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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】フッ素ゴム組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20221214BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221214BHJP
   F23K 5/02 20060101ALI20221214BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/04
F23K5/02 A
F16L11/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018173383
(22)【出願日】2018-09-18
(65)【公開番号】P2020045397
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹村 光平
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏幸
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-168630(JP,A)
【文献】特開2017-165841(JP,A)
【文献】特開2010-209275(JP,A)
【文献】特開2018-127530(JP,A)
【文献】特開2013-237783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00-27/24
C08K 3/00-13/08
F16L 11/00-11/26
F23K 5/00-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴムおよび充填材を含有するフッ素ゴム組成物であって、
前記フッ素ゴムのフッ素含有率が、65~73質量%であり、
前記充填材が、膨張化黒鉛であり、
前記充填材の含有量が、前記フッ素ゴム100質量部に対して、3~30質量部である
フッ素ゴム組成物。
【請求項2】
前記充填材の平均粒子径が、3~70μmである請求項1に記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項3】
前記充填材のアスペクト比が、10~100である請求項1または2に記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項4】
さらに、架橋剤を含有する請求項1~3のいずれかに記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のフッ素ゴム組成物から得られる成形体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載のフッ素ゴム組成物から得られる燃料ホース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ素ゴム組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フッ素ゴムと、膨張化黒鉛とを含み、前記膨張化黒鉛の量が、前記フッ素ゴム及び前記膨張化黒鉛の総量を100重量部として、35重量部以上、70重量部以下の量である、導電性フッ素ゴム組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-237783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、柔軟性および導電性を有する導電性フッ素ゴム組成物を提供することを目的とすることが記載されている。しかしながら、具体的に検討されたポリマーは、フッ素ゴムではなく、融点を有する熱可塑性の含フッ素樹脂である。また、フッ素ゴムのフッ素含有率やモノマー含有割合などの、燃料低透過性などのフッ素ゴムの特性に影響を与える構成も開示されていない。また、ポリマーを架橋させたことも、架橋させたポリマーの物性を確認したことも記載されていない。
【0005】
一方、フッ素ゴムは、明確な融点を示さないフルオロポリマーである。フッ素ゴムは、耐熱性、耐油性、耐薬品性などの諸特性に優れていることから、様々な分野で利用されており、たとえば自動車分野では、燃料ホースに利用されている。昨今の環境意識の高まりから、燃料ホースには、燃料揮発を防止するために、燃料低透過性が求められている。
【0006】
そこで本開示では、燃料低透過性に優れる成形体を得ることができるフッ素ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示によれば、フッ素ゴムおよび充填材を含有するフッ素ゴム組成物であって、前記フッ素ゴムのフッ素含有率が、65~73質量%であり、前記充填材が、膨張化黒鉛、板状アルミナおよび板状窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記充填材の含有量が、前記フッ素ゴム100質量部に対して、3~30質量部であるフッ素ゴム組成物が提供される。
【0008】
本開示のフッ素ゴム組成物において、前記充填材の平均粒子径が、3~70μmであることが好ましい。
本開示のフッ素ゴム組成物において、前記充填材のアスペクト比が、10~100であることが好ましい。
本開示のフッ素ゴム組成物は、さらに、架橋剤を含有することが好ましい。
【0009】
また、本開示によれば、上記のフッ素ゴム組成物から得られる成形体が提供される。
【0010】
また、本開示によれば、上記のフッ素ゴム組成物から得られる燃料ホースが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、燃料低透過性に優れる成形体を得ることができるフッ素ゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本開示のフッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムおよび充填材を含有する。
【0014】
