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特許7193807適食化処理された直翅目昆虫由来食材並びにその製造方法
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  • 特許-適食化処理された直翅目昆虫由来食材並びにその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】適食化処理された直翅目昆虫由来食材並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 35/00 20160101AFI20221214BHJP
   A23L 5/20 20160101ALI20221214BHJP
【FI】
A23L35/00
A23L5/20
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020138863
(22)【出願日】2020-08-19
(65)【公開番号】P2022034920
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】592025616
【氏名又は名称】株式会社ニッセー
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】川村 一範
(72)【発明者】
【氏名】川村 賢成
(72)【発明者】
【氏名】大関 友貴
(72)【発明者】
【氏名】秦野 真優
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特許第6548289(JP,B1)
【文献】特開2001-300205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 35/00
A23L 5/20
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥状態の直翅目昆虫の原料素材が高圧下で水液通過処理を受けて、タンパク質残留率90%以上で且つ脱臭された粉末とされていることを特徴とする適食化処理された直翅目昆虫由来食材。
【請求項2】
前記脱臭された粉末が、更に乾燥されていることを特徴とする請求項1記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材。
【請求項3】
前記直翅目昆虫はコオロギ科昆虫であることを特徴とする請求項1または2記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材。
【請求項4】
乾燥状態の直翅目昆虫の原料素材を、高圧抽出器において、水液通過処理を行うことを特徴とする適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法。
【請求項5】
前記水液通過処理が行われた原料素材を、更に乾燥することを特徴とする請求項4記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥状態の直翅目昆虫の原料素材は、コオロギ科昆虫の乾燥粉体であることを特徴とする請求項4または5記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法。
【請求項7】
前記高圧抽出器における直翅目昆虫の原料素材は粉末状のものがタッピング充填されるものであることを特徴とする請求項4、5または6いずれか記載の適食化処理された直翅目直翅目昆虫由来食材の製造方法。
【請求項8】
前記高圧抽出機における処理圧力は200kPa~500kPaであることを特徴とする請求項4、5、6または7いずれか記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法。
【請求項9】
前記水液通過処理における通過処理水の温度は20℃~150℃であることを特徴とする請求項4、5、6、7または8いずれか記載の適食化処理された直翅目直翅目昆虫由来食材の製造方法。
【請求項10】
前記水液通過処理における通過処理水の通過速度は50リットル/時~150リットル/時であることを特徴とする請求項4、5、6、7、8または9いずれか記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法。
【請求項11】
前記水液通過処理における通過処理水の通過量は、直翅目昆虫の原料素材の重量比10倍以上であることを特徴とする請求項4、5、6、7、8、9または10いずれか記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコオロギ等の直翅目昆虫を原料とした適食化処理された直翅目昆虫由来食材並びにその製造方法に関するものであって特に充分な商業利用適性を具えた生産手法等を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
