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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20221213BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20221213BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20221213BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20221213BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20221213BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M10/0585
H01M4/131
H01M4/485
H01M50/434
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021515861
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2020010127
(87)【国際公開番号】W WO2020217749
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2019084699
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】大石 憲吾
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123479(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/146088(WO,A1)
【文献】特開2009-129790(JP,A)
【文献】特開2015-041573(JP,A)
【文献】特開2013-232284(JP,A)
【文献】国際公開第2011/111377(WO,A1)
【文献】特開2014-049301(JP,A)
【文献】特開2019-061867(JP,A)
【文献】特開2003-263979(JP,A)
【文献】特開2007-005279(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088522(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/0525
H01M 10/0585
H01M 50/409-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト含有リチウム複合酸化物焼結体で構成される正極層と、
チタン含有焼結体で構成される負極層と、
前記正極層と前記負極層との間に介在されるセラミックセパレータと、
少なくとも前記セラミックセパレータに含浸される電解質と、
密閉空間を備え、該密閉空間内に前記正極層、前記負極層、前記セラミックセパレータ及び前記電解質が収容される外装体と、
を備えた、リチウム二次電池であって、
前記正極層、前記セラミックセパレータ及び前記負極層が互いに結合しており、
前記リチウム複合酸化物焼結体が、前記リチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量に対して0.05~2.0mol%のホウ素、又は前記リチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量に対して0.05~1.2mol%のストロンチウムを助剤として含み、
前記正極層の気孔率が20~60%である、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記リチウム複合酸化物焼結体が、前記リチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量に対して0.2~1.8mol%のホウ素を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記リチウム複合酸化物焼結体が、前記リチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量に対して0.2~1.0mol%のストロンチウムを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記リチウム複合酸化物がコバルト酸リチウムである、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記正極層の厚さが60~600μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記正極層の平均気孔径が0.1~10.0μmである、請求項1~のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記正極層が、リチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、前記複数の一次粒子が前記正極層の層面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向正極層である、請求項1~のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記負極層の厚さが70~800μmである、請求項1~のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記チタン含有焼結体が、チタン酸リチウム又はニオブチタン複合酸化物を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
前記負極層の気孔率が20~60%である、請求項1~のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項11】
前記負極層の平均気孔径が0.08~5.0μmである、請求項1~10のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項12】
前記セラミックセパレータの厚さが3~50μmである、請求項1~11のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項13】
前記セラミックセパレータが、MgO、Al、ZrO、SiC、Si、AlN、及びコーディエライトからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項14】
正極集電体及び負極集電体をさらに備えた、請求項1~13のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
充電を必要とする様々なデバイスにリチウム二次電池が広く利用されている。既存の多くのリチウム二次電池では、正極活物質、導電助剤、バインダー等を含む正極合剤を塗布及び乾燥させて作製された、粉末分散型の正極(いわゆる塗工電極)が採用されている。
【0003】
一般的に、粉末分散型の正極は、容量に寄与しない成分(バインダーや導電助剤)を比較的多量に(例えば10重量%程度)含んでいるため、正極活物質としてのリチウム複合酸化物の充填密度が低くなる。このため、粉末分散型の正極は、容量や充放電効率の面で改善の余地が大きかった。そこで、正極ないし正極活物質層をリチウム複合酸化物焼結体板で構成することにより、容量や充放電効率を改善しようとする試みがなされている。この場合、正極又は正極活物質層にはバインダーや導電助剤が含まれないため、リチウム複合酸化物の充填密度が高くなることで、高容量や良好な充放電効率が得られることが期待される。例えば、特許文献1(特許第5587052号公報)には、正極集電体と、導電性接合層を介して正極集電体と接合された正極活物質層とを備えた、リチウム二次電池の正極が開示されている。この正極活物質層は、厚さが30μm以上であり、空隙率が3~30%であり、開気孔比率が70%以上であるリチウム複合酸化物焼結体板からなるとされている。また、特許文献2(国際公開第2017/146088号)には、固体電解質を備えるリチウム二次電池の正極として、コバルト酸リチウム(LiCoO)等のリチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、複数の一次粒子が正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向焼結体板を用いることが開示されている。
【0004】
一方、負極としてチタン含有焼結体板を用いることも提案されている。例えば、特許文献3(特開2015-185337号公報)には、正極又は負極にチタン酸リチウム(LiTi12)焼結体を用いたリチウム二次電池が開示されている。もっとも、このリチウム二次電池は正極と負極の間に固体電解質層を備えた全固体電池であり、非水系電解液を用いる二次電池ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5587052号公報
【文献】国際公開第2017/146088号
【文献】特開2015-185337号公報
【発明の概要】
【0006】
