(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
B62K 5/10 20130101AFI20221214BHJP
【FI】
B62K5/10
(21)【出願番号】P 2019069438
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001058
【氏名又は名称】鳳国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒木 敬造
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃
(72)【発明者】
【氏名】久保 昇太
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/212360(WO,A1)
【文献】特開2013-023166(JP,A)
【文献】特表2015-525708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 5/10
B62D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回時に旋回の内側に傾斜する車両であって、
車体と、
前記車体に支持されているとともに1以上の回動輪を含むN個(Nは2以上の整数)の車輪であって、前輪と後輪とを含み、前記1以上の回動輪の方向は前記車両の幅方向に回動可能である、前記N個の車輪と、
前記1以上の回動輪の前記方向を前記幅方向に回動させるトルクを生成するように構成されている操舵駆動装置と、
前記幅方向の前記車体の傾斜角の角加速度と相関を有する傾斜角加速度パラメータを用いて前記操舵駆動装置を制御するように構成されている操舵制御装置と、
旋回方向と旋回の程度とを示す操作量を入力するために操作されるように構成されている操作入力部と、
を備え、
前記操舵制御装置は、
前記傾斜角加速度パラメータによって示される前記傾斜角の前記角加速度の方向とは反対の方向に前記車両を旋回させるための特定方向のトルクを示す第1制御値を、前記傾斜角加速度パラメータを用いて決定し、
前記操作量を用いて前記車体の前記傾斜角の目標値である目標傾斜角を特定し、
右方向と左方向とのうち前記車体の前記傾斜角を前記目標傾斜角に近づけるための前記車体のロールの方向とは反対の方向に前記車両を旋回させるためのトルクを示す第2制御値を、前記傾斜角と前記目標傾斜角との差を用いて決定し、
前記第1制御値
と前記第2制御値を含む
2以上の制御値を用いて前記操舵駆動装置を制御する、
ように構成されている、
車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両であって、
前記前輪は、前記1以上の回動輪を含み、
前記特定方向は、前記傾斜角加速度パラメータによって示される前記傾斜角の前記角加速度の方向とは反対の方向である、
車両。
【請求項3】
請求項1に記載の車両であって、
前記後輪は、前記1以上の回動輪を含み、
前記特定方向は、前記傾斜角加速度パラメータによって示される前記傾斜角の前記角加速度の方向と同じ方向である、
車両。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の車両であって、
前記第1制御値によって示される前記トルクの大きさは、前記傾斜角加速度パラメータによって示される前記傾斜角の前記角加速度の大きさが大きいほど、大きい、
車両。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の車両であって、
前記車輪の数Nは3以上であり、
前記N個の車輪は、前記幅方向に互いに離れて配置された一対の車輪を含み、
前記車両は、
前記車体を前記幅方向に傾斜させるように構成されている傾斜装置と、
前記傾斜装置を駆動するように構成されている傾斜駆動装置と、
前記車両の旋回時に、前記傾斜駆動装置を制御することによって前記車体を旋回の内側に傾斜させるように構成されている傾斜制御装置と、
を備える、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
旋回時に車体を旋回の内側に傾斜させる車両が提案されている。例えば、車体の車両幅方向の傾斜角を変更する傾斜角変更部と、傾斜角変更部を制御する傾斜制御部と、を備える車両が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、車両が旋回を開始する時など車両の走行状態が変化する時、車両の走行安定性が低下する場合があった。例えば、車両の運転手は、幅方向の大きな加速度を感じる場合があった。
【0005】
本明細書は、車両の走行安定性の低下を抑制できる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示された技術は、以下の適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
旋回時に旋回の内側に傾斜する車両であって、
車体と、
前記車体に支持されているとともに1以上の回動輪を含むN個(Nは2以上の整数)の車輪であって、前輪と後輪とを含み、前記1以上の回動輪の方向は前記車両の幅方向に回動可能である、前記N個の車輪と、
前記1以上の回動輪の前記方向を前記幅方向に回動させるトルクを生成するように構成されている操舵駆動装置と、
前記幅方向の前記車体の傾斜角の角加速度と相関を有する傾斜角加速度パラメータを用いて前記操舵駆動装置を制御するように構成されている操舵制御装置と、
を備え、
前記操舵制御装置は、
前記傾斜角加速度パラメータによって示される前記傾斜角の前記角加速度の方向とは反対の方向に前記車両を旋回させるための特定方向のトルクを示す第1制御値を、前記傾斜角加速度パラメータを用いて決定し、
前記第1制御値を含む1以上の制御値を用いて前記操舵駆動装置を制御する、
ように構成されている、
車両。
【0008】
この構成によれば、操舵駆動装置の制御に用いられる第1制御値が、傾斜角の角加速度の方向とは反対の方向に車両を旋回させるための特定方向のトルクを示すので、操舵駆動装置による特定方向のトルクによって、傾斜角の角加速度に起因する車両の走行安定性の低下を抑制できる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載の車両であって、
前記前輪は、前記1以上の回動輪を含み、
前記特定方向は、前記傾斜角加速度パラメータによって示される前記傾斜角の前記角加速度の方向とは反対の方向である、
車両。
【0010】
この構成によれば、前輪が1以上の回動輪を含む場合に、傾斜角の角加速度に起因する車両の走行安定性の低下を抑制できる。
【0011】
[適用例3]
適用例1に記載の車両であって、
前記後輪は、前記1以上の回動輪を含み、
前記特定方向は、前記傾斜角加速度パラメータによって示される前記傾斜角の前記角加速度の方向と同じ方向である、
車両。
【0012】
この構成によれば、後輪が1以上の回動輪を含む場合に、傾斜角の角加速度に起因する車両の走行安定性の低下を抑制できる。
【0013】
[適用例4]
適用例1から3のいずれかに記載の車両であって、
前記第1制御値によって示される前記トルクの大きさは、前記傾斜角加速度パラメータによって示される前記傾斜角の前記角加速度の大きさが大きいほど、大きい、
車両。
【0014】
この構成によれば、傾斜角の角加速度に起因する車両の走行安定性の低下を、適切に、抑制できる。
【0015】
[適用例5]
適用例1から4のいずれかに記載の車両であって、
前記車輪の数Nは3以上であり、
前記N個の車輪は、前記幅方向に互いに離れて配置された一対の車輪を含み、
前記車両は、
前記車体を前記幅方向に傾斜させるように構成されている傾斜装置と、
前記傾斜装置を駆動するように構成されている傾斜駆動装置と、
前記車両の旋回時に、前記傾斜駆動装置を制御することによって前記車体を旋回の内側に傾斜させるように構成されている傾斜制御装置と、
を備える、車両。
【0016】
この構成によれば、車体は、旋回時に旋回の内側に適切に傾斜できる。
【0017】
[適用例6]
適用例1から5のいずれかに記載の車両であって、
旋回方向と旋回の程度とを示す操作量を入力するために操作されるように構成されている操作入力部を備え、
前記操舵制御装置は、
前記操作量を用いて前記車体の前記傾斜角の目標値である目標傾斜角を特定し、
右方向と左方向とのうち前記車体の前記傾斜角を前記目標傾斜角に近づけるための前記車体のロールの方向とは反対の方向のトルクを示す第2制御値を、前記傾斜角と前記目標傾斜角との差を用いて決定し、
前記第1制御値と前記第2制御値を含む2以上の制御値を用いて前記操舵駆動装置を制御する、
ように構成されている、
車両。
【0018】
この構成によれば、車両は、旋回の内側に車体を傾斜させた状態で、適切に旋回できる。
【0019】
なお、本明細書に開示の技術は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、車両、車両の制御装置、車両の制御方法、等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図4】(A)、(B)は、車両10の概略図である。
【
図5】(A)-(D)は、車両10の状態を示す概略図である。
【
図6】(A)-(D)は、回動システム500の概略図である。
【
図8】車輪角AWと旋回半径Rとの簡略化された関係を示す説明図である。
【
図9】回転する前輪20Lに作用する力の説明図である。
【
図10】車両10の制御に関する構成を示すブロック図である。
【
図11】制御処理の例を示すフローチャートである。
【
図12】制御装置900の一部分のブロック図である。
【
図13】第1傾斜制御処理の例を示すフローチャートである。
【
図14】第1操舵制御処理の例を示すフローチャートである。
【
図15】角加速度AALとトルクTQsとの対応関係を示すグラフである。
【
図16】(A)-(C)は、車両10の挙動の説明図である。(D)、(E)は、パラメータAL、VAL、AAL、AW、GDの経時変化を示すグラフである。
【
図17】(A)車両の別の実施例の概略上面図である。(B)は、角加速度AALとトルクTQsとの対応関係を示すグラフである。
【
図20】車両10dの制御に関する構成を示すブロック図である。
【
図21】操舵モータ550dの制御処理の例を示すフローチャートである。
【
図22】制御装置900dの一部分のブロック図である。
【
図23】第1操舵制御の例を示すフローチャートである。
【
図24】(A)は、dALとTQ1との対応関係を示すグラフである。(B)は、VALとTQ2との対応関係を示すグラフである。(C)は、AALとTQ3との対応関係を示すグラフである。
【
図25】(A)、(B)は、傾斜角加速度パラメータの別の実施例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の順に説明を行う。
A.第1実施例:
A1.車両10の構成:
A2.車両10の制御の概要:
A3.車両10の制御の詳細:
A3-1.制御ブロック:
A3-2.操舵制御処理:
A3-3.傾斜制御処理:
B.第2実施例:
C.第3実施例:
D.傾斜角加速度パラメータの他の実施例:
E.変形例:
【0022】
A.第1実施例:
A1.車両10の構成:
図1-
図3、
図4(A)、
図4(B)は、一実施例としての車両10の概略図である。
図1は、車両10の右側面図であり、
図2は、車両10の上面図であり、
図3は、車両10の下面図であり、
図4(A)は、車両10の第2支持装置600の背面図であり、
図4(B)は、車両10の第1支持装置400の背面図である。これらの図は、水平な地面GL(すなわち、鉛直方向に垂直な地面)上に配置され、傾斜していない状態の車両10を、示している。また、これらの図中には、6つの方向DF、DB、DU、DD、DR、DLが示されている。前方向DFは、車両10の前方向(すなわち、前進方向)である。後方向DBは、前方向DFの反対方向である。上方向DUは、鉛直上方向である。下方向DDは、上方向DUの反対方向であり、鉛直下方向である。右方向DRは、前方向DFに走行する車両10から見た右方向である。左方向DLは、右方向DRの反対方向である。方向DF、DB、DR、DLは、いずれも、水平な方向である。右と左の方向DR、DLは、前方向DFに垂直である。
【0023】
本実施例では、車両10は、一人乗り用の小型車両である。車両10(
図1、
図2)は、車体100と、前輪20L、20Rと、後輪30L、30Rと、を有する四輪車である。左前輪20Lと右前輪20Rとは、車両10の幅方向の中心に対して対称に、互いに離れて配置されている。前輪20L、20Rは、回動輪の例である。回動輪は、車輪の進行方向が車両10の幅方向(すなわち、右方向DRに平行な方向)に回動可能であるように、車体100に支持されている車輪である。左後輪30Lと右後輪30Rとは、駆動輪であり、車両10の幅方向の中心に対して対称に、互いに離れて配置されている。図示を省略するが、車輪20L、20R、30L、30Rは、タイヤと、タイヤを内周側から支持するホイールと、を有している(以下、タイヤの内周側に配置されたホイールを、支持ホイールとも呼ぶ)
【0024】
車体100(
図1)は、本体部110を有している。本体部110の中央部分は、下方向DDに向かって凹んでいる。本体部110は、底部113と、底部113の前方向DF側に接続された前壁部112と、前壁部112の上端から前方向DFに向かって延びる前部111と、底部113の後方向DB側に接続された後壁部114と、後壁部114の上端から後方向DBに向かって延びる後部115と、を有している。本体部110は、例えば、金属製のフレームと、フレームに固定されたパネルと、を有している。
【0025】
車体100は、さらに、底部113上に固定された座席120と、座席120の前方向DF側に配置されたアクセルペダル170とブレーキペダル180と、底部113に固定された制御装置900とバッテリ800と、前部111に取り付けられたシフトスイッチ190とハンドル160と、を有している。図示を省略するが、本体部110には、他の部材(例えば、屋根、前照灯など)が固定され得る。車体100は、本体部110に固定された部材を含んでいる。
