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特許7193816酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物
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  • 特許-酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 251/08 20060101AFI20221214BHJP
   C07C 243/12 20060101ALI20221214BHJP
   C07C 251/24 20060101ALI20221214BHJP
   C07C 311/48 20060101ALI20221214BHJP
   C07F 9/54 20060101ALI20221214BHJP
   C07F 15/06 20060101ALI20221214BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C07C251/08
C07C243/12
C07C251/24
C07C311/48
C07F9/54
C07F15/06
B01D53/14 210
B01D53/14 311
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021504972
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009190
(87)【国際公開番号】W WO2020184336
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2019047618
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラムの採択課題「構成成分設計による酸素選択吸収性金属錯体系イオン液体の創製と機能性酸素分離膜への適用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】中西 康哲
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
(72)【発明者】
【氏名】神尾 英治
(72)【発明者】
【氏名】松岡 淳
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-012707(JP,A)
【文献】特開昭59-020296(JP,A)
【文献】Industrial & Engineering Chemistry Research,2019年,58(1),p.334-341
【文献】Journal of Membrane Science,2017年,541,p.393-402
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 251/00
C07C 243/00
C07C 311/00
C07F 9/00
C07F 15/00
B01D 53/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトアカセン錯体またはその誘導体と、アミン構造を有するイオン性配位子とそのカウンターイオンとから構成されるイオン液体とを含み、
前記コバルトアカセン錯体またはその誘導体が、一般式(1):
【化1】
(式中、R1a、R1bおよびR3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基もしくはハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアシル基または炭素数2~6のアルコキシカルボニル基であり、R1aとR1bは、それらに結合する原子または原子団を介して互いに結合してシクロアルキル環を形成してもよく、R2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基もしくはハロアルキル基または炭素数1~6のアルコキシ基である)
で表され、
前記イオン性配位子のアミン構造が前記コバルトアカセン錯体またはその誘導体のコバルト原子に軸配位した構造である酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物
【請求項2】
前記イオン性配位子が、炭素数2~6のアルキル基を有するアンモニウムカチオンである請求項1に記載の酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物
【請求項3】
前記イオン性配位子のアミン構造が、第2級アミンである請求項1または2に記載の酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物
【請求項4】
前記イオン性配位子が、N-メチルアミノ酸である請求項1に記載の酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物
【請求項5】
前記イオン性配位子が、イミダゾールまたはピリジンの構造を含むヘテロ環式化合物である請求項1に記載の酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物
【請求項6】
前記カウンターイオンが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのアニオンを含む請求項1~5のいずれか1つに記載の酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物
【請求項7】
前記カウンターイオンが、ホスホニウムカチオンを含む請求項1~5のいずれか1つに記載の酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物
【請求項8】
前記コバルトアカセン錯体が、エチレンジアミンとアセチルアセトンとの脱水縮合反応により得られるアカセン配位子とコバルト原子からなるコバルト錯体である請求項1~7のいずれか1つに記載の酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物
