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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】放電ランプ
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/073 20060101AFI20221213BHJP
   H01J 61/26 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H01J61/073
H01J61/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022170743
(22)【出願日】2022-10-25
【審査請求日】2022-10-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】小平 宏
(72)【発明者】
【氏名】酒井 規行
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-23612(JP,A)
【文献】特表2021-521608(JP,A)
【文献】特開昭55-46417(JP,A)
【文献】特開2019-194982(JP,A)
【文献】特開2000-21349(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104018135(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/073
H01J 61/06
H01J 61/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電管と、
前記放電管内に対向配置される一対の電極とを備え、
少なくとも一方の電極において、セラミックスを含み、層表面にタングステンが付着しているコーティング層が、電極胴体部表面の少なくとも一部に形成され、
前記コーティング層において、電極先端側に近い箇所に付着しているタングステンの付着量が、電極支持棒側に近い箇所に付着しているタングステンの付着量よりも相対的に多いことを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
前記コーティング層が、前記電極の軸方向中央部分を跨ぐように電極胴体部表面に形成され、
軸方向中央部分よりも電極先端側の層表面に付着しているタングステンの付着量が、軸方向中央部分よりも電極支持棒側の層表面に付着しているタングステンの付着量よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記コーティング層において、電極支持棒側から電極先端側に向けて、タングステンの付着量が、徐々に多くなることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記コーティング層が、有彩色であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項5】
前記セラミックスが、窒化物、酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物のうち少なくともいずれか1つから成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電ランプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショートアーク型放電ランプなどの放電ランプに関し、特に、電極表面に対するコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
放電ランプは、点灯中に電極先端部が高温となり、タングステンなどの電極材料が溶融、蒸発し、放電管が黒化して、ランプ照度低下を招く。電極先端部を含めた電極の過熱を防ぐため、例えば、電極胴体部側面をネジ状の溝で表面積を大きくし、その溝の上に、タングステンの粉末を焼結させ、放熱層を形成する(特許文献1参照)。
【0003】
また、放熱部材を電極本体部に焼結させた放電ランプが知られている(特許文献2参照)。そこでは、電極本体部よりも熱電導性の高いセラミックス材料から成る中空円筒状の放熱部材を電極本体に焼結させ、電極側面側から放熱させることにより、電極温度の上昇を抑える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-306546号公報