【0026】
シフトスイッチ190は、走行モードを選択するためのスイッチである。本実施例では、「ドライブ」と「ニュートラル」と「リバース」と「パーキング」とから1つを選択可能である。「ドライブ」は、駆動輪30L、30Rの駆動によって前進するモードである。「ニュートラル」は、駆動輪30L、30Rが回転自在であるモードである。「リバース」は、駆動輪30L、30Rの駆動によって後退するモードである。「パーキング」は、少なくとも1つの車輪(例えば、後輪30L、30R)が回転不能であるモードである。「ドライブ」と「ニュートラル」とは、通常は、車両10の前進時に利用される。
【0027】
ハンドル160は、車両10の進行方向を制御するための部材である。本実施例では、ハンドル160は、回転軸に沿って延びる支持棒162を有し、支持棒162は、回転軸を中心に左と右とに回転可能に、本体部110の前部111に接続されている。予め決められた直進方向に対するハンドル160の回転方向(右、または、左)は、ユーザの望む旋回方向を示している。この直進方向に対するハンドル160の回転角度を、入力角と呼ぶ。本実施例では、「入力角=ゼロ」は直進を示し、「入力角>ゼロ」は右旋回を示し、「入力角<ゼロ」は、左旋回を示している。入力角の正負の符号は、ユーザの望む旋回方向を示し、入力角の絶対値は、ユーザの望む旋回の程度を示している。入力角は、旋回方向と旋回の程度とを表す操作量の例である。ハンドル160は、操作量を入力するために操作されるように構成された操作入力部の例である。
【0028】
図2には、前輪20L、20Rの回転軸20Lx、20Rxと方向D20L、D20Rとが、示されている。車両10の走行時、前輪20L、20Rは、回転軸20Lx、20Rxを中心に回転する。車両10の前進時には、前輪20L、20Rは、方向D20L、D20Rに向かって、進行する。方向D20L、D20Rは、回転軸20Lx、20Rxに垂直に前方向DF側に延びる方向である。以下、左前輪20Lの方向D20Lを左輪方向D20Lとも呼び、右前輪20Rの方向D20Rを右輪方向D20Rとも呼ぶ。また、
図1、
図2には、回動軸27L、27Rが示されている。車両10の旋回時、方向D20L、D20Rは、回動軸27L、27Rを中心に、旋回方向へ回動する。回動軸27L、27Rは、互いに平行である。
【0029】
図2中の方向D20は、前進時に前輪20L、20Rによって実現される車両10の進行方向である。この方向D20は、前輪20L、20Rの全体と等価な1個の仮想前輪の進行方向に相当する(以下、方向D20を、前輪方向D20と呼ぶ)。前輪方向D20は、前輪20L、20Rの方向D20L、D20Rと、おおよそ同じである。車両10の旋回時には、前輪方向D20は、旋回方向に回動する。
【0030】
車輪角AW(
図2)は、下方向DDを向いて車両10を見る場合に、車体100の前方向DFを基準とする前輪方向D20の角度である。本実施例では、「AW=ゼロ」は、「方向D20=前方向DF」を示している。「AW>ゼロ」は、方向D20が右方向DR側を向いていることを示している(旋回方向=右方向DR)。「AW<ゼロ」は、方向D20が左方向DL側を向いていることを示している(旋回方向=左方向DL)。前輪20L、20Rが操舵される場合、車輪角AWは、いわゆる操舵角に対応する。
【0031】
図1中の角度CAは、鉛直上方向DUと、回動軸27L、27Rに沿って鉛直上方向DU側へ向かう方向と、のなす角度を示している(キャスター角とも呼ばれる)。本実施例では、キャスター角CAがゼロよりも大きい。この場合、回動軸27L、27Rに沿って鉛直上方向DU側へ向かう方向は、斜め後ろに傾斜している。
【0032】
図1中の交点26L、26Rは、回動軸27L、27Rと地面GLとの交点である。交点26L、26Rは、前輪20L、20Rの地面GLとの接触中心29L、29Rよりも、前方向DF側に位置している。交点26L、26Rと接触中心29L、29Rとの間の後方向DBの距離Ltは、トレールと呼ばれる。正のトレールLtは、接触中心29L、29Rが交点26L、26Rよりも後方向DB側に位置していることを示している。なお、
図3に示すように、左前輪20Lの接触中心29Lは、左前輪20Lと地面GLとの接触領域28Lの重心である。接触領域の重心は、接触領域内に質量が均等に分布していると仮定する場合の重心の位置である。他の車輪20R、30L、30Rと地面GLとの接触領域28R、38L、38Rと、接触中心29R、39L、39Rとは、同様に特定される。
【0033】
図4(A)に示すように、2つの後輪30L、30Rは、第2支持装置600に回転可能に支持されている。以下、第2支持装置600を、後輪支持装置600とも呼ぶ。後輪支持装置600は、後リンク機構60と、後リンク機構60に取り付けられた後リーンモータ650と、を有している。後リンク機構60は、いわゆる、平行リンクである。後リンク機構60は、右方向DRに向かって順番に並ぶ3つの縦リンク部材61L、61C、61Rと、下方向DDに向かって順番に並ぶ2つの横リンク部材61U、61Dと、中縦リンク部材61Cの上部に固定された支持部69と、を有している。水平な地面GL上で車体100が傾斜せずに直立している場合、縦リンク部材61L、61C、61Rは、鉛直方向に平行であり、横リンク部材61U、61Dは、水平方向に平行である。2つの縦リンク部材61L、61Rと、2つの横リンク部材61U、61Dとは、平行四辺形リンク機構を形成している。上横リンク部材61Uは、2つの縦リンク部材61L、61Rの上端を連結している。下横リンク部材61Dは、2つの縦リンク部材61L、61Rの下端を連結している。中縦リンク部材61Cは、2つの横リンク部材61U、61Dの中央部分を連結している。リンク部材61L、61C、61R、61U、61Dと、支持部69とは、例えば、金属で形成されている。
【0034】
リンク部材61L、61C、61R、61U、61Dは、軸受を用いて互いに回転可能に連結されている。例えば、軸受68Dは、2個のリンク部材61D、61Cを回転可能に連結し、軸受68Uは、2個のリンク部材61U、61Cを回転可能に連結している。同様に、複数のリンク部材を回転可能に連結している他の部分にも、軸受が設けられている。本実施例では、これらの軸受の回転軸は、車体100の前後方向に延びている(本実施例では、回転軸は、前方向DFに平行である)。互いに連結された2つのリンク部材は、予め決められた角度範囲(例えば、180度未満の範囲)内で、回転軸を中心に相対的に回転可能であってよい。例えば、一方のリンク部材の特定の部分が、他方のリンク部材の特定の部分に接触することによって、角度範囲が制限されてよい。
【0035】
左縦リンク部材61Lには、左駆動モータ660Lが固定されている。左駆動モータ660Lには、左後輪30Lの図示しない支持ホイールが固定されている。左駆動モータ660Lは、図示しないステータとロータとを有する電気モータである。ロータとステータとのうちの一方は、支持ホイールに固定され、他方は、リンク部材61Lに固定されている。左後輪30Lの回転軸30Lxは、左駆動モータ660Lの回転軸と同じである。右縦リンク部材61Rと右駆動モータ660Rと右後輪30Rとの構成は、左縦リンク部材61Lと左駆動モータ660Lと左後輪30Lとの構成と、それぞれ同じである。車体100が水平な地面GL上で傾斜せずに直立している状態では、左後輪30Lの回転軸30Lxと右後輪30Rの回転軸30Rxとは、同じ直線上にあり、右方向DRに平行である。
【0036】
後リーンモータ650は、後リンク機構60を駆動するように構成されている傾斜駆動装置の例である。本実施例では、後リーンモータ650は、中縦リンク部材61Cと上横リンク部材61Uとの連結部分に設けられている。後リーンモータ650は、ステータとロータとを有する電気モータである。ステータとロータのうちの一方は、中縦リンク部材61Cに固定され、他方は、上横リンク部材61Uに固定されている。後リーンモータ650の回転軸は、軸受68Uの回転軸と同じであり、車両10の幅方向の中心に位置している。後リーンモータ650のロータがステータに対して回転すると、上横リンク部材61Uが、中縦リンク部材61Cに対して、回転する。これにより、車両10が傾斜する(詳細は、後述)。以下、後リーンモータ650によって生成されるトルクを、後傾斜トルクとも呼ぶ。後傾斜トルクは、車体100の傾斜角を制御するためのトルクである。
【0037】
図1、
図3、
図4(A)に示すように、後輪支持装置600は、車両10の幅方向に並んで配置された2本のトレーリングアーム680と、後サスペンションシステム670と、を介して、本体部110に接続されている。このように、後輪30L、30Rは、第2支持装置600を介して、車体100に支持されている。
図1では、説明のために、後リンク機構60とトレーリングアーム680とのうちの右後輪30Rに隠れている部分も実線で示されている。本実施例では、2本のトレーリングアーム680は、前方向DFにおおよそ平行に延びている。トレーリングアーム680の前方向DF側の端部は、本体部110の後壁部114に、車体100の幅方向の軸を中心に回転可能に、軸受681を介して連結されている。トレーリングアーム680の後方向DB側の端部は、後リンク機構60(
図4(A))の中縦リンク部材61Cに、車体100の幅方向の軸を中心に回転可能に、軸受682を介して連結されている。
【0038】
後サスペンションシステム670(
図4(A))は、左サスペンション670Lと右サスペンション670Rと、を有している。本実施例では、サスペンション670L、670Rは、コイルスプリング671L、671Rとショックアブソーバ672L、672Rとを内蔵するテレスコピックタイプのサスペンションである。サスペンション670L、670Rの上方向DU側の端部は、本体部110の後部115に、回転可能に連結されている(例えば、玉継ぎ手、ヒンジなど)。サスペンション670L、670Rの下方向DD側の端部は、後リンク機構60の支持部69に、回転可能に連結されている(例えば、玉継ぎ手、ヒンジなど)。
【0039】
図4(B)に示すように、2つの前輪20L、20Rは、第1支持装置400に回転可能に支持されている。以下、第1支持装置400を、前輪支持装置400とも呼ぶ。前輪支持装置400の構成は、後輪支持装置600(
図4(A))の構成と同様である。前輪支持装置400(
図4(B))は、
図4(A)の後リンク機構60と後リーンモータ650とに対応する前リンク機構40と前リーンモータ450とを有している。前リンク機構40は、後リンク機構60のリンク部材61L、61C、61R、61U、61Dと支持部69とに対応するリンク部材41L、41C、41R、41U、41Dと支持部49とを有している。前リンク機構40の軸受48U、48Dは、後リンク機構60の軸受68U、68Dに対応する。前リーンモータ450は、上横リンク部材41Uを、中縦リンク部材41Cに対して回転させることによって、車両10を傾斜させる(詳細は、後述)。以下、前リーンモータ450によって生成されるトルクを、前傾斜トルクとも呼ぶ。前傾斜トルクは、車体100の傾斜角を制御するためのトルクである。
【0040】
なお、
図1に示すように、前輪支持装置400は、ゼロよりも大きいキャスター角CAのために、鉛直上方向DUに対して傾いた状態で、本体部110に接続されている。具体的には、前リンク機構40の縦リンク部材41L、41C、41Rが、前輪20L、20Rの回動軸27L、27Rに平行となるように、前輪支持装置400は傾いている。
図4(B)では、前輪支持装置400の傾斜が省略されている。
【0041】
図4(B)に示すように、前リンク機構40の縦リンク部材41L、41Rは、前輪20L、20Rの回動軸27L、27Rに沿って、それぞれ延びている。左縦リンク部材41Lには、軸受469Lが固定されており、軸受469Lには、左ハブ460Lが接続されている。軸受469Lは、左ハブ460Lを、左縦リンク部材41Lに対して回動軸27Lを中心に回転可能に、支持している。左ハブ460Lには、左前輪20Lの図示しない支持ホイールが、固定されている。左ハブ460Lは、左前輪20Lを、回転軸20Lxを中心に回転可能に、支持している。右縦リンク部材41Rと右ハブ460Rと軸受469Rと右前輪20Rとの構成は、左縦リンク部材41Lと左ハブ460Lと軸受469Lと左前輪20Lとの構成と、それぞれ同じである。車体100が水平な地面GL上で傾斜せずに直立している状態では、前輪20L、20Rの回転軸20Lx、20Rxは、同じ直線上にあり、右方向DRに平行である。
【0042】
なお、前輪支持装置400は、さらに、前輪20L、20Rの方向D20L、D20R(
図2)を変化させる回動システム500を備えている。回動システム500の詳細については、後述する。
【0043】
図1、
図3、
図4(B)に示すように、前輪支持装置400は、車両10の幅方向に並んで配置された2本のリーディングアーム480と、前サスペンションシステム470と、を介して、本体部110に接続されている。このように、前輪20L、20Rは、第1支持装置400を介して、車体100に支持されている。
図1では、説明のために、前リンク機構40とリーディングアーム480とのうちの右前輪20Rに隠れている部分も実線で示されている。本実施例では、2本のリーディングアーム480は、前方向DFにおおよそ平行に延びている。リーディングアーム480の後方向DB側の端部は、本体部110の前壁部112に、車体100の幅方向の軸を中心に回転可能に、軸受481を介して連結されている。リーディングアーム480の前方向DF側の端部は、前リンク機構40(
図4(B))の中縦リンク部材41Cに、車体100の幅方向の軸を中心に回転可能に、軸受482を介して連結されている。
【0044】
前サスペンションシステム470(
図4(B))の構成は、後サスペンションシステム670(
図4(A))の構成と同様である。前サスペンションシステム470は、左サスペンション470Lと右サスペンション470Rと、を有している。サスペンション470L、470Rは、コイルスプリング471L、471Rとショックアブソーバ472L、472Rとを内蔵するテレスコピックタイプのサスペンションである。サスペンション470L、470Rの上方向DU側の端部は、本体部110の前部111に、回転可能に連結されている(例えば、玉継ぎ手、ヒンジなど)。サスペンション470L、470Rの下方向DD側の端部は、前リンク機構40の支持部49に、回転可能に連結されている(例えば、玉継ぎ手、ヒンジなど)。