【請求項9】
前記酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物が、10000mPa・sより低い粘度を有する請求項1~8のいずれか1つに記載の酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘度の分子構造および優れた酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物(本明細書においては「液体状金属錯体組成物」を「液体状金属錯体」ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
混合気体の分離・回収技術やその応用プロセスは、汚染物質や温室効果ガスの排出低減、脱臭処理、特定成分の抽出、反応促進、省エネなど多目的に利用できることから、工業プラント、自動車、化学、バイオ、食品、医療など多岐にわたる分野で活用されている。
我々の生活の中で最も身近な混合気体は、窒素と酸素からなる空気である。これを窒素と酸素とに分離する方法は、大規模では大量生産に適した深冷分離法、小規模では吸着分離法や膜分離法があり、それぞれの特徴により使い分けられている。これらの中で、膜分離法は、他の方法に比べて省エネルギー、低コストのプロセスが可能であり、装置構成もシンプルでコンパクトにできることから、軽量化や小型化を求められる用途への展開が期待できる。
【0003】
膜分離法における分離性能は、装置システムや分離モジュールの設計も関係するが、膜材料の性能が最も重要である。酸素分離膜として利用できる膜材料は、高分子を中心に数多くの素材が開発され、世に上市されているが、現状の性能では、まだ限定的な用途や場所にしか利用されていない。
一般に、高分子材料における混合気体の分離性能は、透過量と分離選択比がトレードオフの関係になることが、これまでの研究の実験データを基にまとめられている(Lloyd M. Robeson「The upper bound revisited」、Journal of Membrane Science、2008年、第320巻、p.390-400:非特許文献1参照)。窒素と酸素は分子サイズや分子量の差があまりないので、分離選択比を高めることは容易ではない。よって、この性能の上限を超越した性能を実現するには、酸素の透過を選択的に促進する何らかの分子作用が必要になる。
【0004】
酸素吸収性に優れ、可逆的かつ選択的に酸素と吸脱着可能な材料として、金属錯体材料がある。例えば、コバルトとサレン配位子からなるコバルトサレン錯体は、酸素との吸着性能が高い材料であり、これを用いた酸素吸着材と酸素分離方法が提案されている(日本特開平9-151192号公報:特許文献1および日本特開平6-340683号公報:特許文献2参照)。そこで、本発明者らは、コバルトサレン錯体の酸素吸収性能を十分に引き出すため、コバルトイオンにアミン構造を有するイオン液体を配位させる構造により、錯体分子の液体化を実現した(国際公開第2017/130833号:特許文献3参照)。
【0005】
液体状態の錯体は、固体状態あるいは固定化された錯体に比べて分子の運動性が高く、多孔膜に内包されたときに多孔膜内で流動性を有する。このため、空気中の酸素は次のようなメカニズムで窒素よりも早く透過するものと考えられる。まず、空気中の酸素が多孔膜に内包された錯体の酸素吸着サイトに引き付けられ、多孔膜に吸収される。その後、錯体に吸着した酸素が錯体分子を介して移動あるいは錯体分子の隙間を移動して効率的に膜内を移動する。その結果、膜下流側に流れ出る酸素が窒素よりも早く膜内を透過する。
このように流動性の高い錯体が酸素を運ぶキャリアとして、しかも錯体自身が流動性を担っていて高密度に集積したキャリアとして膜内で機能することで、優れた酸素透過性を発揮する。
【0006】
また、酸素選択吸着剤として、コバルトとアカセン配位子からなるコバルトアカセン錯体が提案されている(日本特開平8-206496号公報:特許文献4参照)。しかしながら、その形態は固体であり、酸素吸収能の向上には液体化が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本特開平9-151192号公報
【文献】日本特開平6-340683号公報
【文献】国際公開第2017/130833号
【文献】日本特開平8-206496号公報
【0008】
【文献】Lloyd M. Robeson「The upper bound revisited」、Journal of Membrane Science、2008年、第320巻、p.390-400
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように金属錯体は一般に固体状態であり、用途利用においては溶液化が大きな課題になる。すなわち、適用する溶媒への溶解性と安定性、そして溶液中での機能構造が、金属錯体本来の機能性を発揮する上で重要になる。気体分離膜では、錯体を高密度に利用するために、高濃度の溶液を調製できることが望まれる。しかしながら、分子構造の大きな金属錯体の多くは、通常あまり溶解性が高くない。一方、特許文献3のようにイオン液体を金属錯体に配位させた複合構造にして金属錯体自体を液体化することで、別の溶媒で希釈せずに液体として扱うことができ、結果的に錯体構造を高密度に集積した液体が得られる。またイオン液体を用いて液体化しているので、揮発性がなく液安定性が高いことも実用上の利点となる。
【0010】
しかしながら、コバルトとサレンおよびサレン誘導体からなる錯体構造部位を含む液体は、1つの機能構造分子としてはかなり嵩高い分子であり、また分子間作用も強く働くので、液体の粘度としてはかなり高い分類になる。
酸素分離膜として液体状錯体を利用してさらに膜性能を高めるためには、酸素キャリアとしての錯体の流動性および酸素の拡散性を高めることが必要になる。つまり、膜性能の向上には液体状錯体の粘度の低減が必要になるが、上記のサレン錯体およびその誘導体を含む構造では、基本となる機能構造の大きさの影響を考えると、さらなる粘度低減のための構造改良は現実的にあまり期待できない。
【0011】
