(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】熱溶解積層法による三次元造形プリンタ用の未加硫ゴム組成物、未加硫ゴム組成物を造形原料とする三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20221214BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20221214BHJP
C08L 11/00 20060101ALI20221214BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20221214BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221214BHJP
C08K 5/36 20060101ALI20221214BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20221214BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221214BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221214BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20221214BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20221214BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08L11/00
C08L23/16
C08K3/22
C08K5/36
C08K5/09
C08K3/04
B33Y10/00
B33Y70/00
B29C64/118
(21)【出願番号】P 2018133171
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2017138123
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度~平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/革新的設計生産技術 リアクティブ3Dプリンタによるテーラーメイドラバー製品の設計生産と社会経済的な価値共創に関する研究開発の委託研究、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】592216384
【氏名又は名称】兵庫県
(73)【特許権者】
【識別番号】000106955
【氏名又は名称】シバタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷 朝博
(72)【発明者】
【氏名】西本 安志
(72)【発明者】
【氏名】松本 貢
(72)【発明者】
【氏名】栄 大輔
(72)【発明者】
【氏名】福地 雄介
(72)【発明者】
【氏名】兼吉 高宏
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203633(JP,A)
【文献】特表2017-519661(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154335(WO,A1)
【文献】特開2016-215581(JP,A)
【文献】特開平08-092416(JP,A)
【文献】特開2005-154596(JP,A)
【文献】特開2001-049045(JP,A)
【文献】特表2013-502471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元造形プリンタ用の未加硫ゴム組成物であって、
前記未加硫ゴム組成物は、
ゴム基材と、
酸化亜鉛と、
酸化カルシウムと、
加硫促進剤と、
ステアリン酸と、
カーボンブラックと、
を含有し、
前記ゴム基材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム及びスチレン・ブタジエンゴムからなる群より選択される1種以上であり、
前記加硫促進剤は、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤及びチオ尿素系加硫促進剤からなる群より選択される1種以上であり、
酸化亜鉛は、2phr以上5phr以下であり、
酸化カルシウムは、5phr以上20phr以下であり、
前記加硫促進剤は、0.1phr以上10phr以下であり、
ステアリン酸は、1phr以上10phr以下であり、
カーボンブラックは、10phr以上50phr以下であり、
100℃以上150℃以下の範囲で加硫処理されても発泡が抑制されることを特徴とする、未加硫ゴム組成物。
【請求項2】
未加硫ゴム組成物を造形原料とする三次元造形物の製造方法であって、
未加硫ゴム組成物をスクリュー式押出機内で50℃以上100℃以下の範囲に加熱し、スクリューによって撹拌及び混合し、未加硫ゴム組成物に流動性を付与する工程Aと、
未加硫ゴム組成物をスクリュー式押出機のノズル部に設け
られた吐出孔から下方へと吐出し、30℃以上100℃以下に加熱された平面状の造形シート上に配置しながら、前記造形シートが設置されている可動式テーブルを水平方向に移動させる工程Bと、
前記可動式テーブル又は前記スクリュー式押出機を垂直方向に移動させる工程Cと、
未加硫ゴム組成物流動体をスクリュー式押出機のノズル部に設け
られた吐出孔から下方へと吐出し、平面状の造形シート上に配置しながら、前記造形シートが設置されている可動式テーブルを水平方向に再び移動させ、前記工程Bで得られた未加硫ゴム組成物の層上に、新たな未加硫ゴム組成物を積層する工程Dと、
