(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】培地交換装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/04 20060101AFI20221213BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C12M1/04
C12M1/00 C
(21)【出願番号】P 2021503499
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2020005452
(87)【国際公開番号】W WO2020179389
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2019041173
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314005768
【氏名又は名称】PHCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 義広
(72)【発明者】
【氏名】徳丸 智祥
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-513013(JP,A)
【文献】特開2002-153256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれに培養物および培地が収容される複数のウェルを有するウェルプレートに載置されるとともに、前記複数のウェルのそれぞれに対して設けられ、各ウェルに供給する培地を収容する複数のリザーバと、
前記複数のリザーバに供給するガスを吐出する送気ポンプと、
前記送気ポンプと前記複数のリザーバとを連通し、前記送気ポンプから前記複数のリザーバに前記ガスを送る送気路と、
各リザーバと各ウェルとを連通し、各リザーバへの前記ガスの流入により各リザーバから押し出される前記培地を各ウェルに送る複数の送液路と、
を備えることを特徴とする培地交換装置。
【請求項2】
前記複数のリザーバは、前記複数のウェルに対し水平方向にずらして配置される請求項1に記載の培地交換装置。
【請求項3】
前記送気ポンプの数は、前記リザーバの数未満である請求項1または2に記載の培地交換装置。
【請求項4】
前記送気路は、
前記送気ポンプからのガスが流入する、前記リザーバの数未満の上流路と、
前記上流路から分岐して各リザーバに接続される複数の下流路と、
を有する請求項3に記載の培地交換装置。
【請求項5】
前記送気路は、前記送気ポンプと前記複数のリザーバそれぞれとをつなぐ各流路の体積が実質的に同一である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の培地交換装置。
【請求項6】
前記リザーバは、前記送液路の前記リザーバに接続される端部に近づくにつれて低くなるように傾斜する底面を有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の培地交換装置。
【請求項7】
前記送気路は、前記複数のウェルに対し水平方向にずらして配置される請求項1乃至6のいずれか1項に記載の培地交換装置。
【請求項8】
前記複数のリザーバと前記送気路とを気密に接続するシール部材を備える請求項1乃至7のいずれか1項に記載の培地交換装置。
【請求項9】
前記複数のウェルから培地を吸引するための吸引ポンプと、
前記複数のウェルと前記吸引ポンプとを連通し、各ウェルから前記吸引ポンプ側に前記培地を送る複数の排液路と、
を備える請求項1乃至8のいずれか1項に記載の培地交換装置。
【請求項10】
前記吸引ポンプと前記複数の排液路との間に接続され、前記排液路を流れる前記培地を収容する排液タンクを備える請求項9に記載の培地交換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培地交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のウェルを有するウェルプレートを用いて細胞や微生物等を培養する技術が知られている。各ウェルには、培養物とともに培地が収容される。培養物の増殖を促進したり培養物の正常な状態を維持したりするためには、ウェルに収容された培地を定期的に交換する必要がある。
【0003】
培地交換に関して、例えば特許文献1には、各ウェルに培地を供給する供給ポンプと、使用後の培地を各ウェルから排出する排出ポンプと、供給ポンプから供給チューブを通して送られる培地を各ウェルに供給する複数の供給ノズルと、供給ポンプと各供給ノズルとの間に配置される複数の開閉バルブと、各ウェルから培地を排出する複数の排出ノズルとを備え、自動で培地交換を行う培地交換装置が開示されている。この培地交換装置では、供給ポンプと各供給ノズルとの間にそれぞれ開閉バルブを接続することで、1台の供給ポンプから各ウェルに送液される培地の供給量を均一化していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞や微生物の培養にかかるコストを削減したいという要求は常にある。このため、培地交換装置にも当然にコストの削減が求められる。培地交換装置のコスト削減のためには、培地交換装置の構造の簡素化が望まれる。また、培地交換装置の小型化のためにも、培地交換装置の構造の簡素化が望まれる。
【0006】
本願はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、培地交換装置の構造を簡素化するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願のある態様の培地交換装置は、それぞれに培養物および培地が収容される複数のウェルを有するウェルプレートに載置されるとともに、複数のウェルのそれぞれに対して設けられ、各ウェルに供給する培地を収容する複数のリザーバと、複数のリザーバに供給するガスを吐出する送気ポンプと、送気ポンプと複数のリザーバとを連通し、送気ポンプから複数のリザーバにガスを送る送気路と、各リザーバと各ウェルとを連通し、各リザーバへのガスの流入により各リザーバから押し出される培地を各ウェルに送る複数の送液路と、を備える。
【0008】