そこで、本発明は、低粘度の分子構造および優れた酸素吸収能を有する液体状金属錯体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、さらなる分離性能向上のため、酸素吸収能を有する機能構造とそれを含む液体状錯体において、その酸素吸収能を引き出す上で必要とされる低粘性の液体構造組成、すなわち酸素吸収能を有する液体状金属錯体で、酸素拡散向上にとって有意な粘度の低い分子構造を検討した結果、エチレンジアミンとアセチルアセトンの脱水縮合反応によって得られる構造であるアカセン(acacen)骨格のコバルト錯体にアミン構造含有のイオン液体を配位させてなる金属錯体が、低粘度の液体でありながら、なおかつ酸素吸収性を有することを見出し、本発明に至った。
【0013】
かくして、本発明によれば、コバルトアカセン錯体またはその誘導体と、アミン構造を有するイオン性配位子とそのカウンターイオンとから構成されるイオン液体とを含み、
前記コバルトアカセン錯体またはその誘導体が、一般式(1):
【化1】
(式中、R1a、R1bおよびR3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基もしくはハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアシル基または炭素数2~6のアルコキシカルボニル基であり、R1aとR1bは、それらに結合する原子または原子団を介して互いに結合してシクロアルキル環を形成してもよく、R2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基もしくはハロアルキル基または炭素数1~6のアルコキシ基である)
で表され、
前記イオン性配位子のアミン構造が前記コバルトアカセン錯体またはその誘導体のコバルト原子に軸配位した構造である酸素吸収能を有する液体状金属錯体組成物が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低粘度の分子構造および優れた酸素吸収能を有する液体状金属錯体を提供することができる。
すなわち、本発明によれば、酸素を選択的にかつ可逆的に吸収する材料として安定な液体状態のコバルト錯体、より具体的には、コバルトアカセン錯体またはその誘導体とアミン構造を有するイオン液体からなる、効率的に酸素を吸収し、拡散し得る低粘度の液体状金属錯体を提供することができる。
【0015】
また、本発明の酸素吸収能を有する液体状金属錯体は、次のいずれか1つの要件を満たす場合に、上記の効果がさらに発揮される。
(1)イオン性配位子が、炭素数2~6のアルキル基を有するアンモニウムカチオンである。
(2)イオン性配位子のアミン構造が、第2級アミンである。
(3)イオン性配位子が、N-メチルアミノ酸である。
(4)イオン性配位子が、イミダゾールまたはピリジンの構造を含むヘテロ環式化合物である。
(5)カウンターイオンが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのアニオンを含む。
(6)カウンターイオンが、ホスホニウムカチオンを含む。
(7)コバルトアカセン錯体が、エチレンジアミンとアセチルアセトンとの脱水縮合反応により得られるアカセン配位子とコバルト原子からなるコバルト錯体である。
(8)酸素吸収能を有する液体状金属錯体が、10000mPa・sより低い粘度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】酸素吸収量を測定する吸収試験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態について詳しく説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
(酸素吸収能を有する液体状金属錯体)
本発明の酸素吸収能を有する液体状金属錯体(「酸素吸収液体」ともいう)は、コバルトアカセン錯体またはその誘導体(以下、誘導体も含めて「コバルトアカセン錯体」ともいう)と、アミン構造を有するイオン性配位子とそのカウンターイオンとから構成されるイオン液体とを含み、前記イオン性配位子のアミン構造が前記コバルトアカセン錯体またはその誘導体のコバルト原子に軸配位した構造であることを特徴とする。
本発明において「コバルトアカセン錯体の誘導体」とは、アセチルアセトンとエチレンジアミンの脱水縮合反応からなるアカセン骨格に置換基が導入されたコバルトアカセン錯体を意味する。
コバルトアカセン錯体のコバルト原子の片方の軸方向にアミン構造を有するイオン性配位子が結合したとき、反対の軸方向が酸素分子の吸着サイトとなり、酸素分子と反応することによって、酸素との選択的親和性が生じる。このときのコバルトに配位するアミン構造の塩基性度が、酸素との親和性作用の大きさに影響を与える。
【0018】
(コバルトアカセン錯体)
本発明において用いることのできるコバルトアカセン錯体は、アカセンまたはアカセン骨格構造に置換基を導入したアカセン誘導体がコバルト(II)イオンに対して4座の配位子として配位した構造を有する公知の金属錯体であり、一般式(1):
【化2】
【0019】
(式中、R1a、R1bおよびR3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基もしくはハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアシル基または炭素数2~6のアルコキシカルボニル基であり、R1aとR1bは、それらに結合する原子または原子団を介して互いに結合してシクロアルキル環を形成してもよく、R2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基もしくはハロアルキル基または炭素数1~6のアルコキシ基である)
で表される。
【0020】
アカセンまたはその誘導体の分子は、酸素と結合することができる数々のシッフ塩基の中でも最も小さな構造であり、鉄、銅、ニッケル、コバルト、マンガンなど様々な金属の配位が可能であるが、酸素分子の吸着性においてコバルト(II)イオンが最も好ましい。
【0021】
一般式(1)における置換基R1a、R1b、R2およびR3について説明する。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシルなどの直鎖または分岐鎖のアルキル基が挙げられる。