近年、小型薄型でありながら高容量かつ高出力のリチウム二次電池が望まれている。そこで、高容量や良好な充放電効率を期待して、リチウム複合酸化物焼結体板を正極に用いることが考えられる。同様の理由から、チタン含有焼結体板を負極に用いることも考えられる。しかしながら、これらの焼結体板、すなわちセラミック正極板及びセラミック負極板を用いてリチウム二次電池を実際に作製すると、期待したほどの容量が得られない。この点、本発明者らの知見によれば、正極層、セラミックセパレータ及び負極層が全体として1つの一体焼結体板を成す構成を採用することで、高い放電容量を有し、かつ、充放電サイクル性能にも優れた、リチウム二次電池を提供することができる。とはいえ、かかる一体焼結体板タイプの電池では、正極層、セラミックセパレータ及び負極層という、組成及び熱膨張特性の異なる3つの層が互いに結合されているため、焼成温度等に起因して、一体焼結体板に反りが生じやすい。そして、大きな反りの発生は、電池の歩留まりを低下させうる。そこで、一体焼結体板タイプの電池の優れた電池性能を損なうことなく、一体焼結体板の反りを低減させることが望まれる。
【0007】
本発明者らは、今般、正極層、セパレータ及び負極層が互いに結合した一体焼結体板タイプのリチウム二次電池において、正極層を構成するリチウム複合酸化物焼結体にホウ素又はストロンチウムを所定の含有比率で含有させることにより、一体焼結体板タイプの電池の優れた電池性能(特に放電容量)を保持しながら、一体焼結体板の反りを低減できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、正極層、セラミックセパレータ及び負極層が互いに結合した一体焼結体板タイプの電池でありながら、優れた電池性能(特に放電容量)と一体焼結体板の反りの低減とを両立可能なリチウム二次電池を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、
コバルト含有リチウム複合酸化物焼結体で構成される正極層と、
チタン含有焼結体で構成される負極層と、
前記正極層と前記負極層との間に介在されるセラミックセパレータと、
少なくとも前記セラミックセパレータに含浸される電解質と、
密閉空間を備え、該密閉空間内に前記正極層、前記負極層、前記セラミックセパレータ及び前記電解質が収容される外装体と、
を備えた、リチウム二次電池であって、
前記正極層、前記セラミックセパレータ及び前記負極層が互いに結合しており、
前記リチウム複合酸化物焼結体が、前記リチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量に対して0.05~2.0mol%のホウ素、又は前記リチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量に対して0.05~1.2mol%のストロンチウムを助剤として含む、リチウム二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のリチウム二次電池の一例の模式断面図である。
図2】配向正極層の層面に垂直な断面の一例を示すSEM像である。
図3図2に示される配向正極層の断面におけるEBSD像である。
図4図3のEBSD像における一次粒子の配向角度の分布を面積基準で示すヒストグラムである。
図5】例A1~A12で測定される反り量を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
リチウム二次電池
図1に本発明のリチウム二次電池の一例を模式的に示す。なお、図1に示されるリチウム二次電池10はコイン形電池の形態となっているが、本発明はこれに限定されず、カードに内蔵可能な薄型二次電池等の他の形態の電池であってもよい。リチウム二次電池10は、正極層12と、負極層16と、セラミックセパレータ20と、電解液22と、外装体24とを備える。正極層12はコバルト含有リチウム複合酸化物焼結体で構成される。負極層16はチタン含有焼結体で構成される。セラミックセパレータ20は正極層12と負極層16との間に介在される。電解液22は、正極層12、負極層16、及びセラミックセパレータ20に含浸される。外装体24は密閉空間を備えており、この密閉空間内に正極層12、負極層16、セラミックセパレータ20及び電解液22が収容される。そして、正極層12、セラミックセパレータ20及び負極層16が全体として1つの一体焼結体板を成しており、それにより正極層12、セラミックセパレータ20及び負極層16が互いに結合している。そして、正極層12を構成するリチウム複合酸化物焼結体が、リチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量に対して0.05~2.0mol%のホウ素、又はリチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量に対して0.05~1.2mol%のストロンチウムを助剤として含む。このような、正極層12、セラミックセパレータ20及び負極層16が互いに結合した一体焼結体板タイプのリチウム二次電池において、正極層12を構成するリチウム複合酸化物焼結体にホウ素又はストロンチウムを所定の含有比率で含有させることにより、一体焼結体板タイプの電池の優れた電池性能(特に放電容量)を保持しながら、一体焼結体板の反りを低減できる。また、一体焼結体板の反りを低減することで、電池歩留まりを改善することができる。
【0012】
すなわち、前述したように、高容量や良好な充放電効率を期待して、リチウム複合酸化物焼結体板を正極に用いることが考えられる。同様の理由から、チタン含有焼結体板を負極に用いることも考えられる。しかしながら、これらの焼結体板、すなわちセラミック正極板及びセラミック負極板を用いてリチウム二次電池を実際に作製すると、期待したほどの容量が得られない。その原因としては、電池の組立工程においてセラミック正極板及びセラミック負極板の位置が互いにずれてしまうことが考えられる。かかるずれが生じないようにセパレータを正極板及び負極板に正確に固着させることも考えられるが、そのような工程は極めて高精度の位置決めが要求される高度な技術を要するものであり、それ故生産効率の低下及びコスト上昇を招く。その上、電極板を構成する焼結体板はうねっている又は反っていることがあり、そのようなうねり又は反りが存在すると正負極間距離にばらつきが生じ、そのようなばらつきは充放電サイクル性能の低下につながる。
【0013】
これに対し、本発明のリチウム二次電池においては、正極層12、セラミックセパレータ20及び負極層16が全体として1つの一体焼結体板を成しており、それにより正極層12、セラミックセパレータ20及び負極層16が互いに結合している。すなわち、正極層12、セラミックセパレータ20及び負極層16の3層は接着剤等の他の結合手法に頼ることなく互いに結合されている。ここで、「全体として1つの一体焼結体板を成す」ということは、正極層12をもたらす正極グリーンシート、セラミックセパレータ20をもたらすセパレータグリーンシート、及び負極層16をもたらす負極グリーンシートからなる3層構造のグリーンシートを焼成して各層が焼結された状態であることを意味する。このため、焼成前の3層構造のグリーンシートを打ち抜き型で所定の形状(例えばコイン形やチップ形)に打ち抜いてしまえば、最終形態の一体焼結体板においては正極層12及び負極層16間のずれは一切存在しないことになる。すなわち、正極層12の端面と負極層16の端面が揃うので、容量を最大化できる。あるいは、仮にずれが存在するとしても一体焼結体板はレーザー加工、切削、研磨等の加工に適するため、そのようなずれを最小化又は無くすように端面を仕上げ加工すればよい。いずれにしても、一体焼結体板である以上、正極層12、セラミックセパレータ20及び負極層16が互いに結合しているため、正極層12及び負極層16間のずれが事後的に生じることもない。このように正極層12及び負極層16間のずれを最小化又は無くすことで、期待どおりの(すなわち理論容量に近い)高い放電容量を得ることができる。また、セラミックセパレータを含む3層構成の一体焼結体板であるため、1枚の焼結体板として作製される正極板単体や負極板単体と比較して、うねり又は反りが生じにくく(すなわち平坦性に優れ)、それ故正負極間距離にばらつきが生じにくく(すなわち均一になり)、充放電サイクル性能の向上に寄与するものと考えられる。例えば、正極層12及び負極層16の面積ずれ率が1%未満であるのが好ましく、より好ましくは0.5%未満であり、さらに好ましくは0%である。正極層12及び負極層16の面積ずれ率は、正極層12及び負極層16が重なりあう領域の面積をSpn、正極層12が負極層16からはみ出した領域の面積をS、負極層16が正極層12からはみ出した領域を面積Sとしたとき、[(S+S)/Spn]×100の式に基づいて算出される値(%)として定義される。また、リチウム二次電池10は、理論容量に対する放電容量の比が99%以上であるのが好ましく、より好ましくは99.5%以上であり、さらに好ましくは100%である。
【0014】
