(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】焼結歯車の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/10 20060101AFI20221213BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20221213BHJP
B22F 5/08 20060101ALI20221213BHJP
B23F 19/10 20060101ALI20221213BHJP
B23P 15/14 20060101ALI20221213BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20221213BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
B22F3/10 B
B22F1/00 V
B22F5/08
B23F19/10
B23P15/14
C22C33/02 A
C22C33/02 B
C22C38/00 304
(21)【出願番号】P 2022504610
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035750
(87)【国際公開番号】W WO2022085380
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2020177643
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】嶋内 一誠
(72)【発明者】
【氏名】上野 友之
(72)【発明者】
【氏名】伊志嶺 朝之
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-082203(JP,A)
【文献】特開平06-288206(JP,A)
【文献】登録実用新案第3151149(JP,U)
【文献】特開2008-303432(JP,A)
【文献】特開2019-188592(JP,A)
【文献】特開昭53-125914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 9/30
B23P 15/14
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車形状の端面を軸方向の両側に有し、2つの前記端面の間に形成される外周面に複数の歯を有する圧粉体を用意する工程と、
前記端面と前記外周面とで構成される前記歯のエッジをブラシにより面取りする工程と、
面取りされた前記圧粉体を焼結する工程と、を備え、
前記圧粉体を構成する粉末は、鉄粉及び非鉄元素粉からなる第一混合粉、鉄基合金粉及び非鉄元素粉からなる第二混合粉、又は鉄基合金粉を含み、
前記エッジは、歯底エッジ、歯面エッジ及び歯先エッジの全てのエッジを含み、
前記ブラシは、円盤状のホイールと、前記ホイールの外周から放射状に突出する毛材と、を有するホイール型ブラシであり、
前記ホイールの軸方向に沿う前記毛材の幅は、隣り合う前記歯の間隔よりも大きく、
前記面取りする工程は、
前記圧粉体の軸方向と前記ホイールの軸方向とが交差するように、前記圧粉体に対して前記ブラシを配置し、
前記圧粉体の前記端面と前記外周面における前記歯の歯底面とで構成される
前記歯底エッジに前記毛材の先端を接触させ、
前記ブラシを回転させながら、前記圧粉体の周方向に沿って相対的に移動させる工程であ
り、
前記面取りする工程では、
前記ブラシによる前記圧粉体の径方向の切込み量が0.3mm以上2mm以下であり、前記ブラシによる前記圧粉体の軸方向の切込み量が0.3mm以上2mm以下であり、
前記ブラシの周速が200m/min以上800m/min以下である、
焼結歯車の製造方法。
【請求項2】
前記面取りする工程では、前記ブラシを、前記圧粉体の端面から歯底面への方向に回転させる請求項
1に記載の焼結歯車の製造方法。
【請求項3】
前記面取りする工程では、前記圧粉体を自転させる請求項1
又は請求項2に記載の焼結歯車の製造方法。
【請求項4】
前記毛材は、砥粒を含有する樹脂繊維から構成される請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の焼結歯車の製造方法。
【請求項5】
前記歯のそれぞれのエッジにおける面取り量は、0.1mm以上1.0mm以下である請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の焼結歯車の製造方法。
【請求項6】
前記圧粉体の相対密度が93%以上である請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の焼結歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結歯車の製造方法に関する。本出願は、2020年10月22日に出願した日本出願第2020-177643号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製の歯車として、焼結材からなるものや溶製材からなるものがある。特許文献1には、焼結材からなる歯車が記載されている。特許文献2から4には、溶製材からなる歯車が記載されている。以下、焼結材からなる歯車を焼結歯車と呼ぶ。溶製材からなる歯車を溶製歯車と呼ぶ。特許文献1は、圧粉体に切削加工を施して歯を形成した後に焼結することを開示する。特許文献5には、圧粉体であるギヤのエッジ部に発生しているバリをワイヤーブラシで除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-186625号公報
【文献】特開2017-159400号公報
【文献】特開2017-159401号公報
【文献】特開2017-226043号公報
【文献】特開2008-303432号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の焼結歯車の製造方法は、
歯車形状の端面を軸方向の両側に有し、2つの前記端面の間に形成される外周面に複数の歯を有する圧粉体を用意する工程と、
前記端面と前記外周面とで構成される前記歯のエッジをブラシにより面取りする工程と、
面取りされた前記圧粉体を焼結する工程と、を備え、
前記ブラシは、円盤状のホイールと、前記ホイールの外周から放射状に突出する毛材と、を有するホイール型ブラシであり、
前記面取りする工程は、
前記圧粉体の軸方向と前記ホイールの軸方向とが交差するように、前記圧粉体に対して前記ブラシを配置し、
前記圧粉体の前記端面と前記外周面における前記歯の歯底面とで構成される歯底エッジに前記毛材の先端を接触させ、
前記ブラシを回転させながら、前記圧粉体の周方向に沿って相対的に移動させる工程である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1B】
図1Bは、
図1Aに示す焼結歯車において、破線で囲まれる部分Bを拡大して示す概略斜視図である。
【
図2A】
図2Aは、面取り加工前の歯車形状の圧粉体において、歯の近傍を拡大して示す概略斜視図である。
【
図2B】
図2Bは、面取り加工後の歯車形状の圧粉体において、歯の近傍を拡大して示す概略斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る焼結歯車の製造方法における面取り工程の説明図である。
【
図5】
図5は、面取り工程におけるブラシによる圧粉体の切込み量の説明図である。
【
図6】
図6は、ホイール型ブラシの概略側面図である。
【
図7】
図7は、試験Bにおける面取り加工の説明図である
【
図9】
図9は、試験Bにおけるブラシの配置を説明する概略上面図である。
【
図11】
図11は、試験Cにおけるブラシの配置を説明する概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明者らは、焼結歯車の生産性を向上するために、歯車形状の圧粉体に対して、歯のエッジを面取りすることを検討した。
【0007】