炭素数1~6のハロアルキル基としては、上記のアルキル基の任意の水素原子が上記のハロゲン原子に置換されたアルキル基が挙げられ、具体的には、フルオロメチル、クロロメチル、ブロモメチル、トリフルオロメチルなどが挙げられる。
炭素数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペントキシ、n-ヘキトキシなどの直鎖または分岐鎖のアルコキシ基が挙げられる。
【0022】
炭素数2~6のアシル基としては、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、カプロイルなどの直鎖または分岐鎖の脂肪族アシル基が挙げられる。
炭素数2~6のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n-プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、n-ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル、n-ペントキシカルボニル、などの直鎖または分岐鎖のアルコキシカルボニル基が挙げられる。
1aおよびR1bは、それらに結合する原子または原子団を介して互いに結合して、シクロペンチル環、シクロへキシル環などのシクロアルキル環を形成してもよい。
【0023】
コバルトアカセン錯体は、例えば、エタノールなどのアルコール溶媒中、相当するアセチルアセトンとエチレンジアミンとの脱水縮合反応によりアカセンまたはアカセン誘導体を合成し、得られたアカセンまたはアカセン誘導体を配位子として塩基性条件下でコバルトイオンと反応させることにより製造することができる。また、アカセンまたはアカセン誘導体の合成時にコバルトの酢酸塩を同時に加えることによりコバルトアカセン錯体を得ることもできる。
【0024】
一般式(1)と整合させるならば、平面配位子とコバルト原子からなるコバルトアカセン錯体は、上記のような溶媒中、一般式(2):
2N-CR1a1b-CR1a1b-NH2
(式中、R1a、R1bは、一般式(1)と同義である)
で表されるエチレンジアミンまたは置換基を有するエチレンジアミン類似化合物と、一般式(3):
2 3C-CO-CHR3-CO-CR2 3
(式中、R2およびR3は、一般式(1)と同義である)
で表されるアセチルアセトンまたは置換基を有するアセチルアセトン類似化合物との脱水縮合反応によりアカセンまたはアカセン誘導体を合成し、得られたアカセンまたはアカセン誘導体を配位子として塩基性条件下でコバルトイオンと反応させることにより製造することができる。
【0025】
このような合成方法により得られるコバルトアカセン錯体は合成原料であるアセチルアセトンおよびエチレンジアミンにそれぞれ置換基を有する化合物を用いることにより、多様な構造が得られる。
【0026】
アセチルアセトンの置換体としては、メチルアセチルアセトン、3-エチル-2,4-ペンタンジオン、3-クロロアセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、1,1,5,5-テトラフルオロ-2,4-ペンタンジオン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、6-メチル-2,4-ヘプタンジオン、3,5-ヘプタンジオン、2,2-ジメチル-3,5-ヘプタンジオン、1,1,1-トリフルオロ-2,4-ヘキサンジオン、1,1,1-トリフルオロ-5-メチル-2,4-ヘキサンジオン、1,1,1-トリフルオロ-5,5-ジメチル-2,4-ヘキサンジオン、2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオン、2,2,6,6-テトラメチルー3,5-ヘプタンジオン、2,2,7-トリメチルー3,5-オクタンジオンなどが挙げられる。
また、エチレンジアミンの置換体としては、1,2-プロパンジアミン、2-メチル-1,2-プロパンジアミン、1,2-ジメチルエチレンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,1,2,2-テトラメチルエチレンジアミンなどが挙げられる。
【0027】
これらの組み合わせにより得られるコバルトアカセン誘導体としては、コバルトアカセン、すなわちN,N’-エチレンビス(アセチルアセトニリデンアミナート)コバルト(II)の他、N,N’-エチレンビス(3-メチルアセチルアセトニリデンアミナート)コバルト(II)、N,N’-エチレンビス(3-クロロアセチルアセトニリデンアミナート)コバルト(II)、N,N’-エチレンビス(2,2-ジメチルプロピオニルアセトニリデンアミナート)コバルト(II)、N,N’-エチレンビス(トリフルオロアセチルアセトニリデンアミナート)コバルト(II)、N,N’-メチルエチレンビス(アセチルアセトニリデンアミナート)コバルト(II)、N,N’-メチルエチレンビス(3-メチルアセチルアセトニリデンアミナート)コバルト(II)、N,N’-1,1-ジメチルエチレンビス(アセチルアセトニリデンアミナート)コバルト(II)、N,N’-1,1,2,2-テトラメチルエチレンビス(アセチルアセトニリデンアミナート)コバルト(II)などが挙げられる。これらの中でも、酸素吸収性の点で、N,N’-エチレンビス(アセチルアセトニリデンアミナート)コバルト(II)が特に好ましい。
すなわち、コバルトアカセン錯体としては、エチレンジアミンとアセチルアセトンとの脱水縮合反応により得られるアカセン配位子とコバルト原子からなるコバルト錯体、すなわちN,N’-エチレンビス(アセチルアセトニリデンアミナート)が特に好ましい。
【0028】
(イオン液体)
イオン液体は、イオンのみによって構成される物質で、一般に100℃以下の融点を有するものと定義されていることが多い。本発明において用いることのできるイオン液体は、アミン構造を有するイオン性配位子とそのカウンターイオンとから構成されるものであり、アニオンもしくはカチオンのいずれかのイオンがアミン構造を有し、そのアミン構造がコバルトアカセン錯体に配位可能な物質である。
【0029】