【0045】
サスペンション470L、470R、670L、670Rは、伸縮することによって、車輪20L、20R、30L、30Rから受ける振動を吸収する。また、車体100は、サスペンション470L、470R、670L、670Rの伸縮によって、幅方向にロール可能である。
【0046】
図1には、重心100cが示されている。重心100cは、車体100の重心である。車体100の重心100cは、車体100が乗員(可能なら荷物も)を積んだ状態での重心である。
【0047】
次に、車体100の傾斜について説明する。
図5(A)、
図5(B)は、水平な地面GL上の車両10の状態を示す概略図である。図中には、車両10のうちの後輪支持装置600を含む一部分の簡略化された背面図が示されている。
図5(A)は、車両10が直立している状態を示し、
図5(B)は、車両10が傾斜している状態を示している。
図5(A)に示すように、上横リンク部材61Uが中縦リンク部材61Cに対して直交する場合、後輪30L、30Rは、水平な地面GLに対して直立する。図示を省略するが、本実施例では、前リンク機構40(
図4(B))の上横リンク部材41Uと中縦リンク部材41Cとの間の角度も、上横リンク部材61Uと中縦リンク部材61Cとの間の角度と同様に、制御される。従って、前輪20L、20Rも、水平な地面GLに対して直立する。以上により、車体100を含む車両10の全体は、地面GLに対して、直立する。図中の車体上方向DVUは、車体100の上方向である。車両10が傾斜していない状態では、車体上方向DVUは、上方向DUと同じである。本実施例では、車体100に対して予め決められた上方向が、車体上方向DVUとして用いられる。
【0048】
図5(B)に示すように、背面図上で、中縦リンク部材61Cが上横リンク部材61Uに対して時計回り方向に回転する場合、右後輪30Rは、車体100に対して車体上方向DVU側に移動し、左後輪30Lは反対側に移動する。右前輪20R(
図4(B))と左前輪20Lも、同様に、移動する。この結果、全ての車輪20L、20R、30L、30Rが地面GLに接触した状態で、これらの車輪20L、20R、30L、30Rは、地面GLに対して右方向DR側に傾斜する。そして、車体100を含む車両10の全体は、地面GLに対して、右方向DR側に傾斜する。一般的には、上横リンク部材61Uが中縦リンク部材61Cに対して傾斜する場合、右後輪30Rと左後輪30Lとの一方が、車体100に対して車体上方向DVU側に移動し、他方は、反対方向側に移動する。前輪支持装置400(
図4(B))についても、同様である。この結果、車輪20L、20R、30L、30R、ひいては、車体100を含む車両10の全体は、地面GLに対して傾斜する。後述するように、車両10が右方向DR側に旋回する場合に、車両10は、右方向DR側に傾斜する。車両10が左方向DL側に旋回する場合に、車両10は、左方向DL側に傾斜する。
【0049】
図5(B)の角度ALは、前方向DFを向いて車両10を見る場合の、上方向DUと車体上方向DVUとの間の角度である(傾斜角ALと呼ぶ)。ここで、「AL>ゼロ」は、右方向DR側への傾斜を示し、「AL<ゼロ」は、左方向DL側への傾斜を示している。車両10が傾斜する場合、車体100を含む車両10の全体が、おおよそ、同じ角度で傾斜する。従って、車体100の傾斜角ALは、車両10の傾斜角ALであると言うことができる。
【0050】
図5(B)の角度ACrは、背面図において、上横リンク部材61Uの向きに対する中縦リンク部材61Cの向きの角度である(後制御角ACrとも呼ぶ)。「ACr=ゼロ」は、中縦リンク部材61Cが、上横リンク部材61Uに対して垂直であることを、示している。「ACr>ゼロ」は、中縦リンク部材61Cが、上横リンク部材61Uに対して時計回り方向に傾いていることを示している。「ACr<ゼロ」は、中縦リンク部材61Cが、上横リンク部材61Uに対して反時計回り方向に傾いていることを示している。図示するように、車両10が水平な地面GL上に位置している場合、後制御角ACrは、傾斜角ALと、おおよそ同じである。
【0051】
図5(A)、
図5(B)中の地面GL上の軸AxLは、傾斜軸AxLである。リンク機構40、60(
図4(B))とリーンモータ450、650とは、車両10を、傾斜軸AxLを中心に、右と左とに傾斜させることができる。本実施例では、傾斜軸AxLは、車両10の幅方向の中心を通り前方向DFに平行な直線である。リンク機構40、60は、車体100を車両10の幅方向に傾斜させるように構成されている傾斜装置の例である(傾斜装置40、60とも呼ぶ)。リーンモータ450、650は、傾斜装置40、60を駆動するように構成されている傾斜駆動装置の例である(傾斜駆動装置450、650とも呼ぶ)。
【0052】
図5(C)、
図5(D)は、
図5(A)、
図5(B)と同様に、車両10の簡略化された背面図を示している。
図5(C)、
図5(D)では、地面GLxは、鉛直上方向DUに対して斜めに傾斜している(右側が高く、左側が低い)。
図5(C)は、後制御角ACrがゼロであり、全ての車輪20L、20R、30L、30R(
図4(B))が、地面GLxに対して直立する状態を示している。この状態では、車体上方向DVUは、地面GLxに対して垂直であり、また、鉛直上方向DUに対して左方向DL側に傾斜している。
【0053】
図5(D)は、傾斜角ALがゼロである状態を示している。この状態では、上横リンク部材61Uは、地面GLxにおおよそ平行であり、中縦リンク部材61Cに対して反時計回りの方向に傾斜している。図示を省略するが、前リンク機構40(
図4(B))の上横リンク部材41Uも、中縦リンク部材41Cに対して反時計回りの方向に傾斜している。そして、車輪20L、20R、30L、30Rは、地面GLに対して傾斜している。このように、地面GLxが傾斜している場合、車体100の傾斜角ALは、リンク機構60の後制御角ACrと、異なり得る。
【0054】
なお、後リンク機構60は、後リンク機構60を固定する図示しないロック機構を有している。ロック機構を作動させることによって、上横リンク部材61Uは、中縦リンク部材61Cに対して回転不能に固定される。この結果、後制御角ACrが固定される。例えば、車両10の駐車時に、後制御角ACrはゼロに固定される。ロック機構としては、メカニカルな機構であって、リンク機構60を固定している最中に電力を消費しない機構が好ましい。このようなロック機構は、前リンク機構40に設けられてもよい。
【0055】
図6(A)-
図6(D)は、回動システム500の概略図である。これらの概略図では、キャスター角CA(
図1)のための前輪支持装置400の傾斜が省略されている。
図6(A)は、背面図であり、
図6(B)、
図6(C)は、上面図である。
図6(B)、
図6(C)には、前輪20L、20Rの方向D20L、D20Rも、示されている。
【0056】
図6(A)、
図6(B)に示すように、回動システム500は、ハブ460L、460Rと、ハブ460L、460Rを、縦リンク部材41L、41Rに対して回転可能に支持する軸受469L、469Rと、ハブ460L、460Rの後方向DB側の部分に接続されたアーム52L、52Rと、アーム52L、52Rの後方向DBの部分に接続されたタイロッド53と、を有している。タイロッド53は、車両10の幅方向に延びる棒部材である。回動システム500は、さらに、回動システム500を駆動するための操舵モータ550と、操舵モータ550とタイロッド53とを接続する駆動アーム52Cと、を備えている。操舵モータ550は、中縦リンク部材41Cに固定されている。駆動アーム52Cは、タイロッド53の中央部に接続されている。
図6(B)は、方向D20L、20Rが前方向DFである状態を示している。
図6(C)は、方向D20L、D20Rが右方向DRへ回動した状態を示している。
図6(C)では、タイロッド53が
図6(B)の状態から左方向DL側に移動しており、ハブ460L、460Rは、回動軸27L、27Rを中心に、それぞれ時計回り方向に回転している。
【0057】
図5(A)、
図5(B)等で説明したように、前リンク機構40(
図6(A))は、車体100が傾斜するように、駆動される。仮に、タイロッド53が直接的にハブ460L、460Rに接続される場合、傾斜時にタイロッド53がねじれ得る。そこで、本実施例では、タイロッド53は、アーム52L、52Rを介して、ハブ460L、460Rに接続されている。
【0058】
具体的には、
図6(B)に示すように、左ハブ460Lの後方向DB側には、回動軸27Lに平行な中心軸462Lに沿って延びるピン461Lが固定されている。左アーム52Lは、軸受52L1を有し、軸受52L1は、462Lを中心に回転可能にピン461Lに取り付けられている。左アーム52Lの後方向DBの端部には、回動軸27Lに垂直な中心軸52L3に沿って延びる軸部52L2が設けられている。タイロッド53の左方向DL側の部分は、軸受53Lを有し、軸受53Lは、中心軸52L3を中心に回転可能に軸部52L2に取り付けられている。
【0059】
右側の構成も、左側の構成と同じである。右アーム52Rの軸受52R1は、中心軸462Rを中心に回転可能に、右ハブ460Rのピン461Rに取り付けられている。中心軸462Rは、回動軸27Rに平行である。右アーム52Rの軸部52R2には、中心軸52R3を中心に回転可能に、タイロッド53の軸受53Rが取り付けられている。中心軸52R3は、回動軸27Rに垂直である。
【0060】
操舵モータ550(
図6(B))は、電気モータであり、中心軸552に沿って延びる駆動ピン551を有している。操舵モータ550は、駆動ピン551を、中縦リンク部材41Cの近傍の回転軸57を中心に回転させることができる。この回転軸57は、前輪20L、20Rの回動軸27L、27Rに平行であり、これらの軸27L、27Rの間の中央位置に配置されている。駆動ピン551の中心軸552は、回転軸57に平行である。駆動アーム52Cは軸受52C1を備え、軸受52C1は、中心軸552を中心に回転可能に、駆動ピン551に取り付けられている。駆動アーム52Cの後方向DB側の端部に設けられた軸部52C2には、中心軸52C3を中心に回転可能に、タイロッド53の軸受53Cが取り付けられている。中心軸52C3は、回転軸57に垂直である。なお、
図6(B)の上面図において、アーム52L、52C、52Rの軸部52L2、52C2、52R2の中心軸52L3、52C3、52R3は、前方向DF側から後方向DB側に向かって延びている。
【0061】
図6(C)に示すように、操舵モータ550が回転軸57を中心に駆動ピン551を時計回りに回転させる場合、駆動アーム52Cは、左方向DL側へ移動する。ここで、アーム52L、52Rとハブ460L、460Rとは、回転軸57に平行な軸27L、27Rを中心に相対的に回転可能である。しかし、アーム52R、52C、52Lとタイロッド53とは、回転軸57に平行な軸を中心に相対的に回転することができない。従って、アーム52R、52C、52Lとタイロッド53とは、左方向DL側へ平行移動し、ハブ460L、460Rは、駆動ピン551と同様に、時計回りに回転する。これにより、方向D20L、D20Rは、右方向DR側へ回動する。同様に、操舵モータ550が回転軸57を中心に駆動ピン551を反時計回りに回転させる場合、方向D20L、D20Rは、左方向DL側へ回動する。このように、操舵モータ550は、回動輪20L、20Rの方向D20L、D20Rを車両10の幅方向に回動させるトルクを生成するように構成されている操舵駆動装置の例である(操舵駆動装置550とも呼ぶ)。以下、操舵モータ550によって生成されるトルクを、回動トルクとも呼ぶ。なお、回動トルクが小さい場合、前輪20L、20Rの方向D20L、D20Rが入力角とは独立に左右に回動することが許容される。
【0062】
図6(D)は、
図6(A)と同様の回動システム500の背面図である。図中では、前輪20L、20Rは、右方向DRへ回動し、そして、右方向DRへ傾斜している。この場合、アーム52L、52C、52Rも、右方向DRへ傾斜する。
図6(B)で説明したように、アーム52L、52C、52Rは、タイロッド53に対して、軸27L、57、27Rに垂直な軸52L3、52C3、52R3を中心に、それぞれ回転可能である。従って、
図6(D)に示すように、タイロッド53は、地面GLにおおよそ平行な状態に、維持される。図示を省略するが、前輪20L、20Rが、左方向DLへ回動し、そして、左方向DLへ傾斜する場合も、同様である。
【0063】
図7は、旋回時の力のバランスの説明図である。図中には、旋回方向が右方向である場合の後輪30L、30Rの背面図が示されている。後述するように、旋回方向が右方向である場合、制御装置900(
図1)は、後輪30L、30R(ひいては、車両10)が地面GLに対して右方向DRに傾斜するように、リーンモータ450、650を制御する場合がある。
【0064】
図中の第1力F1は、車体100に作用する遠心力である。第2力F2は、車体100に作用する重力である。ここで、車体100の質量をm(kg)とし、重力加速度をg(おおよそ、9.8m/s2)とし、鉛直方向に対する車両10の傾斜角をAL(度)とし、旋回時の車両10の速度をV(m/s)とし、旋回半径をR(m)とする。第1力F1と第2力F2とは、以下の式1、式2で表される。
F1 = (m*V2)/R (式1)
F2 = m*g (式2)
ここで、*は、乗算記号(以下、同じ)。
【0065】
また、図中の力F1bは、第1力F1の、車体上方向DVUに垂直な方向の成分である。力F2bは、第2力F2の、車体上方向DVUに垂直な方向の成分である。力F1bと力F2bとは、以下の式3、式4で表される。
F1b = F1*cos(AL) (式3)
F2b = F2*sin(AL) (式4)
ここで、「cos()」は、余弦関数であり、「sin()」は、正弦関数である(以下、同じ)。
【0066】
力F1bは、車体上方向DVUを左方向DL側に回転させる成分であり、力F2bは、車体上方向DVUを右方向DR側に回転させる成分である。車両10が傾斜角AL(さらには、速度Vと旋回半径R)を保ちつつ旋回を続ける場合には、F1bとF2bとの関係は、以下の式5で表される
F1b = F2b (式5)
