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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】イオンサプレッサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/02 20060101AFI20221214BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
G01N30/02 E
G01N30/88 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021508554
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013387
(87)【国際公開番号】W WO2020194607
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】藤原 理悟
(72)【発明者】
【氏名】坂本 勝正
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-165723(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021353(WO,A1)
【文献】特開平09-113494(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021352(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0332387(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンクロマトグラフの分離カラムからの溶離液と電極液との間でイオン交換を行うイオンサプレッサであって、
第1および第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置され、各々が電極液を通過させるための電極液流路を有する第1および第2の電極液シール部材と、
前記第1の電極液シール部材と前記第2の電極液シール部材との間に配置される第1および第2のイオン交換膜と、
前記第1のイオン交換膜と前記第2のイオン交換膜との間に配置され、溶離液を通過させるための溶離液流路を有する溶離液シール部材とを備え、
前記溶離液シール部材は、前記第1のイオン交換膜と接触する第1の面を有し、
前記第1の面には、前記溶離液流路の縁に沿うように前記溶離液流路を全周にわたって取り囲みかつ前記第1のイオン交換膜に向かって突出する第1の突出部が形成され
前記溶離液シール部材および前記第1の突出部は、密度が0.90g/cm 以上0.93g/cm 以下である低密度ポリエチレンにより形成される、イオンサプレッサ。
【請求項2】
前記溶離液シール部材の前記第1の面からの前記第1の突出部の突出量は、前記溶離液シール部材の厚みの3%以上50%以下である、請求項1記載のイオンサプレッサ。
【請求項3】
前記溶離液シール部材は、前記第2のイオン交換膜と接触する第2の面を有し、
前記第2の面には、前記溶離液流路の縁に沿うように前記溶離液流路を全周にわたって取り囲みかつ前記第2のイオン交換膜に向かって突出する第2の突出部が形成され、
前記第2の突出部は、低密度ポリエチレンにより形成される、請求項1または2記載のイオンサプレッサ。
【請求項4】
前記溶離液シール部材の前記第2の面からの前記第2の突出部の突出量は、前記溶離液シール部材の厚みの3%以上50%以下である、請求項記載のイオンサプレッサ。
【請求項5】
前記溶離液シール部材および前記第2の突出部は、密度が0.90g/cm 以上0.93g/cm 以下である低密度ポリエチレンにより形成される、請求項または記載のイオンサプレッサ。
【請求項6】
イオンクロマトグラフの分離カラムからの溶離液と電極液との間でイオン交換を行うイオンサプレッサであって、
第1および第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置され、各々が電極液を通過させるための電極液流路を有する第1および第2の電極液シール部材と、
前記第1の電極液シール部材と前記第2の電極液シール部材との間に配置される第1および第2のイオン交換膜と、
前記第1のイオン交換膜と前記第2のイオン交換膜との間に配置され、溶離液を通過させるための溶離液流路を有する溶離液シール部材とを備え、
前記溶離液シール部材は、前記第1のイオン交換膜と接触する第1の面を有し、
前記第1の面には、前記溶離液流路の縁に沿うように前記溶離液流路を全周にわたって取り囲みかつ前記第1のイオン交換膜に向かって突出する第1の突出部が形成され、
前記溶離液シール部材および前記第1の突出部は、密度が0.90g/cm 未満である超低密度ポリエチレンにより形成される、イオンサプレッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンサプレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