アミン構造を有するイオンの中でも、分子構造が小さいイオンは、立体構造による干渉が少なく、コバルト原子に配位するために接近し易く有利である。したがって、イオンは、イオン液体を構成する汎用的なカチオンであるアルキルアンモニウムカチオンであり、かつアルキル鎖の長さが炭素数2~6であるものが好ましい。すなわち、イオン性配位子は、炭素数2~6のアルキル基を有するアンモニウムカチオンであるのが好ましく、これらの中でも、窒素に3つのメチル基と1つのアミノ基が結合した、最も分子量が小さい1,1,1-トリメチルヒドラジニウム、1-エチル-1,1-ジメチルヒドラジニウムおよび1,1-ジメチル-1-ペンチルヒドラジニウムカチオンが特に好ましい。
【0030】
また、アミン構造を有するイオンの中でも、アミン構造の塩基性度が高いイオンは、コバルトアカセン錯体と酸素分子の結合性や吸着作用が高まるため有利である。したがって、イオン性配位子のアミン構造は、第2級アミンであるのが好ましい。
同様に、イオン液体を構成する汎用的なアニオンとしてアミノ酸のアミノ基にアルキル鎖を有するN-アルキルアミノ酸も好適である。すなわち、イオン性配位子は、N-メチルアミノ酸であるのが好ましく、これらの中でも、アミノ酸の中でも分子量が小さいグリシンとメチル基が結合したN-メチルグリシンが特に好ましい。
【0031】
また、上記の第2級アミン以外にも、イオン性配位子は、イミダゾールおよびピリジンのような構造を含む、塩基性の強いヘテロ環式化合物も好適である。これらヘテロ環式化合物に結合するイオン性の官能基は多種存在するが、その中でもカルボニル基となるカルボン酸が扱い易く、N-メチルアミノ酸と同様、他のカチオン種とイオン液体として構成し易く、好ましい。
ヘテロ環式化合物に結合する官能基としては、カルボニル基以外に、ブロモ、クロロ、フルオロなどのハロゲン原子や、メチル、エチル、トリフルオロメチルのアルキル基などが挙げられる。例えば、1-イミダゾールカルボン酸、4-イミダゾールカルボン酸、1-メチル-4-イミダゾールカルボン酸、ピリジン-2-カルボン酸、4-ブロモ-2-ピリジンカルボン酸、5-ブロモ-2-ピリジンカルボン酸、6-ブロモ-2-ピリジンカルボン酸などが挙げられる。
【0032】
イオン性配位子アニオンの対となるカチオン(カウンターイオン)としては、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ホスホニウム、アンモニウムなどが公知であるが、本発明においては相溶解性の観点から、ホスホニウムおよびアンモニウムが好ましく、炭素数2~20のアルキル鎖を有する脂肪族4級ホスホニウムまたはアンモニウムが特に好ましい。
イオン液体は、上記のアニオンとなる化合物とカチオンとなるホスホニウム塩やアンモニウム塩とのアニオン交換反応により得ることができる。
ホスホニウム塩やアンモニウム塩としては、テトラメチルホスホニウムブロミド、テトラエチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラヘキシルホスホニウムブロミド、トリエチルヘキシルホスホニウムブロミド、トリエチルオクチルホスホニウムブロミド、トリエチル(2-メトキシエチル)ホスホニウムブロミド、トリブチルオクチルホスホニウムブロミド、トリブチルドデシルホスホニウムブロミド、トリブチル(2-メトキシエチル)ホスホニウムブロミド、トリヘキシルドデシルホスホニウムブロミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムブロミド、そしてこれらのブロミドに対応するクロリドなどが挙げられる。特にホスホニウムカチオンは、イオン配位子としてのN-メチルアミノ酸と対になるのが好ましい。
【0033】
これらのホスホニウム塩やアンモニウム塩とコバルト錯体の軸配位に結合するアニオンとの組み合わせの全てが、必ずしも常温で液体になるとは限らない。したがって、これらの中でも、各アニオンとの組み合わせを形成したときに、融点が低く、イオン液体となり易い、トリエチルペンチルホスホニウムブロミド、トリブチルオクチルホスホニウムブロミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムブロミドが好ましく、その中でも多くのアニオンと組み合わせでイオン液体を形成し更に低粘度に有利な分子量が小さいトリエチルペンチルホスホニウムブロミドが特に好ましい。
【0034】
一方、イオン性配位子カチオンの対となるアニオン(カウンターイオン)としては、テトラフルオロボレート、ヘキサフロホロホスホネート、トリフルオロアセテート、トリフルオロメタンスルホネート、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどがよく知られているが、本発明で、最も低粘度となり易いことから、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが特に好ましく、その対となるカチオンとしては、第2級アミンを有するアンモニウムカチオンが好ましい。
【0035】
(酸素吸収能を有する液体状金属錯体の製造方法)
本発明の酸素吸収能を有する液体状金属錯体は、例えば、上記のコバルトアカセン錯体と、アミン構造を有するイオン性配位子とそのカウンターイオンとから構成されるイオン液体とを、エタノールなどのアルコール溶媒中で混合し、加熱撹拌することで、コバルトアカセン錯体とイオン液体との配位構造体を得ることができる。
コバルトアカセン錯体とイオン液体の有効成分との割合は、1対2のモル当量比であればよいが、コバルトアカセン錯体の有効成分が過剰であってもよい。
コバルトアカセン錯体とイオン液体との配位構造体は、公知の方法、例えば、可視・紫外分光法、59Co-NMR分光法、あるいは呈色の変化など総合的な分析により、確認することができる。
【0036】
本発明の酸素吸収能を有する液体状金属錯体は、10000mPa・sより低い粘度を有するのが好ましい。
液体状金属錯体の粘度が10000mPa・sを超えると、酸素キャリアとしての錯体の流動性および酸素の拡散性が低下して、酸素吸収能が低下することがある。
好ましい液体状金属錯体の粘度は、100~6000mPa・sであり、より好ましくは100~4000mPa・sである。
具体的な液体状金属錯体の粘度(mPa・s)は、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000である。
