IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立国際電気の特許一覧

<>
  • 特許-歪補償回路、無線装置 図1
  • 特許-歪補償回路、無線装置 図2
  • 特許-歪補償回路、無線装置 図3
  • 特許-歪補償回路、無線装置 図4
  • 特許-歪補償回路、無線装置 図5
  • 特許-歪補償回路、無線装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】歪補償回路、無線装置
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/32 20060101AFI20221213BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20221213BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H03F1/32 141
H03F3/24
H04B1/04 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021542656
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2020029034
(87)【国際公開番号】W WO2021039256
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2019154723
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】白石 純一
(72)【発明者】
【氏名】武田 康弘
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-40280(JP,A)
【文献】特開2005-33535(JP,A)
【文献】特開2016-213798(JP,A)
【文献】特開2017-50694(JP,A)
【文献】特開2011-254124(JP,A)
【文献】特開2005-64614(JP,A)
【文献】特表2003-513498(JP,A)
【文献】特開2003-304122(JP,A)
【文献】米国特許第8023588(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/32
H03F 3/24
H04B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号が電力増幅器により増幅された出力信号の波形における前記入力信号の波形からの相違である非線形歪を補償する歪を前記入力信号に付与する歪補償を行い、前記歪の態様が前記入力信号の態様に応じて歪補償係数によって設定されるプリディストーション方式の歪補償回路であって、
前記入力信号がバースト信号である場合において、前記入力信号におけるバースト長を認識し、前記入力信号と、対応する前記出力信号との比較により前記歪補償係数を算出し、かつ当該歪補償係数の算出の精度を認識する係数生成部と、
前記バースト信号のバースト長毎に予め設定された前記歪補償係数である固定歪補償係数と、前記係数生成部によって算出された前記歪補償係数が前記バースト長に対応付けされて前記入力信号の入力に応じて更新された更新歪補償係数と、前記固定歪補償係数、前記更新歪補償係数のどちらを用いて前記歪補償を行うかを定める閾値であるバースト長閾値と、を記憶する記憶部と、
前記入力信号に対して前記固定歪補償係数又は前記更新歪補償係数に応じた前記歪を前記入力信号に付与する歪付与部と、
前記入力信号における前記バースト長が前記バースト長閾値以上である場合には、当該バースト長に対応した前記更新歪補償係数を用いて前記歪付与部において前記歪を付与させ、前記入力信号における前記バースト長が前記バースト長閾値未満である場合には、当該バースト長に対応した前記固定歪補償係数を用いて前記歪付与部において前記歪を付与させる制御部と、
を具備し、
前記係数生成部は、前記精度が高いと認識された場合において、算出された前記歪補償係数を前記バースト長と対応付けて前記更新歪補償係数として記憶部において更新させ、
前記制御部は、前記入力信号に応じて前記係数生成部において前記歪補償係数を算出した際の前記精度と、当該入力信号の前記バースト長に応じて、前記記憶部に記憶された前記バースト長閾値を更新させることを特徴とする歪補償回路。
【請求項2】
一定の態様となるように制御されたテスト信号を生成し、当該テスト信号を前記入力信号として前記電力増幅器に入力させるテスト信号生成部を具備し、
