(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】ヒスタミンの製造方法及び医薬品としてのその使用
(51)【国際特許分類】
C07D 233/64 20060101AFI20221214BHJP
A61K 31/417 20060101ALI20221214BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221214BHJP
【FI】
C07D233/64 105
A61K31/417
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021214655
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2022-05-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】398045865
【氏名又は名称】室町ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100156111
【氏名又は名称】山中 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】森 裕一朗
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 淳一
(72)【発明者】
【氏名】河原 政人
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-533445(JP,A)
【文献】特開平05-255204(JP,A)
【文献】英国特許第01008594(GB,B)
【文献】Acta Physiologica Scandinavica,1951年,22,P.87-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 233/00
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、不純物を実質的に含まないヒスタミン又はその塩の製造方法:
(a)ヒスチジンを脱カルボキシル化反応に供してヒスタミンを含有する反応液を得る工程、
(b)工程(a)で得られたヒスタミンを含有する反応液をイオン交換体に供してヒスタミン及び未反応のヒスチジンをイオン交換体に吸着させる工程
であって、
ここでイオン交換体がアニオン交換樹脂である、工程、
(c)工程(b)のイオン交換体を溶媒で洗浄する工程、及び
(d)工程(c)のイオン交換体からヒスタミンを脱離させて遊離ヒスタミンを得る工程。
【請求項2】
工程(a)の脱カルボキシル化反応を、脱カルボキシル化触媒を用いて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脱カルボキシル化触媒がp-メチルアセトフェノンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アニオン交換樹脂が、強塩基性I型アニオン交換樹脂である、請求項
1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(c)における溶媒がアルコール類である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アルコール類が2-プロパノールである、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
工程(d)におけるイオン交換体からのヒスタミンの脱離を、イオン交換体に溶媒を通液することにより行う、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
溶媒がアルコール類である、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
アルコール類がメタノールである、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
工程(d)で得られた遊離ヒスタミンを濃縮、活性炭処理、又は晶析する工程をさらに含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程(d)で得られた遊離ヒスタミンを塩酸処理する工程をさらに含み、ヒスタミンの塩がヒスタミンの塩酸塩である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
個々の不純物の含有量が0.02%未満である、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ヒスタミン又はその塩を含む医薬品の製造方法であって、請求項1~
12のいずれか1項に記載の方法によって製造された、不純物を実質的に含まないヒスタミン又はその塩を使用
する工程を含む、医薬品
の製造方法。
【請求項14】
不純物の含有量が0.02%未満である、請求項
13に記載の
製造方法。
【請求項15】
前記医薬品がヒスタミン加人免疫グロブリンである請求項
13又は
14に記載の
製造方法。
【請求項16】
以下の工程を含む、遊離ヒスタミン塩基の精製方法:
(a)ヒスタミン含有液をイオン交換体に供してヒスタミンをイオン交換体に吸着させる工程
であって、
ここでイオン交換体がアニオン交換樹脂である、工程、
(b)工程(a)のイオン交換体を溶媒で洗浄する工程、及び
(c)工程(b)のイオン交換体からヒスタミンを脱離させて遊離ヒスタミンを得る工程。
【請求項17】
工程(a)の