また、本願の他の態様の培地交換装置は、それぞれに培養物および培地が収容される複数のウェルのそれぞれに対応して設けられ、各ウェルに供給する培地を収容する複数のリザーバと、複数のリザーバに供給するガスを吐出する送気ポンプと、送気ポンプと複数のリザーバとを連通し、送気ポンプから複数のリザーバに向けてガスを流す送気路と、各リザーバと各ウェルとを連通し、各リザーバへのガスの流入により各リザーバから押し出される培地を各リザーバから各ウェルに向けて流す複数の送液路と、を備える。送気路は、送気ポンプと複数のリザーバそれぞれとをつなぐ各流路の体積が実質的に同一である。
【0009】
以上説明した構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本願によれば、培地交換装置の構造を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る培地交換装置を取り付けたウェルプレートを収容する培養装置の概略構造を示す斜視図である。
【
図5】
図5(A)~
図5(D)は、送気路の層構造を示す平面図である。
【
図10】複数のリザーバおよび複数の送液路の斜視図である。
【
図11】複数のリザーバおよび複数の送液路の断面端面図である。
【
図12】複数のリザーバから複数のウェルへの培地の供給機序を示す図である。
【
図14】複数のウェルから排液タンクへの培地の回収機序を示す図である。
【
図15】
図15(A)~
図15(C)は、実施の形態2に係る培地交換装置が備える送気路の層構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る培地交換装置を取り付けたウェルプレートを収容する培養装置の概略構造を示す斜視図である。培養装置1は、例えばCO
2インキュベータであり、前面に開口2aを有する断熱箱本体2と、開口2aを開閉自在に閉塞する扉(図示せず)と、を備える。断熱箱本体2内には、培養室4が配置される。培養室4には、観察機能を有する分析装置5が収容される。ウェルプレート6と、このウェルプレート6に取り付けられた培地交換装置100とは、分析装置5に収容される。一例として、培地交換装置100は、観察機能を有する分析装置5や他の観察装置にセットされて使用される。
【0014】
分析装置5は、観察機能を担うカメラ8を有する。カメラ8は、ウェルプレート6の上方に配置されるとともにウェルプレート6を撮像可能に姿勢が定められる。ウェルプレート6は、それぞれに培養物および培地が収容される複数のウェル10を有する。複数のウェル10は、水平方向にマトリクス状に配列されている。カメラ8は、ウェルプレート6の各ウェル10の上方に移動して、各ウェル10内の培養物を撮像することができる。ウェルプレート6で培養される培養物は、例えば細胞等である。
【0015】
断熱箱本体2には、制御装置12が設けられる。制御装置12は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。制御装置12は、例えば培養装置1にネットワーク接続された外部機器や培養装置1に設けられる操作部(図示せず)から信号を受信する。そして、受信した信号に応じて、培養装置1の各部の動作を制御する。例えば、制御装置12は、培養室4内の温度および湿度の調節を実行する。また、制御装置12は、例えばカメラ8の駆動といった分析装置5の動作も制御する。なお分析装置5は、制御装置12とは別に自身の駆動を制御する制御部を有してもよい。さらに、制御装置12は、培地交換装置100に対し培地交換を指示する信号を送信する。
【0016】
続いて、培地交換装置100について詳細に説明する。
図2は、培地交換装置100の分解斜視図である。
図3は、培地交換装置100の斜視図である。
図2では、制御部124を機能ブロックとして描いている。この機能ブロックは、制御装置12と同様にハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0017】
培地交換装置100は、カバー102と、送気ポンプ104と、複数のリザーバ106と、シール部材107と、複数の送液路108と、複数の排液路110と、排液タンク112と、吸引ポンプ114と、を備える。
【0018】
カバー102、複数のリザーバ106、複数の送液路108および複数の排液路110は、例えば樹脂製である。複数のリザーバ106は、ウェルプレート6に載置される。つまり、複数のリザーバ106は、鉛直方向から見てウェルプレート6の延在範囲内に配置される。本実施の形態では、複数のリザーバ106は中蓋部材116に設けられる。中蓋部材116はおおよそ箱状であり、マトリクス状に配列された複数の凹部を天面116aに有し、この複数の凹部が複数のリザーバ106を構成している。中蓋部材116は、ウェルプレート6の上方を覆う。カバー102は、中蓋部材116の上方を覆う。カバー102と中蓋部材116との間には、シール部材107が配置される。
【0019】
また、中蓋部材116の天面116aには、複数の開口118が設けられる。複数の開口118は、中蓋部材116がウェルプレート6に取り付けられた状態で、鉛直方向から見て各ウェル10と重なるように配列されている(
図5(A)等参照)。本実施の形態のウェルプレート6は、一例として24ウェルのマイクロプレートである。したがって、中蓋部材116は、24個の開口118を有する。なお、ウェルプレート6のウェル数は、6、96、384個等であってもよい。また、ウェルプレート6には市販品を用いることができる。
【0020】
複数のリザーバ106は、複数の開口118および複数のウェル10に対し水平方向にずらして配置される(
図5(A)等参照)。本実施の形態の各ウェル10および各開口118は鉛直方向から見て円形である。各リザーバ106は略菱形であり、マトリクス状に配列された開口118の隙間に配置されている。複数のリザーバ106は、複数のウェル10のそれぞれに対して1対1で対応するように設けられる。したがって、本実施の形態の中蓋部材116は、24個のリザーバ106を有する。各リザーバ106は、培地交換の際に各ウェル10に供給する培地を収容する。各リザーバ106内の培地は、各リザーバ106と各ウェル10とを連通する送液路108を介してウェル10に供給される。リザーバ106および送液路108の構造については後に詳細に説明する。
【0021】
各リザーバ106に収容される培地の量は、例えば1回の培地交換で使い切る量である。1回の培地交換でリザーバ106中の培地を全てウェル10に供給することで、各ウェル10に供給される培地の量をより高精度に均一化することができる。なお、リザーバ106内を複数の部屋に区切って各部屋に1回の培地交換で使い切る量の培地を収容し、対応するウェル10と各部屋とを送液路108で連通してもよい。この場合、1回の中蓋部材116の設置で、複数回の培地交換を実施することが可能となる。また、複数回の培地交換に対応する量の培地を各リザーバ106に収容し、培地交換の度に徐々に各リザーバ106内の培地をウェル10に供給すること、つまり各リザーバ106の培地を複数回に分けてウェル10に送液することも可能である。
