(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】多発性骨髄腫のためのGEP5モデル
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6813 20180101AFI20221213BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20221213BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
C12Q1/6813 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2021187779
(22)【出願日】2021-11-18
(62)【分割の表示】P 2019152421の分割
【原出願日】2014-05-19
【審査請求日】2021-11-26
(32)【優先日】2013-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517022555
【氏名又は名称】バイオベンチャーズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BioVentures, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーロギー、バート
(72)【発明者】
【氏名】チュイ、ピンピン
(72)【発明者】
【氏名】ホイク、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】エプスタイン、ジョシュア
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-508844(JP,A)
【文献】国際公開第2013/071247(WO,A1)
【文献】UPPARAHALLIVENKATESHAIAH SATHISHA,BLOOD,2012年11月,V120 N21,P329
【文献】EDMONDSON RICKY D,BLOOD,2012年11月,V120 N21,P197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発性骨髄腫を有すると疑われる対象の予後診断を補助する方法であって、
(a)多発性骨髄腫の対象から得られた生物試料を処理して、CD138+発現骨髄腫細胞を含む試料を得る工程、
(b)該試料から核酸を抽出し、単離された核酸試料を得る工程、及び、
(c)エノラーゼ1(ENO1)、脂肪酸結合タンパク質5(FABP5)、甲状腺ホルモン受容体相互作用因子13(TRIP13)、トランスゲリン2(TAGLN2)、および複製因子C(アクチベータ1)4(RFC4)の遺伝子発現レベルを、該単離された核酸試料と、検出可能に標識され、それぞれの遺伝子とハイブリダイズする核酸プローブとを接触させ、それぞれの遺伝子とプローブとで形成された複合体を検出することにより測定する工程であって、ここで、それぞれの遺伝子について好適な対照と比較した、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4の対数正規化された遺伝子発現レベルの平均の上昇が、該対象の予後不良と関連する工程、
とを含む、方法。
【請求項2】
前記核酸プローブの少なくとも1つが、配列番号1、4、7、10及び13の中から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
配列番号2、3、5、6、8、9、11、12、14、又は15の中から選択されるプライマーを含むプライマーセットの使用を更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記生物試料が、約50,000個以下の骨髄腫細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記検出可能な標識が蛍光標識である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝子発現レベルが、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRTPCR)、デジタル液滴PCR(ddPCR)、配列決定、ノーザンブロッティング、またはサザンブロッティングにより試験される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記遺伝子発現レベルがqRTPCRにより試験される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記対象が骨髄腫療法を受けている、請求項1記載の方法。
【請求項9】
TT2を受けている対象においてOSを予後診断することができる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
TT3aを受けている対象においてOSとPFSの両方を予後診断することができる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
TT3bを受けている対象においてPFSを予後診断することができる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
TT4またはTT5を受けている対象においてPFSを予後診断することができる、請求項1記載の方法。
【請求項13】
TT4またはTT5を受けている対象においてOSとPFSの両方を予後診断することができる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
TT6を受けている対象においてOSを予後診断することができる、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2013年5月20日に出願された米国仮特許出願第61/825,396号の利益を請求する。
【0002】
上記出願の全教示は、参照により本明細書に組込まれる。
【0003】
政府の支援
本発明は、National Institutes of Healthにより付与されたP01CA055819の下で政府の支援下で行われたものである。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
多発性骨髄腫は、米国で2番目に最も一般的な血液悪性腫瘍であり、全ての診断されるがんの約1%を占める。多発性骨髄腫は、1年で100,000人あたり約1~4人において生じる。患者間の生存期間は様々であり、生存期間中央値は、従来の治療では3~4年であるが、一部の患者では先端治療によって5~7年またはそれ以上に延長することができる。ある特定の先端療法に対する患者の必要性は均一ではないが、先端治療が不適切に適用または保留される場合、全ての罹患した患者にとってさらなる負担となる。
【0005】
患者、その社会的ネットワーク、および医療制度への多発性骨髄腫の莫大な個人的および財政的負担、ならびに様々な生存期間および治療に対する応答を考慮すると、多発性骨髄腫を有するか、またはそれを有すると疑われる対象の予後診断のための方法が必要である。好ましくは、そのような方法は、特に、予後診断のために限られた量の遺伝子材料しか入手できない場合に、遺伝子情報に基づいて対象を階層化することができるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、多発性骨髄腫を有するか、または有すると疑われる対象を予後診断する方法を提供する。有利には、本発明により提供される方法は、限られた量の遺伝子材料を用いて対象を予後診断することができる。本発明は、少なくとも部分的には、発現レベルを用いて、いくつかの実施形態においては、限られた数の細胞を含む生物試料を用いて、多発性骨髄腫を有する対象を階層化することができる小セット(5つ、またはさらにはわずか2つ)の情報遺伝子の出願人の発見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様において、本発明は、多発性骨髄腫を有すると疑われる対象を予後診断する方法を提供する。前記方法は、対象から単離された生物試料中のエノラーゼ1(ENO1)、脂肪酸結合タンパク質5(FABP5)、甲状腺ホルモン受容体相互作用因子13(TRIP13)、トランスゲリン2(TAGLN2)、および複製因子C(アクチベータ1)4(RFC4)の遺伝子発現レベルを、該生物試料が約50,000個またはそれ以下の骨髄腫細胞を含む場合に、遺伝子の発現レベルを検出することができる方法を用いて試験するステップと、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4のそれぞれの遺伝子発現レベルを定量するステップとを含み、ここで、好適な対照と比較して異常な遺伝子発現プロファイルは対象の予後不良と関連する。いくつかの実施形態においては、予後不良は、全生存(OS)の尤度の低下および/または無増悪生存(PFS)の尤度の低下である。
【0008】
ある特定の実施形態においては、本発明により提供される方法は、試験される遺伝子発現レベルに基づいて、例えば、異常な遺伝子発現プロファイルの存在または非存在に基づいて、対象に予後を割り当てるステップを含む。