前記制御部は、
前記テスト信号として、前記バースト長が調整された前記バースト信号を前記テスト信号生成部に生成させ、
前記テスト信号に対応した前記出力信号を用いて前記係数生成部により算出された前記歪補償係数を、前記記憶部における前記固定歪補償係数として更新させることを特徴とする請求項1に記載の歪補償回路。
【請求項3】
前記固定歪補償係数及び前記更新歪補償係数は、少なくとも前記入力信号の変調方式、周波数、及び帯域幅毎に設定されて前記記憶部に記憶されたことを特徴とする請求項2に記載の歪補償回路。
【請求項4】
前記テスト信号は、当該テスト信号における前記バースト長、前記変調方式、前記周波数、及び前記帯域幅を情報として伝送するように構成され、
前記制御部は、当該情報に基づき当該テスト信号の前記バースト長、前記変調方式、前記周波数、及び前記帯域幅を認識することを特徴とする請求項3に記載の歪補償回路。
【請求項5】
請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の歪補償回路と、前記電力増幅器と、を具備し、
外部に送信する対象となる前記出力信号に対応する前記入力信号である運用信号と、前記テスト信号とが切り替えられて前記入力信号として前記電力増幅器に入力する構成とされたことを特徴とする無線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線装置等において用いられる電力増幅回路において、増幅時に発生する非線形性を補償する歪補償回路、及びこれが用いられた無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信システム等における無線装置には、送信信号を大電力化するために、電力増幅器が用いられている。一般的には、電力増幅器の増幅特性は入力信号の電力が小さな間は高い直線性(線形性)を有するが、入力信号の電力が大きな場合には出力信号の電力が飽和するような飽和特性を有する。このため、特に入力信号の電力が大きな場合には、出力信号における入力信号からの波形の変化(非線形歪)が発生する。このため、一般的には出力信号を大電力化する場合には、非線形歪は大きくなり、出力信号の大電力化と非線形歪の抑制はトレードオフの関係となる。
【0003】
このような出力信号における非線形歪を補償するために、歪補償回路が電力増幅器に接続される。歪補償の方式として、このような非線形歪を予め予測し、電力増幅器に入力する前の入力信号に、出力信号における非線形歪をキャンセルするような歪を入力信号に導入する処理を行い、これによって、出力信号における非線形歪を小さくするプリディストーション方式が知られている。
【0004】
このようなプリディストーション方式において、出力信号における非線形歪を安定して補償するためには、入力信号に導入される歪を、出力信号における非線形歪が常に最小となるように適正にする必要がある。この際、プリディストーション方式の歪補償回路においては、入力信号に導入される歪はあるパラメータ(歪補償係数)によって設定される。しかしながら、このような非線形歪の状況は、入力信号の種類(周波数、変調方式、及び帯域幅等)や、電力増幅器の環境(温度等)に応じて変動する。このため、プリディストーション方式の歪補償回路においては、歪補償係数としては、入力信号の種類や、電力増幅器の環境等の条件に応じた最適な値が条件毎に予め定められ、記憶されている。この場合、現在の入力信号や電力増幅器の状態がどの条件に対応するかを認識した上で、適切な歪補償係数を選定して用いることができる(固定係数方式)。このような条件毎の歪補償係数は、この電力増幅器が用いられている装置(無線装置等)の本来の動作の際の入力信号となる運用信号とは異なり、歪補償係数の算出のためのみに用いられるダミーの入力信号であるテスト信号を用いて算出される。テスト信号は歪補償回路の内部で生成され、歪補償係数の算出が高精度で行われるような態様とされ、例えば連続波とされる。
【0005】
一方、非線形歪の状況は、電力増幅器(無線装置等)の経時変化によっても変動する。このため、歪補償係数としては、最新のものを算出し、上記のように記憶された歪補償係数を更新して用いることが好ましい(更新方式)。この場合においては、テスト信号を電力増幅装置の入力信号とした場合には無線装置等の本来の使用が不可能であるため、テスト信号を用いる場合と比べると精度は劣るものの、実際の運用信号を歪補償係数の算出のために用いることもできる。これによって、歪補償係数の更新の頻度を高めることができる。
【0006】
