IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7193716無線通信システム、親局装置及び無線通信方法
<>
  • -無線通信システム、親局装置及び無線通信方法 図1
  • -無線通信システム、親局装置及び無線通信方法 図2
  • -無線通信システム、親局装置及び無線通信方法 図3
  • -無線通信システム、親局装置及び無線通信方法 図4
  • -無線通信システム、親局装置及び無線通信方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】無線通信システム、親局装置及び無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/2575 20130101AFI20221214BHJP
   H04J 14/02 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
H04B10/2575 120
H04J14/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018231144
(22)【出願日】2018-12-10
(65)【公開番号】P2020096238
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 耕大
(72)【発明者】
【氏名】大槻 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】菅 瑞紀
(72)【発明者】
【氏名】北 直樹
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-096637(JP,A)
【文献】特開平10-145286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/2575
H04J 14/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親局装置と、光伝送路を介して前記親局装置から光により受信した送信信号を複数のアンテナ素子から放射する子局装置とを有する無線通信システムであって、
前記親局装置は、
それぞれ固定された複数の異なる波長の光信号を出力する光信号出力部と、
前記波長別に、前記波長の前記光信号が前記光伝送路を伝送中に受ける位相回転と、当該波長に対応する前記アンテナ素子における位相とに基づいて前記送信信号の位相を調整する位相調整部と、
前記波長別に、前記光信号出力部が出力した前記波長の前記光信号を、当該波長に応じて前記位相調整部が位相を調整した前記送信信号により変調して光変調信号を生成する光変調部と、
前記光変調部が生成した前記波長別の前記光変調信号を合波して前記光伝送路に出力する光合成部とを備え、
前記子局装置は、
前記光伝送路を伝送した前記光変調信号を前記波長により固定的に分波する光分波部と、
前記光分波部が分波した前記波長別の前記光変調信号を電気信号に変換して得た前記送信信号を、前記波長に対応した複数の前記アンテナ素子それぞれに出力する光電気変換部とを備え
前記光信号出力部から出力される前記光信号の複数の異なる前記波長の波長間隔は等しく、かつ、各波長に対する前記光伝送路の分散値が等しいとみなせる程度に前記波長間隔は小さい、
無線通信システム。
【請求項2】
前記光信号出力部は、多波長光源及び前記多波長光源が出力した光信号を前記波長ごとに分離する光分波器とを有する、又は、それぞれ異なる前記波長の光信号を出力する複数の光源を有する、
請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
複数の前記波長それぞれの前記光信号が前記光伝送路を伝送中に受ける前記位相回転は、いずれかの前記波長の光信号が前記光伝送路を伝送中に受ける位相回転の量と、異なる前記波長それぞれの光信号が前記光伝送路を伝送中に受ける前記位相回転の量の差分とから得られる、
請求項1又は請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
光伝送路を介して光により受信した送信信号を複数のアンテナ素子から放射する子局装置と接続される親局装置であって、
それぞれ固定された複数の異なる波長の光信号を出力する光信号出力部と、
