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特許7193628低ADCC/CDC機能性モノクローナル抗体、及びその調製方法と使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】低ADCC/CDC機能性モノクローナル抗体、及びその調製方法と使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20221213BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20221213BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20221213BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221213BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221213BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20221213BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221213BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20221213BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12P21/08
C12N5/10
C07K19/00
A61K39/395 T
A61P35/00
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2021521872
(86)(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 CN2019094928
(87)【国際公開番号】W WO2020007368
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】201910376852.3
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201810738565.8
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201810924249.X
(32)【優先日】2018-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521007388
【氏名又は名称】北京天成新脉生物技▲術▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼ ▲楽▼
(72)【発明者】
【氏名】李 茂▲華▼
(72)【発明者】
【氏名】任 文林
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-538273(JP,A)
【文献】Oncotarget,2017年,Vol.8,p.90215-90224
【文献】Scientific reports,2016年,6:35297, DOI:10.1038/srep35297,p.1-8
【文献】PNAS,2017年,E4223-E4232,DOI:10.1073/pnas.1617941114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
C07K 16/28
C12P 21/08
C07K 16/46
C12N 15/63
C12N 1/21
C12N 5/10
C07K 19/00
A61K 39/395
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリジナルのIgG1サブクラス抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域との間一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入すること;
前記挿入された一定の長さの柔軟なアミノ酸配列が、抗体の可変領域の抗原への結合によって生じるメカニカルストレスの伝達を遮断し、抗体の重鎖の定常領域とFc受容体および/または補体との結合部位を十分に露出させず、抗体と、NK細胞、マクロファージ及び好中球といったIgG Fc受容体を発現するキラー細胞との結合または補体との結合を弱め、ADCCとCDCを誘導できないようにするか、又はADCCとCDCを誘導するシグナルを低減すること
前記柔軟なアミノ酸配列が、両端のドメインの空間的コンフォメーションが相互に干渉することを防止または低減するための、側鎖の小さいアミノ酸からなる一定の長さのC-ペプチドであり、その配列が、GGSGGS、GSGGSGG、GSGGSGGG、GGGGSGGG、GSGSG、GGSGG、GGS、GGSGSおよびGGGSからなること;並びに
前記オリジナルのIgG1サブクラス抗体が、PD-L1、PD-1又はCTLA4抗体であること
を特徴とする、IgG1サブクラス抗体のADCC/CDC機能を低減又は除去する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により調製されるモノクローナル抗体であることを特徴とする、低ADCC/CDC機能性モノクローナル抗体。
【請求項3】
前記モノクローナル抗体が、キメラ型モノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、完全ヒト型モノクローナル抗体、二重特異性抗体又は融合タンパク質であることを特徴とする、請求項に記載の低ADCC/CDC機能性モノクローナル抗体。
【請求項4】
前記モノクローナル抗体が、PD-L1、PD-1又はCTLA4のモノクローナル抗体であることを特徴とする、請求項又はに記載の低ADCC/CDC機能性モノクローナル抗体。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体が、オリジナルのIgG1サブクラス抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に、一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入して得られるものであり、前記柔軟なアミノ酸配列が、両端のドメインの空間的コンフォメーションによる相互干渉を防止または低減するための、側鎖の小さいアミノ酸からなる一定の長さのC-ペプチドであり、その配列が、GGSGGS、GSGGSGG、GSGGSGGG、GGGGSGGG、GSGSG、GGSGG、GGS、GGSGSおよびGGGSからなり、IgG1サブクラス抗体のADCC/CDC機能の低減又は除去の目的を達成する、請求項に記載の低ADCC/CDC機能性モノクローナル抗体。
【請求項6】
IgG1サブクラス抗体のADCC/CDC機能の低減又は除去における、柔軟なアミノ酸配列の使用であって、
前記柔軟なアミノ酸配列が、オリジナルのIgG1抗体の重鎖のCDR3とCH2との間に挿入されること;
前記柔軟なアミノ酸配列が、GGSGGS、GSGGSGG、GSGGSGGG、GGGGSGGG、GSGSG、GGSGG、GGS、GGSGSおよびGGGSからなること;並びに
前記IgG1サブクラス抗体が、PD-L1、PD-1又はCTLA4抗体であること
を特徴とする、使用。
【請求項7】
前記柔軟なアミノ酸配列の挿入部位が、GG(138/139)、SS(177/178)、SG(178/179)、SS(184/185)、SSS(191/192/193)、LL(235/236)、GG(237/238)を含むが、これらに限定されるものではないことを特徴とする、請求項に記載の使用。
【請求項8】
オリジナルのモノクローナル抗体Atezolizumabの重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に、一定の長さの柔軟なアミノ酸配列が挿入され、抗体の可変領域の抗原への結合によって生じるメカニカルストレスの伝達が遮断され、モノクローナル抗体の重鎖の定常領域とFc受容体および/または補体との結合部位が十分に露出せず、モノクローナル抗体と、NK細胞、マクロファージ及び好中球といったIgG Fc受容体を発現するキラー細胞との結合または補体との結合が弱められ、ADCCとCDCを誘導できなくなり、又はADCCとCDCを誘導するシグナルが低減されたこと;並びに、前記柔軟なアミノ酸配列が、GGSGGS、GSGGSGG、GSGGSGGG、GGGGSGGG、GSGSG、GGSGG、GGS、GGSGSおよびGGGSからなることを特徴とする、低ADCC/CDC機能性抗PD-L1モノクローナル抗体。
【請求項9】
オリジナルのモノクローナル抗体Atezolizumabの重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に、一定の長さの柔軟なアミノ酸配列が挿入され、抗体の抗原への結合によって生じる抗体の可変領域と定常領域との間のストレスの伝達が遮断され、前記オリジナルのモノクローナル抗体Atezolizumabの重鎖の全長のアミノ酸配列が、配列番号1が示すとおりであり、その軽鎖の全長のアミノ酸配列が、配列番号2が示すとおりであることを特徴とする、請求項に記載の低ADCC/CDC機能性抗PD-L1モノクローナル抗体。
【請求項10】
軽鎖の全長に、配列番号2が示すアミノ酸配列が含まれ、重鎖の全長に、配列番号3~4のいずれかが示すアミノ酸配列が含まれることを特徴とする、請求項に記載の低ADCC/CDC機能性抗PD-L1モノクローナル抗体。
【請求項11】
請求項10のいずれか一項に記載の低ADCC/CDC機能性抗PD-L1モノクローナル抗体をコードする遺伝子。
【請求項12】
発現カセット、発現ベクター、人工細菌又は細胞である、請求項11に記載の遺伝子を含む生物学的材料。
【請求項13】
請求項11に記載の遺伝子または請求項12に記載の生物学的材料の下記のいずれかの使用。
(1)PD-L1又はPD-1を標的とする疾患を治療する医薬品の調製における使用、
(2)腫瘍又は免疫力変性疾患を治療する医薬品の調製における使用。
【請求項14】
請求項10のいずれか一項に記載の低ADCC/CDC機能性抗PD-L1モノクローナル抗体の下記のいずれかの使用。
(1)PD-L1又はPD-1を標的とする疾患を治療する医薬品の調製における使用、
(2)腫瘍を治療する医薬品の調製における使用、
(3)免疫力変性疾患を治療する医薬品の調製における使用、
(4)腫瘍又は免疫力変性疾患を治療する医薬品の調製における使用。
【請求項15】
請求項10のいずれか一項に記載の低ADCC/CDC機能性抗PD-L1モノクローナル抗体を含む医薬品又は検出試薬。
【請求項16】
オリジナルのモノクローナル抗体Pembrolizumabの重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に、一定の長さの柔軟なアミノ酸配列が挿入され、抗体の可変領域の抗原への結合によって生じるメカニカルストレスの伝達が遮断され、モノクローナル抗体の重鎖の定常領域とFc受容体および/または補体との結合部位が十分に露出せず、モノクローナル抗体と、NK細胞、マクロファージ及び好中球といったIgG Fc受容体を発現するキラー細胞との結合または補体との結合が弱められ、ADCCとCDCを誘導できなくなり、又はADCCとCDCを誘導するシグナルが低減されたこと;並びに、前記柔軟なアミノ酸配列が、GGSGGS、GSGGSGG、GSGGSGGG、GGGGSGGG、GSGSG、GGSGG、GGS、GGSGSおよびGGGSからなることを特徴とする、低ADCC/CDC機能性抗PD-1モノクローナル抗体。
【請求項17】
オリジナルのモノクローナル抗体Pembrolizumabの重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に、一定の長さの柔軟なアミノ酸配列が挿入され、抗体の抗原への結合によって生じる抗体の可変領域と定常領域との間のストレスの伝達が遮断され、前記オリジナルのモノクローナル抗体Pembrolizumabの重鎖の全長のアミノ酸配列が、配列番号5が示すとおりであり、軽鎖の全長のアミノ酸配列が、配列番号6が示すとおりであることを特徴とする、請求項16に記載のモノクローナル抗体。
【請求項18】
軽鎖の全長に、配列番号6が示すアミノ酸配列が含まれ、重鎖の全長に、配列番号7が示すアミノ酸配列が含まれることを特徴とする、請求項16に記載のモノクローナル抗体。
【請求項19】
請求項1618のいずれか一項に記載の低ADCC/CDC機能性抗PD-1モノクローナル抗体をコードする遺伝子。
【請求項20】
発現カセット、発現ベクター、人工細菌又は細胞である、請求項19に記載の遺伝子を含む生物学的材料。
【請求項21】
請求項19に記載の遺伝子または請求項20に記載の生物学的材料の下記のいずれかの使用。
(1)PD-L1又はPD-1を標的とする疾患を治療する医薬品の調製における使用、
