(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/1761 20060101AFI20221213BHJP
B62L 3/08 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B60T8/1761
B62L3/08
(21)【出願番号】P 2021541334
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(86)【国際出願番号】 IB2020057680
(87)【国際公開番号】W WO2021033107
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2019150506
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康二
(72)【発明者】
【氏名】小野 俊作
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特許第3515665(JP,B2)
【文献】特許第3585651(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/1761
B62L 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗り型車両(100)の挙動を制御する制御装置(60)であって、
対象車輪(3)のブレーキ液圧を減少させる減圧制御と、前記ブレーキ液圧を保持する液圧保持制御と、前記ブレーキ液圧を増大させる増圧制御とが、その順に連続して実行される制御フローが、少なくとも1度行われるアンチロックブレーキ制御を実行可能な制御部(62)を備え、
前記制御部(62)は、前記制御フローの実行中において、前記液圧保持制御から前記減圧制御へ移行するモード又は前記液圧保持制御から前記増圧制御への移行が禁止されるモードを実行するか否かを前記対象車輪(3)の車輪速に基づいて判定する、
制御装置。
【請求項2】
前記モードを実行するか否かの判定基準には、前記制御フローの実行中における前記車輪速が上昇する際の前記車輪速の変化度合いが基準値以下である又は基準値より小さいとの条件が含まれる、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記モードを実行するか否かの判定基準には、前記制御フローの実行中における前記車輪速が下降した後において、前記車輪速が前記減圧制御の開始時点における前記車輪速と対応する基準値以下である又は基準値より小さいとの条件が含まれる、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記モードを実行するか否かの判定基準には、前記制御フローの実行中における前記車輪速が下降する際の前記車輪速の変化度合いが基準値以上である又は基準値より大きいとの条件が含まれる、
請求項2又は3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記鞍乗り型車両(100)には、前記ブレーキ液圧を減少させるために開放される弛め弁(32)が設けられており、
前記制御部(62)は、前記減圧制御において前記弛め弁(32)が開放されている時間に基づいて、前記基準値を変化させる、
請求項2~4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御部(62)は、前記鞍乗り型車両(100)の走行路の路面状況に関する情報に基づいて、前記基準値を変化させる、
請求項2~5のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記鞍乗り型車両(100)には、車輪速センサとして、少なくとも前輪(3)用の車輪速センサ(43)が設けられており、
前記制御部(62)は、前輪(3)のみを対象として前記アンチロックブレーキ制御を実行可能である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記鞍乗り型車両(100a)には、車輪速センサとして、前輪(3)用の車輪速センサ(43)及び後輪(4)用の車輪速センサ(44)が設けられており、
前記制御部(62)は、前輪(3)及び後輪(4)の各々を対象として前記アンチロックブレーキ制御を実行可能である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項9】
鞍乗り型車両(100)の挙動を制御する制御方法であって、
制御装置(60)の、対象車輪(3)のブレーキ液圧を減少させる減圧制御と、前記ブレーキ液圧を保持する液圧保持制御と、前記ブレーキ液圧を増大させる増圧制御とが、その順に連続して実行される制御フローが、少なくとも1度行われるアンチロックブレーキ制御を実行可能な制御部(62)が、前記制御フローの実行中において、前記液圧保持制御から前記減圧制御へ移行するモード又は前記液圧保持制御から前記増圧制御への移行が禁止されるモードを実行するか否かを前記対象車輪(3)の車輪速に基づいて判定する、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、鞍乗り型車両の挙動を適切に安定化させることができる制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータサイクル等の鞍乗り型車両の挙動を制御する制御装置として、アンチロックブレーキ制御を実行可能なものがある。アンチロックブレーキ制御では、例えば、特許文献1に開示されているように、対象車輪(つまり、ブレーキ液圧の制御の対象となる車輪)のスリップ率が許容スリップ率より大きくなった場合に、当該対象車輪のブレーキ液圧を減少させる減圧制御が行われる。それにより、下降している対象車輪の車輪速を上昇させる(つまり、回復させる)ことができるので、当該対象車輪がロックすることを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、鞍乗り型車両のアンチロックブレーキ制御に関する分野では、鞍乗り型車両の挙動をより適切に安定化させることが望ましいと考えられる。具体的には、アンチロックブレーキ制御では、対象車輪のブレーキ液圧を減少させる減圧制御と、当該ブレーキ液圧を保持する液圧保持制御と、当該ブレーキ液圧を増大させる増圧制御とが、その順に連続して実行される制御フローが、少なくとも1度行われる。アンチロックブレーキ制御は、上述したように、対象車輪のスリップ率に基づいて実行される。
【0005】
ここで、スリップ率の特定は、車輪速センサの検出値を用いて推定される車速(つまり、車体の速度)である推定車速に基づいて行われる。しかしながら、車輪速センサの検出値を用いた車速の推定では、推定車速が実際の車速よりも低くなってしまう場合があった。それにより、特定されるスリップ率が実際のスリップ率と相違することに起因して、減圧制御における減圧量(つまり、ブレーキ液圧の減少量)が不足し、減圧後のブレーキ液圧(つまり、液圧保持制御において保持されるブレーキ液圧)が適正値よりも高くなってしまう場合があった。このような場合には、対象車輪の車輪速の回復が緩慢になり、対象車輪の車輪速が十分に回復する前に増圧制御が実行されることによって、鞍乗り型車両の挙動が不安定になるおそれがあった。
【0006】
本発明は、上述の課題を背景としてなされたものであり、鞍乗り型車両の挙動を適切に安定化させることができる制御装置及び制御方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制御装置は、鞍乗り型車両の挙動を制御する制御装置であって、対象車輪のブレーキ液圧を減少させる減圧制御と、前記ブレーキ液圧を保持する液圧保持制御と、前記ブレーキ液圧を増大させる増圧制御とが、その順に連続して実行される制御フローが、少なくとも1度行われるアンチロックブレーキ制御を実行可能な制御部を備え、前記制御部は、前記制御フローの実行中において、前記液圧保持制御から前記減圧制御へ移行するモード又は前記液圧保持制御から前記増圧制御への移行が禁止されるモードを実行するか否かを前記対象車輪の車輪速に基づいて判定する。
【0008】