【実施例
【0037】
以下に実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
【0038】
[液体状金属錯体の合成]
(実施例1-1)
エタノール50ml中にアセチルアセトン[東京化成工業社製、純度>99%]10.0g(100mmol)を加え、エチレンジアミン[富士フィルム和光純薬社製、特級]3.0g(50mmol)を滴下して混合し、室温で約5時間撹拌して反応させた。この反応液から再結晶により得られた白色物質をジエチルエーテルで洗浄し、N,N’-エチレンビス(アセチルアセトニリデンアミナート)(以下「アカセン」と表記)7.20gを得た。
【0039】
次に、得られたアカセン2.25g(10mmol)と酢酸コバルト(II)四水和物[富士フィルム和光純薬社製、特級]2.49g(10mmol)とを20mlのエタノールに加えて80℃で3時間撹拌して反応させ、コバルトアカセン錯体を含むあずき色の溶液を得た。次いで、得られた溶液に1,1,1-トリメチルヒドラジニウムヨージド[シグマアルドリッチ社製、純度97%]4.04g(20mmol)を滴下して混合し、さらに80℃で3時間撹拌して反応させて褐色の溶液を得た。次いで、得られた溶液を80℃で12時間加熱乾燥することにより、溶媒のエタノールを揮発除去した。残った褐色液体を真空乾燥することにより、コバルトアカセン錯体と1,1,1-トリメチルヒドラジニウムヨージドの配位構造体となる固体3.62gを得た。
【0040】
次に、得られた配位構造体の固体3.40gにビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム[東京化成工業社製、純度>98%]2.87g(10mmol)の水溶液20mlを加えて室温で12時間撹拌することによりアニオン交換反応を行い、次いで純水で洗浄して目的の液体(液体状金属錯体)3.12gを得た。
ここで、可視・紫外分光法や呈色状態の観察などにより、得られた目的の液体がコバルトアカセン錯体のコバルトイオンにイオン液体のカチオンが配位されてなることを確認した。
【0041】
(実施例1-2)
(1-エチル-1,1-ジメチルヒドラジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの合成)
1,1-ジメチルヒドラジン[東京化成工業社製、純度>98%]6.0g(100mmol)に対してテトラヒドロフラン(THF)20ml加えて撹拌し、溶液とした。このTHF溶液を撹拌しておきながら、1-ブロモエタン[東京化成工業社製、純度>98%]14.9g(20mmol)を滴下した。滴下終了後、室温にて6時間撹拌した。反応終了後、得られた白色固体をろ過し、ろ紙の上からTHF10mlをかけることで洗浄した。その後、真空乾燥にて12時間脱気することで溶媒を除去し、1-エチル-1,1-ジメチルヒドラジニウムブロミドを得た。同定はNMRを用いて行った。
【0042】
得られた1-エチル-1,1-ジメチルヒドラジニウムブロミド3.1gを純水に溶解させ、この水溶液にビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム5.1(18mmol)を加えて、室温で3時間撹拌した。析出した白色固体をろ過し、ろ紙の上から純水をかけることで洗浄した。その後、80℃12時間脱気乾燥することで白色固体として目的物である1-エチル-1,1-ジメチルヒドラジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド5.92gを得た。
【0043】
実施例1-1と同様に合成して得たアカセン1.35g(6mmol)と酢酸コバルト(II)四水和物1.50g(6mmol)とを20mlのエタノールに加えて80℃で3時間撹拌して反応させ、コバルトアカセン錯体を含むあずき色の溶液を得た。得られた溶液に1-エチル-1,1-ジメチルヒドラジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド4.43g(12mmol)を加えて、80℃で3時間撹拌して褐色の溶液を得た。得られた溶液を80℃で12時間加熱乾燥して溶媒のエタノールを揮発除去することで、目的の液体(液体状金属錯体)5.82gを得た。
実施例1-1同様にして、得られた目的の液体がコバルトアカセン錯体のコバルトイオンに構成カチオンが配位されてなることを確認した。
【0044】
(実施例1-3)
(1,1-ジメチル-1-ペンチルヒドラジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの合成)
1,1-ジメチルヒドラジン[東京化成工業社製、純度>98%]1.2g(20mmol)に対してテトラヒドロフラン(THF)5ml加えて撹拌し、溶液とした。このTHF溶液を撹拌しておきながら、1-ブロモペンタン[東京化成工業社製、純度>98%]3.1g(20mmol)を滴下した。全て加えた後、溶液を50℃まで昇温し、12時間撹拌した。反応終了後、2層に分離していることを確認した。室温まで自然冷却した後、ジエチルエーテルを用いて目的物である液体を洗浄した。60℃で加熱乾燥させ、1,1-ジメチル-1-ペンチルヒドラジニウムブロミドを得た。同定はNMRを用いて行った。
【0045】
得られた1,1-ジメチル-1-ペンチルヒドラジニウムブロミド3.5gを純水に溶解させ、水溶液とした。ここにビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム5.1(18mmol)を加えると、直ちに油滴が沈殿することを確認した。油滴をジクロロメタンで抽出し、純水を用いて3回洗浄した。エバポレーターにてジクロロメタンを除去し、目的物である1,1-ジメチル-1-ペンチルヒドラジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのイオン液体6.59gとして得た。
【0046】