造形シート上に積層された未加硫ゴム組成物の三次元造形物を、常圧下で100℃以上150℃以下に加熱して加硫処理する工程Eと、
を有し、
前記工程Bにおいては、前記平面状の造形シート上に配置された未加硫ゴム組成物を前記ノズル部によって押圧しながら、未加硫ゴム組成物を前記吐出孔から吐出し続け、
前記工程A乃至前記工程Dを順次実行した後、前記工程A、前記工程C及び前記工程Dを繰り返し、
前記未加硫ゴム組成物は、
ゴム基材と、
酸化亜鉛と、
酸化カルシウムと、
加硫促進剤と、
ステアリン酸と、
カーボンブラックと、
を含有し、
前記ゴム基材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム及びスチレン・ブタジエンゴムからなる群より選択される1種以上であり、
前記加硫促進剤は、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤及びチオ尿素系加硫促進剤からなる群より選択される1種以上であり、
酸化亜鉛は、2phr以上5phr以下であり、
酸化カルシウムは、5phr以上20phr以下であり、
前記加硫促進剤は、0.1phr以上10phr以下であり、
ステアリン酸は、1phr以上10phr以下であり、
カーボンブラックは、10phr以上50phr以下である、
ことを特徴とする、三次元造形物の製造方法。
【請求項3】
前記スクリュー式押出機が、スクリューの回転軸に直交する側面に開口部及びガイドローラを有しており、
帯状に形成された未加硫ゴム組成物が前記開口部へと連続して供給されることにより、前記工程A乃至前記工程Dを繰り返し得る、請求項2に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項4】
前記吐出孔の孔径が0.3mm以上3mm以下である、請求項2又は3に記載の三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層法による三次元造形プリンタ用の造形材料として好適な未加硫ゴム組成物、及び未加硫ゴム組成物を造形原料とする三次元造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製品は、未加硫ゴム組成物原料を上下の金型によって挟み込むことによって成形するプレス成形か、未加硫ゴム組成物を圧力によって金型に押し込む射出成形によって成形し、その後、加硫工程を行うことによって機械的強度を向上させて最終製品とされる。いずれの方法においても、製品の形状に応じた金型が必要であるために、他品種少量生産には適さず、複雑な形状の製品を作製することも困難である。
【0003】
一方、樹脂製品又は金属製品については、近年、三次元造形プリンタ(3Dプリンタ)を用いる三次元造形技術が開発され、金型を利用することなく3D-CADデータから直接三次元造形物を作製することが可能になっている。ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂)又はPLA樹脂(ポリ乳酸樹脂)のような熱可塑性樹脂は、加熱されることにより液体となってノズルから噴出させることが可能であり、噴出液によって描画した後、紫外線を照射して硬化させることを繰り返すことにより、三次元の形状を造形することが可能である。
【0004】
また、層状に敷き詰めた樹脂又は金属粉末にレーザ光又は電子線を照射し、溶融した部分を焼結させることによって、一層ずつ造形し、それを積み重ねて三次元の形状を造形する方法も開発されている。三次元造形プリンタを利用した造形物の製造方法は、鋳型の製造及び治具の作成が不要であることから、設計段階における試作品のように頻繁に形状を変更して迅速に造形物を作成する場合、又は医療機器のように個々の患者に合わせて形状を変更するような製品の製造等に向いているとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-221682号公報
【文献】特表2016-505525号公報
【文献】特開2016-203625号公報
【文献】特開2016-183390号公報
【文献】特開2010-202928号公報
【文献】特開2015-232056号公報
【文献】特開2015-139918号公報
【文献】特開2014-218088号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】平成25年度特許出願技術動向調査報告書(概要)3Dプリンター、平成26年3月、特許庁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ゴムは、熱可塑性樹脂と異なり加熱しても流動性が低いため、従来の三次元造形技術をそのままゴムに応用することはできなかった。そのため、シリコーンゴムを用いて、天然ゴム等に類似した柔軟性を備えた「ゴムライク」な三次元造形物を作製する技術が開発されている。しかし、ゴムそのものを原料として、金型を使用せずに三次元造形物を造形することはできなかった。
【0008】
一般的なゴムを原料とする未加硫ゴム組成物を三次元造形技術に応用するためには、造形時に押出成形できる程度の流動性を持たせる必要がある。ところが、ゴムへの添加剤を調整し、未加硫ゴム組成物を加熱すれば一定の流動性を持たせることは比較的容易であったが、三次元造形物を造形した後、造形物に機械的強度を持たせるために三次元造形物を加熱して加硫処理すると、ゴム内部に気泡が発生する場合があった。ゴム内部に気泡が発生すると、加硫処理の前後において三次元造形物の形状が変化したり、表面に凹凸が発生したりするという問題が生じる。
【0009】