【0009】
いくつかの実施形態においては、遺伝子発現レベルは、タンパク質レベルで試験される。
【0010】
他の実施形態においては、遺伝子発現レベルは、核酸レベルで試験される。より特定の実施形態においては、遺伝子発現レベルは、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRTPCR)、デジタル液滴PCR(ddPCR)、配列決定、ノーザンブロッティング、またはサザンブロッティングにより試験される。より特定の実施形態においては、遺伝子発現レベルは、qRTPCRにより試験される。さらにより特定の実施形態においては、遺伝子発現レベルは、それぞれの遺伝子について3つのプライマーのセットの使用を含むqRTPCRにより試験され、ここで、3つのプライマーのそれぞれのセットについて、少なくとも1つのプライマーは、検出可能に標識され、3つのプライマーのセットの標的鋳型の存在下でポリメラーゼ依存的加水分解、例えば、TAQMAN(登録商標)にかけられる。さらにより特定の実施形態においては、検出可能な標識は、蛍光標識である。他の特定の実施形態においては、遺伝子発現レベルは、Hs00361415_m1、Hs02339439_g1、Hs00188500_m1、Hs00761239_s1、Hs00427469_m1から選択されるプライマー、表Bに列挙されるプライマー、または表Bに列挙されるものと実質的に類似するプライマーを用いるqRTPCRにより試験される。
【0011】
いくつかの実施形態においては、対象は、骨髄腫療法を受けている。
【0012】
特定の実施形態においては、方法は、TT2を受けている対象におけるOSを予後診断することができる。
【0013】
他の特定の実施形態においては、方法は、TT3aを受けている対象におけるOSとPFSの両方を予後診断することができる。
【0014】
いくつかの実施形態においては、方法は、TT3bを受けている対象におけるPFSを予後診断することができる。
【0015】
他の実施形態においては、方法は、TT4またはTT5を受けている対象におけるPFSを予後診断することができる。より特定の実施形態においては、方法は、TT4またはTT5を受けている対象におけるOSとPFSの両方を予後診断することができる。
【0016】
いくつかの実施形態においては、方法は、TT6を受けている対象におけるOSを予後診断することができる。
【0017】
別の態様において、本発明は、トータルセラピー(Total Therapy)3b(TT3b)を受けている多発性骨髄腫を有する対象における無増悪生存(PFS)を予後診断する方法を提供する。これらの方法は、対象から単離された生物試料中のエノラーゼ1(ENO1)、脂肪酸結合タンパク質5(FABP5)、甲状腺ホルモン受容体相互作用因子13(TRIP13)、トランスゲリン2(TAGLN2)、および複製因子C(アクチベータ1)4(RFC4)の遺伝子発現レベルを試験するステップと、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4のそれぞれの遺伝子発現レベルを定量するステップとを含み、異常な遺伝子発現プロファイルは対象に関するPFSの尤度の低下と関連する。
【0018】
別の態様において、本発明は、対象から単離された生物試料中のエノラーゼ1(ENO1)、脂肪酸結合タンパク質5(FABP5)、甲状腺ホルモン受容体相互作用因子13(TRIP13)、トランスゲリン2(TAGLN2)、および複製因子C(アクチベータ1)4(RFC4)の遺伝子発現レベルを試験することと、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4のそれぞれの遺伝子発現レベルを定量することとにより、トータルセラピー4(TT4)またはトータルセラピー5(TT5)を受けている多発性骨髄腫を有する対象における無増悪生存(PFS)または全生存(OS)を予後診断する方法であって、異常な遺伝子発現プロファイルが対象に関するPFSまたはOSの尤度の低下と関連する、前記方法を提供する。特定の実施形態においては、前記方法は、OSを予後診断するためのものである。他の特定の実施形態においては、異常な遺伝子発現プロファイルは、段階的回帰により評価されるような、PFSに関する独立した有害(averse)因子である。
【0019】
前記態様および実施形態のいずれかのいくつかの実施形態において、対象はヒトである。
【0020】
前記態様または実施形態のいずれかの特定の実施形態において、対象は、異常な遺伝子発現プロファイルを示し、それによって、予後不良であると決定され、より頻繁な監視スケジュールに変更される。
【0021】
前記態様または実施形態のいずれかの特定の実施形態において、対象は、異常な遺伝子発現プロファイルを示さず、それによって、予後良好であると決定される。
【0022】
前記態様または実施形態のいずれかの特定の実施形態において、対象は、プロテアソーム阻害剤、免疫調節薬、シスプラチン、エトポシド、シクロホスファミド、メルファラン、拡張NK細胞を用いる細胞療法、T細胞を用いる細胞療法、抗体療法、デキサメタゾン、またはそれらの組合せを用いる治療を受けている。
【0023】
前記態様または実施形態のいずれかの特定の実施形態において、遺伝子発現レベルは、対数正規化される。
【0024】
前記態様または実施形態のいずれかのいくつかの実施形態において、疾患指数は、遺伝子の対数正規化された遺伝子発現レベルの平均として算出される。
【0025】
前記態様または実施形態のいずれかの特定の実施形態において、方法は、少なくとも1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、または6.0のハザード比でOSまたはPFSに関する予後不良と予後良好とを識別する。
【0026】
前記態様または実施形態のいずれかのいくつかの実施形態において、生物試料は、45,000;40,000;30,000;20,000;10,000;9,000;8,000;7,000;6,000;5,000;4,000;3,000;2,000;1,000;900;800;700;600;500;400;300;200;100;90;80;70;60;50;40;30;20;10;9;8;7;6;5;4;3;または2個より少ない骨髄腫細胞を含む。特定の実施形態においては、骨髄腫細胞は、CD138+発現、CD38+/CD45dim発現、またはCD38+/CD45neg発現により選択される。
【0027】
別の態様において、本発明は、対象から単離された生物試料から単離された核酸試料中のエノラーゼ1(ENO1)、脂肪酸結合タンパク質5(FABP5)、甲状腺ホルモン受容体相互作用因子13(TRIP13)、トランスゲリン2(TAGLN2)、および複製因子C(アクチベータ1)4(RFC4)の核酸遺伝子発現レベルをqRT-PCRにより試験することと、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4の対数正規化された遺伝子発現レベルの平均を算出することとにより、多発性骨髄腫を有すると疑われる対象を予後診断する方法であって、好適な対照と比較した、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4の対数正規化された遺伝子発現レベルの平均の上昇が、対象の予後不良と関連する、前記方法を提供する。
【0028】
さらに別の態様において、本発明は、前記態様および実施形態のいずれか1つの方法による予後診断に基づいて、対象に好適な療法を施すことを含む、対象における多発性骨髄腫を治療する方法を提供する。
【0029】
別の態様において、本発明は、場合により好適な陽性および/または陰性対照を含む、前記態様および実施形態のいずれかの方法を実施するための試薬を含有するキットを提供する。より特定の実施形態においては、キットは、プライマーHs00361415_m1、Hs02339439_g1、Hs00188500_m1、Hs00761239_s1、Hs00427469_m1のいずれか1つ、表Bに列挙されるプライマー、または表Bに列挙されるものと実質的に類似するプライマーの1つまたは複数を含む。
【0030】
さらに別の態様において、本発明は、プロセッサにより実行された場合、対象から得られた単離された生物試料について決定されたエノラーゼ1(ENO1)、脂肪酸結合タンパク質5(FABP5)、甲状腺ホルモン受容体相互作用因子13(TRIP13)、トランスゲリン2(TAGLN2)、および複製因子C(アクチベータ1)4(RFC4)の遺伝子発現レベルを示すデータを読取るステップ;好適な対照と比較した異常な遺伝子発現プロファイルの存在を決定するためにデータを分析するステップ;ならびにデータ分析に基づいて対象の分類を提供するステップを含み、異常な遺伝子発現プロファイルの存在が対象の予後不良と関連する、操作をプロセッサに実施させる命令を提供する非一時的コンピュータ可読記憶媒体を提供する。いくつかの実施形態においては、命令は、データ分析に基づいて治療推奨を提供するステップをさらに含む。
【0031】
別の態様において、本発明は、前記態様の記憶媒体と、プロセッサとを含むシステムを提供する。
