(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】IL-8関連疾患の治療用又は予防用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20221214BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20221214BHJP
A61P 15/08 20060101ALI20221214BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221214BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20221214BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20221214BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20221214BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20221214BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221214BHJP
C07K 16/24 20060101ALN20221214BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20221214BHJP
【FI】
A61K39/395 U ZNA
A61P15/00
A61P15/08
A61P29/00
A61P11/00
A61P17/06
A61P1/16
A61P13/12
A61P43/00 111
C07K16/24
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2019089724
(22)【出願日】2019-05-10
(62)【分割の表示】P 2018531994の分割
【原出願日】2017-08-04
【審査請求日】2020-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2016154174
(32)【優先日】2016-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】垣内 綾子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 淳彦
(72)【発明者】
【氏名】林 修次
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼澤 和泉
(72)【発明者】
【氏名】今野 良
(72)【発明者】
【氏名】根津 幸穂
(72)【発明者】
【氏名】山海 直
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/026117(WO,A1)
【文献】特表2013-518606(JP,A)
【文献】特開平08-217799(JP,A)
【文献】特開2016-026190(JP,A)
【文献】特表2009-541352(JP,A)
【文献】特許第6527643(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトIL-8に結合する単離された抗IL-8抗体を有効成分として含有する、子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;線維化疾患;子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択される疾患の治療用又は予防用組成物であって、
前記抗IL-8抗体は、(a)HVR-H1として配列番号:23のアミノ酸配列を含み、(b)HVR-H2として配列番号:29のアミノ酸配列を含み、(c)HVR-H3として配列番号:30のアミノ酸配列を含み、(d)HVR-L1として配列番号:26のアミノ酸配列を含み、(e)HVR-L2として配列番号:31のアミノ酸配列を含み、及び(f)HVR-L3として配列番号:32のアミノ酸配列を含
み、さらに、EUナンバリングで表されるGly446及びLys447が欠失されたヒトIgG Fc領域を含む、抗IL-8抗体である、組成物。
【請求項2】
前記抗IL-8抗体がヒト化抗IL-8抗体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記抗IL-8抗体が、マウス抗体に由来するヒト化抗体である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ヒトIL-8に結合する単離された抗IL-8抗体を有効成分として含有する、子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;線維化疾患;子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択される疾患の治療用又は予防用組成物であって、
前記抗IL-8抗体は、配列番号:34のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:35のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含
み、さらに、EUナンバリングで表されるGly446及びLys447が欠失されたヒトIgG Fc領域を含む、抗IL-8抗体である、組成物。
【請求項5】
線維化疾患が、子宮内膜症又は子宮腺筋症における線維化、慢性閉塞肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、乾癬、肝線維症、腎線維症、及び肺線維症からなる群から選択される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;線維化疾患;子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択される疾患の治療用又は予防用組成物の製造における、ヒトIL-8に結合する単離された抗IL-8抗体の使用であって、
前記抗IL-8抗体は、(a)HVR-H1として配列番号:23のアミノ酸配列を含み、(b)HVR-H2として配列番号:29のアミノ酸配列を含み、(c)HVR-H3として配列番号:30のアミノ酸配列を含み、(d)HVR-L1として配列番号:26のアミノ酸配列を含み、(e)HVR-L2として配列番号:31のアミノ酸配列を含み、及び(f)HVR-L3として配列番号:32のアミノ酸配列を含
み、さらに、EUナンバリングで表されるGly446及びLys447が欠失されたヒトIgG Fc領域を含む、使用。
【請求項7】
前記抗IL-8抗体がヒト化抗IL-8抗体である、請求項
6に記載の使用。
【請求項8】
前記抗IL-8抗体が、マウス抗体に由来するヒト化抗体である、請求項
6または
7に記載の使用。
【請求項9】
子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;線維化疾患;子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択される疾患の治療用又は予防用組成物の製造における、ヒトIL-8に結合する単離された抗IL-8抗体の使用であって、
前記抗IL-8抗体は、配列番号:34のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:35のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含
み、さらに、EUナンバリングで表されるGly446及びLys447が欠失されたヒトIgG Fc領域を含む、抗IL-8抗体である、使用。
【請求項10】
線維化疾患が、子宮内膜症又は子宮腺筋症における線維化、慢性閉塞肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、乾癬、肝線維症、腎線維症、及び肺線維症からなる群から選択される、請求項
6~
9のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、IL-8関連疾患の治療用又は予防用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮内膜症はエストロゲン依存的というだけでなく(非特許文献1及び2)、炎症性疾患としても知られている(非特許文献3)。
【0003】
子宮内膜症は、限定を意図しないが、一側面において、子宮に存在する内膜組織が、子宮外に異所性(通常は骨盤内、時に、腹腔、稀に胸腔)に発生し、増殖する疾患である。悪性腫瘍ではないものの、経時的に進行し、腫瘍形成と周囲の癒着、月経時及びそれ以外での重度の腹痛や骨盤痛、ならびに、不妊症(妊孕能低下)を来す疾患である。主として、20歳以上の生殖年齢にある女性に発生し、痛み等によるQOLの低下、癒着の重症化による疼痛の慢性化や不妊症に至る。子宮腺筋症は、限定を意図しないが、一側面において、内膜症の類似疾患であるが、内膜が子宮内の筋層に発生するものである。重度の月経痛、過多月経ならびに貧血、慢性疼痛を来す。(なお、本明細書に記載される子宮内膜症及び子宮腺筋症という用語は、発明を実施するための形態において後述される記述によって定義付けされる。)
従来用いられてきた、子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療法として、鎮痛剤、ホルモン療法、手術療法がある。鎮痛剤は、効果が限定的である上に、病態の進行を防ぐことはできない。ホルモン療法の場合、痛みの軽減や病態進行の遅延には効果があるが、月経を止めるため治療中は妊孕能がなくなること、治療を中止すると再び病態が進行する可能性が高いこと、さらに、ホルモン剤の副作用などが問題点としてある。また、ホルモン剤の投与によっても、投与後に妊孕能が改善するとの報告はない。手術療法の場合も、3~5年で約50%と再発する可能性は高く(非特許文献4及び5)、術後再発を予防するには、副作用に耐えてホルモン剤を服用し続ける必要がある。
【0004】
IL-8(インターロイキン8、Interleukin 8)はケモカインの一種であり、72アミノ酸型及び77アミノ酸型の存在が知られるタンパク質である。IL-8はCXCL8とも呼ばれる。IL-8単量体は、72アミノ酸型で表記すると、システイン7とシステイン34との間、及びシステイン9とシステイン50との間に2つのジスルフィド架橋を有する。IL-8は、溶液中ではホモ二量体としても存在し得ることが知られているが、これらのホモ二量体の分子間には共有結合は存在せず、2つの単量体のβシート間の非共有結合性の相互作用によって安定化している。
IL-8は、炎症性サイトカインなどの刺激によって、末梢血単球、組織マクロファージ、NK細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞など種々の細胞から産生される(非特許文献6)。IL-8は主に好中球を活性化し、細胞接着分子の発現を亢進し、好中球の血管内皮細胞への接着を高める作用を有すると言われている。また、IL-8は好中球走化能も有し、損傷組織で産生されるIL-8は血管内皮細胞に接着した好中球の組織への遊走を促進し、好中球浸潤に伴う炎症が惹起される。更にIL-8は、内皮細胞に対する有力な血管新生因子であり、又、腫瘍の血管新生に関連していることも知られている。
【0005】
これまでに、卵巣を切除しエストラジオール放出カプセルを移植したヌードマウスに増殖期にあるヒト子宮内膜組織を腹腔に移植後、抗IL-8抗体を投与したところ、子宮内膜病変の退縮が見られたことが報告されている(特許文献1)。
しかし、ヒトと同様の月経は霊長類以外に実験動物モデルでは存在しないため、ヒト子宮内膜症の原因究明に向けて、ラット、マウス等ではヒト子宮内膜症の真の意味での動物モデルにはなり得ない。そもそも、ラット、マウスにはIL-8が存在していない。また、最近までヒト子宮内膜症を正しく評価できる非ヒト霊長類のin vivoモデルがなかったこともあり、これまで子宮内膜症に対するIL-8シグナルの影響を実際に非ヒト霊長類のin vivoモデルで確認した報告は存在しない。
【0006】
また、外科的手術等による癒着は、様々な病態において問題となっている。癒着などの治療又は予防法として、癒着防止シートがある。癒着防止シートには術後癒着低減効果はあるものの、いまだ15%の頻度でdense adhesion(強固な癒着)が形成され(非特許文献7)、未だ十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Bulun et al., Endometriosis. N Engl J Med 2009; 360:268-279
【文献】Giudice et al., Endometriosis. Lancet 2004; 364:1789-1799
【文献】Donnez et al., Gynecol Obstet Invest 2002; 54 Suppl 1:52-58; discussion 59-62
【文献】Vercellini et al., Am J Obstet Gynecol. 2008 May; 198(5): 504.e1-5
【文献】Guo et al., Hum Reprod Update. 2009 Jul-Aug; 15(4): 441-461
【文献】Remo et al., Expert Rev. Clin. Immunol. 2014 10(5):593-619
【文献】Becker et al., J Am Coll Surg. 1996 Oct; 183(4): 297-306
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述を含む様々な状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、非限定的な一側面において、IL-8関連疾患に対する、IL-8シグナル阻害剤を用いた、新規な治療方法等を提供することにある。
より具体的には、本発明は、非限定的な一実施態様において、新規なIL-8関連疾患に対する、IL-8シグナル阻害剤を用いた、新規な治療方法等を提供することにある。あるいは、本発明は、非限定的な別の実施態様において、新規又は既知のIL-8関連疾患に対する、新規な抗IL-8抗体を用いた、新規な治療方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
理論に拘束されることを必ずしも意図しないが、本発明者らは、子宮内膜症の真の病態は既に報告(Odagiri、 Fertil Steril. 2009; 92(5):1525-31.)したような慢性炎症性増殖疾患の概念であることを提唱してきた。子宮内膜症の病態病理は慢性炎症に引き続く免疫反応であり、繊維化、平滑筋化生、神経再生、血管新生などとして現れる。慢性炎症のメカニズムの重要な部分にIL-8が関与しており、子宮内膜症が慢性炎症性疾患であるという概念に基づいて、薬効の病理学的評価ならびに臨床的評価(腹腔鏡やMRでの観察)を行ってきた。
限定を意図しないが、本発明は、子宮内膜症等の病態解明のための非ヒト霊長類モデルの作製から、一方で、高機能抗IL-8抗体の作成と改良、抗体の薬理効果の評価を行うという、基礎から動物モデル臨床まで扱った包括的研究に基づくものである。ヒト子宮関連疾患の真の評価はラット、マウス、その他の小動物でのモデル実験では不可能であるため、本発明者らは、外科的に誘引された子宮内膜症モデルカニクイザルを作製し、カニクイザルを含む霊長類の生殖基礎研究、並びに、ヒト子宮内膜症等の病理学的病態概念及び評価と臨床(腹腔鏡手術と観察、MRI(磁気共鳴画像)評価等)管理などの優れた技術と知見等を互いに持ち寄り、試行錯誤と鋭意検討の末に本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、非限定的な一実施態様において、本発明者らは、子宮内膜症又は子宮腺筋症に対して、既存のホルモン療法とは異なり、性周期には影響を与えずに病態の改善に働くような治療薬として、子宮内膜症で主要な炎症性サイトカインであるIL-8に着目して抗炎症の側面からアプローチを行い、IL-8シグナル阻害剤を投与することで病態が改善することを驚くべきことに見出した。
また、非限定的な別の実施態様において、本発明者らは、外科的手術等により生じる癒着に対し抗炎症の側面からアプローチを行い、IL-8シグナル阻害剤を投与することで癒着が改善することを驚くべきことに見出した。
さらに、非限定的な別の実施態様において、本発明者らは、本開示における高機能抗IL-8抗体が、新規又は既知のIL-8関連疾患の治療等に有用であることに想到した。そのような高機能抗IL-8抗体としてはpH依存性抗IL-8抗体(pH依存的にIL-8に結合する抗IL-8抗体)であってよい。当該pH依存性抗IL-8抗体は、個体に投与されたときに参照抗体と比較して、以下の少なくとも1つ以上の特性:IL-8を速やかに消失させる、IL-8を中和する活性を安定的に維持する、免疫原性が低い、発現量が高い、を有し得るため有利である。あるいは、そのような高機能抗IL-8抗体は、以下の少なくとも1つ以上の特性を有する抗体:酸性pHにおけるFcRnに対する結合親和性が、天然型のFc領域のFcRnに対する結合親和性よりも増大しているFc領域を含む抗IL-8抗体、既存のADAに対する結合親和性が天然型のFc領域の既存のADAに対する結合親和性よりも低下しているFc領域を含む抗IL-8抗体、血漿中半減期が天然型のFc領域の血漿中半減期よりも増大しているFc領域を含む抗IL-8抗体、エフェクター受容体に対する結合親和性が天然型のFc領域のエフェクター受容体に対する結合親和性よりも低下しているFc領域を含むpH依存性抗IL-8抗体、であってよい。
【0012】
本発明は、非限定の具体的な一実施態様において以下に関する:
〔1〕 ヒトIL-8に結合する単離された抗IL-8抗体を有効成分として含有する、子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;線維化疾患;子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択されるIL-8関連疾患の治療用又は予防用組成物であって、
前記抗IL-8抗体は以下(1)から(7)からなる群から選択される、組成物:
(1)以下(a)から(f)の少なくとも一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含む、pH依存的にIL-8に結合する、抗IL-8抗体:
(a)配列番号:23のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:24のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:25のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:26のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:27のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:28のアミノ酸配列を含むHVR-L3;
(2)以下(a)から(f)の少なくとも一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含む、pH依存的にIL-8に結合する、抗IL-8抗体:
(a)配列番号:23のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:24のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:25のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:26のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:27のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:28のアミノ酸配列を含むHVR-L3
ここで、当該抗IL-8抗体は配列番号:25のアミノ酸配列の3位のチロシン、配列番号:27のアミノ酸配列の1位のアスパラギンと5位のロイシン、配列番号:28のアミノ酸配列の1位のグルタミンでアミノ酸の置換をそれぞれ少なくとも含む;
(3)以下(a)から(f)の少なくとも一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含む、pH依存的にIL-8に結合する、抗IL-8抗体:
(a)配列番号:23のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:24のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:25のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:26のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:27のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:28のアミノ酸配列を含むHVR-L3
ここで、当該抗IL-8抗体は配列番号:24のアミノ酸配列の9位のチロシンと11位のアルギニン、及び配列番号:25のアミノ酸配列の3位のチロシンでアミノ酸の置換をそれぞれ少なくとも含む;
(4)以下(a)から(f)の少なくとも一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含む、pH依存的にIL-8に結合する、抗IL-8抗体:
(a)配列番号:23のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:24のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:25のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:26のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:27のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:28のアミノ酸配列を含むHVR-L3
ここで、当該抗IL-8抗体は配列番号:24のアミノ酸配列の6位のアラニン、8位のグリシン、9位のチロシンと11位のアルギニン、及び配列番号:25のアミノ酸配列の3位のチロシンでアミノ酸の置換をそれぞれ少なくとも含む;
(5)以下(a)から(f)の少なくとも一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含む、pH依存的にIL-8に結合する、抗IL-8抗体:
(a)配列番号:23のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:24のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:25のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:26のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:27のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:28のアミノ酸配列を含むHVR-L3
ここで、当該抗IL-8抗体は配列番号:27のアミノ酸配列の1位のアスパラギンと5位のロイシン、及び配列番号:28のアミノ酸配列の1位のグルタミンでアミノ酸の置換をそれぞれ少なくとも含む;
(6)以下(a)から(f)の少なくとも一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含む、pH依存的にIL-8に結合する、抗IL-8抗体:
(a)配列番号:23のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:24のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:25のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:26のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:27のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:28のアミノ酸配列を含むHVR-L3
ここで、当該抗IL-8抗体は配列番号:24のアミノ酸配列の9位のチロシンと11位のアルギニン、配列番号:25のアミノ酸配列の3位のチロシン、配列番号:27のアミノ酸配列の1位のアスパラギンと5位のロイシン、及び配列番号:28のアミノ酸配列の1位のグルタミンでアミノ酸の置換をそれぞれ少なくとも含む;並びに、
(7)以下(a)から(f)の少なくとも一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含む、pH依存的にIL-8に結合する、抗IL-8抗体:
(a)配列番号:23のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:24のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:25のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:26のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:27のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:28のアミノ酸配列を含むHVR-L3
ここで、当該抗IL-8抗体は配列番号:24のアミノ酸配列の6位のアラニン、8位のグリシン、9位のチロシンと11位のアルギニン、配列番号:25のアミノ酸配列の3位のチロシン、配列番号:27のアミノ酸配列の1位のアスパラギンと5位のロイシン、及び配列番号:28のアミノ酸配列の1位のグルタミンでアミノ酸の置換をそれぞれ少なくとも含む。
〔2〕 抗IL-8抗体は以下(8)から(19)からなる群から選択される、〔1〕に記載の組成物:
(8)(a)HVR-H1として配列番号:23のアミノ酸配列を含み、(b)HVR-H2として配列番号:29のアミノ酸配列を含み、及び(c)HVR-H3として配列番号:30のアミノ酸配列を含む、〔1〕の(1)から(7)のいずれかに記載の抗IL-8抗体;
(9)(d)HVR-L1として配列番号:26のアミノ酸配列を含み、(e)HVR-L2として配列番号:31のアミノ酸配列を含み、及び(f)HVR-L3として配列番号:32のアミノ酸配列を含む、〔1〕の(1)から(7)のいずれかに記載の抗IL-8抗体;
(10)(a)HVR-H1として配列番号:23のアミノ酸配列を含み、(b)HVR-H2として配列番号:24のアミノ酸配列を含み、及び(c)HVR-H3として配列番号:30のアミノ酸配列を含む、〔1〕の(1)から(7)のいずれかに記載の抗IL-8抗体;
(11)(d)HVR-L1として配列番号:26のアミノ酸配列を含み、(e)HVR-L2として配列番号:107のアミノ酸配列を含み、及び(f)HVR-L3として配列番号:32のアミノ酸配列を含む、〔1〕の(1)から(7)のいずれかに記載の抗IL-8抗体;
(12)(a)HVR-H1として配列番号:23のアミノ酸配列を含み、(b)HVR-H2として配列番号:29のアミノ酸配列を含み、(c)HVR-H3として配列番号:30のアミノ酸配列を含み、d)HVR-L1として配列番号:26のアミノ酸配列を含み、(e)HVR-L2として配列番号:31のアミノ酸配列を含み、及び(f)HVR-L3として配列番号:32のアミノ酸配列を含む、〔1〕の(1)から(7)のいずれかに記載の抗IL-8抗体;
(13)(a)HVR-H1として配列番号:23のアミノ酸配列を含み、(b)HVR-H2として配列番号:24のアミノ酸配列を含み、(c)HVR-H3として配列番号:30のアミノ酸配列を含み、(d)HVR-L1として配列番号:26のアミノ酸配列を含み、(e)HVR-L2として配列番号:107のアミノ酸配列を含み、及び(f)HVR-L3として配列番号:32のアミノ酸配列を含む、〔1〕の(1)又は(2)に記載の抗IL-8抗体;
(14)配列番号:34のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:35のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、〔1〕の(1)から(7)のいずれかに記載の抗IL-8抗体;
(15)配列番号:108のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:109のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、〔1〕の(1)又は(2)に記載の抗IL-8抗体;
(16)(a)配列番号:23のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(b)配列番号:29のアミノ酸配列を含むHVR-H2、(c)配列番号:30のアミノ酸配列を含むHVR-H3、(d)配列番号:26のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(e)配列番号:31のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び(f)配列番号:32のアミノ酸配列を含むHVR-L3とそれぞれ少なくとも80%の(アミノ酸)配列同一性を有するHVR-H1、HVR-H2、HVR-H3、HVR-L1、HVR-L2、及びHVR-L3を含む、〔1〕の(1)から(7)のいずれかに記載の抗IL-8抗体(ここで、当該抗体は、(a)HVR-H1として配列番号:23のアミノ酸配列を含み、(b)HVR-H2として配列番号:29のアミノ酸配列を含み、(c)HVR-H3として配列番号:30のアミノ酸配列を含み、(d)HVR-L1として配列番号:26のアミノ酸配列を含み、(e)HVR-L2として配列番号:31のアミノ酸配列を含み、及び(f)HVR-L3として配列番号:32のアミノ酸配列を含む抗体と機能的に同等であってもよい。);
(17)(a)配列番号:23のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(b)配列番号:24のアミノ酸配列を含むHVR-H2、(c)配列番号:30のアミノ酸配列を含むHVR-H3、(d)配列番号:26のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(e)配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び(f)配列番号:32のアミノ酸配列を含むHVR-L3とそれぞれ少なくとも80%の配列同一性を有するHVR-H1、HVR-H2、HVR-H3、HVR-L1、HVR-L2、及びHVR-L3を含む、〔1〕の(1)から(7)のいずれかに記載の抗IL-8抗体(ここで、当該抗体は、(a)HVR-H1として配列番号:23のアミノ酸配列を含み、(b)HVR-H2として配列番号:24のアミノ酸配列を含み、(c)HVR-H3として配列番号:30のアミノ酸配列を含み、(d)HVR-L1として配列番号:26のアミノ酸配列を含み、(e)HVR-L2として配列番号:107のアミノ酸配列を含み、及び(f)HVR-L3として配列番号:32のアミノ酸配列を含む抗体と機能的に同等であってもよい。);
(18)配列番号:34のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:35のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とそれぞれ少なくとも80%の配列同一性を有する重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、〔1〕の(1)から(7)のいずれかに記載の抗IL-8抗体(ここで、当該抗体は、配列番号:34のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:35のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗体と機能的に同等であってもよい。);並びに、
(19)配列番号:108のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:109のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とそれぞれ少なくとも80%の配列同一性を有する重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、〔1〕の(1)から(7)のいずれかに記載の抗IL-8抗体(ここで、当該抗体は、配列番号:108のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:109のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗体と機能的に同等であってもよい。)。
〔3〕 ヒトIL-8に結合する単離された抗IL-8抗体を有効成分として含有する、子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;線維化疾患;子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択されるIL-8関連疾患の治療用又は予防用組成物であって、
当該抗IL-8抗体は以下(I)から(VIII)からなる群から選択される、組成物:
(I)EUナンバリングで表される、235位、236位、239位、327位、330位、331位、428位、434位、436位、438位、及び440位からなる群から選択される一つ以上の位置にアミノ酸の置換を含むFc領域を含む、抗IL-8抗体;
(II)EUナンバリングで表される、434位、438位、及び440位からなる群から選択される全ての位置にアミノ酸の置換を含むFc領域を含む、抗IL-8抗体;
(III)EUナンバリングで表される、434位にAla;438位にGlu、Arg、Ser若しくはLys;及び、440位にGlu、Asp若しくはGlnの全てのアミノ酸置換を含むFc領域を含む、抗IL-8抗体;
(IV)EUナンバリングで表される、434位にAla;438位にGlu、Arg、Ser若しくはLys;及び、440位にGlu、Asp若しくはGlnの全てのアミノ酸置換を含み、さらに、428位にIle若しくはLeu、及び/又は、436位にIle、Leu、Val、Thr若しくはPheを含むFc領域を含む、抗IL-8抗体;
(V)EUナンバリングで表される、L235R, G236R, S239K, A327G, A330S, P331S, M428L, N434A, Y436T, Q438R, 及びS440Eからなる群から選択されるアミノ酸置換を一つ以上含むFc領域を含む、抗IL-8抗体;
(VI)EUナンバリングで表される、
N434A/Q438R/S440E;N434A/Q438R/S440D;
N434A/Q438K/S440E;N434A/Q438K/S440D;
N434A/Y436T/Q438R/S440E;N434A/Y436T/Q438R/S440D;
N434A/Y436T/Q438K/S440E;N434A/Y436T/Q438K/S440D;
N434A/Y436V/Q438R/S440E;N434A/Y436V/Q438R/S440D;
N434A/Y436V/Q438K/S440E;N434A/Y436V/Q438K/S440D;
N434A/R435H/F436T/Q438R/S440E;N434A/R435H/F436T/Q438R/S440D;
N434A/R435H/F436T/Q438K/S440E;N434A/R435H/F436T/Q438K/S440D;
N434A/R435H/F436V/Q438R/S440E;N434A/R435H/F436V/Q438R/S440D;
N434A/R435H/F436V/Q438K/S440E;N434A/R435H/F436V/Q438K/S440D;
M428L/N434A/Q438R/S440E;M428L/N434A/ Q438R/S440D;
M428L/N434A/Q438K/S440E;M428L/N434A/ Q438K/S440D;
M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440D;
M428L/N434A/Y436T/Q438K/S440E;M428L/N434A/Y436T/Q438K/S440D;
M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440E;M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440D;
M428L/N434A/Y436V/Q438K/S440E;及び、M428L/N434A/Y436V/Q438K/S440D
からなる群から選択されるアミノ酸置換の組み合わせを含むFc領域を含む、抗IL-8抗体;
(VII)EUナンバリングで表される、
L235R/G236R/S239K/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;又は、
L235R/G236R/A327G/A330S/P331S/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E
のアミノ酸置換の組み合わせを含むFc領域を含む、抗IL-8抗体;並びに、
(VIII)前記(I)から(VII)のいずれかに記載のFc領域を含み、当該Fc領域が以下の(a)から(e)からなる群から選択される性質の少なくとも一つを有する抗IL-8抗体:
(a)酸性pHでの、当該Fc領域のFcRnに対する結合親和性が、天然型のFc領域のFcRnに対する結合親和性よりも増大している、
(b)既存のADAに対する当該Fc領域の結合親和性が天然型のFc領域の既存のADAに対する結合親和性よりも低下している、
(c) 当該Fc領域の血漿中半減期が天然型のFc領域の血漿中半減期よりも増大している、
(d) 当該Fc領域の血漿中クリアランスが天然型のFc領域の血漿中クリアランスよりも減少している、及び
(e) エフェクター受容体に対する当該Fc領域の結合親和性が天然型のFc領域のエフェクター受容体に対する結合親和性よりも低下している。
〔4〕 ヒトIL-8に結合する単離された抗IL-8抗体を有効成分として含有する、子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;線維化疾患;子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択されるIL-8関連疾患の治療用又は予防用組成物であって、
当該抗IL-8抗体は以下(A)から(F)からなる群から選択される、組成物:
(A)配列番号:36のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号:38のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗IL-8抗体;
(B)配列番号:37のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号:38のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗IL-8抗体;
(C)配列番号:106のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号:44のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗IL-8抗体;
(D)配列番号:36のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号:38のアミノ酸配列を含む軽鎖とそれぞれ少なくとも80%の配列同一性を有する重鎖及び軽鎖を含む抗IL-8抗体(ここで、当該抗体は、配列番号:36のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号:38のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体と機能的に同等であってもよい。);
(E)配列番号:37のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号:38のアミノ酸配列を含む軽鎖とそれぞれ少なくとも80%の配列同一性を有する重鎖及び軽鎖を含む抗IL-8抗体(ここで、当該抗体は、配列番号:37のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号:38のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体と機能的に同等であってもよい。);並びに、
(F)配列番号:106のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号:44のアミノ酸配列を含む軽鎖とそれぞれ少なくとも80%の配列同一性を有する重鎖及び軽鎖を含む抗IL-8抗体(ここで、当該抗体は、配列番号:106のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号:44のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体と機能的に同等であってもよい。)。
〔5〕 線維化疾患が、子宮内膜症又は子宮腺筋症における線維化、慢性閉塞肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、乾癬、肝線維症、腎線維症、及び肺線維症からなる群から選択される、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の組成物。
〔6〕 IL-8シグナル阻害剤(好ましくはヒトIL-8シグナル阻害剤)を有効成分として含有する、ヒト子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;ヒト子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択されるIL-8関連疾患の治療用又は予防用組成物。
〔7〕 免疫細胞のIL-8関連疾患の病変部又はその周辺環境への浸潤を抑制するための、〔6〕に記載の組成物。
〔8〕 アロマターゼ又は線維化因子の産生を阻害するための、〔6〕又は〔7〕に記載の組成物。
〔9〕 性周期への影響を与えない、〔6〕~〔8〕のいずれかに記載の組成物。
〔10〕 子宮内膜症又は子宮腺筋症における癒着又は線維化を抑制させるための、〔6〕~〔9〕のいずれかに記載の組成物。
〔11〕 (1)子宮内膜症又は子宮腺筋症の患者において子宮内膜の上皮細胞若しくはstroma細胞を萎縮させるための、又は、(2)子宮内膜症において子宮内膜のinterstitiumを減少させるための、〔6〕~〔10〕のいずれかに記載の組成物。
〔12〕 月経困難症が子宮内膜症若しくは子宮腺筋症を有する月経困難症であるか、又は、子宮内膜症若しくは子宮腺筋症が疑われる月経困難症である、〔6〕~〔11〕のいずれかに記載の組成物。
〔13〕 癒着が手術後に生じた癒着である、〔6〕に記載の組成物。
〔14〕 IL-8シグナル阻害剤がIL-8阻害剤(好ましくはヒトIL-8阻害剤)、CXCR1阻害剤(好ましくはヒトCXCR1阻害剤)、又はCXCR2阻害剤(好ましくはヒトCXCR2阻害剤)である、〔6〕~〔13〕のいずれかに記載の組成物。
〔15〕 IL-8阻害剤、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤が、それぞれ抗IL-8抗体(好ましくは抗ヒトIL-8抗体)、抗CXCR1抗体(好ましくは抗ヒトCXCR1抗体)、又は抗CXCR2抗体(好ましくは抗ヒトCXCR2抗体)である、〔14〕に記載の組成物。
〔16〕 免疫細胞のIL-8関連疾患の病変部又はその周辺環境への浸潤を抑制するための、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の組成物。
〔17〕 アロマターゼ又は線維化因子の産生を阻害するための、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の組成物。
〔18〕 性周期への影響を与えない、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の組成物。
〔19〕 子宮内膜症又は子宮腺筋症における癒着又は線維化を抑制させるための、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の組成物。
〔20〕 (1)子宮内膜症又は子宮腺筋症の患者において子宮内膜の上皮細胞若しくはstroma細胞を萎縮させるための、又は、(2)子宮内膜症において子宮内膜のinterstitiumを減少させるための、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の組成物。
〔21〕 月経困難症が子宮内膜症若しくは子宮腺筋症を有する月経困難症であるか、又は、子宮内膜症若しくは子宮腺筋症が疑われる月経困難症である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の組成物。
〔22〕 癒着が手術後に生じた癒着である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の組成物。
〔23〕 IL-8関連疾患がIL-8シグナルに応答性を示す、〔1〕~〔22〕のいずれかに記載の組成物。
〔24〕 さらに薬学的に許容される担体を含む、〔1〕~〔23〕のいずれかに記載の組成物。
〔25〕子宮内膜症が、ヒト子宮内膜症である、〔1〕~〔5〕、〔16〕~〔24〕のいずれかに記載の組成物。
〔A1〕 子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;線維化疾患;子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択されるIL-8関連疾患の治療又は予防における使用のための、〔1〕~〔5〕、〔16〕~〔25〕のいずれかに規定される抗IL-8抗体。
〔A2〕 ヒト子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;ヒト子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択されるIL-8関連疾患の治療又は予防における使用のための〔6〕~〔15〕、〔23〕~〔25〕のいずれかに規定されるIL-8シグナル阻害剤。
〔A3〕 〔1〕~〔5〕、〔16〕~〔25〕のいずれかに規定される抗IL-8抗体又は〔1〕~〔5〕、〔16〕~〔25〕のいずれかに記載される組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;線維化疾患;子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択されるIL-8関連疾患を治療又は予防する方法(ここで、それを必要とする対象とは、当該IL-8関連疾患に罹患した、又は、罹患している恐れのある対象であってよい。)。
〔A4〕〔6〕~〔15〕、〔23〕~〔25〕のいずれかに規定されるIL-8シグナル阻害剤又は〔6〕~〔15〕、〔23〕~〔25〕のいずれかに記載される組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、ヒト子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;ヒト子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択されるIL-8関連疾患を治療又は予防する方法(ここで、それを必要とする対象とは、当該IL-8関連疾患に罹患した、又は、罹患している恐れのある対象であってよい。)。
〔A5〕 子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;線維化疾患;子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択されるIL-8関連疾患の治療又は予防のための医薬の製造における、〔1〕~〔5〕、〔16〕~〔25〕のいずれかに規定される抗IL-8抗体の使用。