式5に上記の式1~式4を代入すると、旋回半径Rは、以下の式6で表される。
R = V2/(g*tan(AL)) (式6)
ここで、「tan()」は、正接関数である(以下、同じ)。
式6は、車体100の質量mに依存せずに、成立する。ここで、式6の「AL」を、傾斜角ALの絶対値ALaに置換することによって得られる以下の式6aは、車体100の傾斜方向に拘わらずに、成立する。
R = V2/(g*tan(ALa)) (式6a)
【0067】
図8は、車輪角AWと旋回半径Rとの簡略化された関係を示す説明図である。図中には、下方向DDを向いて見た車輪20L、20R、30L、30Rが示されている。前輪方向D20は、右方向DRに回動しており、車両10は、右方向DRに旋回する。図中の前中心Cfは、2つの前輪20L、20Rの間の中心である。後中心Cbは、2つの後輪30L、30Rの間の中心である。中心Crは、旋回の中心である。車両10の旋回運動は、車両10の公転運動と、車両10の自転運動と、を含んでいる。中心Crは、公転運動の中心である(公転中心Crとも呼ぶ)。ホイールベースLhは、前中心Cfと後中心Cbとの間の前方向DFの距離である。
図1に示すように、車体100が傾斜せず、前輪方向D20は前方向DFと同じである場合、ホイールベースLhは、前輪20L、20Rの回転軸20Lx、20Rxと、後輪30L、30Rの回転軸30Lx、30Rxとの間の前方向DFの距離である。
【0068】
図8に示すように、前中心Cfと後中心Cbと公転中心Crとは、直角三角形を形成する。点Cbの内角は、90度である。点Crの内角は、車輪角AWと同じである。従って、車輪角AWと旋回半径Rとの関係は、以下の式7で表される。
AW = arctan(Lh/R) (式7)
ここで「arctan()」は、正接関数の逆関数である(以下、同じ)。
【0069】
上記の式6、式6a、式7は、車両10が、速度Vと旋回半径Rとが変化しない状態で、旋回している場合に成立する関係式である。なお、現実の車両10の挙動と、
図8の簡略化された挙動と、の間には、種々の差異が存在する。例えば、現実の車輪20L、20R、30L、30Rは、地面に対して滑り得る。また、現実の車輪20L、20R、30L、30Rは、地面に対して傾斜し得る。従って、現実の旋回半径は、式7の旋回半径Rと異なり得る。ただし、式7は、車輪角AWと旋回半径Rとの関係を示す良い近似式として、利用可能である。
【0070】
本実施例では、車体100が傾斜する場合に、前輪20L、20Rには、前輪20L、20Rの方向D20L、D20R(
図2)を傾斜方向に回動させる種々の力が作用する。例えば、以下に説明するように、回転する前輪20L、20Rの角運動量に起因して、前輪20L、20Rには、方向D20L、D20Rを車体100の傾斜方向に回動させるトルクが作用する(ジャイロモーメントとも呼ばれる)。
【0071】
図9は、回転する前輪20Lに作用する力の説明図である。図中には、前輪20Lの斜視図が示されている。図中には、前輪20Lの回転軸20Lxと回動軸27Lと前軸AxPとが示されている。回動軸27Lは、上方向DU側から下方向DD側に向かって延びている。前軸AxPは、前輪20Lの重心20Lcを通り、左輪方向D20Lに平行な軸である。なお、前輪20Lの回転軸20Lxも、重心20Lcを通っている。左輪方向D20Lは、前方向DFを向いている。
【0072】
本実施例では、
図4(B)、
図5(A)-
図5(D)に示すように、車体100がロールする場合には、傾斜装置40の縦リンク部材41L、41Rは、車体100とともにロールする。従って、前輪20Lの回動軸27Lも、車体100とともにロールする。この場合、前輪20Lの回転軸20Lxは、同じ方向へロールしようとする。走行中の車両10の車体100が右方向DR側にロールする場合、回転軸20Lxを中心に回転する前輪20Lに、右方向DR側へロールさせるトルクTqxが作用する。このトルクTqxは、前軸AxPを中心に前輪20Lを右方向DR側へロールさせようとする力の成分を含んでいる。このように、回転する物体に外部トルクが印加される場合の物体の運動は、歳差運動として知られている。例えば、回転する物体は、回転軸と外部トルクの軸とに垂直な軸を中心に、回転する。
図9の例では、トルクTqxの印加によって、回転する前輪20Lは、回動軸27Lを中心に右方向DR側へ回転する。このように、回転する前輪20Lの角運動量に起因して、前輪20Lの方向D20Lは、車体100の傾斜方向に回動する。右前輪20Rについても、同様である。
【0073】
A2.車両10の制御の概要:
図10は、車両10の制御に関する構成を示すブロック図である。車両10は、車速センサ720と、前制御角センサ741と、後制御角センサ742と、車輪角センサ755と、入力角センサ760と、アクセルペダルセンサ770と、ブレーキペダルセンサ780と、鉛直方向センサ790と、シフトスイッチ190と、制御装置900と、右駆動モータ660Rと、左駆動モータ660Lと、前リーンモータ450と、後リーンモータ650と、操舵モータ550と、を有している。
【0074】
車速センサ720は、車両10の車速Vを検出するセンサであり、右ハブ460R(
図1)に取り付けられている。車速センサ720は、右前輪20Rの回転速度、すなわち、車速Vを検出する。なお、車速センサ720の測定対象は、他の車輪であってよい。車速センサ720は、左ハブ460L、左駆動モータ660L、右駆動モータ660Rのいずれかに取り付けられてよい。
【0075】
前制御角センサ741(
図10)は、前リンク機構40(
図4(B))の前制御角ACfを検出するセンサであり、上横リンク部材41Uと中縦リンク部材41Cとの連結部分に取り付けられている。前制御角ACfは、
図5(B)等で説明した後制御角ACrと同様に、上横リンク部材41Uの向きに対する中縦リンク部材41Cの向きの角度である。後制御角センサ742(
図10)は、後リンク機構60(
図5(B))の後制御角ACrを検出するセンサであり、上横リンク部材61U(
図4(A))と中縦リンク部材61Cとの連結部分に取り付けられている。以下、センサ741、742は、
図5(B)のように水平な地面GL上においては、制御角ACf、ACrが傾斜角ALと同じとなるように、構成されていることとする。
【0076】
車輪角センサ755(
図10)は、車輪角AW(
図2)を検出するセンサであり、操舵モータ550(
図6(A))に取り付けられている。操舵モータ550による駆動ピン551の回転位置と、車輪角AWと、の対応関係は、予め実験的に特定されている。車輪角センサ755は、この対応関係と駆動ピン551の回転位置とに基づいて、車輪角AWを示す信号を出力するように構成されている。入力角センサ760は、ハンドル160(
図1)の回転角度である入力角Aiを検出するセンサであり、ハンドル160の支持棒162に取り付けられている。アクセルペダルセンサ770は、アクセル操作量AAを検出するセンサであり、アクセルペダル170(
図1)に取り付けられている。ブレーキペダルセンサ780は、ブレーキ操作量ABを検出するセンサであり、ブレーキペダル180(
図1)に取り付けられている。
【0077】
各センサ720、741、742、755、760、770、780は、例えば、レゾルバ、または、エンコーダを用いて構成されている。
【0078】
鉛直方向センサ790は、鉛直下方向DDを特定するセンサである。本実施例では、鉛直方向センサ790は、車体100(
図1)に固定されている(具体的には、後壁部114)。本実施例では、鉛直方向センサ790は、制御部791と、加速度センサ792と、ジャイロセンサ793と、を含んでいる。加速度センサ792は、任意の方向の加速度を検出するセンサであり、例えば、3軸の加速度センサである。以下、加速度センサ792によって検出される加速度の方向を、検出方向と呼ぶ。車両10が停止している状態では、検出方向は、鉛直下方向DDと同じである。ジャイロセンサ793は、任意の方向の回転軸を中心とする角加速度を検出するセンサであり、例えば、3軸の角加速度センサである。制御部791は、加速度センサ792からの信号とジャイロセンサ793からの信号と車速センサ720からの信号とを用いて鉛直下方向DDを特定する装置である。制御部791は、例えば、コンピュータを含むデータ処理装置である。
【0079】
制御部791は、車速センサ720によって特定される車速Vを用いることによって、車両10の加速度を算出する。算出される加速度は、前方向DFに平行な方向の加速度を示している。そして、制御部791は、加速度を用いることによって、車両10の加速度に起因する鉛直下方向DDに対する検出方向のずれを特定する(例えば、検出方向の前方向DFまたは後方向DBのずれが特定される)。また、制御部791は、ジャイロセンサ793によって特定される角加速度を用いることによって、車両10の角加速度に起因する鉛直下方向DDに対する検出方向のずれを特定する(例えば、検出方向の右方向DRまたは左方向DLのずれが、特定される)。制御部791は、特定されたずれを用いて検出方向を修正することによって、鉛直下方向DDを特定する。このように鉛直方向センサ790は、車両10の種々の走行状態において、適切な鉛直下方向DDを特定できる。
【0080】
制御装置900は、主制御部910と、駆動装置制御部920と、リーンモータ制御部930と、操舵モータ制御部940と、を有している。制御装置900は、バッテリ800(
図1)からの電力を用いて動作する。本実施例では、制御部910-940は、それぞれ、コンピュータを有している。具体的には、制御部910-940は、プロセッサ910p-940p(例えば、CPU)と、揮発性記憶装置910v-940v(例えば、DRAM)と、不揮発性記憶装置910n-940n(例えば、フラッシュメモリ)と、を有している。不揮発性記憶装置910n-940nには、対応する制御部910-940の動作のためのプログラム910g-940gが、それぞれ、予め格納されている。また、主制御部910の不揮発性記憶装置910nには、マップデータMAL、MAWが、予め格納されている。リーンモータ制御部930の不揮発性記憶装置930nには、マップデータMFRが、予め格納されている。プロセッサ910p-940pは、それぞれ、対応するプログラム910g-940gを実行することによって、種々の処理を実行する。
【0081】
主制御部910のプロセッサ910pは、上記の複数のセンサとシフトスイッチ190とからの信号を用いて、制御部920、930、940に指示を出力する。駆動装置制御部920のプロセッサ920pは、主制御部910からの指示に従って、駆動モータ660L、660Rを制御する。リーンモータ制御部930のプロセッサ930pは、主制御部910からの指示に従って、リーンモータ450、650を制御する。操舵モータ制御部940のプロセッサ940pは、主制御部910からの指示に従って、操舵モータ550を制御する。これらの制御部920、930、940は、それぞれ、制御対象のモータ660L、660R、450、650、550にバッテリ800からの電力を供給する電力制御部920c、930c、940cを有している。電力制御部920c、930c、940cは、電気回路(例えば、インバータ回路)を用いて、構成されている。
【0082】
以下、制御部910、920、930、940のプロセッサ910p、920p、930p、940pが処理を実行することを、単に、制御部910、920、930、940が処理を実行する、とも表現する。
【0083】
図11は、制御装置900(
図10)によって実行される制御処理の例を示すフローチャートである。
図11のフローチャートは、リーンモータ450、650と操舵モータ550との制御の手順を示している。以下、フローチャートでは、各ステップに、文字「S」と、文字「S」に続く数字と、を組み合わせた符号が、付されている。
【0084】
S110では、主制御部910は、上記の複数のセンサとシフトスイッチ190とからの信号を取得する。S120では、主制御部910は、「走行モードがドライブとニュートラルとのいずれかである」という条件が満たされるか否かを判断する。S120の条件は、車両10が前進していることを、示している。
【0085】
S120の判断結果が、Yesである場合、制御装置900は、S130、S140を並行して実行する。S130は、リーンモータ450、650を制御する第1傾斜制御処理である。S140は、操舵モータ550を制御する第1操舵制御処理である。S130、S140では、制御装置900は、車両10が入力角に対応付けられた方向に進むように、リーンモータ450、650と操舵モータ550とを制御する(詳細は、後述)。S130、S140の後、制御装置900は、
図11の処理を終了する。
【0086】
S120で、「走行モードがドライブとニュートラルとのいずれかである」という条件が満たされない場合(S120:No)、主制御部910は、S150、S160の処理を並行して実行する。本実施例では、S150の処理は、S130の処理と同じである。S160の処理は、S140の処理と同じである。S150、S160の後、制御装置900は、
図11の処理を終了する。
【0087】
制御装置900は、
図11の処理を繰り返し実行する。S120の条件が満たされる場合(S120:Yes)、制御装置900は、S130、S140の処理を、継続して行う。S120の条件が満たされない場合(S120:No)、制御装置900は、S150、S160の処理を、継続して行う。これらの結果、車両10は、入力角に適した進行方向に向かって、走行する。
【0088】
図示を省略するが、主制御部910(
図10)と駆動装置制御部920とは、アクセル操作量AAとブレーキ操作量ABとシフトスイッチ190とに応じて電気モータ660L、660Rを制御する駆動制御部970として機能する。例えば、アクセル操作量AAが増大した場合、制御部910、920は、電気モータ660L、660Rの出力パワーを増大させる。アクセル操作量AAが減少した場合、制御部910、920は、電気モータ660L、660Rの出力パワーを減少させる。ブレーキ操作量がゼロよりも大きい場合、制御部910、920は、電気モータ660L、660Rの出力パワーを減少させる。なお、車両10は、車輪20L、20R、30L、30Rのうちの少なくとも1つの車輪の回転速度を摩擦によって低減するブレーキ装置を有することが好ましい。そして、ユーザがブレーキペダル180を踏み込んだ場合に、ブレーキ装置が、少なくとも1つの車輪の回転速度を低減することが好ましい。