しかしながら、運用信号が、歪補償係数の算出には適さない態様である場合が存在する。例えば、運用信号が、一定の短時間(バースト長)の間のみ強度が維持されるバースト信号である場合があり、バースト長が短い場合には、入力信号の波形と出力信号の波形を比較する際のサンプル数が不十分となるために、歪補償係数を正確に算出することが困難となる。特許文献1に記載の技術においては、更新方式において入力信号(運用信号)がこのようなバースト信号であった場合において、その旨を適切に認識し、その場合に算出された歪補償係数を採用しない(最新の歪補償係数として更新しない)ことにより、より適正な歪補償を実現している。
【0007】
特許文献2には、運用信号とテスト信号とが電力増幅器に対して入力する設定とされ、連続波であるテスト信号に対応した電力増幅器の出力信号から歪補償係数が算出される装置が記載されている。ここでは基本的に固定係数方式が採用され、歪補償係数の算出は、電力増幅器の温度を変えて温度毎に行われ、電力増幅器の温度が同一であっても、運用信号に適用される歪補償係数は、連続波信号の場合とバースト信号である場合には、異なるものが適用される。ただし、運用信号が電力増幅器に入力していない間において、テスト信号を電力増幅器に入力させて歪補償係数を算出し、更新することも可能である。テスト信号をバースト信号とすることも可能であり、バースト信号に対応した歪補償係数を算出することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開公報2007/049474号
【文献】特開2005-33535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来の技術においては、特に運用信号がバースト信号である場合における対処が不十分であった。
【0010】
特許文献1に記載の技術においては、バースト信号におけるバースト長(時間)が短い場合には、算出される歪補償係数の精度が低いものと認識されるために歪補償係数は更新されない。しかしながら、このような算出された歪補償係数の精度も、実際には非線形歪の状況の変動と同等に各種の条件や温度等に依存して変動し、一定ではない。このため、実際には入力したバースト信号に対応して算出された歪補償係数の精度は十分であるためにこの歪補償係数を用いた歪補償を行うべきであるのにこれが行われない、あるいは逆に精度が十分ではない歪補償係数によって歪補償が行われる場合があった。すなわち、特に運用信号がバースト信号である場合において、歪補償を安定して行わせることができなかった。
【0011】
これに対して、特許文献2に記載の技術においては、テスト信号を様々な態様のバースト信号とすることによって、様々なバースト信号に対する歪補償係数を高精度で算出することができる。しかしながら、このように様々な態様のバースト信号をテスト信号として歪補償係数を算出する作業は、電力増幅器に運用信号が入力していない間のみに可能であるため、実質的にこのように様々な態様のバースト信号毎に歪補償係数を算出することは困難であった。このため、やはり特に運用信号がバースト信号である場合において、歪補償を適正に行わせることができなかった。
【0012】
このため、特に運用信号がバースト信号である場合において、バースト長の長短によらずに安定してプリディストーション方式の歪補償を行うことが望まれた。
【0013】
本発明は、このような状況に鑑みなされたもので、上記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、入力信号が電力増幅器により増幅された出力信号の波形における前記入力信号の波形からの相違である非線形歪を補償する歪を前記入力信号に付与する歪補償を行い、前記歪の態様が前記入力信号の態様に応じて歪補償係数によって設定されるプリディストーション方式の歪補償回路であって、前記入力信号がバースト信号である場合において、前記入力信号におけるバースト長を認識し、前記入力信号と、対応する前記出力信号との比較により前記歪補償係数を算出し、かつ当該歪補償係数の算出の精度を認識する係数生成部と、前記バースト信号のバースト長毎に予め設定された前記歪補償係数である固定歪補償係数と、前記係数生成部によって算出された前記歪補償係数が前記バースト長に対応付けされて前記入力信号の入力に応じて更新された更新歪補償係数と、前記固定歪補償係数、前記更新歪補償係数のどちらを用いて前記歪補償を行うかを定める閾値であるバースト長閾値と、を記憶する記憶部と、前記入力信号に対して前記固定歪補償係数又は前記更新歪補償係数に応じた前記歪を前記入力信号に付与する歪付与部と、前記入力信号における前記バースト長が