地球規模での人口の急激な増加に伴い将来的に食糧不足に陥る恐れが指摘されている。このような食糧不足を解消する一手段として、昆虫を食材として利用する途が模索乃至は提案されている。当然ながら食材としての供給量を考慮すると、飼育や生産効率が良い昆虫が食材対象として選択されるものであって、コオロギ等の直翅目昆虫はそのような条件に適うものとして研究対象として挙げられている。
【0003】
ところでこのような昆虫は、イナゴ、はちの子等我が国でも、その姿のまま味付加工するなどして、直接食用とする例もあるが、多くは昆虫固有の臭み等が食材としての適性を損ない普及の障害となっている。また食材としての普及を考慮すると、二次利用しやすい粉粒体、濃縮液等の食材形態であれば、既存の多くの食品への添加、混合等に適しており、このような形態への加工処理の手法についても前記脱臭処理手法の開発と合わせて開発することが課題となっている。
【0004】
このうち脱臭処理の手法が提示されているが(例えば特許文献1参照。)、この手法は脱臭のための作業プロセスが、複雑化する傾向があり且つ大量処理の要請には十分応えきれない面もあり、低コストでの食材提供には更なる工夫を要するものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許6548289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような背景を考慮してなされたものであって、まず、実際の取引要請に応えることのできる、極めて低コストでの製造を可能としながら、栄養成分の保持、更には味覚阻害要素である臭みの除去とを同時に解決する手法を開発することを技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち請求項1記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材は、乾燥状態の直翅目昆虫の原料素材が高圧下で水液通過処理を受けて、タンパク質残留率90%以上で且つ脱臭された粉末とされていることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項2記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材は、前記要件に加え、前記脱臭された粉末が、更に乾燥されていることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項3記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材は、前記要件に加え、前記直翅目昆虫はコオロギ科昆虫であることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項4記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法は、乾燥状態の直翅目昆虫の原料素材を高圧抽出器において、水液通過処理を行うことを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項5記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法は、前記請求項4記載の要件に加え、前記水液通過処理が行われた原料素材を、更に乾燥することを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項6記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法は、前記請求項4または5記載の要件に加え、前記乾燥状態の直翅目昆虫の原料素材は、コオロギ科昆虫の乾燥粉体であることを特徴として成るものである。
【0013】
更にまた請求項7記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法は、前記請求項4、5または6記載の要件に加え、前記高圧抽出器における直翅目昆虫の原料素材は粉末状のものがタッピング充填されるものであることを特徴として成るものである。
【0014】
更にまた請求項8記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法は、前記請求項4、5、6または7記載の要件に加え、前記高圧抽出機における処理圧力は200kPa~500kPaであることを特徴として成るものである。
【0015】
更にまた請求項9記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法は、前記請求項4、5、6、7または8記載の要件に加え、前記水液通過処理における通過処理水の温度は20℃~150℃であることを特徴として成るものである。
【0016】