【文献】特開2008-186790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ランプ点灯中、電極過熱によって電極材料(例えばタングステンなど)の一部が蒸発し、その蒸発物の一部は電極表面に付着する。これは、電極表面がセラミックス材料から成る放熱部材表面で形成されていても、同じである。このような電極材料の電極表面への付着は、セラミックス材料による放熱機能を低下させることに繋がる。
【0006】
したがって、ランプ点灯の間、電極表面からの放熱機能を効果的に発揮することができる放電ランプを提供することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様である放電ランプは、放電管と、放電管内に対向配置される一対の電極とを備え、少なくとも一方の電極において、セラミックスを含み、層表面にタングステンが付着しているコーティング層が、電極胴体部表面の少なくとも一部に形成され、コーティング層において、電極先端側に近い箇所に付着しているタングステンの付着量が、電極支持棒側に近い箇所に付着しているタングステンの付着量よりも相対的に多い。
【0008】
コーティング層の形成位置は様々であり、例えば、コーティング層は、電極の軸方向中央部分を跨ぐように電極胴体部表面に形成することができる。この場合、軸方向中央部分よりも電極先端側の層表面に付着しているタングステンの付着量が、軸方向中央部分よりも電極支持棒側の層表面に付着しているタングステンの付着量よりも多くなるように、構成することが可能である。
【0009】
電極先端側と電極支持棒側との間でタングステンの付着量に相違を設ける方法は、様々な態様が可能であり、定められた濃度分布をもつようにすることが可能である。例えば、コーティング層において、電極支持棒側から電極先端側に向けて、タングステンの付着量が、徐々に多くなるようなグラデーションをもつように、タングステンの付着量を定めることが可能である。
【0010】
コーティング層としては、素材として1つまたは複数のセラミックスが含まれる単層のコーティング層と、複数のコーティング層が含まれる。また、複数のコーティング層に関しては、各層に対し、素材として1つのセラミックスが含まれる、あるいは、複数のセラミックスが含まれる構成となる。
【0011】
複数のコーティング層としての構成は様々であり、例えば、1つのコーティング層(例えば最下層)にセラミックスと電極素材(タングステン、モリブデンなど)が含まれる一方、他のコーティング層(例えば最下層の上に形成されるコーティング層)にはセラミックス成分のみ、あるいはセラミックスと電極素材以外の成分が含まれるように構成することが可能である。あるいは、ランプ軸方向に沿って電極先端側と後端側とで成分を変えた複数のコーティング層を構成することも可能である。
【0012】
コーティング層に含まれるセラミックスは、窒化物、酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物のうち少なくともいずれか1つから成るようにすればよい。すなわち、窒化物、酸化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物のいずれか1つのセラミックス、あるいは2つ以上のセラミックスから成るようにすることができる。
【0013】
例えば、セラミックスが、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭化ジルコニウム、炭化ケイ素、珪化タンタル、ホウ化ジルコニウムの少なくともいずれか1つから成るように構成することができる。
【0014】
コーティング層については、有彩色にすることが可能である。例えば、窒化ジルコニウムの窒素とジルコニウムの原子数濃度の比が、0.2<N/Zr<0.9の範囲で調整することにより、有彩色にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ランプ点灯の間、放熱機能を効果的に発揮することができる放電ランプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態である放電ランプの概略的平面図である。
図2】本実施形態の電極を部分的に示す概略的平面図である。
図3】実施例と比較例の照度維持率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ショートアーク型放電ランプ10は、高輝度の光を出力可能な大型放電ランプであり、透明な石英ガラス製の略球状放電管(発光管)12を備え、放電管12内には、タングステン製の一対の電極20、30が対向(同軸)配置される。放電管12の両側には、石英ガラス製の封止管13A、13Bが放電管12と連設し、一体的に形成されている。放電管12内の放電空間DSには、水銀とハロゲンやアルゴンガスなどの希ガスが封入されている。