前記バースト長閾値以上である場合には、当該バースト長に対応した前記更新歪補償係数を用いて前記歪付与部において前記歪を付与させ、前記入力信号における前記バースト長が前記バースト長閾値未満である場合には、当該バースト長に対応した前記固定歪補償係数を用いて前記歪付与部において前記歪を付与させる制御部と、を具備し、前記係数生成部は、前記精度が高いと認識された場合において、算出された前記歪補償係数を前記バースト長と対応付けて前記更新歪補償係数として記憶部において更新させ、前記制御部は、前記入力信号に応じて前記係数生成部において前記歪補償係数を算出した際の前記精度と、当該入力信号の前記バースト長に応じて、前記記憶部に記憶された前記バースト長閾値を更新させる。
この際、一定の態様となるように制御されたテスト信号を生成し、当該テスト信号を前記入力信号として前記電力増幅器に入力させるテスト信号生成部を具備し、前記制御部は、前記テスト信号として、前記バースト長が調整された前記バースト信号を前記テスト信号生成部に生成させ、前記テスト信号に対応した前記出力信号を用いて前記係数生成部により算出された前記歪補償係数を、前記記憶部における前記固定歪補償係数として更新させてもよい。
また、前記固定歪補償係数及び前記更新歪補償係数は、少なくとも前記入力信号の変調方式、周波数、、及び帯域幅毎に設定されて前記記憶部に記憶されていてもよい。
また、前記テスト信号は、当該テスト信号における前記バースト長、前記変調方式、、前記周波数、及び前記帯域幅を情報として伝送するように構成され、前記制御部は、当該情報に基づき当該テスト信号の前記バースト長、前記変調方式、前記周波数、及び前記帯域幅を認識してもよい。
また、本発明は、前記歪補償回路と、前記電力増幅器と、を具備する無線装置であって、外部に送信する対象となる前記出力信号に対応する前記入力信号である運用信号と、前記テスト信号とが切り替えられて前記入力信号として前記電力増幅器に入力する構成とされている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、運用信号がバースト信号である場合において、バースト長の長短によらずに安定してプリディストーション方式の歪補償を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態に係る歪補償回路が用いられた無線装置の構成を示す図である。
図2】使用される運用信号、テスト信号のフレーム構成を模式的に示す図である。
図3】実施の形態に係る歪補償回路において記憶部で記憶される更新歪補償係数、バースト長閾値のフォーマットを模式的に示す図である。
図4】実施の形態に係る歪補償回路における、歪補償の動作を示すフローチャートである。
図5】実施の形態に係る歪補償回路における、運用信号を用いた更新歪補償係数、バースト長閾値の更新の動作を示すフローチャートである。
図6】実施の形態に係る歪補償回路における、テスト信号を用いた更新歪補償係数の更新の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態を図面を参照して具体的に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る歪補償回路1が用いられた無線装置の構成を示すブロック図である。この歪補償回路1は、電力増幅器100に接続されて用いられ、この電力増幅器100における非線形歪を補償するために用いられる。実際にはこの歪補償回路1と電力増幅器100が組み合わされて無線装置に用いられる。この無線装置は、この電力増幅器100によって運用信号を増幅して外部に送信する。図1においては、この無線装置における電力増幅器100と歪補償回路1に関わる部分のみが記載され、他の部分についての記載は省略されている。
【0018】
ここで、この歪補償回路1は、プリディストーション方式で動作するため、電力増幅器100で発生する非線形歪を補償するための歪補償係数を用いた歪が電力増幅器100に入力する前の運用信号に付与される。一方で、この歪補償係数を更新するためのみに設定された、予め態様が制御されたテスト信号がテスト信号生成部11によって生成される。テスト信号においては、周波数、帯域幅、変調方式、バースト長、デューティ比等が制御されるため、このテスト信号を用いてこれらの各条件に対応した歪補償係数が算出される。運用信号とテスト信号は、セレクタ12に入力し、これらのうちの一方が電力増幅器100側への入力信号となる。この選択は図1の範囲外においてユーザ操作によって発せられる切替操作用信号によって設定される。
【0019】