更にまた請求項10記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法は、前記請求項4、5、6、7、8または9記載の要件に加え、前記水液通過処理における通過処理水の通過速度は50リットル/時~150リットル/時であることを特徴として成るものである。
【0017】
更にまた請求項11記載の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法は、前記請求項4、5、6、7、8、9または10記載の要件に加え、前記水液通過処理における通過処理水の通過量は、直翅目昆虫の原料素材の重量比10倍以上であることを特徴として成るものである。
そしてこれら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0018】
まず請求項1記載の発明によれば、一般に高タンパクである直翅目昆虫のタンパク質成分を十分に残した粉末状の食材が得られる。またその形態は、粉末であるから食材としての二次利用の汎用性に優れる。
【0019】
また請求項2記載の発明によれば、直翅目昆虫由来食材を、長期に亘って風味が維持されるものとすることができる。
【0020】
また請求項3記載の発明によれば、直翅目昆虫のうちコオロギ科昆虫を対象とするものであり、その繁殖力あるいは繁殖飼育の容易さ等から、コスト面で将来的にも市場性汎用性が高い食材が得られる。
【0021】
更にまた請求項4記載の発明によれば、適食化処理にあたり、高圧、水液通過処理を行うものであり、効率よい製造が可能であると共に、高圧、水液通過処理に因み、その後の原料素材が個々には粉体であったとしても全体としては一塊の形状として装置内に留まり、そのあとの製造工程におけるハンドリングが非常に行いやすく、このことによっても低コストでの製造が可能となる。
【0022】
更にまた請求項5記載の発明によれば、直翅目昆虫由来食材を、長期に亘って風味が維持されるものとすることができる。
【0023】
更にまた請求項6記載の発明によれば、原料素材としての直翅目昆虫のうちコオロギの粉末を原料素材としているから、食材としての適性に優れ且つ原料の供給状態も大量に期待でき、大量生産に結び付けることができる。
【0024】
更にまた請求項7記載の発明によれば、原料素材は高圧処理機内にタッピング充填されるから、原料の充填密度を高くすることができ、処理水を原料素材全域にムラなく作用させ、更にその後の容器からの取り出し等のハンドリングを効率よく行うことができる。
【0025】
更にまた請求項8記載の発明によれば、高圧容器内の圧力を200kPa~500kPa程度の範囲としたものであり高効率の処理に寄与する。
【0026】
更にまた請求項9記載の発明によれば、通過処理水の温度は20℃から150℃の範囲で適宜に設定でき原料素材の臭み成分等の有効な除去が可能となる。
【0027】
更にまた請求項10記載の発明によれば、通過処理水の通過速度は一時間当たり、50リットル~150リットルであり、原料素材に対する通過処理水が充分にこれらに作用して脱臭処理等を効率的に行うことができる。
【0028】
更にまた請求項11記載の発明によれば、通過処理水の通過量は概ね原料素材の重量比10倍以上の量であり、これにより十分な脱臭処理等が行える。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法を実施するための高圧抽出器及び周辺機器を示す正面図である。
図2】本発明の適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法を実施するための各工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の「適食化処理された直翅目昆虫由来食材並びにその製造方法」の最良の形態は、以下の実施例に示すとおりであるが、これらの実施例に対して本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
以下、本発明の「適食化処理された直翅目昆虫由来食材並びにその製造方法」について図示の実施の形態に基づいて説明する。なおこの実施の形態では、まず「適食化処理された直翅目昆虫由来食材」について説明し、続いて「適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法」について説明する。
【0031】
まず本発明の「適食化処理された直翅目昆虫由来食材」(以下、直翅目昆虫由来食材1)と称す。)について説明する。直翅目昆虫由来食材1の原料素材2となる昆虫は、バッタ目とも称される直翅目昆虫であり、この直翅目昆虫にはバッタ、コオロギ、キリギリス、ケラ、カマドウマ等が含まれる。
現状、前記原料素材2となる直翅目昆虫は、食材として低コストで大量確保・供給することができることを考慮すると、コオロギ科昆虫が最も適したものの一つとして挙げられる。またコオロギ科のうちではヨーロッパイエコオロギ、フタホシコオロギ、エンマコオロギ、ミツカドコオロギ、オカメコオロギ、ツヅレサセコオロギ等が挙げられる。