(2)腫瘍又は免疫力変性疾患を治療する医薬品の調製における使用。
【請求項22】
請求項1618のいずれか一項に記載の低ADCC/CDC機能性抗PD-1モノクローナル抗体の下記のいずれかの使用。
(1)PD-L1又はPD-1を標的とする疾患を治療する医薬品の調製における使用、
(2)腫瘍を治療する医薬品の調製における使用、
(3)免疫力変性疾患を治療する医薬品の調製における使用、
(4)腫瘍又は免疫力変性疾患を治療する医薬品の調製における使用。
【請求項23】
請求項1618のいずれか一項に記載の低ADCC/CDC機能性抗PD-1モノクローナル抗体を含む医薬品又は検出試薬。
【請求項24】
オリジナルのモノクローナル抗体Ipilimumabの重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に、一定の長さの柔軟なアミノ酸配列が挿入され、抗体の可変領域の抗原への結合によって生じるメカニカルストレスの伝達が遮断され、モノクローナル抗体の重鎖の定常領域とFc受容体および/または補体との結合部位が十分に露出せず、モノクローナル抗体と、NK細胞、マクロファージ及び好中球といったIgG Fc受容体を発現するキラー細胞との結合または補体との結合が弱められ、ADCCとCDCを誘導できなくなり、又はADCCとCDCを誘導するシグナルが低減されたこと;並びに、前記柔軟なアミノ酸配列が、GGSGGS、GSGGSGG、GSGGSGGG、GGGGSGGG、GSGSG、GGSGG、GGS、GGSGSおよびGGGSからなることを特徴とする、低ADCC/CDC機能性抗CTLA-4モノクローナル抗体。
【請求項25】
オリジナルのモノクローナル抗体Ipilimumabの重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に、一定の長さの柔軟なアミノ酸配列が挿入され、抗体の抗原への結合によって生じる抗体の可変領域と定常領域との間のストレスの伝達が遮断され、前記オリジナルのモノクローナル抗体Ipilimumabの重鎖の全長のアミノ酸配列が、配列番号8が示すとおりであり、軽鎖の全長のアミノ酸配列が、配列番号9が示すとおりであることを特徴とする、請求項24に記載の低ADCC/CDC機能性抗CTLA-4モノクローナル抗体。
【請求項26】
軽鎖の全長に、配列番号9が示すアミノ酸配列が含まれ、重鎖の全長に、配列番号10が示すアミノ酸配列が含まれることを特徴とする、請求項25に記載の低ADCC/CDC機能性抗CTLA-4モノクローナル抗体。
【請求項27】
請求項2426のいずれか一項に記載の低ADCC/CDC機能性抗CTLA-4モノクローナル抗体をコードする遺伝子。
【請求項28】
発現カセット、発現ベクター、人工細菌又は細胞である、請求項27に記載の遺伝子を含む生物学的材料。
【請求項29】
請求項27に記載の遺伝子又は請求項28に記載の生物学的材料の下記のいずれかの使用。
(1)CTLA-4を標的とする疾患を治療する医薬品の調製における使用、
(2)腫瘍を治療する医薬品又は免疫力を向上させる医薬品の調製における使用。
【請求項30】
請求項2426のいずれか一項に記載の低ADCC/CDC機能性抗CTLA-4モノクローナル抗体の下記のいずれかの使用。
(1)CTLA-4を標的とする疾患を治療する医薬品の調製における使用、
(2)腫瘍を治療する医薬品の調製における使用、
(3)免疫力を強化させる医薬品の調製における使用、
(4)腫瘍細胞又は免疫力変性疾患を治療する医薬品の調製における使用。
【請求項31】
請求項2426のいずれか一項に記載の低ADCC/CDC機能性抗CTLA-4モノクローナル抗体を含む、医薬品又は検出試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本願は、2018年7月6日に出願された発明の名称が「低ADCC/CDC機能性抗PD-L1完全ヒト型モノクローナル抗体及びその使用」である中国特許出願第201810738565.8号、2018年8月14日に出願された発明の名称が「ヒトプログラムデスレセプターPD-1に対するIgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性抗体」である中国特許出願第201810924249.X号、及び、2019年5月7日に出願された発明の名称が「ヒトCTLA4に対するIgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性抗体」である中国特許出願第201910376852.3号に基づく優先権を主張するものであり、それらの開示内容全体を援用により本願に取り込む。
【0002】
本発明は、治療用抗体の調製及び使用に関するものであり、主に、低ADCC/CDC機能性モノクローナル抗体の使用、及び抗体のADCC/CDC等の機能を低下させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
抗体依存性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity,ADCC)とは、IgG Fc受容体を発現するNK細胞、マクロファージおよび好中球等が、標的細胞の表面に結合されたIgG抗体のFcフラグメントと結合することで、これらの標的細胞を殺傷する作用である。IgG抗体は、これらの細胞を媒介してADCC作用を発揮させることができるが、NK細胞は、ADCC作用を発揮できる主な細胞である。抗体が媒介するADCC作用の発生過程では、抗体は、標的細胞上の対応するエピトープにのみ特異的に結合できるが、NK細胞などのエフェクター細胞は、抗体に結合された任意の標的細胞を殺傷できるため、抗体と標的細胞上の抗原との結合は特異的であり、NK細胞などの標的細胞に対する殺傷効果は非特異的である。
【0004】
CDCは、補体系が活性化された後、標的細胞の表面にMACが形成されることにより標的細胞が溶解されることを意味し、このような効果は、補体依存性細胞障害と呼ばれる。補体は、さまざまな細菌やその他の病原性生物細胞の溶解を引き起こすことができ、病原性生物による感染に抵抗するための生体の重要な防御メカニズムである。特に、グラム陰性菌の感染予防において重要な役割を果たしている。場合によっては、補体系は、生体の組織や細胞の損傷を引き起こし、過敏症や自己免疫疾患の発病過程に関与できる。
【0005】
抗体医薬品の使用は、感染症や腫瘍に限らない。抗体の標的タンパク質への結合により誘導される不利なADCC機能とCDC機能を回避するため、現在採用されている主な方法として、抗体の重鎖に対して、グリコシル化部位におけるアミノ酸N(297)をAに変異させる脱グリコシル化変異、又は、抗体の重鎖をIgG2/4サブクラスに変更するものがある。しかしながら、抗体の重鎖の脱グリコシル化により、生成物中の多量体の含有量が高くなり過ぎてしまい、薬物の免疫原性が著しく向上し、患者に複数回投与した後、抗薬物抗体(ADA)の産生の発生率が高くなる。IgG2サブクラスの抗体は依然として、FcγRIIaへの結合により、単球が媒介するADCCおよびマクロファージが媒介するADCPを誘発できる。また、IgG2のヒンジ領域の上流部に余分なCys残基があるため、IgG2分子の立体配座と機能に影響を与えるジスルフィド結合異性体が形成される。抗体の重鎖をIgG4サブクラスに変更すると、IgG4サブクラスの抗体医薬品の重鎖は、血液において、自動的に他のヒトIgG4の重鎖と交換し、半分子で二重特異性の機能的に一価である抗体が形成される。同時に、IgG2/4サブクラスの抗体の半減期はIgG1サブクラスよりも有意に短くなっている。
【0006】
PD-1は、主に活性化されたT細胞とB細胞で発現し、その機能は免疫細胞の活性化を阻害することであり、これは免疫系の正常な自己安定化機構であり、過剰なT/B細胞の活性化が自己免疫疾患を引き起こすため、PD-1は、私たちの人体のお守りである。しかしながら、腫瘍微小環境により、浸潤T細胞によるPD-1分子の高度発現が誘導され、腫瘍細胞は、PD-1のリガンドであるPD-L1およびPD-L2を高度に発現する。そのため、腫瘍微小環境におけるPD-1経路が持続的に活性化され、T細胞の機能が阻害され、腫瘍細胞を殺傷できなくなる。
PD-1とPD-L1に対する抗体はいずれもこの経路を遮断し、T細胞の機能を部分的に回復させ、これらの細胞が腫瘍細胞を殺傷し続けられるようにすることができる。米国FDAは、2016年5月18日に、プラチナ含有化学療法を受ける間/受けた後、または、プラチナ含有化学療法のネオアジュバント療法/アジュバント療法を受けた12ヶ月以内に疾患が進行する局所進行性または転移性の尿路上皮がんの治療に用いられる、ジェネンテック(Genentech)社のAtezolizumab(商品名:Tecentriq)注射液を承認した。しかしながら、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)機能の誘導を回避するために、当該抗体医薬品は、抗体の重鎖に対して脱グリコシル化変異を行ったため、生成物中の多量体の含有量が高くなり過ぎてしまい、薬物の免疫原性が著しく向上し、患者に複数回投与した後、抗薬物抗体(ADA)の産生の発生率が41.5%にも達している。
【0007】
米国食品医薬品局(FDA)は、2014年9月4日に、他のものと反応しなくなった進行性または切除不能な黒色腫の治療に用いられる、米国メルク(Merck)社のPembrolizumab(商品名:Keytruda)の承認を加速した。米国食品医薬品局(FDA)は、2017年5月27日に、最初の複数種の癌の治療が可能な抗体医薬品である、マイクロサテライト不安定性を有する固形がんの治療に用いられるKeytrudaを承認した。当該抗体医薬品は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)機能の誘導を回避するために、FcγR受容体に対する親和性が弱く、補体を活性化する能力に欠けるIgG4サブクラスを使用した。IgG4サブクラス抗体自身にFabアーム交換が存在するため、半抗体または二重特異性抗体を形成する可能性があり、投薬の潜在的なリスクが高まり、また、IgG4サブクラス抗体の製造プロセスはIgG1サブクラス抗体ほど成熟していない(主に構造安定性、物理的・化学的特性、耐重合性、発現量などに現れる)。
【0008】
これは、臨床患者の使用にリスクと不便をもたらしており、同時に、薬の半減期も比較的に短く、使用過程でも、この不足を補うために薬の投与量を増やす必要がある。これに基づいて、抗体の親和性と特異性を影響することなく、抗体の定常領域を操作することで、抗体のADCC/CDC機能を低下させるとともに、抗体医薬品が大量な多量体を形成することを回避して抗体医薬品の免疫原性を低下させることができれば、一方ではモノクローナル抗体の安全性を向上させることができ、他方では、薬物の半減期を延ばすことができ、その投与量を減らしつつ治療効果を向上させることもできる。
【0009】
CD152とも呼ばれるCTLA-4は、活性化されたCD4+およびCD8+T細胞で発現する、CTLA-4遺伝子によってコードされる膜貫通型タンパク質であり、T細胞表面の補助刺激受容体(CD28)と高い相同性を有する。CTLA-4とCD28はいずれも免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、両者は、同じリガンドCD86(B7-2)とCD80(B7-1)に結合する。CTLA-4の免疫調節機能の鍵は、CD4+FoxP3-、CD8+T細胞および制御性T細胞(Treg)の制御にある。CTLA-4は、活性化されたT細胞の応答(T細胞応答、T cell response)を中止させることができ、そして、Tregの抑制機能を媒介できる。従来の研究により、CTLA-4が主に2つの経路を介してT細胞応答を阻害することが明らかとなった。その1つは、CD28と競合的にB7に結合して、又はCTLA-4の細胞内ドメインにホスファターゼを動員してTCR(T細胞受容体、T cell receptor)とCD28のシグナルを低減する経路である。もう1つは、抗原提示細胞(APC)でのCD80およびCD86の発現レベルを下げて、又はトランスエンドサイトーシス(transendocytosis)によってAPCからそれらを除去して、T細胞の活性化におけるCD28の関与を減らすことである。また、CTLA-4は、樹状細胞のCD80/CD86への結合も媒介し、トリプトファン分解酵素IDOの発現を誘導して、TCRの阻害を引き起こす。CTLA-4抗体は、CTLA-4に結合することにより、Tregを減少させ、TCRを活性化させる。
【0010】
