(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】電極および電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20221214BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221214BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20221214BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/054
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2018079337
(22)【出願日】2018-04-17
(62)【分割の表示】P 2017212703の分割
【原出願日】2017-11-02
【審査請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2016215523
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100206324
【氏名又は名称】齋藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】本多 義昭
(72)【発明者】
【氏名】木下 信一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 穣輝
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-044958(JP,A)
【文献】特開2009-110845(JP,A)
【文献】特開2004-265609(JP,A)
【文献】特開2004-055320(JP,A)
【文献】特開2013-069531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極のみが、表面にパーフルオロポリエーテル基含有化合物を含有する電極を含んで成り、
前記パーフルオロポリエーテル基含有化合物が、下記式(A1’)、(A2’)、(C1’)、(C2’)、(D1’)、(D2’)、(E1’)または(E2’):
【化1】
[式中:
Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基を表し;
PFPEは、それぞれ独立して、-(OC
6F
12)
a-(OC
5F
10)
b-(OC
4F
8)
c-(OC
3F
6)
d-(OC
2F
4)
e-(OCF
2)
f-を表し、ここに、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上100以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は10以上100以下であり、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
R
1は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~22のアルキル基を表し;
R
2は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R
11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
R
12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
nは、(-SiR
1
nR
2
3-n)単位毎に独立して、0~3の整数であり;
ただし、式(A1
’)および(A2
’)において、少なくとも1つのR
2が存在し;
X
1、X
3、X
7、およびX
9は、それぞれ独立して、下記式:
-(R
31)
p1-(X
a)
q1-
[式中:
R
31は、単結合、-(CH
2)
s’-またはo-、m-もしくはp-フェニレン基を表し、
s’は、1~6の整数であり、
X
aは、-(X
b)
l’-を表し、
X
bは、各出現においてそれぞれ独立して、-O-、-S-、o-、m-もしくはp-フェニレン基、-C(O)O-、-Si(R
33)
2-、-(Si(R
33)
2O)
m”-Si(R
33)
2-、-CONR
34-、-O-CONR
34-、-NR
34-および-(CH
2)
n’-からなる群から選択される基を表し、
R
33は、各出現においてそれぞれ独立して、フェニル基、C
1-6アルキル基またはC
1-6アルコキシ基を表し、
R
34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC
1-6アルキル基を表し、
m”は、各出現において、それぞれ独立して、1~20の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1~6の整数であり、
l’は、1~10の整数であり、
p1は、0または1であり、
q1は、0または1であり、
ここに、p1およびq1の少なくとも一方は1であり、p1またはq1を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である。
ただし、R
31およびX
aは、フッ素原子、C
1-3アルキル基およびC
1-3フルオロアルキル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。]
で表される2価の基であり;
X
2は、各出現においてそれぞれ独立して、-(CH
2)
u-(式中、uは、0~2の整数である)を表し;
tは、各出現においてそれぞれ独立して、2~10の整数であり;
R
aは、各出現においてそれぞれ独立して、-Z-SiR
71
pR
72
qR
73
rを表し;
Zは、各出現においてそれぞれ独立して、C
1-6アルキレン基、-(CH
2)
g-O-(CH
2)
h-(式中、gは、1~6の整数であり、hは、1~6の整数である)または、-フェニレン-(CH
2)
i-(式中、iは、0~6の整数である)を表し;
R
71は、各出現においてそれぞれ独立して、R
a’を表し;
R
a’は、R
aと同意義であり;
R
a中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
R
72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R
73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
pは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
qは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
rは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
ただし、-Z-SiR
71
pR
72
qR
73
r毎において、p、qおよびrの和は3であり、式(C1
’)および(C2
’)において、少なくとも1つのR
72が存在し;
R
bは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R
cは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
kは、各出現においてそれぞれ独立して、1~3の整数であり;
lは、各出現においてそれぞれ独立して、0~2の整数であり;
mは、各出現においてそれぞれ独立して、0~2の整数であり;
ただし、-SiR
a
kR
b
lR
c
m毎において、k、lおよびmの和は3である。
R
dは、各出現においてそれぞれ独立して、-Z’-CR
81
p’R
82
q’R
83
r’を表し;
Z’は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
R
81は、各出現においてそれぞれ独立して、R
d’を表し;
R
d’は、R
dと同意義であり;
R
d中、Z’基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個であり;
R
82は、各出現においてそれぞれ独立して、-Y-SiR
85
jR
86
3-jを表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R
85は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R
86は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
jは、(-Y-SiR
85
jR
86
3-j)単位毎に独立して、1~3の整数を表し;
R
83は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
p’は、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
q’は、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
r’は、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
R
eは、各出現においてそれぞれ独立して、-Y-SiR
85
jR
86
3-jを表し;
R
fは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
k’は、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
l’は、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
m’は、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
ただし、式中、少なくとも1つのq’は2または3であるか、あるいは、少なくとも1つのl’は2または3であり;
Aは、各出現においてそれぞれ独立して、-SHまたは-SO
3Hを表す。]
で表される化合物である、アルカリ金属電池またはアルカリ土類金属電池。
【請求項2】
パーフルオロポリエーテル基含有化合物が、被覆層として存在する、請求項1に記載のアルカリ金属電池またはアルカリ土類金属電池。
【請求項3】
パーフルオロポリエーテル基含有化合物が、式(A1’)、(A2’)、(C1’)、(C2’)、(D1’)、または(D2’)で表される化合物である、請求項2に記載のアルカリ金属電池またはアルカリ土類金属電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、電気化学デバイス、特にリチウムイオン二次電池等のアルカリ金属イオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属イオン電池、電気化学キャパシタ等の電気化学デバイスは、小型、高容量、軽量等の特徴を有し得、種々の電子機器において用いられている。特に、リチウムイオン二次電池は、軽量かつ高容量であり、エネルギー密度が高いことから、特に小型の電子機器、例えば、スマートホン、携帯電話、タブレット型端末、ビデオカメラ、ノートパソコンなどのポータブル機器において広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの電気化学デバイスは、典型的には、一対の電極と電解質を有する。電気化学デバイスにおいては、その使用または保存中に、電極の劣化および電解質の分解が生じ得、これにより容量が低下する等、機能の劣化が生じ得る。例えば、リチウムイオン二次電池は、充放電サイクルにより電極が劣化し、電池容量が低下するといった問題が生じ得る。サイクル特性を向上させる方法として、特許文献1は、パーフルオロポリエーテル基のカルボン酸塩またはスルホン酸塩を電極に含ませることにより、サイクル特性を向上させている。しかしながら、上記の方法ではサイクル特性の改善は十分とはいえなかった。
【0005】
従って、本発明の目的は、使用または保存による機能の低下が抑制された、電気化学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、電気化学デバイスにおいて、電極にパーフルオロポリエーテル基を含有させることにより、使用または保存による機能の低下を抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明の第1の要旨によれば、表面にパーフルオロポリエーテル基含有化合物を含有する電極が提供される。
【0008】
本発明の第2の要旨によれば、上記の電極を含んで成る電気化学デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電気化学デバイスにおいて、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を含有している電極を用いることにより、電気化学デバイスのサイクル容量保持率を向上させ、抵抗増加率を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<電極>
本発明の電極は、その表面にパーフルオロポリエーテル基含有化合物を含有する。より具体的には、本発明の電極(以下、正極および負極を包含して用いられる)は、電極材(以下、正極材および負極材を包含して用いられる)と、その表面に存在するパーフルオロポリエーテル基含有化合物から構成される。
【0011】
・パーフルオロポリエーテル基含有化合物
上記したように本発明の電極は、その表面にパーフルオロポリエーテル基含有化合物を含有する。
【0012】
ここに、「電極の表面にパーフルオロポリエーテル基含有化合物を含有する」とは、電極の表面にパーフルオロポリエーテル基含有化合物が存在することを意味し、例えば電極材の表面上にパーフルオロポリエーテル基含有化合物が存在すること、および電極材の表層部分にパーフルオロポリエーテル基含有化合物が電極材の材料と混合された状態で存在することを包含する。
【0013】
一の態様において、本発明の電極は、その表面に、即ち電極材上に、パーフルオロポリエーテル基含有化合物を有する。
【0014】
好ましい態様において、パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、電極の表面に、層を形成した状態で存在する。
【0015】
パーフルオロポリエーテル基含有化合物の層は、好ましくは、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物を電極材の表面に塗布することにより得られる被覆層であり得る。
【0016】
上記被覆層は、電極材の表面全体に形成されている必要はなく、電極と電解質との接触面に形成されていればよい。好ましくは、被覆層は、電極材の表面全体に形成される。