【0032】
そして養殖によって大量肥育された昆虫が加熱処理を受けて乾燥され、このものが原料素材2として供される。
前記加熱処理の加熱手段としては、蒸煮、ヒートトンネル通過等の直加熱、スーパーヒート蒸気雰囲気通過等の加熱手段が取り得るものであり、原料素材2の成分流出を抑えるためには、ヒートトンネル通過等の直加熱、スーパーヒート蒸気雰囲気通過が好ましい。
また原料素材2の形態としては、固体のままでもよいし加熱処理後粉砕した粉末状として提供したものでもよい。
【0033】
このような原料素材2は高圧下で水通過処理を受けることにより、その結果タンパク質残留率が90%以上で且つ脱臭されたものが得られるものであり、特に脱臭の効果等を上げるためには原料素材2としてあらかじめ粉末状に加工されたものを高圧下で水通過処理することが好ましい。
【0034】
次に本発明の「適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法」について説明するものであり、始めにこの方法を実施する際に用いられる高圧抽出器3について説明する。
前記高圧抽出器3としては、適宜の通液可能な圧力容器を用いることができるが、この実施の形態では一例として、図1に示すエスプレッソコーヒーを抽出するためのエスプレッソコーヒーマシンを適用した高圧抽出器3が適用される。このものは本出願人が商業的量産に用いているものであり、特許第6548289号公報、特許4526155号公報及び特開2012-70652号公報等に開示されている装置と基本構成を同一とするものであり、以下その構成の概略を説明する。
【0035】
前記高圧抽出器3の基本形態としては全体として、耐圧密閉容器31を主要部材としてその内部を処理室32とするものであり、耐圧密閉容器31の上下開口部は上蓋部31B及び下蓋部31Aによって封鎖され、処理室32の密閉状態が維持される。
また前記処理室32内には粉末を一例とする原料素材2を充填できるように、フィルタバスケット33が設けられるとともに、このフィルタバスケット33の上下にフィルタエレメント34が配される。
そして前記下蓋部31Aには給液管35が接続され、ここから温熱水等の処理水Wが供給される。一方、上蓋部31Bには排液管36が接続されここから原料素材2を処理した処理済水W1が排出される。
更に下蓋部31Aには、例えば加熱した蒸気や、処理済水W1を排出するための加圧空気を供給するための給気口37が設けられる。
【0036】
本発明に供される高圧抽出器3は一例として上述のように構成されるものであり、給液管35に給液タンク4が接続され、排液管36に冷却器5が接続された状態で、直翅目昆虫由来食材1の製造に用いられる。
以下、このような高圧抽出器3を用いた本発明の「適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法」について図2を参照しながら説明する。
【0037】
〔原料素材の準備〕
まず前記原料素材2としては一例としてヨーロッパイエコオロギEの粉末が用いられるものであり、原料素材2の供給者によって肥育されたヨーロッパイエコオロギE(幼虫または成虫)が、加熱機6による加熱処理、粉砕機7による乾燥、粉末化が成されたものとして供給される。
なお後述する実施例において示すように本発明の検証においては、コスト面での現実的な原料素材2として、粉末化された原料素材2を専門の供給業者から購入したが、ヨーロッパイエコオロギEの肥育段階から加熱処理、乾燥、粉末化の全行程を行ってもよく、更には肥育されたヨーロッパイエコオロギEを購入して、加熱処理、乾燥、粉末化工程を行うこともできる。
【0038】
前記加熱機6としては、一例として蒸煮、ヒートトンネル通過による直加熱を行うものを採用した。
そして原料素材2の平均粒径としては概ね500μmとされるものであるが、実際に使用できる粒径としては300μm~700μm程度であればよい。
【0039】
〔水液通過処理〕
次いで上述した原料素材2を高圧抽出器3を用いて水液通過処理を行う。
まず、耐圧密閉容器31に原料素材2を充填するに当たっては、処理室32内に配されるフィルタバスケット33に原料素材2が密に充填されるように、タンパーTやランマー等を用いて原料素材2を突き固めるタッピング処理を行うものとする。
なおタッピング処理後の原料素材2の嵩密度が、0.36g/cm3 程度となるようにする。このようなタッピング処理を行うことにより、処理水Wが原料素材2全域にムラなく作用し、均一に加熱することが可能となる。
もちろん原料素材2の性状によっては、前記タッピング処理を行わないようにしてもよい。
そしてフィルタバスケット33への原料素材2の充填が完了したら、フィルタバスケット33を耐圧密閉容器31内に設置し、上蓋部31Bを閉じて耐圧密閉容器31を密閉状態とするものであり、このときフィルタバスケット33の上下にはフィルタエレメント34が配された状態となる。
【0040】
次いで給液管35から処理水Wを供給するものであり、その供給圧力を200kPa~500kPaとする。