イオンクロマトグラフにおいては、分析対象の試料が溶離液とともに分離カラムに導入される。試料は、分離カラムを通過することによりイオン種成分ごとに分離され、溶離液とともに検出器のフローセルに導入される。フローセルに導入された試料の電気伝導度が順次検出されることによりクロマトグラムが生成される。分離カラムと検出器との間には、イオンサプレッサが配置されることがある。
【0003】
特許文献1に記載されたサプレッサにおいては、一対のガスケット間にサンプル流ガスケットが配置される。分離カラムを通過したクロマトグラフィ流出溶液は、サンプル流ガスケットのサンプル流スクリーンに導入される。検出器から流出された検出器流出溶液は、三交弁により分岐され、一対のガスケットのイオン交換スクリーンにそれぞれ導入される。検出器流出溶液とクロマトグラフィ流出溶液との間で電気透析によるイオン交換が行われることにより、クロマトグラフィ流出溶液の導電率が抑制される。
【文献】特許第4750279号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオンサプレッサの透析効率が低い場合には、溶離液の電気伝導度がそれほど低くならない。そのため、クロマトグラムのバックグラウンドが増加することにより、試料の分析精度が低下する。したがって、イオンサプレッサの透析効率を向上させることが望まれる。
【0005】
本発明の目的は、透析効率が向上されたイオンサプレッサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に従う態様は、イオンクロマトグラフの分離カラムからの溶離液と電極液との間でイオン交換を行うイオンサプレッサであって、第1および第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置され、各々が電極液を通過させるための電極液流路を有する第1および第2の電極液シール部材と、前記第1の電極液シール部材と前記第2の電極液シール部材との間に配置される第1および第2のイオン交換膜と、前記第1のイオン交換膜と前記第2のイオン交換膜との間に配置され、溶離液を通過させるための溶離液流路を有する溶離液シール部材とを備え、前記溶離液シール部材は、前記第1のイオン交換膜と接触する第1の面を有し、前記第1の面には、前記溶離液流路の縁に沿うように前記溶離液流路を全周にわたって取り囲みかつ前記第1のイオン交換膜に向かって突出する第1の突出部が形成され、前記溶離液シール部材および前記第1の突出部は、密度が0.90g/cm 以上0.93g/cm 以下である低密度ポリエチレンにより形成される、イオンサプレッサに関する。
本発明の他の態様は、イオンクロマトグラフの分離カラムからの溶離液と電極液との間でイオン交換を行うイオンサプレッサであって、第1および第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置され、各々が電極液を通過させるための電極液流路を有する第1および第2の電極液シール部材と、前記第1の電極液シール部材と前記第2の電極液シール部材との間に配置される第1および第2のイオン交換膜と、前記第1のイオン交換膜と前記第2のイオン交換膜との間に配置され、溶離液を通過させるための溶離液流路を有する溶離液シール部材とを備え、前記溶離液シール部材は、前記第1のイオン交換膜と接触する第1の面を有し、前記第1の面には、前記溶離液流路の縁に沿うように前記溶離液流路を全周にわたって取り囲みかつ前記第1のイオン交換膜に向かって突出する第1の突出部が形成され、前記溶離液シール部材および前記第1の突出部は、密度が0.90g/cm 未満である超低密度ポリエチレンにより形成される、イオンサプレッサに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、イオンサプレッサの透析効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は本発明の一実施の形態に係るイオンサプレッサを備えるイオンクロマトグラフの構成を示す図である。
図2図2図1のイオンサプレッサの構成を示す分解斜視図である。
図3図3図2の溶離液シール部材の平面図である。
図4図4図3の溶離液シール部材のA-A線断面図である。
図5図5図3の溶離液シール部材のB-B線断面図である。
図6図6図2のイオンサプレッサの動作を説明するための図である。
図7図7は実施例に係る溶離液シール部材の評価結果を示す写真である。
図8図8は比較例に係る溶離液シール部材の評価結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)イオンクロマトグラフの構成