従来、溶製歯車において、歯のエッジの面取りには、フレージング加工、歯に対してバイトを高速で進退させる切削加工、エンドミル等の回転工具を用いた倣い加工が利用されている。フレージング加工は、エッジを押し潰すことによってエッジを面取りする。バイトを高速で進退させる切削加工では、バイトは、シャンク部の軸方向に沿って進退する駆動機構により支持される。そして、歯車の軸回りに歯車を回転させつつ、バイトを歯に向かって高速で進出させることでエッジを面取りする。バイトが退く間に歯車を回転させて、次のエッジの面取りを行う。倣い加工では、エッジに沿って回転工具が追従するように回転工具を移動させることでエッジを面取りする。
【0008】
倣い加工では、加工時間が長くなり易い。回転工具を歯車形状に追従させるためには、回転工具の送り速度を速くできないからである。また、圧粉体に倣い加工を適用するには、溶製材に倣い加工を適用する場合よりも加工速度を遅くする必要がある。焼結前の圧粉体は溶製材に比較して機械的強度に劣る。そのため、加工速度を速くすると、回転工具が圧粉体に衝突することによって、圧粉体に欠けが生じ易い。更に、回転工具を追従させるための数値制御の設定時間も長くなり易い。歯車の設定形状が同じであっても、公差の範囲で形状誤差が生じる。そのため、歯車ごとに追従条件を設定する必要がある。これらのことから、圧粉体に倣い加工を適用する場合は、設定時間を含めた加工サイクル時間が比較的長い。例えば、加工サイクル時間は3分以上である。つまり、倣い加工は量産に不向きである。なお、加工サイクル時間は、一つの歯車について、全ての歯のエッジの面取りが完了する時間である。
【0009】
一方、フレージング加工やバイトによる切削加工は、通常、加工サイクル時間が比較的短い。例えば、加工サイクル時間は30秒以下である。つまり、フレージング加工やバイトによる切削加工は量産に適する。しかし、フレージング加工やバイトを高速で進退させる切削加工を圧粉体に施せば、圧粉体に欠けが生じる。上述のように圧粉体は溶製材に比較して機械的強度に劣る。そのため、フレージング加工で用いられる加工工具による押圧や高速で進出するバイトとの衝突により、圧粉体に欠けが生じる。その結果、事実上、適切に面取りを行うことができない。
【0010】
本発明者らは、圧粉体に対して、歯のエッジの面取りを適切に行える方法を見出した。そして、本開示の焼結歯車の製造方法を完成するに至った。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
以下、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の実施形態に係る焼結歯車の製造方法は、
歯車形状の端面を軸方向の両側に有し、2つの前記端面の間に形成される外周面に複数の歯を有する圧粉体を用意する工程と、
前記端面と前記外周面とで構成される前記歯のエッジをブラシにより面取りする工程と、
面取りされた前記圧粉体を焼結する工程と、を備え、
前記ブラシは、円盤状のホイールと、前記ホイールの外周から放射状に突出する毛材と、を有するホイール型ブラシであり、
前記面取りする工程は、
前記圧粉体の軸方向と前記ホイールの軸方向とが交差するように、前記圧粉体に対して前記ブラシを配置し、
前記圧粉体の端面と前記外周面における前記歯の歯底面とで構成される歯底エッジに前記毛材の先端を接触させ、
前記ブラシを回転させながら、前記圧粉体の周方向に沿って相対的に移動させる工程である。
【0013】
歯のエッジとは、端面と外周面とで構成される稜線となる角部である。歯のエッジには、歯底エッジ、歯面エッジ及び歯先エッジが含まれる。歯底エッジは、歯車形状の圧粉体の端面と歯底面とで構成されるエッジである。歯面エッジは、圧粉体の端面と歯面とで構成されるエッジである。歯先エッジは、圧粉体の端面と歯先面とで構成されるエッジである。
【0014】
本開示の焼結歯車の製造方法は、焼結歯車の生産性に優れる。本開示の製造方法では、ブラシにより歯のエッジの面取りを行う。面取りに用いるブラシはホイール型ブラシである。ホイール型ブラシは、ホイールの中心軸に回転軸が取り付けられる。歯のエッジの面取りは、ブラシを回転させて毛材を歯のエッジに接触させることで、歯のエッジを削り取る。毛材は柔軟性を有する。そのため、ブラシの周速や圧粉体に対するブラシの相対的な移動速度をある程度速めても、圧粉体に欠けが生じたり、局所的に削り過ぎたりすることを防止し易い。つまり、加工速度を速めても、歯のエッジを適切に面取りすることができる。加工速度を速められることで、加工サイクル時間を短縮することができる。従って、本開示の製造方法は、焼結歯車の生産性に優れる。
【0015】
本開示の焼結歯車の製造方法は、歯のエッジを良好に面取りすることができる。本開示の焼結歯車の製造方法では、圧粉体に対してホイール型ブラシを互いの軸方向が交差するように配置する。そして、毛材の先端を上述した歯底エッジに接触させた状態で、ブラシを回転させる。即ちブラシをホイールの軸を中心として自転させる。このような方法で面取りすることで、毛材が隣り合う歯と歯の間に入り込み易い。そのため、歯底エッジ、歯面エッジ及び歯先エッジの全てのエッジを良好に面取りすることができる。
【0016】
更に、上述の方法で面取りを行うことで、圧粉体の端面のうち、歯及びその近傍のみを毛材に接触させることができる。つまり、圧粉体の端面のうち、歯底面より径方向内側に位置する領域が毛材により削り取られることを大幅に防止できる。そのため、圧粉体の端面の大部分が加工されない。圧粉体の端面の大部分は、加工前の状態が維持される。従って、圧粉体の端面の平面度が維持され易い。圧粉体の端面の平面度が維持されることにより、焼結歯車の端面の平面度も適正に保たれる。例えば、焼結歯車に歯面研削加工する場合、焼結歯車の端面を基準面として、歯面研削加工を良好に行うことができる。以下、歯面研削加工を歯研加工という。
【0017】
(2)本開示の焼結歯車の製造方法の一形態として、
前記面取りする工程では、前記ブラシによる前記圧粉体の径方向の切込み量が0.3mm以上2mm以下であり、前記ブラシによる前記圧粉体の軸方向の切込み量が0.3mm以上2mm以下であることが挙げられる。
【0018】
径方向の切込み量とは、圧粉体の端面と歯底面とで構成されるエッジ、即ち歯底エッジから毛材の仮想周縁と圧粉体の端面との交点までの圧粉体の径方向に沿った距離である。軸方向の切込み量とは、歯底エッジから毛材の仮想周縁と歯底面との交点までの圧粉体の軸方向に沿った距離である。
【0019】
上記形態は、径方向の切込み量、及び軸方向の切込み量を上記範囲内とすることで、歯のエッジを良好に面取りすることができる。例えば、径方向の切込み量を0.3mm以上、かつ軸方向の切込み量を0.3mm以上とすることで、歯のエッジにおける面取り量を例えば0.1mm以上、更に0.2mm以上とすることができる。径方向の切込み量を2mm以下、かつ軸方向の切込み量を2mm以下とすることで、歯及びその近傍のみを加工することができる。つまり、歯の近傍以外の箇所が加工されることを防止できる。特に、径方向の切込み量を2mm以下とした場合、圧粉体の端面の大部分を加工せずに済む。そのため、圧粉体の端面の大部分は、加工前の状態を維持することができる。
【0020】
(3)本開示の焼結歯車の製造方法の一形態として、
前記面取りする工程では、前記ブラシを、前記圧粉体の端面から歯底面への方向に回転させることが挙げられる。
【0021】
上記形態は、ブラシの回転方向を毛材の先端が圧粉体の端面から歯底面に抜ける方向とすることで、歯のエッジを効率よく面取りすることができる。
【0022】
(4)本開示の焼結歯車の製造方法の一形態として、
前記面取りする工程では、前記圧粉体を自転させることが挙げられる。
【0023】
上記形態は、圧粉体を自転させる、即ち圧粉体をその軸を中心として回転させることで、ブラシの位置を固定した状態で圧粉体の周方向に沿ってブラシを移動させることができる。ブラシを圧粉体の周方向に沿って相対的に移動させるには、圧粉体を中心にブラシを公転させてもよい。圧粉体を自転させる場合、ブラシを公転させる場合に比べて制御が容易である。
【0024】
(5)本開示の焼結歯車の製造方法の一形態として、
前記ホイールの軸方向に沿う前記毛材の幅は、隣り合う前記歯の間隔よりも大きいことが挙げられる。