このように一体焼結体板タイプの電池は大きな利点をもたらすものではあるが、前述のとおり、このタイプの電池では、正極層12、セラミックセパレータ20及び負極層16という、組成及び熱膨張特性の異なる3つの層が互いに結合されているため、焼成温度等に起因して、一体焼結体板に反りが生じやすい。そして、大きな反りの発生は、電池の歩留まりを低下させうる。この問題が、正極層12を構成するリチウム複合酸化物焼結体が、当該リチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量に対して、0.05~2.0mol%のホウ素、又は0.05~1.2mol%のストロンチウムを助剤として含むことで好都合に解消される。その詳細なメカニズムは定かではないが、正極層12を構成するリチウム複合酸化物焼結体が上記所定量のホウ素又はストロンチウムを含むことで、正極層12の熱膨張特性が負極層16の熱膨張特性に近づくため、反りが低減されるものと考えられる。そして、ホウ素及びストロンチウムをコバルト含有量に対して上述のとおり極めて微量の添加に留めることで、容量の低下を最小限に留めることができる。こうして、電池性能(特に放電容量)と一体焼結体板の反りの低減とが両立されるものと考えられる。また、反りの低減により電池歩留まりも改善される。
【0015】
ところで、近年、IoTデバイスの普及に伴い、小型薄型でありながら高容量かつ高出力、特に定電圧(CV)充電可能なコイン形リチウム二次電池が望まれている。この点、本発明の好ましい態様によるリチウム二次電池10によれば、かかる要求を十分に満足することができる。特に、正極及び負極としてそれぞれ所定の焼結体板を採用したことで、耐熱性のみならず、高容量かつ高出力、とりわけ定電圧充電や高速充電を実現することが可能となる。したがって、本発明のリチウム二次電池10は、IoTデバイス用の電池であるのが好ましい。すなわち、本発明の別の好ましい態様によれば、コイン形リチウム二次電池を備えたIoTデバイスが提供される。また、本発明のリチウム二次電池10は、IoTデバイスの他、スマートキー、RFIDタグ、ウェアラブル端末、多機能ソーラー腕時計、メモリバックアップ電源、車載用分散電源等の用途にも好適に用いられる。なお、本明細書において「IoT」とは物のインターネット(Internet of Things)の略であり、「IoTデバイス」とはインターネットに接続されて特定の機能を呈するあらゆるデバイスを意味するものとする。もっとも、上述のとおり、本発明のリチウム二次電池は、コイン形電池に限定されず、他の形態の電池であってもよい。例えば、リチウム二次電池は、カードに内蔵可能な薄型二次電池であってもよい。
【0016】
正極層12は、コバルト含有リチウム複合酸化物焼結体で構成される。正極層12が焼結体で構成されるということは、正極層12がバインダーや導電助剤を含んでいないことを意味する。これは、グリーンシートにバインダーが含まれていたとしても、焼成時にバインダーが消失又は焼失するからである。そして、正極層12がバインダーを含まないことで、電解液22による正極の劣化を回避できるとの利点がある。なお、焼結体を構成するコバルト含有リチウム複合酸化物は、コバルト酸リチウム(典型的にはLiCoO(以下、LCOと略称することがある))であるのが特に好ましい。様々なコバルト含有リチウム複合酸化物焼結体板ないしLCO焼結体板が知られており、例えば特許文献1(特許第5587052号公報)や特許文献2(国際公開第2017/146088号)に開示されるものを参考にすることができる。
【0017】
正極層12を構成するコバルト含有リチウム複合酸化物焼結体は、助剤として、ホウ素又はストロンチウムを含む。リチウム複合酸化物焼結体がホウ素を含有する場合、ホウ素の含有量は、リチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量(これを100mol%とする)に対して0.05~2.0mol%であり、好ましくは0.1~2.0mol%であり、より好ましくは0.2~1.8mol%、さらに好ましくは0.3~1.5mol%、特に好ましくは0.4~1.0mol%である。リチウム複合酸化物焼結体がストロンチウムを含有する場合、ストロンチウムの含有量は、リチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量(これを100mol%とする)に対して0.05~1.2mol%であり、好ましくは0.1~1.2mol%であり、より好ましくは0.2~1.0mol%、さらに好ましくは0.3~0.8mol%、特に好ましくは0.4~0.7mol%である。なお、ホウ素及びストロンチウムの両方を含有させてもよい。このような範囲内でホウ素及び/又はストロンチウムを含有させることで、ホウ素又はストロンチウムの添加による反りの低減を効果的に実現するとともに、これらの元素の過剰添加による電池容量の低下を回避することができる。すなわち、電池性能(特に放電容量)と一体焼結体板の反りの抑制とを両立をより効果的に実現することができる。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、正極層12、すなわちリチウム複合酸化物焼結体板は、リチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、複数の一次粒子が正極層の層面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向正極層である。図2に配向正極層12の層面に垂直な断面SEM像の一例を示す一方、図3に配向正極層12の層面に垂直な断面における電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)像を示す。また、図4に、図3のEBSD像における一次粒子11の配向角度の分布を面積基準で示すヒストグラムを示す。図3に示されるEBSD像では、結晶方位の不連続性を観測することができる。図3では、各一次粒子11の配向角度が色の濃淡で示されており、色が濃いほど配向角度が小さいことを示している。配向角度とは、各一次粒子11の(003)面が層面方向に対して成す傾斜角度である。図2及び3において、配向正極層12の内部で黒表示されている箇所は気孔である。なお、図2~4に示される配向正極層12は助剤を含まないサンプルに関する画像ないしデータであるが、本発明で規定する範囲内の含有比率で助剤(ホウ素又はストロンチウム)を含む場合であっても上記サンプルと同様の配向状態が実現される。
【0019】
配向正極層12は、互いに結合された複数の一次粒子11で構成された配向焼結体である。各一次粒子11は、主に板状であるが、直方体状、立方体状及び球状などに形成されたものが含まれていてもよい。各一次粒子11の断面形状は特に制限されるものではなく、矩形、矩形以外の多角形、円形、楕円形、或いはこれら以外の複雑形状であってもよい。
【0020】
各一次粒子11はコバルト含有リチウム複合酸化物で構成される。コバルト含有リチウム複合酸化物とは、少なくともコバルトとリチウムを含む複合酸化物であり、LiMO(0.05<x<1.10であり、Mは少なくともCoを含む1種類以上の遷移金属であり、MはCoの他に、Ni及び/又はMnを含んでもよい)で表される酸化物であることが好ましい。リチウム複合酸化物は層状岩塩構造を有する。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち酸化物イオンを介して遷移金属イオン層とリチウム単独層とが交互に積層した結晶構造(典型的にはα-NaFeO型構造、すなわち立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。コバルト含有リチウム複合酸化物の例としては、LiCoO(コバルト酸リチウム)、LiNiCoO(ニッケル・コバルト酸リチウム)、LiCoNiMnO(コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム)、LiCoMnO(コバルト・マンガン酸リチウム)等が挙げられ、特に好ましくはLiCoO(コバルト酸リチウム、典型的にはLiCoO)である。コバルト含有リチウム複合酸化物には、助剤としてのB及び/又はSrがさらに含まれていてもよいし、他の元素としてF、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Y,Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Bi、及びWから選択される1種以上の元素がさらに含まれていてもよい。また、上記組成は正極層12の全体にわたって均一であってもよいし、表面に偏在している状態であってもよい。このような元素を含むことで電池性能(例えば高温耐久性や保存性能等)の改善が見込まれる。
【0021】
図3及び4に示されるように、各一次粒子11の配向角度の平均値、すなわち平均配向角度は0°超30°以下である。これにより、以下の様々な利点がもたらされる。第一に、各一次粒子11が厚み方向に対して傾斜した向きに寝た状態になるため、各一次粒子同士の密着性を向上させることができる。その結果、ある一次粒子11と当該一次粒子11の長手方向両側に隣接する他の一次粒子11との間におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができるため、レート特性を向上させることができる。第二に、レート特性をより向上させることができる。これは、上述のとおり、リチウムイオンの出入りに際して、配向正極層12では、層面方向よりも厚み方向における膨張収縮が優勢となるため、配向正極層12の膨張収縮がスムーズになるところ、それに伴ってリチウムイオンの出入りもスムーズになるからである。第三に、リチウムイオンの出入りに伴う配向正極層12の膨張収縮が層面と垂直な方向に優勢となるため、配向正極層12とセラミックセパレータ20との接合界面での応力が発生しにくくなり、当該界面での良好な結合を維持しやすくなる。
【0022】
