(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】繊維のめっき方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/20 20060101AFI20221214BHJP
C23C 18/30 20060101ALI20221214BHJP
C23C 18/31 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
C23C18/30
C23C18/31
(21)【出願番号】P 2018125641
(22)【出願日】2018-06-30
【審査請求日】2020-07-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】395010794
【氏名又は名称】名古屋メッキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋
(72)【発明者】
【氏名】古井 幹哲
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-197579(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106098248(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105951063(CN,A)
【文献】特開2003-171869(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104442057(CN,A)
【文献】特開2004-346349(JP,A)
【文献】特開昭53-142472(JP,A)
【文献】特開2016-056469(JP,A)
【文献】特開平07-173636(JP,A)
【文献】特開平04-180572(JP,A)
【文献】特開2008-231459(JP,A)
【文献】特開2013-067908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維及びパラ系アラミド繊維から選ばれる非金属繊維を過酸化水素の濃度18~36%水溶液(但し、硫酸を含む酸性過酸化水素水溶液を除く。)
又は過酸化ナトリウムの濃度10~50%水溶
液に浸漬して、繊維表面を酸化し、親水化するオキシデーション処理工程と、
非金属繊維をシランカップリング剤の水溶液に浸漬するシランカップリング処理工程と、
オキシデーション処理工程及びシランカップリング処理工程を経た非金属繊維を、めっきの核となる触媒を含有する触媒含有物の水溶液に浸漬するキャタライズ処理工程と、
キャタライズ処理工程を経た非金属繊維に無電解めっきする無電解めっき工程とを含むことを特徴とする繊維のめっき方法。
【請求項2】
液晶ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維及びパラ系アラミド繊維から選ばれる非金属繊維を過酸化水素の濃度18~36%水溶液(但し、硫酸を含む酸性過酸化水素水溶液を除く。)
又は過酸化ナトリウムの濃度10~50%水溶
液に浸漬して、繊維表面を酸化し、親水化するオキシデーション処理工程と、
非金属繊維をタンニン酸の水溶液に浸漬するタンニン酸処理工程と、
非金属繊維をシランカップリング剤の水溶液に浸漬するシランカップリング処理工程と、
オキシデーション処理工程、タンニン酸処理工程及びシランカップリング処理工程を経た非金属繊維を、めっきの核となる触媒を含有する触媒含有物の水溶液に浸漬するキャタライズ処理工程と、
キャタライズ処理工程を経た非金属繊維に無電解めっきする無電解めっき工程とを含むことを特徴とする繊維のめっき方法。
【請求項3】
前記触媒は、パラジウムである請求項1又は2記載の繊維のめっき方法。
【請求項4】
前記触媒含有物の水溶液は、錫-パラジウム混合コロイド水溶液である請求項1又は2記載の繊維のめっき方法。
【請求項5】
前記触媒含有物の水溶液は、塩化パラジウム-塩酸水溶液である請求項1又は2記載の繊維のめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維のめっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維の上に金属めっき膜を形成しためっき繊維を、電磁シールド布、静電気防止布、導電性布、遮光性布等に用いることが知られている。また、近年では、電線としての銅線を、繊維の上に銅めっき膜を形成しためっき繊維に置き換えることにより、電線の軽量化・低コスト化を図ることが検討されている。ここで、繊維へのめっき膜の固着性を向上させることが求められる。
【0003】