フッ素ゴムは、非晶質フルオロポリマーである。「非晶質」とは、フルオロポリマーの示差走査熱量測定〔DSC〕(昇温温度10℃/分)あるいは示差熱分析〔DTA〕(昇温速度10℃/分)において現われた融解ピーク(ΔH)の大きさが4.5J/g以下であることをいう。フッ素ゴムは、架橋することにより、エラストマー特性を示す。エラストマー特性とは、ポリマーを延伸することができ、ポリマーを延伸するのに必要とされる力がもはや適用されなくなったときに、その元の長さを保持できる特性を意味する。
【0015】
本開示のフッ素ゴム組成物が含有するフッ素ゴムのフッ素含有率は、65~73質量%である。フッ素ゴムのフッ素含有率が低すぎると、十分な燃料低透過性が得られない。また、パーフルオロエラストマーなどのフッ素含有率が高いフッ素ゴムは、それ自体が燃料低透過性に優れているが、高価である。本開示のフッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムのフッ素含有率が上記範囲内であって、比較的安価であるにもかかわらず、燃料低透過性に優れた成形体を得ることができる。
【0016】
フッ素ゴムのフッ素含有率としては、好ましくは67質量%以上であり、より好ましくは69質量%以上である。また、好ましくは72質量%以下、さらに好ましくは71質量%以下である。フッ素ゴムのフッ素含有率は、19F-NMRにて測定されたフッ素ゴムの組成から計算によって求めることができる。
【0017】
フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、VdF/HFP/テトラフルオロエチレン(TFE)共重合体、TFE/プロピレン共重合体、TFE/プロピレン/VdF共重合体、エチレン/HFP共重合体、エチレン/HFP/VdF共重合体、エチレン/HFP/TFE共重合体、VdF/TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体、および、VdF/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、VdF単位を含む共重合体からなるフッ素ゴムが好ましい。
【0018】
上記ビニリデンフルオライド(VdF)単位を含む共重合体からなるフッ素ゴム(以下、「VdF系フッ素ゴム」ともいう。)について説明する。VdF系フッ素ゴムは、少なくともビニリデンフルオライドに由来する重合単位を含むフッ素ゴムである。
【0019】
VdF単位を含む共重合体としては、VdF単位および含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位(但し、VdF単位は除く。)を含む共重合体であることが好ましい。VdF単位を含む共重合体は、更に、VdFおよび含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の共重合単位を含むことも好ましい。
【0020】
VdF単位を含む共重合体としては、30~85モル%のVdF単位および70~15モル%の含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位を含むことが好ましく、30~80モル%のVdF単位および70~20モル%の含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位を含むことがより好ましい。VdFおよび含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の共重合単位は、VdF単位と含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位の合計量に対して、0~10モル%であることが好ましい。
【0021】
含フッ素エチレン性単量体としては、たとえばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フルオロアルキルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、一般式:CHX=CXRf(式中、XおよびXは、一方がHであり、他方がFであり、Rfは炭素数1~12の直鎖または分岐したフルオロアルキル基である。)で表されるフルオロモノマー、一般式:CH=CH-(CF-X(式中、XはHまたはFであり、nは3~10の整数である。)で表されるフルオロモノマー、架橋部位を与えるモノマーなどの含フッ素単量体があげられるが、これらのなかでも、TFE、HFP、PAVE、CTFEおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、HFPおよびPAVEからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0022】
上記PAVEとしては、一般式:
CF=CFO(CFCFXO)-(CFCFCFO)-Rf
(式中、XはFまたはCFを表し、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)、および、一般式:
CFX=CXOCFOR
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCFを表し、Rは、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0023】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)またはパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)がより好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)が更に好ましい。これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0024】
VdFおよび含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体としては、たとえばエチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素化モノマーがあげられる。
【0025】
このようなVdF単位を含む共重合体として、具体的には、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体などの1種または2種以上が好ましい。これらのVdF単位を含む共重合体のなかでも、耐熱性、非粘着性、柔軟性の点から、VdF/HFP共重合体、および、VdF/HFP/TFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体がとくに好ましい。