【0089】
A3.車両10の制御の詳細:
A3-1.制御ブロック:
図12は、制御装置900のうち、リーンモータ450、650と操舵モータ550との制御に関連する部分のブロック図である。主制御部910は、傾斜角特定部911と、第1減算部912と、目標傾斜角決定部913と、目標車輪角決定部914と、第2減算部915と、角加速度特定部916と、を含んでいる。処理部911-916は、主制御部910(
図10)のプロセッサ910pによって実現されている。リーンモータ制御部930は、第1制御部931と、電力制御部930cと、を含んでいる。第1制御部931は、リーンモータ制御部930のプロセッサ930pによって実現されている。操舵モータ制御部940は、第1制御部941と、第2制御部942と、第1加算部943と、電力制御部940cと、を含んでいる。処理部941-943は、操舵モータ制御部940のプロセッサ940pによって実現されている。以下、プロセッサ910p、930p、940pが、処理部として処理を実行することを、処理部が処理を実行する、とも表現する。
【0090】
A3-2.傾斜制御処理:
図13は、第1傾斜制御処理(
図11:S130)の例を示すフローチャートである。S210では、主制御部910(
図12)は、センサ720、741、742、760、790からのパラメータV、ACf、ACr、Ai、DDをそれぞれ示す情報を取得する。
【0091】
S220では、傾斜角特定部911(
図12)は、鉛直下方向DDを用いて、傾斜角ALを算出する。本実施例では、鉛直方向センサ790(
図1)は車体100の本体部110に固定されているので、車体100(ひいては、車体上方向DVU(
図5(B)))に対する鉛直方向センサ790の向きは、予め決められている。傾斜角特定部911は、車体上方向DVUに対する鉛直方向センサ790の向きを用いて、鉛直下方向DDの反対の方向である上方向DUと、車体上方向DVUと、の間の傾斜角ALを、算出する。
【0092】
なお、主制御部910のうちの傾斜角特定部911として動作する部分と、車速センサ720と、鉛直方向センサ790と、の全体は、傾斜角ALを測定するように構成された傾斜角センサの例である。以下、傾斜角特定部911と車速センサ720と鉛直方向センサ790との全体を、傾斜角センサ730とも呼ぶ。
【0093】
S230(
図13)では、目標傾斜角決定部913は、傾斜角ALの目標値である第1目標傾斜角ALtを決定する。本実施例では、第1目標傾斜角ALtは、入力角Aiと車速Vとを用いて、特定される。第1目標傾斜角ALtは、入力角Aiによって示される旋回の内側に車体100が傾斜するように、決定される。入力角Aiと車速Vとの組み合わせに対応する第1目標傾斜角ALtは、傾斜角マップデータMAL(
図10)によって予め決められている。目標傾斜角決定部913は、この傾斜角マップデータMALを参照することによって、第1目標傾斜角ALtを特定する。本実施例では、車速Vが一定である場合には、入力角Aiの絶対値が大きいほど、第1目標傾斜角ALtの絶対値が大きい。これにより、入力角Aiの絶対値が大きいほど旋回半径R(
図7)が小さくなるので、車両10は、入力角Aiに適した旋回半径Rで、旋回できる。入力角Aiが一定である場合の車速Vと第1目標傾斜角ALtとの対応関係は、種々の対応関係であってよい。例えば、車速Vが車速閾値(例えば、15km/h)以下である範囲では、入力角Aiが一定である場合に、第1目標傾斜角ALtは、車速Vが速いほど大きくなるように、調整されてよい。そして、車速Vが予め決められた車速閾値を超える範囲では、入力角Aiが一定である場合に、第1目標傾斜角ALtは、車速Vに拘わらずに、一定であってよい。なお、第1目標傾斜角ALtの特定に用いられる情報は、入力角Aiと車速Vとの組み合わせに代えて、入力角Aiを含む1以上の任意の情報であってよい。例えば、車速Vを用いずに、第1目標傾斜角ALtが特定されてよい。
【0094】
S240では、第1減算部912は、第1目標傾斜角ALtから傾斜角ALを減算することによって差dALを算出する(傾斜角差dALとも呼ぶ)。第1減算部912は、傾斜角差dALを示す情報を、リーンモータ制御部930に供給する。
【0095】
S250では、リーンモータ制御部930の第1制御部931は、傾斜角差dALをゼロに近づけるための第1制御値VLcを決定する。本実施例では、第1制御部931は、フィードバック制御によって、第1制御値VLcを決定する。フィードバック制御としては、種々の制御が可能である。第1制御部931は、例えば、いわゆるPID(Proportional Integral Derivative)制御によって、第1制御値VLcを決定してよい。第1制御値VLcは、リーンモータ450、650に供給すべき電流の向きと大きさとを示す値であってよい。例えば、第1制御値VLcの絶対値は、電流の大きさを示し、第1制御値VLcの正負の符号は、電流の向きを示してよい。第1制御値VLcによって示されるリーンモータ450、650のトルクの方向は、傾斜角ALを第1目標傾斜角ALtに近づける方向である。
【0096】
S260では、第1制御部931は、第1制御値VLcを示す情報を、電力制御部930cに供給する。S270では、電力制御部930cは、第1制御値VLcに従って、リーンモータ450、650に供給される電力を制御する。本実施例では、電力制御部930cは、制御角ACf、ACrを用いて、前制御角ACfと後制御角ACrとの間の差が小さくなるように、2個のリーンモータ450、650の間のパワーの配分を調整する。パラメータVLc、ACf、ACrの組み合わせに対応する前リーンモータ450に供給すべき電流の向きと大きさと後リーンモータ650に供給すべき電流の向きと大きさとは、リーンマップデータMFR(
図10)によって予め決められている。電力制御部930cは、このリーンマップデータMFRを参照することによって、各リーンモータ450、650の電流の向きと大きさとを、特定してよい。
【0097】
以上により、
図13の処理、すなわち、
図11のS130が終了する。本実施例では、第1制御部931は、傾斜角差dALを用いてリーンモータ450、650のトルクのフィードバック制御を行う。これにより、傾斜角ALは第1目標傾斜角ALtに近づく。
【0098】
A3-3.操舵制御処理:
図14は、第1操舵制御処理(
図11:S140)の例を示すフローチャートである。S310では、主制御部910(
図12)は、センサ720、755、760からのパラメータV、AW、Aiをそれぞれ示す情報を、取得する。
【0099】
続くS323-S328の処理と、S343-S346の処理とは、並行して実行される。S323では、主制御部910の目標車輪角決定部914は、車輪角AWの目標値である目標車輪角AWtを決定する。本実施例では、入力角Aiと車速Vとを用いて、目標車輪角AWtが特定される。パラメータAi、Vの組み合わせに対応する目標車輪角AWtは、車輪角マップデータMAW(
図10)によって予め決められている。目標車輪角決定部914は、車輪角マップデータMAWを参照して、目標車輪角AWtを特定する。特定される目標車輪角AWtは、車速Vと第1目標傾斜角ALtと上記の式6、式7とを用いて特定される車輪角AWと、同じである。目標車輪角決定部914は、車速Vと第1目標傾斜角ALtとを用いて目標車輪角AWtを特定してもよい。車輪角マップデータMAWは、パラメータV、ALtの組み合わせと目標車輪角AWtとの対応関係を規定してよい。また、目標車輪角AWtの特定に用いられる情報は、入力角Aiを含む1以上の任意の情報であってよい。また、目標車輪角AWtの特定に用いられる情報は、第1目標傾斜角ALtの特定に用いられる情報と同じであってよい。
【0100】
S325(
図14)では、第2減算部915は、目標車輪角AWtから車輪角AWを減算することによって差dAWを算出する(車輪角差dAWとも呼ぶ)。第2減算部915は、車輪角差dAWを示す情報を、操舵モータ制御部940に供給する。
【0101】
S328では、操舵モータ制御部940の第1制御部941は、車輪角差dAWをゼロに近づけるための角差制御値VW1を決定する。角差制御値VW1は、後述の駆動制御値VWcのうち、操舵モータ550のトルクのフィードバック制御を行う成分である。第1制御部941は、例えば、いわゆるPID制御によって、角差制御値VW1を決定してよい。角差制御値VW1は、操舵モータ550に供給すべき電流の向きと大きさとを示す値であってよい。例えば、角差制御値VW1の絶対値は、電流の大きさを示し、角差制御値VW1の正負の符号は、電流の向きを示してよい。角差制御値VW1によって示される操舵モータ550のトルクの方向は、車輪角AWを目標車輪角AWtに近づける方向である。
【0102】
S343では、角加速度特定部916は、傾斜角ALの角加速度AALを算出する。そして、角加速度特定部916は、角加速度AALを示す情報を、操舵モータ制御部940に供給する。角加速度AALの算出方法は、公知の方法であってよい。例えば、現行の傾斜角AL(すなわち、最新の傾斜角AL)から、現在から所定時間だけ過去の時点での傾斜角ALを減算して得られる値が、傾斜角ALの微分値、すなわち、角速度として用いられてよい。そして、現行の角速度(すなわち、最新の角速度)から、現在から所定時間だけ過去の時点での角速度を減算して得られる値が、角速度の微分値、すなわち、角加速度AALとして用いられてよい。
【0103】
S346では、操舵モータ制御部940の第2制御部942は、角加速度AALを用いて、角加速度制御値VW2を決定する。
図15は、角加速度AALとトルクTQsとの対応関係を示すグラフである。横軸は、角加速度AALを示し、縦軸は、トルクTQsを示している。本実施例では、正の角加速度AALの方向は、右方向であり、負の角加速度AALの方向は、左方向である。トルクTQsは、角加速度制御値VW2によって示される操舵モータ550のトルクである。図示するように、トルクTQsの方向は、角加速度AALの方向とは反対の方向である。また、本実施例では、トルクTQsの絶対値は、角加速度AALの絶対値に比例している。
【0104】
図16(A)-
図16(C)は、トルクTQsによる車両10の挙動の説明図である。
図16(A)、
図16(C)は、車両10の背面図を示し、
図16(B)は、車両10の上面図を示している。
図16(A)は、直立する車両10が前進している状態で、右に旋回するためにハンドル160が右に回転された場合を示している。ハンドル160の右回転により、リーンモータ450、650(
図4(A)、
図4(B))は、車体100を右方向DR側に傾斜させるトルクを生成する。これにより、車体100は、右方向DRへ傾斜し始める。このとき、角加速度AALが増大する。角加速度AALの方向は、右方向DRである。車体100の傾斜の開始によって、車両10の運転手Dは、車体100の傾斜方向とは反対の左方向DLの力GDを感じ得る。
【0105】
ここで、操舵モータ550が、前輪20L、20Rに、
図15に示すトルクTQsを印加すると仮定する。
図16(B)に示すように、トルクTQsの方向は、角加速度AALの方向(ここでは、右方向DR)とは反対の方向に車両10を旋回させる左方向DLである。このトルクTQsは、前輪20L、20Rの方向D20L、D20R、すなわち、前輪方向D20を、左方向DLへ回動させる。このような車輪の制御は、カウンタステアリングとも呼ばれる。
【0106】
前輪方向D20が左方向DL側を向く場合、車両10は、左方向DL側に向かって旋回する。この結果、運転手Dを含む車体100には遠心力F3が作用する。遠心力F3は、意図された旋回方向である右方向DRを向いている。従って、車体100(
図16(C))は、遠心力F3を利用して、右方向DRへ素早くロールできる。そして、運転手Dによって感じられる力GDは、小さくなる。
【0107】
通常は、入力角Aiが変化する場合、すなわち、傾斜角ALの素早い変化が望まれる場合に、角加速度AALの絶対値が大きい。角加速度制御値VW2は、この様な場合に、傾斜角ALを素早く第1目標傾斜角ALtに近づけることができる。
【0108】
S350(
図14)では、第1加算部943(
図12)は、角差制御値VW1と角加速度制御値VW2とを加算することによって、駆動制御値VWcを算出する。S360では、第1加算部943は、駆動制御値VWcを示す情報を、電力制御部940cに供給する。S370では、電力制御部940cは、駆動制御値VWcに従って、操舵モータ550に供給される電力を制御する。これにより、
図14の処理、すなわち、
図11のS140の処理が終了する。なお、駆動制御値VWcは、操舵モータ550の目標トルクを示している。操舵モータ550は、この目標トルクに従って、制御される。
【0109】
なお、
図16(B)では、説明のために、方向D20L、D20R、D20が大きく左方向DL側に回動している。実際には、
図15の対応関係は、車両10が安定して走行できるように、予め実験的に決定される。この結果、トルクTQsに起因する方向D20L、D20R、D20の変化は、小さい値であり得る。また、角加速度AALの絶対値が大きい場合、すなわち、傾斜角ALの角速度が変化する場合に、トルクTQsの絶対値が大きくなる。同じ走行状態が続く場合(例えば、同じ入力角Aiが続く場合)、傾斜角ALの角速度の変化は小さい。従って、操舵モータ550は、主に角差制御値VW1に従って、制御される。この結果、車輪角AWは、目標車輪角AWtに近づく。
【0110】
図16(D)は、車両10のシミュレーションによるパラメータAL、VAL、AAL、AW、GDの経時変化を示すグラフである。横軸は、時間Tを示している。パラメータVALは、傾斜角ALの角速度である。図示を省略するが、このシミュレーションでは、先ず、車両10は、一定速度で直進する。入力角Aiは、ゼロである。その後、第1時間T1から第2時間T2の間に、ハンドル160が右方向に回転され、入力角Aiは、ゼロから右旋回を示す特定の値に変更される。第2時間T2から第3時間T3の間は、入力角Aiは、同じ値に維持される。そして、第3時間T3から第4時間T4の間に、ハンドル160が左方向に回転され、入力角Aiはゼロに戻る。第4時間T4の後は、入力角Aiは、ゼロに維持される。
【0111】
