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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】腹足類防除剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/02 20060101AFI20221213BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20221213BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20221213BHJP
   A01M 1/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
A01N37/02
A01P17/00
A01P7/04
A01M1/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022089323
(22)【出願日】2022-06-01
(62)【分割の表示】P 2017169903の分割
【原出願日】2017-09-05
(65)【公開番号】P2022113731
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2016256812
(32)【優先日】2016-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】小堀 富広
(72)【発明者】
【氏名】中村 岳史
(72)【発明者】
【氏名】原田 惠理
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-062498(JP,A)
【文献】米国特許第05510110(US,A)
【文献】特開2009-161560(JP,A)
【文献】特開2001-163715(JP,A)
【文献】OHTA, K. et al.,A Screening Procedure for Repellents against a Sea Snail,Agricultural and Biological Chemistry,1978年,Vol. 42,pp. 1491-1493
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペラルゴン酸又はその塩を有効成分として含有する、致死効果を発揮することを特徴とする腹足類防除剤。
【請求項2】
ペラルゴン酸又はその塩を有効成分として含有する、致死効果と共に忌避効果を発揮することを特徴とする腹足類防除剤。
【請求項3】
ペラルゴン酸又はその塩を有効成分として含有する、致死効果を発揮すると共に、粘液脱ぎ捨て行動及び/又は逃亡行動を抑制することを特徴とする腹足類防除剤。
【請求項4】
ペラルゴン酸又はその塩を有効成分(ただし、乳化したペラルゴン酸3.0重量%、グリホサート1.0重量%を含有する除草剤及び、トランスフルトリンとトラロメトリンとペラルゴン酸を含有する油性液体を、グリホサートを含有する水性液体中に乳化分散させた除草剤は除く。)として用いることを特徴とする、腹足類を致死及び/又は行動停止させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペラルゴン酸およびその塩を有効成分とした新規な害虫防除剤に関する。
さらに、本発明は、害虫侵入阻害剤に関する。より詳しくは、本発明は、ペラルゴン酸またはその塩を有効成分とし、薬剤処理面内に害虫が侵入することを確実に阻害する害虫侵入阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ペラルゴン酸は、天然にも存在する、茶、トウモロコシ、柑橘、ホップ等の食品に含まれる直鎖飽和脂肪酸のひとつとして知られており、不快な臭いをもつ無色油状液体である。しかし非特許文献1に示されたように、ペラルゴン酸は動物に対する毒性が低いことが知られており、安全性が高いことから各種用途において原料や有効成分としての利用が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ココア様香料組成物の原料としてペラルゴン酸を用いることが開示されている。また特許文献2には、除草剤の有効成分として用いることについて検討がなされている。さらに特許文献3では、ペラルゴン酸と植物精油とを併用することで種子の発芽抑制作用を高めることが検討されている。
【0004】
また、近年、屋外から家屋などの建造物内に侵入するアリ類により刺咬被害が増加し、アリ類も不快害虫の1つに挙げられている。その防除方法としては、殺虫活性成分を含有する液剤またはエアゾール剤を、アリ類に直接噴霧して駆除するタイプのものや、毒餌剤をアリ類に巣穴に持ち帰らせ、巣穴内のアリ類を駆除するタイプのものが主体である。
例えば、ピレスロイド系化合物を殺虫活性成分として含有させた液剤やエアゾール剤は、アリ類やアリ類の巣に直接噴霧することにより速効的な殺虫効果が得られることが知られている(例えば、特許文献4等)。また、フェニルピラゾール系化合物を殺虫活性成分として含有させた毒餌剤は、接触作用による速効的な殺虫性が示されず、アリ類が巣穴に毒餌剤を運搬して巣全体を崩壊させることが報告されている(特許文献5)。しかしながら、上記液剤やエアゾール剤は、接触作用により速効的な殺虫効果が得られるため、殺虫活性成分に接触しないアリ類は駆除することができない。また、上記毒餌剤は殺虫成分と共に含有される誘引成分によっては、運搬効果にバラツキが見られ十分な防除効果が得られないことがある。
一方、アリ類をはじめその他の害虫は、家屋内に侵入さえしなければ必ずしも駆除の必要がない場合も多いため、アリ類等の害虫の侵入を阻止したい家屋入り口や周辺等に、予め害虫忌避効果を発揮する薬剤を処理する方法が提案されているものの、その忌避効果は未だ十分ではなく、アリ類等の害虫の侵入を確実に阻害できる新たな薬剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本農薬学会誌24(4)、421~423頁、1999年
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-121958号公報
【文献】特表平05-502216号公報
【文献】特開2015-193568号公報
【文献】特開2003-073216号公報
【文献】特開平08-175910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ペラルゴン酸は、上述のとおり各種用途について検討がなされており、その一部については利用が進んでいる。近年、安全志向が高まる中、ユーザーの天然由来成分に対する期待は高まっており、ペラルゴン酸についても新たな用途の提供が望まれている。
そこで本発明は、安全性の高いペラルゴン酸に着目し、新たな用途として害虫防除剤を提供することを目的としている。
さらに、本発明は、屋外から家屋などの建造物内に侵入する害虫を確実に阻害する、害虫侵入阻害剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ペラルゴン酸およびその塩が、各種の害虫に対して優れた殺虫効果、忌避効果を奏することを、さらには、薬剤処理面内に害虫が侵入することを確実に阻害する優れた侵入阻害効果を有することを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0009】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.ペラルゴン酸又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする害虫防除剤。
