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特許7193742立体造形用データ生成プログラム、及び、立体造形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】立体造形用データ生成プログラム、及び、立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/386 20170101AFI20221214BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20221214BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221214BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20221214BHJP
   B22F 10/80 20210101ALI20221214BHJP
【FI】
B29C64/386
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y50/00
B22F10/80
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020082101
(22)【出願日】2020-05-07
(65)【公開番号】P2021176681
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】317011573
【氏名又は名称】ケイワイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 圭祐
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-525207(JP,A)
【文献】特開2018-008515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状にモデル材を積層して立体を造形する装置により用いられるデータを生成する立体造形用データ生成プログラムであって、
コンピュータに、
造形される立体を複数の層に分割した場合に前記立体を構成する各層の外形を分析し、前記外形に含まれる外方に突出して外周の一部をなす突出部位を検出する検出ステップと、
前記突出部位が所定条件に該当するか否かを判定する判定ステップと、
前記所定条件に該当した前記突出部位を除いた領域に対し、少なくとも前記突出部位に隣接する線を造形してから、前記所定条件に該当した前記突出部位に対し、モデル材が吐出される吐出孔の一部を先に造形された線で塞いだ状態でモデル材を吐出させて吐出孔の口径より幅の小さい線を造形するよう命令するデータを生成する命令生成ステップと
を実行させる立体造形用データ生成プログラム。
【請求項2】
請求項1に記載の立体造形用データ生成プログラムにおいて、
前記検出ステップでは、
前記外形に含まれる頂点に基づいて前記突出部位を検出することを特徴とする立体造形用データ生成プログラム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の立体造形用データ生成プログラムにおいて、
前記判定ステップでは、
前記外形における前記突出部位とその他の部位との境界線の長さと前記突出部位の面積との関係から前記突出部位が前記所定条件に該当するか否かを判定することを特徴とする立体造形用データ生成プログラム。
【請求項4】
層状にモデル材を積層して立体を造形する装置を用いた立体造形物の製造方法であって、
造形される立体を複数の層に分割した場合に前記立体を構成する各層の外形を分析し、前記外形に含まれる外方に突出して外周の一部をなす突出部位を検出する検出工程と、
前記突出部位が所定条件に該当するか否かを判定する判定工程と、
前記所定条件に該当した前記突出部位を除いた領域に対し、少なくとも前記突出部位に隣接する線を造形してから、前記所定条件に該当した前記突出部位に対し、モデル材が吐出される吐出孔の一部を先に造形された線で塞いだ状態でモデル材を吐出させて吐出孔の口径より幅の小さい線を造形するよう命令するデータを生成する命令生成工程と、
前記装置に前記データに沿って前記各層を造形させて前記立体を造形させる造形工程と
を含む立体造形物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の立体造形物の製造方法において、
前記検出工程では、
前記外形に含まれる頂点に基づいて前記突出部位を検出することを特徴とする立体造形物の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の立体造形物の製造方法において、
前記判定工程では、
前記外形における前記突出部位とその他の部位との境界線の長さと前記突出部位の面積との関係から前記突出部位が前記所定条件に該当するか否かを判定することを特徴とする立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンタ等の立体造形装置による造形時に用いられる立体造形用データを生成するプログラム及び立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、熱溶解積層方式により立体造形物を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2000-500709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱溶解積層方式は、一般的な材料を用いて多彩な用途の造形が可能である点において有益であるが、その一方で、溶解した材料を吐出するノズルを移動させながら線を描くようにして造形を行うことから、微細な形状の造形が困難であるという課題を有している。
【0005】
そこで、本発明は、熱溶解積層方式により微細な形状を造形する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の立体造形用データ生成プログラム及び立体造形物の製造方法を提供する。なお、以下の括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0007】
すなわち、本発明の立体造形用データ生成プログラムは、層状にモデル材を積層して立体を造形する装置により用いられるデータを生成する立体造形用データ生成プログラムであって、造形される立体を複数の層に分割した場合にその立体を構成する各層の外形を分析し、外形に含まれる突出部位を検出する検出ステップと、突出部位が所定条件に該当するか否かを判定する判定ステップと、所定条件に該当した突出部位を除いた領域に対し、少なくとも突出部位に隣接する線を造形してから、所定条件に該当した突出部位に対し、モデル材が吐出される吐出孔の一部を先に造形された線で塞いだ状態でモデル材を吐出させて吐出孔の口径より幅の小さい線を造形するよう命令するデータを生成する命令生成ステップとを、コンピュータに実行させる。