前記波長別に、前記波長の前記光信号が前記光伝送路を伝送中に受ける位相回転と、当該波長に対応する前記アンテナ素子における位相とに基づいて前記送信信号の位相を調整する位相調整部と、
前記波長別に、前記光信号出力部が出力した前記波長の前記光信号を、当該波長に応じて前記位相調整部が位相を調整した前記送信信号により変調して光変調信号を生成する光変調部と、
前記光変調部が生成した前記波長別の前記光変調信号を合波して前記光伝送路に出力する光合成部と、
を備え
前記光信号出力部から出力される前記光信号の複数の異なる前記波長の波長間隔は等しく、かつ、各波長に対する前記光伝送路の分散値が等しいとみなせる程度に前記波長間隔は小さい、
親局装置。
【請求項5】
親局装置と、光伝送路を介して前記親局装置から光により受信した送信信号を複数のアンテナ素子から放射する子局装置とを有する無線通信システムが実行する無線通信方法であって、
前記親局装置が、
それぞれ固定された複数の異なる波長の光信号を出力する光信号出力ステップと、
前記波長別に、前記波長の前記光信号が前記光伝送路を伝送中に受ける位相回転と、当該波長に対応する前記アンテナ素子における位相とに基づいて前記送信信号の位相を調整する位相調整ステップと、
前記波長別に、前記光信号出力ステップにおいて出力された前記波長の前記光信号を、当該波長に応じて前記位相調整ステップにおいて位相を調整した前記送信信号により変調して光変調信号を生成する光変調ステップと、
前記光変調ステップにおいて生成された前記波長別の前記光変調信号を合波して前記光伝送路に出力する光合成ステップと、
前記子局装置が、
前記光伝送路を伝送した前記光変調信号を前記波長により固定的に分波する光分波ステップと、
前記光分波ステップにおいて分波された前記波長別の前記光変調信号を電気信号に変換して得た前記送信信号を、前記波長に対応した複数の前記アンテナ素子それぞれに出力する光電気変換ステップと、
を有し、
前記光信号出力ステップにおいて出力される前記光信号の複数の異なる前記波長の波長間隔は等しく、かつ、各波長に対する前記光伝送路の分散値が等しいとみなせる程度に前記波長間隔は小さい、
無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システム、親局装置及び無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信サービスにおいて、高速伝送が可能な周波数帯としてミリ波帯が注目されている。しかし、ミリ波帯は伝搬損失が大きいため、長距離伝送が困難であるという問題がある。
【0003】
この問題の解決策の1つとして、RoF(Radio over Fiber)システムが知られている。RoFシステムでは、収容局(親局)が、伝送したいRF(Radio Frequency:無線周波数)信号により光キャリアを強度変調し、その変調信号を光ファイバで伝送する。基地局(子局)は、光ファイバを介して受信した光信号をRF信号に戻し、そのRF信号をアンテナから電波として放射する。このようなRoFシステムを利用することにより、ミリ波帯RF信号の長距離伝送が可能となる。
【0004】
しかしながら、ミリ波帯にRoFシステムを適用したとしても、今度は基地局のカバーエリア拡大が課題となる。その解決策の1つがアレーアンテナによるビームフォーミングである。アレーアンテナによるビームフォーミングでは、アレーアンテナの各アンテナ素子に入射するRF信号の位相を制御し、各アンテナ素子から放射される電波を互いに干渉させる。これにより、全体として電波の放射方向を制御する。
【0005】
RoFシステムにおけるビームフォーミングとして、光ファイバ伝送時の波長分散によって各波長の光信号間に遅延差が生じることを利用して、光キャリアの波長を制御することでアンテナ素子に入射するRF信号の位相を制御する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
図3は、特許文献1の技術を適用した示したRoFシステム900のブロック図である。収容局910の多波長可変光源911は、複数の光信号を出力する。これら光信号間の波長間隔は、任意に変更可能である。光変調器912は、伝送するRF信号により各波長の光信号を変調する。これにより、光変調器912は、複数の光変調信号を出力する。各光変調信号は光ファイバ920内を伝送する。その際に、各光変調信号には、波長分散の影響により、波長毎に異なる遅延差が生じる。基地局930の光分波器931は、光ファイバ920内を伝送した複数の光変調信号を波長毎に分岐する。複数のO/E(光/電気)変換器932-1、…、932-nはそれぞれ、分岐された各波長の光変調信号を電気信号に変換する。アンテナ素子933-1、…、933-nは、変換後の電気信号をRF信号として放射する。この際、光ファイバ920内伝送時の波長分散による遅延差のためRF信号にも位相差が生じ、指向性を形成することができる。