【0022】
送気ポンプ104は、例えばカバー102および中蓋部材116の側面に沿って配置される。送気ポンプ104は、複数のリザーバ106に供給するガスを吐出する装置である。送気ポンプ104が吐出するガスは、例えば培養室4中の雰囲気ガスである。送気ポンプ104には、公知のポンプを用いることができる。送気ポンプ104は、送気ダクト120を介してカバー102に接続される。送気ポンプ104の数は、リザーバ106の数未満である。本実施の形態では、1台の送気ポンプ104で24個のリザーバ106にガスを供給する。
【0023】
送気ポンプ104が吐出するガスは、送気ダクト120を介してカバー102内の送気路132(
図4参照)に送られる。そして、ガスは送気路132を経由して各リザーバ106に供給される。送気路132の構造については後に詳細に説明する。
【0024】
複数の排液路110は、複数のウェル10と吸引ポンプ114とを連通し、各ウェル10から吸引ポンプ114側に培地を送る管である。複数の排液路110は、複数のウェル10のそれぞれに対して1対1で対応するように設けられる。各排液路110は、一端がウェル10内に挿入され、他端が排液タンク112に接続される。なお、本実施の形態の排液路110は、管路の一部が他の排液路110と共通化されている。
【0025】
排液タンク112は、排液路110を流れる培地を収容する容器である。排液タンク112は、カバー102および中蓋部材116の側面に沿って配置される。本実施の形態の排液タンク112は、カバー102の側面および中蓋部材116のうち、送気ポンプ104が配置される側面と交わる側面に沿って配置される。排液タンク112には、吸気ダクト122を介して吸引ポンプ114が接続される。したがって、排液タンク112は、吸引ポンプ114と複数の排液路110との間に接続される。
【0026】
吸引ポンプ114は、例えばカバー102および中蓋部材116の側面に沿って、送気ポンプ104と並ぶように配置される。吸引ポンプ114は、複数のウェル10から使用済みの培地を吸引するための装置である。吸引ポンプ114には、公知のポンプを用いることができる。吸引ポンプ114の数は、ウェル10の数未満である。本実施の形態では、1台の吸引ポンプ114で24個のウェル10から培地を吸引する。吸引ポンプ114が駆動すると、各ウェル10の培地は排液路110に引き込まれ、排液路110内を排液タンク112に向かって移動し、排液タンク112に回収される。排液路110の構造と使用済み培地の回収機序については後に詳細に説明する。
【0027】
培地交換装置100は、制御部124を有する。制御部124は、自身を構成する制御基板が例えばカバー102あるいは中蓋部材116の側面に固定される。制御部124は、培養装置1の制御装置12に接続され、培地交換を指示する信号を制御装置12から受信する。制御部124は、培地交換指示信号を受信すると、送気ポンプ104および吸引ポンプ114に予め定められた時間だけ駆動信号を送信する。送気ポンプ104および吸引ポンプ114は、この駆動信号を受信している間だけ駆動する。一例として、吸引ポンプ114が駆動して各ウェル10内の使用済み培地が回収された後に、送気ポンプ104が駆動して各リザーバ106内の未使用培地が各ウェル10に供給される。送気ポンプ104の駆動時間は、未使用培地の供給が完了するまでに要する時間である。吸引ポンプ114の駆動時間は、使用済み培地の回収が完了するまでに要する時間である。
【0028】
培養装置1の使用者は、培養装置1にネットワーク接続された外部機器や培養装置1に設けられる操作部を介して、培地交換のタイミングを設定することができる。制御装置12は、このタイミング設定にしたがって制御部124に培地交換指示信号を送信する。なお、制御部124が時間の経過を計測するタイマを有し、培養装置1の使用者が培地交換までの時間をタイマに設定することで、制御部124が培地交換を実行する構成としてもよい。この場合、使用者が設定した時間の経過をタイマが検知すると、制御部124は送気ポンプ104および吸引ポンプ114に駆動信号を送信する。また、制御部124は、制御装置12を介さずに、培養装置1にネットワーク接続された外部機器等から直に培地交換指示信号を受信してもよい。
【0029】
続いて、培地交換装置100の各部の構成について詳細に説明する。まずは、カバー102について説明する。
図4は、カバー102の斜視図である。
図4では、カバー102の内部構造を破線で図示している。カバー102は、矩形状の天面102aと、天面102aの各片から下方に延びる4つの側面102bと、を有する略箱状の部材である。カバー102は、天面102aと鉛直方向で対向する位置に、中蓋部材116の外形に沿った形状の開口126を有する。開口126は、4つの側面102bの下辺で画成される。
【0030】
また、天面102aには、複数の観察窓130が設けられる。複数の観察窓130は、カバー102がウェルプレート6に取り付けられた状態で、鉛直方向から見て各ウェル10と重なるように配列される。したがって、鉛直方向から見て各観察窓130、中蓋部材116の各開口118、および各ウェル10が重なる。カバー102は、少なくとも観察窓130が透明である。これにより、観察窓130を介して各ウェル10内の様子をカメラ8で観察、撮像することができる。本実施の形態のカバー102は、全体が透明な樹脂材料で構成されている。また、カバー102は、観察窓130の部分が他の部分よりも薄肉になっている。
【0031】
また、天面102aには、送気路132が内蔵される。送気路132は、送気ポンプ104と複数のリザーバ106とを連通し、送気ポンプ104から複数のリザーバ106にガスを送る管である。
図5(A)~
図5(D)は、送気路132の層構造を示す平面図である。
図5(A)は1層目の流路を、
図5(B)は2層目の流路を、
図5(C)は3層目の流路を、
図5(D)は4層目の流路をそれぞれ示している。1層目~4層目の流路は、鉛直方向の上からこの順に積層される。
【0032】
送気路132は、送気ポンプ104からのガスが流入する上流路134と、上流路134から分岐して各リザーバ106に接続され、上流路134から流れ込むガスを各リザーバ106に送る複数の下流路136と、を有する。本実施の形態の送気路132は、4層構造を有する。上流路134は、送気路132の1層目の流路に相当する。複数の下流路136は、送気路132の2層目~4層目の流路に相当する。以下の説明では、2層目の下流路136を上部下流路136aと称し、3層目の下流路136を中間下流路136bと称し、4層目の下流路136を下部下流路136cと称する。上流路134は上部下流路136aに接続され、上部下流路136aは中間下流路136bに接続され、中間下流路136bは下部下流路136cに接続される。下部下流路136cは、各リザーバ106に接続される。