【0032】
別の態様において、本発明は、異常な遺伝子発現プロファイルの存在が、本発明により提供される記憶媒体またはシステムを用いて決定される、前記態様および実施形態のいずれか1つの方法を提供する。
【0033】
上記のことは、添付の図面に例示される、本発明の実施形態例に関する以下のより詳細な説明から明らかであろう。図面中、同様な参照文字は、種々の図を通して同じ部分を指す。図面は、必ずしも寸法通りではないが、その代わりに本発明の実施形態を例示することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1A~1Dは、TT6およびTT3A訓練セットならびにTT3BおよびTT2検証セットにおいて、GEP5が有意に異なる全生存および無増悪生存で高リスク群と低リスク群とを区別したことを例示するKaplan-Meierプロットである。
図1Aは、TT6訓練セットの結果を示す。GEP5は、GEP5低リスクに関するそれぞれ95%および91%と比較して、1年推定で60%のOS(左パネル)および50%のPFS(右パネル)を有する高リスクサブセットを同定した。
図1Bは、TT3A訓練セットの結果を示す。GEP5は、GEP5低リスクに関するそれぞれ81%および71%と比較して、5年推定で38%のOS(左パネル)および33%のPFS(右パネル)を有する高リスクサブセットを同定した。
図1Cは、TT3B検証セットの結果を示す。GEP5は、GEP5低リスクに関するそれぞれ80%および74%と比較して、5年推定で45%のOS(左パネル)および31%のPFS(右パネル)の高リスクサブセットを同定した。
図1Dは、TT2検証セットの結果を示す。GEP5は、GEP5低リスクに関するそれぞれ71%および49%と比較して、5年推定で40%のOS(左パネル)および26%のPFS(右パネル)の高リスクサブセットを同定した。
【0035】
【
図2】
図2A~2Dは、TT6およびTT3A訓練セットならびにTT3BおよびTT2検証セットにおいて、0.66の公開されたカットオフを用いて、GEP70が有意に異なる全生存および無増悪生存で高リスク群と低リスク群とを区別したことを例示するKaplan-Meierプロットである。
図2Aは、TT6訓練セットの結果を示す。GEP70低リスクに関する、それぞれ95%および72%と比較した、GEP70高リスクに関する18%のOS(左パネル)および19%のPFS(右パネル)の2年推定。
図2Bは、TT3A訓練セットの結果を示す。GEP70低リスクに関する、それぞれ80%および72%と比較した、GEP7高リスクに関する35%のOS(左パネル)および25%のPFS(右パネル)の5年推定。
図3Cは、TT3B検証セットの結果を示す。GEP70低リスクに関する、それぞれ80%および70%と比較した、GEP70高リスクに関する38%のOS(左パネル)および35%のPFS(右パネル)の5年推定。
図3Dは、TT2検証セットの結果を示す。GEP70低リスクに関する、それぞれ72%および50%と比較した、GEP70高リスクに関する28%のOS(左パネル)および15%のPFS(右パネル)の5年推定。
【0036】
【
図3】
図3は、わずか2つのプローブ(TT6訓練セットにおけるトップ2つのプローブ)に由来するスコアがTT6における高リスクと低リスクの骨髄腫を区別したことを例示するKaplan-Meierプロットを提供する。OS-左パネル;PFS-右パネル。
【0037】
【
図4】
図4A~4Bは、TT2の治療アームによるGEP5およびGEP70モデルの性能を比較するKaplan-Meierのプロットである。
図4Aは、TT2サリドマイドアーム(thal+)の結果を示す。GEP5(上パネル;
図4A-1)は、OS(左パネル)およびPFS(右パネル)に関して、TT2+thalアームにおいて高リスク群および低リスク群を同定した。TT2上で開発された、GEP70(下パネル;
図4A-2)は、OSおよびPFSに関してわずかにより良好な性能を示した。
図4Bは、TT2非サリドマイドアーム(thal-)の結果を示す。GEP5(上パネル;
図4B-1)は、OS(左パネル)およびPFS(右パネル)に関して、TT2-thalアームにおいて高リスク群および低リスク群を同定することができた。TT2上で開発された、GEP70(下パネル;
図4B-2)は、OSおよびPFSに関してわずかにより良好な性能を示した。
【発明を実施するための形態】
【0038】
例示的実施形態の説明は以下の通りである。
【0039】
予後診断方法
本発明は、特に、多発性骨髄腫を有するか、または有すると疑われる対象のための、予後診断方法、ならびに該方法を実施するためのキットおよび試薬を提供する。この方法は、いくつかの実施形態においては、表Aに列挙される遺伝子の任意のサブセットを含む、前記遺伝子を用いる(含む、本質的にからなる、またはからなる)、例えば、2つの遺伝子(例えば、ENO1およびFABP5)、3つの遺伝子(例えば、ENO1、FABP5、およびTRIP13)、4つの遺伝子(例えば、ENO1、FABP5、TRIP13、およびTAGLN2)、または5つ全部の遺伝子を用いる遺伝子発現プロファイリングに基づく。好ましい実施形態においては、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4の5つ全部が用いられる。表Aに列挙される遺伝子は、ヒト参照配列であり、他の哺乳動物種に由来する相同体は当技術分野で公知であり、特に、表A中の情報を用いて、参照データベース(NCBI Entrezポータルなど)から容易に取得することができる。
【表1】
いくつかの実施形態においては、表Aに記載のもの、ならびにそのサブセットを含む遺伝子の遺伝子発現プロファイリングは、GNG10、PNPLA4、KIAA1754、AHCYL1、MCLC、EVI5、AD-020、PARG1、CTBS、FUCA1、RFP2、FLJ20489、LTBP1、AIM2、SELI、SLC19A1、LARS2、OPN3、ASPM、CCT2、UBE21、STK6、FLJ13052、FLJ12525、BIRC5、CKS1B、CKAPl、MGC57827、DKFZp7790175、PFN1、ILF3、IFI16、TBRG4、PAPDl、EIF2C2、MGC4308、DSG2、EXOSC4、RUVBL1、ALDOA、CPSF3、MGC15606、LGALS1、RAD18、SNX5、PSMD4、RAN、KIF14、CBX3、TMPO、DKFZP586L0724、WEEl、ROB01、TCOF1、YWHAZ、およびMPHOSPH1の少なくとも1個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55または56個全部)を含まない。ある特定の実施形態においては、表Aに記載のもの、ならびにそのサブセットを含む遺伝子の遺伝子発現プロファイリングは、以下のAFFYMETRIX(登録商標)AffyID:1555864_s_at、206513_at、1555274_a_at、211576_s_at、204016_at、1565951_s_at、219918_s_at、201947_s_at、213535_s_at、204092_s_at、213607_x_at、208117_s_at、210334_x_at、201897_s_at、216194_s_at、225834_at、238952_x_at、200634_at、208931_s_at、206332_s_at、220789_s_at、218947_s_at、213310_at、224523_s_at、217901_at、226936_at、58696_at、201614_s_at、200966_x_at、225082_at、242488_at、243011_at、201105_at、224200_s_at、222417_s_at、210460_s_at、200750_s_at、206364_at、201091_s_at、203432_at、221970_s_at、212533_at、213194_at、244686_at、200638_s_at、205235_s_at、201921_at、227278_at、209740_s_at、227547_at、225582_at、200850_s_at、213628_at、209717_at、222495_at、1557277_a_at、1554736_at、218924_s_at、226954_at、202838_at、230192_at、48106_at、237964_at、202729_s_at、および212435_atのうちの1つを用いて検出可能な遺伝子の少なくとも1個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60または65個全部)を含まない。
【0040】
「予後診断」は、ある臨床指標に関して少なくとも2つの異なるリスク群の1つについて対象にリスク階層を割り当てることである。特定の実施形態において、少なくとも2つのリスク群は、ある臨床指標に関して予後不良および予後良好を含む。臨床指標の例としては、2年全生存(OS)および2年無増悪生存(PFS)が挙げられる。
【0041】