〔A6〕 ヒト子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;癒着;ヒト子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;不妊症;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛からなる群から選択されるIL-8関連疾患の治療又は予防のための医薬の製造における〔6〕~〔15〕、〔23〕~〔25〕のいずれかに規定されるIL-8シグナル阻害剤の使用。
これらのいずれかに記載の一又は複数の要素(element)の一部又は全部を任意に組み合わせたものも、当業者の技術常識に基づいて技術的に矛盾しない限り、本発明に含まれることが意図され、かつ、当業者には当然に理解されるものとして記載される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】天然ヒトIgG1のFc領域を有するFv4-IgG1の、RA患者の血清におけるリウマトイド因子への結合の程度を示す。
【
図2】Fv4-YTEの、RA患者の血清中のリウマトイド因子への結合の程度を示す。
【
図3】Fv4-LSの、RA患者の血清中のリウマトイド因子への結合の程度を示す。
【
図4】Fv4-N434Hの、RA患者の血清中のリウマトイド因子への結合の程度を示す。
【
図5】Fv4-F1847mの、RA患者の血清中のリウマトイド因子への結合の程度を示す。
【
図6】Fv4-F1848mの、RA患者の血清中のリウマトイド因子への結合の程度を示す。
【
図7】Fv4-F1886mの、RA患者の血清中のリウマトイド因子への結合の程度を示す。
【
図8】Fv4-F1889mの、RA患者の血清中のリウマトイド因子への結合の程度を示す。
【
図9】Fv4-F1927mの、RA患者の血清中のリウマトイド因子への結合の程度を示す。
【
図10】Fv4-F1168mの、RA患者の血清中のリウマトイド因子への結合の程度を示す。
【
図11】Fv4-IgG1、及び、各種FcRn結合増大Fc領域改変体を含む抗体のそれぞれについて、RA患者の血液におけるリウマトイド因子への結合性の平均値を示す。
【
図12】抗ヒトIgE抗体である、天然ヒトIgG1のFc領域を有するOHB-IgG1、及び、各種FcRn結合増大Fc領域改変体を含む抗体(OHB-LS、OHB-N434A、OHB-F1847m、OHB-F1848m、OHB-F1886m、OHB-F1889m、OHB-F1927m)をカニクイザルにそれぞれ投与した場合の、当該カニクイザルの血漿中の各種抗ヒトIgE抗体の濃度推移を示す。
【
図13】抗ヒトIL-6レセプター抗体であるFv4-IgG1と、当該抗体において酸性pHにおけるFcRnへの結合性を増大させたFv4-F1718とをヒトFcRnトランスジェニックマウスにそれぞれ投与した場合の、当該マウス血漿中の抗体の濃度推移を示す。
【
図14】pH7.4とpH5.8における、H998/L63とHr9のIL-8への結合をBiacoreで測定した時に得られるセンサーグラムを示す。
【
図15】ヒトIL-8と混合させたH998/L63及びH89/L118を、マウスにそれぞれ2 mg/kgで投与した場合の、当該マウス血漿中のヒトIL-8濃度推移を示す。
【
図16】ヒトIL-8と混合させたH89/L118を、マウスにそれぞれ2 mg/kg又は8 mg/kgで投与した場合の、当該マウス血漿中のヒトIL-8濃度推移を示す。
【
図17】ヒトIL-8と混合させたH89/L118及びH553/L118を、マウスにそれぞれ2 mg/kg又は8 mg/kgで投与した場合の、当該マウス血漿中のヒトIL-8濃度推移を示す。
【
図18-1】Hr9、H89/L118、及びH553/L118の、血漿中での保存前の抗体による化学発光量の相対値の、抗体濃度による推移を示す。
【
図18-2】Hr9、H89/L118、及びH553/L118の、血漿中で1週間保存した後の抗体による化学発光量の相対値の、抗体濃度による推移を示す。
【
図18-3】Hr9、H89/L118、及びH553/L118の、血漿中で2週間保存した後の抗体による化学発光量の相対値の、抗体濃度による推移を示す。
【
図19】EpiMatrixで予測された各IL-8抗体(hWS4、Hr9、H89/L118、H496/L118、H553/L118)のADA発生予測頻度とその他既存の抗体医薬のADA発生予測頻度を示す。
【
図20】EpiMatrixで予測された各IL-8抗体(H496/L118、H496v1/L118、H496v2/L118、H496v3/L118、H1004/L118、H1004/L395)のADA発生予測頻度とその他既存の抗体医薬のADA発生予測頻度を示す。
【
図21-1】Hr9、H89/L118、及びH1009/L395-F1886sの、血漿中での保存前の抗体による化学発光量の相対値の、抗体濃度による推移を示す。
【
図21-2】Hr9、H89/L118、及びH1009/L395-F1886sの、血漿中で1週間保存した後の抗体による化学発光量の相対値の、抗体濃度による推移を示す。
【
図21-3】Hr9、H89/L118、及びH1009/L395-F1886sの、血漿中で2週間保存した後の抗体による化学発光量の相対値の、抗体濃度による推移を示す。
【
図22】ヒトIL-8と混合させたH1009/L395、H553/L118及びH998/L63を、マウスにそれぞれ投与した場合の、当該マウス血漿中のヒトIL-8濃度推移を示す。
【
図23】Hr9, H89/L118及びH1009/L395を、単独で細胞外マトリックスに添加した場合と、ヒトIL-8と混合して添加した場合との、細胞外マトリックスへの結合量を示す。
【
図24】H1009/L395の可変領域を有し、FcRnに結合しないFc領域(F1942m)を有する抗体を、単独でヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与した場合とヒトIL-8と混合してヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与した場合の、当該各マウスの血漿中の抗体の濃度推移を表す。
【
図25】EpiMatrixで予測されたH1009/L395及びH1004/L395のADA発生予測頻度とその他既存の抗体医薬のADA発生予測頻度を示す。
【
図26】H89/L118の可変領域を有し、天然ヒトIgG1のFc領域を有するH89/L118-IgG1、及び、各種FcRn結合増大Fc領域改変体を有する抗体(H89/L118-F1168m、H89/L118-F1847m、H89/L118-F1848m、H89/L118-F1886m、H89/L118-F1889m、H89/L118-F1927m)をカニクイザルにそれぞれ投与した場合の、当該カニクイザルの血漿中の各種抗ヒトIL-8抗体の濃度推移を示す。
【
図27】H1009/L395の可変領域を有する抗体であって、Fc領域が改変体(F1886m, F1886s, F1974m)である抗体の、各種FcγRへの結合性を示す。
【
図28】ヒトIL-8と混合させた抗IL-8抗体をヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与した場合の、当該マウス血漿中のヒトIL-8の濃度推移を示す。当該抗IL-8抗体は、H1009/L395の可変領域及び天然ヒトIgG1のFc領域を含むH1009/L395-IgG1(2 mg/kg)と、H1009/L395の可変領域及び改変されたFc領域を含むH1009/L395-F1886s(2、5又は10 mg/kg)である。
【
図29】天然ヒトIgG1のFc領域を含む、Hr9-IgG1、H89/L118-IgG1と、改変されたFc領域を含むH1009/L395-F1886s、H1009/L395-F1974mをそれぞれカニクイザルに投与した場合の、当該カニクイザルの血漿中の各抗体の濃度推移を表す。
【
図30】子宮内膜症患者の嚢胞液中のIL-8濃度を示すグラフである。
【
図31】子宮内膜組織の細切後、播種によって形成された病変部位と癒着及び縫合によって形成された病変部位を記録した腹腔鏡観察記録用紙を示す図である。
【
図32】誘引4ヶ月後および誘引12ヶ月後(投与6ヶ月後)における、結節性病変の形成および癒着の形成を示す写真である。
【
図33】誘引12ヶ月後(投与6ヶ月後)において、増殖性を示す子宮内膜症様内膜上皮およびstromaが形成されたことを示す写真である。
【
図34-1】サルの子宮内膜症モデルにおける嚢胞液中のIL-8濃度とadhesion r-AFS scoreの高い相関関係を示すグラフである。
【
図34-2】Vehicleあるいは抗体H1009/L395-F1974mを投与したときの、子宮内膜症の結節性病変の相対体積を示すグラフである。
【
図35-1】Vehicleあるいは抗体H1009/L395-F1974m投与の前後における、total r-AFS score、adhesion r-AFS score、size r-AFS scoreの変化を示すグラフである。
【
図35-2】Vehicleあるいは抗体H1009/L395-F1974m投与の前後における、total r-AFS scoreの変化を示すグラフである。
【
図36】誘引12ヶ月後(投与6ヶ月後)において、Vehicle群と抗体H1009/L395-F1974m投与群における、移植部の病理組織像を示す。Vehicle群と比較し、抗体H1009/L395-F1974m投与群において、増殖性を示す上皮及びstroma細胞の萎縮やinterstitiumの減少が認められた。
【
図37】子宮腺筋症併発サルのVehicle群と抗体H1009/L395-F1974m投与群における、子宮内膜組織を示す写真である。Vehicle群と比較し、抗体H1009/L395-F1974m投与群において、内膜上皮の萎縮ならびにstroma細胞の減少と萎縮が認められた。
【
図38】外科的手術後の癒着に関する、サルの子宮内膜症モデルにおけるVehicle群と抗体H1009/L395-F1974m投与群の代表的な腹腔内を示す写真である。
【
図39】IL-8を添加していないwellにおける好中球の遊走能に対する各種試薬添加時の各wellにおける好中球の遊走能を相対値で評価した結果を示す。
【
図40】子宮内膜症細胞に好中球培養上清を添加した場合のアロマターゼの発現量を解析した結果を示す。
【
図41】IL-8や抗IL-8抗体を添加したときの好中球培養液中のMCP-1の濃度を解析した結果を示す。
【
図42】IL-8や抗IL-8抗体を添加したときのマクロファージにおけるCTGFの発現を解析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本開示の好ましい非限定的な実施態様を説明する。
【0015】
後述する本実施例に記載されるあらゆる要素(element)は、本特許出願の権利化を意図する国における、実施例に記載の内容を限定的に解釈しようとし得るいかなる特許実務、慣習、法令等の制限に縛られることなく、本「発明を実施するための形態」においても同等に記載されていると当然にみなされることを意図して記載される。
【0016】
本開示におけるいずれかに記載の一又は複数の要素(element)の一部又は全部を任意に組み合わせたものも、当業者の技術常識に基づいて技術的に矛盾しない限り、本開示に含まれることが意図され、かつ、当業者には当然に理解されるものとして記載される。
【0017】
本明細書において「抗体」とは最も広い意味において使用され、限定はされないが、所望する抗原結合活性を示す限りは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)及び抗体断片を含む。
【0018】
本開示において、所望の参照抗体(例えば参照となる抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)に対して「同じエピトープに結合する抗体」とは、一実施態様において、所望の抗原(例えばIL-8、CXCR1、又はCXCR2)に結合する参照抗体の当該抗原への結合を例えば50%、60%、70%、80%、90%、95%又はそれ以上阻止する抗体を指し、逆に、参照抗体は、抗体のその抗原への結合を例えば50%、60%、70%、80%、90%、95%又はそれ以上阻害する。ここで、典型的な競合アッセイを用いることもできるがこれに限定されない。
【0019】
本明細書において「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味し、すなわち、例えば、天然に生じる変異を含み、又はモノクローナル抗体製剤の製造時に発生するものであって、一般的に少量で存在する変異体などの潜在的な変異体抗体を除いては、集団を構成する個々の抗体は同一であり、及び/又は同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を一般的に含む、ポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。従って、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、本開示におけるモノクローナル抗体は、限定されないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含む様々な技術によって作製されてよい。一実施態様において、本開示における抗体はモノクローナル抗体であってよい。
【0020】
本明細書において「天然型抗体」とは、天然に生じる様々な構造を有する免疫グロブリン分子を指す。例えば、一側面での天然型IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から成る約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であるが、これに限定されない。N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変領域(VH)を有し、3つの定常領域(CH1、CH2及びCH3)が続く。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変領域(VL)を有し、定常領域(CL)が続く。抗体の軽鎖は、その定常領域のアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプのいずれかに割り当てることができる。ここで用いられる定常領域としては、報告されている如何なるアロタイプ(アレル)又は如何なるサブクラス/アイソタイプのものが用いられてもよい。例えば重鎖定常領域としては、限定はされないが、天然型IgG抗体(IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)の定常領域を用いることができる。例えばIgG1のアレルとしては、IGHG1*01~05が知られているが(http://www.imgt.org/を参照)、これらのいずれもがヒト天然型IgG1配列として使用できる。また、定常領域の配列は、単一のアレル又はサブクラス/アイソタイプに由来してもよいし、複数のアレル又はサブクラス/アイソタイプに由来してもよい。すなわち、これに限定はされないが、例えばCH1はIGHG1*01に由来し、CH2はIGHG1*02に由来し、CH3はIGHG1*01に由来する、といった抗体も含まれる。天然型ヒトIgG抗体の重鎖定常領域の一例としては、ヒトIgG1定常領域(配列番号:100)、ヒトIgG2定常領域(配列番号:101)、ヒトIgG3定常領域(配列番号:102)、ヒトIgG4定常領域(配列番号:103)等が挙げられる。また、天然型ヒトIgG抗体の軽鎖定常領域の一例としては、ヒトκ鎖定常領域(配列番号:104)、ヒトλ鎖定常領域(配列番号:105)等が挙げられる。
【0021】
本明細書において「フレームワーク」又は「FR」とは、超可変領域(HVR)残基以外の可変領域部分を指す。通常、可変領域のFRは4つのFRドメイン:FR1, FR2, FR3, FR4からなる。従って、HVRとFRの配列は、通常、次のような配列で、VH(又はVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0022】
本明細書において「ヒトコンセンサスフレームワーク」とは、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選別において、通常、最も共通して現れるアミノ酸残基を表すフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列は、可変領域配列のサブグループから選別される。通常、配列のサブグループは、Kabat et al, Sequences of proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)によるサブグループである。一実施態様において、VLに関するサブグループは上掲のKabat et alによるサブグループκIであってよい。また、一実施態様において、VHに関するサブグループは上掲のKabat et alによるサブグループIIIであってよい。
【0023】
本明細書における「アクセプターヒトフレームワーク」とは、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークから得られるVL又はVHフレームワークのアミノ酸配列を含有するフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「から得られる」アクセプターヒトフレームワークは、ヒト免疫グロブリンフレームワーク若しくはヒトコンセンサスフレームワークと同じアミノ酸配列を含有するか、既存のアミノ酸置換を含有してもよい。一実施態様において、既存のアミノ酸置換の数は、10、9、8、7、6、5、4、3、又は2以下である。一実施態様において、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
【0024】
本明細書において「可変領域」とは、所望の抗原への抗体の結合に関与する、抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然の抗体の重鎖と軽鎖の可変領域(それぞれVHとVL)は、通常、4つの保存されたフレームワーク領域(FRs)と3つの超可変領域(HVRs)を含む各ドメインと共に類似の構造を持つ (Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., 2007 p. 91)。一実施態様において、一つのVH又はVLドメインは抗原結合特異性を与えるに十分であるが、これに限定されない。更に、ある特定の抗原に結合する抗体は、VL又はVHドメインの相補的ライブラリをスクリーニングするために当該抗原に結合する抗体からVH又はVLドメインを使って単離されてもよい(e.g., Portolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 1991 352:624-628)。
【0025】
本明細書における「超可変領域」又は「HVR」とは、配列において超可変であり(「相補性決定領域」または「CDR」(complementarity determining region))、及び/又は、構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、及び/又は、抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域のことをいう。通常、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、及びVLに3つ(L1、L2、L3)。例示的なHVRとしては以下が挙げられる:
(a) アミノ酸残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、及び96-101 (H3)のところで生じる超可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b) アミノ酸残基24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、及び95-102 (H3)のところで生じるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c) アミノ酸残基27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、及び93-101 (H3)のところで生じる抗原接触 (MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));並びに、
(d) HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、及び94-102 (H3)を含む、(a)、(b)、及び/又は(c)の組合せ。
別段示さない限り、HVR残基及び可変領域中の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では上記のKabat et alにしたがって番号付けされる。
【0026】
本明細書において「個体」とは哺乳類を指す。哺乳類は、これに限定されないが、飼いならされた動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒト、又はサルのような非ヒト霊長類)、ウサギや、げっ歯類(マウスやラットなど)を含む。一実施態様において、「個体」はIL-8を生体内に天然に有する哺乳類であることが好ましく、ヒトと同様の月経を有する動物、例えば、非ヒト霊長類がより好ましく、ヒトがいっそう好ましい。本明細書において、文脈に矛盾しない限り、個体は「対象」と互換可能に用いられる。
【0027】
本明細書において「単離された」抗体とはその天然の環境の構成要素から分離されたものである。一実施態様において、例えばクロマトグラフ的に(例えばイオン交換又は逆相HPLC)、又は電気泳動的に(例えばSDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)、例えば95%又は99%以上の純度まで精製できる。抗体の純度の測定法は例えばFlatman et al., J. Chromatogr. B 848:79-87 (2007)を参照。本開示における「単離された」抗体は、一側面において、「精製された」抗体と言い換えられる。
【0028】
本明細書において「単離された」核酸とはその天然の環境の構成要素から分離された核酸分子のことを指す。核酸には、通常、核酸分子を含む細胞に含まれる当該核酸分子を含むが、染色体外に存在するものや天然の染色体の位置とは違う位置に存在するものも含む。
【0029】
本明細書において「親和性」とは、典型的には、分子(例えば抗体又は化合物)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合的な相互作用の総合計的な強度を意味してよい。別段示さない限り、本開示において「結合親和性」とは、結合対のメンバー(例えば抗体若しくは化合物と抗原)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を意味する。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般的に、解離定数(KD)として表すことができる。結合親和性は本開示に記載の方法などの当業者に公知の方法で測定してよい。
【0030】
一実施態様において、IL-8、CXCR1又はCXCR2等の抗原に結合する抗体は、例えば≦1000 nM、≦100 nM、≦10 nM、≦1 nM、≦0.1 nM、≦0.01 nM、又は ≦0.001 nM(例えば、10-8 Mかそれ以下、10-8 Mから10-13 M、10-9 Mから10-13 Mなど)という解離定数(KD)を有することができる。
【0031】
本明細書において「宿主細胞」、「宿主細胞株」は、相互に交換可能に用いられ、外来核酸を導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)のことをいう。宿主細胞は「形質転換体」及び「形質転換細胞」を含み、これには初代の形質転換細胞及び継代数によらずその細胞に由来する子孫を含む。子孫は、親細胞と核酸の内容において完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。オリジナルの形質転換細胞がスクリーニングされた又は選択された際に用いられたものと同じ機能又は生物学的活性を有する変異体子孫も含まれる。
【0032】
本明細書において「ベクター」とは、それに連結された別の核酸を増幅できる核酸分子のことを指し、自己複製核酸構造としてのベクター、及び、それが導入された宿主細胞のゲノム中に組み込まれたベクターを含む。あるベクターは、自身に作動可能に連結された核酸の発現をもたらすことができる。そのようなベクターは本明細書において「発現ベクター」とも称される。
【0033】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)は抗体断片であってもよい。抗体断片は、例えば、Fab, Fab', Fab'-SH, F(ab')2, Fv, scFv断片、ダイアボディ、シングルドメイン抗体などの抗体断片を含んでよい。抗体断片の総説としてHudson et al. Nat. Med. 9:129-134 (2003)を参照。scFv断片の総説として、例えば、Pluckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., (Springer-Verlag, New York), pp. 269-315 (1994)、WO93/16185、US Patent No.5,571,894、US Patent No.5,587,458を参照。
【0034】
本明細書において「ダイアボディ」とは、二価又は二重特異的であって、2つの抗原結合部位を有する抗体断片である(例えば、EP404,097; WO1993/01161; Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003); Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993))。トリアボディやテトラボディは例えばHudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003) に記載される。
【0035】
本明細書において「シングルドメイン抗体」とは、抗体の重鎖可変領域の全て若しくは一部、又は、軽鎖可変領域の全て若しくは一部を含む抗体断片である。一実施態様において、本開示における抗体がシングルドメイン抗体である場合、それはヒトシングルドメイン抗体であってもよい(例えば、Domantis, Inc., Waltham, MA; US Patent No. 6,248,516)。抗体断片は、限定はされないが、本明細書に記載の組換宿主細胞を用いた産生に加えて、例えば全長抗体を酵素分解するなどの様々な方法で作製できる。
【0036】
本明細書において「キメラ抗体」とは、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の由来又は種であって、残りの部分が異なった由来又は種である抗体を指す。
【0037】
本明細書において「ヒト化」抗体とは、非ヒトHVRに由来するアミノ酸残基と、ヒトFRに由来するアミノ酸残基を有するキメラ抗体を指す。一実施態様において、ヒト化抗体は、実質的に少なくとも一つ、典型的には二つの可変領域を含み、当該可変領域では、全ての(あるいは実質的に全ての)HVRは、非ヒト抗体のHVR(例えばCDR)に相当し、全ての(あるいは実質的に全ての)FRは、ヒト抗体のFRに相当する。ヒト化抗体は、場合によっては、少なくとも、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の部分を含んでよい。
【0038】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)はキメラ抗体であってもよい。キメラ抗体は、例えばUS Patent No. 4,816,567や Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984)に記載されている。キメラ抗体は非ヒト可変領域(例えば、サルのような非ヒト霊長類、又は、マウス、ラット、ハムスター、若しくはウサギ等に由来する可変領域)とヒトの定常領域を含んでもよい。
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)はヒト化抗体であってよい。典型的には、非ヒト抗体は、親の非ヒト抗体の特異性と親和性を維持しつつ、ヒトでの免疫原性を減少させるためにヒト化される。典型的には、ヒト化抗体は一つ以上の可変領域を含み、その中にはHVR、例えば非ヒト抗体に由来するCDR(又はその一部)と、ヒト抗体配列に由来するFR(又はその一部)とが存在する。ヒト化抗体は、任意に、ヒト定常領域の少なくとも一部を含むことができる。一実施態様において、ヒト化抗体内のFRのアミノ酸残基は、例えば、抗体の特異性や親和性を維持又は改善させるために、非ヒト抗体(例えばHVR残基の由来となった抗体)の対応するアミノ酸残基と置換されていてもよい。
ヒト化抗体及びその作製方法は、例えば以下で総説されており(Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008))、更に例えば以下に記載されている:Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988); Queen et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 86:10029-10033 (1989); US Patent Nos. 5, 821,337, 7,527,791, 6,982,321, and 7,087,409; Kashmiri et al., Methods 36:25-34 (2005) (describing specificity determining region (SDR) grafting); Padlan, Mol. Immunol. 28:489-498 (1991) (describing "resurfacing"); Dall'Acqua et al., Methods 36:43-60 (2005) (describing "FR shuffling"); and Osbourn et al., Methods 36:61-68 (2005) and Klimka et al., Br. J. Cancer, 83:252-260 (2000) (describing the "guided selection" approach to FR shuffling)。
【0039】
一実施態様において、ヒト化に使われるであろうヒトフレームワークは、例えば、「ベストフィット」法(Sims et al. J. Immunol. 151:2296 (1993))を用いて選択されたフレームワーク、重鎖又は軽鎖の可変領域のある特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク(Carter et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992) and Presta et al. J. Immunol., 151:2623 (1993))、FRライブラリのスクリーニングに由来するフレームワーク領域を含んでいてもよい(Baca et al., J. Biol. Chem. 272:10678-10684 (1997) と Rosok et al., J. Biol. Chem. 271:22611-22618 (1996))。
【0040】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)はヒト抗体であってもよい。ヒト抗体は様々な技術で作製することができる。ヒト抗体は例えばvan Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol. 5: 368-374 (2001) や Lonberg, Curr. Opin. Immunol. 20:450-459 (2008)に概説される。ヒト抗体は抗原(例えばIL-8、CXCR1、又はCXCR2)へ応答して完全ヒト抗体またはヒト可変領域を伴う完全抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物へ免疫原を投与することにより調製されてもよい。そのような動物は、典型的にはヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部若しくは一部分を含み、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部若しくは一部分は、内因性の免疫グロブリン遺伝子座を置き換えるか、又は、染色体外に若しくは当該動物の染色体内にランダムに取り込まれた状態で存在する。そのようなトランスジェニックマウスにおいて、内因性の免疫グロブリン遺伝子座は、通常不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得る方法の総説として、Lonberg, Nat. Biotech. 23:1117-1125 (2005) を参照。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載したUS Patent No. 6,075,181、6,150,584号;HUMAB(登録商標)技術を記載したUS Patent No. 5,770,429;K-M MOUSE(登録商標)技術を記載したUS Patent No. 7,041,870;並びに、VELOCIMOUSE(登録商標)技術を記載したUS2007/0061900を参照。このような動物によって生成される完全抗体からのヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせるなどして、さらに修飾されてもよい。
【0041】
別の実施態様において、ヒト抗体はハイブリドーマに基づいた方法でも作製できる。ヒトモノクローナル抗体の産生のための、ヒトミエローマ細胞及びマウス‐ヒトヘテロミエローマ細胞株は以下に記述される(例えば、Kozbor J. Immunol., 133: 3001 (1984);Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);及びBoerner et al., J. Immunol., 147: 86 (1991))。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されるヒト抗体はLi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006) に記述される。その他の方法としては、例えばUS Patent No. 7,189,826(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の製造を記載)、及び、Ni, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268 (2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載)が挙げられてよい。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)は、Vollmers and Brandlein, Histology and Histopathology, 20(3):927-937 (2005) 及びVollmers and Brandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91 (2005)に記載される。
別の実施態様において、ヒト抗体は、ヒト由来ファージディスプレイライブラリから選択されるFvクローン可変ドメイン配列を単離することでも生成できる。このような可変領域配列は、次に所望のヒト定常領域と組み合わせることができる。抗体ライブラリからヒト抗体を選択する手法は以下を参照。
【0042】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)は、所望の1つ又は複数の活性を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリをスクリーニングすることによって単離してもよい。例えば、ファージディスプレイライブラリの作製方法や、所望の結合特性を有する抗体についてそのようなライブラリをスクリーニングする方法等が当該技術分野において知られている。そのような方法は、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O'Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, 2001) で総説されており、さらに例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554;Clackson et al., Nature 352: 624-628 (1991); Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1992); Marks and Bradbury, Molecular Biology 248:161-175 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ, 2003); Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004); Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004); Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472 (2004);Lee et al., J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132(2004) に記載される。
【0043】
一実施態様における特定のファージディスプレイ法において、VH及びVLのレパートリーは、ポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction: PCR) により別々にクローニングでき、無作為にファージライブラリ中で再結合され、当該ファージライブラリは、Winter et al., Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455 (1994) で記載されるようにして、抗原結合ファージについてスクリーニングされてよい。ファージは、例えばscFvやFabといった抗体断片を提示する。免疫化された供給源からのライブラリは、ハイブリドーマを構築することを要さずに免疫原に対する高親和性抗体を提供できる。別の実施態様において、Griffiths et al., EMBO J, 12: 725-734 (1993) に記載されるように、免疫化することなしに、ナイーブレパートリーを(例えば、ヒトから)クローニングして、広範な非自己又は自己抗原への単一由来の抗体を提供することもできる。さらなる別の実施態様において、ナイーブライブラリは、Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227: 381-388 (1992) に記載されるように、幹細胞から再編成前のV-遺伝子セグメントをクローニングし、超可変領域CDR3をコードしかつin vitroで再構成を達成するための無作為配列を含んだPCRプライマーを用いることにより、合成的に作ることもできる。ヒト抗体ファージライブラリを記載した特許文献は、例えばUS Patent No. 5,750,373、 US2005/0079574, US2005/0119455, US2005/0266000, US2007/0117126, US2007/0160598, US2007/0237764, US2007/0292936, US2009/0002360が挙げられる。
【0044】
ヒト抗体ライブラリから単離される抗体又は抗体断片は、本明細書においてヒト抗体又はヒト抗体断片とみなす。
【0045】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)は、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に結合特異性を有する抗体(例えばモノクローナル抗体)である。一実施態様において、結合特異性の一つは抗原(例えばIL-8、CXCR1、又はCXCR2)に対するものであり、他はそれ以外の抗原に対するものである。別の実施態様において、二重特異性抗体は、抗原(例えばIL-8、CXCR1、又はCXCR2)の異なった2つのエピトープに結合してもよい。二重特異性抗体は、抗原(例えばIL-8、CXCR1、又はCXCR2)を発現する細胞に細胞傷害剤を局在化するために使用されてもよい。二重特異性抗体は、全長抗体としてまたは抗体断片として調製されてよい。
【0046】
多重特異性抗体の作製手法としては、限定はされないが、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアの組換え共発現(例えばMilstein and Cuello, Nature 305: 537 (1983)、WO93/08829、及びTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655 (1991))、及びknob-in-hole技術(例えばUS Patent No. 5,731,168)が挙げられる。多重特異性抗体は、Fcヘテロ二量体分子を作製するために静電ステアリング効果 (electrostatic steering effects) を操作すること (例えばWO2009/089004A1);2つ以上の抗体又は抗体断片を架橋すること(例えばUS Patent No. 4,676,980及びBrennan et al., Science, 229: 81 (1985));ロイシンジッパーを用いて2つの特異性を有する抗体を作成すること(例えばKostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553 (1992));「ダイアボディ」技術を用いて二重特異性抗体断片を作製すること(例えばHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993));scFvダイマーを用いること(例えばGruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994));三重特異性抗体を調製すること(例えばTutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991))によって作製してもよい。さらに、「オクトパス抗体」を含む、3つ以上の機能的抗原結合部位を有するように操作された抗体であってもよい(例えばUS2006/0025576)。
【0047】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)又はそれの抗体断片は、抗原(例えばIL-8、CXCR1、又はCXCR2)と別の異なる抗原とに結合する1つの抗原結合部位を含む、「デュアルアクティングFab」又は「DAF」であってもよい(例えばUS2008/0069820)。
【0048】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)のアミノ酸配列の改変体(変異体)は、抗体の分子をコードする核酸に適当な修飾を導入したり、又は、ペプチドを合成することで調製し得る。このような修飾は、アミノ酸配列中への、任意のアミノ酸(残基)の任意の欠失、挿入、置換を一又は複数、適宜組み合わせて行ってよい。最終構築物が所望の特徴(例えば、抗原結合性)を有する限り、欠失、挿入、置換の任意の組合せが利用できる。
一実施態様において、一又は複数のアミノ酸置換を行った抗体改変体(変異体)が提供される場合には、置換的変異導入の目的部位は、HVR及びFRを含み得る。
一実施態様においての保存的置換を、表1の「好ましい置換」として示し、より実質的な変更を、表1の「例示的な置換」として示し、さらにアミノ酸側鎖の性質に言及しつつ以下で述べる。アミノ酸置換は目的の抗体に導入されてもよく、それによる産物は、例えば、保持/改善された抗原結合性、減少した免疫原性、又は改善したADCC若しくはCDCなどの所望の活性についてスクリーニングされてもよい。
【0049】
【表1】
アミノ酸は共通の側鎖特性に基づいて以下に分類できる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性の親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe
非保存的置換は、これらの分類の中の1つのメンバーを他の分類に交換することを意味する。
【0050】
一実施態様において、アミノ酸の挿入とは、アミノ酸配列中への一又は複数のアミノ酸残基の挿入を指してもよいし、N末端及び/又はC末端に、1、2、又は3~100、又はそれ以上の残基を含むポリペプチドを融合させてもよい。末端の挿入の例として、N末端にメチオニル残基を有する抗体が挙げられる。その他の挿入改変体(変異体)の例としては、抗体のN末端及び/又はC末端に、酵素(例えば、ADEPTのための酵素)又は抗体の血漿半減期を増加させるポリペプチドを融合させたものが挙げられる。
【0051】
本明細書において、参照ポリペプチド配列に対する「パーセント (%) アミノ酸配列同一性」とは、最大のパーセント配列同一性を得るように配列を整列させてかつ必要ならギャップを導入した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとしたときの、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。%アミノ酸配列同一性を決める目的のアラインメントは、当該技術分野における種々の方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、Megalign (DNASTAR) ソフトウェア、またはGENETYX(登録商標)などの、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成可能である。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントをとるための適切なパラメーターを決定することができる。
【0052】
ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック社の著作であり、そのソースコードは米国著作権庁に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、ジェネンテック社 (Genentech, Inc., South San Francisco, California) から公に入手可能であるし、ソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、Digital UNIX V4.0Dを含むUNIX(登録商標)オペレーティングシステム上での使用のためにコンパイルされる。すべての配列比較パラメーターは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる場合、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する、%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する、ある%アミノ酸配列同一性を有するまたは含む所与のアミノ酸配列A、ということもできる)は、次のように計算される:分率X/Yの100倍。ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、当該プログラムのA及びBのアラインメントにおいて同一である一致としてスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはB中のアミノ酸残基の全数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBへの%アミノ酸配列同一性はBのAへの%アミノ酸配列同一性と異なることが理解される。特に明示しない限り、本明細書で用いられるすべての%アミノ酸配列同一性値は、上記ALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られる。