この入力信号は、まずピーク電力抑制部13でPAPR(ピーク対平均電力比)が適正な範囲に保たれるようにスムージングされる。その後、この入力信号は、送信電力制御部14でその送信電力が一定の範囲となるように調整される。その後、この入力信号(運用信号又はテスト信号)は、歪補償演算部15で歪を付与されてから電力増幅器100に入力する。
【0020】
歪補償演算部15で付与される歪の歪補償係数としては、更新歪補償係数と固定歪補償係数の2種類があり、どちらも、帯域幅、周波数、変調方式、バースト長、デューティ比等に応じて、ハードディスクや不揮発性メモリで構成された記憶部20に記憶されている。後述するように、更新歪補償係数は歪補償回路1の動作に応じて更新されるのに対して、固定歪補償係数は動作に応じては更新されない。入力信号に対する歪の付与は、歪補償演算部15における係数乗算部(歪付与部)151によって、係数選択部152で選択された更新歪補償係数、固定歪補償係数のうちの一方によって行われる。この切り替えは、特に入力信号がバースト信号である場合において、バースト長に応じて行われる。特に、バースト長が長い場合(連続波に近い場合)においては更新歪補償係数が用いられ、バースト長が短い場合には固定歪補償係数が用いられる。
【0021】
更新歪補償係数は、この歪補償回路1(無線装置)の動作に応じて入力信号が電力増幅器100に入力した際の出力信号から係数生成部153が演算することによって算出される。この際には、歪補償演算部15への入力信号であるFF(フィードフォワード)信号と、これに対応した電力増幅器100からの出力信号であるFB(フィードバック)信号とを比較し、両者の波形における代表点の抽出、データ補完や各種の統計処理を用いて、歪補償係数が算出される。この際、係数生成部153は、算出された歪補償係数の精度(推定誤差)も数値化して認識することができる。係数生成部153がこうした処理を行うに際しては、オフセット成分補正部16が、入力信号場バースト信号である場合の未送信期間中のデータによりFB信号中のオフセット成分を算出して予めこれを補正する。
【0022】
また、ここでは、入力信号がバースト信号である場合に対応して、バースト信号におけるバースト区間を認識するデータキャプチャ制御部17が設けられる。データキャプチャ制御部17において、FF信号のバーストの先頭と終端のタイミングはFF信号バッファ部171で、FB信号のバーストの先頭と終端のタイミングはFB信号バッファ部172で、それぞれ認識され、歪補償演算部15における係数生成部153は、上記の処理に際してこれらのタイミングを認識する。こうした構成によって、算出された歪補償係数(更新歪補償係数)は、帯域幅、周波数、変調方式、バースト長、デューティ比等に応じて記憶部20に記憶される。
【0023】
ただし、係数生成部153は、上記のような歪補償係数の算出に際して、その精度が高くないと認識された場合においては、記憶部20における更新歪補償係数の更新を行わせず、この精度が高い場合においてのみこの更新を行わせる。このように精度が高くない場合はバースト長が短い場合に対応し、精度が高い場合はバースト長が長い場合(連続波に近い場合)に対応する。
【0024】
固定歪補償係数についても、更新歪補償係数と同様に、帯域幅、周波数、変調方式、バースト長、デューティ比等に応じて記憶部20に記憶される。ただし、固定歪補償係数は更新歪補償係数とは異なり、予め設定されてからは、少なくとも歪補償回路1(無線装置)の動作に応じては、更新されない。
【0025】
一般的に、非線形歪の状況(あるいはこれに対応した歪補償係数)は、電力増幅器の環境(温度等)や経時変化によって変動する。この観点からは、歪補償のためには更新歪補償係数を用いることが好ましい。このため、例えば入力信号(運用信号)が連続波である場合には、最新の更新歪補償係数を用いた歪補償を歪補償演算部15で行うことによって、非線形歪の補償を適正に行わせることができる。
【0026】
しかしながら、特に入力信号のバースト長が短い場合には、これを用いて歪補償係数を前記のように算出する際の精度は高くない。すなわち、入力信号のバースト長が短い場合には、これを用いて算出された更新歪補償係数は適正ではない場合が多い。このため、入力信号のバースト長が短い場合には、特にバースト長が短い場合に適する固定歪補償係数を予め別途算出し、これを用いることが好ましい。また、バースト長の短い入力信号を用いて算出された歪補償係数はその後の歪補償で使用しないことが好ましい。このための判断の指標として、前記のような係数生成部153が歪補償係数を算出した際の精度を用いることができる。すなわち、この精度(推定誤差)を数値化し、推定誤差がある一定値を超えた場合にはこの歪補償係数を使用しない(更新歪補償係数として更新しない)ような設定とすることができる。
