソフォーム3は、312アミノ酸長である。これら3種のアイソフォームは、最初の303個のアミノ酸の配列が同一である。アミノ酸1~8はシグナル配列を含み、アミノ酸9~142は可溶性断片であるCD47免疫グロブリン様ドメインを含み、アミノ酸143~300は膜貫通ドメインである。
【0024】
「CD47模倣体」には、SIRPα受容体に結合し活性化することによって、CD47と同様に機能する分子が含まれる。CD47模倣体として有用な分子には、天然に存在するCD47の誘導体、変異体、および生物学的に活性な断片が含まれる。「変異体」ポリペプチドとは、天然配列ポリペプチドとの配列同一性が100%未満である、以下に定義する生物学的に活性なポリペプチドを意味する。このような変異体には、天然配列のN末端もしくはC末端または天然配列の内部に1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されたポリペプチド;約1~40個のアミノ酸残基が欠失し、任意で1つまたは複数のアミノ酸残基に置換されているポリペプチド;および、アミノ酸残基が共有結合的に修飾され、その結果、得られる産物が天然に存在しないアミノ酸を有する、上記のポリペプチドの誘導体が含まれる。通常、生物学的に活性な変異体は、天然配列ポリペプチドとのアミノ酸配列同一性が少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約99%であるアミノ酸配列を有する。変異体ポリペプチドは、天然にまたは非天然にグリコシル化されていてよい。すなわち、ポリペプチドは、天然に存在する対応するタンパク質において見出されるグリコシル化パターンとは異なるグリコシル化パターンを有する。変異体ポリペプチドは、天然CD47タンパク質においては見出されない翻訳後修飾を有してよい。
【0025】
可溶性CD47の断片、特に生物学的に活性な断片、および/または機能的ドメインに対応する断片が、関心対象である。関心対象の断片は、典型的には、少なくとも約10アミノ酸長~少なくとも約15アミノ酸長であり、通常、少なくとも約50アミノ酸長であるが、CD47と同一であるアミノ酸ストレッチを断片が有すると考えられる約142アミノ酸長を通常は超えない。例えば、「少なくとも20アミノ酸長」の断片は、例えば、CD47のcDNAにコードされるポリペプチドに由来する20個またはそれ以上の連続したアミノ酸を含むと意図される。この文脈において、「約」は、具体的に挙げた値またはアミノ酸数個(5個、4個、3個、2個、もしくは1個)分大きいもしくは小さい値を含む。本明細書において説明するタンパク質変異体は、本発明の範囲内のポリヌクレオチドにコードされる。遺伝コードを用いて、対応する変異体を構築するのに適切なコドンを選択することができる。これらのポリヌクレオチドを用いてポリペプチドを作製することができ、公知の方法により、これらのポリペプチドを用いて抗体を作製することができる。
【0026】
「融合」ポリペプチドとは、異種ポリペプチドに融合または結合されたポリペプチドまたはその一部分(例えば、1つもしくは複数のドメイン)を含むポリペプチドである。例えば、融合可溶性CD47タンパク質は、天然配列の可溶性CD47ポリペプチドと共通の少なくとも1種の生物学的特性を有すると考えられる。融合ポリペプチドの例には、前述したように、CD47ポリペプチドの一部分と免疫グロブリン配列を組み合わせたイムノアドヘシン、および「タグポリペプチド」に融合された可溶性CD47ポリペプチドまたはその一部分を含むエピトープタグ付きポリペプチドが含まれる。タグポリペプチドは、抗体がそれに対して産生され得るエピトープを提供するのに十分な残基を有するが、CD47ポリペプチドの生物活性を妨げない程度に短い。適切なタグポリペプチドは、一般に、少なくとも6個のアミノ酸残基、通常は、約6個~60個の間のアミノ酸残基を有する。
【0027】
天然配列ポリペプチドの「機能的誘導体」は、天然配列ポリペプチドと共通の定性的生物学的特性を有する化合物である。「機能的誘導体」には、対応する天然配列ポリペプチドと共通の生物活性を有することを条件として、天然配列の断片、天然配列ポリペプチドおよびその断片の誘導体が含まれるが、それらに限定されるわけではない。「誘導体」という用語は、ポリペプチドのアミノ酸配列変異体およびそれらの共有結合修飾体の両方を包含する。可溶性CD47の誘導体および融合物は、CD47模倣分子として使用される。
【0028】
CD47ポリペプチドの最初の142個のアミノ酸は、CD47の細胞外領域を含む(SEQ ID NO: 1)。3種のアイソフォームの細胞外領域のアミノ酸配列は同一であり、したがって、アイソフォームのいずれかを用いて可溶性CD47を作製することができる。「可溶性CD47」は、膜貫通ドメインを欠いたCD47タンパク質である。可溶性CD47は、細胞表面に局在する代わりに、それを発現する細胞の外へ分泌される。可溶性CD47は、機能性を追加するために、例えば、インビボでの安定性を高めるために、別のポリペプチドに融合されてもよい。一般に、このような融合相手は、融合物として存在する場合に、可溶性CD47タンパク質のインビボ血漿半減期を延長することができる安定な血漿タンパク質であり、特に、そのような安定な血漿タンパク質は免疫グロブリン定常ドメインである。たいていの場合は、安定な血漿タンパク質は多量体型で、例えば、免疫グロブリンまたはリポタンパク質として通常存在し、同じまたは異なるポリペプチド鎖が通常はジスルフィド結合かつ/または非共有結合で結合されて、組み立てられた多鎖ポリペプチドを形成している。ヒトIg G1に融合された可溶性CD47が説明されている(Motegi S. et al. EMBO J. 22(11): 2634-2644)。
【0029】
安定な血漿タンパク質は、典型的には約30~2,000個の残基を有するタンパク質であり、天然環境において長い、すなわち約20時間より長い循環血中半減期を示す。適切な安定な血漿タンパク質の例は、免疫グロブリン、アルブミン、リポタンパク質、アポリポタンパク質、およびトランスフェリンである。典型的には、CD47の細胞外領域は、血漿タンパク質または可溶性CD47に長い半減期を与えることができるその断片のN末端において血漿タンパク質に融合されている。可溶性CD47の血漿半減期が約100%より長くなれば、十分である。
【0030】
通常、免疫グロブリンの定常領域のN末端に可溶性CD47のC末端が可変領域の代わりに融合されるが、N末端融合物もまた使用されてよい。典型的には、このような融合は、免疫グロブリン重鎖の定常領域の少なくとも機能的に活性なヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを保持し、重鎖には、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgA、IgM、IgE、およびIgD、通常、IgGクラスのタンパク質の1種または組合せが含まれ得る。また、定常ドメインのFc部分のC末端に、または重鎖のCH1もしくは軽鎖の対応する領域のN末端に直接融合される。通常、これは、適切なDNA配列を構築し、それを組換え細胞培養で発現させることによって遂行される。あるいは、公知の方法に従ってポリペプチドを合成してもよい。
【0031】
融合を行う正確な部位は決定的に重要ではない;CD47の生物活性、分泌、または結合特徴を最適化するために特定の部位を選択することができる。最適な部位は、日常的な実験法によって決定される。
【0032】
いくつかの態様において、ハイブリッド免疫グロブリンは単量体またはヘテロ多量体もしくはホモ多量体、および特に、二量体または四量体として組み立てられる。一般に、組み立てられたこれらの免疫グロブリンは公知の単位構造を有する。基本的な4鎖構造単位が、IgG、IgD、およびIgEが存在する形態である。より高分子量の免疫グロブリンでは、4鎖単位が繰り返されている;一般にIgMは、ジスルフィド結合によって結合された基本的な4鎖単位の五量体として存在する。IgA免疫グロブリン、および時折IgG免疫グロブリンもまた、多量体型で血清中に存在し得る。多量体の場合、各4鎖単位は同じまたは異なってよい。
【0033】
適切なCD47模倣体および/またはCD47融合タンパク質は、化合物スクリーニングにより、作用物質がCD47の生物活性を模倣する能力を検出することによって同定することができる。CD47の1つの生物活性は、マクロファージ上のSIRPα受容体の活性化である。候補作用物質の有効性に関する最初のスクリーニングとしてインビトロアッセイ法を行ってよく、通常、インビボアッセイ法は生物学的アッセイ法を裏付けるために実施される。望ましい作用物質は、SIRPα受容体活性化を一時的に妨害する際に有効である。望ましい作用物質は、例えば、生物学的分解が原因で、本質的に一時的である。
【0034】
CD47生物活性に関するインビトロアッセイ法には、例えば、ヒトマクロファージによるブタ細胞の食作用の阻害、SIRPα受容体への結合、SIRPαチロシンリン酸化などが含まれる。CD47生物活性に関する例示的なアッセイ法では、候補作用物質の存在下でヒトマクロファージ組成物と接触させる。これらの細胞を候補作用物質と約30分間インキュベートし、溶解させる。細胞溶解物を抗ヒトSIRPα抗体と混合して、SIRPαを免疫沈降させる。沈降したタンパク質をSDS PAGEによって分離し、次いでニトロセルロースに移し、ホスホチロシンに特異的な抗体でプローブする。CD47模倣体として有用な候補作用物質は、候補作用物質の不在下で観察されるリン酸化レベルと比べて少なくとも10%、または最大で20%、または50%、または70%、または80%、または最大で約90%、SIRPαチロシンリン酸化を増加させる。CD47生物活性に関する別の例示的なアッセイ法では、ヒトマクロファージによる造血細胞の食作用を測定する。CD47模倣体として有用な候補作用物質は、候補作用物質の不在下で観察される食作用レベルと比べて少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約50%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または最大で約90%、食作用を下方調節する。
【0035】
可溶性CD47または可溶性CD47-Fcをコードするポリヌクレオチドは、適切な発現ベクターに導入することができる。発現ベクターは適切な細胞中に導入される。一般に、発現ベクターは、プロモーター配列の近くに位置し、ポリヌクレオチド配列の挿入を与える好都合な制限部位を有する。転写開始領域、CD47遺伝子またはその断片、および転写終結領域を含む転写カセットを調製することができる。転写カセットは様々なベクター、例えば、プラスミド;レトロウイルス、例えば、レンチウイルス;およびアデノウイルスなどに導入することができ、これらのベクターは、普通は少なくとも約1日の間、もっと普通には少なくとも数日間~数週間くらいの期間、細胞中で一過性または安定に維持され得る。
【0036】
様々な操作をインビトロで実施してよく、または適切な宿主、例えば、大腸菌(E. coli)中で実施してもよい。各操作の後、得られた構築物をクローニングし、ベクターを単離し、DNAスクリーニングまたは配列決定して、その構築物の正確さを徹底することができる。配列は、制限分析または配列決定などによってスクリーニングすることができる。
【0037】
可溶性CD47は、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン交換クロマトグラフィーまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、プロテインGアフィニティークロマトグラフィー、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含む周知の方法によって、組換え細胞培養物から回収および精製することができる。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)を精製のために使用する。
【0038】
可溶性CD47はまた、直接単離されたか培養されたかを問わず、精製された細胞の産生物;化学合成手順による生成物;ならびに、例えば、細菌細胞、酵母高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む原核性宿主または真核性宿主から組換え技術によって産生させた産生物、から回収することができる。
【0039】
様々な濃度に対する差次的な応答を得るために、様々な濃度を用いて複数のアッセイ法を並行して実行してよい。当技術分野において公知であるように、典型的には、作用物質の有効濃度を決定するために、1:10または他の対数スケールの希釈から得られる濃度範囲を使用する。必要であれば、2回目の一連の希釈によってこれらの濃度をさらに精密にしてよい。典型的には、これらの濃度の内の1つが陰性対照としての機能を果たす。すなわち、濃度ゼロもしくは作用物質の検出レベル未満、または結合に検出可能な変化を与えない作用物質濃度以下の濃度である。
【0040】
スクリーニングするための関心対象の化合物には、多数の化学クラスの生物学的に活性な作用物質、主として有機分子が含まれるが、場合によっては、無機分子、有機金属分子、免疫グロブリン、キメラCD47タンパク質、CD47関連タンパク質、遺伝子配列などが含まれる。また、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合のために必要な官能基を含む有機低分子も関心対象であり、これらは典型的には、少なくとも1つのアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基、しばしば少なくとも2つの化学官能基を含む。候補作用物質は、1つまたは複数の上記の官能基で置換された、環式炭素構造体もしくは複素環系構造体、および/または芳香族構造体もしくは多環芳香族構造体をしばしば含む。また、候補作用物質は、ペプチド、ポリヌクレオチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造的類似体、またはそれらの組合せを含む生体分子の中にも存在する。
【0041】
化合物は、合成化合物または天然化合物のライブラリーを含む多種多様の供給源から得られる。例えば、多数の手段が、ランダム化されたオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む、生体分子を含む多種多様な有機化合物のランダム合成および指向性(directed)合成のために利用可能である。あるいは、細菌抽出物、真菌抽出物、植物抽出物、および動物抽出物の形態の天然化合物ライブラリーも利用可能であるか、または容易に作製される。さらに、天然または合成によって作製されたライブラリーおよび化合物は、従来の化学的手段、物理的手段、および生化学的手段によって容易に改変され、コンビナトリアルライブラリーを作製するために使用され得る。公知の薬理学的作用物質を指向性の化学的改変またはランダムな化学的改変、例えば、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化(amidification)などに供して、構造的類似体を作製することができる。
【0042】
「食作用を操作する」とは、介入処置が無い場合に観察される食作用レベルと比べて少なくとも約10%、または最大で20%、または50%、または70%、または80%、または最大で約90%の食作用の上方調節または下方調節を意味する。したがって、循環血中の造血細胞の食作用を低減させる状況において、特に、移植状況において、食作用の操作とは、介入処置が無い場合に観察される食作用レベルと比べて少なくとも約10%、または最大で20%、または50%、または70%、または80%、または最大で約90%の食作用の下方調節を意味する。
【0043】
CD47阻害物質。CD47阻害物質としての関心対象の作用物質には、CD47とSIRPα受容体の結合を妨げる特異的結合メンバーが含まれる。本明細書において使用される「特異的結合メンバー」または「結合メンバー」という用語は、特異的結合ペア、すなわち2つの分子、通常2つの異なる分子のメンバーを意味し、その際、これらの分子の内の1つ(すなわち、第1の特異的結合メンバー)は、他方の分子(すなわち、第2の特異的結合メンバー)に化学的手段または物理的手段によって特異的に結合する。本発明の方法において有用なCD47阻害物質には、元の特異的結合メンバーの類似体、誘導体、および断片が含まれる。
【0044】
好ましい態様において、特異的結合メンバーは抗体である。「抗体」または「抗体部分」という用語は、エピトープにフィットし認識する特異的形状を有する、ポリペプチド鎖を含む任意の分子構造体を含むと意図され、1つまたは複数の非共有結合性相互作用により分子構造体とエピトープの複合体が安定化される。本発明で使用される抗体は、ポリクローナル抗体でもよいが、モノクローナル抗体の方が、細胞培養または組換えによって複製することができ、改変して抗原性を減らすことができるため、好ましい。
【0045】
ポリクローナル抗体は、産生動物に抗原性組成物を注射することにより、標準プロトコールによって産生させることができる。例えば、HarlowおよびLane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988を参照されたい。完全なタンパク質、または大きめのタンパク質部分を使用する場合、そのタンパク質および適切なアジュバント(例えば、フロイントのアジュバント、フロイントの完全アジュバント、水中油型エマルジョンなど)で産生動物を免疫化することによって抗体を産生させることができる。小型のペプチドを使用する場合、そのペプチドを大型分子と結合させて免疫賦活性結合体を作製することが有利である。このような用途のために市販されている一般に使用される結合体タンパク質には、ウシ血清アルブミン(BSA)およびキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)が含まれる。特定のエピトープに対する抗体を産生させるために、完全配列に由来するペプチドを利用することができる。あるいは、タンパク質標的の比較的短いペプチド部分に対する抗体を生成するためには、卵白アルブミン、BSA、またはKLHなどのキャリアータンパク質にそのポリペプチドを連結させた場合に、優れた免疫応答が誘発され得る。あるいは、モノクローナル抗体の場合、刺激された免疫細胞、例えば、接種された動物の脾臓に由来する免疫細胞を単離することによってハイブリドーマを形成させることができる。次いで、細胞培養状態で無限に複製し、それによって、不死性の免疫グロブリン分泌細胞株を生じることができる骨髄腫細胞または形質転換細胞などの不死化細胞にこれらの細胞を融合させる。さらに、抗体または抗原結合断片は、遺伝子操作によって作製することもできる。ヒトに投与された場合に引き起こす免疫応答が少ないヒト化抗体、キメラ抗体、または異種ヒト抗体が、本発明で使用するのに好ましい。
【0046】