【0007】
また、RoFシステムに限らず、光信号を用いてアレーアンテナのビームフォーミングを行う手法がある。その一つとして、波長の制御を行わず、各アンテナ素子に固定波長を割り振っておき、各波長の光信号に対して、波長分散や経路差を利用して遅延差を生じさせる技術が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
図4は、非特許文献1の技術を適用した無線システム905の図である。多波長光源951は、複数の異なる波長の光信号を出力する。光変調器952は、伝送するRF信号により各波長の光信号を変調する。これにより、光変調器952は、複数の光変調信号を出力する。各光変調信号は、PDM(programmable dispersion matrix)953に送られる。
【0009】
図5は、PDM953の構成を示すブロック図である。PDM953は、n+1個の2×2光スイッチ961-1、…、961-(n+1)と、分散値がそれぞれD、2D、…、2n-1のn個の分散要素962-1、962-2、…、962-nとから構成される。分散要素962-1、…、962-nは、分散ファイバやグレーティングファイバなどにより構成される。PDM953は、2×2光スイッチ961-1、…、961-(n+1)を切り替えることで、全体としての分散値を調整する。PDM953に入力された各光変調信号には、PDM953により調整された分散値に従った異なる遅延差が生じる。
【0010】
図4に示す無線システム905の光分波器954は、PDM953から出力された複数の光変調信号を波長毎に分岐する。各波長は、各アンテナ素子956-1、…、956-nにあらかじめ対応しているため、光分岐は固定的である。複数のO/E(光/電気)変換器955-1、…、955-nはそれぞれ、分岐された各波長の光変調信号を電気信号に変換する。アンテナ素子956-1、…、956-nは、変換後の電気信号をRF信号として放射する。この際、PDM953の分散による遅延差のためRF信号にも位相差が生じ、指向性を形成することができる。
【0011】
以上を整理すると、特許文献1は、波長を可変とし、分散を固定として変調光信号に遅延差を生じさせる手法であり、非特許文献1は、波長を固定とし、分散を可変として変調光信号に遅延差を生じさせる手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第4246724号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Dennis T. K. Tong,Ming C. Wu,"A Novel Multiwavelength Optically Controlled Phased Array Antenna with a Programmable Dispersion Matrix”,IEEE Photonics Technology Letters,1996年6月,VOL.8,NO.6,p.812-814
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、特許文献1の技術は、波長を可変とし、分散を固定として変調光信号に遅延差を生じさせる。このとき、指向性を形成する方向やファイバ長、RF信号の周波数によっては、光変調信号間の波長間隔を大きく調整する必要がある。そのため、利用する波長帯が広くなってしまい、波長利用効率の低下が考えられる。特に、WDM(Wavelength Division Multiplex)-PON(Passive Optical Network)では、各基地局に異なる波長を使用しなければならない。このような状況で、特許文献1の技術を適用すると、WDM-PONにさらにビームフォーミングのための波長帯をあらかじめ設定しておかなければならなくなり、利用する波長帯は大幅に拡大してしまう。
【0015】