【0027】
一方、バースト長が短い場合に使用される固定歪補償係数は、上記のように動作に応じては更新されず、固定歪補償係数は少なくとも更新歪補償係数のように歪補償回路1(無線装置)の動作に応じては、更新されない。ただし、ユーザの操作等によって適宜更新することは可能である。
【0028】
上記のように、係数選択部152が更新歪補償係数、固定歪補償係数のどちらを選択するかは、方式制御部(制御部)18によって設定される。方式制御部18は、入力信号のバースト長と、記憶部20に記憶されたバースト長閾値の大小関係とを比較し、バースト長がバースト長閾値以上である場合には更新歪補償係数を選択させ、バースト長がバースト長閾値未満である場合には固定歪補償係数を選択させる。ここで、前記の更新歪補償係数と同様に、このバースト長閾値の値も、この歪補償回路1(無線装置)の動作に応じて更新される。特に、この更新に際しては、係数生成部153によって更新歪補償係数が算出される際の精度を参照することができる。
【0029】
図2は、ここで使用される運用信号、テスト信号のフレーム構成を模式的に示す図である。伝送されるデータのフレーム(送信フレーム)の前に、変調方式、帯域幅情報、周波数情報、バースト長、デューティ比を情報として含むヘッダー部Hを設けることができる。方式制御部18において、フレーム情報制御部181は、入力信号がバースト信号である場合におけるバースト長を、このヘッダーHによって認識する。また、逆に、入力信号がテスト信号である場合には、このテスト信号におけるヘッダー部Hを適正に設定する。方式選択部182は、認識されたバースト長と記憶部20に記憶されたバースト長閾値との間の前記のような大小関係に応じて、係数選択部152を制御する。
【0030】
係数更新判定部183は、前記のような更新歪補償係数の更新(記憶部20への記憶)のタイミングを、ユーザ操作によって認識し、通知する。ユーザは、これによって最新の更新歪補償係数が得られたタイミングを認識することができる。この際、前記のように更新歪補償係数は帯域幅、周波数、変調方式、バースト長、デューティ比等の条件毎に得られるが、このタイミングもこの条件毎に認識することができる。
【0031】
更新不可検出部184は、入力した入力信号に対して、前記のような係数生成部153における算出の精度が高くなかった(推定誤差が大きかった)ために更新歪補償係数の更新ができなかったか否かを認識をする。方式選択閾値生成部185は、この更新ができなかった入力信号のバースト長をフレーム情報制御部181によって認識することができる。方式選択閾値生成部185は、このように更新ができなかった場合のバースト長を認識することによって、記憶部20に記憶されたバースト長閾値を更新することができる。
【0032】
例えば、バースト長閾値の値として20μsecが記憶部20に記憶されていた場合において、方式選択閾値生成部185が新たにバースト長が21μsecの場合に更新歪補償係数の更新ができなかったことを認識した場合、バースト長閾値の値を20μsecから22μsec(21μsec+α)に更新することができる。これによって、バースト長が21μsecの場合において、これよりも前は更新歪補償係数が用いられたのに対し、このよりも後では固定歪補償係数が用いられる。閾値更新判定部186は、前記の係数更新判定部183と同様に、このようなバースト長閾値の更新(記憶部20への記憶)のタイミングを、ユーザ操作によって認識し、通知する。
【0033】
前記のように、バースト長が短い場合に適用される固定歪補償係数については、動作に応じての更新は行われない。一方で、その代わりに、バースト長閾値については、動作に応じた更新が行われる。このため、バースト長が短い場合においても、更新歪補償係数を用いる場合と同様に、電力増幅器100の環境(温度等)や経時変化に応じた歪補償の対応が行われる。
【0034】