本発明に係る制御方法は、鞍乗り型車両の挙動を制御する制御方法であって、制御装置の、対象車輪のブレーキ液圧を減少させる減圧制御と、前記ブレーキ液圧を保持する液圧保持制御と、前記ブレーキ液圧を増大させる増圧制御とが、その順に連続して実行される制御フローが、少なくとも1度行われるアンチロックブレーキ制御を実行可能な制御部が、前記制御フローの実行中において、前記液圧保持制御から前記減圧制御へ移行するモード又は前記液圧保持制御から前記増圧制御への移行が禁止されるモードを実行するか否かを前記対象車輪の車輪速に基づいて判定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る制御装置及び制御方法では、対象車輪のブレーキ液圧を減少させる減圧制御と、当該ブレーキ液圧を保持する液圧保持制御と、当該ブレーキ液圧を増大させる増圧制御とが、その順に連続して実行される制御フローが、少なくとも1度行われるアンチロックブレーキ制御を実行可能な制御部が、制御フローの実行中において、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモード又は液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモードを実行するか否かを対象車輪の車輪速に基づいて判定する。それにより、減圧制御における減圧量の不足により対象車輪の車輪速の回復が緩慢になっている場合に、対象車輪の車輪速が十分に回復する前に増圧制御が実行されることを抑制することができる。ゆえに、鞍乗り型車両の挙動を適切に安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る制御装置が搭載されるモータサイクルの概略構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るブレーキシステムの概略構成を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る制御装置が行うアンチロックブレーキ制御に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図5】高μ路の走行時における各状態量の推移の一例を示す図である。
【
図6】低μ路の走行時における各状態量の推移の一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る制御装置が搭載される他の例に係るモータサイクルの概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る制御装置について、図面を用いて説明する。なお、以下では、二輪のモータサイクルに用いられる制御装置について説明しているが、本発明に係る制御装置は、二輪のモータサイクル以外の鞍乗り型車両(例えば、三輪のモータサイクル、バギー車、自転車等)に用いられるものであってもよい。なお、鞍乗り型車両は、ライダーが跨って乗車する車両を意味し、スクーター等も含む。
【0012】
また、以下で説明する構成及び動作等は一例であり、本発明に係る制御装置及び制御方法は、そのような構成及び動作等である場合に限定されない。
【0013】
また、以下では、同一の又は類似する説明を適宜簡略化又は省略している。また、各図において、同一の又は類似する部材又は部分については、符号を付すことを省略しているか、又は同一の符号を付している。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略している。
【0014】
<モータサイクルの構成>
図1~
図3を参照して、本発明の実施形態に係る制御装置60が搭載されるモータサイクル100の構成について説明する。
【0015】
図1は、制御装置60が搭載されるモータサイクル100の概略構成を示す模式図である。
図2は、ブレーキシステム10の概略構成を示す模式図である。なお、
図2では、前輪制動機構12のみが示されており、後輪制動機構14の図示は省略されている。
図3は、制御装置60の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0016】
モータサイクル100は、
図1に示されるように、胴体1と、胴体1に旋回自在に保持されているハンドル2と、胴体1にハンドル2と共に旋回自在に保持されている前輪3と、胴体1に回動自在に保持されている後輪4と、ブレーキシステム10と、前輪車輪速センサ43とを備える。本実施形態では、制御装置(ECU)60は、後述されるブレーキシステム10の液圧制御ユニット50に設けられている。
【0017】
モータサイクル100のブレーキシステム10では、前輪3のみを対象としてアンチロックブレーキ制御を実行できるようになっている。具体的には、ブレーキシステム10は、
図1及び
図2に示されるように、第1ブレーキ操作部11と、少なくとも第1ブレーキ操作部11に連動して前輪3を制動する前輪制動機構12と、第2ブレーキ操作部13と、第2ブレーキ操作部13に連動して後輪4を制動する後輪制動機構14とを備える。また、ブレーキシステム10は、液圧制御ユニット50を備え、前輪制動機構12の一部は、当該液圧制御ユニット50に含まれる。液圧制御ユニット50は、前輪制動機構12によって前輪3に生じる制動力を制御する機能を担うユニットである。
【0018】
第1ブレーキ操作部11は、ハンドル2に設けられており、ライダーの手によって操作される。第1ブレーキ操作部11は、例えば、ブレーキレバーである。第2ブレーキ操作部13は、胴体1の下部に設けられており、ライダーの足によって操作される。第2ブレーキ操作部13は、例えば、ブレーキペダルである。
【0019】
前輪制動機構12は、ピストン(図示省略)を内蔵しているマスタシリンダ21と、マスタシリンダ21に付設されているリザーバ22と、胴体1に保持され、ブレーキパッド(図示省略)を有しているブレーキキャリパ23と、ブレーキキャリパ23に設けられているホイールシリンダ24と、マスタシリンダ21のブレーキ液をホイールシリンダ24に流通させる主流路25と、ホイールシリンダ24のブレーキ液を逃がす副流路26とを備える。
【0020】
主流路25には、込め弁(EV)31が設けられている。副流路26は、主流路25のうちの、込め弁31に対するホイールシリンダ24側とマスタシリンダ21側との間をバイパスする。副流路26には、上流側から順に、弛め弁(AV)32と、アキュムレータ33と、ポンプ34とが設けられている。
【0021】
込め弁31は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。弛め弁32は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。
【0022】
液圧制御ユニット50は、込め弁31、弛め弁32、アキュムレータ33及びポンプ34を含むブレーキ液圧を制御するためのコンポーネントと、それらのコンポーネントが設けられ、主流路25及び副流路26を構成するための流路が内部に形成されている基体51と、制御装置60とを含む。
【0023】
なお、基体51は、1つの部材によって形成されていてもよく、複数の部材によって形成されていてもよい。また、基体51が複数の部材によって形成されている場合、各コンポーネントは、異なる部材に分かれて設けられていてもよい。
【0024】
液圧制御ユニット50の上記のコンポーネントの動作は、制御装置60によって制御される。それにより、前輪制動機構12によって前輪3に生じる制動力が制御される。
【0025】
例えば、通常時(つまり、アンチロックブレーキ制御が実行されていない時)には、制御装置60によって、込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖される。その状態で、第1ブレーキ操作部11が操作されると、前輪制動機構12において、マスタシリンダ21のピストン(図示省略)が押し込まれてホイールシリンダ24のブレーキ液圧(つまり、前輪3のブレーキ液圧)が増大し、ブレーキキャリパ23のブレーキパッド(図示省略)が前輪3のロータ3aに押し付けられて、前輪3に制動力が生じる。
【0026】
後輪制動機構14は、前輪制動機構12と同様に、ピストンを内蔵しているマスタシリンダと、マスタシリンダに付設されているリザーバと、胴体1に保持され、ブレーキパッドを有しているブレーキキャリパと、ブレーキキャリパに設けられているホイールシリンダとを備えている。ここで、後輪制動機構14には、前輪制動機構12と異なり、各種コンポーネントを含む液圧制御ユニットは設けられず、マスタシリンダとホイールシリンダとがブレーキ液を流通させる流路によって直結されている。
【0027】
ゆえに、後輪制動機構14では、ライダーによる第2ブレーキ操作部13の操作量に応じた制動力が後輪4に生じるようになっている。具体的には、第2ブレーキ操作部13が操作されると、後輪制動機構14において、マスタシリンダのピストンが押し込まれてホイールシリンダのブレーキ液圧が増大し、ブレーキキャリパのブレーキパッドが後輪4のロータに押し付けられて、後輪4に制動力が生じる。
【0028】