また、特許文献1の技術では、指向性形成のために波長を調整する。従って、基地局のアンテナ素子に送る波長も調整する必要がある。そのため、基地局の光分波器は、指向性形成の度に、基地局のアンテナ素子に送る波長を変更する必要があり、指向性を動的に変更する際にはさらに光分波器の分岐も動的に変更する必要がある。これは、基地局の光分波器の制御が必要であることを意味する。
【0016】
RoFシステムを適用する利点の一つは、RF信号の長距離伝送以外に、収容局に機能を集約することで基地局を簡易化できることである。しかし、特許文献1の技術では、基地局の光分波器の制御が必要となり、基地局の簡易化に限界がある。
【0017】
一方、非特許文献1の技術は、波長を固定とし、分散を可変として変調光信号に遅延差を生じさせる。このとき、波長が固定であるため、波長利用効率は特許文献1よりも良い。また、光分岐は固定的であるため、光分波器を制御する必要がない。しかし、分散を調整するためのPDMの設計・製作には、高い精度が必要になると考えられる。従って、装置の大型化・高コスト化の恐れがある。
【0018】
また、非特許文献1には、RoFへの適用に関する言及はない。そのため、非特許文献1にRoFを適用して長距離光ファイバ伝送する場合には、PDMによる分散調整以外に、光ファイバ伝送時の波長分散の影響も考慮しなければならない。
【0019】
上記事情に鑑み、本発明は、波長利用効率の悪化や高コスト化をおさえつつ、基地局制御が不要なRoFシステムを実現することができる無線通信システム、親局装置及び無線通信方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一実施形態は、親局装置と、光伝送路を介して前記親局装置から光により受信した送信信号を複数のアンテナ素子から放射する子局装置とを有する無線通信システムであって、前記親局装置は、複数の異なる波長の光信号を出力する光信号出力部と、前記波長別に、前記波長の前記光信号が前記光伝送路を伝送中に受ける位相回転と、当該波長に対応する前記アンテナ素子における位相とに基づいて前記送信信号の位相を調整する位相調整部と、前記波長別に、前記光信号出力部が出力した前記波長の前記光信号を、当該波長に応じて前記位相調整部が位相を調整した前記送信信号により変調して光変調信号を生成する光変調部と、前記光変調部が生成した前記波長別の前記光変調信号を合波して前記光伝送路に出力する光合成部とを備え、前記子局装置は、前記光伝送路を伝送した前記光変調信号を前記波長により分波する光分波部と、前記光分波部が分波した前記波長別の前記光変調信号を電気信号に変換して得た前記送信信号を、前記波長に対応した複数の前記アンテナ素子それぞれに出力する光電気変換部とを備える、無線通信システムである。
【0021】
本発明の一実施形態は、上述の無線通信システムであって、前記光信号出力部は、多波長光源及び前記多波長光源が出力した光信号を前記波長ごとに分離する光分波器とを有する、又は、それぞれ異なる前記波長の光信号を出力する複数の光源を有する。
【0022】
本発明の一実施形態は、上述の無線通信システムであって、複数の前記波長それぞれの前記光信号が前記光伝送路を伝送中に受ける前記位相回転は、いずれかの前記波長の光信号が前記光伝送路を伝送中に受ける位相回転の量と、異なる前記波長それぞれの光信号が前記光伝送路を伝送中に受ける前記位相回転の量の差分とから得られる。
【0023】
本発明の一実施形態は、光伝送路を介して光により受信した送信信号を複数のアンテナ素子から放射する子局装置と接続される親局装置であって、複数の異なる波長の光信号を出力する光信号出力部と、前記波長別に、前記波長の前記光信号が前記光伝送路を伝送中に受ける位相回転と、当該波長に対応する前記アンテナ素子における位相とに基づいて前記送信信号の位相を調整する位相調整部と、前記波長別に、前記光信号出力部が出力した前記波長の前記光信号を、当該波長に応じて前記位相調整部が位相を調整した前記送信信号により変調して光変調信号を生成する光変調部と、前記光変調部が生成した前記波長別の前記光変調信号を合波して前記光伝送路に出力する光合成部と、を備える親局装置である。
【0024】