なお、新たなバースト長閾値の設定方法は、上記の手法以外の方法が適宜設定可能である。例えば、上記と同様にバースト長閾値の値として20μsecが記憶部20に記憶されていた場合において、新たにバースト長が18μsecの場合に更新歪補償係数の更新ができたことを認識した場合、バースト長閾値の値を20μsecから18μsecに更新することもできる。また、バースト信号である入力信号が多く入力する場合においては、方式選択閾値生成部185には、上記のように更新歪補償係数の更新ができなかった場合のバースト長のデータを多く認識する場合がある。この場合においては、新たなバースト長閾値の設定は、上記のような単純な算定方式ではなく、更新ができなかった場合のバースト長のデータの統計処理によっても行うことができる。なお、図1の方式制御部18において、フレーム情報制御部181、方式選択部182、係数更新判定部183、更新不可検出部184、方式選択閾値生成部185、閾値更新判定部186は、個別の構成要素として記載されているが、実際には、これらの構成要素は単一のプロセッサ、あるいは記憶部20も含めてパーソナルコンピューター等を用いて単一の装置として実現することができる。この場合には、これらの各構成要素の動作が実現可能な限りにおいて、各構成要素を互いに重複させてもよい。
【0035】
図3は、ここで記憶部20で記憶、更新される更新歪補償係数、バースト長閾値のフォーマットを模式的に示す。ここでは、帯域幅としてA1、その中での周波数としてB1、B2、更にこの各周波数における変調方式としてC1、C2、C3があるものとしており、各条件に対応してバースト長閾値と更新歪補償係数がそれぞれ設定されており、各値は各々の項目ごとに更新が行われる。図示は省略されているが、帯域幅A2についても同様であり、更に多くの帯域幅についても同様に設定が行われる。なお、固定歪補償係数は、歪補償回路1の動作に伴っての更新は行われないが、図3と同様の項目毎に設定されて記憶部20で記憶されている。
【0036】
図4~6は、この歪補償回路1の動作を示すフローチャートである。前記の通り、この歪補償回路1においては、入力した運用信号に対する非線形歪を補償するための動作と、歪補償において用いるパラメータのうちの更新歪補償係数、バースト長閾値を更新するための動作がある。また、前記のように、入力信号として、実際に無線装置で使用される運用信号を用いる場合と、上記のパラメータ(特に更新歪補償係数)を最新の無線装置の状況に対応させるために歪補償回路1内で生成されるテスト信号を用いる場合とがある。図4は、運用信号に対する歪補償を行う動作のフローチャートであり、図5は、運用信号を用いて更新歪補償係数、バースト長閾値を更新するための動作のフローチャートである。実際には1回の運用信号の入力の際にこれらの動作は前後して行われるが、どちらを前後としてもよく、可能な範囲で並列して行ってもよい。また、図6は、テスト信号を用いて更新歪補償係数の更新を行う動作のフローチャートである。
【0037】
図4において、運用信号が入力した場合、方式選択部182は、フレーム情報制御部181を介して、運用信号の入力を認識し(S11)、この運用信号がバースト信号である場合にはそのバースト長を認識して、記憶部20から読み出した最新のバースト長閾値とこのバースト長の大小関係を判定する(S12)。ここで、方式選択部182は、バースト長がバースト長閾値未満であった場合には、固定歪補償係数を用いた歪補償を行う方式(固定方式)を選択し(S13)、バースト長がバースト長閾値以上であった場合には、更新歪補償係数を用いた歪補償を行う方式(更新方式)を選択する(S14)。その後、方式選択部182は、歪補償演算部15における係数選択部152を制御し、選択された方式によって係数乗算部151でこの運用信号に対して歪を付与する(S15)。以上によって、プリディストーション方式での歪補償が行われる。
【0038】
図5において、歪補償演算部15は、運用信号(FF信号)が入力し、かつ電力増幅器100からFB信号が発せられたことを認識し(S21)、係数生成部153は、前記のようにこのFF信号、FB信号に対応する歪補償係数及びその算出の精度(推定誤差)を認識する。係数生成部153は、前記のようにこの精度が高いと認識された場合(S22:Yes)には、この運用信号の条件に対応して記憶部20で記憶された更新歪補償係数を、ここで算出された歪補償係数に更新する(S23)。一方、この精度が低いと認識された場合(S22:No)には、更新歪補償係数の更新は行われない。
【0039】
その後、方式選択閾値生成部185は、フレーム情報制御部181によって、この運用信号のバースト長を認識し(S24)、かつ更新不可検出部184によって、この運用信号によって更新歪補償係数の更新ができたか否か(歪補償係数の算出の精度が高かったか否か)を認識することができる。ここで、方式選択閾値生成部185は、認識されたバースト長とこの時点でのバースト長閾値との大小関係が、更新歪補償係数の更新の可否の結果と矛盾していないかを認識することができる(S25)。すなわち、例えば、バースト長がバースト長閾値以上であったにも関わらず更新ができなかった場合、バースト長がバースト長閾値未満であったにも関わらず更新ができた場合には、現時点でのバースト長閾値は適正でないと認識できるため、この結果に基づいて、バースト長閾値を更新する(S26)。具体的には、バースト長がバースト長閾値以上であったにも関わらず更新ができなかった場合にはバースト長閾値を増大させる操作が行われ、バースト長がバースト長閾値未満であったにも関わらず更新ができた場合にはバースト長閾値を減少させる操作が行われる。なお、前記のように、このように単純な増減操作ではなく、他の手法を用いて新たなバースト長閾値を算出し、更新してもよい。以上によって、運用信号を用いた場合の更新歪補償係数、バースト長閾値の更新のための動作が行われる。