前輪車輪速センサ43は、前輪3の車輪速(例えば、前輪3の単位時間当たりの回転数[rpm]又は単位時間当たりの移動距離[km/h]等)を検出する前輪3用の車輪速センサであり、検出結果を出力する。前輪車輪速センサ43が、前輪3の車輪速に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。前輪車輪速センサ43は、前輪3に設けられている。
【0029】
制御装置60は、モータサイクル100の挙動を制御する。
【0030】
例えば、制御装置60の一部又は全ては、マイコン、マイクロプロセッサユニット等で構成されている。また、例えば、制御装置60の一部又は全ては、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。制御装置60は、例えば、1つであってもよく、また、複数に分かれていてもよい。
【0031】
制御装置60は、
図3に示されるように、例えば、取得部61と、制御部62とを備える。
【0032】
取得部61は、モータサイクル100に搭載されている各装置から出力される情報を取得し、制御部62へ出力する。例えば、取得部61は、前輪車輪速センサ43から出力される情報を取得する。
【0033】
制御部62は、モータサイクル100の挙動を制御するために、モータサイクル100に生じる制動力を制御する。特に、制御部62は、前輪3を対象としてアンチロックブレーキ制御を実行可能である。
【0034】
なお、制御装置60がモータサイクル100に搭載される場合には、制御部62は、前輪3のみを対象としてアンチロックブレーキ制御を実行可能であるが、後述するように、制御装置60が他の構成を備えるモータサイクルに搭載される場合には、制御部62は、前輪3及び後輪4の各々を対象としてアンチロックブレーキ制御を実行可能であってもよい。
【0035】
制御部62は、例えば、プログラムと協働して機能する、判定部62aと、制動制御部62bとを含む。
【0036】
判定部62aは、各種判定を行い、判定結果を制動制御部62bに出力する。判定部62aによる判定結果は、制動制御部62bが行う制御に利用される。特に、判定部62aは、アンチロックブレーキ制御における後述する制御フロー(つまり、減圧制御と、液圧保持制御と、増圧制御とが、その順に連続して実行される制御フロー)の実行中において、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモード又は液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止される(具体的には、一時的に禁止される)モードを実行するか否かを判定する。
【0037】
制動制御部62bは、ブレーキシステム10の液圧制御ユニット50の各コンポーネントの動作を制御することによって、前輪3に生じる制動力を制御する。
【0038】
通常時には、制動制御部62bは、上述したように、ライダーによる第1ブレーキ操作部11の操作量に応じた制動力が前輪3に生じるように、液圧制御ユニット50の各コンポーネントの動作を制御する。
【0039】
ここで、制動制御部62bは、前輪3にロック又はロックの可能性が生じた場合に、アンチロックブレーキ制御を実行する。アンチロックブレーキ制御は、前輪3に生じる制動力を、ロックを回避し得るような制動力に調整する制御である。具体的には、アンチロックブレーキ制御では、前輪3のブレーキ液圧を減少させる減圧制御と、前輪3のブレーキ液圧を保持する液圧保持制御と、前輪3のブレーキ液圧を増大させる増圧制御とが、その順に連続して実行される制御フローが、少なくとも1度行われる。
【0040】
また、制動制御部62bは、上記制御フローの実行中において、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモード又は液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモードを実行すると判定した場合、上記モード(つまり、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモード又は液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモード)を実行し、増圧制御を一時的に禁止する。例えば、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定した場合、制動制御部62bは、増圧制御を禁止した上で、前輪3のブレーキ液圧をさらに減少させる追加の減圧制御を実行する。
【0041】
ところで、アンチロックブレーキ制御は、推定車速を用いて特定される前輪3のスリップ率に基づいて行われる。ここで、車速の推定は前輪車輪速センサ43の検出値を用いて行われるので、推定車速が実際の車速よりも低くなってしまう場合がある。それにより、特定されるスリップ率が実際のスリップ率と相違することに起因して、減圧制御における減圧量(つまり、前輪3のブレーキ液圧の減少量)が不足してしまうことにより、減圧後のブレーキ液圧が適正値よりも高くなってしまう場合がある。例えば、スリップ率が実際の値よりも小さく見積もられることにより減圧制御が開始されるタイミングが遅れることに起因して減圧制御の開始時点でのブレーキ液圧が高くなる結果として、減圧後のブレーキ液圧が適正値よりも高くなってしまう場合がある。このように減圧制御における減圧量が不足する場合、前輪3の車輪速の回復が緩慢になり、前輪3の車輪速が十分に回復する前に増圧制御が実行されることによって、モータサイクル100の挙動が不安定になるおそれがある。
【0042】
上記のように、制御装置60では、制御部62は、アンチロックブレーキ制御における制御フローの実行中において、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモード又は液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモードを実行するか否かを判定する。ここで、制御部62は、上記モード(つまり、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモード又は液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモード)を実行するか否かを前輪3の車輪速に基づいて判定する。それにより、モータサイクル100の挙動を適切に安定化させることが実現される。このような制御装置60が行うアンチロックブレーキ制御に関する処理の詳細については、後述する。
【0043】
<制御装置の動作>
図4~
図6を参照して、本発明の実施形態に係る制御装置60の動作について説明する。
【0044】
図4は、制御装置60が行うアンチロックブレーキ制御に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図4に示される制御フローは、減圧制御と、液圧保持制御と、増圧制御とが、その順に連続して実行される制御フローに相当し、具体的には、制御装置60の制御部62によって繰り返し行われる。また、
図4におけるステップS510及びステップS590は、
図4に示される制御フローの開始及び終了にそれぞれ対応する。
【0045】
図4に示される制御フローが開始されると、ステップS511において、判定部62aは、アンチロックブレーキ制御の対象車輪である前輪3にロック又はロックの可能性が生じているか否かを判定する。
【0046】
判定部62aは、具体的には、前輪車輪速センサ43により検出される前輪3の車輪速に基づいてモータサイクル100の車速を推定し、このように推定される車速である推定車速を用いて特定される前輪3のスリップ率に基づいて、前輪3にロック又はロックの可能性が生じているか否かを判定する。例えば、判定部62aは、推定車速と前輪3の車輪速との差を推定車速で除することにより前輪3のスリップ率を算出し、当該スリップ率が許容スリップ率より大きい場合に、前輪3にロック又はロックの可能性が生じていると判定する。許容スリップ率は、前輪3にロック又はロックの可能性が生じているか否かを適切に判断し得るように設定される値であり、車両の仕様に応じて適宜設定され得る。
【0047】
ステップ511において、前輪3にロック又はロックの可能性が生じていないと判定された場合(ステップS511/NO)、ステップS511の判定処理が繰り返される。一方、前輪3にロック又はロックの可能性が生じていると判定された場合(ステップS511/YES)、以下で説明するように、減圧制御、液圧保持制御及び増圧制御がその順に連続して実行される。この場合、具体的には、まず、ステップS513に進み、減圧制御が実行される。