アニオン交換樹脂が、強塩基性I型アニオン交換樹脂である、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
工程(b)における溶媒がアルコール類である、請求項
16または17に記載の方法。
【請求項19】
アルコール類が2-プロパノールである、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
工程(c)におけるイオン交換体からのヒスタミンの脱離を、イオン交換体に溶媒を通液することにより行う、請求項
16~
19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
溶媒がアルコール類である、請求項
20に記載の方法。
【請求項22】
アルコール類がメタノールである、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
工程(c)で得られた遊離ヒスタミンを濃縮する工程をさらに含む、請求項
16~
22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
工程(a)のヒスタミン含有液が、ヒスチジンを脱カルボキシル化反応に供して得られたヒスタミンを含有する反応液である、請求項
16~
23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
脱カルボキシル化反応を、脱カルボキシル化触媒を用いて行う、請求項
24に記載の方法。
【請求項26】
脱カルボキシル化触媒がp-メチルアセトフェノンである、請求項
25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品の原薬として使用が可能な不純物を実質的に含まない高純度なヒスタミンの製造方法及び医薬品としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒスタミンは種々の動植物組織に存在し、生体内ではアミノ酸であるL-ヒスチジンから酵素のヒスチジンデカルボキシラーゼ(HDC)によって合成される。ヒスタミンの主な産生細胞は、視床下部結節乳頭核に細胞体を持つヒスタミン神経、胃のエンテロクロマフィン様(ECL)細胞、マスト細胞、好塩基球などである。ヒスタミン神経は、アセチルコリン、セロトニン、グルタミン酸などの興奮性入力とGABAの抑制性入力により調節され、その神経線維の投射は全脳のほぼすべての領域にわたる。胃ECL細胞は、ガストリンやアセチルコリンの刺激等によりヒスタミンを放出し、このヒスタミンの作用により壁細胞から胃酸が分泌される。マスト細胞や好塩基球は,ヒスタミンを細胞内の顆粒中に貯蔵しており、感作された状態で抗原の刺激により脱顆粒が引き起こされる。また食事由来のヒスタミンも重要であり、生体内に存在するヒスタミンの多くが食事から由来することが知られている(非特許文献1)。
【0003】
ヒスタミンは古くより医薬品の有効成分として用いられており、ヒト免疫グロブリンにヒスタミン二塩酸塩を添加したヒスタグロビンR皮下注用(ヒスタミン加人免疫グロブリン製剤、KMバイオロジクス株式会社:非特許文献2)は、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎及びアレルギー性皮膚疾患の治療薬として1967年から日本で用いられている。また、2008年に欧州医薬品庁は、急性骨髄性白血病(AML)の寛解維持療法として、ヒスタミン二塩酸塩(CepleneR、Labiana Pharmaceuticals社:非特許文献3)を承認し、欧州で用いられている。このため、ヒスタミンの医薬品原薬としての市場ニーズは長年継続している。
【0004】
上記のように、ヒスタミンは動植物においてL-ヒスチジンからヒスチジンデカルボキシラーゼ(HDC)によって合成されるものの、医薬品の原薬としてのヒスタミンの製造には生物由来原料を用いない、すなわち、酵素を用いない方法が望ましいことから、医薬品原薬のための工業的製造方法が長年研究されている。ヒスタミンの一般的によく知られた製造方法は、ヒスチジンを原料とし、触媒存在下でヒスチジンを脱カルボシキシル化反応により製造するものである。Hashimotoら(非特許文献4)は、2-シクロヘキセン-1-オンを触媒、シクロヘキサノールを溶媒として、95%の収率でのヒスタミンの単離を報告した。また、ヒスタミンの脱カルボキシル化のための触媒としてアセトフェノン、p-メチルアセトフェノンやα-テトラロンを用いる方法も報告されている(特許文献1)
【0005】
特許文献2には、ヒスチジンの非酵素的脱カルボキシル化及び脱カルボキシル化生成物の二塩酸塩形態への段階的転化による医薬品原薬としてのヒスタミン二塩酸塩の合成方法が開示されている。本特許では、上記Hashimotoら(非特許文献4)の方法及び特許文献1の方法は、除去困難な不純物が最終生成物中に存在し、医薬品として用いるには不十分であるとされている。そこで、特許文献2ではL-ヒスチジンからアセトフェノン類の脱カルボキシル化触媒を用いてヒスタミンを生成した後、その一塩酸塩含有溶液を生成する工程と二塩酸塩含有溶液を生成する工程をそれぞれ経た後、再結晶化により精製し、不純物含量が0.2%より小さいヒスタミン二塩酸塩を製造する方法が示されている。しかしながら、3つのロットの純度からは、一部のロットにおいてある種の不純物の含量が0.10%を超えるものも存在した。
【0006】
このような従来の製法では、ヒスタミン塩を形成させた後に結晶化したヒスタミン塩を濾過し、固液分離により反応液及び反応液中に含まれる夾雑物を除去し、粗結晶中に残る他の夾雑物は再結晶により除去されるのが一般的である。しかしながら、粗結晶段階での純度が低いため、再結晶やその繰り返しによる高純度な精製は困難である。そして、この段階的な塩酸塩化を経る製造方法は、本来1ポットで行う操作を分割して処理するために煩雑な作業性を伴い、工業生産の効率面からは好ましいとはいえない。