【0017】
上記反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、電極表面においてパーフルオロポリエーテル基含有化合物の被覆層を形成し得るものであれば特に限定されない。
【0018】
好ましい態様において、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、下記式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)、(D1)、(D2)、(E1)または(E2)で表される化合物であり得る。
【0019】
【0020】
上記式中、Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基を表す。
【0021】
上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基における「炭素数1~16のアルキル基」は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1~6、特に炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1~3のアルキル基である。
【0022】
上記Rfは、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されている炭素数1~16のアルキル基であり、より好ましくはCF2H-C1-15フルオロアルキレン基または炭素数1~16のパーフルオロアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1~16のパーフルオロアルキル基である。
【0023】
該炭素数1~16のパーフルオロアルキル基は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1~6、特に炭素数1~3のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、具体的には-CF3、-CF2CF3、または-CF2CF2CF3である。
【0024】
上記式中、PFPEは、それぞれ独立して、-(OC6F12)a-(OC5F10)b-(OC4F8)c-(OC3F6)d-(OC2F4)e-(OCF2)f-を表す。
【0025】
式中、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して、0以上100以下の整数である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfの和は5以上であり、より好ましくは10以上、例えば10以上100以下である。また、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。
【0026】
これら繰り返し単位は、直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。例えば、-(OC6F12)-は、-(OCF2CF2CF2CF2CF2CF2)-、-(OCF(CF3)CF2CF2CF2CF2)-、-(OCF2CF(CF3)CF2CF2CF2)-、-(OCF2CF2CF(CF3)CF2CF2)-、-(OCF2CF2CF2CF(CF3)CF2)-、-(OCF2CF2CF2CF2CF(CF3))-等であってもよいが、好ましくは-(OCF2CF2CF2CF2CF2CF2)-である。-(OC5F10)-は、-(OCF2CF2CF2CF2CF2)-、-(OCF(CF3)CF2CF2CF2)-、-(OCF2CF(CF3)CF2CF2)-、-(OCF2CF2CF(CF3)CF2)-、-(OCF2CF2CF2CF(CF3))-等であってもよいが、好ましくは-(OCF2CF2CF2CF2CF2)-である。-(OC4F8)-は、-(OCF2CF2CF2CF2)-、-(OCF(CF3)CF2CF2)-、-(OCF2CF(CF3)CF2)-、-(OCF2CF2CF(CF3))-、-(OC(CF3)2CF2)-、-(OCF2C(CF3)2)-、-(OCF(CF3)CF(CF3))-、-(OCF(C2F5)CF2)-および-(OCF2CF(C2F5))-のいずれであってもよいが、好ましくは-(OCF2CF2CF2CF2)-である。-(OC3F6)-は、-(OCF2CF2CF2)-、-(OCF(CF3)CF2)-および-(OCF2CF(CF3))-のいずれであってもよいが、好ましくは-(OCF2CF2CF2)-である。また、-(OC2F4)-は、-(OCF2CF2)-および-(OCF(CF3))-のいずれであってもよいが、好ましくは-(OCF2CF2)-である。
【0027】
一の態様において、上記PFPEは、それぞれ独立して、-(OC3F6)d-(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。好ましくは、PFPEは、それぞれ独立して、-(OCF2CF2CF2)d-(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)または-(OCF(CF3)CF2)d-(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。より好ましくは、PFPEは、それぞれ独立して、-(OCF2CF2CF2)d-(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。
【0028】
別の態様において、PFPEは、それぞれ独立して、-(OC4F8)c-(OC3F6)d-(OC2F4)e-(OCF2)f-(式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)である。好ましくは、PFPEは、それぞれ独立して、-(OCF2CF2CF2CF2)c-(OCF2CF2CF2)d-(OCF2CF2)e-(OCF2)f-である。一の態様において、PFPEは、それぞれ独立して、-(OC2F4)e-(OCF2)f-(式中、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であってもよい。
【0029】
さらに別の態様において、PFPEは、それぞれ独立して、-(R6-R7)q-で表される基である。式中、R6は、OCF2またはOC2F4であり、好ましくはOC2F4である。式中、R7は、OC2F4、OC3F6、OC4F8、OC5F10およびOC6F12から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。好ましくは、R7は、OC2F4、OC3F6およびOC4F8から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。OC2F4、OC3F6およびOC4F8から独立して選択される2または3つの基の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば-OC2F4OC3F6-、-OC2F4OC4F8-、-OC3F6OC2F4-、-OC3F6OC3F6-、-OC3F6OC4F8-、-OC4F8OC4F8-、-OC4F8OC3F6-、-OC4F8OC2F4-、-OC2F4OC2F4OC3F6-、-OC2F4OC2F4OC4F8-、-OC2F4OC3F6OC2F4-、-OC2F4OC3F6OC3F6-、-OC2F4OC4F8OC2F4-、-OC3F6OC2F4OC2F4-、-OC3F6OC2F4OC3F6-、-OC3F6OC3F6OC2F4-、および-OC4F8OC2F4OC2F4-等が挙げられる。上記qは、2~100の整数、好ましくは2~50の整数である。上記式中、OC2F4、OC3F6、OC4F8、OC5F10およびOC6F12は、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよく、好ましくは直鎖である。この態様において、PFPEは、好ましくは、それぞれ独立して、-(OC2F4-OC3F6)q-または-(OC2F4-OC4F8)q-である。
【0030】
上記式中、R1は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~22のアルキル基、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0031】
上記式中、R2は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。
【0032】
上記「加水分解可能な基」とは、本明細書において用いられる場合、加水分解反応により、化合物の主骨格から脱離し得る基を意味する。加水分解可能な基の例としては、-OR、-OCOR、-O-N=CR2、-NR2、-NHR、ハロゲン(これら式中、Rは、置換または非置換の炭素数1~4のアルキル基を示す)などが挙げられ、好ましくは-OR(即ち、アルコキシ基)である。Rの例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基などの非置換アルキル基;クロロメチル基などの置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。
【0033】
上記式中、R11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、好ましくはヨウ素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、より好ましくはフッ素原子である。
【0034】
上記式中、R12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。低級アルキル基は、好ましくは炭素数1~20のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0035】
上記式中、nは、(-SiR1
nR2
3-n)単位毎に独立して、0~3の整数であり、好ましくは0~2の整数であり、より好ましくは0である。ただし、式中、すべてのnが同時に0になることはない。換言すれば、式中、少なくとも1つはR2が存在する。
【0036】
上記式中、tは、それぞれ独立して、1~10の整数である。好ましい態様において、tは1~6の整数である。別の好ましい態様において、tは2~10の整数であり、好ましくは2~6の整数である。
【0037】
上記式中、X2は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表す。X2は、好ましくは、炭素数1~20のアルキレン基であり、より好ましくは、-(CH2)u-(式中、uは、0~2の整数である)である。
【0038】
上記式中、Raは、各出現においてそれぞれ独立して、-Z-SiR71
pR72
qR73
rを表す。
【0039】
式中、Zは、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表す。
【0040】
上記Zは、好ましくは、2価の有機基である。好ましい態様において、上記Zは、式(C1)または式(C2)における分子主鎖の末端のSi原子(Raが結合しているSi原子)とシロキサン結合を形成するものを含まない。
【0041】
上記Zは、好ましくは、C1-6アルキレン基、-(CH2)g-O-(CH2)h-(式中、gは、1~6の整数であり、hは、1~6の整数である)または、-フェニレン-(CH2)i-(式中、iは、0~6の整数である)であり、より好ましくはC1-3アルキレン基である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、およびC2-6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0042】
式中、R71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表す。Ra’は、Raと同意義である。
【0043】
Ra中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個である。即ち、上記Raにおいて、R71が少なくとも1つ存在する場合、Ra中にZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子が2個以上存在するが、かかるZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数は最大で5個である。なお、「Ra中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」とは、Ra中において直鎖状に連結される-Z-Si-の繰り返し数と等しくなる。
【0044】
例えば、下記にR
a中においてZ基を介してSi原子が連結された一例を示す。
【化2】
【0045】
上記式において、*は、主鎖のSiに結合する部位を意味し、…は、ZSi以外の所定の基が結合していること、即ち、Si原子の3本の結合手がすべて…である場合、ZSiの繰り返しの終了箇所を意味する。また、Siの右肩の数字は、*から数えたZ基を介して直鎖状に連結されたSiの出現数を意味する。即ち、Si2でZSi繰り返しが終了している鎖は「Ra中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」が2個であり、同様に、Si3、Si4およびSi5でZSi繰り返しが終了している鎖は、それぞれ、「Ra中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」が3、4および5個である。なお、上記の式から明らかなように、Ra中には、ZSi鎖が複数存在するが、これらはすべて同じ長さである必要はなく、それぞれ任意の長さであってもよい。
【0046】
好ましい態様において、下記に示すように、「R
a中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」は、すべての鎖において、1個(左式)または2個(右式)である。
【化3】
【0047】
一の態様において、Ra中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数は1個または2個、好ましくは1個である。
【0048】
式中、R72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。
【0049】
好ましくは、R72は、-OR(式中、Rは、置換または非置換のC1-3アルキル基、より好ましくはメチル基を表す)である。
【0050】
式中、R73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0051】