【0053】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)のCDR領域、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖定常領域、軽鎖定常領域、重鎖全長領域、軽鎖全長領域、又はこれらの任意の特定領域のアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が適宜、置換、欠失、挿入されており、かつ、抗原(例えばIL-8、CXCR1、又はCXCR2)に対する結合活性を有するアミノ酸配列は、このような領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸から得ることも可能である。ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離するためのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、6M 尿素、0.4% SDS、0.5 x SSC、37℃の条件、又はこれと同等若しくは準じる条件が例示される。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M 尿素、0.4% SDS、0.1 x SSCの条件、42℃を用いれば、より相同性の高い核酸の単離が期待できる。ハイブリダイゼーション後の洗浄条件としては、例えば、0.5xSSC(ここで、1xSSCは例えば0.15 M NaCL、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0である。)、0.1% SDS、60℃における洗浄、より好ましくは0.2xSSC、0.1% SDS、60℃における洗浄、より好ましくは 0.2xSSC、0.1% SDS、62℃における洗浄、より好ましくは0.2xSSC、0.1% SDS、65℃における洗浄、さらに好ましくは0.1xSSC、0.1% SDS、65℃における洗浄が挙げられる。洗浄時間や回数は適宜調節可能であり、例えば20分を3回実施してよい。単離された核酸の配列の決定は公知の方法によって行うことができる。
別の実施態様において、このようなハイブリダイゼーション技術の代わりに、CDR領域、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖定常領域、軽鎖定常領域、重鎖全長領域、軽鎖全長領域、又はこれらの任意の特定領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えばPCR法を利用して、該領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離することも可能である。
このようにして単離された核酸は、対象となる領域の塩基配列に対して、塩基配列全体で、少なくとも50%以上、より好ましくは70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%以上)の配列の同一性を有する。このような単離された核酸によってコードされるアミノ酸配列を有する抗体は、対象となった領域のアミノ酸配列を有する抗体と、機能的に(実質的に)同等(例えば抗原結合性又は血中滞留性といった任意の1つ以上の指標又は特性が(実質的に)同等)であると有利であるがそれに限定されない。ここで実質的とは、対象となった領域のアミノ酸配列を有する抗体が有する機能(例えば抗原結合性又は血中滞留性などの任意の1つ以上の指標又は特性に着目してよい)と比較して、当業者公知の方法で測定した場合に、少なくとも50%以上、より好ましくは70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%以上)の機能を保持していることを意図する。
【0054】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)はグリコシル化されていてもよい。抗体へのグリコシル化部位の追加又は欠失は、グリコシル化部位を作り出す、又は除去するようにアミノ酸配列を改変することで容易に達成できる。
【0055】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)がFc領域を含む場合、当該領域に付加され得る糖鎖は多様となり得る。動物細胞によって生成されるナイーブな抗体は、典型的には、枝分かれした二分枝のオリゴ糖を含み、当該オリゴ糖はFc領域のCH2ドメインのAsn297にN連結によって付加されている(Wright et al. TIBTECH 15:26-32 (1997))。オリゴ糖は、二分枝のオリゴ糖構造の「幹」にあるGlcNAcに付加しているフコースに加えて、例えばマンノース、Nアセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、又はシアル酸を含む。ある実施態様において、本開示における抗体のオリゴ糖の修飾は、ある改良された特性を有する抗体改変体の作製に利用されてよい。
【0056】
本明細書において「エフェクター機能」とは、抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)のFc領域に帰する生物学的活性を意味し、抗体のアイソタイプによって変わり得る。抗体のエフェクター機能の例としては、C1q結合又は補体依存性細胞障害(CDC);Fcレセプター結合性;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);貪食作用;細胞表面レセプター(例えば、B細胞レセプター)のダウンレギュレーション;又はB細胞活性化が含まれるがこれに限定されない。
【0057】
本明細書において「Fc領域」とは、少なくとも定常領域の部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は天然のFc領域と改変体のFc領域(Fc領域改変体)の両方を含む。天然のFc領域とは、天然型抗体のFc領域を示す。天然型ヒトIgGのFc領域の例としては、上述した、ヒトIgG1定常領域(配列番号:100)、ヒトIgG2定常領域(配列番号:101)、ヒトIgG3定常領域(配列番号:102)、又はヒトIgG4定常領域(配列番号:103)に含まれるFc領域であってもよい。一実施態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226の位置又はPro230の位置のアミノ酸残基からその重鎖のC末端まで伸長する。しかし、Fc領域のC末端のリジン(Lys447)、又は、C末端のグリシン(Gly446)及びリジン(Lys447)は存在していてもしていなくてもよい。特に明記しない限り、本明細書においてFc領域又は定常領域のアミノ酸残基の番号付けは、以下の出典、Kabat et al, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)によって述べられているように、EUインデックスとも呼ばれる、EUナンバリングシステムによる。
【0058】
本明細書において「FcRn」とは、免疫グロブリンスーパーファミリーに属するFcγRと異なり、FcRn、特にヒトFcRnは構造的には主要組織不適合性複合体(MHC)クラスIのポリペプチドに構造的に類似し、クラスIのMHC分子と22から29%の配列同一性を有する(Ghetie et al., Immunol. Today (1997) 18 (12), 592-598)。FcRnは、可溶性β又は軽鎖(β2マイクログロブリン)と複合体化された膜貫通α又は重鎖よりなるヘテロダイマーとして発現される。MHCのように、FcRnのα鎖は3つの細胞外ドメイン(α1、α2、α3)よりなり、短い細胞質ドメインはタンパク質を細胞表面に繋留する。α1及びα2ドメインが抗体のFc領域中のFcRn結合ドメインと相互作用する(Raghavan et al(Immunity (1994) 1, 303-315)。FcRnは、哺乳動物の母性胎盤又は卵黄嚢で発現され、母親から胎児へのIgGの移動に関与する。加えてFcRnが発現するげっ歯類新生児の小腸では、FcRnが摂取された初乳又は乳から母性IgGの刷子縁上皮を横切る移動に関与する。FcRnは多数の種にわたって多数の他の組織、並びに種々の内皮細胞系において発現している。それはヒト成人血管内皮、筋肉血管系、及び肝臓洞様毛細血管でも発現される。FcRnは、IgGに結合し、それを血清にリサイクルすることによって、IgGの血漿中濃度を維持する役割を演じていると考えられている。FcRnのIgG分子への結合は、通常、厳格にpHに依存的であり、最適結合は7.0未満の酸性pHにおいて認められる。一例として、ヒトFcRnのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれNM_004107.4及びNP_004098.1(シグナル配列を含む)に記載の前駆体に由来してよい(カッコ内はRefSeq登録番号を示す。)。当該前駆体は、生体内でヒトβ2-ミクログロブリンとの複合体を形成する。したがって、ヒトβ2-ミクログロブリンと複合体を形成できる可溶型ヒトFcRnを公知の組換え発現手法を用いて製造して、適宜、各種実験系に使用してよい。このようなβ2-ミクログロブリンと複合体を形成可能な可溶型ヒトFcRnを用いて、抗体又はFc領域改変体のFcRnに対する結合活性が評価されてよい。FcRnは、FcRn結合ドメインに結合し得る形態であるものであれば特に限定されず、ヒトFcRnであることが好ましい。
【0059】
一実施態様において、本開示において、抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)又はそのFc領域改変体がFcRnに対する結合活性を有する場合には、それらは「FcRn結合ドメイン」、好ましくはヒトFcRn結合ドメインを有することが好ましい。FcRn結合ドメインは、抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)が酸性pH及び/又は中性pHにおいてFcRnに対して結合活性若しくは親和性を有していれば特に限定されず、あるいは、直接又は間接的にFcRnに対して結合活性を有するドメインであってもよい。そのようなドメインとしては、例えば、直接的にFcRnに対する結合活性を有するIgG型免疫グロブリンのFc領域、アルブミン、アルブミンdomain3、抗FcRn抗体、抗FcRnペプチド、抗FcRn Scaffold分子等、あるいは間接的にFcRnに対する結合活性を有するIgGやアルブミンに結合する分子等を挙げることができるがこれらに限定されない。また、例えば、酸性pH及び/又は中性pHにおいてFcRn結合活性を有するドメインを用いてもよい。当該ドメインは、あらかじめ酸性pH及び/又は中性pHにおいてFcRn結合活性を有しているドメインであればそのまま用いることもできる。当該ドメインが酸性pH及び/又は中性pHにおいてFcRn結合活性がない又は弱い場合には、抗体又はFc領域改変体中のFcRn結合ドメイン中のアミノ酸残基を改変して、酸性pH及び/又は中性pHにおけるFcRn結合活性を得てよい。また、あらかじめ酸性pH及び/又は中性pHにおいてFcRn結合活性を有しているドメイン中のアミノ酸を改変して、FcRn結合活性をさらに高めてもよい。FcRn結合ドメインのアミノ酸改変は、アミノ酸改変前と改変後の酸性pH及び/又は中性pHにおけるFcRn結合活性を比較することによって目的の改変を見出すことができる。
FcRn結合ドメインは、直接FcRnと結合する領域であることが好ましい。FcRn結合領域の好ましい例として、抗体の定常領域又はFc領域を挙げることができる。しかしながら、アルブミンやIgGなどのFcRnとの結合活性を有するポリペプチドに結合可能な領域は、アルブミンやIgGなどを介して間接的にFcRnと結合することが可能である。そのため、FcRn結合領域は、アルブミンやIgGとの結合活性を有するポリペプチドに結合する領域であってもよい。限定はされないが、血漿中からの抗原の消失を促進するためには、FcRn結合ドメインは、中性pHにおけるFcRn結合活性が高いほうが好ましく、また、抗体の血漿中の滞留性を向上させるためには、FcRn結合ドメインは、酸性pHにおけるFcRn結合活性が高いほうが好ましい。例えば、予め、中性pH又は酸性pHにおけるFcRn結合活性が高いFcRn結合ドメインを選択して用いてもよいし、あるいは、抗体又はFc領域中のアミノ酸を改変して中性pH又は酸性pHにおけるFcRn結合活性を付与しても良いし、あるいは、中性pH又は酸性pHにおける既に存在するFcRn結合活性を増大させてもよい。
【0060】
抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)又はFc領域(改変体)のFcRnに対する結合活性が、改変される前の抗体又はFc領域(改変体)と比較して、増大、(実質的に)維持、又は減少したかどうかは、当業者に公知の方法であれば特に限定されず、本実施例に記載の方法を用いてもよく、例えば、BIACORE、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等が使用され得る(WO2013/046722)。これらのアッセイにはヒトFcRnの細胞外ドメインが可溶性抗原として用いられてよい。抗体又はFc領域(改変体)のFcRnへの結合活性を測定する際のpH以外の条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、WO2009/125825に記載のようにMESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。抗体若しくはFc領域(改変体)と、FcRnとの結合活性の測定は、例えば、抗体を固定化したチップへFcRnをアナライトとして流すこと等で評価してよい。
また、抗体又はFc領域(改変体)のFcRnに対する結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度)等として評価されてよい。
【0061】
抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)又はFc領域(改変体)に含まれるFcRn結合ドメインとFcRnとの結合活性を測定するpHの条件は、酸性pH又は中性pHの条件が適宜使用され得る。測定条件に使用される温度として、FcRn結合ドメインとFcRnとの結合活性(結合親和性)は、10℃~50℃の任意の温度で評価され得る。好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとFcRnとの結合活性(結合親和性)を決定するために、15℃~40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、及び35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、FcRn結合ドメインとFcRnとの結合活性(結合親和性)を決定するために使用されるがこれらに限定されない。25℃という温度は非限定的な一例である。
【0062】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)のアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は、翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても、本開示で記載されるアミノ酸配列と同等のものとして当然に含まれる。
【0063】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)は、非タンパク質性部分を追加的に含むことでさらに誘導体化されていてよい。抗体の誘導体化に好適な部分(moiety)としては例えば水溶性ポリマーが挙げられる。水溶性ポリマーの例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコールやプロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ1,3ジオキソラン、ポリ1,3,6,トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマー又はランダムコポリマーのいずれも)、デキストラン若しくはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール類(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、及び、これらの任意の混合物を含む。当該部分(moiety)の一例として、ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、その水に対する安定性のために製造において有利だろう。ポリマーはいかなる分子量でもよく、枝分かれしていてもしていなくてもよい。抗体に付加されるポリマーの数には幅があってよく、1つ以上のポリマーが付加されるならそれらは同じ分子であってもよいし、異なる分子であってもよい。一般的に、誘導体化に使用されるポリマーの数及び/又はタイプは、例えば、改善されるべき抗体の特定の特性若しくは機能、抗体誘導体が規定の条件下での療法に使用されるか否か、などを考慮して決定してよい。
【0064】
一実施態様において、本開示における抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、又は抗CXCR2抗体)と、放射線に曝露することにより選択的に熱せられ得る非タンパク質部分との、コンジュゲートが提供される。非タンパク質部分は、例えばカーボンナノチューブであってよい(Kam et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005))。所望の目的を達する限り放射線はいかなる波長でもよく、例えば、通常の細胞には害を与えないが抗体‐非タンパク質部分に近接した細胞を死滅させる温度まで非タンパク質部分を熱するような波長であってよい。
【0065】
本開示における「IL-8」とは、特に示さない限り、あらゆる脊椎動物、霊長類(例えばヒト、カニクイザル、又はアカゲザル)、又はその他の哺乳類(例えば、ウサギ又はイヌ。ただしマウスやラットにはendogenousにはIL-8は存在しない。)由来の天然のIL-8を指す。IL-8は、全長のIL-8、生体内で修飾されたいかなる形態のIL-8、天然に存在するIL-8の派生物、例えば、スプライス変異体やアレル変異体のようなものも含む。ヒトIL-8のアミノ酸配列の典型例を配列番号:22に示す。また、非限定的なヒトIL-8のアミノ酸配列の一例に関し、ヒトinterleukin-8 precursorとしてはNCBIにNP_000575.1として登録されている。また、非限定的なカニクイザルIL-8のアミノ酸配列の一例としてはNCBIにXP_005555144.1として登録されている。
【0066】
CXCR1はInterleukin 8 receptor, alpha、IL8RA又はCD181としても知られ、又、CXCR2はInterleukin 8 receptor, beta、又はIL8RBとしても知られる、ケモカイン受容体である。IL-8は、受容体であるCXCR1, CXCR2と結合することで生理学的作用が生じることが知られている(Science. 1991;253:1278-80, Science. 1991;253:1280-3.)。CXCR1はIL-8およびgranulocyte chemotactic protein-2によってのみ活性化し、CXCR2はIL-8の他にGROα、β、γやneutrophil-activating peptide, granulocyte chemotactic protein-2など複数の分子に結合して活性化する事が報告されているが(Neuro-oncol. 2005;7:122-33)、現在までIL-8の受容体はCXCR1, CXCR2以外に報告されていない。本実施例に記載されるように、本発明者らは、好中球においてIL-8に対する遊走能がIL-8中和抗体およびCXCR2阻害剤においても同様に阻害される事を確認しており、本実施例で記載した子宮内膜症や、癒着、子宮腺筋症に対しても、抗IL-8抗体に限らずCXCR1阻害剤、CXCR2阻害剤を含めたIL-8シグナル阻害剤が有用である事が容易に予測される。
【0067】
本開示における「CXCR1」とは、特に示さない限り、あらゆる脊椎動物、霊長類(例えばヒト、カニクイザル、又はアカゲザル)、又はその他の哺乳類(例えば、ウサギ又はイヌ)に存在する天然のCXCR1を指す。CXCR1は、全長のCXCR1、生体内で修飾されたいかなる形態のCXCR1、天然に存在するCXCR1の派生物、例えば、スプライス変異体やアレル変異体のようなものも含む。非限定的なヒトCXCR1のアミノ酸配列の一例としてはNCBIにNP_000625.1として登録されている。
本開示における「CXCR2」とは、特に示さない限り、あらゆる脊椎動物、霊長類(例えばヒト、カニクイザル、又はアカゲザル)、又はその他の哺乳類(例えば、ウサギ又はイヌ)に存在する天然のCXCR2を指す。CXCR2は、全長のCXCR2、生体内で修飾されたいかなる形態のCXCR2、天然に存在するCXCR2の派生物、例えば、スプライス変異体やアレル変異体のようなものも含む。非限定的なヒトCXCR2のアミノ酸配列の一例としてはNCBIにNP_001161770.1やNP_001548.1として登録されている。
【0068】
単球、マクロファージ、好中球、リンパ球などの免疫細胞、皮膚線維芽細胞、ケラチノサイト、血管内皮細胞、メラノサイト、肝細胞、及び多種の腫瘍細胞株がIL-8を産生する。IL-8は強力な好中球ケモカインであり、好中球の炎症部位への遊走に参与する。好中球の表面上に存在するその高親和性受容体(CXCR1及びCXCR2)に結合すると、IL-8は、脱顆粒を促進し、細胞質内の遊離Ca2+濃度を上昇させることにより、好中球を活性化すると共に、好中球の遊走を誘導して、浸潤された組織を破壊することが報告されている(WO2004/058797)。
本実施例に記載されるように、本発明者らは、CXCR1及びCXCR2が、好中球、単核球、マクロファージといった免疫細胞、子宮内膜症上皮細胞、及び、血管内皮細胞で発現しているが、stroma細胞及び筋線維芽細胞では発現していないことを見出した。さらに、子宮内膜症ヒト患者から採取し培養した子宮内膜症由来のstroma細胞および筋線維芽細胞にIL-8や抗IL-8抗体を添加しても、細胞の増殖や萎縮等の変化は何ら見られなかった(data not shown)。
これらの結果は、Ulukus et al., Human Reproduction 2005 20(3):794-801において、CXCR1が子宮内膜症組織の上皮、stroma、線維化した部分で強発現しているという報告とは一致しなかった。Ulukusの論文では、全体的に染色強度が高かった。CXCR2においても弱陽性ではあるが血管内皮細胞とともにstroma細胞も染色された。加えて、Iwabe et al., Fertility and Sterility 1998 69(5):924-930において、in vitro実験で子宮内膜症患者由来のstroma細胞の増殖がIL-8により促進され、抗IL-8抗体の添加により抑制された報告とは一致しなかった。Iwabeの論文では、子宮内膜症ヒト患者由来の内膜症病変から上皮細胞を除去し、stroma細胞とした後に、IL-8を添加して細胞増殖を調べているが、20%前後の弱い反応であった。
他方、本実施例に記載されるように、本発明者らは、非ヒト霊長類子宮内膜症モデルにおいて、抗体H1009/L395-F1974m投与といったIL-8シグナル阻害剤の投与により増殖性を示す上皮細胞及びstroma細胞の萎縮性変化が見られることを実証した。
理論に拘束されることを意図しないが、一側面において、Iwabeの論文では、細胞継代後すぐに実験を実施していることから、免疫細胞が混在している可能性が推定される。CXCR1、CXCR2はstroma細胞には発現していないことから、CXCR1、CXCR2を介してのIL-8シグナルは、stroma細胞を標的としては直接作用せず、子宮内膜上皮や免疫細胞を直接の標的として作用し、stroma細胞へはこれら子宮内膜上皮や免疫細胞のシグナルを介して間接的に作用しているものと考えられた。
【0069】
本開示における「IL-8シグナル阻害剤」とは、IL-8シグナルを直接又は間接的に、部分的又は完全に阻害できるものであれば特に限定されず、例えば、核酸(例えばsiRNA等の二重鎖核酸)、タンパク質(抗体又は抗体断片を含む)、ペプチド、又はそれ以外の化合物(例えば低分子化合物)であってよい。ある側面において、IL-8シグナル阻害剤はIL-8阻害剤、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤であってよく、かかる場合、それらは、例えば、核酸(例えばsiRNA等の二重鎖核酸)、タンパク質(抗体又は抗体断片を含み、より具体的には、抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体、抗CXCR2抗体、又はそれらの機能を部分的又は完全に保持した抗体断片であってよい。)、ペプチド、又はそれ以外の化合物(例えば低分子化合物)であってよい。
IL-8シグナル阻害剤がIL-8のその受容体であるCXCR1及び/又はCXCR2への結合を部分的又は完全に阻害する場合には、IL-8の阻害により、阻害なしでIL-8がその受容体に結合したときに生じる正常なレベル又は種類の活性が低下又は変化することが好ましい。その低下又は変化は、例えば、IL-8誘導性エラスターゼ放出若しくはカルシウム流束の阻害、IL-8誘導性のCD11b(Mac-1)発現増加の阻害、又は、L-セレクチン発現減少の阻害などとして観察してよい。このような阻害は、IL-8シグナル阻害剤非存在下と比較した場合に、少なくとも、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は100%の上述のレベル又は種類の活性の低下又は変化を包含する。
【0070】
一実施態様において、本開示におけるCXCR1阻害剤は、CXCR1に結合する(特異的である)がCXCR2には結合しないものであってもよいし、CXCR1とCXCR2の両方に結合する(特異的である)もの(CXCR1/CXCR2阻害剤ともいう)であってもよい。
一実施態様において、本開示におけるCXCR2阻害剤は、CXCR2に結合する(特異的である)がCXCR1には結合しないものであってもよいし、CXCR1とCXCR2の両方に結合する(特異的である)もの(CXCR1/CXCR2阻害剤)であってもよい。
一実施態様において、本開示におけるCXCR1阻害剤及び/又はCXCR2阻害剤の具体例としては、WO2010/056753に開示される抗CXCR1抗体、又は、レパルタキシン(Repartaxin)若しくはレパルタキシン誘導体;WO2011/042466に開示されるCXCR1及び/又はCXCR2阻害薬;WO2005/113534やWO2003/057676に開示されるCXCR1又はCXCR2ケモカインアンタゴニスト;WO2012/062713及びWO2013/168108に開示されるCXCR2結合ポリペプチド;WO2008/061740、WO2008/061741、WO2008/062026、WO2009/106539、WO2010/015613及びWO2013/030803に開示されるCXCR2阻害剤が挙げられる。
【0071】
一実施態様において、本開示におけるIL-8阻害剤の具体例としては、JP2006-117633Aに記載されるIL-8模倣剤;JP2013-180992A(又はJP5496232B)に開示されるIL-8発現抑制剤;JPH9-2954A(又はJP3008010B)に開示されるIL-8産生抑制剤;WO1998/037200に開示される抗体フラグメント-ポリマー複合体;WO1995/023865、WO2009/026117、WO2013/166099、WO2006/113643、WO2004/058797、WO2008/130969、WO2011/100271、WO98/58671、WO2014/149733、US2003/0077283A1等に開示される抗IL-8抗体、IL-8を含む抗原に結合する多重特異性抗体、又はこれらの改変体のいずれであってもよい。さらなる別の実施態様において、これらの抗IL-8抗体の改変体としては、高機能抗IL-8抗体として記載される後述の特徴の一つ又は複数がさらに付与されていてよい。
【0072】
一実施態様において、本開示における「抗IL-8抗体」又は「IL-8に結合する抗体」とは、十分な親和性でIL-8と結合し得る抗体であって、その結果、その抗体がIL-8を標的とすることにより、検出用、診断用、治療用、及び/又は予防用組成物として有用であるような抗体を指す。
一実施態様において、非特異的な無関係の非IL-8タンパク質に対する抗IL-8抗体の結合の程度は、IL-8に対する抗体の結合の程度の例えば10%未満であってもよい。
【0073】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、IL-8の中和活性を有する。IL-8の中和活性とは、IL-8が示す生物学的活性を阻害する活性のことを指してもよいし、IL-8がその受容体(CXCR1又はCXCR2)に結合することを阻害する活性を指してもよい。
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は、ヒト抗体であってよい。
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、IL-8を内在的に有する動物(例えばウサギ)と交差性を有するのが好ましく、さらに、場合により、抗霊長類IL-8抗体(好ましくはヒトと同様の月経を有する、例えば、カニクイザル又はヒヒなどに対する抗非ヒト霊長類IL-8抗体又は抗ヒトIL-8抗体(例えば抗ヒトIL-8中和抗体)であることがより好ましい。
【0074】
本研究者らは、限定はされないが、本実施例に具現されるように、抗体(例えば抗IL-8抗体、抗CXCR1抗体又は抗CXCR2抗体)に高機能を付加できるアミノ酸改変技術を見出し、それに基づいて高機能抗IL-8抗体に想到したが、その非限定の一例を以下に示す:
【0075】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体はIL-8に対してpH依存的な親和性を有してもよい抗IL-8抗体であってよく、例えば、当該抗IL-8抗体は以下(a)から(f)のアミノ酸配列において少なくとも一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、又は八つ以上のアミノ酸の置換を含む配列を含む:
(a)配列番号:23のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:24のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:25のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:26のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:27のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:28のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
アミノ酸は、特段の指定のない限り、他のいかなるアミノ酸に置換されてもよい。さらなる実施態様において、本開示のかかる抗IL-8抗体は、以下の位置からなる群から選択される位置での他のアミノ酸への置換、又は、当該位置での下記に指定のアミノ酸への置換をそれぞれ少なくともさらに含んでよい:
(1)配列番号:26の配列の8位のセリン、配列番号:27の配列の1位のアスパラギンと5位のロイシン、及び、配列番号:28の配列の1位のグルタミン;
(2)配列番号:24の配列の6位のアラニンのアスパラギン酸への置換と、11位のアルギニンのプロリンへの置換と、及び、配列番号:25の配列の3位のチロシンのヒスチジンへの置換;
(3)配列番号:24の配列の8位のグリシンのチロシンへの置換と9位のチロシンのヒスチジンへの置換;
(4)配列番号:24の配列の6位のアラニンのアスパラギン酸への置換と、8位のグリシンのチロシンへの置換と、9位のチロシンのヒスチジンへの置換と、11位のアルギニンのプロリンへの置換と、及び、配列番号:25の配列の3位のチロシンのヒスチジンへの置換;
(5)配列番号:27の配列の1位のアスパラギンのリジンへの置換と5位のロイシンのヒスチジンへの置換と、及び、配列番号:28の配列の1位のグルタミンのリジンへの置換;
(6)配列番号:26の配列の8位のセリンのグルタミン酸への置換と、配列番号:27の配列の1位のアスパラギンのリジンへの置換と5位のロイシンのヒスチジンへの置換と、及び、配列番号:28の配列の1位のグルタミンのリジンへの置換;
(7)配列番号:24の配列の9位のチロシンのヒスチジンへの置換と11位のアルギニンのプロリンへの置換と、配列番号:25の配列の3位のチロシンのヒスチジンへの置換と、配列番号:27の配列の1位のアスパラギンのリジンへの置換と5位のロイシンのヒスチジンへの置換と、及び、配列番号:28の配列の1位のグルタミンのリジンへの置換;及び、
(8)配列番号:24の配列の6位のアラニンのアスパラギン酸への置換と8位のグリシンのチロシンへの置換と9位のチロシンのヒスチジンへの置換と11位のアルギニンのプロリンへの置換と、配列番号:25の配列の3位のチロシンのヒスチジンへの置換と、配列番号:27の配列の1位のアスパラギンのリジンへの置換と5位のロイシンのヒスチジンへの置換と、及び、配列番号:28の配列の1位のグルタミンのリジンへの置換。
【0076】
さらなる又は別の実施態様において、本開示におけるIL-8に対してpH依存的な親和性を有してもよい抗IL-8抗体は、以下からなる群から選択される一つ又は任意の複数のアミノ酸配列を含む:
(a)配列番号:23のアミノ酸配列を含むHVR-H1、又は、それと少なくとも65%、70%、若しくは75%以上、好ましくは80%、85%若しくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性を有するHVR-H1;
(b)配列番号:24又は29のアミノ酸配列を含むHVR-H2、又は、それと少なくとも65%、70%、若しくは75%以上、好ましくは80%、85%若しくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性を有するHVR-H2;
(c)配列番号:25又は30のアミノ酸配列を含むHVR-H3、又は、それと少なくとも65%、70%、若しくは75%以上、好ましくは80%、85%若しくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性を有するHVR-H3;
(d)配列番号:26のアミノ酸配列を含むHVR-L1、又は、それと少なくとも65%、70%、若しくは75%以上、好ましくは80%、85%若しくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性を有するHVR-L1;
(e)配列番号:27、31、又は、107のアミノ酸配列を含むHVR-L2、又は、それと少なくとも65%、70%、若しくは75%以上、好ましくは80%、85%若しくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性を有するHVR-L2;及び、
(f)配列番号:28又は32のアミノ酸配列を含むHVR-L3、又は、それと少なくとも65%、70%、若しくは75%以上、好ましくは80%、85%若しくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性を有するHVR-L3。
ここで、参照アミノ酸配列と特定%の配列同一性を有するHVRは、参照アミノ酸配列を有するHVRと機能的に同等であってよい。また、例えば、当該抗IL-8抗体は、配列番号:29のアミノ酸配列を含むHVR-H2及び配列番号:30のアミノ酸配列を含むHVR-H3を含んでもよいし、及び/又は、配列番号:31のアミノ酸配列を含むHVR-L2及び配列番号:32のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含んでもよい。さらに、当該抗IL-8抗体は、以下の位置からなる群から選択される位置での他のアミノ酸への置換、又は、当該位置での下記に指定のアミノ酸への置換をそれぞれ少なくともさらに含んでよい:
(1)配列番号:26の配列の8位のセリン、配列番号:27の配列の1位のアスパラギンと5位のロイシン、及び、配列番号:28の配列の1位のグルタミン;
(2)配列番号:24の配列の6位のアラニンのアスパラギン酸への置換と、11位のアルギニンのプロリンへの置換と、及び、配列番号:25の配列の3位のチロシンのヒスチジンへの置換;
(3)配列番号:24の配列の8位のグリシンのチロシンへの置換と9位のチロシンのヒスチジンへの置換;
(4)配列番号:24の配列の6位のアラニンのアスパラギン酸への置換と、8位のグリシンのチロシンへの置換と、9位のチロシンのヒスチジンへの置換と、11位のアルギニンのプロリンへの置換と、及び、配列番号:25の配列の3位のチロシンのヒスチジンへの置換;
(5)配列番号:27の配列の1位のアスパラギンのリジンへの置換と5位のロイシンのヒスチジンへの置換と、及び、配列番号:28の配列の1位のグルタミンのリジンへの置換;
(6)配列番号:26の配列の8位のセリンのグルタミン酸への置換と、配列番号:27の配列の1位のアスパラギンのリジンへの置換と5位のロイシンのヒスチジンへの置換と、及び、配列番号:28の配列の1位のグルタミンのリジンへの置換;
(7)配列番号:24の配列の9位のチロシンのヒスチジンへの置換と11位のアルギニンのプロリンへの置換と、配列番号:25の配列の3位のチロシンのヒスチジンへの置換と、配列番号:27の配列の1位のアスパラギンのリジンへの置換と5位のロイシンのヒスチジンへの置換と、及び、配列番号:28の配列の1位のグルタミンのリジンへの置換;及び、
(8)配列番号:24の配列の6位のアラニンのアスパラギン酸への置換と8位のグリシンのチロシンへの置換と9位のチロシンのヒスチジンへの置換と11位のアルギニンのプロリンへの置換と、配列番号:25の配列の3位のチロシンのヒスチジンへの置換と、配列番号:27の配列の1位のアスパラギンのリジンへの置換と5位のロイシンのヒスチジンへの置換と、及び、配列番号:28の配列の1位のグルタミンのリジンへの置換。
ここに記載される、想定されるあらゆるアミノ酸配列の組み合わせを当然に当業者は理解する。
【0077】
一実施態様において、本開示における「機能的に同等」とは、特に指定されない限り、参照アミノ酸配列を含む抗体が有する、物理化学的特性及び/又は生物学的活性などで表される機能(例えば抗原結合性又は血中滞留性などの任意の1つ以上の指標又は特性に着目してよい)と比較して、当業者公知の方法で測定した場合に、少なくとも50%以上、より好ましくは70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%以上)の機能を保持していることを意図する。
【0078】
さらなる又は別の実施態様において、本開示におけるIL-8に対してpH依存的な親和性を有してもよい抗IL-8抗体は、以下からなる群から選択される一つ又は任意の複数のアミノ酸配列を含む:
(A)配列番号:33、34、若しくは、108のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、又は、それと少なくとも65%、70%、若しくは75%以上、好ましくは80%、85%若しくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性を有する重鎖可変領域;及び、
(B)配列番号:35若しくは109のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、又は、それと少なくとも65%、70%、若しくは75%以上、好ましくは80%、85%若しくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性を有する軽鎖可変領域。
ここで、参照アミノ酸配列と特定%の配列同一性を有する可変領域は、参照アミノ酸配列を有する可変領域と機能的に同等であってよい。また、例えば、当該抗IL-8抗体は、配列番号:34のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:35のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含んでもよく、かかる抗体は生体内(例えば血漿中)でIL-8中和活性が安定に保たれるので有利であり得るし、或いは、免疫原性が低いので有利であり得る。さらに、当該抗IL-8抗体が配列番号:33のアミノ酸配列の改変体を含む場合には、当該抗体は以下の位置からなる群から選択される一つ以上の位置での他のアミノ酸への置換、又は、当該位置での下記に指定されるアミノ酸への置換を少なくともさらに含んでよい:
(i)配列番号:33のアミノ酸配列の55位のアラニンの他のアミノ酸への置換、例えば、アスパラギン酸への置換;
(ii)配列番号:33のアミノ酸配列の57位のグリシンの他のアミノ酸への置換、例えば、チロシンへの置換;
(iii)配列番号:33のアミノ酸配列の58位のチロシンの他のアミノ酸への置換、例えば、ヒスチジンへの置換;
(iv)配列番号:33のアミノ酸配列の60位のアルギニンの他のアミノ酸への置換、例えば、プロリンへの置換;
(v)配列番号:33のアミノ酸配列の84位のグルタミンの他のアミノ酸への置換、例えば、スレオニンへの置換;
(vi)配列番号:33のアミノ酸配列の87位のセリンの他のアミノ酸への置換、例えば、アスパラギン酸への置換;及び
(vii)配列番号:33のアミノ酸配列の103位のチロシンの他のアミノ酸への置換、例えば、ヒスチジンへの置換。
ここに記載される、想定されるあらゆるアミノ酸配列の組み合わせを当然に当業者は理解する。
【0079】
別の実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、以下の(1)~(7)にそれぞれ記載の(a)から(f)のアミノ酸配列の少なくとも一つ以上~六つを含む抗体であるか、又は、それぞれに記載の(a)から(f)のいずれか少なくとも一つ以上のアミノ酸配列において少なくとも一つのアミノ酸の置換を含む抗体であってよい。当該抗体は、IL-8にpH依存的な親和性を有する、抗IL-8抗体であってよい。アミノ酸は、特段の指定のない限り、他のいかなるアミノ酸に置換されてもよい。
(1)(a)配列番号:58のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:59のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:60のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:61のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:62のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:63のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
(2)(a)配列番号:64のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:65のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:66のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:67のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:69のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
(3)(a)配列番号:70のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:71のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:72のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:73のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:74のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:75のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
(4)(a)配列番号:76のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:77のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:78のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:79のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:80のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:81のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
(5)(a)配列番号:82のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:83のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:84のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:85のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:86のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:87のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
(6)(a)配列番号:88のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:89のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:90のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:91のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:92のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:93のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
(7)(a)配列番号:94のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:95のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:96のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:97のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:98のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び
(f)配列番号:99のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
【0080】
本明細書において「酸性pH」とは、例えばpH4.0からpH6.5の間から選択され得るpHを指す。一実施態様において、pH4.0, pH4.1, pH4.2, pH4.3, pH4.4, pH4.5, pH4.6, pH4.7, pH4.8, pH4.9, pH5.0, pH5.1, pH5.2, pH5.3, pH5.4, pH5.5, pH5.6, pH5.7, pH5.8, pH5.9, pH6.0, pH6.1, pH6.2, pH6.3, pH6.4, 又はpH6.5を指すがこれらに限定されない。
【0081】