本発明は、造形時には適度な流動性を発揮しつつ、層間の接着性が十分にあり、細い線径で精密造形を行うことができ、加硫時には気泡を発生しにくい三次元造形プリンタ用の未加硫ゴム組成物、及び未加硫ゴム組成物を造形原料として加硫ゴム造形物を製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記問題を解決すべく鋭意検討を続けた結果、ゴム組成物に特定含量で酸化カルシウムを添加すれば、加熱した未加硫ゴム組成物に押出成形できる程度の流動性を持たせつつ、造形後の加硫処理を行っても発泡を抑制し得ることを見出した。
【0011】
また、本発明者等は、未加硫ゴム組成物をスクリュー式押出機に充填し、一定温度範囲に加熱して流動性を付与した後、スクリュー式押出機のノズルから下方へと吐出するようにすれば、溶融した樹脂組成物等と比較して流動性の低い未加硫ゴム組成物を平面上に配置し得ることを見出した。さらに本発明者等は、ノズルの吐出孔と造形シート又は既に積層された未加硫ゴム組成物の最上層との距離を、吐出孔から吐出される未加硫ゴム組成物流動体の直径未満に保持することにより、可動式テーブルを水平方向に移動させる際に、ノズル部が造形シート上に配置される未加硫ゴム組成物を押圧しながら移動することにより、流動性が低い未加硫ゴム組成物を平面的に形成しつつ、安定して積層し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
具体的に、本発明は、
三次元造形プリンタ用の未加硫ゴム組成物であって、
前記未加硫ゴム組成物は、
ゴム基材と、
酸化亜鉛と、
酸化カルシウムと、
加硫促進剤と、
ステアリン酸と、
を含有し、
前記ゴム基材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム及びスチレン・ブタジエンゴムからなる群より選択される1種以上であり、
前記加硫促進剤は、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤及びチオ尿素系加硫促進剤からなる群より選択される1種以上であり、
酸化亜鉛は、2phr以上10phr以下であり、
酸化カルシウムは、5phr以上50phr以下であり、
前記加硫促進剤は、0.1phr以上10phr以下であり、
ステアリン酸は、1phr以上10phr以下であり、
100℃以上150℃以下の範囲で加硫処理されても発泡が抑制されることを特徴とする、未加硫ゴム組成物に関する。
【0013】
金型又は射出成形によってゴム製品を製造する場合には、未加硫ゴム組成物の成形品を加圧しながら加硫温度以上に加熱し、加硫処理が行われる。しかし、三次元造形プリンタを使用してゴム組成物の三次元造形物を作製する場合には、未加硫ゴム組成物から構成される三次元造形物を造形した後、三次元造形物を常圧で加硫温度以上に加熱し、加硫処理が行われることになる。
【0014】
本発明者等は、未加硫ゴム組成物を加圧せずに常圧下で加硫処理する際には、加圧下で加硫処理される場合と比較してゴム組成物内部に気泡が発生し、加硫処理の前後で三次元造形物の形態に変化が生じる場合があることに気づいた。そして、本発明者等は、造形原料である未加硫ゴム組成物に一定量の酸化カルシウムを配合することにより、一定温度範囲で加硫処理する際に、ゴム組成物内部に気泡が発生することを有効に抑制し得ることを見出した。
【0015】
ここで、「phr」という用語は、parts per hundred rubberの略であり、ゴム重量100に対する各種配合剤の重量部を意味する。また、「低発泡性」又は後述する「発泡が抑制される」とは、1mm厚の未加硫ゴムシートを100℃以上150℃以下の範囲で加硫処理した場合に、気泡が発生しないか、厚みが変化しない程度のわずかな発泡しか生じない場合を意味する。
【0016】
本発明の未加硫ゴム組成物は、三次元造形プリンタの押出装置に造形原料として供給された後、50℃~100℃に加熱されることにより、押出装置の底部に設けられた吐出孔から吐出することができる程度の流動性を有すると共に、100℃~150℃で加熱して加硫処理されて機械的強度が増加するように、ゴム基材以外に、加硫促進剤、酸化亜鉛、酸化カルシウム及びステアリン酸も含有する。
【0017】
本発明の未加硫ゴム組成物は、さらに補強性充填剤を10phr以上200phr以下で含有することが好ましい。
【0018】
補強性充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム又は有機繊維(セルロースを主体とする植物繊維又はタンパク質を主体とする動物繊維)を使用し得る。
【0019】
前記補強性充填剤は、カーボンブラックであることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、
未加硫ゴム組成物を造形原料とする三次元造形物の製造方法であって、
未加硫ゴム組成物をスクリュー式押出機内で50℃以上100℃以下の範囲に加熱し、スクリューによって撹拌及び混合し、未加硫ゴム組成物に流動性を付与する工程Aと、
未加硫ゴム組成物をスクリュー式押出機のノズル部に設けられた吐出孔から下方へと吐出し、30℃以上100℃以下に加熱された平面状の造形シート上に配置しながら、前記造形シートが設置されている可動式テーブルを水平方向に移動させる工程Bと、
前記可動式テーブル又は前記スクリュー式押出機を垂直方向に移動させる工程Cと、
未加硫ゴム組成物流動体をスクリュー式押出機のノズル部に設けられた吐出孔から下方へと吐出し、平面状の造形シート上に配置しながら、前記造形シートが設置されている可動式テーブルを水平方向に再び移動させ、前記工程Bで得られた未加硫ゴム組成物の層上に、新たな未加硫ゴム組成物を積層する工程Dと、
造形シート上に積層された未加硫ゴム組成物の三次元造形物を、常圧下で100℃以上150℃以下に加熱して加硫処理する工程Eと、
を有し、
前記工程Bにおいては、前記平面状の造形シート上に配置された未加硫ゴム組成物を前記ノズル部によって押圧しながら、未加硫ゴム組成物を前記吐出孔から吐出し続け、