式中、pは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;qは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;rは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、p、qおよびrの和は3である。
【0052】
好ましい態様において、Ra中の末端のRa’(Ra’が存在しない場合、Raそれ自体)において、上記qは、好ましくは2以上、例えば2または3であり、より好ましくは3である。
【0053】
好ましい態様において、Raは、末端部に、少なくとも1つの、-Si(-Z-SiR72
qR73
r)2または-Si(-Z-SiR72
qR73
r)3、好ましくは-Si(-Z-SiR72
qR73
r)3を有し得る。式中、(-Z-SiR72
qR73
r)の単位は、好ましくは(-Z-SiR72
3)である。さらに好ましい態様において、Raの末端部は、すべて-Si(-Z-SiR72
qR73
r)3、好ましくは-Si(-Z-SiR72
3)3であり得る。
【0054】
上記式(C1)および(C2)においては、少なくとも1つのR72が存在する。
【0055】
上記式中、Rbは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。
【0056】
上記Rbは、好ましくは、水酸基、-OR、-OCOR、-O-N=C(R)2、-N(R)2、-NHR、ハロゲン(これら式中、Rは、置換または非置換の炭素数1~4のアルキル基を示す)であり、好ましくは-ORである。Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基などの非置換アルキル基;クロロメチル基などの置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。より好ましくは、Rcは、-OR(式中、Rは、置換または非置換のC1-3アルキル基、より好ましくはメチル基を表す)である。
【0057】
上記式中、Rcは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0058】
式中、kは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;lは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;mは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、k、lおよびmの和は、3である。
【0059】
上記式中、Rdは、各出現においてそれぞれ独立して、-Z’-CR81
p’R82
q’R83
r’を表す。
【0060】
式中、Z’は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表す。
【0061】
上記Z’は、好ましくは、C1-6アルキレン基、-(CH2)g-O-(CH2)h-(式中、gは、0~6の整数、例えば1~6の整数であり、hは、0~6の整数、例えば1~6の整数である)、または、-フェニレン-(CH2)i-(式中、iは、0~6の整数である)であり、より好ましくはC1-3アルキレン基である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、およびC2-6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0062】
式中、R81は、各出現においてそれぞれ独立して、Rd’を表す。Rd’は、Rdと同意義である。
【0063】
Rd中、Z’基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個である。即ち、上記Rdにおいて、R81が少なくとも1つ存在する場合、Rd中にZ’基を介して直鎖状に連結されるSi原子が2個以上存在するが、かかるZ’基を介して直鎖状に連結されるC原子の数は最大で5個である。なお、「Rd中のZ’基を介して直鎖状に連結されるC原子の数」とは、Rd中において直鎖状に連結される-Z’-C-の繰り返し数と等しくなる。
【0064】
好ましい態様において、下記に示すように、「R
d中のZ’基を介して直鎖状に連結されるC原子の数」は、すべての鎖において、1個(左式)または2個(右式)である。
【化4】
【0065】
一の態様において、Rd中のZ’基を介して直鎖状に連結されるC原子の数は1個または2個、好ましくは1個である。
【0066】
式中、R82は、-Y-SiR85
jR86
3-jを表す。
【0067】
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表す。
【0068】
好ましい態様において、Yは、C1-6アルキレン基、-(CH2)g’-O-(CH2)h’-(式中、g’は、0~6の整数、例えば1~6の整数であり、h’は、0~6の整数、例えば1~6の整数である)または、-フェニレン-(CH2)i’-(式中、i’は、0~6の整数である)である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、およびC2-6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0069】
一の態様において、Yは、C1-6アルキレン基または-フェニレン-(CH2)i’-であり得る。Yが上記の基である場合、光耐性、特に紫外線耐性がより高くなり得る。
【0070】
上記R85は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。上記「加水分解可能な基」としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0071】
好ましくは、R85は、-OR(式中、Rは、置換または非置換のC1-3アルキル基、より好ましくはエチル基またはメチル基、特にメチル基を表す)である。
【0072】
上記R86は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0073】
jは、(-Y-SiR85
jR86
3-j)単位毎に独立して、1~3の整数を表し、好ましくは2または3、より好ましくは3である。
【0074】
上記R83は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0075】
式中、p’は、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;q’は、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;r’は、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、p’、q’およびr’の和は3である。
【0076】
好ましい態様において、Rd中の末端のRd’(Rd’が存在しない場合、Rdそれ自体)において、上記q’は、好ましくは2以上、例えば2または3であり、より好ましくは3である。
【0077】
上記式中、Reは、各出現においてそれぞれ独立して、-Y-SiR85
jR86
3-jを表す。ここに、Y、R85、R86およびjは、上記R82における記載と同意義である。
【0078】
上記式中、Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0079】
式中、k’は、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;l’は、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;m’は、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、k’、l’およびm’の和は3である。
【0080】
一の態様において、少なくとも1つのk’は2または3であり、好ましくは3である。
【0081】
一の態様において、k’は2または3であり、好ましくは3である。
【0082】
一の態様において、l’は2または3であり、好ましくは3である。
【0083】
上記式(D1)および(D2)中、少なくとも1つのq’は2または3であるか、あるいは、少なくとも1つのl’は2または3である。即ち、式中、少なくとも2つの-Y-SiR85
jR86
3-j基が存在する。
【0084】
上記式中、Aは、各出現においてそれぞれ独立して、-OH、-SH、-NH2、-COOHまたは-SO3Hを表す。好ましくは、Aは、-OHであり得る。
【0085】
上記式中、X1は、それぞれ独立して、単結合または2~10価の有機基を表す。当該X1は、式(A1)および(A2)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(即ち、Rf-PFPE部または-PFPE-部)と、基材との結合能を提供するシラン部(即ち、αを付して括弧でくくられた基)とを連結するリンカーと解される。従って、当該X1は、式(A1)および(A2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0086】
上記式中、αは1~9の整数であり、α’は1~9の整数である。これらαおよびα’は、X1の価数に応じて変化し得る。式(A1)においては、αおよびα’の和は、X1の価数と同じである。例えば、X1が10価の有機基である場合、αおよびα’の和は10であり、例えばαが9かつα’が1、αが5かつα’が5、またはαが1かつα’が9となり得る。また、X1が2価の有機基である場合、αおよびα’は1である。式(A2)においては、αはX1の価数から1を引いた値である。
【0087】
上記X1は、好ましくは2~7価であり、より好ましくは2~4価であり、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0088】
一の態様において、X1は2~4価の有機基であり、αは1~3であり、α’は1である。
【0089】
別の態様において、X
1は2価の有機基であり、αは1であり、α’は1である。この場合、式(A1)および(A2)は、下記式(A1’)および(A2’)で表される。
【化5】
【0090】
上記式中、X5は、それぞれ独立して、単結合または2~10価の有機基を表す。当該X5は、式(B1)および(B2)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(Rf-PFPE部または-PFPE-部)と、基材との結合能を提供するシラン部(具体的には、-SiR1
nR2
3-n)とを連結するリンカーと解される。従って、当該X5は、式(B1)および(B2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0091】
上記式中のβは、1~9の整数であり、β’は、1~9の整数である。これらβおよびβ’は、X5の価数に応じて決定され、式(B1)において、βおよびβ’の和は、X5の価数と同じである。例えば、X5が10価の有機基である場合、βおよびβ’の和は10であり、例えばβが9かつβ’が1、βが5かつβ’が5、またはβが1かつβ’が9となり得る。また、X5が2価の有機基である場合、βおよびβ’は1である。式(B2)において、βはX5の価数の値から1を引いた値である。
【0092】
上記X5は、好ましくは2~7価、より好ましくは2~4価、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0093】
一の態様において、X5は2~4価の有機基であり、βは1~3であり、β’は1である。
【0094】
別の態様において、X
5は2価の有機基であり、βは1であり、β’は1である。この場合、式(B1)および(B2)は、下記式(B1’)および(B2’)で表される。
【化6】
【0095】
上記式中、X7は、それぞれ独立して、単結合または2~10価の有機基を表す。当該X7は、式(C1)および(C2)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(Rf-PFPE部または-PFPE-部)と、基材との結合能を提供するシラン部(具体的には、-SiRa
kRb
lRc
m基)とを連結するリンカーと解される。従って、当該X7は、式(C1)および(C2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0096】
上記式中、γは、1~9の整数であり、γ’は、1~9の整数である。これらγおよびγ’は、X7の価数に応じて決定され、式(C1)において、γおよびγ’の和は、X7の価数と同じである。例えば、X7が10価の有機基である場合、γおよびγ’の和は10であり、例えばγが9かつγ’が1、γが5かつγ’が5、またはγが1かつγ’が9となり得る。また、X7が2価の有機基である場合、γおよびγ’は1である。式(C2)において、γはX7の価数の値から1を引いた値である。
【0097】
上記X7は、好ましくは2~7価、より好ましくは2~4価、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0098】
一の態様において、X7は2~4価の有機基であり、γは1~3であり、γ’は1である。
【0099】
別の態様において、X
7は2価の有機基であり、γは1であり、γ’は1である。この場合、式(C1)および(C2)は、下記式(C1’)および(C2’)で表される。
【化7】
【0100】
上記式中、X9は、それぞれ独立して、単結合または2~10価の有機基を表す。当該X9は、式(D1)および(D2)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(即ち、Rf-PFPE部または-PFPE-部)と、基材との結合能を提供する部(即ち、δを付して括弧でくくられた基)とを連結するリンカーと解される。従って、当該X9は、式(D1)および(D2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0101】
上記式中、δは1~9の整数であり、δ’は1~9の整数である。これらδおよびδ’は、X9の価数に応じて変化し得る。式(D1)においては、δおよびδ’の和は、X9の価数と同じである。例えば、X9が10価の有機基である場合、δおよびδ’の和は10であり、例えばδが9かつδ’が1、δが5かつδ’が5、またはδが1かつδ’が9となり得る。また、X9が2価の有機基である場合、δおよびδ’は1である。式(D2)においては、δはX9の価数から1を引いた値である。
【0102】
上記X9は、好ましくは2~7価、より好ましくは2~4価、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0103】