【0025】
上記形態は、毛材の幅が隣り合う歯の間隔、即ちピッチよりも大きいことで、歯のエッジを効率よく面取りすることができる。歯の間隔とは、基準円上での隣り合う歯の距離である。基準円の直径は[モジュール×歯数]として求めることができる。歯の間隔は[基準円の円周/歯数]として求めることができる。
【0026】
(6)本開示の焼結歯車の製造方法の一形態として、
前記面取りする工程では、前記ブラシの周速が200m/min以上800m/min以下であることが挙げられる。
【0027】
上記形態は、ブラシの周速を上記範囲内とすることで、歯のエッジを良好に面取りすることができる。ブラシの周速を200m/min以上とすることで、加工サイクル時間を短縮することができる。ブラシの周速を800m/min以下とすることで、毛材が圧粉体に当たることによる圧粉体や毛材へのダメージを低減できる。
【0028】
(7)本開示の焼結歯車の製造方法の一形態として、
前記毛材は、砥粒を含有する樹脂繊維から構成されることが挙げられる。
【0029】
上記形態は、毛材が砥粒を含有する樹脂繊維から構成されていることで、歯のエッジを効率よく面取りすることができる。毛材を構成する繊維は、例えば、樹脂繊維、金属繊維等が挙げられる。中でも、砥粒を含有する樹脂繊維は、柔軟性と剛性とをバランスよく兼ね備える。以下、砥粒を含有する樹脂繊維を砥粒入り樹脂繊維という場合がある。砥粒入り樹脂繊維は、樹脂繊維が有する柔軟性により、毛材をエッジに十分に接触させることができる。更に、砥粒が繊維表面から露出して、砥粒によりエッジを効率よく削り取ることができる。
【0030】
(8)本開示の焼結歯車の製造方法の一形態として、
前記歯のそれぞれのエッジにおける面取り量は、0.1mm以上1.0mm以下であることが挙げられる。
【0031】
上記形態は、歯のエッジにおける面取り量を上記範囲内とすることで、焼結歯車におけるエッジの欠けを効果的に防止し易い。
【0032】
(9)本開示の焼結歯車の製造方法の一形態として、
前記圧粉体の相対密度が93%以上であることが挙げられる。
【0033】
上記形態は、焼結歯車の生産性をより向上できる。上記形態は、圧粉体の相対密度が93%以上と高い。このような緻密な圧粉体は、機械的強度が高く、面取り加工時に欠けや亀裂等が生じ難い。即ち、面取り加工を良好に行い易く、不良品の発生を低減できる。よって、歩留りが高くなる。
【0034】
(10)本開示の焼結歯車の製造方法の一形態として、
前記圧粉体を構成する粉末は、鉄粉及び非鉄元素粉からなる第一混合粉、鉄基合金粉及び非鉄元素粉からなる第二混合粉、又は鉄基合金粉を含むことが挙げられる。
【0035】
上記形態は、鉄基合金からなる鉄系焼結歯車を製造できる。鉄基合金は、強度、剛性、耐摩耗性等の機械的特性に優れる。従って、上記形態は、機械的特性に優れる焼結歯車を製造できる。
【0036】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態を具体的に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0037】
[焼結歯車]
〈概要〉
初めに、
図1A,
図1Bを主に参照して、焼結歯車1を説明する。
図1Aに示す焼結歯車1は、はす歯外歯車である。焼結歯車1は、貫通孔2hを有する円筒状であり、外周面2cに複数の歯2を有する。焼結歯車1の軸方向、即ち貫通孔2hの軸方向の両側に位置する各端面2eは平坦な平面である。外周面2cは、軸方向の両側をつなぐように2つの端面2eの間に設けられる。貫通孔2hは、焼結歯車1の中心に設けられる。
図1Aに示す歯車形状は例示であり、適宜変更できる。その他の形状として、例えば平歯車、かさ歯車といった円筒状の歯車が挙げられる。円筒状の歯車は、内周面に複数の歯を有する内歯車でもよい。
【0038】
図1Bに拡大して示すように、焼結歯車1が有する歯2は、主として、歯底面20、歯面21及び歯先面22により構成される。歯底面20は、歯溝の底を構成する面である。歯溝は、隣り合う歯2の間に設けられる空間である。歯先面22は、歯2の先端を構成する面である。歯底面20及び歯先面22は、焼結歯車1の軸と同軸に回転する面である。歯面21は、歯底面20と歯先面22との間の面である。歯面21には、焼結歯車1に噛み合う図示しない別の歯車の歯面が接触する。
図1A、
図1Bの歯面21は平面であるが、例えばインボリュート曲面などでもよい。
【0039】
更に、焼結歯車1は、歯2のエッジが面取りされている。そのため、焼結歯車1は、歯2における端面2e側の角部に面取り部3を備える。面取り部3は、焼結歯車1の製造過程で、
図2Aに示す圧粉体10における歯2を構成する各面、即ち歯底面20、歯面21及び歯先面22と端面2eとの稜線であるエッジ4が面取りされることで形成される。なお、
図1Aでは、面取り部3を省略する。
【0040】
〈組成〉
焼結歯車1の主たる構成材料は金属である。焼結歯車1を構成する金属は、鉄基合金が好ましい。ここでの鉄基合金は、Fe(鉄)を80質量%以上、好ましくは90質量%以上含む合金とする。このような鉄基合金は、強度、剛性、耐摩耗性等の機械的特性に優れる。そのため、鉄基合金からなる焼結歯車1は、機械的特性に優れる。
【0041】
鉄基合金の具体的な組成は、例えばCu(銅)、Ni(ニッケル)、Sn(錫)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Mn(マンガン)及びC(カーボン)からなる群より選択される少なくとも1種の非鉄元素を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなるものが挙げられる。Cを含有する鉄基合金の代表例として、炭素鋼、合金鋼などの鋼が挙げられる。合金鋼、特にNi、Mo及びMnからなる群より選択される少なくとも1種を含有する合金鋼は機械的強度に優れて好ましい。
【0042】
Cu、Ni、Sn、Cr、Mo、Mn等の非鉄金属元素の含有量は、合計で0.5質量%以上5.0質量%以下が挙げられる。更に、上記含有量は、合計で1.0質量%以上3.0質量%以下でもよい。
【0043】
Cの含有量は0.2質量%以上2.0質量%以下が挙げられる。更に、Cの含有量は0.4質量%以上1.0質量以下でもよい。
【0044】
所望の組成の焼結歯車1となるように、原料粉末の組成を調整するとよい。
【0045】
〈相対密度〉
焼結歯車1の相対密度は高いことが好ましい。緻密な焼結歯車1は、強度や剛性、耐摩耗性等の機械的特性に優れるからである。例えば、焼結歯車1の相対密度は93%以上が挙げられる。相対密度が93%以上であれば、気孔が非常に少なく、緻密である。焼結歯車1の相対密度は95%以上、更に96%以上、97%以上が好ましい。このような緻密な焼結歯車1は、製造過程で緻密な圧粉体を素材に用いることで製造できる。
【0046】
焼結歯車1の相対密度は、以下のようにして求めることができる。
相対密度とは、真密度に対する見かけ密度の比率である。相対密度(%)は[見かけ密度/真密度×100]として求めることができる。焼結歯車1の見かけ密度は、例えば、水を用いたアルキメデス法により測定できる。焼結歯車1の真密度は、例えば、焼結歯車1の組成から算出できる。
【0047】
なお、焼結歯車1の製造過程において、圧粉体を成形するときの加圧方向は、代表的には貫通孔2hの軸方向に平行な方向が挙げられる。この場合、焼結歯車1の軸方向は加圧方向に実質的に等しい。
【0048】
焼結歯車1は気孔の含有を許容する。しかし、上述のように気孔が少ないことが好ましい。相対密度が高いほど、気孔が少ないといえる。
【0049】
〈面取り部〉
図1Bに示すように、焼結歯車1の面取り部3には、歯底面取り部30と、歯面面取り部31と、歯先面取り部32とが含まれる。歯底面取り部30は、端面2eと歯底面20との角部に設けられる。歯面面取り部31は、端面2eと歯面21との角部に設けられる。歯先面取り部32は、端面2eと歯先面22との角部に設けられる。
【0050】
面取り部3の構成面は、曲面であることが挙げられる。面取り部3の構成面の一部に平面を含んでもよい。
図1Bでは、便宜上、面取り部3である歯底面取り部30、歯面面取り部31及び歯先面取り部32の各構成面を平面的に図示している。曲面を含む面取り部3は、焼結歯車1の製造過程で、