【0033】
図6は、上流路134の構造を示す平面図である。送気路132は、リザーバ106の数未満の上流路134を有する。本実施の形態の送気路132は、3本の上流路134を有する。各上流路134の一端は、送気ダクト120に接続される。各上流路134は、天面102a内で水平方向に引き回されて、上部下流路136aとの接続部138に至る。各上流路134の他端は、接続部138において上部下流路136aに接続される。
【0034】
図7は、上部下流路136aの構造を示す平面図である。本実施の形態の送気路132は、3本の上部下流路136aを有する。各上部下流路136aは、上流路134との接続部138から2方に延び、天面102a内で水平方向に引き回されて、中間下流路136bとの接続部140に至る。上部下流路136aの2つの端部は、それぞれ接続部140において中間下流路136bに接続される。
【0035】
図8は、中間下流路136bの構造を示す平面図である。本実施の形態の送気路132は、6本の中間下流路136bを有する。各中間下流路136bは、上部下流路136aとの接続部140から2方に延び、天面102a内で水平方向に引き回されて、下部下流路136cとの接続部142に至る。中間下流路136bの2つの端部は、それぞれ接続部142において下部下流路136cに接続される。
【0036】
図9は、下部下流路136cの構造を示す平面図である。本実施の形態の送気路132は、12本の下部下流路136cを有する。各下部下流路136cは、中間下流路136bとの接続部142から2方に延び、天面102a内で水平方向に引き回されて、各リザーバ106に至る。下部下流路136cの2つの端部は、それぞれリザーバ106に接続されるガス流出口144を構成する。
【0037】
つまり、送気ポンプ104から吐出されるガスの流れは、リザーバ106の数未満の上流路134から上部下流路136a、中間下流路136bおよび下部下流路136cを経る過程で各リザーバ106に対応する数まで増加する。本実施の形態のガス流は、1層目の上流路134で3本に分岐し、2層目の上部下流路136aで6本に分岐し、3層目の中間下流路136bで12本に分岐し、4層目の下部下流路136cでリザーバ106と同数の24本に分岐する。
【0038】
また、送気路132は、複数のウェル10に対し水平方向にずらして配置される。本実施の形態では、各上流路134および各下流路136は、観察窓130の間に敷設されている。前記「水平方向にずらして」とは、鉛直方向から見て送気路132がウェル10の中心と重ならないことを意味する。好ましくは、鉛直方向から見て送気路132がウェル10の全面積の80%に相当する領域であって、その中心がウェル10の中心と一致する領域(以下では80%領域と称する)と重ならないことを意味する。より好ましくは、鉛直方向から見て送気路132がウェル10の全体と重ならないことを意味する。
【0039】
鉛直方向から見たウェル10の中心は、例えば鉛直方向から見たウェル10の形状の幾何中心である。これにより、各ウェル10内の様子をカメラ8で撮像する際に、送気路132が撮像の妨げになることを抑制することができる。本実施の形態の送気路132は、鉛直方向から見てウェル10の全体と重ならないように配置されている。
【0040】
カバー102は、中蓋部材116に対しスナップフィット等の固定機構により固定される。この際、カバー102と中蓋部材116との間にシール部材107(
図2参照)を介在させた状態で、カバー102が中蓋部材116に固定される。シール部材107は、例えばゴム製のガスケットであり、各リザーバ106の上端開口と同形の枠体が複数のリザーバ106と同様に配列されて互いに一体化された構造を有する。シール部材107は、カバー102が中蓋部材116に固定された状態で、複数のリザーバ106の上端開口と送気路132の各ガス流出口144とを気密に接続する。これにより、各リザーバ106が気密に封止される。この結果、送気路132から各リザーバ106に送られるガスが、カバー102と中蓋部材116との隙間からリザーバ106の外に漏れることを抑制することができる。
【0041】
また、
図4に示すように、カバー102は、送気路132の各ガス流出口144の周囲に突起部145を有する。各突起部145は、各リザーバ106の上端開口と同形の枠状であり、天面102aの中蓋部材116側を向く表面から中蓋部材116側に突出する。カバー102が中蓋部材116に固定された状態で、各突起部145の先端が各リザーバ106に進入する。これにより、リザーバ106の気密性を高めることができる。また、カバー102を中蓋部材116に取り付ける際に、両者を位置決めする作用を発揮する。
【0042】
次に、複数のリザーバ106および複数の送液路108について説明する。
図10は、複数のリザーバ106および複数の送液路108の斜視図である。
図11は、複数のリザーバ106および複数の送液路108の断面端面図である。
【0043】
上述の通り本実施の形態では、中蓋部材116の天面116aに設けられた複数の凹部によって、複数のリザーバ106が構成されている。また、天面116aには、複数の開口118が設けられている。複数の開口118は、鉛直方向から見て各ウェル10と重なるように配列され、複数のリザーバ106は、鉛直方向から見て複数のウェル10に対し水平方向にずらして配置される(
図5(A)等参照)。
【0044】
前記「水平方向にずらして」とは、鉛直方向から見てリザーバ106がウェル10の中心と重ならないことを意味する。好ましくは、鉛直方向から見てリザーバ106がウェル10の80%領域と重ならないことを意味する。より好ましくは、鉛直方向から見てリザーバ106がウェル10の全体と重ならないことを意味する。これにより、各ウェル10内の様子をカメラ8で撮像する際に、リザーバ106が撮像の妨げになることを抑制することができる。本実施の形態のリザーバ106は、鉛直方向から見てウェル10の全体と重ならないように配置されている。
【0045】
各送液路108は、各リザーバ106と各ウェル10とを連通し、各リザーバ106内の培地を各ウェル10に流す管である。各送液路108は、第1端部108aと、第2端部108bと、第1管路部108cと、第2管路部108dと、第3管路部108eと、を有する。