以下、本発明の実施の形態に係るイオンサプレッサについて図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係るイオンサプレッサを備えるイオンクロマトグラフの構成を示す図である。図1に示すように、イオンクロマトグラフ200は、イオンサプレッサ100、溶離液供給部110、試料供給部120、分離カラム130、検出器140および処理部150を備える。
【0010】
溶離液供給部110は、例えば薬液ボトル、送液ポンプおよび脱気装置を含み、水溶液等の溶離液を移動相として供給する。試料供給部120は、例えばインジェクタであり、分析対象の試料を溶離液供給部110により供給された溶離液とともに分離カラム130に導入する。分離カラム130は、図示しないカラム恒温槽の内部に収容され、所定の一定温度に調整される。分離カラム130は、導入された試料をイオン種成分ごとに分離する。
【0011】
検出器140は、電気伝導度検出器であり、イオンサプレッサ100を通過した分離カラム130からの試料および溶離液の電気伝導度を順次検出する。処理部150は、検出器140による検出結果を処理することにより、各イオン種成分の保持時間と電気伝導度との関係を示すクロマトグラムを生成する。
【0012】
イオンサプレッサ100は、溶離液流路1および電極液流路2,3を有し、分離カラム130と検出器140との間に配置される。分離カラム130を通過した試料および溶離液は、溶離液流路1を通して検出器140に導かれる。また、検出器140を通過した溶離液は、電極液として電極液流路2,3を通過した後、廃棄される。イオンサプレッサ100においては、電気透析によるイオン交換が行われることにより、溶離液流路1を通過した溶離液の電気伝導度が低減される。イオンサプレッサ100の詳細は後述する。
【0013】
(2)イオンサプレッサの構成
図2は、図1のイオンサプレッサ100の構成を示す分解斜視図である。図2に示すように、イオンサプレッサ100は、溶離液シール部材10、一対のイオン交換膜20,30、一対の電極液シール部材40,50、一対の電極60,70および一対の支持部材80,90を含む。溶離液シール部材10、イオン交換膜20,30、電極液シール部材40,50、電極60,70および支持部材80,90の各々は、一方向(以下、流路方向と呼ぶ。)に延びる長尺形状を有する。
【0014】
溶離液シール部材10は、貫通孔11,12および開口部13を有する。貫通孔11,12は、流路方向における一端部および他端部にそれぞれ配置される。開口部13は、流路方向に延びるように貫通孔11と貫通孔12との間に配置される。開口部13内の空間が溶離液流路1となる。本実施の形態においては、溶離液流路1にメッシュ部材14が設けられる。溶離液シール部材10の詳細については後述する。
【0015】
イオン交換膜20,30は、測定対象イオンが陰イオンである場合には陽イオン交換膜であり、測定対象イオンが陽イオンである場合には陰イオン交換膜である。イオン交換膜20は、貫通孔21~24を有する。貫通孔21,23は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔22,24は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。イオン交換膜30は、貫通孔31,32を有する。貫通孔31,32は、流路方向における一端部および他端部にそれぞれ配置される。
【0016】
電極液シール部材40は、貫通孔41~44および開口部45を有する。貫通孔41,43は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔42,44は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。開口部45は、流路方向に延びるように貫通孔43と貫通孔44との間に配置される。開口部45内の空間が電極液流路2となる。本実施の形態においては、電極液流路2にメッシュ部材46が設けられる。
【0017】
電極液シール部材50は、貫通孔51,52および開口部53を有する。貫通孔51,52は、流路方向における一端部および他端部にそれぞれ配置される。開口部53は、流路方向に延びるように貫通孔51と貫通孔52との間に配置される。開口部53内の空間が電極液流路3となる。本実施の形態においては、電極液流路3にメッシュ部材54が設けられる。
【0018】
電極60は、例えば陽極であり、貫通孔61~66を有する。貫通孔61,63,65は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔62,64,66は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。
【0019】
電極70は、例えば陰極であり、貫通孔71~74を有する。貫通孔71,73は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔72,74は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。
【0020】