一次粒子11の平均配向角度は、以下の手法によって得られる。まず、図3に示されるような、95μm×125μmの矩形領域を1000倍の倍率で観察したEBSD像において、配向正極層12を厚み方向に四等分する3本の横線と、配向正極層12を層面方向に四等分する3本の縦線とを引く。次に、3本の横線と3本の縦線のうち少なくとも1本の線と交差する一次粒子11すべての配向角度を算術平均することによって、一次粒子11の平均配向角度を得る。一次粒子11の平均配向角度は、レート特性の更なる向上の観点から、30°以下が好ましく、より好ましくは25°以下である。一次粒子11の平均配向角度は、レート特性の更なる向上の観点から、2°以上が好ましく、より好ましくは5°以上である。
【0023】
図4に示されるように、各一次粒子11の配向角度は、0°から90°まで広く分布していてもよいが、その大部分は0°超30°以下の領域に分布していることが好ましい。すなわち、配向正極層12を構成する配向焼結体は、その断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子11のうち配向正極層12の層面に対する配向角度が0°超30°以下である一次粒子11(以下、低角一次粒子という)の合計面積が、断面に含まれる一次粒子11(具体的には平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11)の総面積に対して70%以上であるのが好ましく、より好ましくは80%以上である。これにより、相互密着性の高い一次粒子11の割合を増加させることができるため、レート特性をより向上させることができる。また、低角一次粒子のうち配向角度が20°以下であるものの合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の総面積に対して50%以上であることがより好ましい。さらに、低角一次粒子のうち配向角度が10°以下であるものの合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の総面積に対して15%以上であることがより好ましい。
【0024】
各一次粒子11は、主に板状であるため、図2及び3に示されるように、各一次粒子11の断面はそれぞれ所定方向に延びており、典型的には略矩形状となる。すなわち、配向焼結体は、その断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子11のうちアスペクト比が4以上である一次粒子11の合計面積が、断面に含まれる一次粒子11(具体的には平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11)の総面積に対して70%以上であるのが好ましく、より好ましくは80%以上である。具体的には、図3に示されるようなEBSD像において、これにより、一次粒子11同士の相互密着性をより向上することができ、その結果、レート特性をより向上させることができる。一次粒子11のアスペクト比は、一次粒子11の最大フェレー径を最小フェレー径で除した値である。最大フェレー径は、断面観察した際のEBSD像上において、一次粒子11を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最大距離である。最小フェレー径は、EBSD像上において、一次粒子11を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最小距離である。
【0025】
配向焼結体を構成する複数の一次粒子の平均粒径が5μm以上であるのが好ましい。具体的には、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の平均粒径が、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは12μm以上である。これにより、リチウムイオンが伝導する方向における一次粒子11同士の粒界数が少なくなって全体としてのリチウムイオン伝導性が向上するため、レート特性をより向上させることができる。一次粒子11の平均粒径は、各一次粒子11の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各一次粒子11と同じ面積を有する円の直径のことである。
【0026】
正極層12は気孔を含んでいるのが好ましい。焼結体が気孔、特に開気孔を含むことで、正極層として電池に組み込まれた場合に、電解液を焼結体の内部に浸透させることができ、その結果、リチウムイオン伝導性を向上することができる。これは、焼結体内におけるリチウムイオンの伝導は、焼結体の構成粒子を経る伝導と、気孔内の電解液を経る伝導の2種類があるところ、気孔内の電解液を経る伝導の方が圧倒的に速いためである。
【0027】
正極層12、すなわちリチウム複合酸化物焼結体は気孔率が20~60%であるのが好ましく、より好ましくは25~55%、さらに好ましくは30~50%、特に好ましくは30~45%である。気孔による応力開放効果、気孔による電解液の内部浸透によるリチウムイオン伝導性の向上、及び高容量化が期待できるとともに、一次粒子11同士の相互密着性をより向上できるため、レート特性をより向上させることができる。焼結体の気孔率は、正極層の断面をCP(クロスセクションポリッシャ)研磨にて研磨した後に1000倍率でSEM観察して、得られたSEM画像を2値化することで算出される。配向焼結体の内部に形成される各気孔の平均円相当径は特に制限されないが、好ましくは8μm以下である。各気孔の平均円相当径が小さいほど、一次粒子11同士の相互密着性をさらに向上することができ、その結果、レート特性をさらに向上させることができる。気孔の平均円相当径は、EBSD像上の10個の気孔の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各気孔と同じ面積を有する円の直径のことである。配向焼結体の内部に形成される各気孔は、正極層12の外部につながる開気孔であるのが好ましい。
【0028】
正極層12、すなわちリチウム複合酸化物焼結体の平均気孔径は0.1~10.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.2~5.0μm、さらに好ましくは0.25~3.0μmである。上記範囲内であると、大きな気孔の局所における応力集中の発生を抑制して、焼結体内における応力が均一に開放されやすくなる。また、気孔による電解液の内部浸透によるリチウムイオン伝導性の向上をより効果的に実現することができる。
【0029】
正極層12の厚さは60~600μmであるのが好ましく、より好ましくは60~500μm、さらに好ましくは70~400μmである。このような範囲内であると、単位面積当りの活物質容量を高めてリチウム二次電池10のエネルギー密度を向上するとともに、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に抵抗値の上昇)を抑制できる。
【0030】
負極層16は、チタン含有焼結体で構成される。チタン含有焼結体は、チタン酸リチウムLiTi12(以下、LTO)又はニオブチタン複合酸化物NbTiOを含むのが好ましく、より好ましくはLTOを含む。なお、LTOは典型的にはスピネル型構造を有するものとして知られているが、充放電時には他の構造も採りうる。例えば、LTOは充放電時にLiTi12(スピネル構造)とLiTi12(岩塩構造)の二相共存にて反応が進行する。したがって、LTOはスピネル構造に限定されるものではない。LTOはその一部が他の元素で置換されてもよく、そのような他元素の例としては、Nb、Ta、W、Al、Mg等が挙げられる。
【0031】
負極層16が焼結体で構成されるということは、負極層16がバインダーや導電助剤を含んでいないことを意味する。これは、グリーンシートにバインダーが含まれていたとしても、焼成時にバインダーが消失又は焼失するからである。負極層にはバインダーが含まれないため、負極活物質(例えばLTO又はNbTiO)の充填密度が高くなることで、高容量や良好な充放電効率を得ることができる。LTO焼結体は、特許文献3(特開2015-185337号公報)に記載される方法に従って製造することができる。
【0032】
負極層16、すなわちチタン含有焼結体は、複数の(すなわち多数の)一次粒子が結合した構造を有している。したがって、これらの一次粒子がLTO又はNbTiOで構成されるのが好ましい。
【0033】
負極層16の厚さは、70~800μmが好ましく、より好ましくは70~700μm、さらに好ましくは85~600μm、特に好ましくは95~500μmである。負極層16が厚いほど、高容量及び高エネルギー密度の電池を実現しやすくなる。負極層16の厚さは、例えば、負極層16の断面をSEM(走査電子顕微鏡)によって観察した場合における、略平行に観察される層面間の距離を測定することで得られる。
【0034】
負極層16を構成する複数の一次粒子の平均粒径である一次粒径は1.2μm以下が好ましく、より好ましくは0.02~1.2μm、さらに好ましくは0.05~0.7μmである。このような範囲内であるとリチウムイオン伝導性及び電子伝導性を両立しやすく、レート性能の向上に寄与する。
【0035】
負極層16は気孔を含んでいるのが好ましい。焼結体が気孔、特に開気孔を含むことで、負極層として電池に組み込まれた場合に、電解液を焼結体の内部に浸透させることができ、その結果、リチウムイオン伝導性を向上することができる。これは、焼結体内におけるリチウムイオンの伝導は、焼結体の構成粒子を経る伝導と、気孔内の電解液を経る伝導の2種類があるところ、気孔内の電解液を経る伝導の方が圧倒的に速いためである。