「対象」は、霊長類(例えば、ヒトまたはサル)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、およびマウス、またはその他のウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、げっ歯類もしくはマウス種などの哺乳動物である。好適な対象の例としては、限定されるものではないが、ヒト患者(例えば、多発性骨髄腫を有するか、または有すると疑われるヒト)が挙げられる。対象は、出産前、周産期、乳児、幼児、小児、若年成人、成人、中年、または高齢者などの、任意の発達段階であり得る。より特定の実施形態においては、対象は、若年成人、成人、中年、または高齢者である。いくつかの実施形態においては、対象は、以下に定義されるような骨髄腫治療を受けている。ある特定の実施形態においては、骨髄腫治療が、本発明により提供される方法の結果に基づいて適応になり得る(または修正され得る)。本発明により提供される方法によって予後診断された対象が、TT1、TT2、TT3、TT4、TT5またはTT6などの骨髄腫療法などの任意の療法を「受けている」場合、生物試料を、その前に、間に、後に、またはそれらの組合せで(すなわち、治療の前、間、または後の1、2、または3つ全部)取得することができる。
【0042】
「多発性骨髄腫」は、KyleおよびRajkumar、Leukemia 23:3~9頁(2009、PubMedID 18971951、その全体が参照により本明細書に組込まれる)に定義されたような、症候性骨髄腫、無症候性骨髄腫、および意義不明の単クローン性高ガンマグロブリン血症(MGUS)、ならびにKyleおよびRajkumar 2009に記載の他の階層および段階を有する対象を含む。特定の実施形態においては、「多発性骨髄腫」は、症候性骨髄腫である。
【0043】
「遺伝子発現」とは、遺伝子の核酸レベル(例えば、mRNAまたはそれから誘導されるcDNA)とタンパク質レベルの両方の発現を指す。核酸として発現される遺伝子は、タンパク質をコードしてもしなくてもよく、および/またはタンパク質に翻訳されてもされなくてもよい。遺伝子発現の物理的生成物は、「遺伝子発現生成物」である。
【0044】
「発現のレベル」、「発現レベル」、「遺伝子発現レベル」などは、遺伝子発現生成物(例えば、核酸またはタンパク質)の量である。発現レベルを変換(例えば、正規化)しても、または「生のまま」分析してもよい。
【0045】
「発現プロファイル」または「遺伝子発現プロファイル」は、少なくとも2つの遺伝子発現レベルを意味する。例えば、いくつかの実施形態においては、2つ以上の遺伝子発現レベルは、2つ以上の時点での1つの遺伝子の遺伝子発現レベルまたは同じか、もしくは異なる時点での2つ以上の異なる遺伝子の発現レベルであり得る。例えば、特定の実施形態においては、発現プロファイルは、1つまたは複数の時点でのENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4の発現レベルである。
【0046】
「異常な遺伝子発現プロファイル」とは、好適な対照と比較した、1つまたは複数の遺伝子の発現レベルにおける統計的に有意な、および/または実際的な逸脱を指す。「好適な対照」は、例えば、単一の患者に由来する試料の対(例えば、多発性骨髄腫を発症する前後に、患者から異なる時点で得られる、例えば、生物試料)ならびに特定の予後(例えば、予後不良または予後良好)を有すると、任意の手段によって決定された試料から以前に蓄積された参照値(特定の予後と関連する範囲を表す参照値のアンサンブルなど)を含む。例えば、1つまたは複数の遺伝子(例えば、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4の5つ全部)の参照値を蓄積し、バイナリーまたは確率的分類アルゴリズムを開発するために使用した後、予後良好または予後不良であると患者を分類するために用いることができる。あるいは、予後良好である生存群または予後良好でないもしくは予後不良である生存群に、遺伝子発現プロファイルをクラスター化するか、またはさもなければ割り当てることにより、所与の発現プロファイル(対象に由来する)を評価する。本発明において、好適な対照と比較した、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、またはRFC4のレベルの上昇は、対象に関する予後不良と関連し、従って、特定の実施形態においては、異常な遺伝子発現プロファイルは、好適な対照と比較した、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4の1、2、3、4、または5つ全部のレベルの上昇を含む。例えば、特定の実施形態においては、異常な遺伝子発現プロファイルの存在は、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4の対数正規化された(例えば、log2)遺伝子発現レベルの平均を算出することにより決定され、ここで、所定の閾値(例えば、少なくとも、または約10.68)を超える平均は、予後不良を示す。
【0047】
遺伝子発現レベルの「試験」は、生物試料と、遺伝子発現レベル、すなわち、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4の遺伝子発現レベルを検出するための1つまたは複数の単離された試薬とを接触させて、実験室的分析方法により遺伝子発現生成物の量を測定することを必要とする。遺伝子発現生成物のレベルの試験は、実験室的分析方法の過程において直接行うか、またはいくつかの実施形態においては、実験室的分析方法の量的出力を評価することにより行うことができる。
【0048】
「遺伝子発現レベルを検出するための単離された試薬」は、標的分析物の遺伝子発現レベルの検出における使用のために適合された実質的に精製された形態の単離された分析試薬であり、例えば、核酸標的分析物と相補的な単離されたオリゴヌクレオチド、または、いくつかの実施形態においては、タンパク質標的分析物に特異的に結合する抗体を含む。いくつかの実施形態においては、遺伝子発現レベルを検出するための単離された試薬は、自然に存在する化合物とは顕著に異なる人工の生成物である。特定の実施形態においては、遺伝子発現レベルを検出するための単離された試薬は、人工的に、および検出可能に標識される。いくつかの実施形態においては、生物試料は、遺伝子発現レベルを検出するためにいくらか顕著に異なるように変換される、すなわち、生物試料は、直接的に、または、いくつかの実施形態においては、生物試料と、例えば、人工的に、および検出可能に標識された遺伝子発現レベルを検出するための単離された試薬とを複合体化させることによって、人工的に、および検出可能に標識される。
【0049】
「標的分析物」は、試料中に存在し得る他の化合物に由来する分析物を同定するのに十分である、タンパク質または核酸のいずれかの遺伝子発現生成物の全部または一部であり、本出願で用いられる場合、ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、またはRFC4の遺伝子発現生成物の全部または一部を含む。
【0050】
「標的鋳型」とは、核酸標的分析物を指す。
【0051】
対象に由来する細胞を含有する任意の生物試料を、本発明により提供される方法において用いることができる。ある特定の実施形態においては、生物試料は、約50,000個未満の細胞、例えば、45,000;40,000;30,000;20,000;10,000;9,000;8,000;7,000;6,000;5,000;4,000;3,000;2,000;1,000;900;800;700;600;500;400;300;200;100;90;80;70;60;50;40;30;20;10;9;8;7;6;5;4;3;または2個未満の骨髄腫細胞を含む。特定の実施形態においては、骨髄腫細胞は、CD138+発現、CD38+/CD45dim発現、またはCD38+/CD45neg発現により選択される(例えば、フローサイトメトリーまたはレーザー捕捉顕微鏡観察による)。
【0052】
検出方法およびキット
遺伝子発現プロファイルを得るために、2つ以上の遺伝子発現レベルを決定する。核酸もしくはタンパク質レベル、またはそれらの組合せで測定および/または試験することにより、ならびに、いくつかの実施形態においては、予め決定されたレベルを分析することにより、発現レベルを決定することができる。本発明により提供される方法を実施する場合、遺伝子発現レベルを決定する任意の手段を用いることができる。特定の実施形態においては、用いられる方法の感度は、約50,000個未満の骨髄腫細胞を含有する試料中で遺伝子発現レベルを検出することができるようなものである。
【0053】