一の態様において、X9は2~4価の有機基であり、δは1~3であり、δ’は1である。
【0104】
別の態様において、X
9は2価の有機基であり、δは1であり、δ’は1である。この場合、式(D1)および(D2)は、下記式(D1’)および(D2’)で表される。
【化8】
【0105】
上記式中、X3は、それぞれ独立して、単結合または2~10価の有機基を表す。当該X3は、式(E1)および(E2)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(即ち、Rf-PFPE部または-PFPE-部)と、基材との結合能を提供する部(即ち、A基)とを連結するリンカーと解される。従って、当該X3は、式(E1)および(E2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0106】
上記式中、εは1~9の整数であり、ε’は1~9の整数である。これらεおよびε’は、X3の価数に応じて変化し得る。式(E1)においては、εおよびε’の和は、X3の価数と同じである。例えば、X3が10価の有機基である場合、εおよびε’の和は10であり、例えばεが9かつε’が1、εが5かつε’が5、またはεが1かつε’が9となり得る。また、X3が2価の有機基である場合、εおよびε’は1である。式(E2)においては、εはX9の価数から1を引いた値である。
【0107】
上記X3は、好ましくは2~7価、より好ましくは2~4価、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0108】
一の態様において、X3は2~4価の有機基であり、εは1~3であり、ε’は1である。
【0109】
別の態様において、X
3は2価の有機基であり、εは1であり、ε’は1である。この場合、式(E1)および(E2)は、下記式(E1’)および(E2’)で表される。
【化9】
【0110】
好ましい態様において、上記X1、X3、X5、X7、およびX9は、それぞれ独立して、特に限定するものではないが、例えば、下記式:
-(R31)p1-(Xa)q1-
[式中:
R31は、単結合、-(CH2)s’-またはo-、m-もしくはp-フェニレン基を表し、好ましくは-(CH2)s’-であり、
s’は、1~20の整数、好ましくは1~6の整数、より好ましくは1~3の整数、さらにより好ましくは1または2であり、
Xaは、-(Xb)l’-を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、-O-、-S-、o-、m-もしくはp-フェニレン基、-C(O)O-、-Si(R33)2-、-(Si(R33)2O)m”-Si(R33)2-、-CONR34-、-O-CONR34-、-NR34-および-(CH2)n’-からなる群から選択される基を表し、
R33は、各出現においてそれぞれ独立して、フェニル基、C1-6アルキル基またはC1-6アルコキシ基を表し、好ましくはフェニル基またはC1-6アルキル基であり、より好ましくはメチル基であり、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1-6アルキル基(好ましくはメチル基)を表し、
m”は、各出現において、それぞれ独立して、1~100の整数、好ましくは1~20の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1~20の整数、好ましくは1~6の整数、より好ましくは1~3の整数であり、
l’は、1~10の整数、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~3の整数であり、
p1は、0または1であり、
q1は、0または1であり、
ここに、p1およびq1の少なくとも一方は1であり、p1またはq1を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]
で表される2価の基であり得る。ここに、R31およびXa(典型的にはR31およびXaの水素原子)は、フッ素原子、C1-3アルキル基およびC1-3フルオロアルキル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0111】
好ましくは、上記X1、X3、X5、X7、およびX9は、それぞれ独立して、-(R31)p1-(Xa)q1-R32-である。R32は、単結合、-(CH2)t’-またはo-、m-もしくはp-フェニレン基を表し、好ましくは-(CH2)t’-である。t’は、1~20の整数、好ましくは2~6の整数、より好ましくは2~3の整数である。ここに、R32(典型的にはR32の水素原子)は、フッ素原子、C1-3アルキル基およびC1-3フルオロアルキル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0112】
好ましくは、上記X1、X3、X5、X7、およびX9は、それぞれ独立して、
C1-20アルキレン基、
-R31-Xc-R32-、または
-Xd-R32-
[式中、R31およびR32は、上記と同意義である。]
であり得る。
【0113】
より好ましくは、上記X1、X3、X5、X7、およびX9は、それぞれ独立して、
C1-20アルキレン基、
-(CH2)s’-Xc-、
-(CH2)s’-Xc-(CH2)t’-
-Xd-、または
-Xd-(CH2)t’-
[式中、s’およびt’は、上記と同意義である。]
である。
【0114】
上記式中、Xcは、
-O-、
-S-、
-C(O)O-、
-CONR34-、
-O-CONR34-、
-Si(R33)2-、
-(Si(R33)2O)m”-Si(R33)2-、
-O-(CH2)u’-(Si(R33)2O)m”-Si(R33)2-、
-O-(CH2)u’-Si(R33)2-O-Si(R33)2-CH2CH2-Si(R33)2-O-Si(R33)2-、
-O-(CH2)u’-Si(OCH3)2OSi(OCH3)2-、
-CONR34-(CH2)u’-(Si(R33)2O)m”-Si(R33)2-、
-CONR34-(CH2)u’-N(R34)-、または
-CONR34-(o-、m-またはp-フェニレン)-Si(R33)2-
[式中、R33、R34およびm”は、上記と同意義であり、
u’は1~20の整数、好ましくは2~6の整数、より好ましくは2~3の整数である。]を表す。Xcは、好ましくは-O-である。
【0115】
上記式中、Xdは、
-S-、
-C(O)O-、
-CONR34-、
-CONR34-(CH2)u’-(Si(R33)2O)m”-Si(R33)2-、
-CONR34-(CH2)u’-N(R34)-、または
-CONR34-(o-、m-またはp-フェニレン)-Si(R33)2-
[式中、各記号は、上記と同意義である。]
を表す。
【0116】
より好ましくは、上記X1、X3、X5、X7、およびX9は、それぞれ独立して、
C1-20アルキレン基、
-(CH2)s’-Xc-(CH2)t’-、または
-Xd-(CH2)t’-
[式中、各記号は、上記と同意義である。]
であり得る。
【0117】
さらにより好ましくは、上記X1、X3、X5、X7、およびX9は、それぞれ独立して、
C1-20アルキレン基、
-(CH2)s’-O-(CH2)t’-、
-(CH2)s’-(Si(R33)2O)m”-Si(R33)2-(CH2)t’-、
-(CH2)s’-O-(CH2)u’-(Si(R33)2O)m”-Si(R33)2-(CH2)t’-、または
-(CH2)s’-O-(CH2)t’-Si(R33)2 -(CH2)u’-Si(R33)2-(CvH2v)-
[式中、R33、m”、s’、t’およびu’は、上記と同意義であり、vは1~20の整数、好ましくは2~6の整数、より好ましくは2~3の整数である。]
である。
【0118】
上記式中、-(CvH2v)-は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、例えば、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH(CH3)-、-CH(CH3)CH2-であり得る。
【0119】
上記X1、X3、X5、X7、およびX9基は、それぞれ独立して、フッ素原子、C1-3アルキル基およびC1-3フルオロアルキル基(好ましくは、C1-3パーフルオロアルキル基)から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0120】
一の態様において、X1、X3、X5、X7、およびX9基は、それぞれ独立して、-O-C1-6アルキレン基以外であり得る。
【0121】
別の態様において、X
1、X
3、X
5、X
7、およびX
9基としては、例えば下記の基が挙げられる:
【化10】
【化11】
[式中、R
41は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、炭素数1~6のアルキル基、またはC
1-6アルコキシ基、好ましくはメチル基であり;
Dは、
-CH
2O(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3-、
-CF
2O(CH
2)
3-、
-(CH
2)
2-、
-(CH
2)
3-、
-(CH
2)
4-、
-CONH-(CH
2)
3-、
-CON(CH
3)-(CH
2)
3-、
-CON(Ph)-(CH
2)
3-(式中、Phはフェニルを意味する)、および
【化12】
(式中、R
42は、それぞれ独立して、水素原子、C
1-6のアルキル基またはC
1-6のアルコキシ基、好ましくはメチル基またはメトキシ基、より好ましくはメチル基を表す。)
から選択される基であり、
Eは、-(CH
2)
n-(nは2~6の整数)であり、
Dは、分子主鎖のPFPEに結合し、Eは、PFPEと反対の基に結合する。]
【0122】
上記X
1、X
3、X
5、X
7、およびX
9の具体的な例としては、例えば:
-CH
2O(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3-、
-CH
2O(CH
2)
6-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
2Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
3Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
10Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
20Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2OCF
2CHFOCF
2-、
-CH
2OCF
2CHFOCF
2CF
2-、
-CH
2OCF
2CHFOCF
2CF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF
2CF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF
2CF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2CF
2-
-CH
2OCH
2(CH
2)
7CH
2Si(OCH
3)
2OSi(OCH
3)
2(CH
2)
2Si(OCH
3)
2OSi(OCH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2OCH
2CH
2CH
2Si(OCH
3)
2OSi(OCH
3)
2(CH
2)
3-、
-CH
2OCH
2CH
2CH
2Si(OCH
2CH
3)
2OSi(OCH
2CH
3)
2(CH
2)
3-、
-CH
2OCH
2CH
2CH
2Si(OCH
3)
2OSi(OCH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2OCH
2CH
2CH
2Si(OCH
2CH
3)
2OSi(OCH
2CH
3)
2(CH
2)
2-、
-(CH
2)
2-、
-(CH
2)
3-、
-(CH
2)
4-、
-(CH
2)
5-、
-(CH
2)
6-、
-CONH-(CH
2)
3-、
-CON(CH
3)-(CH
2)
3-、
-CON(Ph)-(CH
2)
3-(式中、Phはフェニルを意味する)、
-CONH-(CH
2)
6-、
-CON(CH
3)-(CH
2)
6-、
-CON(Ph)-(CH
2)
6-(式中、Phはフェニルを意味する)、
-CONH-(CH
2)
2NH(CH
2)
3-、
-CONH-(CH
2)
6NH(CH
2)
3-、
-CH
2O-CONH-(CH
2)
3-、
-CH
2O-CONH-(CH
2)
6-、
-S-(CH
2)
3-、
-(CH
2)
2S(CH
2)
3-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
2Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
3Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
10Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
20Si(CH
3)
2(CH
2)
2-
-C(O)O-(CH
2)
3-、
-C(O)O-(CH
2)
6-、
-CH
2-O-(CH
2)
3-Si(CH
3)
2-(CH
2)
2-Si(CH
3)
2-(CH
2)
2-、
-CH
2-O-(CH
2)
3-Si(CH
3)
2-(CH
2)
2-Si(CH
3)
2-CH(CH
3)-、
-CH
2-O-(CH
2)
3-Si(CH
3)
2-(CH
2)
2-Si(CH
3)
2-(CH
2)
3-、
-CH
2-O-(CH
2)
3-Si(CH
3)
2-(CH
2)
2-Si(CH
3)
2-CH(CH
3)-CH
2-、
-OCH
2-、
-O(CH
2)
3-、
-OCFHCF
2-、
【化13】
などが挙げられる。
【0123】
さらに別の態様において、X1、X3、X5、X7、およびX9は、それぞれ独立して、式:-(R16)x-(CFR17)y-(CH2)z-で表される基である。式中、x、yおよびzは、それぞれ独立して、0~10の整数であり、x、yおよびzの和は1以上であり、括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。
【0124】
上記式中、R16は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子、フェニレン、カルバゾリレン、-NR26-(式中、R26は、水素原子または有機基を表す)または2価の有機基である。好ましくは、R16は、酸素原子または2価の極性基である。