【0048】
減圧制御では、具体的には、制動制御部62bは、込め弁31が閉鎖され弛め弁32が開放された状態にすることにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液圧(つまり、前輪3のブレーキ液圧)を減少させて前輪3に生じる制動力を減少させる。その際に、ホイールシリンダ24のブレーキ液圧の減少分に対応するブレーキ液は、アキュムレータ33に流れ込む。アキュムレータ33に流れ込んだブレーキ液は、ポンプ34が駆動されることによって、副流路26を介して主流路25におけるマスタシリンダ21側に戻される。
【0049】
ここで、減圧制御の開始時点で減圧量(後述する
図5,6におけるブレーキ液圧P
Wの差ΔP
1,ΔP
2と対応)の目標値である目標減圧量が決定される。なお、目標減圧量は、各種パラメータなどを用いる等、周知の技術により決定されるものでよい。そして、減圧制御において弛め弁32が開放されている時間である弛め弁開放時間(後述する
図5,6における弛め弁開放時間ΔT
1,ΔT
2と対応)が、減圧制御の開始時点で決定された目標減圧量に基づいて決定される。制動制御部62bは、減圧制御において、込め弁31が閉鎖され、弛め弁32が開放された状態を、このように決定される弛め弁開放時間だけ維持する。
【0050】
次に、ステップS515において、制動制御部62bは、液圧保持制御を実行する。
【0051】
液圧保持制御では、具体的には、制動制御部62bは、込め弁31が閉鎖され弛め弁32が開放された状態を込め弁31及び弛め弁32の双方が閉鎖された状態にすることにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液圧を保持して前輪3に生じる制動力を保持する。
【0052】
次に、ステップS517において、判定部62aは、基準時間(後述する
図5,6における基準時間T
baseと対応)が経過したか否かを判定する。基準時間が経過したと判定された場合(ステップS517/YES)、ステップS521に進む。一方、基準時間が経過していないと判定された場合(ステップS517/NO)、ステップS519に進む。
【0053】
後述するように、ステップS517で基準時間が経過したと判定された場合に液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かが判定される。また、当該判定では、減圧制御における減圧量の不足により前輪3の車輪速の回復が緩慢になっていることが想定される場合に、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定される。ゆえに、基準時間は、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かの判定のタイミングが減圧制御における減圧量の不足により前輪3の車輪速の回復が緩慢になっているか否かを適切に判断し得るタイミングとなるような時間に適宜設定される。
【0054】
ステップS517でNOと判定された場合、ステップS519において、判定部62aは、増圧制御の実行条件が満たされたか否かを判定する。増圧制御の実行条件が満たされたと判定された場合(ステップS519/YES)、ステップS525に進み、後述するように、増圧制御が実行される。一方、増圧制御の実行条件が満たされていないと判定された場合(ステップS519/NO)、ステップS517の判定処理に戻る。
【0055】
増圧制御の実行条件は、例えば、前輪3の車輪速と推定車速との差が基準差より小さくなったとの条件である。基準差は、前輪3の車輪速が推定車速程度まで十分に回復したか否かを適切に判断し得る値に設定される。
【0056】
ステップS517でYESと判定された場合、ステップS521において、判定部62aは、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かを判定する。液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定された場合(ステップS521/YES)、ステップS527に進む。一方、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定されなかった場合(ステップS521/NO)、ステップS523に進む。
【0057】
上述したステップS521の判定処理では、具体的には、減圧制御における減圧量の不足により前輪3の車輪速の回復が緩慢になっていることが想定される場合に、判定部62aは、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定する。
【0058】
上述したように、判定部62aは、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かをアンチロックブレーキ制御の対象車輪である前輪3の車輪速に基づいて判定する。ここで、判定部62aは、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かの判定基準として、種々の条件を用いることができる。以下、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かの判定基準に含まれ得る条件の例として、第1条件、第2条件及び第3条件を説明する。
【0059】
第1条件は、
図4に示される制御フローの実行中における前輪3の車輪速が上昇する際の当該車輪速の変化度合いが基準値以下である又は基準値より小さいとの条件である。ところで、減圧制御の開始時点では前輪3の車輪速は下降しているものの、
図4に示される制御フローの実行中において、減圧制御により前輪3のブレーキ液圧が減少することによって、当該車輪速が下降している状態から当該車輪速が上昇している状態への遷移が生じる。このように前輪3の車輪速が上昇する際の当該車輪速の変化度合いは、減圧制御における減圧量の不足により前輪3の車輪速の回復が緩慢になることにより、小さくなる傾向がある。ゆえに、第1条件が満たされる場合に液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定することによって、減圧制御における減圧量の不足により前輪3の車輪速の回復が緩慢になっている場合に増圧制御を適切に禁止することができる。
【0060】
なお、上記の変化度合いとしては、例えば、前輪3の車輪速の上昇中における互いに異なる2つの時刻での車輪速の差を当該2つの時刻の間での時間間隔で除して得られる値が用いられてもよい。また、上記の変化度合いとしては、例えば、前輪3の車輪速の上昇中における各時刻での車輪速の時間変化率の平均値又は最大値が用いられてもよい。
【0061】
第2条件は、
図4に示される制御フローの実行中における前輪3の車輪速が下降した後において、前輪3の車輪速が減圧制御の開始時点における当該車輪速と対応する基準値以下である又は基準値より小さいとの条件である。上述したように、
図4に示される制御フローの実行中において、減圧制御により前輪3のブレーキ液圧が減少することによって、当該車輪速が下降している状態から当該車輪速が上昇している状態への遷移が生じる。前輪3の車輪速が下降した後に上昇して到達し得る値の上限は、減圧制御における減圧量の不足により前輪3の車輪速の回復が緩慢になることにより、小さくなる傾向がある。ゆえに、第2条件が満たされる場合に液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定することによって、減圧制御における減圧量の不足により前輪3の車輪速の回復が緩慢になっている場合に増圧制御を適切に禁止することができる。
【0062】
なお、上記の基準値は、前輪3の車輪速が下降した後において、前輪3の車輪速が減圧制御の開始時点における当該車輪速程度まで到達したか否かを適切に判断し得る値に設定される。上記の基準値としては、例えば、減圧制御の開始時点における前輪3の車輪速よりも大きい値が用いられてもよく、減圧制御の開始時点における前輪3の車輪速よりも小さい値が用いられてもよく、減圧制御の開始時点における前輪3の車輪速と一致する値が用いられてもよい。
【0063】
第3条件は、
図4に示される制御フローの実行中における前輪3の車輪速が下降する際の当該車輪速の変化度合いが基準値以上である又は基準値より大きいとの条件である。上述したように、減圧制御の開始時点では前輪3の車輪速は下降しているので、