特許文献1には、エッチング処理工程と、シランカップリング処理工程と、金属粒子を付与するメタライズ処理工程と、無電解めっき処理工程とを含む有機高分子繊維のめっき方法が記載されている。金属粒子はシランカップリング剤を介して繊維表面に固着し、この固着作用がめっき膜の繊維表面への固着性に寄与する。
【0004】
特許文献2には、プラズマ処理工程(プラズマ状態のガス(酸素、空気、Ar等)を繊維に接触させて、繊維表面を親水化又は活性化する。)と、カチオン処理工程と、第一Sn-Pd触媒浸漬処理工程と、第一アクセレーター処理工程と、熱処理工程と、第二Sn-Pd触媒浸漬工程と、第二アクセレーター処理工程又は導体化処理工程と、無電解めっき又は電気めっきするめっき工程とを備えた高分子繊維材料のめっき方法を備えた高分子繊維材料のめっき方法が記載されている。カチオン化された繊維表面に、Sn-Pdコロイドのアニオンがファンデルワールス力及びクーロン力によって強固に吸着・結合し、この吸着・結合作用がめっき膜の繊維表面への固着性に寄与する。
【0005】
特許文献3には、照射工程(プラズマで生成されたラジカル(Oラジカル、OHラジカル、Nラジカル等)等からなる照射粒子を、筒状器具を用いて、繊維に照射及び反射照射して接触させ、繊維の表面に凹凸を形成するとともに、カルボキシル基、カルボニル基その他の親水基を付与する。)と、カチオン処理工程と、Sn-Pd触媒浸漬処理工程と、アクセレーター処理工程と、無電解めっき又は電気めっきするめっき工程とを備えた高分子繊維材料のめっき方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-171869号公報
【文献】特開2010-59532号公報
【文献】特開2012-233278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のエッチング処理とシランカップリング処理では、めっき膜の繊維表面への固着性を十分に向上させることが難しかった。
【0008】
特許文献2,3に記載のプラズマ処理とカチオン処理でも、めっき膜の繊維表面への固着性を十分に向上させることが難しかった。また、プラズマ処理は、方向性があり、また乾式処理であるとともに主にバッチ処理であるから、水系の流体を用いるめっきの連続ラインに組み込むことが難しいという問題もあった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、めっき膜の繊維表面への固着性を十分に向上させることができ、また、オキシデーション処理工程を含む各処理工程を、水系の流体を用いるものにして、めっきの連続ラインに容易に組み込むことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の繊維のめっき方法は、次の[1]又は[2]の手段を採ったものである。
【0011】
[1]液晶ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維及びパラ系アラミド繊維から選ばれる非金属繊維を過酸化水素の濃度18~36%水溶液(但し、硫酸を含む酸性過酸化水素水溶液を除く。)又は過酸化ナトリウムの濃度10~50%水溶液に浸漬して、繊維表面を酸化し、親水化するオキシデーション処理工程と、
非金属繊維をシランカップリング剤水溶液に浸漬するシランカップリング処理工程と、
オキシデーション処理工程及びシランカップリング処理工程を経た非金属繊維を、めっきの核となる触媒を含有する触媒含有物の水溶液に浸漬するキャタライズ処理工程と、
キャタライズ処理工程を経た非金属繊維に無電解めっきする無電解めっき工程とを含むことを特徴とする繊維のめっき方法。
【0012】
[2]液晶ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維及びパラ系アラミド繊維から選ばれる非金属繊維を過酸化水素の濃度18~36%水溶液(但し、硫酸を含む酸性過酸化水素水溶液を除く。)又は過酸化ナトリウムの濃度10~50%水溶液に浸漬して、繊維表面を酸化し、親水化するオキシデーション処理工程と、
非金属繊維をタンニン酸水溶液に浸漬するタンニン酸処理工程と、
非金属繊維をシランカップリング剤水溶液に浸漬するシランカップリング処理工程と、
オキシデーション処理工程、タンニン酸処理工程及びシランカップリング処理工程を経た非金属繊維を、めっきの核となる触媒を含有する触媒含有物の水溶液に浸漬するキャタライズ処理工程と、
キャタライズ処理工程を経た非金属繊維に無電解めっきする無電解めっき工程とを含むことを特徴とする繊維のめっき方法。
【0013】
[作用]