【0026】
VdF/HFP共重合体としては、VdF/HFPのモル比が45~85/55~15であるものが好ましく、より好ましくは50~80/50~20であり、さらに好ましくは60~80/40~20である。
【0027】
VdF/HFP/TFE共重合体としては、VdF/HFP/TFEのモル比が40~80/10~35/10~35のものが好ましい。
【0028】
VdF/PAVE共重合体としては、VdF/PAVEのモル比が65~90/10~35のものが好ましい。
【0029】
VdF/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/TFE/PAVEのモル比が40~80/3~40/15~35のものが好ましい。
【0030】
VdF/HFP/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/PAVEのモル比が65~90/3~25/3~25のものが好ましい。
【0031】
VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/TFE/PAVEのモル比が40~90/0~25/0~40/3~35のものが好ましく、より好ましくは40~80/3~25/3~40/3~25である。
【0032】
上記フッ素ゴムは、架橋部位を与えるモノマー由来の共重合単位を含む共重合体からなることも好ましい。架橋部位を与えるモノマーとしては、たとえば特公平5-63482号公報、特開平7-316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6-ジヒドロ-6-ヨード-3-オキサ-1-ヘキセン)やパーフルオロ(5-ヨード-3-オキサ-1-ペンテン)などのヨウ素含有モノマー、特表平4-505341号公報に記載されている臭素含有単量体、特表平4-505345号公報、特表平5-500070号公報に記載されているようなシアノ基含有単量体、カルボキシル基含有単量体、アルコキシカルボニル基含有単量体などがあげられる。
【0033】
上記フッ素ゴムは、重合時に連鎖移動剤を使用して得られたものであってもよい。上記連鎖移動剤として、臭素化合物またはヨウ素化合物を使用してもよい。臭素化合物またはヨウ素化合物を使用して行う重合方法としては、たとえば、実質的に無酸素状態で、臭素化合物またはヨウ素化合物の存在下に、加圧しながら水媒体中で乳化重合を行う方法があげられる(ヨウ素移動重合法)。使用する臭素化合物またはヨウ素化合物の代表例としては、たとえば、一般式:
Br
(式中、xおよびyはそれぞれ0~2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、Rは炭素数1~16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または炭素数1~3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物があげられる。臭素化合物またはヨウ素化合物を使用することによって、ヨウ素または臭素が重合体に導入され、架橋点として機能する。
【0034】
上記フッ素ゴムとしては、たとえば、パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴム、ポリオール架橋可能なフッ素ゴム、ポリアミン架橋可能なフッ素ゴム等を挙げることができる。
【0035】
上記パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴムとしては特に限定されず、パーオキサイド架橋可能な部位を有するフッ素ゴムであればよい。上記パーオキサイド架橋可能な部位としては特に限定されず、例えば、ヨウ素原子、臭素原子等を挙げることができる。上記フッ素ゴムがヨウ素原子を含有する場合のヨウ素含有率としては、好ましくは0.001~10質量%であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0036】
上記ポリオール架橋可能なフッ素ゴムとしては特に限定されず、ポリオール架橋可能な部位を有するフッ素ゴムであればよい。上記ポリオール架橋可能な部位としては特に限定されず、例えば、フッ化ビニリデン(VdF)単位を有する部位等を挙げることができる。上記架橋部位を導入する方法としては、フッ素ゴムの重合時に架橋部位を与える単量体を共重合する方法等が挙げられる。
【0037】
本開示のフッ素ゴム組成物は、膨張化黒鉛、板状アルミナおよび板状窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種の充填材を含有する。充填材としては、燃料低透過性に一層優れる成形体を得ることができることから、膨張化黒鉛が好ましい。
【0038】
膨張化黒鉛の形状は、特に限定されないが、燃料低透過性に一層優れる成形体を得ることができることから、板状であることが好ましい。
【0039】
本開示において、板状とは、薄く平たい形状を意味し、鱗片状も含まれる。板状とは、好適には、後述する数値範囲内のアスペクト比を有する形状をいう。
【0040】
上記充填材の平均粒子径としては、燃料低透過性に一層優れる成形体を得ることができることから、好ましくは3~70μmであり、より好ましくは4μm以上であり、特に好ましくは5μm以上であり、より好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは35μm以下であり、特に好ましくは30μm以下である。
【0041】
本開示において、上記充填材の平均粒子径は、個数基準の累積粒度分布の累積値50%の粒子径であり、累積粒度分布は、走査型電子顕微鏡により撮影した100個の粒子の円相当径から求める。
【0042】
上記充填材のアスペクト比としては、燃料低透過性に一層優れる成形体を得ることができることから、好ましくは10~100であり、より好ましくは15以上であり、さらに好ましくは20以上であり、より好ましくは80以下であり、さらに好ましくは70以下である。
【0043】
本開示において、上記充填材のアスペクト比は、充填材の厚さに対する平均粒子径の比(平均粒子径/厚さ)である。平均粒子径の測定方法は、上記したとおりである。上記充填材の厚さは、累積分布の累積値50%の厚さであり、累積分布は走査型電子顕微鏡により撮影した100個の粒子の厚さから作成する。
【0044】