完全な免疫グロブリン(またはそれらの組換え対応物)のほかに、エピトープ結合部位を含む免疫グロブリン断片(例えば、Fab'、F(ab')2、または他の断片)が、本発明における抗体部分として有用である。このような抗体断片は、リシン、ペプシン、パパイン、または他のプロテアーゼによる切断によって、完全な免疫グロブリンから作製することができる。断片または最小限の免疫グロブリンは、組換え免疫グロブリン技術を利用して設計することができる。例えば、本発明で使用するための「Fv」免疫グロブリンは、ペプチドリンカー(例えば、ポリグリシン、またはαヘリックスもβシートモチーフも形成しない別の配列)によって軽鎖可変領域を重鎖可変領域に連結することによって作製することもできる。
【0047】
CD47阻害物質の有効性は、CD47活性を分析することによって評価する。前述のアッセイ法またはその改良型が使用される。例示的なアッセイ法では、候補作用物質の存在下または不在下で、AML SCを骨髄由来マクロファージとインキュベートする。細胞表面CD47の阻害物質は、候補作用物質の不在下での食作用と比べて少なくとも約10%、または最大で20%、または50%、または70%、または80%、または最大で約90%、食作用を上方調節すると考えられる。同様に、SIRPαのチロシンリン酸化レベルに関するインビトロアッセイ法では、候補作用物質の不在下で観察されるリン酸化と比べて少なくとも約10%、または最大20%、または50%、または70%、または80%、または最大約90%のリン酸化減少が示される。
【0048】
本発明の1つの態様において、作用物質または作用物質を含む薬学的組成物は、食作用細胞表面に存在するSIRPα受容体へのCD47の結合を検出可能な程度に阻害するのに有効な量で提供される。有効量は、当技術分野において日常的な実験に基づいた試験によって決定される。有効量は、移植される細胞の数、移植部位、および移植患者に特異的な因子によって変動し得る。
【0049】
「食作用細胞(phagocytic cell)」および「食細胞(phagocyte)」という用語は本明細書において同義的に使用され、食作用する能力がある細胞を意味する。食細胞には3つの主要なカテゴリーがある:マクロファージ、単核細胞(組織球および単球);多形核白血球(好中球)ならびに樹状細胞。
【0050】
「生物試料」という用語は、生物から得られる様々な試料タイプを包含し、診断的アッセイ法またはモニタリングアッセイ法において使用することができる。この用語は、血液および生物に由来する他の液体試料、固形組織試料、例えば、生検標本もしくは組織培養物またはそれに由来する細胞およびその子孫を包含する。この用語は、調達後に任意の方法で、例えば、試薬による処理、可溶化、または特定の成分の濃縮によって操作された試料を包含する。この用語は臨床試料を包含し、また、細胞培養中の細胞、細胞上清、細胞溶解物、血清、血漿、生物学的流体、および組織試料も含む。
【0051】
造血幹細胞(HSC)とは、本明細書において使用される場合、自己複製し、すべての造血系統を生じる能力を有する細胞集団を意味する。このような細胞集団は当技術分野において詳細に説明されている。造血前駆細胞には、骨髄系に拘束された前駆細胞(CMP)、リンパ系に拘束された前駆細胞(CLP)、巨核球前駆細胞、および多分化能前駆細胞が含まれる。一番最初に公知になった成体マウス骨髄中のリンパ系に拘束された細胞は、リンパ球共通前駆細胞(CLP)であり、一番最初に公知になった骨髄系に拘束された細胞は骨髄共通前駆細胞(CMP)である。重要なことには、これらの細胞集団は、インビトロの発生アッセイ法およびインビボの発生アッセイ法において、極めて高いレベルの系統忠実性(fidelity)を有している。これらの細胞の部分集合の包括的な説明は、Akashi et al. (2000) Nature 404(6774):193、米国特許第6,465,247号;および出願公開USSN 09/956,279 (骨髄共通前駆細胞);Kondo et al. (1997) Cell 91(5):661-7、および国際出願WO99/10478(リンパ球共通前駆細胞)において見出すことができ、Kondo et al. (2003) Annu Rev Immunol. 21:759-806にその総説がある(各文献は、参照により本明細書に具体的に組み入れられる)。組成物は、液体窒素温度で凍結させて長期間保存してもよく、解凍して使用することができる。このような組成物の場合、細胞は通常、10%DMSO、50%FCS、40%RPMI 1640培地中に保存される。
【0052】
本発明の方法で使用するための関心対象の集団は、実質的に純粋な構成物、例えば、少なくとも約50%のHSC、少なくとも約75%のHSC、少なくとも約85%のHSC、少なくとも約95%もしくはそれ以上のHSCを含むか;または、1種もしくは複数種の幹細胞集団および前駆細胞集団の組合せ、例えば、アフェレーシスによって得られた白血球などでよい。精製された細胞集団が望ましい場合、標的集団は、公知の技術に従って精製してよい。例えば、特に血液試料または骨髄試料を含む、白血球を含む集団は、造血幹細胞および造血前駆細胞に存在するマーカーに特異的な反応物で染色され、これらのマーカーは、主な幹細胞群および前駆細胞群を区別するのに十分である。これらの反応物、例えば抗体は、検出可能に標識されてもよく、または染色手順において間接的に標識されてもよい。
【0053】
関心対象の幹細胞/前駆細胞を選択するのに十分であるマーカーの任意の組合せが使用され得る。関心対象のマーカーの組合せはCD34およびCD38を含んでよく、造血幹細胞(CD34+、CD38-)を前駆細胞(CD34+、CD38+である)と区別する。HSCは、系統マーカーに対して陰性であり、CD90発現に関して陽性である。
【0054】
骨髄系統には、CMP、GMP、およびMEPと呼ばれる3種の細胞集団がある。これらの細胞はCD34+ CD38+であり、これらは、CD7、CD10、およびIL-7Rなどの早期リンパ系マーカーを含む複数の成熟系統マーカーに関して陰性であり、これらはさらに、マーカーCD45RA(少なくとも一部のクラスのサイトカイン受容体シグナル伝達を抑制的に調節することができるCD45のアイソフォーム)およびIL-3Rによって区別される。これらの特徴は、CD45RA- IL-3Rαlo(CMP)、CD45RA+IL-3Rαlo(GMP)、およびCD45RA- IL-3Rα-(MEP)である。CD45RA- IL-3Rαlo細胞は、GMPおよびMEPを生じ、少なくとも3分の1が単細胞レベルでGMコロニーとMegEコロニーの両方を生じる。3種の骨髄系前駆細胞はすべて、マーカーThy-1(CD90)、IL-7Rα(CD127);および系統マーカーのパネルに対して陰性に染色する;この系統マーカーには、ヒトの場合、CD2;CD3;CD4;CD7;CD8;CD10;CD11b;CD14;CD19;CD20;CD56;およびグリコホリンA(GPA)が含まれてよく、マウスの場合、CD2;CD3;CD4;CD8;CD19;IgM;Ter110;Gr-1が含まれてよい。マウスMEPサブセットを別として、前駆細胞はすべてCD34陽性である。マウスにおいて、前駆細胞サブセットはすべて、Sca-1(Ly-6EおよびLy-6A)陰性、ならびに高c-kitとしてさらに特徴付けることができる。ヒトにおいて、これら3種のサブセットはすべてCD38+である。
【0055】
リンパ球共通前駆細胞、すなわちCLPは、細胞表面で低レベルのc-kit(CD117)を発現する。ヒト、マウス、ラットなどにおいてc-kitに特異的に結合する抗体は当技術分野において公知である。あるいは、c-kitリガンド、スチール因子(steel factor)(Slf)を用いて、c-kitを発現する細胞を同定することもできる。CLP細胞は、高レベルのIL-7受容体α鎖(CDw127)を発現する。ヒトCDw127またはマウスCDw127に結合する抗体は、当技術分野において公知である。あるいは、リガンドを受容体IL-7に結合させることによって、細胞を同定する。ヒトCLPは、低レベルのCD34を発現する。ヒトCD34に特異的な抗体は市販されており、当技術分野において周知である。例えば、Chen et al. (1997) Immunol Rev 157:41-51を参照されたい。また、ヒトCLP細胞は、CD38陽性およびCD10陽性と特徴付けられる。また、CLPサブセットは、B220、CD4、CD8、CD3、Gr-1、およびMac-1を例とする系統特異的マーカーを発現しないという表現型を有する。CLP細胞は、造血幹細胞に特徴的なマーカーであるThy-1を発現しないものと特徴付けられる。さらに、CLPの表現型は、Mel-14-、CD43lo、HSAlo、CD45+、および共通サイトカイン受容体γ鎖陽性と特徴付けることができる。
【0056】
巨核球前駆(MKP)細胞は、CD34発現およびテトラスパニンCD9抗原に関して陽性である。CD9抗原は、4つの疎水性ドメインおよび1つのN-グリコシル化部位を有するアミノ酸227個の分子である。この抗原は広範囲で発現されるが、造血系統のある種の前駆細胞上には存在しない。MKP細胞は、フィブリノーゲンおよび他のいくつかの細胞外基質分子に対する血小板受容体である、糖タンパク質IIb/IIIaインテグリンとも呼ばれるCD41を発現し、これに対する抗体は、例えばBD Biosciences, Pharmingen, San Diego, CA.からカタログ番号340929、555466で市販されている。MKP細胞は、受容体型チロシンキナーゼ c-Kitを認識するCD117の発現に関して陽性である。抗体は、例えば、BD Biosciences, Pharmingen, San Diego, CAからカタログ番号340529で市販されている。MKP細胞はまた、系統陰性であり、Thy-1(CD90)発現に関して陰性である。
【0057】
本明細書において使用される「固形腫瘍」という語句は、通常は嚢胞も液体領域も含まない組織の異常な腫瘤を意味する。固形腫瘍は、良性または悪性であり得る。様々なタイプの固形腫瘍が、それらを形成する細胞のタイプに基づいて名付けられる。固形腫瘍の例は、肉腫、癌腫、リンパ腫などである。
【0058】
抗CD47抗体。CD47に結合するある種の抗体は、CD47とSIRPα受容体の相互作用を妨げる。抗体には、遊離抗体およびそれに由来する抗原結合断片、ならびに結合体、例えば、ペグ化抗体、薬物結合体、放射性同位体結合体、または毒素結合体などが含まれる。
【0059】
特異的エピトープまたはエピトープの組合せに対するモノクローナル抗体により、マーカーを発現する細胞集団のターゲティングおよび/または枯渇が可能になる。モノクローナル抗体を用いて様々な技術を利用して、マーカーを発現する細胞集団をスクリーニングすることができ、これらの技術には、抗体でコーティングした磁性ビーズを用いた磁気分離、固体マトリックス(すなわちプレート)に結合させた抗体を用いた「パンニング」、およびフローサイトメトリーが含まれる(例えば、米国特許第5,985,660号およびMorrison et al. Cell, 96:737-49 (1999)を参照されたい)。これらの技術により、生検標本の免疫組織化学において;ならびに、癌細胞によって血液および他の生物学的流体中に放出されるマーカーの存在を検出する際に、細胞の特定の集団をスクリーニングすることが可能になる。
【0060】
このような抗体のヒト化型もまた、本発明の範囲内である。ヒト化抗体は、抗原性が低いため、ヒトにインビボ適用するのに特に有用である。
【0061】
「二重特異性抗体」という語句は、複数のタンパク質を認識する合成抗体または組換え抗体を意味する。例には、二重特異性抗体2B1、520C9xH22、mDX-H210、およびMDX447が含まれる。エピトープの組合せに対する二重特異性抗体により、そのエピトープの組合せを発現する細胞集団のターゲティングおよび/または枯渇が可能になる。例示的な二重特異性抗体には、CD47とCD96、CD97、CD99、PTHR2、HAVCR2などの癌細胞マーカーとの組合せを標的とするものが含まれる。二重特異性抗体の作製は、文献、例えば、参照により本明細書に組み入れられるUSPN5989830、USPN5798229に説明されている。
【0062】
「治療」、「治療すること」、および「治療する」などの用語は、所望の薬理学的効果および/または生理的効果を得ることを一般に意味するために本明細書において使用される。この効果は、疾患もしくはその症状を完全もしくは部分的に予防するという点で予防的であってよく、かつ/または、疾患および/もしくは疾患に起因しうる有害作用に対する部分的もしくは完全な安定化もしくは治癒という点で治療的であってよい。本明細書において使用される「治療」は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の治療を包含し、(a)疾患もしくは症状に罹患しやすい可能性があるが、それを有するとまだ診断されていない対象において疾患もしくは症状が起こるのを予防すること;(b)疾患症状を抑制すること、すなわち、その発達を阻止すること;または(c)疾患症状を緩和すること、すなわち、疾患もしくは症状の退行を引き起こすこと、を含む。
【0063】
「レシピエント」、「個体」、「対象」、「宿主」、および「患者」という用語は、本明細書において同義的に使用され、診断、治療、または治療法が望まれる任意の哺乳動物対象、特にヒトを意味する。
【0064】
「宿主細胞」は、本明細書において使用される場合、組換えベクターまたは他の移入ポリヌクレオチドのレシピエントとして使用され得るか、または使用された、単細胞実体として培養される微生物または真核細胞もしくは真核細胞株を意味し、トランスフェクトされた元の細胞の子孫を含む。天然、偶発的、または意図的な変異が原因で、単一の細胞の子孫の形態またはゲノム相補物もしくは全DNA相補物が元の親と必ずしも完全に同一ではない場合があることが理解されよう。
【0065】
「癌」、「新生物」、「腫瘍」、および「癌腫」という用語は、本明細書において同義的に使用され、比較的自律的な増殖を示し、その結果、細胞増殖制御の著しい低下を特徴する異常増殖表現型を示す細胞を意味する。一般に、本出願における検出または治療のための関心対象の細胞には、前癌性(例えば良性)細胞、悪性細胞、前転移性細胞、転移性細胞、および非転移性細胞が含まれる。癌性細胞の検出は、特に関心対象である。「正常細胞」の文脈で使用される「正常」という用語は、形質転換されていない表現型の細胞、または検査される組織型の非形質転換細胞の形態を示す細胞を意味することを意図している。「癌性表現型」とは、一般に、癌のタイプによって変化し得る、癌性細胞に特徴的である様々な生物学的現象のいずれかを意味する。一般に、癌性表現型は、例えば、細胞の成長もしくは増殖の異常(例えば、制御不能な成長もしくは増殖)、細胞周期の調節の異常、細胞運動性の異常、細胞間相互作用の異常、または転移などに基づいて確認される。
【0066】
「治療的標的」とは、(例えば、発現および生物活性などの調整によって)その活性を調整すると、癌性表現型が調整され得る遺伝子または遺伝子産物を意味する。全体を通して使用されるように、「調整」とは、指定された現象の増加または減少を意味することを意図している(例えば、生物活性の調整とは、生物活性の増加または生物活性の減少を意味する)。
【0067】
移植方法
循環血中の造血細胞の食作用を操作する方法が提供される。本発明のいくつかの態様において、循環血中の細胞は、特に、食作用からの保護が望ましい移植環境における、造血幹細胞または造血前駆細胞である。他の態様において、循環血中の細胞は、食作用の増大が望ましい白血病細胞、特に、急性骨髄性白血病(AML)である。
【0068】
本発明のいくつかの態様において、造血幹細胞または造血前駆細胞は、マクロファージ上のSIRPαと相互作用し、マクロファージ食作用を低減させるCD47模倣分子を宿主動物に提供することにより、循環血中の食作用から保護される。CD47模倣体は、可溶性CD47、保護しようとする細胞の表面にコーティングされたCD47、およびSIRPαのCD47結合部位に結合するCD47模倣体などでよい。本発明のいくつかの態様において、CD47は、融合タンパク質、例えば、Fc断片、例えば、IgG1 Fc、IgG2 Fc、IgA Fcなどに融合された可溶性CD47として提供される。
【0069】
膜貫通領域を欠くタンパク質を生成するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、膜貫通領域をコードするポリヌクレオチド配列の直前に停止コドンを導入することによって、可溶性CD47を生成させることができる。あるいは、膜貫通領域をコードするポリヌクレオチド配列を、IgG1 Fcのような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列で置換してもよい。様々な供給源に由来するFc断片の配列は、Entrez、Emblなどを含む公的にアクセス可能なデータベースを通して入手可能である。例えば、ヒトIgG1 Fc断片をコードするmRNAは、アクセッション番号X70421で提供される。
【0070】
本発明は、造血幹細胞または造血前駆細胞を哺乳動物レシピエントに移植するための方法を提供する。移植の必要は、遺伝的条件または環境条件、例えば、化学療法、放射線への曝露などが原因で生じる場合がある。移植用の細胞は、細胞の混合物、例えば、ドナーに由来するバフィコートリンパ球でよく、または部分的もしくは実質的に純粋でよい。これらの細胞は、自己由来細胞(特に、細胞減少療法もしくは他の治療法の前に除去される場合)または同種異系細胞でよく、造血幹細胞または造血前駆細胞の単離および後続の移植のために使用され得る。
【0071】
これらの細胞は、投与する前に可溶性CD47模倣体と組み合わせてよい。例えば、これらの細胞は、約4度、約10度、約25度、約37度の温度で、細胞をコーティングするのに十分な期間、約10μg/ml、約100μg/ml、約1mg/ml、約10mg/mlなどの濃度の模倣体と組み合わせてよく、いくつかの態様において、細胞は氷上で維持される。他の態様において、細胞は、レシピエントに導入する直前にCD47模倣体と接触させられ、その際の模倣体の濃度は前述のとおりである。
【0072】
造血幹細胞または造血前駆細胞およびCD47模倣体を含む組成物は、生理学的に許容される媒体に溶かして、通常は血管内に投与されるが、骨、またはそれらの細胞が再生および分化に適した部位を見つけ得る他の簡便な部位に導入されてもよい。通常、少なくとも1×105個、好ましくは1×106個またはそれ以上の細胞が投与される。組成物は、注射またはカテーテルなどによって導入され得る。
【0073】
骨髄増殖性障害、白血病、および骨髄異形成症候群
急性白血病は、造血細胞の悪性転換の結果として現れるクローンの芽細胞による正常骨髄の置換を特徴とする、急速に進行する白血病である。急性白血病には、急性リンパ芽球性白血病(ALL)および急性骨髄性白血病(AML)が含まれる。ALLはCNSにしばしば影響を与えるのに対し、急性単芽球性白血病は歯肉に影響を与え、AMLは任意の部位に局在した集団に影響を与える(顆粒球肉腫または緑色腫)。
【0074】
通常、主症状は非特異的であり(例えば、疲労、発熱、倦怠感、体重減少)、正常な造血の失敗を反映する。貧血および血小板減少症が非常によく起こる(75~90%)。WBC計数値は減少するか、正常であるか、または増加し得る。WBC計数値が著しく減少していなければ、芽細胞は通常、血液塗抹標本中に存在する。ALLの芽球は、組織化学的研究、細胞遺伝学、免疫表現型検査、および分子生物学的研究によってAMLの芽球と区別することができる。通常の染色剤、ターミナルトランスフェラーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、Sudan black B、ならびに特異的エステラーゼおよび非特異的エステラーゼを用いたスメア検査に加えられる。