支持部材80は、例えば樹脂材料により形成され、貫通孔81~86を有する。貫通孔81,83,85は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔82,84,86は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。支持部材90は、支持部材80と同様の材料により形成され、貫通孔91~94を有する。貫通孔91,93は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔92,94は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。
【0021】
上方から下方に向かって、支持部材80、電極60、電極液シール部材40、イオン交換膜20、溶離液シール部材10、イオン交換膜30、電極液シール部材50、電極70および支持部材90がこの順で上下方向に積層される。この場合、イオンサプレッサ100の一端部において、貫通孔81,61,41,21,11,31,51,71,91が重なる。イオンサプレッサ100の他端部において、貫通孔82,62,42,22,12,32,52,72,92が重なる。
【0022】
また、溶離液流路1と電極液流路2とがイオン交換膜20を挟んで対向し、溶離液流路1と電極液流路3とがイオン交換膜30を挟んで対向する。貫通孔83,63,43,23および溶離液流路1の一端部が重なり、貫通孔84,64,44,24および溶離液流路1の他端部が重なる。貫通孔85,65および電極液流路2の一端部が重なり、貫通孔86,66および電極液流路2の他端部が重なる。貫通孔93,73および電極液流路3の一端部が重なり、貫通孔94,74および電極液流路3の他端部が重なる。
【0023】
ここで、上方から下方にねじ部材101が貫通孔81,61,41,21,11,31,51,71,91に挿通され、上方から下方にねじ部材102が貫通孔82,62,42,22,12,32,52,72,92に挿通される。ねじ部材101,102の下端部には、ナット103,104がそれぞれ取り付けられる。これにより、溶離液シール部材10、イオン交換膜20,30、電極液シール部材40,50および電極60,70が支持部材80,90により一体的に支持された状態でイオンサプレッサ100が組み立てられる。
【0024】
(3)溶離液シール部材
図3は、図2の溶離液シール部材10の平面図である。図4は、図3の溶離液シール部材10のA-A線断面図である。図5は、図3の溶離液シール部材10のB-B線断面図である。図3に示すように、溶離液シール部材10は、流路方向に延びる矩形状を有する。溶離液シール部材10の厚み、すなわち溶離液シール部材10の上面15の平坦部分と下面16の平坦部分との上下方向の距離は、例えば1μm以上1mm以下であり、本実施の形態においては200μmである。
【0025】
溶離液シール部材10は、例えば低密度ポリエチレンにより形成されることが好ましいが、超低密度ポリエチレン等の他の樹脂材料により形成されてもよい。なお、低密度ポリエチレンは、密度が0.90g/cm 以上0.93g/cm 以下のポリエチレンを意味する。超低密度ポリエチレンは、密度が0.90g/cm 未満のポリエチレンを意味する。
【0026】
上記のように、溶離液シール部材10の流路方向における一端部および他端部には、貫通孔11,12がそれぞれ形成される。また、貫通孔11と貫通孔12との間には、流路方向に延びるように開口部13が形成される。本実施の形態においては、流路方向に直交する方向における中央部近傍の開口部13の幅は、一端部および他端部近傍の開口部13の幅よりも大きい。開口部13内の空間が溶離液流路1となり、当該開口部13内の空間にメッシュ部材14が設けられる。
【0027】
図4および図5に示すように、溶離液シール部材10の上面15には、開口部13を全周にわたって取り囲むように突出部17が形成される。また、溶離液シール部材10の下面16には、開口部13を全周にわたって取り囲むように突出部18が形成される。なお、図3においては、溶離液シール部材10の上面15の突出部17がドットパターンにより図示されている。
【0028】
突出部17の突出量、すなわち溶離液シール部材10の上面15から突出部17の頂点までの上下方向の距離は、例えば溶離液シール部材10の厚みの3%以上50%以下であり、本実施の形態においては35μmである。同様に、突出部18の突出量、すなわち溶離液シール部材10の下面16から突出部18の頂点までの上下方向の距離は、例えば溶離液シール部材10の厚みの3%以上50%以下であり、本実施の形態においては35μmである。
【0029】
上記の溶離液シール部材10を用いてイオンサプレッサ100を組み立てる場合、溶離液シール部材10の上面15および下面16が、図2のイオン交換膜20,30にそれぞれ接触する。この状態で、突出部17,18がイオン交換膜20,30に強固に押圧される。そのため、開口部13(溶離液流路1)を取り囲む部分のシール性が向上する。したがって、溶離液が漏れることなく溶離液流路1に閉じ込められる。これにより、溶離液流路1の耐圧が向上するとともに、透析効率が向上する。