【0007】
さらに、この脱カルボキシル化反応に用いるシクロヘキサノール(沸点161.8℃)等の溶媒は高沸点の溶媒であるため、ヒスタミン塩を形成した後の固液分離で回収した湿式結晶にも一定量の溶媒が残り、本結晶の加熱乾燥による当該高沸点溶媒の除去は困難である。医薬品の原薬としてヒスタミン又はその塩を製造する場合、原薬に残留する溶媒の量を規定する必要があるが、ヒスタミンに含まれる当該高沸点溶媒の除去は乾燥のみでは不十分である。したがって、加熱乾燥の前段工程での溶媒の除去や低減が求められる。
【0008】
ヒスタミンはアミノ基を有する分子であることから、陽イオン交換クロマトグラフィーにより分析することができる。例えば、高速液体クロマトグラフイー(HPLC)において、ヒスタミン専用のシリカ系強カチオン交換体を充填した分析用カラムTSKgel Histaminepakが東ソー株式会社より市販されている。また、ヒスタミンをイオンペア逆相HPLC(IP-RP HPLC)により試験する例は特許文献2にも示されているように一般的なものである。
【0009】
医薬品の有効成分となる原薬は当然に高純度であることが望ましく、不純物はできるだけ少ないことが望ましい。有効性及び安全性の面から、有効成分以外の不純物は少ないことが好ましく、より好ましくは不純物を実質的に含まないことが医薬用途として好適である。
【0010】
医薬品業界においては、ICH-Q3Aガイドライン(新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドライン)により、例えば1日最大投与量が<2g/日の場合、不純物の構造決定の必要な閾値として不純物含量0.10%又は1日に摂取する不純物量1.0 mgのどちらか低い方が示されている。そして、安全性確認の必要な閾値として不純物含量0.15%又は1日に摂取する不純物量1.0mgのどちらか低い方が示されている(非特許文献5)。また、医薬品としてのヒスタミン二塩酸塩の規格は、例えば欧州薬局方で定められている。本薬局方では、ヒスタミン二塩酸塩は滴定法により定量するとき、98.5~101.0%を含む。その不純物については、ヒスチジンが1%以下であること、硫酸塩が0.1%であること、水分が0.5%以下であること、強熱残物が0.1%であること等が規定されている(非特許文献6)。
【0011】
また、ICH-Q3Cガイドライン(医薬品の残留溶媒ガイドライン)により、患者の安全のために医薬品中の残留溶媒の許容量を勧告されている。許容できないような毒性を引き起こすことが知られているクラス1の溶媒は、リスク-ベネフィットの観点からの評価によって、妥当であることが明確に示されない限り、原薬、医薬品添加物又は製剤の製造においては使用を避けるべきことが示されている。クラス2の溶媒は、クラス1ほどではないが、一定のレベル以上の毒性を示す溶媒として、起こり得る有害な作用から患者を守るために、その残留量が規制される。クラス3の溶媒は、低毒性の溶媒である。
【0012】
医薬用途のヒスタミン二塩酸塩はBiosynth Carbosynth社(スイス)、Lebsa社(スペイン)などから入手できる。そして、欧州薬局方ではChemical Reference Standard(CRS)としてヒスタミン二塩酸塩の標準物質(カタログコードH0600000)が設けられている。また、試薬用途のヒスタミン二塩酸塩は、シグマアルドリッチジャパン合同会社、東京化成工業株式会社、関東化学株式会社などから入手できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平05-255204
【文献】特許4139082(特表2002-533445)
【非特許文献】
【0014】
【文献】谷内一彦ら、日本耳鼻咽喉科学会会報, 112: 99-103, 2009
【文献】ヒスタグロビン皮下注用の添付文書:PMDA医薬品医療機器情報提供ホームページ:https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/6399500D2037_2_03/(2021年6月9日確認)
【文献】Ceplene:EPAR - Product Information:EUROPEAN MEDICINES AGENCYホームページ:https://www.ema.europa.eu/en/documents/product-information/ceplene-epar-product-information_en.pdf(2021年6月9日確認)
【文献】Hashimoto, M., et al., Chemistry Letters, 893-896(1986)
【文献】平成14年12月16日付医薬審発第1216001号
【文献】欧州薬局方第10版ヒスタミン二塩酸塩
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
医薬品の原薬としてのヒスタミン二塩酸塩のため、不純物のより少ない原薬が求められており、その非酵素的製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記問題を解決するため、ヒスチジンを出発材料にp-メチルアセトフェノンを触媒とした脱カルボキシル化反応によりヒスタミンを合成した後、ヒスタミンを吸着可能なイオン交換体を用いることで合成して得られた遊離ヒスタミン塩基を効率よく高純度回収し、これにより不純物を除去し、不純物含量が従来品よりも低減した不純物を実質的に含まないヒスタミンを製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