膨張化黒鉛は、天然黒鉛などの通常の黒鉛よりもかさ密度が低く、表面積が大きい黒鉛であり、たとえば、鱗片状黒鉛の層間に硫酸などの層間物質を挿入し、化学反応や熱によってガス化させて、層間を広げることにより製造することができる。膨張化黒鉛としては、特に限定されず、上記のようにして膨張処理した黒鉛を粉砕したものであってもよい。
【0045】
板状アルミナとしては、特に限定されず、水熱処理による方法(水熱合成法)、水酸化アルミニウムをハロゲン系のガスの存在下で焼成する方法、酸性アルミニウム塩に炭酸アルカリ塩を用いて焼成する方法などにより製造された板状アルミナなどを用いることができ、粒度分布が非常に狭いことから、水熱合成法により製造された板状アルミナを好適に用いることができる。
【0046】
板状窒化ホウ素としては、特に限定されず、六方晶窒化ホウ素、アモルファス窒化ホウ素などを用いることができ、熱的安定性、化学的安定性に優れることから、六方晶窒化ホウ素を好適に用いることができる。
【0047】
上記のように、本開示においては、充填材として、膨張化黒鉛、板状アルミナおよび板状窒化ホウ素を用いる。フッ素ゴムから得られる燃料ホースに燃料低透過性を付与する技術としては、セリサイトなどの雲母を添加する技術が知られている。しかしながら、本発明者らの検討によって、充填材として、セリサイトなどの雲母を用いると、フッ素ゴム組成物を燃料ホースに成形する際に割れてしまい、割れて小さくなった充填材が燃料ホースの使用中に燃料ホースから脱落して、燃料中に混入するなどの不具合が生じる可能性があることから、燃料ホースの用途には必ずしも好ましくないことが明らかになった。この理由は、セリサイトなどの雲母が、へき開性の層状構造を有しており、物理的なせん断力によって、へき開面に沿って容易に割れやすいからであると推測される。
【0048】
上記充填材の含有量は、上記フッ素ゴム100質量部に対して、3~30質量部である。上記充填材の含有量が少なすぎると、十分な燃料低透過性を得ることができず、上記充填材の含有量が多すぎると、ゴム硬度が上昇して、加工性が悪化する。上記充填材の含有量としては、燃料低透過性に一層優れる成形体を得ることができることから、好ましくは6質量部以上であり、より好ましくは9質量部以上であり、さらに好ましくは12質量部以上であり、好ましくは27質量部以下であり、より好ましくは24質量部以下であり、特に好ましくは21質量部以下である。
【0049】
本開示のフッ素ゴム組成物は、架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤の種類は特に限定されるものではなく、フッ素ゴムの種類や溶融混練条件に応じて、適宜選択することができる。
【0050】
架橋剤は、フッ素ゴムに架橋性基(キュアサイト)が含まれる場合は、キュアサイトの種類によって、または得られる成形体などの用途により適宜選択すればよい。架橋系としてはポリアミン架橋系、ポリオール架橋系、パーオキサイド架橋系、イミダゾール架橋系、トリアジン架橋系、オキサゾール架橋系、チアゾール架橋系のいずれも採用できる。
【0051】
架橋剤としては、燃料低透過性に一層優れる成形体を得ることができることから、ポリアミン架橋剤、ポリオール架橋剤およびパーオキサイド架橋剤からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ポリオール架橋剤およびパーオキサイド架橋剤からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0052】
ポリアミン架橋剤としては、たとえば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサメチレンジアミン、4,4’-ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどのポリアミン化合物があげられる。これらの中でも、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサメチレンジアミンが好ましい。
【0053】
ポリオール架橋剤としては、従来、フッ素ゴムの架橋剤として知られている化合物を用いることができ、たとえば、ポリヒドロキシ化合物、特に、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。
【0054】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、たとえば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、レゾルシン、1,3-ジヒドロキシベンゼン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシスチルベン、2,6-ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’-テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’-テトラブロモビスフェノールA、ジアミノビスフェノールAFなどがあげられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いて共重合体を凝析した場合は、上記金属塩は用いないことが好ましい。
【0055】
これらの中でも、得られる成形体などの圧縮永久歪みが小さく、成形性に優れているという点から、ポリヒドロキシ化合物が好ましく、耐熱性が優れることからポリヒドロキシ芳香族化合物がより好ましく、ビスフェノールAFがさらに好ましい。
【0056】
パーオキサイド架橋系の架橋剤としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、具体的には、たとえば1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどをあげることができる。これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0057】
架橋剤の添加量は、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは0.05~10質量部であり、より好ましくは0.1~10質量部であり、さらに好ましくは0.3~7質量部であり、特に好ましくは1~5質量部である。架橋剤が少なすぎると、架橋度が不足するため、成形体の耐熱性および耐油性等の性能が損なわれる傾向があり、架橋剤が多すぎると、架橋密度が高くなりすぎるため架橋時間が長くなる傾向があることに加え、経済的にも好ましくないものであり、また、得られるフッ素ゴム組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0058】