米国食品医薬品局(FDA)は、2011年4月に、進行性黒色腫の治療に用いられる米国ブリストルマイヤーズスクイブ(Bristol-Myers Squibb,BMS)社のipilimumab(商品名:Yervoy)を承認し、それが市場に投入された最初の免疫チェックポイント阻害剤となった。しかし、その適応症が非常に少ないため、市場投入までの時間などでは1位を獲得したが、市場でより大きな割合を占めるPD-1/PD-L1関連の抗体医薬品に追い越され、PD-1/PD-L1の350億ドルの市場シェアに比べ、抗体医薬品Ipilimumabの2017年の年間売上高はわずか12億ドルであった。今まで、PD-1およびPD-L1に対する抗体の承認された適応症には、進行性黒色腫、頭頸部扁平上皮がん、非小細胞肺癌(NSCLC)、尿路上皮がん、ホジキンリンパ腫、メルケル細胞癌(Merkel’s cell carcinoma)およびマイクロサテライト不安定性(MSI-H)固形がんが含まれるが、CTLA-4抗体ipilimumabの適応症は、進行性黒色腫および高リスク再発性黒色腫に限られる。なお、PD-1抗体に比べ、ipilimumabは、進行性黒色腫の治療有効率が低いが、免疫関連副作用の発生率がより高い。これは、臨床患者の使用にリスクと不便をもたらしており、抗体医薬品の市場シェアと販売シェアを大幅に制限している。
現在、CTLA4抗体の主な推進方向は、複数の標的に対するより効果的な併用投与であり、例えば、IpilimumabとNivolumab(抗PD-1抗体)とを併用したところ、その抗腫瘍効果が大幅に増加する。そのため、併用投与の分野では、CTLA4抗体の多くの有名な抗体医薬品(PD-1抗体Nivolumab、PD-L1抗体Atezolizumabなど)との併用療法によりその市場シェアが効果的に拡大されている。しかしながら、半数以上の患者においてグレード3~4の重篤な副作用が現れ、抗CTLA-4抗体の研究開発と使用を制限する最も重要な要因になっている。
【0011】
CTLA4抗体Ipilimumabは強いADCC/CDC機能を有するIgG1サブクラスを使用しており、このような強いADCC効果は、免疫療法により誘導される副作用を引き起こし、これは主にFcRが媒介する腫瘍微小環境におけるTreg細胞の特異的な排除によって生じる。したがって、低ADCC/CDC活性抗体は、ADCCによる相応の副作用の発生率を効果的に減らすことができる。
【0012】
BMSのイピリムマブ(Ipilimumab)は、抗CTLA-4ヒトIgG1であり、3mg/kgの投与量で、3週間ごとに合計4回静脈内投与される。イピリムマブの副作用は非常に強く、単独投与の場合、患者の10~20%では、T細胞の過剰な活性化と繁殖により、重篤な副作用が発生し、死に至ることもある。ニボルマブとの併用により抗腫瘍効果は大幅に向上するが、半数以上の患者において、グレード3~4の重篤な副作用が現れる。重篤な副作用の場合、投与を永久に中止する。イピリムマブが、CTLA-4シグナル伝達経路による免疫系の抑制を一時的に阻害するだけでなく、それ自身のADCC機能によって制御性T細胞も殺されてしまい、患者の免疫抑制調節がきっぱりと解除され、免疫系が過剰に活性化されてしまうことを見出した。イピリムマブに対してADCC/CDCをなくす操作を行うことで、先発医薬品の中和効果を保持するだけでなく、ADCCの毒性の副作用も除去できれば、免疫療法に関連する免疫毒性を大幅に軽減し、グレード3~4の重篤な副作用の発生率を顕著に低減でき、より安全になる。
今までは、アミノ酸配列を挿入することにより、抗体医薬品における多量体の含有量とその免疫原性を低減させることが報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の第一の目的は、抗体のADCC/CDC機能を低減する方法及びその使用を提供することである。
【0014】
本発明の第二の目的は、ADCC/CDCが低く、多量体が少なく、免疫原性が低い、抗PD-L1、抗PD-1および抗CTLA-4等の複数種のモノクローナル抗体を含む治療性抗体及びその使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記発明の目的を達成するために、本発明は、以下の技術案を採用する。
本発明は、オリジナルのIgG1抗体の重鎖の定常領域に一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入する、IgG1サブクラス抗体のADCC/CDC機能を低減又は除去する方法を提供する。
【0016】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、当該方法は、オリジナルのIgG1サブクラス抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に、一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入するものである。
【0017】
さらに、前記挿入された一定の長さの柔軟なアミノ酸配列は、抗体の可変領域の抗原への結合によって生じるメカニカルストレスの伝達を遮断し、抗体の重鎖の定常領域とFc受容体および/または補体との結合部位を十分に露出させず、抗体と、NK細胞、マクロファージ及び好中球といったIgG Fc受容体を発現するキラー細胞との結合または補体との結合を弱め、ADCCとCDCを誘導できないようにするか、又はADCCとCDCを誘導するシグナルを低減する。
【0018】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記IgG1抗体であるモノクローナル抗体は、PD-L1、PD-1、CTLA4、TNF-α、PCSK9、NGF、C5、Aβ、IL-6、IL-17A、IL23A、HGF、CMET、Notch1、CCL11、IL6R、IL-31R、IL-1B、IL-20、CD40、CD47、DKK1/2、TIGIT、4-1BB、IGF-1R、LL4、PDGFR2、HER3、IGF1/2、RANKL、sclerostin、GCGR、CGRP、ANGPTL3、IL-13、IL-4R、CSF-1R、TFPI、FCGRT、CD47抗体であり、例えば、モノクローナル抗体Atezolizumab、モノクローナル抗体Pembrolizumab、モノクローナル抗体Ipilimumab、モノクローナル抗体Eculizumab、モノクローナル抗体evolocumab、モノクローナル抗体erenumab、モノクローナル抗体fulranumab、モノクローナル抗体crenezumab、モノクローナル抗体brodalumab、モノクローナル抗体ixekizumab、モノクローナル抗体satralizumab、モノクローナル抗体gevokizumab、モノクローナル抗体denosumab、モノクローナル抗体blosozumab、モノクローナル抗体crotedumab、モノクローナル抗体fasinumab、モノクローナル抗体fremanezumab、モノクローナル抗体evinacumab、モノクローナル抗体lebrikizumab、モノクローナル抗体dupilumab、モノクローナル抗体cabiralizumab、モノクローナル抗体concizumab、モノクローナル抗体rozanolixizumab、モノクローナル抗体magrolimab等の抗体医薬品のIgG1サブクラスの改良型である。
【0019】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記柔軟なアミノ酸配列は、GGSGGS、GSGGSGG、GSGGSGGG、GGGGSGGG、GSGSG、GGSGG、GGS、GGSGSおよびGGGSを含むが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記柔軟なアミノ酸配列の挿入部位は、GG(138/139)、SS(177/178)、SG(178/179)、SS(184/185)、SSS(191/192/193)、LL(235/236)、GG(237/238)を含むが、これらに限定されるものではない。
【0021】
また、本発明は、抗体の安定性の向上/抗体の免疫原性の低下/抗体の半減期の延長における、柔軟なアミノ酸配列の使用を提供する。
【0022】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記柔軟なアミノ酸配列は、オリジナルのIgG1抗体の重鎖の定常領域に挿入される。
【0023】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記柔軟なアミノ酸配列は、オリジナルのIgG1抗体の重鎖のCDR3とCH2との間に挿入される。
【0024】
また、本発明は、抗PD-L1モノクローナル抗体を含む、ADCC/CDCが低く、多量体が少なく、免疫原性が低い治療用抗体を提供する。
【0025】
また、本発明は、抗PD-L1モノクローナル抗体を含む、ADCC/CDCが低く、多量体が少なく、免疫原性が低い治療用抗体の調製方法を提供する。
【0026】
本発明は、抗体のADCC/CDC誘導の作用機序に基づき、抗体の重鎖の定常領域に一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入することにより、抗体の可変領域の抗原への結合によって生じるメカニカルストレスの伝達を遮断し、抗体医薬品の重鎖の定常領域とFc受容体および/または補体との結合部位を十分に露出させず、抗体医薬品と、NK細胞、マクロファージ及び好中球等のIgG Fc受容体を発現するキラー細胞との結合または補体との結合を弱め、ADCCとCDCを誘導できないようにするか、又はADCCとCDCを誘導するシグナルを低減する。
【0027】
また、本発明は、ジェネンテック(Genentech)社の抗体医薬品Atezolizumabの、29番目のアミノ酸であるAを元のNに変異させてグリコシル化を回復した上で、IgG1抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入し、抗体の抗原への結合によって生じる抗体の可変領域と定常領域との間のストレスの伝達を遮断することにより、ADCC/CDC機能を低下させるとともに、多量体の形成を有意に増加させないことを達成する。
【0028】
本発明の低免疫原性の抗PD-L1モノクローナル抗体は、元のAtezolizumabの配列における非抗原結合部位に対してアミノ酸の操作を行い、その免疫原性を低下させたものであって、前記元のAtezolizumabの配列における重鎖の全長のアミノ酸配列と軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、2が示すとおりである。
【0029】
さらに、本発明で提供される低免疫原性の抗PD-L1モノクローナル抗体は、重鎖のアミノ酸配列が配列番号3又は4が示すとおりであり、軽鎖のアミノ酸配列が配列番号2が示すとおりである。
【0030】
本発明で提供される抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体は、軽鎖がL0(配列番号2)が示すとおりであり、重鎖の全長がH-1(配列番号3)、H-2(配列番号4)の2つの塩基配列に示されるいずれかの配列を備える。
【0031】
本発明は、上記の軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域を備える組み合わせから、スクリーニングにより2つのモノクローナル抗体の配列を得、当該抗体は、本来の、ヒトPD-L1に対する結合親和性を維持しながら、PD-1とPD-L1との結合を特異的に遮断でき、さらに、多量体の含有量も減少させている。これにより、免疫原性を効果的に低下させることができる。また、操作過程におけるADCC活性の検証結果により、本発明でスクリーニングにより得られた2つのモノクローナル抗体の配列のADCC活性が、元のAtezolizumabと一致していることが明らかとなっている。
【0032】
本発明で得られる2つの低免疫原性の抗PD-L1モノクローナル抗体は、それぞれ、H-1L0、H-2L0である。
【0033】
本発明は、PD-L1又はPD-1を標的とする疾患の治療における、上記モノクローナル抗体又は当該抗体を含む生物学的材料の使用を提供する。
【0034】
本発明は、腫瘍細胞の殺傷又は免疫力変性疾患の治療における、上記モノクローナル抗体又は当該抗体を含む生物学的材料の使用を提供する。
【0035】
前記生物学的材料は、発現カセット、発現ベクター、人工細菌又は細胞である。
【0036】
本発明は、疾患を治療する医薬品の調製における、上記2つの低免疫原性の抗PD-L1モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0037】
前記疾患は、腫瘍、免疫機能低下等である。
【0038】
本発明は、PD-L1を標的とする疾患を治療する医薬品の調製における、上記抗PD-L1モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0039】
前記医薬品は、抗腫瘍薬、免疫機能低下疾患の医薬品である。
【0040】
本発明は、上記抗PD-L1モノクローナル抗体を含有する医薬品又は検出試薬を提供する。
【0041】
本発明は、PD-L1又はPD-1を標的とする疾患の治療における、上記低ADCC/CDC機能性抗PD-L1モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0042】
本発明は、腫瘍細胞の殺傷又は免疫力変性疾患の治療における、上記低ADCC/CDC機能性抗PD-L1モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0043】