【0030】
また、溶離液シール部材10が低密度ポリエチレンにより形成される場合には、超低密度ポリエチレンにより形成される場合よりも圧縮強度が向上する。この場合、突出部17,18をより強固にイオン交換膜20,30にそれぞれ押圧することが可能となる。これにより、溶離液をより確実に溶離液流路1に閉じ込めることができる。
【0031】
(4)イオンサプレッサの動作
図6は、図2のイオンサプレッサ100の動作を説明するための図である。図1の分離カラム130を通過した試料を含む溶離液は、図6のイオンサプレッサ100の一端部から貫通孔83,63,43,23を通して溶離液流路1に導かれた後、他端部に向かって溶離液流路1を流れる。このとき、溶離液は突出部17,18により閉じ込められるので、溶離液流路1から漏れることが防止される。その後、溶離液は、イオンサプレッサ100の他端部から貫通孔24,44,64,84を通して図1の検出器140に導かれる。上記のように、検出器140においては、試料および溶離液の電気伝導度が順次検出される。
【0032】
検出器140を通過した溶離液は、電極液として2つに分岐される。一方の電極液は、イオンサプレッサ100の他端部から貫通孔86,66を通して電極液流路2に導かれた後、一端部に向かって電極液流路2を流れる。その後、一方の電極液は、イオンサプレッサ100の一端部から貫通孔65,85を通して外部に排出される。他方の電極液は、イオンサプレッサ100の他端部から貫通孔94,74を通して電極液流路3に導かれた後、一端部に向かって電極液流路3を流れる。その後、他方の電極液は、イオンサプレッサ100の端部から貫通孔73,93を通して外部に排出される。
【0033】
電極60に正の電圧が印加され、電極70に負の電圧が印加される。この場合、水の電気分解により、電極液流路2において水素イオンおよび酸素分子が生成され、電極液流路3において水酸化物イオンおよび水素分子が生成する。電極液流路2で生成された水素イオンは、イオン交換膜20を透過して溶離液流路1に移動し、溶離液流路1において溶離液中のナトリウムイオンまたはカリウムイオン等の陽イオンと置換される。水素イオンと置換された陽イオンは、イオン交換膜30を透過して電極液流路3に移動し、電極液流路3において水酸化物イオンと結合した後、電極液とともに排出される。
【0034】
上記の動作によれば、溶離液流路1を移動する溶離液と、電極液流路2,3を移動する電極液との間でイオン交換が行われることにより、溶離液流路1を通過した溶離液の電気伝導度が低減される。これにより、図1の処理部150により生成されるクロマトグラムのバックグラウンドが減少する。その結果、試料の分析精度を向上させることができる。
【0035】
(5)効果
本実施の形態に係るイオンサプレッサ100においては、電極液シール部材40,50が電極60と電極70との間に配置される。イオン交換膜20,30が、電極液シール部材40と電極液シール部材50との間に配置される。溶離液シール部材10が、イオン交換膜20とイオン交換膜30との間に配置される。溶離液シール部材10の溶離液流路1を通過する分離カラム130からの溶離液と、電極液シール部材40の電極液流路2を通過する電極液および電極液シール部材50の電極液流路3を通過する電極液との間でイオン交換が行われる。
【0036】
イオン交換膜20と接触する溶離液シール部材10の上面15には、溶離液流路1の縁に沿うように溶離液流路1を全周にわたって取り囲みかつイオン交換膜20に向かって突出する突出部17が形成される。イオン交換膜30と接触する溶離液シール部材10の下面16には、溶離液流路1の縁に沿うように溶離液流路1を全周にわたって取り囲みかつイオン交換膜30に向かって突出する突出部18が形成される。
【0037】
この場合、溶離液流路1を全周にわたって取り囲む突出部17,18により溶離液が溶離液流路1に閉じ込められるので、溶離液が溶離液流路1から漏れることが抑制される。これにより、溶離液と電極液との間のイオン交換における損失が減少する。その結果、イオンサプレッサ100の透析効率を向上させることができる。
【0038】
(6)他の実施の形態
(a)上記実施の形態において、溶離液シール部材10の上面15および下面16にそれぞれ突出部17,18が形成されるが、実施の形態はこれに限定されない。溶離液シール部材10の上面15に突出部17が形成され、溶離液シール部材10の下面16に突出部18が形成されなくてもよい。あるいは、溶離液シール部材10の下面16に突出部18が形成され、溶離液シール部材10の上面15に突出部17が形成されなくてもよい。これらの場合でも、突出部17,18が形成されない場合に比べて溶離液が溶離液流路1から漏れることが防止される。
【0039】