前記工程A乃至前記工程Dを順次実行した後、前記工程A、前記工程C及び前記工程Dを繰り返し、
前記未加硫ゴム組成物は、
ゴム基材と、
酸化亜鉛と、
酸化カルシウムと、
加硫促進剤と、
ステアリン酸と、
を含有し、
前記ゴム基材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム及びスチレン・ブタジエンゴムからなる群より選択される1種以上であり、
前記加硫促進剤は、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤及びチオ尿素系加硫促進剤からなる群より選択される1種以上であり、
酸化亜鉛は、2phr以上10phr以下であり、
酸化カルシウムは、5phr以上50phr以下であり、
前記加硫促進剤は、0.1phr以上10phr以下であり、
ステアリン酸は、1phr以上10phr以下である、
ことを特徴とする、三次元造形物の製造方法に関する。
【0021】
造形原料である未加硫ゴム組成物は、一定温度範囲に加熱されたスクリューによって撹拌及び混合されて流動体とされる。そして、スクリュー式押出機の吐出孔から吐出され、造形物が造形された後、一定温度範囲で加熱されることによって加硫処理し、造形物の物理的強度を向上させる必要がある。一方、金型を使用して製造されるゴム製品と異なり、三次元造形物の場合、ゴム製品は加圧せず、常圧下で加熱されて加硫処理される。
【0022】
本発明の三次元造形物の製造方法は、特定組成を有する未加硫ゴム組成物を造形原料として使用することにより、50℃以上100℃以下に加熱して混合する時には、押出成形可能な程度に流動性を有しつつ、熱溶解積層法による三次元造形プリンタによって造形物を製造した後は、100℃以上150℃以下の範囲に加熱されて加硫処理されても、加硫処理後のゴム組成物内部に発泡が発生することが抑制される。
【0023】
なお、未加硫ゴム組成物の加硫温度が低い場合には、工程Aの温度は100℃以下であり、かつ、加硫温度よりも20℃以上低い温度にすることが好ましい。
【0024】
前記スクリュー式押出機は、スクリューの回転軸に直交する側面に開口部及びガイドローラを有しており、
帯状に形成された未加硫ゴム組成物が前記開口部へと連続して供給されることにより、前記工程A乃至前記工程Dを繰り返し得ることが好ましい。
【0025】
前記吐出孔の孔径(内径、φ)は、0.3mm以上3mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の未加硫ゴム組成物は、造形時には加熱されることによって適度な流動性を発揮しつつ、加硫時の加熱によっては気泡が発生しにくいため、三次元造形プリンタ用の造形原料として好適である。また、本発明の三次元造形物の製造方法によれば、未加硫ゴム組成物を造形原料とした三次元造形物を、容易かつ安定して製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】三次元造形用プリンタの一実施形態の外観図を示す。
【
図2】スクリュー式押出機2の開口部4付近の構造を示す。
【
図3】三次元造形用プリンタの造形動作中における、吐出孔と造形シート等との位置関係を示す。
【
図4】本発明の未加硫ゴム組成物を造形原料とする三次元造形物の製造方法における造形プロセスフローを示す。
【
図5】内蔵するスクリューの回転軸が水平方向であるスクリュー式押出機の一例を示す。
【
図6】実施例1の未加硫ゴム組成物を原料とするゴムシートの加硫処理後の断面写真であり、(a)は110℃×240分、(b)は140℃×60分、(c)は150℃×30分の加硫処理後の断面写真を示す。
【
図7】比較例2の未加硫ゴム組成物を原料とするゴムシートの加硫処理後の断面写真であり、(a)は110℃×240分、(b)は140℃×60分、(c)は150℃×30分の加硫処理後の断面写真を示す。
【
図8】加硫ゴム製インナーソールの製造に使用した三次元造形プリンタの外観写真を示す。
【
図9】
図8の三次元造形プリンタのスクリュー式押出機付近の外観写真を示す。
【
図10】未加硫ゴム組成物を2層積層している作業中のノズル部付近の写真(上図)と、未加硫ゴム組成物を2層積層した後、加硫処理が行われたインナーソールの外観写真(下図)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら以下に説明する。本発明は、以下に限定されない。
【0029】
本発明の未加硫ゴム組成物は、熱溶解積層法による三次元造形プリンタ用の造形原料に好適であり、ゴム基材と、酸化亜鉛と、酸化カルシウムと、加硫促進剤と、ステアリン酸とを必須成分として含有する。
【0030】
ゴム基材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム及びスチレン・ブタジエンゴムからなる群より選択される1種以上である。単一種のゴム基材を使用しても、複数種のゴム基材を混合して使用してもよい。
【0031】
本発明の未加硫ゴム組成物は、さらに補強性充填剤を10phr以上200phr以下で含有することが好ましい。補強性充填剤は、未加硫及び加硫処理後のゴム組成物の物理的強度を維持するための添加剤であり、その具体例は、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム又は有機繊維である。単一種の補強性充填剤を使用しても、複数種の補強性充填剤を混合して使用してもよい。
【0032】
補強性充填剤としては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ハードカーボン及びソフトカーボンのいずれも使用し得るが、ソフトカーボンが好ましい。
【0033】