図2Aに示す圧粉体10における歯2のエッジ4をブラシにより面取りすることで形成できる。ブラシによる面取り加工については後述する。
【0051】
〈面取り量〉
図3を参照して、
図1Bに示す歯2のエッジにおける面取り部3の面取り量について説明する。
図3は、
図1Bに示される歯底面取り部30の近傍において、歯底面20を焼結歯車1の軸を含む平面で切断した状態を模式的に示す部分断面図である。以下の説明は、歯底面取り部30を例に挙げて行う。なお、歯底面取り部30の面取り量に関する事項は、歯先面取り部32、歯面面取り部31についても同様に適用できる。歯先面取り部32の面取り量については、
図3における「歯底面20」及び「歯底面取り部30」を「歯先面22」、及び「歯先面取り部32」と読み替えればよい。歯面面取り部31の面取り量については、
図3における「歯底面20」及び「歯底面取り部30」を「歯面21」及び「歯面面取り部31」と読み替えればよい。
【0052】
面取り部3の面取り量は、
図3の二点鎖線で示される2辺の長さにより定義される。
図3では、面取り部3の構成面は歯底面取り部30の構成面である。
図3において、上記2辺の長さのうち、端面2eに沿った長さは歯底面取り部30における焼結歯車1の径方向の面取り量Laを表す。もう一方の歯底面20に沿った長さは歯底面取り部30における焼結歯車1の軸方向の面取り量Lbを表す。
【0053】
詳しくは、径方向の面取り量Laは、以下の交点Paと交点Pcとの間の距離である。軸方向の面取り量Lbは、以下の交点Pbと交点Pcとの間の距離である。
交点Paは、端面2eと歯底面取り部30の構成面との交点である。
交点Pbは、歯底面20と歯底面取り部30の構成面との交点である。
交点Pcは、端面2eを延長した仮想面20eと歯底面20を延長した仮想面200との交点である。
【0054】
面取り量は、例えば0.1mm以上1.0mm以下が挙げられる。面取り量が0.1mm以上1.0mm以下とは、径方向の面取り量La及び軸方向の面取り量Lbの両方が0.1mm以上1.0mm以下であることを意味する。径方向の面取り量Laと軸方向の面取り量Lbとは、実質的に等しくてもよいし、異なっていてもよい。面取り量が0.1mm以上であれば、
図1Bに示す焼結歯車1における歯2のエッジの欠けを効果的に防止し易い。ブラシにより面取りする場合、面取り量が大きいほど、加工時間が長くなる。面取り量が1.0mm以下であれば、面取りに要する加工時間を短縮し易い。そのため、加工コストも抑えられる。
【0055】
〈表面性状〉
焼結歯車1の製造過程で、
図2Aに示す圧粉体10における歯2のエッジ4を面取りして面取り部3を形成した場合、面取り部3の表面は比較的粗くなる。面取りによって、圧粉体10を構成する一部の粒子が削り落とされる。そのため、面取り後の加工面は、粒子の大きさに基づく凹凸が生じ易い。面取りされた圧粉体10を焼結することで、凹凸に起因して焼結歯車1における面取り部3の表面も粗くなり易い。
【0056】
[焼結歯車の製造方法]
〈概要〉
図2A、
図2Bを適宜参照して、実施形態に係る焼結歯車の製造方法を説明する。
焼結歯車1は、以下に説明する実施形態の焼結歯車の製造方法により製造することができる。実施形態の製造方法は、次の各工程を備える。第二工程である面取り工程については、
図4、
図5を適宜参照して説明する。
第一工程は複数の歯2を有する歯車形状の圧粉体10を用意する。
第二工程は歯2のエッジ4をブラシ100により面取りする。
第三工程は面取りされた圧粉体10を焼結する。以下、面取りされた圧粉体10を加工体11と呼ぶ。
【0057】
第二工程、即ち面取り工程において、
図4に示すブラシ100は、ホイール型ブラシである。ホイール型ブラシは、円盤状のホイール110と、ホイール110の外周から放射状に突出する毛材120とを有する。
【0058】
以下、各工程を詳細に説明する。
〈第一工程:用意工程〉
この工程では、圧粉体10(
図2A)を用意する。圧粉体10は、例えば、所定の形状の圧粉体にホブ等により歯切り加工を施して作製することが挙げられる。この場合、歯切り加工前の圧粉体の形状は円筒状等の単純な形状でよい。単純形状の圧粉体は精度よく成形し易い。そのため、歯切り加工前の圧粉体を単純形状とすれば、形状精度、寸法精度が高い圧粉体を効率よく成形できる。単純形状には、円筒状の他、円柱状も含む。圧粉体の成形性に優れる点は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。圧粉体10は金型によって成形してもよい。
【0059】
《圧粉体の作製》
圧粉体は、金属粉末を主体とする集合体である。詳しくは、圧粉体は、金属粉末の各粒子が塑性変形することで互いに噛み合って一塊の状態を維持する。このような圧粉体は、金属粉末を主体とする原料粉末を圧縮することで作製できる。圧粉体の成形は、所定の形状の金型に原料粉末を充填して行う。そして、一軸加圧のプレス装置といった公知のプレス装置を利用して原料粉末を圧縮する。金型は、代表的には、貫通孔を有するダイと、貫通孔の上下の開口部に配置される上パンチ及び下パンチとを備える。筒状の圧粉体を作製する場合は、貫通孔内に挿入されるコアロッドを備えてもよい。
【0060】
《原料粉末》
原料粉末の主成分である金属粉末の含有量は、例えば、原料粉末を100質量%として、90質量%以上とすることが挙げられる。金属粉末の含有量は95質量%以上、更に98質量%以上としてもよい。原料粉末における金属粉末の含有量が多いほど、緻密な圧粉体を得易い。なお、ここでの金属粉末は、後述する鉄基合金に利用される非鉄元素粉であって非金属元素からなる粉末を含む。
【0061】
原料粉末の組成は、目的とする焼結歯車1の組成に応じて調整すればよい。例えば、鉄基合金からなる焼結歯車1を製造する場合、圧粉体を構成する粉末は、鉄粉及び非鉄元素粉からなる第一混合粉、鉄基合金粉及び非鉄元素粉からなる第二混合粉、又は鉄基合金粉を含むことが挙げられる。この場合、上述のように機械的特性に優れる焼結歯車1を製造することができる。鉄基合金の詳細は、上述した焼結歯車の〈組成〉の項を参照するとよい。
【0062】
鉄粉は、純鉄からなる粉末である。純鉄は、代表的には、Fe及び不純物からなるものが挙げられる。純鉄における不純物の含有量は、例えば合計で1質量%以下が挙げられる。純鉄におけるCの含有量は0.02質量%以下である。非鉄元素粉は、Fe以外の非鉄金属元素からなる粉末、又は非金属元素からなる粉末である。非鉄金属元素は、上述のCu、Ni、Sn、Cr、Mo、Mn等が挙げられる。非金属元素は、C等が挙げられる。例えば、鉄粉及び非鉄元素粉からなる第一混合粉を用いる場合、原料粉末の段階では鉄基合金ではないが、焼結によって合金化する。よって、鉄基合金からなる焼結歯車1を製造することができる。所望の組成の鉄基合金が得られるように、鉄粉又は鉄基合金粉と非鉄元素粉との配合量を調整するとよい。以下、鉄粉及び鉄基合金粉をまとめて鉄系粉末と呼ぶ。鉄系粉末と非鉄元素粉との割合は、鉄系粉末と非鉄元素粉との合計質量を100質量%として、例えば、鉄系粉末の割合が99質量%以上、非鉄元素粉の割合が1質量%以下とすることが挙げられる。鉄系粉末の割合は、99.3質量%以上、更に99.5質量%以上でもよい。非鉄元素粉の割合は、0.7質量%以下、更に0.5質量%以下でもよい。
【0063】
鉄基合金粉は、鉄基合金からなる粉末である。鉄基合金粉を用いる場合、原料粉末に含まれる金属粉末の組成と、焼結後の焼結歯車1の組成とは実質的に等しい。
【0064】
上述の鉄粉、非鉄金属元素からなる粉末、鉄基合金粉は、例えば水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、カルボニル法、還元法等によって製造できる。これらの粉末は、市販のものを用いてもよい。
【0065】