【0008】
熱溶解積層方式により立体物を積層造形する場合において、立体物の外殻部分の造形は、各層に対しその外形を縮小させた同心状の経路を作成するのが一般的である。外形に突出部位が含まれる層に対してこのような経路が作成されると、外形に含まれる突出部位の形状は、大きさを変えて最外周の経路からその内側の経路へと継承されていくため、経路が複雑になりやすい。また、複雑な経路に対しては、吐出ノズルの移動を細やかに加減速させなければならないことから、材料の吐出が不安定となり描かれる線が乱れ易く、造形時間も長くなる。
【0009】
これに対し、この態様の立体造形用データ生成プログラムによれば、外形に含まれる突出部位の検出がなされ、所定条件に該当した突出部位、すなわち微細であると判定された突出形状に対しては、その他の領域における既造形線を利用して吐出孔の口径より幅の小さい線が造形される。このとき、その他の領域の形状は、所定条件に該当した突出部位が除かれていることから、元の外形よりも平滑化されている。したがって、この態様の立体造形用データ生成プログラムによれば、微細な突出形状については、材料のフィラメントの誤差の総量を抑制することができるため、綺麗に造形することが可能となる。また、その他の形状については、シンプルな経路に沿って造形することができるため、外形を縮小させた複雑な経路に沿って造形する場合と比較して、造形の効率や精度を向上させることが可能となる。
【0010】
好ましくは、上記の態様の立体造形用データ生成プログラムにおいて、検出ステップでは、外形に含まれる頂点に基づいて突出部位を検出する。
【0011】
この態様の立体造形用データ生成プログラムによれば、層の外形に含まれる突出部位を効率よく検出することができる。
【0012】
さらに好ましくは、上記のいずれかの態様の立体造形用データ生成プログラムにおいて、判定ステップでは、外形における突出部位とその他の部位との境界線の長さと突出部位の面積との関係から突出部位が所定条件に該当するか否かを判定する。
【0013】
この態様の立体造形用データ生成プログラムによれば、検出された突出部位を微細な形状として細い線で描くべきであるか否かを効率よく判定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱溶解積層方式により微細な形状を造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】立体造形装置が動作する環境の構成図である。
図2】立体造形用データ生成プログラムが動作する環境の構成図である。
図3】立体造形装置における位置の管理方法を示す概略図である。
図4】立体造形用データ生成プログラムの機能ブロック図である。
図5】立体造形用データ生成処理の手順例を示すフローチャートである。
図6】層形成用データ生成処理の手順例を示すフローチャートである。
図7】熱溶解積層方式における課題を説明する図である。
図8】特定領域における吐出ノズルの使用態様を示す図である。
図9】断面形状分析処理の手順例を示すフローチャートである。
図10】断面形状分析処理の前段部における具体的な処理の内容を示す連続図である。
図11】第1実施形態における凸形状の検出態様を示す連続図である。
図12】第2実施形態における凸形状の検出態様を示す連続図である。
図13】凸形状の特定領域を含む層の形成態様を示す連続図である。
図14】凹形状の検出態様を示す連続図である。
図15】凹形状の特定領域を含む層の形成態様を示す連続図である。
図16】薄壁形状の検出態様を示す連続図である。
図17】薄壁形状を含む層の形成態様を示す連続図である。
図18】特定態様の変形例を示す連続図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。
【0017】
図1は、一実施形態における立体造形用データ生成プログラムにより生成された立体造形用データを用いて立体物を造形する立体造形装置40が動作する環境の構成図である。
【0018】
立体造形装置40は、USBポートやシリアルポート等を介してプリンタサーバ30に接続されており、プリンタサーバ30との間でデータの送受信が可能である。プリンタサーバ30は、一般的なプリンタサーバと同様に、立体造形装置40に対するプリントジョブを管理/制御するコンピュータであり、ネットワーク20に接続されている。ネットワーク20は、有線又は無線の通信網である。端末10は、立体造形装置40を利用するコンピュータであり、立体造形用データ生成プログラムは端末10の内部に実装されている。端末10は、立体物の造形を行う際に、プリント要求(造形要求)とともに、この立体物を造形する上で用いられる立体造形用データを、ネットワーク20を介してプリンタサーバ30に送信する。
【0019】
プリンタサーバ30は、端末10からのプリント要求を受信すると、これを1つのプリントジョブとしてキューに挿入するとともに、プリント要求に伴って送信された立体造形用データを受信する。立体造形装置40によりプリントジョブが開始されると、プリンタサーバ30は、立体造形用データを小出しにして立体造形装置40に送信する。このとき、立体造形装置40に送信されるデータ量は、プリンタサーバ30の内部に実装されている制御プログラムによって適量に調整される。1つのプリントジョブに対する立体造形用データが全て立体造形装置40に送り出され、立体造形装置40がこれらのデータによる動作を終えると、立体造形装置40はプリント(造形)を終了する。
【0020】
なお、この図においては、端末10がプリンタサーバ30を介して立体造形装置40を利用する場合の構成を例に挙げて説明したが、端末10に立体造形装置40を直接接続してプリンタサーバ30を介さずに利用したり、或いは、立体造形用データが格納されたUSBメモリやSDカード等の記憶媒体をセットすることにより立体造形装置40を単独で(端末10から切断された状態で)利用したりすることも可能である。
【0021】
図2は、一実施形態における立体造形用データ生成プログラムが動作する環境の構成図である。立体造形用データ生成プログラムは、上述したように端末10の内部に実装されている。
【0022】
端末10は、一般的なコンピュータの機能が搭載されたコンピュータであり、ハードウェアとしては、CPU11、RAM12、ネットワークインタフェース(I/F)13、HDD14の他、マウス、キーボード又はタッチパネル等の入力デバイス15や、液晶ディスプレイ等の表示デバイス16を備えている。また、ソフトウェアとしては、端末10には、立体形状を表すポリゴンの集合体からなるポリゴンデータ(例えば、STL形式のデータ)を出力する3Dモデリングソフト17、3Dモデリングソフト17から出力されたポリゴンデータに基づいて立体造形用データを生成する立体造形用データ生成ソフト100、端末10が立体造形装置40を利用する上で必要となるプリンタドライバ18等がインストールされている。ここで、立体造形用データ生成ソフト100は、いわゆる「スライサ(スライスソフト)」であり、一実施形態の立体造形用データ生成プログラムにより実装されている。