また、ポリオール架橋系においては、ポリオール架橋剤と併用して、通常、架橋助剤を用いる。架橋助剤を用いると、フッ素ゴム主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の形成を促進することにより架橋反応を促進することができる。
【0059】
ポリオール架橋系の架橋助剤としては、一般にオニウム化合物が用いられる。オニウム化合物としては特に限定されず、たとえば、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、1官能性アミン化合物などがあげられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が好ましい。
【0060】
具体的には、たとえば、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの第4級アンモニウム塩;8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムアイオダイド、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムハイドロキサイド、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムメチルスルフェート、8-エチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムブロミド、8-プロピル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムブロミド、8-ドデシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-ドデシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムハイドロキサイド、8-エイコシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-テトラコシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-ベンジル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド(以下、DBU-Bとする)、8-ベンジル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムハイドロキサイド、8-フェネチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-(3-フェニルプロピル)-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-ウンデク-7-エンなどの環状アミン;ベンジルメチルアミン、ベンジルエタノールアミンなどの一官能性アミン;テトラブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル-2-メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリドなどの第4級ホスホニウム塩などがあげられる。
【0061】
これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、DBU-B、BTPPCが好ましい。
【0062】
また、架橋助剤として、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11-147891号公報に開示されている塩素フリー架橋助剤を用いることもできる。
【0063】
有機過酸化物の架橋助剤としては、たとえば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5-トリス(2,3,3-トリフルオロ-2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン)、トリス(ジアリルアミン)-S-トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6-トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5-ノルボルネン-2-メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0064】
ポリオール架橋系の架橋助剤の添加量は、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部であり、より好ましくは0.1~3質量部であり、さらに好ましくは0.2~2質量部であり、特に好ましくは0.3~0.7質量部である。架橋助剤が少なすぎると、架橋時間が実用に耐えないほど長くなり、かつ得られる成形体の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、架橋助剤が多すぎると、架橋時間が速くなり過ぎることに加え、成形体の圧縮永久歪も低下し、かつ、得られるフッ素ゴム組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0065】
有機過酸化物の架橋助剤の添加量は、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、より好ましくは0.1~10質量部であり、さらに好ましくは0.3~10質量部であり、特に好ましくは0.5~5質量部である。架橋助剤が少なすぎると、架橋時間が実用に耐えないほど長くなり、かつ得られる成形体の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、架橋助剤が多すぎると、架橋時間が速くなり過ぎることに加え、成形体の圧縮永久歪も低下し、かつ、得られるフッ素ゴム組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0066】