図示するように、第1時間T1から第2時間T2までの期間では、傾斜角ALは、ゼロから正値に変化する。第2時間T2から第3時間T3までの期間では、傾斜角ALは、おおよそ一定に維持される。第3時間T3から第4時間T4までの期間では、傾斜角ALは、正値からゼロに変化する。第4時間T4の後は、傾斜角ALは、小さい振幅で減衰振動する。
【0112】
角速度VALは、傾斜角ALの変化に応じて、変化する。角加速度AALは、角速度VALの変化に応じて、変化する。第1時間T1の直後、角加速度AALは、ゼロから増大して正値になる。これに応じて、車輪角AWは、ゼロから一時的に負値AWnになる。その後、角加速度AALは、減少する。車輪角AWは、負値AWnから、ゼロに変化し、ゼロから正値に変化する。第2時間T2から第3時間T3までの期間では、車輪角AWは、おおよそ一定に維持される。第3時間T3から第4時間T4までの期間では、車輪角AWは、正値からゼロに変化する。第4時間T4の後は、車輪角AWは、おおよそゼロに維持される。
【0113】
力GDは、第1時間T1から第2時間T2までの期間では、左方向に向かって強くなる。第2時間T2から第3時間T3までの期間では、力GDは、おおよそ一定に維持される。第3時間T3から第4時間T4までの期間では、力GDは、弱くなって、おおよそゼロになる。第4時間T4の後は、力GDは、小さい振幅で減衰振動してゼロになる。
【0114】
図16(E)は、角加速度制御値VW2を用いずに操舵モータ550が制御される場合のシミュレーション結果を示すグラフである。図示を省略するが、入力角Aiの変化パターンは、
図16(D)における変化パターンと同じである。また、傾斜角ALの変化パターンは、
図16(D)における変化パターンと、おおよそ同じである。
図16(D)のグラフとは異なり、第1時間T1から第2時間T2までの期間では、車輪角AWは、負値にはならずに、ゼロから正値に変化する。そして、第1時間T1の後、力GDは、左方向に向かって強くなり、その後、減衰振動して左方向の特定の値になる。ここで、力GDは、第1力GD1のように大幅に強くなっている。この理由は、角加速度制御値VW2(ひいては、カウンタステアリング)が用いられないからである。第3時間T3の後、力GDは、減衰振動してゼロになる。ここで、力GDは、第2力GD2、第3力GD3のように大幅に強くなっている。この理由も、角加速度制御値VW2(ひいては、カウンタステアリング)が用いられないからである。本実施例では、
図16(D)のように、力GDを抑制できる。
【0115】
以上のように、本実施例では、車両10(
図1-
図3)は、車体100と、車体100に支持されている車輪20L、20R、30L、30Rと、を備えている。車輪20L、20R、30L、30Rは、前輪20L、20Rと、後輪30L、30Rと、を含んでいる。前輪は、車両10の幅方向に互いに離れた配置された一対の車輪20L、20Rを含んでいる。後輪は、車両10の幅方向に互いに離れた配置された一対の車輪30L、30Rを含んでいる。前輪20L、20Rの方向D20L、D20R(ひいては、方向D20)は、車両10の幅方向に回動可能である。また、車両10は、傾斜装置40、60(
図4(A)、
図4(B))と、傾斜駆動装置450、650と、操舵駆動装置550と、制御装置900(
図10、
図12)と、を備えている。
図11-
図13で説明したように、主制御部910の処理部911-913とリーンモータ制御部930との全体は、車両10の旋回時に、傾斜駆動装置450、650を制御することによって車体100を旋回の内側に傾斜させる。以下、処理部911-913とリーンモータ制御部930との全体を、傾斜制御装置990とも呼ぶ。また、主制御部910の処理部911、914-916と操舵モータ制御部940との全体は、車体100の幅方向の傾斜角ALの角加速度AALと相関を有する傾斜角加速度パラメータ(ここでは、角加速度AALそのもの)を用いて操舵駆動装置550を制御する。以下、処理部911、914-916と操舵モータ制御部940との全体を、操舵制御装置980とも呼ぶ。
【0116】
また、操舵制御装置980は、
図14のS343、S346で、角加速度制御値VW2を、傾斜角加速度パラメータ(ここでは、角加速度AAL)を用いて決定する。
図15、
図16(B)で説明したように、角加速度制御値VW2は、傾斜角加速度パラメータによって示される傾斜角ALの角加速度AALの方向とは反対の方向に車両10を旋回させるための特定方向のトルクTQsを示している。そして、操舵制御装置980は、
図14のS350-S370で、角加速度制御値VW2を含む1以上の制御値を用いて操舵駆動装置550を制御する。これらの結果、操舵駆動装置550による特定方向のトルクによって、傾斜角ALの角加速度AALに起因する車両の走行安定性の低下を抑制できる。例えば、
図16(A)-
図16(E)で説明したように、運転手Dによって感じられる力GDを抑制できる。
【0117】
また、
図2等で説明したように、前輪20L、20Rは、回動輪である。そして、
図15、
図16(A)、
図16(B)で説明したように、角加速度制御値VW2によって示されるトルクTQsの特定方向は、傾斜角加速度パラメータによって示される傾斜角ALの角加速度AALの方向とは反対の方向である。従って、傾斜角ALの角加速度AALに起因する車両10の走行安定性の低下を抑制できる。
【0118】
また、
図15で説明したように、角加速度制御値VW2によって示されるトルクTQsの大きさは、傾斜角加速度パラメータによって示される傾斜角ALの角加速度AALの大きさが大きいほど、大きい。従って、傾斜角ALの角加速度AALに起因する車両10の走行安定性の低下を、適切に、抑制できる。例えば、
図16(A)-
図16(E)で説明したように、角加速度AALが大きい場合に、運転手Dによって感じられる力GDを適切に抑制できる。
【0119】
B.第2実施例:
図17(A)は、車両の別の実施例の概略上面図である。第2実施例の車両10aは、
図2の車両10の第1支持装置400と第2支持装置600とを互いに入れ替えることによって得られる。本実施例では、第2支持装置600が前輪20L、20Rを支持し、第1支持装置400が、後輪30L、30Rを支持している。後輪30L、30Rが、回動輪である。以下、車両10aのうち、車両10と異なる部分について説明し、車両10と共通の部分については、説明を省略する。
【0120】
図17(A)には、後輪30L、30Rの回転軸30Lx、30Rxと後輪方向D30L、D30Rとが、示されている。車両10の前進時には、後輪30L、30Rは、後輪方向D30L、D30Rに向かって、進行する。後輪方向D30L、D30Rは、回転軸30Lx、30Rxに垂直に前方向DF側に延びる方向である。また、図中には、左後輪30Lの回動軸37Lと、右後輪30Rの回動軸37Rとが示されている。後輪30L、30R(ひいては、後輪方向D30L、D30R)は、回動軸37L、37Rを中心に、幅方向に回動可能である。本実施例では、回動軸37L、37Rは、車体上方向DVUに平行である。
【0121】
図中の方向D30は、後輪30L、30Rの全体と等価な1個の仮想後輪の進行方向に相当する(以下、方向D30を、後輪方向D30と呼ぶ)。後輪方向D30は、後輪方向D30L、D30Rと、おおよそ同じである。車輪角AWは、
図2の実施例と同様に、後輪方向D30と前方向DFとを用いて、特定される。本実施例では、後輪30L、30Rが回動輪である。従って、車両10aが右方向DRへ旋回するためには、後輪30L、30Rの方向D30L、D30Rは、左方向DLに回動する。すなわち、「旋回方向=右方向DR」を示す正の車輪角AWは、方向D30L、DF30Rが左方向DL側を向いていることを示している。反対に、「旋回方向=左方向DL」を示す負の車輪角AWは、方向D30L、D30Rが右方向DR側を向いていることを示している。後輪30L、30Rが操舵される場合、車輪角AWは、いわゆる操舵角に対応する。なお、傾斜角ALと車輪角AWと旋回半径Rと速度Vの関係は、第1実施例と同様に、上記の式6、式6a、式7によって表される。
【0122】
制御装置900の構成は、
図10、
図12の実施例と同様である。制御装置900は、第1実施例と同様に、
図11、
図13、
図14の手順に従って、車両10aを制御する。ただし、角加速度AALと角加速度制御値VW2との対応関係は、
図15の実施例と異なっている。
図17(B)は、角加速度AALとトルクTQsとの対応関係を示すグラフである。横軸は、角加速度AALを示し、縦軸は、トルクTQsを示している。
図15の実施例とは異なり、角加速度制御値VW2によって示されるトルクTQsの方向は、角加速度AALの方向と同じである。この理由は、
図17(A)に示すように、回動輪が後輪30L、30Rであるからである。このトルクTQsの方向は、車両10を、角加速度AALの方向とは反対の方向に旋回させるための方向である。従って、
図16(A)-
図16(D)の実施例と同様に、トルクTQsは、傾斜角ALの角加速度AALに起因する車両10aの走行安定性の低下を抑制できる。例えば、
図16(A)のように角加速度AALの方向が右方向DRである場合、トルクTQsは、後輪方向D30L、D30Rを右方向DRへ回動させる。従って、車両10は、左方向DL側に向かって旋回する。この結果、
図16(C)の実施例と同様に、運転手Dを含む車体100は、遠心力F3を利用して、右方向DRへ素早くロールでき、運転手Dによって感じられる力GDは、小さくなる。なお、本実施例では、トルクTQsの絶対値は、角加速度AALの絶対値に比例している。
【0123】
C.第3実施例:
図18、
図19は、車両の別の実施例の概略図である。
図18は、車両10dの右側面図であり、
図19は、車両10dの下面図である。本実施例では、車両10dは、1個の前輪20Dと1個の後輪30Dとを備える二輪車である。前輪20Dは、第1支持装置400dに支持され、後輪30Dは、第2支持装置600dに支持されている。
図19に示すように、これらの車輪20D、30Dは、車両10dの幅方向の中心に配置されている。車両10dの他の部分の構成は、
図1-
図3の車両10の対応する部分の構成と同じである(同じ要素には、同じ符号を付して、説明を省略する)。
【0124】
第1支持装置400dは、回動軸27Dを中心に回動可能に前輪20Dを支持する装置である。第1支持装置400dは、本体部110の前部111に固定された軸受490と、軸受490に接続された前フォーク40dと、を有している。前フォーク40dは、前輪20Dを回転可能に支持しており、例えば、サスペンション470D(具体的には、コイルスプリングとショックアブソーバ)を内蔵したテレスコピックタイプのフォークである。軸受490は、回動軸27Dを中心に、前フォーク40d(ひいては、前輪20D)を、車体100に対して左右に回転可能に支持している。回動軸27Dのキャスター角CAは、
図1の回動軸27Rのキャスター角CAと同じ正値である。前フォーク40dは、車体100に対して、回動軸27Dを中心に、予め決められた角度範囲(例えば、180度未満の範囲)内で、回転可能であってよい。例えば、前フォーク40dが、車体100に設けられた他の部材に接触することによって、角度範囲が制限されてよい。また、前フォーク40dには、前輪20Dの回転速度を測定する車速センサ720が取り付けられている。
【0125】
本体部110の前部111には、操舵モータ550dが取り付けられている。操舵モータ550dは、電気モータであり、前部111と前フォーク40dとに接続されている。操舵モータ550dは、前フォーク40d(ひいては、前輪20D)を幅方向に回転させるトルクを生成するように構成されている操舵駆動装置の例である(操舵駆動装置550dとも呼ぶ)。
【0126】
図19には、方向D20Dと車輪角AWが示されている。方向D20Dは、前輪20Dの進行方向である(以下、前輪方向D20Dとも呼ぶ)。車輪角AWは、
図2の実施例と同様に、前輪方向D20Dと前方向DFとを用いて、特定される。操舵モータ550d(
図18)には、車輪角センサ755dが取り付けられている。車輪角センサ755dは、
図2の車輪角センサ755と同様に、車輪角AWを検出する。
【0127】
第2支持装置600dは、回転可能に後輪30Dを支持する装置である。第2支持装置600dは、後輪30Dを回転可能に支持する後フォーク60dを有している。後フォーク60dは、
図1の第2支持装置600と同様に、2本のトレーリングアーム680と、後サスペンション670Dと、を介して、本体部110に接続されている。後サスペンション670Dは、後フォーク60dの上部と本体部110の後部115とを接続している。後サスペンション670Dは、例えば、コイルスプリングとショックアブソーバとを内蔵するテレスコピックタイプのサスペンションである。トレーリングアーム680は、後フォーク60dと、本体部110の後壁部114とを接続している。後フォーク60dには、駆動モータ660Dが固定されている。駆動モータ660Dには、後輪30Dが接続されている。駆動モータ660Dは、電気モータであり、後輪30Dを駆動する。
【0128】
図19には、前輪20Dの接触領域28Dと接触中心29Dと、後輪30Dの接触領域38Dと接触中心39Dと、回動軸27D(
図18)と地面GLとの交点26Dと、が示されている。
図18に示すように、トレールLtは、交点26Dと接触中心29Dとの間の距離であり、ホイールベースLhは、接触中心29D、39Dの間の距離である。
【0129】
図20は、車両10dの制御に関する構成を示すブロック図である。ハードウェアの構成は、
図10の実施例からセンサ741、742、リーンモータ制御部930、リーンモータ450、650を省略して得られる構成と、同じである。制御装置900dは、主制御部910dと駆動装置制御部920dと操舵モータ制御部940dとを有する。駆動装置制御部920dは、駆動モータ660Dを制御する。操舵モータ制御部940dは、操舵モータ550dを制御する。制御部910d、920d、940dの不揮発性記憶装置910n、920n、940nは、対応する制御部910d、920d、940dの動作のためのプログラム910dg、920dg、940dgが、それぞれ、予め格納されている。なお、主制御部910dの不揮発性記憶装置910nからは、車輪角マップデータMAWが省略されている。また、主制御部910dと駆動装置制御部920dとは、