ステアリン酸は、未加硫ゴム組成物を構成する各材料の分散性を改善し、未加硫ゴム組成物の流動性を高めることで成形加工性を高める目的で配合される。
【0034】
加硫促進剤は、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤及びチオ尿素系加硫促進剤からなる群より選択される1種以上である。一種類の加硫促進剤を使用してもよく、複数種の加硫促進剤を使用してもよい。酸化亜鉛は、加硫促進助剤として配合される。
【0035】
[三次元造形用プリンタの具体例]
ゴム基材を主成分とする未加硫ゴム組成物を三次元造形プリンタの造形原料として使用し、三次元造形物を製造する場合、溶融した樹脂組成物等を造形原料として使用する従来の三次元造形プリンタを転用することはできない。なぜなら、未加硫ゴム組成物は、加硫温度未満に加熱して撹拌及び混合しても、溶融した樹脂組成物等と比較して粘度が高く、未加硫ゴム組成物をスプレーすることが不可能だからである。そのため、造形原料である未加硫ゴム組成物に適した構造及び機能を備える三次元造形プリンタが必要となる。
【0036】
図1は、本発明の三次元造形物の製造方法において使用される三次元造形用プリンタの一実施形態について、その外観図を示す。
図1に示される実施形態では、スクリュー式押出機2は円筒形状であり、内部にスクリュー3を有している。スクリュー3の回転軸は、垂直方向を向いており、スクリュー式押出機2の上部に位置するギアモータ1によって回転する。スクリュー式押出機2の側面には、開口部4及びガイドローラ5が設けられている。スクリュー式押出機2の下部には、テーパー状のノズル部7が設けられており、ノズル部7の最下部には吐出孔12が設けられている。ノズル部7の上部にあたるスクリュー式押出機2の外周部分には、ジャケット式の第一ヒータ6が設けられている。
【0037】
造形原料である未加硫ゴム組成物は、帯状に形成されている。帯状の未加硫ゴム組成物Pは、供給リール8から取り出され、開口部4からスクリュー式押出機2へと供給される。供給リール8に巻き取られている帯状の未加硫ゴム組成物Pは、未加硫ゴム組成物の帯同士が接着することを防止するため、剥離材を片面に介した状態で供給リール8に巻き取られていることが好ましい。その場合、開口部4へと帯状の未加硫ゴム組成物Pを供給する際に、剥離材を取り外し、剥離材用の巻き取りリール(図示せず)に巻き取る構成とすることが好ましい。
【0038】
開口部4へと供給された帯状の未加硫ゴム組成物Pは、スクリュー3の溝及びガイドローラ5によって挟持される。スクリュー3が回転することにより、帯状の未加硫ゴム組成物Pは、スクリュー式押出機2の内部へと引き込まれ、順次ノズル部7方向(下方)へと搬送され、第一ヒータ6によって加熱され、撹拌及び混合されると共に、流動性が付与される。
【0039】
図2は、スクリュー式押出機2の開口部4付近の構造を示す。供給された帯状の未加硫ゴム組成物Pは、スクリュー2の溝13とガイドローラ5の間へと供給される。ガイドローラ5は、ローラ固定部材14によって保持されており、スクリュー3とガイドローラ5とが接触するように、ローラ固定部材14によってガイドローラ5の位置が調整される。
【0040】
スクリュー2の溝13の幅は、3mm~10mmであることが好ましい。また、スクリュー2は、溝13のピッチが3mm~10mmであることが好ましく、4mm~6mmであることがより好ましい。帯状の未加硫ゴム組成物Pの幅は、溝13の幅と同程度(4mm~6mm)とし、厚みは0.5mm以上5mm以下とすることが好ましく、1mm以上3mm以下とすることがより好ましい。スクリュー2が回転することにより、溝13及びガイドローラ5によって挟持されている帯状の未加硫ゴム組成物Pは、連続的にスクリュー3によって搬送することが可能である。
【0041】
帯状の未加硫ゴム組成物Pは、スクリュー3によってノズル部7の下部に位置する吐出孔に向かって搬送される。開口部4の下方であって、ノズル部7の上部にあたるスクリュー式押出機2の外周部分には、ジャケット式の第一ヒータ6が設けられており、スクリュー式押出機2内の未加硫ゴム組成物を50℃以上100℃以下の範囲(加硫することなく流動性を付与できる温度範囲)に加熱する。この加熱によって、未加硫ゴム組成物は、スクリュー式押出機2の内部で撹拌及び混合されて流動性を得る。
【0042】
上述したように、未加硫ゴム組成物の加硫温度が低い場合には、スクリュー式押出機2内の未加硫ゴム組成物を50℃以上100℃以下であり、かつ、加硫温度よりも20℃以上低い温度に調整する。
【0043】
スクリュー3の回転によって、未加硫ゴム組成物は、吐出孔12からチューブ状に吐出され、可動式テーブル11の造形台10上に置かれたシードベッド9表面に配置される。造形シート9は、造形台10が内蔵する第二ヒータ(図示せず)によって30℃以上100℃以下の範囲に加熱されている。30℃未満では未加硫ゴム組成物の粘着性が低く、造形シートとの密着性が悪くなり、100℃以超では加硫が促進し、上層との密着性が悪くなるという問題がある。吐出孔12の孔径(φ)は、0.3mm以上3mm以下とすることが好ましく、0.3mm以上1.5mm以下とすることがより好ましい。吐出孔12の孔径が小さいほど造形精度を理論上は向上し得るが、吐出孔12から吐出される未加硫ゴム組成物は、半固形物であるため閉塞が起こりやすい。このため、実用的には、吐出孔12の内径を0.4mm以上0.7mm以下とすることがさらにより好ましい。造形シート9は、表面に配置される未加硫ゴム組成物と化学変化を起こさず、第二ヒータによる加熱が容易であるように、ステンレス製であることが好ましい。
【0044】
ノズル部7は、吐出孔12及びスクリュー3のメインテナンスのため、着脱可能な構造であることが好ましい。
【0045】