【0018】
陰極である電極20は、電極支持棒17Aによって支持されている。封止管13Aには、電極支持棒17Aが挿通されるガラス管(図示せず)と、外部電源と接続するリード棒15Aと、電極支持棒17Aとリード棒15Aを接続する金属箔16Aなどが封止されている。陽極である電極30についても同様に、電極支持棒17Bが挿通されるガラス管(図示せず)、金属箔16B、リード棒15Bなどのマウント部品が封止されている。また、封止管13A、13Bの端部には、口金19A、19Bがそれぞれ取り付けられている。
【0019】
一対の電極20、30に電圧が印加されると、電極20、30の間でアーク放電が発生し、放電管12の外部に向けて光が放射される。ここでは、1kW以上の電力が投入される。放電管12から放射された光は、反射鏡(図示せず)によって所定方向へ導かれる。
【0020】
図2は、電極(陽極)30を部分的に示す概略的平面図である。なお、電極(陰極)20についても同様の構造にすることが可能である。
【0021】
電極30は、電極先端面32Tを有し、テーパー形状となる部分(以下、先端側テーパー部という)32と、電極支持棒17Bと繋がる柱状部分(以下、胴体部という)34から構成されている。電極30は、タングステンやモリブデンあるいはこれらの合金などから構成することができる。ここでは、電極30が一体的に構成されている。
【0022】
胴体部34の側面34Sには、コーティング層44が形成されている。ここでは、胴体部34全体、すなわち、胴体部34の電極先端側端部34E1から電極支持棒側端部(図2では図示せず)に渡って、コーティング層44が形成されている。なお、図2では、コーティングされている部分を斜線で示している。
【0023】
コーティング層44は、熱性能(耐熱性、放熱性を含む)のあるセラミックスを含むコーティング層として構成されている。特に2000℃以上の高融点であることが好ましく、セラミックスとしては、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)などの窒化物、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)などの酸化物、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ケイ素(SiC)などの炭化物、珪化タンタル(TaSi2)などのケイ化物、または、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)などのホウ化物によって構成することが可能であり、もしくはこれらの少なくとも2つ以上の組み合わせで構成することも可能である。
【0024】
ここでは、窒化ジルコニウムまたは炭化ジルコニウムから成るセラミックス、もしくはそれら両方から成るセラミックスが、コーティング層44に含まれている。なお、コーティング層44には、タングステンやモリブデンなど電極30と同じ金属を含有してもよい。
【0025】
窒化ジルコニウムの特性により、コーティング層44は有彩色のある側面領域として視認される。すなわち、電極素地とは異なる色として識別される。そのため、色ムラや膜の具合を外観から確認することが容易となり、放射率測定、点灯実験を行うことなく、コーティング層44が適切に形成されているか否かを検査することが可能となる。
【0026】
例えば、窒化ジルコニウムの窒素とジルコニウムの原子数濃度の比が、0.2<N/Zr<0.9の範囲であれば、コーティング層44は茶系色の有彩色として形成される。なお、原子数濃度の比は、胴体部34の表面を、例えばエネルギー分散型X線分析(EDS)を利用して測定、分析することにより、明らかにすることができる。
【0027】
コーティング層44の表面(以下、層表面という)には、タングステンの粒子(符号W参照)が付着している。ここでは、コーティング層44の層表面全体に渡って、点在(散在)する。さらに、コーティング層44の層表面におけるタングステン粒子の付着に関し、その付着量は、電極軸Cに沿って胴体部34の電極支持棒側端部から電極先端側端部34E1に向けて、徐々に多くなるように構成されている。
【0028】
別の言い方をすれば、点在(散在)するタングステンの電極軸Cに沿った濃度が、電極支持棒側端部から電極先端側端部34E1に近づくほど高く、グラデーションに近い濃度分布を形成している。図2では、タングステン粒子の付着量(濃度)の違いを、拡大部(符号A1、A2)によって模式的に示している。
【0029】
このようなタングステン粒子の付着量を電極先端側に向けて徐々に増加させたコーティング層44を設けることによって、ランプ点灯中におけるコーティング層44の放熱機能の低下を抑制することができる。以下、これについて説明する。