【0036】
負極層16の気孔率は20~60%が好ましく、より好ましくは30~55%、さらに好ましくは35~50%である。このような範囲内であるとリチウムイオン伝導性及び電子伝導性を両立しやすく、レート性能の向上に寄与する。
【0037】
負極層16の平均気孔径は0.08~5.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1~3.0μm、さらに好ましく0.12~1.5μmである。このような範囲内であるとリチウムイオン伝導性及び電子伝導性を両立しやすく、レート性能の向上に寄与する。
【0038】
セラミックセパレータ20は、セラミック製の微多孔膜である。セラミックセパレータ20は、耐熱性に優れるのは勿論のこと、正極層12及び負極層16と一緒に全体として1つの一体焼結体板として製造できるとの利点がある。セラミックセパレータ20に含まれるセラミックはMgO、Al、ZrO、SiC、Si、AlN、及びコーディエライトから選択される少なくとも1種であるのが好ましく、より好ましくはMgO、Al、及びZrOから選択される少なくとも1種であり、さらに好ましくはMgOである。MgOとすることで、正極層12及び負極層16の成分がセラミックセパレータ20へと拡散して、正極層12、負極層16及びセラミックセパレータ20の組成が変化するのを抑制できるという利点がある。セラミックセパレータ20の厚さは3~50μmであるのが好ましく、より好ましくは5~40μm、さらに好ましくは5~35μm、特に好ましくは10~30μmである。セラミックセパレータ20の気孔率は30~85%が好ましく、より好ましくは40~80%である。
【0039】
セラミックセパレータ20は、正極層12及び負極層16との接着性向上の観点から、ガラス成分を含有してもよい。この場合、セラミックセパレータ20に占めるガラス成分の含有割合はセラミックセパレータ20の全体重量に対して0.1~50重量%が好ましく、より好ましくは0.5~40重量%、さらに好ましくは0.5~30重量%である。このガラスはSiOを好ましくは25重量%以上、より好ましくは30~95重量%、さらに好ましくは40~90重量%、特に好ましくは50~80重量%含む。セラミックセパレータ20へのガラス成分の添加はセラミックセパレータの原料粉末にガラスフリットを添加することにより行われるのが好ましい。ガラスフリットはSiO以外の成分として、Al、B及びBaOのいずれか一つ以上を含むのが好ましい。もっとも、セラミックセパレータ20と、正極層12及び負極層16との所望の接着性が確保できるのであれば、セラミックセパレータ20におけるガラス成分の含有は特に必要とされない。
【0040】
電解液22は特に限定されず、有機溶媒(例えばエチレンカーボネート(EC)及びメチルエチルカーボネート(MEC)の混合溶媒、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒、あるいはエチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒)の非水溶媒中にリチウム塩(例えばLiPF)塩を溶解させた液等、リチウム電池用の市販の電解液を使用すればよい。
【0041】
耐熱性に優れたリチウム二次電池とする場合には、電解液22は、非水溶媒中にホウフッ化リチウム(LiBF)を含むものが好ましい。この場合、好ましい非水溶媒は、γ-ブチロラクトン(GBL)、エチレンカーボネート(EC)及びプロピレンカーボネート(PC)からなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはEC及びGBLからなる混合溶媒、PCからなる単独溶媒、PC及びGBLからなる混合溶媒、又はGBLからなる単独溶媒であり、特に好ましくはEC及びGBLからなる混合溶媒又はGBLからなる単独溶媒である。非水溶媒はγ-ブチロラクトン(GBL)を含むことで沸点が上昇し、耐熱性の大幅な向上をもたらす。かかる観点から、EC及び/又はGBL含有非水溶媒におけるEC:GBLの体積比は0:1~1:1(GBL比率50~100体積%)であるのが好ましく、より好ましくは0:1~1:1.5(GBL比率60~100体積%)、さらに好ましくは0:1~1:2(GBL比率66.6~100体積%)、特に好ましくは0:1~1:3(GBL比率75~100体積%)である。非水溶媒中に溶解されるホウフッ化リチウム(LiBF)は分解温度の高い電解質であり、これもまた耐熱性の大幅な向上をもたらす。電解液22におけるLiBF濃度は0.5~2mol/Lであるのが好ましく、より好ましくは0.6~1.9mol/L、さらに好ましくは0.7~1.7mol/L、特に好ましくは0.8~1.5mol/Lである。
【0042】
電解液22は添加剤としてビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)から選択される少なくとも1種をさらに含むものであってもよい。VC及びFECはいずれも耐熱性に優れる。したがって、かかる添加剤を電解液22が含むことで、耐熱性に優れたSEI膜を負極層16表面に形成させることができる。
【0043】
また、電解液22の代わりに、固体電解質又はポリマー電解質を用いてもよい(言い換えると、電解質として、電解液22以外に、固体電解質やポリマー電解質を用いることができる。)。その場合には、電解液22の場合と同様、少なくともセパレータ20の気孔内部に電解質が含浸されていることが好ましい。含浸方法は特に限定されないが、例として、電解質を溶融してセパレータ20の気孔内に浸入させる方法、電解質の圧粉体をセパレータ20に押し当てる方法等が挙げられる。
【0044】
外装体24は密閉空間を備え、この密閉空間内に正極層12、負極層16、セラミックセパレータ20及び電解液22が収容される。外装体24はリチウム二次電池10のタイプに応じて適宜選択すればよい。例えば、リチウム二次電池が図1に示されるようなコイン形電池の形態の場合、外装体24は、典型的には、正極缶24a、負極缶24b及びガスケット24cを備え、正極缶24a及び負極缶24bがガスケット24cを介してかしめられて密閉空間を形成している。正極缶24a及び負極缶24bはステンレス鋼等の金属製であることができ、特に限定されない。ガスケット24cはポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、PFA樹脂等の絶縁樹脂製の環状部材であることができ、特に限定されない。
【0045】
また、リチウム二次電池がカードに内蔵可能なチップ電池の形態の場合、外装体が樹脂基材であり、電池要素(すなわち正極層12、負極層16、セラミックセパレータ20及び電解液22)が樹脂基材内に埋設されるのが好ましい。例えば、電池要素が1対の樹脂フィルムに挟み込まれたものであってもよく、樹脂フィルム同士が接着剤で貼り合わされていたり、加熱プレスで樹脂フィルム同士が熱融着されているのが好ましい。
【0046】
リチウム二次電池10は、正極集電体14及び/又は負極集電体18をさらに備えているのが好ましい。正極集電体14及び負極集電体18は特に限定されないが、好ましくは銅箔やアルミニウム箔等の金属箔である。正極集電体14は正極層12と外装体24(例えば正極缶24a)との間に配置されるのが好ましく、負極集電体18は負極層16と外装体24(例えば負極缶24b)との間に配置されるのが好ましい。また、正極層12と正極集電体14との間には接触抵抗低減の観点から正極側カーボン層13が設けられるのが好ましい。同様に、負極層16と負極集電体18との間には接触抵抗低減の観点から負極側カーボン層17が設けられるのが好ましい。正極側カーボン層13及び負極側カーボン層17はいずれも導電性カーボンで構成されるのが好ましく、例えば導電性カーボンペーストをスクリーン印刷等により塗布することにより形成すればよい。
【0047】
一体焼結体板の製造方法
正極層12、セラミックセパレータ20及び負極層16の3層構成の一体焼結体板はいかなる方法で製造されたものであってもよいが、好ましくは、(1)3層の各々に対応するグリーンシートを作製し、(2)これらのグリーンシートを積層して圧着及び焼成を施すことにより製造される。
【0048】
(1)各種グリーンシートの作製
(1a)正極グリーンシートの作製
正極グリーンシートとしてのリチウム複合酸化物含有グリーンシートの作製は以下のように行うことができる。まず、リチウム複合酸化物で構成される原料粉末を用意する。この粉末は、LiMOなる組成(Mは前述したとおりである)の合成済みの板状粒子(例えばLiCoO板状粒子)を含むのが好ましい。原料粉末の体積基準D50粒径は0.3~30μmが好ましい。例えば、LiCoO板状粒子の作製方法は次のようにして行うことができる。まず、Co原料粉末とLiCO原料粉末とを混合して焼成(500~900℃、1~20時間)することによって、LiCoO粉末を合成する。得られたLiCoO粉末をポットミルにて体積基準D50粒径0.2μm~10μmに粉砕することによって、板面と平行にリチウムイオンを伝導可能な板状のLiCoO粒子が得られる。このようなLiCoO粒子は、LiCoO粉末スラリーを用いたグリーンシートを粒成長させた後に解砕する手法や、フラックス法や水熱合成、融液を用いた単結晶育成、ゾルゲル法など板状結晶を合成する手法によっても得ることができる。得られたLiCoO粒子は、劈開面に沿って劈開しやすい状態となっている。LiCoO粒子を解砕によって劈開させることで、LiCoO板状粒子を作製することができる。