鉄粉、鉄基合金粉の平均粒径は、例えば10μm以上200μm以下が挙げられる。平均粒径が10μm以上200μm以下であれば、粉末を取り扱い易い上、粉末を圧縮し易い。平均粒径が10μm以上であれば、原料粉末が良好な流動性を有する。そのため、原料粉末を金型に充填し易い。平均粒径が200μm以下であれば、焼結性に優れる。そのため、緻密な焼結歯車1を得易い。平均粒径が小さいほど、上述の表面粗れを小さくし易い。平均粒径が40μm以上150μm以下であると、成形性の向上、緻密性の向上、表面性状の向上等が期待できる。複数種の粉末を用いる場合、各粉末の平均粒径は等しくてもよいし、異なってもよい。ここでの平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置によって測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)とする。
【0066】
緻密な圧粉体を作製する場合は、上述のように原料粉末における金属粉末の含有量が多いほど好ましい。そのため、原料粉末は実質的に金属粉末のみとしてもよい。又は、緻密な圧粉体が得られる範囲で潤滑剤及び有機バインダーの少なくとも一方を含んでもよい。
緻密な圧粉体とは、相対密度が93%以上のものをいう。潤滑剤を含むと、金型との焼き付き等を防止できる。潤滑剤の含有量は、原料粉末を100質量%として、0.2質量%以下が好ましい。有機バインダーを含むと、成形時に圧粉体の欠けや亀裂の発生を抑制し易い。潤滑剤や有機バインダーは公知のものを使用できる。原料粉末に添加する潤滑剤や有機バインダーについては、特許文献1の明細書の段落[0040]、[0041]を参照するとよい。
【0067】
《成形条件》
圧粉体を成形する金型は、所定の形状、大きさの圧粉体を成形可能なものを適宜選択するとよい。
【0068】
成形時の圧縮圧力は、例えば600MPa以上が挙げられる。圧縮圧力が600MPa以上であれば、圧粉体を緻密にし易い。圧縮圧力が高いほど圧粉体を緻密化し易い。そのため、圧縮圧力は、1000MPa以上、更に1500MPa以上が好ましい。圧縮圧力の上限は特に設けないが、例えば3000MPaとすることが挙げられる。圧縮圧力が3000MPa以下であれば、金型の破損等を防止し易い。
【0069】
金型の内周面に潤滑剤を塗布することが好ましい。金型の内周面としては、例えば、上述のダイの内周面やパンチの押圧面等が挙げられる。金型に潤滑剤を塗布することで、原料粉末に潤滑剤を含まない場合でも、金型との焼き付き等を防止することができる。また、原料粉末に潤滑剤を含まない分、原料粉末における金属粉末の含有量を増やすことができる。この潤滑剤は、公知のものを使用できる。金型に塗布する潤滑剤については、特許文献1の明細書の段落[0044]を参照するとよい。
【0070】
《圧粉体の相対密度》
圧粉体の相対密度は93%以上であることが好ましい。相対密度が93%以上という緻密な圧粉体は、機械的強度に優れる。そのため、後述する面取り加工、更に歯切り加工やその他の切削加工を行う際、圧粉体に欠けや亀裂等が生じ難い。つまり、緻密な圧粉体は、面取り加工等の加工を適切に行えて、不良品の発生を低減できる。歩留りの向上によって、焼結歯車1の生産性を向上できる。また、緻密な圧粉体を用いることで、緻密な焼結歯車1を製造できる。緻密な焼結歯車1は、上述のように機械的特性に優れて好ましい。
【0071】
圧粉体の相対密度が高いほど、機械的強度に優れる。従って、圧粉体の相対密度は95%以上、更に96%以上、97%以上が好ましい。圧粉体の相対密度を高めるには、原料粉末における金属粉末の含有量を多くしたり、成形時の圧縮圧力を大きくしたり、金属粉末を微粗混合にしたり、粒径が大きい金属粉末を用いたりすることが挙げられる。
【0072】
圧粉体の相対密度は、上述した焼結歯車1の相対密度と同様にして求めることができる。相対密度の求め方は、上述した焼結歯車の〈相対密度〉の項を参照するとよい。圧粉体の真密度は、例えば、圧粉体の組成、即ち原料粉末の組成から算出できる。
【0073】
《歯切り加工》
歯切り加工を行って圧粉体10を作製する場合、歯切り加工は、公知の歯切り工具を使用できる。代表的な歯切り工具は、ホブ、ブローチ、ピニオンカッタ等が挙げられる。歯切り加工は、マシニングセンタを用いて行ってもよい。
【0074】
歯切り加工する前に、以下の溶液を圧粉体の表面に塗布してもよい。又は以下の溶液に圧粉体の表面を浸漬してもよい。溶液は、有機バインダーを溶かした揮発性溶液、可塑性溶液等が挙げられる。圧粉体の表面に溶液を塗布又は浸漬することによって、歯切り加工時に圧粉体の表層の欠けや亀裂を抑制することができる。場合によっては、次工程の面取り加工時にも欠けや亀裂を抑制できることが期待される。そのため、溶液の塗布又は浸漬は、欠けや亀裂による不良品の低減に寄与する。つまり、歩留りを高められる。溶液の塗布又は浸漬は、後述の面取り加工前や、歯切り加工及び面取り加工以外の切削加工前にも行ってもよい。
【0075】
歯切り加工の他、面取り加工前の圧粉体に対して、その他の切削加工を施してもよい。この切削加工は、転削加工、旋削加工のいずれでもよい。複数種の加工を自動的に行えるマシニングセンタを用いてもよい。具体的な加工として、例えば穴あけ加工等が挙げられる。
【0076】
なお、歯切り加工、面取り加工、その他の切削加工による加工量は、焼結後の焼結歯車1の寸法を測定し、この実測値をフィードバックさせて調整してもよい。実測値に即して加工量を調整することで、焼結後の焼結歯車1の実際の寸法と設計寸法との差を小さくし易い。その結果、焼結後の仕上げ加工等の加工時間を短縮し易い。この点は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。
【0077】
歯切り加工、面取り加工、その他の切削加工に伴う加工屑は、原料粉末に再利用することが可能である。ここで、圧粉体10を被削材とする場合、加工に伴う加工屑は、典型的には、圧粉体10を構成する一部の粒子が分離された粉末状のものである。
このような加工屑は、再溶解及び再固化することなく、そのままの状態で原料粉末に再利用できる。加工屑中に粒子が固まった粒塊がある場合には、粒塊を適宜解砕してもよい。
また、上述の加工時に欠けや亀裂が生じた圧粉体も、適宜解砕して粉末化すれば、原料粉末に再利用できる。このように圧粉体を被削材とする場合には、焼結材を被削材とする場合に比較して、加工屑や不良品を再利用し易い。この点は、材料コストの低減に寄与する。また、加工屑が粉末状であるため、エアブロー等を利用して圧粉体から加工屑を容易に除去できる。更に、エアブローで加工屑を除去すれば、加工屑の除去時に圧粉体が損傷し難い。損傷による不良品の発生を低減できるので、歩留りを高められる。つまり、エアブローによる加工屑の除去は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。
【0078】
〈第二工程:面取り工程〉
この工程では、
図2Aに示す圧粉体10における歯2のエッジ4を、
図4に示すブラシ100により面取りする。そして、
図2Bに示す加工体11を作製する。エッジ4には、
図2Aに示すように、歯底エッジ40と、歯面エッジ41と、歯先エッジ42とが含まれる。歯底エッジ40は、圧粉体10の端面2eと歯底面20とで構成されるエッジである。歯面エッジ41は、端面2eと歯面21とで構成されるエッジである。歯先エッジ42は、端面2eと歯先面22とで構成されるエッジである。
図4に示すブラシ100はホイール型ブラシである。
【0079】
《加工体》
加工体11は、焼結歯車1の形状と概ね等しい形状を有する。
図2Bに示す加工体11は、焼結歯車1と同様にはす歯外歯車である。加工体11は、一対の端面2eと、外周面に設けられる複数の歯2とを有する。また、加工体11は、歯2の構成面である歯底面20、歯面21及び歯先面22と端面2eとの角部に面取り部3を備える。
面取り部3には、歯底面取り部30と、歯面面取り部31と、歯先面取り部32とが含まれる。
【0080】
加工体11の相対密度は、面取り前の圧粉体10の相対密度と実質的に同じである。相対密度が93%以上である緻密な加工体11であれば、緻密な焼結歯車1を製造できる。
また、加工体11が緻密であれば、焼結時の収縮が均一的になり易い。そのため、加工体11の形状及び寸法と焼結歯車1の形状及び寸法との差を小さくし易い。その結果、焼結後の仕上げ加工等の加工時間を短縮し易い。この点は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。
【0081】
《ブラシ》