図4に示される制御フローの実行中において、前輪3の車輪速が上昇し始めるより前に当該車輪速は下降している。このように前輪3の車輪速が下降する際の当該車輪速の変化度合いは、減圧制御の開始時点での前輪3のブレーキ液圧と、前輪3と路面(つまり、前輪3が接地している路面)との間の摩擦係数と、の関係を表している。具体的には、当該摩擦係数に対して前輪3のブレーキ液圧が高い場合、前輪3の車輪速が下降する際の当該車輪速の変化度合いは大きくなる傾向となり、当該摩擦係数に対して前輪3のブレーキ液圧が低い場合、前輪3の車輪速が下降する際の当該車輪速の変化度合いは小さくなる傾向となる。ゆえに、前輪3の車輪速が下降する際の当該車輪速の変化の度合いが大きいほど、減圧制御における減圧量の不足により前輪3の車輪速の回復が緩慢となる可能性が高くなることを示唆し得る。よって、第3条件が満たされる場合に液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定することによって、減圧制御における減圧量の不足により前輪3の車輪速の回復が緩慢になっている場合に増圧制御を適切に禁止することができる。
【0064】
なお、上記の変化度合いとしては、例えば、前輪3の車輪速の下降中における互いに異なる2つの時刻での車輪速の差を当該2つの時刻の間での時間間隔で除して得られる値が用いられてもよい。また、上記の変化度合いとしては、例えば、前輪3の車輪速の下降中における各時刻での車輪速の時間変化率の平均値又は最大値が用いられてもよい。
【0065】
判定部62aは、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かの判定基準として、上記で説明した第1条件、第2条件及び第3条件の全てを用いてもよく、一部のみを用いてもよい。例えば、判定部62aは、第1条件、第2条件及び第3条件の全てが満たされる場合に、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定してもよい。また、例えば、判定部62aは、第1条件、第2条件及び第3条件のうちの少なくとも2つの条件が満たされる場合に、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定してもよい。また、例えば、判定部62aは、第1条件、第2条件及び第3条件のうちの少なくとも1つの条件が満たされる場合に、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定してもよい。
【0066】
上記で説明した第1条件、第2条件及び第3条件の各条件における基準値は、減圧制御における減圧量の不足により前輪3の車輪速の回復が緩慢になっているか否かを適切に判断し得る値に適宜設定される。
【0067】
ここで、減圧制御における減圧量が不足している場合に液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると適切に判定する観点では、制御部62は、ステップS513の減圧制御において弛め弁32が開放されている時間(つまり、弛め弁開放時間)に基づいて、上記の各種条件における基準値を変化させることが好ましい。
【0068】
また、上記と同様の観点では、制御部62は、モータサイクル100の走行路の路面状況に関する情報に基づいて、上記の各種条件における基準値を変化させることが好ましい。上記の路面状況に関する情報としては、例えば、走行路の摩擦係数の程度を示す情報(例えば、走行路が低μ路であるか高μ路であるかを示す情報)が用いられ得る。なお、低μ路は、比較的低い摩擦係数を有する路面(例えば、凍結した路面等)を意味し、高μ路は、低μ路と比較して高い摩擦係数を有する路面(例えば、乾いたアスファルト路面等)を意味する。
【0069】
ステップS521でNOと判定された場合、ステップS523において、判定部62aは、増圧制御の実行条件が満たされたか否かを判定する。増圧制御の実行条件が満たされたと判定された場合(ステップS523/YES)、ステップS525に進む。一方、増圧制御の実行条件が満たされていないと判定された場合(ステップS523/NO)、ステップS523の判定処理が繰り返される。
【0070】
ステップS523でYESと判定された場合、ステップS525において、制動制御部62bは、増圧制御を実行し、
図4に示される制御フローは終了する。
【0071】
増圧制御では、具体的には、制動制御部62bは、込め弁31及び弛め弁32の双方が閉鎖された状態を込め弁31が開放され弛め弁32が閉鎖された状態にすることにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液圧を増大させて前輪3に生じる制動力を増大させる。
【0072】
ステップS521でYESと判定された場合、ステップS527において、制動制御部62bは、追加の減圧制御を実行する。追加の減圧制御は、液圧保持制御の実行中に前輪3のブレーキ液圧をさらに減少させる制御である。
【0073】
追加の減圧制御では、具体的には、制動制御部62bは、込め弁31及び弛め弁32の双方が閉鎖された状態を込め弁31が閉鎖され弛め弁32が開放された状態にすることにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液圧を減少させて前輪3に生じる制動力を減少させる。その際に、ステップS513の減圧制御と同様に、ホイールシリンダ24のブレーキ液圧の減少分に対応するブレーキ液は、アキュムレータ33に流れ込む。アキュムレータ33に流れ込んだブレーキ液は、ポンプ34が駆動されることによって、副流路26を介して主流路25におけるマスタシリンダ21側に戻される。
【0074】
ここで、追加の減圧制御において弛め弁32が開放されている時間は、ステップS513の減圧制御における減圧量の不足分を追加の減圧制御により適切に補完しつつ、前輪3に生じる制動力が過度に小さくならないように適宜設定される。
【0075】
次に、ステップS529において、判定部62aは、増圧制御の許可条件が満たされたか否かを判定する。増圧制御の許可条件が満たされたと判定された場合(ステップS529/YES)、ステップS525に進み、上述したように、増圧制御が実行される。一方、増圧制御の許可条件が満たされていないと判定された場合(ステップS529/NO)、ステップS529の判定処理が繰り返される。
【0076】
増圧制御の許可条件は、例えば、前輪3の車輪速が上昇している状態から当該車輪速が下降している状態への遷移が生じたとの条件である。
【0077】
このように、
図4に示される制御フローでは、ステップS521でYESと判定された場合、増圧制御の許可条件が満たされるまでの間、増圧制御の実行条件が満たされるか否かにかかわらず、増圧制御が禁止される。ここで、制御部62は、ステップS521において、上述したように、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かを前輪3の車輪速に基づいて判定する。それにより、減圧制御における減圧量の不足により前輪3の車輪速の回復が緩慢になっている場合に、前輪3の車輪速が十分に回復する前に増圧制御が実行されることを抑制することができる。ゆえに、モータサイクル100の挙動を適切に安定化させることができる。
【0078】
ここで、
図5及び
図6を参照して、
図4に示される制御フローが制御部62により実行される場合のモータサイクル100の走行時における各状態量の推移の例について説明する。
【0079】
図5は、高μ路の走行時における各状態量の推移の一例を示す図である。
図6は、低μ路の走行時における各状態量の推移の一例を示す図である。
図5及び
図6では、状態量として、実際の車速V
Bと、推定車速V
B_estと、前輪3の車輪速V
Wと、前輪3のブレーキ液圧P
Wと、弛め弁32を開放させるための制御信号S
Vの推移が示されている。制御信号S
Vが他の時刻と比べて高くなっている時刻は、弛め弁32が開放されている時刻を意味する。なお、
図5及び
図6は、縦軸を各状態量の値を示す軸とし、横軸を時間軸として示されている。
【0080】
上述したように、車速の推定は前輪車輪速センサ43の検出値を用いて行われるので、
図5及び
図6に示されるように、推定車速V
B_estが実際の車速V
Bよりも低くなってしまう場合がある。アンチロックブレーキ制御は、このような推定車速V
B_estを用いて特定される前輪3のスリップ率に基づいて行われる。それにより、減圧制御における減圧量が不足して、車輪速V
Wの回復が緩慢になってしまう場合がある。
【0081】
図5に示される高μ路の走行時の例は、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かの判定で当該モードを実行すると判定されない例に相当する。この場合は、減圧制御における減圧量が十分に確保されている場合に相当する。一方、