【0049】
上記板状粒子を単独で原料粉末として用いてもよいし、上記板状粉末と他の原料粉末(例えばCo粒子)との混合粉末を原料粉末として用いてもよい。後者の場合、板状粉末を配向性を与えるためのテンプレート粒子として機能させ、他の原料粉末(例えばCo粒子)をテンプレート粒子に沿って成長可能なマトリックス粒子として機能させるのが好ましい。この場合、テンプレート粒子とマトリックス粒子を100:0~3:97に混合した粉末を原料粉末とするのが好ましい。Co原料粉末をマトリックス粒子として用いる場合、Co原料粉末の体積基準D50粒径は特に制限されず、例えば0.1~1.0μmとすることができるが、LiCoOテンプレート粒子の体積基準D50粒径より小さいことが好ましい。このマトリックス粒子は、Co(OH)原料を500℃~800℃で1~10時間熱処理を行なうことによっても得ることができる。また、マトリックス粒子には、Coのほか、Co(OH)粒子を用いてもよいし、LiCoO粒子を用いてもよい。
【0050】
原料粉末がLiCoOテンプレート粒子100%で構成される場合、又はマトリックス粒子としてLiCoO粒子を用いる場合、焼成により、大判(例えば90mm×90mm平方)でかつ平坦なLiCoO焼結体層を得ることができる。そのメカニズムは定かではないが、焼成過程でLiCoOへの合成が行われないため、焼成時の体積変化が生じにくい若しくは局所的なムラが生じにくいことが予想される。
【0051】
原料粉末には、助剤として、ホウ素化合物粉末又はストロンチウム化合物粉末を添加及び混合粉砕して、混合粉末とする。助剤として用いるホウ素化合物及びストロンチウム化合物は、焼成後にホウ素及びストロンチウム以外の望ましくない不純物を残さないものが好ましい。ホウ素化合物の好ましい例としては、HBO、B、LiBO、及びLiBOが挙げられ、より好ましくはHBOである。ストロンチウム化合物の好ましい例としては、SrCO、SrO、Sr(NO)、SrSO、及びSr(OH)が挙げられ、より好ましくはSrOである。ホウ素化合物粉末の添加量は、一体焼結体板とした場合に正極層を構成するリチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量に対するホウ素の含有比率が0.05~2.0mol%となるような量とすればよい。また、ストロンチウム化合物粉末の添加量は、一体焼結体板とした場合に正極層を構成するリチウム複合酸化物焼結体のコバルト含有量に対するストロンチウムの含有比率が0.05~1.2mol%となるような量とすればよい。
【0052】
得られた混合粉末を、分散媒及び各種添加剤(バインダー、可塑剤、分散剤等)と混合してスラリーを形成する。スラリーには、後述する焼成工程中における粒成長の促進ないし揮発分の補償の目的で、LiMO以外のリチウム化合物(例えば炭酸リチウム)が0.5~30mol%程度過剰に添加されてもよい。スラリーには造孔材を添加しないのが望ましい。スラリーは減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000~10000cPに調整するのが好ましい。得られたスラリーをシート状に成形してリチウム複合酸化物及び助剤を含有するグリーンシートを得る。シート成形は、原料粉末中の板状粒子(例えばテンプレート粒子)にせん断力を印加可能な成形手法を用いて行われるのが好ましい。こうすることで、一次粒子の平均傾斜角をシート面に対して0°超30°以下にすることができる。板状粒子にせん断力を印加可能な成形手法としては、ドクターブレード法が好適である。リチウム複合酸化物及び助剤を含有するグリーンシートの厚さは、焼成後に上述したような所望の厚さとなるように、適宜設定すればよい。また、グリーンシートは1枚で所望の厚さとなるように成形してもよいし、複数枚を積層して所望の厚さとしてもよい。特に、厚さが300μmを超える場合には複数枚のグリーンシートを積層する方が工法上好ましい。
【0053】
(1b)負極グリーンシートの作製
負極グリーンシートとしてのチタン含有グリーンシートはいかなる方法で製造されたものであってもよい。例えば、LTO含有グリーンシートの作製は以下のように行うことができる。まず、チタン酸リチウムLiTi12で構成される原料粉末(LTO粉末)を用意する。原料粉末は市販のLTO粉末を使用してもよいし、新たに合成してもよい。例えば、チタンテトライソプロポキシアルコールとイソプロポキシリチウムの混合物を加水分解して得た粉末を用いてもよいし、炭酸リチウム、チタニア等を含む混合物を焼成してもよい。原料粉末の体積基準D50粒径は0.05~5.0μmが好ましく、より好ましくは0.1~2.0μmである。原料粉末の粒径が大きいと気孔が大きくなる傾向がある。また、原料粒径が大きい場合、所望の粒径となるように粉砕処理(例えばポットミル粉砕、ビーズミル粉砕、ジェットミル粉砕等)を行ってもよい。そして、原料粉末を、分散媒及び各種添加剤(バインダー、可塑剤、分散剤等)と混合してスラリーを形成する。スラリーには、後述する焼成工程中における粒成長の促進ないし揮発分の補償の目的で、LiMO以外のリチウム化合物(例えば炭酸リチウム)が0.5~30mol%程度過剰に添加されてもよい。スラリーには造孔材を添加しないのが望ましい。スラリーは減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000~10000cPに調整するのが好ましい。得られたスラリーをシート状に成形してLTO含有グリーンシートを得る。シート成形は、周知の様々な方法で行いうるが、ドクターブレード法により行うのが好ましい。LTO含有グリーンシートの厚さは、焼成後に上述したような所望の厚さとなるように、適宜設定すればよい。
【0054】
(1c)セパレータグリーンシートの作製
セパレータグリーンシートの作製は以下のように行うことができる。まず、MgO、Al、ZrO、SiC、Si、AlN、及びコーディエライトから選択される少なくとも1種のセラミック粉末を用意する。このセラミック粉末にはガラスフリットを添加させてもよい。原料粉末の体積基準D50粒径は0.05~20μmが好ましく、より好ましくは0.1~10μmである。原料粉末の粒径が大きいと気孔が大きくなる傾向がある。また、原料粒径が大きい場合、所望の粒径となるように粉砕処理(例えばポットミル粉砕、ビーズミル粉砕、ジェットミル粉砕等)を行ってもよい。そして、原料粉末を、分散媒及び各種添加剤(バインダー、可塑剤、分散剤等)と混合してスラリーを形成する。スラリーは減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000~10000cPに調整するのが好ましい。得られたスラリーをシート状に成形してセパレータグリーンシートを得る。シート成形は、周知の様々な方法で行いうるが、ドクターブレード法により行うのが好ましい。セパレータグリーンシートの厚さは、焼成後に上述したような所望の厚さとなるように、適宜設定すればよい。
【0055】
(2)グリーンシートの積層、圧着及び焼成
次いで、正極グリーンシート、セパレータグリーンシート及び負極グリーンシートを順に積み重ね、得られた積層体をプレスしてグリーンシート同士を圧着する。プレスは公知の手法により行えばよく特に限定されないが、CIP(冷間等方圧加圧法)により行われるのが好ましい。好ましいプレス圧は10~5000kgf/cmであり、より好ましくは50~3000kgf/cmである。こうして圧着されたグリーンシート積層体を打ち抜き型で所望の形状(例えばコイン形やチップ形)ないしサイズに打ち抜くのが好ましい。こうすることで、最終形態の一体焼結体板においては正極層12及び負極層16間のずれを無くすことができる。その結果、正極層12の端面と負極層16の端面が揃うので、電池の容量を最大化できる。
【0056】
得られたグリーンシート積層体をセッターに載置する。セッターはセラミックス製であり、好ましくはジルコニア製又はマグネシア製である。セッターにはエンボス加工が施されているのが好ましい。こうしてセッター上に載置されたグリーンシートを鞘に入れる。鞘もセラミックス製であり、好ましくはアルミナ製である。そして、この状態で、所望により脱脂した後、焼成することで、一体焼結体板が得られる。脱脂は300~600℃で0.5~20時間保持することにより行われるのが好ましい。また、焼成は650~900℃で0.01~20時間行うのが好ましく、より好ましくは700~850℃で0.5~10時間である。焼成時の昇温速度は50~1500℃/hが好ましく、より好ましくは200~1300℃/hである。特に、この昇温速度は、600~900℃の昇温過程で採用されるのが好ましく、より好ましくは600~800℃の昇温過程で採用される。こうして、正極層12、セラミックセパレータ20及び負極層16の3層構成の一体焼結体板が得られる。なお、前述したグリーンシート積層体の段階で打ち抜き処理を施していない場合、最終形態の一体焼結体板においては正極層12及び負極層16間のずれが発生しうる。この場合は、一体焼結体板の端面を、レーザ加工、切削、研磨等の手法により仕上げ加工して、上記ずれを最小化又は無くすようにするのが好ましい。その結果、正極層12の端面と負極層16の端面が揃うので、電池の容量を最大化できる。
【実施例
【0057】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の例において、LiCoOを「LCO」と略称し、LiTi12を「LTO」と略称するものとする。
【0058】
例A1~A12