面取りに用いるブラシ100は、ホイール型ブラシである。ホイール型ブラシは、
図4に示すように、ホイール110と毛材120とを備える。ホイール110は円盤状であり、平面視で円形状の端面を軸方向の両側に備える。ホイール110の中心部には、回転軸を取り付けるための貫通孔が中心軸に沿って設けられていてもよい。毛材120は、ホイール110の外周に設けられ、ホイール110の外周面から放射状に突出する。ブラシ100は、ホイール110の中心軸に回転軸が取り付けられる。回転軸が回転することで、ブラシ100が回転する。即ちブラシ100がホイール110の軸を中心として自転する。ブラシ100の回転により、毛材120が圧粉体10に当たることによって、エッジ4を削り取る。
【0082】
《毛材》
毛材120は、柔軟性を有する複数の繊維により構成されている。毛材120を構成する繊維は、例えば樹脂繊維、金属繊維等が挙げられる。樹脂繊維の材質は、例えばポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド(ナイロン)等が挙げられる。金属繊維の材質は、例えば鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。樹脂繊維の場合、砥粒を含有する樹脂繊維でもよい。砥粒は、例えばセラミックス砥粒等が挙げられる。セラミックス砥粒の材質は、例えば炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、アルミナ(Al2O3)等が挙げられる。砥粒入り樹脂繊維は、柔軟性と剛性とをバランスよく兼ね備える。即ち、砥粒入り樹脂繊維は、樹脂繊維が有する柔軟性により、毛材120をエッジ4に十分に接触させることができる。また、砥粒入り樹脂繊維は、砥粒が繊維表面から露出して、砥粒によりエッジ4を効率よく削り取ることができる。そのため、毛材120が砥粒入り樹脂繊維から構成されていれば、エッジ4を効率よく面取りすることができる。
【0083】
毛材120を構成する繊維の断面形状は、代表的には円形状である。繊維径は、繊維の材質等に応じて適宜選択するとよい。繊維の直径は、例えば0.5mm以上3.0mm以下が挙げられる。また、砥粒入り樹脂繊維の場合、砥粒の粒度を示す番手は、繊維径等に応じて適宜選択するとよい。砥粒の粒度を示す番手は、例えば♯60以上♯325以下が挙げられる。砥粒入り樹脂繊維における砥粒の含有量は、例えば15質量%以上40質量%以下が挙げられる。砥粒の含有量が多いほど、毛材120の研削力が向上する。そのため、エッジ4を効率よく面取りすることができる。砥粒の含有量が少ないほど、毛材120の柔軟性が向上する。そのため、圧粉体10へのダメージを低減できる。
【0084】
図6は、
図4に示すブラシ100を、ホイール110の軸方向と直交する方向からみた状態を模式的に示す側面図である。毛材120の幅bwは、例えば、
図2Aや
図4に示す隣り合う歯2の間隔、即ちピッチよりも大きいことが挙げられる。毛材120の幅bwは、ホイール110の軸方向に沿う寸法である。ここでの毛材120の幅bwは、毛材120の先端側、即ちブラシ100の外周側における幅とする。毛材120の幅bwが隣り合う歯2の間隔よりも大きいことで、エッジ4を効率よく面取りすることができる。歯2の間隔とは、基準円上での隣り合う歯2の距離である。この距離を基準ピッチとする。基準円の直径は[モジュール×歯数]として求めることができる。歯2の間隔、即ち基準ピッチは[基準円の円周/歯数]として求めることができる。毛材120の幅bwがある程度大きい方が、同時に面取りできるエッジ4が増える。そのため、エッジ4をより効率よく面取りすることができる。
【0085】
毛材120の幅bwは、隣り合う歯の間隔よりも大きいことが好ましい。歯の間隔とは、歯先円上での隣り合う歯2の距離をいう。更に、毛材120の幅bwは、歯2の間隔、即ち基準ピッチの1.5倍以上、2倍以上でもよい。毛材120の幅bwの上限は、特に限定されない。しかし、毛材120の幅bwを大きくし過ぎると、圧粉体10に接触しない部分ができる。この部分は、面取り加工に寄与しない。毛材120の幅bwの上限は、例えば、隣り合う歯2の間隔の10倍以下、更に8倍以下が挙げられる。
【0086】
ブラシ100において、毛材120の長さは、例えば10mm以上60mm以下、更に15mm以上50mm以下が挙げられる。ここでの毛材120の長さは、ホイール110の外周縁からの突出量である。毛材120の長さが10mm以上60mm以下であれば、毛材120に適度なコシとしなやかさを持たせることができる。
【0087】
《面取り条件》
ブラシ100による面取りは、以下に示す方法で行う。
(i)
図4に示すように、圧粉体10の軸方向とホイール110の軸方向とが交差するように、圧粉体10に対してブラシ100を配置する。
(ii)
図5に示すように、ブラシ100をホイール110の軸方向からみたとき、毛材120の先端を歯底エッジ40に接触させる。
(iii)
図4に示すように、ブラシ100を回転、即ちホイール110の軸を中心として自転させながら、圧粉体10の周方向に沿って相対的に移動させる。
【0088】
上記方法で面取りを行った場合、ブラシ100が回転して毛材120がエッジ4に接触することで、エッジ4を削り取る。そして、ブラシ100が圧粉体10の周方向に沿って相対的に移動することで、エッジ4を順次削り取っていく。エッジ4を削り取ることによって面取りすることにより、
図2Bに示す面取り部3が形成される。ブラシ100により面取りした場合、面取り部3の構成面が曲面に形成され易い。また、圧粉体10の表面において、毛材120が接触した部分には、細い筋状の擦過痕が生じる。
【0089】
図5に示すように、ブラシ100を回転させたとき、毛材120の先端の仮想周縁120tは、毛材120の先端の回転軌跡と実質的に一致する。ブラシ100を回転させて毛材120を圧粉体10に接触させたとき、毛材120が弾性変形する。毛材120は柔軟性を有するからである。そのため、ブラシ100の周速をある程度速めても、圧粉体10に欠けが生じたり、局所的に削り過ぎたりすることを防止し易い。つまり、加工速度を速めても、エッジ4を適切に面取りすることができる。加工速度を速められることで、加工サイクル時間を短縮することができる。この点は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。
【0090】
また、上記方法で面取りすることで、毛材120が隣り合う歯2と歯2の間に入り込み易い。そのため、歯底エッジ40、歯面エッジ41及び歯先エッジ42の全てのエッジ4を良好に面取りすることができる。よって、エッジ4を良好に面取りすることができる。
【0091】
更に、上記方法で面取りを行うことで、圧粉体10の端面2eのうち、歯2及びその近傍のみを毛材120に接触させることができる。つまり、圧粉体10の端面2eのうち、歯底面20より径方向内側に位置する領域が毛材120により削り取られることを大幅に防止できる。そのため、圧粉体10の端面2eの大部分が加工されず、加工前の状態を維持することができる。従って、圧粉体10の端面2eの平面度が維持され易い。
圧粉体10の端面2eの平面度が維持されることにより、
図1A、
図1Bに示す焼結歯車1の端面2eの平面度も適正に保たれる。
【0092】
なお、圧粉体10の軸方向とホイール110の軸方向とは少なくとも交差するような関係であればよく、例えば直交していてもよく、また2つの軸方向が互いに直交でも平行でもない関係であってもよい。ホイール110を配置する方向は、エッジ4の方向に応じて適宜変更できる。
【0093】
以下、より好ましい面取り条件について説明する。
【0094】
(切込み量)
図5を参照して、面取りするときのブラシ100の切込み量を説明する。
図5は、圧粉体10の中心軸を通り、かつ歯底エッジ40における周方向の中間を通る平面で切断した状態を模式的に示す部分断面図である。ブラシ100の圧粉体10に対する切込み量には、径方向の切込み量L1と、軸方向の切込み量L2とがある。径方向の切込み量L1とは、歯底エッジ40から毛材120の仮想周縁120tと圧粉体10の端面2eとの交点P1までの圧粉体10の径方向に沿った距離である。軸方向の切込み量L2とは、歯底エッジ40から毛材120の仮想周縁120tと歯底面20との交点P2までの圧粉体10の軸方向に沿った距離である。