本明細書において「中性pH」とは、例えばpH6.7からpH10.0の間から選択され得るpHを指す。一実施態様において、例えばpH6.7, pH6.8, pH6.9, pH7.0, pH7.1, pH7.2, pH7.3, pH7.4, pH7.5, pH7.6, pH7.7, pH7.8, pH7.9, pH8.0, pH8.1, pH8.2, pH8.3, pH8.4, pH8.5, pH8.6, pH8.7, pH8.8, pH8.9, pH9.0, pH9.5, 又はpH10.0を指すがこれらに限定されない。
【0082】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、pH依存的にIL-8に結合する抗IL-8抗体である。本開示における一側面において、pH依存的にIL-8に結合する抗IL-8抗体であるとは、中性pHでのIL-8への結合親和性に比べて、酸性pHでのIL-8への結合親和性が減少している抗体を指す。例えば、pH依存的な抗IL-8抗体には、酸性pHにおいてよりも中性pHにおいてのほうがIL-8に対して高い親和性を有する抗体が含まれる。一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、IL-8に対して酸性pHにおける親和性よりも中性pHにおける親和性のほうが、少なくとも2倍, 3倍, 5倍, 10倍, 15倍, 20倍, 25倍, 30倍, 35倍, 40倍, 45倍, 50倍, 55倍, 60倍, 65倍, 70倍, 75倍, 80倍, 85倍, 90倍, 95倍, 100倍, 200倍, 400倍, 1000倍, 10000倍、或いはそれ以上高い。結合親和性を測定するために、限定はされないが、表面プラズモン共鳴法(BIACOREなど)が用いられ得る。結合速度定数(kon)と解離速度定数(koff)は、結合及び解離のセンサーグラムを同時にフィットさせることによる単純一対一ラングミュア結合モデル(simple one-to-one Langmuir binding model) Biacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いて算出することができる。平衡解離定数(KD)は、koff/kon比として算出される。pHによって結合親和性が異なる抗体をスクリーニングするためには、特に限定はされないが、表面プラズモン共鳴法(BIACOREなど )の他にも、ELISA法や結合平衡除外法(Kinetic Exclusion Assay;KinExATM)などを用いることもできる。pH依存的IL-8結合能とは、pH依存的にIL-8に結合するという性質を意味する。また、抗体がIL-8に複数回結合可能であるかどうかは、WO2009/125825に記載の方法によって、判断することが可能である。
【0083】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、中性pH(例えばpH7.4)におけるIL-8に対する解離定数(KD)が小さいことが好ましい。例えば、当該抗体は、中性pH(例えばpH7.4)におけるIL-8に対する解離定数が0.3 nM以下、0.1 nM以下、又は、0.03 nM以下であってよい。
【0084】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、酸性pH(例えばpH5.8)におけるIL-8に対する解離定数(KD)が大きいことが好ましい。例えば、当該抗体は、酸性pH(例えばpH5.8)におけるIL-8に対する解離定数が3 nM以上、10 nM以上、又は、30 nM以上であってよい。
【0085】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、中性pH(例えばpH7.4)における解離定数に対する酸性pH(例えばpH5.8)における解離定数の比〔KD(酸性pH)/KD(中性pH)〕(例えば、〔KD(pH5.8)/KD(pH7.4)〕)が、例えば、30以上、50以上、又は、例えば100以上、例えば、200, 300, 400, 500, 600, 700, 800, 900, 1000, 1500, 2000, 2500, 3000, 3500, 4000, 4500, 5000, 5500, 6000, 6500, 7000, 7500, 8000, 8500, 9000, 又は9500以上である。
【0086】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、酸性pH(例えばpH5.8)における解離速度定数(koff)が大きいことが好ましい。例えば、当該抗体の酸性pH(例えばpH5.8)における解離速度定数は、例えば0.003(1/s)以上、0.005(1/s)以上、又は、0.01(1/s)以上であってよい。
【0087】
WO2013/046704には酸性pH下におけるFcRnに対する結合を増大させる変異とともに、所定の変異(代表的なものとして、EUナンバリングで表される、Q438R/S440Eという2残基改変)をも併せて導入したFc領域改変体が、リウマトイド因子結合の有意な低下を示したことを報告している。しかしながら、WO2013/046704には、Q438R/S440Eの改変によりリウマトイド因子結合を低下させたFc領域改変体が、天然型Fc領域を有する抗体と比較して血漿中滞留性が優れることまでは示されてはいなかった。そのため、既存のADAへの結合を示さず、血漿中滞留性をさらに向上できる、安全でより有利なFc領域改変体が望まれていた。本研究者らは、抗医薬品抗体(既存のADA等)への結合を示さず、血漿中滞留性をさらに向上できる、安全でより有利なFc領域改変体として、EUナンバリングで表される434位のアミノ酸をAla(A)に置換させ、かつ、所定の2残基変異(代表的なものとして、Q438R/S440E)をアミノ酸残基の変異の組み合わせとして含むFc領域改変体が好ましいことに想到した。
【0088】
したがって、さらなる又は別の実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、FcRn結合ドメインを含むFc領域改変体を含み、前記FcRn結合ドメインは、例えば、天然型Fc領域と比較して、EUナンバリングで表される、434位にAla;438位にGlu、Arg、Ser若しくはLys;及び、440位にGlu、Asp若しくはGlnを含むFc領域改変体であってよい。当該抗IL-8抗体は、酸性pH及び中性pH、特には酸性pHにおいてFcRn結合活性が増大されたFcRn結合ドメインであり得る。あるいは、当該抗体は、そのFcRn結合ドメインが、EUナンバリングで表される、434位にAla;438位にGlu、Arg、Ser若しくはLys;及び、440位にGlu、Asp若しくはGlnを含む、Fc領域改変体を含むことが好ましく、434位にAla;438位にArg若しくはLys;及び、440位にGlu若しくはAspを含むことがより好ましい。あるいは、さらに、EUナンバリングで表される、428位にIle若しくはLeu;及び/又は、436位にIle、Leu、Val、Thr若しくはPheを含むことが好ましく、428位にLeu;及び/又は、436位にVal若しくはThrを含むことがより好ましい。
【0089】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体中のFc領域改変体は、天然型Ig抗体のFc領域改変体であることが好ましく、天然型のIgG(IgG1、IgG2、IgG3、又は、IgG4型)抗体のFc領域改変体であることがより好ましく、天然型のヒトのIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4に由来することがいっそう好ましい。例えば、それは、ヒトIgG1由来であってよい。
【0090】
天然型のIgG1、IgG2、IgG3、IgG4型の抗体のFc領域のうち、上述の改変部位である、EUナンバリングで表される、428位、434位、436位、438位、440位においては、436位以外は、天然型のヒトのIgG1、IgG2、IgG3、IgG4タイプの抗体のFc領域で全て共通している。一方、436位では、天然型のヒトのIgG1、IgG2、IgG4型の抗体のFc領域ではいずれもTyr (Y)であるが、天然型のヒトIgG3型の抗体のFc領域ではPhe (F)である。しかしながら、Stapleton et al., Competition for FcRn-mediated transport gives rise to short half-life of human IgG3 and offers therapeutic potential, Nature Communications, 2011, Dec, number 599は、EUナンバリングで表されるR435Hのアミノ酸置換を有するヒトIgG3アロタイプが、IgG1に匹敵する血漿中半減期をヒトで示したことを報告している。したがって、436位のアミノ酸置換に加えて、R435Hのアミノ酸置換を導入することで、酸性条件下におけるFcRnに対する結合を増大させて、血漿中滞留性を向上することも可能である。
また、WO2013/046704では、酸性pH下でのFcRnに対する結合を増大させることが可能なアミノ酸の置換と組み合わせた場合に、リウマトイド因子結合の有意な低下をもたらすことができた2残基のアミノ酸の置換として、具体的に、EUナンバリングで表される、Q438R/S440E、Q438R/S440D、Q438K/S440E、Q438K/S440Dを報告している。
【0091】
したがって、一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体中のFc領域改変体のアミノ酸配列は、天然型Fc領域と比較して、FcRn結合ドメインが、EUナンバリングで表される、
N434A/Q438R/S440E;N434A/Q438R/S440D;
N434A/Q438K/S440E;N434A/Q438K/S440D;
N434A/Y436T/Q438R/S440E;N434A/Y436T/Q438R/S440D;
N434A/Y436T/Q438K/S440E;N434A/Y436T/Q438K/S440D;
N434A/Y436V/Q438R/S440E;N434A/Y436V/Q438R/S440D;
N434A/Y436V/Q438K/S440E;N434A/Y436V/Q438K/S440D;
N434A/R435H/F436T/Q438R/S440E;N434A/R435H/F436T/Q438R/S440D;
N434A/R435H/F436T/Q438K/S440E;N434A/R435H/F436T/Q438K/S440D;
N434A/R435H/F436V/Q438R/S440E;N434A/R435H/F436V/Q438R/S440D;
N434A/R435H/F436V/Q438K/S440E;N434A/R435H/F436V/Q438K/S440D;
M428L/N434A/Q438R/S440E;M428L/N434A/ Q438R/S440D;
M428L/N434A/Q438K/S440E;M428L/N434A/ Q438K/S440D;
M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440D;
M428L/N434A/Y436T/Q438K/S440E;M428L/N434A/Y436T/Q438K/S440D;
M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440E;M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440D;
M428L/N434A/Y436V/Q438K/S440E;及び、M428L/N434A/Y436V/Q438K/S440D;
L235R/G236R/S239K/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;及び、
L235R/G236R/A327G/A330S/P331S/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E
からなる群から選択される、置換されたアミノ酸の組み合わせを含んでよい。
あるいは別の実施態様において、本開示における抗IL-8抗体中のFc領域改変体は、天然型Fc領域と比較して、EUナンバリングで表される、235位、236位、239位、327位、330位、331位、428位、434位、436位、438位、及び440位からなる群から選択される一つ以上(例えば、六つ、七つ又は全て)の位置で他のアミノ酸への置換を含んでよく、例えば、L235R, G236R, S239K, A327G, A330S, P331S, M428L, N434A, Y436T, Q438R, 及びS440Eからなる群から選択されるアミノ酸置換を一つ以上(例えば、六つ、七つ又は全て)含んでよい。
【0092】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体中のFc領域改変体は、天然型IgGのFc領域と比較して、酸性pH下でFcRnに対する結合活性が増大されていることが好ましい。
あるpH下でのFcRnに対するFcRn結合ドメインの結合親和性の増大は、天然型のFcRn結合ドメインについて測定されたFcRn結合親和性と比較した、測定されたFcRn結合親和性の増大に相当してよい。かかる場合、結合親和性の差であるKD(天然型Fc領域)/KD(本開示における抗IL-8抗体中のFc領域改変体)は、少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、15倍、20倍、50倍、70倍、80倍、100倍、500倍、または1000倍であってよい。FcRnに対するFcRn結合ドメインの結合親和性の増大は、酸性pH及び/又は中性pHにおけるものであってよいが、特には酸性pH下でFcRnに対する結合活性が増大されていることが好ましい。
また、酸性pH下でFcRnに対する結合親和性が増大されている本開示における抗IL-8抗体中のFc領域改変体は、天然型のIgGのFc領域よりもFcRnに対する結合親和性が、例えばpH 6.0及び25℃において、例えば、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、50倍、75倍、100倍、200倍、500倍、1000倍以上強くてよい。
【0093】
本明細書において「抗医薬品抗体」又は「ADA」とは、治療用抗体上に位置するエピトープに対する結合親和性(結合活性)を有し、よって当該治療用抗体と結合し得る内因性抗体を意味する。本明細書において「既存の抗医薬品抗体」又は「既存のADA」とは、治療用抗体を患者に投与する以前から患者の血中に存在し、検出され得る抗医薬品抗体を意味する。一実施態様において、既存のADAはリウマトイド因子、ヒトIgG抗体のFc領域に対するポリクローナルまたはモノクローナル自己抗体である。リウマトイド因子のエピトープはCH2/CH3界面領域及びCH3ドメイン中に位置するが、クローンにより異なり得る。既存のADAに対する結合親和性が低いFc領域改変体とは、天然型のIgG Fc領域を含む抗体のADAに対する結合親和性と比較して、例えば、10分の1以下、50分の1以下、又は100分の1以下に低下していてよい。
【0094】
一実施態様において、既存のADAに対する抗体のFc領域(改変体)の結合親和性は、酸性pH及び/又は中性pHにおける電気化学発光(ECL)反応で示され得る;しかしながら、当業者に公知である、既存のADAに対する結合親和性を決定するための他の適切な方法を利用してもよい。ECLアッセイは例えば、Moxness et al(Clin Chem, 2005, 51:1983-85)や本実施例に記載されている。測定は、例えば、MESバッファー及び37℃の条件下で行うことができる。抗体の抗原結合活性は、例えば、Biacoreを用いてもよい。一実施態様において、既存のADAに対する結合親和性は、10℃~50℃の任意の温度で評価することができる。好ましくは、ヒトFc領域とヒトの既存のADAとの間の結合活性を決定するために、15℃~40℃の温度が使用される。当該温度は好ましくは20℃~25℃であり、より好ましくは25℃である。pH 7.4(又はpH 7.0)、25℃で測定してよい。
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体中のFc領域改変体は、天然型IgGのFc領域と比較して、中性pH下で既存のADA、好ましくはリウマトイド因子(RF)に対する結合親和性が有意に増大されておらず、及び/又は、酸性pH下でFcRnに対する結合活性が増大されていることで、血漿中クリアランス(CL)が減少されているか、血漿中滞留時間が増大されているか、又は、血漿中半減期(t1/2)が増大されていることが好ましい。抗体の血漿中クリアランス(CL)、血漿中滞留時間、血漿中半減期(t1/2)が互いに相関していることは当業者に公知である。
【0095】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体中のFc領域改変体は、EUナンバリングで表される、N434Y/Y436V/Q438R/S440Eの置換されたアミノ酸の組み合わせを含む参照Fc領域改変体と比較して、血漿中滞留性が向上されている。
本実施例1~3では、WO2013/046704に記載のF1718というFc領域改変体(Fc領域にN434Y/Y436V/Q438R/S440Eという4か所の変異が導入されている。)と、Fc領域改変体F1848m(N434A/Y436V/Q438R/S440Eという4か所の変異が導入されている。)との2つのFc領域改変体の血漿中滞留性が比較されている。両者のFc領域改変体のアミノ酸変異の違いは、EUナンバリング434番に導入されているアミノ酸変異が、F1718はY(チロシン)であり、F1848mはA(アラニン)であるという点のみであった。それにも関わらず、F1848mは天然型IgG1の場合に比べて血漿中滞留性の向上が認められた一方で、F1718は血漿中滞留性の向上が認められなかった(特に、本実施例(3-2)を参照)。また、本実施例(1-2)及び本実施例(3-3)の結果より、各種Fc領域改変体のうち、F1848mよりも、F1847m、F1886m、F1889m、F1927mの方が血漿中滞留性の向上が認められた。したがって、F1848mのみならず、F1847m、F1886m、F1889m、F1927mを含むFc領域改変体は、EUナンバリングで表される、N434Y/Y436V/Q438R/S440Eの置換されたアミノ酸の組み合わせを含む当該参照Fc領域改変体と比較して、血漿中滞留性が向上していることを当業者であれば当然に予期できる。
【0096】
血中半減期が上昇し、酸性pHでのFcRnへの結合が向上した抗体は、US2005/0014934 (Hinton et al.)にも記載されている。当該抗体は、Fc領域のFcRnへの結合が上昇するような一つ以上のアミノ酸置換を含むFc領域改変体を含み、238, 256, 265, 272, 286, 303, 305, 307, 311, 312, 317, 340, 356, 360, 362, 376, 378, 380, 382, 413, 424, 及び434位(EUナンバリング)の中から選択される一つ以上のアミノ酸置換、例えばFc領域の434位のアミノ酸置換を含んでよい。Fc領域改変体のその他の例については、Duncan & Winter, Nature 322:738-40 (1988); US Patent No. 5,648,260; US Patent No. 5,624,821; WO 94/29351を参照。本開示における抗IL-8抗体のFc領域(改変体)には、適宜、これらのアミノ酸残基の改変を組み入れてよい。
【0097】
FcγRまたは補体タンパク質への結合もまた、望ましくない影響(例えば、不適切な血小板活性化)を引き起こし得る。FcγRIIa受容体などのエフェクター受容体に結合しないFc領域改変体は、より安全であり、かつ/またはより有効であり得る。
【0098】
一実施態様において、本開示におけるFc領域改変体を含む抗IL-8抗体は、補体タンパク質に対して結合活性が低いか又は補体タンパク質に結合しない。好ましくは、補体タンパク質はC1qである。補体タンパク質に対する低い結合活性とは、天然型のIgG又は天然型のIgG Fc領域を含む抗体の補体タンパク質に対する結合活性と比較して、例えば、10分の1以下、50分の1以下、又は100分の1以下に低下している、補体タンパク質に対する結合活性を指してよい。補体タンパク質に対するFc領域(改変体)の結合活性は、アミノ酸置換、挿入、欠失などのアミノ酸配列の改変によって低下させることができる。
さらなる又は別の実施態様において、本開示におけるFc領域改変体を含む抗IL-8抗体は、エフェクター受容体に対する結合親和性が低いか又は結合親和性を有さないのが好ましい。エフェクター受容体の例には、活性化FcγR、特にFcγRI、FcγRII、FcγRIIIが含まれる。FcγRIには、例えば、FcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、並びにこれらのサブタイプが含まれる。FcγRIIには、例えば、FcγRIIa(2つのアロタイプR131、H131)及びFcγRIIbが含まれる。FcγRIIIには、例えば、FcγRIIIa(2つのアロタイプV158、F158)及びFcγRIIIb(2つのアロタイプFcγIIIb-NA1、FcγIIIb-NA2)が含まれる。エフェクター受容体に対する結合親和性が低いか又は有さない抗体は、天然型のIgG Fc領域を含む抗体の結合親和性と比較して、例えば、10分の1以下、50分の1以下、又は100分の1以下に低下しているFc領域改変体を含む抗体を指してよい。具体例としては、例えば、サイレントFc領域を含む抗体、またはFc領域を含まない抗体(例えば、Fab、F(ab)'2、scFv、sc(Fv)2、diabody)が挙げられる。
【0099】
エフェクター受容体に対する結合親和性が低いか又は有さないFc領域改変体の例は、Strohl et al.(Current Opinion in Biotechnology (2009) 20(6), 685-691)に記載され、例えば、脱グリコシル化されたFc領域(N297A、N297Q)、又は、エフェクター機能がサイレント化(若しくは免疫抑制)されるよう操作されたFc領域であるサイレントFc領域の例(IgG1-L234A/L235A、IgG1-H268Q/A330S/P331S、IgG1-C226S/C229S、IgG1-C226S/C229S/E233P/L234V/L235A、IgG1-L234F/L235E/P331S、IgG2-V234A/G237A、IgG2-H268Q/V309L/A330S/A331S、IgG4-L235A/G237A/E318A、IgG4-L236E)が記載されている。WO2008/092117には、置換G236R/L328R、L235G/G236R、N325A/L328R、又は、N325L/L328R (EUナンバリングによる)を含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。WO2000/042072には、EU233位、EU234位、EU235位、及びEU237位のうちの一つまたは複数で置換を含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。WO2009/011941には、EU231~EU238の残基の欠失を含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。Davis et al, Journal of Rheumatology (2007) 34(11): 2204-2210には、置換C220S/C226S/C229S/P238Sを含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。Shields et al, Journal of Biological Chemistry (2001) 276 (9), 6591-6604には、置換D265Aを含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。US Patent No. 6,737,056には、EU238, EU265, EU269, EU270, EU297, EU327, EU329の一つ以上のアミノ酸置換を含むエフェクター機能が減少した抗体が記載されている。US Patent No. 7,332,581ではEU265とEU297をアラニンに置換したいわゆる「DANA」Fc領域改変体に加えて、EU265, EU269, EU270, EU297, EU327の二つ以上のアミノ酸置換を含むFc領域改変体が記載されている。本開示における抗IL-8抗体のFc領域改変体には、適宜、これらのアミノ酸残基の改変を組み入れてよい。
【0100】
「エフェクター受容体に対する低い結合」とは、エフェクター受容体に対する天然型IgG(又は天然型IgG Fc領域を含む抗体)の結合活性の、例えば、95%以下、好ましくは90、85、80、若しくは75%以下、より好ましくは70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、若しくは1%以下である結合活性を意味する。FcγRに対する結合活性は、エフェクター受容体に対する天然型のIgG(又は天然型のIgG Fc領域を含む抗体)の結合活性と比較して、例えば、10分の1以下、50分の1以下、又は100分の1以下に低下してよい。
【0101】
本明細書において、サイレントFc領域とは、天然型のFc領域と比較してエフェクター受容体への結合を低下させる1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入、欠失等を含むFc領域改変体である。エフェクター受容体に対する結合活性は大きく低下し得るためFc領域改変体はもはやエフェクター受容体と(実質的に)結合しない。サイレントFc領域の例としては、EU234、EU235、EU236、EU237、EU238、EU239、EU265、EU266、EU267、EU269、EU270、EU271、EU295、EU296、EU297、EU298、EU300、EU324、EU325、EU327、EU328、EU329、EU331、及びEU332からなる群より選択される一つ又は複数の位置においてアミノ酸置換を含むFc領域(改変体)が含まれる。一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体のFc領域(改変体)には、適宜、これらのアミノ酸残基の改変を組み入れてもよい。
【0102】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体のFc領域改変体を作製するための抗体定常領域の改変方法としては、例えば、定常領域のアイソタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)を複数検討し、適宜その配列中に例えばアミノ酸置換を導入することで、酸性pH下での抗原結合活性が低下する、及び/又は、酸性pH下での解離速度が速くなるアイソタイプを選択してよい。
【0103】
別の又はさらなる実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、
(A)配列番号:36、37又は106のアミノ酸配列を含む重鎖、又は、それと少なくとも65%、70%、若しくは75%以上、好ましくは80%、85%若しくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性を有する重鎖;並びに/あるいは、
(B)配列番号:38又は44のアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、それと少なくとも65%、70%、若しくは75%以上、好ましくは80%、85%若しくは90%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性を有する軽鎖
を含んでよい。ここで、参照アミノ酸配列と特定%の配列同一性を有する重鎖又は軽鎖は、参照アミノ酸配列を有する重鎖又は軽鎖と機能的に同等であってよい。さらに、当該抗IL-8抗体は、以下の5つの性質のうち少なくとも一つの性質を有するFc領域改変体を含んでよい:
(a) 酸性pHでのFc領域改変体のFcRnに対する結合親和性が、天然型のFc領域のFcRnに対する結合親和性よりも増大している、
(b) 既存のADAに対するFc領域改変体の結合親和性が天然型のFc領域の既存のADAに対する結合親和性よりも低下している、
(c) Fc領域改変体の血漿中半減期が天然型のFc領域の血漿中半減期よりも増大している、
(d) Fc領域改変体の血漿中クリアランスが天然型のFc領域の血漿中クリアランスよりも減少している、
(e) Fc領域改変体のエフェクター受容体に対する結合親和性が天然型のFc領域のエフェクター受容体に対する結合親和性よりも低下している、
(f) pH依存的にIL-8に結合し得る。
ここに記載される、想定されるあらゆるアミノ酸配列の組み合わせを当然に当業者は理解する。
【0104】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、例えばUS Patent No. 4,816,567に記載される方法を用いて作製することができる。一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体をコードする単離された核酸が提供される。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列及び/又はVHを含むアミノ酸配列(例えば抗体の軽鎖及び/又は重鎖)をコードしていてよい。単離された抗IL-8抗体をコードする核酸は、宿主細胞内でのさらなるクローニング及び/又は発現のために一つ以上のベクターに挿入されてよい。このような核酸は、従来の手法で(例えば、抗体の重鎖及び/又は軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合するオリゴ核酸プローブを用いることで)容易に単離され、配列決定され得る。
さらなる実施態様では、このような核酸を含む一つ以上のベクター(例えば発現ベクター)が提供される。一実施態様において、このような核酸を含む宿主細胞が提供される。当該宿主細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列及び/又はVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は、(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第一のベクターと抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第二のベクターを含む(例えば、これらベクターで細胞は形質転換されている)。
一実施態様において、宿主は真核生物(例えばCHO細胞やリンパ細胞(例えばY0, NS0, SP20細胞))である。
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体の製造方法が提供され、その製造方法は、例えば、上記核酸を含む宿主細胞を、抗体発現に適した条件で培養し、任意に宿主細胞(又は宿主細胞の培養培地)から当該抗体を回収することを含む。
【0105】
抗体をコードするベクターの発現やクローニングに適切な宿主細胞としては、例えば、原核細胞又は真核細胞を含む。グリコシル化した抗体の発現のためには多細胞生物(無脊椎動物や脊椎動物)由来の細胞を用いてよい。無脊椎動物の例は、植物細胞や昆虫細胞である。
【0106】
一実施態様において、抗IL-8抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を、抗体発現に適した条件で培養することで産生された当該抗体は、宿主細胞内又は細胞外(培地、乳汁など)から単離され、実質的に純粋で均一な抗体として精製され得る。抗体の分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法が好適に使用され得るが、これらに限定されない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等が適宜選択、組み合わされて抗体が好適に分離、及び精製され得る。クロマトグラフィーとしては、例えば、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行い得る。アフィニティクロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが例えば挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F.(Pharmacia製)が挙げられる。
【0107】
一実施態様において、本開示は、細胞外マトリックスへの結合性の増大や、IL-8と抗IL-8抗体との複合体の細胞内への取込みの増加といった抗IL-8抗体の性質に着目し、細胞外マトリックスへの結合が増大した抗体や細胞内取り込みが増加した抗体を選択する方法に関する。一実施態様において、本開示は、IL-8への結合活性がpH依存的である可変領域を含む抗体の製造方法であって、以下の工程を含む抗IL-8抗体の製造方法に関する:(i) 抗IL-8抗体と細胞外マトリックスとの結合を評価する工程、(ii) 細胞外マトリックスとの結合が高い抗IL-8抗体を選択する工程、(iii) 当該抗体をコードする核酸を含むベクターを含む宿主を培養する工程、及び(iv) 培養液(培養上清等)から当該抗体を単離する工程。細胞外マトリックスとの結合の評価は、例えば、細胞外マトリックスが固相化されたプレートに抗体を添加し、その抗体に対する標識抗体を添加することによって、抗体と細胞外マトリックスの結合を検出するELISA系によって測定することができる。あるいは、例えば、細胞外マトリックスを固相化したプレートに、抗体とルテニウム抗体の混合物を添加し、抗体と細胞外マトリックスとの結合を、ルテニウムの電気化学発光によって測定する電気化学発光法(ECL法)によって測定することができる。
【0108】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、溶液中(例えばPBS中)でIL-8中和活性が安定に保たれることが望ましい。溶液中で当該活性が安定に保たれるかどうかは、当該溶液に添加した本開示の抗体のIL-8中和活性が、ある期間、ある温度で保管した前と後で変化するかどうかを測定することで確認可能である。一実施態様において、保管期間は、例えば、1~4週間であり、保管温度は、例えば、25度、30度、35度、40度、又は50度である。
【0109】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、生体内(例えば血漿中)でIL-8中和活性が安定に保たれることが望ましい。生体内で当該活性が安定に保たれるかどうかは、非ヒト動物(例えばマウス)又はヒトの血漿に添加した本開示の抗体のIL-8中和活性が、ある期間、ある温度で保管した前と後で変化するかどうかを測定することで確認可能である。一実施態様において、保管期間は、例えば、1~4週間であり、保管温度は、例えば、25度、30度、35度、又は40度である。
【0110】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体の細胞内へ取り込まれる速度は、抗体単独のときよりも、IL-8と複合体を形成したときのほうが大きい。
【0111】
一実施態様において、本開示における抗IL-8抗体は、ヒト宿主において予測される免疫原性が低減されていることが好ましい。「低免疫原性」とは、例えば、治療効果を達成するのに十分な時間において、十分な量の抗体が投与される個体の少なくとも過半数において、投与された抗IL-8抗体が生体による免疫応答を惹起しないことを意味してもよい。免疫応答の惹起には抗医薬品抗体の産生が含まれ得る。「抗医薬品抗体の産生が少ない」とは「免疫原性が低い」と言い換えることも可能である。ヒトにおける免疫原性のレベルは、T細胞エピトープ予測プログラムで予測することも可能であり、このT細胞エピトープ予測プログラムにはEpibase(Lonza)、iTope/TCED(Antitope)、EpiMatrix(EpiVax)などが含まれる。例えば、T細胞エピトープ予測プログラムを用いて解析し、免疫原性が低減した配列を設計することができる。そのようなアミノ酸改変部位の非限定の例として、配列番号:34で表される抗IL-8抗体の重鎖配列中のKabatナンバリングで表される81位及び/又は82b位が挙げられる。
【0112】
一実施態様において、本開示に記載の抗IL-8抗体との機能の比較における参照抗体は、配列番号:39及び40のアミノ酸配列を含む抗体であってよい。特定の実施態様において、PK試験に用いるための参照抗体は、配列番号:43及び45のアミノ酸配列を含む抗体であってもよい。
【0113】
複数の実施態様において、本開示におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)は、公知の様々な方法によって、物理化学的特性及び/又は生物学的活性を指標に同定され、スクリーニングされ、又は特徴付けられる。
【0114】
結合測定、その他の測定
ある側面では、本開示における抗体は、例えば、ELISAやウェスタンブロット、結合平衡除外法(Kinetic Exclusion Assay;KinExATM)、又はBIACORE(GE Healthcare)などの装置を用いた表面プラズモン共鳴法のような方法で抗原結合活性を調べてよい。
【0115】
一実施態様において、結合親和性は、Biacore T200(GE Healthcare)を用いて以下のように測定可能である。センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法で補足用タンパク質(例えば、プロテインA/G(PIERCE))を適当量固定化し、そこへ目的の抗体を捕捉させる。次に、希釈された抗原液とランニングバッファー(参照溶液として:例えば0.05% tween20, 20 mM ACES, 150 mM NaCl, pH 7.4)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉された抗体に、抗原分子を相互作用させる。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl溶液(pH 1.5)が用いられ、測定は指定の温度(例えば37℃、25℃、又は20℃)で実施される。測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである結合速度定数 kon (1/Ms)、及び解離速度定数 koff (1/s)をもとに各抗体の抗原に対するKD(M)が算出される。各パラメーターの算出には Biacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられる。
【0116】
一実施態様において、IL-8の定量は以下のように実施可能である。マウスIgG定常領域を有する抗ヒトIL-8抗体を固相化したプレートを作成する。前記抗ヒトIL-8抗体とは競合しないヒト化IL-8抗体と結合しているIL-8を含む溶液を、前記固相化プレートへ分注し、撹拌する。その後、ビオチン化した抗ヒトIgk軽鎖抗体を添加して一定時間反応させ、更にSULFO-Tagラベルされたストレプトアビジンを添加して一定時間反応させる。測定用緩衝液を添加後、直ちにSECTOR Imager 2400(Meso Scale Discovery)で計測する。
【0117】
活性評価アッセイ
ある側面では、測定は生物学的活性を有する抗体を同定するために提供される。生物学的活性には、例えば、抗原(例えばIL-8)を中和する活性、又は、抗原(例えばIL-8)のシグナルを遮断する活性が含まれる。
【0118】
一実施態様において、IL-8の中和活性の程度を決定する方法は、例えば、以下の方法でも測定することが可能である。PathHunter(商標)CHO-K1 CXCR2 β-Arrestin Cell Line (DiscoveRx社、Cat.# 93-0202C2)は、ヒトIL-8受容体の一つとして知られているヒトCXCR2を発現し、ヒトIL-8によるシグナルが伝達された際に化学発光を呈するように、人工的に作成された細胞株である。当該細胞の培養液にヒトIL-8を添加すると、添加したヒトIL-8の濃度に依存して、当該細胞は化学発光を呈する。ヒトIL-8と抗ヒトIL-8抗体を併せて培養液中に添加した場合、抗ヒトIL-8抗体は、IL-8によるシグナル伝達を遮断し得るため、当該細胞の化学発光は、抗体を添加していない場合に比べると弱まるか、あるいは全く検出されない。即ち、抗体が有するヒトIL-8中和活性が強いほど化学発光の程度は弱まり、抗体が有するヒトIL-8中和活性が弱いほど化学発光の程度は強まる。この差を確認することにより、抗ヒトIL-8抗体の、ヒトIL-8に対する中和活性を評価することが可能である。
【0119】
本明細書において、「診断用組成物」、「治療用組成物」、「予防用組成物」はそれぞれ「診断剤」、「治療剤」、「予防剤」と互換可能に用いられる。一実施態様において、治療用組成物、予防用組成物が所望の対象の疾患又は症状の治療又は予防を意図している場合、これらの組成物は医薬組成物とも称され、医薬組成物は、通常、疾患又は症状の治療又は予防のための薬剤を指す。
本明細書において「薬学的に許容される担体」とは、医薬組成物中に存在する有効成分以外の構成要素を指し、対象に対して無害なものが典型的には選択されるが、目的に応じたリスク・ベネフィットを勘案して決定されよう。薬学的に許容される担体は、例えば、緩衝液、賦形剤、安定剤、又は保存剤を含む。
一実施態様において、本開示における治療用組成物又は予防用組成物は薬学的に許容される担体を含み、凍結乾燥製剤又は水溶液製剤の形態で調製され得る。
【0120】
一実施態様において、薬学的に許容される担体は、典型的には、用いられる用量と濃度がレシピエントに非毒性であって、例えば、ホスフェート、シトレート、ヒスチジン等のバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;保存剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンズエトニウムクロリド;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/又はTWEENTM、PLURONICSTM又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。あるいは、例えば、可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)のような間質性薬剤分散剤を含んでよい(US2005/0260186、US2006/0104968)。sHASEGPはコンドロキナーゼのような一つ以上のグリコサミノグリカナーゼと組み合わされてよい。
【0121】
本明細書において、医薬組成物中の有効成分(IL-8阻害剤(例えば抗IL-8抗体)、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤等のIL-8シグナル阻害剤)の「有効量(effective amount)」とは、所望される治療的又は予防的結果を達成するのに必要な期間、必要な用量での有効量を意味する。
ある側面において、本開示は、IL-8シグナル阻害剤(例えば、IL-8阻害剤(例えば抗IL-8抗体)、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤)が医薬組成物として利用可能であることに基づく。本開示におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば、IL-8阻害剤(例えば抗IL-8抗体)、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤)は、例えば、IL-8が過剰に存在する疾患の診断、治療又は予防に有益である。
【0122】
一実施態様において、本開示におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば、IL-8阻害剤(例えば抗IL-8抗体)、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤)は、非経口投与、肺内投与、鼻腔内投与、局所処置が望ましい場合には病巣内投与など、任意の好適な手段で投与される。非経口注入の例として、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与又は皮下投与が挙げられる。投与が短期かそれとも長期かなどにもよるが、例えば、静脈内注射又は皮下注射のような注射など適切な経路で投薬してよい。様々な投薬スケジュールが行われ得る。
一実施態様において、本開示におけるIL-8シグナル阻害剤は、医学的実用性に合わせた様式で、製剤化され、用量設定され、投与され得る。
一実施態様において、本開示は、本明細書に開示される疾患のための診断、治療、及び/又は予防に有用なIL-8シグナル阻害剤を含む製品に関する。この製品は、容器と、当該容器に付随するラベル又は添付文書を含む。適切な容器には、例えば、ビン、バイアル、静脈注射用溶液バッグが含まれる。
【0123】
疾患の治療又は予防における、本開示におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば、IL-8阻害剤(例えば抗IL-8抗体)、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤)の適切な投与量や投与間隔は、治療対象の疾患のタイプ、阻害剤のタイプ、疾患の重症度及び経過、投与目的、これまでの治療、患者の臨床歴及び阻害剤に対する反応、並びに医師の裁量等に基づいて、適宜設定できる。
【0124】
一実施態様において、治療効果としては、例えば、疾病の発生又は再発の防止、症状の寛解、疾病の任意の直接的又は間接的な病理的結果の低減、転移の防止、疾病の進行速度の低減、疾病状態の回復、緩和、寛解又は改善された予後が含まれる。
【0125】
一実施態様において、本開示では、IL-8が過剰に存在する疾患若しくは症状、又は、IL-8シグナルが病態の発症、進行、増悪、再発等に関与するか又は関与し得る疾患を、包括的に、「IL-8関連疾患」という。
ある側面における一実施態様において、本開示は、IL-8シグナル阻害剤(例えば、IL-8阻害剤(例えば抗IL-8抗体)、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤)を有効成分として含有する、IL-8関連疾患の治療用組成物又は予防用組成物に関する。さらなる実施態様において、当該組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでよい。
ある側面における一実施態様において、本開示は、IL-8関連疾患(例えば、子宮内膜症、子宮腺筋症、月経困難症、癒着、線維化疾患)の治療又は予防における使用のための、IL-8シグナル阻害剤(例えば、IL-8阻害剤(例えば抗IL-8抗体)、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤)に関する。
ある側面における一実施態様において、本開示は、IL-8関連疾患(例えば、子宮内膜症、子宮腺筋症、月経困難症、癒着、線維化疾患)に対する診断用組成物、治療用組成物、又は、予防用組成物としてのIL-8シグナル阻害剤(例えば、IL-8阻害剤(例えば抗IL-8抗体)、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤)の使用に関する。
ある側面における一実施態様において、本開示は、IL-8シグナル阻害剤(例えば、IL-8阻害剤(例えば抗IL-8抗体)、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤)又はそれを含む治療用組成物若しくは予防用組成物を、それを必要とする対象に(有効量で)投与することを含む、IL-8関連疾患(例えば、子宮内膜症、子宮腺筋症、月経困難症、癒着、線維化疾患など)を治療又は予防する方法に関する。ここで、それを必要とする対象とは、当該IL-8関連疾患に罹患した、又は、罹患している恐れのある対象であってよい。さらなる実施態様において、当該組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでよい。
ある側面における一実施態様において、本開示は、IL-8関連疾患(例えば、子宮内膜症、子宮腺筋症、月経困難症、癒着、線維化疾患など)の治療又は予防のための医薬の製造における、本開示のIL-8シグナル阻害剤(例えば、IL-8阻害剤(例えば抗IL-8抗体)、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤)又はそれを含む治療用組成物若しくは予防用組成物の使用に関する。さらなる実施態様において、当該組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでよい。