図6に示される低μ路の走行時の例は、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かの判定で当該モードを実行すると判定される例に相当する。この場合は、減圧制御における減圧量が不足して車輪速V
Wの回復が緩慢になっている場合に相当する。低μ路の走行時には、高μ路の走行時と比較して、前輪3にロックが生じることを抑制するためにブレーキ液圧P
Wをより小さくする必要があり、減圧制御による減圧後のブレーキ液圧P
Wの適正範囲が狭い。ゆえに、低μ路の走行時には、減圧制御における減圧量の不足が特に生じやすいので、前輪3の車輪速の回復が特に緩慢になりやすい。
【0082】
以下で説明する
図5及び
図6に示される例では、判定部62aは、上記で説明した第1条件、第2条件及び第3条件の全てが満たされる場合に、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定する。なお、上述したように、第1条件は、
図4に示される制御フローの実行中における車輪速V
Wが上昇する際の車輪速V
Wの変化度合いが基準値以下である又は基準値より小さいとの条件である。第2条件は、
図4に示される制御フローの実行中における車輪速V
Wが下降した後において、車輪速V
Wが減圧制御の開始時点における車輪速(後述する
図5,6における車輪速V
1,V
2と対応)と対応する基準値以下である又は基準値より小さいとの条件である。第3条件は、
図4に示される制御フローの実行中における車輪速V
Wが下降する際の車輪速V
Wの変化度合いが基準値以上である又は基準値より大きいとの条件である。
【0083】
まず、
図5を参照して、高μ路の走行時における各状態量の推移の例について説明する。なお、
図5及び後述する
図6では、ライダーによりブレーキ操作が行われている状況下での各状態量の推移が示されている。
【0084】
図5に示される例では、時刻t11において、前輪3にロック又はロックの可能性が生じたと判定され、減圧制御が開始される。それにより、時刻t11において、弛め弁32が開放され、ブレーキ液圧P
Wが減少し始める。その後、時刻t11から弛め弁開放時間ΔT
1が経過した時刻t12において、弛め弁32が閉鎖され、ブレーキ液圧P
Wの減少が止まる。つまり、時刻t12において、液圧保持制御が開始される。
図5に示される例における減圧量は、減圧制御の開始時点である時刻t11におけるブレーキ液圧P
Wと減圧制御の終了時点である時刻t12におけるブレーキ液圧P
Wとの差ΔP
1に相当する。
【0085】
時刻t12以後において、ブレーキ液圧PWが時刻t12における値に保持される。そして、時刻t13において、車輪速VWが下降している状態から車輪速VWが上昇している状態への遷移が生じる。その後、減圧制御の終了時点(つまり、液圧保持制御の開始時点)である時刻t12から基準時間Tbaseが経過した時刻t14において、判定部62aは、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かを判定する。
【0086】
図5に示される例では、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かの判定基準として用いられる第1条件、第2条件及び第3条件のうち、第1条件及び第3条件が満たされず、第2条件のみ満たされている。ゆえに、時刻t14において、判定部62aは、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定しない。
【0087】
具体的には、第1条件に関し、
図5に示される例では、車輪速V
Wが矢印A12により示されるように上昇する期間P12(つまり、時刻t13から時刻t14までの間の期間)における車輪速V
Wの変化度合いが基準値より大きくなっている。よって、第1条件は満たされない。
【0088】
また、第3条件に関し、
図5に示される例では、車輪速V
Wが矢印A11により示されるように下降する期間P11(つまり、時刻t11から時刻t13までの間の期間)における車輪速V
Wの変化度合いが基準値より小さくなっている。よって、第3条件は満たされない。
【0089】
また、第2条件に関し、
図5に示される例では、車輪速V
Wが下降した後の期間P12において、車輪速V
Wが減圧制御の開始時点である時刻t11における車輪速V
1と対応する基準値V
base_1より小さくなっている。よって、第2条件は満たされる。なお、
図5に示される例では、基準値V
base_1は、減圧制御の開始時点における車輪速V
1より大きな値に設定されている。
【0090】
その後、時刻t15において、車輪速VWと推定車速VB_estとの差が基準差より小さくなったとの増圧制御の実行条件が満たされ、増圧制御が実行される。それにより、込め弁31が開放され、時刻t15以降において、ブレーキ液圧PWが増大する。
【0091】
図5に示される例では、上記のように、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かの判定で当該モードを実行すると判定されない。この場合は、減圧制御における減圧量が十分に確保されている場合に相当する。ゆえに、増圧制御が開始される時刻t15において、車輪速V
Wは、実際の車速V
B程度まで回復している。
【0092】
続いて、
図6を参照して、低μ路の走行時における各状態量の推移の例について説明する。なお、
図6では、本実施形態と異なり液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かの判定が行われず、増圧制御の実行条件が満たされるか否かに応じて増圧制御が実行される場合における各状態量の推移が破線により示されている。この場合については、後述する。
【0093】
図6に示される例では、時刻t21において、前輪3にロック又はロックの可能性が生じたと判定され、減圧制御が開始される。それにより、時刻t21において、弛め弁32が開放され、ブレーキ液圧P
Wが減少し始める。その後、時刻t21から弛め弁開放時間ΔT
2が経過した時刻t22において、弛め弁32が閉鎖され、ブレーキ液圧P
Wの減少が止まる。つまり、時刻t22において、液圧保持制御が開始される。
図6に示される例における減圧量は、減圧制御の開始時点である時刻t21におけるブレーキ液圧P
Wと減圧制御の終了時点である時刻t22におけるブレーキ液圧P
Wとの差ΔP
2に相当する。
【0094】
時刻t22以後において、ブレーキ液圧PWが時刻t22における値に保持される。そして、時刻t23において、車輪速VWが下降している状態から車輪速VWが上昇している状態への遷移が生じる。その後、減圧制御の終了時点(つまり、液圧保持制御の開始時点)である時刻t22から基準時間Tbaseが経過した時刻t24において、判定部62aは、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かを判定する。
【0095】
図6に示される例では、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かの判定基準として用いられる第1条件、第2条件及び第3条件の全てが満たされている。ゆえに、時刻t24において、判定部62aは、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定する。
【0096】
具体的には、第1条件に関し、
図6に示される例では、車輪速V
Wが矢印A22により示されるように上昇する期間P22(つまり、時刻t23から時刻t24までの間の期間)における車輪速V
Wの変化度合いが基準値より小さくなっている。よって、第1条件は満たされる。
【0097】
また、第3条件に関し、
図6に示される例では、車輪速V
Wが矢印A21により示されるように下降する期間P21(つまり、時刻t21から時刻t23までの間の期間)における車輪速V
Wの変化度合いが基準値より大きくなっている。よって、第3条件は満たされる。
【0098】
また、第2条件に関し、
図6に示される例では、車輪速V
Wが下降した後の期間P22において、車輪速V
Wが減圧制御の開始時点である時刻t21における車輪速V
2と対応する基準値V
base_2より小さくなっている。よって、第2条件は満たされる。なお、
図6に示される例では、
図5に示される例と同様に、基準値V
base_2は、減圧制御の開始時点における車輪速V
2より大きな値に設定されている。
【0099】
そして、時刻t24において、増圧制御が禁止された上で、追加の減圧制御が開始される。それにより、時刻t24において、弛め弁32が開放され、ブレーキ液圧PWが減少し始める。その後、時刻t25において、弛め弁32が閉鎖され、ブレーキ液圧PWの減少が止まり、時刻t25以後において、ブレーキ液圧PWが保持される。