【0075】
ALLは小児で最も好発する悪性腫瘍であり、発病のピークは3歳~5歳である。また、ALLは若者でも発症し、第2の低めのピークは成人期にある。典型的な治療では、プレドニゾン、ビンクリスチン、アントラサイクリン、またはアスパラギナーゼを含み得る集中的な多剤治療プログラムの早期導入を重要視する。他の薬物および組合せは、シタラビンおよびエトポシド、ならびにシクロホスファミドである。通常、再発は骨髄中で起こるが、単独または骨髄と併発して、CNSまたは精巣でも起こり得る。2回目の寛解が多くの子供において導入され得るが、その後の寛解は短時間である傾向がある。
【0076】
AMLの発病率は年齢と共に上昇する;これは、成人においてさらに好発する急性白血病である。AMLは、化学療法または放射線照射に関係する場合がある(二次性AML)。寛解導入の比率はALLより低く、報告によれば、長期の無病生存は患者の20~40%でしか起こらない。AMLは応答する薬物の数が少ないため、治療はALLの場合とは大きく異なる。基本的な導入治療プログラムは、ダウノルビシンまたはイダルビシンと共にシタラビンを含む。一部の治療プログラムは、6-チオグアニン、エトポシド、ビンクリスチン、およびプレドニゾンを含む。
【0077】
真性赤血球増加症(PV)は、Hb濃度およびRBC量の増加(赤血球増加)を特徴とする特発性の慢性骨髄増殖性障害である。PVは1年に100,000名に約2.3名の比率で発症し、男性の方が頻度が高い(約1.4:1)。診断時の平均年齢は60歳であり(15~90歳の範囲;小児期はまれである)、発症時に40歳未満である患者は5%である。骨髄は正常に見える場合があるが、通常は細胞過多である;過形成はすべての骨髄要素に関与し、骨髄脂肪を置換する。RBC、好中球、および血小板の産生および代謝回転の増大が認められる。増加した巨核球は、塊中に存在し得る。静脈切開が実施されていない場合でさえ、90%を超える患者で骨髄鉄が存在しない。
【0078】
X染色体に結合されたG6PD座位においてヘテロ接合性であるPV罹患女性の研究により、RBC、好中球、および血小板が同じG6PDイソ酵素を有することが示されたことから、多能性幹細胞レベルでこの障害のクローン起源があることが裏付けられる。
【0079】
最終的に、患者の約25%は低いRBC生存率を示し、適切に赤血球生成を増大させることができず;貧血および骨髄線維症が発症する。髄外造血は、脾臓、肝臓、および血液細胞を形成する潜在能力がある他の部位で起こる。
【0080】
治療をしなければ、症候性患者の50%は診断から18ヶ月以内に死亡する。治療を施した場合、生存期間中央値は7年~15年である。血栓症は、死亡の最も一般的な原因であり、骨髄化生、出血、および白血病発症といった合併症が後に続く。
【0081】
急性白血病への転換の発生率は、静脈切開のみで治療した患者よりも、放射性リン酸(32P)またはアルキル化剤で治療した患者の方が高い。急性白血病に転換するPVは、新規の白血病よりも導入化学療法に対する耐性が強い。
【0082】
PVは、骨髄抑制療法が治療に適応され得る赤血球増加の唯一の形態であるため、正確な診断が不可欠である。治療法は、年齢、性別、医学的状態、臨床症状、および血液学的所見によって個別化しなければならない。
【0083】
骨髄異形成症候群(MDS)は、高齢患者で一般に認められる症候群のグループ(前白血病、不応性貧血、Ph-陰性慢性骨髄性白血病、慢性骨髄単球性白血病、骨髄化生)である。発癌物質への曝露は、関係がある場合がある。MDSは、赤血球型、骨髄球型、および巨核球型を含む造血細胞のクローン増殖を特徴とする。骨髄は正常または細胞過多であり、無効な造血が様々な血球減少を引き起こす。貧血が最も頻繁である。細胞産生の障害はまた、骨髄および血液における形態学的細胞異常にも関連付けられている。髄外造血が起こって、肝腫大および脾腫大を招く場合がある。骨髄線維症は、診断時に時折存在するか、またはMDSの過程で発症し得る。MDSクローンは不安定であり、AMLに進行する傾向がある。
【0084】
貧血は、最も一般的な臨床的特徴であり、通常は大赤血球症および赤血球大小不同症に関連している。ある程度の血小板減少が通常であり;血液スメア検査の際、血小板のサイズは様々であり、一部は低顆粒に見える。WBC計数値は正常であるか、増加するか、または減少し得る。好中球細胞質の顆粒の状態は異常であり、赤血球大小不同が認められ、顆粒の数は不定である。好酸球もまた、異常な顆粒の状態を有し得る。単球増加症は、慢性骨髄単球性白血病サブグループに特徴的であり、未成熟骨髄性細胞は、分化の程度が低いサブグループにおいて発生し得る。予後は、分類および任意の関連疾患に著しく依存する。AML化学療法に対するMDSの応答は、年齢および核型を考慮に入れると、AMLの応答と同様である。
【0085】
癌治療
本発明は、CD47遮断物質、例えば抗CD47抗体の導入を通して、食作用による癌細胞のクリアランスを増大させることによって癌細胞の増殖を低減させるための方法を提供する。一定の態様において、癌細胞はAML幹細胞でよい。他の態様において、癌細胞は、固形腫瘍、例えば、神経膠芽腫、黒色腫などの細胞でよい。CD47の活性をブロックすることによって、ある種の腫瘍細胞、例えばAML細胞で見出される食作用の下方調節が妨げられる。
【0086】
CD47のほかに、本発明者らは、AML SCに特異的ないくつかのマーカーを発見した。これらには、CD96、CD97、CD99、PTHR2、HAVCR2などが含まれる。これらのマーカーは、2008年1月15日に出願された、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第61/011,324号で開示されている。
【0087】
「癌細胞の増殖を低減させること」には、癌細胞の増殖を低減させること、および非癌細胞が癌細胞になる発生率を低下させることが含まれるが、それらに限定されるわけではない。癌細胞増殖の低減が実現されたかどうかは、限定されるわけではないが、[3H]-チミジン取込み、ある期間に渡る細胞数の計数、AML関連マーカーの検出および/または測定などを含む、任意の公知のアッセイ法を用いて容易に判定することができる。
【0088】
ある物質、または特定の量のその物質が、癌を治療する上で有効であるかどうかは、限定されるわけではないが、生検、造影X線撮影による研究、CATスキャン、および個体の血液中の癌関連腫瘍マーカーの検出を含む、様々な公知の癌診断アッセイ法のいずれかを用いて評価することができる。物質は、全身的または局所的、通常は全身的に投与することができる。
【0089】
代替の態様として、作用物質、例えば、癌細胞増殖を低減させる化学療法薬は、CD47特異的抗体に結合させることによって癌細胞にターゲティングすることができる。したがって、いくつかの態様において、本発明は、薬物-抗体複合体を対象に投与する段階を含む、癌細胞に薬物を送達する方法を提供し、ここで抗体は癌関連ポリペプチドに特異的であり、薬物は癌細胞増殖を低減させる薬物であり、様々なこれらの薬物が当技術分野において公知である。ターゲティングは、癌関連ポリペプチドに特異的な抗体に薬物を結合する(例えば、薬物-抗体複合体を形成するように、直接またはリンカー分子を介して、共有結合的または非共有結合的に連結する)ことによって達成することができる。薬物を抗体に結合する方法は当技術分野において周知であり、本明細書において詳述する必要はない。
【0090】
一定の態様において、二重特異性抗体が使用され得る。例えば、一方の抗原結合ドメインがCD47を対象とし、他方の抗原結合ドメインがCD96、CD97、CD99、PTHR2、HAVCR2などの癌細胞マーカーを対象とする二重特異性抗体が使用され得る。
【0091】
AMLSCの枯渇は、AML治療において有用である。枯渇はいくつかの方法によって実現することができる。枯渇は、最大約30%、または最大約40%、または最大約50%、または最大約75%もしくはそれ以上の標的集団減少と定義される。通常、有効な枯渇は、標的集団のレベルに対する特定の疾患状態の感受性に基づいて決定される。したがって、ある種の状態の治療では、約20%の枯渇でさえ有益となり得る。
【0092】
ターゲティングされたAMLSCを特異的に枯渇させるCD47特異的作用物質は、インビトロまたはインビボで患者血液に接触させるために使用され、接触段階の後、ターゲティングされた集団中の生存能力があるAMLSCの数に減少が認められる。このような目的のための抗体の有効量は、例えば前述したような所望のレベルまで、ターゲティングされた集団を減少させるのに十分である。このような目的のための抗体は、ヒトにおいて低い抗原性を有してもよく、またはヒト化抗体でよい。
【0093】
本発明の1つの態様において、標的集団を枯渇させるための抗体は、インビボで患者血液に添加される。別の態様において、抗体はエクスビボで患者血液に添加される。関心対象の抗体でコーティングされたビーズを血液に添加してよく、次いで、当技術分野において一般的な手順を用いて、これらのビーズに結合された標的細胞を血液から除去することができる。1つの態様において、これらのビーズは磁性であり、磁石を用いて除去される。あるいは、抗体がビオチン標識される場合、アビジンまたはストレプトアビジンなどを吸着させた固相上に抗体を間接的に固定化することも可能である。固相、通常はアガロースビーズまたはセファロースビーズは、短時間の遠心分離によって血液から分離される。抗体をタグ化し、そのような抗体およびそれらの抗体に結合された任意の細胞を除去するための多数の方法が、当技術分野においてごく普通である。一度、所望の程度の枯渇が実現されたら、血液は患者に戻される。エクスビボで標的細胞を枯渇させると、静脈内投与に付随する注入反応のような副作用が減少する。さらなる利点は、この手順は、ヒトにおいて抗原性が低い抗体またはヒト化抗体に限定される必要がないため、利用可能な抗体のレパートリーがかなり拡大することである。
【実施例
【0094】
実施例1
CD47は骨髄性白血病のマーカーである
材料および方法
免疫組織化学。2重選別した(double sorted)骨髄系前駆細胞集団(CMP、GMP)、IL-3Rα高CD45 RA+細胞、およびCD14+c-kit+lin-細胞のサイトスピンをShandonサイトスピン装置を用いて実施した。H20で1/5希釈したギムザで10分間、サイトスピンを染色し、続いて、メイ・グリュンワルドで20分間染色した。Zeiss顕微鏡を用いてサイトスピンを解析した。
【0095】
ヒトの骨髄試料および末梢血試料。血清学によってA型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、およびHIVが陰性と判断された20~25歳の支払いを受けたドナーからインフォームドコンセントを得て正常骨髄試料を得た(全細胞)。CMML骨髄試料は、以前に治療を受けていない患者からインフォームドコンセントを得、Stanford University Medical Centerにおいて得た。
【0096】
ヒト骨髄HSCおよび骨髄系前駆細胞のフローサイトメトリー解析および細胞選別。標準的方法によるFicoll密度遠心分離に従って単核画分を抽出し、新鮮なまま、または液体窒素中90%FCSおよび10%DMSO中に以前に凍結した試料の急速解凍の後で解析した。場合によっては、免疫磁気ビーズ(CD34+前駆細胞単離キット(Progenitor Isolation Kit), Miltenyi Biotec, Bergisch-Gladbach, Germany)の助けを借りて、単核画分からCD34+細胞を濃縮した。FACS解析および選別に先立って、PE結合抗IL-3Rαである9F5(Becton Dickinson- ParMingen)およびFITC結合抗CD45RAであるMEM56(Caltag)に加えて、系統マーカーに特異的なフィコエリトリン(PE)-Cy5-結合抗体(CD2 RPA-2.10; CD11b、ICRF44; CD20、2H7; CD56、B159; GPA、GA-R2(Becton Dickinson-PharMingen, San Diego)、CD3、S4.1;CD4、S3.5; CD7、CD7-6B7; CD8、3B5; CD10、5-1B4、CD14、TUK4; CD19、SJ25-C1(Caltag, South San Francisco, CA)を含む)、およびAPC結合抗CD34であるHPCA-2(Becton Dickinson-PharMingen)、ビオチン標識抗CD38であるHIT2(Caltag)で骨髄系前駆細胞を染色し、続いて、ストレプトアビジン-テキサスレッドで染色して、CD38-BIOで染色された細胞を可視化し、ヨウ化プロピジウム中に再懸濁して死細胞を排除した。バックグラウンド蛍光を評価するために、未染色試料およびアイソタイプ対照を含めた。
【0097】
染色後、599nm色素レーザーおよび488nmアルゴンレーザーを装備した改良型FACS Vantage(Becton Dickinson Immunocytometry Systems, Mountain View, CA)を用いて、細胞を解析し選別した。二重選別された前駆細胞(HSC)は、CD34+CD38+かつ系統陰性であることが確認された。骨髄共通前駆細胞(CMP)は、CD34+CD38+IL-3Rα+CD45RA-lin-染色に基づいて同定され、顆粒球/マクロファージ前駆細胞(GMP)を含むそれらの子孫は、CD34+CD38+IL-3Rα+CD45RA+であった。一方、巨核球/赤血球前駆細胞(MEP)は、CD34+CD38+IL-3Rα-CD45RA-lin-染色に基づいて同定された(Manz, PNAS 11872)。
【0098】
正常な前駆細胞ならびに骨髄増殖性前駆細胞およびAML前駆細胞によるCD47発現
末梢血試料および骨髄試料は、骨髄増殖性障害患者および急性骨髄性白血病患者からインフォームドコンセントを得、StanfordのIRB規則およびHIPAA規則に従って、Stanford University Medical Centerにおいて得た。CD7、CD11b、およびCD14を除く以外は前記通りの系統カクテルで、末梢血単核細胞または骨髄単核細胞(細胞1~5×106個)を染色した。続いて、CD14 PE(1/25)、CD47 FITC(1/25)、CD38 Bio(Bio)およびc-kit APC(1/25)またはCD34 APCもしくはFITC(1/50)で試料を45分間染色した後、洗浄し、ストレプトアビジン-テキサスレッド(1/25)で45分間染色し、最後にヨウ化プロピジウム中に再懸濁した。
【0099】
考察
本発明者らは本明細書において、CD47過剰発現が、AMLへのヒト骨髄増殖性障害の進行の特徴であることを示す(図1~5Bを参照されたい)。CD47は、CD47発現のレベルに応じて、インテグリン機能だけでなく、マクロファージが細胞を貪食する能力も制御する。したがって、CD47発現が異常になると、宿主の先天性免疫および適応免疫の両方をLSCが回避することが可能になり得る。
【0100】
ヒトCD47発現の解析は、骨髄または末梢血に由来する、ヒトの正常、前白血病性骨髄増殖性障害(MPD)、またはAMLのHSC、前駆細胞、および系統陽性細胞においてFACSによって実施した。MPD試料(n=63)には、真性赤血球増加症(PV;n=15)、多血症後骨髄化生/骨髄線維症(PPMM/MF;n=5)、本態性血小板血症(ET;n=8)、非定型慢性骨髄性白血病(aCML;n=2)、CML(n=7)、慢性好酸球性白血病(CEL;n=1)、慢性骨髄単球性白血病(CMML;n=13)、および急性骨髄性白血病(AML; n=12)が含まれた。本発明者らが白血病トランスジェニックマウスモデルを用いて観察したところ、AMLへのヒト骨髄増殖性障害の進行(n=12)は、正常骨髄(14.7%+/-S.D. 2.3)と比べて増大したGMPプール(70.6%+/-S.D. 2.15)を伴っていた。さらに、FACS解析により、正常HSCと比べてAMLではCD47発現が最初に1.7倍に増大し、次いで、骨髄系統へのAML前駆細胞の拘束と共に、正常時の2.2倍に増大することが明らかになった。CD47は、正常骨髄(MFI 1.9+/-S.D. 0.07)と比べると、AML未分化前駆細胞およびそれらの子孫によって過剰発現されたが、MPDの大多数は過剰に発現しなかった(MFI 2.3+/-S.D. 0.43)。したがって、CD47発現の増大は、AMLへの進行に関する有用な診断マーカーであり、さらに、新規な治療標的に相当する。
【0101】
実施例2
ヒト白血病およびマウス白血病はCD47を上方調節して、マクロファージによる死滅化を回避する
CD47は生着(engraftment)を容易にし、食作用を阻害し、AML LSCにおいて、より高発現される。本発明者らは、ヒトAML LSCおよび正常HSCにおけるCD47発現をフローサイトメトリーによって測定した。正常な動員されたヒト末梢血の試料3つに由来するHSC(Lin-CD34+CD38-CD90+)およびヒトAMLの試料7つに由来するAML LSC(Lin-CD34+CD38-CD90-)を、CD47の表面発現に関して解析した(図6)。CD47は、正常HSCの表面では低レベルで発現された;しかしながら、AML LSCならびにバルク白血病芽球においては、CD47は平均で約5倍に高発現された。
【0102】
抗ヒトCD47モノクローナル抗体は食作用を刺激し、AML LSCの生着を阻害する。AML LSCにおけるCD47過剰発現が、エフェクター細胞上のSIRPαとの相互作用を介してこれらの細胞の食作用を妨げるモデルを試験するために、本発明者らは、CD47-SIRPα相互作用を混乱させることが公知であるCD47に対するモノクローナル抗体を使用した。B6H12と呼ばれるマウス抗ヒトCD47モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをATCCから取得し、精製抗体を得るために用いた。最初に、本発明者らは、インビトロの食作用アッセイ法を実施した。ヒトAMLの試料2つから、初代ヒトAML LSCをFACSによって精製し、次いで、蛍光色素CFSEを添加した。これらの細胞をマウス骨髄由来マクロファージと共にインキュベートし、免疫蛍光顕微鏡検査法(図7)およびフローサイトメトリー(図9)を用いてモニターして、貪食された細胞を確認した。どちらの場合も、アイソタイプ対照抗体の存在下では食作用は観察されなかった;しかしながら、抗CD47抗体を添加した場合は、顕著な食作用が検出された(図9)。したがって、モノクローナル抗体によるヒトCD47の遮断により、マウスマクロファージによるこれらの細胞の食作用を刺激することができる。
【0103】
次に、本発明者らは、抗CD47抗体がインビボでAML LSC生着を阻害する能力を調査した。NOG新生仔マウスに移植する前に、2つの初代ヒトAML試料を処置しないか、または抗CD47抗体でコーティングした。13週後、これらのマウスを屠殺し、フローサイトメトリーによってヒト白血病の骨髄生着について解析した(図10)。対照マウスは、白血病の生着を示したのに対し、抗CD47でコーティングした細胞を移植したマウスは、生着をほとんどまたは全く示さなかった。これらのデータから、モノクローナル抗体によるヒトCD47の遮断により、AML LSC生着を阻害できることが示唆される。