本発明の抗PD-L1モノクローナル抗体は、第2の治療剤または治療形態と組み合わせることができる。抗PD-L1抗体は、CTLA-4抗体またはCD47抗体の投与を含む癌治療と組み合わせることができる。組み合わせの非限定的な例には、メラノーマまたは非小細胞肺癌の治療における抗PD-L1抗体と抗CTLA-4抗体の併用が含まれる。
【0044】
本発明の抗PD-L1抗体を用いる治療は、化学療法と組み合わせることができる。細胞毒性薬を使用する化学療法は、癌細胞を死に至らしめることによって、腫瘍抗原の放出を増加させる。前記腫瘍抗原の増加の有効性は、抗PD-L1療法との相乗効果につながりうる。
【0045】
治療対象から癌細胞を除去するために、本発明のPD-L1モノクローナル抗体を用いる治療は、手術と組み合わせることができる。
【0046】
本発明の抗PD-L1抗体は、PD-L1遮断と相乗効果を発揮できる療法と組み合わせることができ、前記療法は、ホルモン除去または血管新生の阻害のための標的薬、または腫瘍細胞において活性を有するタンパク質を標的とする標的薬を含み、それらはいずれも、腫瘍の細胞死の増加と、免疫刺激性腫瘍抗原の有効性の向上につながる。
【0047】
本発明の抗PD-L1モノクローナル抗体は、癌または感染症を治療するための別の治療用抗体と組み合わせることができる。具体的な例としては、抗PD-L1抗体とPD-1またはCTLA-4を標的とする抗体との組み合わせがある。
【0048】
本発明は、以下のステップを含む、上記抗PD-L1モノクローナル抗体の調製方法を提供する。
(1)本発明は、PyMolソフトウェアを使用して、ジェネンテック(Genentech)社のAtezolizumabの構造を分析し、抗体の可変領域と定常領域との間で比較的柔軟な領域を探し、対応する領域に柔軟なアミノ酸配列を挿入し、対応する配列に対して遺伝子合成、シーケンスを実行し、シーケンスが正しい配列を選択する。
(2)本発明は、既知の抗体の重鎖のグリコシル化情報により、対応する修飾後の配列に対して全遺伝子合成を実行し、合成された遺伝子に対してシーケンスを実行するとともに、シーケンスが正しい配列を選択して次のステップを実行し、軽鎖の可変領域の酵素切断部位をKpn I+BamH Iとし、重鎖の可変領域の酵素切断部位をKpn I+Age Iとし、それぞれ、発現ベクターであるpJH16ベクターに接続し、それと同時に大腸菌DH5αを形質転換して、重鎖、軽鎖キメラ抗体の発現ベクターを得る。構築された抗体のシーケンスと配列の比較を同時に行う。
(3)上記の発現ベクターに対して、プラスミドの大量精製を行い、QiagenのEndoFree Plasmid Maxi Kitを選択する。
(4)選択されたプラスミドの組み合わせを最適化し、CHO細胞で一過性トランスフェクション発現を実行し、発現された抗体に対して親和性とEC50の検出を実行し(詳細は図2を参照)、検出結果により、組み合わせを選択して安定トランスフェクションを実行する。
(5)本発明では、以上の検出結果に基づいて、対応する組み合わせを選択し、エレクトロトランスフェクションにより安定株を構築し、同時に、MTXを用いて抗体の発現の程度をスクリーニングし、加圧後の安定株に対してモノクローナル抗体のスクリーニングを行い、最終的に抗体の収量の高い安定株を選択して、その後の実験に使用する。
(6)本発明によって作製されるモノクローナル抗体のマウス体内における免疫反応は、Atezolizumabより弱い。
【0049】
本発明で提供される抗PD-L1抗体とAtezolizumabは、PD-L1の同じ部位に対するものであるが、抗PD-L1抗体は、免疫原性と抗体の立体配座がAtezolizumaと異なり、Atezolizummabに比べて、安定性が著しく向上し、免疫原性が大幅に低下し、動物体内における薬物の半減期が長くなり、非常に理想的な生物学的な標的治療用抗体になることが有望視されている。本発明では、モノクローナル抗体Atezolizumabの定常領域の配列を操作することにより、当該抗体医薬品による患者体内の免疫原性の発生リスクを著しく低減させている。本発明の実施例により、本発明の改良型Atezolizumab抗体のPD-L1に対する結合親和性が元のAtezolizummabに近く、ADA感染価が著しく低下し、抗体医薬品の半減期が延長され、効果が向上したことが明らかとなった。
【0050】
また、本発明は、ヒトPD-1に対するIgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性モノクローナル抗体及び当該モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0051】
本発明は、抗体のADCC/CDC誘導の作用機序に基づき、オリジナルのモノクローナル抗体Pembrolizumabのアミノ酸配列を操作することで、抗体をIgG4サブクラスからIgG1サブクラスに変更し、IgG1抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入し、抗体の重鎖の定常領域とFc受容体および/または補体との結合部位を十分に露出させず、モノクローナル抗体と、NK細胞、マクロファージ及び好中球といったIgG Fc受容体を発現するキラー細胞との結合または補体との結合を弱め、ADCCとCDCを誘導できないようにするか、又はADCCとCDCを誘導するシグナルを低減する。前記オリジナルのモノクローナル抗体Pembrolizumabの重鎖の全長のアミノ酸配列は、配列番号5が示すとおりであり、軽鎖の全長のアミノ酸配列は、配列番号6が示すとおりである。
【0052】
さらに、本発明で提供されるIgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性PD-1モノクローナル抗体は、重鎖の全長に配列番号7が示すアミノ酸配列又は配列番号7が示すアミノ酸配列の変異体を含み、軽鎖の全長に配列番号6が示すアミノ酸配列又は配列番号6が示すアミノ酸配列の変異体を含む。
【0053】
上記のいずれの実施形態において、抗体の重鎖定常領域又はその変異体は、IgG1である。
【0054】
本発明の抗体では、IgG1抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に一定の長さの柔軟なアミノ酸配列が挿入され、抗体の抗原への結合によって生じる抗体の可変領域と定常領域との間のストレスの伝達が遮断され、ADCC/CDC機能を低下させるとともに、抗体の後の作製プロセスの開発の難度を下げ、抗体の耐重合性、発現量及び安定性を向上させることを達成している。
【0055】
具体的には、本発明で提供されるIgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性PD-1モノクローナル抗体は、軽鎖の全長のアミノ酸配列が、L0(配列番号6)が示すとおりであり、重鎖の全長のアミノ酸配列が、H1(配列番号7)が示す配列を有する。
本発明は、上記の軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域を備える組み合わせから、スクリーニングによりH2L0モノクローナル抗体の配列を得る。当該抗体は、本来の、ヒトPD-1に対する結合親和性を維持しながら、PD-1とPD-L1との結合を特異的に遮断でき、ADCC機能とCDC機能の活性を低減させる。そして、本発明のモノクローナル抗体は、IgG1サブクラスのモノクローナル抗体であるため、IgG4サブクラスであるオリジナルのモノクローナル抗体Pembrolizumabに比べて、生産プロセスがより成熟で、難度が低く、抗体の耐重合性、発現量及び安定性が全て向上している。
【0056】
本発明は、上記のいずれか一つのIgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性PD-1モノクローナル抗体の軽鎖と重鎖の遺伝子を含む発現ベクターを提供する。前記発現ベクターを含む宿主菌、宿主細胞又は発現カセットも、本発明の保護範囲内に含まれる。
本発明は、治療量の本発明の抗体を治療が必要な対象に投与することを含む、免疫細胞の活性を高める方法を提供する。前記方法は、癌の治療に使用でき、また、免疫力低下疾患の治療にも使用できる。本発明は、また、第2の治療剤又は治療形態をさらに与えることを含む。
【0057】
本発明は、また、免疫機能を高める医薬品の調製における、上記抗PD-1モノクローナル抗体の使用を含む。
【0058】
本発明の抗PD-1モノクローナル抗体は、第2の治療剤または治療形態と組み合わせることができる。抗PD-1抗体は、組換サイトカインの投与や免疫因子の分泌を含むがん治療と組み合わせることができる。組み合わせの非限定的な例には、メラノーマ又は腎細胞癌の治療における抗PD-1抗体と組換IL-2又は組換IFN2との併用が含まれる。組換IL-2は、がん患者体内のT細胞の発生を増加させる。組換IFN2は、治療を受ける患者においてがん細胞の成長を抑制するだけでなく、がん細胞、抗原提出細胞、およびその他の体細胞におけるPD-1の抑制性配位子の発現を向上させる。本発明の抗PD-1モノクローナル抗体は、癌または感染症の治療に使用できると考えられるその他のサイトカインと組み合わせることができる。
【0059】
本発明の抗PD-1モノクローナル抗体又は抗体断片は、ワクチンと組み合わせて、がんまたは感染症を予防または治療できる。非限定的な例として、抗PD-1モノクローナル抗体は、治療されるがんや感染に関する一種または複数種の抗原を含むタンパク質、ペプチドまたはDNAワクチン、若しくは、前記抗原により刺激された樹突細胞からなるワクチンと組み合わせることができる。本発明は、抗PD-1抗体の、(弱体化された)がん細胞又は全ウイルスワクチン(whole-virus vaccine)の用途を提供する。本発明は、抗PD-1治療法と、遺伝子工学による操作を経た、GM-CSFを分泌する全細胞がんワクチンとの組み合わせを提供する。
【0060】
本発明の抗PD-1モノクローナル抗体は、癌または感染症の看護基準とみなされる治療と組み合わせることができる。前記組み合わせの基本的な原理は、抗PD-1と同時に高められる免疫活性化作用が、介護治療基準の初期臨床症状を誘導又は促進し、長期的な臨床症状、及び疾患に対する長期的な免疫制御を誘導することである。
【0061】
本発明の抗PD-1抗体を用いる治療は、化学療法と組み合わせることができる。細胞毒性薬を使用する化学療法は、癌細胞を死に至らしめることによって、腫瘍抗原の放出を増加させる。前記腫瘍抗原の増加の有効性は、抗PD-1療法との相乗効果につながりうる。
【0062】
治療対象から癌細胞を除去するために、本発明のPD-1モノクローナル抗体を用いる治療は、手術と組み合わせることができる。
【0063】
本発明の抗PD-1抗体は、PD-1遮断と相乗効果を発揮できる療法と組み合わせることができ、前記療法は、ホルモン除去または血管新生の阻害のための標的薬、または腫瘍細胞において活性を有するタンパク質を標的とする標的薬を含み、それらはいずれも、腫瘍の細胞死の増加と、免疫刺激性腫瘍抗原の有効性の向上につながる。抗PD-1抗体と併用する場合、T細胞活性化作用の向上は、がんに対する持続的な免疫制御を引き起こしうる。
【0064】
本発明の抗PD-1モノクローナル抗体は、癌または感染症を治療するための別の治療用抗体と組み合わせることができる。具体的な例としては、抗PD-1抗体とHer2/neu又はEGF受容体を標的とする抗体との組み合わせ、抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体との組み合わせ、抗PD-1抗体又は抗体断片とOX40を標的とする抗体との組み合わせがある。
【0065】
本発明は、PD-L1又はPD-1を標的とする疾患の治療における、上記モノクローナル抗体又は当該モノクローナル抗体を含む生物学的材料の使用を提供する。
【0066】
本発明は、腫瘍細胞の殺傷又は免疫力変性疾患の治療における、上記モノクローナル抗体又は当該モノクローナル抗体を含む生物学的材料の使用を提供する。
【0067】
前記生物学的材料は、発現カセット、発現ベクター、人工細菌又は細胞である。
【0068】
本発明は、疾患を治療する医薬品又は免疫機能を向上させる医薬品の調製における、上記IgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性PD-1モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0069】
前記疾患は、腫瘍、免疫機能低下等である。
【0070】
本発明は、PD-L1を標的とする疾患を治療する医薬品の調製における、上記IgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性PD-1モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0071】
前記医薬品は、抗腫瘍薬、免疫機能低下疾患の医薬品である。
【0072】
本発明は、上記IgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性PD-1モノクローナル抗体を含む医薬品又は検出試薬を提供する。