【0100】
その後、時刻t27において、車輪速VWが上昇している状態から車輪速VWが下降している状態への遷移が生じたとの増圧制御の許可条件が満たされ、増圧制御が実行される。それにより、込め弁31が開放され、時刻t27以降において、ブレーキ液圧PWが増大する。
【0101】
ここで、本実施形態と異なり液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かの判定が行われず、増圧制御の実行条件が満たされるか否かに応じて増圧制御が実行される場合(
図6で破線により示される各状態量の推移と対応)について説明する。
【0102】
仮に、時刻t24で液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かの判定が行われない場合、時刻t26において、車輪速V
Wと推定車速V
B_estとの差が基準差より小さくなったとの増圧制御の実行条件が満たされ、増圧制御が実行される。それにより、込め弁31が開放され、時刻t26以降において、ブレーキ液圧P
Wが、
図6で破線により示されるように、増大する。ゆえに、車輪速V
Wが、
図6で破線により示されるように、実際の車速V
B程度まで回復していないにもかかわらず下降し始めてしまう。このように、従来の技術では、減圧制御における減圧量の不足により車輪速V
Wの回復が緩慢になることによって、車輪速V
Wが十分に回復する前に増圧制御が実行されてしまう場合があった。
【0103】
一方、本実施形態によれば、例えば、
図6に示される例では、時刻t24において、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行すると判定され、増圧制御が一時的に禁止される。ゆえに、車輪速V
Wが十分に回復する前に増圧制御が実行されることを抑制することができる。それにより、時刻t27において、車輪速V
Wが実際の車速V
B程度まで回復した状態で、増圧制御を開始させることができる。ゆえに、モータサイクル100の挙動を適切に安定化させることができる。
【0104】
なお、上記で説明した
図4に示される制御フローでは、ステップS521において、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かが判定されるが、制御部62は、ステップS521において、液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止される(具体的には、一時的に禁止される)モードを実行するか否かを判定してもよい。なお、この場合、ステップS521で液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモードを実行すると判定された場合(ステップS521/YES)、ステップS527が省略されてステップS529の判定処理に進む。ここで、制御部62は、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かを判定する場合と同様に、液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモードを実行するか否かを前輪3の車輪速に基づいて判定する。例えば、液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモードを実行するか否かの判定基準として、上述した第1条件、第2条件及び第3条件を、上述した例と同様に用いることができる。液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモードを実行すると判定された場合、増圧制御の許可条件が満たされるまでの間、増圧制御の実行条件が満たされるか否かにかかわらず、増圧制御が一時的に禁止される。ゆえに、前輪3の車輪速が十分に回復する前に増圧制御が実行されることを抑制することができる。しかしながら、前輪3の車輪速をより迅速に回復させる観点では、制御部62は、ステップS521において、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモードを実行するか否かを判定することが好ましい。
【0105】
<制御装置の効果>
本発明の実施形態に係る制御装置60の効果について説明する。
【0106】
制御装置60は、減圧制御と、液圧保持制御と、増圧制御とが、その順に連続して実行される制御フローが、少なくとも1度行われるアンチロックブレーキ制御を実行可能な制御部62を備える。また、制御部62は、アンチロックブレーキ制御における上記制御フローの実行中において、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモード又は液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモードを実行するか否かを対象車輪(例えば、前輪3)の車輪速に基づいて判定する。それにより、減圧制御における減圧量の不足により対象車輪の車輪速の回復が緩慢になっている場合に、対象車輪の車輪速が十分に回復する前に増圧制御が実行されることを抑制することができる。ゆえに、モータサイクル100の挙動を適切に安定化させることができる。
【0107】
好ましくは、制御装置60では、上記モード(つまり、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモード又は液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモード)を実行するか否かの判定基準には、上記制御フローの実行中における対象車輪の車輪速が上昇する際の当該車輪速の変化度合いが基準値以下である又は基準値より小さいとの条件(例えば、上述した第1条件)が含まれる。それにより、減圧制御における減圧量が不足している場合における対象車輪の車輪速が上昇する際の当該車輪速の変化度合いの傾向に基づいて、上記モードを実行するか否かを適切に判定することができる。
【0108】
好ましくは、制御装置60では、上記モード(つまり、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモード又は液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモード)を実行するか否かの判定基準には、上記制御フローの実行中における対象車輪の車輪速が下降した後において、対象車輪の車輪速が減圧制御の開始時点における当該車輪速と対応する基準値以下である又は基準値より小さいとの条件(例えば、上述した第2条件)が含まれる。それにより、減圧制御における減圧量が不足している場合における対象車輪の車輪速が下降した後に上昇して到達し得る値の上限の傾向に基づいて、上記モードを実行するか否かを適切に判定することができる。
【0109】
好ましくは、制御装置60では、上記モード(つまり、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモード又は液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモード)を実行するか否かの判定基準には、上記制御フローの実行中における対象車輪の車輪速が下降する際の当該車輪速の変化度合いが基準値以上である又は基準値より大きいとの条件(例えば、上述した第3条件)が含まれる。それにより、減圧制御における減圧量が不足により対象車輪の車輪速の回復が緩慢となる可能性と、対象車輪の車輪速が下降する際の当該車輪速の変化度合いとの関係性に基づいて、上記モードを実行するか否かを適切に判定することができる。
【0110】
好ましくは、制御装置60では、制御部62は、減圧制御において弛め弁32が開放されている時間(つまり、弛め弁開放時間)に基づいて、上記の各条件における基準値を変化させる。それにより、弛め弁開放時間に応じて基準値を適正化することができるので、減圧制御における減圧量が不足している場合に上記モードを実行すると適切に判定することができる。ゆえに、減圧制御における減圧量が不足している場合に増圧制御をより適切に禁止することができる。
【0111】
好ましくは、制御装置60では、制御部62は、モータサイクル100の走行路の路面状況に関する情報に基づいて、上記の各条件における基準値を変化させる。それにより、上記の路面状況に関する情報に応じて基準値を適正化することができるので、減圧制御における減圧量が不足している場合に上記モードを実行すると適切に判定することができる。ゆえに、減圧制御における減圧量が不足している場合に増圧制御をより適切に禁止することができる。