例えば、核酸遺伝子発現生成物のレベルを、逆転写酵素(rt)PCR、液滴デジタルPCR、リアルタイムおよび定量的PCR法(例えば、TAQMAN(登録商標)、分子ビーコン、LIGHTUP(商標)、SCORPION(商標)、SIMPLEPROBES(登録商標)を含む;例えば、米国特許第5,538,848号;第5,925,517号;第6,174,670号;第6,329,144号;第6,326,145号および第6,635,427号を参照されたい)などのポリメラーゼ連鎖反応(PCR);ノーザンブロッティング;逆転写生成物および誘導体のサザンブロッティング;ブロットアレイもしくはin situ合成アレイなどのアレイに基づく方法;ならびに配列決定、例えば、合成による配列決定、ピロシーケンシング、ジデオキシ配列決定、もしくはライゲーションによる配列決定、またはHELICOS(登録商標)、ROCHE(登録商標)454、ILLUMINA(登録商標)/SOLEXA(登録商標)、ABI SOLiD(登録商標)、およびPOLONATOR(登録商標)配列決定などの特定のプラットフォームを含む、Shendureら、Nat.Rev.Genet.5:335~44頁(2004)もしくはNowrousian、Euk.Cell 9(9):1300~1310頁(2010)に考察されたような、当技術分野で公知の任意の他の方法などのいくつかの方法で決定することができる。特定の実施形態においては、核酸遺伝子発現生成物のレベルを、qRT-PCRにより測定する。さらにより特定の実施形態においては、qRT-PCRは、それぞれの遺伝子について3つの核酸セットを使用し、ここで、3つの核酸は、TAQMAN(登録商標)アッセイとして商業的に公知の、プライマーが結合する標的核酸の領域の間に結合するプローブと一緒にプライマー対を含む。特定の実施形態においては、本発明により提供される方法における使用のためのプライマーは、Hs00361415_m1、Hs02339439_g1、Hs00188500_m1、Hs00761239_s1、およびHs00427469_m1、ならびに表Bに提供されるもの、および表Bに記載のものと実質的に類似するプローブを含む。例えば、いくつかの実施形態においては、表B中の特定の遺伝子に関して、「プライマー」と標識された対が用いられる。より特定の実施形態においては、表B中の特定の遺伝子に関して、付随する「プローブ」が同様に用いられ、より特定の実施形態においては、プローブは、蛍光標識などの検出可能な標識を含む。「実質的に類似する」プローブが、本発明により提供される方法において表B中のものと機能的に置き換わってもよい。いくつかの実施形態においては、実質的に類似する配列は、表B中の配列と60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、99.5、もしくは100%同一であるか;または、あるいは、もしくはさらに、実質的に類似する配列は、表B中のもののいずれかの終点の上流もしくは下流の100、90、80、70、60、50、40、35、30、25、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、もしくは0ヌクレオチド内に終点を有する。
【表2】
【0054】
核酸遺伝子発現生成物のレベルを、例えば、表Aに列挙された参照核酸配列、ならびに表Aに列挙された参照核酸配列の相補体、断片、および類似核酸配列の量を測定および/または試験することにより決定することができる。「類似核酸配列」は、表A中の参照核酸配列に関して、天然に存在する(例えば、対立遺伝子バリアントもしくは他の種に由来する相同配列)か、または操作されたバリアントであってもよく、少なくとも約10、20、40、60、80、100、150、200以上のヌクレオチドの長さにわたって、または表A中の参照核酸配列の全長にわたって、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99%以上同一であろう(または表Aに列挙された核酸配列の相補体に高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするであろう)。表A中の参照核酸配列の断片、または類似核酸配列は、混合物中に存在すると予想される他の配列からその断片を区別するのに十分な任意の長さのもの、例えば、少なくとも5、10、15、20、40、60、80、100、150、200以上のヌクレオチドまたは表A中の参照核酸配列の長さの少なくとも約5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95%であってもよい。
【0055】
特定の実施形態においては、表A中の1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを、同時に測定または試験する。いくつかの実施形態においては、本発明により提供される方法における使用のためにマイクロアレイ(例えば、AFFYMETRIX(登録商標)、AGILENT(登録商標)およびILLUMINA(登録商標)スタイルのアレイ)を適合化させることができる。他のより特定の実施形態においては、マイクロアレイを使用しない。他の実施形態においては、試料あたりわずか50,000個以上の骨髄腫細胞の感度を有する技術またはアッセイは使用しない。
【0056】
別の関連する態様において、本発明は、多発性骨髄腫を有するか、または有すると疑われる対象を予後診断するために表A中の遺伝子の発現レベルを検出する(例えば、測定する、および/または試験する)のに好適であるオリゴヌクレオチドプライマーを提供する。オリゴヌクレオチドプライマーのセットを、本出願に記載される表A中の遺伝子の任意の組合せについて調製することができる。本発明により提供されるオリゴヌクレオチドプライマーを、分子生物学の技術分野における通常の知識を用いて容易に設計して、表A中の所与の遺伝子(ならびに上記のような、断片およびその類似核酸配列)に特異的であるプライマーを達成することができる。すなわち、前記プライマーは、全トランスクリプトームおよび/または表A中の他の遺伝子に対するプライマーを含む、試料中に存在する(または存在すると予想される)他の核酸から標的核酸を識別することができる。プライマーの長さ(例えば、約10~100ヌクレオチド、例えば、約10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、70、80、90、100ヌクレオチド以上)および配列(すなわち、プライマーがハイブリダイズする表A中の遺伝子の特定の部分)を容易に調整して、所望の融点(「Tm」;例えば、約45~72℃、例えば、約45、50、55、60、65、70、72℃以上)および特異性を達成することができる。当業者であれば、二次構造、プライマー二量体、塩濃度、核酸濃度などの因子を容易に明らかにするであろう。本発明により提供されるオリゴヌクレオチドプライマーは、天然デオキシリボヌクレオチドからなる(もしくは本質的にからなる)か、または場合により、非天然ヌクレオチド、人工骨格(PNAなど)、および蛍光標識、ビオチン化などの検出可能な標識などの修飾を含んでもよい。
【0057】
本出願を通して記載される任意の特定の組合せを含む、表Aに列挙された遺伝子に関するタンパク質レベルを、定量的細胞化学または組織化学、ELISA(直接、間接、サンドイッチ、競合、多重およびポータブルELISA(例えば、米国特許第7,510,687号を参照されたい)など)、ウェスタンブロッティング(場合により、ペプチド配列決定を含む、一次元、二次元もしくはそれ以上の次元のブロッティングまたは他のクロマトグラフィー手段)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、SPR(表面プラズモン共鳴)、核酸に基づく、またはタンパク質に基づくアプタマー技術、HPLC(高精度液体クロマトグラフィー)、ペプチド配列決定(場合により、HPLCと組み合わせた、Edman分解配列決定または質量分析(MS/MSなど))、ならびに前記のいずれかのマイクロアレイ適合(核酸、抗体またはタンパク質-タンパク質(すなわち、非抗体)アレイを含む)により測定または試験することができる。
【0058】
タンパク質技術は、典型的には、必要ではないが、抗体を用いる(例えば、直接配列決定とは対照的である)。本発明により提供される方法における使用のための抗体を、表Aに列挙された任意の遺伝子、ならびにこれらの配列の断片、類似ペプチド配列、および類似ペプチド配列の断片に対応するペプチド配列に指向させることができる。「類似ペプチド配列」は、天然に存在する(例えば、対立遺伝子バリアントもしくは他の種に由来する相同配列)か、または表A中の遺伝子に対する操作されたバリアントであってもよく、少なくとも約10、20、40、60、80、100、150、200個以上のアミノ酸の長さにわたって、または表A中の遺伝子のタンパク質生成物の全長にわたって、アミノ酸レベルで、実質的に同じ生物学的機能を示す、および/または少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99%以上相同である(すなわち、保存的置換(例えば、HeinkoffおよびHeinkoff、PNAS 89(22):10915~10919頁(1992)ならびにStyczynskiら、Nat.Biotech.26(3):274~275頁(BLOSUM、例えば、BLOSUM 45、62もしくは80)またはDayhoffら、Atlas of Protein Sequence and Structure(Volume 5、Supplement 3)、Nat.Biomed.Res.Found.、345~358頁(PAM、例えば、PAM 30または70)を参照されたい)、もしくは同一である。表A中の遺伝子のタンパク質生成物の断片、または類似ペプチド配列は、混合物中に存在すると予想される他の配列からその断片を区別するのに十分な任意の長さのもの、例えば、少なくとも5、10、20、40、60、80、100、150、200個以上のアミノ酸または表A中の遺伝子のタンパク質生成物の長さの少なくとも約5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、もしくは95%であってもよい。