実施例1-1と同様に合成して得たアカセン1.35g(6mmol)と酢酸コバルト(II)四水和物1.50g(6mmol)とを20mlのエタノールに加えて80℃で3時間撹拌して反応させ、コバルトアカセン錯体を含むあずき色の溶液を得た。得られた溶液に1,1-ジメチル-1-ペンチルヒドラジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド4.93g(12mmol)を加えて、80℃で3時間撹拌して褐色溶液を得た。得られた溶液を80℃で12時間加熱乾燥して溶媒のエタノールを揮発除去することで、目的の液体(液体状金属錯体)6.23gを得た。
実施例1-1同様にして、得られた目的の液体がコバルトアカセン錯体のコバルトイオンに構成カチオンが配位されてなることを確認した。
【0047】
(実施例2)
(トリエチルペンチルホスホニウムブロミドの合成)
トリエチルホスフィン1.0MのTHF溶液[シグマアルドリッチ社製、純度97%]100mlを三つ口フラスコに入れて70℃に加熱し、還流状態にした。還流下において、1-ブロモペンタン[東京化成工業社製、純度>98%]15.58g(103mmol)を滴下して加えたのち、80℃で6時間撹拌することにより反応を行った。反応終了後、白色の固体が生成していることが観察された。
得られた反応液を室温まで冷却したのち、ヘキサン約300mlに対して撹拌しながら滴下し、その後1時間撹拌することで固体を十分に析出させた。この懸濁液を一晩静置し、固体を沈降させた。得られた固体生成物をナスフラスコに移して、エバポレーターを用いて40℃で約3時間減圧することによってヘキサンを除去し、トリエチルペンチルホスホニウムブロミド17.42gの白色固体を得た。
【0048】
エタノール100mlに、得られたトリエチルペンチルホスホニウムブロミド2.70g(10mmol)とアニオン交換樹脂[シグマアルドリッチ社製、Amberlite(登録商標) IRN78 水酸化物フォーム]20gを加えて撹拌することにより、ヒドロキシドに置換反応を行った。次いで、得られた反応液を吸引ろ過により濾別し、得られたろ液に、N-メチルグリシン[東京化成工業社製、純度>98%]0.98g(11mmol)を20mlの純水に溶解させた水溶液を加えて反応させ、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することにより、トリエチルペンチルホスホニウムカチオンとN-メチルグリシンアニオンからなるイオン液体2.64gを得た。
実施例1-1と同様にして、同じモル量のアカセンと酢酸コバルト(II)四水和物をエタノール50mlに仕込んで調製したコバルトアカセン錯体の溶液に、調製したイオン液体2.60gを加えて80℃で3時間撹拌して反応させることにより、目的の液体(液体状金属錯体)5.28gを得た。
【0049】
(実施例3)
実施例2と同様の方法で、トリブチル-n-オクチルホスホニウムブロミド[東京化成工業社製、純度>98%]3.95g(10mmol)とN-メチルグリシン[東京化成工業社製、純度>98%]0.98g(11mmol)とを反応させることにより、イオン液体4.12gを得た。
実施例1-1と同様にして、同じモル量のアカセンと酢酸コバルト(II)四水和物をエタノール50mlに仕込んで調製したコバルトアカセン錯体の溶液に、調製したイオン液体4.08gを加えて80℃で3時間撹拌して反応させることにより、目的の液体(液体状金属錯体)7.48gを得た。
【0050】
(実施例4-1)
実施例2と同様の方法で、トリへキシル(テトラデシル)ホスホニウムブロミド[シグマアルドリッチ社製、純度>95%]5.64g(10mmol)とN-メチルグリシン[東京化成工業社製、純度>98%]0.98g(11mmol)とを反応させることにより、イオン液体5.31gを得た。
実施例1-1と同様にして、調製したコバルトアカセン錯体の溶液5.28gに、調製したイオン液体を加えて80℃で3時間撹拌して反応させることにより、目的の液体(液体状金属錯体)9.64gを得た。
【0051】
(実施例4-2) [P66614]2[Co(acacen)(N-mGly)(Tf2N)]
(トリへキシル(テトラデシル)ホスホニウム・N-メチルグリシナートの合成)
実施例4-1と同様にして、トリへキシル(テトラデシル)ホスホニウムカチオンとN-メチルグリシンアニオンからなるイオン液体4.62gを得た。
【0052】
(トリへキシル(テトラデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの合成)
トリへキシル(テトラデシル)ホスホニウムブロミド5.64g(10mmol)を純水50mlに加えてエマルジョン状態になるように撹拌したところに、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム3.45g(12mmol)を加えて、室温で2時間撹拌して反応させた。
反応終了後、ジクロロメタンを加えることで、目的の反応生成物をジクロロメタン相に抽出した。その後、ジクロロメタン相は水相と分離したのち純水で洗浄した。
得られたジクロロメタン溶液をナスフラスコに移して、エバポレーターを用いて40℃で約3時間減圧することによってジクロロメタンを除去し、真空乾燥にて12時間完全に脱気することで粘稠な液体であるトリへキシル(テトラデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド6.85gを得た。
【0053】
実施例1-1と同様に合成して得たアカセン1.35g(6mmol)と酢酸コバルト(II)四水和物1.50g(6mmol)とを20mlのエタノールに加えて80℃で3時間撹拌して反応させ、コバルトアカセン錯体を含むあずき色の溶液を得た。得られた溶液にトリへキシル(テトラデシル)ホスホニウム・N-メチルグリシナート3.43g(6mmol)を加えて、80℃で3時間撹拌したあと、その反応溶液中にトリへキシル(テトラデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド4.59g(6mmol)を加えて更に2時間撹拌した。得られた溶液を80℃で12時間加熱乾燥して溶媒のエタノールを揮発除去することによって、目的の液体(液体状金属錯体)8.12gを得た。
実施例1-1同様にして、得られた目的の液体がコバルトアカセン錯体のコバルトイオンに構成カチオンが配位されてなることを確認した。
【0054】
(比較例1)
コバルトアカセン錯体の代わりにコバルトサレン錯体を用いること以外は実施例2と同様にして、液体状金属錯体を得た。