【0126】
一実施態様において、本開示におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば、IL-8阻害剤(例えば抗IL-8抗体)、CXCR1阻害剤、又はCXCR2阻害剤)による治療又は予防の対象となるIL-8関連疾患としては、例えば、子宮内膜症;子宮腺筋症;月経困難症;アッシャーマン・シンドロームなどの癒着;不妊症;子宮内膜症、子宮腺筋症、若しくは月経困難症における疼痛;及び、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛;炎症性角化症、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、掌蹠膿疱症、乾癬などの炎症性皮膚疾患;慢性関節リウマチ、全身性エリトマトーデス(SLE)、ベーチェット病などの慢性炎症性疾患である自己免疫疾患;クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患;B型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝炎、薬物アレルギー性肝炎などの炎症性肝疾患;糸球体腎炎、ANCA関連腎炎などの炎症性腎疾患;気管支炎、喘息などの炎症性呼吸器疾患;アテローム性動脈硬化などの炎症性慢性血管疾患;多発性硬化症;口内炎;声帯炎;臓器移植の際の虚血再灌流;人工臓器・人工血管使用時に起こる炎症;卵巣がん、肺がん、前立腺がん、胃がん、乳がん、メラノーマ(悪性黒色腫)、頭頚部がん、腎臓がん、膀胱がん、膠芽腫(glioblastoma)などの悪性腫瘍;感染等による敗血症(敗血症性ショックを含む);急性肺損傷;子宮内膜症又は子宮腺筋症における線維化、嚢胞性線維症、肝線維症、腎線維症、及び慢性閉塞肺疾患(COPD)などの肺線維症などの線維化疾患;脳卒中、脳梗塞(例えば虚血性脳梗塞)、脳血栓症、脳塞栓症、出血性脳血管障害、脳内出血、及び、くも膜下出血から選択される脳障害;心筋梗塞(急性心筋梗塞、不安定狭心症、心筋虚血再灌流障害を含む)などが挙げられる(参照として、例えば、本実施例;本明細書に記載の文献;Remo et al., Expert Rev. Clin. Immunol. 10(5), pp. 593-619, 2014; Mian et al., Clin Cancer Res. 2003 Aug 1;9(8):3167-75; Huang et al., Am J Pathol. 2002 Jul;161(1):125-34; WO97/49426;WO97/39775;JP10-045622;JP10-182488;JP10-053536)。IL-8関連疾患は哺乳動物における疾患であってよく、霊長類における疾患であることが好ましく、ヒトにおける疾患(例えば子宮内膜症であればヒト子宮内膜症;子宮腺筋症であればヒト子宮腺筋症など、以下同様である。)であることがより好ましい。
一実施態様において、本開示におけるIL-8シグナル阻害剤による治療又は予防の対象となるIL-8関連疾患の患者(対象)は、当該IL-8関連疾患に罹患した、又は、罹患している恐れのある対象であってよい。ここで、IL-8関連疾患に罹患している恐れのある対象とは、限定はされないが、IL-8関連疾患に過去に罹患しており、症状が再燃する恐れのある対象でもよいし、あるいは、IL-8関連疾患との例えば病理所見による確定診断などが医師等によって下される前の、IL-8関連疾患を発症していると疑われている対象であってもよい。一実施態様において、IL-8関連疾患の予防と治療は場合によって同義に解されてもよい。あるいは、IL-8関連疾患の予防とは、適切な場合には、当業者に周知の一般的な観念で解されてもよい。
一実施態様において、本開示におけるIL-8関連疾患はIL-8シグナルに応答性を示す。
【0127】
本明細書において、子宮内膜症は、限定を意図しないが、子宮内膜組織と同じあるいは類似の形態と機能を持った組織が、子宮外に異所性(通常は骨盤内、時に、腹腔、稀に胸腔)に発生し、増殖し症候をもたらす疾患である(日本産科婦人科学会、1993)。悪性腫瘍ではないものの、経時的に進行し、腫瘍形成と周囲の癒着、月経時及びそれ以外での重度の腹痛や骨盤痛、性交痛、排便痛、並びに、不妊症(妊孕能低下)を来す疾患である。主として、20歳以上の生殖年齢にある女性に発生し、痛み等によるQOLの低下、癒着の重症化による疼痛の慢性化や不妊症に至る。子宮内膜症の病変部(疾患部位)のうち、癒着が生じている部分の病態が進行すると線維化が起きる。線維化した部分にはコラーゲンが生成しており、線維化の原因となっている。子宮内膜症における線維化の進行は一般的に不可逆的であると理解されている。そのため、子宮内膜症において線維化の進行を止める、あるいは改善する方法についてはこれまで報告されていなかった。このように、子宮内膜症とは、病態の発生から進行の過程で多様な病理的所見を提示して様々なステージを経過しながら増悪していく疾患であるにも関わらず、子宮内膜症と一括りに呼ばれていたが、最近、ヒトと同様の月経を有する非ヒト霊長類の子宮内膜症in vivoモデルが作製されたことで、病態の解明がようやく進められてきた疾患である。本発明者らは、ヒトと同様の月経を有するカニクイザルの子宮内膜症in vivoモデルを外科的に誘発して作製し、IL-8シグナル阻害剤を生体に投与することで、子宮内膜症の病変部にある上皮細胞やstroma細胞が萎縮性変化し、又は、子宮内膜症のinterstitiumが減少することで平滑筋までもが縮小して子宮内膜症の病変部の増殖が抑制できることを、信頼できるin vivoモデルを使って世界で初めて実証することに成功した。子宮内膜症組織、特にinterstitiumの減少から、異所性神経細胞の細小化も期待できる。また、本発明者らは、IL-8シグナル阻害剤の投与群では、vehicle群では見られなかった筋組織の再生を確認し、筋層まで浸潤した病変が退縮し、筋肉組織に置き換わって戻っていると考察した。腹壁筋層まで浸潤した子宮内膜症腺管の有無で深在性病変(deep lesion)の有無を確認した場合にも、IL-8シグナル阻害剤が深在性病変の形成を抑制できることが示唆された。さらに驚くべきことに、本発明者らは、当該IL-8シグナル阻害剤が子宮内膜症における癒着や線維化をも抑制できることをも初めて実証した。したがって、一実施態様において、本開示におけるIL-8シグナル阻害剤は、子宮内膜症における特定のステージにある線維化という、線維化疾患と捉えることができる症状を治療又は予防できる。また、カニクイザルin vivoモデルにおいて、一例は性周期が不定期であったもののモデル作製の影響と考えられ、一例を除いて性周期が定期的であり、IL-8シグナル阻害剤は性周期に影響を与えなかったと判断した(本実施例参照)。このことから、既存の子宮内膜症治療剤と比較してIL-8シグナル阻害剤は有望な治療剤又は予防剤である。さらに、ホルモン剤との併用によらずともIL-8シグナル阻害剤単剤で子宮内膜症を治療又は予防できることは驚くべきことである。一実施態様において、本開示における子宮内膜症はIL-8シグナルに応答性を示す。
【0128】
本明細書において、子宮腺筋症とは、限定はされないものの、子宮平滑筋層に子宮内膜組織すなわち子宮内膜腺とそれを取り囲む子宮内膜間質(stroma)が存在する状態であり、周囲の平滑筋の肥大と過形成を伴う疾患で、重度の月経痛、過多月経並びに貧血、慢性疼痛を来す。子宮腺筋症患者の6-20%が子宮内膜症を併発しているが (武谷ら、H9年度厚生省心身障害研究報告書.1998:99-104)、子宮内膜症とは疾病学分類上異なる疾患であり、両者は区別された別個の疾患であることが近年の当業者の技術常識である(Frankl et al, 1925;10:680-4, Brosens et al, Lancet. 1993 Jan 16;341(8838):181-2, Benagiano et al, Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 2006 Aug;20(4):449-63.)。子宮内膜が異所性に発生・発育する点、エストロゲンに依存して変化する点、月経痛が主症状である点では子宮内膜症に似ているが、子宮腺筋症は疫学的にも子宮内膜症より比較的高齢の経産婦女性に発生することが多いなど異なっている。子宮内膜との基底層と筋層間の境界が破たんする理由は特定できないが、子宮損傷(過度の掻把、分娩外傷)により子宮内膜が直接筋層内に押し込まれるという発生説が提唱されてきた(Pappas et al, Obset Gynecol. 1959;13:714, Benagiano et al, Fertil Steril. 2012 Sep;98(3):572-9)。なお、内腔側筋層90%までに子宮内膜組織が存在せずに、漿膜側の筋層にのみ子宮内膜組織が分布する例は骨盤腹膜子宮内膜症とよばれる(Bergeron et al, Best Pract Res Clin Obset Gynaecol 2006; 20(4):511-521)。
本発明者らは、上述のカニクイザルin vivoモデルが子宮腺筋症を自然発症したことを確認、同定し、IL-8シグナル阻害剤を生体に投与したところ、子宮腺筋症の病変部の増殖を抑制できることを世界で初めて実証することに成功した。カニクイザルin vivoモデルにおいて、IL-8シグナル阻害剤は性周期への影響を与えなかったことから(本実施例参照)、既存の子宮腺筋症治療剤と比較してIL-8シグナル阻害剤は有望な治療剤又は予防剤である。さらに、ホルモン剤との併用によらずともIL-8シグナル阻害剤単剤で子宮腺筋症を治療又は予防できることは驚くべきことである。IL-8シグナル阻害剤を投与することで、子宮腺筋症における肥大した子宮壁を薄くさせることが可能であり、子宮腺筋症における線維化に対する治療又は予防効果が想起される。一実施態様において、本開示における子宮腺筋症はIL-8シグナルに応答性を示す。
【0129】
本明細書において、月経困難症とは、限定はされないものの、特には月経時の症状のうち日常生活に支障が生じるほどの症状を指してもよい。月経困難症には、子宮内膜症、子宮腺筋症、過多月経などが関与し得ることが知られており、その典型的な症状としては、例えば、月経時の腹痛、特には下腹部痛に加えて、腰痛、頭痛、吐き気、貧血、倦怠感などが挙げられる。月経困難症はその原因から大まかには機能性(原発性)月経困難症と器質性(続発性)月経困難症の2種類に分類されている。機能性月経困難症の原因としては、例えば、プロスタグランジンの過剰分泌であったり、子宮筋腫、子宮内膜症などの疾患の進行に伴って生じるものが挙げられる。器質性月経困難症の原因としては、例えば、子宮筋腫、子宮内膜症などの疾患の進行に伴って生じるものが挙げられる。また、月経困難症は子宮内外の炎症によっても生じることが知られているところ、IL-8は抗炎症サイトカインとして知られている。したがって、一実施態様において、本開示におけるIL-8シグナル阻害剤は、月経困難症を治療又は予防できる。非限定の好ましい実施態様において、本開示におけるIL-8シグナル阻害剤は、子宮内膜症若しくは子宮腺筋症を有する月経困難症、子宮内膜症若しくは子宮腺筋症が疑われる月経困難症、炎症を伴う月経困難症、又は、癒着により疼痛を伴う月経困難症を治療又は予防することができる。あるいは、別の実施態様において、本開示における月経困難症はIL-8シグナルに応答性を示す。
ここで、「子宮内膜症若しくは子宮腺筋症が疑われる月経困難症」とは、限定はされないが、子宮内膜症又は子宮腺筋症に過去に罹患しており、症状が再燃する恐れのある対象でもよいし、あるいは、子宮内膜症若しくは子宮腺筋症との例えば病理所見による確定診断などが医師等によって下される前の、子宮内膜症若しくは子宮腺筋症を発症していると疑われている対象であってもよい。
一実施態様において、本開示におけるIL-8シグナル阻害剤が子宮内膜症若しくは子宮腺筋症を伴う月経困難症、又は子宮内膜症若しくは子宮腺筋症が疑われる月経困難症の治療又は予防に用いられる場合、上述の通り、IL-8シグナル阻害剤は性周期への影響を与えず、ホルモン剤との併用によらずとも単剤で子宮内膜症や子宮腺筋症を治療又は予防することができるので有利である。
また、本実施例に記載のとおり、本発明者らは、IL-8シグナル阻害剤が、子宮内膜症、子宮腺筋症に加えて、癒着をも治療又は予防できることを実証又は想到した。月経困難症は腹痛などの疼痛によっても特徴付けられるところ、子宮内膜症における癒着のみならず、それ以外の症状又は疾患による癒着であっても組織あるいは臓器が接着等することによって患者に疼痛を引き起こすことが当然に考えられる。例えば骨盤内における癒着では生殖附属器同士の癒着と痛みは相関しないものの、ダグラス窩の癒着と痛みは相関すること(Porpora et al, The Journal of the American Association of Gynecologic Laparoscopists 1999; 6:429-434.)や、臓器同士が癒着することで引きつって疼痛が生じることが知られている。また、子宮内膜症では異所性の神経線維およびNGFの産生が疼痛および疼痛増悪の原因となることが知られている(Anaf et al, Hum Reprod 2000; 15:1744-1750., Berkley et al, Proc Natl Acad Sci U S A 2004; 101:11094-11098. Odagiri et al, Fertil Steril 2009; 92:1525-1531.)。また子宮内膜症周囲にある平滑筋が発達したinterstitiumが収縮時の痛みを増強することを示唆する報告もある(Odagiri et al, Fertil Steril 2009; 92:1525-1531.)。本実施例の抗IL-8抗体の投薬によって子宮内膜症組織のinterstitiumが減少していることが確認されたことに加えて、異所性神経の減少が期待できることから、疼痛改善が期待できる。
一実施態様において、本開示におけるIL-8シグナル阻害剤は、子宮内膜症又は子宮腺筋症における疼痛(慢性疼痛、月経時の疼痛など)、月経困難症における疼痛、又は、癒着、線維化若しくは炎症による疼痛を治療又は予防することができる。ここで、当該慢性疼痛としては、限定を意図しないが、慢性下腹部痛又は慢性骨盤痛が挙げられる。
【0130】
一実施態様において、本開示における「性周期への影響を与えない」とは、対象(ヒトであれば女性、非ヒト動物であればメス)における周期的な月経サイクルおよび排卵が実質的に干渉を受けないことを指してよく、そのサイクルの周期性は、本実施例で観察したように月経時の出血の有無から決定してもよいし、血中あるいは尿中エストロゲン濃度の変動やプロゲステロン濃度の変動から判定してもよい。ホルモン(例えばエストロゲン/プロゲステロン合剤、プロゲステロン製剤、GnRHアゴニスト、ダナゾール)療法は月経サイクルに干渉し排卵を阻害することが知られている。限定はされないが、実質的に干渉を受けたか否かは、例えば、性周期への影響を与えることが知られているホルモン療法を受けている対照群と比較して、IL-8シグナル阻害剤の投与を受けた群では統計的に若しくは傾向として、月経サイクルが干渉を受けていないかどうかで判断してもよい。一実施態様において、本開示におけるIL-8シグナル阻害剤は、それを投与された子宮内膜症、子宮腺筋症、又は月経困難症の対象における性周期への影響を与えないことから、排卵を阻害しないこと及び従来のホルモン療法と異なり妊娠が可能であることが想起される。また、ホルモン剤を用いないことにより、低エストロゲン状態による更年期障害などの副作用状態を対象が回避できることは有利である。
【0131】
生体は、生体内の細胞、組織、器官又は臓器などが損傷や創傷を受けた際に、当該損傷もしくは創傷を受けた部位を治癒しようとする創傷治癒機能を有している。しかしながら、創傷治癒の過程で本来であれば望ましくない、細胞、組織、器官又は臓器間の接着が生じることがある。限定は意図しないが、典型的にはこのような接着状態を癒着という。癒着が生じても自覚症状のない患者がいる一方で、疼痛や不妊症、腹部膨満感などの症状を伴い治療が必要となる患者も少なくない。癒着の例としては、手術後に生じた(生じる)癒着(例えば、外科的手術時の割面、縫合部位周囲、ガーゼ等の擦過部位などに直接又は間接的に生じた(生じる)癒着、子宮内掻把処理により生じた(生じる)子宮膣内癒着症(アッシャーマン・シンドローム));薬剤(例えば臓器への局所的な薬剤の投与)による癒着;疾患(例えば、子宮内膜症、子宮腺筋症、又は、浸潤状態にあるがん細胞若しくはがん組織、感染に伴う炎症性疾患(卵管炎、卵巣炎、骨盤腹膜炎等))による癒着;癒着を伴う腸閉塞;自然発症的に生じる癒着などが挙げられる。本発明者らは、カニクイザルの子宮内膜症in vivoモデルにおいて、開腹手術後に生じた子宮内膜症とは別の開腹部位への癒着が、IL-8シグナル阻害剤を生体に投与することで癒着が減少したことを偶然にも見出した。一実施態様において、本開示における癒着はIL-8シグナルに応答性を示す。
【0132】
本明細書において、不妊症とは、限定を意図しないが、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間(一般的には一年)妊娠しないものを指す(日本産科婦人科学会、2016)。限定はされないが、一側面において、当該不妊症は、癒着後に生じる(特には癒着に起因する)不妊症、又は、腹腔内の炎症による不妊症であってよい。一実施態様において、本開示における不妊症はIL-8シグナルに応答性を示す。
【0133】
本明細書において、掌蹠膿疱症とは、限定を意図しないが、皮疹(膿疱)が手の平や足の裏に無数にできる疾患を指す。膿疱は、細菌やカビがいない無菌性のもので、好中球が皮膚の角質に溜まった状態で、IL-8が高濃度である(Skov et al, J Immunol 2008; 181:669-679)。長期間症状を繰り返し、慢性的に症状が現れる。掌蹠膿疱症を対象とした臨床試験で、抗IL-8抗体であるHuMab10F8を投与すると病態が改善した(Skov et al, J Immunol 2008; 181:669-679)。以上より、一実施態様において、本開示における掌蹠膿疱症はIL-8シグナルに応答性を示す。
【0134】
本明細書において、ANCA関連腎炎とは、ANCA(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:抗好中球細胞質抗体)が陽性の腎炎を指す。このうちANCA関連腎炎は、糸球体など腎臓の血管で炎症が起きる疾患で、典型的な病理学的所見は壊死性半月体形成性腎炎を示し、慢性化すると線維化が進み、糸球体が硬化し腎不全に至る。(エビデンスに基づく急速進行性腎炎症候群(RPGN)診療ガイドライン2014、Nature Review Rheumatology 10 (2014) 463)。ANCA関連腎炎では病変部でIL-8が高発現で、患者好中球はANCA処理によって遊走能が上昇し、抗IL-8抗体処理によって遊走能が抑制された(Cockwell et al, Kidney Int. 1999 Mar;55(3):852-63.)。一実施態様において、本開示におけるANCA関連腎炎はIL-8シグナルに応答性を示す。
【0135】
本明細書において、嚢胞性線維症とは、cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)の遺伝子変異を原因とする全身性の常染色体劣性遺伝性疾患である。気道内液、腸管内液、膵液などの全身の分泌液及び粘液が著しく粘稠となり、管腔が閉塞し感染し易くなり、胎便性イレウスや、膵臓が萎縮して膵外分泌不全による消化吸収不良、呼吸器感染を繰り返して呼吸不全などの症状が現れる。気道液や気管支肺胞洗浄液など病変部あるいはその周囲ではIL-8が高濃度であること(Marcos et al, Nat Med. 2010 Sep;16(9):1018-23、Khan et al, Am J Respir Crit Care Med. 1995 Apr;151(4):1075-82)、IL-8によって遊走される好中球が多く存在し、過度な炎症が続き好中球がelastaseなどの酵素産生やNETosisを起こすことで体液の粘性が高くなり症状が現れると考えられている(Cheng et al, Front Immunol. 2013 Jan 24;4:1.)。CXCR2阻害剤であるElubrixinの嚢胞線維症を対象とした臨床試験で局所への好中球の遊走抑制が観察された(J Cyst Fibros. 2013 May;12(3):241-8.)。IL- 8 pathwayの阻害によって好中球の遊走を阻害することで、酵素産生抑制およびNETosis抑制することで局所粘度が低下し、症状が緩和することが想定される。以上より、一実施態様において、本開示における嚢胞性線維症はIL-8シグナルに応答性を示す。
【0136】
本明細書において、乾癬とは、限定を意図しないが、炎症性疾患としても知られる。典型的にみられる症状は、銀色の鱗屑で覆われた境界明瞭な紅色の丘疹または局面である。よくみられる誘因として、外傷、感染、ある種の薬剤が挙げられる。通常、症状はほとんどなく、ときに軽度のかゆみがあるが、美容的な観点が主要な愁訴になることがある。疼痛のある関節炎を合併して重症になる人もいる。US2003/0077283A1には、抗IL-8中和抗体を用いた乾癬の局所療法が開示されている。また、Abcream(登録商標)の名前で抗IL-8中和抗体による感染の治療薬が販売されている。以上より、一実施態様において、本開示における乾癬はIL-8シグナルに応答性を示す。
【0137】
線維化の機序は、出血や疾患による傷害による炎症が引き金となり、IL-8を含むケモカインやサイトカインによって周囲組織から好中球や単球など免疫細胞が誘導され、さらにサイトカインやケモカインが産生されることによって筋線維芽細胞(あるいは線維化細胞)の活性化と増殖やコラーゲンなどの細胞外基質の過剰産生又は分解低下がおき、線維化が生じる。これは様々な臓器でおきる線維症で共通したことである(N Engl J Med 2015; 372:1138-1149March 19, 2015)。
本開示において、このような線維化を伴う疾患や状態を、その線維化の態様を捉えて、包括的に「線維化疾患」という。
カニクイザルin vivoモデルにおいて、IL-8シグナル阻害剤は免疫細胞の浸潤を抑制したこと、コラーゲン豊富なinterstitium部位が減少したこと(本実施例参照)に加えて、in vitroアッセイにおいて、IL-8シグナル阻害剤はMCP-1(マクロファージ遊走因子及び線維化促進因子として知られる。)などを産生する好中球の遊走阻害作用を示したことから、IL-8シグナル阻害剤は有望な線維化治療剤又は予防剤であることは上述の通りである。
加えて、実施例に示されるように、in vitro試験において様々な抗IL-8抗体が、線維化促進因子であるConnecting tissue growth factor(CTGF)の発現上昇を抑制した。この結果は、抗IL-8抗体等のIL-8シグナル阻害剤が線維化疾患に対する有望な治療剤又は予防剤であることを裏付けるものである。
【0138】
一実施態様において、本開示における子宮内膜症における癒着や線維化とは、子宮由来の組織が、子宮外(例えば、骨盤内臓器、腹腔内、又は胸腔内)に発生し増殖する過程で生じ得る。
【0139】
本明細書において、肝線維症とは、限定を意図しないが、ウイルス感染あるいは脂肪化などによる慢性炎症が引き金となり、肝臓でコラーゲンなど細胞外マトリックス(ECM)が過剰産生又は分解低下し、線維化する疾患を指す。肝線維症としては、例としてウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)など慢性的な炎症を原因とする肝硬変が挙げられる。
A型及びB型ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、原発性胆汁性肝硬変など慢性肝疾患においてIL-8が上昇すること(Mediators Inflamm. 2015;2015:276850)、慢性肝疾患で血中IL-8濃度が高く病態進行した患者では特に高いこと、受容体であるCXCR1の発現が単球で高いこと、IL-8が肝臓での炎症を強く亢進すること、これらの結果からIL-8の線維化進行への寄与が示唆された(PLoS One. 2011;6(6):e21381)と報告されている。
またNASH患者の血漿中IL-8濃度は線維化を伴った患者で有意に高かった(Gastroenterology. 2015 Sep;149(3):635-48.e14)ことから、IL-8と線維化との関連が示唆された。一実施態様において、本開示における肝線維症はIL-8シグナルに応答性を示す。
【0140】
本明細書において、腎線維症とは、限定を意図しないが、炎症が引き金となり腎臓でコラーゲンなど細胞外マトリックスが過剰産生又は分解低下し線維化する疾患を指す。腎線維症としては、例として慢性腎炎や糖尿病など慢性的な炎症を原因とする慢性腎臓病が挙げられる。慢性腎臓病が進行すると、その原因疾患によらず腎臓の線維化を来たし、一度生じた線維化は不可逆的で,腎臓に関しては透析導入や腎移植を迫られている。
腎線維芽細胞がIL-1を介してIL-8の産生を増強した(Kidney Int. 1995 Mar;47(3):845-54.)、MCP-1シグナルを抑制することで腎線維症が改善した(Kitagawa et al, Am J Pathol. 2004 Jul;165(1):237-46.)、ヒト線維細胞を用いて、糖尿病状態における活性化ならびに線維化機序を検討したところ、ヒト線維細胞は高血糖およびMCP-1/CCR2を介して糖尿病性腎症の進展に関与することが示唆された(Clin Exp Nephrol. 2013 Dec;17(6):793-804)などの報告がある。IL-8シグナル阻害剤はMCP-1を産生する好中球が病変部に遊走することを阻害する(本実施例参照)ので、MCP-1を介して腎線維症の進展を抑制、あるいは改善することが想起される。一実施態様において、本開示における腎線維症はIL-8シグナルに応答性を示す。
【0141】
本明細書において、肺線維症とは、限定を意図しないが、炎症が引き金となり肺又は気管支でコラーゲンなど細胞外マトリックスが過剰産生又は分解低下し線維化する疾患を指す。肺線維症としては、例として、慢性閉塞肺疾患(COPD)、気腫合併肺線維症(combined pulmonary fibrosis and emphysema; CPFE)、特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias: IIPs)や特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)が挙げられる。
【0142】
慢性閉塞肺疾患(COPD)とは、限定を意図しないが、タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患を指す(COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第4版)。慢性的な気道や肺の炎症により、肺胞の弾性低下や気管支内腔の狭窄が起き、肺への空気の流れが悪くなり気流閉塞などが起こるために、呼吸困難や慢性の咳、痰などが現れる。COPDでは患者痰中でIL-8が高く、好中球が多いこと、患者好中球遊走アッセイの走化性指数と肺機能FEV1/FVCに相関があることが報告されている(Yamamoto et al, Chest. 1997 Aug;112(2):505-10., Wu et al, PLoS One. 2015 May 11;10(5):)。またCXCR2阻害剤であるMK7123のCOPD患者を対象とした臨床試験では偽薬群で悪化するのに対して実薬群で肺機能(FEV1)が改善することが報告されている(Am J Respir Crit Care Med. 2015 May 1;191(9):1001-11.)。
【0143】
気腫合併肺線維症(combined pulmonary fibrosis and emphysema; CPFE)は限定を意図しないが、肺気腫という肺が壊れて拡がっていく病変と、肺線維症が合併した予後不良の疾患を指す(Cottin et al, Eur Respir J. 2005 Oct;26(4):586-93.)。CPFEでは患者気管支肺胞洗浄液中でIL-8が高いこと、気管支肺胞洗浄液中でIL-8濃度と胸部CTにおける気腫性病変を示す低濃度吸収値領域(LAA)が相関すること(Respirology. 2012 Jul;17(5):814-20.)、また胸部CTにおける気腫性病変を示すLAAと予後との相関を示す報告もある(Johannessen A, et al. Am J Respir Crit Care Med 2013; 187: 602-8)。
【0144】
IIPsとは原因を特定しえない種々の間質性肺炎の総称で、肺胞壁に炎症や損傷がおこり、肺胞壁が厚く硬く線維化し、ガス交換機能が低下する疾患である(特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 改訂第2版;Travis et al,Am J Respir Crit Care Med. 2013 Sep 15;188(6):733-48)。IPFはIIPsのうち頻度が高く最も治療が難しく、慢性かつ進行性の経過をたどり,高度の線維化が進行して不可逆性の蜂巣肺形成をきたす予後不良の肺疾患である(特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 改訂第2版;Raghu et al, Am J Respir Crit Care Med. 2011 Mar 15;183(6):788-824)。IPFでは、疾患患者の血清及び気管支肺胞洗浄液中IL-8が高値であること(Car et al, Am J Respir Crit Care Med 1994 ; 149 : 655-659, Ziegenhagen et al, Am J Respir Crit Care Med 1998 ; 157 : 762-768)、気管支肺胞洗浄液中でIL-8によって遊走する好中球が増加しており高値を示すものは予後不良である(Haslam et al, Thorax 1980; 35: 328-339, Turner-Warwick M et al, Am Rev Respir Dis 1987 ; 135 : 26-34)ことから、IL-8および好中球はIPFの病態に深く関与していることを示唆している。またIPF患者のIL-8にSNIPがあり局所IL-8が高濃度であること(Ahn et al, Respir Res. 2011 Jun 8;12:73)からも、IL-8が疾患の原因であることが推察される。一実施態様において、本開示における肺線維症、COPD、CPFE、IIPs又はIPFはIL-8シグナルに応答性を示す。
【0145】
さらなる又は別の実施態様において、本開示は、線維化因子の産生阻害における使用のためのIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)に関する。あるいは、本開示は、有効量のIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)を対象に投与することを含む、対象における線維化因子の産生阻害方法、又は、当該方法における使用のためのIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)に関する。あるいは、本開示は、有効量のIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)を含む、線維化因子の産生阻害のための医薬組成物に関する。あるいは、本開示は、線維化因子の産生阻害のための医薬の製造におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)の使用に関する。あるいは本開示は、線維化因子の産生阻害におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)の使用に関する。あるいは本開示は、IL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)と薬学的に許容される担体を混合する工程を含む、線維化因子の産生阻害のための医薬組成物の製造方法に関する。ある実施態様において、線維化因子としては、例えば、MCP-1(Monocyte Chemotactic Protein-1)が挙げられてよい。このような線維化因子の産生阻害は、例えば、好中球などの免疫細胞で生じてよい。
【0146】
さらなる又は別の実施態様において、本開示は、血管新生阻害における使用のためのIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)に関する。あるいは、本開示は、有効量のIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)を対象に投与することを含む、対象における血管新生阻害方法、又は、当該方法における使用のためのIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)に関する。あるいは、本開示は、有効量のIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)を含む、血管新生阻害のための医薬組成物に関する。あるいは、本開示は、血管新生阻害のための医薬の製造におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)の使用に関する。あるいは本開示は、血管新生阻害におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)の使用に関する。あるいは本開示は、IL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)と薬学的に許容される担体を混合する工程を含む、血管新生阻害のための医薬組成物の製造方法に関する。
【0147】
本実施例で見られたように、in vitro試験では、in vivo実験に使用した抗IL-8抗体に加えて、市販の抗IL-8抗体のみならずIL-8受容体の阻害剤を用いても好中球の遊走阻害を確認できた。このことは、本実施例のin vivoモデルでの知見を一般化、拡張して、IL-8シグナル阻害剤全般にまで拡張できることを当業者は当然に理解する。
【0148】
したがって、さらなる又は別の実施態様において、本開示は、免疫細胞のIL-8関連疾患の病変部又はその周辺環境への浸潤(ある側面において、遊走と言い換えられる場合もある)の抑制における使用のためのIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)に関する。あるいは、本開示は、有効量のIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)を対象に投与することを含む、対象における免疫細胞のIL-8関連疾患の病変部又はその周辺環境への浸潤の抑制方法、又は、当該方法における使用のためのIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)に関する。あるいは、本開示は、有効量のIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)を含む、免疫細胞のIL-8関連疾患の病変部又はその周辺環境への浸潤を抑制するための医薬組成物に関する。あるいは、本開示は、免疫細胞のIL-8関連疾患の病変部又はその周辺環境への浸潤を抑制するための医薬の製造におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)の使用に関する。あるいは本開示は、免疫細胞のIL-8関連疾患の病変部又はその周辺環境への浸潤の抑制におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)の使用に関する。あるいは本開示は、IL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)と薬学的に許容される担体を混合する工程を含む、免疫細胞のIL-8関連疾患の病変部又はその周辺環境への浸潤の抑制のための医薬組成物の製造方法に関する。
ある実施態様において、免疫細胞としては、例えば、好中球、マクロファージ、単球、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、樹状細胞、NK細胞などが挙げられ、限定は意図しないが、好中球、マクロファージ、単球が好ましい。免疫細胞のIL-8関連疾患の病変部への浸潤という場合、IL-8関連疾患は上述のいずれの疾患であってもよく、例えば、子宮内膜症、子宮腺筋症、月経困難症、癒着、線維化疾患などが挙げられ、このようなIL-8関連疾患の病変部(疾患部位)又はその近傍へ免疫細胞が浸潤又は遊走等することが企図されよう。また、免疫細胞のIL-8関連疾患の周辺環境への浸潤という場合、例えば子宮内膜症であれば、腹腔内や腹水への浸潤又は遊走等が企図されるであろうし、例えば肺線維症であれば、胸腔内や胸水への浸潤又は遊走等が企図されるであろうことが当業者には理解できる。
【0149】
さらなる又は別の実施態様において、本開示は、子宮内膜症又は子宮腺筋症の病変部のアロマターゼの産生阻害における使用のためのIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)に関する。あるいは、本開示は、有効量のIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)を対象に投与することを含む、対象におけるアロマターゼの産生阻害方法、又は、当該方法における使用のためのIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)に関する。あるいは、本開示は、有効量のIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)を含む、アロマターゼの産生阻害のための医薬組成物に関する。あるいは、本開示は、アロマターゼの産生阻害のための医薬の製造におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)の使用に関する。あるいは本開示は、子宮内膜症又は子宮腺筋症の病変部のアロマターゼの産生阻害におけるIL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)の使用に関する。あるいは本開示は、IL-8シグナル阻害剤(例えば抗IL-8抗体)と薬学的に許容される担体を混合する工程を含む、子宮内膜症又は子宮腺筋症の病変部のアロマターゼの産生阻害のための医薬組成物の製造方法に関する。
【0150】
本明細書に記載の一又は複数のあらゆる態様の一部又は全部を任意に組み合わせたものも、当業者の技術常識に基づいて技術的に矛盾しない限り、本開示に含まれることが当業者には当然に理解される。
【0151】
本明細書において引用された全ての先行技術文献は、当業者の技術常識を参照して本明細書に組み入れられる。
【0152】
本明細書において、「及び/又は」の用語の意義は、成句「及び/又は」の前後の用語の組合せであって、「及び」と「又は」が適宜組み合わされたあらゆる組合せを含むと理解される。
【0153】
第1の、第2の、第3の、第4の、・・・などの用語が種々の要素を表現するために用いられる場合、これらの要素はそれらの用語によって限定されるべきではないことが理解される。これらの用語は1つの要素を他の要素と区別するためのみに用いられているのであり、例えば、第一の要素を第二の要素と記し、同様に、第二の要素を第一の要素と記すことは、本開示の範囲を逸脱することなく可能であると理解される。
【0154】
本明細書で用いられる「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(The)」という単語は、他に具体的に指示がなく、文脈に矛盾しない限り、「少なくとも1つの」を意味する。
【0155】
本明細書で用いられる用語は、特定の実施態様を説明するために用いられ、本発明若しくは本開示を限定する意図として理解されてはならない。異なる定義が明示されていない限り、本明細書で用いられる用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、本開示が属する技術分野における当業者によって広く理解されるものと同じ意味を有するものとして解釈され、かつ、理想化され、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0156】
本明細書で用いられる用語「含む」は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、工程、要素、数字等)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、工程、要素、数字等)が存在することを排除しない。
【0157】
本開示の実施態様は模式図を参照しつつ説明される場合があるが、説明を明確にするために誇張されて表現される場合がある。
【0158】
本明細書に記載の数値は、文脈に反しない限り、当業者の技術常識に従って、一定の幅を有する値であると理解されてよい。例えば「1mg」の記載は「約1mg」と記載されているものと理解され、一定の変動量を包含するものとして理解される。また、本明細書において、例えば、「1~5個」と記載されている場合、文脈に反しない限り、「1個、2個、3個、4個、5個」と、それぞれの値が個別具体的に記載されているものと理解されてよい。
【実施例】
【0159】
〔実施例1〕血漿中滞留性改善のために酸性pH条件におけるFcRn結合を増大した新規Fc領域改変体の作製
細胞内に取り込まれたIgG抗体は、エンドソーム内の酸性pHの条件下において、FcRnに結合することにより血漿中に戻されることが知られている。そのため、IgG抗体は一般的に、FcRnに結合しないタンパク質に比べて、長い血漿中半減期を有している。その性質を利用し、抗体のFc領域にアミノ酸改変を導入することで、酸性pH条件におけるFcRnへの結合能(結合親和性)を増大し、抗体の血漿中滞留性を向上させる方法が既に知られている。具体的には、M252Y/S254T/T256E (YTE) 改変 (J Biol Chem 2006 281:23514-23524.)や、M428L/N434S (LS) 改変 (Nat Biotechnol, 2010 28:157-159.)、N434H改変(Clinical Pharmacology & Therapeutics (2011) 89(2):283-290.)などのアミノ酸改変により、酸性pH条件におけるFcRnへの結合能を増大し、抗体の血漿中滞留性を向上させる方法が知られている。
【0160】
一方で、上記のように、酸性pH条件におけるFcRnへの結合性を増大させたFc領域改変体は、リウマトイド因子(RF)への結合性を示すことも知られている(WO2013046704)。そこで、リウマトイド因子への結合を示さずに、血漿中滞留性を改善することが可能なFc領域改変体の作製を目指して、以下のような検討を実施した。
【0161】
(1-1)Fc領域新規Fc領域改変体を含む抗体の作製
酸性pH条件におけるFcRn結合能を増大させたFc領域改変体として、公知の改変であるYTE、LS及び N434Hと、新たに見出されたいくつかのFc領域改変体(F1847m、F1848m、F1886m、F1889m、F1927m、F1168m)を、以下に示すように作製した。
抗ヒトIL-6レセプター抗体であるFv4-IgG1の重鎖(VH3-IgG1m)のFc領域に、アミノ酸改変を導入した遺伝子を、参考実施例1の方法で作製した。これらの重鎖を用いて、参考実施例2の方法により、以下の抗体を作製した。
重鎖としてVH3-IgG1m(配列番号:2)、軽鎖としてVL3-CK(配列番号:110)からなるFv4-IgG1、
重鎖としてVH3-YTE(配列番号:3)、軽鎖としてVL3-CKからなるFv4-YTE、
重鎖としてVH3-LS(配列番号:4)、軽鎖としてVL3-CKからなるFv4-LS、
重鎖としてVH3-N434H(配列番号:5)、軽鎖としてVL3-CKからなるFv4-N434H、
重鎖としてVH3-F1847m(配列番号:6)、軽鎖としてVL3-CKからなるFv4-F1847m、
重鎖としてVH3-F1848m(配列番号:7)、軽鎖としてVL3-CKからなるFv4-F1848m、
重鎖としてVH3-F1886m(配列番号:8)、軽鎖としてVL3-CKからなるFv4-F1886m、
重鎖としてVH3-F1889m(配列番号:9)、軽鎖としてVL3-CKからなるFv4-F1889m、
重鎖としてVH3-F1927m(配列番号:10)、軽鎖としてVL3-CKからなるFv4-F1927m、
重鎖としてVH3-F1168m(配列番号:11)、軽鎖としてVL3-CKからなるFv4-F1168m
【0162】
(1-2)ヒトFcRnに対する結合の速度論的解析
重鎖としてVH3-IgG1mあるいは上記の改変体を含み、軽鎖としてL(WT)(配列番号:1)を含む抗体が参考実施例2に示した方法で作製され、下記のようにヒトFcRnに対する結合活性が評価された。
Biacore T100(GE Healthcare)を用いて、ヒトFcRnと各抗体との速度論的解析を行った。センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインL(ACTIGEN)を適当量固定化し、そこへ目的の抗体を捕捉させた。次に、FcRn希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトFcRnを相互作用させた。ランニングバッファーには50 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCl、0.05% (w/v) Tween20、pH6.0を用い、FcRnの希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH1.5が用いられた。測定は全て25 ℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka (1/Ms)、及び解離速度定数 kd (1/s)をもとに各抗体のヒトFcRnに対する KD (M) が算出された。各パラメーターの算出には Biacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
その結果を表2に示す。
【0163】
【0164】
〔実施例2〕酸性pH条件におけるFcRn結合を増大した新規Fc領域改変体を含む抗体のリウマトイド因子に対する結合性評価
抗医薬品抗体(ADA)は治療用抗体の効果及び薬物動態に影響を及ぼし、時に重篤な副作用をもたらすことがあるため、臨床における治療用抗体の有用性と薬効はADAの産生によって制限され得る。治療用抗体の免疫原性には、多くの要因が影響を及ぼすが、エフェクターT細胞エピトープの存在がその要因の1つである。加えて、治療用抗体の投与前から患者が有しているADA(「Pre-existing ADA」ともいう)の存在もまた、同様に問題があると考えられる。特に、関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患の患者に対する治療用抗体の場合、ヒトIgGに対する自己抗体であるリウマトイド因子(RF)が「Pre-existing ADA」の問題となり得る。最近、N434H(Asn434His)変異を有するヒト化抗CD4 IgG1抗体が顕著なリウマトイド因子結合を誘発することが報告された(Clin Pharmacol Ther. 2011 Feb;89(2):283-90)。詳細な研究により、ヒトIgG1におけるN434H変異が、親ヒトIgG1と比較して抗体のFc領域に対するリウマトイド因子の結合を増大することが確認された。
【0165】
リウマトイド因子はヒトIgGに対するポリクローナル自己抗体であり、ヒトIgG中のそれらのエピトープはクローンにより異なるが、それらのエピトープは、CH2/CH3界面領域中、及びFcRn結合エピトープと重複し得るCH3ドメイン中に位置するようである。そのため、FcRnに対する結合活性(結合親和性)を増大する変異は、リウマトイド因子の特定クローンに対する結合活性(結合親和性)を増大する可能性がある。
【0166】
実際に、酸性pHあるいは中性pHにおけるFcRnに対する結合性を増大したFcでは、N434H改変には限らず、それ以外の多くのアミノ酸改変によっても同様にリウマトイド因子への結合が増大することが知られている(WO2013/046704)。
一方で、同じくWO2013/046704の中で、FcRnに対する結合性には影響せずにリウマトイド因子への結合性を選択的に抑制するいくつかのアミノ酸改変が例示され、その中に2アミノ酸変異の組み合わせであるQ438R/S440E、Q438R/S440D、Q438K/S440E又はQ438K/S440Dが示されている。そこで、今回新たに作製された、酸性pH条件における結合能が増大されたFcに対しても、Q438R/S440Eを導入することでリウマトイド因子に対する結合性を低下することが可能かどうかを検証した。