【0023】
3Dモデリングソフト17により出力されたポリゴンデータが立体造形用データ生成ソフト100に入力されると、立体造形用データ生成ソフト100は、ポリゴンデータにより形作られる立体形状を平板状にスライス(水平に切断)する処理を積層方向(高さ方向)に繰り返し行い、これにより生じた各層を形成するためのパスを決定して、決定したパスに沿って材料を吐出させるための命令データを次々と生成していく。そして、立体形状を構成する全ての層を形成するための命令データが生成されると、立体造形用データ生成ソフト100は、これらの命令データの集合体を立体造形用データ(例えば、G-Code形式のデータ)として出力する。立体形状の造形を行う際には、端末10は、プリンタドライバ18を介しネットワークインタフェース13を通して、プリント要求及び立体造形用データをプリンタサーバ30に送信する。
【0024】
なお、この図においては、立体造形装置40を利用する端末10に3Dモデリングソフト17がインストールされている場合の構成を例に挙げて説明したが、3Dモデリングソフト17は必ずしも端末10にインストールされている必要はなく、立体造形用データ生成ソフト100に対し、造形対象とする立体形状を形作るポリゴンデータを入力可能であればよい。また、端末10には、必要に応じてその他のソフトウェアや外部デバイス等が装備されていてもよい。
【0025】
また、上述したように、立体造形用データ生成ソフト100の実体は一実施形態の立体造形用データ生成プログラムであるため、以下の説明においては、立体造形用データ生成ソフト100を立体造形用データ生成プログラム100と称することとする。
【0026】
図3は、立体造形装置40における位置の管理方法を示す概略図である。
【0027】
立体造形装置40は、筐体41の内部空間に立体物を造形する上で必要となる構成を備えている。先ず、内部空間の最下部には平坦な造形台42が設けられている。造形台42に材料MOが吐出されて、立体物を構成する複数の層が下の方から順に形成され、下位の層に上位の層が次々と重ねて形成されていくことにより、立体物OBが造形される。
【0028】
材料MOは、吐出ノズル44から下方へ吐出される。材料MOは、吐出ノズル44に供給される前の段階では紐状をなす固体のフィラメントの状態であるが、吐出ノズル44の内側に装備されているヒータによって吐出ノズル44から吐出される前に高温に加熱されて溶融し、流動化した状態で吐出される。吐出ノズル44は、支持アーム43により支持されており、支持アーム43の水平方向(図中のX,Y軸方向)及び高さ方向(図中のZ軸方向)への移動に伴って、内部空間内を移動可能に構成されている。なお、支持アーム43を水平方向にのみ移動可能とし、造形台42が高さ方向に移動可能に構成されていてもよい。或いは、造形台42が水平方向にも移動可能であり、材料MOの吐出位置が造形台42又は支持アーム43を移動させることにより変更可能に構成されていてもよい。
【0029】
内部空間内の位置は、3次元の座標で管理されている。立体物を造形する際に用いられる立体造形用データには、材料MOを吐出して各層を形成する(塗り潰す)線を描く上で必要となる命令、具体的には、吐出ノズル44の移動先の座標や移動速度、材料MOのフィラメントの吐出量、吐出圧や吐出温度等を指示する命令が大量に羅列されている。なお、図3の造形台42は、座標をイメージし易くするために格子状の線を付して示しているが、実際の造形台42にはこのような線は付されていない。また、図3に示した座標の原点位置は一例であり、これに限定されない。また、立体造形装置40は、デルタ状に配置された2本で1ペアの軸3組の移動可能な部位に吐出ノズル44が支持されているタイプ(いわゆる「デルタ型3Dプリンタ」)であってもよい。
【0030】
図4は、立体造形用データ生成プログラム100の機能ブロック図である。立体造形用データ生成プログラム100は、例えば、立体形状入力部110、各種設定部120、立体切断部130、断面形状分析部140、パス決定部160及び生成データ出力部170等で構成されている。
【0031】
立体形状入力部110は、立体形状を形作るポリゴンデータを入力する。より具体的には、立体形状入力部110は、3D-CAD等の3Dモデリングソフトにより出力されたポリゴンデータを読み込む。ポリゴンデータは、端末10からアクセス可能な記憶領域(例えば、HDD14や別途接続された外部記憶媒体等)に格納されている。
【0032】
各種設定部120は、立体造形用データ生成プログラムが機能する上で必要となる各種の閾値やパラメータ値(例えば、吐出する材料の幅(太さ、吐出量)の範囲や材料を温めるヒータの温度等)、描く形状のパターン等を予め設定する。各種設定部120はまた、端末10(立体造形装置40)の利用者向けの設定画面を提供し、この設定画面を介して利用者によりなされた設定内容を、端末10の内部記憶領域(HDD14)に格納する。
【0033】
立体切断部130は、立体形状入力部110に入力されたポリゴンデータにより形作られる立体形状を複数の平板形状に(高さの異なる複数の位置で水平に)切断し、積層方向(高さ方向)に積み重ねられた複数の層に分割する。
【0034】
断面形状分析部140は、立体切断部130により切断された各断面の形状、言い換えると、分割された各層の形状を分析する。
【0035】
パス決定部160は、断面形状分析部140により分析された結果等を踏まえて、各層を形成するための材料を吐出する経路、経路を辿る上での順序や方向や速度、材料の吐出幅や吐出量等、経路に関する詳細事項(以下、これらをまとめて「パス」と略称する。)を決定し、決定したパスを示す命令データを生成する。
【0036】
生成データ出力部170は、パス決定部160により生成された命令データの集合体、すなわち立体造形用データを出力する。
【0037】
図5は、立体造形用データ生成処理の手順例を示すフローチャートである。立体造形用データ生成処理は、立体造形装置40を利用して立体物を造形する際に必要となる立体造形用データを生成するための処理である。
【0038】
フローチャートに示される各ステップを実行するのは立体造形用データ生成プログラム100であるが、立体造形用データ生成プログラム100を動作させる主体は端末10のCPU11であり、厳密にはCPU11が、立体造形用データ生成プログラム100を構成する各機能部110~170に各ステップを実行させる。以下、手順例に沿って説明する。
【0039】
ステップS10:CPU11は、立体形状入力部110に立体形状入力処理を実行させる。この処理では、立体形状入力部110は、造形対象とする立体物の形状を形作るポリゴンデータを読み込む。
【0040】
ステップS20:CPU11は、立体切断部130に立体切断処理を実行させる。この処理では、立体切断部130は、ステップS10で読み込まれたポリゴンデータにより形作られる立体形状を平板状(水平)に切断する処理を積層方向(高さ方向)に繰り返す。なお、吐出ノズルの向きを自在に変更可能な立体造形装置を用いて立体物を造形する場合には、切断する形状は平板状に限定されず、例えば湾曲した形状としてもよい。