スクリュー3は、外径(φ)8mm~12mm、内径(φ)5mm~9mmであることが好ましい。スクリュー式押出機2は、金属製、特にステンレス製であることが好ましい。スクリュー式押出機2の筺体は、内径(φ)はスクリュー3の外径と同様の径であり、外径(φ)は25mm~32mm程度であることが好ましい。開口部4は、幅10mm程度、高さ15mm程度とすることが好ましい。
【0046】
吐出孔12からの未加硫ゴム組成物の吐出量は、スクリュー3を駆動するギアモータ1の回転数を制御することにより調整される。吐出量は、スクリュー式押出機2の内容積及びスクリュー3の寸法等によっても変化するが、1mm3/秒以上30mm3/秒以下とすることが好ましい。1mm3/秒未満では過熱による閉塞が起こりやすくなり、30mm3/秒超では吐出が安定せず造形不良を起こしやすくなるためである。
【0047】
第一ヒータ6及び造形シート9には、それぞれ温度計を取り付けて、第一ヒータ及び第二ヒータの出力を調整することが好ましい。温度計としては、熱電対式温度計又はサーミスタ式温度計が好ましい。温度計によって温度をリアルタイムで測定し、第一ヒータ及び第二ヒータの出力を制御する構成とすることが好ましい。
【0048】
図3は、本実施形態に係る三次元造形用プリンタの造形動作中における、吐出孔12と造形シートとの位置関係を示す。
図3において、線Sは、造形シート表面又は先に造形シート上に配置された未加硫ゴム組成物の最上層表面を示す。造形開始時、吐出孔12から吐出された未加硫ゴム組成物は、吐出孔12の下方に位置するシードベッド表面S上に配置される。このとき、吐出孔12から吐出される未加硫ゴム組成物は、吐出孔12の内径とほぼ同じ直径Dを有しているため、シードベッド表面S上に厚みDで配置される。
【0049】
従来の三次元造形用プリンタは、溶解させた樹脂組成物等を順次積層するために、吐出孔と造形シートとの間の距離は、積層される層の厚みよりも大きく設定される。一方、本実施形態に係る三次元造形用プリンタは、未加硫ゴム組成物という粘度の高い造形原料を積層するため、吐出された未加硫ゴム組成物は、ある程度の直径を有するチューブ状とならざるを得ない。このため、各層の厚みも従来の三次元造形プリンタよりも大きくなり、造形物の形態を調整することが困難である。
【0050】
そこで、本発明の三次元造形用プリンタは、造形開始前に、吐出孔12と造形シート9との距離が、未加硫ゴム組成物の直径D(造形シート9上に配置される1層の厚み)より小さな値「d」に設定されており、吐出孔12からが未加硫ゴム組成物を吐出しながら、可動式テーブル11が水平方向(
図1のX軸方向及びY軸方向)に移動する。このため、造形シート9上に配置される未加硫ゴム組成物は、ノズル部7の先端付近によって押圧されながら造形シート9上に配置される。可動式テーブル11の動作は、パーソナルコンピュータに記録された造形物の三次元形状の情報に基づいて、テーブル制御装置によって制御される。
【0051】
可動式テーブル11を水平方向に移動させ、造形シート9上に未加硫ゴム組成物を1層配置した後、スクリュー3を停止し、吐出孔12からの未加硫ゴム組成物の吐出を停止する。可動式テーブル11を垂直方向(
図1のZ軸方向)に「d」だけ降下させた後、再度スクリュー3を稼働させ、吐出孔12から未加硫ゴム組成物を吐出させながら、可動式テーブル11を水平方向に移動させる。このとき、吐出孔12と、未加硫ゴム組成物の1層表面Sとの位置関係は、
図3に示される状態となる。2層目を配置した後は、1層目を配置した後と同様に操作し、3層目以降を順次配置して三次元造形物を作製する。
【0052】
Dは、吐出孔12の内径(φ)と同じであるため、0.3mm以上3mm以下(より好ましくは0.3mm以上1.5mm以下)となる。一方、dは、0.1mm以上1mm以下(ただし、d<D)に調整されることが好ましい。配置された未加硫ゴム組成物を押圧するために、未加硫ゴム組成物と接触するノズル部7の下端部は、テーパー形状であることが好ましい。
【0053】
1~3層程度、未加硫ゴム組成物を配置した後は、造形シート9の加熱を停止してもよい。
【0054】
未加硫ゴム組成物の積層が終了した後、造形シート9を造形台10から取り外し、乾燥機のような加熱装置内に移し、造形物を100℃以上150℃以下の温度で、30分以上90分以下の時間加熱し、加硫処理を行う。加熱する前に、造形シート9から造形物を取り外し、造形物のみを加熱装置に移してもよく、別の容器等に収納して加熱装置に移してもよい。
【0055】
図4は、本発明の未加硫ゴム組成物を造形原料とする三次元造形物の製造方法における造形プロセスフローを示す。帯状の未加硫ゴム組成物Pは、開口部4からスクリュー式押出機2へと供給され、第一ヒータ6によって加熱され、スクリュー3の回転によって混合及び撹拌される(工程A)。
【0056】
吐出された未加硫ゴム組成物Qは、吐出孔12から可動式テーブルの造形台10上に設置された造形シート9上へと押し出される。このとき、造形台10は水平方向に移動しており(
図4(a)においては右から左へと移動している)、吐出された未加硫ゴム組成物Qは、左から右へと向かって造形シート上に配置される(1回目の工程B)。未加硫ゴム組成物Qの吐出量は、スクリュー3の回転数によって調整し得る。
【0057】
1層目の配置が終了すれば、スクリュー3を停止して、吐出孔12からの未加硫ゴム組成物Qの吐出を止める。造形台10の移動も停止する(
図4(b))。
【0058】
次に、造形台10を下方へと移動させる(
図4(c)、工程C)。造形台10を降下させるかわりに、スクリュー式押出機2を上昇させてもよい。そして、2層目の配置を始める場所まで造形台10を水平方向に移動させる。
【0059】
その後、スクリュー3を回転させる。未加硫ゴム組成物Qは、吐出孔12から未加硫ゴム組成物の1層目上へと押し出される。このとき、造形台10は水平方向に移動しており(