【0167】
(2-1)新規Fc領域改変体を含む抗体のリウマトイド因子への結合試験
リウマトイド因子に対する結合アッセイは、30名のRA患者の個々の血清(Proteogenex)を用いて、pH 7.4における電気化学発光(ECL)により行った。50倍希釈した血清試料、ビオチン標識した各試験抗体(1μg/mL)、及びSULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)標識した各試験抗体(1μg/mL)を混合し、室温で3時間インキュベートした。その後、混合物をStreptavidinでコーティングされたMULTI-ARRAY 96ウェルプレート(Meso Scale Discovery)に加え、プレートを室温で2時間インキュベートし、洗浄した。Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を各ウェルに加えた後、直ちにプレートをSECTOR imager 2400 Reader(Meso Scale Discovery)にセットし、化学発光を測定した。
【0168】
この試験の結果を
図1から
図10に示す。天然ヒトIgG1を有するFv4-IgG1(
図1)は、弱いリウマトイド因子結合しか示さなかったのに対して、既存のFcRn結合増大Fc領域改変体であるFv4-YTE(
図2)、Fv4-LS(
図3)、Fv4-N434H(
図4)はいずれも、複数のドナーにおいてリウマトイド因子結合が有意に増大していた。一方で、新規のFcRn結合増大Fc領域改変体であるFv4-F1847m (
図5)、Fv4-F1848m (
図6)、Fv4-F1886m (
図7)、Fv4-F1889m (
図8)、Fv4-F1927m (
図9)、Fv4-F1168m (
図10)については、いずれも弱いリウマトイド因子結合しか示さず、FcRn結合増大改変によるリウマトイド因子結合を顕著に抑制できていることが示された。
また、
図11は、それぞれの改変体について、30名のRA患者の血液におけるリウマトイド因子への結合性の平均値を示したものである。6種類の新規の改変体はいずれも、3種の既存の改変体(YTE、LS、N434H)よりも低い結合性を示し、さらには天然型ヒトIgG1と比較しても、より低いリウマトイド因子への結合性を示した。以上のことから、関節リウマチなどの自己免疫疾患等について、FcRnに対する結合能が改善された治療用抗体の臨床開発を考慮する場合に、既存のFc領域改変体において懸念されるリウマトイド因子に関連するリスクは、今回新規に作製されたFc領域改変体においては抑制されており、より安全に使用可能であることが考えられる。
【0169】
〔実施例3〕酸性pH条件におけるFcRn結合を増大した新規Fc領域改変体の、カニクイザルにおけるPK評価
実施例3において、リウマトイド因子への結合が抑制されていることが確認された新規Fc領域改変体を含む抗体を用いて、カニクイザルにおける血漿中滞留性の改善効果を以下の方法で評価した。
【0170】
(3-1)新規Fc領域改変体を含む抗体の作製
以下の抗ヒトIgE抗体を作製した。
重鎖としてOHBH-IgG1(配列番号:12)、軽鎖としてOHBL-CK(配列番号:13)からなるOHB-IgG1、
重鎖としてOHBH-LS(配列番号:14)、軽鎖としてOHBL-CKからなるOHB-LS、
重鎖としてOHBH-N434A(配列番号:15)、軽鎖としてOHBL-CKからなるOHB-N434A
重鎖としてOHBH-F1847m(配列番号:16)、軽鎖としてOHBL-CKからなるOHB-F1847m、
重鎖としてOHBH-F1848m(配列番号:17)、軽鎖としてOHBL-CKからなるOHB-F1848m、
重鎖としてOHBH-F1886m(配列番号:18)、軽鎖としてOHBL-CKからなるOHB-F1886m、
重鎖としてOHBH-F1889m(配列番号:19)、軽鎖としてOHBL-CKからなるOHB-F1889m、
重鎖としてOHBH-F1927m(配列番号:20)、軽鎖としてOHBL-CKからなるOHB-F1927m
【0171】
(3-2)新規Fc領域改変体を含む抗体のサルPK試験
カニクイザルに抗ヒトIgE抗体を投与した後の、血漿中抗ヒトIgE抗体の体内動態を評価した。抗ヒトIgE抗体の溶液を2mg/kgで単回静脈内投与した。投与後5分、(2時間)、7時間、1日、2日、3日、(4日)、7日、14日、21日、28日、35日、42日、49日、56日で採血を行った。採取した血液はただちに4℃、15,000 rpmで5分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで、-80℃以下に設定された冷凍庫に保存した。抗ヒトIgE抗体としては、OHB-IgG1、OHB-LS、OHB-N434A、OHB-F1847m、OHB-F1848m、OHB-F1886m、OHB-F1889m、OHB-F1927mの8種類を使用した。
【0172】
(3-3)ELISA法による血漿中抗ヒトIgE抗体の濃度測定
カニクイザル血漿中の抗ヒトIgE抗体濃度はELISA法にて測定した。まず抗ヒトIgG kappa chain抗体(Antibody Solution)をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup (Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置し抗ヒトIgG kappa chain抗体固相化プレートを作製した。血漿中濃度として640、320、160、80、40、20、10 ng/mLの検量線試料と100倍以上希釈したカニクイザル血漿測定試料を調製した。これら検量線試料及び血漿測定試料にはカニクイザルIgE (社内調製品)が1 μg/mlの濃度で添加されるように作製された。その後、抗ヒトIgG kappa chain抗体固相化プレートに分注し室温で2時間静置した。その後HRP-抗ヒトIgG gamma chain抗体(Southern Biotech)を分注し室温で1時間静置した。その後、TMB Chromogen Solution (Life Technologies)を基質として用い発色反応を行い、1N-Sulfuric acid(Wako)で反応停止後、マイクロプレートリーダーにて450 nmの吸光度を測定した。サル血漿中抗ヒトIgE抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。測定したサル血漿中抗ヒトIgE抗体の濃度推移は
図12に示した。また測定したサル血漿中抗ヒトIgE抗体の濃度推移からPhoenix WinNonlin Ver.6.2(Pharsight Corporation)を用いてモーメント解析により消失クリアランスを算出した。算出した薬物動態学的パラメータは表3に示した。血漿中抗投与検体抗体が陽性を示した個体はサル血漿中抗ヒトIgE抗体の濃度推移及びクリアランスの算出から除外した。
【0173】
【0174】
(3-4)電気化学発光法による血漿中抗投与検体抗体の測定
サルの血漿中抗投与検体抗体は電気化学発光法にて測定した。SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化した投与検体、EZ-Link Micro Sulfo-NHS-Biotinylation Kit(Pierce)でビオチン化した投与検体及びカニクイザル血漿測定試料を等量混合し、4℃で1晩静置した。MULTI-ARRAY 96-well Streptavidin Gold Plate (Meso Scale Discovery)に試料を添加後室温で2時間反応させ洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR Imager 2400(Meso Scale Discovery)で測定を行った。
【0175】
結果、新規Fc領域改変体はいずれも、天然型IgG1の場合と比較して、大幅な血漿中滞留性の改善が確認された。
【0176】
(3-5)Fc領域改変体のマウスPK試験
酸性pHにおけるFcRn結合増大のためのFc領域改変体として、WO2013/046704に記載のFc領域改変体であるF1718と、今回新規に見出されたFc領域改変体であるF1848mを比較するために、以下のような実験を実施した。
【0177】
抗ヒトIL-6レセプター抗体であるFv4-IgG1の重鎖(VH3-IgG1)のFc領域に、アミノ酸改変を導入した遺伝子を、参考実施例1の方法で作製した。これらの重鎖を用いて、参考実施例2の方法により、以下の抗体を作製した。
重鎖としてVH3-IgG1、軽鎖としてVL3-CKからなるFv4-IgG1、
重鎖としてVH3-F1718(配列番号:21)、軽鎖としてVL3-CKからなるFv4-F1718
【0178】
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)の尾静脈に、上記抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0179】
(3-6)ELISA法による血漿中抗ヒトIL-6レセプター抗体の濃度測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体の濃度はELISA法にて測定された。まず、Anti-Human IgG(gamma-chain specific)F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup (Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作製された。血漿中濃度として0.8、0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125μg/mLの抗ヒトIL-6レセプター抗体を含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が調製された。これらの検量線試料及び血漿測定試料100μLに20 ng/mLの可溶型ヒトIL-6レセプターが200μL加えられた混合液を、室温で1時間静置させた。その後、当該混合液が各ウェルに分注されたAnti-Human IgG固相化プレートをさらに室温で1時間静置させた。その後、Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)と室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を室温で1時間反応させた反応液の発色反応が、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて行われた。1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中の抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
【0180】
結果を
図13に示す。WO2013/046704に記載のある、酸性pHにおけるFcRn結合増大のためのFc領域改変体であるF1718は、抗体PKの延長効果を示さず、天然型IgG1の場合と同等の血漿中滞留性を示した。
ここで、WO2013/046704に記載のF1718には、Fc領域にN434Y/Y436V/Q438R/ S440Eという4か所の変異が導入されている。一方で、今回新たに見出されたF1848mには、N434A/Y436V/Q438R/S440Eという4か所の変異が導入されている。これら二種類のFcに導入されているアミノ酸変異の違いは、EUナンバリング434番に導入されているアミノ酸変異が、F1718はY(チロシン)であり、F1848mはA(アラニン)であるという点のみである。実施例(3-2)において、F1848mは天然型IgG1の場合に比べて血漿中滞留性の向上が認められた一方で、F1718は血漿中滞留性の向上が認められなかった。このことから、特に限定されるわけではないが、血漿中滞留性の向上のために用いられるアミノ酸変異として、434番目に導入されるアミノ酸変異としては、A(アラニン)が好ましいことが示唆される。
【0181】
〔実施例4〕ヒト化抗ヒトIL-8抗体の作製
(4-1)ヒト化抗ヒトIL-8抗体hWS-4の作製
US6245894 (WO1996/002576)の中で開示されているヒト化抗IL-8抗体は、ヒトIL-8(以下、hIL-8とも表記する)と結合することにより、その生理作用を遮断する。ヒト化抗IL-8抗体は、US6245894に開示されている重鎖及び軽鎖の可変領域配列と、任意のヒト抗体の定常領域配列を組み合わせて作成可能である。ヒト抗体の定常領域配列としては、特に限定はされないが、重鎖定常領域として天然型ヒトIgG1配列又は天然型ヒトIgG4配列、軽鎖定常領域配列として天然型ヒトKappa配列を用いることができる。
ここで、US6245894の中で開示されているヒト化IL-8抗体のうち、重鎖可変領域RVHgと、重鎖定常領域として天然型ヒト抗IgG1配列を組み合わせたhWS4H-IgG1(配列番号:39)の遺伝子を、参考実施例1の方法で作成した。更に、軽鎖可変領域RVLaと、軽鎖定常領域として天然型ヒトKappa配列を組み合わせたhWS4L-k0MT(配列番号:40)の遺伝子を、参考実施例1の方法で作成した。上記の重鎖及び軽鎖を組み合わせた抗体を作製し、ヒト化WS-4抗体(以下、hWS-4)とした。
【0182】
(4-2)ヒト化抗ヒトIL-8抗体Hr9の作製
hWS-4で使用されているFRとは異なるヒトコンセンサスフレームワーク配列を用いて、新たなヒト化抗体を作製した。
具体的には、重鎖のFR1としてVH3-23とVH3-64のハイブリッド配列、FR2としてVH3-15やVH3-49などに見られる配列、FR3としてVH3-72に見られる配列(ただしKabatナンバリング82aを除く)、FR4としてはJH1などに見られる配列を用いて、これらをhWS-4重鎖のCDR配列と連結し、新規のヒト化抗体の重鎖であるHr9-IgG1(配列番号:41)を作製した。
次に、重鎖としてhWS4H-IgG1、軽鎖としてhWS4L-k0MTを有するhWS-4と、重鎖としてHr9-IgG1、軽鎖としてhWS4L-k0MTを有するHr9の2種類の抗体を作製した。なお、本開示において、特に軽鎖を明記したい場合においては、Hr9(その重鎖可変領域の配列を配列番号:33に示す。)はHr9/hWS4Lとも表記される。抗体は、FreeStyle 293F細胞(Invitrogen)を用いて、製品に添付のプロトコールに従い発現させた。培養上清からの抗体の精製は参考実施例2の方法で行った。その結果、表4に示す量の抗体が取得された。驚くべきことに、Hr9の発現量は、hWS-4の発現量に比べて約8倍であった。
【0183】
【0184】
(4-3)hWS-4及びHr9のヒトIL-8結合活性
hWS-4及びHr9のヒトIL-8への結合親和性を、Biacore T200(GE Healthcare)を用いて以下の通り測定した。
ランニングバッファーは、0.05% tween20, 20 mM ACES, 150 mM NaCl(pH 7.4)の組成のものを用いた。
センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインA/G(PEIRCE)を適当量固定化し、そこへ目的の抗体を捕捉させた。次に、ヒトIL-8希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトIL-8を相互作用させた。なお、ランニングバッファーは上記の組成の溶液が用いられ、ヒトIL-8の希釈にも当バッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH 1.5が用いられた。測定は全て37 ℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである結合速度定数 kon (1/Ms)、及び解離速度定数 koff (1/s)をもとに各抗体のヒトIL-8に対する KD (M) が算出された。各パラメーターの算出には Biacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
結果を表5に示す。hWS-4とHr9は、ヒトIL-8に対して同等の結合親和性を有することが確認された。
【0185】
【0186】
抗体医薬品の開発において、抗体分子の産生量は重要な因子であり、一般に高い産生量が望ましい。上記の検討により、hWS-4のHVR配列と組み合わせるべき、より適切なヒトコンセンサスフレームワーク由来の配列が選択され、ヒトIL-8に対する結合親和性を維持したままで産生量が改善されたHr9が得られたことは特筆すべき点である。
【0187】
〔実施例5〕pH依存的IL-8結合能を有する抗体の取得
(5-1)pH依存性付与のためのHr9改変抗体の作製
実施例4で得られたHr9に対してpH依存的IL-8結合能を付与することを目的として、検討を行った。
特定の理論に拘束されるわけではないが、IL-8に対するpH依存的結合能を有する抗体は、生体内において次のような挙動を示すと考え得る。生体に投与された当該抗体は、中性pHに維持されている環境(例えば血漿中)において、IL-8に対して強く結合し、その機能を遮断することができる。このようなIL-8と抗体の複合体の一部は、細胞膜との非特異的な相互作用(ピノサイトーシス)によって細胞内へと取り込まれる(以下、非特異的な取り込みという)。エンドソーム内の酸性pHの条件下においては、前記抗体のIL-8に対する結合親和性が弱まるため、前記抗体はIL-8を解離する。その後、IL-8を解離した前記抗体は、FcRnを介して細胞外に戻ってくることができる。このように細胞外(血漿中)に戻ってきた前記抗体は、再度別のIL-8に結合し、その機能を遮断することが可能である。IL-8に対してpH依存的結合能を有する抗体は、上記のようなメカニズムによっても、IL-8に対して複数回結合することが可能になると考え得る。
一方、前記抗体のような性質を有さない抗体の場合、1分子の抗体は1度だけ抗原を中和することが可能であり、抗原を複数回中和することはできない。通常、IgG抗体は2つのFabを有するため、1つの抗体分子は2分子のIL-8を中和できる。一方、IL-8に複数回結合することができる抗体は、生体内に滞留している限り、何度でもIL-8に結合することができる。例えば、投与されてから消失するまでの間に、細胞内に10回取り込まれたpH依存的IL-8結合抗体は、1分子でも最大で20分子のIL-8を中和することが可能である。そのため、複数回IL-8に結合できる抗体は、より少ない抗体量であっても、多くのIL-8を中和することができるという利点を有する。別の観点では、複数回IL-8に結合できる抗体は、同じ量の抗体を投与した場合に、より長期間にわたってIL-8を中和することが可能な状態を維持できるという利点を有する。また、さらに別の観点からは、複数回IL-8に結合できる抗体は、同じ量の抗体を投与した場合に、より強くIL-8の生物学的活性を遮断することができるという利点を有する。
これらの利点を実現するために、複数回IL-8に結合できる抗体を創製することを目的として、Hr9-IgG1及びWS4L-k0MTの可変領域に対して、ヒスチジンを中心としたアミノ酸改変を導入した。具体的には、表6に示す改変体を参考実施例1及び2の方法で作製した。
なお、表6において示されている「Y97H」のような表記は、Kabatナンバリングにより定義される変異導入箇所と、変異導入前のアミノ酸、変異導入後のアミノ酸を表したものである。具体的には、「Y97H」と表記した場合、Kabatナンバリング97番のアミノ酸残基を、Y(チロシン)からH(ヒスチジン)に置換したことを表している。更に、複数のアミノ酸置換を組み合わせて導入した場合には、「N50H/L54H」のように記載する。
【0188】
【0189】
(5-2)pH依存的IL-8結合能
実施例5-1で作成された抗体のヒトIL-8結合親和性を、Biacore T200(GE Healthcare)を用いて以下の通り測定した。 ランニングバッファーは以下の2種を用いた。
・0.05% tween20, 20 mM ACES, 150 mM NaCl, pH 7.4
・0.05% tween20, 20 mM ACES, 150 mM NaCl, pH 5.8
センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインA/G(PIERCE)を適当量固定化し、そこへ目的の抗体を捕捉させた。次に、ヒトIL-8希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトIL-8を相互作用させた。なお、ランニングバッファーは上記のいずれかが用いられ、ヒトIL-8の希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH 1.5が用いられた。測定は全て37 ℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである結合速度定数 kon (1/Ms)、及び解離速度定数 koff (1/s)をもとに各抗体のヒトIL-8に対する KD (M) が算出された。各パラメーターの算出には Biacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
結果を表7に示す。まず、軽鎖にL54H改変を含むHr9/L16は、中性pH(pH7.4)におけるヒトIL-8結合親和性がHr9よりやや増強している一方で、酸性pH(pH5.8)におけるヒトIL-8結合親和性が低下していた。一方で、重鎖にY97H改変を含むH89と各種軽鎖とを組み合わせた抗IL-8抗体(H89/WS4L、H89/L12、及びH89/L16)はいずれも、酸性pHにおけるヒトIL-8結合親和性は低下していると同時に、中性pHにおけるヒトIL-8結合親和性も低下していた。
【0190】
【0191】
(5-3)pH依存性付与のためのさらなる改変抗体の作製と評価
そこで次に、5-2で見いだされた有望な改変の組み合わせと、新たなアミノ酸変異の探索を行い、その結果、以下の組み合わせが見いだされた。
【0192】
【0193】
これらの改変体を参考実施例1及び2の方法で作成し、実施例5-2と同様の方法でヒトIL-8に対する結合親和性を評価した。
その結果を表7に併せて記した。重鎖としてH89-IgG1(配列番号:42)、軽鎖としてL63-k0MT(配列番号:43)を有するH89/L63は、中性pH(pH7.4)におけるヒトIL-8結合親和性がHr9と同等のまま、酸性pH(pH5.8)におけるヒトIL-8結合親和性が低下していた。具体的には、H89/L63は、pH5.8におけるkoff(解離速度定数)及びKD(解離定数)の両方が、Hr9よりも大きくなっていた。このことは、エンドソーム内の酸性pH条件下において、H89/L63はヒトIL-8を解離しやすい性質を有していることを意味している。
更に、驚くべきことに、重鎖としてH89-IgG1、軽鎖としてL118-k0MT(配列番号:44)を有するH89/L118は、中性pH条件におけるヒトIL-8結合親和性(KD)はHr9よりも増強しているのに対し、酸性pH条件におけるヒトIL-8結合親和性(KD)はHr9よりも減弱していた。特に限定はされないが、一般的に抗原に複数回結合できる抗体を医薬品として使用する際には、pH依存的抗原結合抗体は、中性pH条件下(例えば、血漿中)で抗原を強く中和することが可能なように、強い結合親和性を持つ(KDが小さい)ことが好ましい。一方で、酸性pH条件下(例えば、エンドソーム内)で、抗原を速やかに解離することが可能なように、解離速度定数(koff)が大きいこと、及び/又は弱い結合親和性を持つ(KDが大きい)ことが好ましい。H89/L118は、これら中性pHと酸性pHのいずれにおいても、Hr9と比較して好ましい性質を獲得していた。
即ち、Hr9の重鎖に対してY97H、軽鎖に対してN50H/L54H/Q89Kといった有用なアミノ酸改変が見いだされた。特に限定されることはないが、これらの中から選ばれるアミノ酸改変を単独、あるいは複数組み合わせて導入することによっても、医薬品として優れたpH依存的IL-8結合抗体が作製可能であることが示された。
特定の理論に拘束されることはないが、pH依存的抗原結合抗体を医薬品として利用する際に重要な点は、生体内に投与された抗体が、エンドソーム内において抗原を解離することができるかどうかであると考えられる。そのためには酸性pH条件下において、十分に結合が弱い(解離定数;KDが大きい)こと、又は十分に解離速度が速い(解離速度定数;koffが大きい)こと、が重要であると考えられる。そこで、Biacoreにより得られたH89/L118のKD又はkoffが、生体内のエンドソーム内において抗原を解離するために十分なものかどうかを、次に示す実験で検証した。
【0194】
〔実施例6〕マウスPK試験のための高親和性抗体の作製
抗体による、ヒトIL-8の消失速度への効果をマウスにおいて確認する方法としては、特に限定はされないが、例えば、抗体をヒトIL-8と混合した状態でマウスに投与し、その後のマウス血漿中からのヒトIL-8の消失速度を比較する方法がある。
ここで、マウスのPK試験に用いるための参照抗体は、中性pH及び酸性pHの条件下において、いずれも十分に強い結合親和性を持つことが望ましい。そこで、Hr9に対して高親和性を付与する改変を探索した結果、重鎖としてH998-IgG1(配列番号:45)、軽鎖としてL63-k0MTを有するH998/L63が創製された。
H998/L63を用いて、ヒトIL-8の結合親和性を実施例5-2と同様の方法で評価した。結果として得られたセンサーグラムを
図14に示す。
H998/L63は、中性pHと酸性pHのいずれの条件においても、著しく解離速度が遅く、Hr9よりも強いIL-8結合親和性を有することが示された。ただし、Biacoreの装置上の限界から、このように解離速度が遅いタンパク質-タンパク質間相互作用の場合、解離速度定数(koff)、解離定数(KD)などの解析値を正確に算出することができないことが知られている。H998/L63においても、正確な解析値を取得することができなかったため、ここでは解析値を示していない。しかしながら、当実験の結果から、H998/L63が中性と酸性のいずれのpHにおいても非常に強い結合親和性を有しており、マウスPK試験における比較対象として用いる抗体として適切であることが確認された。
【0195】
〔実施例7〕pH依存的IL-8結合抗体H89/L118を用いたマウスPK試験
(7-1)H89/L118を用いたマウスPK試験
実施例5で作成したH89/L118と、実施例6で作成したH998/L63を用いて、in vivoでのヒトIL-8消失速度の評価を実施した。
マウス(C57BL/6J、Charles river)に、ヒトIL-8と、抗ヒトIL-8抗体を同時に投与した後のヒトIL-8の体内動態を評価した。ヒトIL-8、抗ヒトIL-8抗体の混合溶液(それぞれ10 μg/mL, 200 μg/mL)を尾静脈に10 mL/kgで単回投与した。このとき、ヒトIL-8に対して抗ヒトIL-8抗体は十分量過剰に存在することから、ヒトIL-8はほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与5分後、2時間後、4時間後、7時間後、1日後、2日後、3日後、7日後、14日後、21日後、28日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
【0196】
(7-2)血漿中のヒトIL-8濃度の測定
マウス血漿中のヒトIL-8濃度は電気化学発光法にて測定された。まず、マウスIgGの定常領域を有する抗ヒトIL-8抗体(社内調製品)を、MULTI-ARRAY 96-well Plate(Meso Scale Discovery)に分注し、室温で1時間静置した後に、5%BSA(w/v)を含有したPBS-Tween溶液を用いて室温で2時間ブロッキングすることによって抗ヒトIL-8抗体固相化プレートが作成された。血漿中濃度として275、91.7、30.6、10.2、3.40、1.13、0.377 ng/mLのヒトIL-8を含む検量線試料と25倍以上に希釈されたマウス血漿測定試料が調製され、hWS-4と混合させてから37℃で1晩反応させた後、抗ヒトIL-8抗体固相化プレートの各ウェルに50 μLで分注されてから、室温で1時間撹拌させた。hWS-4の終濃度は25 μg/mLとなるよう調製された。その後、Biotin Mouse Anti-Human Ig k Light Chain (BD Pharmingen)を室温で1時間反応させ、さらにSULFO-TAG Labeled Streptavidin(Meso Scale Discovery)を室温で1時間反応させた後、Read Buffer T(×1)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR Imager 2400(Meso Scale Discovery)で測定を行った。ヒトIL-8濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFT Max PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。
結果として得られた、血漿中ヒトIL-8濃度のデータを
図15に、またマウス血漿中からのヒトIL-8クリアランス(CL)の数値を表8に示す。
【0197】
【0198】
図15において明らかなように、H998/L63と同時に投与されたヒトIL-8と比べて、H89/L118と同時に投与されたヒトIL-8は、マウス血漿中からの消失が顕著に早いことが示された。また、マウス血漿中からのヒトIL-8消失速度を定量的に表しているCLの数値からは、H89/L118は、H998/L63と比較して、ヒトIL-8の消失速度を19倍程度に増加させていることが示された。
特定の理論に拘束されるわけではないが、今回得られたデータから、次のように考察することも可能である。抗体と同時に投与されたヒトIL-8は、血漿中において大部分が抗体と結合し、複合体状態で存在する。H998/L63と結合したヒトIL-8は、酸性pH条件下であるエンドソーム内においても、強い親和性により抗体と結合した状態で存在する。その後、H998/L63は、ヒトIL-8との複合体を形成したままの状態でFcRnを介して血漿中に戻されるため、その際にヒトIL-8も同時に血漿中に戻されることになる。そのため、細胞内に取り込まれたヒトIL-8のうちの大部分は、再び血漿中へと戻ってくることになる。つまり、ヒトIL-8の血漿中からの消失速度は、H998/L63と同時に投与することにより、顕著に低下する。一方で、先述の通り、pH依存的IL-8結合抗体であるH89/L118と複合体を形成した状態で細胞内に取り込まれたヒトIL-8は、エンドソーム内の酸性pH条件下において、抗体から解離する。抗体から解離したヒトIL-8は、ライソソームに移行して分解される。そのため、pH依存的IL-8結合抗体は、H998/L63のような、酸性pH及び中性pHで共に強い結合親和性を有するIL-8結合抗体と比較して、顕著にヒトIL-8の消失を早めることが可能である。
【0199】
(7-3)H89/L118の投与量を増加させたマウスPK試験
次に、H89/L118の投与量を変化させた場合の影響を検証する実験を、以下のように実施した。マウス(C57BL/6J、Charles river)に、ヒトIL-8と、H89/L118(2 mg/kgあるいは8 mg/kg)を同時に投与した後のヒトIL-8の体内動態を評価した。ヒトIL-8(2.5 μg/mL)、抗ヒトIL-8抗体(200 μg/mL又は800 μg/mL)の混合溶液を尾静脈に10 mL/kgで単回投与した。このとき、ヒトIL-8に対して抗ヒトIL-8抗体は十分量過剰に存在することから、ヒトIL-8はほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与5分後、7時間後、1日後、2日後、3日後、7日後、14日後、21日後、28日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
マウス血漿中のヒトIL-8濃度測定は、実施例7-2と同様の方法で実施した。結果として得られた、血漿中ヒトIL-8濃度のデータを
図16に、またマウス血漿中からのヒトIL-8クリアランス(CL)の数値を表9に示す。
【0200】
【0201】
結果として、H89/L118を2 mg/kgで投与した群と比べて、8 mg/kgの抗体を投与した群は、ヒトIL-8の消失速度が2倍程度に遅くなることが確認された。
以下、理論に拘束されることは意図しないが前記の結果をもたらす可能性がある要因の一つを推察した内容を記述する。
エンドソーム内からFcRnを介して血漿中に戻される抗体のうち、ヒトIL-8が結合しているものの割合は低い方が好ましい。一方、エンドソーム内に存在するヒトIL-8に着目すると、こちらは抗体と結合していないフリー型の割合が高いことが望ましい。pH依存的IL-8結合能を有さない抗体と一緒に投与された場合は、エンドソーム内において、大部分の(100%に近い)ヒトIL-8は抗体と複合体を形成した状態で存在すると考えられ、フリー型は少ない(0%に近い)と考えられる。一方で、pH依存的IL-8結合抗体(例えばH89/L118)と一緒に投与された場合は、エンドソーム内において、ある程度の割合のヒトIL-8はフリー型として存在しているはずである。この際のフリー型の割合は、仮想的にではあるが、以下のように理解することも可能である。
[エンドソーム内におけるフリー型ヒトIL-8の割合(%)]=[エンドソーム内のフリー型ヒトIL-8濃度]÷[エンドソーム内の全ヒトIL-8濃度]×100
上式のように理解される、エンドソーム内におけるフリー型ヒトIL-8の割合は、より高い方が望ましく、例えば0%よりは20%が好ましく、20%よりは40%が好ましく、40%よりは60%が好ましく、60%よりは80%が好ましく、80%よりは100%が好ましい。
上記のようなエンドソーム内におけるフリー型ヒトIL-8の割合と、酸性pHにおけるヒトIL-8に対する結合親和性(KD)及び/又は解離速度定数(koff)には、相関があると考えるのが理に適っている。つまり、酸性pHにおけるヒトIL-8への結合親和性が弱いほど、及び/又は解離速度が速いほど、エンドソーム内においてフリー型ヒトIL-8の割合が増加するはずである。しかしながら、エンドソーム内におけるフリー型ヒトIL-8の割合が既に100%に近くなっているpH依存的IL-8結合抗体においては、それ以上に酸性pHにおける結合親和性を弱めること、及び/又は解離速度を速めることは、必ずしもフリー型ヒトIL-8の割合を効果的に増加させることにはつながらない。例えば、フリー型ヒトIL-8の割合を、99.9%の状態から99.99%に改善したとしても、その改善の度合いは顕著なものではないであろうことは容易に理解できる。
また、一般的な化学平衡の理論に則ると、抗IL-8抗体とヒトIL-8が共存し、それらの結合反応と解離反応が平衡状態に達している場合において、フリー型ヒトIL-8の割合は、抗体濃度と抗原濃度、解離定数(KD)の3者によって一義的に決定される。ここで、抗体濃度が高い場合、抗原濃度が高い場合、又は解離定数(KD)が小さい場合には、複合体の形成がされやすくなり、フリー型ヒトIL-8の割合は低下する。一方で、抗体濃度が低い場合、抗原濃度が低い場合、又は解離定数(KD)が大きい場合には、複合体の形成がされにくくなり、フリー型ヒトIL-8の割合は増加する。
ここで、今回の試験において、H89/L118を8 mg/kg投与した場合のヒトIL-8の消失速度は、2 mg/kgの抗体を投与した場合に比べて遅くなっていた。これはつまり、エンドソーム内において、8 mg/kgの抗体を投与した場合のフリー型ヒトIL-8の割合が、2 mg/kgの抗体を投与した場合に比べ低下したことを示唆している。その理由は、抗体の投与量を4倍に増加させたことにより、エンドソーム内の抗体濃度が増加し、エンドソーム内でのIL-8と抗体の複合体の形成がされやすくなったためだと推察される。つまり、抗体の投与量を増加させた投与群においては、エンドソーム内のフリー型ヒトIL-8の割合が低下したため、ヒトIL-8の消失速度が低下したと考えられる。これはまた、8 mg/kgの抗体投与時には、H89/L118の酸性pH条件下における解離定数(KD)の大きさが、フリー型ヒトIL-8を100%近くにするためには不十分であることを示唆している。すなわち、酸性pH条件下において、より大きな解離定数(KD)を有する(より結合が弱い)抗体であれば、8 mg/kgの抗体を投与した場合においても、フリー型IL-8の割合が100%に近い状態を実現し、2 mg/kgの抗体を投与した場合と同等のヒトIL-8消失速度を示すと考えられる。
以上のことから、目的のpH依存的IL-8結合抗体が、上記のようなフリー型ヒトIL-8の割合を100%近くまで達成できているかどうかを確認するためには、特に限定はされないが、in vivoにおける抗原消失効果の程度を上昇させる余地があるかどうかを検証することによっても可能である。例えば、H89/L118以上に酸性pHにおける結合親和性を弱めた、及び/又は酸性pHにおける解離速度を速めた新たなpH依存的IL-8抗体を用いたときのヒトIL-8消失速度を、H89/L118用いたときのIL-8消失速度と比較するという方法がある。前記の新たなpH依存的IL-8抗体が、H89/L118と同等のヒトIL-8消失速度を示した場合、H89/L118の酸性pHにおける結合親和性及び/又は解離速度は、エンドソーム内においてフリー型ヒトIL-8の割合を100%近くにするために既に十分なレベルにあることを示唆していると言える。一方で、前記の新たなpH依存的IL-8抗体の方が、より高いヒトIL-8消失速度を示した場合、H89/L118の酸性pHにおける結合親和性及び/又は解離速度は、改善の余地があることを示唆していると言える。
【0202】
〔実施例8〕pH依存的IL-8結合抗体H553/L118の作製と評価
(8-1)pH依存的IL-8結合能を有する新たなH553/L118の作製
そこで、H89/L118よりもさらに、酸性pH条件下におけるヒトIL-8結合親和性を弱め、及び/又は解離速度を速めた抗体の作製を試みた。
H89/L118を基にして、ヒスチジンを中心としたアミノ酸改変を導入し、表10に示す改変抗体を実施例5と同様の方法で作製した。また、実施例5-2と同様の方法で、これらの抗体のヒトIL-8結合親和性を測定した。
結果の一部を表10に示す。重鎖としてH553-IgG1(配列番号:46)、軽鎖としてL118-k0MTを有するH553/L118と、重鎖としてH496-IgG1(配列番号:57)、軽鎖としてL118-k0MTを有するH496/L118が、H89/L118よりも更にpH依存性が増大していることが示された。
【0203】
【0204】
ここで、取得されたH553/L118は、H89/L118の重鎖に対してY55HとR57Pという2種類のアミノ酸改変が導入されている。一方、H89/L118の重鎖に対してR57Pのみが導入されているH496/L118は、H89/L118と比較すると中性pHにおけるヒトIL-8結合親和性は増強しているが、酸性pHにおけるヒトIL-8結合親和性はほとんど変化していない。つまり、H89/L118に導入されたR57P改変は、酸性pHにおけるヒトIL-8結合親和性は変化させずに、中性pHにおける結合親和性のみを増強する改変である。更に、H496/L118の重鎖に対してY55H改変が導入されたH553/L118は、H89/L118と比較すると、中性pHにおける結合親和性は維持あるいは若干増強している一方で、酸性pHにおける結合親和性は低下していた。即ち、Y55HとR57Pという2種類のアミノ酸改変を組み合わせてH89/L118へ導入することは、中性pHにおける結合親和性は維持あるいは若干増強しつつ、酸性pHにおける結合親和性は低下させるという性質をより一層増強することを可能とした。
【0205】
(8-2)H553/L118を用いたマウスPK試験
H553/L118を用いて、マウスにおけるヒトIL-8消失速度の評価を、実施例7-2と同様の方法で実施した。結果として得られた、血漿中ヒトIL-8濃度のデータを
図17に、またマウス血漿中からのヒトIL-8クリアランス(CL)の数値を表11に示す。
【0206】
【0207】
結果として、2 mg/kgの抗体を投与した群の比較においては、H553/L118とH89/L118の間で大きな差は見られなかったが、8 mg/kgの抗体を投与した群の比較においては、H553/L118は、H89/L118と比べて、2.5倍程度にヒトIL-8の消失を早めていることが確認された。別の観点からは、H553/L118は、2 mg/kgと8 mg/kgの比較において、ヒトIL-8消失速度の差が見られず、H89/L118で見られたような抗体の投与量を増加させた際の抗原消失速度の低下は見られなかった。
特に限定はされないが、このような結果が得られた理由の一つとして、次のように考察することも可能である。
H553/L118は、2 mg/kgの抗体を投与した場合と8 mg/kgの抗体を投与した場合とで同等のヒトIL-8消失速度を示していた。これは、H553/L118は酸性pHにおけるIL-8結合が十分に弱いために、8 mg/kg投与の条件においても、エンドソーム内のフリー型IL-8の割合を100%に近いレベルで達成していることを示している。つまり、H89/L118は、2 mg/kg程度の用量においては、最大限のヒトIL-8消失効果を達成することが可能だが、8 mg/kg程度の高用量になると、その効果は減弱してしまう可能性を示唆している。一方、H553/L118は、8 mg/kg程度の高用量においてもなお、最大限のヒトIL-8消失効果を達成することが可能である。
【0208】
(8-3)H553/L118を用いた安定性評価
H553/L118は、マウスにおいて顕著にH89/L118よりもヒトIL-8の消失を早めることが可能な抗体であることが示された。一方で、この抗体が生体内において長期間にわたってヒトIL-8の阻害効果を持続するためには、投与された抗体が生体内(例えば血漿中)に存在している期間中、IL-8中和活性が安定に保たれること(当該抗体のIL-8中和活性における安定性)もまた重要である。そこで、以下に示す方法で、これらの抗体のマウス血漿中における当該安定性を評価した。
マウス血漿は、C57BL/6J(Charles river)の血液から当業者公知の方法で採取した。マウス血漿800 μLに対し、200 mM PBS(Sigma, P4417)を200μL添加して1 mLとした。また、防腐剤としてアジ化ナトリウムを終濃度0.1%となるように添加した。更に、各抗体(Hr9, H89/L118, H553/L118)を終濃度0.2 mg/mLとなるように、上記のマウス血漿に添加した。この時点で一部を採取し、Initialサンプルとした。残りのサンプルは40℃で保管した。保管開始から1週間及び2週間が経過した時点で、それぞれ一部を採取し、1週間保存サンプル及び2週間保存サンプルとした。なお、全てのサンプルは各分析まで-80℃で凍結保管した。
次に、マウス血漿中に含まれる抗IL-8抗体の、ヒトIL-8に対する中和活性の評価を次のように行った。
ヒトIL-8の受容体として、CXCR1及びCXCR2が知られている。PathHunter(r) CHO-K1 CXCR2 β-Arrestin Cell Line (DiscoveRx社、Cat.# 93-0202C2)は、ヒトCXCR2を発現し、ヒトIL-8によるシグナルが伝達された際に化学発光を呈するように、人工的に作成された細胞株である。特に限定はされないが、この細胞を用いても、抗ヒトIL-8抗体が有するヒトIL-8に対する中和活性を評価することが可能である。まず、当該細胞の培養液中に、ヒトIL-8を添加すると、添加したヒトIL-8の濃度に依存して、ある量の化学発光を呈する。ここで、ヒトIL-8と抗ヒトIL-8抗体を併せて培養液中に添加した場合は、抗ヒトIL-8抗体はヒトIL-8と結合することにより、ヒトIL-8のシグナル伝達を遮断し得る。その結果として、ヒトIL-8の添加によって起こる化学発光は抗ヒトIL-8抗体により阻害され、抗体を添加していない場合に比べると弱い化学発光を示すか、あるいは全く化学発光を示さないことになる。そのため、抗体が有するヒトIL-8中和活性が強いほど化学発光の程度は弱まり、抗体が有するヒトIL-8中和活性が弱いほど化学発光の程度は強まることになる。
これは、マウス血漿中に添加して一定期間保存した抗体においても同様である。マウス血漿中で保存することによって、中和活性が変化しない抗体であれば、上記の化学発光の度合いは保存の前後で変化しないはずである。一方で、マウス血漿中で保存することによって、中和活性が低下する抗体の場合は、保存後の抗体を用いた場合の化学発光の度合いは、保存前に比べて増加することになる。
そこで、上記の細胞株を用いて、マウス血漿中に保存した抗体が、中和活性を維持しているかどうかを検証した。まず、細胞株をAssayComplete(tm) Cell Plating 0 Reagentに懸濁し、384well plateに5000 cells/wellずつ播種した。細胞の培養開始から1日後に、ヒトIL-8の添加濃度を決定するための試験を以下のように行った。最終ヒトIL-8濃度として45 nM(400 ng/mL)から0.098 nM(0.1 ng/mL)を含むように、ヒトIL-8溶液を段階希釈したものを細胞培養液に添加した。次に、製品プロトコールに従って検出試薬を添加し、化学発光検出装置を用いて相対化学発光量を検出した。それにより、細胞のヒトIL-8に対する反応性を確認し、抗ヒトIL-8抗体の中和活性を確認するために適切なヒトIL-8濃度を設定した。ここでは、ヒトIL-8濃度は2 nMとした。
次に、先述の抗ヒトIL-8抗体を添加したマウス血漿を用いて、そこに含まれる抗体の中和活性の評価を行った。上記で決定した濃度のヒトIL-8と、先述の抗ヒトIL-8抗体を含むマウス血漿を細胞培養液に添加した。ここで、添加するマウス血漿の量は、抗ヒトIL-8抗体濃度として2 μg/mL(13.3 nM)から0.016 μg/mL (0.1 nM)の範囲で段階的に含まれるように決定された。次に、製品プロトコールに従って検出試薬を添加し、化学発光検出装置を用いて相対化学発光量を検出した。
ここで、ヒトIL-8及び抗体を添加していないwellの相対化学発光量平均を0%、ヒトIL-8のみを添加し、抗体を添加していないwellの相対化学発光量平均を100%とした時の、各抗体濃度における相対化学発光量の相対値を算出した。
ヒトCXCR2発現細胞を用いたヒトIL-8阻害アッセイの結果を、Initial(マウス血漿中の保存処理なし)を
図18-1に、40℃で1週間保存したサンプルの結果を
図18-2に、40℃で2週間保存したサンプルの結果を
図18-3に、それぞれ示した。
その結果、Hr9及びH89/L118は、マウス血漿中で保存した前後でヒトIL-8中和活性に差は見られなかった。一方、H553/L118は2週間の保存により、ヒトIL-8中和活性の低下が見られた。このことから、H553/L118は、Hr9やH89/L118と比較して、マウス血漿中においてヒトIL-8中和活性が低下しやすく、IL-8中和活性の面で不安定な性質を有する抗体であることが示された。
【0209】
〔実施例9〕in silicoシステムによる免疫原性予測スコアを低減させた抗体の作製
(9-1)各種IL-8結合抗体の免疫原性予測スコア
抗医薬品抗体(ADA)の産生は、治療用抗体の効果及び薬物動態に影響を及ぼし、時に重篤な副作用をもたらすことがあるため、臨床における治療用抗体の有用性や薬効は、ADAの産生によって制限され得る。治療用抗体の免疫原性は、多くの要因に影響を受けることが知られているが、特に治療用抗体が有するエフェクターT細胞エピトープの重要性が多数報告されている。
T細胞エピトープを予測するためのin silicoツールとしては、Epibase(Lonza)、iTope/TCED(Antitope)、及びEpiMatrix(EpiVax)などが開発されている。これらのin silicoツールを用いて、各アミノ酸配列中のT細胞エピトープを予測することができ(Expert Opin Biol Ther. 2007 Mar;7(3):405-18)、治療用抗体の潜在的な免疫原性評価が可能となる。
ここで、EpiMatrixを用いて、各抗IL-8抗体の免疫原性スコアを算出した。EpiMatrixは、免疫原性を予測したいタンパク質のアミノ酸配列を9アミノ酸ごとに区切ったペプチド断片の配列を機械的に設計し、それらに対して、8種類の主要なMHC Class IIアレル(DRB1*0101, DRB1*0301, DRB1*0401, DRB1*0701, DRB1*0801, DRB1*1101, DRB1*1301, DRB1*1501)に対する結合能を計算し、目的タンパク質の免疫原性を予測するシステムである。(Clin Immunol. 2009 May;131(2):189-201.)