【0041】
ステップS30:CPU11は、断面形状分析部140に処理の対象とする層を更新させる。具体的には、断面形状分析部140は、ステップS20で立体形状が切断されたことにより生じた複数の層を下から順に1つずつ、後続する処理(ステップS40)の対象としてセットする。したがって、ステップS30が最初に実行される際には、最も下に位置する層が後続する処理の対象としてセットされる。
【0042】
ステップS40:CPU11は、断面形状分析部140及びパス決定部160に層形成用データ生成処理を実行させる。この処理では、各機能部140~160は、対象としてセットされた層(以下、「対象層」と称する。)に着目し、その形状を分析した上で対象層を形成(造形)するために最適化した命令データを生成する。なお、層形成用データ生成処理の具体的な内容については、別の図面を用いてさらに後述する。
【0043】
ステップS50:CPU11は、断面形状分析部140に未処理の層、すなわち未だ層形成用データ生成処理の対象とされていない層が残っているか否かを確認させる。未処理の層が残っている場合(ステップS50:Yes)、CPU11はステップS30に戻り、以降のステップを繰り返し実行する。一方、未処理の層が残っていない場合(ステップS50:No)、CPU11はステップS60に進む。
【0044】
ステップS60:CPU11は、生成データ出力部170に生成データ出力処理を実行させる。この処理では、生成データ出力部170は、立体形状を構成する全ての層を対象としてステップS40が実行されたことにより生成された命令データの集合体を、立体造形用データとして出力する。
【0045】
以上の手順を終えると、CPU11は、1つの立体物に対する立体造形用データの生成を終了する。
【0046】
図6は、層形成用データ生成処理の手順例を示すフローチャートである。層形成用データ生成処理は、立体造形用データ生成処理の過程(図5中のステップS40)で実行される。以下、手順例に沿って説明する。
【0047】
ステップS100:CPU11は、断面形状分析部140に断面形状分析処理を実行させる。この処理では、断面形状分析部140は、モルフォロジーを利用して対象層の形状に含まれる凹凸形状や薄壁形状を検出して分析し、微細な形状として造形する領域の設定を行う。なお、断面形状分析処理の具体的な内容については、別の図面を参照しながら詳しく後述する。
【0048】
ステップS110:CPU11は、パス決定部160にパス決定処理を実行させる。この処理では、パス決定部160は、ステップS100で分析された対象層の形状等を踏まえて、対象層を形成するためのパス、すなわち経路(吐出ノズル44の移動路)やその経路における材料の吐出量(積層ピッチ)や移動速度、経路に沿って線を描く順序(吐出ノズル44が各経路を移動する順序)等を決定する。
【0049】
ステップS120:CPU11は、パス決定部160に命令データ生成処理を実行させる。この処理では、パス決定部160は、ステップS110で作成されたパスを示す命令データを生成する。
【0050】
以上の手順を終えると、CPU11は、1つの層(対象層)に対する命令データの生成を終了する。
【0051】
図7は、熱溶解積層方式における課題を説明する図である。
熱溶解積層方式における立体物の外殻の形成は、外形を縮小させながら同心状の経路を作成するのが一般的である。対象層の外形に突出した部位が含まれる場合にこのようにして経路が作成されると、突出した形状が大きさを変えて最外周の経路からその内側の経路へと継承されていくため、経路が複雑になりやすい。
【0052】
例えば、図7に示した対象層を形成する場合には、その外形を縮小させることにより、吐出ノズル44の口径を基準とした幅を有する3本の経路L1´,L2´,L3´,L4´が作成される。このとき、最外周の経路L1´及びその内側の経路L2´は、突出した部位の形状に沿って短距離の間に角が入り組んだ複雑な経路となっている。また、内側の経路へと徐々に継承されていくにつれて突出した形状の横幅は小さくなり、外側から3番目の経路L3´を作成する段階で微小領域GPが発生する。ここで、「微小領域」とは、吐出ノズル44が経路に沿って入り込むことが不可能な小さい領域のことである。なお、図示の例においては、経路L4´の内側にも微小領域GPが発生しているが、この場合の微小領域GPは外形に突出した部位が含まれない形状の層にも発生しうる。また、ここでは、発明の理解を容易とするために、対象層の全体を外殻として経路が作成される場合の例を示しているが、実際の造形時には、例えば、対象層に外殻領域と内部充填領域とが設けられ、各領域に対し異なる態様により経路が作成される。
【0053】
経路L1´,L2´のような複雑な経路に沿って線を描く際には、造形速度(吐出ノズル44を移動させる速度)を細やかに加減速する必要があるが、加減速を繰り返すことで材料の吐出が不安定になり描かれる線に乱れが生じ易いばかりか、造形時間も長くなる。また、吐出した材料が完全に固化していない状態で吐出ノズル44を移動させるため、角を描く際に角が鈍り易い。造形速度を落とせば角を鋭く描けるようにはなるものの、造形速度を落とせばやはり造形時間が長くなる。したがって、経路は複雑化させずに、可能な限り一定の速度で直線を描く経路とすることが望ましい。
【0054】
また、対象層が上記の経路に沿って形成されると、微小領域GPは、材料が吐出されないため空隙となる。空隙をそのままにして立体物を造形しても外観には影響しないが、立体物に強度が求められる場合には、後処理を行って微小領域GPを材料で埋めなければならない。
【0055】
さらに、材料のフィラメント径(熱溶融前の固体(紐状)の材料径)には誤差がつきものであり、材料の吐出量は、断面積で換算するとフィラメント径の二乗の影響を受ける。例えば、フィラメント径の誤差が±5%(フィラメント径の公表値を1とした場合の実測値が1.05又は0.95)である場合、フィラメントの断面積で換算すると±約10%(実測値が1.05の場合は+10.25%、実測値が0.95の場合は-9.75%)の誤差を受けることとなる。実際に発明者がフィラメント径1.75mm(公表値)のフィラメントを測定したところ、低品質のフィラメントでは概ね1.68~1.78mm、高品質のフィラメントでも概ね1.72~1.77mmと、いずれのフィラメントにおいても程度の違いはあるものの誤差が含まれていること、また、さらに低品質のフィラメントでは10%を超える誤差を含むものも存在することが分かっている。
【0056】
ここで、吐出量が多い場合(太い線を描く場合)における誤差と、吐出量が少ない場合(細い線を描く場合)における誤差とでは、誤差の絶対量に差があるため、吐出量を通常よりも減らした方(通常よりも細い線を描いた方)が、誤差の総量を抑制することが可能となる。
【0057】