2.害虫防除が害虫忌避であることを特徴とする1.記載の害虫防除剤。
3.害虫忌避が侵入阻害であることを特徴とする2.記載の害虫防除剤。
4.ペラルゴン酸の塩が、ナトリウム塩、トリエタノールアミン塩、アンモニウム塩、カリウム塩のいずれか1種以上であることを特徴とする1.~3.いずれかに記載の害虫防除剤。
【発明の効果】
【0010】
(効果1)
本発明の害虫防除剤は、天然由来成分であるペラルゴン酸を有効成分とするため、環境や人畜に負荷も少なく安全性の高い新規な害虫防除剤を提供することができる。また、ペラルゴン酸の新たな用途を提供することができる。
【0011】
(効果2)
本発明の害虫侵入阻害剤は、そのまま若しくは水に希釈して、家屋等の建造物の入り口付近に直接散布することによって、薬剤処理面内にアリ類や等脚目類等の害虫が侵入することを確実に阻害することができるので、屋内等に居住する人やペット等の動物がアリ類等に刺咬される被害を防ぎ、害虫が屋内に侵入すること自体を抑制することができる。
また、本発明の害虫侵入阻害剤は、除草活性を有するペラルゴン酸またはその塩を有効成分としているため、散布した場所の除草効果も同時に得ることができる。すなわち、本発明の害虫侵入阻害剤は、家屋のまわりや駐車場に散布することにより、家屋内や車内への害虫の侵入を阻害すると共に、散布した場所の雑草の繁殖を抑制する効果が得られるという特徴を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、殺虫試験1、腹足類防除試験1、2の概要を示した図である。
図2図2は、忌避試験1、アリ類忌避試験1、2、等脚目類防除試験1の概要を示した図である。
図3図3は、アリ類侵入阻害確認試験、アリ類侵入阻害詳細確認試験、等脚目類防除試験2、ムカデ忌避確認試験の概要を示した図である。
図4図4は、カメムシ忌避確認試験の概要を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の害虫防除剤について詳細に説明する。
本発明の害虫防除剤は、有効成分としてペラルゴン酸またはその塩を含有するものである。
本発明における害虫防除とは、害虫を死に至らしめる殺虫効果により防除することはもとより、害虫が忌避する効果により防除すること、さらには薬剤処理面内に害虫が侵入することを阻害することをも含むものである。
ここで、本発明における「忌避」、「侵入阻害」、「侵入回避」について、詳しく説明する。
本発明における忌避や忌避剤とは、薬剤処理面内に侵入した害虫が薬剤の臭い等を嫌がり、一度侵入した薬剤処理面内から出て遠ざかる行動や、その行動を促す薬剤を意味する。
一方、本発明における侵入阻害とは、薬剤処理面に対し害虫が触角や歩脚を接触すらさせることなく薬剤処理面の前からUターンする行動、若しくは、触角や歩脚を薬剤処理面に接触させたとしても薬剤処理面内に侵入することなくUターンする行動、すなわち、薬剤処理面内に害虫が全く侵入しない行動や、その行動を促す薬剤を意味する。さらに、本発明における侵入回避とは、薬剤処理面に対し害虫が触角や歩脚を接触すらさせることなく薬剤処理面の前からUターンする行動を意味する。
【0014】
ペラルゴン酸は、炭素数9個からなる飽和脂肪酸であり、安全かつ速効的な除草活性を有する化合物として公知であり、我が国においても、1996年に除草剤として農薬登録された化合物である。ペラルゴン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等が挙げられ、本発明の害虫防除剤の有効成分として、ペラルゴン酸またはその塩として、ナトリウム塩、トリエタノールアミン塩、アンモニウム塩、カリウム塩が好ましい。これらの塩は単体として害虫防除剤中に加えても良いが、ペラルゴン酸と対応する中和剤とを別々に加えて害虫防除剤の調製時に塩を形成させてもよい。例えば、ペラルゴン酸と、中和剤としてトリエタノールアミンまたは水酸化ナトリウムを別々に加えて、トリエタノールアミン塩またはナトリウム塩として使用することができる。中和剤として、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン、アンモニア、水酸化カリウム等が好適である。
【0015】
本発明の害虫防除剤は、有効成分であるペラルゴン酸またはその塩を、害虫防除剤全体の0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上となるように用いるのがよい。また、ペラルゴン酸またはその塩をあまり多量に用いると臭いによる不快感が生じるおそれがあるので好ましくないため、10質量%以下含有することが好ましく、5質量%以下含有することがより好ましく、3質量%以下含有することがさらに好ましい。
本発明の害虫防除剤は、そのまま対象害虫に処理することができるが、所定の有効成分を含有した製剤を使用時に水で希釈して対象害虫に処理することもできる。この場合、水で希釈された製剤中での有効成分の含有量が0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上となるように調製して使用することが好ましい。
【0016】
本発明の害虫防除剤は、公知の方法により調製、製造することができる。例えば、ペラルゴン酸を水に添加し、有機溶剤や界面活性剤を用いて混合撹拌し、溶解、乳化、分散、懸濁化、可溶化して液剤やジェル剤とすることができる。またマイクロカプセル化して使用することもできる。ペラルゴン酸は油状液体であることから、有機溶剤や界面活性剤を用いて調製、製造することが適切である。その中でも、スプレー剤やエアゾール剤等の噴霧用製剤や、液剤をジョウロヘッド付き容器に充填した散布剤等が、本発明の害虫防除性能を最大限に活用することができる製剤型として好適である。スプレー剤やエアゾール剤とするには、所定の噴霧パターン、噴霧粒子を供給する噴霧装置を備えたエアゾール缶、薬剤ボトルを用いることができる。
本発明の害虫防除剤は、本発明の効果を奏する限り、液剤に限らず、粉剤、顆粒剤、微細粒等の固形剤として用いることもできる。
調製、製造例の1つとして、ペラルゴン酸またはその塩を、必要に応じて界面活性剤を用いて、有機溶剤に溶かして溶液(A液)を調製し、このA液を適量の水に混合、撹拌することにより使用時に希釈する必要がない害虫防除剤とする方法を挙げることができる。水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水、ろ過処理した水、滅菌処理した水、地下水などの天然水等の1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