【0112】
好ましくは、モータサイクル100には、車輪速センサとして、少なくとも前輪3用の車輪速センサ(具体的には、前輪車輪速センサ43)が設けられており、制御部62は、前輪3のみを対象としてアンチロックブレーキ制御を実行可能である。上述したように、従来、アンチロックブレーキ制御は、車輪速センサにより検出される車輪速に基づいて車速を推定し、得られた推定車速を用いて特定されるスリップ率に基づいて行われている。しかしながら、車輪速センサの検出値を用いた車速の推定では、推定車速が実際の車速よりも低く推定されてしまう場合があり、1つの車輪速センサの検出値のみを用いた車速の推定では、推定車速が実際の車速よりも低く推定されてしまう傾向が特に強かった。ゆえに、減圧制御における減圧量の不足に起因してモータサイクル100の挙動が不安定になるおそれが特に大きかった。
【0113】
ここで、制御装置60によれば、上記で説明したように、上記モードを実行するか否かを対象車輪の車輪速に基づいて判定することによって、モータサイクル100の挙動を適切に安定化させることができる。ゆえに、前輪3用の車輪速センサのみを備え、前輪3のみを対象としてアンチロックブレーキ制御を実行可能なモータサイクル100に制御装置60を適用することによって、モータサイクル100の挙動を適切に安定化させることができる効果をより有効に利用することができる。
【0114】
なお、制御装置60は、後輪4用の車輪速センサをさらに備え、前輪3のみを対象としてアンチロックブレーキ制御を実行可能なモータサイクルに搭載されて利用されてもよい。この場合、2つの車輪速センサの検出値を用いて車速の推定を行うことができる。ここで、2つの車輪速センサの検出値を用いた車速の推定では、1つの車輪速センサの検出値のみを用いた車速の推定と比較して、推定車速が実際の車速よりも低く推定されてしまう傾向は弱まる。しかしながら、一方の車輪がロックしてしまった場合には、2つの車輪速センサの検出値を用いた車速の推定を適切に行うことが困難となるので、ロックしていない車輪用の車輪速センサの検出値のみを用いて車速の推定が行われることが想定される。このような場合であっても、制御装置60によれば、上記で説明したように、上記モードを実行するか否かを対象車輪の車輪速に基づいて判定することによって、モータサイクル100の挙動を適切に安定化させることができる。よって、モータサイクル100の挙動を適切に安定化させることができる効果をより有効に利用することができる。
【0115】
<モータサイクルの他の例>
上記では、制御装置60が
図1等を参照して説明したモータサイクル100に搭載される例を説明したが、制御装置60は、他の構成を備えるモータサイクルに搭載されてもよい。以下では、
図7を参照して、制御装置60が搭載され得るモータサイクルの他の例について説明する。
【0116】
図7は、制御装置60が搭載される他の例に係るモータサイクル100aの概略構成を示す模式図である。
【0117】
モータサイクル100aは、上述したモータサイクル100と比較して、後輪車輪速センサ44をさらに備える点で異なる。
【0118】
後輪車輪速センサ44は、後輪4の車輪速(例えば、後輪4の単位時間当たりの回転数[rpm]又は単位時間当たりの移動距離[km/h]等)を検出する後輪4用の車輪速センサであり、検出結果を出力する。後輪車輪速センサ44が、後輪4の車輪速に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。後輪車輪速センサ44は、後輪4に設けられている。
【0119】
また、モータサイクル100aのブレーキシステム10aでは、上述したモータサイクル100のブレーキシステム10と比較して、前輪3及び後輪4の各々を対象としてアンチロックブレーキ制御を実行できるようになっている点で異なる。
【0120】
具体的には、ブレーキシステム10aの後輪制動機構14aは、前輪制動機構12と同様に、上述した主流路25、副流路26、込め弁31、弛め弁32、アキュムレータ33及びポンプ34と同様の構成要素をさらに備えており、これらの構成要素は、液圧制御ユニット50aに設けられている。
【0121】
モータサイクル100aでは、制御装置60の制御部62は、後輪制動機構14aのうち液圧制御ユニット50aに設けられている上記の各構成要素の動作を制御することにより、後輪制動機構14aによって後輪4に生じる制動力を前輪制動機構12によって前輪3に生じる制動力と同様に制御することができる。また、上述したように、モータサイクル100aには後輪車輪速センサ44が設けられているので、制御部62は、後輪車輪速センサ44の検出結果を利用することによって、後輪4にロック又はロックの可能性が生じたか否かを判定することができる。ゆえに、制御部62は、前輪3のみならず、後輪4を対象としてアンチロックブレーキ制御を実行可能である。
【0122】
具体的には、制動制御部62bは、前輪3にロック又はロックの可能性が生じた場合に、前輪3を対象としてアンチロックブレーキ制御を実行する。当該制御では、前輪制動機構12によって前輪3に生じる制動力が調整される。また、制動制御部62bは、後輪4にロック又はロックの可能性が生じた場合に、後輪4を対象としてアンチロックブレーキ制御を実行する。当該制御では、後輪制動機構14aによって後輪4に生じる制動力が調整される。
【0123】
また、判定部62aは、前輪3を対象としてアンチロックブレーキ制御が行われた場合、当該アンチロックブレーキ制御における制御フローの実行中において、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモード又は液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモードを実行するか否かを当該アンチロックブレーキ制御の対象車輪である前輪3の車輪速に基づいて判定する。さらに、判定部62aは、後輪4を対象としてアンチロックブレーキ制御が行われた場合、当該アンチロックブレーキ制御における制御フローの実行中において、液圧保持制御から減圧制御へ移行するモード又は液圧保持制御から増圧制御への移行が禁止されるモードを実行するか否かを当該アンチロックブレーキ制御の対象車輪である後輪4の車輪速に基づいて判定する。
【0124】
上記で説明したように、モータサイクル100aには、車輪速を検出する車輪速センサとして、前輪3用の車輪速センサ(具体的には、前輪車輪速センサ43)及び後輪4用の車輪速センサ(具体的には、後輪車輪速センサ44)が設けられており、制御部62は、前輪3及び後輪4の各々を対象としてアンチロックブレーキ制御を実行可能である。ゆえに、前輪3を対象とするアンチロックブレーキ制御においては、上記モードを実行するか否かを前輪3の車輪速に基づいて判定し、後輪4を対象とするアンチロックブレーキ制御においては、上記モードを実行するか否かを後輪4の車輪速に基づいて判定することによって、モータサイクル100aの挙動を適切に安定化させることができる。
【0125】
また、モータサイクル100aには、前輪車輪速センサ43及び後輪車輪速センサ44が設けられているので、2つの車輪速センサの検出値を用いて車速の推定を行うことができる。ここで、2つの車輪速センサの検出値を用いた車速の推定では、1つの車輪速センサの検出値のみを用いた車速の推定と比較して、推定車速が実際の車速よりも低く推定されてしまう傾向は弱まる。しかしながら、前後同時に車輪がロック傾向になった場合、2つの車輪速センサの検出値を用いた車速の推定を適切に行うことが困難となる。このような場合であっても、制御装置60によれば、上記で説明したように、上記モードを実行するか否かを対象車輪の車輪速に基づいて判定することによって、モータサイクル100aの挙動を適切に安定化させることができる。よって、モータサイクル100aの挙動を適切に安定化させることができる効果をより有効に利用することができる。
【0126】
本発明は各実施形態の説明に限定されない。例えば、各実施形態の一部のみが実施されてもよい。
【符号の説明】
【0127】
1 胴体、2 ハンドル、3 前輪、3a ロータ、4 後輪、10,10a ブレーキシステム、11 第1ブレーキ操作部、12 前輪制動機構、13 第2ブレーキ操作部、14,14a 後輪制動機構、21 マスタシリンダ、22 リザーバ、23 ブレーキキャリパ、24 ホイールシリンダ、25 主流路、26 副流路、31 込め弁、32 弛め弁、33 アキュムレータ、34 ポンプ、43 前輪車輪速センサ、44 後輪車輪速センサ、50,50a 液圧制御ユニット、51 基体、60 制御装置、61 取得部、62 制御部、62a 判定部、62b 制動制御部、100,100a モータサイクル。