【0095】
径方向の切込み量L1は、例えば0.3mm以上2mm以下、更に0.5mm以上1.5mm以下とすることが挙げられる、軸方向の切込み量L2は、例えば0.3mm以上2mm以下、更に0.5mm以上1.5mm以下とすることが挙げられる。径方向の切込み量L1、及び軸方向の切込み量L2を上記範囲内とすることで、歯2のエッジ4を良好に面取りすることができる。例えば、径方向の切込み量L1を0.3mm以上、かつ軸方向の切込み量L2を0.3mm以上とすることで、歯2のそれぞれのエッジ4における面取り量を例えば0.1mm以上、更に0.2mm以上とすることができる。径方向の切込み量L1を2mm以下、かつ軸方向の切込み量L2を2mm以下とすることで、歯2及びその近傍のみを加工することができる。つまり、歯2の近傍以外の箇所が加工されることを防止できる。特に、径方向の切込み量L1を2mm以下とした場合、圧粉体10の端面2eの大部分を加工せずに済む。そのため、端面2eの状態を維持することができる。
【0096】
(面取り量)
ここで、歯2のそれぞれのエッジ4における面取り量は、例えば0.1mm以上1.0mm以下、更に0.2mm以上0.8mm以下とすることが挙げられる。ここでのエッジ4の面取り量とは、歯底エッジ40、歯面エッジ41及び歯先エッジ42の各エッジにおける面取り量を意味する。エッジ4の面取り量が0.1mm以上1.0mm以下の場合、歯底エッジ40、歯面エッジ41及び歯先エッジ42の全てのエッジにおける面取り量が上記範囲内であることを意味する。エッジ4の面取り量を上記範囲内とすることで、焼結歯車1におけるエッジの欠けを効果的に防止し易い。面取り量の詳細は、上述した焼結歯車の〈面取り量〉の項を参照するとよい。
【0097】
(ブラシの回転方向)
ブラシ100の回転方向としては、圧粉体10の端面2eから歯底面20への方向、又は、圧粉体10の歯底面20から端面2eへの方向が挙げられる。圧粉体10の端面2eから歯底面20への方向は、毛材120の先端が圧粉体10の端面2eから歯底面20に抜ける方向である。圧粉体10の歯底面20から端面2eへの方向は、毛材120の先端が歯底面20から端面2eに抜ける方向である。
図4、
図5中、矢印で示すように、毛材120の先端が端面2eから歯底面20に抜けるようにブラシ100を回転させる場合、エッジ4をより効率よく面取りすることができる。
【0098】
(ブラシの周速)
ブラシ100の周速は、例えば200m/min以上800m/min以下、更に220m/min以上750m/min以下とすることが挙げられる。ブラシ100の周速を200m/min以上とすることで、加工サイクル時間を短縮することができる。ブラシ100の周速を800m/min以下とすることで、毛材120が圧粉体10に当たることによる圧粉体10や毛材120へのダメージを低減できる。ブラシ100の周速(m/min)は[π×D×N/1000]として求めることができる。Dはブラシ100の直径(mm)である。Nは1分間あたりのブラシ100の回転数(rpm)である。ブラシ100の直径は、毛材120の仮想周縁120tの直径、即ち毛材120の先端の回転軌跡の直径と等しい。
【0099】
(ブラシの移動方法)
ブラシ100を圧粉体10の周方向に沿って相対的に移動させる方法としては、圧粉体10を自転、即ち圧粉体10の軸を中心として回転させる、及び、圧粉体10を中心にブラシ100を公転させることが挙げられる。ブラシ100の公転は、圧粉体10の周方向に沿ってブラシ100の位置を移動させることである。圧粉体10の自転とブラシ100の公転のうち、いずれか一方のみを行ってもよいし、両方を行ってもよい。圧粉体10を自転させることで、ブラシ100の位置を固定した状態で圧粉体10の周方向に沿ってブラシ100を移動させることができる。圧粉体10を自転させる場合、ブラシ100を公転させる場合に比べて制御が容易である。圧粉体10を自転させる場合、圧粉体10の回転方向は特に問わない。圧粉体10に対するブラシ100の相対的な移動速度は、ブラシ100の送り速度に相当する。
【0100】
(その他)
エッジ4の面取りは、圧粉体10における一方の端面2e側だけでなく、他方の端面側についても行う必要がある。
図4では、一方の端面2eは上側の端面であり、他方の端面は隠れて見えない下側の端面である。面取りは、一方の端面2e側と他方の端面側の両側にそれぞれブラシ100を配置して面取りを行うことが挙げられる。あるいは、一方の端面2e側について面取りを行った後に圧粉体10を裏返して、他方の端面2e側について面取りを行ってもよい。両側の端面2eにブラシ100を配置して面取りを行った場合、両側のエッジ4を同時に面取りすることができる。そのため、加工サイクル時間を短縮することができる。
【0101】
〈第三工程:焼結工程〉
この工程では、面取りされた圧粉体10、即ち
図2Bに示す加工体11を焼結する。加工体11を焼結することで、
図1Bに示すように、歯2に面取り部3を有する焼結歯車1が得られる。
【0102】
加工体11の焼結条件は、原料粉末の組成に応じて適宜調整するとよい。焼結条件は、公知の焼結条件を適用できる。例えば、鉄基合金からなる焼結歯車1を製造する場合には、以下の焼結条件が挙げられる。
焼結温度は1000℃以上1400℃以下が挙げられる。更に、焼結温度を1100℃以上1300℃以下としてもよい。
焼結時間は10分以上150分以下が挙げられる。更に、焼結時間を15分以上60分以下としてもよい。
【0103】
〈その他の工程〉
その他の工程として、例えば、焼結後に焼結歯車を浸炭処理する工程、浸炭処理後に焼結歯車に歯研加工する工程等が挙げられる。浸炭処理の条件や歯研加工の条件等は公知の条件を参照できる。
【0104】
実施形態の焼結歯車の製造方法は、以下の作用効果を奏する。
(A)焼結歯車1を生産性よく製造することができる。歯車形状の圧粉体10に、ブラシ100により面取りを行う。ブラシ100の毛材120は柔軟性を有する。そのため、ブラシ100の周速をある程度速めても、圧粉体10に欠けが生じたり、局所的に削り過ぎたりすることを防止し易い。そのため、加工速度を速めても、エッジ4を適切に面取りすることができる。加工速度を速められることで、加工サイクル時間を短縮することができる。
(B)エッジ4を良好に面取りすることができる。毛材120が隣り合う歯2と歯2の間に入り込み易い。そのため、歯底エッジ40、歯面エッジ41及び歯先エッジ42の全てのエッジ4を良好に面取りすることができる。
(C)端面2eの平面度を適正に保つことができる。圧粉体10の端面2eのうち、歯2及びその近傍のみを毛材120に接触させることができる。つまり、圧粉体10の端面2eのうち、歯底面20より径方向内側に位置する領域が毛材120により削り取られることを大幅に防止できる。そのため、圧粉体10の端面2eの大部分が加工されず、加工前の状態を維持することができる。従って、圧粉体10の端面2eの平面度が維持されることにより、焼結歯車1の端面2eの平面度も適正に保たれる。例えば、焼結歯車1に歯研加工する場合、焼結歯車1の端面2eを基準面として、歯研加工を良好に行うことができる。
【0105】
その他、実施形態の焼結歯車の製造方法は以下の効果が期待できる。
(a)焼結後に浸炭処理を行う場合に、代表的には焼結工程と浸炭工程とを連続して行える。そのため、熱処理炉への素材の入替、素材の再配列等を不要にできる。この入替作業を省略できるので、製造時間を短縮することができる。
(b)バリが実質的に生じない。従って、バリの除去作業が不要である。ブラシ100による面取りは、圧粉体10を構成する一部の粒子が削り落とされるような加工といえる。
そのため、加工時に素材の塑性変形に起因するバリが実質的に生じない。バリの除去作業を省略できるので、製造時間を短縮できる。なお、溶製材や焼結材を切削加工すると、切削時に素材の塑性変形に起因するバリが生じる。バリが生じた場合、バリの除去作業が必要である。
(c)面取りに伴う加工屑は、主として粉末状であるため、エアブロー等によって容易に除去できる。従って、加工屑の除去を容易に、かつ短時間で行うことができる。つまり、加工屑の除去時間が短くて済む。また、エアブローであれば、加工屑の除去時に圧粉体10が損傷し難い。損傷による不良品の発生を低減できる点で、焼結歯車1の生産性を向上できる。