そこで、本実施形態においては、対象層の外形に突出した部位が含まれる場合にその部位の形状を分析し、所定の条件に該当する場合には、その部位が微細な形状であると捉えて「特定領域」に設定し、特定領域に対しては、通常よりも細い直線を描く経路を作成する。
【0058】
〔吐出ノズルの使用態様〕
図8は、特定領域における吐出ノズル44の使用態様を示す図である。
【0059】
図8中(A):吐出ノズル44の先端を示す底面図である。吐出ノズル44の中央部には、熱溶融した材料が吐出される吐出孔46が配置されており、吐出孔46を囲むようにして外壁45が設けられている。吐出孔46の断面は略円形であり、吐出ノズル44の先端における内径(以下、「ノズル口径」と称する。)Wは、吐出孔46の直径と一致している。また、外壁45は、吐出孔46を安定して支持するための所定の厚みを有している。例えば、吐出ノズル44の先端における外壁45の厚みが0.2mmであり、ノズル口径が0.3mmである場合には、ノズル先端径(吐出ノズル44の先端における外形)は0.7mmである。
【0060】
図8中(B):特定領域における吐出ノズル44の使用態様を示す図である。図中の濃い灰色部分は特定領域に対する造形線を示しており、薄い灰色部分は特定領域でない領域(以下、「非特定領域」と称する。)に対する造形線を示している。本実施形態においては、先ず、非特定領域のうち少なくともその最外周の経路に沿った造形が先になされる。このとき、非特定領域に対しては、例えば、ノズル口径Wと略同一の幅の線(以下、「通常の線」と称する場合がある。)が描かれる。
【0061】
その上で、既造形線の材料が固化してから、特定領域に対する造形がなされる。特定領域においては、吐出孔46の一部を既造形線で塞いで材料の出口を狭めるとともに、材料の吐出量を通常よりも減少させ、狭められた出口から材料を押し出しながら吐出ノズル44を移動させることで、非特定領域における線よりも細い線が描かれる(以下、このような造形態様を「特定態様」と称する。)。
【0062】
この造形態様においては、吐出孔46の直径の略2/3を既造形線で塞いで材料の出口をノズル口径Wの略1/3に狭めるとともに、材料の吐出量を通常よりも減少させることで、通常の線の略1/3の幅で線が描かれる。例えば、ノズル口径が0.3mmの吐出ノズル44を用いて、材料の出口をノズル径の略1/3に狭めると、ノズル口径が0.1mmの吐出ノズルを用いているのと同様の造形が疑似的に可能となる。吐出孔46を塞ぐ度合いや材料の吐出量を適切に調整すれば、線幅をさらに狭めたり、或いは、通常の線幅未満の範囲内で線幅をさらに拡げたりすることができる。
【0063】
このように、特定領域に対して特定態様により造形することで、材料のフィラメントの誤差の総量を抑制して造形の寸法精度を向上させる(より正確に造形する)ことができ、微細な形状を綺麗に造形することが可能となる。
【0064】
続いて、対象層に対し特定領域をどのように設定するか、すなわち、対象層の外形に含まれる突出部位をどのように検出し、検出された突出部位をどのような場合に特定領域に設定するかについて説明する。
【0065】
〔断面形状分析処理〕
図9は、断面形状分析処理の手順例を示すフローチャートである。断面形状分析処理は、対象層の外形に含まれる凸形状(突出部位)の他、凹形状や薄壁形状を検出し、これらの形状を分析する処理であり、層形成用データ生成処理の過程(図6中のステップS100)で実行される。
【0066】
以下、手順例に沿って説明する。なお、ここでは各手順の概要のみを説明し、各手順における処理の詳細については、別の図面を用いて具体例を参照しながら詳しく後述することとする。
【0067】
ステップS200:CPU11は、断面形状分析部140に対象層の外形を縮小してから拡大させる。具体的には、断面形状分析部140は、モルフォロジーを利用して、対象層の外形をノズル口径1つ分の距離だけ縮小し(収縮させ)、縮小後の外形をノズル口径1つ分の距離だけ拡大する(膨張させる)。
【0068】
ステップS210:CPU11は、断面形状分析部140に処理後の対象層の外形を拡大してから縮小させる。具体的には、断面形状分析部140は、ステップS200の処理を経た対象層の外形を、モルフォロジーを利用してノズル口径の半分の距離だけ拡大し、拡大後の外形をノズル口径の半分の距離だけ縮小する。
【0069】
ステップS220:CPU11は、断面形状分析部140に対象層の外形に含まれる頂点を検出させる。具体的には、断面形状分析部140は、ステップS210の処理を行う前後における対象層の外形を比較して座標に変化のない頂点を先ず検出して、これらを「凸頂点」とし、その上でその他の頂点を検出して、これらを「凹頂点」とする。
【0070】
ステップS230:CPU11は、断面形状分析部140に凸形状を検出させる。具体的には、断面形状分析部140は、ステップS200の処理を経た対象層の外形に含まれる凹頂点に基づいて、先ず凸形状の検出を行う。断面形状分析部140は、その上で、検出された凸形状が所定の条件に該当する場合には、その凸形状を特定領域に設定する。
【0071】
ステップS240:CPU11は、断面形状分析部140に凹形状を検出させる。具体的には、断面形状分析部140は、ステップS200の処理を経た対象層の外形に含まれる凸頂点に基づいて凹形状を検出し、その凹形状の一部を特定領域に設定する。
【0072】
ステップS250:CPU11は、断面形状分析部140に薄壁形状を検出させる。ここで、「薄壁形状」とは、ノズル口径2つ分未満の幅で延び出た形状のことである。この処理では、断面形状分析部140は、対象層の元の外形とステップS200の処理を経た外形とをブーリアン演算により比較することで、対象層の外形に含まれる薄壁形状を検出する。
【0073】
以上の手順を終えると、CPU11は、対象層に対する断面形状分析処理を終了する。
【0074】
〔断面形状分析処理の前段部〕
図10は、断面形状分析処理の前段部、すなわち図9中のステップS200~S220における具体的な処理の内容を示す連続図である。以下、時系列に沿って説明する。
【0075】
図10中(A):対象層の外形が示されている。先ずこの外形が、ノズル口径1つ分の距離だけ縮小された後に、ノズル口径1つ分の距離だけ拡大される(図9中のステップS200に対応)。
【0076】
図10中(B):縮小後に拡大された対象層の外形が示されている。この外形においては、図10中(A)に示した元の外形と比較すると、上部に延び出ていた部位が消失している。このことから、消失した部位が薄壁形状に該当していることが分かる。
【0077】
図10中(C):図10中(B)に示した外形が、ノズル口径の半分の距離だけ拡大された後に、ノズル口径の半分の距離だけ縮小される(図9中のステップS210に対応)。このとき、外形の拡大に伴う輪郭線の補完はなされない。つまり、外形の拡大時には、輪郭線の位置は拡大した外形上に移動するものの、輪郭線の長さは拡大されずに拡大前のまま維持される。そのため、拡大後に縮小された外形においては、輪郭線の一部及びこれらの輪郭線がなしていた角が消失する。図10中(C)に示した図は、消失した角をなす2辺の消失部位の端点同士が連結されたものである。