(b)上記実施の形態において、溶離液流路1にメッシュ部材14が設けられるが、実施の形態はこれに限定されない。溶離液流路1にメッシュ部材14が設けられなくもよい。同様に、上記実施の形態においては、電極液流路2,3にメッシュ部材46,54がそれぞれ設けられるが、実施の形態はこれに限定されない。電極液流路2にメッシュ部材46が設けられなくてもよいし、電極液流路3にメッシュ部材54が設けられなくてもよい。
【0040】
(c)上記実施の形態において、溶離液流路1に溶離液を導入するための貫通孔24,44,64,84がイオン交換膜20、電極液シール部材40、電極60および支持部材80にそれぞれ形成されるが、実施の形態はこれに限定されない。溶離液流路1に溶離液を導入するための複数の貫通孔がイオン交換膜30、電極液シール部材50、電極70および支持部材90にそれぞれ形成されてもよい。
【0041】
同様に、上記実施の形態において、溶離液流路1から溶離液を排出するための貫通孔23,43,63,83がイオン交換膜20、電極液シール部材40、電極60および支持部材80にそれぞれ形成されるが、実施の形態はこれに限定されない。溶離液流路1から溶離液を排出するための複数の貫通孔がイオン交換膜30、電極液シール部材50、電極70および支持部材90にそれぞれ形成されてもよい。
【0042】
(d)上記実施の形態において、検出器140から排出される溶離液が電極液として電極液流路2,3に供給されるが、実施の形態はこれに限定されない。別途準備された溶離液が電極液として電極液流路2,3に供給されてもよい。
【0043】
(e)上記実施の形態において、2つのねじ部材101,102によりイオンサプレッサ100の一端部および他端部が固定されるが、実施の形態はこれに限定されない。例えば4つのねじ部材によりイオンサプレッサ100の四隅の近傍が固定されてもよい。また、支持部材90の貫通孔91,92がねじ孔である場合には、ねじ部材101,102にナット103,104が取り付けられなくてもよい。
【0044】
(7)実施例および比較例
実施例および比較例に係る溶離液シール部材を製造し、これらの溶離液シール部材のシール性を評価した。図7は、実施例に係る溶離液シール部材10の評価結果を示す写真である。図8は、比較例に係る溶離液シール部材の評価結果を示す写真である。図7の実施例に係る溶離液シール部材10は、図3の溶離液シール部材10と同様の構成を有する。図8の比較例に係る溶離液シール部材10Aは、突出部17,18が形成されない点を除き、実施例に係る溶離液シール部材10と同様の構成を有する。
【0045】
図7においては、溶離液シール部材10が、一対の透明のアクリル部材105,106により上下方向から押圧された状態で、複数のボルト107により固定されている。同様に、図8においては、溶離液シール部材10Aが、一対の透明のアクリル部材105,106により上下方向から押圧された状態で、複数のボルト107により固定されている。
【0046】
図7に示すように、実施例においては、突出部17が、溶離液シール部材10の上面15の他の部分よりも強固にアクリル部材105に押圧される。また、突出部18(図4)が、溶離液シール部材10の下面16の他の部分よりも強固にアクリル部材106に押圧される。溶離液シール部材10における強固に押圧された部分は、高いシール性を有し、屈折率の変化により明瞭に視認される。そのため、図7に太い点線で示すように、強固に押圧された部分により囲まれる溶離液シール部材10の部分、すなわち溶離液流路1が明瞭に視認される。
【0047】
一方で、図8に示すように、比較例においては、溶離液シール部材10Aの上面15が、一様な圧力でアクリル部材105に押圧される。また、溶離液シール部材10Aの下面16が、一様な圧力でアクリル部材106に押圧される。この場合、溶離液流路1を取り囲む部分が他の部分よりも高い圧力でシールされない。そのため、溶離液シール部材10Aの屈折率の変化は一様となり、図8に太い点線で示すように、溶離液シール部材10Aにおける溶離液流路1と他の部分との境界が明瞭には視認されない。図7図8との比較結果から、実施例に係る溶離液シール部材10は、高いシール性を有することが確認された。
【0048】
(8)請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応関係
上記実施の形態においては、電極60,70がそれぞれ第1および第2の電極の例であり、電極液シール部材40,50がそれぞれ第1および第2の電極液シール部材の例である。イオン交換膜20,30がそれぞれ第1および第2のイオン交換膜の例であり、上面15および下面16がそれぞれ第1および第2の面の例であり、突出部17,18がそれぞれ第1および第2の突出部の例である。
【0049】
(9)態様
本発明者らは、特許文献1のサプレッサにおいて、透析効率が向上しない原因を特定するために、種々の実験および考察を繰り返した結果、以下の知見を得た。特許文献1のサプレッサのサンプル流ガスケットは、サンプル流スクリーンを流れるクロマトグラフィ流出溶液が外部に漏れることを防止するシール部材として機能する。しかしながら、クロマトグラフィ流出溶液をサンプル流スクリーン内に閉じ込めることはできず、一部のクロマトグラフィ流出溶液はサンプル流スクリーン外を通過する可能性がある。この場合、透析効率が低下する。本発明者らは、この知見に基づいて、以下の構成に想到した。