本発明の一実施形態は、親局装置と、光伝送路を介して前記親局装置から光により受信した送信信号を複数のアンテナ素子から放射する子局装置とを有する無線通信システムが実行する無線通信方法であって、前記親局装置が、複数の異なる波長の光信号を出力する光信号出力ステップと、前記波長別に、前記波長の前記光信号が前記光伝送路を伝送中に受ける位相回転と、当該波長に対応する前記アンテナ素子における位相とに基づいて前記送信信号の位相を調整する位相調整ステップと、前記波長別に、前記光信号出力ステップにおいて出力された前記波長の前記光信号を、当該波長に応じて前記位相調整ステップにおいて位相を調整した前記送信信号により変調して光変調信号を生成する光変調ステップと、前記光変調ステップにおいて生成された前記波長別の前記光変調信号を合波して前記光伝送路に出力する光合成ステップと、前記子局装置が、前記光伝送路を伝送した前記光変調信号を前記波長により分波する光分波ステップと、前記光分波ステップにおいて分波された前記波長別の前記光変調信号を電気信号に変換して得た前記送信信号を、前記波長に対応した複数の前記アンテナ素子それぞれに出力する光電気変換ステップと、を有する無線通信方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、波長利用効率の悪化や高コスト化をおさえつつ、基地局制御が不要なRoFシステムを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1の実施形態による光制御ビームフォーミングシステムの構成を示すブロック図である。
図2】第2の実施形態による光制御ビームフォーミングシステムの構成を示すブロック図である。
図3】従来技術を適用したRoFシステムの構成を示すブロック図である。
図4】従来技術を適用した無線システムの構成を示すブロック図である。
図5図4におけるPDMの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。本実施形態の無線通信システムは、ビームフォーミングを行うRoFシステムとして用いられる。本実施形態の無線通信システムにおいて、収容局(親局)装置は、基地局(子局)装置に向けて光ファイバ伝送する複数の波長それぞれの光信号を、光ファイバ伝送時に波長分散で生じる位相回転を予め補償したRF信号により光変調する。これにより、波長利用効率の悪化や高コスト化をおさえつつ、基地局制御が不要なビームフォーミング型RoFシステムを実現することができる。以下に詳細な実施形態を説明する。
【0028】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態による光制御ビームフォーミングシステム1の構成を示すブロック図である。光制御ビームフォーミングシステム1は、無線通信システムの一例である。同図に示す光制御ビームフォーミングシステム1は、収容局10と、基地局30とを有する。収容局10は親局装置であり、基地局30は子局装置である。収容局10及び基地局30は、光ファイバ20により接続される。
【0029】
収容局10は、多波長光源11と、光分波器12と、位相調整部13-1、…、13-n(nは2以上の整数、以下同じ)と、光変調部14-1、…、14-nと、光合成器15とを備える。基地局30は、光分波器31と、O/E(光/電気)変換器32-1、…、32-nと、アンテナ素子33-1、…、33-nとを備える。
【0030】
多波長光源11は、波長λ1、…、λnの光信号を生成する。光分波器12は、波長λ1、…、λnの光信号を固定的に分岐する。位相調整部13-i(iは1以上n以下の整数、以下同じ)は、RF信号に対し、基地局30のアンテナ素子33-iにおける位相と、光ファイバ20の伝送時に波長λiの光変調信号が波長分散の影響で受ける位相回転とに基づいて、RF信号に位相調整を行う。位相調整部13-iは、位相調整により生成されたRF信号#iを出力する。光変調部14-iは、波長λiの光信号をRF信号#iにより変調して光変調信号を生成する。光合成器15は、光変調部14-iから波長λiの光変調信号を入力する。光合成器15は、入力した波長λ1、…、λnそれぞれの光変調信号を合成し、合成した光変調信号を光ファイバ20に出力する。光ファイバ20は、光変調信号を伝送する。
【0031】
基地局30の光分波器31は、光ファイバ20が伝送した光変調信号を固定的に分岐する。光分波器31は、分岐した波長λiの光変調信号をO/E変換器32-iに出力する。O/E変換器32-iは、波長λiの光変調信号を電気信号に変換し、アンテナ素子33-iに出力する。アンテナ素子33-iは、O/E変換器32-iが出力した電気信号をRF信号として放射する。このとき、位相調整部13-iにおける位相調整により、RF信号に位相差が生じ、指向性を形成することができる。
【0032】
光制御ビームフォーミングシステム1の動作の詳細について説明する。