【0030】
ショートアーク型放電ランプ10の陽極30は、上述したように、タングステンを電極素材として含むように構成されている。そのため、ランプ点灯中、電極30が高温になることで、電極30の成分であるタングステンが一部蒸発する。蒸発したタングステンは、放電管12内におけるガス(符号F参照)の対流に沿って移動し、その中の一部はコーティング層44の層表面に付着する。
【0031】
一方、コーティング層44に付着させたタングステン粒子は、電極素材であるタングステンとは異なる物質であるため、素材(母材)と一体的にならず、あくまでも付着することに留まるため、結合が弱い。したがって、あらかじめコーティング層44の層表面に濃度分布をもつよう付着させたタングステン粒子に関しても、ランプ点灯による電極30の高温化により、その一部が蒸発する。そして、蒸発したタングステンの一部は、コーティング層44の層表面に付着する。
【0032】
ここで、コーティング層44の層表面に付着したタングステン粒子が結晶成長していくか否かは、熱力学的に全体の系が安定な方向に進んでいくか否かに依るものであって、安定化するか否かの境目にある臨界核が安定核となり、結晶成長を辿ることが必要となる。臨界核の中から安定核となるタングステンの発生頻度が、結晶成長に大きく関係する。
【0033】
上述したように、コーティング層44の層表面では、電極先端側に近いほどタングステン粒子の付着量が多くなるように構成されている。したがって、電極30から蒸発するタングステンも、電極先端側に近いほど多い。すなわち、コーティング層44の層表面付近におけるタングステンの濃度が高い。タングステン濃度が高いほど、コーティング層44の層表面に到達するタングステンの安定核が形成される確率が高くなる。これは、コーティング層44の層表面において、電極先端側に近いほど安定核が多いことを意味する。
【0034】
そして、コーティング層44の層表面に形成される安定核が多いほど、層表面に引き寄せられて吸着したタングステン粒子が再び蒸発して離れていく確率が下がり、層表面に落ち着く。その結果、結晶成長が早くなって、成長が盛んになり、タングステン濃度が高くなる。付着するタングステンの電極軸Cに沿った濃度分布は、ランプ点灯前と略同等の濃度分布、すなわちグラデーションのかかった濃度分布となる。
【0035】
電極30の電極支持棒側に近いほど、タングステン粒子の付着量が少ない。そのため、コーティング層44は、その放熱機能を発揮し、放射率の低下が抑えられる。一方、電極30の電極先端側に近いほどタングステン粒子の付着量が多いことにより、蒸発したタングステンが放電管12内のガスの流れに伴って放電管12の内壁に付着して黒化するのを抑える効果をもたらす。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の放電ランプ10では、電極30の胴体部34の表面にコーティング層44を形成し、コーティング層44の表面にタングステン粒子を点在、散在させるように付着させている。そして、タングステン粒子の付着量が電極軸Cに沿って電極先端側に近いほど多くなるような濃度分布をもつ。
【0037】
本実施形態では、コーティング層44を電極30の胴体部34に対して表面全体に形成しているが、一部表面にコーティング層44を形成してもよい。ショートアーク型放電ランプ10が直状に(鉛直方向に沿って)配置された状態でガスの対流が生じていることを考慮すれば、電極30の胴体部34の電極軸Cに沿った中央部CLに跨ってコーティング層44を形成すればよい。一方で、中央部CLよりも電極先端側にコーティング層44を形成してもよい。
【0038】
なお、グラデーションのような濃度分布をもつようにタングステンをコーティング層44の層表面に付着させる構成だけでなく、それ以外のバリエーションも可能である。コーティング層44の層表面の形成された表面領域において、相対的に電極先端側に近い箇所でのタングステン付着量が、相対的に電極支持棒側に近い箇所でのタングステン付着量が多くなるようにすればよい。例えば、電極支持棒側に近い箇所よりも、中央部CL付近のタングステン付着量が多い構成も可能である。なお、粒径は一定である必要はなく、例えば、約0.1~20μmの間で構成可能である。例えば、電極軸Cに沿って電極先端側に近いほど粒径の大きいタングステンを付着させ、電極支持棒側に近いほど小さいタングステンを付着させる構成にしてもよい。
【0039】
このような放電ランプの電極30は、以下のように製造することができる。
【0040】