【0073】
本発明は、PD-L1又はPD-1を標的とする疾患の治療における、上記IgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性PD-1モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0074】
本発明は、腫瘍細胞の殺傷又は免疫力変性疾患の治療における、上記IgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性PD-1モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0075】
本発明は、PyMolソフトウェアを使用して、米国メルク(Merck)社のPembrolizumabの構造を分析し、抗体をIgG4サブクラスからIgG1サブクラスに変更するとともに、IgG1抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入し、ADCC/CDC機能を低減させながら、抗体の後の作製プロセスの難度を下げ、抗体の耐重合性、発現量及び安定性を向上させ、IgG4サブクラスの重鎖置換特性による半抗体と二重特異性抗体の形成を回避することを達成している。本発明のモノクローナル抗体は、ヒトPD-L1に対する結合親和性が元のPembrolizumab抗体に近く、PD-1と細胞表面のPD-L1との結合を特異的に遮断し、抗体医薬品の半減期を延長させ、治療効果を高めることができ、臨床応用価値に優れる。
【0076】
また、本発明は、ヒトCTLA4に対する、IgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性モノクローナル抗体及び当該モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0077】
本発明は、抗体のADCC/CDC誘導の作用機序に基づき、オリジナルのモノクローナル抗体Ipilimumabのアミノ酸配列を操作することで、IgG1サブクラス抗体Ipilimumabの重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入し、抗体の重鎖の定常領域とFc受容体および/または補体との結合部位を十分に露出させず、モノクローナル抗体と、NK細胞、マクロファージ及び好中球といったIgG Fc受容体を発現するキラー細胞との結合または補体との結合を弱め、ADCCとCDCを誘導できないようにするか、又はADCCとCDCを誘導するシグナルを低減する。前記オリジナルのモノクローナル抗体Ipilimumabの重鎖の全長のアミノ酸配列は、配列番号8が示すとおりであり、軽鎖の全長のアミノ酸配列は、配列番号9が示すとおりである。
【0078】
本発明は、PyMolソフトウェアを使用して、米国ブリストルマイヤーズスクイブ(BMS)社のipilimumabの構造を分析し、IgG1抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入し、ADCC/CDC機能を低減させながら、抗体の治療における副作用を低減させ、抗体の耐重合性、発現量及び安定性を向上させることを達成している。本発明のモノクローナル抗体は、ヒトCTLA4に対する結合親和性が元のipilimumab抗体に近く、CTLA4とCD80及びCD86との結合を特異的に遮断し、抗体医薬品の治療における副作用を低減させ、抗体医薬品の治療効果を高めることができ、臨床応用価値に優れる。
【0079】
さらに、本発明で提供されるIgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性CTLA4モノクローナル抗体は、重鎖の全長に配列番号10が示すアミノ酸配列を含み、軽鎖の全長に配列番号9が示すアミノ酸配列を含む。
【0080】
上記のいずれの実施形態において、抗体の重鎖定常領域は、IgG1サブクラスである。
【0081】
本発明の抗体では、IgG1抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に一定の長さの柔軟なアミノ酸配列が挿入され、抗体の抗原への結合によって生じる抗体の可変領域と定常領域との間のストレスの伝達が遮断され、ADCC/CDC機能を低減させるとともに、抗体の後の作製プロセスの開発の難度を下げ、抗体の耐重合性、発現量及び安定性を向上させることを達成している。
【0082】
具体的には、本発明で提供されるIgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性CTLA4モノクローナル抗体は、軽鎖の全長のアミノ酸が、L0(配列番号9)が示すとおりであり、重鎖の全長のアミノ酸配列が、H1(配列番号10)の配列が示すとおりである。
【0083】
本発明では、H1L0モノクローナル抗体の配列をスクリーニングする。当該抗体は、本来の、ヒトCTLA4に対する結合親和性を維持しながら、CTLA4とその配位子との結合を特異的に遮断でき、さらに、ADCC機能とCDC機能の活性を低減させる。
【0084】
本発明は、上記のいずれか一つのIgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性CTLA4モノクローナル抗体の軽鎖と重鎖の遺伝子を含む発現ベクターを提供する。前記発現ベクターを含む宿主菌、宿主細胞又は発現カセットも、本発明の保護範囲内に含まれる。
【0085】
本発明は、治療量の本発明の抗体を治療が必要な対象に投与することを含む、免疫細胞の活性を高める方法を提供する。前記方法は、癌の治療に使用でき、また、免疫力低下疾患の治療にも使用できる。本発明は、また、第2の治療剤又は治療形態をさらに与えることを含む。
【0086】
本発明は、また、免疫機能を高める医薬品の調製における、上記抗CTLA4モノクローナル抗体の使用を含む。
【0087】
本発明の抗CTLA4モノクローナル抗体は、第2の治療剤または治療形態と組み合わせることができる。抗CTLA4抗体は、PD-1抗体又はPD-L1抗体を投与することを含むがん治療と組み合わせることができる。組み合わせの非限定的な例には、メラノーマまたは非小細胞肺癌の治療における、抗CTLA4抗体と抗PD-1抗体との併用が含まれる。
【0088】
本発明の抗CTLA4抗体を用いる治療は、化学療法と組み合わせることができる。細胞毒性薬を使用する化学療法は、癌細胞を死に至らしめることによって、腫瘍抗原の放出を増加させる。前記腫瘍抗原の有効性の増加は、抗CTLA4療法との相乗効果につながりうる。
【0089】
治療対象から癌細胞を除去するために、本発明のCTLA4モノクローナル抗体を用いる治療は、手術と組み合わせることができる。
【0090】
本発明の抗CTLA4抗体は、CTLA4遮断と相乗効果を発揮できる療法と組み合わせることができ、前記療法は、ホルモン除去または血管新生の阻害のための標的薬、または腫瘍細胞において活性を有するタンパク質を標的とする標的薬を含み、それらはいずれも、腫瘍の細胞死の増加と免疫刺激性腫瘍抗原の有効性の向上につながる。抗CTLA4抗体と併用する場合、T細胞活性化作用の向上は、がんに対する持続的な免疫制御を引き起こしうる。
【0091】
本発明の抗CTLA4モノクローナル抗体は、癌または感染症を治療するための別の治療用抗体と組み合わせることができる。具体的な例としては、抗CTLA4抗体と、PD-1又はPD-L1を標的とする抗体との組み合わせがある。
【0092】
本発明は、CTLA4を標的とする疾患の治療における、上記モノクローナル抗体又は当該モノクローナル抗体を含む生物学的材料の使用を提供する。
【0093】
本発明は、腫瘍細胞の殺傷又は免疫力変性疾患の治療における、上記モノクローナル抗体又は当該モノクローナル抗体を含む生物学的材料の使用を提供する。
【0094】
前記生物学的材料は、発現カセット、発現ベクター、人工細菌又は細胞である。
【0095】
本発明は、疾患を治療する医薬品又は免疫機能を向上させる医薬品の調製における、上記IgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性CTLA4モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0096】
前記疾患は、腫瘍、免疫機能低下等である。
【0097】
本発明は、CTLA4を標的とする疾患を治療する医薬品の調製における、上記IgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性CTLA4モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0098】
前記医薬品は、抗腫瘍薬、免疫機能低下疾患の医薬品である。
【0099】
本発明は、PD-L1又はPD-1を標的とする疾患の治療における、上記IgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性CTLA4モノクローナル抗体の併用を提供する。
本発明は、腫瘍細胞の殺傷又は免疫力変性疾患の治療における、上記IgG1サブクラスの低ADCC/CDC機能性CTLA4モノクローナル抗体の使用を提供する。
【0100】
以上、本発明の抗体のADCC/CDC機能を低減させる方法によれば、多量体の形成を有意に増加させることなく、ADCC/CDC機能を低減させることができる。操作後のモノクローナル抗体とオリジナルのモノクローナル抗体とは同一部位に対するものであって、いずれもADCC機能が除去されたが、抗体の立体配座が異なり、操作後のモノクローナル抗体は、安定性が著しく向上し、免疫原性が著しく低下し、半減期が長くなり、ADCC/CDC機能による副反応が効果的に回避され、治療効果が向上し、臨床応用価値に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1】本発明の操作後のPD-L1モノクローナル抗体(H-1L0)と元の抗体Atezolizumabの重鎖の配列のアライメント結果を示す図である。
図2】本発明の操作後のPD-L1モノクローナル抗体と元の抗体Atezolizumabの親和性の評価結果を示す図である。横軸は抗体の濃度(M)であり、縦軸は450nmでの吸光度である。
図3】本発明の操作後の2つのPD-L1モノクローナル抗体(H-1L0、H-2L0)と元の抗体AtezolizumabのADCC活性実験の結果を示す図である。縦軸はRaji-PDL1細胞の溶解百分率であり、横軸はサンプルの濃度であり、IMM25は陽性対照としてのADCC陽性抗体であり、先発医薬品AtezolizumabをADCC実験の陰性対照とする。
図4】本発明の操作後のPD-L1モノクローナル抗体のPD-L1とPD-1活性に対する抑制の細胞実験の結果を示す図である。横軸は抗体の濃度(M)であり、縦軸はルシフェラーゼの酵素活性の平均値である。
図5】本発明の操作後のPD-L1モノクローナル抗体と元の抗体AtezolizumabのADA評価の比較を示す図である。横軸は血清の希釈率であり、縦軸は450nmでの吸光度である。
図6A】元の抗体AtezolizumabのHPLC-SECの結果を示す図である。
図6B】本発明の操作後のPD-L1モノクローナル抗体のHPLC-SECの結果を示す図である。
図7A】先発医薬品Atezolizumabの糖鎖構造解析の質量分析の結果を示す図である。
図7B】本発明の操作後のPD-L1モノクローナル抗体の糖鎖構造解析の質量分析の結果を示す図である。
図8】本発明の操作後のPD-L1モノクローナル抗体と元の抗体Atezolizumabの熱安定性の実験結果を示す図である。図中の横軸は抗体の濃度(M)であり、縦軸は450nmでの吸光度である。
図9】本発明の操作後のPD-1モノクローナル抗体と元の抗体Pembrolizumabの重鎖のアライメント結果を示す図である。
図10】本発明の操作後のPD-1モノクローナル抗体と元の抗体Pembrolizumabの親和性の評価結果を示す図である。横軸は抗体の濃度(M)であり、縦軸は450nmでの吸光度である。
図11】本発明の操作後のPD-1モノクローナル抗体と元の抗体PembrolizumabのADCC活性の実験結果を示す図である。縦軸はRaji-PD-1細胞の溶解百分率であり、横軸はサンプルの濃度であり、先発医薬品PembrolizumabをADCC実験の対照とし、IgG1サブクラスに変化されたモノクローナル抗体PembrolizumabをADCC実験の陽性対照とし、H1L0は、本発明の操作後のPD-1モノクローナル抗体である。
図12】本発明の操作後のPD-1モノクローナル抗体と元の抗体PembrolizumabのPD-L1とPD-1活性に対する抑制の細胞実験の結果を示す図である。横軸は抗体の濃度(M)であり、縦軸はルシフェラーゼの酵素活性の平均値である。
図13】本発明の操作後のCTLA4モノクローナル抗体と元の抗体Ipilimumabの重鎖のアライメント結果を示す図である。
図14】本発明の操作後のCTLA4モノクローナル抗体と元の抗体Ipilimumabの親和性の評価結果を示す図である。横軸は抗体の濃度(M)であり、縦軸は450nmでの吸光度である。