【0050】
(第1項)一態様に係るイオンサプレッサは、
イオンクロマトグラフの分離カラムからの溶離液と電極液との間でイオン交換を行うイオンサプレッサであって、
第1および第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置され、各々が電極液を通過させるための電極液流路を有する第1および第2の電極液シール部材と、
前記第1の電極液シール部材と前記第2の電極液シール部材との間に配置される第1および第2のイオン交換膜と、
前記第1のイオン交換膜と前記第2のイオン交換膜との間に配置され、溶離液を通過させるための溶離液流路を有する溶離液シール部材とを備え、
前記溶離液シール部材は、前記第1のイオン交換膜と接触する第1の面を有し、
前記第1の面には、前記溶離液流路の縁に沿うように前記溶離液流路を全周にわたって取り囲みかつ前記第1のイオン交換膜に向かって突出する第1の突出部が形成されてもよい。
【0051】
このイオンサプレッサにおいては、第1および第2の電極液シール部材が第1の電極と第2の電極との間に配置される。第1および第2のイオン交換膜が、第1の電極液シール部材と第2の電極液シール部材との間に配置される。溶離液シール部材が、第1のイオン交換膜と第2のイオン交換膜との間に配置される。溶離液シール部材の溶離液流路を通過する分離カラムからの溶離液と、第1および第2の電極液シール部材の各々の電極液流路を通過する電極液との間でイオン交換が行われる。第1のイオン交換膜と接触する溶離液シール部材の第1の面には、溶離液流路の縁に沿うように溶離液流路を全周にわたって取り囲みかつ第1のイオン交換膜に向かって突出する第1の突出部が形成される。
【0052】
この場合、溶離液流路を全周にわたって取り囲む第1の突出部により溶離液が溶離液流路に閉じ込められるので、溶離液が溶離液流路から漏れることが抑制される。これにより、溶離液と電極液との間のイオン交換における損失が減少する。その結果、イオンサプレッサの透析効率を向上させることができる。
【0053】
(第2項)第1項に記載のイオンサプレッサにおいて、
前記溶離液シール部材の前記第1の面からの前記第1の突出部の突出量は、前記溶離液シール部材の厚みの3%以上50%以下であってもよい。
【0054】
この場合、溶離液シール部材と第1のイオン交換膜との間のシール性がより向上する。これにより、溶離液が溶離液流路から漏れることがより十分に抑制される。その結果、イオンサプレッサの透析効率をより向上させることができる。
【0055】
(第3項)第1または2項に記載のイオンサプレッサにおいて、
前記溶離液シール部材および前記第1の突出部は、低密度ポリエチレンにより形成されてもよい。
【0056】
この場合、第1の突出部を第1のイオン交換膜に十分強固に押圧することができる。これにより、溶離液が溶離液流路から漏れることがより十分に抑制される。その結果、イオンサプレッサの透析効率をより向上させることができる。
(第4項)第3項に記載のイオンサプレッサにおいて、
前記溶離液シール部材および前記第1の突出部は、密度が0.90g/cm 以上0.93g/cm 以下である低密度ポリエチレンにより形成されてもよい。
【0057】
(第項)第1項~第4のいずれか一項に記載のイオンサプレッサにおいて、
前記溶離液シール部材は、前記第2のイオン交換膜と接触する第2の面を有し、
前記第2の面には、前記溶離液流路の縁に沿うように前記溶離液流路を全周にわたって取り囲みかつ前記第2のイオン交換膜に向かって突出する第2の突出部が形成され
前記第2の突出部は、低密度ポリエチレンにより形成されてもよい。
【0058】
この場合、溶離液流路を全周にわたって取り囲む第2の突出部により溶離液が溶離液流路にさらに閉じ込められるので、溶離液が溶離液流路から漏れることがより十分に抑制される。これにより、溶離液と電極液との間のイオン交換における損失がより減少する。その結果、イオンサプレッサの透析効率をより向上させることができる。
【0059】
(第項)第項に記載のイオンサプレッサにおいて、
前記溶離液シール部材の前記第2の面からの前記第2の突出部の突出量は、前記溶離液シール部材の厚みの3%以上50%以下であってもよい。
【0060】
この場合、溶離液シール部材と第2のイオン交換膜との間のシール性がより向上する。これにより、溶離液が溶離液流路から漏れることがより十分に抑制される。その結果、イオンサプレッサの透析効率をより向上させることができる。
(第7項)第5項または第6項に記載のイオンサプレッサにおいて、
前記溶離液シール部材および前記第2の突出部は、密度が0.90g/cm 以上0.93g/cm 以下である低密度ポリエチレンにより形成されてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8