図4(d)においては右から左へと移動している)、未加硫ゴム組成物Bは、左から右へと向かって未加硫ゴム組成物の1層目上に配置される(工程D)。
【0060】
未加硫ゴム組成物Qの2層目を配置した後、スクリュー3を停止し、工程Cを行う。その後、造形物の造形が完成するまで、工程A、工程C及び工程Dを繰り返す。
【0061】
ここでは、造形原料である未加硫ゴム組成物は、帯状の未加硫ゴム組成物Pとしてスクリュー式押出機2へと連続的に供給されるため、工程Dを実行しながら工程Aを同時に行い得る。しかし、スクリュー式押出機2を開閉式とし、その内部に造形原料の貯蔵スペースを設け、加硫ゴム組成物をバッチ式で供給する構造としてもよい。その場合、工程Bの終了時又は工程Dにおいて1つの層を積層した後、スクリュー3を停止しているときに、スクリュー式押出機2へと未加硫ゴム組成物を供給する。
【0062】
未加硫ゴム組成物Qの配置(積層)が終了すれば、造形台10から造形シート9と共に造形物Rを取り外し、加熱炉内で加熱し、造形物を構成する未加硫ゴム組成物を加硫処理する(
図4(e)、工程E)。工程E終了後、加熱炉から造形物(加硫処理されたゴム組成物から構成される三次元造形物)を取り出す(
図4(f))。加熱炉としては、不活性雰囲気内で造形物を加熱できる加熱装置が好ましい。
【0063】
なお、
図1~
図4に示されるスクリュー式押出機2は、スクリュー3の回転軸が垂直方向であるが、
図5に示されるスクリュー式押出機21のように、内蔵するスクリュー3の回転軸が水平方向である押出機を使用してもよい。スクリュー式押出機21は、本体がL字型であり、水平を向いている円筒部分の上面に開口部4が形成されている。開口物には、スクリュー式押出機2と同様、ガイドローラを設けることが好ましい。帯状の未加硫ゴム組成物Pは、開口部4に向けて上部から供給される。スクリュー式押出機21は、不定形であるか、又は粘着性の高い未加硫ゴム組成物を造形原料とする場合に使用されることが好ましい。
【0064】
[ゴム組成物の製造例]
ゴム基材、硫黄、酸化亜鉛、酸化カルシウム、ステアリン酸及び加硫促進剤を含有する未加硫ゴム組成物を調製した。ゴム基材としては、天然ゴム(NR;RSS#3)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM;住友化学株式会社 エスプレン505A)、クロロプレンゴム(CR;デンカ株式会社 S-41)、ニトリルゴム(NBR;南帝化学工業 NANCAR1052-M30)
及びスチレン・ブタジエンゴム(SBR;旭化成株式会社、アサプレン6500P)を使用した。硫黄、酸化亜鉛及び酸化カルシウムは、試薬特級品を使用した。ステアリン酸は、ミヨシ油脂株式会社製、純度98%以上の製品を使用した。加硫促進剤は、三新化学工業株式会社製・サンセラーNOB(化学名:N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド/スルフェンアミド系加硫促進剤)、三新化学工業株式会社製・サンセラーTS(化学名:テトラメチルチウラムモノスルフィド/チウラム系加硫促進剤)、三新化学工業株式会社製・サンセラーM(化学名:2-メルカプトベンゾチアゾール/チアゾール系加硫促進剤)及び三新化学工業株式会社製・サンミックス22-80E(化学名:2-イミダゾリン-2-チオール又は2-イミダゾリンチオン/チオ尿素系加硫促進剤)を使用した。潤滑油は、JXTGエネルギー株式会社「コウモレックスF22」を使用した。
【0065】
カーボンブラックは、FEF(Fast Extruding Furnace、平均粒子径43nm、ASTMコード:N550、旭カーボン株式会社製)、HAF(High Abrasion Furnace、平均粒子径31nm、ASTMコード:N330、三菱化学株式会社)及びFT(Fine Thermal、平均粒子径80nm、ASTMコード:N990、旭カーボン株式会社製)を使用した。
【0066】
任意の成分としては、クマロン樹脂(粘着付与剤、日塗化学株式会社「ニットレジン クマロン」)、老化防止剤(N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン/大内新興化学工業株式会社「ノクラック6C」)、未加硫ゴムの硬化剤(川口化学株式会社「グリーンDC」)を使用した。
【0067】
表1に示される成分を8インチロールにより混練した。まず、約60℃-80℃に温めた8インチロールへゴム基材を投入し、ロールに巻きつかせた後、ステアリン酸、酸化亜鉛、クマロン樹脂、未加硫ゴム硬化剤、p-フェニレンジアミン系老化防止剤及び酸化カルシウムを投入した。次に、カーボンブラックと鉱物油を投入し、混練した後、さらに硫黄及びスルフェンアミド系加硫促進剤を投入して十分に混練し、実施例1~3及び比較例1~3の未加硫ゴム組成物を製造した。次に、8インチロールのロール間距離を調整し、これらゴム組成物を厚さ1mm、外寸30mm×30mmのゴムシートに成形した。さらに、各ゴムシートを電気炉内で加熱することにより加硫処理した。
【0068】
【0069】
上記と同様に、表2に示される成分を使用して、実施例4~8及び比較例4~6の未加硫ゴム組成物を製造した。さらに上記と同様に、厚さ1mmのゴムシートを製造し、加硫処理した。
【0070】
【0071】
加硫処理後のゴムシートの断面を、実体顕微鏡を使用して50倍拡大下で外観観察し、発泡の有無を確認した。発泡が確認されたが微細であった場合には、ゴムシートの厚みを測定し、厚みが変化しているか否かを確認した。
図6は、実施例1の未加硫ゴム組成物を原料とするゴムシートの加硫処理後の断面写真であり、(a)は110℃×240分、(b)は140℃×60分、(c)は150℃×30分の加硫処理後の断面写真を示す。実施例1の未加硫ゴム組成物は、110℃~150℃の温度範囲で加熱しても、ゴムシート内部に気泡は確認されなかった。