【0104】
CD96は、ヒト急性骨髄性白血病幹細胞に特異的な細胞表面分子である。最初はTactileと呼ばれたCD96は、T細胞活性化の際に著しく上方調節されるT細胞表面分子として最初に同定された。CD96は、休止中のT細胞およびNK細胞では低レベルで発現され、両方の細胞型において刺激されると強く上方調節される。これは、他の造血細胞では発現されず、その発現パターンの調査により、それ以外では一部の腸上皮に存在するだけであることが示された。CD96の細胞質内ドメインは、推定上のITIMモチーフを含むが、これがシグナル伝達において機能するかは公知ではない。CD96は、CD155を発現する標的細胞へのNK細胞の接着を促進して、活性化NK細胞の細胞障害性を刺激する。
【0105】
遺伝子発現解析によって確認された分子の優先的細胞表面発現。CD47およびCD96以外に、CD123、CD44、CD99、およびCD33を含む米国特許出願第61/011,324に記載されているいくつかの分子が、AML LSC上で発現されることが公知である。
【0106】
腫瘍進行は、とりわけ、増殖シグナル非依存、アポトーシスの阻害、および免疫系からの回避を含むいくつかの特徴を特徴とする。本発明者らは本明細書において、マクロファージ阻害性シグナル調節タンパク質α(SIRPα)受容体のリガンドであるCD47の発現が、ヒトおよびマウスの骨髄性白血病において増大しており、それによって、細胞が食作用を回避し腫瘍形成能力を増大させることが可能になることを示す。インテグリン関連タンパク質(IAP)としても公知のCD47は、哺乳動物組織で広く発現される、免疫グロブリン様の膜貫通型ペンタスパニン(pentaspanin)である。本発明者らは、マウスおよびヒトの骨髄性白血病の幹細胞および前駆細胞、ならびに白血病芽球においてCD47が上方調節されているという証拠を提供する。骨髄性白血病の発症および維持におけるCD47の生物学的役割と一致して、本発明者らは、CD47が異所で過剰発現すると、T細胞、B細胞、およびNK細胞を欠損したマウスにおいて骨髄性白血病細胞株が増殖できるようになるが、さもなければ、これらのレシピエントに移植された場合、迅速にクリアランスされることを実証する。また、高発現クローンの方が低発現クローンよりも腫瘍形成能力が大きいことから、CD47の白血病誘発能力が用量依存的であることも示される。本発明者らはまた、CD47が、マクロファージによる白血病細胞の食作用を阻害することによって白血病誘発を促進する際に機能することも示す。
【0107】
CD47は、白血病性Faslpr/lpr×hMRP8bcl2トランスジェニック骨髄、および白血病性hMRP8bcr/abl×hMRP8bcl2マウスにおいて顕著に上方調節されている。定量的RT-PCRによれば、CD47の転写物は、健常なhMRP8bcl2+骨髄と比べて、白血病性hMRP8bcr/abl×hMRP8bcl2骨髄では3~4倍、c-Kit濃縮白血病性骨髄では6~7倍に増加している(図11e)。白血病性脾臓では、白血病マウスと同じ遺伝子型であるが疾患を発症しなかった対照マウスと比べて、顆粒球マクロファージ前駆細胞(GMP)集団ならびにc-Kit+Sca-1+Lin-の幹細胞サブセットおよび前駆細胞サブセットが増大していた(図11a~d)。CD47タンパク質の発現レベルは、対照マウスと比べて白血病マウスでは、Flk2-CD34-c-Kit+Sca-1+Lin-長期造血幹細胞(LT-HSC)の段階で上昇し始めることが判明した(図11f)。上昇したこの発現レベルは、GMPおよびMac-1+芽球においては維持されたが、巨核球/赤血球に拘束された前駆細胞(MEP)では維持されなかった(図11f)。正常細胞と比べた白血病細胞におけるCD47増加は、3倍~20倍の間であった。hMRP8bcr/abl×hMRP8bcl2一次(primary)移植マウス(n=3)および二次(secondary)移植マウス(n=3)、Fas lpr/lpr×hMRP8bcl2一次マウス(n=14)および二次(n=19)マウス、ならびにhMRP8bcl2×hMRP8bcl2一次マウス(n=3)および二次マウス(n=12)に由来する、本発明者らが検査した白血病を発症したマウスすべてで、CD47発現が増大していた。本発明者らはまた、レトロウイルスによってp210bcr/ablを形質導入されたマウス骨髄細胞を与えられ白血病を発症したマウスにおいてCD47発現が増大していることも発見した。
【0108】
ヒト造血前駆細胞集団のFACSによる解析を、正常臍帯血および動員された末梢血(n=16)ならびに骨髄増殖性障害(MPD)(真性赤血球増加症(PV;n=16)、骨髄線維症(MF;n=5)、本態性血小板血症(ET;n=7)、慢性骨髄単球性白血病(CMML;n=11)、および非定型慢性骨髄性白血病(aCML;n=1)、ならびに急性転化期の慢性骨髄性白血病(CML;n=19)、慢性期CML(n=7)、および急性骨髄性白血病(AML;n=13)を含む)に由来する血液および骨髄において実施した。この解析により、顆粒球-マクロファージ前駆細胞(GMP)が、非定型CML、増殖期CMML、ならびに急性転化期のCMLおよびAMLを含む急性白血病を含む、骨髄系に傾いた(skewed)分化能力を有するMPDにおいて増大していることが実証された(図12a)。AML HSCおよびAML前駆細胞は、正常対照と比べて高レベルのCD47発現を一様に示した(図12b);BC-CMLおよびAMLに由来する試料すべてにおいて、CD47のレベルは上昇していた。さらに、慢性期CMLから急性転化への進行は、CD47発現の顕著な増大と関連していた(図12c)。本発明者らは、この研究で説明した方法を用いて、CML-BCにおけるヒトCD47タンパク質発現が、CD90+CD34+CD38-Lin-細胞では正常細胞と比べて2.2倍に(p=6.3×10-5)、CD90-CD34+CD38-Lin-細胞では正常細胞と比べて2.3倍に(p=4.3×10-5)、およびCD34+CD38+Lin-細胞では2.4倍に(p=7.6×10-6)増加した(図12b~12c);しかしながら、本発明者らは、より新しい最適化染色プロトコールを用いて、CD47が、AMLおよびBC-CMLでは正常なヒトHSCおよび前駆細胞と比べて約10倍に増加していることを観察した。
【0109】
次いで、ヒト白血病細胞においてマウスCD47を強制的に発現させると、マウスにおいて腫瘍を形成する上で競合的な利点が与えられるかどうかを検討した。AML 5a患者に由来するMOLM-13細胞にTet-MCS-IRES-GFP(Tet)またはTet-CD47-MCS-IRES-GFP(Tet-CD47)を形質導入し(図13a)、GFP発現に基づいて安定な組込み体を増殖させた。次いで、T、B、およびNKを欠損した、組換え活性化遺伝子2、共通γ鎖欠損(RAG2-/-、Gc-/-)マウスに、非形質導入MOLM-13細胞と競合する設定でこれらの細胞を静脈内移植した。Tet-CD47を形質導入された細胞だけが、これらのマウスにおいて腫瘍を形成することができ、効率的に骨髄、脾臓、および末梢血に生着した(図13a~b)。これらの腫瘍はまた、肝臓中の多量の腫瘍量も特徴とした(図13b、13g)。肝臓は任意の器官の内で最も多数のマクロファージを有すると考えられており、クッパー細胞は組織マクロファージ集団全体の80%を含み得ると推定されているため、特に顕著である。これらの細胞はまた、類洞内壁の30%を占め、それによって、肝臓中への侵入部位にそれらを戦略的に配置する。したがって、その場所における顕著な生着は、マクロファージの細胞障害応答を無能にしなければならないはずである。腫瘍結節を発達させるほかに、Tet-CD47 MOLM-13細胞は、ヒトAMLで典型的に認められる肝臓が関与したパターンを示し、白血病細胞は、類洞および静脈周囲のパターンで肝臓に浸潤した(図13d)。全体的に見て、Tet-CD47 MOLM-13移植マウスは、造血組織中に白血病細胞が実質的に生着しなかったTet MOLM-13移植マウスよりも速く死亡した(図13c)。Tet-MOLM-13マウスは依然としてかなり高い死亡率を示したが、これは、脳中への拡大を伴う、注射部位(後眼窩洞)における限局的な増殖が原因である可能性が高い。
【0110】
CD47は、造血細胞の遊走のために重要であることが示されており、直接的な相互作用によって、またはインテグリンに対するその作用を介して、細胞外基質タンパク質への結合を調整することが公知であるため、マウスにおいてTet MOLM-13細胞の増殖が無くなることに関する1つの可能性は、それらが微小環境に遊走できないことであった。この可能性を検証するために、Tet MOLM-13細胞またはTet-CD47 MOLM-13細胞を免疫不全マウスの大腿腔中に直接注射した。Tet-CD47 MOLM-13細胞はレシピエントマウスのすべての骨および他の造血組織に生着することができたが、Tet MOLM-13細胞は、たとえあるとしても最小限の生着を注射部位のみで示した(図13e)。Tet-CD47 MOLM-13細胞をこのようにして移植されたマウスは、移植後約50~60日目に死亡した(n=4)のに対し、Tet MOLM-13細胞を与えられたマウス(n=5)は、疾患の徴候を示さずに少なくとも75日間、引き続き生存し、この時点で解析のために安楽死させた。これらの結果から、MOLM-13生着における遊走またはホーミング以外またはそれに加えたCD47の機能が示唆される。
【0111】
CD47が全く無いと、マクロファージ上のSIRPαとの相互作用が無くなることによって、移植されたマウスの赤血球および白血球の食作用が起こることが示されている。したがって、本発明者らは、オプソニンを作用させていない肝臓MOLM-13細胞の食作用がCD47の過剰発現によって妨げられ得るかどうかを試験した。本発明者らは、骨髄由来マクロファージ(BMDM)と共にTet MOLM-13細胞またはTet-CD47 MOLM-13細胞を2~24時間インキュベートし、摂取されたGFP+細胞の数を顕微鏡下で計数することによって、またはGFP+マクロファージの出現率をフローサイトメーターによって評価することによって、食作用を評価した。CD47が発現すると、試験したすべての時点においてマクロファージによるこれらの細胞のクリアランスは劇的に減少し、一方、Tet-MOLM-13は、経時的に増加する様式で、迅速に貪食された(図14a~c)。本発明者らはまた、マウスにMOLM-13細胞を注射し、マクロファージ食作用の証拠を得るために2時間後に造血器官を解析した。骨髄、脾臓、および肝臓中のマクロファージすべてにおいて、Tet MOLM-13細胞を注射した場合の方がCD47発現細胞の場合と比べてGFP+の割合が大きかった。このことから、CD47過剰発現は、白血病細胞上に既に存在する食作用促進(pro-phagocytic)シグナルを相殺して、さもなければマクロファージによってクリアランスされるであろう場合にそれらの細胞が生存するのを可能にできることが示される。
【0112】
最近の報告では、種を越えたCD47反応性が無いために、移植細胞の異種拒絶がもたらされ得ることが示されている。さらに、最近の研究により、ヒトCD47はC57Bl/6マウス由来のSIRPαとは相互作用できないが、C57Bl/6マウスよりもヒト細胞生着に対する許容性が高い非肥満糖尿病(NOD)マウス由来の受容体とは反応できることが実証された。さらに、本発明者らはまた、MOLM-13よりヒトCD47発現レベルが高いヒト前骨髄球細胞株であるHL-60細胞が、マウスに生着し、白血病を引き起こすことができることを観察した。ヒトTリンパ球細胞株であるJurkat細胞は、ヒトCD47が非常に多く、インビトロでMOLM-13よりもはるかに遅い速度でマウスマクロファージによって貪食される。したがって、本発明者らのデータから、細胞がインビボでマウスに生着する能力またはインビトロでマウスマクロファージによる食作用を回避する能力が、ヒトCD47の発現レベルと相関していることが示される。
【0113】
CD47発現が高い場合と低い場合の腫瘍形成作用のモデルを作るために、本発明者らは、マウスCD47を発現するMOLM-13細胞のクローンを高発現体(expresser)および低発現体に分類した。細胞の大きさに関して補正した場合、CD47lo MOLM-13細胞上のCD47密度はマウス骨髄細胞にほぼ等しかったのに対し、CD47hi MOLM-13細胞は約9倍の高発現を示し、これは、初代白血病細胞上のCD47発現において正常な対応物と比べて認められる変化に相応した増加であった(図15a)。高発現細胞または低発現細胞をレシピエントに移植した場合、高発現細胞を移植されたマウスのみが、75日齢までに疾患のため死亡した(図15c)。さらに、臓器肥大は、高発現細胞を移植されたマウスの方が顕著であった(図15d)。CD47lo MOLM-13細胞を与えられたマウスは依然として注目すべき肝腫瘤を有した。しかしながら、これらの腫瘤は常に、適切に被包され肝実質から物理的に分離されている1~2個の大きな節であり、実質の全体にわたって散在している何百もの小さな腫瘤からなる、CD47hi MOLM-13細胞由来の腫瘍塊とは極めて対照的であった。したがって、これらの大きな腫瘍塊は、増殖するために主要な器官本体から離れたマクロファージの無い微小環境を見出した細胞からなる。予想されるように、レシピエントマウスの骨髄および脾臓中のMOLM-13細胞の浸潤の程度は、同様にCD47hi MOLM-13細胞を移植されたマウスよりもはるかに高かった(図15e)。本発明者らはまた、CD47lo MOLM-13細胞を与えられたが骨髄生着が顕著であった2匹のマウスにおけるCD47発現レベルを検査した。いずれの場合も、75日目以降に残存している細胞は、元の株よりもCD47レベルがはるかに高かった(図15f)ことから、白血病細胞における高レベルのCD47発現に対してインビボで強い選択圧が存在することが示唆された。まとめると、これらのデータから、CD47発現レベルが腫瘍形成能力の重要な因子であること、および白血病細胞の異種集団において、CD47を高発現するクローンに対する強い選択が存在することが示唆される。
【0114】
次いで、本発明者らは、CD47発現レベルが高くなるとマクロファージ食作用からの保護が強まるかどうかを検討した。本発明者らは、CD47hi MOLM-13赤色蛍光タンパク質(RFP)発現細胞およびCD47lo MOLM-13赤色蛍光タンパク質(RFP)発現細胞を用いたインビトロ食作用アッセイ法を実施した。マクロファージとのインキュベーション後、CD47hi細胞と比べてはるかに多数のCD47lo 細胞が貪食されていた(図15g)。食作用指数を対照MOLM-13細胞、バルク(未選別の)CD47 MOLM-13細胞、CD47lo MOLM-13細胞、およびCD47hi MOLM-13細胞と比較した場合、CD47発現レベルと食作用を回避する能力との直接的相関を認めることができる(図14a図15f)。さらに、CD47lo RFP MOLM-13細胞およびCD47hi GFP MOLM-13細胞を同じウェル中でマクロファージと同時インキュベートした場合、低発現細胞の方が貪食される可能性がはるかに高かった(図15h図15i)。したがって、CD47発現レベルが様々である細胞の混合集団において、低発現細胞の方が時間とともに食作用クリアランスによってクリアランスされる可能性が高い。
【0115】
また、本発明者らは別の方法を用いてCD47発現を測定した。CD47はTet-OFF系を用いてMOLM-13細胞において発現されるため、本発明者らは、MOLM-13細胞におけるCD47発現を制御するためにTet誘導性プロモーターエレメントを利用した。CD47hi MOLM-13 細胞の移植後2週目を開始時点として、マウスのコホートにドキシサイクリンを与え、移植後75日目まで追跡した。この時間経過の間、ドキシサイクリンを与えられたマウスは一匹も疾患のために死亡せず、造血器官におけるMOLM-13細胞の大規模な浸潤もなかった(図15b~d)。この実験で使用したドキシサイクリンの用量では、MOLM-13細胞におけるmuCD47発現は、正常なマウス骨髄でのレベルを下回るレベルまで低下したが、特に完全に無くなるわけではなかった(図15b)。したがって、造血器官における着実なMOLM-13生存のためには、高レベルのCD47発現が維持されることが必要である。
【0116】
T細胞、B細胞、およびNK細胞による腫瘍クリアランスの多くの例が文献で説明されており、発生期の腫瘍増殖を調節するには健常な免疫系が不可欠であることが示されている。しかしながら、今日まで、マクロファージの媒介による食作用が腫瘍発生を検査し得ることを示す例はほとんど示されていない。まとめると、本発明者らの研究によって、CD47の異所発現により、さもなければ免疫原性である腫瘍細胞が、T細胞、B細胞、およびNK細胞を欠損した宿主において急速に増殖することが可能になり得ることが明らかになる。さらに、CD47は、これまでに試験したすべての形態の慢性骨髄性白血病および急性骨髄性白血病を含むマウスおよびヒトの骨髄性白血病において一貫して上方調節されているため、これは、宿主免疫系を回避するためにヒト骨髄性白血病によって使用されるメカニズムを反映している可能性が高い。例えば、腫瘍細胞は活性化マクロファージによって標的として認識されることができ、食作用によってクリアランスされる可能性が高いと思われる。CD47を上方調節することによって、癌は、この形態の先天性免疫腫瘍監視を回避することができる。
【0117】
これらの癌はマクロファージ浸潤が多い部位をしばしば占有するため、この形態の免疫回避は特に重要である。CD47は、卵巣腫瘍細胞マーカーとして最初にクローン化されたことから、同様に他の組織癌の食作用を防止する際に役割を果たし得ることが示唆される。さらに、固形腫瘍は、肝臓、肺、骨髄、およびリンパ節などマクロファージに富む組織にしばしば転移することから、これらの組織においてマクロファージの媒介による死滅化を回避できるに違いないことが示唆される。したがって、CD47-SIRPα相互作用を妨害するための方法を発見することが、癌の新規な治療法を開発する際に広く役に立つと判明する可能性がある。貪食された腫瘍細胞に由来する抗原がマクロファージによって提示された結果、適応免疫応答を活性化して、さらに腫瘍を破壊し得るため、CD47-SIRPα相互作用を防止することは二重に効果的である。
【0118】
方法
マウス。以前に説明されているようにして、hMRP8bcrablトランスジェニックマウス、hMRP8bcl2トランスジェニックマウス、およびFaslpr/lprトランスジェニックマウスを作製し、交雑させて二重トランスジェニックを得た。ヘテロ接合体マウスを互いに交雑させることによって、hMRP8bcl2ホモ接合体を得た。本発明者らのコロニーに由来するC57Bl/6 Kaマウスを野生型細胞の供給源として使用した。移植実験のために、セシウム照射器(Phillips)からのγ線によって4Gyの放射線量を与えたC57Bl/6 RAG2-/-共通γ鎖(Gc)-/-マウスに細胞を移植した。初代マウス白血病(leukemias)を、9.5Gyの放射線量を与えたCD45.2 C57Bl6/Kaマウスに移植した。瀕死の場合、マウスを安楽死させた。