使用できる有機溶剤としては、例えば、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジオレイル、アジピン酸ジイソデシル、フタル酸ジエチルヘキシル、フタル酸ジデシル、トリメリット酸2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリデシル等の多塩基酸アルコールエステル;2-エチルヘキサン酸セチル、ヤシ脂肪酸セチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、オレイン酸メチル、オレイン酸オクチル等の脂肪酸アルコールエステル;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコール脂肪酸エステル;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、フェノキシエタノール、ベンジルアルコール等のアルコール;オクチルアルコール、ラウリルアルコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等の高級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコール;メチルジグリコール、メチルトリグリコール、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル等のグリコールエーテル;キシレン、トルエン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン、1,2-ジメチル-4-エチル-ベンゼン、メチルナフタレン、1-フェニル-1-キシリルエタン、1-キシリル-1-(3-α-メチルベンジルフェニル)エタン等の芳香族または脂肪族炭化水素;ノルマルパラフィン、イソパラフィン、流動パラフィン等のパラフィン系炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;アセトニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のヘテロ環系溶剤;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の酸アミド類;炭酸プロピレン等の酸アルキリデン類;大豆油、ヤシ油、ナタネ油、キリ油、ヒマシ油、綿実油等の植物油;オレンジ油、ヒソップ油、レモン油等の植物精油の1種または2種以上が挙げられる。
【0018】
使用できる界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤および両性界面活性剤を用いることができる。具体的には、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキレート、ポリオキシエチレンフェニルエーテルポリマー、ポリオキシエチレンアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレングリコール、およびポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン型シリコン系界面活性剤等の非イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテルフォスフェート、リグニンスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルサルフェート、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェート、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルマレイン酸共縮合物のナトリウム塩等の陰イオン界面活性剤;アルキルベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等の両性界面活性剤;アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤の1種または2種以上が挙げられる。
【0019】
本発明の害虫防除剤を調製、製造するに際しては、水、有機溶剤および界面活性剤を適宜組み合わせて用いることができるが、本発明の効果を奏する限り、安定化剤、増粘剤、香料、色素、消泡剤、光安定化剤(紫外線吸収剤)、pH調整剤、凍結防止剤、防腐剤、噴射剤、酸化防止剤等その他の各種成分を用いることができる。
その他の各種成分としては、例えば、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、アスコルビン酸、ビタミン等の安定化剤;カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、グアーガム、キサンタンガム、ポリビニルピロリドン、コロイド性含水珪酸アルミニウム、コロイド性含水珪酸マグネシウム等の増粘剤;イランイラン油、オレンジ油、カモミール油、カルダモン油、クミン油、グレープフルーツ油、クローブ油、月桃油、コパイバ油、コリアンダー油、紫蘇油、シダーウッド油、シトロネラ油、シナモン油、ジャスミン油、スギ油、スペアミント油、セージ油、ゼラニウム油、タイム油、ネロリ油、パイン油、薄荷油、ヒノキ油、ヒバ油、ペパーミント油、ベルガモット油、柚子油、ユーカリ油、ライム油、ラベンダー油、レモン油、レモングラス油、レモンバーム油、ローズマリー油、ロベージ油等の天然精油、アニスアルデヒド、アセトフェノン、アセチルオイゲノール、ベンジルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルサリシレート、ベンズアルデヒド、カルボン、セドロール、シンナミックアルコール、シンナミックアルデヒド、シスジャスモン、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、クマリン、シンナミルアセテート、オイゲノール、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ミルセン、β-カリオフィレン、ゲラニオール、ゲラニルアセテート、ヘキシルシンナミックアルデヒド、インドール、リナロール、リナロールオキサイド、リナリルアセテート、メチルオイゲノール、メントール、ネロール、フェニルエチルアルコール、チモール等の香料;赤色2号、赤色3号、赤色102号、赤色106号、赤色227号、赤色504号、青色1号、青色2号、青色202号、黄色4号、黄色5号、黄色202号、緑色3号、緑色201号、緑色204号、橙色205号等の色素;シリコーン系化合物等の消泡剤;パラアミノ安息香酸、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、サリチル酸フェニル等の光安定化剤(紫外線吸収剤);グルコン酸、グルコノデルタラクトン、L-酒石酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、ピロリン酸二水素ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸、乳酸ナトリウム、アジピン酸およびナトリウムやカリウムの塩、アミン塩等のpH調整剤;エタノール、プロピレングリコール、エチレングリコール等の凍結防止剤;ソルビン酸カリウム、パラクロロメタキシレノール、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、安息香酸等の防腐剤;プロパン、プロピレン、n-ブタン、イソブタン等の液化石油ガス、ジメチルエーテル、CFC、HCFC、HFC等のクロロフルオロカーボン等の液化ガス、窒素、炭酸ガス、圧縮空気、亜酸化窒素等の圧縮ガス等の噴射剤;ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、γ-オリザノール、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル等の酸化防止剤の1種または2種以上が挙げられる。