【0046】
第1端部108aは、リザーバ106に挿入される。第1管路部108cは、下端が第1端部108aに接続され、第1端部108aからリザーバ106の壁面に沿って上方に延びる。第2管路部108dは、一端が第1管路部108cの上端に接続され、リザーバ106と開口118との境界部146を跨いで水平に延びる。第3管路部108eは、上端が第2管路部108dの他端に接続され、下方に延びて第2端部108bに接続される。第2端部108bは、ウェル10に挿入される。境界部146は、下方に凹んだ形状を有する。第2管路部108dは、この凹みに嵌め込まれる。これにより、送液路108が中蓋部材116に固定される。
【0047】
リザーバ106は、送液路108のリザーバ106に接続される第1端部108aに近づくにつれて低くなるように傾斜する底面106aを有する。このような底面106aを設けることで、重力を利用してリザーバ106内の培地を第1端部108a側に誘導することができる。よって、リザーバ106内の培地をより確実にウェル10に移送することができ、各ウェル10の培地量をより高精度に均一化することができる。
【0048】
続いて、リザーバ106からウェル10への培地の供給機序について説明する。
図12は、複数のリザーバ106から複数のウェル10への培地の供給機序を示す図である。一例として、まず各リザーバ106に予めピペット等で培地が分注され、その後にカバー102が中蓋部材116に取り付けられる。中蓋部材116へのカバー102の固定により、シール部材107で各リザーバ106が密閉される。そして、カバー102付きの中蓋部材116がウェルプレート6に取り付けられる。培地交換に際し、送気ポンプ104からガスが吐出されると、このガスは送気ダクト120および送気路132を通り、下部下流路136cから各リザーバ106に流入する(矢印Gで示す流れ)。各リザーバ106にガスが流入すると、各リザーバ106内が陽圧となる。
【0049】
これにより、各リザーバ106内の培地148はリザーバ106の底面106aに向けて押し込まれ、第1端部108aから送液路108内に流入する。各送液路108は、各リザーバ106へのガスの流入によって各リザーバ106から押し出される培地148を各ウェル10に送る(矢印M1で示す流れ)。これにより、リザーバ106内の培地148がウェル10に供給される。
【0050】
送気路132は、送気ポンプ104と複数のリザーバ106それぞれとをつなぐ各流路の体積が実質的に同一である。つまり、送気ダクト120に接続される端部から各リザーバ106に接続される端部に至るまでの各ガス流路は、実質的に同一の流路体積を有する。
【0051】
本実施の形態では一例として、まず中間下流路136bとの接続部142から2つのガス流出口144までの流路体積が同一となるように、12本の下部下流路136cの形状が定められる。次に、上部下流路136aとの接続部140から2つの接続部142までの流路体積が同一となるように、6本の中間下流路136bの形状が定められる。次に、上流路134との接続部138から2つの接続部140までの流路体積が同一となるように、3本の上部下流路136aの形状が定められる。そして、3つの接続部138に連結される3本の上流路134の流路体積が同一となるように、送気ダクト120から各接続部138に至るまでの各上流路134の敷設経路が定められる。
【0052】
各リザーバ106に供給されるガスの量が均一でない場合、各ウェル10において培地供給の終了時間に差が生じ得る。具体的には、ガスの供給量が多いリザーバ106の方が、ガスの供給量が少ないリザーバ106よりも早く培地供給が終了する。上流路134から下部下流路136cにかけてガス流路が分岐する流路構造、つまり各ウェル10に対応するガス流路が一部共通化されている構造では、培地供給の終了時間に差が生じると、培地供給が未終了のリザーバ106に送られるべきガスが培地供給の終了したリザーバ106に優先的に流れ込んでしまう。これは、培地供給の終了したリザーバ106ではガスの流動抵抗となる培地148がなく、ガスが円滑にリザーバ106を通過するためである。この場合、一部のリザーバ106で培地供給が完了せず、各ウェル10の培地量に差が生じてしまうおそれがある。
【0053】
これに対し、送気ポンプ104と各リザーバ106とをつなぐ各流路の体積を実質的に同一とすることで、各リザーバ106へのガスの供給量を均一化することができる。この結果、各ウェル10の培地量をより高精度に均一化することができる。例えば、各リザーバ106の培地量の差を5%以下に抑えることができる。前記「実質的に同一」とは、好ましくは各流路体積が完全に同一であることを意味するが、各ウェル10における培養物の生育状態に許容できる差が生じる程度に流路体積が異なる場合も含めることができる。あるいは、「同一」そのものを、各流路体積が完全に同一であることに加えて、各ウェル10における培養物の生育状態に許容できる差が生じる程度に流路体積が異なる場合も含むと解釈してもよい。
【0054】
続いて、複数の排液路110の構造と、ウェル10からの培地の回収機序と、について説明する。
図13は、複数の排液路110の一部の斜視図である。各排液路110は、第1端部110aと、第2端部110bと、管路部110cと、を有する。第1端部110aは、ウェル10に挿入される。管路部110cは、一端が第1端部110aに接続され、ウェル10の壁面に沿って上方に延び、ウェル10の上端部に達すると排液タンク112に向かって水平方向に延びる。管路部110cの他端部は第2端部110bに接続され、第2端部110bは排液タンク112に接続される。
【0055】
本実施の形態における複数の排液路110は、複数の集合体150に組み分けられている。各集合体150は、所定数の排液路110で構成される。そして各集合体150において、それぞれの排液路110の一部が共通化されている。一例として、4行6列のマトリクス状に配列された複数のウェル10のうち、各列の4つのウェル10に対応する排液路110が集合体150を構成する。したがって、複数の排液路110は、6つの集合体150に分けられ、各集合体150は4つの排液路110で構成される(
図2も参照)。
【0056】
排液タンク112は、ウェルプレート6の行方向に延在する。以下の説明では、便宜上、各列の4つのウェル10を排液タンク112から遠い方から第1ウェル10P、第2ウェル10Q、第3ウェル10R、第4ウェル10Sとする。また、第1ウェル10Pに第1端部110aが挿入される排液路110を第1排液路110Pとし、第2ウェル10Qに第1端部110aが挿入される排液路110を第2排液路110Qとし、第3ウェル10Rに第1端部110aが挿入される排液路110を第3排液路110Rとし、第4ウェル10Sに第1端部110aが挿入される排液路110を第4排液路110Sとする。