【0119】
マウス組織。2%ウシ胎児血清染色媒体(SM)を添加したPBSで長骨を洗い流した。すりガラスのガラススライドを用いて脾臓および肝臓をSM中で分離させ、次いで、ナイロンメッシュを通過させた。さらに解析する前に、すべての試料をACK溶解緩衝液で処理して赤血球を溶解させた。
【0120】
定量的RT-PCRによる解析。白血病性hMRP8bcr/abl×hMRP8bcl2マウスまたはhMRP8bcl2対照マウスから骨髄を得た。c-KitマイクロビーズおよびautoMACSカラム(Miltenyi)を用いて、細胞のc-Kitを濃縮した。Trizol試薬(Invitrogen)を用いてRNAを抽出し、SuperScriptII逆転写ポリメラーゼ(Invitrogen)を用いて逆転写を行った。PCR反応1回につき、細胞約1000個に相当するcDNAを使用した。ABI Prism 7000 PCR (Applied Biosystems)機器においてSYBRグリーンキットを用いて、50℃で2分間、続いて95℃で10分間、次いで、95℃で15分間とそれに続く60℃で1分間を40サイクル行って、定量的PCRを実施した。β-アクチンおよび18S RNAをcDNA量に関する対照として使用し、CD47発現の結果を正規化した。18S RNAのフォワードプライマーおよびリバースプライマーの配列は、それぞれ
であり、β-アクチンの場合は
であり、CD47の場合は
であった。
【0121】
ヒトの骨髄試料および末梢血試料。血清学によってA型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、およびHIVが陰性と判断された20~25歳の支払いを受けたドナーからインフォームドコンセントを得て正常骨髄試料を得た(全細胞)。血液および骨髄細胞は、慢性骨髄単球性白血病(CMML)患者、慢性骨髄性白血病(CML)患者、および急性骨髄性白血病(AML)患者によって供与され、以前に治療を受けていない患者からインフォームドコンセントを得たうえで取得した。
【0122】
細胞株。MOLM-13細胞は、DSMZから得た。HL-60細胞およびJurkat細胞はATCCから得た。10%ウシ胎児血清(FBS)(Hyclone)を加えたイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)中で細胞を維持した。MOLM-13細胞をCD47高発現細胞およびCD47低発現細胞に分別するために、抗マウスCD47 Alexa-680抗体(mIAP301)でTet-CD47 MOLM-13細胞を染色した。マウスCD47発現細胞の上位5%および下位5%をBD FACSAriaによって選別し、IMDM+10%FCS中で2週間、再度増殖させた。これらの細胞を同じプロトコールに従ってさらに3回選択して選別して、この研究で使用する高発現細胞および低発現細胞を得た。赤色蛍光タンパク質(RFP)構築物を得るために、Lentilox 3.7(pLL3.7)空ベクター中にmCherry RFP DNAをクローニングした。次いで、この構築物から得たレンチウイルスを用いて細胞株を感染させた。
【0123】
細胞染色およびフローサイトメトリー。次のモノクローナル抗体を用いて、マウス幹細胞およびマウス前駆細胞の染色を実施した:Cy5-PE(eBioscience)に結合されたMac-1、Gr-1、CD3、CD4、CD8、B220、およびTer119を系統カクテル中で用い、c-Kit PE-Cy7 (eBioscience)、Sca-1 Alexa680(e13-161-7、本発明者らの実験室で作製)、CD34 FITC(eBioscience)、CD16/32(FcGRII/III) APC(Pharmingen)、およびCD135(Flk-2) PE(eBioscience)を以前に説明されているようにして使用して、マウスの幹細胞サブセットおよび前駆細胞サブセットを染色した。マウスCD47抗体(クローンmIAP301)は、本発明者らの実験室で作製したビオチン標識抗体を用いて評価した。次いで、ストレプトアビジンを結合させたQuantum Dot 605 (Chemicon)で細胞を染色した。FACSAria (Beckton Dickinson)を用いて試料を解析した。
【0124】
ヒト試料の場合、標準的方法によるFicoll密度遠心分離に従って単核画分を抽出し、新鮮なまま、または液体窒素中90%FCSおよび10%DMSO中に以前に凍結した試料の急速解凍の後で解析した。場合によっては、免疫磁気ビーズ(CD34+前駆細胞単離キット(Progenitor Isolation Kit), Miltenyi Biotec, Bergisch-Gladbach, Germany)の助けを借りて、単核画分からCD34+細胞を濃縮した。FACS解析および選別に先立って、PE結合抗IL-3Rαである9F5(Becton Dickinson- ParMingen)およびFITC結合抗CD45RAであるMEM56(Caltag)に加えて、系統マーカーに特異的なフィコエリトリン(PE)-Cy5-結合抗体(CD2 RPA-2.10; CD11b、ICRF44; CD20、2H7; CD56、B159; GPA、GA-R2(Becton Dickinson-PharMingen, San Diego)、CD3、S4.1;CD4、S3.5; CD7、CD7-6B7; CD8、3B5; CD10、5-1B4、CD14、TUK4; CD19、SJ25-C1(Caltag, South San Francisco, CA)を含む)およびAPC結合抗CD34であるHPCA-2(Becton Dickinson-PharMingen)、ビオチン標識抗CD38であるHIT2(Caltag)で骨髄系前駆細胞を染色し、続いて、ストレプトアビジン-テキサスレッドで染色して、CD38-BIOで染色された細胞を可視化した。
【0125】
染色後、599nm色素レーザーおよび488nmアルゴンレーザーを装備した改良型FACS Vantage(Becton Dickinson Immunocytometry Systems, Mountain View, CA)またはFACSAriaを用いて、細胞を解析した。造血幹細胞(HSC)は、CD34+CD38+CD90+であり系統陰性であることが確認された。抗ヒトCD47 FITC(クローンB6H12、Pharmingen)を用いて、すべてのヒト試料におけるCD47発現を評価した。CML-BC、CML-CP、またはAMLの全試料におけるCD47の平均(average mean)蛍光強度を、所与の細胞集団の正常細胞の平均蛍光強度で割ることによって、CD47発現の変化率を決定した。骨髄共通前駆細胞(CMP)は、CD34+CD38+IL-3Rα+CD45RA-lin-染色に基づいて同定され、顆粒球/マクロファージ前駆細胞(GMP)を含むそれらの子孫は、CD34+CD38+IL-3Rα+CD45RA+Lin-であった。一方、巨核球/赤血球前駆細胞(MEP)は、CD34+CD38+IL-3Rα-CD45RA-Lin-染色に基づいて同定された。
【0126】
マウスCD47またはヒトCD47の密度を決定するために、飽和量の抗CD47抗体で細胞を染色し、FACSAriaを用いて解析した。前方散乱は細胞直径に正比例し、密度は表面積単位当たりの発現レベルに等しいため、本発明者らはFloJoソフトウェアを用いてCD47経路の幾何平均蛍光強度を算出し、前方散乱を2乗した値(FSC2)の幾何平均で割って膜におけるCD47発現の密度の近似値を得た。
【0127】
MOLM-13細胞の生着は抗ヒトCD45 PE-Cy7(Pharmingen)、抗マウスCD45.2 APC(クローンAL1-4A2)、および抗マウスCD47 Alexa-680(mIAP301)を用いることによって評価した。解析前に全試料をヨウ化プロピジウム含有緩衝液に再懸濁して、死細胞を排除した。FACSデータはFloJoソフトウェア(Treestar)を用いて解析した。
【0128】
レンチウイルスの調製および形質導入。pRRL.sin-18.PPT.Tet07.IRES.GFP.preプラスミド、CMVプラスミド、VSVプラスミド、およびtetトランス活性化因子 (tTA) プラスミドをLuigi Naldiniから得た。CD47(2型)の完全長マウスcDNAはEric Brown(UCSF)によって提供された。CD47 cDNA構築物をTet-MCS-IRES-GFPのBamHI/NheI部位に連結した。標準プロトコールを用いて、プラスミドDNAを293T細胞にトランスフェクトした。上清を回収し、Beckman LM-8遠心分離機(Beckman)を用いて濃縮した。TetまたはTet-CD47-MCS-IRES-GFPおよびtTAレンチウイルスを48時間、細胞に形質導入した。GFP+細胞を選別して精製し、数世代に渡って増殖させて導入遺伝子の安定性を確保した。
【0129】
注射。上述したようにレシピエントマウスの後眼窩洞中に、または尾静脈経由で細胞を静脈内注射した。大腿内注射の場合、麻酔したマウスの大腿腔に27ゲージの針を用いて体積20μlの細胞を注射した。必要があれば、イソフルオランガス室を用いてマウスを麻酔した。
【0130】
MOLM-13細胞生着。瀕死の場合は動物を安楽死させ、骨髄、脾臓、および肝臓を回収した。安楽死の1時間前に、動物の尾部から採血して末梢血を得た。前述したようにして、骨髄、脾臓、および末梢血におけるMOLM-13細胞の生着を判定した。式((長さ(mm)+幅(mm))/2)×πを用いて、視認できる各腫瘍結節の面積を算出することによって、肝臓中の腫瘍量を決定した。次いで、肝臓当たりの各結節の面積を合算した。
【0131】
ドキシサイクリン投与。最終濃度が1mg/mLになるように塩酸ドキシサイクリン(Sigma)を飲料水に添加した。4日毎に飲料水を交換し、光から保護した。さらに、週に1回、10μgのドキシサイクリンを腹腔内注射によってマウスにボーラス投与した。
【0132】
骨髄由来マクロファージ(BMDM)。C57Bl/6 Kaマウスから大腿骨およびけい骨を採取し、骨髄に水を流して洗い(flushed)、PBSの無菌懸濁液中に入れた。10ng/mLの組換えマウスマクロファージコロニー刺激因子(MCSF、Peprotech)を添加した10%FBS含有IMDM中で骨髄懸濁液を7~10日間増殖させた。
【0133】
インビトロの食作用アッセイ法。トリプシン/EDTA(Gibco)中で5分間インキュベーションし、そっとこすり落とすことによってBMDMを回収した。24ウェル組織培養プレート(Falcon)中にウェル当たり5×104細胞の濃度でマクロファージを播種した。24時間後、培地を無血清IMDMに交換した。さらに2時間経過した後、マクロファージを含むウェルに2.5×105個のTet MOLM-13細胞またはTet-CD47 MOLM-13細胞を添加し、指定した時間、37℃でインキュベートした。同時ンキュベーション後、ウェルをIMDMで3回入念に洗い、高感度緑色蛍光タンパク質(GFP)またはテキサスレッドフィルターセット(Nikon)を用いてEclipse T5100 (Nikon)によって検査した。マクロファージ内のGFP+細胞またはRFP+細胞の数を計数し、次の式を用いて食作用指数を計算した:食作用指数=摂取された細胞の数/(マクロファージの数/100)。ウェル当たり少なくとも200個のマクロファージを計数した。食作用をフローサイトメトリーによって解析するために、MOLM-13細胞とのインキュベーション後にトリプシン/EDTAおよび穏やかなこすり落としによってマクロファージを回収した。抗Mac-1 PE抗体で細胞を染色し、BD FACSAriaを用いて解析した。Eclipse T5100(Nikon)、超高圧水銀ランブ(Nikon)、endow緑色蛍光タンパク質(eGFP)帯域フィルター(Nikon)、テキサスレッド帯域フィルター(Nikon)、およびRT Slider (Spot Diagnostics)カメラを用いて、蛍光画像および明視野画像を別々に撮影した。画像をPhotoshopソフトウェア(Adobe)を用いて合成した。
【0134】
インビボアッセイ法のために、RAG2-/- Gc-/-マウスに標的細胞を注射した2時間後に、脚の長骨、脾臓、および肝臓に由来する骨髄を採取した。これらを2%FCS含有PBS中の単細胞懸濁液に調製した。抗ヒトCD45 Cy7-PEおよび抗マウスF4/80ビオチン(eBiosciences)で細胞を標識した。ストレプトアビジン-APC(eBiosciences)を用いて、二次染色を実施した。ヒトCD45-、F4/80+である細胞をマクロファージであるとみなし、この画分中のGFP+細胞を評価した。
【0135】
実施例3
造血幹細胞および造血前駆細胞はCD47を上方調節して、造血組織への動員およびホーミングを促進する
発明者らは本明細書において、CD47欠損(IAP-/-)マウスに由来する造血幹細胞(HSC)が野生型レシピエントに生着できないことを示す。予想されるように、これらの細胞は宿主マクロファージによって迅速にクリアランスされるのに対し、IAP+/+HSCはそうではない。シクロホスファミド/G-CSFまたはリポ多糖を用いて幹細胞および前駆細胞を強制的に分離して血液循環中に移行させた場合、CD47がこれらの細胞において急速に上方調節される。本発明者らは、造血および動員によってストレスが提供される間に幹細胞中のCD47のレベルが高くなることにより、細網内皮系の活性化マクロファージによる食作用からの保護が追加されたことを提唱する。この仮説の裏付けとして、本発明者らは、野生型レシピエントに移植されたIAP+/-細胞が時間と共に生着しなくなるのに対し、野生型ドナー細胞はそうならないことを示す。本発明者らは、食作用は造血前駆細胞を経時的にクリアランスする重要な生理学的メカニズムであり、食作用クリアランスを防止するにはCD47の過剰発現が必要とされると結論付ける。
【0136】
HSCは血流を介して、胎児の生活および成人の生活における異所的微小環境に遊走する能力を有する。さらに、細胞障害性物質と最初にインサイチューでHSCの数を増加させるサイトカインとの組合せを用いて、HSCを血液循環中に追い立てることができる。血流中に一度入ると、HSCは、脾臓および肝臓の血管床を通過しなければならない。これらの部位のマクロファージは、血流から損傷細胞および外来粒子を除去する機能を果たす。さらに、炎症状態の間に、マクロファージの食作用はより活発になる。したがって、食作用からの保護の追加が、これらの部位に新しく到着する幹細胞のために必要とされる場合がある。
【0137】
本発明者らは、骨髄の幹細胞および前駆細胞におけるCD47発現が、正常な造血の調節において役割を果たしているかどうかを判定した。CD47発現は、移植環境において赤血球、T細胞、および全骨髄細胞の食作用を防止するために不可欠であることが示されている。したがって、本発明者らは、CD47の欠如により、静脈内に送達された後のHSCの生着が妨げられるかどうかを検討した。これを試験するために、本発明者らはCD47ノックアウトマウス(IAP-/-)を使用した。これらのマウスは正常に発達し、肉眼的異常はまったく示さない。しかしながら、好中球が迅速に腸に遊走しないため、腹腔内に細菌を攻撃接種した後、これらは極めて急速に死亡する。さらに、これらのマウスに由来する細胞は、野生型レシピエントに移植され得ないが、IAP-/-レシピエントには生着すると考えられる。
【0138】
本発明者らは、IAP+/-マウスおよびIAP-/-マウスにおける幹細胞および前駆細胞の出現率を最初に検査した。幹細胞コンパートメント(compartment)および骨髄系前駆細胞コンパートメント中の細胞を検査した場合、これらのマウスと野生型マウスの間に差はなかった(図18a)。次いで、本発明者らは、これらのマウスに由来する幹細胞がインビトロアッセイ法においてコロニーを形成する能力に関して試験した。本発明者らは、これらのマウスから高純度に精製したFlk2-CD34-KLS 幹細胞を選別し、標準的なサイトカイン反応混液の存在下でメチルセルロース上にそれらを播種した。本発明者らは7日目にコロニー形成を検査し、野生型幹細胞とIAP-/-幹細胞との間で、形成されたコロニーの数およびタイプに大きな差はないことを発見した(図18b)。
【0139】
次いで、本発明者らは、IAP-/-マウスに由来する骨髄細胞がレシピエントマウスを致死的な放射線照射の作用から救出し得るかどうかを検討した。典型的には、2×105個の用量の骨髄細胞が、このアッセイ法において100%の野生型レシピエントマウスを救出すると考えられる。本発明者らは、IAP-/-骨髄がこれらのレシピエントを救出できないことを発見した(図18c)。しかしながら、これらの細胞を投与することにより、寿命が延びた;通常、マウスは放射線照射後12日目~15日目の間に死亡したが、IAP-/-骨髄を与えられたマウスは約7日~10日長く生存した(図18c)。本発明者らはこの場合に寿命が延長される理由をまだ知らないが、多分化能前駆細胞および巨核球赤血球前駆細胞が致死的放射線照射後の生存を延長できること、ならびに骨髄全体の移植後のこれらの細胞の貢献が、生存期間の延長に貢献した可能性があることを本発明者らは観察した。
【0140】
次に、本発明者らは野生型細胞およびIAP-/-細胞からFlk-2-CD34-KLS幹細胞を選別し、2×105個の競合細胞と共にそれらを野生型レシピエントに移植した。50個または500個いずれかの用量のIAP-/-HSCを与えられたマウスのどれも、ドナー細胞がまったく生着しなかったことから、これらの細胞が移植される能力のためにCD47が実際に必要とされることが示された(図18d~e)。本発明者らは、赤血球およびT細胞に対して示されているように、これはCD47を欠く細胞の食作用に起因すると推測した。これを試験するために、本発明者らは、野生型マウスおよびIAP-/-マウスの骨髄からc-Kit+細胞を濃縮し、それらを骨髄由来マクロファージと同時インキュベートした。IAP-/-幹細胞およびIAP-/-前駆細胞はこのアッセイ法において急速に貪食されたのに対し、野生型細胞は最小限しか貪食されなかった(図18f~g)。興味深いことに、IAP-/-マクロファージとインキュベートした場合、IAP-/-細胞の食作用は有意に少なかったことから、これらのマウスに由来するマクロファージの食作用能力が実際に異常であることが確認された。
【0141】
幹細胞および前駆細胞の動員は、それらがマクロファージと接触するいくつかの段階(骨髄類洞からの放出、骨髄類洞および肝臓類洞、ならびに脾臓辺縁帯への侵入)を含むため、本発明者らは、動員を経験するように誘導したマウスの骨髄においてCD47が上方調節されているかどうかを検討した。最も一般に使用されるプロトコールは、分裂細胞(主に骨髄系前駆細胞)を死滅させる薬物シクロホスファミド(Cy)の投与とそれに続く顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)による処置を含む。これは、初日にシクロホスファミドを投与し、次いで、それ以降毎日G-CSFを与えることを含む。慣例により、シクロホスファミド投与後の最初の日を0日と呼ぶ。骨髄中の幹細胞数は2日目にピークに達し;3日~4日目に、それらは骨髄から末梢に出て行き、脾臓および肝臓中のそれらの数は5日目にピークに達し;骨髄赤血球(myeloerythroid)前駆細胞もまた動員される。動員応答の間に、幹細胞および骨髄系前駆細胞の出現率に特徴的な上昇が認められる。