本開示のフッ素ゴム組成物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンなどの他の重合体、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤などを、本開示の効果に影響を及ぼさない範囲で含有するものであってよい。
【0067】
本開示のフッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムおよび充填材、ならびに、その他の所望の材料を、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー等を用いて混合することにより製造することができる。このほか、密閉式混合機を用いる方法やエマルジョン混合から共凝析する方法によっても調製することができる。所望により架橋剤、添加剤等を混合してもよい。
【0068】
本開示のフッ素ゴム組成物は、含フッ素樹脂をさらに含有してもよい。この場合、含フッ素樹脂中にフッ素ゴムおよび充填材を均一に分散させられる点から、含フッ素樹脂の溶融状態で、フッ素ゴムを動的に架橋させて、その少なくとも一部が架橋された架橋フッ素ゴムとすることが好ましい。
【0069】
ここで、動的に架橋処理するとは、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を使用して、フッ素ゴムを溶融混練と同時に動的に架橋させることをいう。これらの中でも、高剪断力を加えることができる点で、二軸押出機等の押出機を用いることが好ましい。
【0070】
また、溶融状態とは、含フッ素樹脂が溶融する温度下での状態を意味する。溶融する温度は、含フッ素樹脂のガラス転移温度および/または融点により異なるが、120~330℃であることが好ましく、130~320℃であることがより好ましい。温度が、120℃未満であると、含フッ素樹脂とフッ素ゴムの間の分散が粗大化する傾向があり、330℃をこえると、フッ素ゴムが熱劣化する傾向がある。
【0071】
得られたフッ素ゴム組成物は、含フッ素樹脂が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴムが分散相を形成する構造、または含フッ素樹脂と架橋フッ素ゴムが共連続を形成する構造を有することができるが、その中でも、含フッ素樹脂が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴムが分散相を形成する構造を有することが好ましい。
【0072】
フッ素ゴムが、分散当初マトリックスを形成していた場合でも、架橋反応の進行に伴い、フッ素ゴムが架橋フッ素ゴムに変化すると、架橋フッ素ゴムの方が未架橋のフッ素ゴムよりも溶融粘度が高いので、架橋フッ素ゴムが分散相を形成するか、含フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムが共連続構造を形成することになる。
【0073】
このような構造を形成すると、本開示のフッ素ゴム組成物は、優れた耐熱性、耐薬品性および耐油性を示すと共に、低透過性と良好な成形加工性を有することとなる。その際、架橋フッ素ゴムの平均分散粒子径は、0.01~30μmであることが好ましい。平均分散粒子径が、0.01μm未満であると、流動性が低下する傾向があり、30μmをこえると、得られる成形体の強度が低下する傾向がある。
【0074】
また、本開示のフッ素ゴム組成物は、含フッ素樹脂が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴムが分散相を形成する構造の一部に、含フッ素樹脂と架橋フッ素ゴムとの共連続構造を含んでいても良い。
【0075】
含フッ素樹脂/架橋フッ素ゴムの重量比は、好ましくは98/2~30/70であり、より好ましくは95/5~40/60であり、さらに好ましくは90/10~50/50である。含フッ素樹脂が多すぎると、充分な柔軟性が付与できない傾向があり、含フッ素樹脂が少なすぎると、架橋フッ素ゴムが均一に分散せず一部共連続となり組成物自体の機械強度が著しく低下したり、流動性が著しく低下したりする傾向がある。
【0076】
本開示のフッ素ゴム組成物を、成形することによって各種の成形体を得ることができる。本開示のフッ素ゴム組成物から得られる成形体も本開示の1つである。本開示の成形体は、上記フッ素ゴム組成物を架橋することにより得られるものであることが好ましい。
【0077】
成形は従来公知の方法により行うことができ、例えば、圧縮成形、射出成形、押し出し成形、カレンダー成形等があげられ、溶剤に溶かしてディップ成形、コーティング等により成形してもよい。
【0078】
本開示のフッ素ゴム組成物から各種成形体を得るにあたり、架橋する工程を経てもよい。架橋条件は、成形方法や成形体の形状により異なるが、おおむね、100~200℃で数秒~180分の範囲である。また、架橋物の物性を安定化させるために二次架橋を行ってもよい。二次架橋条件としては、150~300℃で30分~30時間程度である。
【0079】
本開示のフッ素ゴム組成物から形成される層と他の材料を含む少なくとも1つの層とを含む積層体とすることもできる。当該「他の材料」は、要求される特性、予定される用途などに応じて適切なものを選択すればよいが、例えば、ポリオレフィン(例:高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン等)、ナイロン、ポリエステル、塩化ビニル樹脂(PVC)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)などの熱可塑性重合体、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴムなどの架橋ゴム、金属、ガラス、木材、セラミックなどをあげることができる。
【0080】
本開示のフッ素ゴム組成物から形成される層と他の材料とを含む層との間に接着剤層を介在させてもよい。接着剤層を介在させることによって、本開示のフッ素ゴム組成物を含む層と他の材料を含む基材層とを強固に接合一体化させることができる。接着剤層において使用される接着剤としては、ジエン系重合体の酸無水物変性物;ポリオレフィンの酸無水物変性物;高分子ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール化合物とアジピン酸等の二塩基酸とを重縮合して得られるポリエステルポリオール;酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体の部分ケン化物など)とポリイソシアネート化合物(例えば、1,6-ヘキサメチレングリコール等のグリコール化合物と2,4-トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対2の反応生成物;トリメチロールプロパン等のトリオール化合物と2,4-トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対3の反応生成物など)との混合物;等を使用することができる。なお、積層構造形成のためには、共押出、共射出、押出コーティング等の公知の方法を使用することもできる。