【0020】
本発明の害虫侵入阻害効果を得る害虫侵入阻害剤は、アリ類等の害虫の巣穴やその周囲に処理した際に土壌への吸収を抑えて、アリ類等の害虫が触角や歩脚を薬剤処理面に接触させることを抑制し、薬剤処理面内にアリ類等の害虫が侵入することを確実に阻害する効果を十分に発揮させるために、粘度のある液剤としてもよい。粘度を調整するに際しては、例えば、グリセリン、ザンフロー、キサンタンガム、ペクチン、アラビアガム、グアーガム、寒天、セルロースおよびその誘導体、デンプンおよびその誘導体、カルボキシアルカリ化物、ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等の増粘剤の1種または2種以上を用いて調整すればよい。
【0021】
固形剤とするには、例えば、クレー、タルク、炭酸カルシウム、ベントナイト、ジークライト、セリサイト、酸性白土、珪石、ケイソウ土、ゼオライト、カオリン、ホワイトカーボン、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、植物粉末(例えば、小麦粉、大豆粉、おが屑、ヤシ殻等)、グルコース、フルクトース、マルトース、シュークロース、ラクトース等の単糖類、二糖類、多糖類等の1種または2種以上を用い調製、製造することができる。
【0022】
さらに必要に応じて公知の殺菌剤、防カビ剤、殺虫殺ダニ剤、除草剤等の薬剤として、例えば、ビテルタノール、ブロムコナゾール、シプロコナゾール、ジフェノコナゾール、ヘキサコナゾール、イマザリル、ミクロブタニル、シメコナゾール、テトラコナゾール、チアベンダゾール、ペンチオピラド、マンゼブ等の殺菌剤;塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、ヒノキチオール、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール等の防カビ剤;除虫菊エキス、天然ピレトリン、プラレトリン、イミプロトリン、フタルスリン、アレスリン、ビフェントリン、レスメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、サイパーメスリン、エトフェンプロックス、シフルスリン、デルタメスリン、ビフェントリン、フェンバレレート、フェンプロパトリン、エムペントリン、シラフルオフェン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等のピレスロイド系化合物、カルバリル、プロポクスル、メソミル、チオジカルブ等のカーバメート系化合物、メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物、フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物、アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド等のネオニコチノイド系化合物、クロルフェナピル等のピロール系化合物等、フェニトロチオン、ダイアジノン、マラソン、ピリダフェンチオン、プロチオホス、ホキシム、クロルピリホス、ジクロルボス等の有機リン系化合物等の殺虫剤;アラクロール、アメトリン、アミノシクロピラクロール、アミノピラリド、アミプロホスメチル、アニロホス、アシュラム、アトラジン、アジムスルフロン、ベンカルバゾン、ベスロジン、ベンフレセート、ベンスルフロンメチル、ベンスリド、ベンタゾン、ベンチオカーブ、ベンゾビシクロン、ベンゾフェナップ、ビアラホス、ビシクロピロン、ビフェノックス、ビスピリバック、ブロマシル、ブロモブチド、ブタクロール、ブタミホス、ブテナクロール、カフェンストロール、カルフェントラゾンエチル、クロメトキシニル、クロリダゾン、クロルフタリム、クロロIPC、TCTP、シンメスリン、シノスルフロン、クロジナホップ、クロマゾン、クロメプロップ、クロピラリド、CNP、クミルロン、シアナジン、シクロスルファムロン、シハロホップブチル、ダイカンバ、ジクロベニル、ジフルフェニカン、ジメピペレート、ジメタメトリン、ジメテナミド、Pジメテナミド、ジチオピル、ジウロン、ダイムロン、エスプロカルブ、エトフメセート、エトベンザニド、エトキシスルフロン、フラザスルフロン、フェノキサプロップエチル、フェノキサスルフォン、フェントラザミド、フロラスラム、フルアジホップ、フルカルバゾンナトリウム塩、フルセトスルフロン、フルポキサム、グルホシネート、グリホサートアンモニウム塩、グリホサートイソプロピルアミン塩、グリホサートカリウム塩、グリホサートナトリウム塩、グリホサートトリメシウム塩、ハロスルフロンメチル、ヘキサジノン、イマザモックス、イマザピル、イマゼタピル、イマザキン、イマゾスルフロン、インダノファン、インダジフラム、ヨードスルフロンメチルナトリウム塩、アイオキシニル、イプフェンカルバゾン、イソプロチュロン、イソウロン、イソキサベン、イソキサフルトール、カルブチレート、レナシル、リニュロン、MCC、MCPA、MCPB、MCPP、メフェナセット、メソスルフロンメチル、メソトリオン、メタミホップ、メタミトロン、メタゾスルフロン、メチオゾリン、メチルダイムロン、メトラクロール、メトリブジン、メトスルフロンメチル、モリネート、モノスルフロン、モノスルフロンメチル、ナプロアニリド、ナプロパミド、ニコスルフロン、ノルフルラゾン、オルソベンカーブ、オルソスルファムロン、オキサジアルギル、オキサジアゾン、オキサジクロメホン、ペンディメタリン、ペノキススラム、ペントキサゾン、フェンメディファム、ピコリナフェン、ピノキサデン、プレチラクロール、プロジアミン、プロメトリン、プロパニル、プロピソクロール、プロポキシカルバゾンナトリウム塩、プロピリスルフロン、プロピザミド、ピラクロニル、ピラスルホトール、ピラゾリネート、ピラゾスルフロンエチル、ピラゾキシフェン、ピリブチカルブ、ピリフタリド、ピリミノバックメチル、ピリミスルファン、ピロキサスルホン、ピロキシスラム、キンクロラック、キノクラミン、キザロホップエチル、サフルフェナシル、セトキシジム、シデュロン、シマジン、シメトリン、スルフォスルフロン、テブティウロン、テフリルトリオン、テンボトリオン、テプラロキシジム、ターバシル、テトラピオン、テニルクロール、チアザフルロン、チエンカルバゾンメチル、チフェンスルフロンメチル、トプラメゾン、トリアファモン、トリフロキシスルフロン、トリフルラリン、2,4-PA、d-リモネン等の除草剤の1種または2種以上を用いることができる。
【0023】
本発明の対象となる害虫を、以下に例示する。
アリ類(クロヤマアリ、トビイロシワアリ、アミメアリ、クロオオアリ、トビイロケアリ、オオハリアリ、ヒメアリ、クロクサアリ、イエヒメアリ、ルリアリ、オオズアリ、キイロヒメアリ、クロヒメアリ、コトビイロケアリ、ハヤシトビイロケアリ、キイロシリアゲアリ、トビイロシリアゲアリ、ハリブトシリアゲアリ、オオシワアリ、シワアリ、メクラハリアリ、トゲアリ、ムネアカオオアリ、サムライアリ、アカヤマアリ、アメイロアリ、ウメマツアリ、シワクシケアリ、エゾクシケアリ、オオズアカアリ、アズマオオズアカアリ、アシナガアリ、クロナガアリ、ムネボソアリ、フシアリ、アルゼンチンアリ、ヒアリ、アカカミアリ等)、