【0142】
したがって、本発明者らはこの動員プロトコールを野生型マウスに施し、2日目~5日目にマウスを屠殺した。本発明者らは、2日目の時点でc-Kit+骨髄細胞においてCD47の著しい増加が認められることを発見した(図19a)。本発明者らは、動員から2日目に幹細胞および前駆細胞においてCD47のレベルが約4倍に上昇していることを発見した(図19b)。GMPだけでなくLT-HSCもこのCD47発現増加を示したように、骨髄系前駆細胞の階層の全レベルで増加が認められた(図19b)。骨髄からの放出のほとんどが停止する5日目までに、CD47レベルは、ほぼ正常なレベルに戻っていた。図19cにおいて、動員から0日目~5日目のGMPにおけるCD47発現の平均蛍光強度をを示す。CD47レベルは、0日目の骨髄破壊後、実際には普通以下であるが、2日目に急速にピークに上昇する。発現はその後急速に低下し、5日目までにレベルは定常状態と等しくなる。
【0143】
エンドトキシンもまた、骨髄動員に寄与すると考えられている。これは、不都合な病原体をクリアランスするために免疫細胞の正常な骨髄産出を増加させる必要がある感染に対する生理学的応答に相当し得る。リポ多糖(LPS)は、グラム陰性菌の細胞壁構成要素である。これは血清中の脂質結合タンパク質(LBP)に結合し、次いで、LBPは、単球、マクロファージ、および樹状細胞上のCD1411およびtoll様受容体4(TLR-4)12との複合体を形成し得る。これによりマクロファージが活性化され、炎症誘発性応答がもたらされる。LPS投与もまた、マクロファージの食作用能力を増大させることが示されている。これは、LBP-LPS複合体がオプソニンとして作用することに起因し得る。
【0144】
本発明者らは、マウスへのLPS投与によって、幹細胞および前駆細胞中のCD47発現が影響を受けるかどうか試験した。Cy/Gによって誘導される動員において認められるパターンを再現して、LPSは処置後2日目までに幹細胞および前駆細胞の増殖を引き起こし、続いて脾臓および肝臓への遊走を引き起こした(図19d)。LPS投与後2日目に、骨髄中の幹細胞および前駆細胞は、Cy/G動員の場合と同様の程度までCD47を上方調節していた。炎症応答が消える5日目までに、タンパク質レベルは定常状態レベルまで降下していた(図19d)。
【0145】
動員応答中、CD47は一貫して上方調節されていたため、本発明者らは、Cy/Gの後に幹細胞および前駆細胞が動員する能力を試験することに決めた。CD47ノックアウトマウスは、炎症部位8への好中球の遊走および二次リンパ系器官への樹状細胞の遊走に欠陥がある。これらの細胞の遊走におけるCD47の正確な役割は不明であるが、血液循環におけるインテグリン結合の不良(CD47はいくつかのインテグリンに結合する)または内皮細胞上のSIRPαとの相互作用の欠如に関係する可能性がある。したがって、本発明者らは、CD47が動員応答におけるこれらの細胞の遊走能力に関与している場合、IAP-/-マウスはCy/G後に末梢器官中の細胞数の減少を示すはずであると考えた。
【0146】
この仮説を検証するために、本発明者らは、野生型マウスおよびノックアウトマウスの両方にCy/Gを投与し、2日目~5日目にマウスを屠殺した。各マウスについて、本発明者らは、骨髄、脾臓、および肝臓中の幹細胞および前駆細胞の数を解析した。CD34-細胞の数は増殖状態の際にかなり減少して、LT-HSCの数を正確に算出することが困難であるため、本発明者らは、HSCの代用物として未精製のKLS集団を使用することに決めた。GMPは動員の際に全集団のうちで最も増殖したため、本発明者らはそれらの数も同様に解析することに決めた。前駆細胞の絶対計数値を算出するために、完全な器官中の単核細胞を血球計数器で計数することによって、骨髄、脾臓、および肝臓の全体的な細胞充実性を概算した。骨髄の場合、脚長骨は全骨髄の15%に相当すると想定した。次いで、この数に細胞集団の出現率をかけて、絶対計数値を決定した。
【0147】
本発明者らは、野生型マウスとIAP-/-マウスの間でKLSまたはGMPの動員にほとんど差がないことを発見した(図19e)。IAP-/-マウスが前駆細胞を脾臓に移動させる能力は3日目までにある程度低減したが、4日目および5日目までには正常な数の細胞を末梢に復帰させた。骨髄コンパートメントおよび肝臓コンパートメントは野生型マウスと同様に見えた。したがって、IAP-/-マウスは顕著な動員欠陥を示さない。
【0148】
ヘテロ接合体IAP+/-赤血球のCD47の量は、野生型の赤血球および血小板のおよそ半分である。また、免疫グロブリンでオプソニン化したIAP+/-赤血球および血小板中で起こる食作用の量は、野生型と比べて用量依存的に増大する。ストレス状態および動員状態においてCD47レベルが上昇するという本発明者らの観察結果を踏まえて、本発明者らは、CD47に関して遺伝学的にヘミ接合性である細胞は、ある期間に渡ってマクロファージによる食作用およびクリアランスを受けやすい可能性があると仮説を立てるに至った。したがって、本発明者らは、造血への長期の寄与という点で、IAP+/-幹細胞は野生型幹細胞よりも不利になるかどうかを検討した。
【0149】
最初に、本発明者らはIAP+/+幹細胞、IAP+/-幹細胞、およびIAP-/-幹細胞上で発現されるCD47のレベルを解析した。CD34-Flk-2-KLS幹細胞のFACS解析により、ヘテロ接合体HSC上のCD47のMFIが実際、野生型幹細胞のレベルのほぼ半分であることが明らかになった(図20a)。次いで、本発明者らは、これらの細胞を移植し、それらがレシピエントにおいて生着し、造血細胞を産生する能力を検査した。本発明者らは、類遺伝子性野生型レシピエントマウスに475Gyの致死線量以下の放射線を照射した。次いで、本発明者らは、レシピエントの1つのコホートに2×106個の完全な野生型骨髄細胞を移植し、別のコホートに同じ量のIAP+/-骨髄細胞を移植した。このような量は、およそ50~100個のHSCを含むと予想されている。末梢血中の顆粒球のキメラ化は、幹細胞の健康状態の好適な代用マーカーであるため、本発明者らは、これらのレシピエントの血液に由来する細胞を定期的な間隔で解析した。野生型骨髄を野生型レシピエントに移植した場合、顆粒球キメラ化は、最長で40週間維持された。しかしながら、IAP+/-細胞を移植した場合、最初は好結果の生着を示したにもかかわらず、5匹中3匹のマウスが時間とともにドナーキメラ化を失った(図20b)。
【0150】
本発明者らは、白血病の進行時に造血細胞表面でCD47が上方調節されていることを観察によって認めた。本発明者らははまた、Cy/Gを用いてマウスを刺激して幹細胞および前駆細胞を末梢に動員した場合、またはLPSをマウスに攻撃接種した場合、CD47発現のレベルが同様に上昇することも発見した。だが、これらの状態でなぜCD47が上方調節されているのだろうか。様々な研究で、食作用の防止におけるCD47の用量依存的効果が説明されている。CD47レベルが野生型細胞の半分であるIAP+/-赤血球およびIAP+/-血小板は、正常な対応物よりも迅速に貪食される。また、細胞上でのCD47発現レベルは、細胞がマクロファージ上のSIRPα阻害性受容体と結合する能力とよく相関していることも証拠によって示されている。最近、Danska et alが、NOD-SCIDマウスがヒト造血細胞の移植を支援する能力が、これらのマウスのSIRPα受容体の変異と相関していることを報告した。本発明者らは本明細書において、より高いレベルでCD47を発現する幹細胞および前駆細胞の方が食作用によってクリアランスされる可能性が低いことを示す。
【0151】
これらの研究から、骨髄破壊後および動員中などマクロファージによって貪食される傾向が高い状態の間に造血幹細胞を保護する際のCD47上方調節の役割が示唆される。マクロファージは、老化細胞または損傷細胞に遭遇するとそれらを除去する機能を有する;マクロファージは損傷した幹細胞も同様に排除できるようである。したがって、健常な状態に回復しつつある幹細胞は、動員応答の間にCD47を上方調節してクリアランスを妨げ得るのに対し、損傷された幹細胞はそのようにすることができず、クリアランスされる。本発明者らは、これが、造血系が自身を自己調節して、健常な未損傷細胞だけが高ストレス状態の間に生存および増殖し、資源を利用する機会を与えられるよう徹底するメカニズムであると推測する。LPSによって誘発された炎症に続いて起こる、HSCおよび前駆細胞の血流中、次いで造血部位への動員は非常に興味深い;HSCは、インテグリンα4β1(WagersおよびWeissman, Stem Cells 24(4):1087-94, 2006)およびケモカイン受容体CXCR4(Wright DE et al., J Exp Med 195(9): 1145-54, 2002)を用いて、血液から骨髄に遊走する。本発明者らは、インテグリンα4β1が造血性間質上のVCAM1に結合することを以前に示した(Mikaye K et al. J Exp Med 173(3):599-607, 1991); VCAM1もまた、炎症性T細胞が細胞死および炎症の局所部位を認識し侵入するために使用する血管上の血管アドレシンである。インテグリン関連タンパク質CD47を発現するほかに、あちこち移動するHSCは機能的インテグリンα4β1を発現することから、炎症状態の際に遊走する造血幹細胞および造血前駆細胞は、骨髄造血を広め直す(re-seed)だけでなく、同様に局所的炎症にも関与し得ることが推測される。
【0152】
材料および方法
マウス。C57Bl/6 CD45.1マウスおよびC57Bl/6 CD45.2(野生型)マウスを本発明者らのコロニーにおいて維持した。IAP-/-マウスは、EricBrown(University of California, San Francisco)から得た。これらはC57Bl6/J背景で飼育されており、本発明者らの野生型コロニーと交雑させた。
【0153】
スクリーニング。IAP+/-を互いに交雑させて、子孫IAP-/-およびIAP+/-を生じさせた。尾部DNAのPCRによってマウスをスクリーニングした。以下のプライマーを使用した。
【0154】
細胞の染色および選別。次のモノクローナル抗体を用いて、マウス幹細胞およびマウス前駆細胞の染色を実施した:Cy5-PE(eBioscience)に結合されたMac-1、Gr-1、CD3、CD4、CD8、B220、およびTer119を系統カクテル中で用い、c-Kit PE-Cy7 (eBioscience)、Sca-1 Alexa680(e13-161-7、本発明者らの実験室で作製)、CD34 FITC(eBioscience)、CD16/32(FcGRII/III) APC(Pharmingen)、およびCD135(Flk-2) PE(eBioscience)を以前に説明されているようにして使用して、マウスの幹細胞サブセットおよび前駆細胞サブセットを染色した21 22。マウスCD47抗体(クローンmIAP301)は、本発明者らの実験室で作製したビオチン標識抗体を用いて評価した。次いで、ストレプトアビジンを結合させたQuantum Dot 605 (Chemicon)で細胞を染色した。FACSAria(Beckton Dickinson)を用いて試料を解析した。
【0155】
BD FACSAriaを用いてCD34-Flk2-KLS幹細胞を二重選別した。尾静脈から採血して末梢血細胞を得、Dextran T500(Sigma)沈殿およびACK溶解によって赤血球を除去した。抗CD45.1 APC、抗CD45.2 FITC、抗Ter119 PE (Pharmingen)、抗B220 Cy5-PE(eBiosciences)、抗CD3 Cascade Blue、および抗Mac-1 Cy7-PE(eBiosciences)で細胞を染色した。顆粒球はTer119- B220- CD3- Mac-1+ SSC hiであった。BD FACSAriaを用いて細胞を解析した。
【0156】
解析前に全試料をヨウ化プロピジウム含有緩衝液に再懸濁して、死細胞を排除した。FACSデータはFloJoソフトウェア(Treestar)を用いて解析した。
【0157】
インビトロのコロニー形成アッセイ法。説明されているようにして調製したメチルセルロース培地(Methocult 3100)を含む96ウェルプレートにLT-HSCを直接的にクローン選別した。この培地には、組換えマウス幹細胞因子(SCF)、インターロイキン(IL)-3、IL-11、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポエチン(Tpo)、およびエリスロポエチン(Epo)も添加されていた。CFU-G、CFU-M、CFU-GM、CFU-GEMM、およびMegについてコロニーを採点した。
【0158】
細胞移入。完全な骨髄の移入のために、IAP+/+細胞、IAP+/-細胞、またはIAP-/-細胞を脚長骨から新しく単離した。血球計数器を用いて細胞を計数し、PBS+2% FCS 100uL中に再懸濁した。いくつかの実験のために、C57Bl/6 Ka CD45.1マウスに由来するCD45.1細胞をCD45.2野生型マウスへのドナーとして使用した。
【0159】
選別された細胞に関しては、正確な量で(すなわち、試験管1本当たり細胞50個または500個)PBS緩衝液中に細胞を選別し、PBS+2% FCS 100uL中に再懸濁した。競合実験のために、C57Bl/6 CD45.1に由来する新しく単離した完全な骨髄細胞2×105個を幹細胞懸濁液100uLに添加した。
【0160】
セシウム供給源を用いて、指定した線量の放射線をC57Bl/6 Ka CD45.1レシピエントマウスまたはC57Bl/6 J CD45.2レシピエントマウスに照射した。致死量以下の線量は4.75グレイであり、致死線量は9.5グレイの分割線量であった。イソフルオランで麻酔したマウスの後眼窩洞に、27ゲージの注射器を用いて細胞を移入した。
【0161】
動員アッセイ法。先に説明したようにして、シクロホスファミド(Sigma)(200mg/kg)およびG-CSF(Neupogen)(250μg/kg)でマウスを動員処置した。大腸菌(E. coli)055:B5(Sigma)由来の細菌LPSを用量40mg/kgで腹膜腔に投与した。
【0162】
動員された器官を解析するために、脾臓全体、肝臓全体、および脚長骨を単細胞懸濁液に調製した。血球計数器を用いて細胞濃度を測定して、これらの器官中の造血細胞の全体的細胞充実性を決定した。
【0163】
c-Kit+細胞の濃縮。マウス骨髄全体をCD117マイクロビーズ(Miltenyi)で染色した。磁選機を用いて、AutoMACS Midiカラム(Miltenyi)においてc-Kit+細胞を選別した。
【0164】
インビトロの食作用アッセイ法。先に説明したようにしてBMDMを調製した。アッセイ法に先立って、c-Kit濃縮骨髄細胞をCFSE(Invitrogen)で染色した。c-Kit濃縮細胞2.5×105個をマクロファージ5×104個と共に播種した。マクロファージおよびc-Kit細胞は、IAP+/+マウスまたはIAP-/-マウスのいずれかから得た。細胞を2時間インキュベートし、食作用指数を決定した。先に説明したようにして写真を撮影した。
【0165】
実施例4
CD47は、ヒト急性骨髄性白血病細胞上の独立した予後因子および治療的抗体標的である
急性骨髄性白血病(AML)は、自己複製する白血病幹細胞(LSC)のサブセットによって開始され維持される細胞階層として組織化される。本発明者らは、AML LSCにおけるCD47発現増大は、CD47と食細胞上の阻害性受容体との相互作用を介して食作用を阻害することによって病理発生をもたらすと仮説を立てた。本発明者らは、AML LSCの方がそれらの正常な対応物よりもCD47を高発現すること、およびAML成人患者の独立した3つのコホートにおいて全生存が悪化することがCD47発現の増大から予測されることを発見した。さらに、CD47に対するモノクローナル遮断抗体は、インビトロで、マクロファージによるAML LSCの食作用を優先的に可能にし、インビボでのそれらの生着を阻害した。最後に、ヒトAMLを移植したマウスを抗CD47抗体で治療すると、インビボでAMLが除去された。要約すれば、CD47発現の増大は、LSCの食作用を刺激することができるモノクローナル抗体を用いてヒトAML幹細胞上でターゲティングすることができる、独立した予後不良因子である。
【0166】
結果
CD47は、AML LSCにおいての方が、それらの正常な対応物においてよりも高発現され、FLT3-ITD変異に関連している。本発明者らは、骨髄性白血病のいくつかのマウスモデルを研究して、正常な骨髄と比べてマウス白血病細胞上ではCD47発現が増大していることを確認した。これがきっかけとなって、ヒトAML LSCおよびその正常な対応物におけるCD47発現の調査が始まった。フローサイトメトリーを用いると、CD47は、正常骨髄のHSCおよびMPPよりも、複数のAML LSC標本において高発現されていた(図6)。この発現増大はバルク白血病細胞に拡大し、これらの細胞は、LSC濃縮画分と同様にCD47を発現した。
【0167】
これらの試料のサブセットを検査したところ、CD47表面発現がCD47 mRNA発現と相関していることが示された。AMLの形態学的サブグループ、細胞遺伝学的サブグループ、および分子的サブグループの全般におけるCD47発現を調査するために、以前に説明されている成人患者285名のコホートの遺伝子発現データを解析した (Valk et al., 2004 N Engl J Med 350, 1617-1628)。FAB(French-American-British)サブタイプ間ではCD47発現に有意な差は見出されなかった。t(8;21)(q22;q22)を有する症例、すなわち統計学的に有意に低いCD47発現を示していた有利なリスク群を除いて、大半の細胞遺伝学的サブグループにおいて、CD47は類似したレベルで発現された。分子的に特徴付けられたAMLサブグループでは、CD47発現とFLT3のチロシンキナーゼドメイン(FLT3-TKD)の変異、EVI1の過剰発現、またはCEBPA、NRAS、もしくはKRASの変異との間に有意な関連は見出されなかった。しかしながら、より高いCD47発現は、FLT3-ITDの存在と強い相関があった(p<0.001)。FLT3-ITDは正常な核型を有するAMLのほぼ3分の1で観察されており、全生存の悪化と関連付けられている。この知見は、AML患者214名および137名の2つの独立したデータセットにおいて別々に確認された(表1)。
【0168】
(表1)検証コホートに由来するAML試料の臨床的特徴および分子的特徴ならびにCD47低発現群とCD47高発現群の比較