【0125】
上記「2価の極性基」としては、特に限定されないが、-C(O)-、-C(=NR27)-、および-C(O)NR27-(これらの式中、R27は、水素原子または低級アルキル基を表す)が挙げられる。当該「低級アルキル基」は、例えば、炭素数1~6のアルキル基、例えばメチル、エチル、n-プロピルであり、これらは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい。
【0126】
上記式中、R17は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または低級フルオロアルキル基であり、好ましくはフッ素原子である。当該「低級フルオロアルキル基」は、例えば、炭素数1~6、好ましくは炭素数1~3のフルオロアルキル基、好ましくは炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、より好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、さらに好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0127】
さらに別の態様において、X
1、X
3、X
5、X
7、およびX
9基の例として、下記の基が挙げられる:
【化14】
[式中、
R
41は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、炭素数1~6のアルキル基、またはC
1-6アルコキシ基好ましくはメチル基であり;
各X
1基において、Tのうち任意のいくつかは、分子主鎖のPFPEに結合する以下の基:
-CH
2O(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3-、
-CF
2O(CH
2)
3-、
-(CH
2)
2-、
-(CH
2)
3-、
-(CH
2)
4-、
-CONH-(CH
2)
3-、
-CON(CH
3)-(CH
2)
3-、
-CON(Ph)-(CH
2)
3-(式中、Phはフェニルを意味する)、または
【化15】
[式中、R
42は、それぞれ独立して、水素原子、C
1-6のアルキル基またはC
1-6のアルコキシ基、好ましくはメチル基またはメトキシ基、より好ましくはメチル基を表す。]
であり、別のTのいくつかは、分子主鎖のPFPEと反対の基(即ち、式(A1)、(A2)、(D1)および(D2)においては炭素原子、また、下記する式(B1)、(B2)、(C1)および(C2)においてはSi原子、(E1)および(E2)においてはA)に結合する-(CH
2)
n”-(n”は2~6の整数)であり、存在する場合、残りのTは、それぞれ独立して、メチル基、フェニル基、C
1-6アルコキシ基またはラジカル捕捉基または紫外線吸収基である。
【0128】
ラジカル捕捉基は、光照射で生じるラジカルを捕捉できるものであれば特に限定されないが、例えばベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、安息香酸エステル類、サリチル酸フェニル類、クロトン酸類、マロン酸エステル類、オルガノアクリレート類、ヒンダードアミン類、ヒンダードフェノール類、またはトリアジン類の残基が挙げられる。
【0129】
紫外線吸収基は、紫外線を吸収できるものであれば特に限定されないが、例えばベンゾトリアゾール類、ヒドロキシベンゾフェノン類、置換および未置換安息香酸もしくはサリチル酸化合物のエステル類、アクリレートまたはアルコキシシンナメート類、オキサミド類、オキサニリド類、ベンゾキサジノン類、ベンゾキサゾール類の残基が挙げられる。
【0130】
好ましい態様において、好ましいラジカル捕捉基または紫外線吸収基としては、
【化16】
が挙げられる。
【0131】
この態様において、X1、X3、X5、X7、およびX9は、それぞれ独立して、3~10価の有機基であり得る。
【0132】
本発明で用いられる反応性パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物の数平均分子量は、好ましくは1,000~30,000、好ましくは1,500~30,000、より好ましくは2,000~10,000である。
【0133】
本発明で用いられる反応性パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物の分散度(重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn))は、特に限定されないが、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.0以上2.0、さらに好ましくは1.0~1.5以下であり得る。分散度を3.0以下にすることにより、膜の均一性はより向上する。分散度がより小さいほど、膜の均一性はより向上する。
【0134】
本発明で用いられる反応性パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物におけるパーフルオロポリエーテル部分(Rf-PFPE-部分または-PFPE-部分)の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは500~30,000、好ましくは1,000~30,000、より好ましくは1,500~10,000である。
【0135】
好ましい態様において、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、下記式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)、(D1)、または(D2)で表される化合物、いわゆる反応性パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物であり得る。このようなシラン化合物を用いることにより、サイクル特性をより向上させることができる。また、反応性パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物の膜の電極への密着性を向上させることができる。
【0136】
一の態様において、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、上記式(A1)または(A2)で表される化合物である。
【0137】
一の態様において、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、上記式(B1)または(B2)で表される化合物である。
【0138】
一の態様において、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、上記式(C1)または(C2)で表される化合物である。
【0139】
一の態様において、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、上記式(D1)または(D2)で表される化合物である。
【0140】
一の態様において、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、上記式(E1)または(E2)で表される化合物である。
【0141】
上記式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)、(D1)、(D2)、(E1)および(E2)で表される化合物は、公知の方法により製造することができる。
【0142】
電極の表面に、パーフルオロポリエーテル基含有化合物の被覆層を形成する方法としては、例えば、電極材上に、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物の膜を形成し、この膜を必要に応じて後処理し、これにより被覆層を形成する方法が挙げられる。
【0143】
電極材上に、パーフルオロポリエーテル基含有化合物の膜を形成する方法は、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物を、電極材の表面に対して、該表面を被覆するように適用することによって実施できる。被覆方法は、特に限定されない。例えば、湿潤被覆法および乾燥被覆法を使用できる。
【0144】
反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、それ自体を直接適用してもよく、あるいは、他の成分、例えば溶媒と混合して組成物として適用してもよい。
【0145】
上記組成物に用いられる溶媒としては、例えば、以下の溶媒が使用される:C5-12のパーフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサンおよびパーフルオロ-1,3-ジメチルシクロヘキサン);ポリフルオロ芳香族炭化水素(例えば、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン);ポリフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、C6F13CH2CH3(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AC-6000)、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(例えば、日本ゼオン株式会社製のゼオローラ(登録商標)H);ハイドロフルオロカーボン(HFC)(例えば、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc));ハイドロクロロフルオロカーボン(例えば、HCFC-225(アサヒクリン(登録商標)AK225));ヒドロフルオロエーテル(HFE)(例えば、パーフルオロプロピルメチルエーテル(C3F7OCH3)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7000)、パーフルオロブチルメチルエーテル(C4F9OCH3)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7100)、パーフルオロブチルエチルエーテル(C4F9OC2H5)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7200)、パーフルオロヘキシルメチルエーテル(C2F5CF(OCH3)C3F7)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7300)などのアルキルパーフルオロアルキルエーテル(パーフルオロアルキル基およびアルキル基は直鎖または分枝状であってよい)、あるいはCF3CH2OCF2CHF2(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AE-3000))、1,2-ジクロロ-1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製のバートレル(登録商標)サイオン)など。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上を組み合わせて混合物として用いることができる。さらに、例えば、反応性パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物の溶解性を調整する等のために、別の溶媒と混合することもできる。
【0146】
上記組成物は、他の成分を含んでいてもよい。かかる他の成分としては、特に限定されるものではないが、触媒などが挙げられる。
【0147】
上記触媒としては、酸(例えば酢酸、トリフルオロ酢酸等)、塩基(例えばアンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン等)、遷移金属(例えばTi、Ni、Sn等)等が挙げられる。
【0148】
触媒は、反応性パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物の加水分解および脱水縮合を促進し、被覆層の形成を促進する。
【0149】
湿潤被覆法の例としては、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティングおよび類似の方法が挙げられる。
【0150】
乾燥被覆法の例としては、PVD法、CVD法および類似の方法が挙げられる。PVD法とは、固体原料を真空中で加熱(真空蒸着)したり、高速の電子やイオンで照射したりして、物理的エネルギーを固体表面の原子に与えて気化させ、それを電極材上にて再結合させて薄膜を形成する方法である。PVD法としては、特に限定されないが、例えば、蒸着法(通常、真空蒸着法)およびスパッタリング等が挙げられる。蒸着法(通常、真空蒸着法)の具体例としては、抵抗加熱、電子ビーム、マイクロ波等を用いた高周波加熱、イオンビームおよび類似の方法が挙げられる。CVD方法の具体例としては、プラズマ-CVD、光学CVD、熱CVDおよび類似の方法が挙げられる。中でも、PVD法が好ましく、特に蒸着法、例えば抵抗加熱蒸着または電子ビーム蒸着が好ましく、電子ビーム蒸着がより好ましい。
【0151】
更に、常圧プラズマ法による被覆も可能である。
【0152】
次に、必要に応じて、膜を後処理する。この後処理は、特に限定されないが、例えば、加熱、水分供給、あるいはこの両方であり得る。
【0153】
かかる後処理は、被覆層の耐久性(ひいては、リチウムイオン二次電池のサイクル特性または保存安定性)を向上させるために実施され得るが、必須の工程ではないことに留意されたい。例えば、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物を適用した後、そのまま静置しておくだけでもよい。
【0154】
上記のようにして、電極材上に、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物の膜に由来する被覆層が形成される。
【0155】
本発明の電極は、電極材を、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物を用いて表面処理することにより得てもよく、あるいは、電極材を形成する材料中に反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物を混合して電極を形成してもよい。
【0156】
被覆層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.1~50nm、好ましくは0.3~50nm、より好ましくは0.5~30nm、さらに好ましくは1~10nmの範囲である。厚みをより大きくすることにより、電極材と電解質の接触をより効果的に阻害することができ、電気化学デバイスの機能または電気特性を向上させることができる。また、厚みをより小さくすることにより、活物質と電解質の距離を小さくできることから、容量をより大きくすることができる。