したがって、本発明は以下を含む。
[1]以下の工程を含む、不純物を実質的に含まないヒスタミン又はその塩の製造方法:
(a)ヒスチジンを脱カルボキシル化反応に供してヒスタミンを含有する反応液を得る工程、
(b)工程(a)で得られたヒスタミンを含有する反応液をイオン交換体に供してヒスタミン及び未反応のヒスチジンをイオン交換体に吸着させる工程、
(c)工程(b)のイオン交換体を溶媒で洗浄する工程、及び
(d)工程(c)のイオン交換体からヒスタミンを脱離させて遊離ヒスタミンを得る工程。
[2]工程(a)の脱カルボキシル化反応を、脱カルボキシル化触媒を用いて行う、[1]に記載の方法。
[3]脱カルボキシル化触媒がp-メチルアセトフェノンである、[2]に記載の方法。
[4]工程(b)のイオン交換体が、イオン交換樹脂、キレート樹脂、ゼオライト、アルミナ、金属酸化物、及び活性炭よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせである、[1]~[3]のいずれか1に記載の方法。
[5]工程(b)のイオン交換体が、アニオン交換樹脂である、[4]に記載の方法。
[6]工程(b)のイオン交換体が、強塩基性I型アニオン交換樹脂である、[5]に記載の方法。
[7]工程(c)における溶媒がアルコール類である、[1]~[6]のいずれか1に記載の方法。
[8]アルコール類が2-プロパノールである、[7]に記載の方法。
[9]工程(d)におけるイオン交換体からのヒスタミンの脱離を、イオン交換体に溶媒を通液することにより行う、[1]~[8]のいずれか1に記載の方法。
[10]溶媒がアルコール類である、[9]に記載の方法。
[11]アルコール類がメタノールである、[10]に記載の方法。
[12]工程(d)で得られた遊離ヒスタミンを濃縮、活性炭処理、又は晶析する工程をさらに含む、[1]~[11]のいずれか1に記載の方法。
[13]工程(d)で得られた遊離ヒスタミンを塩酸処理する工程をさらに含み、ヒスタミンの塩がヒスタミンの塩酸塩である、[1]~[11]のいずれか1に記載の方法。
[14]個々の不純物の含有量が0.02%未満である、[1]~[13]のいずれか1に記載の方法。
[15][1]~[14]のいずれか1に記載の方法によって製造された、不純物を実質的に含まないヒスタミン又はその塩を使用した医薬品。
[16]不純物の含有量が0.02%未満である、[15]に記載の医薬品。
[17]前記医薬品がヒスタミン加人免疫グロブリンである[15]15又は[16]に記載の医薬品。
[18]以下の工程を含む、遊離ヒスタミン塩基の精製方法:
(a)ヒスタミン含有液をイオン交換体に供してヒスタミンをイオン交換体に吸着させる工程、
(b)工程(a)のイオン交換体を溶媒で洗浄する工程、及び
(c)工程(b)のイオン交換体からヒスタミンを脱離させて遊離ヒスタミンを得る工程。
[19]工程(a)のイオン交換体が、イオン交換樹脂、キレート樹脂、ゼオライト、アルミナ、金属酸化物、及び活性炭よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせである、[18]に記載の方法。
[20]工程(a)のイオン交換体が、アニオン交換樹脂である、[19]に記載の方法。
[21]工程(a)のイオン交換体が、強塩基性I型アニオン交換樹脂である、[20]に記載の方法。
[22]工程(b)における溶媒がアルコール類である、[18]~[21]のいずれか1に記載の方法。
[23]アルコール類が2-プロパノールである、[22]に記載の方法。
[24]工程(c)におけるイオン交換体からのヒスタミンの脱離を、イオン交換体に溶媒を通液することにより行う、[18]~[23]のいずれか1に記載の方法。
[25]溶媒がアルコール類である、[24]に記載の方法。
[26]アルコール類がメタノールである、[25]に記載の方法。
[27]工程(c)で得られた遊離ヒスタミンを濃縮する工程をさらに含む、[18]~[26]のいずれか1に記載の方法。
[28]工程(a)のヒスタミン含有液が、ヒスチジンを脱カルボキシル化反応に供して得られたヒスタミンを含有する反応液である、[18]~[27]のいずれか1に記載の方法。
[29]脱カルボキシル化反応を、脱カルボキシル化触媒を用いて行う、[28]に記載の方法。
[30]脱カルボキシル化触媒がp-メチルアセトフェノンである、[29]に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、不純物含量が従来品よりも顕著に低減したヒスタミン及びその塩を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】各種ヒスタミン二塩酸塩のクロマトグラムである。欧州薬局方ヒスタミン二塩酸塩の標準物質(CRS)、シグマアルドリッチジャパン合同会社、東京化成工業株式会社及び関東化学株式会社から購入したヒスタミン二塩酸塩の試薬A、試薬B及び試薬C(試薬A及び試薬Cは欧州薬局方ヒスタミン二塩酸塩の規格に適合する品質であることが示されている)、ヒスタミン二塩酸塩を有効成分とする医薬品Ceplene
R(Labiana Pharmaceuticals社)、含量0.1%に相当する量のヒスチジン、並びにブランク(水)のクロマトグラムの重ね図として示す。
【
図2】本発明のヒスタミン二塩酸塩の製造方法を示すフロー図である。
【