図15】本発明の操作後のCTLA4モノクローナル抗体と元の抗体IpilimumabのADCC活性の実験結果を示す図である。縦軸はRaji-CTLA4細胞の溶解百分率であり、横軸はサンプルの濃度であり、先発医薬品IpilimumabをADCC実験の陽性対照とし、H1L0は、本発明の操作後のCTLA4モノクローナル抗体である。
図16】本発明の操作後のCTLA4モノクローナル抗体と元の抗体Ipilimumabの、CTLA4とCD80及びCD86との結合を阻害する活性の実験結果を示す図である。横軸は抗体の濃度(M)であり、縦軸は450nmでの吸光度である。
図17】本発明の操作後のCTLA4モノクローナル抗体と元の抗体Ipilimumabが、CD80及びCD86と競合的にヒトCTLA4にトランスフェクションされたCHO細胞に結合した結果を示す図である。横軸は抗体の濃度(M)であり、縦軸は450nmでの吸光度である。
【発明を実施するための形態】
【0102】
用語と定義
「抗体」とは、所望の生物学的活性(例えば、リガンドとその受容体との結合の阻害、またはリガンドによって誘導される受容体のシグナル伝達の阻害)を示す任意の形態の抗体を指す。したがって、前記抗体は最も広い意味で使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、および多重特異性抗体を含むが、これらに限定されるものではないことは明確である。
【0103】
「Fabフラグメント」は、1つの軽鎖、1つの重鎖のCH1及び可変領域からなるものである。Fab分子の重鎖は、他の重鎖分子とジスルフィド結合を形成できない。
「Fc」領域は、抗体のCH1ドメインとCH2ドメインを含む2つの重鎖フラグメントである。2つの重鎖フラグメントは、2つ以上のジスルフィド結合とCH3ドメインの疎水性相互作用により結合される。
【0104】
「Fab’フラグメント」は、1つの軽鎖と、VHドメイン、CH1ドメインおよびCH1ドメインとCH2ドメインとの間の領域を含む1つの重鎖とを含んでいるため、2つのFab’フラグメントの2つの重鎖の間に鎖間ジスルフィド結合を形成して、F(ab’)2分子を形成できる。
【0105】
本願で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同じ抗体集団から得られる抗体を指し、すなわち、少量で存在し得る天然変異体を除いて、前記集団を構成する各抗体は同一である。モノクローナル抗体は、高度な特異性を持ち、単一の抗原部位を標的とすることができる。さらに、通常、複数の異なる決定基(エピトープ)を標的とする複数の異なる抗体を含む通常の(ポリクローナル)抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を標的とする。修飾用語「モノクローナル」は、実質的に同じ抗体集団から得られる抗体の特性を指し、前記抗体の調製のためにいずれの特定の方法が必要であると解釈されるべきではない。
【0106】
本明細書で使用される「柔軟なアミノ酸配列」という用語は、両端のドメインの空間的コンフォメーションによる相互干渉を防止または低減するための、側鎖の小さいアミノ酸からなる一定の長さのC-ペプチドを指し、その配列は、GGSGGS、GSGGSGG、GSGGSGGG、GGGGSGGG、GSGSG、GGSGG、GGS、GGSGSおよびGGGSを含むが、これらに限定されるものではない。
【0107】
本明細書で使用される「免疫細胞」という用語は、造血を起源とし、免疫応答において役割を果たす細胞を含む。免疫細胞には、リンパ球、例えば、B細胞やT細胞;ナチュラルキラー細胞;骨髄細胞、例えば、単球、マクロファージ、好酸球、肥満細胞、好塩基球および顆粒球が含まれる。
【0108】
本明細書で使用される「約」という用語は、数値が当業者によって測定される具体的な値の許容誤差範囲内にあることを指し、前記数値はどのように測量または測定したのか(すなわち、測量システムの限界)に部分的に依存する。たとえば、当分野のすべての実行において、「約」は、1以内または1以上の標準偏差を意味できる。あるいは、「約」または「実質的に含む」は、最大20%の範囲を意味できる。また、特に生物学的システムまたはプロセスにおいて、この用語は、最大で1桁、または最大で数値の5倍を意味できる。特に断りがないかぎり、具体的な値が本願および特許請求の範囲に現れる場合、「約」または「実質的に含む」の意味は、当該具体的な値が許容可能な誤差範囲内にあると想定されるべきである。
【0109】
リガンド/受容体、抗体/抗原または他の結合ペアに言及する場合、「特異的」結合とは、タンパク質および/または他の生物学的試薬の異種群において、PD-1などのタンパク質の結合反応があるかどうかを確定することを指す。したがって、特定の条件下において、特定のリガンド/抗原は、特定の受容体/抗体に結合し、有意な量でサンプルに存在する他のタンパク質と結合しない。
【0110】
「投与」および「治療」を使用して、動物、ヒト、実験対象、細胞、組織、器官、または生体液に言及する場合、「投与」および「治療」は、外因性薬物、治療剤、診断薬または組成物を動物、ヒト、治療を受ける者、細胞、組織、器官または生体液と接触させることを意味する。「投与」および「治療」は、例えば、治療方法、薬物動態学的方法、診断方法、研究方法、および実験方法を指すことができる。細胞の治療には、試薬の細胞との接触、および試薬の流体との接触が含まれ、前記流体は細胞と接触する。「投与」および「治療」はまた、例えば、試薬、診断薬、結合組成物、または他の細胞による、インビトロおよびエクスビボでの細胞の治療をも意味する。
【0111】
「有効量」は、医学的疾患の症状または病状を改善または予防するのに十分な量を含む。また、有効量は、診断を可能にするまたは促進するのに十分な量を意味する。治療を受ける者に対する具体的な有効量は、治療する疾患、患者の全体的な健康状態、投与方法と投与量、及び副作用の重篤度などの複数種の要素によって変わる。有効量は、顕著な副作用または毒作用を回避する最大量または投与レジメンであっても良い。モノクローナル抗体の調製では、本発明に係る抗体のDNAを発現ベクターに導入し、次いでベクターを宿主細胞にトランスフェクションすることで組換え宿主細胞においてモノクローナル抗体の合成を達成できる。前記宿主細胞として、例えば、大腸菌細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または免疫グロブリンを別途産生しない骨髄腫細胞がある。抗体の組換え調製については、以下でより詳細に説明する。
【0112】
適宜な投与経路には、非経口投与(例えば、筋肉内注射、静脈内または皮下投与)および経口投与が含まれる。医薬組成物に使用される抗体、または本発明の方法を実施するために使用される抗体は、複数種の常法に従って投与できるが、これらの方法として、例えば、経口摂取、吸入、局所適用または経皮、皮下、腹腔内、非経口、動脈内または静脈注射がある。全身投与ではなく局所投与(通常は持効性製剤または徐放性製剤)により抗体を投与することができ、例えば作用部位に抗体を直接に注射することができる。また、標的薬送達システムで抗体を投与することができる。
【0113】
本明細書で使用される「阻害」または「治療(treat又はtreatment)」は、疾患に関連する症状の進展を遅らせること、および/または前記疾患の進展するまたは進展すると予想されるこれらの症状の重篤度を軽減することを含む。前記用語には、既存の症状の緩和、他の症状の予防、およびこれらの症状の潜在的な原因の緩和または予防も含まれる。したがって、前記用語は、病気を患っている脊椎動物対象に有益な結果を与えたことを意味する。
【0114】
本明細書で使用される「治療量」または「有効量」という用語は、抗体またはそのフラグメントを単独で、または別の治療剤と組み合わせて、細胞、組織または治療を受ける者に投与する場合、治療する疾患または病状を効果的に予防または緩和する量を意味する。治療量は、さらに、症状の緩和を引き起こすのに十分な前記化合物の量を指し、前記症状の緩和は、例えば、関連する病気の治療、治癒、予防または緩和、もしくは前記病気の治療率、治癒率、予防率、または緩和率の向上である。個体に単独投与する活性成分を投与する場合、治療量は当該単独投与された成分の量を指す。組み合わせて投与する場合、治療量は、併用投与、連続投与、同時投与のいずれの場合でも、治療効果が生じる有効成分の合計量を意味する。治療量は、症状を通常少なくとも10%、通常少なくとも20%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%軽減する。
【0115】
本発明の医薬組成物には、さらに、他の薬剤が含まれてもよく、細胞毒性薬、細胞増殖阻害剤、抗血管新生薬または代謝拮抗薬、標的抗腫瘍薬、免疫賦活剤または免疫調節剤、もしくは細胞毒性薬、細胞増殖阻害剤または他の毒性薬物と結合する抗体が含まれるが、これらに限定されるものではない。医薬組成物を、他の治療形態(例えば、手術、化学療法、および放射線療法)とともに投与することもできる。
【0116】
典型的な獣医、実験または研究対象には、サル、犬、猫、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、馬および人が含まれる。
【0117】
本発明の抗体の治療における使用は以下の通りである。
【0118】
ヒトPD-1/L1およびCTLA4に特異的に結合する本発明の抗体は、免疫応答の増加、改善、刺激または上方制御に使用できる。本発明の抗体は、T細胞が媒介する免疫応答を改善することによって治療できる疾患を患っている治療を受ける者の治療に特に適している。好ましい治療を受ける者には、免疫応答の改善を必要とするヒト患者が含まれる。
【0119】
本発明の抗体は、癌の治療に使用できる(すなわち、腫瘍細胞の成長または生存を阻害する)。本発明の抗体によって成長を阻害できる好ましい癌には、一般的に免疫療法に応答する癌が含まれるが、今まで免疫療法と関連がない癌も含まれる。治療する好ましい癌の非限定的な例には、メラノーマ(例えば、悪性転移性メラノーマ)、腎細胞がん(例えば、淡明細胞癌)、前立腺がん(例えば、ホルモンによる制御が困難な前立腺がん)、膵臓がん、乳がん、大腸がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん)、食道がん、頭頸部扁平上皮がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、甲状腺がん、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫およびその他の悪性腫瘍が含まれる。なお、本発明は、本発明の抗体によって成長が阻害され得る難治性または再発性の癌を含む。
【0120】
本発明の抗体は、単独で使用してもよく、或いは、抗がん剤または免疫原剤(例えば、弱体化された癌細胞、腫瘍抗原(組換えタンパク質、ペプチドおよび炭水化物類分子を含む)、腫瘍由来の抗原または核酸で刺激された樹状細胞、免疫賦活性サイトカイン(例えば、IL-2、IFNa2、GM-CSF)、および免疫刺激性サイトカイン(例えば、GM-CSF、ただし、これに限定されないものではない)をコードする遺伝子でトランスフェクションされた細胞といった抗原提示細胞;標準的な癌治療(たとえば、化学療法、放射線療法または手術);または他の抗体(VEGF、EGFR、Her2/neu、VEGF受容体、他の成長因子受容体、CD20、CD40、CTLA-4、OX-40、4-IBBおよびICOSを標的とする抗体を含むがこれらに限定されるものではない)といった他の物質と組み合わせて使用してもよい。
【0121】
本発明の抗体は、免疫低下疾患の予防または治療にも使用できる。抗体は、単独で、または、病原体および多量体に対する免疫応答を刺激するために、医薬品と併用してもよい。抗体は、ヒトに感染するウイルスに対する免疫応答を刺激するために使用でき、これらのウイルスとしては、例えば、ヒト免疫不全ウイルス、A、B、C型肝炎ウイルス、エプスタイン・バーウイルス、ヒトサイトメガロウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス、ヘルペスウイルスなどがあるが、これらに限定されるものではない。抗体は、細菌または真菌、寄生虫やその他の病原体によって引き起こされる感染に対する免疫応答を刺激するために使用できる。抗体は、体内の多量体に対する免疫応答とその除去を刺激し、認知症などの疾患を治療するために使用できる。
【0122】
本発明に係る抗体は、標的が、PD-L1、PD-1、CTLA4、TNF-α、PCSK9、NGF、C5、Aβ、IL-6、IL-17A、IL23A、HGF、CMET、Notch1、CCL11、IL6R、IL-31R、IL-1B、IL-20、CD40、CD47、DKK1/2、TIGIT、4-1BB、IGF-1R、LL4、PDGFR2、HER3、IGF1/2、RANKL、sclerostin、GCGR、CGRP、ANGPTL3、IL-13、IL-4R、CSF-1R、TFPI、FCGRT、CD47等を含むが、これらに限定されず、癌、喘息、自己免疫疾患、片頭痛、認知症、高脂血症、骨関節炎、群発頭痛、骨粗鬆症等の疾患の治療に使用できる。
【0123】