また処理水Wの温度は20℃~150℃の範囲で可能であるが、脱臭効果や処理時間の短縮化を考慮すると100℃~150℃の高温水(熱水)を用いることが好ましい。
【0041】
更に処理水Wの通水速度としては、処理室32の容量約2700cm3 のラボ機において、50リットル/時~150リットル/時程度の通水速度として処理を行う。なおこの値はあくまで通水速度であって、処理を1時間に亘って行うという意味ではない。
このような通水速度で処理水Wが供給された状態の下、水液通過処理は5分~20分程度行われる。
結果的に原料素材2に対し作用する処理水Wは、原料素材2の重量比で8倍以上、好ましくは10倍以上、更に好ましくは30倍以上とする。なお後述するように、原料素材2に作用した後の処理済水W1を利用することを考慮すると、原料素材2に対し作用させる処理水Wの上限値は、原料素材2の重量比で50倍以下とすることが好ましい。
【0042】
この際、原料素材2はタッピング処理が行われ、フィルタバスケット33内に密の状態で均等に分布しているため、処理水Wが原料素材2全域にムラなく作用し、均一に加熱されることとなる。
因みにタッピング処理による突き固めが好適に行われずに、原料素材2の厚さが均一になっていなかったり空洞ができてしまった場合、原料素材2の層の一定箇所から沢山の処理水Wが通り抜けてしまい(いわゆるチャネリング現象)、処理水Wが原料素材2全域に均等に作用しなくなってしまうことがある。
【0043】
〔乾燥処理〕
次いで上蓋部31Bを開けてフィルタバスケット33を取り出すとともに、フィルタバスケット33からケーキ状となった加圧済素材2Aを取り出す。
次いで加圧済素材2Aを適宜の小片にほぐした後、このものを乾燥機8を用いて乾燥する。
なお図2では撹拌型の乾燥機8を示しているが、被処理物を静置したまま乾燥する乾燥室型の乾燥機8等を用いることもできる。そして得られる乾燥品2Bの含水率を1%W.B.~5%W.B.とする。
【0044】
〔粉末化処理〕
次いで乾燥品2Bを粉砕機7にかけて、粒径(平均値)300μm~700μmとされた粉末状の直翅目昆虫由来食材1を得る。
このようにして得られた本発明の直翅目昆虫由来食材1は、タンパク質残留率が90%以上維持されており、且つ脱臭されていることが確認されている。
ここで「脱臭されている」とは、後述する官能試験において、一定以上(15点以上)の高評価が得られていることを意味するものである。
【実施例
【0045】
以下、直翅目昆虫由来食材1の実施例を記載するものであり、下記の原料素材2を用いて、高圧抽出器3を用いて水液通過処理を施し、更に乾燥・粉砕処理を施した実施例を用意するものであり、水液通過処理条件を異ならせた下記4種の実施例を用意した。なお乾燥機8は乾燥室型の装置を用いた。
まず原料素材2の諸元を以下に示す。

原料素材:ヨーロッパイエコオロギの成虫
加熱温度: 95℃
加熱時間: 15m
粉末粒径(平均値): 500μm
タンパク質残留率: 90%
【0046】
次に原料素材2について以下に示す。

原料素材量: 1000g
タッピング処理後の嵩密度:0.36g/cm3
【0047】
〔実施例1〕
処理液供給圧力: 450kPa
処理液温度: 125℃
通水速度: 100リットル/時
通水時間: 18m
通水量 30リットル
水量(kg)/原料素材(kg)30
【0048】
〔実施例2〕
処理液供給圧力: 450kPa
処理液温度: 125℃
通水速度: 100リットル/時
通水時間: 6m
通水量 10リットル
水量(kg)/原料素材(kg)10
【0049】
〔実施例3〕
処理液供給圧力: 450kPa
処理液温度: 25℃
通水速度: 100リットル/時
通水時間: 18m
通水量 30リットル
水量(kg)/原料素材(kg)30
【0050】
〔実施例4〕
処理液供給圧力: 450kPa
処理液温度: 25℃
通水速度: 100リットル/時
通水時間: 6m
通水量 10リットル
水量(kg)/原料素材(kg)10
【0051】
また比較用として、上記実施例で用いたものと同じ原料素材2を、高圧抽出器3ではなく、浸漬撹拌処理機によって処理した後、乾燥処理した下記4種の比較例を用意した。
【0052】
〔比較例5〕
原料素材量: 50g

処理液温度: 98℃
使用水量: 1500ml
撹拌時間: 18m
水量(kg)/原料素材(kg) 30
【0053】
〔比較例6〕
原料素材量: 50g

処理液温度: 98℃
使用水量: 500ml
撹拌時間: 6m
水量(kg)/原料素材(kg) 10
【0054】
〔比較例7〕
原料素材量: 50g

処理液温度: 25℃
使用水量: 1500ml
撹拌時間: 18m
水量(kg)/原料素材(kg) 30
【0055】
〔比較例8〕
原料素材量: 50g

処理液温度: 25℃
使用水量: 500ml
撹拌時間: 6m
水量(kg)/原料素材(kg) 10
【0056】
〔官能試験結果〕