【0072】
図7は、比較例2の未加硫ゴム組成物を原料とするゴムシートの加硫処理後の断面写真であり、(a)は110℃×240分、(b)は140℃×60分、(c)は150℃×30分の加硫処理後の断面写真を示す。比較例2の未加硫ゴム組成物は、110℃~150℃の温度範囲で加熱すると、ゴムシート内部に気泡が発生することが確認された。また、加硫処理の温度が高いほど、大きな気泡が発生することが確認された。
【0073】
表3は、全ての実施例の未加硫ゴム組成物について、加硫処理後のゴムシート断面を観察した結果を示す。表4は、全ての比較例の未加硫ゴム組成物について、加硫処理後のゴムシート断面を観察した結果を示す。表3及び表4において、「a」は110℃×240分、「b」は140℃×60分、「c」は150℃×30分の加硫処理を意味している。また、表3及び表4において、「○」はゴムシート断面に気泡が確認されなかったか、又は微細な気泡のみ確認され加硫処理後に厚みが変化しなかったことを意味し、「×」は大きな気泡が確認されたか、又は気泡の発生によって加硫処理後に厚みが変化した(増加した)ことを意味している。
【0074】
【0075】
【0076】
表3及び表4に示されるように、実施例1~8は、すべて「○」と評価されたが、比較例1~2は全て「×」、比較例3~6は「a」条件以外が「×」と評価された。
【0077】
[三次元造形物の製造例]
図1~
図3に示される構造の三次元造形用プリンタを使用し、加硫ゴム製インナーソールを製造した。
図8は、加硫ゴム製インナーソールの製造に使用した三次元造形プリンタの外観写真を示す。また、
図9は、
図8の三次元造形プリンタのスクリュー式押出機付近の外観写真を示す。
図8及び
図9に示される三次元造形プリンタは、ギアモータ1及びスクリュー式押出機2がフレーム14によって固定されており、スクリュー式押出機2の下部に可動式テーブルが位置している。供給リール8から取り出された帯状の未加硫ゴム組成物Pは、水平に設置されている支持板15に沿って開口部4へと供給される。冷却ファン18は、ギアモータ1を冷却する機能を有する。
【0078】
スクリュー式押出機が内蔵するスクリューは、外径φ10mm、内径7mm、ピッチ5mm、長さ64.5mmであり、材質はステンレスとした。未加硫ゴム組成物の吐出量は、143.3 mm/rev(スクリュー1回転あたりの吐出長さ)に設定された。スクリュー式押出機の筺体は、外径φ28mm、内径φ10mmのステンレス製であり、筺体側面には幅10mm、縦の長さ15mmであり、深さ1mmのアンダーカットとφ10mmのガイドローラを有する開口部が設けられた。ホッパー比((幅+長さ)/2×スクリュー径)は、1.25であった。ノズル部の最下部には、孔径φ0.6mmの吐出孔を設けた。吐出孔内面及びノズル部先端付近の外面には、潤滑性及び未加硫ゴム組成物の剥離性を向上させるために、テフロン(登録商標)加工を施した。
【0079】
筺体下部には、先端がテーパー形状となるステンレス製ノズル部を取り付けた。筺体下部には、バンドヒータ(第一ヒータ)を取り付け、吐出孔付近のノズル部が90℃、開口部付近が60℃となるようにバンドヒータの出力を調整した。吐出孔付近及び開口部付近の温度は、熱電対式温度計によって測定された。吐出孔付近及び開口部付近の温度は、スクリュー式押出機内部の未加硫ゴム組成物の温度と見なすことが可能である。
【0080】
造形原料としては、幅5mm、厚さ1mmの帯状に形成され、実施例1の未加硫ゴム組成物を使用した。実施例1の未加硫ゴム組成物は、室温においても粘着性があるため、テフロン(登録商標)製剥離シート(剥離材)に挟んでリールに巻かれた状態で用意された。リールに巻かれた帯状の未加硫ゴム組成物は、分離ローラによって剥離シートと分離された後、送りローラを介してスクリュー式押出機の開口部へと供給された。
【0081】
可動式造形テーブルとして、XYZ三軸方向に可動である造形テーブルを使用した。ステンレス製造形テーブルにはフィルムヒータ(第二ヒータ)が内蔵されており、その上に設置されているステンレス製造形シートを60℃に加熱した。造形シートの温度は、熱電対 式温度計によって測定された。
【0082】
造形テーブル及びスクリュー式押出機の動作は、造形物の三次元データを記録しているパーソナルコンピュータに接続された制御装置によって制御されるようにした。また、温度計の実測値に基づいて、制御装置がヒータ出力を制御し、設定された温度が維持されるように調整した。
【0083】
図10は、未加硫ゴム組成物を2層積層している作業中のノズル部付近の写真(上図)と、未加硫ゴム組成物を2層積層した後、加硫処理が行われたインナーソールの外観写真(下図)を示す。上図に示される未加硫ゴム組成物の三次元造形物は、140℃で40分間、電気炉内で加熱され、加硫処理された。下図に示されるインナーソールは、加硫処理前のインナーソール(中間製品)から変形していなかった。また、一部切断して断面を実体顕微鏡(50倍)によって観察したが、発泡は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の三次元造形プリンタ用の未加硫ゴム組成物、及び未加硫ゴム組成物を造形原料とする三次元造形物の製造方法は、医療器具又は工業製品等の製造分野において有用である。
【符号の説明】
【0085】
1:ギアモータ
2:スクリュー式押出機
3:スクリュー
4:開口部
5:ガイドローラ(供給ローラ)
6:第一ヒータ
7:ノズル部
8:供給リール
9:造形シート
10:造形台
11:可動式テーブル
12:吐出孔
13:スクリューの溝
14:フレーム
15:支持板
16:第一温度計(スクリュー式押出機内部のゴム組成物の温度を測定する)
17:第二温度計(造形シートの温度を測定する)
18:冷却ファン
P:帯状の未加硫ゴム組成物
Q:吐出された未加硫ゴム組成物
R:造形物