(d)焼結前の圧粉体10は粉末を圧縮成形して固めただけであるので、溶製材や焼結材に比較して加工し易い。即ち、被削材である圧粉体10に対するブラシの加工抵抗が溶製材や焼結材に対する切削抵抗に比べて小さい。そのため、ブラシ100の寿命を長くできる。大量の焼結歯車1を連続して製造する場合には、ブラシ100の交換頻度を低減できる。従って、焼結歯車1を量産する場合、ブラシ100の交換に要する合計時間が短くなる。
(e)焼結前の圧粉体10は焼結材よりも切削加工性に優れる。そのため、歯切り加工等の加工速度も速められる。従って、歯切り加工等の加工時間を短くし易い。
【0106】
[試験例1]
焼結歯車を作製した。作製した焼結歯車について、歯のそれぞれのエッジを面取りしたときの面取り状態を評価した。
【0107】
焼結歯車として、鉄基合金からなるはす歯外歯車を作製した。歯車の仕様は次の通りである。
〈仕様〉
外径:φ45mm、内径:φ20mm、高さ20mm
モジュール:1.4
歯数:29
圧力角:17.5°
ねじれ角:15.8°
歯の間隔、即ち基準ピッチ:4.87mm
【0108】
焼結歯車は、以下のように作製した。
原料粉末として、鉄系粉末とカーボン粉末との混合粉末を用意した。鉄系粉末の組成は、Niが1.9質量%、Mnが0.2質量%、Moが0.55質量%、残部がFeである。鉄系粉末の平均粒径(D50)は42μmである。カーボン粉末の平均粒径(D50)は8μmである。鉄系粉末とカーボン粉末との配合割合は、質量比で99.7:0.3である。混合粉末を金型に充填し、一軸プレス装置によって円筒状の圧粉体を作製した。圧縮圧力は2000MPaである。圧粉体の密度は7.7g/cm3である。圧粉体の相対密度は98.7%である。
【0109】
作製した円筒状の圧粉体に歯切り加工を施して、上述の仕様を満たす歯車形状の圧粉体を作製した。歯切り加工には、公知のホブ盤を使用した。この歯切り加工によって、圧粉体に欠けや亀裂等が生じなかった。なお、加工屑は、粉末状であった。
【0110】
歯車形状の圧粉体について、以下に示す試験A、B及びCの各条件で歯のそれぞれのエッジを面取りした。
【0111】
〈試験A〉
試験Aでは、ホイール型ブラシを使用した。毛材の幅は10mmである。毛材の長さは35mmである。ブラシの直径は200mmである。ブラシの毛材を構成する繊維は、砥粒入り樹脂繊維である。樹脂繊維の材質はポリエーテルエーテルケトンである。砥粒の材質はSiCである。繊維径は0.5mm程度である。砥粒の粒度を示す番手は♯120である。
【0112】
ブラシによる面取りは、次のように行った。
圧粉体に対してホイール型ブラシを互いの軸方向が直交するように配置する。ホイール型ブラシを軸方向からみたとき、毛材の先端を歯底エッジに接触させる。そして、ブラシを回転させながら、圧粉体を自転させる。ここでは、圧粉体を一方向に1回転させて、歯のエッジを面取り加工した。
【0113】
ブラシの切込み量は、径方向の切込み量を1mm、軸方向の切込量を1mmとした。ブラシの回転方向は毛材の先端が圧粉体の端面から歯底面に抜ける方向とした。ブラシの周速は376m/minとした。
【0114】
圧粉体は10秒で1回転するように調整した。ブラシの送り速度は[圧粉体の円周/圧粉体が1回転する時間]として求めることができる。圧粉体の外径を45mm、圧粉体が1回転する時間を10秒として求めた送り速度は850mm/minである。
【0115】
〈試験B〉
試験Bでは、カップ型ブラシを使用した。
図7から
図9を参照して、試験Bにおける面取り加工を説明する。
図7に示すブラシ101は、カップ型ブラシである。カップ型ブラシは、
図7に示すように、円筒状のカップ111の開口端から軸方向に毛材120が突出する。ブラシ101は、カップ111の端面の中心に回転軸が取り付けられる。回転軸により、ブラシ101が回転、即ちカップ111の軸を中心として自転する。ここでは、
図8に示すように、毛材120が円筒形に配置されている。カップ111の開口端から軸方向に突出する毛材120の長さ、即ち突出量は35mmである。毛材120を構成する繊維は、試験Aと同じ砥粒入り樹脂繊維である。
【0116】
カップ型ブラシを用いて面取り加工する場合は、
図7に示すように、圧粉体10の軸方向とカップ111の軸方向とが平行となるように、圧粉体10に対してブラシ101を配置する。ブラシ101を軸方向からみたとき、毛材120の先端がエッジ4に重なるように、毛材120を圧粉体10の端面2eに接触させる。そして、ブラシ101を回転させながら、ブラシ101を圧粉体10の周方向に沿って相対的に移動させる。ここでは、圧粉体10を自転させた。
【0117】
ブラシ101の配置は、
図9に示すように、圧粉体10を軸方向からみたとき、圧粉体10の端面2eにおいて、毛材120の外周縁が歯底エッジ40から1mm径方向内側に位置するように設定した。また、ブラシ101の切込み量は1mmとした。ブラシ101の周速は376m/minとした。
【0118】
圧粉体は10秒で1回転するように調整した。つまり、ブラシの送り速度は850mm/minである。
【0119】
試験Bでは、圧粉体を一方向に1回転させた後、ブラシの回転方向を逆転させる。そして、圧粉体をもう1回転させて、歯のエッジを面取り加工した。
【0120】
〈試験C〉
試験Cでは、試験Bと同じカップ型ブラシを使用して、面取り加工を行った。試験Cでは、
図10、
図11に示すように、ブラシ101の配置を変更した。それ以外の条件は、試験Bと同じ条件で面取り加工を行った。試験Cでは、
図11に示すように、圧粉体10を軸方向からみたとき、圧粉体10の端面2eにおいて、毛材120の外周縁が歯底エッジ40から5mm径方向内側に位置するように設定した。
【0121】
試験A、B及びCの各条件で面取り加工した圧粉体について、歯底エッジ、歯面エッジ及び歯先エッジにおける各面取り部の面取り量La、Lb(
図3参照)を測定した。その結果を表1に示す。
【0122】
また、面取り後の圧粉体の端面の表面性状を評価した。表面性状の評価は、端面のうち、歯底面より2mm以上径方向内側の領域において、ブラシによる加工痕が存在しない場合をA,加工痕が存在する場合をBとした。その結果を表1に示す。
【0123】
【0124】
表1に示すように、試験Aでは、各面取り部の面取り量が0.3mmであった。また、試験Aでは、端面において、加工痕がほとんど認められなかった。面取り後の端面は平坦な面が維持されていた。
【0125】
これに対し、試験Bでは、歯底面取り部の面取り量が0.05mmと小さい。これは、試験Bの場合、毛材の先端が歯と歯の間に入り込み難く、歯底エッジを十分に面取りできなかったものと考えられる。
【0126】
試験Cでは、端面の大部分が加工されていた。そのため、面取り後の端面は平坦な面が維持されていなかった。
【0127】
試験Aの条件で面取りした圧粉体を焼結した。焼結条件は、焼結温度が1150℃、焼結時間が20分である。焼結して得られた焼結歯車は、歯のそれぞれのエッジに面取り部を有していた。焼結歯車の面取り部は、圧粉体における面取り部を実質的に維持していた。
【0128】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、試験例1において、焼結歯車の組成、即ち原料粉末の組成、歯車の仕様、歯のエッジの面取り条件等を適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0129】
1 焼結歯車
10 圧粉体、11 加工体
2 歯
2c 外周面、2e 端面、2h 貫通孔、
20 歯底面、21 歯面、22 歯先面
200,20e 仮想面
3 面取り部
30 歯底面取り部、31 歯面面取り部、32 歯先面取り部
4 エッジ
40 歯底エッジ、41 歯面エッジ、42 歯先エッジ
100 ブラシ(ホイール型ブラシ)
101 ブラシ(カップ型ブラシ)
110 ホイール
111 カップ
120 毛材、120t 仮想周縁
La 径方向の面取り量、Lb 軸方向の面取り量
Pa,Pb,Pc 交点
L1 径方向の切込み量、L2 軸方向の切込み量
P1,P2 交点
bw 幅