図3】本発明の製造方法により得られたヒスタミン二塩酸塩と他社品を比較したクロマトグラムである。試薬C、試薬A、含量0.1%に相当する量のヒスチジン、及びブランク(水)のクロマトグラムの重ね図として示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第一の態様では、不純物を実質的に含まないヒスタミン又はその塩の製造方法を提供し、該方法は以下の工程を含む:
(a)ヒスチジンを脱カルボキシル化反応に供してヒスタミンを含有する反応液を得る工程、
(b)工程(a)で得られたヒスタミンを含有する反応液をイオン交換体に供してヒスタミン及び未反応のヒスチジンをイオン交換体に吸着させる工程、
(c)工程(b)のイオン交換体を溶媒で洗浄する工程、及び
(d)工程(c)のイオン交換体からヒスタミンを脱離させて遊離ヒスタミンを得る工程
。
【0021】
本発明の製造方法によれば、まず、ヒスチジンを脱カルボキシル化反応に供してヒスタミンを含有する反応液を得る。ここで、出発物質としてのヒスチジンはL-ヒスチジンを用いるのが好ましい。脱カルボキシル化反応は、カルボン酸が有するカルボキシ基を脱炭酸(脱カルボキシ化)する反応であり、脱カルボキシル化触媒を用いて行うことができるが、これに限られない。脱カルボキシル化触媒としては、アセトフェノンなどのアルキルアリールケトン類、p-メチルアセトフェノンなどの置換又は無置換のアリールケトン類、α-テトラロンなどの環状のアリールケトン類が挙げられるが、p-メチルアセトフェノンなどの置換又は無置換のアリールケトン類が好ましい。脱カルボキシル化触媒を用いたヒスチジンの脱カルボキシル化反応は、シクロヘキサノールなどの溶媒を用い、ヒスチジンをp-メチルアセトフェノンなどの脱カルボキシル化触媒とともに160~165℃に加温・撹拌して行うことができる。ここで用いるシクロヘキサノールは、高沸点の溶媒であり、加熱乾燥による除去が困難なものである。このヒスチジンの脱カルボキシル化反応により、反応液中にヒスタミン(以下、「遊離ヒスタミン塩基」ともいう)が生成する。
【0022】
次に、上記脱カルボキシル化反応で得られたヒスタミンを含有する反応液をイオン交換体に供してヒスタミン及び未反応のヒスチジンをイオン交換体に吸着させる。ここで用いるイオン交換体は、ヒスタミン及び未反応のヒスチジンを吸着できるものであれば如何なるものであってよく、イオン交換樹脂やキレート樹脂などの有機性イオン交換体や、ゼオライトやアルミナ、金属酸化物などの無機イオン交換体及びその官能基付与体、活性炭などであってよい。これらのうち、ヒスチジンとヒスタミンが共存する場合において、ヒスチジンをより強固に樹脂に結合させつつヒスタミンを分離するには、イオン交換樹脂の中でもアニオン交換樹脂が好適であることを本発明者は見出した。アニオン交換樹脂は、I型強塩基性アニオン交換樹脂、II型強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂、ポリアミン基キレート樹脂などであってよい。特にトリメチルアミノ基と呼ばれる4級アンモニア基を有するI型強塩基性アニオン交換樹脂が最も好適であり、具体的には、ランクセス株式会社のLewatitモノプラスM800KR、三菱ケミカル株式会社のDIAION SA10A、オルガノ株式会社のAmberlite IRA400、室町ケミカル株式会社のMuromac XSA-2415などが挙げられる。脱カルボキシル化反応で得られたヒスタミンを含有する反応液をイオン交換樹脂に通液することにより、反応液中のヒスタミン及び溶残したL-ヒスチジンを樹脂に吸着させ、合成過程で生じた副生成物、p-メチルアセトフェノンなどの脱カルボキシル化触媒及び有機溶媒(シクロヘキサノール及びトルエン)を取り除くことができる。特に、溶残したL-ヒスチジンは再結晶での除去が極めて困難な原料であるが、本発明の方法によればL-ヒスチジンを効率的に分離することが可能となる。
【0023】
次に、上記ヒスタミン及び溶残したL-ヒスチジンを吸着させたイオン交換樹脂を溶媒で洗浄する。この洗浄により、樹脂表面に付着した反応液の残液を除去する。ここで用いる溶媒はアルコール類であってよく、2-プロパノールが好ましい。
【0024】
次に、上記洗浄後のヒスタミン及び溶残したL-ヒスチジンを吸着させたイオン交換樹脂からヒスタミンのみを脱離させて遊離ヒスタミンを得る。イオン交換体からのヒスタミンの脱離は、イオン交換体に溶媒を通液することにより行うことができ、吸着された「遊離ヒスタミン塩基」のみを回収することができる。ここで用いる溶媒はアルコール類であってよく、メタノールが好ましい。得られたメタノール回収溶液からメタノール溶媒を留去し、遊離ヒスタミン塩基を高純度で得ることが可能となる。
【0025】
イオン交換体から脱離したヒスタミンは、さらに濃縮、活性炭処理、又は晶析することにより、さらにヒスタミンの純度を上げることができる。
【0026】
本発明はまた、不純物を実質的に含まないヒスタミンの塩、例えば、ヒスタミン二塩酸塩の製造方法に関する。ヒスタミンの塩、例えば、ヒスタミン二塩酸塩を得るには、常法により、上記で得られた遊離ヒスタミン塩基を塩酸で処理すればよい。得られた粗ヒスタミン二塩酸塩を再結晶して一次晶を得、さらに再結晶して二次晶を得る。再結晶して得られたヒスタミン二塩酸塩は、着色を除くために活性炭処理してよい。ここで用いる活性炭としては、特に限定されず、粉末活性炭、粒状活性炭、及び繊維状活性炭のいずれの形状の活性炭も用いることができる。具体的には、例えば、白鷺P(大阪ガスケミカル株式会社)、クラレコールR(株式会社クラレ)等を用いることができる。
【0027】
本発明の製造方法により製造したヒスタミン二塩酸塩の不純物含量は、0.02%未満である。
【0028】