【0157】
好ましい態様において、被覆層は単分子膜である。被覆層を単分子膜とすることにより、より薄く、より緻密な膜とすることができ、電気特性の向上と容量の増大をより高いレベルで両立することができる。
【0158】
本発明の電極は、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を含有することにより、電気化学デバイスに用いた場合に、電池化学デバイスのサイクル容量保持率を向上させ、抵抗増加率を抑制することができる。さらに、高温保存による性能劣化を抑制し得る。本発明はいかなる理論にも拘束されないが、上記の効果が得られる理由は、本発明の電極がパーフルオロポリエーテル基を有する化合物を含有することにより、電極材と電解液との直接的な接触を抑制できるからであると考えられる。
【0159】
・電極材
電極材は、電気化学デバイスの電極の主要部を構成する部材を意味し、各種電気化学デバイスにおいて一般的に用いられる部材である。このような電極材は、当業者であれば、電気化学デバイスの種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、アルカリ金属イオン電池においては、電極材は、活物質(以下、正極活物質および負極活物質を包含して用いられる)を含有する活物質含有部分であり得る。また、電気二重層キャパシタにおいては、電極材は、電解質との界面で電気二重層を形成する部分、例えば炭素または黒鉛を含有する部分であり得る。
【0160】
本発明の電極は、電気化学デバイスにおいて、正極および負極のいずれとしても用いることができる。正極で使用した場合、電解液の酸化分解を抑制し、電解液の分解による電池の劣化および正極構造の分解を抑制できる。また、負極に使用した場合、電極/電解液界面に形成される固体電解質界面(SEI)の構造を安定化し、リチウムイオンの移動を良好にすることで抵抗の上昇を抑制することができる。
【0161】
本発明の電極は、上記のようにその表面にパーフルオロポリエーテル基含有化合物を含有するので、電気化学デバイスの正極および/または負極として用いることにより、電気化学デバイスにおいて、良好な電気特性と大きな容量を達成し得る。
【0162】
<電気化学デバイス>
上記のように本発明の電極は、種々の電気化学デバイスにおいて用いることができる。
【0163】
従って、本発明はまた、本発明の電極を有して成る電気化学デバイスをも提供する。
【0164】
電気化学デバイスは、少なくとも一対の電極と、当該一対の電極間を介在する電解質とを有して成るデバイスを意味する。
【0165】
上記電気化学デバイスとしては、特に限定されないが、例えば、電池、電気化学センサー、エレクトロクロミック素子、電気化学スイッチング素子、電解コンデンサ、電気化学キャパシタ等が挙げられる。
【0166】
上記電池としては、電極と電解質を有する電池であれば特に限定されないが、例えば、アルカリ金属電池、アルカリ金属イオン電池、アルカリ土類金属イオン電池、ラジカル電池、太陽電池、燃料電池等が挙げられる。好ましい態様において、上記電池は、特にアルカリ金属電池、アルカリ金属イオン電池、またはアルカリ土類金属電池であり、例えば、リチウム電池、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、マグネシウム電池、リチウム空気電池、ナトリウム硫黄電池、リチウム硫黄電池であり得、好ましくはリチウムイオン電池であり得る。上記の電池は、一次電池であっても、二次電池であってもよい。好ましくは、上記電池は、アルカリ金属イオン二次電池であり、特にリチウムイオン二次電池である。
【0167】
上記電気化学センサーとしては、自然現象または人工物の機械的、電磁気的、熱的、音響的、化学的性質、あるいはそれらで示される空間情報・時間情報を、検出または測定するセンサーであって、電気化学的原理を応用した電極と電解質を有するセンサーを意味する。かかる電気化学センサーとしては、例えば、アクチュエーター、湿度センサー、ガス濃度センサー、イオン濃度センサー、においセンサー等が挙げられる。
【0168】
上記エレクトロクロミック素子としては、電圧または電流を加えた場合に可逆的に光学的吸収を生じる素子であって、電気化学的な反応を利用した電極と電解質を有する素子を意味する。かかるエレクトロクロミック素子としては、例えば、電気により色が変わるエレクトロクロミック素子等が挙げられる。
【0169】
上記電気化学スイッチング素子としては、電極と電解質を有する電気化学スイッチング素子であれば特に限定されないが、例えば、電気化学トランジスタ、電界効果型トランジスタ等が挙げられる。
【0170】
上記電解コンデンサとしては、電極と電解質を有する電解コンデンサであれば特に限定されないが、例えば、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ等が挙げられる。
【0171】
上記電気化学キャパシタとしては、電極と電解質を有する電気化学キャパシタであれば特に限定されないが、例えば、電気二重層コンデンサ、レドックスキャパシタ、またはリチウムイオンキャパシタのようなハイブリッドキャパシタ等が挙げられる。
【0172】
一の態様において、本発明の電気化学デバイスは、一方の電極にのみ本発明の電極を用いたものであり得る。例えば、本発明の電気化学デバイスは、負極にのみまたは正極にのみ本発明の電極を用いたものであり得る。一の態様において、本発明の電気化学デバイスは、正極にのみ本発明の電極を用いたものであり得る。別の態様において、本発明の電気化学デバイスは、正極および負極の両方に本発明の電極を用いたものであり得る。
【0173】
本発明の電気化学デバイスは、上記の例示に限定されず、少なくとも一対の電極と、当該一対の電極間を介在する電解質とを有して成るデバイスであれば特に限定されない。また、本発明の電気化学デバイスは、少なくとも1つの電極として、本発明の電極が用いられていればよく、他の構成は、特記しない限り、従来と同様の構成であり得る。
【0174】
<アルカリ金属イオン二次電池>
以下、本発明の電気化学デバイスについて、アルカリ金属イオン二次電池を例として、さらに詳細に説明する。
【0175】
一の態様において、本発明は、正極および負極の少なくとも一方が、本発明の電極である、アルカリ金属イオン二次電池、好ましくはリチウムイオン二次電池を提供する。
【0176】
本発明のアルカリ金属イオン二次電池は、アルカリ金属イオン二次電池として一般的な構造を有し得る。例えば、本発明のアルカリ金属イオン二次電池は、外装ケース中に、正極、負極、セパレータ、電解液等を有し得る。また、本発明のアルカリ金属イオン二次電池は、さらに、正極集電タブ、負極集電タブ、電池蓋等の他の部材、あるいは、内圧開放弁またはPTC素子等の電池を保護するための部材等を有し得る。
【0177】
アルカリ金属イオン二次電池における電極材は、活物質(以下、正極活物質および負極活物質を包含して用いられる)を含有する活物質含有部分であり得る。典型的には、電極材は、活物質含有部分および集電体から構成され得る。一の態様において、活物質含有部分は、集電体上に層状に存在する。
【0178】
・正極
正極は、正極活物質を含有する活物質含有部分を含む正極材を有して成る。正極が本発明の電極である場合には、正極材の表面にパーフルオロポリエーテル基含有化合物をさらに有して成る。
【0179】
上記正極活物質としては、電気化学的にアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限されないが、例えば、アルカリ金属と少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましい。具体例としては、アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物、アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物が挙げられる。なかでも、正極活物質としては、特に、高電圧を産み出すアルカリ金属含有遷移金属複合酸化物が好ましい。上記アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。好ましい態様において、アルカリ金属イオンは、リチウムイオンであり得る。即ち、この態様において、アルカリ金属イオン二次電池は、リチウムイオン二次電池である。
【0180】
上記アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物としては、例えば、
式:MaMn2-bM1
bO4
(式中、Mは、Li、NaまたはKから選択される少なくとも1種の金属であり;0.9≦a;0≦b≦1.5;M1はFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、SiおよびGeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属)で表されるリチウム・マンガンスピネル複合酸化物、
式:MNi1-cM2
cO2
(式中、Mは、Li、NaまたはKから選択される少なくとも1種の金属であり;0≦c≦0.5;M2はFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、SiおよびGeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属)で表されるリチウム・ニッケル複合酸化物、または、
式:MCo1-dM3
dO2
(式中、Mは、Li、NaまたはKから選択される少なくとも1種の金属であり;0≦d≦0.5;M3はFe、Ni、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、SiおよびGeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属)
で表されるリチウム・コバルト複合酸化物が挙げられる。上記において、Mは、好ましくは、Li、NaまたはKから選択される1種の金属であり、より好ましくはLiまたはNaであり、さらに好ましくはLiである。
【0181】
なかでも、エネルギー密度が高く、高出力なアルカリ金属イオン二次電池を提供できる点から、MCoO2、MMnO2、MNiO2、MMn2O4、MNi0.8Co0.15Al0.05O2、またはMNi1/3Co1/3Mn1/3O2が好ましい。
【0182】
その他の正極活物質としては、MFePO4、MNi0.8Co0.2O2、M1.2Fe0.4Mn0.4O2、MNi0.5Mn1.5O2、MV3O6、M2MnO3等が挙げられる。特に、M2MnO3、MNi0.5Mn1.5O2等の正極活物質は、4.4Vを超える電圧や、4.6V以上の電圧でリチウムイオン二次電池を作動させた場合であって、結晶構造が崩壊しない点で好ましい。従って、上記に例示した正極活物質を含む正極材を用いた本発明の正極を備えるリチウムイオン二次電池等の電気化学デバイスは、高温で保管した場合でも、残存容量が低下しにくく、抵抗増加率も変化しにくい上、高電圧で作動させても電池性能が劣化しないことから、好ましい。
【0183】
・負極
負極は、負極活物質を含有する活物質含有部分を含む負極材を有して成る。負極が本発明の電極である場合には、負極材の表面にパーフルオロポリエーテル基含有化合物をさらに有して成る。
【0184】
上記負極活物質としては、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物や人造黒鉛、天然黒鉛等のアルカリ金属、好ましくはリチウムを吸蔵・放出可能な炭素質材料;酸化錫、酸化ケイ素等のアルカリ金属を吸蔵・放出可能な金属酸化物材料;アルカリ金属;種々のアルカリ金属合金;アルカリ金属含有金属複合酸化物材料等を挙げることができる。これらの負極活物質は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0185】
アルカリ金属を吸蔵・放出可能な炭素質材料としては、種々の原料から得た易黒鉛性ピッチの高温処理によって製造された人造黒鉛もしくは精製天然黒鉛、または、これらの黒鉛にピッチその他の有機物で表面処理を施した後炭化して得られるものが好ましく、天然黒鉛、人造黒鉛、人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質を400~3200℃の範囲で1回以上熱処理した炭素質材料、負極活物質層が少なくとも2種類以上の異なる結晶性を有する炭素質からなり、および/またはその異なる結晶性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、負極活物質層が少なくとも2種以上の異なる配向性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、から選ばれるものが、初期不可逆容量、高電流密度充放電特性のバランスがよくより好ましい。また、これらの炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0186】
上記の人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質を400~3200℃の範囲で1回以上熱処理した炭素質材料としては、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ、石油系ピッチおよびこれらピッチを酸化処理したもの、ニードルコークス、ピッチコークスおよびこれらを一部黒鉛化した炭素剤、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等の有機物の熱分解物、炭化可能な有機物およびこれらの炭化物、または炭化可能な有機物をベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n-ヘキサン等の低分子有機溶剤に溶解させた溶液およびこれらの炭化物等が挙げられる。
【0187】
上記負極活物質として用いられる金属材料としては、アルカリ金属を吸蔵・放出可能であれば、アルカリ金属単体、アルカリ金属合金を形成する単体金属および合金、またはそれらの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の化合物のいずれであってもよく、特に制限されない。アルカリ金属合金を形成する単体金属および合金としては、13族および14族の金属・半金属元素を含む材料であることが好ましく、より好ましくはアルミニウム、ケイ素およびスズ(以下、「特定金属元素」と略記)の単体金属およびこれら原子を含む合金または化合物である。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0188】