収容局10の多波長光源11は、n個の相異なる波長λ1、…、λnの光信号を生成する。n個の波長λ1、…、λnのうち、任意の1つの波長λiについて考えると、波長λiは、光変調部14-i及びアンテナ素子33-iに対応している。光分波器12は、多波長光源11が生成した波長λ1、…、λnの光信号を固定的に分岐し、各波長に応じた光変調部14-1、…、14-nそれぞれに出力する。光分岐は固定的なため、光分波器12の制御は必要ない。
【0033】
位相調整部13-iは、入力されるRF信号に対し、基地局30のアンテナ素子33-iにおける位相と、光ファイバ伝送時に波長λiの光変調信号が波長分散の影響で受ける位相回転をふまえて、位相調整を行う。位相調整部13-iは、位相調整されたRF信号#iを出力する。
【0034】
波長λiの光変調信号が光ファイバ20を伝送するとき、波長分散の影響を受けて位相回転する。波長λiの光変調信号が光ファイバ20を伝送するときにRF信号として受ける位相回転量をφiとする。つまり、光変調部14-iに入力されるRF信号#iと、基地局30が波長λiの光変調信号を変換して放射するRF信号との位相差をφiとする。また、アンテナ素子33-iが放射するRF信号の位相をθiとする。このとき、位相調整部13-iは、入力されたRF信号の位相をθi-φiに調整したRF信号#iを出力する。光変調部14-iは、波長λiの光信号をRF信号#iにより変調し、光変調信号を出力する。
【0035】
一般に、光信号をRF信号で変調した信号はDSB(double side band)信号となる。このDSB信号を光ファイバ伝送すると、波長分散の影響を受け、下側波帯と上側波帯との間に遅延差が生じ、フェージングが発生する。そのため、伝送可能な光ファイバ長が制限されてしまう。RF信号の周波数が高くなるほど、側波帯間の間隔が広くなるため、フェージングの影響が顕著になる。この波長分散によるフェージングを回避するため、光変調部14-iは、光変調信号をSSB(single side band)信号や2トーン信号にするなど、波長分散によるフェージング対策を行う機能を有していてもよい。
【0036】
光合成器15は、光変調部14-1、…、14-nそれぞれが出力した波長λ1、…、λnの光変調信号を合成し、1本の光ファイバ20に伝送する。光信号が光ファイバ伝送されるとき、波長分散の影響を受け、波長毎に異なる遅延差を生じる。前述のとおり、波長λiの光変調信号が光ファイバ20中を伝送するとき、波長分散の影響を受けてRF信号としてφiだけ位相回転する。
【0037】
基地局30の光分波器31は、光ファイバ20中を伝送した波長λ1、…、λnの光変調信号を固定的に分岐し、それぞれをアンテナ素子33-1、…、33-nに出力する。光分岐は固定的なため、光分波器31の制御は必要ない。つまり、基地局30を制御する必要がない。
【0038】
O/E変換器32-iは、分岐された波長λiの光変調信号をRF信号に変換する。波長λiの光変調信号は、位相がθi-φiに調整されたRF信号#iにより変調されており、さらに光ファイバ20の伝送時にRF信号としてφiだけ位相回転した。そのため、波長λiの光変調信号をO/E変換して得られたRF信号の位相は、θi-φi+φi=θiとなる。よって、位相θiのRF信号が、アンテナ素子33-iから放射される。このとき、各アンテナ素子33-1、…、33-nから放射されるRF信号に位相差が生じ、指向性を形成することができる。
【0039】
つまり、アンテナ素子33-iで放射するRF信号の位相をθiとしたい場合、位相調整部13-iは、入力されたRF信号の位相をθi-φiに調整すればよい。
【0040】
<第1の実施形態の変形例>
第1の実施形態の多波長光源11が生成するn個の相異なる波長λ1、…、λnの間隔が十分小さい場合、各波長λ1、…、λnに対する光ファイバ20の分散値は等しいとみなせる。このとき、波長λ1、…、λnの間隔を等しくすると、波長λ1、…、λnの光変調信号が光ファイバ20を伝送する時に波長分散によって受ける位相回転の間隔も等しくなる。よって、位相調整部13-1、…、13-nにおける位相調整を簡易化できる。
【0041】
多波長光源11が生成する光信号の波長λ1、…、λnの波長間隔が等しい場合、λi=λ1+(i-1)Δλと表せる。この波長λ1、…、λnの光変調信号が光ファイバ伝送されるとき、波長分散の影響を受け、RF信号としてφi位相回転する。ここで、波長λ1、…、λnの波長間隔は等しく、かつ分散値も等しいため、位相回転量も等間隔となる。つまり、φi=φ1+(i-1)Δφとなる。位相調整部13-iは、入力されたRF信号の位相をθi-φi=θi-{φ1+(i-1)Δφ}に調整すればよい。