オキシデーション処理工程により、繊維表面が親水性となり、めっき工程でめっき液が繊維表面に付きやすくなる。シランカップリング処理工程により、触媒がシランカップリング剤を介して繊維表面に強く固着する。さらに上記[2]の手段では、タンニン酸処理工程により、触媒がタンニン酸を介しても繊維表面に強く固着する。これらの作用により、めっき膜の繊維表面への固着性を十分に向上させることができる。また、オキシデーション処理工程、シランカップリング処理工程、タンニン酸処理工程及びキャタライズ処理工程が、いずれも水系の流体を用いるものであり、めっきの連続ラインに組み込みやすい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の繊維のめっき方法によれば、めっき膜の繊維表面への固着性を十分に向上させることができる。また、オキシデーション処理工程を含む各処理工程が、水系の流体を用いるものであり、めっきの連続ラインに容易に組み込むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<A>非金属繊維
非金属繊維としては、次の(ア)(イ)を例示できるところ、本発明では上記のとおり液晶ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維及びパラ系アラミド繊維から選ばれる非金属繊維とした。
(ア)有機繊維
・合成繊維:ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維等)、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン(PE)繊維、ポリプロピレン(PP)繊維等)、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、ポリカ―ボネート繊維、ポリアセタ―ル繊維、アクリル繊維、ポリアミド系繊維、アラミド繊維等を例示できる。電線として用いるめっき繊維の繊維には、高抗張力であるパラ系アラミド繊維、PBO(poly(p-phenylenebenzobisoxazole))繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が好ましい。また、抗張力が15cN/dtex以上の繊維が好ましいが、抗張力が例えば6~8cN/dtexと低い繊維でも繊度が100dtex以上と太い繊維を使うことによって対応することができる。
・天然繊維:綿、麻、絹、竹等を例示できる。
(イ)無機繊維
ガラス繊維、鉱物繊維、セラミック繊維、シリカ繊維等を例示できる。
【0016】
非金属繊維は、モノフィラメントでも、マルチフィラメント(複数本のフィラメントの束)でもよい。1本のフィラメントの直径は、特に限定されないが、10~200μmを例示できる。マルチフィラメントの場合、1本のフィラメントの直径は10~25μmが好ましい。
【0017】
<B>工程
以下、各処理工程の態様を例示する。なお、以下の例において%はいずれも質量%である。
以下の処理工程のうち(3)オキシデーション処理工程と(4)タンニン酸処理工程と(5)シランカップリング処理工程の順序は、特に限定されないが、(3)の処理工程を最先に行うことが好ましい。
また、これら(3)(4)(5)で最先に行う処理工程の前に、(1)アルカリエッチング処理工程と(2)中和処理工程をこの順で行うことができる。
また、(7)無電解めっき工程の後に、(8)電気めっき工程を行うことができる。
【0018】
(1)アルカリエッチング処理工程
非金属繊維をアルカリ水溶液に浸漬して、繊維表面の洗浄、精錬及びエッチングを同時に行う。
アルカリとしては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等を例示できる。
NaOH、KOH等の水溶液の濃度は、特に限定されないが、100~300g/Lが好ましい。
アルカリ水溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、5~20分が好ましい。
【0019】
(2)中和処理工程
アルカリエッチング処理後の非金属繊維を酸水溶液に浸漬して、中和させる。
酸としては、特に限定されないが、硫酸(H2SO4)、塩酸(HCl)、固形酸(NH4HF2等)を例示できる。
酸水溶液の濃度は、特に限定されないが、5~20%が好ましい。
酸水溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、1~5分が好ましい。
【0020】
(3)オキシデーション処理工程
非金属繊維を過酸化物の水溶液又はオゾンナノバブル水に浸漬して、繊維表面を酸化し、親水化する。過酸化物の水溶液も、オゾンナノバブル水も、水系の流体であるので、ラインに組み込むことが容易にできる。
【0021】
(ア)過酸化物の水溶液に浸漬
ここで、過酸化物としては、特に限定されないが、過酸化水素(H2O2)、過酸化ナトリウム(Na2O2)、過酸化カリウム(K2O2)、過酸化バリウム(BaO2)等の無機過酸化物や、過酢酸(CH3COOOH )等の有機過酸化物を例示できる。特に過酸化水素水又は過酸化ナトリウム水溶液は、取扱性、作業環境性に優れる。