特定金属元素から選ばれる少なくとも1種の原子を有する負極活物質としては、いずれか1種の特定金属元素の金属単体、2種以上の特定金属元素からなる合金、1種または2種以上の特定金属元素とその他の1種または2種以上の金属元素とからなる合金、並びに、1種または2種以上の特定金属元素を含有する化合物、およびその化合物の酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の複合化合物が挙げられる。負極活物質としてこれらの金属単体、合金または金属化合物を用いることで、電池の高容量化が可能である。
【0189】
また、これらの複合化合物が、金属単体、合金または非金属元素等の数種の元素と複雑に結合した化合物も挙げられる。具体的には、例えばケイ素やスズでは、これらの元素と負極として作動しない金属との合金を用いることができる。例えば、スズの場合、スズとケイ素以外で負極として作用する金属と、さらに負極として動作しない金属と、非金属元素との組み合わせで5~6種の元素を含むような複雑な化合物も用いることができる。
【0190】
具体的には、Si単体、SiB4、SiB6、Mg2Si、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu6Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si3N4、Si2N2O、SiOv(0<v≦2)、LiSiOあるいはスズ単体、SnSiO3、LiSnO、Mg2Sn、SnOw(0<w≦2)が挙げられる。
【0191】
また、SiまたはSnを第一の構成元素とし、それに加えて第2、第3の構成元素を含む複合材料が挙げられる。第2の構成元素は、例えば、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウムおよびジルコニウムのうち少なくとも1種である。第3の構成元素は、例えば、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリンのうち少なくとも1種である。
【0192】
特に、高い電池容量および優れた電池特性が得られることから、上記金属材料として、ケイ素またはスズの単体(微量の不純物を含んでよい)、SiOv(0<v≦2)、SnOw(0≦w≦2)、Si-Co-C複合材料、Si-Ni-C複合材料、Sn-Co-C複合材料、Sn-Ni-C複合材料が好ましい。
【0193】
負極活物質として用いられるアルカリ金属含有金属複合酸化物材料としては、アルカリ金属を吸蔵・放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタンおよびアルカリ金属を含有する材料が好ましく、より好ましくはチタンを含むアルカリ金属含有複合金属酸化物材料が好ましく、さらにアルカリ金属とチタンの複合酸化物(以下、「アルカリ金属チタン複合酸化物」と略記する)が好ましい。すなわち、スピネル構造を有するアルカリ金属チタン複合酸化物を、電解液電池用負極活物質に含有させて用いると、出力抵抗が大きく低減するので特に好ましい。
【0194】
上記アルカリ金属チタン複合酸化物としては、一般式:
MxTiyM3
zO4
[式中、Mは、Li、NaまたはKから選択される少なくとも1種の金属であり;M3は、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、ZnおよびNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。]
で表される化合物であることが好ましい。
【0195】
上記において、Mは、好ましくは、Li、NaまたはKから選択される1種の金属であり、より好ましくはLiまたはNaであり、さらに好ましくはLiである。
【0196】
上記組成の中でも、
(i)1.2≦x≦1.4、1.5≦y≦1.7、z=0
(ii)0.9≦x≦1.1、1.9≦y≦2.1、z=0
(iii)0.7≦x≦0.9、2.1≦y≦2.3、z=0
である化合物が、電池性能のバランスが良好なため特に好ましい。
【0197】
上記化合物の特に好ましい組成は、(i)ではM4/3Ti5/3O4、(ii)ではM1Ti2O4、(iii)ではM4/5Ti11/5O4である。また、Z≠0の構造については、例えば、M4/3Ti4/3Al1/3O4が好ましいものとして挙げられる。
【0198】
上記負極活物質を含有する活物質含有部分は、好ましくは、上記負極活物質を含む負極合剤から形成される。例えば、負極合剤を集電体上に塗布し、乾燥することにより得ることができる。
【0199】
上記負極合剤は、更に、結着剤、増粘剤、導電材を含むことが好ましい。
【0200】
・アルカリ金属イオン二次電池における本発明の電極
上記アルカリ金属イオン二次電池において、少なくとも1つの電極は、本発明の電極である。
【0201】
本発明の電極を正極に用いることにより、電解液の酸化分解を抑制し、電解液の分解による電池の劣化および正極構造の分解を抑制できる。また、本発明の電極を負極に用いることにより、電極/電解液界面に形成される固体電解質界面(SEI:Solid Electrolyte Interphase)の構造を安定化し、リチウムイオンの移動を良好にすることで抵抗の上昇を抑制することができる。
【0202】
アルカリ金属イオン二次電池に用いられる本発明の電極は、好ましくは、電極材上に、より具体的には活物質含有部分上に、パーフルオロポリエーテル基含有化合物を有する。
【0203】
一の態様において、本発明のアルカリ金属イオン二次電池において、正極のみが本発明の電極である。正極のみに本発明の電極を用いることにより、電解液の酸化分解を抑制し、電池劣化の抑制および正極構造の分解を抑制できる。さらにこの効果はより高電圧作動での電池で現れる。
【0204】
別の態様において、本発明のアルカリ金属イオン二次電池において、負極のみが本発明の電極である。負極のみに本発明の電極を用いることにより、電極/電解液界面に形成されるSEIの構造を安定化し、電解液の還元分解をある一定以上で抑制し、SEI膜の抵抗上昇を抑制することができる。
【0205】
さらに別の態様において、本発明のアルカリ金属イオン二次電池においては、正極および負極の両方が本発明の電極である。正極および負極の両方に本発明の電極を用いることにより、電解液の酸化分解を抑制し、さらに電極/電解液界面に形成される固体電解質界面の構造を安定化することができる。
【0206】
正極が本発明の電極であることにより、即ち正極がパーフルオロポリエーテル基含有化合物を含有することにより、特に高電圧作動時において、電解液の酸化分解が抑制され、電池の劣化が抑制される。また、電池の残存容量率が向上する。
【0207】
アルカリ金属イオン二次電池の正極および/または負極に用いられる本発明の電極は、活物質を塗布した電極材を、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物により表面処理して製造してもよく、あるいは、電極合剤の塗布層を形成する工程において、反応性パーフルオロポリエーテル基含有化合物を混合した電極合剤を塗布することにより製造してもよい。
【0208】
本発明の電極は、上記のようにその表面にパーフルオロポリエーテル基含有化合物を含有するので、アルカリ金属イオン二次電池、好ましくはリチウムイオン二次電池の正極および/または負極として用いることにより、アルカリ金属イオン二次電池は、良好なサイクル特性と大きな電池容量、および、良好な保存特性を有し得る。
【0209】
・セパレータ
セパレータは、正極と負極とを離隔して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらアルカリ金属イオン、好ましくはリチウムイオンを通過させるものである。当該セパレータは、例えば、合成樹脂またはセラミックからなる多孔質膜であっても、2種類以上の多孔質膜が積層された積層膜であってもよい。当該合成樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどが挙げられる。
【0210】
・電解液
上記した正極、負極およびセパレータには、好ましくは、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒に電解質塩が溶解されたものであり、必要に応じて各種添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0211】
上記溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種類であってもよく、あるいは2種類以上の非水溶媒を含んでいてもよい。
【0212】
上記溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、1,2-ジメトキシエタンまたはテトラヒドロフランである。2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサンまたは1,4-ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルまたはトリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリジノン、N-メチルオキサゾリジノン、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、およびジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶媒を用いることにより、優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られる。
【0213】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが好ましい。これらを用いることにより、より優れた特性が得られる。この場合には、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。これらの組み合わせを用いることにより、電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上する。
【0214】
特に、上記溶媒は、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。溶媒に不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含ませることにより、充放電時において負極の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制される。不飽和炭素結合環状炭酸エステルは、1または2以上の不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルであり、例えば、炭酸ビニレンまたは炭酸ビニルエチレン等が挙げられる。尚、溶媒中における不飽和炭素結合環状炭酸エステルの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01重量%以上10重量%以下であり得る。溶媒中における不飽和炭素結合環状炭酸エステルの含有量を上記の範囲とすることにより、電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制される。
【0215】
また、上記溶媒は、ハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルのうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。これらを含むことにより、充放電時において負極の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制される。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、1または2以上のハロゲン基を有する鎖状炭酸エステルであり、ハロゲン化環状炭酸エステルは、1または2以上のハロゲン基を有する環状炭酸エステルである。ハロゲン基の種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素基、塩素基または臭素基が好ましく、フッ素基がより好ましい。ハロゲン基の種類を上記のものとすることにより、より高い効果が得られる。ただし、ハロゲン基の数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。ハロゲン基の数を多くすることにより、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制される。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)または炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンまたは4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンなどである。尚、溶媒中におけるハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01重量%以上50重量%以下である。含有量を上記の範囲とすることにより、電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応がより抑制される。
【0216】
また、上記溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいてもよい。溶媒がスルトン(環状スルホン酸エステル)を含むことにより、電解液の化学的安定性がより向上する。スルトンは、例えば、プロパンスルトンまたはプロペンスルトンなどである。尚、溶媒中におけるスルトンの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。含有量を上記の範囲とすることにより、電池容量の低下を抑え、電解液の分解反応を抑制することができる。
【0217】
さらに、上記溶媒は、酸無水物を含んでいてもよい。溶媒が酸無水物を含むことにより、電解液の化学的安定性がより向上する。酸無水物は、例えば、ジカルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物またはカルボン酸スルホン酸無水物などである。ジカルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸または無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸または無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸または無水スルホ酪酸などである。尚、溶媒中における酸無水物の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。含有量を上記の範囲とすることにより、電池容量の低下を抑え、電解液の分解反応を抑制することができる。