本発明の別の態様では、上記本発明の製造方法によって製造された、不純物を実質的に含まないヒスタミン又はその塩を使用した医薬品を提供する。この医薬品において、不純物の含有量は0.02%未満である。ヒスタミン二塩酸塩を含有する医薬品として、例えば、ヒスタミン加人免疫グロブリンを、本発明の製造方法によって製造された不純物を実質的に含まないヒスタミン又はその塩を使用して製造することができ、得られるヒスタミン加人免疫グロブリンは不純物の含有量が極めて少ない。ヒスタミン又はその塩を含有する他の医薬品についても同様に、本発明の製造方法によって製造された不純物を実質的に含まないヒスタミン又はその塩を使用して製造することにより、不純物の含有量が極めて少ない医薬品とすることができる。
【0029】
本発明の別の態様では、以下の工程を含む、遊離ヒスタミン塩基の精製方法を提供する:
(a)ヒスタミン含有液をイオン交換体に供してヒスタミンをイオン交換体に吸着させる工程、
(b)工程(a)のイオン交換体を溶媒で洗浄する工程、及び
(c)工程(b)のイオン交換体からヒスタミンを脱離させて遊離ヒスタミンを得る工程。
【0030】
本発明の精製方法によれば、まず、ヒスタミン含有液をイオン交換体に供してヒスタミンをイオン交換体に吸着させる。出発物質としてのヒスタミン含有液に含まれるヒスタミンは、「遊離ヒスタミン塩基」であれば特に限られず、天然のヒスタミン、またはヒスチジンの脱カルボキシル化反応で得られたヒスタミンのいずれであってもよい。ここで用いるイオン交換体は、ヒスタミンを吸着できるものであれば如何なるものであってよく、イオン交換樹脂やキレート樹脂などの有機性イオン交換体や、ゼオライトやアルミナ、金属酸化物などの無機イオン交換体及びその官能基付与体、活性炭などであってよい。これらのうち、ヒスタミンの分離には、本発明者はイオン交換樹脂の中でもアニオン交換樹脂による分離が好適であることを見出した。アニオン交換樹脂はI型強塩基性アニオン交換樹脂、II型強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂、ポリアミン基キレート樹脂などであってよい。特にトリメチルアミノ基と呼ばれる4級アンモニア基を有するI型強塩基性アニオン交換樹脂が最も好適であり、具体的には、ランクセス株式会社のLewatitモノプラスM800KR、三菱ケミカル株式会社のDIAION SA10A、オルガノ株式会社のAmberlite IRA400、室町ケミカル株式会社のMuromac XSA-2415などが挙げられる。ヒスタミンを含有する反応液をイオン交換樹脂に通液することにより、反応液中のヒスタミンを選択的に樹脂に吸着させ、ヒスタミン含有液中に含まれる不純物を取り除くことができる。
【0031】
次に、上記ヒスタミンを吸着させたイオン交換樹脂を溶媒で洗浄する。この洗浄により、樹脂表面に付着した反応液の残液を除去する。ここで用いる溶媒はアルコール類であってよく、2-プロパノールが好ましい。
【0032】
次に、上記洗浄後のヒスタミンを吸着させたイオン交換樹脂からヒスタミンを脱離させて遊離ヒスタミンを得る。イオン交換体からのヒスタミンの脱離は、イオン交換体に溶媒を通液することにより行うことができ、吸着された「遊離ヒスタミン塩基」のみを回収することができる。ここで用いる溶媒はアルコール類であってよく、メタノールが好ましい。得られたメタノール回収溶液からメタノール溶媒を留去し、遊離ヒスタミン塩基を高純度で得ることが可能となる。
【0033】
イオン交換体から脱離したヒスタミンは、さらに濃縮、活性炭処理、又は晶析することにより、さらにヒスタミンの純度を上げることができる。
【0034】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
ヒスタミン二塩酸塩の不純物分析:
各種のヒスタミン二塩酸塩をイオンペア逆相高速液体クロマトグラフィー(IP-RP HPLC)により比較した。IP-RP HPLCの試験例は特許文献2にも示されているように一般的なものであり、ヒスタミン二塩酸塩を含む試料溶液を高速液体クロマトグラフィー装置に供し、試料溶液のクロマトグラムから各々のピーク面積を自動積分法により算出し、面積百分率法によりそれらの量を求めるものである。試験によりヒスタミンの主ピークとは異なる位置に溶出する不純物ピークについてその種類及び含量を求めた。分析条件の例を以下に示す。
【0036】
株式会社大阪ソーダ製カプセルパックC18MGII 5Sカラム(粒子径5μm、内径4.6 mm、長さ15 cm)を用い、50℃付近の一定の温度でカラムを保温した。二種の移動相A及び移動相Bを調製した。移動相Aは、1-ヘプタンスルホン酸ナトリウム1 gあたり水1000 mLを加えて溶かし、リン酸を加えてpH 3.0に調整した液であり、移動相Bは、アセトニトリル/メタノール混液(4:3)であった。
【0037】
移動相は流量を毎分1.0 mLとし、移動相A及び移動相Bの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御した。溶離液は紫外吸光光度計により波長210 nmにおける吸収を検出した。典型的にはヒスタミン二塩酸塩1 mg/mLの試料を10μL注入し、注入から25分間のピーク面積を測定した。
【0038】
【0039】
各種ヒスタミン二塩酸塩のクロマトグラムを
図1に示す。比較分析の結果、有機化合物はヒスチジンのピーク位置以降に溶出すると考えられた。そして、ヒスタミン二塩酸塩にはヒスタミンよりも遅れて溶出する三種の不純物が主要な不純物として存在した。三種の不純物をそれぞれ不純物A、不純物B及び不純物Cと称し、その不純物の量を表2に示した。いずれのヒスタミン二塩酸塩からも三種の不純物のいずれかが認められた。
【0040】
【実施例2】