以下の実施例より、本発明の内容をさらに説明するが、本発明がこれらの例に限定されると解釈すべきではない。本発明の趣旨および本質から逸脱しない限り、本発明の方法、ステップまたは条件に対して行われる修正または置換は、いずれも本発明の範囲内に属する。
【0124】
特に断りがない限り、実施例で使用される技術手段は、当業者が熟知する通常の手段である。特に説明がない限り、以下の実施例で使用される材料、試薬は、いずれも商業ルートから入手できる。
【実施例
【0125】
実施例1 免疫原性が低減された低ADCC/CDC機能PD-L1モノクローナル抗体の分析と設計
本発明では、PyMolソフトウェアを使用して、ジェネンテック(Genentech)社のAtezolizumabの構造を分析し、抗体の可変領域と定常領域との間で比較的柔軟な領域を探し、対応する領域に柔軟なアミノ酸配列を挿入して、抗体の可変領域の抗原への結合によって生じるメカニカルストレスの伝達を遮断し、抗体医薬品の重鎖の定常領域とFc受容体および/または補体との結合部位を十分に露出させず、抗体医薬品と、NK細胞、マクロファージ及び好中球等のIgG Fc受容体を発現するキラー細胞との結合または補体との結合を弱め、ADCCとCDCを誘導できないようにするか、又はADCCとCDCを誘導するシグナルを低減した。
【0126】
具体的には、ジェネンテック(Genentech)社の抗体医薬品Atezolizumabの、297番目のアミノ酸であるAを元のNに変異させてグリコシル化を回復した上で、IgG1抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入し、抗体の抗原への結合によって生じる抗体の可変領域と定常領域との間のストレスの伝達を遮断することにより、ADCC/CDC機能を低減させるとともに、多量体の形成を有意に増加させないことを達成した。元のAtezolizumabの配列における重鎖の全長のアミノ酸配列と軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、2が示すとおりである。
【0127】
本発明で提供される低免疫原性の抗PD-L1モノクローナル抗体は、重鎖のアミノ酸配列が配列番号3、4が示すとおりであり、軽鎖のアミノ酸配列が配列番号2が示すとおりであり、それぞれH-1L0、H-2L0と命名した。
【0128】
本発明は、既知の抗体の重鎖のグリコシル化情報により、対応する修飾後の配列に対して全遺伝子合成を実行し、合成された遺伝子に対してシーケンスを実行するとともに、シーケンスが正しい配列を選択して次のステップを実行し、軽鎖の酵素切断部位をEcoR I+Hind IIIとし、重鎖の酵素切断部位をEcoR I+Hind IIIとし、
【0129】
それぞれ、発現ベクターpEE6.4及びベクターpEE12.4に接続し、それと同時に大腸菌DH5αを形質転換して、抗体の重鎖、軽鎖の発現ベクターを得た。構築された抗体のシーケンスと配列の比較を同時に行い、操作後のPD-L1モノクローナル抗体と元の抗体Atezolizumabの重鎖のアライメント結果を図1に示す。
【0130】
実施例2 低ADCC/CDC機能PD-1モノクローナル抗体の分析と設計
本発明では、米国メルク(Merck)社のPembrolizumabを操作した。まず、その重鎖のサブクラスをIgG4からIgG1に変更し、PyMolソフトウェアを使用して構造を分析し、抗体の可変領域と定常領域との間で比較的柔軟な領域を探し、対応する領域に柔軟なアミノ酸配列を挿入して、対応する配列に対して遺伝子合成、シーケンスを実行し、シーケンスが正しい配列を選択し、スクリーニングしてモノクローナル抗体H1L0を得た。本発明は、オリジナルのIgG1サブクラス抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入することを試み、挿入された柔軟なアミノ酸配列は、抗体の可変領域の抗原への結合によって生じるメカニカルストレスの伝達を遮断し、抗体の重鎖の定常領域とFc受容体および/または補体との結合部位を十分に露出させず、抗体と、NK細胞、マクロファージ及び好中球といったIgG Fc受容体を発現するキラー細胞との結合または補体との結合を弱め、ADCCとCDCを誘導できないようにするか、又はADCCとCDCを誘導するシグナルを低減した。柔軟なアミノ酸配列は、その両端のドメインの空間的コンフォメーションによる相互干渉を防止または低減するための、側鎖の小さいアミノ酸からなる一定の長さのC-ペプチドであり、その配列は、GGSGGS、GSGGSGG、GSGGSGGG、GGGGSGGG、GSGSG、GGSGG、GGS、GGSGSおよびGGGSを含むが、これらに限定されるものではない。本発明の方法に従って操作された重鎖のアミノ酸配列は、配列番号7が示すとおりである。
【0131】
本発明は、対応する修飾後の配列に対して全遺伝子合成を実行し、合成された遺伝子に対してシーケンスを実行するとともに、シーケンスが正しい配列を選択して次のステップを実行し、軽鎖の酵素切断部位をEcoR I+Hind IIIとし、重鎖の酵素切断部位をEcoR I+Hind IIIとし、それぞれ、発現ベクターpEE6.4及びベクターpEE12.4に接続し、それと同時に大腸菌DH5αを形質転換して、抗体の重鎖、軽鎖の発現ベクターを得た。構築された抗体のシーケンスと配列の比較を同時に行い、操作後のPD-1モノクローナル抗体と元の抗体Pembrolizumabの重鎖のアライメント結果を図9に示す。
【0132】
実施例3 低ADCC/CDC機能CTLA4モノクローナル抗体の分析と設計
本発明では、米国ブリストルマイヤーズスクイブ(BMS)社のipilimumabを操作し、PyMolソフトウェアを使用して構造を分析し、抗体の可変領域と定常領域との間で比較的柔軟な領域を探し、対応する領域に柔軟なアミノ酸配列を挿入して、対応する配列に対して遺伝子合成、シーケンスを実行し、シーケンスが正しい配列を選択し、スクリーニングしてモノクローナル抗体H1L0を得た。本実施例は、モノクローナル抗体ipilimumabのIgG1サブクラス抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域との間に、一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入することを試み、挿入された柔軟なアミノ酸配列は、抗体の可変領域の抗原への結合によって生じるメカニカルストレスの伝達を遮断し、抗体の重鎖の定常領域とFc受容体および/または補体との結合部位を十分に露出させず、抗体と、NK細胞、マクロファージ及び好中球といったIgG Fc受容体を発現するキラー細胞との結合または補体との結合を弱め、ADCCとCDCを誘導できないようにするか、又はADCCとCDCを誘導するシグナルを低減した。柔軟なアミノ酸配列は、その両端のドメインの空間的コンフォメーションによる相互干渉を防止または低減するための、側鎖の小さいアミノ酸からなる一定の長さのC-ペプチドであり、その配列は、GGSGGS、GSGGSGG、GSGGSGGG、GGGGSGGG、GSGSG、GGSGG、GGS、GGSGSおよびGGGSを含むが、これらに限定されるものではない。操作後の重鎖のアミノ酸配列は、配列番号10が示すとおりである。
本発明は、対応する修飾後の配列に対して全遺伝子合成を実行し、合成された遺伝子に対してシーケンスを実行するとともに、シーケンスが正しい配列を選択して次のステップを実行し、軽鎖の酵素切断部位をEcoR I+Hind IIIとし、重鎖の酵素切断部位をEcoR I+Hind IIIとし、それぞれ、発現ベクターpEE6.4及びベクターpEE12.4に接続し、それと同時に大腸菌DH5αを形質転換して、抗体の重鎖、軽鎖の発現ベクターを得た。構築された抗体のシーケンスと配列の比較を同時に行い、操作後のCTLA4モノクローナル抗体と元の抗体Ipilimumabの重鎖のアライメント結果を図13に示す。
【0133】
実施例4 改良型抗体のADCC機能の検証
本発明における抗体のADCC機能を評価するために、本発明では、標的タンパク質(PD-L1、PD-1、CTLA4)過剰発現細胞に対するFcR-TANK細胞の殺傷能力を検出することにより、抗体のADCC活性を評価した。
【0134】
PD-L1抗体のADCC活性の検出を例として、CFSEで標的タンパク質過剰発現細胞を染色した後、細胞密度を6×10/mLに調整し、改良型抗体(H-1L0、H-2L0)とAtezolizumab、及び陽性対照である抗体IMM25(ImmuneOncoから購入)を一定の割合で段階希釈(最高濃度4μg/mL、培地により3倍希釈を12回段階希釈)しながら、FcR-TANK細胞をカウントし、細胞密度を6×10/mLに調整した。抗体、標的細胞およびエフェクター細胞を一緒にインキュベートした。詳しくは、上記の希釈段階が異なる抗体をそれぞれ50μL、標的細胞を50μL、FcR-TANK細胞を100μL取り、96ウェルプレートに入れて、各段階でデュプリケートしながら、ブランクコントロール(150μLの培地+50μLの標的細胞および50μLの培地+50μLの標的細胞+100μLのFcR-TANK細胞)を設置した。37℃、5%COで4時間インキュベートした。インキュベート完了後、細胞培養プレートを室温で10分間置き、PI染色液(最終濃度5μg/mL)を加えて均一に混ぜた。フローサイトメトリーによって異なる濃度における細胞のPI染色の陽性率を分析し、下記の計算式により、抗体が媒介するADCC強度を計算し、ADCC%と濃度の関係をプロットした。
【0135】
ADCC%=[(Sample%PI Positive Cell-No Antibody%PI Positive Cell)/(100-No Antibody%PI Positive Cell)]×100
【0136】
図3に示すように、本発明の操作後のPD-L1モノクローナル抗体と先発医薬品である抗体AtezolizumabのADCC活性の実験は、本発明の2つのPD-L1モノクローナル抗体H-1L0、H-2L0のADCC活性が、先発医薬品である抗体Atezolizumabと一致することを示している。H-1L0とH-2L0のいずれもADCC効果が除去されたことが証明されたため、後続研究では、主にH-1L0と先発医薬品Atezolizumabを使用して比較検証を実行した。
【0137】
図11に示すように、本発明の操作後のPD-1モノクローナル抗体と先発医薬品である抗体PembrolizumabのADCC活性の実験は、本発明の操作後のPD-1モノクローナル抗体H1L0のADCC活性が消失したが、先発医薬品である抗体Pembrolizumabの場合、弱いADCC活性が存在することを示している。
【0138】
図15に示すように、本発明の操作後のCTLA4モノクローナル抗体と先発医薬品である抗体IpilimumabのADCC活性の実験は、本発明のCTLA4モノクローナル抗体H1L0のADCC活性が消失したが、先発医薬品である抗体IpilimumabのADCC活性が正常であることを示している。
【0139】
実施例5 改良型抗体の親和性の評価
実施例1~3で構築されたベクターに対して、プラスミドの大量精製を行い、QiagenのEndoFree Plasmid Maxi Kitを選択し、選択したプラスミドの組み合わせを最適化しながら、CHO細胞を使用して一過性トランスフェクション発現を実行し、見かけ結合親和性の測定に、タンパク質によるELISA実験を使用した(EC50値として報告される)。改良型抗体と先発医薬品である抗体の結合能力を比較した。
【0140】
タンパク質ELISAを、抗体とヒトPD-L1の相対的結合の測定に使用した。4℃で一晩置いてPD-L1を酵素標識プレートに固相化し、3%BSA含有PBSと室温で1時間インキュベートすることにより、非特異的結合部位をブロックした。コーティング後、前記プレートをPBSで洗浄し、抗PD-L1抗体の希釈液を調製し、固相化タンパク質とともに25℃で1時間インキュベートした。結合後、前記プレートをPBSで3回洗浄し、25℃で1/2000に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgGを含む結合緩衝液により25℃で1時間インキュベートし、再度洗浄した後、TMBで発色させた。ELISA結果を図2に示す。50%最大結合濃度で、相対的結合の親和性の値を表す。発現した抗体の親和性とEC50を検出し(表1を参照)、親和性ELISAの結果は、図2に示すように、H-1L0のPD-L1との親和性が先発医薬品である抗体Atezolizumabに近いことを示している。
【0141】
【表1】
【0142】
タンパク質ELISAを、抗体とヒトPD-1の相対的結合の測定に使用した。4℃で一晩置いてPD-1を酵素標識プレートに固相化し、3%BSA含有PBSとともに室温で1時間インキュベートすることにより、非特異的結合部位をブロックした。コーティング後、前記プレートをPBSで洗浄し、抗PD-1抗体の希釈液を調製し、固相化タンパク質とともに25℃で1時間インキュベートした。結合後、前記プレートをPBSで3回洗浄し、25℃で1/2000に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgGを含む結合緩衝液により25℃で1時間インキュベートし、再度洗浄した後、TMBで発色させた。ELISA結果を図10に示す。50%最大結合濃度で、相対的結合の親和性の値を表す。発現した抗体の親和性とEC50を検出し(表2を参照)、親和性ELISAの結果は、図10に示すように、H1L0のPD-1との親和性が先発医薬品である抗体Pembrolizumabに近いことを示している。