【0218】
・電解質塩
上記電解質塩は、例えば、以下で説明するアルカリ金属塩のいずれか1種類または2種類以上を含み得る。ただし、電解質塩は、アルカリ金属塩以外の他の塩(例えばアルカリ金属塩以外の軽金属塩)であってもよい。
【0219】
上記アルカリ金属塩としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
MPF6、MBF4、MClO4、MAsF6、MB(C6H5)4、MCH3SO3、MCF3SO3、MAlCl4、M2SiF6、MCl、MBr。
(式中、Mは、Li、NaまたはKから選択される少なくとも1種の金属であり、好ましくはLi、NaまたはKから選択される1種の金属であり、より好ましくはLiまたはNaであり、さらに好ましくはLiである。)
これらのアルカリ金属塩を用いることにより、優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られる。中でも、MPF6、MBF4、MClO4およびMAsF6から選択される少なくとも1種が好ましく、MPF6がより好ましい。これらのアルカリ金属塩を用いることにより、内部抵抗がより低下し、より高い効果が得られる。
【0220】
上記電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.1mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。このような含有量とすることにより、高いイオン伝導性が得られるからである。
【0221】
<電池設計>
電極群は、正極板と負極板とをセパレータを介して積層した積層構造のもの、および正極板と負極板とをセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、「電極群占有率」と称する)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましく、また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。
【0222】
電極群占有率が、上記範囲を下回ると、電池容量が小さくなる。また、上記範囲を上回ると空隙スペースが少なく、電池が高温になることによって部材が膨張したり電解質の液成分の蒸気圧が高くなったりして内部圧力が上昇し、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存等の諸特性を低下させたり、さらには、内部圧力を外に逃がすガス放出弁が作動する場合がある。
【0223】
上記集電構造は、特に制限されないが、上記電解液による高電流密度の充放電特性の向上をより効果的に実現するには、配線部分や接合部分の抵抗を低減する構造にすることが好ましい。
【0224】
上記電極群が上記の積層構造である場合、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。一枚の電極面積が大きくなる場合には、内部抵抗が大きくなるので、電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減してもよい。電極群が上記の捲回構造のものでは、正極および負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0225】
外装ケースの材質は用いられる電解液に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウムまたはアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、または、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0226】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、または、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0227】
本発明のアルカリ金属イオン二次電池の形状は任意であり、例えば、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等の形状が挙げられる。なお、正極、負極、セパレータの形状および構成は、それぞれの電池の形状に応じて変更して使用することができる。
【0228】
<電子機器およびモジュール>
上記した電気化学デバイスは、種々の電子機器またはモジュールにおいて用いられ得る。従って、本発明は、本発明の電気化学デバイス、特にリチウムイオン二次電池を備えた電子機器またはモジュールをも提供する。
【実施例】
【0229】
つぎに、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0230】
(電解液の調製)
高誘電率溶媒であるエチレンカーボネートおよび低粘度溶媒であるエチルメチルカーボネートを、体積比30対70になるように混合し、これにLiPF6を1.0モル/リットルの濃度となるように添加して、非水電解液を得た。
【0231】
(リチウムイオン二次電池の作製)
正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、導電材としてカーボンブラック、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN-メチル-2-ピロリドン分散液を用い、活物質、導電材および結着剤の固形分比が92/3/5(質量%比)になるよう混合した正極合剤スラリーを準備した。厚さ20μmのアルミ箔集電体上に、得られた正極合剤スラリーを均一に塗布し、乾燥した後、プレス機により圧縮成形して、正極積層体とした。正極積層体を打ち抜き機で直径1.6cmの大きさに打ち抜き、円状の正極材を作製した。
【0232】
負極活物質として人造黒鉛粉末およびアモルファスシリコン(SiO)、増粘剤としてカルボキシルメチルセルロースナトリウムの水性分散液(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)、結着剤としてスチレン-ブタジエンゴムの水性分散液(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)を用い、活物質、増粘剤および結着剤の固形分比が93/4.6/1.2/1.2(質量%比)にて混合してスラリー状とした負極合剤スラリーを準備した。厚さ20μmの銅箔に均一に塗布、乾燥した後、プレス機により圧縮成形して、負極とした。打ち抜き機で直径1.6cmの大きさに打ち抜き円状の負極材を作製した。
【0233】
上記で得られた正極材および負極材を、下記表1に示すコーティング化合物で、下記のように処理した。
【0234】
コーティング処理(浸漬(Dip)法)
下記フッ素化合物(化合物1~5)をハイドロフルオロエーテル(住友スリーエム株式会社製、HFE7200)に固形分0.1%になるよう希釈し、電極材を1分間浸漬させた後、HFE7200にて電極材表面に付着した余分な化合物を洗い流した後に乾燥させフッ素化合物で表面処理された電極を得た。
【0235】
コーティング剤処理(物理気相成長(PVD)法)
下記フッ素化合物(化合物1~5)を銅製の容器に秤量して真空チャンバー内の抵抗加熱容器に、電極材をチャンバー上部にセットした後、真空ポンプにてチャンバー内部圧力を10-3Paにした後、抵抗加熱により銅容器内の化合物を加熱、蒸着して、下記化合物で表面処理された電極を得た。尚、化合物を固形分換算で1m2当たり50mgの処理量(電極1枚当たり0.01mg)で処理することにより、9~10nmの膜厚が得られる。かかる膜圧は、蒸着機チャンバー内部に設置された水晶振動子にて測定される膜厚である。
【0236】
・化合物1(PFPE-Si):
CF3CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)n-CF2CF2(CH2CH(Si(OMe)3))n-H
CF3CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)n-CF2CF2部分のn=25
・化合物2(PFPE-OH):
CF3CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)n-CF2CF2CF2OH
n=25
・化合物3(PFPE-COOH):
CF3CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)n-CF2CF2CF2COOH
n=25
・化合物4:
CF3CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)n-CF3
n=25
・化合物5:
CF3CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH2-Si(OMe)3
【0237】
上記の円状の正極および負極を、厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルム(セパレータ)を介して対向させ、上記で得られた非水電解液を注入し、電解液がセパレータ等に充分に浸透した後、封止し予備充電、エージングを行い、コイン型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0238】
(電池特性の測定)
得られたコイン型リチウムイオン二次電池について、下記のようにサイクル容量保持率および抵抗増加率を調べた。
【0239】
(サイクル容量保持率)
上記で製造した二次電池を、25℃において、0.5Cに相当する電流で4.2Vまで定電流-定電圧充電(以下、「CC/CV充電」と表記する。)(0.1Cカット)した後、0.5Cの定電流で3Vまで放電し、これを1サイクルとして、1サイクル目の放電容量から初期放電容量を求めた。ここで、1Cとは、電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、例えば、0.5Cとはその1/2の電流値を表す。再度4.2VまでCC/CV充電(0.1Cカット)をおこなった後、同様の方法で充放電を行い、200サイクル後の放電容量を測定した。下記式に基づき、200サイクル後の放電容量の初期放電容量に対する割合を求め、これをサイクル容量保持率(%)とした。測定温度は、60℃とした。結果を下記表1に示す。
(200サイクル後の放電容量)/(初期放電容量)×100=サイクル容量保持率(%)
【0240】
(抵抗増加率)
所定の充放電条件(0.5Cで所定の電圧にて充電電流が0.1Cになるまで充電し1C相当の電流で3.0Vまで放電する)で行う充放電サイクルを1サイクルとし、3サイクル後の抵抗と200サイクル後の抵抗とを測定した。測定温度は25℃とした。下記式に基づき、抵抗増加率を求めた。結果を下記表1に示す。
抵抗増加率(%)=200サイクル後の抵抗(Ω)/3サイクル後の抵抗(Ω)×100
【0241】
【表1】
*「-」は、コーティング無しを示す。
*PVD処理量は電極当たりの重量を示す。
【0242】
(電解液の調製)
高誘電率溶媒であるエチレンカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートおよび低粘度溶媒であるエチルメチルカーボネートを体積比20対10対70になるように混合し、これにLiPF6を1.0モル/リットルの濃度となるように添加して、非水電解液を得た。
【0243】
(リチウムイオン二次電池の作製)
正極活物質としてLiNi0.5Mn1.5O2、導電材としてカーボンブラック、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN-メチル-2-ピロリドン分散液を用い、活物質、導電材および結着剤の固形分比が90/4/6(質量%比)になるよう混合した正極合剤スラリーを準備した。厚さ20μmのアルミ箔集電体上に、得られた正極合剤スラリーを均一に塗布し、乾燥した後、プレス機により圧縮成形して、正極積層体とした。正極積層体を打ち抜き機で直径1.6cmの大きさに打ち抜き、円状の正極を作製した。
【0244】
その他は上記と同様の方法により、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0245】
(電池特性の測定)
得られたコイン型リチウムイオン二次電池について、下記のようにサイクル容量保持率および抵抗増加率を調べた。
【0246】
(残存容量率)
上記で製造したリチウムイオン二次電池を、25℃において、0.5Cに相当する電流で4.9Vまで定電流-定電圧充電(以下、「CC/CV充電」と表記する。)(0.1Cカット)した後、0.5Cの定電流で3Vまで放電し、これを1サイクルとして、3サイクル目の放電容量から初期放電容量を求めた。ここで、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、例えば、0.5Cとはその1/2の電流値を表す。再度4.9VまでCC/CV充電(0.1Cカット)を行った後、85℃18時間の条件で高温保存を行った。保存後の電池を、25℃において0.5Cで3Vまで放電し、これを残存容量とした。高温保存後の残存容量を測定し、初期放電容量に対する残存容量の割合を求め、これを残存容量率(%)とした。
(残存容量)/(初期放電容量)×100=残存容量率(%)
【0247】
(抵抗増加率)
所定の充放電条件(0.5Cで所定の電圧にて充電電流が0.1Cになるまで充電し1C相当の電流で3.0Vまで放電する)で行う充放電サイクルを1サイクルとし、3サイクル後の抵抗と200サイクル後の抵抗とを測定した。測定温度は25℃とした。下記式に基づき、抵抗増加率を求めた。結果を下記表2に示す。
抵抗増加率(%)=200サイクル後の抵抗(Ω)/3サイクル後の抵抗(Ω)×100
【0248】
【0249】
上記の結果から明らかなように、パーフルオロポリエーテル基含有化合物でコーティングされた本発明の電極を用いることにより、電池のサイクル容量特性または残存容量率および抵抗増加率が改善した。中でも、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物およびパーフルオロポリエーテル基含有アルコール化合物、特にパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物を用いた場合は、その効果が顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0250】
本発明のアルカリ金属電池は、サイクル特性に優れることから、種々の電子機器、特に使用頻度の高いスマートホン、携帯電話、タブレット型端末、ノートパソコンなどに有用に用いることができる。