【0078】
図10中(D):図10中(B)に示した外形と図10中(C)に示した外形とを比較して、座標に変化のない頂点が先ず検出されて凸頂点とされ、その上でその他の頂点が検出されて凹頂点とされる(図9中のステップS220に対応)。図示の例においては、4個の凹頂点A~Dが検出されている。見方を変えると、凹頂点とは、その内角が180°を超える頂点のことであり、凸頂点とは、その内角が180°未満の頂点のことであり、いずれの頂点も上述した方法により検出することが可能である。
【0079】
なお、輪郭線の補完がなされない場合、上述したように、対象層の外形を拡大後に縮小すると、凸頂点の座標は変化しない一方で凹頂点の座標は変化するが、これとは逆に、縮小後に拡大すると、凹頂点の座標は変化しない一方で凸頂点の座標は変化する。したがって、上述した方法に代えて、外形を縮小後に拡大し、座標に変化がない凹頂点を先ず検出してもよい。
【0080】
〔凸形状の検出:第1実施形態〕
図11は、第1実施形態における凸形状の検出態様、すなわち図9中のステップS230における具体的な処理の一態様を示す連続図である。
【0081】
第1実施形態においては、断面形状分析処理の前段部の処理(図10)を経た対象層の外形から隣接する2つの凹頂点に挟まれた凸頂点を含む図形が先ず検出され、個々の図形について、その面積と2つの凹頂点を結ぶ線分(以下、「分断線」と称する。)の長さとの関係から、特定領域に設定するか否かの判定がなされる。以下、時系列に沿って説明する。
【0082】
図11中(A):凹頂点B及び凹頂点Cに挟まれる凸頂点を含む図形として、分断線BCを一辺とする図形が検出される。
【0083】
図11中(B):凹頂点C及び凹頂点Dに挟まれる凸頂点を含む図形として、分断線CDを一辺とする図形が検出される。
【0084】
図11中(C):凹頂点D及び凹頂点Aに挟まれる凸頂点を含む図形として、分断線DAを一辺とする図形が検出される。
【0085】
図11中(D):検出された個々の図形について、「検出された図形の面積(mm)÷分断線の長さ(mm)<ノズル口径(mm)」に該当するか否かの判定がなされる。そして、上記の式に該当すると判定された場合に、その図形は特定領域に設定される。図示の例においては、図11中(A)~(C)で検出された3個の図形のうち、図11中(A),(B)で検出された2個の図形(図中の斜線部)が特定領域に設定されている。
【0086】
なお、図11中(C)で検出された図形においては、分断線DAの一部が対象層の外形から外れている(対象層の内側に収まっていない)。このような図形については、事前に上記の式に基づく判定の対象から除外してもよい。
【0087】
〔凸形状の検出:第2実施形態〕
図12は、第2実施形態における凸形状の検出態様、すなわち図9中のステップS230における具体的な処理のさらなる一態様を示す連続図である。
【0088】
第2実施形態においては、断面形状分析処理の前段部の処理(図10)を経た対象層の外形に含まれる各凹頂点をなす2つの線を対象層の内部で延長させ、これらの延長線により分割されることで検出される各図形について、その面積と延長線の長さとの関係等から、特定領域に設定するか否かの判定がなされる。以下、時系列に沿って説明する。
【0089】
図12中(A):凹頂点Aから横方向に延長線を引くと、左図に示したように、点Aを一頂点として左下部に位置する横長の小さな矩形と、これ以外の領域からなる図形とが検出される。また、凹頂点Aから縦方向に延長線を引くと、右図に示したように、左部に位置する縦長の矩形と、これ以外の領域からなる図形とが検出される。このように、凹頂点Aから各方向に延長線を引くことで、合計4個の図形が検出される。
【0090】
図12中(B):凹頂点Bから横方向に延長線を引くと、左図に示した2個の図形が検出される一方、凹頂点Bから縦方向に延長線を引くと、右図に示した2個の図形が検出される。このように、凹頂点Bから各方向に延長線を引くことで、合計4個の図形が検出される。
【0091】
図12中(C):凹頂点Cから横方向に延長線を引くと、左図に示した2個の図形が検出される一方、凹頂点Cから縦方向に延長線を引くと、右図に示した2個の図形が検出される。このように、凹頂点Cから各方向に延長線を引くことで、合計4個の図形が検出される。
【0092】
図12中(D):凹頂点Dから横方向に延長線を引くと、左図に示した2個の図形が検出される一方、凹頂点Dから縦方向に延長線を引くと、右図に示した2個の図形が検出される。このように、凹頂点Dから各方向に延長線を引くことで、合計4個の図形が検出される。なお、図12中(D)左図に示した2個の図形は、図12中(C)左図に示した2個の図形と同一である。
【0093】
図12中(E):検出された個々の図形について、「検出された図形の面積(mm)÷延長線の長さ(mm)<吐出ノズル44の口径(mm)」に該当するか否かの判定が先ずなされ、上記の式に該当すると判定された場合には、その図形に凹頂点が含まれないか否かの判定がさらになされる。そして、凹頂点が含まれない場合には、その図形は特定領域に設定される。図示の例においては、図12中(A)~(D)で検出された延べ16個(重複分を除くと合計14個)の図形のうち、2個の図形(図中の斜線部)が特定領域に設定されている。
【0094】
なお、上述した図12中(C)左図及び図12中(D)左図のように、異なる凹頂点からの延長線により同一の図形が複数回検出されたとしても、各図形に対する判定は1回のみ行われる。また、この検出態様により凸形状を検出して特定領域を設定した後に、特定領域を除外した残りの領域に対して再度、この検出態様による凸形状の検出及び特定領域の設定を行ってもよい。こうすることで、対象層の外形によっては、より多くの部位を特定領域に設定することができるとともに、残りの領域の形状をさらに平滑化することができる。
【0095】
凸形状の検出は、上述した第1実施形態又は第2実施形態のいずれか一方のみを適用して行ってもよいし、2つの実施形態を任意の順序で組み合わせて適用してもよい。例えば、第1実施形態により凸形状を検出してから第2実施形態により凸形状を検出した場合には、図11中(D)に斜線で示した図形と図12中(E)に斜線で示した図形とを合わせた3個の図形が最終的に特定領域に設定されることとなる。
【0096】
さらには、上述した実施形態とは異なる態様により、或いは異なる態様を上述した実施形態に組み合わせて凸形状の検出を行ってもよい。例えば、対象層の外形に含まれる各頂点と他の頂点とを外形の内側に収まる線で結ぶことで分割される個々の図形を検出し、その面積が閾値以下である場合に、その図形を特定領域に設定してもよい。或いは、対象層の外形を平滑化して元の外形との差を算出し、差分の図形の面積が閾値以下である場合に、その図形を特定領域に設定してもよい。
【0097】
〔凸形状をなす特定領域の形成態様〕
図13は、凸形状の特定領域を含む対象層の形成態様を示す連続図である。発明の理解を容易とするために、ここでは、凸形状の検出態様を説明する上で例示した対象層の外形とは異なる外形を用いて説明する。以下、時系列に沿って説明する。