【0042】
上記のような計算により、各波長λ1、…、λnの光変調信号について、RF信号としての位相回転量φ1、…、φnをそれぞれ算出するのではなく、φ1とΔφのみを算出してからそれらの代数演算を行い、位相調整量を求めることもできる。なお、Δφは、隣接する波長の光変調信号それぞれが光ファイバ20を伝送する際にRF信号として受ける相回転量の差分である。例えば、Δφは、波長λj(jは1以上n-1以下の整数)の位相回転量φjと、波長λk(j<k、kは2以上n以下の整数)の位相回転量φkとの差分を(k-j)により除算することにより求めることができる。また、φ1に限らず、いずれかの波長λmの位相回転量φm(mは1以上n以下の整数)を用い、φi=φm+(i-m)Δφを算出してもよい。
【0043】
<第2の実施形態>
第1の実施形態の収容局(親局)では、1台の多波長光源により異なる波長の光信号を生成可能な多波長光源を有していた。本実施形態の収容局は、複数のそれぞれ光源それぞれにより、異なる波長の光信号を生成する。以下では、第1の実施形態との差分を中心に説明する。
【0044】
図2は、第2の実施形態による光制御ビームフォーミングシステム1aの構成を示すブロック図である。同図において、図1に示す第1の実施形態による光制御ビームフォーミングシステム1と同一の部分には同一の符号を付している。同図に示す光制御ビームフォーミングシステム1aが、図1に示す光制御ビームフォーミングシステム1と異なる点は、収容局10に代えて収容局10aを備える点である。収容局10aが、図1に示す収容局10と異なる点は、多波長光源11及び光分波器12に代えて、光源41-1、…、41-nを備える点である。
【0045】
光源41-1、…、41-nは、それぞれ相異なる波長の光信号を生成する。光源41-iは、波長λiの光信号を生成する。光変調部14-iは、光源41-iから波長λiの光信号を入力し、位相調整部13-iがRF信号を位相調整して得られたRF信号#iにより変調する。
【0046】
光制御ビームフォーミングシステム1aの動作の詳細について説明する。
収容局10aの光源41-1、…、41-nはそれぞれ、n個の相異なる波長λ1、…、λnの光信号を生成する。すなわち、光源41-iは、波長λiの光信号を生成する。n個の波長λ1、…、λnのうち、任意の1つの波長λiについて考えると、波長λiは、光変調部14-i及びアンテナ素子33-iに対応している。光変調部14-1、…、4-nはそれぞれ、波長λ1、…、λnの光信号を入力する。以下の処理は、第1の実施形態の光制御ビームフォーミングシステム1と同様である。
【0047】
すなわち、位相調整部13-iは、入力されたRF信号の位相をθi-φiに調整し、出力する。この位相調整量は、基地局30のアンテナ素子33-iが放射するRF信号の位相θiと、光ファイバ20の伝送時に波長λiの光変調信号がRF信号として波長分散の影響で受ける位相回転量φiとに基づく。光変調部14-iは、波長λiの光信号をRF信号#iで変調し、光変調信号を出力する。波長分散によるフェージングを回避するため、光変調部14-iは、第1の実施形態と同様に、光変調信号をSSB信号や2トーン信号にするなど波長分散によるフェージング対策を行う機能を有していてもよい。光合成器15は、光変調部14-1、…、14-nそれぞれが出力した波長λ1、…、λnの光変調信号を合成し、1本の光ファイバ20に伝送する。波長λiの光変調信号が光ファイバ中を伝送されるとき、波長分散の影響を受け、RF信号としてφiだけ位相回転する。
【0048】
基地局30の光分波器31は、光ファイバ20中を伝送した波長λ1、…、λnの光変調信号を固定的に分岐し、それぞれをアンテナ素子33-1、…、33-nに出力する。光分岐は固定的なため、光分波器31の制御は必要ない。つまり、基地局30を制御する必要がない。O/E変換器32-iは、O/E変換により、波長λiの光変調信号をRF信号に変換する。波長λiの光変調信号は、位相がθi-φiに調整されたRF信号#iにより変調されており、さらに光ファイバ20の伝送時にRF信号としてφiだけ位相回転した。そのため、O/E変換により得られたRF信号の位相はθiとなる。この位相θiのRF信号は、アンテナ素子33-iから放射される。このとき、各アンテナ素子33-1、…、33-nから放射されるRF信号に位相差が生じ、指向性を形成することができる。