等脚目類(ホソワラジムシ、ワラジムシ等のワラジムシ類、オカダンゴムシ等のダンゴムシ類、フナムシ等のフナムシ類等)、
腹足類(コウラナメクジ、チャコウラナメクジ、ノナメクジ等のコウラナメクジ科、ナメクジ、ヤマナメクジ等のナメクジ科、ニワコウラナメクジ等のニワコウラナメクジ科、オカモノアラガイ等のオカモノアラガイ科、アフリカマイマイ等のアフリカマイマイ科、ウスカワマイマイ等のオナジマイマイ科、ニッポンマイマイ等のナンバンマイマイ科等のマイマイ、カタツムリ類)、
クモ類(カバキコマチグモ、セアカゴケグモ等)、
半翅目類(アオクサカメムシ、ホソヘリカメムシ、オオトゲシラホシカメムシ、トゲシラホシカメムシ、チャバネアオカメムシ、クサギカメムシ、ミナミアオカメムシ、アカスジカスミカメ、アカヒゲホソミドリカスミカメ等のカメムシ類、モモアカアブラムシ、リンゴアブラムシ、ワタアブラムシ、ニセダイコンアブラムシ等のアブラムシ類等)、
鱗翅目類(チャドクガ等のドクガ類、アメリカシロヒトリ等のヒトリガ類、マイマイガ等のマイマイガ類、ハスモンヨトウ、アワヨトウ、トリコプルシア属、ヘリオティス属、ヘリコベルパ属等のヤガ類、ニカメイガ、コブノメイガ、ワタノメイガ、ノシメマダラメイガ等のメイガ類、イガ、コイガ等のヒロズコガ類等の成虫または幼虫)、
双翅目類(ユスリカ類、タネバエ、タマネギバエ等のハナバエ類、マメハモグリバエ等のハモグリバエ類、ミバエ類、ショウジョウバエ類、クロバネキノコバエ類、ニセケバエ類、ハマベバエ類、ハヤトビバエ類、オオキモンノミバエ等のノミバエ類、オオチョウバエ等のチョウバエ類、ブユ類、アブ類、サシバエ類等)、
膜翅目類(ミナミキイロアザミウマ、ミカンキイロアザミウマ、ハナアザミウマ、アザミウマ類等)、
多足類(ゲジ、トビズムカデ等の唇脚綱類や、ヤケヤスデ、アカヤスデ等の倍脚綱類)、
ダニ目(タカラダニ類等)、
鞘翅目類(ゴミムシ等のコウチュウ目等)、
革翅目類(ハサミムシ類等)、
網翅目類(ゴキブリ目等)、
直翅目類(ケラ類、バッタ類、コオロギ類等)を例示することができる。
本発明の害虫防除剤は、これらの中でも、腹足類、等脚目類、アリ類、半翅目類に対して有効に使用することができる。
【0024】
本発明の害虫侵入阻害剤は、アリ類等の害虫が触角や歩脚を薬剤処理面に接触させることを抑制し、薬剤処理面内に害虫が侵入することを確実に阻害するために、薬剤処理面1平方メートル当たり、ペラルゴン酸またはその塩を、好ましくは0.01~30g、より好ましくは0.05~25gとなる量で散布する。施用頻度は、アリ類等の害虫の発生を確認したら、1~2週間に1回程度の頻度で施用するのがよい。施用手段は特に制限されない。
本発明の害虫侵入阻害剤は、害虫が侵入して欲しくない家屋などの建造物の入り口付近、例えば台所、勝手口、玄関、廊下、リビング、窓辺、ベランダ、ウッドデッキ、ポート、アスファルト等の家屋などの建造物周辺や駐車場等に噴霧または散布処理することにより、アリ類等の害虫が触角や歩脚を薬剤処理面に接触させることを抑制し、薬剤処理面内にアリ類等の害虫が侵入することを確実に阻害する効果を発揮し、家屋などの建造物内や車内へのアリ類等の害虫の侵入を確実に阻害する点において極めて実用的である。
【実施例
【0025】
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
<試験検体の調製1>
表1記載の組成からなる試験検体を調製し、実施例1~6および比較例1とした。試験検体の調製に際しては、各成分を混合しマグネチックスターラーにて組成が均一となるように撹拌した。
実施例1~6は、ペラルゴン酸と25%アンモニア水とが中和してペラルゴン酸のアンモニウム塩を形成し、有効成分として作用する。
【0027】
【表1】
【0028】
<殺虫試験1>
表2記載の各種害虫を対象として殺虫試験1を実施した。試験の概要は図1に示した。
≪アリ類・等脚目類・ナメクジ殺虫試験≫
内径100mm、高さ45mmのプラスチック製カップ(商品名:KP-200(鴻池プラスチック社製))の内壁面上部に害虫が逃亡しないよう炭酸カルシウムを施した。前記カップ内に供試虫5頭を放ち、10cmの距離から各試験検体2mLを噴霧器で処理した。処理後、供試虫を清潔なプラスチック製カップに移し、12時間後に致死数を計数し、下記式にて致死率(%)を算出した。試験は、25℃、明るい条件下にて行い、3回の平均値を致死率(%)として表2に記載した。
≪カメムシ殺虫試験≫
上記「アリ類・等脚目類・ナメクジ殺虫試験」と同様に、チャバネアオカメムシ、クサギカメムシ、ミナミアオカメムシ、ホソヘリカメムシは供試虫を3~5頭とし、24時間後の致死数を計数し、下記式にて致死率(%)を算出した。試験は、25℃、明るい条件下にて1回行った。
≪ニッポンマイマイ殺虫試験≫
上記「アリ類・等脚目類・ナメクジ殺虫試験」と同様に、ニッポンマイマイは供試虫を1頭とし、12時間後の致死を確認し、下記式にて致死率(%)を算出した。試験は、25℃、明るい条件下にて1回行った。
≪トビズムカデ殺虫試験≫
内径130mm、高さ100mmのプラスチック製カップ(商品名:KP-860MB(鴻池プラスチック社製))の内壁面上部に害虫が逃亡しないよう炭酸カルシウムを施した。前記カップ内に供試虫1頭を放ち、10cmの距離から各試験検体6mLを噴霧器で処理した。処理後、供試虫を清潔なプラスチック製カップに移し、24時間後に致死を確認し、下記式にて致死率(%)を算出した。試験は、25℃、明るい条件下にて1回行った。
[式]:致死率(%)=致死した供試虫数/全供試虫数×100
【0029】
【表2】
【0030】
表2に示したとおり、本発明のペラルゴン酸のアンモニウム塩を有効成分とした実施例1の害虫防除剤は、各種害虫に対して優れた殺虫効果を奏することが明らかとなった。
【0031】
実施例1と同様にして、表1に記載した実施例2~6について各種害虫に対する殺虫効果を確認した結果、以下のとおり優れた殺虫効果を奏することが確認された。
クロヤマアリ、クサギカメムシ、ミナミアオカメムシ、ホソヘリカメムシに対して実施例2を処理した結果、致死率は93.3%、100%、100%および100%であった。
ニッポンマイマイ、ホソヘリカメムシに対して、実施例3を処理した結果、いずれも致死率は100%であった。
ダンゴムシ、ワラジムシに対して実施例3~4を処理した結果、いずれも致死率は100%であった。
ダンゴムシ、ワラジムシおよびナメクジに対して実施例5を処理した結果、致死率は、80%、86.7%および100%であった。
ダンゴムシ、ナメクジに対して実施例6を処理した結果、致死率は、73.3%、93%であった。
【0032】
<試験検体の調製2>
表3記載の組成からなる試験検体を調製し、実施例7~9とした。試験検体の調製に際しては、各成分を混合しマグネチックスターラーにて組成が均一となるように撹拌した。
【0033】
【表3】
【0034】
<忌避試験1>
表4記載の各種害虫を対象として忌避試験1を実施した。試験の概要は図2に示した。
縦25cm、横30cm、高さ10cmのプラスチック製容器の内壁面上部に害虫が逃亡しないよう炭酸カルシウムを施した。前記容器内には、供試虫の餌場として、水を含浸した脱脂綿または固形餌を2ヵ所設置した。次に直径5.5cm、ナメクジ対象のみ直径7cmのろ紙に実施例7~9と対照(アセトン100%)を各2mLずつ含浸させ、餌場を囲うようにろ紙を設置した。
次に、容器内に供試虫を放ち、30分後の定着数を計数し、下記式にて忌避率(%)を算出した。試験は、25℃、明るい条件下にて行い、2回の平均値を忌避率(%)として表4に記載した。