【0041】
ヒスタミン二塩酸塩に含まれる不純物の構造解析:
実施例1で確認された不純物A、不純物B及び不純物Cの各不純物ピークについて、株式会社東レリサーチセンターに委託し、核磁気共鳴(NMR)及び質量分析(MS)による構造推定を試みた。まず、それぞれの不純物を液体クロマトグラフィーにより分取後脱塩し、NMR及びMSにより構造解析した。その結果、表3に示す推定構造を得た。三種の不純物は全てヒスタミンの分解物ではなく、不純物Aはヒスタミンと触媒アセトフェノンとの反応物、不純物Bはヒスタミンの反応物、不純物Cはヒスチジンとヒスタミンの縮合物であるとそれぞれ考えられた。したがって、これらの不純物はヒスチジンの脱カルボキシル化反応によるヒスタミン合成時に生じ、遊離ヒスタミン塩基を塩化する時点で生じたものではないことがわかる。
【0042】
【実施例3】
【0043】
ヒスタミン二塩酸塩の製造:
出発物質として日本薬局方L-ヒスチジンを用い、触媒としてp-メチルアセトフェノンを用いた脱カルボシキシル化反応によりヒスタミンを合成後、反応混合物を強塩基性アニオン交換樹脂で精製して粗ヒスタミンを得た。この粗ヒスタミンを塩酸2-プロパノール溶液と反応させ、乾燥して粗ヒスタミン二塩酸塩を得た。次に、粗ヒスタミン二塩酸塩を活性炭により着色物を除去し、再結晶後に乾燥してヒスタミン二塩酸塩を得た。
【0044】
(1)ヒスチジンの脱カルボシキル化反応による遊離ヒスタミン塩基の合成
L-ヒスチジン60 g(分子量155.15、0.387 mol)、シクロヘキサノール600 mL、p-メチルアセトフェノン15.54 g(分子量134.18、0.116 mol)を1 L三口フラスコに入れ、反応容器内を窒素置換した。窒素雰囲気下にて混合溶液を内温160~165℃に加温し、22時間撹拌した。反応終了後、50℃まで冷却してトルエン120 mLを添加した。次いで反応液を濾過し、濾液を回収した。
【0045】
(2)イオン交換体カラム処理による遊離ヒスタミン塩基の回収
(i)カラムの準備
イオン交換樹脂(室町ケミカル株式会社製Muromac XSA-2415)500 mLに2-プロパノール500 mLを加えて一晩浸漬させ、濾過して樹脂を回収した。この樹脂に再度2-プロパノール160 mLを加えてカラム管に充填した。
【0046】
(ii)カラム通液(吸着)
反応濾液800 mLを2.5時間かけて通液し、続いて2-プロパノール300 mLを30分で通液した。この段階でフラクションF1(400 mL)、F2(400 mL)、F3(350 mL)、F4(250 mL)及びF5(50 mL)を回収した。括弧内の数値はフラクションの液量を示す。反応液中にヒスタミン及び溶残したL-ヒスチジンが樹脂に吸着されていることをHPLCにより確認した。この工程により、合成過程で生じた副生成物、触媒(p-メチルアセトフェノン)並びに有機溶媒(シクロヘキサノール及びトルエン)を取り除いた。
【0047】
(iii)カラム通液(脱離)
カラムにメタノール800 mLを1.5時間かけて通液し、遊離ヒスタミン塩基を回収した。この段階でフラクションF6(150 mL)、F7(150 mL)、F8(150 mL)、F9(200 mL)及びF10(200 mL)を回収した。括弧内の数値はフラクションの液量を示す。フラクションF6~F9にはヒスタミンが回収されており、フラクションF10にはヒスタミンがほとんど無いことをHPLCで確認した。
【0048】
(iv)濃縮
フラクションF6~F9の計650 mLを40℃に加温したエバポレータで濃縮し、ヒスタミン61 gを得た。本ヒスタミンには少量のメタノールを含む。
【0049】
(3)ヒスタミン二塩酸塩の合成
前記カラム処理及び濃縮により得られたヒスタミン61 gに2-プロパノール300 mLを加えた。このヒスタミン溶液に2N塩酸2-プロパノール溶液390 mL(0.78 mol)を内温15℃以下で1時間かけて滴下した。滴下終了後、内温15℃以下で1時間撹拌した。反応溶液を濾過し、得られた結晶を2-プロパノール80 mLで洗浄した後、室温下で16時間減圧乾燥した。得られた粗ヒスタミン二塩酸塩は37.7 g(分子量184.07、0.201 mol)であり、収率52.9%、IP-RP HPLCからは含量0.02%を超えるヒスチジン並びに有機不純物ピークA、B及びCを認めなかった。
【0050】
(4)ヒスタミン二塩酸塩の再結晶
得られた粗ヒスタミン二塩酸塩36.5 g(0.198 mol)にメタノール455 mLを加え、50℃で加温溶解した。内温を50℃に維持したまま2-プロパノール200 mLを40分かけて滴下した。その後10℃まで冷却し、1時間撹拌した。晶出した結晶を濾過し、室温下で16時間減圧乾燥させた。得られたヒスタミン二塩酸塩(一次晶)は23.1 g(0.126 mol)であり、収率63.4%であった。
【0051】
一次晶濾過の際に得られた濾液約650 mLを40℃に加温したエバポレータで液量が約200 mLとなるまで濃縮した。晶出した結晶を濾過した後、室温下で16時間減圧乾燥した。得られたヒスタミン二塩酸塩(二次晶)は8.7 g(0.047mol)であり、収率23.9%であった。一次晶と二次晶とを合わせた収率は87.3%であった。
【0052】
(5)ヒスタミン二塩酸塩の活性炭処理
ヒスタミン二塩酸塩の着色を除くために、ヒスタミン二塩酸塩(精製品一次晶)23.1g(0.125 mol)に、純水115 mL及び活性炭(大阪ガスケミカル株式会社製白鷺P)4.62 gを加えた。室温で1時間撹拌した後に濾過して濾液を回収した。濾液中のヒスタミン二塩酸塩のIP-RP HPLCからは含量0.02%を超えるヒスチジン並びに有機不純物ピークA、B及びCを認めなかった。