具体的には、実施例2と同様にして、トリエチルペンチルホスホニウムカチオンとN-メチルグリシンアニオンからなるイオン液体を調製したのち、得られたイオン液体5.42gとN,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)[東京化成工業社製、純度>95%]3.25g(10mmol)とをエタノール100ml中に加えて、室温で3時間撹拌混合して反応させ、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、目的の液体(液体状金属錯体)3.86g得た。
【0055】
(比較例2)
コバルトアカセン錯体の代わりにコバルトサレン錯体を用いること以外は実施例3と同様にして、液体状金属錯体を得た。
具体的には、実施例3と同様にして、トリブチルオクチルホスホニウムカチオンとN-メチルグリシンアニオンからなるイオン液体を調製したのち、得られたイオン液体8.66gとN,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)[東京化成工業社製、純度>95%]3.25g(10mmol)とをエタノール100ml中に加えて、室温で3時間撹拌混合して反応させ、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、目的の液体(液体状金属錯体)6.14g得た。
【0056】
(比較例3)
コバルトアカセン錯体の代わりにコバルトサレン錯体を用いること以外は実施例4-1と同様にして、液体状金属錯体を得た。
具体的には、実施例4-1と同様にして、トリへキシル(テトラデシル)ホスホニウムカチオンとN-メチルグリシンアニオンからなるイオン液体を調製したのち、得られたイオン液体11.8gとN,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)[東京化成工業社製、純度>95%]3.25g(10mmol)とをエタノール100ml中に加えて、室温で3時間撹拌混合して反応させ、減圧濃縮により溶媒と未反応物を除去することで、目的の液体(液体状金属錯体)7.88g得た。
【0057】
[粘度の評価]
すべての実施例で得られたコバルトアカセン錯体の液体状金属錯体および比較例1~3で得られたコバルトサレン錯体の液体状金属錯体の粘度を、EMS粘度計(京都電子工業社製、型式:EMS-1000)を用い、温度30℃の条件下で測定した。
得られた結果を、液体状金属錯体の構造式と共に表1に示す。
【0058】
[酸素吸収量の評価]
すべての実施例で得られたコバルトアカセン錯体の液体状金属錯体および比較例1~3で得られたコバルトサレン錯体の液体状金属錯体の酸素吸収量を、図1の吸収試験装置を用いて測定した。
図1は、酸素吸収量を測定する吸収試験装置の模式図であり、各図番は、それぞれ吸収試験装置(定温チャンバー)1、サンプルセル2、対照セル3、圧力計4、二方弁5、三方弁6、真空ポンプ7、酸素または窒素ガス供給源(ボンベ)8を示す。
吸収試験装置内を窒素置換し、シリンジを用いてサンプル液体3.02gを装置内に導入した。その後、さらに窒素置換を行い、1時間以上脱気を行うことで、系内を乾燥させた。その後、温度30℃の条件下で0~20kPaの所定の圧力で酸素ガスを導入し、吸収による圧力変化を圧力センサーによって測定し、この結果から酸素吸収量を見積もった。
得られた結果を、液体状金属錯体の構造式と共に表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1中の構造式の略記は以下のとおりである。
Acacen :N,N’-エチレンビス(アセチルアセトニリデンアミナート)
Salen :N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン
aN111 :1,1,1-トリメチルヒドラジニウムカチオン
aN112 :1-エチル-1,1-ジメチルヒドラジニウムカチオン
aN115 :1,1-ジメチル-1-ペンチルヒドラジニウムカチオン
2225 :トリエチルペンチルホスホニウムカチオン
4448 :トリブチルオクチルホスホニウムカチオン
66614 :トリへキシル(テトラデシル)ホスホニウムカチオン
Tf2N :ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
N-mGly :N-メチルグリシナート
【0061】
表1の結果から次のことがわかる。
・本発明の液体状金属錯体(すべての実施例)は、いずれも10,000mPa・s以下の適度な流動性を示す粘度領域にあること
・本発明の液体状金属錯体(実施例2、3、4-1)は、それぞれ従来の金属錯体に同じイオン性配位子を組み合わせた液体状金属錯体(比較例1~3)と比較すると大幅に低い粘度を有すること
・本発明の液体状金属錯体(実施例1-1、1-2、1-3)は、錯体構造を含む液体としてはかなり高い流動性を示す、1,000mPa・s以下の低い粘度であること
【0062】
本発明の液体状金属錯体(すべての実施例))は、いずれも酸素吸収能を有するが、必ずしも酸素吸収量が多いとは限らない。しかしながら、液体状金属錯体を酸素分離膜に応用したときの膜性能は、酸素の吸収性能と透過拡散性能とが関与するので、酸素の吸収性能以上に、酸素キャリアとしての錯体の低粘度化による酸素の透過拡散性能の向上が高く寄与するならば、膜性能は向上することになる。
すべての実施例の液体状金属錯体は、酸素キャリアを介した酸素の透過拡散が十分に機能する低粘度の液体状錯体構造の一例であるが、イオン性配位子のアミン構造を変更することで、低粘度に加えてさらに高い酸素吸収性を有する液体状金属錯体を得ることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の酸素吸収能を有する液体状金属錯体は、酸素の分離、濃縮、除去、貯蔵などを目的とした酸素吸収材料、酸素分離膜を必要とする分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 吸収試験装置(定温チャンバー)
2 サンプルセル
3 対照セル
4 圧力計
5 二方弁
6 三方弁
7 真空ポンプ
8 酸素または窒素ガス供給源(ボンベ)
図1