【0059】
本明細書で用いられる用語「抗体」とは、免疫グロブリンまたはその一部を指し、供給源、元の種、生成方法、および特徴とは無関係に抗原結合部位を含む任意のポリペプチドを包含する。非限定例として、用語「抗体」は、ヒト、オランウータン、マウス、ラット、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、およびニワトリ抗体を含む。この用語は、限定されるものではないが、ポリクローナル、モノクローナル、一特異的、多特異的、ヒト化、完全ヒト、ラクダ化、一本鎖、キメラ、合成、組換え、ハイブリッド、突然変異、およびCDR移植抗体を含む。本発明の目的のために、それはまた、別途記述しない限り、Fab、F(ab’)2、Fv、scFv、Fd、dAb、VHH(ナノボディとも呼ばれる)などの抗体断片、および抗原結合機能を保持する他の抗体断片も含む。抗体はまた、以下にさらに記載されるような、免疫グロブリンに基づかない抗原結合分子も含む。
【0060】
例えば、いくつかの実施形態においては、用語「抗体」は、免疫グロブリン以外の足場に基づく抗原結合分子を含む。例えば、当技術分野で公知の非免疫グロブリン足場は、小モジュラー免疫薬(例えば、それぞれ、2008年7月31日および2008年9月18日に公開された、米国特許出願公開第2008/0181892号および第2008/0227958号を参照されたい)、テトラネクチン、フィブロネクチンドメイン(例えば、ADNECTINS(登録商標);2007年4月12日に公開された米国特許出願公開第2007/0082365号を参照されたい)、プロテインA、リポカリン(例えば、米国特許第7,118,915号を参照されたい)、アンキリンリピート、およびチオレドキシンを含む。非免疫グロブリン足場に基づく分子は、一般に、ファージディスプレイ(例えば、Hoogenboom、Method Mol.Biol.178:1~37頁(2002)を参照されたい)、リボソームディスプレイ(例えば、Hanesら、FEBS Lett.450:105~110頁(1999)ならびにHeおよびTaussig、J.Immunol.Methods 297:73~82頁(2005)を参照されたい)、または高親和性結合配列を同定するための当技術分野で公知の他の技術(Binzら、Nat.Biotech.23:1257~1268頁(2005);Rotheら、FASEB J.20:1599~1610頁(2006);および米国特許第7,270,950号;第6,518,018号;および第6,281,344号も参照されたい)によるライブラリーのin vitroでの選択により生成される。
【0061】
本発明により提供される方法を実施するために、本発明は、本発明により提供される方法のいずれかを実施するための試薬を含むキットをさらに提供する。典型的には、本発明により提供されるキットは、表A中の2つ以上の遺伝子、すなわち、少なくとも2、3、4、または5つ全部の遺伝子の発現レベルを検出、測定および/または試験するための試薬を含む(または本質的にからなる、もしくはからなる)。キットは、例えば、本発明により提供されるオリゴヌクレオチドプライマー、本発明により提供される抗体、またはそれらの組合せを含んでもよい;ある特定の実施形態においては、これらの試薬は、人工的および検出可能に標識される。キットは、典型的には、使用のための説明書を含むものとする。場合により、キットは、表Aに由来する遺伝子の異常な発現パターンを示す核酸、タンパク質、または核酸およびタンパク質を含む(または本質的にからなる、もしくはからなる)組成物である、「好適な陽性対照」を含んでもよい。例えば、好適な対照は、好ましいか、または好ましくない多発性骨髄腫の予後を有することが知られる臨床起源に由来するものであってもよく、固定もしくは保存されているが、そうでなければ加工されていない生検組織、またはあるいは、核酸(例えば、mRNAもしくはそのcDNA)、タンパク質、およびそれらの組合せ(例えば、少なくとも20、40、50、60、70、80、90、95、97、99乾燥重量%以上の核酸および/もしくはタンパク質)を含む(からなる、または本質的にからなる)画分を含む、そのような生検に由来する単離された画分を含んでもよい。あるいは、ある特定の実施形態においては、好適な陽性対照は、例えば、表Aに由来する2つ以上の遺伝子の異常な発現パターンに特徴的な割合で組み合わされた、核酸および/またはタンパク質の人工混合物を含んでもよい。
【0062】
分析
遺伝子発現レベルを、当技術分野における任意の手段によって分析することができる。さらなる分析の前に、生の遺伝子発現データを、変換、例えば、対数正規化し、発現比として表し、パーセンタイル順位化するか、または分位点スケーリングなどを行うことができる。データを、任意の非パラメータ的データスケーリング手法によりさらに修正することができる。
【0063】
発現パターンを、一般線形モデル(GLM)、ANOVA、回帰(ロジスティック回帰など)、サポートベクターマシン(SVM)、線形判別分析(LDA)、主成分分析(PCA)、k近傍(kNN)、ニューラルネットワーク(NN)、最近平均/重心(NM)、およびベイジアン共変量予測因子(BCP)などの様々な手段により評価および分類することができる。SVMなどのモデルを、本発明の教示に基づいて、本明細書に記載の遺伝子の任意のサブセットおよび組合せを用いて開発することができる。より特定の実施形態においては、発現パターンは、対数正規化された遺伝子発現レベルの平均として評価される。
【0064】
発現プロファイルに関する選択される閾値(リスクスコアとしてまとめられる)を設定して、所望の感度もしくは特異度を達成する、および/または階層群間の相対ハザード比に基づいて対象を階層化することができる。例えば、いくつかの実施形態においては、疾患指標閾値は、例えば、6、12、18、もしくは24ヶ月、または3、4、5、6、7、8、9、もしくは10年の期間にわたって、約1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.2.、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0以上の「ハザード比」(2つの階層群、例えば、高リスク予後群および低リスク予後群の間の多発性骨髄腫対象の全生存、無事象生存、または無増悪生存の比)を達成するように設定される。「階層群」は、1つまたは複数の階層化基準、例えば、約60パーセンタイルより高いか、もしくはそれと等しい疾患指標または約5未満もしくは約5~約15の間、例えば、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15より高い、もしくはそれ以上、例えば、約8、9、または10より高い、より特定すると10より高い、例えば、約10.68より高い平均対数正規化遺伝子発現プロファイルを有する全群メンバーなどの、疾患指標のパーセンタイル順位を階層化するデータセットのメンバーである。階層群を、年齢、疾患の持続期間、OS、PFSなどの任意の臨床パラメータの平均、中央値、最頻値、および/または標準偏差などの任意の統計値により、任意の手段によって比較することができる。
【0065】
治療方法
別の態様において、本発明は、多発性骨髄腫を治療する方法を提供する。例えば、本発明により提供される任意の方法は、ある特定の実施形態においては、対象に対する好適な骨髄腫療法、例えば、本発明により提供される方法による対象の予後診断に基づくものを提供する(例えば、投与する、処方する、またはそうでなければ、利用可能にする)ステップをさらに含んでもよい。他の関連する実施形態においては、本発明により提供される予後診断方法の結果は、対象に対する骨髄腫療法を提供する(例えば、投与する、処方する、もしくはそうでなければ、利用可能にする)もしくは修正する、および/または対象の監視スケジュールを変更するための新しい指標を提供する。例えば、いくつかの実施形態においては、本発明により提供される方法による予後不良(高リスク骨髄腫)は、より積極的な骨髄腫療法(レジメンに1つもしくは複数の治療を加える、および/もしくは1つもしくは複数の治療の用量を増加させることによる)を提供する必要性を示す場合があり、またはいくつかの実施形態においては、疾患を除去する代わりに患者の快適性に焦点を合わせた、あまり積極的でない治療が適切であり得る。いくつかの実施形態においては、予後良好(低リスク骨髄腫)は、いくつかの実施形態においては、より積極的な骨髄腫療法を回避する、中止するもしくは修正する(例えば、レジメンから1つもしくは複数の治療を取り除く、および/もしくは1つもしくは複数の治療の用量を減少させる)ことができることを示してもよく、または、いくつかの実施形態においては、より積極的な療法を用いて、疾患を除去するよう試みることができる。他の実施形態においては、本発明により提供される方法による予後診断の後、対象のための監視スケジュールを変更する、例えば、高リスク骨髄腫を有すると予後診断された対象は、より頻繁な監視スケジュールを受けてもよいが、低リスク骨髄腫を有すると診断された対象はより低頻度の監視スケジュールを受けてもよい。多発性骨髄腫を有する対象のための監視方法は当技術分野で周知であり、例えば、細胞遺伝学、PET(ポジトロン放出断層撮影)スキャン、MRI(磁気共鳴画像化)、DWIP、骨髄生検、血清または尿電気泳動(β2ミクログロブリンレベル、Mタンパク質レベル(ガンマスパイク)、および免疫グロブリンレベル(全Ig、重鎖、軽鎖を含む)の1つまたは複数のモニタリングを含む)、ならびに前記の任意の組合せを含む。