【0098】
図13中(A):図7に示した対象層の外形においては、図中の斜線部が特定領域に設定される。その他の領域は、特定領域が分断されたことで形状が平滑化されている。
【0099】
図13中(B):平滑化された領域に対しては、通常の線を描く同心状の経路L1~L4が作成される。また、特定領域に対しては、特定態様により線を描く経路L5が作成される。なお、図示の例における特定領域の幅Wは、ノズル口径Wよりも小さい(W<W)。
【0100】
図13中(C):先ず、経路L1~L4に沿って線が描かれる。その上で、特定領域に作成された経路L5に沿って特定態様により線が描かれる。このとき、経路L1の既造形線で吐出孔46の一部が塞がれて材料の出口が狭められることで、通常の線よりも細い幅Wの線が描かれる。なお、平滑化された領域の中心部に生じる微小領域GPは、必要に応じて後処理により埋めてもよい。
【0101】
このように、対象層の外形に微細な凸形状が含まれる場合に、外形に沿った経路を作成することなく、微細な凸形状を特定領域として特定態様により造形することにより、微細な凸形状を綺麗に造形することができる。また、微細な凸形状が特定領域とされることで平滑化されるその他の領域に対しては、シンプルな経路を作成することができるため、その他の領域を効率よく綺麗に造形することができる。
【0102】
なお、上記の例においては、平滑化された領域を全て造形した後に特定領域の造形を行っているが、これに限定されず、特定領域の造形を行う段階で特定領域に隣接する経路が既に造形されていて、その材料が固化していればよい。例えば、経路L1に沿って線を描いた後に、経路L2~L4は後回しにし、経路L5に沿って特定態様により線を描くことも可能である。
【0103】
また、上記の例においては、特定領域に1つの経路が作成されているが、特定領域の形状や幅W(矩形でない場合は、幅の平均)の大きさを考慮し、特定領域に隣接する経路に平行する複数の経路を作成してもよい。例えば、矩形の特定領域の幅Wがノズル口径の90%(0.9W)である場合に、0.45W幅の経路を2つ作成してもよいし、0.3W幅の経路を3つ作成してもよい。
【0104】
いずれにしても、特定態様により造形するには、既造形線で吐出孔46の一部を塞ぐ必要があるため、特定態様により造形する経路に隣接して既造形線が存在することが前提となる。例えば、上記の例における特定領域が、横長の矩形に代えて横長の六角形(横長の矩形とその両側に配置された三角形が一体化したような形状)である場合には、両側の三角形部分には隣接する既造形線がないため、先ず、横長の矩形部分に対して特定態様により線を描き、その上で、両側の三角形部分を特定態様により線を描くこととなる。
【0105】
ところで、検出された図形が特定領域に設定された場合に、当該図形のさらなる分析を行い、特定領域として経路を作成することで造形がかえって乱れることが予想される場合には、設定を取り消してもよい。例えば、当該図形に対して作成される分断線(又は延長線)に平行する経路の本数が所定数を超える場合には、特定領域の設定を取り消すことも可能である。
【0106】
〔凹形状の検出態様〕
図14は、凹形状の検出態様、すなわち図9中のステップS240における具体的な処理の態様を示す連続図である。以下、時系列に沿って説明する。
【0107】
図14中(A):対象層の外形を特定態様による造形の線幅だけ縮小させた第1仮想線Tが引かれる。図示の例においては、図10中(A)に示した対象層の外形をノズル口径の半分(0.5W)だけ縮小させた第1仮想線Tが引かれている。
【0108】
図14中(B1):第1仮想線T上に凸頂点に囲まれた凹頂点が2つ以上存在する場合には、これらの凸頂点と凹頂点とを結ぶ線を延長する第2仮想線Tが引かれ、第2仮想線T2と外形との交点が求められる。図示の例においては、2本の第2仮想線Tと外形との交点として、点P,Qが示されている。
【0109】
図14中(C1):第1仮想線Tの外側の領域のうち、図14中(B1)で求められた交点P,Qに挟まれる区間が特定領域に設定される。図示の例においては、凹頂点A,Bを取り囲む凹形状(C1中の斜線部)が特定領域に設定されている。
【0110】
上記の態様においては、凹形状の外縁部全体が特定領域に設定されているが、これに代えて、凹形状の外縁部のうち凹頂点に挟まれる区間のみを特定領域に設定してもよい。以下、特定領域をそのようにして設定する場合における図14中(A)に続く処理の態様を説明する。
【0111】
図14中(B2):外形に凸頂点に囲まれた凹頂点が2つ以上存在する場合には、これらの凸頂点と凹頂点とを結ぶ線を延長する第3仮想線Tが引かれ、第3仮想線Tと第1仮想線Tとの交点が求められる。図示の例においては、外形において、2つの凹頂点A,Bが凸頂点に囲まれて存在しているため、2本の第3仮想線Tが引かれ、これらの第3仮想線Tと第1仮想線Tとの交点として、点R,Sが示されている。
【0112】
図14中(C2):第1仮想線T1の外側の領域のうち、図14中(B2)で求められた交点R,Sに挟まれる区間が特定領域に設定される。図示の例においては、凹頂点A,Bを取り囲む凹形状のうち凹頂点A,Bに挟まれる区間のみ(C2中の斜線部)が特定領域に設定されている。
【0113】
〔凹形状をなす特定領域の形成態様〕
図15は、凹形状の特定領域を含む対象層の形成態様を示す連続図である。発明の理解を容易とするために、ここでは、凹形状の検出態様を説明する上で例示した対象層の外形とは異なる外形を用いて説明する。以下、時系列に沿って説明する。
【0114】
図15中(A):図示した対象層の外形においては、図中の斜線部が特定領域に設定される。
【0115】
図15中(B):非特定領域に対しては、通常の線を描く経路L1が作成される。また、特定領域に対しては、特定態様により線を描く経路L2が作成される。なお、図示の例における特定領域の幅Wは、ノズル口径Wよりも小さい(W<W)。
【0116】
図15中(C):先ず、非特定領域に作成された経路L1に沿って線が描かれる。その上で、特定領域に作成された経路L2に沿って特定態様により線が描かれる。このとき、経路L1の既造形線で吐出孔46の一部が塞がれて材料の出口が狭められることで、通常の線よりも細い幅Wの線が描かれる。なお、非特定領域の中心部に生じる微小領域GPは、必要に応じて後処理により埋めてもよい。
【0117】
ところで、凹形状の特定領域に対して特定態様により線を描く際に、屈曲した線を一筆書きで描いてもよいが、屈曲した線を複数の直線に分割して方向転換しながら描くことにより、凹形状を一段と綺麗に造形することができる。例えば、図示の例においては、右側の縦方向の線を先ず描いてから材料の吐出を止め、破線矢印に沿って吐出ノズル44の進行方向を転換し、次に横方向の線を描いてから再び材料MOの吐出を止め、破線矢印に沿って吐出ノズル44の進行方向を転換して、最後に左側の縦方向の線を描くことにより、方向転換を行わずに屈曲した線を一筆書きする場合よりも凹形状を綺麗に造形することができる。