試験では、クロヤマアリおよびアミメアリは各50頭、ダンゴムシおよびワラジムシは各40頭、ナメクジは20頭を用いた。
忌避率(%)={1-(試験検体定着数)/(試験検体定着数+対照定着数)}×100
以後、式中の「試験検体」とは、実施例または比較例の検体を意味する。
【0035】
【表4】
【0036】
表4に示したとおり、本発明のペラルゴン酸を有効成分とした害虫防除剤は、各種害虫に対して優れた忌避効果を奏することが明らかとなった。
【0037】
<試験検体の調製3>
表5記載の組成からなる試験検体を調製し、実施例10、比較例2とした。試験検体の調製に際しては、各成分を混合しマグネチックスターラーにて組成が均一となるように撹拌した。
【0038】
【表5】
【0039】
<腹足類防除試験1>
チャコウラナメクジを対象として腹足類防除試験1を実施した。試験の概要は図1に示した。
内径100mm、高さ45mmのプラスチック製カップ(商品名:KP-200(鴻池プラスチック社製))の内壁面上部に害虫が逃亡しないよう炭酸カルシウムを施した。前記カップ内に供試虫1頭を放ち、10cmの距離から実施例10、比較例2の各試験検体3mLを噴霧器で処理した。処理後、供試虫を観察し完全停止するまでの時間(FT:秒)を測定した。また、チャコウラナメクジの粘液脱ぎ捨て行動の有無、逃亡行動の有無、15分後および24時間後の致死について確認し、その結果を表6に記載した。
表6中の「無」は粘液脱ぎ捨て行動や逃亡行動が無かったことを、「有」は粘液脱ぎ捨て行動や逃亡行動があったことを、「〇」は致死していたことを、「×」は生存していたことを意味する。
【0040】
【表6】
【0041】
一般的に、ナメクジ等の腹足類は、ピレスロイド系殺虫剤を体表に処理しても、体表の粘液を脱ぎ捨てることにより殺虫効果が得られにくいことが知られている。
表6の実施例10の結果より明らかなように、ペラルゴン酸は処理してから行動を完全停止するまでの時間(FT)が191秒(約3分程度)であり、粘液の脱ぎ捨て行動や逃亡行動が見られず、15分以内に致死することが確認された。
一方、比較例2のピレスロイド系殺虫剤の1つであるピレトリンを処理した場合は、公知技術のとおり、体表の粘液脱ぎ捨て行動や逃亡行動が見られ、24時間後も致死しなかった。
表6に示したとおり、本発明のペラルゴン酸を有効成分とした害虫防除剤は、公知のピレスロイド系殺虫剤では得られない、確実に致死活性が得られる、ナメクジ等の腹足類に対する優れた防除効果を発揮することが明らかとなった。
【0042】
<試験検体の調製4>
表7記載の組成からなる試験検体を調製し、実施例11、比較例3、4とした。試験検体の調製に際しては、各成分を混合しマグネチックスターラーにて組成が均一となるように撹拌した。
【0043】
【表7】
【0044】
<腹足類防除試験2>
チャコウラナメクジを対象として腹足類防除試験2を実施した。試験の概要は図1に示した。
上記「腹足類防除試験1」と同様に試験を行った。処理後、供試虫を観察し完全停止するまでの時間(FT:秒)を測定した。また、チャコウラナメクジの粘液脱ぎ捨て行動の有無、逃亡行動の有無、15分後および24時間後の致死について確認し、その結果を表8に記載した。
表8中の「無」は粘液脱ぎ捨て行動や逃亡行動が無かったことを、「有」は粘液脱ぎ捨て行動や逃亡行動があったことを、「有*」は粘液脱ぎ捨て行動はあるが完全に脱ぎ捨てられずにいたことを、「〇」は致死していたことを、「×」は生存していたことを意味する。
【0045】
【表8】
【0046】
上述したとおり、ピレスロイド系殺虫剤をナメクジ等の腹足類の体表に処理しても、体表の粘液を脱ぎ捨てることにより殺虫効果が得られにくいが、天然系成分の中には、例えば、L-カルボンのように体表の粘液脱ぎ捨て行動を阻害し致死させるものが存在する一方で、リモネンのように体表の粘液脱ぎ捨て行動を阻害できない成分があることも知られている。
表8の実施例11の結果より明らかなように、ペラルゴン酸は処理してから行動を完全停止するまでの時間(FT)が240秒(約4分程度)であり、粘液の脱ぎ捨て行動や逃亡行動が見られず、15分以内に致死した。
一方、体表の粘液脱ぎ捨て行動を阻害し致死させることが公知のL-カルボンを処理した場合には、ペラルゴン酸処理と同様に逃亡行動は見られず、15分以内に致死したが、体表の粘液脱ぎ捨て行動が見られ、行動を完全停止するまでの時間(FT)が425秒(7分以上)であった。また、リモネンを処理した場合には、体表の粘液脱ぎ捨て行動や逃亡行動が見られ、24時間後も致死に至らなかった。
表8に示したとおり、本発明のペラルゴン酸を有効成分とした害虫防除剤は、L-カルボン等の公知の腹足類駆除剤よりも優れた防除効果が得られることが明らかとなった。
【0047】
<試験検体の調製5>
表9記載の組成からなる試験検体を調製し、実施例12、比較例5とした。試験検体の調製に際しては、各成分を混合しマグネチックスターラーにて組成が均一となるように撹拌した。
【0048】
【表9】
【0049】
<アリ類忌避試験1>
表10記載のアリ類を対象としてアリ類忌避試験1を実施した。試験の概要は図2に示した。
縦25cm、横30cm、高さ10cmのプラスチック製容器の内壁面上部に害虫が逃亡しないよう炭酸カルシウムを施した。前記容器内には、供試虫の餌場として、水を含浸した脱脂綿を2ヵ所設置した。次に直径5.5cmのろ紙に実施例12または比較例5と対照(アセトン100%)を各2mLずつ含浸させ、餌場を囲うようにろ紙を設置した。
次に、容器内に供試虫(50頭)を放ち、30分後の餌場への定着数を計数し、下記式にて忌避率(%)を算出した。
また、試験検体を含浸させたろ紙に対する侵入回避効果(試験検体を含浸させたろ紙に対しアリ類が触角や歩脚を接触すらさせることなくろ紙の前からUターンする行動を促す効果)の有無についても、確認した。試験は、25℃、明るい条件下にて行い、忌避率(%)として表10に記載した。
忌避率(%)={1-(試験検体定着数)/(試験検体定着数+対照定着数)}×100
表10中の「有」は侵入回避効果が認められたことを、「無」は侵入回避効果が認められなかったことを意味する。
【0050】
【表10】
【0051】
表10の実施例12の結果より明らかなように、ペラルゴン酸はクロヤマアリ、アミメアリのアリ類の種類に関わらず忌避率が100%であり、優れた忌避効果を奏することが確認された。これに対し、ピレスロイド系殺虫剤のフェンプロパトリンは忌避率が50%未満であり、しかもクロヤマアリとアミメアリのようにアリ類の種類により忌避効果に差があった。
さらに、ペラルゴン酸を含浸させたろ紙に対する侵入回避効果をも有することが確認された一方、フェンプロパトリンを含浸させたろ紙に対する、侵入回避効果は認められなかった。
表10に示したとおり、本発明のペラルゴン酸を有効成分とした害虫防除剤は、ピレスロイド系殺虫剤よりも優れたアリ類忌避効果および薬剤処理面内に対する侵入回避効果を発揮することが明らかとなった。
【0052】
上記「アリ類忌避試験1」において確認された、アリ類侵入回避効果について、詳しく調査するため以下の「アリ類侵入阻害確認試験」と「アリ類侵入阻害詳細確認試験」を行った。
<試験検体の調製6>
下記表11記載の組成からなる試験検体を調製し、実施例13、比較例6~11とした。試験検体の調製に際しては、各成分を混合しマグネチックスターラーにて組成が均一となるように撹拌した。
【0053】
<アリ類侵入阻害確認試験>
試験の概要は図3に示す。