診断時の臨床的特徴および分子的特徴を表にした。WBCは白血球数を示す;FABは、フランス人-アメリカ人-イギリス人を示す;FLT3-ITDは、FLT3遺伝子の遺伝子内縦列重複を示す(FLT3-ITD状態が存在しない10症例では、遺伝子発現に基づいて予測されるFLT3-ITD状態をBullinger et al., 2008の方法を用いて代入した);FLT3-TKDは、FLT3遺伝子のチロシンキナーゼドメイン変異を示す;NPM1は、NPM1遺伝子の変異を示す;MLL-PTDは、MLL遺伝子の部分的な縦列重複を示す;CEBPAは、CEBPA遺伝子の変異を示す。CRは完全寛解を示す。CRは、ICE(idarubicin, etoposide, cytarabine)(イダルビシン、エトポシド、シタラビン)またはA-HAM (all-trans retinoic acid and high-dose cytarabine plus mitoxantrone)(オールトランスレチノイン酸ならびに高用量のシタラビンおよびミトキサントロン)を含む1回目の導入治療プログラム後および2回目の導入治療プログラム後の両方に評価した。自家HSCTは、自家移植を示す;同種異系HSCTは、同種異系間移植を示す。†P値は、CD47 mRNA発現値が低い患者とCD47 mRNA発現値が高い患者の診断時の分子的特徴および臨床的特徴の差を比較する。CD47発現は、補足的方法で説明するように、公開された独立的マイクロアレイデータセット(Valk et al, 2004)に基づいて本発明者らが特定した、全生存階層化のために最適なカットポイントに基づいて二種類に分けた。
【0169】
差次的なCD47発現に基づいた、同じ患者に由来する正常前駆細胞および白血病前駆細胞の同定および分離。標本SU008のLSCを濃縮したLin-CD34+CD38-画分において、大多数であるCD47hi発現細胞に加えて、CD47lo発現細胞の稀な集団が検出された(図21A)。これらの集団を蛍光活性化細胞選別(FACS)によって純度が98%を超えるように単離し、新生仔NOGマウスに移植するか、または完全メチルセルロース中に播種した。いくつかのAML標本で観察できるように、CD47hi細胞は、インビボで生着することも、インビトロで任意のコロニーを形成することもできなかった。
【0170】
しかしながら、CD47lo細胞はインビボで正常な骨髄-リンパ系(myelo-lymphoid)造血と共に生着し、インビトロで多数の形態学的に正常な骨髄系コロニーを形成した(図21B、C)。この標本はFLT3-ITD変異を含んでおり、これはバルク白血病細胞において検出された(図21D)。精製されたCD47hi細胞はFLT3-ITD変異を含み、したがって、白血病性クローンの一部分であったが、CD47lo細胞はこの変異を含まなかった。CD47lo細胞が生着したマウスから単離したヒト細胞は野生型FLT3のみを含んだことから、CD47lo細胞は正常な造血前駆細胞を含むことが示された。
【0171】
ヒトAMLにおけるCD47発現の増大は、不良な臨床転帰に関連する。本発明者らは、ヒトAMLにおけるCD47発現の増大が病理発生をもたらすと仮説を立てた。この仮説から、本発明者らは、CD47を高発現するAMLほど、悪い臨床転帰を伴うであろうと予測した。この仮説と一致して、様々な細胞遺伝学的異常および分子的異常を有する以前に説明されている成人AML患者285名の群の解析(Valk et al., 2004)により、CD47低発現群およびCD47高発現群に患者を二分階層化することは、高発現群での死亡リスクの有意な上昇と関連することが明らかになった(p=0.03)。全生存とCD47発現のこの二分階層化との関連を、正常な核型を有する成人患者(NK-AML)242名からなる第2の試験コホート(Metzeler et al., 2008 Blood)において確認した(p=0.01)。
【0172】
正常な核型を有する成人患者137名からなる別の検証コホートにこの階層化を適用することにより(Bullinger et al., 2008 Blood 111, 4490-4495)、本発明者らは、全生存と無再発生存の両方に関してCD47発現の予後値を確認した(図22)。また、この交差検定コホートのCD47低発現群およびCD47高発現群の臨床的特徴の解析によっても、白血球(WBC)計数値およびFLT3-ITD状態の統計学的に有意な差が確認され、完全寛解の比率および同種異系間移植を含む地固め療法のタイプに差はなかった(表1)。カプラン・マイヤー解析により、診断時にCD47発現が高いことは、無再発生存および全生存が悪いことと有意に関連していることが実証された(図22A、B)。CD47低発現群の患者の無再発生存期間中央値は17.1ヶ月であったのに対し、CD47高発現群では6.8ヶ月であった。これは、ハザード比1.94に相当する(95%信頼区間1.30~3.77、p=0.004)。全生存期間に関しては、CD47低発現群の患者の中央値は22.1ヶ月であったのに対し、CD47高発現群では9.1ヶ月であった。これは、ハザード比2.02に相当する(95%信頼区間1.37~4.03、p=0.002)。CD47発現を連続変数とみなす場合、発現の増大は、無再発(p=0.02)および全生存(p=0.02)の悪化とも関連していた。
【0173】
FLT3-ITDと関連していたにも関わらず(表1)、診断時にCD47発現が高いことは、2つに分けた分類(図22C、D)または連続変数のいずれかとみなした場合、FLT3-ITD無しの患者74名のサブグループの無再発生存および全生存の悪化にも有意に関連していた(無再発生存および全生存の両方とも、p=0.02)。年齢、FLT3-ITD状態、およびCD47発現を連続変数とみなす多変数解析において、CD47発現の増大は依然として無再発生存の悪化(ハザード比率は1.33(95%信頼区間1.03~1.73、p=0.03))および全生存の悪化(ハザード比率は1.31(95%信頼区間1.00~1.71、p=0.05))と関連していた(表2)。
【0174】
(表2)
【0175】
ヒトCD47に対するモノクローナル抗体は、ヒトマクロファージによるAML LSCの食作用を優先的に可能にする。本発明者らは、ヒトAMLにおけるCD47発現増大が、白血病細胞の食作用を阻害することによって病理発生をもたらすと仮説を立て、CD47に対するモノクローナル抗体でCD47-SIRPα相互作用を混乱させることにより、AML LSCの食作用が優先的に可能になるであろうと予想するに至った。CD47-SIRPα相互作用をブロックできるいくつかの抗体(B6H12.2およびBRIC126)ならびにそれをできない他の抗体(2D3)を含む、いくつかの抗ヒトCD47モノクローナル抗体が作製されている(Subramanian et al., 2006 Blood 107, 2548-2556)。インビトロにおけるヒトマクロファージによるAML LSCまたは正常ヒト骨髄CD34+細胞の食作用をこれらの抗体が可能にする能力を試験した。IgG1アイソタイプ対照抗体またはマウス抗ヒトCD45 IgG1モノクローナル抗体の存在下でヒトマクロファージと共にAML LSCをインキュベーションし、免疫蛍光顕微鏡検査(図8A)またはフローサイトメトリーのいずれかによって測定したところ、有意な食作用は得られなかった。しかしながら、抗CD47遮断抗体B6H12.2およびBRIC126の添加により、AML LSCの食作用が可能になったが、非遮断抗体2D3では可能にならなかった(図8A、C)。正常CD34+細胞の食作用はどの抗体の場合も観察されなかった(図8C)。
【0176】
ヒトCD47に対するモノクローナル抗体は、マウスマクロファージによるAML LSCの食作用を可能にする。CD47-SIRPα相互作用は、いくつかの異種間移植において異種移植拒絶の決定的に重要な調節因子として意味付けられている;しかしながら、1つの種に由来するCD47が別の種のSIRPαに結合し刺激する能力に関して矛盾する報告がある。ヒトCD47とマウスSIRPαとの相互作用を阻害する効果を直接評価するために、マウスマクロファージを用いて前述のインビトロ食作用アッセイ法を実施した。IgG1アイソタイプ対照抗体またはマウス抗ヒトCD45 IgG1モノクローナル抗体の存在下でマウスマクロファージと共にAML LSCをインキュベーションし、免疫蛍光顕微鏡検査(図8B)またはフローサイトメトリーのいずれかによって測定したところ、有意な食作用は得られなかった。しかしながら、抗CD47遮断抗体B6H12.2およびBRIC126の添加により、AML LSCの食作用が可能になったが、非遮断抗体2D3では可能にならなかった(図8B、C)。
【0177】
ヒトCD47に対するモノクローナル抗体はAML LSC生着を阻害し、インビボでAMLを排除する。インビボで抗CD47遮断抗体B6H12.2がAML LSCをターゲティングする能力を試験した。AML LSCをFACSによって精製し、IgG1アイソタイプ対照抗体、抗ヒトCD45抗体、または抗ヒトCD47抗体とインキュベートする、プレコーティング戦略を最初に利用した。一定分量の細胞を二次抗体で染色することによってコーティングに関して解析して、抗CD45抗体および抗CD47抗体の両方が細胞に結合することを実証した(図10A)。残りの細胞を新生仔NOGマウスに移植し、13週間後に白血病生着に関して解析した(図10B)。1匹を除いてすべてのマウスにおいて、アイソタイプ対照および抗CD45抗体でコーティングされた細胞は、長期の白血病生着を示した。しかしながら、抗CD47抗体でコーティングされた細胞を移植された大半のマウスは、検出可能な白血病生着を示さなかった。
【0178】
次に、ヒトAML LSCをマウスに最初に移植し、次いで、マウスIgGまたは抗CD47抗体のいずれか100μgを14日間、毎日腹腔内注射して投与する治療戦略を利用し、治療前および治療後に白血病生着を測定した。末梢血の解析により、抗CD47抗体で治療したマウスでは、多くの場合、1回投与した後に循環血中の白血病細胞(leukemia)がほぼ完全に排除されたが、対照マウスでは応答が示されなかった(図23A、B)。同様に、抗CD47抗体で治療したマウスの骨髄では白血病生着の有意な減少が認められたのに対し、対照IgGで治療したマウスでは、白血病転移(involvement)が増加した(図23C、D)。骨髄の組織学的解析により、対照IgGで治療したマウスでは単形性白血病芽球が確認され(図23E、パネル1、2)、抗CD47抗体で治療したマウスでは、低細胞性領域が消失していることが確認された(図23E、パネル4、5)。白血病が残存していた、抗CD47抗体で治療した数匹のマウスの骨髄中で、貪食された核濃縮細胞を含むマクロファージが検出され、ヒト白血病の消失がとらえられた(図23E、パネル3、6)。
【0179】
本発明者らは本明細書において、AML LSCにおいての方が、それらの正常な対応物においてよりもCD47が高発現されることを確認したことを報告し、ヒトAMLにおけるCD47発現増大は、CD47とSIRPαとの相互作用を介してこれらの細胞の食作用を阻害することによって病理発生をもたらすと仮説を立てる。この仮説と一致して、本発明者らは、ヒトAMLにおけるCD47発現増大が、全生存の減少と関連していることも実証する。本発明者らははまた、CD47に対するモノクローナル抗体でCD47-SIRPα相互作用を混乱させることにより、インビトロでのマクロファージによるAML LSCの食作用が優先的に可能になり、AML LSCの生着が阻害され、AMLがインビボで排除されることも実証する。まとめると、これらの結果から、ヒトAMLに対する新規な治療法として抗CD47モノクローナル抗体の使用を検討する論理的根拠が確立される。
【0180】
CD47の病原性の影響は、AML病理発生に関して提唱されているモデルにおける変異の2つの主要な補完的クラスとは機構的に異なると思われる。このモデルによれば、クラスI変異(主として増殖およびアポトーシスに影響を与える(例えば、FLT3およびNRAS))およびクラスII変異(主として造血細胞分化に障害を生じさせる(例えば、CEBPA、MLL、およびNPM1))が、白血病誘発の際に協力する。本明細書において実証するように、CD47は独特なメカニズムによって病理発生をもたらして、先天性免疫系による食作用を回避することによってLSCおよび子孫芽球を生き残りに有利する。免疫応答を回避するための戦略が多くのヒト腫瘍に関して説明されているおり、本発明者らは、CD47発現の増大が最初のこのような免疫回避メカニズムに相当し、ヒトAMLの予後および治療に関連すると考える。
【0181】
CD47高発現は、白血病幹細胞のマーカーであり、AMLの全生存を予知する。AML LSCは、正常な骨髄ではHSCおよびMPPを含むLin-CD34+CD38-画分中で豊富である。白血病細胞と正常幹細胞を区別できる細胞表面分子の同定は、微小残存病変(MRD)のフローサイトメトリーによる評価のため、および細胞療法で使用するプロスペクティブな分離戦略の開発のために不可欠である。CD123、CD96、CLL-1、および現在ではCD47を含むいくつかの候補分子が最近同定されている。CD123は、正常なHSCに富む集団と比べてAML LSCにおいての方が高発現されることが実証された最初の分子であった。本発明者らは、正常HSCと比べたCD96のAML LSC特異的発現を以前に確認し、CD96+白血病細胞だけがインビボで生着でき、CD96-白血病細胞は生着できないことを実証した。
【0182】
CLL-1は、大半のAML試料で発現されるが正常HSCでは発現されないAML LSC特異的表面分子であると確認された;重要なことだが、血液学的寛解状態にある患者数名の骨髄中にLin-CD34+CD38-CLL-1+細胞が存在することは、再発の前兆であった。本発明者らは本明細書において、正常なHSCおよびMPPと比べて、AML LSCにおいての方がCD47が高発現されることだけでなく、この差次的な発現を利用してLSCから正常なHSC/MPPを分離できることも実証する。これにより、同じ患者試料中の白血病幹細胞からの正常幹細胞のプロスペクティブな分離が最初に実証され、LSCを枯渇させる自家HSC移植療法の可能性が与えられる。
【0183】
本発明者らは、AML LSCにおけるCD47の高発現を初めに同定したが、バルク芽球における発現は同じであることに注目した。このため、本発明者らは、公開されている遺伝子発現データをバルクAMLにおいて利用して、CD47発現と臨床転帰の関係を調査した。本発明者らの仮説と一致して、本発明者らは、CD47発現の増大は、AML患者の最大のサブグループであるFLT3-ITD変異の無いサブセットを含む、核型が正常なAML患者の臨床転帰の悪化を独立に予測することを発見した。この解析はCD47 mRNAの相対的発現に依存していたため、AML予後に関する定量的PCRアッセイ法は、CD47発現のレベルに基づき得る。このようなアッセイ法は、特に、FLT3-ITD変異が無く核型が正常なAML患者の大きなサブグループにおいて、リスクに対応した治療法の意志決定において利用され得る。
【0184】
治療的モノクローナル抗体によるAML LSC上のCD47のターゲティング。AML LSCにおいての方がそれらの正常な対応物においてよりも優先的に発現される細胞表面分子は、治療的モノクローナル抗体によるターゲティングの候補である。これまでのところ、CD33、CD44、CD123、および現在ではCD47を含むAML上のいくつかの分子がターゲティングされている。CD33は、高齢患者の再発AMLの治療用に承認されているモノクローナル抗体結合体ゲムツズマブオゾガマイシン(Mylotarg)の標的である。モノクローナル抗体によってCD44をターゲティングすると、マウスにおけるAML生着が著しく低減することが示され、モノクローナル抗体がLSCに特異的に作用して分化を誘導するという証拠になった。CD123に対するモノクローナル抗体は、インビボでAML LSC機能を低減する際に有効であることが最近報告された。本明細書において、本発明者らは、CD47に対するモノクローナル抗体がインビトロでAML LSCの食作用を刺激し、インビボで生着を阻害できることを報告する。
【0185】
いくつかの証拠から、モノクローナル抗体によるCD47のターゲティングは、CD47-SIRPα相互作用を混乱させることによって作用し、それによって、食作用阻害シグナルを妨害する可能性が高いことが示唆される。第1に、3種の抗体すべてが細胞に同様に結合するにも関わらず、2つの抗CD47遮断抗体はAML LSC食作用を可能にしたが、1つの非遮断抗体はできなかった。第2に、本発明者らの実験の大半で使用したB6H12.2抗体の場合、同様にLSCに結合するアイソタイプを一致させた抗CD45抗体は、同じ効果をもたらさなかった。実際、B6H12.2抗体は、アイソタイプIgG2aまたはIgG2bの抗体ほど効果的にマウスFc受容体に結合できないマウスアイソタイプIgG1である。
【0186】
ヒト臨床的療法の場合、ヒトマクロファージによるインビトロの食作用によって示されるように、ヒト化モノクローナル抗体でAML LSC上のCD47をブロックすることにより、同様のメカニズムによるLSC食作用が促進される(図8A、C)。より高いCD47発現がAML LSC上で検出される;しかしながら、CD47は、骨髄HSCを含む正常組織上で発現される。本発明者らは、インビトロでのヒトマクロファージによるAML LSCの食作用を可能にする際に抗CD47抗体が正常骨髄CD34+細胞よりも優先的効果を有することを確認した。実際に、アイソタイプ対照と比べて増大した正常CD34+細胞の食作用は検出されなかったことから、モノクローナル抗体でCD47をブロックすることは、ヒトAMLの実用的な治療戦略であることが実証された。
【0187】
本明細書において提示する実験的証拠は、抗CD47モノクローナル抗体をAMLの単独療法とすることに論理的根拠を与える。しかしながら、このような抗体は、組合せ戦略の一環として同じくらい、あるいはそれよりも有効であり得る。食作用に対する強い阻害シグナルをブロックできる抗CD47抗体をLSC特異的分子(例えばCD96)に結合し食細胞上のFc受容体と結合し、それによって食作用に対する強い正方向のシグナルを送達できる第2の抗体と組み合わせることにより、AML LSCの食作用および特異的排除のための相乗的刺激がもたらされ得る。さらに、他の2つの細胞表面抗原に対する抗CD47遮断抗体およびヒトIgG1抗体を含む、AML LSCに対するモノクローナル抗体の組合せは、単一の抗体で治療した患者で再発する可能性が高い、既存のエピトープ変異または抗原欠損を有する白血病細胞を排除する可能性がより高いと考えられる。
【0188】
実験手順
ヒト試料。正常ヒト骨髄単核細胞をAllCells Inc. (Emeryville, CA)から購入した。IRBに承認されたプロトコール(Stanford IRB番号76935および6453)に従って、Stanford University Medical Centerの患者からインフォームドコンセントを得て、ヒト急性骨髄性白血病試料(図1A)を得た。磁性ビーズ(Miltenyi Biotech)を用いてヒトCD34-陽性細胞を濃縮した。
【0189】
フローサイトメトリーおよび細胞選別。以前に説明されているようにして(Majeti et al., 2007)、AML LSC(Lin-CD34+CD38-CD90-、系統にはCD3、CD19、およびCD20が含まれた)、HSC(Lin-CD34+CD38-CD90+)、ならびにMPP (Lin-CD34+CD38-CD90-CD45RA-)の解析および選別のために抗体パネルを使用した。抗ヒトCD47 PE抗体(クローンB6H12、BD Biosciences, San Jose CA)を用いて、CD47発現の解析を実施した。
【0190】