【0066】
「骨髄腫療法」は、ヒトにおける多発性骨髄腫のための確立された治療と実験的治療の両方を含む。ある特定の実施形態においては、骨髄腫療法は、プロテアソーム阻害剤、免疫調節薬、シスプラチン(例えば、PubChem 84691、441203を参照されたい)、エトポシド(例えば、PubChem 36462を参照されたい)、シクロホスファミド(例えば、PubChem 2907を参照されたい)、メルファラン(例えば、PubChem 460612を参照されたい)、拡張NK細胞を用いる細胞療法、T細胞を用いる細胞療法、抗体療法、デキサメタゾン(例えば、PubChem 5743を参照されたい)、およびそれらの組合せ(例えば、「組合せ骨髄腫療法」と呼ばれる、前記のいずれかの1、2、3、4、5、6つ以上)から選択される、治療有効量の1つまたは複数の薬剤を用いる治療を含む。
【0067】
例示的なプロテアソーム阻害剤骨髄腫療法としては、ボルテゾミブ(例えば、PubChem 487447を参照されたい)、カルフィルゾミブ(例えば、PubChem 11556711を参照されたい)、ジスルフィラム(例えば、PubChem 3117を参照されたい)、エピガロカテキン-3-ガレート(例えば、PubChem 65064を参照されたい)、サリノスポラミドA(例えば、PubChem 11347535を参照されたい)、エポキソミシン(例えば、PubChem 16760412を参照されたい)、MG132(例えば、PubChem 462382を参照されたい)、ONX0912(例えば、PubChem 25067547を参照されたい)、CEP-18770(例えば、PubChem 24800541を参照されたい)、MLN9708(例えば、PubChem 49867936を参照されたい)の1つまたは複数、およびそれらの組合せが挙げられる。より特定の実施形態においては、ボルテゾミブおよび/またはバルフィルゾミブが、骨髄腫療法における使用のためのプロテアソーム阻害剤である。
【0068】
例示的な免疫調節骨髄腫療法としては、例えば、サリドマイド(例えば、PubChem 5426を参照されたい;特定の実施形態においては、S-ラセミ体を用いることができる)、レナリドミド(例えば、PubChem 216326を参照されたい)、ポマリドミド(例えば、PubChem 134780を参照されたい)、アプレミラスト(例えば、PubChem 11561674を参照されたい)、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0069】
抗体骨髄腫療法としては、いくつかの実施形態においては、CD20(ヒトGeneID No.931)、SLAMF7(SLAMファミリーメンバー7、ヒトGeneID No.57823(他の別名:CD319、CS1))、CD38(ヒトGeneID No.952)、またはCD138(ヒトGeneID No.6382)に特異的に結合する中和抗体またはADCC活性を有する抗体、ならびにこれらの抗体の組合せを含む抗体(上記で定義されている)が挙げられる。
【0070】
特定の例示的な組合せ骨髄腫療法としては、トータルセラピー(TT)2、TT3a、TT3b、TT4、TT5、またはTT6と呼ばれる治療レジメンが挙げられる。他の例示的な組合せ骨髄腫療法としては、デキサメタゾンを含む、場合により、メルファランをさらに含むサリドマイドが挙げられる。
【実施例】
【0071】
導入
多発性骨髄腫(MM)における遺伝子発現プロファイリング(GEP)の予後値は、いくつかのグループによって報告されている。GEP70モデル(Blood 109(6):2276~2284頁(2007))は、トータルセラピー2(TT2)において開発され、無増悪生存(PFS)および全生存(OS)に関するその判別力は、移植片、非移植片および再発設定においていくつかの公開されたデータセット中で検証されている。Journal of Clinical Oncology 26(29):4798~4805頁(2008);Blood 115(21):4168~4173頁(2010);Blood 109(8):3177~3188頁(2007);Blood 111(2):968~969頁(2008);およびLeukemia 22(2):459~461頁(2008)を参照されたい。本発明者らは、GEP70モデルを、フロントラインプロトコール(TT3、TT4またはTT5)に相応しくない以前に治療されたMMのためのタンデム移植(tandem transplant)試験であるトータルセラピー6(TT6)に適用した。OSの24ヶ月評価はそれぞれ、低リスクおよび高リスクMMについて、95%および18%であった。
【0072】
方法
患者
本発明者らの訓練データは、TT6上にある56人のMM患者およびTT3a上にある275人のMM患者からなり、両方とも生存データおよびGEPデータが利用可能である。さらにTT3b上にある166人の患者およびTT2上にある351人の患者を、検証のために用いた。TT2およびTT3の詳細は、以前に他の場所で公開されている。Blood 115(21):4168~4173頁(2010);The New England Journal of Medicine 354(10):1021~1030頁(2006);Journal of Clinical Oncology 28(7):1209~1214頁(2010);およびBlood 116(8):1220~1227頁(2010)を参照されたい。TT6の詳細は、下記の補足方法に報告される。
【0073】
遺伝子発現プロファイリング
GEP試料の調達およびプロセッシングならびにGEP70リスクスコアの算出は、以前に報告されている。Blood 109(6):2276~2284頁(2007)を参照されたい。
【0074】
生存推定
PFSおよびOSの期間を、プロトコール療法の開始から測定した;増悪は、再発または前者における任意の原因に由来する死亡および後者における任意の原因に由来する死亡を含んでいた。OSおよびPFS曲線を、Kaplan-Meier法(Journal of the American Statistical Association (53):457~481頁(1958))を用いて推定し、ログランク検定(Journal of the Royal Statistical Society 135(2):185~207頁(172))により比較した。ハザード比をCox回帰モデル(Journal of the Royal Statistical Society Series B(34):187~220頁(1972))を用いて推定し、段階的Cox回帰分析を行って、最適多変量モデルを選択し、ならびにリスクスコアの独立した予後診断力の証拠を提供した。
【0075】
結果および考察
本発明者らは、TT6におけるOSに関する単変量Cox回帰分析に基づいて、そのp値によりGEP70リスクモデル中に含まれる全部で70個のプローブセットを順位付けた(表2)。最小のp値を有する上からn個のプローブセットを組み合わせて、GEP70モデル開発におけると同様の方法を用いて連続スコアを作出した。
【0076】
高リスク患者群を同定するために、本発明者らは、ランニングログランク検定を用いて、新しいリスクスコアの最適カットオフを決定し、カットオフよりも高いスコアを有する患者を、高リスクと見なし、そうでなければ低リスクと見なした。本発明者らは、わずか2つの遺伝子に基づくモデルが、TT6上にあるMMを有する患者に関するリスクを確実に予測した(
図3)。次に、本発明者らは、上から5つのプローブセット(ENO1、FABP5、TRIP13、TAGLN2、およびRFC4遺伝子に対応する)を選択して、5プローブスコア(以後、GEP5と呼ばれる;
図1A)を形成した。5つのプローブセットのそれぞれはTT6において死亡率と明らかな関連を有していたため、GEP5スコアは、5つのプローブセットのlog2変換された発現レベルの単なる平均であった。TT6上で治療された患者数は、相対的に短い追跡においては相対的に少なかったため、本発明者らは次に、より長い追跡データと共に均一に治療された患者のより大きいデータセットにおいてGEP5モデルを確立することを求めた。さらに、本発明者らは、GEP5が以前に治療されていない患者にも適用可能であるかどうかを見たかった。従って、本発明者らは、TT3aにおけるGEP5スコアについてランニングログランク検定により最適カットオフを確立した。TT3aにおいて、GEP5スコアは、OSおよびPFSについて高リスク疾患と低リスク疾患の間で有意差を示し、その確立されたカットオフ0.66を用いてGEP70リスクモデルにより得られるものと同等である(