縦15cm、横20cm、高さ10cmのプラスチック製容器の内壁面上部にアリ類が逃亡しないよう炭酸カルシウムを施した。前記容器内には、アリ類の餌場として、水を含浸した脱脂綿を1ヵ所設置した。次に直径5.5cmのろ紙に試験検体をそれぞれ2mLずつ含浸させ、餌場を囲うようにろ紙を設置した。
次に、容器内にアリ類(クロヤマアリ、10頭)を放ち、ろ紙上に侵入したアリ類の数を(a)侵入回数として、10分間カウントした。試験は、25℃、明るい条件下にて行った。
この(a)侵入回数は、触角や歩脚を当該ろ紙に接触させ、さらに前進してろ紙内に侵入した回数を意味する。
上記試験検体の組成とそれぞれの(a)侵入回数を表11に示した。
【0054】
【表11】
【0055】
表11の実施例13の結果より明らかなように、ペラルゴン酸を含浸させたろ紙上にアリ類は侵入することが全くなく、優れた侵入阻害効果を発揮することが確認された。これに対し、ペラルゴン酸と同じ飽和脂肪酸である酪酸(比較例6)を含浸させたろ紙上にアリ類が10分間に49回、カプリル酸(比較例7)を含浸させたろ紙上に25回、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸(比較例8~11)は、それぞれを含浸させたろ紙上に13~15回侵入しており、ペラルゴン酸とは異なり侵入阻害効果を示さないことも明らかとなった。
ペラルゴン酸は、酪酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸と炭素数のみが相違する飽和脂肪酸であるが、薬剤処理面内にアリ類が一度も侵入しない、すなわち、薬剤処理面内への侵入阻害効果を発揮する点において、他の脂肪酸と大きく相違することが確認された。
ペラルゴン酸が有する優れた薬剤処理面内への侵入阻害効果は、本発明者が多くの実験を行い初めて確認した格別顕著な効果である。
【0056】
<試験検体の調製7>
下記表12記載の組成からなる試験検体を調製し、実施例14、比較例12~15とした。試験検体の調製に際しては、各成分を混合しマグネチックスターラーにて組成が均一となるように撹拌した。
【0057】
<アリ類侵入阻害詳細確認試験>
試験の概要は図3に示す。
縦15cm、横20cm、高さ10cmのプラスチック製容器の内壁面上部にアリ類が逃亡しないよう炭酸カルシウムを施した。前記容器内には、アリ類の餌場として、水を含浸した脱脂綿を1ヵ所設置した。次に直径5.5cmのろ紙に試験検体をそれぞれ2mLずつ含浸させ、餌場を囲うようにろ紙を設置した。
次に、容器内にアリ類(クロヤマアリ、10頭)を放ち、ろ紙に接近したアリ類の行動を観察した。ろ紙に触角や歩脚を接触させることなくUターンしたアリ類の数を(b)侵入回避回数、ろ紙に触角や歩脚を接触させたが、ろ紙に侵入することなくUターンしたアリ類の数を(c)接触後回避回数として、10分間カウントした。また、(b)侵入回避回数と(c)接触後回避回数の和を(d)侵入阻害回数とした。さらに、(d)侵入阻害回数における(b)侵入回避回数の割合を「侵入回避率(%)」とした。
試験は、25℃、明るい条件下にて行った。
上記試験検体の組成とそれぞれの(b)侵入回避回数、(c)接触後回避回数、(d)侵入阻害回数、侵入回避率(%)を表12に示した。
【0058】
【表12】
【0059】
表12の実施例14の結果より明らかなように、ペラルゴン酸を含浸させたろ紙の前からUターンする(d)侵入阻害回数は、炭素数のみが相違する飽和脂肪酸である酪酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸(比較例12~15)に比べて約1.5~4倍程度高く、ペラルゴン酸は極めて優れた薬剤処理面内への侵入阻害効果を有することが明らかとなった。中でも、ペラルゴン酸は、薬剤処理面にアリ類が触角や歩脚を接触すらさせずに薬剤処理面の前からUターンする(b)侵入回避回数が、触角や歩脚を接触さてからUターンする(c)接触後回避回数に比べて概略5倍程度高いことも確認された。このことは、(d)侵入阻害回数における(b)侵入回避回数の割合を意味する「侵入回避率(%)」が、ペラルゴン酸(実施例14)は、酪酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸(比較例12~15)に比べて極めて高いことからも、明白である。
すなわち、ペラルゴン酸は、アリ類が触角や歩脚を薬剤処理面に接触させることを抑制し、薬剤処理面内にアリ類が侵入することを確実に阻害する優れた効果を発揮することが明らかとなった。
【0060】
<試験検体の調製8>
表13記載の組成からなる試験検体を調製し、実施例15、比較例16とした。試験検体の調製に際しては、各成分を混合しマグネチックスターラーにて組成が均一となるように撹拌した。
【0061】
【表13】
【0062】
<アリ類忌避試験2>
表14記載のアリ類を対象としてアリ類忌避試験2を実施した。試験の概要は図2に示した。
縦25cm、横30cm、高さ10cmのプラスチック製容器の内壁面上部に害虫が逃亡しないよう逃亡処理を施した。前記容器内には、供試虫の餌場として、水を含浸した脱脂綿を2ヵ所設置した。次に直径5.5cmのろ紙に実施例15または比較例16と対照(アセトン100%)を各2mLずつ含浸させ、餌場を囲うようにろ紙を設置した。容器内に供試虫を放ち、30分後の定着数を計数し、下記式にて忌避率(%)を算出した。これを「初期」の忌避率とする。
次いで、直径5.5cmのろ紙に実施例15または比較例16と対照(アセトン100%)を各2mLずつ含浸させ、1週間ドラフト内で風乾させた。上記と同様の試験を1週間風乾させたろ紙を用いて再度行い、12時間後の定着数を係数し、下記式にて忌避率(%)を算出した。これを「1週間後」の忌避率とした。試験は、25℃、明るい条件下にて行い、2回の平均値を忌避率(%)を表14に記載した。
忌避率(%)={1-(試験検体定着数)/(試験検体定着数+対照定着数)}×100
【0063】
【表14】
【0064】
表14の実施例15の結果より明らかなように、ペラルゴン酸はクロヤマアリ、アミメアリに対して、初期、1週間後ともに忌避率が100%であることが確認された。これに対し、アリ類に対する天然成分由来の忌避成分として知られているサリチル酸ベンジル(比較例16)は、初期の忌避率はクロヤマアリ、アミメアリともに100%であるものの、1週間後の忌避率は、クロヤマアリに対しては46.2%、アミメアリに対しては84.8%と、忌避率が低下することが明らかとなった。この忌避率の低下は、サリチル酸ベンジルが揮散性の高い薬剤であることから、1週間風乾させたろ紙には、忌避活性に十分なサリチル酸ベンジルが残存していないことに起因するものと考えられる。
これらの結果より、本発明のペラルゴン酸を有効成分とした害虫防除剤は、長期間安定したアリ類忌避効果を発揮することが明らかとなった。
【0065】
<試験検体の調製9>
表15記載の組成からなる試験検体を調製し、実施例16、比較例17とした。試験検体の調製に際しては、各成分を混合しマグネチックスターラーにて組成が均一となるように撹拌した。
【0066】
【表15】
【0067】
<等脚目類防除試験1>
表16記載の等脚目類を対象として等脚目類防除試験1を実施した。試験の概要は図2に示した。
縦25cm、横30cm、高さ10cmのプラスチック製容器の内壁面上部に害虫が逃亡しないよう炭酸カルシウムを施した。前記容器内には、供試虫の餌場として、水を含浸した脱脂綿を2ヵ所設置した。次に直径5.5cmのろ紙に実施例16または比較例17と対照(アセトン100%)を各2mLずつ含浸させ、餌場を囲うようにろ紙を設置した。