【0143】
【表2】
【0144】
タンパク質ELISAを、抗体とヒトCTLA4の相対的結合の測定に使用した。4℃で一晩置いてPD-1を酵素標識プレートに固相化し、3%BSA含有PBSとともに室温で1時間インキュベートすることにより、非特異的結合部位をブロックした。コーティング後、前記プレートをPBSで洗浄し、抗CTLA4抗体の希釈液を調製し、固相化タンパク質とともに25℃で1時間インキュベートした。結合後、前記プレートをPBSで3回洗浄し、25℃で1/2000に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgGを含む結合緩衝液により25℃で1時間インキュベートし、再度洗浄した後、TMBで発色させた。ELISA結果を図14に示す。50%最大結合濃度で、相対的結合の親和性の値を表す。発現した抗体の親和性とEC50を検出し(表3を参照)、親和性ELISAの結果は、図14に示すように、H1L0のCTLA4との親和性が先発医薬品である抗体Ipilimumabに近いことを示している。
【0145】
【表3】
【0146】
実施例6 改良型PD-1、PD-L1抗体の生物活性の検出
この方法は、CHO-PD-L1-CD3L細胞株及びJurkat-PD-1-NFAT細胞株の2つの細胞株に基づくものである。CHO-PD-L1-CD3L細胞株は、PD-L1とanti-CD3-scFvを安定的に発現し、標的細胞とする;Jurkat-PD-1-NFAT細胞株は、PD-1とルシフェラーゼ(luciferase)を安定的に発現し、ルシフェラーゼ遺伝子は、NFAT要素(転写因子)によって制御され(IL-2プロモーター)、エフェクト細胞とする。PD-1とPD-L1の結合により、CD3の下流のシグナル伝達を遮断し、ルシフェラーゼの発現を阻害できる。PD-1抗体またはPD-L1抗体を添加すると、このような遮断(Block)効果が逆転し、ルシフェラーゼの表現が可能になるため、蛍光シグナルが検出される。具体的な実験手順は次のとおりである。
【0147】
1、細胞培養:Jurkat-PD-1-NFAT細胞は、10%FBS、1%NEAAおよび抗生物質を含むRPMI1640培地を使用して培養し、CHO-PD-L1-CD3L細胞は、10%FBS、1%NEAAおよび抗生物質を含むDMEMまたはF12培地を使用して培養した。
2、細胞播種:CHO-PD-L1-CD3L細胞を96ウェルプレートに50000cells/wellで播種し、37℃、5%COの条件で12~14時間培養した。その後、培地を除去してから、100,000個のJurkat-PD-1-NFAT細胞を含む50μLのアッセイ培地(2%FBSを含むRPMI1640培地)を各ウェルに加えた。
3、抗体状態スクリーニング:本発明の操作後の抗体または先発医薬品を10μg/mLの濃度から1:3の比率で段階希釈した(アッセイ培地を使用した)。その後、希釈した抗体を各ウェルに加え、37℃、5%COで6時間インキュベートした。
4、100μLの蛍光基質(Promega Bio-GloTM Luciferase Assay)を添加し、フルオロメーター(SpectraMax M5)で相対ルシフェラーゼ活性単位を計算した。
【0148】
本発明の操作後のPD-L1抗体H-1L0の生物学的活性を先発医薬品である抗体Atezolizumabと比較したところ、H-1L0のPD-1/PD-L1の阻害効果が先発医薬品Atezolizumabと近い結果となった(図4に示す)。表を作成し、抗体のPD-1、PD-L1を阻害するIC50値を計算し、表4に示す。
【0149】
【表4】
本発明の操作後のPD-1抗体H1L0の生物学的活性を先発医薬品Pembrolizumabのと比較したところ、H1L0のPD-1/PD-L1の阻害効果が先発医薬品Pembrolizumabと近い結果となった(図12に示す)。表を作成し、抗体のPD-1、PD-L1を阻害するIC50値を計算して、表5に示す。
【0150】
【表5】
【0151】
実施例7 改良型CTLA4抗体のCTLA4のCD80又はCD86との結合活性の阻害の検証及び競争的実験
ELISA法により、本発明のモノクローナル抗体のCTLA4のCD80またはCD86との結合の阻害効率を検出した。4℃で一晩置いて、hCD80又はhCD86を酵素標識プレートに固相化し、3%BSA含有PBSとともに室温で1時間インキュベートすることにより、非特異的結合部位をブロックした。コーティング後、前記プレートをPBSで洗浄し、抗CTLA4抗体とBiotin-CTLA4の混合希釈液(Biotin-CTLA4は1μg/mLの固定濃度であり、本発明の抗CTLA4抗体を段階希釈し、最高濃度は1μg/mLであり、最低濃度は0である。)を調製し、固相化タンパク質とともに25℃で1時間インキュベートした。結合後、前記プレートをPBSで3回洗浄し、25℃で1/8000に希釈したペルオキシダーゼ標識アビジンを含む結合緩衝液により25℃で1時間インキュベートし、再度洗浄した後、TMBで発色させた。ELISAの結果を図16に示し、本発明のCTLA4モノクローナル抗体がCTLA4のCD80またはCD86との結合を阻害できることを示した。
【0152】
本発明は、CELISA法により、抗体のCD80およびCD86と競合的にヒトCTLA4でトランスフェクションされたCHO細胞に結合する効果を評価した。まず、hCTLA4を発現するCHO細胞を構築し、CHO-hCTLA4細胞を50μLの培地で80%~100%の被覆率まで培養した。次に、50μLの固定濃度(1μg/mL)のBiotin-CD80またはBiotin-CD86、及び希釈濃度(最高濃度1μg/mL、最低濃度0、段階希釈)が異なる抗CTLA4抗体を含有する混合培地に添加して、37℃で1時間インキュベートした。その後、PBSで3回洗浄した後、100μLの1/8000の希釈率で希釈したペルオキシダーゼ標識アビジンを添加し、37℃で1時間インキュベートした。PBSで数回洗浄した後、TMBで発色させた。ELISA結果を図17に示す。
【0153】
実施例8 マウス体内における改良型PD-L1抗体及び先発医薬品である抗体Atezolizumabの免疫原性の評価
マウスをそれぞれ改良型抗体H-1L0及び先発医薬品Atezolizumabで免疫して、マウスにおいて産生したADAの感染価を評価した。Balb/cマウスを用いて群分けし、実験を行い、群あたり5匹とした。具体的な免疫方法は次のとおりである。1)基本免疫:抗原とフロイント完全アジュバントを同体積で混合して完全に乳化し、注射箇所を分け、皮下注射した。2)追加免疫:追加免疫では、抗原とフロイント不完全アジュバントのエマルジョンを使用した。Balb/cマウス1匹あたりの総注入量を70μgとした。
【0154】
免疫後のマウスについて、免疫前、免疫後7日、免疫後14日、免疫後21日のマウスの血清を採取し、マウスのADA感染価を評価し、その結果を図5に示す。マウス体内における本発明で産生したモノクローナル抗体H-1L0のADA感染価が、Atezolizumabより80%も低下した結果となった。
【0155】
実施例9 改良型PD-L1抗体の安定した細胞株の構築と小規模発現
本発明の操作後のPD-L1抗体および先発医薬品である抗体AtezolizumabのCHO安定細胞バンクを同時に構築し、当分野で公知の抗体医薬品製造基準に従って、改良型PD-L1抗体および先発医薬品Atezolizumabの、5gの小規模発現および精製を行った。図6Aおよび図6Bに示すように、得られた抗体に対してHPLC-SECにより比較を行った。先発医薬品Atezolizumab及び改良型PD-L1抗体H-1L0のロード量(50μL)と濃度(60mg/mL)は、いずれも同じであった。図から、ロード量が同じである場合、先発医薬品である抗体Atezolizumabのメインピークの面積が、改良型PD-L1抗体H-1L0に比べて約10%も減少したことが分かった。したがって、先発医薬品Atezolizumabにおける多量体の含有量がより多いため、HPLC-SECのロード中に、多量体がフィルターメンブレンによって除去され、ピーク面積が減少したと判断できる。2つの抗体のHPLC-SECのピーク面積の計算結果を表6に示す。同時に、HPLC-SECの結果は、改良型PD-L1抗体H-1L0のピーク位置が先発医薬品Atezolizumabより前にあることを示しており、抗体のグリコシル化の回復により抗体の分子量が増加し、ピーク位置がより前になったと判断できる。
【0156】
【表6】
【0157】
実施例10 改良型PD-L1抗体の糖鎖構造解析
実施例9で得られた結果に基づいて、改良型PD-L1抗体の糖鎖構造をさらに検証した。主に、当該分野における公知の方法で実行した。詳しくは、抗体のオリゴ糖を消化して収集した後、質量分析によって糖鎖構造を分析・特定した。図7に示すように、特定により、先発医薬品Atezolizumabでは、N型糖鎖修飾が検出されなかったが、改良型PD-L1抗体は正常にグリコシル化修飾されていた。改良型PD-L1抗体の糖鎖構造分析の結果を表7に示す。
【0158】
【表7】
【0159】
実施例11 改良型PD-L1抗体及び先発医薬品である抗体Atezolizumabの安定性の検証
本発明の操作後のPD-L1モノクローナル抗体及び先発医薬品である抗体Atezolizumabの安定性を比較検証した。改良型PD-L1抗体及び先発医薬品である抗体Atezolizumabを同時に急速熱処理し、その安定性を検証するための主な操作手順は以下のとおりである。
【0160】
同体積の2つの異なる抗体を採取し、4℃で10時間放置した後、少量のサンプルを採取した。最初のサンプリング後、2つの抗体を60℃の恒温水浴に10分間置いて、外観の変化を観察し、2回目の少量のサンプルを採取した。サンプリング後、2つの抗体を4℃、10000rpmで5分間遠心し、遠心チューブの底に目視できる沈殿があるかどうかを観察し、上澄みを再度サンプリングした。3回目のサンプリング後、0.2μmのフィルターにより上澄みをろ過した後、サンプルを再度採取した。サンプリング終了後、ろ過した上澄みを4℃に置いて継続的に観察した。得られたすべてのサンプルに対して、抗体の濃度及び抗体のPD-L1との結合能力を検出した。
【0161】
改良型PD-L1抗体及び先発医薬品AtezolizumabのPD-L1との結合能力のELISA検出結果を図8に示し、2つの抗体の各サンプルの濃度データを表8に示す。先発医薬品Atezolizumabに比べて、改良型PD-L1抗体の安定性がより良好であることが分かった。
【0162】
【表8】
【0163】
これで分かるように、本発明では、スクリーニングにより複数の異なる標的に対する改良型ADCC機能除去モノクローナル抗体が得られた。これらの抗体は、本来の、標的タンパク質に対する結合親和性を維持できるとともに、ADCC機能が除去され、標的タンパク質とそれに対応するリガンドとの結合を特異的に遮断できる。同時に、改良型PD-L1抗体について、本発明のADCC機能の除去方法によれば、ADCC効果を除去する目的が達成されるだけでなく、元の先発医薬品である抗体医薬品の操作による高い多量体含有量、強免疫原性という問題も解決される。
【0164】
上記の実施例の説明は、本発明の方法およびその核心的な思想を理解するのを助けるためのものに過ぎない。当業者にとって、本発明の原理から逸脱しない限り、本発明に対していくつかの改善および修飾を行うことができ、これらの改善および修飾もまた、本発明の特許請求の範囲の保護範囲内にあることにご注意ください。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明は、低ADCC/CDC機能性モノクローナル抗体、及びその調製方法と使用を提供する。本発明は、PD-L1、PD-1、CTLA4、TNF-α、PCSK9、NGF、CD47およびC5などの複数の標的に対する抗体の配列を操作し、IgG1サブクラス抗体の重鎖のCDR3領域とCH2領域の間に、一定の長さの柔軟なアミノ酸配列を挿入することで、多量体の形成を有意に増加させることなく、ADCC/CDC機能を低減させることができる。本発明の操作後の抗体と元の抗体は、同じ部位に対するものであるが、抗体のサブクラス又はグリコシル化が異なり、本発明の操作後の抗体は安定性が大幅に向上し、又は/及び、免疫原性が大幅に低下し、半減期が延長された。操作後の抗体は、ADCC/CDC機能が除去されたため、本発明の技術により操作された抗体は、ADCC/CDC機能による副反応を効果的に回避し、治療効果を高めることができ、臨床応用価値に優れ、普及に適し、高い経済的価値と幅広い市場見通しを持っている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
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