そして上記実施例1~4の直翅目昆虫由来食材1の官能試験(ブラインドテスト)を、十分に訓練された5人のパネラーによって行った。
具体的な評価方法は、直翅目昆虫由来食材1を少量手に取り、口に含んだ際の、味・においの総合評価を各人5点満点、合計25点満点として評価した。採点は以下に示す基準で行った。
不快ではない 5点
やや不快ではない 4点
どちらともいえない 3点
やや不快 2点
不快 1点

また比較例5~8及び水液通過処理が施されていない原料素材2についても同様の官能試験(ブラインドテスト)を行った。結果を下表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
以上の結果から、実施例1の直翅目昆虫由来食材1が、味・においの総合評価において最も高い評価であることが確認された。
また全体の傾向として、処理液温度が高く、通水量が多いほど、高い評価となることが確認された。
【0059】
〔臭気成分分析結果〕
上記官能試験結果を踏まえ、実施例1の直翅目昆虫由来食材1の臭気成分を、ガスクロマトグラフィーにて分析を行った。また比較用に水液通過処理が施されていない原料素材2についても臭気成分の分析も行った。
その結果、アルデヒド類、ピラジン類、カルボン酸類、アミン類等が検出され、実施例1の直翅目昆虫由来食材1において、いずれの成分も大幅に減少していることが確認された。
このうち、特に減少率が高く、且つ解析可能であった三物質を下表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
なお高圧抽出器3を用いて原料素材2を処理して得られた加圧済素材2Aは、タッピング処理が行われた後に高圧下で水液通過処理が成されているため、フィルタバスケット33から取り出された時点で押し固められたケーキ状となっており、これを適宜の大きさの小片にほぐすだけで乾燥機8に投入することができ、極めて効率的に乾燥処理を行うことができた。
一方、浸漬撹拌処理機によって加工処理された原料素材2′(加圧済素材2A′)は、処理水W中に浮遊した状態となるため、網状部材によって濾し、更に十分に水を切ってからでないと、乾燥機に投入することができないものであり、網状部材に目詰まりする等、乾燥処理の前段階で非常に手間が掛かってしまうものであった。
【0062】
なお上述のようにして得られた本発明の直翅目昆虫由来食材1は乾燥した粉末であり、適宜味を調製してプロテインパウダーとして提供したり、プロテインバー、パン、菓子類や各種料理に混ぜ込むことにより、今までになかった風味付けを行うことができるとともに、タンパク質を摂取することができる食材として提供することが可能である。
また菓子工場等に直翅目昆虫由来食材1の製造装置を設けることができる場合には、乾燥前の加圧済素材2Aを直翅目昆虫由来食材1として他の材料に混入するような使い方も可能となる。
【0063】
〔他の実施例〕
本発明は上述した実施例を基本となる実施例とするものであるが、本発明の技術的思想の範囲内で、例えば以下に示すような実施例を採ることもできる。
まず上述した基本となる実施例では、原料素材2を高圧下で水液通過処理し、タンパク質残留率90%以上で且つ脱臭された粉末とされた加圧済素材2Aを乾燥・粉砕し、これを直翅目昆虫由来食材1としたが、水液通過処理の際に用いた処理済水W1を利用することもできる。
すなわち原料素材2を水液通過処理した処理済水W1には、原料素材2の成分が多く含まれており、出汁と同様の用途が想定されるものである。
特に本発明の「適食化処理された直翅目昆虫由来食材の製造方法」は、上述したように耐圧密閉容器31を主要部材とした高圧抽出器3を用いたため、原料素材2の香気成分が蒸散してしまうのを防ぎ、風味豊かな処理水Wが得られるものである。
【0064】
一方、浸漬撹拌処理機を用いた比較例5~8では、原料素材2及び処理水Wは、開放型の容器中で処理されるため、香気成分が逃げてしまい、風味豊かな処理済水W1は得られなかった。
【0065】
また前記原料素材2として、ヨーロッパイエコオロギE以外の他の直翅目昆虫としてのイナゴ及びオケラを用い、簡易エスプレッソマシンを用いて下記の条件で処理した後、乾燥処理して得られた直翅目昆虫由来食材1について検証を行った。

原料素材量:14g
通水時間:30s
通水速度:50L/h
使用水量:420ml
水量(kg)/原料素材(kg)30

結果は、イナゴ、オケラ共に、表1中の○に相当する良好な評価が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0066】
1 直翅目昆虫由来食材
2 原料素材
2A 加圧済素材
2B 乾燥品
3 高圧抽出器
31 耐圧密閉容器
31A 下蓋部
31B 上蓋部
32 処理室
33 フィルタバスケット
34 フィルタエレメント
35 給液管
36 排液管
37 給気口
4 給液タンク
5 冷却器
6 加熱機
7 粉砕機
8 乾燥機

E ヨーロッパイエコオロギ
T タンパー
W 処理水
W1 処理済水
図1
図2