次に、容器内に供試虫(20頭)を放ち、30分後の餌場への定着数を計数し、下記式にて忌避率(%)を算出した。また、試験検体を含浸させたろ紙に対する侵入回避効果(試験検体を含浸させたろ紙に対し等脚目類が触角や歩脚を接触すらさせることなくろ紙の前からUターンする行動を促す効果)の有無についても確認した。試験は、25℃、明るい条件下にて行い、忌避率(%)として表16に記載した。
忌避率(%)={1-(試験検体定着数)/(試験検体定着数+対照定着数)}×100
表16中の「有」は侵入回避効果が認められたことを、「無」は侵入回避効果が認められなかったことを意味する。
【0068】
【表16】
【0069】
表16の実施例16の結果より明らかなように、ペラルゴン酸はダンゴムシ、ワラジムシに対して、市販のダンゴムシ忌避剤の有効成分としても使用され、ピレスロイド系殺虫剤として公知のピレトリン(比較例17)に比べ、高い忌避活性を示すことが明らかとなった。さらに、ペラルゴン酸を含浸させたろ紙に対する侵入回避効果をも有することが確認された。
表16に示したとおり、本発明のペラルゴン酸を有効成分とした害虫防除剤は、ピレスロイド系殺虫剤よりも優れた等脚目類防除効果を発揮することが明らかとなった。
【0070】
<試験検体の調製10>
表17記載の組成からなる試験検体を調製し、実施例17、比較例18、19とした。
試験検体の調製に際しては、各成分を混合しマグネチックスターラーにて組成が均一となるように撹拌した。
【0071】
【表17】
【0072】
<等脚目類防除試験2>
表18記載の等脚目類を対象として等脚目類防除試験2を実施した。試験の概要は図3に示した。
縦15cm、横20cm、高さ10cmのプラスチック製容器の内壁面上部に害虫が逃亡しないよう炭酸カルシウムを施した。前記容器内には、供試虫の餌場として、水を含浸した脱脂綿を1ヵ所設置した。次に直径5.5cmのろ紙に実施例17、比較例18または比較例19と対照(アセトン100%)を各2mLずつ含浸させ、餌場を囲うようにろ紙を設置した。
次に、容器内に供試虫(10頭)を放ち、ろ紙への侵入回数と侵入阻害回数(試験検体を含浸させたろ紙に対し等脚目類が触角や歩脚を接触すらさせることなくろ紙の前からUターンする回数と、触角や歩脚を当該ろ紙に接触させたとしても当該ろ紙に侵入することなくUターンする回数の和)を、15分間計数し、下記式にて侵入阻害率(%)を算出した。試験は、25℃、明るい条件下にて行い、侵入阻害率(%)を表18に記載した。
侵入阻害率(%)={(侵入阻害回数)/(侵入回数+侵入阻害回数)}×100
【0073】
【表18】
【0074】
表18の実施例17の結果より明らかなように、ペラルゴン酸はダンゴムシ、ワラジムシに対して、ピレスロイド系殺虫剤の中でも揮散性が高いことが公知のエンペントリン(比較例18)やプロフルトリン(比較例19)に比べ、侵入阻害回数が多い一方で侵入回数が極めて低いことが明らかとなった。
また、エンペントリン(比較例18)やプロフルトリン(比較例19)の試験系においては、試験終了後に致死個体が確認されたが、ペラルゴン酸の試験系では、致死個体は確認されなかった。ペラルゴン酸を直接等脚目類に処理しないこの試験系においては、忌避効果および侵入阻害効果のみが発揮されることも確認された。
表18に示したとおり、本発明のペラルゴン酸を有効成分とした害虫防除剤は、ピレスロイド系殺虫剤よりも優れた等脚目類防除効果を発揮することが明らかとなった。
【0075】
<試験検体の調製11>
下記表19記載の組成からなる試験検体を調製し、実施例18、比較例20とした。試験検体の調製に際しては、各成分を混合しマグネチックスターラーにて組成が均一となるように撹拌した。
【0076】
<ムカデ忌避確認試験>
試験の概要は図3に示した。
縦25cm、横30cm、高さ30cmのプラスチック製容器の内壁面上部に害虫が逃亡しないよう炭酸カルシウムを施した。直径10cmのろ紙に実施例18と比較例20(アセトン100%)を各4mLずつ含浸させ、前記容器内に設置し、ろ紙上に市販の毒餌(アース製薬(株)ムカデコロリ(毒餌剤)容器タイプ)を載置した。
次に、容器内に1日絶食させたトビズムカデ1頭を放ち、24時間後の致死を確認した。試験は、25℃、明るい条件下にて行い、忌避評価結果を表20に記載した。
この確認試験ではろ紙上に侵入してはじめて餌(毒餌)を摂食できるため、忌避評価結果は、トビズムカデが致死した場合には忌避効果はなく「×」と、トビズムカデが致死していない場合は忌避効果があるとして「〇」と表記した。
【0077】
【表19】
【0078】
表19に示したとおり、ペラルゴン酸は、ムカデに対しても優れた忌避効果を奏することが明らかとなった。
【0079】
<試験検体の調製12>
下記表20記載の組成からなる試験検体を調製し、実施例19とした。試験検体の調製に際しては、各成分を混合しマグネチックスターラーにて組成が均一となるように撹拌した。
【0080】
【表20】
【0081】
<カメムシ忌避確認試験>
試験の概要は図4に示した。
内径130mm、高さ100mmのプラスチック製カップ(商品名:KP-860MB(鴻池プラスチック社製))の内壁面上部に害虫が逃亡しないよう炭酸カルシウムを施した。前記カップ内に、供試虫の餌場として水を含浸した脱脂綿を2ヵ所設置し、片方の餌場に実施例19の試験検体を2mL含浸させた。
次に、前記カップ内に表21記載の供試虫(5頭)を放ち、24時間後の餌場への定着数を計数し、下記式にて忌避率(%)を算出した。
忌避率(%)={1-(試験検体定着数)/(試験検体定着数+対照定着数)}×100
試験は25℃、明るい条件下にて行い、忌避率(%)を表21に記載した。
【0082】
【表21】
【0083】
表21に示したとおり、ペラルゴン酸は、カメムシに対しても種類を問わず良好な忌避活性を奏することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のペラルゴン酸を有効成分とした害虫防除剤は、ピレスロイド系殺虫剤等の公知の薬剤に比べ、優れた害虫防除効果、特に害虫忌避効果や、侵入阻害効果若しくは侵入回避効果を奏するものである。詳しくは、本発明の害虫防除剤は、腹足類、等脚目類、アリ類、半翅目類、多足類に対して優れた致死活性を有するものであり、さらには、腹足類、等脚目類、アリ類、多足類に対して優れた忌避効果や侵入阻害効果を発揮するものである。
本発明の侵入阻害効果は、ペラルゴン酸またはその塩を有効成分とする薬剤処理面に対し、害虫が触角や歩脚を接触することなく薬剤処理面の前からUターン行動をとる、若しくは接触させたとしても薬剤処理面の前からUターン行動をとることに起因する、優れた効果である。
本発明の害虫防除剤は、除草活性を有するペラルゴン酸またはその塩を有効成分としているため、散布した場所の除草効果も同時に得ることができる。これにより、本発明の害虫防除剤を家屋等の建造物の入り口付近や駐車場などに処理することにより、薬剤に接触した害虫は致死し、薬剤処理面内に対しては害虫が侵入することを確実に阻害するので、家屋内や車内等に害虫を侵入させることがなく、さらに処理した場所の雑草の繁殖を抑制する効果が得られるという特徴を有するものである。
本発明の害虫防除剤が奏するこれらの効果は、本発明者により新たに見出された知見であり、格別顕著な効果である。
図1
図2
図3
図4