上記のように算出された、各IL-8抗体の重鎖及び軽鎖の免疫原性スコアが、表12の「EpiMatrix Score」の欄に示されている。更に、EpiMatrix Scoreについて、Tregitopeの含有を考慮して補正された免疫原性スコアが、「tReg Adjusted Epx Score」の欄に示されている。Tregitopeとは、主に天然型の抗体配列中に多く含まれているペプチド断片配列であり、抑制性T細胞(Treg)を活性化することによって、免疫原性を抑制すると考えられている配列である。
また、これらのスコアについて、重鎖と軽鎖のスコアを合計したものが、合計の欄に示されている。
【0210】
【0211】
この結果から、「EpiMatrix Score」及び「tReg Adjusted Epx Score」のいずれを見ても、H89/L118、H496/L118及びH553/L118の免疫原性スコアは、公知のヒト化抗ヒトIL-8抗体であるhWS-4と比較して低下していた。
更に、EpiMatrixでは、重鎖と軽鎖のスコアを考慮したうえで、抗体分子全体として予測されるADA発生頻度を、各種市販抗体の実際のADA発生頻度と比較することも可能である。そのような解析を実施した結果が、
図19に示されている。なお、システムの関係上、
図19においては、hWS-4は「WS4」、Hr9は「HR9」、H89/L118は「H89L118」、H496/L118は「H496L118」、H553/L118は「H553L118」とそれぞれ表記されている。
図19に示されているように、各種の市販抗体のヒトにおけるADAの発生頻度は、Campath (Alemtuzumab)は45%、Rituxan (Rituximab)は27%、Zenapax (Daclizumab)は14%といった値であることが知られている。一方で、公知のヒト化抗ヒトIL-8抗体であるhWS-4のアミノ酸配列から予測されたADA発生頻度は10.42%であったが、今回新たに見出されたH89/L118(5.52%)、H496/L118(4.67%)、H553/L118(3.45%)は、hWS-4と比較すると有意に低下していた。
【0212】
(9-2)免疫原性予測スコアを低減させた改変抗体の作製
上記の通り、H89/L118、H496/L118及びH553/L118の免疫原性スコアは、hWS-4と比較して低下していたが、表12から明らかなように、重鎖の免疫原性スコアは軽鎖に比べると高く、特に重鎖のアミノ酸配列は、免疫原性の観点でまだ改善の余地があることを示唆している。そこで、H496の重鎖可変領域から、免疫原性スコアを低下させることが可能なアミノ酸改変の探索を行った。鋭意探索を行った結果、Kabatナンバリング52c番のアラニンがアスパラギン酸に置換されたH496v1、81番のグルタミンがスレオニンに置換されたH496v2、82b番のセリンがアスパラギン酸に置換されたH496v3の3種類の改変体が見いだされた。また、これら3種の改変を全て導入したH1004が作成された。
実施例9-1と同様の方法で、免疫原性スコアを算出した結果を表13に示す。
【0213】
【0214】
単独改変を含むH496v1、H496v2、H496v3の3種類の重鎖は、いずれもH496と比較して免疫原性スコアが低下していた。更に、3種類の改変を組み合わせて導入されたH1004においては、顕著な免疫原性スコアの改善を達成していた。
ここで、H1004と組み合わせる適切な軽鎖としては、L118に加え、L395もまた見いだされてきた。そのため、免疫原性スコアの算出においては、L118及びL395の両者を組み合わせたものを算出した。表13に示されているように、重鎖と軽鎖を組み合わせた際の免疫原性スコアとしても、H1004/L118及びH1004/L395は、非常に低い免疫原性スコアを示していた。
次に、これらについて実施例9-1と同様にADA発生頻度を予測した。その結果を
図20に示す。なお、
図20においては、H496v1/L118は「V1」、H496v2/L118は「V2」、H496v3/L118は「V3」、H1004/L118は「H1004L118」、H1004/L395は「H1004L395」とそれぞれ表記されている。
驚くべきことに、免疫原性スコアを顕著に低減させたH1004/L118及びH1004/L395は、ADA発生頻度の予測値についても改善しており、0%という予測値を示していた。
【0215】
(9-3)H1004/L395のIL-8結合親和性の測定
重鎖としてH1004-IgG1m(配列番号:47)、軽鎖としてL395-k0MT(配列番号:38)を有する抗体であるH1004/L395を作製した。H1004/L395のヒトIL-8への結合親和性を、Biacore T200(GE Healthcare)を用いて以下の通り測定した。
ランニングバッファーは、以下の2種を用い、それぞれの温度に設定して測定を行った。
・0.05% tween20, 40 mM ACES, 150 mM NaCl, pH 7.4, 40 ℃
・0.05% tween20, 40 mM ACES, 150 mM NaCl, pH 5.8, 37 ℃
センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインA/G(PIERCE)を適当量固定化し、そこへ目的の抗体を捕捉させた。次に、ヒトIL-8希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトIL-8を相互作用させた。なお、ランニングバッファーは上記のいずれかが用いられ、ヒトIL-8の希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。センサーチップの再生には25 mM NaOH及び10 mMグリシン-HCl, pH 1.5が用いられた。測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである結合速度定数 kon (1/Ms)、及び解離速度定数 koff (1/s)をもとに各抗体のヒトIL-8に対する KD (M) が算出された。各パラメーターの算出には Biacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
測定結果を表14に示す。免疫原性スコアを低減させたH1004/L395は、H89/L118と比較して、中性pHにおけるヒトIL-8へのKDは同等であったが、酸性pHにおけるKD及びkoffは増加しており、エンドソーム内においてIL-8を解離しやすい性質を有していることが示された。
【0216】
【0217】
〔実施例10〕pH依存的IL-8結合抗体H1009/L395の作製と評価
(10-1)各種pH依存的IL-8結合抗体の作製
実施例9に示した検討により、pH依存的IL-8結合能を有し、かつ免疫原性スコアが低減されたH1004/L395が取得された。次に、これらの好ましい性質と、マウス血漿中における安定性とを両立した改変体の創製を目指して、鋭意検討を行った。
H1004/L395を基に、各種の改変を導入し、以下の改変抗体を作製した。
【0218】
【0219】
【0220】
さらに、上記の18種類の重鎖を2種の軽鎖を組み合わせて、合計36種類の抗体を作製した。これらの抗体について、以下に示すように各種の評価を実施した。
中性及び酸性pH条件下におけるヒトIL-8結合親和性を、実施例9-3の方法と同様に測定した。その結果のうち、pH7.4におけるKD、pH5.8におけるKD及びkoffの値について、表15に示す。
次に、以下に示す方法でPBS中で保存した場合のIL-8の結合における安定性評価を実施した。
それぞれの抗体をDPBS (Sigma-Aldrich)に対して一晩透析を行った後、各抗体の濃度を0.1 mg/mLとなるように調製した。この時点で一部を採取し、Initialサンプルとした。残りのサンプルは50℃で1週間保管した後、回収して熱加速試験用サンプルとした。
次に、Initialサンプル及び熱加速試験用サンプルを用いて、BiacoreによるIL-8結合親和性の測定を以下のように実施した。
Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、改変抗体へのヒトIL-8の結合量解析を行った。ランニングバッファーとして0.05% tween20, 40 mM ACES, 150 mM NaCl, pH 7.4を用い、40 ℃にて測定を行った。
センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインA/G(PIERCE)を適当量固定化し、そこへ目的の抗体を捕捉させた。次に、ヒトIL-8希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトIL-8を相互作用させた。ヒトIL-8の希釈にもランニングバッファーが使用された。センサーチップの再生には25 mM NaOH及び10 mMグリシン-HCl, pH 1.5が用いられた。測定で得られたヒトIL-8の結合量とその結合量を得たときの抗体捕捉量をBiacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いて抽出した。
Initialサンプル及び熱加速試験用サンプルに関して、抗体捕捉量1000 RU当たりのヒトIL-8の結合量を算出した。さらに、InitialサンプルのヒトIL-8の結合量に対する熱加速試験用サンプルのヒトIL-8の結合量の比を算出した。
結果として得られた、Initialサンプルと熱加速試験用サンプルのIL-8結合量の比を、表15に併せて示す。
【0221】
【0222】
上記検討により、重鎖としてH1009-IgG1m(配列番号:48)と、軽鎖としてL395-k0MTを有する抗体である、H1009/L395が得られた。
表15に示されているように、H1009/L395は、H89/L118と比べて中性pHにおけるヒトIL-8結合親和性はやや増強している一方で、酸性pHにおける結合親和性は低下しており、pH依存性がより強められていた。また、PBS中で50℃という過酷な条件に曝した場合の、IL-8結合における安定性において、H1009/L395はH89/L118よりもやや改善していた。
これらのことから、H1009/L395は、pH依存的IL-8結合能を有しつつ、マウス血漿中での中和活性も安定に保たれる可能性がある抗体として選定された。
【0223】
(10-2)H1009/L395の安定性評価
次に、実施例8-3の方法と同様に、H1009/L395のIL-8中和活性が、マウス血漿中において安定に保たれるかどうかを評価した。ここでは、後に実施例15において、その詳細が記述されるH1009/L395-F1886sを用いた。この抗体は、H1009/L395と同じ可変領域を有し、定常領域は、天然型ヒトIgG1に比べて、酸性pH条件下におけるFcRn結合を増強する改変と、FcγRに対する結合を低減するための改変を有する定常領域を有する。H1009/L395のヒトIL-8に対する結合及びIL-8の中和活性は、この抗体の可変領域、とりわけHVRを中心とした領域が担っており、定常領域に導入された改変が影響を与えることは無いと考えられる。
マウス血漿中における安定性評価は、次のように実施した。マウス血漿585 μLに対し、200 mM リン酸緩衝液(pH6.7)を150 μL添加した。また、防腐剤としてアジ化ナトリウムを終濃度0.1%となるように添加した。各抗体(Hr9, H89/L118, H1009/L395-F1886s)について終濃度0.4 mg/mLとなるように、上記のマウス血漿に添加した。この時点で一部を採取し、Initialサンプルとした。残りのサンプルは40℃で保管した。保管開始から1週間及び2週間が経過した時点で、それぞれ一部を採取し、1週間保存サンプル及び2週間保存サンプルとした。なお、全てのサンプルは各分析まで-80℃で凍結保管した。
ヒトCXCR2発現細胞を用いたヒトIL-8中和活性測定は、実施例8-3と同様の方法で実施した。ただし、抗ヒトIL-8抗体の中和活性を確認するためのヒトIL-8濃度は、今回は1.2 nMで実施した。
上記の抗体を用いて得られた、ヒトCXCR2発現細胞を用いたヒトIL-8阻害アッセイの結果として、Initial(マウス血漿中の保存処理なし)の結果を
図21-1に、40℃で1週間保存したサンプルの結果を
図21-2に、40℃で2週間保存したサンプルの結果を
図21-3に、それぞれ示した。
その結果、驚くべきことに、H1009/L395-F1886sは、マウス血漿中で40℃で2週間保存した場合においても、ヒトIL-8の中和活性が維持されており、H553/L118よりもIL-8中和活性が安定に保たれていた。
【0224】
(10-3)H1009/L395を用いたマウスPK試験
H1009/L395のマウスにおけるヒトIL-8消失速度の評価を、次に示す方法で実施した。抗体としてはH1009/L395、H553/L118及びH998/L63を用いた。マウスへの投与及び採血、マウス血漿中のヒトIL-8濃度測定は実施例7に示した方法で実施した。
結果として得られた、血漿中ヒトIL-8濃度のデータを
図22に、またマウス血漿中からのヒトIL-8クリアランス(CL)の数値を表16に示す。
【0225】
【0226】
結果、H1009/L395は、マウスにおけるヒトIL-8消失速度が2 mg/kg投与時において、H553/L118と同程度であり、エンドソーム内におけるフリー型IL-8を100%近くにまで達成できていることが示された。また、マウス血漿中からのヒトIL-8消失速度を定量的に表すクリアランス(CL)の値は、H998/L63よりも30倍程度高いことが示された。
特に限定はされないが、ヒトIL-8の消失速度を増加させる効果については、次のように解釈することが可能である。一般に、抗原濃度がほぼ一定に保たれている生体内においては、抗原の産生速度と消失速度もまた、ほぼ一定に保たれていることになる。この状態に抗体を投与すると、抗原の産生速度は影響を受けない場合においても、抗原の消失速度は、抗原が抗体との複合体を形成することにより変化し得る。一般的には、抗原の消失速度は抗体の消失速度に比べて大きいため、そのような場合は、抗体と複合体を形成した抗原の消失速度は低下する。抗原の消失速度が低下すると、血漿中の抗原濃度が上昇するが、その際の上昇度合いは抗原単独時の消失速度と複合体形成時の消失速度の比によっても規定され得る。つまり、抗原単独時の消失速度に比べて、複合体形成時の消失速度が10分の1に低下した場合は、抗体が投与された生体の血漿中の抗原濃度は抗体投与前の約10倍にまで上昇し得る。ここで、これらの消失速度として、クリアランス(CL)を用いることも可能である。すなわち、生体に対して抗体を投与した後に起こる抗原濃度の上昇(抗原の蓄積)は、抗体投与前と投与後それぞれの状態における抗原CLによって規定されると考え得る。
ここで、H998/L63とH1009/L395を投与した際のヒトIL-8のCLに約30倍の差があったということは、ヒトにこれらの抗体を投与した際に起こる、血漿中ヒトIL-8濃度の上昇度合いに、約30倍の差が生じうることを示唆している。更に、血漿中ヒトIL-8濃度に30倍の差が生じるということは、それぞれの状況においてヒトIL-8の生物学的活性を完全に遮断するために必要な抗体の量もまた、約30倍の差が生じうるということになる。つまり、H1009/L395は、H998/L63に比べて、30分の1程度の極めて少量の抗体で、血漿中IL-8の生物学的活性を遮断することが可能である。また、H1009/L395とH998/L63それぞれを同じ投与量でヒトに投与した場合には、H1009/L395の方がより強く、かつ、より長期間にわたりIL-8の生物学的活性を遮断することが可能になる。また、長期間にわたりIL-8の生物学的活性を遮断するためには、そのIL-8中和活性が安定に維持されることが必要である。実施例10において示されたように、H1009/L395はマウス血漿を用いた実験から、長期間にわたってそのヒトIL-8中和活性を維持できることが明らかとなっている。これらの特筆すべき性質を含むH1009/L395は、生体内におけるIL-8を中和する効果という観点でも優れた効果を有する抗体であることが示された。
【0227】
〔実施例11〕pH依存的IL-8結合抗体H1009/L395を用いた細胞外マトリックス結合性評価
実施例10で示された、H1009/L395の30倍もの優れたヒトIL-8消失効果は、驚くべき効果であった。pH依存性抗原結合抗体を投与した際の抗原消失速度は、抗体と抗原の複合体が細胞内に取り込まれる速度に依存することが知られている。つまり、抗原との複合体を形成したときに、形成しないときと比較して細胞内に取り込まれる速度が増大すれば、pH依存性抗体による抗原消失効果を高めることも可能である。細胞内に抗体が取り込まれる速度を増強させる方法として、中性pH条件でのFcRn結合能を抗体に付与する方法(WO 2011/122011)や抗体のFcγRへの結合能を増強する方法(WO 2013/047752)、多価の抗体と多価の抗原を含む複合体の形成の促進を利用した方法(WO 2013/081143)などが知られている。
しかしながら、H1009/L395の定常領域において上記技術は用いられていない。また、IL-8はhomo dimerを形成することが知られているが、H1009/L395はヒトIL-8のhomo dimerの形成面を認識するため、H1009/L395が結合したヒトIL-8はmonomerの状態になることが明らかになっている。そのため、これらの抗体は多価の複合体を形成することはない。
つまり、H1009/L395に対しては、上記技術が使用されていないが、H1009/L395は30倍ものヒトIL-8消失効果を示していた。
以下、理論に拘束されることは意図しないが、H1009/L395に代表されるpH依存的IL-8結合抗体の前記特性をもたらす可能性のある要因の一つを挙げる。
ヒトIL-8は、高い等電点(pI)を有するタンパク質であり、公知の方法で計算される理論等電点はおよそ10である。つまり、中性pHの条件下においては、ヒトIL-8は正電荷側に偏った電荷を有するタンパク質である。H1009/L395に代表されるpH依存的IL-8結合抗体もまた、正電荷側に偏った電荷を有するタンパク質であり、H1009/L395の理論等電点はおよそ9である。つまり、元々高い等電点を有し、正電荷に富むタンパク質であるH1009/L395が、高い等電点を有するヒトIL-8と結合して生じる複合体は、H1009/L395単独よりも等電点が上昇する。
抗体の正電荷の数を増加させること、及び/又は、負電荷の数を減少させることを含む、抗体の等電点の増加は、抗体・抗原複合体の細胞内への非特異的な取り込みを増加させると考えることも可能である。抗IL-8抗体と高い等電点を有するヒトIL-8との複合体は、抗IL-8抗体単独よりも等電点が増大し、細胞内に取り込まれやすくなっているという可能性も考えられた。
また、先述の通り、細胞外マトリックスへの結合性もまた、細胞内取り込みに影響する可能性がある因子の一つである。そこで、細胞外マトリックスに対する抗体単独の結合性と、ヒトIL-8と抗体との複合体の結合性が異なるかどうかを検証した。
【0228】
(11-1)ECL(電気化学発光)法による細胞外マトリックスへの抗体結合量の評価
TBS(Takara, T903)を用いて、細胞外マトリックス(BDマトリゲル基底膜マトリックス/ BD社製)を2 mg/mLに希釈した。希釈した細胞外マトリックスをMULTI-ARRAY 96well Plate, High bind, Bare (Meso Scale Discovery: MSD社製) に1wellあたり5 μL分注し、4℃で一晩固相化した。その後、ブロッキングは、150 mM NaCl, 0.05% Tween20, 0.5% BSA, 0.01% NaN
3を含む20 mM ACES buffer, pH7.4を用いて行った。
また、評価に供する抗体を次のように調整した。抗体単独の添加サンプルとしては、各抗体を以下に示すBuffer-1を用いて9 μg/mLにそれぞれ希釈した後、Buffer-2を用いてさらに希釈し、最終濃度をそれぞれ3 μg/mLとした。
Buffer-1: 150 mM NaCl, 0.05% Tween20, 0.01% NaN
3を含む20 mM ACES buffer, pH7.4
Buffer-2: 150 mM NaCl, 0.05% Tween20, 0.1% BSA, 0.01% NaN
3を含む20 mM ACES buffer, pH7.4
一方、抗体とヒトIL-8との複合体の添加サンプルは、抗体の10倍のモル濃度のヒトIL-8を抗体サンプルに添加した上で、Buffer-1を用いて抗体濃度が9 μg/mLになるようにそれぞれ希釈された後、最終抗体濃度がそれぞれ3 μg/mLとなるように、Buffer-2によって更に希釈された。なお、この時ヒトIL-8は約0.6 μg/mLとなっている。複合体を形成させるために、室温で1時間振盪した。
次に、ブロッキング溶液を除去したプレートに、抗体単独あるいは複合体の溶液を添加し、室温で1時間振盪した。その後、抗体単独あるいは複合体の溶液を除去し、0.25% Glutaraldehyde を含むBuffer-1を添加して10分間静置した後、0.05% Tween20を含むDPBS (和光純薬工業社製) で洗浄した。ECL検出用抗体は、Goat anti-human IgG (gamma) (Zymed Laboratories社製) をSulfo-Tag NHS Ester (MSD社製) を用いてSulfo-Tag化し調製した。ECL検出用抗体を1 μg/mLとなるようにBuffer-2で希釈してプレートに添加し、遮光下、室温で1時間振盪した。ECL検出用抗体を除去し、MSD Read Buffer T(4x)(MSD社製)を超純水で2倍希釈した溶液を添加した後、SECTOR Imager 2400 (MSD社製)を用いて発光量を測定した。
結果を
図23に示す。興味深いことに、H1009/L395などの抗IL-8抗体はいずれも、抗体単独(-IL8)ではほとんど細胞外マトリックスへの結合が見られなかったが、ヒトIL-8(+hIL8)との複合体を形成して、細胞外マトリックスへの結合が見られることが明らかになった。
抗IL-8抗体が、上記のようにヒトIL-8と結合することにより、細胞外マトリックスに対して結合性を有するようになるという性質は、先行技術情報からは明らかになっていない。また、限定はされないが、このような性質をpH依存的IL-8結合抗体と組み合わせ、より効率的にIL-8の消失速度を増大させることも可能である。
【0229】
〔実施例12〕FcRn非結合抗体を用いたマウスPK試験
マウスの生体内において、pH依存的IL-8結合抗体がヒトIL-8との複合体を形成して、その複合体の細胞内への取り込みが増加するかどうかを、以下に示す方法で確認した。
まず、H1009/L395の可変領域と、各種Fc受容体への結合親和性を欠損しているFc領域とを有する変異体を作成した。具体的には、酸性pH条件下におけるヒトFcRnへの結合能を欠失させる改変として、重鎖であるH1009-IgG1に対して、EUナンバリング253番目のイソロイシンをアラニンに、254番目のセリンをアスパラギン酸に置換した。また、マウスFcγRへの結合を欠失させる改変として、235番目のロイシンをアルギニンに、236番目のグリシンをアルギニンに、239番目のセリンをリジンに置換した。これら4つの改変を含む重鎖として、1009-F1942m(配列番号:49)を作製した。また、重鎖としてH1009-F1942m、軽鎖としてL395-k0MTを有する、H1009/L395-F1942mを作製した。
このFc領域を有する抗体は、酸性pH条件下におけるFcRn結合親和性を欠損しているため、エンドソーム内から血漿中への移行が起こらない。そのため、このような抗体は生体内において、天然型Fc領域を有する抗体に比べて、速やかに血漿中から消失する。このとき、天然型Fc領域を有する抗体は細胞内に取り込まれた後、FcRnによるサルベージを受けなかった一部の抗体のみがライソソームに移行して分解されるが、FcRnへの結合親和性を持たないFc領域を有する抗体の場合は、細胞内に取り込まれた抗体の全てがライソソームで分解を受ける。すなわち、このような改変Fc領域を有する抗体の場合は、投与した抗体の血漿中からの消失速度は、細胞内に取り込まれる速度と等しいと考えることもできる。つまり、FcRnへの結合親和性を欠損させた抗体の血漿中からの消失速度を測定することによっても、当該抗体の細胞内に取り込まれる速度を確認することが可能である。
そこで、このH1009/L395-F1942mとヒトIL-8が結合した複合体の細胞内への取り込みが、H1009/L395-F1942mの取り込みよりも増加するか否かを検証した。具体的には、当該抗体を単独で投与した場合と、ヒトIL-8との複合体を形成させて投与した場合とで、当該抗体の血漿中からの消失速度が変化するかどうかを検証した。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol Biol. (2010) 602, 93-104)に、抗ヒトIL-8抗体のみを投与した場合と、ヒトIL-8と抗ヒトIL-8抗体を同時に投与した場合のそれぞれで、抗ヒトIL-8抗体の体内動態を評価した。抗ヒトIL-8抗体溶液(200 μg/mL)及び、ヒトIL-8(10 μg/mL)と抗ヒトIL-8抗体(200 μg/mL)の混合溶液のそれぞれを、尾静脈に10mL/kgで単回投与した。このとき、ヒトIL-8に対して抗ヒトIL-8抗体は十分量過剰に存在することから、ヒトIL-8はほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与5分後、2時間後、7時間後、1日後、2日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
マウス血漿中の抗ヒトIL-8抗体濃度は電気化学発光法によって測定された。まず、5%BSA(w/v)を含有したPBS-Tween溶液を用いて室温で1晩ブロッキングされたStreptavidin Gold Multi-ARRAY Plate(Meso Scale Discovery)に、Anti-Human Kappa Light Chain Goat IgG Biotin (IBL)を室温で1時間反応させることによって抗ヒト抗体固相化プレートが作成された。血漿中濃度として3.20、1.60、0.800、0.400、0.200、0.100、0.0500 μg/mLの抗ヒトIL-8抗体を含む検量線用試料と100倍以上に希釈されたマウス血漿測定用試料が調製された。各試料は、ヒトIL-8と混合された後に抗ヒト抗体固相化プレートの各ウェルに50 μLで分注されて、室温で1時間撹拌された。ヒトIL-8の終濃度は333 ng/mLとなるよう調製された。
その後、前記プレートに、マウスIgGの定常領域を有する抗ヒトIL-8抗体(社内調製品)を加え、室温で1時間反応させた。さらにSULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したAnti-Mouse IgG(BECKMAN COULTER)を前記プレートに加えて1時間反応させた後、Read Buffer T(×1)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR Imager 2400 (Meso Scale Discovery)で測定を行った。抗ヒトIL-8抗体濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。
結果として得られた、マウス血漿中の抗体濃度を
図24に、またそれぞれの条件における抗体のクリアランスを表17に示した。
【0230】
【0231】
H1009/L395-F1942mとヒトIL-8との複合体の細胞内への取り込み速度がH1009/L395-F1942mの取り込み速度よりも少なくとも2.2倍に上昇していることが示された。なお、ここで「少なくとも2.2倍」と表記したのは、実際には5倍、10倍、あるいは30倍といった数値である可能性の一つとして以下のような理由も挙げられるからである。マウス血漿中からのヒトIL-8の消失速度は、H1009/L395-F1942mの消失速度に比べて非常に早いため、血漿中においてヒトIL-8が結合したH1009/L395-F1942mの割合は、投与後速やかに低下してしまう。つまり、ヒトIL-8と同時に投与した場合においても、血漿中に存在するH1009/L395-F1942mの全てがヒトIL-8に結合した状態にあるわけではなく、むしろ、投与後7時間程度の時点で既に、大半はフリー型抗体として存在することになる。そのような条件で取り込み速度の評価が実施されているために、H1009/L395-F1942mとヒトIL-8との複合体の細胞内取り込み速度がH1009/L395-F1942mの取り込み速度よりも、実際には5倍、10倍、あるいは30倍増大していたとしても、この実験系においてはその一部のみが結果に反映されるため、2.2倍程度の効果として示されてしまう可能性も生じ得る。つまり、ここで得られた結果から、H1009/L395とIL-8との複合体の細胞内への取り込み速度は、生体内における実際のH1009/L395の細胞内への取り込み速度よりも増加することが示されたが、一方で、その効果が2.2倍といった数値に何ら限定され得るものではない。
特に限定はされないが、これまで得られた知見から、次のような解釈を行うこともできる。pH依存的IL-8結合抗体であるH1009/L395は、ヒトIL-8と複合体を形成すると、その複合体は、抗体単独で存在する場合と比べて、より等電点が高く、正電荷に偏った状態となる。同時に、その複合体の細胞外マトリックスへの結合性が抗体単独の結合性よりも増大している。等電点の上昇や、細胞外マトリックスへの結合増強といった性質は、生体内において、細胞内への取り込みを促進させる因子として考えることができる。更に、マウスを用いた実験から、H1009/L395とヒトIL-8との複合体の細胞内への取り込み速度がH1009/L395の取り込み速度よりも2.2倍以上に増大することも示された。以上のことから、理論的な説明付けとin vitroでの性質、in vivoでの現象とが一貫して、H1009/L395がヒトIL-8と複合体を形成して、細胞内への取り込みが促進され、ヒトIL-8の消失を顕著に増加させている仮説を支持している。
これまでにも、IL-8に対する抗体はいくつか報告があるが、IL-8との複合体を形成したときの細胞外マトリックスへの結合性の増大や、前記複合体の細胞内への取込みの増加はこれまでに報告がない。
また、抗IL-8抗体の細胞内への取込みの増加がIL-8との複合体を形成したときに見られるということは、血漿中においてIL-8と複合体を形成した抗IL-8抗体は速やかに細胞内に取り込まれる一方で、IL-8との複合体を形成していないフリー型の抗体は、細胞内には取り込まれずに滞留しやすいと考えることも可能である。この場合、抗IL-8抗体がpH依存性であるときは、一旦細胞内に取り込まれた抗IL-8抗体が細胞内でIL-8分子を解離後に再び細胞外に戻り、別なIL-8分子と結合することが可能となることから、複合体形成時の細胞内への取込み増加は、IL-8をより強く除去するというさらなる効果を有すると考えることも可能である。すなわち、細胞外マトリックスへの結合が増大した抗IL-8抗体や細胞内取り込みが増加した抗IL-8抗体を選択することも、本開示の別な側面である。
【0232】
〔実施例13〕pH依存的IL-8結合抗体H1009/L395のin silicoシステムによる免疫原性予測
次に、H1009/L395について実施例9-1と同様の方法で免疫原性スコア及びADA発生頻度の予測を行った。その結果を表18及び
図25に示す。なお、
図25において、H1009/L395は、「H1009L395」と表記されている。
【0233】
【0234】
表18の結果から、H1009/L395は、H1004/L395と同程度に、免疫原性スコアが低いことが示された。また、
図25の結果から、H1009/L395において予測されたADA発生頻度は0%であり、こちらもH1004/L395と同様であった。
以上のことから、H1009/L395において予測される免疫原性は、公知の抗ヒトIL-8抗体であるhWS-4と比較して、大幅に低下していた。このことから、H1009/L395はヒトにおける免疫原性が極めて低く、長期にわたって安全に、抗IL-8中和活性を持続することが可能であると考えられる。
【0235】
〔実施例14〕酸性pH条件下におけるFcRn結合能を増強させたH89/L118改変体を用いたカニクイザルPK試験
これまでの実施例に記載の通り、pH依存的IL-8結合抗体H1009/L395は、天然型IgG1の定常領域を有する場合において、非常に優れた性質を有する抗体である。しかしながら、アミノ酸置換を定常領域に含む抗体、例えば実施例5で例示された、酸性pHにおけるFcRn結合を増強させたFc領域を含む抗体としても利用可能である。そこで、酸性pHにおけるFcRn結合を増強させたFc領域がpH依存的IL-8結合抗体においても機能することを、H89/L118を用いて確認した。
【0236】
(14-1)酸性pHにおけるFcRn結合を増強させたH89/L118のFc領域改変抗体の作製
H89/L118のFc領域に対して、実施例5-1に記載の、各種FcRn結合増強改変を導入した。具体的には、H89-IgG1のFc領域に対して、F1847m、F1848m、F1886m、F1889m、F1927m、F1168mに用いられている改変を導入して、以下の改変体を作製した。
重鎖としてH89-IgG1m(配列番号:50)、軽鎖としてL118-K0MTを有するH89/L118-IgG1、
重鎖としてH89-F1168m(配列番号:51)、軽鎖としてL118-K0MTを有するH89/L118-F1168m、
重鎖としてH89-F1847m(配列番号:52)、軽鎖としてL118-K0MTを有するH89/L118-F1847m、
重鎖としてH89-F1848m(配列番号:53)、軽鎖としてL118-K0MTを有するH89/L118-F1848m、
重鎖としてH89-F1886m(配列番号:54)、軽鎖としてL118-K0MTを有するH89/L118-F1886m、
重鎖としてH89-F1889m(配列番号:55)、軽鎖としてL118-K0MTを有するH89/L118-F1889m、
重鎖としてH89-F1927m(配列番号:56)、軽鎖としてL118-K0MTを有するH89/L118-F1927m、
これらを用いたカニクイザルPK試験を、次に示す方法で実施した。
なお、後述の実施例で記載のH89/L118-F22も同様に作製した(重鎖としてH89-F22(配列番号:106)、軽鎖としてL118-K0MTを有する)。
【0237】
(14-2)新規Fc領域改変体を含む抗体のカニクイザルPK試験
カニクイザルに、抗ヒトIL-8抗体を投与した後の抗ヒトIL-8抗体の体内動態を評価した。抗ヒトIL-8抗体溶液を2 mg/kgで単回静脈内投与した。投与5分後、4時間後、1日後、2日後、3日後、7日後、10日後、14日後、21日後、28日後、35日後、42日後、49日後、56日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで10分遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-60℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
カニクイザル血漿中の抗ヒトIL-8抗体濃度は電気化学発光法によって測定された。まず、Anti-hKappa Capture Ab(Antibody Solutions)がMULTI-ARRAY 96-well Plate(Meso Scale Discovery)に分注され、室温で1時間撹拌された。その後、5% BSA(w/v)を含有したPBS-Tween溶液を用いて室温で2時間ブロッキングすることで抗ヒト抗体固相化プレートが作成された。血漿中濃度として40.0、13.3、4.44、1.48、0.494、0.165、0.0549 μg/mLの抗ヒトIL-8抗体を含む検量線用試料と500倍以上に希釈されたカニクイザル血漿測定用試料が調製され、抗ヒト抗体固相化プレートの各ウェルに50μLで分注されてから、室温で1時間撹拌された。その後、前記プレートに、Anti-hKappa Reporter Ab, Biotin conjugate(Antibody Solutions)を加え、室温で1時間反応させた。さらにSULFO-TAG Labeled Streptavidin(Meso Scale Discovery)を加えて室温で1時間反応させた後、Read Buffer T(×1)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR Imager 2400(Meso Scale Discovery)で測定を行った。抗ヒトIL-8抗体濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFT Max PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。
結果として得られた各抗体の半減期(t1/2)及びクリアランス(CL)を表19に、カニクイザル血漿中抗体濃度推移を
図26にそれぞれ示した。
【0238】
【0239】
以上の結果から、いずれのFc領域改変体も、天然型IgG1のFc領域を有する抗体に比べて血漿中滞留性の改善が確認された。特に、H89/L118-F1886mが最も望ましい血中動態を示した。
【0240】
〔実施例15〕FcγRに対する結合能を低下させたFc領域
天然型ヒトIgG1は、そのFc領域が各種の免疫系細胞上のFcγ受容体(以下、FcγRと表記する)と結合して、対象とする細胞に対してADCCやADCPといったエフェクター機能を示すことが知られている。
一方、IL-8は可溶型サイトカインであり、医薬品として使用される抗IL-8抗体は、主にIL-8が過剰に存在している部位においてその機能を中和して、薬理作用を示すことが期待される。このようなIL-8が過剰に存在している部位としては、特に限定はされないが、例えば炎症部位が想定され得る。一般的に、このような炎症部位においては、各種の免疫系細胞が集まり、なおかつ活性化されていることが知られている。このような免疫系細胞に対して、Fc受容体を介して意図せぬ活性化シグナルを伝達してしまうことや、意図せぬ細胞に対してADCC、ADCPといった活性を引き起こしてしまうことは、必ずしも好ましくはない。そのため、特に限定はされないが、安全性の観点からは、生体に投与される抗IL-8抗体は、FcγRに対する結合能は低いほうが好ましいと考えられ得る。
【0241】
(15-1)FcγRに対する結合を低下させた改変抗体の作製
各種のヒト及びカニクイザルFcγRに対する結合能を低下させることを目的として、H1009/L395-F1886mのFc領域に対して更にアミノ酸改変を導入した。具体的には、重鎖であるH1009-F1886mに対して、EUナンバリング235番目のLをRに、236番目のGをRに、239番目のSをKに、それぞれ置換を行ってH1009-F1886s(配列番号:37)を作製した。同様に、H1009-F1886mに対して、EUナンバリング235番目のLをRに、236番目のGをRに置換し、さらにEUナンバリング327番目から331番目までの領域をヒト天然型IgG4配列として、H1009-F1974m(配列番号:36)を作製した。これらの重鎖と、軽鎖としてL395-k0MTを有する抗体として、H1009/L395-F1886s及びH1009/L395-F1974mを作製した。
【0242】
(15-2)各種ヒトFcγRに対する結合性の確認
次に、作製されたH1009/L395-F1886s及びH1009/L395-F1974mの、ヒト及びカニクイザルそれぞれの可溶型FcγRIa及びFcγRIIIaに対する結合性を、次に示す方法で確認した。
作製されたH1009/L395-F1886s及びH1009/L395-F1974mに関して、Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、ヒト及びカニクイザルそれぞれの可溶型FcγRIa及びFcγRIIIaとの結合実験を行った。ヒト及びカニクイザルそれぞれの可溶型FcγRIa及びFcγRIIIaは、当業者に公知の方法でHisタグを付与した分子形として作製した。センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でrProtein L (BioVision)を適当量固定化し、そこへ抗体を捕捉させた。次に、可溶型FcγRIaあるいはFcγRIIIaとランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体に相互作用させた。なお、ランニングバッファーはHBS-EP+(GE Healthcare)を用い、可溶型FcγRIaあるいはFcγRIIIaの希釈にもHBS-EP+が用いられた。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH 1.5が用いられた。測定は全て20 ℃で実施された。
結果を
図27に示す。ここで、ヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIIa、カニクイザルFcγRIa、カニクイザルFcγRIIIaの順に、hFcγRIa、hFcγRIIIa、cynoFcγRIa、cynoFcγRIIIaと記載されている。H1009/L395-F1886mはいずれのFcγRに対しても結合することが示されたのに対して、新たに作製されたH1009/L395-F1886s及びH1009/L395-F1974mは、いずれのFcγRに対しても結合しないことが確認された。
【0243】
(15-3)Fc領域改変体のマウスIL-8消失試験
次に、作製されたH1009/L395-F1886s及びH1009/L395-F1974mのマウスにおけるヒトIL-8消失速度や抗体の血漿中滞留性を、以下に示す実験で確認した。なお、ここでは、H1009/L395-F1886sの抗体投与量を増加させることによる影響も含めて評価するために、H1009/L395-F1886sに関しては投与量を2 mg/kg, 5 mg/kg, 10 mg/kgの3点で評価を行った。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol Biol. (2010) 602, 93-104)に、ヒトIL-8と、抗ヒトIL-8抗体を同時に投与した後のヒトIL-8の体内動態を評価した。ヒトIL-8(10 μg/mL)、抗ヒトIL-8抗体(200 μg/mL、500 μg/mL又は1000 μg/mL)の混合溶液を尾静脈に10 mL/kgで単回投与した。このとき、ヒトIL-8に対して抗ヒトIL-8抗体は十分量過剰に存在することから、ヒトIL-8はほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与5分後、2時間後、4時間後、7時間後、1日後、2日後、3日後、7日後、14日後、21日後、28日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
マウス血漿中のヒトIL-8濃度測定は、実施例7と同様の方法で実施した。結果として得られた、血漿中ヒトIL-8濃度のデータを
図28に、またマウス血漿中からのヒトIL-8クリアランス(CL)の数値を表20に示す。
まず、2 mg/kgの投与群の比較において、天然型IgG1のFc領域を有するH1009/L395と、改変Fc領域を有するH1009/L395-F1886sは、同等のヒトIL-8消失効果を有することが示された。
次に、H1009/L395-F1886sの抗体投与量を変化させた場合は、投与後1日の時点での血漿中IL-8濃度には若干の差が見られたものの、ヒトIL-8クリアランスの値としては2 mg/kgと10 mg/kgとで有意な差は見られなかった。このことは、H1009/L395の可変領域を含む抗体は、高用量で投与された場合でも十分なIL-8消失効果を示すことを強く示唆する。
【0244】
【0245】
(15-4)Fc領域改変体のカニクイザルPK試験
次に、H1009/L395-F1886s及びH1009/L395-F1974mを用いて、カニクイザルにおける抗体の血漿中滞留性を以下に示す方法で検証した。
カニクイザルに、抗ヒトIL-8抗体単独、又はヒトIL8及び抗ヒトIL-8抗体を同時に投与した後の、抗ヒトIL-8抗体の体内動態を評価した。抗ヒトIL-8抗体溶液(2 mg/mL)又は、ヒトIL-8(100 μg/kg)及び抗ヒトIL-8抗体(2 mg/kg)の混合溶液を1 mL/kgで単回静脈内投与した。投与5分後、4時間後、1日後、2日後、3日後、7日後、10日後、14日後、21日後、28日後、35日後、42日後、49日後、56日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで10分遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-60℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
カニクイザル血漿中の抗ヒトIL-8抗体濃度の測定は、実施例14に記載の方法で実施した。結果として得られた、血漿中抗ヒトIL-8抗体濃度のデータを
図29に、またカニクイザル血漿中からの抗ヒトIL-8抗体の半減期(t1/2)及びクリアランス(CL)の数値を表21に示す。
まず、天然型ヒトIgG1のFc領域を有するHr9及びH89/L118と比較して、機能が改良されたFc領域を有するH1009/L395-F1886sは、血漿中滞留性が有意に向上していることが示された。