【0040】
なお、図5においては、バースト長閾値の更新(S26)は、FF信号、FB信号(S21)を用いた歪補償係数の算出結果(S22)に基づいて方式選択閾値生成部185が自動的に行うものとしたが、運用信号の入力とは無関係にユーザがバースト長閾値を入力して更新してもよい。この場合には、この操作に対応したインターフェースが歪補償回路あるいは無線装置に設けられる。
【0041】
図6のテスト信号を用いた動作は、この無線装置が休止状態(運用信号を増幅して出力させていない状態)において行われる。ここでは、前記のバースト長閾値の場合と同様に、ユーザがこの更新歪補償係数を更新する場合も含めて記載されている。このため、まず、ユーザ自身がこの更新を行うか否かが問い合わせられ(S31)、ユーザが行う場合(S31:Yes)には、ユーザによって前記の場合と同様に更新が行われる(S32)。一方、テスト信号を用いて自動的に更新を行う場合に(S31:No)には、使用するテスト信号のフレーム制御(図2のヘッダー部Hに含まれる情報に対応したテスト信号の態様の設定)をユーザが行うか否かが問い合わせられる(S33)。フレーム制御をユーザが行う場合(S33:Yes)には、フレーム情報制御部181は、ユーザによって指定された条件でフレーム条件を決定し(S34)、これによってヘッダー部Hを含みこの条件に従ったテスト信号をテスト信号生成部11に生成させる(S35)。一方、フレーム制御をユーザが行わない場合(S33:No)には、フレーム情報制御部181が、所定の条件によって自動的にこのフレーム制御を行った(S36)上で、同様にテスト信号をテスト信号生成部11に生成させる(S35)。
【0042】
その後、このテスト信号を入力信号として歪補償係数を算出し、その精度に基づいて更新歪補償係数の更新の可否を判断する動作は、図5におけるS22と同様であり、更新する場合には、前記と同様に更新歪補償係数の更新が行われる(S32)。更新歪補償係数は、図3に示されたように、運用信号の様々な態様に応じて条件毎に設定されるところ、運用信号のみを用いて更新歪補償係数を算出(更新)する場合には、全ての条件をカバーすることが困難となる場合があり、この際に漏れた条件に対応した運用信号が入力した場合には、使用される歪補償係数(更新歪補償係数)が適正はない場合がある。このようにテスト信号を用いた場合には、漏れた条件に対応したテスト信号をテスト信号生成部11に生成させることによって、このような条件に対しても適正な更新歪補償係数を用いることが可能となる。
【0043】
なお、図1においては、入力信号(FF信号)に対する処理を行うピーク電力抑制部13等、FB信号に対する処理を行うオフセット成分補正部16等が設けられた。このような処理は、入力信号に対して適正に歪補償を行う、あるいは適正に更新歪補償係数やバースト長閾値の更新を行うことが可能な限りにおいて、適宜行うことができ、対応する構成要素を付与することができる。
【0044】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の実施形態は、歪補償を行う無線通信装置、プリディストーション方式の歪補償を行う無線装置などに利用することができる。この出願は、2019年8月27日に出願された日本出願特願2019-154723を基礎として優先権の利益を主張するものであり、その開示の全てを引用によってここに取り込む。
【符号の説明】
【0046】
1 歪補償回路11 テスト信号生成部12 セレクタ13 ピーク電力抑制部14 送信電力制御部15 歪補償演算部16 オフセット成分補正部17 データキャプチャ制御部18 方式制御部(制御部)20 記憶部100 電力増幅器151 係数乗算部(歪付与部)152 係数選択部153 係数生成部171 FF信号バッファ部172 FB信号バッファ部181 フレーム情報制御部182 方式選択部183 係数更新判定部184 更新不可検出部185 方式選択閾値生成部186 閾値更新判定部H ヘッダー部
図1
図2
図3
図4
図5
図6