過酸化水素水の濃度は、上記のとおり18~36%水溶液とする。18%未満だと処理時間がかかりすぎる。
過酸化ナトリウム水溶液の濃度は、特に限定されないが、10~50%水溶液が好ましい。10%未満だと処理時間がかかりすぎる。
過酸化物の水溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、5~30分が好ましい。
【0022】
(イ)オゾンナノバブル水に浸漬(参考例)
オゾンナノバブル水は、気泡径10~1000nm(好ましくは20~500nm、より好ましくは50~300nm)のオゾン気泡を含む水であり、当該気泡径のオゾン気泡を含んでいれば、さらに気泡径1000nm超のオゾン気泡が混じったものでもよい。
オゾンナノバブル水は、オゾン気泡が長時間にわたって水中に安定的に存在し続ける特徴がある。
オゾンナノバブル水のオゾン濃度は、0.1~50mg/dm3 とし、0.5~20mg/dm3 がより好ましい。0.1mg/dm3 未満だと処理時間がかかり、50mg/dm3 超だと作業環境が低下する。
オゾンナノバブル水への浸漬時間は、特に限定されないが、10~120分が好ましい。
【0023】
(ウ)その他のオキシデーション処理について
その他のオキシデーション処理として酸素プラズマと紫外線照射があるが、いずれも方向性があり、また乾式処理であるとともに主にバッチ処理であるから、水系の流体を用いるめっきの連続ラインに組み込むことが難しいため、本発明におけるオキシデーション処理からは除外される。
【0024】
(4)タンニン酸処理工程
非金属繊維をタンニン酸(C76H52O46)の水溶液に浸漬して、非金属繊維の表面にタンニン酸を付ける。次工程の触媒がタンニン酸を介して非金属繊維の表面と固着することになる。
タンニン酸水溶液の濃度は、特に限定されないが、1~10%が好ましい。
タンニン酸水溶液への浸漬時間は、0.5~5分が好ましい。
【0025】
(5)シランカップリング処理工程
非金属繊維をシランカップリング剤の水溶液に浸漬して、非金属繊維の表面にシランカップリング剤を付ける。次工程の触媒がシランカップリング剤を介して非金属繊維の表面と固着することになる。
シランカップリング剤としては、特に限定されないが、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-エトキシシリル-N-(1,3ジメチル-プチリデン)プロピルアミンN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を例示できる。
シランカップリング液の濃度は、特に限定されないが、0.05~5%が好ましい。
シランカップリング液への浸漬時間は、特に限定されないが、5~30分が好ましい。
【0026】
(6)キャタライズ(触媒付与)処理工程
非金属繊維をめっきの核となる触媒を含有する触媒含有物の水溶液に浸漬して、繊維表面に触媒を付与する。
触媒(触媒金属)としては、特に限定されないが、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)等を例示できる。
触媒含有物の水溶液としては、特に限定されないが、錫-パラジウム混合コロイド水溶液、塩化パラジウム-塩酸水溶液等を例示できる。
触媒含有物の水溶液の濃度は、特に限定されないが、1~5%が好ましい。
触媒含有物の水溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、1~10分が好ましい。
【0027】
(ア)触媒含有物の水溶液として錫-パラジウム混合コロイド水溶液を用いる場合
キャタライズ処理工程の前に次の(i)プリディップ処理工程を行い、キャタライズ処理工程の後に次の(ii)アクセレーター処理工程を行う。
【0028】
(i)プリディップ処理工程
錫-パラジウム混合コロイド水溶液には塩化第一錫が含まれる。仮に非金属繊維を(プリディップ処理無しで)水洗した後に錫-パラジウム混合コロイド水溶液に浸漬すると、塩化第一錫が酸化されて水酸化第二錫の沈殿が生じる。この現象を防止するために、非金属繊維を酸水溶液に浸漬するプリディップ処理工程を設ける。
酸水溶液は塩酸、塩化ナトリウムなどで建浴する。酸水溶液の塩酸の濃度は、特に限定されないが、錫-パラジウム混合コロイド水溶液に含まれている薬品濃度と同程度が好ましい。
酸水溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、0.5~3分が好ましい。
【0029】
(ii)アクセレーター処理工程
キャタライズ処理工程を経た非金属繊維を、錫を溶かしてパラジウムを活性化するアクセレーター水溶液に浸漬するアクセレーター処理工程を行う。