(1)LCOグリーンシート(正極グリーンシート)の作製
まず、Li/Coのモル比が1.01となるように秤量されたCo粉末(正同化学工業株式会社製)とLiCO粉末(本荘ケミカル株式会社製)を混合後、780℃で5時間保持し、得られた粉末をポットミルにて体積基準D50が0.4μmとなるように粉砕してLCO板状粒子からなる粉末を得た。このとき、例A2~A7については、B系助剤として、HBO(関東化学株式会社製)を、Co含有量100mol%に対するBの含有比率(mol%)が、表1に示される値となるように添加及び混合粉砕してLCO混合粉末を得た。同様に、例A8~A12については、Sr系助剤として、SrO(キシダ化学株式会社製)を、Co含有量100mol%に対するSrの含有比率(mol%)が、表1に示される値となるように添加及び混合粉砕してLCO混合粉末を得た。なお、このときのCoに対するB又はSrに対する含有比率は、一体焼結体板とした場合に正極層を構成するリチウム複合酸化物焼結体にも同様に当てはまる。
【0059】
得られたLCO粉末(例A1)又はLCO混合粉末(例A2~A12)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LCOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LCOグリーンシートを形成した。LCOグリーンシートの厚さは、焼成後の厚さが60μmになるようにした。
【0060】
(2)LTOグリーンシート(負極グリーンシート)の作製
まず、LTO粉末(体積基準D50粒径0.06μm、シグマアルドリッチジャパン合同会社製)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた負極原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LTOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LTOグリーンシートを形成した。LTOグリーンシートの厚さは、焼成後の厚さが70μmになるようにした。
【0061】
(3)MgOグリーンシート(セパレータグリーンシート)の作製
炭酸マグネシウム粉末(神島化学工業株式会社製)を900℃で5時間熱処理してMgO粉末を得た。得られたMgO粉末とガラスフリット(日本フリット株式会社製、CK0199)を重量比4:1で混合した。得られた混合粉末(体積基準D50粒径0.4μm)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、スラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、セパレータグリーンシートを形成した。セパレータグリーンシートの厚さは、焼成後の厚さが25μmになるようにした。
【0062】
(4)積層、圧着及び焼成
LCOグリーンシート(正極グリーンシート)、MgOグリーンシート(セパレータグリーンシート)及びLTOグリーンシート(負極グリーンシート)を順に積み重ね、得られた積層体をCIP(冷間等方圧加圧法)により200kgf/cmでプレスしてグリーンシート同士を圧着した。こうして圧着された積層体を打ち抜き型で直径10mmの円板状に打ち抜いた。得られた円板状積層体を600℃で5時間脱脂した後、1000℃/hで800℃まで昇温して10分間保持する焼成を行い、その後冷却した。こうして、正極層(LCO焼結体層)12、セラミックセパレータ(MgOセパレータ)20及び負極層(LTO焼結体層)16の3層を含む1つの一体焼結体板を得た。
【0063】
(5)リチウム二次電池の作製
図1に模式的に示されるようなコイン形リチウム二次電池10を以下のとおり作製した。
【0064】
(5a)負極層と負極集電体の導電性カーボンペーストによる接着
アセチレンブラックとポリイミドアミドを質量比で3:1となるように秤量し、溶剤としての適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とともに混合して、導電性カーボンペーストを導電性接着剤として調製した。負極集電体としてのアルミニウム箔上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した。未乾燥の印刷パターン(すなわち導電性カーボンペーストで塗布された領域)内に負極層16が収まるように上記(4)で作製した一体焼結体を載置し、60℃で30分間真空乾燥させることで、負極層16と負極集電体18とが負極側カーボン層17を介して接着された構造体を作製した。なお、負極側カーボン層17の厚さは10μmとした。
【0065】
(5b)カーボン層付き正極集電体の準備
アセチレンブラックとポリイミドアミドを質量比で3:1となるように秤量し、溶剤としての適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とともに混合して、導電性カーボンペーストを調製した。正極集電体14としてのアルミニウム箔上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した後、60℃で30分間真空乾燥させることで、表面に正極側カーボン層13が形成された正極集電体14を作製した。なお、正極側カーボン層13の厚さは5μmとした。
【0066】
(5c)コイン形電池の組立
電池ケースを構成することになる正極缶24aと負極缶24bとの間に、正極缶24aから負極缶24bに向かって、正極集電体14、正極側カーボン層13、一体焼結体板(LCO正極層12、MgOセパレータ20及びLTO負極層16)、負極側カーボン層17、並びに負極集電体18がこの順に積層されるように収容し、電解液22を充填した後に、ガスケット24cを介して正極缶24aと負極缶24bをかしめることによって封止した。こうして、直径12mm、厚さ1.0mmのコインセル形のリチウム二次電池10を作製した。このとき、電解液22としては、エチレンカーボネート(EC)及びγ-ブチロラクトン(GBL)を1:3の体積比で混合した有機溶媒に、LiBFを1.5mol/Lの濃度となるように溶解させた液を用いた。
【0067】
(6)評価
上記(4)で合成されたLCO焼結体層(正極層)12、LTO焼結体層(負極層)16及びMgOセパレータ(セラミックセパレータ)20の3層を含む1つの一体焼結体板、並びに上記(5)で作製されたコイン形リチウム二次電池10について、以下に示されるとおり各種の評価を行った。
【0068】
<放電容量>
電池の放電容量を以下の手順で測定した。すなわち、2.7Vで定電圧充電した後、放電レート0.2Cで放電することにより初期容量の測定を行い、得られた初期容量を放電容量として採用した。
【0069】
<反り量>
一体焼結体板の反りの量を測定すべく、図5に示されるように、凸面を成す正極層12が上向きに(凹面を成す負極層16が下向きに)なるように一体焼結板板を水平面Hに載置し、負極層16の凹面の水平面H基準で最も高い位置Tから水平面Hにまで垂線Pを引いた場合における、垂線Pの長さを反り量(μm)として測定した。この反り量は、ワンショット3D形状測定機(株式会社キーエンス製、VR3000)により測定した。反り量が50μm以下の場合を合格と判定した。なお、図5とは異なり、負極層16が凸面を成す(正極層12が凹面を成す)反りの場合には、凸面を成す負極層16が上向きに(凹面を成す正極層12が下向きに)なるように一体焼結板板を水平面Hに載置して上記同様の手法により測定した。
【0070】
評価結果
表1に例A1~A12の評価結果を示す。
【0071】
【表1】
【0072】
以下、一体焼結体板を用いた電池(ただしLCO焼結体層(正極層)には助剤を添加していない)が、一体焼結板板を用いない組み立て型の電池よりも優れた性能を示すための参考例ないし比較例を示す。
【0073】
例B1(参考)
例A1と同様にして一体焼結体板及び電池を作製し、以下に示されるとおり各種の評価を行った。
【0074】
<一次粒子の平均配向角度>
LCO焼結体層をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた正極層断面(正極層の層面に垂直な断面)を1000倍の視野(125μm×125μm)でEBSD測定して、EBSD像を得た。このEBSD測定は、ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型式JSM-7800F)を用いて行った。得られたEBSD像において特定される全ての粒子について、一次粒子の(003)面と正極層の層面とがなす角度(すなわち(003)からの結晶方位の傾き)を傾斜角として求め、それらの角度の平均値を一次粒子の平均配向角度とした。
【0075】
<層厚>
LCO及びLTO焼結体層並びにMgOセパレータをクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた断面をSEM観察(日本電子製、JSM6390LA)して正極層、負極層及びセパレータの各々の厚さを測定した。
【0076】
<気孔率>
LCO又はLTO焼結体層並びにMgOセパレータをクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた正極層又は負極層の断面を1000倍の視野(125μm×125μm)でSEM観察(日本電子製、JSM6390LA)した。得られたSEM像を画像解析し、全ての気孔の面積を正極又は負極の面積で除し、得られた値に100を乗じることにより気孔率(%)を算出した。