ゲノムDNAの調製およびPCRによるFLT3-ITDの解析。製造業者(Gentra Systems, Minneapolis, MN)のプロトコールに従ってGentra Puregene Kitを用いて、細胞沈殿物からゲノムDNAを単離した。329bpの野生型産物および様々なより大型のITD産物を生成するプライマーを用いたPCRによって、FLT3-ITD状態をスクリーニングした。
【0191】
抗ヒトCD47抗体。モノクローナルマウス抗ヒトCD47抗体には、BRIC126、IgG2b(Abcam, Cambridge, MA)、2D3、IgG1 (Ebiosciences. San Diego, CA)、およびB6H12.2、IgG1が含まれた。B6H12.2ハイブリドーマは、American Type Culture Collection (Rockville, MD)から得た。抗体は、標準手順に従ってプロテインGアフィニティークロマトグラフィーを用いてハイブリドーマ上清から精製するか、またはBioXCell(Lebanon, NH)から得た。
【0192】
メチルセルロースコロニーアッセイ法。選別した細胞を完全メチルセルロース(Methocult GF+ H4435, Stem Cell Technologies)1mlを各ウェルが含む6ウェルプレートに播種することによって、メチルセルロースコロニー形成を分析した。プレートを37℃で14日間インキュベートし、次いで、形態に基づいて採点した。
【0193】
インビトロの食作用アッセイ法。ヒトAML LSCまたは正常骨髄CD34+細胞をCFSEで標識し、7μg/mlのIgG1アイソタイプ対照、抗CD45 IgG1抗体、または抗CD47抗体(クローンB6H12.2、BRIC126、または2D3)の存在下で、マウスマクロファージまたはヒトマクロファージのいずれかと共に2時間、インキュベートした。次いで、蛍光顕微鏡検査法によって細胞を解析して、食作用指数(マクロファージ100個当たりの摂取された細胞の数)を決定した。場合によっては、次に細胞を回収し、マウスマクロファージマーカーまたはヒトマクロファージマーカーのいずれかで染色し、フローサイトメトリーによってマクロファージ+CFSE+であるものを貪食された細胞と同定した。スチューデントのt検定を用いた統計解析は、GraphPad Prism (San Diego, CA)を用いて実施した。
【0194】
インビボのプレコーティング生着アッセイ法。AML標本から単離されたLSCを、28ug/mLのIgG1アイソタイプ対照、抗CD45 IgG1抗体、または抗CD47 IgG1抗体(B6H12.2)と共に4℃で30分間、インキュベートした。次いで、少量ずつ分取した細胞をロバ抗マウスPE二次抗体(Ebioscience)で染色し、フローサイトメトリーによって解析してコーティングを評価した。次いで、約105個のコーティングされたLSCを放射線照射済みの各新生仔NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJ(NOG)マウスに移植した。移植後13週目にマウスを屠殺し、フローサイトメトリーによって骨髄のヒト白血病生着(hCD45+hCD33+)を解析した(Majeti et al., 2007 Cell Stem Cell 1, 635-645)。hCD45+細胞のライト・ギムザ染色およびFLT3-ITD PCRによってヒト白血病の存在を確認した。スチューデントのt検定を用いた統計解析は、GraphPad Prism (San Diego, CA)を用いて実施した。
【0195】
AMLを移植したマウスのインビボでの抗体治療。FACSによって精製した1~25×105個のLSCをNOG仔マウスに移植した。8~12週間後に、末梢血および骨髄におけるヒトAML生着(hCD45+CD33+細胞)を、それぞれ尾部採血および大腿骨穿刺によって評価した。次いで、100μgの抗CD47抗体または対照IgGを14日間、毎日腹腔内注射して、移植を受けたマウスを治療した。15日目にマウスを屠殺し、末梢血および骨髄をAMLに関して解析した。
【0196】
AML患者、マイクロアレイ遺伝子発現データ、および統計学的解析。以前に説明されているAML成人患者の次の3つのコホートについて、遺伝子発現および臨床データを解析した:(1)Valk et al.によって説明されている、多様な細胞遺伝学的異常および分子的異常を有する患者285名の学習用データセット、(2)Metzeler et al.によって説明されている、核型が正常な患者242名の試験用データセット、および(3)Bullinger et al.によって説明されている、核型が正常な患者137名の検証用データセット。解析した臨床的エンドポイントには、全生存および無再発生存が含まれた。イベントは、試験登録と、完全な寛解が無いこと、再発、または任意の原因による死亡に起因する試験からの撤退との間の間隔と定義され、最後のフォローアップ診察の際にイベントを有さない患者のデータは打ち切った。
【0197】
FLT3-ITD PCR。反応はすべて、5μlの10×PCR緩衝液(50mM KCL/10nM Tris/2mM MgCl2/0.01%ゼラチン)、1μlの10mM dNTP、2単位のTaqポリメラーゼ(Invitrogen)、1ulの10μMフォワードプライマー11F
およびリバースプライマー12R
、ならびに10~50ngのゲノムDNAを含む50μlの体積で実施した。FLT3遺伝子を増幅するためのPCR条件は、変性(95℃で30秒)、アニーリング(62℃で30秒)、および伸長(72℃で30秒)を40サイクルであった。
【0198】
マウスマクロファージおよびヒトマクロファージの調製。BALB/cマウス骨髄単核細胞を回収し、10ng/mLの組換えマウスマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF, Peprotech, Rocky Hill, NJ)を添加した10%FBS含有IMDM中で7~10日間増殖させて、単球をマクロファージに最終分化させた。Stanford University Medical Centerから得た廃棄正常血液からヒト末梢血単核細胞を調製した。37℃で1時間、単核細胞を培養プレートに付着させることによって単球を単離し、その後、非付着細胞は洗浄によって除去した。残った細胞の95%超が、CD14陽性かつCD11b陽性であった。次いで、付着細胞を10%ヒト血清(Valley Biomedical, Winchester, VA)含有IMDM中で7~10日間インキュベートして、単球をマクロファージに最終分化させた。
【0199】
インビトロの食作用アッセイ法。トリプシン/EDTA(Gibco/Invitrogen)中で5分間インキュベーションし、続いてそっとこすり落とすことによってBMDMまたは末梢血マクロファージを回収した。マクロファージ5×104個を、10%FBS含有10%IMDMを入れた24ウェル組織培養プレートの各ウェルに播種した。24時間後、培地を無血清IMDMに交換し、さらに2時間細胞を培養した。製造業者のプロトコールに従って(Invitrogen)、CFSEでLSCを蛍光標識した。CFSEで標識した2×104個のLSCを、7μg/mLのIgG1アイソタイプ抗体(Ebiosciences)、抗CD45抗体(クローンHI30、Ebiosciences)、または抗CD47抗体と共に、マクロファージを含むウェルに添加し、2時間インキュベートした。次いで、ウェルをIMDMで3回洗浄し、CFSE蛍光を検出できる高感度緑色蛍光タンパク質フィルターを用いたEclipse T5100免疫蛍光顕微鏡(Nikon)によって検査した。マクロファージ内のCFSE陽性細胞の数を計数し、マクロファージ100個当たりの摂取された細胞の数として食作用指数を決定した。ウェル当たり少なくとも200個のマクロファージを計数した。蛍光画像および明視野画像を別々に撮影し、Image Pro Plus (Media Cybernetics, Bethesda, MD)を用いて合成した。図22A、Bにおいて、左の3つの画像は、倍率200倍で示し、右の抗CD47画像は倍率400倍で示す。次いで、食作用のフローサイトメトリー解析のために、トリプシン/EDTAを用いて細胞を各ウェルから回収した。次いで、マウスマクロファージ抗体抗マウスF4/80-PECy7(Ebiosciences)または抗ヒトCD14-PECy7(Ebiosciences)で細胞懸濁液を染色し、FACSAriaを用いて解析した。貪食されたLSCは、マウスマクロファージまたはヒトマクロファージとそれぞれインキュベートした場合に、CFSE+F4/80+細胞またはCFSE+CD14+細胞のいずれかと定義した。
【0200】
マイクロアレイ遺伝子発現データ。補足の図22のパネルAでは、学習コホート、試験コホート、および検証コホートを含む、本明細書において解析した主なマイクロアレデータセットを説明する。学習用セット:Valk et al.およびJongen-Lavrencic et al.によってそれぞれAffymetrix HG-U133A マイクロアレイおよびHG-U133 Plus 2.0マイクロアレイを用いてプロファイリングされたAML患者285名および465名の遺伝子発現データ、細胞遺伝学的データ、および分子データを、対応するアクセッション番号(GSE1159およびGSE6891)を用いてGene Expression Omnibus から入手した。転帰データは前者のデータセットのものしか入手可能ではなく、対応する臨床的情報が著者の好意によって提供された。このコホートを「学習用」データセットとして示す。後者のデータセットを用いて、前者で説明された核型と分子変異の単変量関連を確認した。しかしながら、これら2種のデータセットは、1回目の試験の患者285名中247名が2回目に含まれるという点で重複し、したがって、2つ目のデータセットにおけるFLT3-ITDとCD47発現の関連を検証する際に除外された。NetAffx4、RefSeq5、およびUCSC Genome Browser6を用いて、本発明者らは、211075_s_atおよび213857_s_atを、排他的~構成的に転写されたCD47エキソンをマッピングするU133 Plus 2.0マイクロアレイ上のAffymetrixプローブセットであると確認した。CD47のmRNA発現レベル、ならびにFAB分類、核型、および分子的変異との関連に関した対応する統計学的測定値を推定する際に、これら2つのプローブセットの2を底とする対数の幾何平均を使用した。Valk et al.によってGSE1159として提供されたデータはAffymetrix強度測定値であるため、本発明者らはこれらの強度を、比率の正規化された2を底とする対数に変換して、従来のスキームを用いてcDNAマイクロアレイに由来する対応する測定値と比較できるようにした。具体的には、本発明者らは最初に(1)gcRMA8を用いて、このデータセット内の291個のマイクロアレイ全部に由来するCELファイルを使用した生データを正規化し、次いで、(2)所与のアレイ上の各遺伝子の強度測定値を全アレイの遺伝子の平均強度で割って比率を求め、(3)得られた比率を対数に変換し(底は2)、(4)アレイ全般、次に遺伝子全般の発現データの中心を中央値に置いた(median centered)。CD47の予後の値を評価するために、本発明者らは、発現分布が同様であることを前提として(補足の図3B)、かつ、NetAffx情報源内のアノテートされたStanford cDNAマイクロアレイ上のcDNAクローンと比べた場合のmRNA転写物内での位置を考慮して、Affymetrix HG-U133AマイクロアレイおよびHG-U133 Plus 2.0マイクロアレイのプローブセット213857_s_atを使用した。
【0201】
試験用セット:Metzeler et al.によってAffymetrix HG-U133AマイクロアレイおよびHG-U133 Plus 2.0マイクロアレイを用いてプロファイリングされたNKAML成人患者242名の遺伝子発現データおよび臨床データを、対応するアクセッション番号(GSE12417)を用いてGene Expression Omnibusから入手した。このデータセットの生データは入手不可能であったため、CD47の予後値を評価するために、本発明者らは、著者らによって提供された正規化したデータセット(2を底とする対数)を使用し、対応するマイクロアレイ上でプローブセット213857_s_atを用いてCD47発現を評価した。
【0202】
検証用セット:Bullinger et al.によってcDNAマイクロアレイを用いてプロファイリングされた正常核型AML患者137名の遺伝子発現データをStanford Microarray Database10から入手した。転帰データおよびFLT3変異状態を含む対応する臨床的情報が、著者の好意によって提供された。マイクロアレイフィーチャーならびにSOURCE11、RefSeq5、およびUCSC Genome Browser6の初めのアノテーションを用いて、本発明者らは、IMAGE:811819が、対応するcDNAマイクロアレイ上のCD47の構成的に転写された3’末端エキソンにマッピングする配列確認済みのcDNAクローンであることを確認した。
【0203】
治療の詳細:Valk et al.によって説明されたAML患者(学習用セット)をDutch-Belgian Hematology-Oncology Cooperativeグループのいくつかのプロトコールに従って治療した。Metzeler et al.によって説明されているNK-AML患者(試験用セット)の大多数(90%) をGerman AML Cooperative GroupのプロトコールAMLCG-1999によって治療し、患者は全員、集中的二重導入および地固め化学療法を受けた。Bullinger et al.によって説明されているNK-AML患者(検証用セット)137名はすべて、標準的治療(standard-of-care)の強化治療プログラム(プロトコールAML HD98A)を受けた。このプロトコールは、イダルビシン、シタラビン、およびエトポシドによる導入療法を2コース、高用量のシタラビンおよびミトキサントロン(HAM)の地固めサイクルを1回、続いて、同種異系造血細胞移植のためにHLAが同一な家族ドナーがいない場合は、自家造血細胞移植に対するHAMの後期の地固めサイクルへのランダムな割付を含んだ。
【0204】
統計学的解析。本発明者らは、形態学的カテゴリー化、細胞遺伝学的カテゴリー化、および分子的カテゴリー化に基づいてAMLのサブグループのCD47発現レベルの有意な差を概算するために、両側t検定および分散分析を使用した。高CD47群および低CD47群とベースラインの臨床的特徴、人口統計学的特徴、および分子的特徴との関連を、分類変数および連続変数に対してフィッシャーの正確確率検定およびマン-ホイットニーの順位和検定をそれぞれ用いて解析した。両側p値が0.05未満である場合、統計的有意性を示すとみなした。
【0205】
カプラン・マイヤー積極限法およびログ・ランク検定による生存曲線の推定を用いて患者の無再発および全生存を比較することによってCD47発現の予後値を測定した。この解析において、本発明者らは最初に、CD47発現(GSE1159内の213857_s_atによって測定される)を最適閾値に対して比較することによって、AML患者をCD47高発現群とCD47低発現群の2つに分類した。この閾値はX-Tile16を用いて決定した。本発明者らはこの方法を、予想される死亡数および観察された死亡数に関して2群間のカイ二乗統計量を最大化するために使用した。この層別化により、転帰データが入手可能なAML患者261名は、サイズが異なる2つの群に区別される。発現が最も低い72%の患者は低CD47とみなされ、発現が最も高い28%は高CD47とみなされた。これらの2つの群の全生存は異なり、高CD47群のハザード比は1.42であり、対応する未補正p値は0.033であり、過適合のリスクを避けるために交差検定を必要とする。
【0206】
したがって、本発明者らは、Metzeler et al.によって説明されているNK-AML患者242名の独立な試験コホートにこの最適閾値を適用することによって、CD47発現を用いるリスク層別化の妥当性および頑健性を評価した。特に、生存との関連を潜在的に交絡させる他の変数(より高齢であること、および異なる治療法を含む)が存在するにもかかわらず、試験用データセット内のNK-AML患者242名を用いて最適なカットポイントを誘導すると、同様の層別化が生じ、発現が最も低い74%の患者は低CD47とみなされ、発現が最も高い26%は高CD47とみなされた。
【0207】
次に、本発明者らは、Bullinger et al.によって説明されている、一律に治療されたNK-AML患者137名の交差検定コホートにおいてこの層別化の妥当性を評価した。この検証用データセット内で、本発明者らは同様のサイズの2群(すなわち、それぞれ72%および28%のCD47最低レベルおよびCD47最高レベル)を同様に定めることができ、これら2群は、全生存(図22B、p=0.002、ハザード比2.02、95%CI 1.37~4.03)および無再発生存(図223A、p=0.004、ハザード比1.94、95%CI 1.30~3.77)について評価した場合、有意に異なる転帰を示した。患者137名のうち5名からは、前記著者らによって説明されたデータ選択基準および正規化基準を用いた場合、信頼性が高いCD47測定値が得られなかった。
【0208】
この関連の頑健性を判定するために、本発明者らははまた、中央値に対する発現に基づいてCD47低発現群およびCD47高発現群に検証コホートを分けた場合、または連続変数として、CD47発現の予測値を検討した。上記のように、より高いCD47発現は、無再発および全生存の悪化と関連付けられた。試験した患者137名のうちで患者123名のサブセットの生存データ、CD47発現データが入手可能であり、FLT3-ITD状態が報告された。このコホート内で、本発明者らは、無再発生存または全生存を従属変数として単変量のCox比例ハザード解析を用いて、連続変数としてのCD47発現レベルと転帰の関係を評価した。本発明者らは、無再発生存または全生存を従属変数とし、FLT3-ITDの状態、年齢、およびCD47の連続的発現レベルを直接評価される独立変数とする多変量のCoxの比例ハザード解析を使用した。
【0209】
CD47と他の共変量(例えばNPM1、CEBPA)との関連は、試料の大きさおよび共変量に関する足りないデータの制限を受けた。ワルド検定を用いて、多変量解析における各共変量の有意性を評価した。統計パッケージR中のcoxph機能を用いて、単変量比例ハザード解析および多変量比例ハザード解析を実施した。
【0210】
実施例5
CD47は予後因子であり、固形腫瘍癌幹細胞上の治療的抗体標的である
本発明者らは、CD47発現の増大が、びまん性大型B細胞リンパ腫(DLBCL)および卵巣癌の臨床転帰の悪化に関連していることを発見した(図24)。さらに、本発明者らはここで、抗CD47抗体が、インビトロにおいて膀胱癌、卵巣癌、および髄芽細胞腫に由来する癌幹細胞のヒトマクロファージによる食作用を可能にすることを発見した(図25)。
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【配列表】
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