【0081】
また、本開示のフッ素ゴム組成物から形成される層と他の材料から形成される層を有する積層体を作製する場合、必要に応じて本開示のフッ素ゴム組成物から形成される層に表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などが挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理されていないフッ素ゴム組成物から形成される層の表面をプライマー処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施したフッ素ゴム組成物から形成される層の表面を更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0082】
本開示のフッ素ゴム組成物から形成される成形体は、例えば、半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野;自動車分野;航空機分野;ロケット分野;船舶分野;プラント等の化学品分野;医薬品等の薬品分野;現像機等の写真分野;印刷機械等の印刷分野;塗装設備等の塗装分野;分析・理化学機分野;食品プラント機器分野;原子力プラント機器分野;鉄板加工設備等の鉄鋼分野;一般工業分野;電気分野;燃料電池分野などの分野で好適に用いることができるが、これらのなかでも自動車分野でより好適に用いることができる。
【0083】
自動車分野では、ガスケット、シャフトシール、バルブステムシール、シール材およびホースはエンジンならびに周辺装置に用いることができ、ホースおよびシール材はAT装置に用いることができ、O(角)リング、チューブ、パッキン、バルブ芯材、ホース、シール材およびダイアフラムは燃料系統ならびに周辺装置に用いることができる。具体的には、エンジンヘッドガスケット、メタルガスケット、オイルパンガスケット、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、バルブステムシール、マニホールドパッキン、オイルホース、酸素センサー用シール、ATFホース、インジェクターOリング、インジェクターパッキン、燃料ポンプOリング、ダイアフラム、燃料ホース、クランクシャフトシール、ギアボックスシール、パワーピストンパッキン、シリンダーライナーのシール、バルブステムのシール、自動変速機のフロントポンプシール、リアーアクスルピニオンシール、ユニバーサルジョイントのガスケット、スピードメーターのピニオンシール、フートブレーキのピストンカップ、トルク伝達のO-リング、オイルシール、排ガス再燃焼装置のシール、ベアリングシール、EGRチューブ、ツインキャブチューブ、キャブレターのセンサー用ダイアフラム、防振ゴム(エンジンマウント、排気部等)、再燃焼装置用ホース、酸素センサーブッシュ等として用いることができる。
【0084】
本開示のフッ素ゴム組成物および成形体は、特に燃料低透過性が求められる用途に好適であり、例えば、燃料ホースとして利用できる。燃料ホースとしては、自動車用燃料ホース、船舶用燃料ホース、産業用燃料ホース、発電機用燃料ホースなどを挙げることができる。
【0085】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例
【0086】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0087】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0088】
<フッ素含有率>
19F-NMRにて測定されたフッ素ゴムの組成から計算によって求めた。
【0089】
<ヨウ素含有率>
フッ素ゴム12mgにNaSOを5mg混ぜ、純水20mlにNaCOとKCOとを1対1(重量比)で混合したものを30mg溶解した吸収液を用い、石英製のフラスコ中、酸素中で燃焼させ、30分放置後、島津20Aイオンクロマトグラフを用い測定した。検量線として、KI標準溶液、ヨウ素イオン0.5ppmを含むものおよび1.0ppmを含むものを用いた。
【0090】
<ムーニー粘度>
JIS K 6300-1に準拠して測定した。
【0091】
<平均粒子径>
充填材の平均粒子径は、個数基準の累積粒度分布の累積値50%の粒子径であり、累積粒度分布は、走査型電子顕微鏡により撮影した100個の粒子の円相当径から求めた。
【0092】
<アスペクト比>
アスペクト比は、充填材の厚さに対する平均粒子径の比(平均粒子径/厚さ)である。平均粒子径の測定方法は、上記したとおりである。上記充填材の厚さは、累積分布の累積値50%の厚さであり、累積分布は走査型電子顕微鏡により撮影した100個の粒子の厚さから求めた。
【0093】
<架橋特性>
フッ素ゴム組成物について、加硫試験機(エムアンドケー社製 MDR H2030)を用いて、表1および表2に記載の条件で架橋曲線を求め、トルクの変化より、最低トルク(ML)、最高トルク(MH)、T10(架橋度10%の時間)、T50(架橋度50%の時間)、T90(架橋度90%の時間)を求めた。
【0094】
<常態物性>
実施例および比較例で得られた2mm厚みの成形体を用いて、引張試験機(エー・アンド・デイ社製テンシロンRTG-1310)を使用して、JIS K6251-1:2015に準じて、500mm/分の条件下、ダンベル6号にて、23℃における100%モデュラス(M100)、引張強度(Tb)、破断伸び(Eb)を測定した。
【0095】
<硬度>
実施例および比較例で得られた2mm厚みの成形体を3枚重ねたものを用いて、タイプAデュロメーターを使用して、JIS K6253-3:2012に準拠して、硬度(Peak値、1sec後および3sec後の値)を測定した。
【0096】
<燃料透過係数>