【0057】
第1排液路110Pの管路部110cは、第1端部110aから第1ウェル10Pの壁面に沿って上方に延び、第1ウェル10Pの上端部から排液タンク112に向かって水平方向に延びる。このとき、管路部110cは、第2ウェル10Q、第3ウェル10Rおよび第4ウェル10Sの縁に沿って、つまり鉛直方向から見て第2ウェル10Q~第4ウェル10Sを迂回するように湾曲しながら延び、第2端部110bに接続される。したがって、排液路110の一部は、複数のウェル10に対し水平方向にずらして配置される。
【0058】
例えば、管路部110cにおけるウェルプレート6の上面に沿って延びる部分は、複数のウェル10に対し水平方向にずらして配置される。前記「水平方向にずらして」の意味は、送気路132の場合と同様である。本実施の形態では、当該部分は、鉛直方向から見てウェル10の外周寄りの領域であってウェル10の全面積の20%に相当する領域に敷設される。つまり、管路部110cは、ウェル10の80%領域と重ならないように配置される。
【0059】
第2排液路110Qの管路部110cは、第2ウェル10Qの壁面に沿って上方に延び、第2ウェル10Qの上端部において第1排液路110Pの管路部110cに合流する。そして、第3ウェル10Rおよび第4ウェル10Sの縁に沿って延び、第2端部110bに接続される。したがって、第1排液路110Pの管路部110cのうち、第2排液路110Qの管路部110cとの接続部から排液タンク112側の部分は、第2排液路110Qの管路部110cを兼ねている。
【0060】
第3排液路110Rの管路部110cは、第3ウェル10Rの壁面に沿って上方に延び、第3ウェル10Rの上端部において第1排液路110Pの管路部110cに合流する。そして、第4ウェル10Sの縁に沿って延び、第2端部110bに接続される。したがって、第1排液路110Pの管路部110cのうち、第3排液路110Rの管路部110cとの接続部から排液タンク112側の部分は、第3排液路110Rの管路部110cを兼ねている。なお、第3排液路110Rの管路部110cが合流する管路部110cは、第2排液路110Qの管路部110cでもある。したがって、第2排液路110Qの管路部110cのうち、第3排液路110Rの管路部110cとの接続部から排液タンク112側の部分は、第3排液路110Rの管路部110cを兼ねているともいえる。
【0061】
第4排液路110Sの管路部110cは、第4ウェル10Sの壁面に沿って上方に延び、第4ウェル10Sの上端部において第1排液路110Pの管路部110cに合流する。そして、排液タンク112に向かって延び、第2端部110bに接続される。したがって、第1排液路110Pの管路部110cのうち、第4排液路110Sの管路部110cとの接続部から排液タンク112側の部分は、第4排液路110Sの管路部110cを兼ねている。なお、第4排液路110Sの管路部110cが合流する管路部110cは、第2排液路110Qおよび第3排液路110Rの管路部110cでもある。したがって、第2排液路110Qおよび第3排液路110Rの管路部110cのうち、第4排液路110Sの管路部110cとの接続部から排液タンク112側の部分は、第4排液路110Sの管路部110cを兼ねているともいえる。
【0062】
第1排液路110P~第4排液路110Sの第2端部110bは共通化され、第1ウェル10P~第4ウェル10S内の培地148は、同じ第2端部110bから排液タンク112に流入する。言い換えれば、本実施の形態の集合体150は、主管路と、この主管路から第1ウェル10P~第4ウェル10Sのそれぞれに挿入される分岐路と、で構成される。主管路は、基端部が排液タンク112に接続され、第4ウェル10S、第3ウェル10Rおよび第2ウェル10Qの上縁に沿って延び、先端部が第1ウェル10Pまで延びる。そして、主管路の中間部から第4ウェル10S、第3ウェル10Rおよび第2ウェル10Qのそれぞれに分岐路が延び、主管路の先端部から第1ウェル10Pに分岐路が延びる。
【0063】
図14は、複数のウェル10から排液タンク112への培地の回収機序を示す図である。各ウェル10内の培地148は、吸引ポンプ114の駆動によって排液タンク112に回収される。本実施の形態の吸引ポンプ114は、排液タンク112内の雰囲気ガスを吸引する。これにより、排液タンク112内が陰圧となり、排液タンク112と各ウェル10とを連通する各排液路110に各ウェル10の培地148が吸い込まれる(矢印M2で示す流れ)。
【0064】
そして、各ウェル10の培地148は、管路部110cを排液タンク112に向かって流れ(矢印M3で示す流れ)、第2端部110bから排液タンク112に流入する(矢印M4で示す流れ)。培地148は排液タンク112にトラップされるため、吸気ダクト122および吸引ポンプ114は培地148で汚染されない。このため、培地交換装置100のメンテナンス性を高めることができる。なお、排液タンク112を省略して培地148が吸引ポンプ114まで引き込まれる構成であってもよい。
【0065】
同様に、送気ポンプ104は雰囲気ガスを各リザーバ106に向けて吐出するため、送気ポンプ104および送気ダクト120も培地148で汚染されない。この点でも、培地交換装置100のメンテナンス性を高めることができる。さらに、複数回の培養において送気ポンプ104、送気ダクト120、吸引ポンプ114および吸気ダクト122を使い回すことができる。よって、培養にかかるコストの増加を抑制することができる。
【0066】
培地交換装置100の使用態様の一例として、送気ポンプ104、送気ダクト120、吸引ポンプ114、吸気ダクト122および排液タンク112は、培養室4内に設置されたスライド式のトレー(図示せず)に据え置かれる。カバー102は送気ダクト120に着脱自在に接続され、複数の排液路110は排液タンク112に着脱自在に接続される。したがって、培地交換装置100の使用者は、ウェルプレート6、中蓋部材116およびカバー102のみを培養室4から出し入れすることができる。
【0067】
例えば使用者は、培養物を播種し培地を添加したウェルプレート6に、交換用の培地148を収容した中蓋部材116と、カバー102と、を被せてこれらを一体化し、培養室4内から引き出したトレー上に載置する。そして、送気ダクト120とカバー102とを接続し、排液タンク112と排液路110とを接続して、トレーを培養室4内に戻す。これにより、培地交換装置100によって培地交換を自動で実行しながら、培養物を培養することができる。また、カメラ8を用いて培養物の状態を観察、撮像することができる。