図1Bおよび
図2B)。本発明者らは、TT3bにおける新しいカットオフを検証し、ここで、本発明者らは、GEP5およびGEP70を用いて得られた結果の間の驚くべき類似性も観察した(
図1Cおよび
図2C)。多変量分析の際に、GEP5により定義された高リスクは、3.29(95%CI:1.92~5.64)の推定ハザード比を有する劣ったPFSと関連する独立した有害変数として選択されたが、OSについては有意として選択されなかった。GEP70モデルは、対照的に、OSについては選択されたが、PFSについては選択されなかった(表3)。GEP70モデルが開発されたTT2においては、GEP5およびGEP70により定義された低リスク群は再度、高度に類似する臨床転帰を示したが、GEP5モデルにより定義された高リスク群はGEP70モデルによるよりも高い生存推定値を有すると考えられる(5年推定OSは40%対28%であり、5年推定PFSは26%対15%である)(
図1D)。これはまた、TT2データを治療アームで分離した場合にも見られる(
図4)。表1は、GEP5およびGEP70モデル上での単変量生存分析の概要を与える。TT2、TT3aおよびTT3bに関するGEP70およびGEP5リスクのクロス集計により、それぞれ、0.90、0.89および0.87の一致率が示された(表3)。
【0077】
ENO1は、哺乳動物に見出される3つのエノラーゼイソ酵素の1つであるアルファ-エノラーゼをコードする。この遺伝子の選択的スプライシングは、転写リプレッサーとして、およびおそらく、腫瘍抑制因子として作用するタンパク質であるMYC結合タンパク質1を生成するより短いアイソフォームをもたらす。ENO1は、天然の生物学的薬剤であるブリオスタチン1を用いる治療後にびまん性大細胞型リンパ腫(DLCL)において誘導され、エンテロウイルス-71(EV71)感染(タンパク質レベルでの)に応答して上方調節される。FABP5は、脂肪酸結合タンパク質ファミリーのメンバーである。FABP5の過剰発現は、トリプルネガティブ乳がんにおける低い生存率および膵管腺がんの前臨床モデルにおけるATRAに対する耐性と関連していた。TRIP13は、ホルモン依存的転写因子としても知られる、甲状腺ホルモン受容体のリガンド結合ドメインと相互作用するタンパク質をコードする。それは、初期非小細胞肺がんにおいて役割を果たすことが示唆されている。TAGLNは腫瘍抑制因子として報告されており、その過少発現は結腸直腸がんおよび前立腺がんにおける予後不良と関連していたが、老化ヒト線維芽細胞中で過剰発現されることがわかった。RFC4は、複製因子C(RFC)タンパク質複合体の37kDのサブユニットをコードする。RFCおよび増殖細胞核抗原(PCNA)は、DNA伸長、かくして、細胞の増殖にとって必要である。
【0078】
最近、骨髄腫を有する85人の患者を対象とする大規模プロテオミクス実験により、短いOSと関連する24のタンパク質のセットのうちのENO1、FABP5およびTAGLNが同定された。この85人の患者のセットは、TT3bで治療された47人の患者を含んでいた。mRNAとタンパク質発現の間のこの相関は、GEP5モデルの生物学的関連性を支持する。
【0079】
補足方法
トータルセラピー6は、少なくとも1つの以前の系列の化学療法を用いる症候性多発性骨髄腫(MM)を有する患者に関する非盲検フェーズ2プロトコールとして設計される。患者は、以下のように治療される:1)誘導:MEL-10(10mg/m2)VTD-PACEおよび末梢血幹細胞収集2)1回目の移植:MEL-80(20mg/m2/日x4日)+VRD-PACE3)暫定的療法:MEL-20(5mg/m2/日x4日)+VTD-PACE(75%)2サイクル4)2回目の移植:MEL-80(20mg/m2/日x4日)+VRD-PACE5)維持:VRDとVMDを交互6)Q 1年目に1ヶ月7)Q 2および3年目に2ヶ月。
【0080】
MEL:メルファラン;VTD-PACE:ボルテゾミブ(Velcade)、サリドマイド、デキサメタゾン、シスプラチン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド;VRD-PACE:ボルテゾミブ(Velcade)、レナリドミド(Revlimid)、デキサメタゾン、シスプラチン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド;VRD:ボルテゾミブ(Velcade)、レナリドミド(Revlimid)、デキサメタゾン;VMD:ボルテゾミブ(Velcade)、メルファラン、デキサメタゾン。このプロトコールは、Institutional Review Boardにより認可された。
【表3】
【表4】
【0081】
表2において、行は最小から最大までのp値により順位付けられる;偽発見率はQ値法により見積もられた。列「元のHR≧1」は、GEP70モデル開発のための元のTT2訓練セットにおいて、プローブセットのハザード比が1以上であったかどうかを示す(1=はい;0=いいえ)。上から5つのプローブセットを用いて、GEP5モデルを作成した。
【表5】
【表6】
【0082】
「約」、「少なくとも」、「未満」および「より多い」などの、本出願においていくつかのパラメータを記述する全ての数的範囲について、その記述は記載された値により境界を示される任意の範囲を必ず包含すると理解されるべきである。従って、例えば、「少なくとも1、2、3、4または5」という記述は、特に、1~2、1~3、1~4、1~5、2~3、2~4、2~5、3~4、3~5、および4~5などの範囲も記述する。
【0083】
本明細書で引用される全ての特許、特許出願、ならびに非特許文献および参照配列または化学的情報などの他の参考文献について、それらはあらゆる目的のために、ならびに引用される意見のためにその全体が参照により本明細書に組込まれることが理解されるべきである。参照により組込まれる文献と、本出願との間に矛盾が存在する場合、本出願が制御するものとする。
【0084】
本出願において用いられた見出しは、便宜上のものに過ぎず、本出願の解釈には影響しない。
【0085】
記載されたコンピュータ可読インプレリメンテーションを、ソフトウェア、ハードウェア、またはハードウェアとソフトウェアの組合せにおいてインプレメントすることができる。ハードウェアの例としては、パーソナルコンピュータ、サーバー、ラップトップ、メインフレーム、およびマイクロプロセッサなどの、コンピューティングまたはプロセッシングシステムが挙げられる。本発明により提供されるコンピュータ可読インプリメンテーションはいずれも、場合により、スクリーンまたは物理的プリントアウト上での視覚的表示などの、ユーザへの視覚的出力を提供するステップを含んでもよい。
【0086】
本発明により提供されるそれぞれの態様の好ましい特徴は、変更すべきところは変更して本発明の他の態様の全てに適用可能であり、限定されるものではないが、独立クレームにより例示され、また、実施例を含む、本発明の特定の実施形態および態様の個々の特徴(例えば、数値範囲および例示的実施形態を含む要素)の組合せおよび順列も包含する。例えば、実施例に例示された特定の実験パラメータを、本発明から逸脱することなく、請求される発明における使用のために漸次適合させることができる。例えば、開示される材料について、これらの化合物のそれぞれ様々な個別的および集合的な組合せおよび順列の特定の参照は明示的に開示されていなくてもよいが、そのような化合物を作製および使用する方法であるため、それぞれは本明細書で特に企図および記載される。かくして、要素A、B、およびCのクラスならびに要素D、E、およびFのクラスが開示され、要素A-Dの組合せの例が開示される場合、それぞれが個別に記載されていなくても、それぞれが個別的および集合的に企図される。かくして、この例において、組合せA-E、A-F、B-D、B-E、C-D、C-E、およびC-Fのそれぞれは特に企図され、A、B、およびC;D、E、およびF;ならびに組合せ例A~Dの開示から開示されると考えるべきである。同様に、これらの任意のサブセットまたは組合せもまた、特に企図および開示される。かくして、例えば、A-E、B-F、およびC-Eのサブグループが特に企図され、A、B、およびC;D、E、およびF;ならびに組合せ例A-Dの開示から開示されると考えるべきである。この概念は、物質の組成物の要素および該組成物を作製または使用する方法のステップを含む、本出願の全ての態様に適用される。
【0087】
本明細書の教示に従って当業者により認識されるような本発明の前記態様を、それらが先行技術に対して新規かつ非自明である程度で任意の組合せまたは順列で請求することができる。かくして、ある要素が当業者には公知の1つまたは複数の参考文献に記載される程度で、特に、特徴または特徴の組合せの負の但し書きまたは免責により請求された発明からそれらを排除することができる。
【0088】
本発明を、その例示的実施形態を参照して特に示し、説明してきたが、形態および詳細における様々な変更を、添付の請求の範囲により包含される本発明の範囲から逸脱することなくその中で行うことができることが、当業者によって理解されるであろう。
【配列表】