70mLの容積を有するSUS製容器(開口部面積9.07×10-4)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を50mL入れて、実施例および比較例で得られた0.5mm厚みのシート状の成形体を容器にセットして密閉することで、試験体とした。該試験体を恒温装置(40℃)に入れ、試験体の重量を測定し、単位時間あたりの重量減少が一定となったところで下記の式により燃料透過係数を求めた。
【数1】
【0097】
実施例および比較例では、次の材料を使用した。
フッ素ゴム
フッ素ゴム(1):ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(フッ素含有率69質量%、ムーニー粘度(ML1+10、100℃)43)、架橋剤(ビスフェノールAF)および架橋促進剤(DBU-B)の混合物、架橋剤の含有量が共重合体100質量部に対して2.0質量部
フッ素ゴム(2):ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体(フッ素含有率70.5質量%、ヨウ素含有率0.22質量%、ムーニー粘度(ML1+10、100℃)50)
【0098】
充填材
板状アルミナ(1):合成板状アルミナ、商品名「セラフ05025」、平均粒子径(d50)5μm、アスペクト比25、キンセイマテック社製
板状アルミナ(2):合成板状アルミナ、商品名「セラフ10030」、平均粒子径(d50)10μm、アスペクト比33、キンセイマテック社製
膨張化黒鉛(1):板状膨張化黒鉛、商品名「CS-5」、平均粒子径(d50)7μm、アスペクト比35、丸豊鋳材製作所社製
膨張化黒鉛(2):板状膨張化黒鉛、商品名「CS-50」、平均粒子径(d50)25μm、アスペクト比63、丸豊鋳材製作所社製
板状窒化ホウ素:商品名「MGP」、平均粒子径(d50)13μm、アスペクト比43、デンカ社製
カーボンブラック(1):商品名「シーストS」、平均粒子径(d50)70nm、アスペクト比1、東海カーボン社製
カーボンブラック(2):商品名「Thermax N990」、Cancarb社製
【0099】
その他の材料
トリアリルイソシアヌレート:商品名「タイク」、三菱ケミカル社製
パーオキサイド:商品名「パーヘキサ25B」、日油社製
酸化マグネシウム:商品名「キョーワマグ150」、協和化学工業社製
水酸化カルシウム:商品名「NICC5000」、井上石灰工業社製
【0100】
比較例1
100質量部のフッ素ゴム(1)に対して、1質量部のカーボンブラック(1)、3質量部の酸化マグネシウム、6質量部の水酸化カルシウムを混合し、常法によりロールにて混練してフッ素ゴム組成物を調製した。
【0101】
得られたフッ素ゴム組成物を、表1に記載の成形条件でプレスすることにより、架橋させて、厚さ0.5mmのシート状の成形体を得て、得られたシート状の成形体について、燃料透過係数を測定した。同様にして厚さ2mmのシート状の成形体を得て、得られたシート状の成形体について、常態物性を測定した。結果を表1に示す。
【0102】
比較例2
カーボンブラック(1)の添加量を表1に記載のとおりに変更した以外は、比較例1と同様にして、フッ素ゴム組成物を調製し、成形体を得た。結果を表1に示す。
【0103】
実施例1
100質量部のフッ素ゴム(1)に対して、1質量部のカーボンブラック(1)、3質量部の酸化マグネシウム、6質量部の水酸化カルシウムを混合し、さらに、15質量部の板状アルミナ(1)を混合した後、常法によりロールにて混練してフッ素ゴム組成物を調製した。
【0104】
得られたフッ素ゴム組成物を用いた以外は、比較例1と同様にして、成形体を得た。結果を表1に示す。
【0105】
実施例2~7
充填材の種類および量を表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、フッ素ゴム組成物を調製し、成形体を得た。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
また、実施例1~7で調製したフッ素ゴム組成物を、20mmφの小型押し出し機を用いて押し出し、外径10mm、肉厚0.5mmのチューブ状の押出物を得た。得られたチューブ状の押出物を縦に切り開いて、内面を観察したところ、白点などは確認されなかった。したがって、実施例1~7で調製したフッ素ゴム組成物を、燃料ホースに使用した場合でも、燃料ホース表面から充填材が脱落して、燃料系の機械部品(特にインジェクター)につまりなどの不具合を生じさせる可能性が低いことが分かった。
【0108】
比較例3
100質量部のフッ素ゴム(2)に対して、5質量部のカーボンブラック(2)、4質量部のトリアリルイソシアヌレート、1.5質量部のパーオキサイドを混合し、常法によりロールにて混練してフッ素ゴム組成物を調製した。
【0109】
得られたフッ素ゴム組成物を、表2に記載の成形条件でプレスすることにより、架橋させて、厚さ0.5mmのシート状の成形体を得た。得られたシート状の成形体について、燃料透過係数を測定した。同様にして厚さ2mmのシート状の成形体を得て、得られたシート状の成形体について、常態物性を測定した。結果を表2に示す
【0110】
比較例4~5
カーボンブラック(2)の添加量を表2に記載のとおりに変更した以外は、比較例3と同様にして、フッ素ゴム組成物を調製し、成形体を得た。結果を表2に示す。
【0111】
実施例8
100質量部のフッ素ゴム(2)に対して、5質量部のカーボンブラック(2)、4質量部のトリアリルイソシアヌレート、1.5質量部のパーオキサイドを混合し、さらに、5質量部の膨張化黒鉛(1)を混合した後、常法によりロールにて混練してフッ素ゴム組成物を調製した。
【0112】
得られたフッ素ゴム組成物を用いた以外は、比較例3と同様にして、成形体を得た。結果を表2に示す。
【0113】
実施例9
100質量部のフッ素ゴム(2)に対して、1質量部のカーボンブラック(2)、2質量部のトリアリルイソシアヌレート、1質量部のパーオキサイドを混合し、さらに、5質量部の板状窒化ホウ素を混合した後、常法によりロールにて混練してフッ素ゴム組成物を調製した。
【0114】
得られたフッ素ゴム組成物を用い、成形条件(架橋条件)を表2に記載のとおりに変更した以外は、比較例3と同様にして、成形体を得た。結果を表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
なお、表2に記載の比較例および実施例では、二次架橋を行ったが、二次架橋は必須ではない。二次架橋を行わず、一次架橋のみを行うことによって成形体を得た場合でも、得られる成形体の燃料透過係数は、二次架橋を行うことによって得られる成形体と、同様の傾向を示す。