【0077】
<平均気孔径>
水銀ポロシメーター(島津製作所製、オートポアIV9510)を用いて水銀圧入法によりLCO又はLTO焼結体層の平均気孔径を測定した。
【0078】
<正負極面積ずれ率>
電池における正極層及び負極層の面積ずれ率を算出した。具体的には、正極層及び負極層が重なりあう領域の面積Spn、正極層が負極層からはみ出した領域の面積S、及び負極層が正極層からはみ出した領域の面積Sをそれぞれ測定し、[(S+S)/Spn]×100の式に基づき、正負極面積ずれ率(%)を算出した。なお、Spn、S及びSの測定及び算出は、3D形状測定機(キーエンス社製、VR3000)を用いてサンプル両面から形状測定を行うことにより行った。
【0079】
<放電容量/理論容量比>
電池の放電容量を以下の手順で測定した。すなわち、2.7Vで定電圧充電した後、放電レート0.2Cで放電することにより初期容量の測定を行い、得られた初期容量を放電容量として採用した。次いで、放電容量を理論容量で除して100を乗じることにより、放電容量/理論容量比(%)を得た。
【0080】
なお、電池の理論容量は以下の手順で算出した。まず、一体焼結体板の各層の面積を形状測定により算出し、かつ、一体焼結体板の各層の厚み及び空隙率を断面SEMより算出し、得られた値から正極層及び負極層の実効体積を算出した。正極層及び負極層の各構成材料の真比重をJIS規格R1634に基づき算出し、正極層及び負極層の重量値を計算した。こうして得られた活物質重量に材料の重量当たりの容量(電池便覧に記載される)を乗じることで、正極層及び負極層の各々の理論容量値を計算し、その低い方の値を電池の理論容量値として採用した。
【0081】
<パルスサイクル容量維持率>
電池のパルスサイクル容量維持率(定電圧充電サイクル性能)を以下の手順で測定した。まず、2.7Vで定電圧充電した後、放電レート0.2Cで放電することにより初期容量を測定した。次いで、2.7Vでの定電圧充電と20mAの電流を0.5秒流す放電を100回行うことを含む充放電サイクルを合計100サイクル実施した。最後に、2.7Vで定電圧充電した後、0.2Cで放電することにより、サイクル後容量を測定した。測定されたサイクル後容量を初期容量で除して100を乗じることにより、パルスサイクル容量維持率(%)を得た。
【0082】
例B2(参考)
1)正極層の厚さが100μmとなるようにLCOグリーンシートを厚くしたこと、及び2)負極層の厚さが120μmとなるようにLTOグリーンシートを厚くしたこと以外は例B1と同様にして、一体焼結体板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0083】
例B3(参考)
1)正極層の厚さが200μmとなるようにLCOグリーンシートを厚くしたこと、及び2)負極層の厚さが240μmとなるようにLTOグリーンシートを厚くしたこと以外は例B1と同様にして、一体焼結体板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0084】
例B4(参考)
1)正極層の厚さが400μmとなるようにLCOグリーンシートを厚くしたこと、及び2)負極層の厚さが480μmとなるようにLTOグリーンシートを厚くしたこと以外は例B1と同様にして、一体焼結体板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0085】
例B5(参考)
正極層の平均気孔径を0.25μmに調整したこと以外は例B4と同様にして、一体焼結体板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0086】
例B6(比較)
(1)正極板の作製
(1a)LCOグリーンシートの作製
まず、Li/Coのモル比が1.01となるように秤量されたCo粉末(正同化学工業株式会社製)とLiCO粉末(本荘ケミカル株式会社製)を混合後、780℃で5時間保持し、得られた粉末をポットミルにて体積基準D50が0.4μmとなるように粉砕及び解砕してLCO板状粒子からなる粉末Aを得た。得られたLCO粉末(すなわち粉末A)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LCOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LCOグリーンシートを形成した。乾燥後のLCOグリーンシートの厚さは220μmであった。
【0087】
(1b)LCO焼結体板の作製
PETフィルムから剥がしたLCOグリーンシートをカッターで50mm角に切り出し、下部セッターとしてのマグネシア製セッター(寸法90mm角、高さ1mm)の中央に載置した。LCOシートの上に上部セッターとしての多孔質マグネシア製セッターを載置した。上記LCOシートをセッターで挟んだ状態で、120mm角のアルミナ鞘(株式会社ニッカトー製)内に載置した。このとき、アルミナ鞘を密閉せず、0.5mmの隙間を空けて蓋をした。得られた積層物を昇温速度200℃/hで600℃まで昇温して3時間脱脂した後に、820℃まで200℃/hで昇温して20時間保持することで焼成を行った。焼成後、室温まで降温させた後に焼成体をアルミナ鞘より取り出した。こうして厚さ200μmのLCO焼結体板を正極板として得た。得られた正極板を、レーザー加工機で直径10mmの円形状に切断して、正極板を得た。
【0088】
(2)負極板の作製
(2a)LTOグリーンシートの作製
まず、LTO粉末(体積基準D50粒径0.06μm、シグマアルドリッチジャパン合同会社製)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた負極原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LTOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LTOグリーンシートを形成した。乾燥後のLTOグリーンシートの厚さは焼成後の厚さが240μmとなるような値とした。
【0089】
(2b)LTOグリーンシートの焼成
得られたグリーンシートを25mm角にカッターナイフで切り出し、エンボス加工されたジルコニア製セッター上に載置した。セッター上のグリーンシートをアルミナ製鞘に入れて500℃で5時間保持した後に、昇温速度200℃/hにて昇温し、765℃で5時間焼成を行なった。得られたLTO焼結体板を、レーザー加工機で直径10.5mmの円形状に切断して、負極板を得た。
【0090】
(3)コイン形リチウム二次電池の作製
図1に模式的に示されるようなコイン形リチウム二次電池10を以下のとおり作製した。
【0091】
(3a)負極板と負極集電体の導電性カーボンペーストによる接着
アセチレンブラックとポリイミドアミドを質量比で3:1となるように秤量し、溶剤としての適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とともに混合して、導電性カーボンペーストを調製した。負極集電体としてのアルミニウム箔上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した。未乾燥の印刷パターン(すなわち導電性カーボンペーストで塗布された領域)内に収まるように上記(2)で作製した負極板を載置し、60℃で30分間真空乾燥させることで、負極板と負極集電体とがカーボン層を介して接合された負極構造体を作製した。なお、カーボン層の厚さは10μmとした。
【0092】
(3b)カーボン層付き正極集電体の準備
アセチレンブラックとポリイミドアミドを質量比で3:1となるように秤量し、溶剤としての適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とともに混合して、導電性カーボンペーストを調製した。正極集電体としてのアルミニウム箔上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した後、60℃で30分間真空乾燥させることで、表面にカーボン層が形成された正極集電体を作製した。なお、カーボン層の厚さは5μmとした。
【0093】
(3c)コイン形電池の組立
電池ケースを構成することになる正極缶と負極缶との間に、正極缶から負極缶に向かって、正極集電体、カーボン層、LCO正極板、セルロースセパレータ、LTO負極板、カーボン層、及び負極集電体がこの順に積層されるように収容し、電解液を充填した後に、ガスケットを介して正極缶と負極缶をかしめることによって封止した。こうして、直径12mm、厚さ1.0mmのコインセル形のリチウム二次電池10を作製した。このとき、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)及びγ-ブチロラクトン(GBL)を1:3の体積比で混合した有機溶媒に、LiBFを1.5mol/Lの濃度となるように溶解させた液を用いた。
【0094】
(4)評価
上記(1b)で合成されたLCO焼結体板(正極板)、上記(2b)で合成されたLTO焼結体板(負極板)、及び上記(3)で作製されたコイン形リチウム二次電池について、例B1と同様にして一次粒子の平均配向角度、層厚、気孔率、平均気孔径、正負極面積ずれ率、放電容量/理論容量比、及びパルスサイクル容量維持率の評価を行った。
【0095】
評価結果
表2及び3に例B1~B6の評価結果を示す。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5