まず、柱状の胴体部と先端側テーパー部を有する電極を成形する。次に、塗布によってコーティング層を形成する。層表面にタングステン粒子を付着させる方法は、任意の方法で可能である。例えば、タングステン粉末を溶媒に分散させ、それを噴霧することでタングステンを付着させる。タングステン量を変えて段階的に噴霧することで、濃度分布を調整することができる。その他、タングステン粉末を振りかける方法、タングステン濃度を変えた溶剤にディッピングする方法などが可能である。
【0041】
コーティング層44の上から別成分のコーティング層を重ねて、複数層のコーティング層を形成してもよい。例えば、窒化ジルコニウムから成る下層にタングステン粒子やモリブデン粒子などを含有させて、同じく窒化ジルコニウムから成る表層にはタングステン粒子やモリブデン粒子を含有させないように、組成を変えた複数層にしてもよいし、炭化ジルコニウムから成るコーティング層の上に窒化ジルコニウムから成るコーティング層を形成し、素材の異なる複数層にしてもよい。複数層のうちいずれかのコーティング層にセラミックスを含むように構成することも可能である。
【0042】
先端側テーパー部32を有する部材と胴体部34を有する部材とを、拡散接合などの固相接合によって接合し、電極30を構成することが可能である。また、中間部材を介して接合することも可能である。
【0043】
胴体部34の側面34Sあるいはテーパー部側面32Sには、放熱構造を設けてもよい。放熱構造は、素地表面、すなわち特別な放熱構造をあえて採用していない表面と比べて放射率が高く、放熱性を高める機能をもつ。放熱構造は、例えば周方向(電極軸周り)に沿った溝を所定ピッチで形成した構成とし、溝は、例えばレーザや切削などによって形成することが可能である。あるいは、電極軸方向に沿った溝で構成してもよい。また、溝以外の放熱構造を採用してもよい。
【0044】
例えば、胴体部34の電極先端側端部34E1からランプ軸C方向に沿って所定距離だけ離れた位置をコーティング層44の端部とし、その端部と電極先端側端部34E1との間では放熱構造を形成する一方、コーティング層44を形成しないようにすることができる。アーク放電の熱によるコーティング層44の剥がれを防止することができる。なお、所定距離の値は、電極の大きさや定格電力の値などに応じて定められる。
【実施例
【0045】
以下、実施例を用いて、コーティング層を形成した電極の放熱性能について説明する。
【0046】
実施例の放電ランプは、上記実施形態に相当する構成の電極(陽極)を備えたショートアーク型放電ランプであり、電極は、ランプ軸方向に沿った胴体部長さが57mm、径35mmのサイズで構成される。電極の胴体部側面の一部に、コーティング層を形成している。
【0047】
コーティング層は、窒化ジルコニウムの粉末を、エチルセルロースの含まれる溶媒に溶かして胴体部側面に塗布し、乾燥させた後、加熱処理することによって形成されている。そのコーティング層の上から、上述した方法でタングステン粒子を付着させている。
【0048】
上述した実施例と、比較例の放電ランプとの比較実験を行った。比較例の放電ランプの電極形状に関しては、実施例の電極と実質的に等しい。一方、比較例では、実施例のコーティング層による放熱機能を確認するために、コーティング層の形成されていない電極を用いた。
【0049】
図3は、実施例と比較例の照度維持率を示したグラフである。放電ランプを600時間点灯し、放電管の黒化状態を視認した。点灯開始から600時間経過の時点で、照度維持率が比較例69%に対し、実施例は76%となった。このことから、比較例と比べて、実施例の方が黒化を抑制できたことが確認された。
【0050】
実施例の電極において効果的な黒化抑制を実現できたことは、コーティング層表面上に付着させたタングステンが黒化現象に積極的に寄与していないことを示唆し、コーティング層以外の電極素材からのタングステン蒸発が抑えられている、すなわち、コーティング層による放熱機能が効果的に発揮されたことを示している。コーティング層を形成していない比較例の電極においてこのような結果が得られたことは、コーティング層のみ形成し、本実施例のようなタングステン付着のない電極と比較した場合においても、本実施例の電極の方が、放射機能に関してより効果的であるといえる。
【符号の説明】
【0051】
10 放電ランプ
30 電極(陽極)
44 コーティング層
【要約】
【課題】ランプ点灯の間、コーティング機能を効果的に発揮することができるコーティングを電極表面に施した放電ランプを提供する。
【解決手段】放電ランプ10において、電極30の胴体部34の表面にコーティング層44を形成し、コーティング層44の表面にタングステン粒子を点在、散在させるように付着させている。そして、タングステン粒子の付着量が電極軸Cに沿って電極先端側に近いほど多くなるような濃度分布をもつ。
【選択図】図2
図1
図2
図3