【0053】
回収した濾液に再度活性炭(白鷺P)4.0gを加えた。室温で1時間撹拌した後に濾過して濾液を回収した。濾液中のヒスタミン二塩酸塩のIP-RP HPLCからは含量0.02%を超えるヒスチジン並びに有機不純物ピークA、B及びCを認めなかった。
【0054】
活性炭処理後の濾液50 mLにエタノール500 mLを加え、30℃に加温したエバポレータで濃縮した。エタノールを留去後、再度エタノール300 mLを加え、30℃に加温したエバポレータで濃縮した。濃縮後さらにエタノール200 mLを加えた。晶析した結晶を濾過し、室温下で16時間減圧乾燥させた。得られたヒスタミン二塩酸塩は9.6 g(0.052 mol)であり、収率41.6%、IP-RP HPLCからは含量0.02%を超えるヒスチジン並びに有機不純物ピークA、B及びCを認めなかった。
【実施例4】
【0055】
本発明の方法により製造したヒスタミン二塩酸塩の不純物含量:
本発明の方法により製造したヒスタミン二塩酸塩を実施例1に記載のIP-RP HPLCによる方法で分析したクロマトグラムを
図3に示す。
図3の結果から明らかなように、本発明の方法によって製造したヒスタミン二塩酸塩にはヒスタミンよりも遅れて溶出する三種の不純物がいずれも検出されなかった。表2の結果によれば、試験したヒスタミン二塩酸塩のうちで試薬Aが最も不純物の含量が少なく、不純物A及び不純物Bがそれぞれ0.024%及び0.019%含まれていたが、本発明の方法により製造したヒスタミン二塩酸塩ではこれら不純物がいずれも検出されなかったことから、本発明の方法により製造したヒスタミン二塩酸塩に含まれる不純物の含量は0.019%よりもはるかに少ないことがわかる。
【0056】
本発明の方法により製造したヒスタミン二塩酸塩3ロットの不純物の量を表4に示した。いずれのロットからもヒスチジン並びに三種の不純物A、B及びCは認められなかった。また、本発明の方法により製造したヒスタミン二塩酸塩3ロットの残留溶媒の量を表5に示した。いずれのロットの残留溶媒の量も問題のないレベルであった。
【0057】
【0058】
【実施例5】
【0059】
本発明の方法により製造したヒスタミン二塩酸塩原薬の安定性試験:
本発明の方法により製造したヒスタミン二塩酸塩原薬を25℃±2℃、60%RH±5%RHで6箇月、また、10℃±2℃で18箇月保存した。実施例1に記載のIP-RP HPLCによる方法で分析した保存開始時及び試験終了時の不純物含量を表6に示す。25℃保存及び10℃保存のいずれの場合も三種の不純物がいずれも検出されず、保存中の不純物の増加が認められなかった。
【0060】
【実施例6】
【0061】
本発明の方法により製造したヒスタミン二塩酸塩のヒスタグロビン皮下注用への利用:
本発明の方法により製造したヒスタミン二塩酸塩原薬を用いて、ヒスタグロビン皮下注用製剤(KMバイオロジクス株式会社)を製造し、安定性を評価した。保存18箇月までの安定性を確認した結果を表7に示す。
【0062】
なお、表7に示した、性状確認試験(溶解前は白色の粉末又は塊、溶解後は無色ないし淡黄色の澄明又はわずかに混濁した液剤)、含湿度(5%以下)、pH(6.8~7.6)、免疫グロブリンG含量(総たん白質の90%以上がヒト正常グロブリンGの易動度を示す。また、免疫グロブリンG含量は、表示量の90~110%)、チオ硫酸ナトリウム含量(表示量の95.0%~105.0%)及びヒスタミン含量(表示量の80%~120%)の試験は、本文中のそれぞれの試験項目に続く括弧内にそれぞれの規格を示した。含湿度及びpHは生物学的製剤基準の一般試験法に従って試験した。免疫グロブリンG含量は生物学的製剤基準の人免疫グロブリンの条を準用することにより試験した。チオ硫酸ナトリウム含量はデンプン試液を指示薬としてヨウ素液で滴定することにより定量した。ヒスタミン含量は6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートにより誘導体化し、逆相高速液体クロマトグラフィーで分離した後に蛍光光度計で検出することにより定量した。
【0063】
表7に示す結果から明らかなように、本発明の方法により製造したヒスタミン二塩酸塩を使用したヒスタグロビン皮下注用は、長期間にわたって安定性を保持することが示された。
【0064】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明による方法は、医薬品原料として使用が可能な不純物を実質的に含まない高純度なヒスタミン及びその塩の製造方法であり、本発明による方法で得られた、不純物を実質的に含まない高純度なヒスタミン及びその塩は、医薬品の製造に使用することができる。また、イオン交換体への吸着・脱離による遊離ヒスタミン塩基の回収と不純物の除去処理は、粗ヒスタミンを有効に精製できることから、本発明による方法は遊離ヒスタミン塩基の製造のみならず、ヒスタミン二塩酸塩やヒスタミン二リン酸塩などのヒスタミン塩の製造にも利用できる。
【要約】
【課題】不純物を実質的に含まないヒスタミン又はその塩の製造方法を提供する。
【解決手段】以下の工程を含む、不純物を実質的に含まないヒスタミン又はその塩の製造方法:(a)ヒスチジンを脱カルボキシル化反応に供してヒスタミンを含有する反応液を得る工程、(b)工程(a)で得られたヒスタミンを含有する反応液をイオン交換体に供してヒスタミン及び未反応のヒスチジンをイオン交換体に吸着させる工程、(c)工程(b)のイオン交換体を溶媒で洗浄する工程、及び(d)工程(c)のイオン交換体からヒスタミンを脱離させて遊離ヒスタミンを得る工程;及び当該方法によって製造された、不純物を実質的に含まないヒスタミン又はその塩を使用した医薬品。
【選択図】なし