【0068】
好ましくは、複数のリザーバ106、複数の送液路108および複数の排液路110は一体的に構成される。具体的には、複数のリザーバ106が形成された中蓋部材116の境界部146に送液路108が嵌め込まれて、複数のリザーバ106と複数の送液路108とが一体化される。また、中蓋部材116が排液路110の支持部(図示せず)を有し、この支持部に複数の排液路110が取り付けられることで、複数のリザーバ106、複数の送液路108および複数の排液路110が一体化される。
【0069】
これにより、培地交換装置100の使用者は、ウェルプレート6に中蓋部材116を被せるだけで、各リザーバ106と各ウェル10とを送液路108で連通し、各ウェル10に排液路110を挿入することができる。また、送気路132は、カバー102に一体的に設けられている。このため、中蓋部材116にカバー102を被せるだけで、送気路132と各リザーバ106とを接続することができる。
【0070】
以上説明したように、本実施の形態に係る培地交換装置100は、複数のウェル10を有するウェルプレート6に載置されるとともに、各ウェル10に対して設けられて各ウェル10に供給する培地を収容する複数のリザーバ106と、複数のリザーバ106に供給するガスを吐出する送気ポンプ104と、送気ポンプ104および複数のリザーバ106を連通し、送気ポンプ104から複数のリザーバ106にガスを送る送気路132と、各リザーバ106と各ウェル10とを連通し、各リザーバ106へのガスの流入により各リザーバ106から押し出される培地148を各ウェル10に送る複数の送液路108と、を備える。
【0071】
このように、本実施の形態では、各リザーバ106に交換用の培地148を分配しておき、送気ポンプ104からのガス供給によって各リザーバ106から各ウェル10に培地148を押し出す構成としている。これにより、各リザーバ106への培地148の分配量を調整しておくことで、各ウェル10への培地供給量の均一化を図ることができる。よって、各供給ノズルに開閉バルブを接続して供給ポンプからの培地の送液量を制御していた従来の培地交換装置に比べて、培地交換装置の構造を簡素化することができる。これにより、培地交換装置100を小型化することができる。
【0072】
また、複数のリザーバ106をウェルプレート6に載置する構成とすることで、培地交換装置100の設置に要する面積を小さくすることができる。つまり、培地交換装置100を小型化することができる。また、培地交換装置100を小型化できることで、培養装置1内に設置される、観察機能付きの分析装置や他の観察装置に容易に組み込むことができる。また、インキュベータ機能および観察機能を有する分析装置や、インキュベータ機能を有する観察装置に容易に組み込むことができる。
【0073】
また、複数のリザーバ106は、複数のウェル10に対し水平方向にずらして配置される。これにより、カメラ8の視界を確保することができる。また、送気ポンプ104の数はリザーバ106の数未満であり、送気ポンプ104が吐出するガスが送気路132によって各リザーバ106に分配される。これにより、各リザーバ106に1対1で送気ポンプ104を設ける場合に比べて、部品点数を削減することができる。よって、培地交換装置100の構造を簡素化することができ、また小型化することができる。
【0074】
また、送気路132は、送気ポンプ104からのガスが流入する、リザーバ106の数未満の上流路134と、上流路134から分岐して各リザーバ106に接続される複数の下流路136と、を有する。このように、送気路132を上流側から下流側に向かって枝分かれする構造とすることで、送気ポンプ104と各リザーバ106とをそれぞれ独立した複数の送気路で連通する場合と比べて、送気路132全体の構造を簡素化することができる。また、送気路132の敷設に要する面積を小さくすることができる。これにより、培地交換装置100の構造の簡素化および小型化を図ることができる。
【0075】
また、送気路132は、複数のウェル10に対し水平方向にずらして配置される。これにより、カメラ8の視界を確保しながら、送気ポンプ104と各リザーバ106とを連通することができる。また、ウェル10を迂回するように送気路132を敷設する場合、送気路132を枝分かれ構造とすることで容易に当該敷設を実現することができる。
【0076】
また、送気路132は、送気ポンプ104と各リザーバ106とをつなぐ各流路の体積が実質的に同一である。これにより、各リザーバ106から各ウェル10に供給する培地148の量を均一化することができる。また、流路体積を実質的に同一にする場合、送気路132を枝分かれ構造とすることで送気路132全体の敷設面積が著しく増大することを抑制することができる。これにより、流路体積を実質的に同一にすることと、カメラ8の視界確保とを両立することができる。
【0077】
また、各リザーバ106は、送液路108におけるリザーバ106に接続される第1端部108aに近づくにつれて低くなるように傾斜する底面106aを有する。これにより、リザーバ106内の培地148をより確実にウェル10に供給することができ、ウェル10内に培地148が残存することを抑制することができる。このため、各ウェル10に供給する培地148の量をより確実に均一化することができる。また、培地交換装置100は、複数のリザーバ106と送気路132とを気密に接続するシール部材107を備える。これにより、各ウェル10に供給する培地148の量をより確実に均一化することができる。
【0078】
また、培地交換装置100は、複数のウェル10から培地148を吸引するための吸引ポンプ114と、複数のウェル10と吸引ポンプ114とを連通し、各ウェル10から吸引ポンプ114に向けて培地148を流す複数の排液路110と、を備える。このように、1台の吸引ポンプ114で複数のウェル10の培地148を吸引する構造とすることで、各ウェル10に1対1で吸引ポンプ114を設ける場合に比べて、部品点数を削減することができる。よって、培地交換装置100の構造を簡素化することができ、また小型化することができる。
【0079】
また、培地交換装置100は、吸引ポンプ114と複数の排液路110との間に接続され、排液路110を流れる培地148を収容する排液タンク112を備える。これにより、吸引ポンプ114が培地148と接触することを回避することができる。よって、培地交換装置100のメンテナンス性を高めることができる。また、複数回の培養で吸引ポンプ114を使い回すことができるため、培養にかかるコストの増加を抑制することができる。