図10の駆動制御部970と同様に駆動モータ660Dを制御する駆動制御部970dとして機能する。
【0130】
図21は、制御装置900d(
図20)によって実行される操舵モータ550dの制御処理の例を示すフローチャートである。後述するように、本実施例では、傾斜角ALを第1目標傾斜角ALtに近づけるために、車輪角AWが制御される。S110、S120は、
図11のS110、S120と同じである。S120の判断結果が、Yesである場合、制御装置900dは、S140dの第1操舵制御処理を実行し、
図21の処理を終了する。S140dでは、制御装置900dは、車両10dが入力角Aiに対応付けられた方向に進むように、操舵モータ550dを制御する(詳細は、後述)。S120の判断結果が、Noである場合、制御装置900dは、S160dの第2操舵制御処理を実行し、
図21の処理を終了する。本実施例では、S160dの処理は、S140dの処理と同じである。制御装置900dは、
図21の処理を繰り返し実行する。この結果、車両10dは、入力角Aiに適した進行方向に向かって、走行する。
【0131】
図22は、制御装置900dのうち操舵モータ550dの制御に関連する部分のブロック図である。主制御部910dは、処理部911、912、913、916、917を含んでいる。処理部911、912、913、916は、
図12の処理部911、912、913、916と、それぞれ同じである。角速度特定部917は、傾斜角ALの角速度VALを特定する。処理部911-917は、主制御部910d(
図20)のプロセッサ910pによって実現されている。操舵モータ制御部940dは、第1制御部941dと第2制御部942dと第3制御部943dと加算部944dと電力制御部940cとを含んでいる。処理部941d-944dは、操舵モータ制御部940dのプロセッサ940pによって実現されている。
【0132】
図23は、第1操舵制御(
図21:S140d)の例を示すフローチャートである。S310dでは、主制御部910d(
図22)は、センサ720、760、790からのパラメータV、Ai、DDをそれぞれ示す情報を、取得する。S315dは、
図13のS220と同じである。傾斜角特定部911(
図22)は、鉛直下方向DDを用いて、傾斜角ALを算出する。続くS323d-S328dの処理と、S333d-S336dの処理と、S343d-S346dの処理とは、並行して実行される。
【0133】
S323d、S325dは、
図13のS230、S240と、それぞれ同じである。S323dでは、目標傾斜角決定部913は、傾斜角ALの目標値である第1目標傾斜角ALtを決定する。S325dでは、第1減算部912は、第1目標傾斜角ALtから傾斜角ALを減算することによって傾斜角差dALを算出し、傾斜角差dALを示す情報を、操舵モータ制御部940dに供給する。
【0134】
S328dでは、第1制御部941dは、傾斜角差dALをゼロに近づけるための角差制御値VW1dを決定する。
図24(A)は、傾斜角差dALと第1トルクTQ1との対応関係を示すグラフである。横軸は、傾斜角差dALを示し、縦軸は、第1トルクTQ1を示している。右方向の傾斜角差dALは、車体100を右方向DRにロールさせることによって傾斜角ALが第1目標傾斜角ALtに近づくことを示している。左方向の傾斜角差dALは、車体100を左方向DLにロールさせることによって傾斜角ALが第1目標傾斜角ALtに近づくことを示している。第1トルクTQ1は、角差制御値VW1dによって示される操舵モータ550dのトルクである。
【0135】
図示するように、第1トルクTQ1の方向は、傾斜角差dALの方向とは反対の方向である。
図16(B)、
図16(C)で説明したように、前輪方向D20を左方向DLに回動させる場合、車体100は、遠心力F3によって右方向DRへロールする。このように、操舵モータ550dが、傾斜角差dALの方向とは反対の方向の第1トルクTQ1を出力する場合、車体100は、遠心力によって傾斜角差dALの方向にロール可能である。従って、
図24(A)の第1トルクTQ1は、傾斜角ALを第1目標傾斜角ALtに近づけることができる。また、本実施例では、第1トルクTQ1の絶対値は、傾斜角差dALの絶対値に比例している。従って、傾斜角差dALの絶対値が大きい場合、強い第1トルクTQ1は、傾斜角ALを素早く第1目標傾斜角ALtに近づけることができる。
【0136】
S333d(
図23)では、角速度特定部917(
図22)は、傾斜角ALの角速度VALを算出し、角速度VALを示す情報を、操舵モータ制御部940dに供給する。角速度VALの算出方法は、公知の方法であってよい。例えば、現行の傾斜角AL(すなわち、最新の傾斜角AL)から、現在から所定時間だけ過去の時点での傾斜角ALを減算して得られる値が、傾斜角ALの微分値、すなわち、角速度VALとして用いられてよい。
【0137】
S336dでは、第2制御部942dは、角速度VALを用いて、角速度制御値VW2dを決定する。
図24(B)は、角速度VALと第2トルクTQ2との対応関係を示すグラフである。横軸は、角速度VALを示し、縦軸は、第2トルクTQ2を示している。本実施例では、正の角速度VALの方向は、右方向であり、負の角速度VALの方向は、左方向である。第2トルクTQ2は、角速度制御値VW2dによって示される操舵モータ550dのトルクである。図示するように、第2トルクTQ2の方向は、角速度VALの方向と同じ方向である。
図16(B)、
図16(C)で説明したように、前輪方向D20Dを左方向DLに回動させる場合、車体100は、遠心力によって反対の右方向DRへロールする。従って、角速度VALの方向と同じ方向の第2トルクTQ2は、車体100を角速度VALの方向とは反対の方向にロールさせようとする、すなわち、角速度VALを小さくすることができる。また、本実施例では、第2トルクTQ2の絶対値は、角速度VALの絶対値に比例している。従って、角速度VALの絶対値が大きい場合、強い第2トルクTQ2は、角速度VALを素早くゼロに近づけることができる。このように、第2トルクTQ2は、傾斜角ALの急な変化を抑制できる。
【0138】
S343d(
図23)は、S343(
図14)と同じである。角加速度特定部916(
図22)は、傾斜角ALの角加速度AALを算出する。S346dでは、第3制御部943d(
図22)は、角加速度AALを用いて、角加速度制御値VW3dを決定する。
図24(C)は、角加速度AALと第3トルクTQ3との対応関係を示すグラフである。横軸は、角加速度AALを示し、縦軸は、第3トルクTQ3を示している。第3トルクTQ3は、角加速度制御値VW3dによって示される操舵モータ550dのトルクである。図示するように、第3トルクTQ3の方向は、角加速度AALの方向とは反対の方向である。また、本実施例では、第3トルクTQ3の絶対値は、角加速度AALの絶対値に比例している。このような第3トルクTQ3は、
図15のトルクTQsと同様に、運転手D(
図16(C))によって感じられる力GDを小さくできる。また、第3トルクTQ3は、傾斜角ALを素早く第1目標傾斜角ALtに近づけることができる。
【0139】
S350d(
図23)では、加算部944d(
図22)は、制御値VW1d、VW2d、VW3dを加算することによって、駆動制御値VWdを算出する。S360dでは、加算部944dは、駆動制御値VWdを示す情報を、電力制御部940cに供給する。S370dでは、電力制御部940cは、駆動制御値VWdに従って、操舵モータ550dに供給される電力を制御する。これにより、
図23の処理、すなわち、
図21のS140dの処理が終了する。
【0140】
以上のように、本実施例の車両10d(
図18、
図19、
図20、
図22)は、
図1-
図3の車両10とは異なり、傾斜装置40、60と、傾斜駆動装置450と、傾斜制御装置990と、を備えていない。そして、車両10dは、車体100と、車体100に支持されている前輪20Dと後輪30Dと、を備えている。前輪20Dの方向D20Dは、車両10dの幅方向に回動可能である。また、車両10d(
図22)は、操舵駆動装置550dと、制御装置900dと、を備えている。主制御部910(
図22)の処理部911-917と操舵モータ制御部940dとの全体は、車体100の幅方向の傾斜角ALの角加速度AALと相関を有する傾斜角加速度パラメータ(ここでは、角加速度AALそのもの)を用いて操舵駆動装置550dを制御する。以下、処理部911-917と操舵モータ制御部940dとの全体を、操舵制御装置980dとも呼ぶ。
【0141】
また、操舵制御装置980dは、
図23のS343d、S346dで、角加速度制御値VW3dを、傾斜角加速度パラメータ(ここでは、角加速度AAL)を用いて決定する。
図24(C)で説明したように、角加速度制御値VW3dは、傾斜角加速度パラメータによって示される傾斜角ALの角加速度AALの方向とは反対の方向に車両10dを旋回させるための特定方向のトルクTQ3を示している。そして、操舵制御装置980dは、
図23のS350d-S370dで、角加速度制御値VW3dを含む1以上の制御値を用いて操舵駆動装置550dを制御する。これらの結果、操舵駆動装置550dによる特定方向のトルクによって、傾斜角ALの角加速度AALに起因する車両の走行安定性の低下を抑制できる。例えば、
図16(A)-
図16(E)で説明したように、運転手Dによって感じられる力GDを抑制できる。
【0142】
また、
図18、
図19で説明したように、前輪20Dは、回動輪である。そして、
図24(C)で説明したように、角加速度制御値VW3dによって示される第3トルクTQ3の特定方向は、傾斜角加速度パラメータによって示される傾斜角ALの角加速度AALの方向とは反対の方向である。従って、傾斜角ALの角加速度AALに起因する車両10dの走行安定性の低下を抑制できる。また、角加速度制御値VW3dによって示される第3トルクTQ3の大きさは、傾斜角加速度パラメータによって示される傾斜角ALの角加速度AALの大きさが大きいほど、大きい。従って、傾斜角ALの角加速度AALに起因する車両10dの走行安定性の低下を、適切に、抑制できる。
【0143】
また、車両10d(
図18)は、旋回方向と旋回の程度とを示す操作量を入力するために操作されるように構成されている操作入力部の例であるハンドル160を備えている。そして、
図23のS323dでは、操舵制御装置980d(
図22)は、操作量の例である入力角Aiを用いて車体の傾斜角ALの目標値である第1目標傾斜角ALtを特定する。S325dでは、
図24(A)で説明したように、操舵制御装置980dは、右方向と左方向とのうち車体100の傾斜角ALを第1目標傾斜角ALtに近づけるための車体のロールの方向とは反対の方向の第1トルクTQ1を示す角差制御値VW1dを、傾斜角ALと第1目標傾斜角ALtとの傾斜角差dALを用いて決定する。S350d-S370dでは、操舵制御装置980dは、角加速度制御値VW3dと角差制御値VW1dとを含む2以上の制御値を用いて操舵駆動装置550dを制御する。従って、車体100の傾斜角ALが第1目標傾斜角ALtに近づくように、前輪20Dの方向D20Dが制御される。これにより、車両10dは、旋回の内側に車体100を傾斜させた状態で、適切に旋回できる。
【0144】
D.傾斜角加速度パラメータの他の実施例:
図25(A)、
図25(B)は、傾斜角ALの角加速度AALと相関を有するパラメータである傾斜角加速度パラメータの別の実施例の概略図である。
図25(A)は、
図12の角加速度特定部916の別の実施例を示している。角加速度特定部916bは、
図14のS343で後制御角ACrの角加速度AALbを算出し、角加速度AALbを示す情報を、第2制御部942に供給する。
図5(A)、
図5(B)で説明したように、地面がおおよそ水平である場合、後制御角ACrは、傾斜角ALとおおよそ同じである。従って、後制御角ACrの角加速度AALbは、傾斜角ALの角加速度AALの代わりに、傾斜角ALの角加速度AALと相関を有するパラメータとして、利用可能である。なお、角加速度特定部916bは、後制御角ACrに代えて、前制御角ACfを用いて、角加速度を算出してもよい。
【0145】
図25(B)は、
図12の角加速度特定部916の別の実施例を示している。角加速度特定部916cは、第1制御値VLc(
図13)を用いて、第1制御値VLcによって示されるリーンモータ450、650のトルクに対応つけられた傾斜角ALの角加速度AALcを特定し、角加速度AALcを示す情報を第2制御部942に供給する。第1制御値VLcによって示されるトルクがゼロである場合、角加速度AALcは、ゼロである。そして、第1制御値VLcによって示されるトルクの絶対値が大きいほど、角加速度AALcの絶対値は大きい。第1制御値VLcと角加速度AALcとの対応関係は、予め実験的に決められている。角加速度特定部916cは、
図14のS343で、この対応関係を参照して、第1制御値VLcから角加速度AALcを特定する。
【0146】
以上のように、角加速度制御値VW2(
図14:S343、S346)の算出に利用される傾斜角加速度パラメータは、傾斜角ALの角加速度AALと相関を有する種々のパラメータであってよい。いずれの場合も、傾斜角加速度パラメータによって示される傾斜角ALの角加速度AALの絶対値が大きいほど、角加速度制御値VW2によって示されるトルクの絶対値が大きくなるように、角加速度制御値VW2が算出されることが好ましい。
【0147】
E.変形例:
(1)操舵駆動装置550、550dを制御する処理は、
図14、
図23の処理に代えて、他の種々の処理であってよい。例えば、
図1-
図3の車両10(即ち、回動輪は、前輪20L、20Rである)が
図14の処理で制御される場合に、角差制御値VW1とS323、S325、S328とが省略されてよい。すなわち、操舵制御装置980は、1つの角加速度制御値VW2を用いて、操舵モータ550を制御してよい。この場合も、
図9で説明したように、回動輪20L、20Rの方向D20L、D20Rは、車体100の傾斜方向に回動する。この結果、前輪方向D20は、傾斜角ALに適した方向を、自然に向くことができる。同様に、
図18、
図19の車両10d(即ち、回動輪は、前輪20Dである)が、
図23の処理で制御される場合、角差制御値VW1dとS323d、S325d、S328dとが省略されてよい。
【0148】