【0049】
<第2の実施形態の変形例>
第2の実施形態の光源41-1、…、41-nにより生成されるn個の相異なる波長λ1、…、λnの間隔が十分小さい場合、各波長λ1、…、λnに対する光ファイバ20の分散値は等しいとみなせる。つまり、λi=λ1+(i-1)Δλと表せる。このとき、波長λ1、…、λnの光変調信号が光ファイバ20を伝送する時に波長分散によって受ける位相回転の間隔も等しくなる。よって、第1の実施形態と同様に、位相調整部13-1、…、13-nにおける位相調整を簡易化できる。
【0050】
すなわち、波長λiの光変調信号は、光ファイバ20中を伝送するとき、波長分散の影響を受け、RF信号としてφi位相回転する。波長λ1、…、λnの波長間隔が等しく、かつ分散値も等しいため、各波長間の位相回転量も等間隔となる。つまり、φi=φ1+(i―1)Δφとなる。よって、各波長λ1、…、λnの光変調信号について、RF信号としての位相回転量φ1、…、φnをそれぞれ算出するのではなく、φ1とΔφのみを算出してからそれらの代数演算を行い、位相調整量を求めることもできる。
【0051】
以上説明した実施形態によれば、RoFシステムの収容局(親局)装置は、基地局(子局)装置に向けて光ファイバ伝送する複数の光信号の各々を、光ファイバ伝送時に波長分散で生じる位相回転を予め補償したRF信号により光変調する。よって、波長および分散を固定とした上で、光変調信号に光ファイバ伝送における遅延差を生じさせることにより、波長利用効率の悪化や高コスト化をおさえつつ、基地局制御を不要としながら、RoFシステムにおけるビームフォーミングを実現することができる。
【0052】
上述した実施形態によれば、無線通信システム(例えば、光制御ビームフォーミングシステム1、1a)は、親局装置(例えば、収容局10、10a)と、光伝送路(例えば、光ファイバ20)を介して親局装置から光により受信した送信信号を複数のアンテナ素子(例えば、アンテナ素子33-1~33-n)から放射する子局装置(例えば、基地局30)とを有する。
【0053】
親局装置は、光信号出力部と、位相調整部と、光変調部と、光合成部とを備える。光信号出力部は、複数の異なる波長の光信号を出力する。位相調整部(例えば、位相調整部13-1~13-n)は、波長別に、一の波長の光信号が光伝送路を伝送中に受ける位相回転と、当該波長に対応するアンテナ素子における位相とに基づいて送信信号の位相を調整する。光変調部(光変調部14-1~14-n)は、波長別に、光信号出力部が出力した一の波長の光信号を、当該波長に応じて位相調整部が位相を調整した送信信号により変調して光変調信号を生成する。光合成部(例えば、光合成器15)は、光変調部が生成した波長別の光変調信号を合波して光伝送路に出力する。
【0054】
子局装置は、光分波部(例えば、光分波器31)と、光電気変換部(例えば、O/E変換部32-1~32-n)とを備える。光分波部は、光伝送路を伝送した光変調信号を波長により分波する。光電気変換部は、光分波部が分波した波長別の光変調信号を電気信号に変換し、波長に対応した複数のアンテナ素子(例えば、アンテナ素子33-1~33-n)それぞれに出力する。
【0055】
なお、光信号出力部は、多波長光源(例えば、多波長光源11)と、多波長光源が出力した光信号を波長ごとに分離する光分波器(例えば、光分波器12)とを有してもよい。また、光信号出力部は、それぞれ異なる波長の光信号を出力する複数の光源(例えば、光源41-1~41-n)を有してもよい。
【0056】
また、複数の波長それぞれの光信号が光伝送路を伝送中に受ける位相回転を、いずれかの波長の光信号が光伝送路を伝送中に受ける位相回転の量と、異なる波長それぞれの光信号が光伝送路を伝送中に受ける位相回転の量の差分とから得てもよい。
【0057】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1、1a…光制御ビームフォーミングシステム, 10、10a…収容局, 11…多波長光源, 12…光分波器, 13-1~13-n…位相調整部, 14-1~14-n…光変調部, 15…光合成器, 20…光ファイバ, 30…基地局, 31…光分波器, 32-1~32-n…O/E変換器, 33-1~33-n…アンテナ素子, 41-1~41-n…光源
図1
図2
図3
図4
図5