【0118】
〔薄壁形状の検出態様〕
図16は、薄壁形状の検出態様、すなわち図9中のステップS250における具体的な処理の態様を示す連続図である。以下、時系列に沿って説明する。
【0119】
図16中(A):対象層の外形と、この外形がノズル口径を基準とした所定の距離だけ縮小された後に所定の距離だけ拡大された外形とを、ブーリアン演算により比較する。図中の左図は、対象層の元の外形(図10中(A)の外形)を示しており、右図は、対象層の外形が縮小後拡大された外形(図10中(B)の外形)を示している。これらの外形にブーリアン演算が施され、左図に示した外形から右図に示した外形が減算される。
【0120】
図16中(B):ブーリアン演算の結果として、対象層の元の外形と、対象層の外形が縮小後に拡大された外形との差分の図形が薄壁形状として検出される。図示の例においては、上部に延び出た部位(図中の斜線部)が薄壁形状として検出されている。
【0121】
なお、対象層の外形の縮小及び拡大に際し、所定の距離をノズル口径1つ分とすれば、ノズル口径1つ分以上2つ分未満の幅で延び出た薄壁形状を検出することができ、所定の距離をノズル口径の半分とすれば、ノズル口径1つ分未満の幅で延び出た薄壁形状を検出することができる。
【0122】
〔薄壁形状の形成態様〕
図17は、薄壁形状を含む対象層の形成態様を示す連続図である。発明の理解を容易とするために、ここでは、薄壁形状の検出態様を説明する上で例示した対象層の外形とは異なる外形を用いて説明する。また、ここでは、ノズル口径より大きい幅で延び出た薄壁形状を造形する場合を例に挙げる。以下、時系列に沿って説明する。
【0123】
図17中(A):図示した対象層の外形においては、図中の斜線部が薄壁形状として検出される。なお、対象層の外形のうち右側部分は記載が省略されているが、説明の便宜のため、この対象層には特定領域に設定された領域が含まれないものとする。
【0124】
図17中(B):薄壁形状を除いた領域に対しては、通常の線を描く経路L1~L3が作成される。また、薄壁形状の幅Wはノズル口径W1つ分より大きく2つ分未満であるため(W<W<2W)、薄壁形状のうちノズル口径1つ分の幅の領域に対しては、通常の線を描く経路L4が作成される。そして、薄壁形状のうち残りの領域、すなわちノズル口径未満の幅の領域については、特定態様により線を描く経路L5が作成される。
【0125】
図17中(C):薄壁形状を除いた領域に対し、経路L1~L3に沿って通常の線が描かれる。また、薄壁形状に対しては、先ず経路L4に沿って通常の線が描かれる。
【0126】
図17中(D):その上で、経路L5に沿って特定態様により線が描かれる。このとき、経路L4の既造形線で吐出孔46の一部が塞がれて材料の出口が狭められることで、通常の線よりも細い幅の線が描かれる。
【0127】
なお、上記の例においては、薄壁形状を後から造形しているが、薄壁形状を造形してからその他の領域を造形することも可能である。
【0128】
〔特定態様の変形例〕
図18は、特定態様の変形例を示す連続図である。ここでは、ノズル口径に満たない幅で延び出た薄壁形状を造形する場合を例に挙げて説明する。以下、時系列に沿って説明する。
【0129】
図18中(A):図示した対象層の外形においては、図中の斜線部が薄壁形状として検出される。なお、対象層の外形のうち右側部分は記載が省略されているが、説明の便宜のため、この対象層には特定領域に設定された領域が含まれないものとする。
【0130】
図18中(B):薄壁形状を除いた領域に対しては、通常の線を描く経路L1~L3が作成される。薄壁形状については、幅Wがノズル口径Wに満たないため(W<W)、通常の線を描くことができない。そこで、薄壁形状が延び出る方向に平行な経路は作成されず、代わりに、薄壁形状を延び出る方向に細切れにした経路L4~L23が作成される。
【0131】
図18中(C):先ず、経路L1~L3に沿って通常の線が描かれる。その上で、経路L1に隣接する経路L4において特定態様による造形がなされる。上述したように、薄壁形状の幅Wはノズル口径W未満であることから、経路L4は、吐出ノズル44を移動させられる距離を有していないため、隣接する経路L1の既造形線で吐出孔46の一部を塞いで吐出ノズル44を停止させた状態で、経路L4における造形に十分な量の材料が吐出される。
【0132】
図18中(D):続いて、吐出ノズル44を少しだけ移動させ、経路L4に隣接する経路L5において特定態様による造形がなされる。ここでは、隣接する経路L4の既造形線で吐出孔46の一部を塞いで吐出ノズル44を停止させた状態で、経路L5における造形に十分な量の材料が吐出される。
【0133】
図18中(E):経路L6以降においても同様にして特定態様により造形がなされていき、最後に経路L23において同様にして特定態様により造形がなされることにより、薄壁形状の造形が完了する。
【0134】
なお、上述した特定態様の変形例は、薄壁形状の造形のみならず、その他の微細な形状の造形にも適用することが可能である。
【0135】
以上のようにして、特定態様により造形することにより、材料のフィラメントの誤差の総量を抑制して造形の寸法精度を向上させることができ、微細な凸形状や凹形状、薄壁形状を綺麗に造形することが可能となる。特定態様は、例えば、ギアの刃先やリブのような、微細な凹凸が入り組んだ形状の造形等に対して好適に応用することができる。
【0136】
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変更して実施することが可能である。また、実施形態で挙げた各種数値はあくまで例示であり、上述した内容に限定されるものではない。
【0137】
上述した実施形態においては、断面が略円形の吐出孔46を備えた吐出ノズル44を造形に用いているが、吐出孔46の断面形状は略円形に限定されない。例えば、矩形や菱形であってもよい。
【0138】
上述した実施形態においては、凸形状を検出して所定の判定条件に該当する場合に、その形状を特定領域に設定して特定態様による造形を行っているが、検出や判定を行うまでもなく綺麗に造形することが明らかに困難な形状については、常に特定態様により造形してもよい。例えば、凸頂点を有する角、とりわけ鋭角は、通常の線で描くと鈍り易いため、内角の大きさに応じて材料の吐出量を決定し、常に特定態様により造形することとしてもよい。
【0139】
上述した実施形態においては、対象層の外形に含まれる凹凸形状を検出した上で、非特定領域の少なくとも最外周の線を造形した後に、この既造形線を利用して特定領域の造形を行っているが、凹凸形状を検出せずに、対象層の外形を全体的に少し小さくした形状を造形してから、残りの外縁部を特定態様により造形してもよい。
【符号の説明】
【0140】
10 端末
11 CPU
20 ネットワーク
30 プリンタサーバ
40 立体造形装置
44 吐出ノズル
46 吐出孔
100 立体造形用データ生成プログラム
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