図23の処理において、角速度制御値VW2dとS333d、S336dとが省略されてよい。
図23の第1操舵制御が、
図11のS140に適用されてもよい。この場合、角差制御値VW1d(S323d、S325d、S328d)と角速度制御値VW2d(S333d、S336d)との少なくとも一方が、省略されてよい。
【0149】
操舵駆動装置(例えば、操舵モータ550、550d)の制御に利用されるパラメータは、傾斜角加速度パラメータを含む1以上の任意のパラメータであってよい。
【0150】
(2)車両の制御処理は、
図10-
図15、
図20-
図23、
図24(A)-
図24(C)で説明した処理に代えて、他の種々の処理であってよい。例えば、
図11のS150、S160、
図21のS160dでは、第1目標傾斜角ALtに代えて、第1目標傾斜角ALtの絶対値よりも小さい絶対値を有する第2目標傾斜角ALuが、利用されてよい。
【0151】
(3)
図15、
図17(B)、
図24(A)-
図24(C)の各対応関係のグラフの形状は、種々の形状であってよい。例えば、縦軸のパラメータは、横軸のパラメータの変化に対して、階段状に変化してもよく、曲線を描くように変化してもよい。いずれも、横軸のパラメータの大きさ(すなわち、絶対値)が大きいほど、縦軸のパラメータの大きさ(絶対値)が大きいことが好ましい。
【0152】
(4)複数の車輪の総数と配置としては、種々の構成を採用可能である。例えば、前輪の総数が2であり、後輪の総数が1であってもよい。前輪の総数が1であり、後輪の総数が2であってもよい。
図1の実施例において、前輪20L、20Rが駆動輪であってよい。車体に支持されている回動輪の総数は、1以上の任意の数であってよい。前輪が1以上の回動輪を含んでよい。後輪が1以上の回動輪を含んでよい。
【0153】
(5)傾斜装置の構成は、
図4(A)、
図4(B)等で説明したリンク機構(例えば、リンク機構40、60)を含む構成に代えて、車体を幅方向に傾斜させるように構成されている他の種々の構成であってよい。例えば、リンク機構40、60が台に置換されてよい。車輪(例えば、前輪20L、20R、または、後輪30L、30R)は、回転可能に台に接続される。車体100と台とは、軸受によって連結される。車体100は、台に対して幅方向にロール可能である。また、傾斜装置は、左スライド装置と右スライド装置を備えてよい(例えば、液圧シリンダ)。左スライド装置が、左輪と車体とを接続し、右スライド装置が、右輪と車体とを接続してもよい。各スライド装置は、車体に対する車輪の車体上方向DVUの相対位置を変化させることができる。
【0154】
一般的には、傾斜装置は、「車体の幅方向に互いに離れて配置された一対の車輪(例えば、左輪と右輪)の少なくとも一方に直接的または間接的に接続された第1部材」と、「車体に直接的または間接的に接続された第2部材」と、「第1部材を第2部材に可動に接続する接続装置」を含んでよい。
図4(A)の実施例では、上横リンク部材61Uは、縦リンク部材61L、61Rとモータ660L、660Rを介して車輪30L、30Rに接続された第1部材の例である。中縦リンク部材61Cは、支持部69と後サスペンションシステム670とを介して車体100に接続された第2部材の例である。軸受68Uは、第1部材を第2部材に可動に接続する接続装置の例である。傾斜装置は、車体に対する一対の車輪のそれぞれの相対的な位置(例えば、少なくとも車体上方向DVUの相対的な位置)を変更するように構成されてよい。
【0155】
(6)傾斜駆動装置の構成は、
図4(A)、
図4(B)等で説明したリーンモータ450、650の構成に代えて、傾斜装置を駆動するように構成されている他の種々の構成であってよい。傾斜駆動装置は、リーンモータ450、650のような電気モータを含んでよい。また、傾斜装置が液圧シリンダを含む場合、傾斜駆動装置は、ポンプを含んでよい。傾斜駆動装置は、傾斜装置の第1部材と第2部材との相対的な位置を変化させる力(例えば、第1部材に対する第2部材の向きを変化させるトルク)を第1部材と第2部材とに印加する種々の装置であってよい。
【0156】
(7)車体に接続されるとともに車輪を支持する車輪支持装置の構成は、
図4(A)、
図4(B)の支持装置400、600と
図18の支持装置400d、600dとの構成に代えて、他の種々の構成であってよい。例えば、支持装置は、傾斜装置を含んでよく、これに代えて、傾斜装置を含まずに車輪を支持するように構成されてよい。例えば、支持装置は、トレーリングアームサスペンションを含んでよい。また支持装置は、リーディングアームサスペンションを含んでよい。また、支持装置と車体との接続部分の構成は、任意の構成であってよい。
【0157】
(8)回動輪の方向が車体の幅方向に回動可能であるように回動輪を支持する回動輪支持装置の構成は、
図6(A)の回動システム500を含む支持装置400と
図18の支持装置400dとの構成に代えて、他の種々の構成であってよい。回動輪を回転可能に支持する支持部材は、ハブ460L、460R(
図6(A))と前フォーク40d(
図18)に代えて、片持ちの部材であってよい。支持部材を車体に対して幅方向に回動可能に支持する回動装置は、軸受469L、469R(
図4(B))と軸受490(
図18)とに代えて、他の種々の装置であってよい。例えば、回動装置は、車体と支持部材とを連結するリンク機構であってよい。一般的には、車体に接続された回動輪支持装置が、回動輪の方向が車体の幅方向に回動可能であるように回動輪を支持することが好ましい。
【0158】
ここで、回動輪支持装置は、K個(Kは1以上の整数)の支持部材を備えてよい。各支持部材は、1以上の回動輪を回転可能に支持してよい。そして、回動輪支持装置は、車体に固定されたK個の回動装置を備えてよい。K個の回動装置は、K個の支持部材を、それぞれ幅方向に回動可能に支持してよい。
【0159】
(9)回動輪の方向を幅方向に回動させる回動トルクを生成する操舵駆動装置の構成は、
図6(A)等で説明した操舵モータ550の構成に代えて、他の種々の構成であってよい。例えば、操舵駆動装置は、ポンプを含み、ポンプからの液圧(例えば、油圧)を用いて回動トルクを生成してよい。いずれの場合も、回動輪支持装置は、K個の支持部材のそれぞれに回動トルクが印加されるように構成されてよい。例えば、回動輪支持装置は、K個の支持部材のそれぞれと操舵駆動装置とを連結する連結装置(例えば、
図6(B)のアーム52L、52C、52Rとタイロッド53)を含んでよい。
【0160】
(10)操作入力部は、ハンドル160(
図1)のように左と右とに回転可能な装置に代えて、旋回方向と旋回の程度とを示す操作量を入力するために操作されるように構成された他の種々の装置であってよい。例えば、操作入力部は、予め決められた基準方向(例えば、直立方向)から左と右とに傾斜可能なレバーを含んでよい。
【0161】
(11)車両の制御に利用される傾斜角としては、鉛直上方向DUを基準とする傾斜角AL(
図5(B))に代えて、車体の幅方向の傾斜の度合いを示す種々の角度を採用してよい。例えば、制御角ACf、ACrのように、傾斜装置の複数の部材のうち車輪に接続された第1部材と車体に接続された第2部材との間の相対的な位置関係を示すパラメータが、用いられてよい。
【0162】
(12)車両の制御装置の構成は、操舵駆動装置(例えば、操舵モータ550)を制御するように構成された装置を含む種々の構成であってよい。例えば、制御装置は、さらに、車両の旋回時に、傾斜駆動装置を制御することによって車体を旋回の内側に傾斜させるように構成されている傾斜制御装置を含んでよい。また、制御装置は、1つのコンピュータを用いて構成されてもよい。制御装置の少なくとも一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用のハードウェアによって、構成されてよい。例えば、
図10の駆動装置制御部920とリーンモータ制御部930と操舵モータ制御部940とは、それぞれ、ASICによって構成されてよい。また、制御装置は、種々の電気回路であってよく、例えば、コンピュータを含む電気回路であってよく、コンピュータを含まない電気回路であってもよい。また、マップデータ(例えば、傾斜角マップデータMALなど)によって対応付けられる入力値と出力値とは、他の要素によって対応付けられてよい。例えば、数学的関数、アナログ電気回路などの要素が、入力値と出力値とを対応付けてよい。
【0163】
(13)車両の構成は、上記の実施例と変形例とのそれぞれの構成に代えて、他の種々の構成であってよい。例えば、
図4(A)の実施例において、モータ660L、660Rは、サスペンションを介して、リンク機構60に接続されてもよい。駆動輪を駆動する駆動装置は、電気モータに代えて、車輪を回転させるトルクを生成する任意の装置であってよい(例えば、内燃機関)。車両の最大定員数は、1人に代えて、2人以上であってよい。車両の制御に用いられる対応関係(例えば、マップデータMAL、MAWによって示される対応関係)は、車両が適切に走行できるように、実験的に決定されてよい。
【0164】
上記各実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部あるいは全部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、
図10の制御装置900の機能を、専用のハードウェア回路によって実現してもよい。
【0165】
また、本発明の機能の一部または全部がコンピュータプログラムで実現される場合には、そのプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体(例えば、一時的ではない記録媒体)に格納された形で提供することができる。プログラムは、提供時と同一または異なる記録媒体(コンピュータ読み取り可能な記録媒体)に格納された状態で、使用され得る。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」は、メモリーカードやCD-ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種ROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスクドライブ等のコンピュータに接続されている外部記憶装置も含み得る。
【0166】
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0167】
10、10a、10d…車両、20D…前輪、20L…左前輪、20R…右前輪、20Lc…重心、20Lx…回転軸、26L、26R、26D…交点、27L、27R、27D…回動軸、28L、28R、28D、38D…接触領域、29L、29R、29D、39D…接触中心、30L、30R、30D…後輪、30Lx、30Rx…回転軸、37L、37R…回動軸、40…前リンク機構(傾斜装置)、40d…前フォーク、41C…中縦リンク部材、41L…左縦リンク部材、41R…右縦リンク部材、41U…上横リンク部材、48U…軸受、49…支持部、52C…駆動アーム、52L…左アーム、52R…右アーム、52C1…軸受、52C2…軸部、52C3…中心軸、52L1…軸受、52L2…軸部、52L3…中心軸、52R1…軸受、52R2…軸部、52R3…中心軸、53…タイロッド、53C…軸受、53L…軸受、53R…軸受、57…回転軸、60…後リンク機構、60d…後フォーク、61C…中縦リンク部材、61D…下横リンク部材、61L…左縦リンク部材、61R…右縦リンク部材、61U…上横リンク部材、68D…軸受、68U…軸受、69…支持部、100…車体、100c…重心、110…本体部、111…前部、112…前壁部、113…底部、114…後壁部、115…後部、120…座席、160…ハンドル、162…支持棒、170…アクセルペダル、180…ブレーキペダル、190…シフトスイッチ、400、400d…第1支持装置、450…前リーンモータ(傾斜駆動装置)、460L…左ハブ、460R…右ハブ、461L、461R…ピン、462L、462R…中心軸、469L、469R…軸受、470…前サスペンションシステム、470D…サスペンション、470L…左サスペンション、470R…右サスペンション、471L、471R…コイルスプリング、472L、472R…ショックアブソーバ、480…リーディングアーム、481、482、490…軸受、500…回動装置、550、550d…操舵モータ(操舵駆動装置)、551…駆動ピン、552…中心軸、600、600d…第2支持装置(後輪支持装置)、650…後リーンモータ、660D…駆動モータ、660L…左駆動モータ、660R…右駆動モータ、670…後サスペンションシステム、670D…後サスペンション、670L…左サスペンション、670R…右サスペンション、671L、671R…コイルスプリング、672L、672R…ショックアブソーバ、680…トレーリングアーム、681、682…軸受、720…車速センサ、730…傾斜角センサ、741…前制御角センサ、742…後制御角センサ、755、755d…車輪角センサ、760…入力角センサ、770…アクセルペダルセンサ、780…ブレーキペダルセンサ、790…鉛直方向センサ、791…制御部、792…加速度センサ、793…ジャイロセンサ、800…バッテリ、900、900d…制御装置、910、910d…主制御部、920、920d…駆動装置制御部、930…リーンモータ制御部、940…操舵モータ制御部、910n-940n…不揮発性記憶装置、910v-940v…揮発性記憶装置、910p-940p…プロセッサ、910g-940g…プログラム、911…傾斜角特定部、912…第1減算部、913…目標傾斜角決定部、914…目標車輪角決定部、915…第2減算部、916、916b、916c…角加速度特定部、917…角速度特定部、920c…電力制御部、930c…電力制御部、940c…電力制御部、931…第1制御部、940d…操舵モータ制御部、941、941d…第1制御部、942、942d…第2制御部、943…第1加算部、943d…第3制御部、944d…加算部、970、970d…駆動制御部、980、980d…操舵制御装置、990…傾斜制御装置、DF…前方向、DB…後方向、DL…左方向、DR…右方向、DD…鉛直下方向、DU…鉛直上方向、GL…地面、MAL…傾斜角マップデータ、MFR…リーンマップデータ、MAW…車輪角マップデータ