更に、H1009/L395-F1886sは、ヒトIL-8と同時に投与された場合においても、抗体単独で投与された場合と同等の血漿中濃度推移を示した。特に限定されることは無いが、このことから、次のように考察することも可能である。先述の通り、H1009/L395とヒトIL-8との複合体の細胞内への取込みはH1009/L395単独の取込みよりも増加していることが示されている。一般的に、高分子量のタンパク質は、非特異的あるいは受容体依存的に細胞内に取り込まれた後、ライソソームへと移行し、ライソソームに存在する各種の分解酵素によって分解されると考えられている。そのため、当該タンパク質の細胞内への取り込み速度が上昇すれば、その血漿中滞留性も悪化する方向に進むことが考えられる。しかしながら、抗体の場合は、エンドソーム内に存在するFcRnによって血漿中へと戻される性質を有するため、FcRnによるサルベージ機能が十分に働いている限りにおいて、細胞内取り込み速度が増加した場合においても、血漿中滞留性には影響しないことが考えられる。ここで、H1009/L395-F1886sは、ヒトIL-8と同時にカニクイザルに投与された場合においても、血漿中滞留性への影響は見られなかった。このことは、H1009/L395-F1886sは、抗体の細胞内取り込み速度は増加しても、FcRnによって十分にサルベージされ、血漿中へと戻ってくることができている可能性を示している。
更に、もう一種類のFc領域改変体であるH1009/L395-F1974mも、H1009/L395-F1886sと同等の血漿中滞留性を示していた。先述の通り、これらのFc領域改変体は各種FcγRへの結合能を低下させるための改変として、異なるものが導入されているが、それらは抗体自身の血漿中滞留性に影響を与えることがないことを示している。以上のことから、H1009/L395-F1886s及びH1009/L395-F1974mのいずれも、カニクイザルにおける血漿中滞留性は、天然型IgG1のFc領域を有する抗体と比較して顕著に改善し、極めて良好であることが示された。
【0246】
【0247】
以上の実施例から示されたように、H1009/L395は、pH依存性IL-8結合能を有し、またIL-8との複合体が細胞内に速やかに取り込まれるという性質を有することにより、ヒトIL-8の生体内での消失速度を顕著に上昇させることが可能な抗体として、初めて実現されたものである。更に、中性pH条件下におけるIL-8への結合親和性もまた公知のhWS-4抗体と比較すると上昇しており、血漿中などの中性pH条件下においてより強くヒトIL-8を中和することが可能である。加えて、血漿中の条件下において優れた安定性を有し、生体内に投与された後もIL-8中和活性が低下しない抗体である。また、hWS-4と比較すると産生量が大幅に改善したHr9を基に作製されたH1009/L395は、産生量の観点から製造に適した抗体となっている。更には、in silicoの免疫原性予測では、その免疫原性は非常に低いスコアを示しており、公知のhWS-4抗体や既存の市販抗体のいくつかと比較しても大幅に低い。即ち、H1009/L395はヒトにおいてADAができにくく、長期にわたって安全に使用することが可能な抗体であると期待される。これらのことから、H1009/L395は、公知の抗ヒトIL-8抗体と比較して、様々な観点からの改善が示された抗体であり、医薬品として非常に有用である。
天然型IgGのFc領域を有するH1009/L395は、上記の通りに十分に有用であるが、機能が改良されたFc領域を含むH1009/L395の改変体もまた、その有用性が高められた抗体として適宜使用することが可能である。具体的には、酸性pH条件下におけるFcRn結合を増強させ、血漿中滞留性を改善し、より長期間にわたり効果を持続することも可能になる。また、FcγRへの結合能を低下させる改変が導入されたFc領域を含む改変体は、投与された生体内での意図せぬ免疫系細胞の活性化や細胞傷害活性などの発生を回避し、安全性の高い抗体医薬品として使用することが可能となる。このようなFcとしては、当明細書中で実施されたF1886s又はF1974mを用いることが特に好ましいが、これらのFcに限定されるということはなく、同様の機能を有している限り、他の改変Fc領域含む抗体医薬品も本開示の一実施態様として使用される。
結果として、H1009/L395-F1886s、H1009/L395-F1974m等を含む本開示における抗体は、長期間にわたって、かつ安全に、ヒトIL-8の生物学的活性を強く阻害し得る状態を維持することが可能である。これは、既存の抗IL-8抗体では達成し得ないレベルを実現しており、極めて完成度の高い抗IL-8抗体医薬品として、その使用が期待されるものである。
【0248】
〔実施例16〕子宮内膜症患者の嚢胞液中のIL-8濃度測定
子宮内膜症におけるIL-8の関与を確認するため、子宮内膜症患者の嚢胞液中のIL-8濃度を測定した。サンプルは、自治医科大学で手術適応の子宮内膜症患者から術後組織の嚢胞液を回収し、1次匿名化ののち、中外製薬にて2次匿名化を行った。嚢胞液中のIL-8濃度は電気化学発光法にて測定された。まず、抗ヒトIL-8抗体(Hycult Biotech)をビオチン標識した後に、5%BSA(w/v)を含有したPBS-Tween溶液を用いて2時間ブロッキングされたMSD GOLD 96-Well Streptavidin SECTOR Plate(Meso Scale Discovery)に分注して室温・暗所で1時間撹拌することによって、抗ヒトIL-8抗体固相化プレートが作成された。嚢胞液中濃度として900、300、100、33.3、11.1、3.70、1.23 pg/mLのヒトIL-8 (NP_000575.1を参照し社内調整)を含む検量線試料と5倍以上希釈されたヒト嚢胞液測定試料が調製され、抗ヒトIL-8抗体固相化プレートの各ウェルに25 μLで分注されてから、室温・暗所で1時間撹拌させた。その後、SULFO-TAG Labeled抗ヒトIL-8抗体(社内調製品)を室温・暗所で1時間反応させた後、Read Buffer T(×1)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR Imager 2400(Meso Scale Discovery)で測定を行った。ヒトIL-8濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFT Max PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。
その結果、
図30に示すように、子宮内膜症患者の嚢胞液中のIL-8濃度は10000 pg/mL以上と非常に高濃度であることが判明し、子宮内膜症におけるIL-8の重要性が示唆された。
【0249】
〔実施例17〕子宮内膜症外科的誘引サルモデルの作製と病態評価
子宮内膜症における抗IL-8抗体の薬効を評価するため、子宮内膜症外科的誘引モデルを作製し、評価を行った。病態モデルの作製は以下のように行った。
性周期が定期的である8-14歳齢のメスカニクイザル(医薬基盤・健康・栄養研究所 霊長類医科学研究センターより入手)に対し、黄体期該当期間中に麻酔下で開腹を行い、子宮体部をV字に切開して切除した。次に子宮の平滑筋層を残して5 mm~10 mm角にトリミングし、子宮内膜部分が腹膜に接するように右腹壁腹膜に1か所、左腹壁腹膜に2か所(頭側、尾側)に吸収糸にて縫合し、移植部とした。切除後の子宮は吸収糸にて縫合した。さらに残りの内膜組織を細切し5 mLの2 ng/mL Hepatocyte Growth Factor溶液(R&D systems社製) に懸濁し、腹腔内に播種移植し、閉腹した。麻酔はケタミンキシラジンのバランス麻酔(2:1の比率を目安に混合)を用いるが、麻酔維持時間によってはイソフルレンで維持した。術中はヒーティングパットにより体温維持管理を行い、心電図により状態を管理した。術後の覚醒時には拮抗薬のアンチセダン(キシラジン量と同量を目安に)と抗生剤のセファラジンを投与、鎮痛剤のザルバンを術後2日間投与し、毎日の定期観察で術後の異常がないことを確認した。なお腹腔鏡観察時も同様に麻酔と術後管理を実施した。
【0250】
上述の手術による子宮内膜症の外科的な誘引4ヶ月後、9ヶ月後(投与3ヶ月後)、12ヶ月後(投与6ヶ月後)に腹腔鏡観察を行い、子宮内膜症の病態を以下のように評価した。
腹腔鏡観察は、腹部正中を麻酔下で切開し、トローカーを刺入し、腹腔鏡を挿入した。腹腔鏡はビデオシステム(カールストルツ社製)並びにモニターに接続され、腹腔内の観察はモニターで行い、記録はビデオシステムで行った。次に、高速気腹装置(OLYMPUS社製)を用いて二酸化炭素ガスを腹腔内に充満させ腹部を拡張し、目盛り付バーや鉗子を腹側部から挿入した。病変のサイズは目盛りのついたバーあるいは目盛りのついた鉗子を用いて測定した。
子宮内膜組織の縫合によって形成された結節性病変(nodular lesion)のサイズ(縦、横、高さ)を測定し、縦(mm) x 横 (mm) x 高さ(mm)から体積を算出した。子宮内膜組織の細切後、播種によって形成された病変部位と癒着に対しては、臨床で使用されているr-AFS scoreをサル用に改変したmodified r-AFS scoreに則って、癒着の場所、範囲、深さおよび病変のサイズを腹腔鏡観察時に評価した。Modified r-AFS scoreは、
図31に示すように、サル用に以下2点の改変を行った。
1.サルモデルでは膀胱への癒着頻度がヒトよりも高いため、膀胱子宮窩への癒着項目を追加した。膀胱への癒着の評価方法は、ダグラス窩の癒着と同様のスコアリングとした。
2.サルはヒトより体と臓器の大きさが小さいため、病変サイズのクライテリアを<3 mm, 3-10 mm, >10 mmに変更してスコアリングした。
後日ビデオシステムを用いて録画した腹腔鏡観察動画を確認して腹腔鏡による評価を最終化した。
誘引4ヶ月後の腹腔鏡観察結果をもとに、基準を満たした個体を選択し、群分けを行った。採用基準は以下の通りである。
1.誘引4ヶ月後に腹腔鏡観察を行い移植内膜の生着が確認できること
2.誘引後投与前期間中に3回以上の月経出血が確認できること
群分けは、2回に分けて実施し、個体ごとの結節性病変の平均体積と測定可能であった病変数をもとにランダマイズを行い、最終的にvehicle群に6頭, 抗体H1009/L395-F1974m投与群に7頭割り付けた。最終的に割り付けられた全個体のデータを用いて、群間に偏りが無いことをKraskal-Wallis検定により確認した。項目は結節性病変の体積(病変ごと)、体重、size r-AFS score, adhesion r-AFS scoreを確認した。
【0251】
【0252】
誘引6ヶ月後から投与を開始し4週毎に、6ヶ月、6回投与を行った。抗体投与群としてH1009/L395-F1974mを10 mg/kg静脈注射、Vehicle群としてHis Buffer (20 mM His-Asp, 150 mM Arg-Asp (pH6.0))を皮下投与した。投与開始から3ヶ月ごとの初回投与後3ヶ月、6ヶ月時に腹腔鏡観察を行い、子宮内膜症の病態を評価した。
投与開始から6ヶ月後の最終腹腔鏡観察後、追加麻酔して放血、安楽死処置したのち、剖検を行い、移植部を含めた骨盤内臓器(左右卵巣、左右卵管、左右卵管間膜、左右卵管采、左右子宮広間膜、子宮、膣、ダグラス窩、膀胱子宮窩)を採取した。採取した組織は10%中性緩衝ホルマリン液で固定し、パラフィン包埋薄切組織標本 でヘマトキシリン・エオジン[H・E]染色を実施した。組織および縫合由来病変に割を入れて嚢胞液が貯留している場合は嚢胞液も採取した。
【0253】
腹腔鏡観察の結果、Vehicle対照群において、誘引4ヶ月後には子宮内膜組織の縫合によって形成された結節性病変の形成、さらに、誘引12ヶ月後(投与6ヶ月後) には、結節性病変とその近傍に黒色の嚢胞形成が観察された。また、子宮内膜組織の細切後、播種したことによって、ダグラス窩や膀胱において癒着の形成が確認された(
図32)。また、誘引12ヶ月後の剖検時に採取したVehicle群の組織標本をH・E染色したところ、
図33に示すように、移植した子宮内膜組織(初期移植片)の近傍に増殖性を示す内膜上皮が高度に形成され、腹壁筋層にまで形成されている事が確認された。内膜上皮の周囲は多層のstroma細胞および膠原繊維が豊富なinterstitiumによって構成され、ヒトの子宮内膜症組織構造と類似した構造形態が観察された。これらの結果から、本モデルが子宮内膜症モデルとして有用であることを確認した(12
th World Congress on Endometriosis, 2014, P-221)。同様に、子宮内膜症の外科的誘引モデルとして、ヒヒを用いた方法も報告されている(Fertil Steril. 2013;99(3):783-789, Fertil Steril. 2013;100(4):1144-50)。
【0254】
また、誘引12ヶ月後(投与6ヶ月後)の最終腹腔鏡観察後、剖検を行い、貯留していた嚢胞液を採取し、Vehicle群の嚢胞液中のIL-8濃度を電気化学発光法により測定した。まず、抗体H1009/L395-F1974m溶液をMULTI-ARRAY 96-well Plate(Meso Scale Discovery)に分注して4℃で1晩静置することによって、抗体H1009/L395-F1974m固相化プレートを作製した。バッファー中濃度として269、108、43.0、17.2、6.89、2.75、1.10 pg/mLのサルIL-8(XM_005555087. 1を参照し社内調整)を含む検量線試料と50倍以上希釈されたサル嚢胞液測定試料を調製し、抗体H1009/L395-F1974m固相化プレートの各ウェルに分注してから、室温・暗所で2時間撹拌させた。その後、ウサギ抗IL-8抗体(Hycult Biotech)を室温・暗所で1時間反応させた。続いて、SULFO-TAG Labeled抗ウサギ抗体(Meso Scale Discovery)を室温・暗所で1時間反応させた後、Read Buffer T(×1)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR Imager 2400(Meso Scale Discovery)で測定を行った。サルIL-8濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFT Max PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。その結果、表23に示すように子宮内膜症外科的誘引サルモデルの嚢胞液においても、ヒト子宮内膜症患者の嚢胞液と同様にIL-8が非常に高濃度である事が確認された。本所見は、本サルモデルがヒト子宮内膜症への外挿性が高いことをサポートする。さらに、各個体の嚢胞液中のIL-8濃度とadhesion r-AFS scoreの相関性を調べたところ、興味深いことに、
図34-1のように、嚢胞液中のIL-8濃度とadhesion r-AFS scoreにおいて相関する傾向がみられた。なお、各個体で複数の嚢胞液中IL-8濃度を測定できた場合は、最も高い値を代表値とした。この結果から、子宮内膜症の癒着に対するIL-8の関与が示された。
【0255】
【0256】
抗体H1009/L395-F1974m投与群とVehicle群において、投与開始6ヶ月後、腹腔鏡観察により薬効を検討した。解析にあたり、6ヶ月の投与期間中に月経出血の確認が3回に満たなかった個体に関しては、解析の対象外とした。本試験の個体のうち、抗体H1009/L395-F1974m投与群#117 (10 mg/kg群)の1頭が該当し、解析から除外した。なお、当業者に公知の方法にしたがい、抗体H1009/L395-F1974m投与群において抗抗体の検出を行ったところ、6頭中2頭において抗抗体が検出され、血中トラフAPI濃度の低下が認められた。以下の解析は、抗抗体陽性の個体も含め、実施した。
まず、子宮内膜組織の縫合によって形成された各結節性病変一つずつの体積を算出し、継時的な変化及び大きさによって以下の表24のように分類した。癒着によって評価できないなど、経時的な評価ができていない場合は、該当箇所を解析に含めなかった。
【0257】
【0258】
その結果、表25に示すように、vehicle群では増殖を示すtype A及びtype Bの頻度が54%(7/13病変)と高く、減少を示すtype Dは15%(2/13病変)と低かったのに対して、抗体H1009/L395-F1974m投与群では減少を示すtype Dの頻度が58%(7/12病変)と高いという結果が得られ、抗体H1009/L395-F1974m投与による結節性病変の縮小効果が示された。
【0259】
【0260】
また、個体ごとの結節性病変の相対体積を、次の計算方法で算出し、抗体H1009/L395-F1974mの結節性病変に対する薬効について評価した(結節性病変の相対体積 (%) = 投与開始から6ヶ月の採用病変の体積の合計 / 投与開始2ヶ月前の採用病変の体積の合計)× 100)。その結果を
図34-2に示す。Vehicle群の結節性病変の相対体積は、141%(67-331)(中央値 (最小値-最大値))であった。また、抗体H1009/L395-F1974m投与群は49%(15-156)であった。Vehicle群と比較して抗体H1009/L395-F1974mの投与により、結節性病変の有意な縮小が認められた(P = 0.0492)。なお、統計解析として、パラメトリックなt検定(有意水準はP<0.05)を使用した。この結果から、抗IL-8抗体による結節性病変の体積の増殖抑制効果が示された。
【0261】
続いて、子宮内膜組織の細切後、播種によって形成された病変部位と癒着に対して、modified r-AFS scoreに則って評価を行い、抗体H1009/L395-F1974m投与群(N=6)とVehicle群(N=6)において薬効を検討した。各個体で抗体投与前と抗体投与後においてどの位変化したか、Change of modified r-AFS scoreを下記の通り算出し、その結果を
図35-1に示した。
Change of total r-AFS score=total r-AFS score(投与後)- total r-AFS score(投与前)
Change of adhesion r-AFS score=adhesion r-AFS score(投与後) - adhesion r-AFS score(投与前)
Change of size r-AFS score=size r-AFS score(投与後) - size r-AFS score(投与前)
【0262】
抗体H1009/L395-F1974m投与群のChange of total r-AFS score とChange of adhesion scoreは、vehicle群と比較して明らかに減少を示した(p=0.0070、p= 0.0096)。Change of size r-AFS scoreに対しても、vehicle群と比較して、抗体H1009/L395-F1974m群では減少傾向が見られた。統計解析は、統計解析ソフトウェア(SAS Institute社製)を用いてノンパラメトリックSteel検定(有意水準は両側5%)で解析した。本結果で、抗体H1009/L395-F1974m投与によりChange of adhesion scoreに有意な減少が見られたこと、および、先の
図34-1で示したように嚢胞液中のIL-8濃度とadhesion r-AFS scoreに相関傾向が見られたことから、子宮内膜症の癒着にIL-8が強く関与しており、子宮内膜症の癒着改善に対する抗IL-8抗体の有用性が示された。
【0263】
図35-1には、腹腔鏡手術時に撮影した画像に基づき評価したchange of modified r-AFS scoreを示した。腹腔鏡手術時に施術者により記録されたスコア値に基づくtotal modified r-AFS scoreを
図35-2に示す。なお、初回投与2ヶ月前のスコア値を、投与前スコアとして使用した。群ごとの投与前後のtotal modified r-AFS scoreの変化について、対応のあるペアに対するWilcoxon符号順位検定で統計解析を実施した結果(有意水準はP<0.05)、vehicle群で投与後のスコアが有意に増加していたが(P = 0.0313)、抗体H1009/L395-F1974m投与群ではスコアに変化がなかった(P = 0.875)。Total modified r-AFS scoreは子宮内膜症の病態の悪性度を示すことから、この結果から、抗IL-8抗体による、子宮内膜症の病態悪化に対する抑制効果が示された。
【0264】
最終腹腔鏡観察後、剖検時に採取した移植部および移植片をH・E染色し、光学顕微鏡で病理組織学的に観察した。その結果、
図36に示すように、Vehicle群と比較して、抗体H1009/L395-F1974m投与群では増殖性を示す上皮およびstroma細胞の萎縮性変化や膠原繊維を主体とするinterstitiumの減少が確認され、特に抗抗体陰性の血中API濃度が維持できた個体で効果が強く見られた(表26)。Vehicle群の中には結節性病変の体積が減少傾向を示すtype Dの病変(#102-L2, #115-R)があったものの、結節性病変の病理結果からは萎縮やinterstitium減少は確認されず病変は維持されていた。抗体H1009/L395-F1974m投与群の中で結節性病変の体積が増加傾向を示すtype Bを示すものがいたが、結節性病変の病理結果から #106-L1はstromaの萎縮性変化やinterstitium減少が確認され、病態の改善が確認できた。また、ヘモジデリンはVehicle群で56% (9/16)で観察され、抗体投与群では24% (4/17)でしか見られなかったことから、マクロファージあるいは単球が抗体投与によって浸潤抑制されている事が示唆された。さらに、抗体投与群ではvehicle群では見られない筋組織の再生がみられたことから、筋層まで浸潤した病変が退縮し、筋肉組織に置き換わって戻っていることを示唆するデータが得られた。腹壁筋層まで浸潤した子宮内膜症腺管の有無で、深在性病変(deep lesion)の有無を確認したところ、vehicle群と抗抗体陽性個体も含めた抗体H1009/L395-F1974m投与群であまり差異は見られなかったものの、抗抗体陽性個体を除くと、Vehicle群で5/18病変で確認されたのに対し、抗体H1009/L395-F1974m投与群では1/11病変と、頻度が少なかった。深在性病変の形成に対しても抑制効果があることが示唆された。
【0265】
【0266】
さらに、抗体H1009/L395-F1974mの改変前抗体に該当する抗体H89/L118-F22についても、同様に外科的誘引サルモデルで薬効評価を行ったところ、抗体H89/L118-F22投与群においても、増殖性を示す上皮およびstroma細胞の萎縮、膠原繊維を主体とするinterstitiumの減少が確認された。
これらの結果から、抗IL-8抗体が子宮内膜症病変体積の縮小、癒着の改善、上皮およびstroma細胞の萎縮性変化、免疫細胞の浸潤減少、線維化改善に対して薬効を有することが確認され、抗IL-8抗体が子宮内膜症治療剤として有用であることが示された。この結果から、IL-8シグナル阻害剤が子宮内膜症の治療剤または予防剤として有用であることを当業者は当然に理解できよう。
【0267】
〔実施例18〕子宮腺筋症に対する抗IL-8抗体の薬効
子宮内膜症外科的誘引サルモデルにおいて、抗体投与開始から6ヶ月後の最終腹腔鏡観察後、剖検して採取した子宮を10%中性緩衝ホルマリン液で固定し、 H・E染色して観察した。子宮内において、子宮腺筋症と類似した子宮内膜組織がVehicle群で1例、抗体投与群で1例ずつ強く認められた。これら2例のカニクイザルで認められた子宮内膜組織は、子宮筋層内において子宮内膜腺とそれを囲む子宮内膜間質が存在し、ヒト子宮にみられる子宮腺筋症の病理学的特徴を有していたことからヒト子宮腺筋症併発モデルであると判断し、これら1例ずつの子宮筋層内の子宮内膜組織を比較した。
図37に示すように、Vehicle群と比較し、抗体H1009/L395-F1974m投与群において子宮腺筋症病変部の内膜上皮の萎縮ならびにstroma細胞の減少と萎縮が認められた。本所見により、抗IL-8抗体が子宮腺筋症に対しても抑制効果があることが示された。この結果から、IL-8シグナル阻害剤が子宮腺筋症の治療剤または予防剤として有用であることを当業者は当然に理解できよう。
【0268】
〔実施例19〕子宮内膜症組織におけるCXCR1、CXCR2発現解析
ヒトIL-8の受容体として、CXCR1およびCXCR2が知られている。子宮内膜症病変部において、IL-8が作用する細胞を調べるため、マウス抗ヒトCXCR1モノクローナル抗体(R&D Systems,カタログ番号:42705)ならびにマウス抗ヒトCXCR2モノクローナル抗体(Abcam, カタログ番号:19)を用いて、手術摘出ヒト子宮内膜症組織のパラフィン包埋ブロックを用いて免疫組織化学的染色を行った。これらのパラフィンブロックから薄切組織切片を作成し、上記抗CXCR1ならびに2抗体を一次抗体としてインキュベーションした後、二次抗体としてポリマー-HRPと結合したヤギ抗マウスIgG抗体(Dako)と反応させ、ジアミノベンジジン(和光純薬工業株式会社)で可視化した。その結果、表27に示すように、CXCR1とCXCR2がstroma細胞において陰性であることが確認された。一方で、組織内に浸潤している好中球やヘモジデリン沈着したマクロファージ、単核球においてはCXCR1, CXCR2ともに陽性であること、上皮細胞においても発現が弱陽性~陽性であることが確認された。また、血管内皮細胞においても、CXCR1, CXCR2ともに弱陽性が確認された。本所見は、子宮内膜症上皮細胞に対するIL-8の直接的な薬理作用と、好中球やマクロファージなどの浸潤免疫細胞を介した薬理作用がある可能性を示している。
【0269】
【0270】
〔実施例20〕外科的手術後の癒着に対する抗IL-8抗体の薬効
上述の子宮内膜症外科的誘引カニクイザルモデルにおいて、誘引のための開腹手術後に生じた、子宮内膜症による癒着とは別の腹壁切開部位周囲への癒着が、誘引4ヶ月後(抗体投与2ヶ月前)の腹腔鏡観察時に全個体で見られた。外科的手術後の癒着に対する抗IL-8抗体の薬効を調べる為、個体番号を匿名化し、投与2ヶ月前の腹腔鏡観察所見と投与開始から6ヶ月後の最終腹腔鏡観察の写真を比較して、腹壁切開部位周囲への癒着の評価を実施した。具体的には腹壁切開部位周囲への癒着を投与前後で比較し、(1)改善(Improved)、(2)不変(Stable)、(3)悪化(Progressed)、の三段階評価を5人の評価者で行った。判定は評価者5人のうち3人以上で評価が一致したものを採用し、それ以外のものは(2)不変、とした。Vehicle群6頭と、抗体H1009/L395-F1974m投与群7頭について評価した。
図38にVehicle群と抗体H1009/L395-F1974m投与群の代表的な腹腔内写真を示す。表28に示すように、Vehicle群では6頭のうち5頭が不変、1頭が悪化したのに対して、抗体H1009/L395-F1974m投与群では7頭のうち1頭が悪化したものの6頭が改善した。悪化した1頭は抗抗体が産生され血中のH1009/L395-F1974m抗体濃度が低下した個体であった。本所見により、抗IL-8抗体が外科的手術後の癒着改善治療薬あるいは癒着予防剤として有用であることが示唆された。この結果から、IL-8シグナル阻害剤が癒着治療剤または予防剤として有用であることを当業者は当然に理解できよう。
【0271】
【0272】
〔実施例21〕好中球の単離及びIL-8による好中球の遊走性評価
IL-8は好中球走化能を有し、損傷組織で産生されるIL-8は血管内皮細胞に接着した好中球の組織への遊走を促進し、好中球浸潤に伴う炎症が惹起されると言われている。表27で示す通り、子宮内膜症病変部位においても、好中球やマクロファージ、単核球の浸潤が確認され、これら免疫細胞においてCXCR1, CXCR2は発現がともに陽性であった。また、上皮細胞においても発現が弱陽性~陽性であったことから、子宮内膜症上皮細胞に対するIL-8の直接的な薬理作用と、好中球やマクロファージなどの浸潤免疫細胞を介した薬理作用がある可能性が示された。そこで、まず、好中球におけるIL-8に対する遊走性を評価した。好中球を健常人の末梢血から採取し、単離、精製を次のように行った。
ヘパリン処理した全血に1/5量のHetaSep(STEMCELL Technologies社製)を加え、製品プロトコルに従って、有核細胞を含む上清を回収後、ACK solution(GIBCO社製)を加えて溶血した。溶血後、0.1%BSA/PBSに懸濁し、細胞数を計測した。細胞数計測後、細胞数を調整し、EasySep(登録商標) Human Neutrophil Enrichment Kit (STEMCELL technologies社製)を使用して、製品プロトコルに従いEasySep(登録商標) Magnet(STEMCELL technologies社製)により好中球を単離した。単離後の好中球は、抗CD66b抗体、抗CD45RA抗体を使用し、FACSにより精製度に問題ないことを確認した。
単離した好中球は、CytoSelect(登録商標) 96-Well Cell Migration Assay(Cell Biolabs社製、カタログ番号:CBA-104)のMigration Plateを使用して遊走性を評価した。メンブレン下層のfeeder trayに1%FBS又は1%FBS+IL-8 (100 ng/mL)に、各種抗体、化合物、もしくは溶媒対照を添加したRPMI-1640培地(SIGMA社製)を150 μL加えた。評価対象として、抗体はH1009/L395-F1974mのほか、抗IL-8中和抗体であるAnti-IL-8抗体[807](abcam社製、カタログ番号:ab18672)、Anti-IL-8抗体[6217] (abcam社製、カタログ番号:ab10768)、陰性対照としてIgG1(シグマ社製、カタログ番号:I5154)をそれぞれ10 μg/mL、化合物はCXCR2阻害剤であるSRT3109(Shanghai Haoyuan Chemexpress社製、カタログ番号:HY-15462)を10 μM、溶媒対照としてPBS、DMSOを置いた。メンブレン上層のmembrane chamberには無血清のRPMI-1640培地に懸濁した好中球細胞を50000 cells/wellとなるよう播種した。2時間のincubation後、下層のfeeder trayに遊走した生細胞数(好中球)をCellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega社製)を用いて相対化学発光量から検出した。IL-8を添加していないwellの相対化学発光量平均を1とし、各試薬添加時における相対化学発光量の相対値を算出した結果を
図39に示した。
その結果、IL-8による好中球の遊走促進と、各種抗IL-8中和抗体およびCXCR2阻害剤による好中球の遊走阻害が確認された。本結果から、IL-8阻害剤のみならず、IL-8シグナル阻害に関与することが知られているCXCR1阻害剤やCXCR2阻害剤などのIL-8シグナル阻害剤が幅広く好中球遊走を抑制することが高い蓋然性をもってサポートされた。したがって、IL-8シグナル阻害剤は、子宮内膜症をはじめIL-8が高濃度である病変部に浸潤する好中球に対しても同様に浸潤抑制する事が高い蓋然性をもって示唆された。よって、当業者は、IL-8シグナル阻害剤が子宮内膜症ならびにIL-8が高濃度で知られる炎症性疾患を予防できることをこれらの結果から一般化し、拡張化して十分に理解できよう。
【0273】
〔実施例22〕子宮内膜症細胞に対する好中球の作用
次に、子宮内膜症病変部に浸潤した好中球が子宮内膜症細胞に対しどのように働くかを調べた。子宮内膜症細胞は、次のように得た。手術摘出ヒト子宮内膜症組織を0.5 mg/mLコラーゲナーゼ、0.1 mg/mL DNase1を含むDMEM/F-12, HEPES(GIBCO社製)培地内で細切し、37℃でインキュベーションして細胞を回収した。細胞懸濁液を100 μmセルストレイナーに通した後、Lysing Buffer (BD Biosciences) により溶血した。溶血後、細胞を播種し、継代したものを子宮内膜症細胞として液体窒素中で凍結保存した。培養にはDMEM/F-12, HEPESに10%FBS, 2.5 μg/mLアムホテリシB, 100U/mLペニシリン, 100 μg/mLストレプトマイシンを添加したものを使用した。実験には、凍結保存した細胞を起眠して使用した。
上記の方法で得た子宮内膜症細胞に対し、好中球培養上清を添加し、子宮内膜症細胞における反応性を調べた。好中球培養上清は、好中球を単離後、1%FBSを含むRPMI-1640培地に懸濁し、6well plateに3.0 x10
6 cells/wellで播種し、1日培養した培養上清を回収した。96well plateに子宮内膜症細胞を10000 cells/wellで播種し、培地の半量を回収した好中球培養上清となるよう添加した。対照群(本実施例において、「Ctrl」ともいう。)には同様に培地の半量を、1%FBSを含むRPMI-1640培地となるよう添加した。8時間後、培地を除去し、RNeasy 96 Kit (QIAGEN社製)を使用し、製品プロトコルに従ってRNAを精製した。精製RNAはSuperScript(登録商標) VILO(登録商標) MasterMix(Invitrogen社製)を使用してcDNAを合成し、リアルタイムPCR法によりアロマターゼのmRNA発現量を比較した。アロマターゼのプローブには、TaqmanプローブのHs00903411_m1 (Thermo Fisher社製)を使用し、GAPDHの測定にはHuman GAPD(GAPDH) Endogenous Control(Applied Biosystems 社製、カタログ番号:4326317E)を使用した。
図40に、アロマターゼの発現量をGAPDHで補正後、Ctrlを1としたときのアロマターゼの相対発現量を示した。好中球培養上清を添加した子宮内膜症細胞では、アロマターゼの発現量の亢進が確認された。
アロマターゼはエストロゲン合成酵素であり、エストロゲンが子宮内膜症上皮細胞の増殖を促進することが知られている。好中球培養上清の添加により、子宮内膜症細胞中のアロマターゼ発現が亢進していたことから、好中球が子宮内膜症病変部に浸潤することで、子宮内膜症細胞におけるアロマターゼ発現量が亢進し、子宮内膜症上皮細胞の増殖が亢進する事が示唆された。したがって、IL-8シグナル阻害剤により、子宮内膜症病変部への好中球浸潤を抑制することで、子宮内膜症上皮細胞の増殖が抑制される事が推察される。子宮内膜症の外科的誘引サルモデルにおいても、抗体H1009/L395-F1974m投与群では増殖性を示す上皮細胞の萎縮が確認されたことからも、上記考察がサポートされた。
【0274】
〔実施例23〕好中球産生ケモカイン、サイトカインの解析
次に、好中球においてどのようなケモカインやサイトカイン、増殖因子が産生されているのかをIL-8添加・非添加時、抗IL-8抗体添加時で、解析した。単離した好中球を、1%FBSを含むRPMI-1640培地に懸濁し、6well plateに1.5 x10
6 cells/wellずつ播種した。これに、IL-8を添加・非添加、もしくはIL-8と各種抗体を添加し、1日培養した。抗体は、H1009/L395-F1974m、Anti-IL-8抗体[807](ab18672)、IgG1をそれぞれ終濃度10 μg/mL、IL-8は終濃度100 ng/mLとなるように添加した。1日後、細胞培養液を回収し、Cytokine Human Magnetic 30-Plex Panel for the Luminex(登録商標) platform(Thermo Fisher社製)を用いて、製品プロトコルに従い細胞培養液中の複数の各種サイトカイン、ケモカイン及び増殖因子の濃度を調べた。
その結果、
図41に示すように、細胞培養液中のMCP-1(monocyte chemoattractant protein 1)濃度において、IL-8添加により強い上昇がみられ、抗IL-8中和抗体により上昇が抑制された。
MCP-1はCCL2とも呼ばれ、単球走化能を有し、炎症局所への単球の遊走及び浸潤を促進すると言われている。表26で示した通り、子宮内膜症の外科的誘引サルモデルの結節性病変部において、ヘモジデリンが抗体H1009/L395-F1974m投与群において減少していたことから、マクロファージあるいは単球が抗体投与によって浸潤抑制されている事が示唆された。本結果により、好中球をIL-8刺激することで単球走化能を持つMCP-1が産生されたことから、IL-8により子宮内膜症病変部に好中球が浸潤し、さらにMCP-1を産生することで、単球およびマクロファージがさらに病変部位へ遊走、浸潤する可能性が示された。
さらに、MCP-1は、線維芽細胞に働きコラーゲン産生を促進する働きが知られており(J Biol Chem. 1996 Jul 26;271(30):17779-84.)、組織の線維化を亢進する事がin vivoにおいても多数報告されている(J Immunol. 1994 Nov 15;153(10):4733-41、Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2004 May;286(5):L1038-44、J Invest Dermatol. 2003 Sep;121(3):510-6.)。IL-8により子宮内膜症病変部に好中球が浸潤し、さらに好中球がMCP-1を産生することで、単球およびマクロファージの遊走、浸潤の促進に加えて、子宮内膜症病変部の線維化に対しても促進する可能性が示された。本結果から、IL-8シグナル阻害剤により、好中球浸潤を抑制することにより、子宮内膜症病変部における線維化が改善される事が示唆された。実際に、子宮内膜症外科的誘引サルモデルの結節性病変部においても、
図36および表26で示した通り、抗体H1009/L395-F1974m投与群において膠原線維を主体とするinterstitiumの減少が確認され、線維化改善に対して薬効を有することが確認された。以上のことから、IL-8シグナル阻害剤が子宮内膜症の線維化に対して有用であることが高い蓋然性をもってサポートされた。当業者は、IL-8シグナル阻害剤が、子宮内膜症の線維化、さらには各種線維化症に対しても治療または予防できることをこれらの結果から一般化し、拡張化して十分に理解できよう。
【0275】
〔実施例24〕術後癒着誘引サルモデルの作製と病態評価
(24-1)術後癒着誘引サルモデルの作製
術後癒着誘引モデルを作製するために、9-16歳齢のメスのカニクイザル(医薬基盤・健康・栄養研究所 霊長類医科学研究センターより入手)に対し、麻酔下で以下の作業を行った。麻酔はケタミンキシラジンのバランス麻酔(2:1の比率を目安に混合)とイソフルランを用いた。腹壁正中線を5 cm~6 cm切開し開腹後、子宮体部を1 cm切開し単糸で4針縫合した後ガーゼで子宮全体を5回拭った。次に切開した腹壁正中線より2 cmの右腹壁腹膜部分を1 cm切開し、吸収糸にて4針連続縫合した。また、縫合後はガーゼで縫合部分を5回拭った。同様に左腹壁腹膜も切開、縫合、ガーゼで拭った。最後は腹壁正中線を連続縫合で10針~11針縫合し、すべての作業を1時間以内で終了した。術後の覚醒時には拮抗薬のアンチセダン(キシラジン量と同量を目安に)と抗生剤のセフラジンを投与した。また、鎮痛剤のザルバンを術後2日間投与し、毎日の定期観察で術後の異常がないことを確認した。なお腹腔鏡観察時も同様に麻酔と術後管理を実施した。
【0276】
(24-2)術後癒着誘引モデルにおける抗IL-8抗体の薬効評価
抗IL-8抗体投与群の動物に対し、上述の術後癒着誘引手術後、1時間以内に抗IL-8抗体であるH1009/L395-F1974mを10 mg/kg静脈内投与した。コントロール群は無処置とした。抗IL-8抗体の投与から24日~35日後に腹腔鏡観察を行い、切開、縫合、ガーゼの拭う作業によって形成された癒着を観察した。腹腔鏡観察は、腹部正中を麻酔下で切開し、トローカーを刺入し、腹腔鏡を挿入した。腹腔鏡はビデオシステム(カールストルツ社製)とモニターに接続され、記録はビデオシステムで、腹腔内の観察はモニターで行った。癒着のサイズは目盛りのついたバーあるいは目盛りのついた鉗子を用いて測定した。癒着の有無、範囲および癒着の場所を腹腔鏡観察時に評価した。結果を表29に示す。腹腔鏡観察の結果、無処置群の2頭のサルで、切開部位全てにおいて癒着が確認された。抗IL-8抗体投与群において、個体No.206では癒着が認められたものの、個体No.201において左右腹壁腹膜と子宮切開部で癒着が認められず、抗IL-8抗体による癒着予防効果が示された。この結果から、抗IL-8抗体が癒着予防剤として有用であることが示された。当業者であれば、投与時点等を適宜変更することで、抗IL-8抗体による、より高い癒着形成予防効果が発揮され得ることを当然に理解できよう。また、この結果により、IL-8シグナル阻害剤が癒着予防剤として有用であることを、当業者は当然に理解できよう。
【0277】
【0278】
〔実施例25〕単球から分化させたマクロファージにおけるIL-8の機能解析と抗IL-8抗体の薬効評価
健常人末梢血よりCD14陽性画分として分離された単球(All Cells社、カタログ番号:PB011-P-F-2)を購入し、-80 ℃で保管した。実験に使用する際、次のように細胞を解凍し使用した。37 ℃ウォーターバスで解凍した細胞にDNaseI(STEMCELL Technologies社製、カタログ番号:07900)および10 % FBSを含む培地を添加し、高速遠心機で遠心した後、上清を除いた。この作業を繰り返した後、適量の培地に細胞を懸濁し、細胞数を計測した。単球は、in vitroでマクロファージへの分化培養を行い、IL-8存在下および非存在下でのConnecting tissue growth factor(CTGF)の発現変化を調べた。CTGFは線維化を促進する因子である。単球は10 %FBS、および25 ng/mL GM-CSF(SIGMA社製)を含むRPMI-1640(SIGMA社製)培地に懸濁し、培養用プレートに播種した。2日または3日おきに培養上清を半量ずつ交換し、7日間培養した。7日後、培養上清を除去し、10 %FBSおよび20 ng/mL IFN-γ(SIGMA社製)、10 pg/mL LPS(和光純薬工業社製)を含むRPMI-1640培地に100 ng/mLのIL-8と各種抗体を添加して3日間培養した。
評価した抗体は、H1009/L395-F1974m抗体、Anti-IL-8抗体[807](abcam社製、カタログ番号:ab18672)、Anti-IL-8抗体[6217](abcam社製、カタログ番号:ab10768)、Anti-IL-8抗体(Becton Dickinson社製、カタログ番号:BD554726)、Anti-IL-8抗体(Becton Dickinson社製、カタログ番号:BD555717)で、10 μg/mLの濃度で使用した。陰性対象としてIgG1(SIGMA社製、カタログ番号:I5154)を10 μg/mLの濃度で使用した。
培養3日後、細胞を回収しRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を使用し、製品プロトコルに従ってRNAを精製した。精製RNAはSuperScript VILO MasterMix(Thermo Fisher社製)を使用してcDNAを合成し、リアルタイムPCR法によりCTGFのmRNA発現量を評価した。CTGFのプローブには、TaqmanプローブのHs00170014_m1(Thermo Fisher社製)を使用し、18SrRNAの測定にはEukaryotic 18S rRNA Endogenous Control(Thermo Fisher社製、カタログ番号:E4319413E)を使用した。
図42に、CTGFの発現量を18S rRNAで補正した値を示す。IL-8無添加条件では、単球から分化させたマクロファージにおいてCTGFの発現が全く認められなかった。一方、IL-8を添加した条件では、分化させたマクロファージにおいてCTGF発現上昇が認められた。この結果から、IL-8は単球から分化させたマクロファージに対して、CTGFの発現上昇を誘導する機能を持つことが示された。さらに、IL-8と同時に抗IL-8抗体を加えると、CTGFの発現上昇は認められなかった。IL-8によるCTGFの発現上昇は、様々な抗IL-8抗体によって抑制されることが示された。この結果から、IL-8が線維化の進行に関与する因子であること、並びに、抗IL-8抗体等のIL-8シグナル阻害剤が線維化疾患に対する治療または予防剤として有用であることを、当業者は当然に理解できよう。
【0279】
〔参考実施例1〕アミノ酸が置換されたIgG抗体の発現ベクターの構築
QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法で作製された変異体を含むプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入することによって、目的のH鎖発現ベクター及びL鎖発現ベクターが作製された。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者に公知の方法で決定された。
【0280】
〔参考実施例2〕IgG抗体の発現と精製
抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum(Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5~6 × 105細胞/mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。調製したプラスミドをlipofection法により細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌して培養上清を得た。得られた培養上清にrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者に公知の方法で精製した。精製抗体の濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からProtein Science 1995 ; 4 : 2411-2423に記された方法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した。
【産業上の利用可能性】
【0281】
本発明により、抗IL-8抗体等が子宮内膜症等の治療剤および/または予防剤として有用であることが示された。本発明は、子宮内膜症病変体積の縮小、癒着の改善、上皮およびstroma細胞の萎縮性変化、免疫細胞の浸潤減少、線維化の改善等において有用である。
【配列表】