【0080】
また、本実施の形態の培地交換装置100は、中蓋部材116およびカバー102をウェルプレート6に被せ、カバー102に送気ダクト120を接続し、中蓋部材116(の排液路110)に排液タンク112を接続する構造を有する。このため、市販のウェルプレート6に手を加えずに培地交換装置100を取り付けることができる。よって、使い勝手の良好な培地交換装置を提供することができる。
【0081】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る培地交換装置は、送気路132の構造を除き、実施の形態1と共通の構成を有する。本実施の形態の説明では、実施の形態1と同様の構成については、その説明を適宜省略する。
図15(A)~
図15(C)は、実施の形態2に係る培地交換装置100が備える送気路132の層構造を示す平面図である。
図15(A)は1層目の流路を、
図15(B)は2層目の流路を、
図15(C)は3層目の流路をそれぞれ示している。1層目~3層目の流路は、鉛直方向の上からこの順に積層される。
【0082】
送気路132は、送気ポンプ104からのガスが流入する上流路134と、上流路134から分岐して各リザーバ106に接続される複数の下流路136と、を有する。本実施の形態の送気路132は、3層構造を有する。上流路134は、送気路132の1層目の流路に相当する。複数の下流路136は、送気路132の2層目および3層目の流路に相当する。以下の説明では、2層目の下流路136を上部下流路136aと称し、3層目の下流路136を下部下流路136cと称する。上流路134は上部下流路136aに接続され、上部下流路136aは下部下流路136cに接続され、下部下流路136cは各リザーバ106に接続される。
【0083】
送気路132は、リザーバ106の数未満の上流路134を有する。本実施の形態の送気路132は、1本の上流路134を有する。上流路134の一端は、送気ダクト120に接続される。上流路134は、天面102a内で水平方向に引き回されて、上部下流路136aとの接続部138に至る。上流路134の他端は、接続部138において上部下流路136aに接続される。接続部138は、所定のウェル10の中心と重なる位置に配置される。
【0084】
本実施の形態の送気路132は、1本の上部下流路136aを有する。上部下流路136aは、上流路134との接続部138から4方に延び、天面102a内で水平方向に引き回されて、下部下流路136cとの接続部142に至る。上部下流路136aの4つの端部は、それぞれ接続部142において下部下流路136cに接続される。
【0085】
本実施の形態の送気路132は、4本の下部下流路136cを有する。各下部下流路136cは、上部下流路136aとの接続部142から6方に延び、天面102a内で水平方向に引き回されて、各リザーバ106に至る。下部下流路136cの6つの端部は、それぞれリザーバ106に接続されるガス流出口144を構成する。
【0086】
したがって、本実施の形態におけるガス流路は、1層目の上流路134では1本であるが、2層目の上部下流路136aで4本に分岐し、3層目の下部下流路136cでリザーバ106と同数の24本に分岐する。このような送気路132の構造によっても、送気ポンプ104と各リザーバ106とをそれぞれ独立した複数の送気路で連通する場合と比べて、送気路132全体の構造を簡素化することができる。また、送気路132全体の敷設に要する面積を小さくすることができる。これにより、培地交換装置100の構造の簡素化および小型化を図ることができる。
【0087】
また、本実施の形態によっても、各ガス流路の体積を実質的に同一にすることができる。また、流路体積が実質的に同一な状態を維持しながら、接続部138と重なる1つのウェル10を除いて送気路132を複数のウェル10に対し水平方向にずらして配置することができる。これにより、各ウェル10内の様子をカメラ8で撮像する際に、送気路132が撮像の妨げになることを抑制することができる。
【0088】
なお、
図15(A)では、送気ダクト120と接続部138との間に位置する2つのウェル10の中心を通るように上流路134が敷設されているが、上流路134はこの2つのウェル10と重ならないように迂回させることができる。また、
図15(B)では、接続部138から接続部142に向かって上部下流路136aが直線状に延びているが、上部下流路136aはウェル10と重ならないように迂回させることができる。同様に、
図15(C)では、接続部142からガス流出口144に向かって下部下流路136cが直線状に延びているが、下部下流路136cはウェル10と重ならないように迂回させることができる。
【0089】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0090】
実施の形態は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
それぞれに培養物および培地(148)が収容される複数のウェル(10)のそれぞれに対応して設けられ、各ウェル(10)に供給する培地(148)を収容する複数のリザーバ(106)と、
複数のリザーバ(106)に供給するガスを吐出する送気ポンプ(104)と、
送気ポンプ(104)と複数のリザーバ(106)とを連通し、送気ポンプ(104)から複数のリザーバ(106)に向けてガスを流す送気路(132)と、
各リザーバ(106)と各ウェル(10)とを連通し、各リザーバ(106)へのガスの流入により各リザーバ(106)から押し出される培地(148)を各リザーバ(106)から各ウェル(10)に向けて流す複数の送液路(108)と、を備え、
送気路(132)は、送気ポンプ(104)と複数のリザーバ(106)それぞれとをつなぐ各流路の体積が実質的に同一である、培地交換装置(100)。
この態様によれば、開閉バルブを各リザーバ106に対して設けることなく、各リザーバ106への培地供給量を均一化することができる。このため、培地交換装置100の構造を簡素化することができ、また培地交換装置100を小型化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、培地交換装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0092】
6 ウェルプレート、 10 ウェル、 100 培地交換装置、 104 送気ポンプ、 106 リザーバ、 106a 底面、 108 送液路、 110 排液路、 112 排液タンク、 114 吸引ポンプ、 132 送気路、 134 上流路、 136 下流路、 148 培地。