アクセレーター水溶液としては、錫を溶かしてパラジウムを溶かさないものであれば特に限定されず、酸水溶液(塩酸、硫酸、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸等)、アルカリ水溶液等を例示できる。酸水溶液の濃度は、特に限定されないが、5~20%が好ましい。
アクセレーター水溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、3~10分が好ましい。
【0030】
(イ)触媒含有物の水溶液として塩化パラジウム-塩酸水溶液を用いる場合
塩化パラジウム-塩酸水溶液には塩化第一錫が含まれないから、上記プリディップ処理工程を行う必要はない。
また、錫を溶かす上記アクセレーター処理工程を行う必要もない。無電解めっきの際に塩化パラジウムが還元される。
【0031】
(7)無電解めっき工程
無電解めっきの主目的は、導電化である。
無電解めっきの金属は、特に限定されないが、銅、ニッケル、銀等が好ましい。
無電解めっきのめっき液及びめっき条件は、特に限定されず、公知の一般的なものでもよいそれを改良したものでもよい。
無電解めっきによるめっき膜の膜厚は、特に限定されないが、0.1~3μmが好ましい。
【0032】
(8)電気めっき工程
電気めっきの主目的は、抵抗値の低減である。
電気めっきの金属は、特に限定されないが、銅、ニッケル、銀等が好ましい。
電気めっきのめっき液及びめっき条件は、特に限定されず、公知の一般的なものでもそれを改良したものでもよい。
電気めっきによるめっき膜の膜厚は、特に限定されないが、0.5~4μmが好ましい。
【0033】
<C>めっき繊維の用途
本発明で作製されためっき繊維の用途は、特に限定されないが、電線が好適であり、さらに布(織布、編物、不織布等)に加工して電磁シールド布、静電気防止布、導電性布、遮光性布にも使用することができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の実施例について、比較例と対比して説明する。なお、実施例の非金属繊維(以下、単に「繊維」という。)の種類、工程における各処理の詳細は例示であり、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0035】
表1に示すように、実施例1~8として、「繊維」欄に示す4種の繊維に、「工程」欄に○印を付けた各処理を上から下の順で行い、めっき繊維を作製した。○印を付けていない処理は行っていない。
【0036】
【0037】
表2に示すように、オキシデーション処理を行わない比較例1~8として、「繊維」欄に示す4種の繊維に、「工程」欄に○印を付けた各処理を上から下の順で行い、めっき繊維を作製した。○印を付けていない処理は行っていない。
【0038】
【0039】
ここで、繊維の種類、工程の各処理について詳述する。
繊維として、実施例1,2及び比較例1,2ではポリエステル繊維束(繊度84dtex-36f)を、実施例3,4及び比較例3,4ではポリアリレート繊維束(繊度440dtex-80f)を、実施例5,6及び比較例5,6では液晶ポリエステル繊維束(繊度440dtex-96f)を、実施例7,8及び比較例7,8ではパラ系アラミド繊維束(繊度440dtex-267f)を、それぞれ使用した。
【0040】
(1)アルカリエッチング処理工程は、繊維を水酸化ナトリウム200g/L水溶液(70℃)に10分浸漬して行った。
【0041】
(2)中和処理工程は、繊維を固形酸(奥野製薬工業株式会社の商品名「固形酸A」)100g/L水溶液(30℃)に2分浸漬して行った。
【0042】
(3)オキシデーション処理工程は、次の3種のうちの1種を行った。
・繊維を過酸化水素水(濃度29%、30℃)に10分浸漬した。
・繊維を過酸化ナトリウム水溶液(濃度30%、30℃)に10分浸漬した。
・繊維をオゾンナノバブル水(オゾン濃度10mg/dm3 、30℃)に30分浸漬した。
【0043】
(4)タンニン酸処理工程は、繊維をタンニン酸2g/L水溶液(30℃)に2分浸漬して行った。
【0044】
(5)シランカップリング処理工程は、次の3種のうちの1種を行った。
・繊維を3-アミノプロピルトリエトキシシラン2%水溶液(40℃)に15分浸漬した。
・繊維を3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン2%水溶液(40℃)に15分浸漬した。
・繊維を3-アミノプロピルトリメトキシシラン2%水溶液(40℃)に15分浸漬した。
【0045】
(6)プリディップ処理工程は、繊維を塩酸20%水溶液(30℃)に1分浸漬して行った。
【0046】
(7)キャタライズ処理工程は、繊維をローム・アンド・ハース電子材料株式会社の商品名「キャタポジット44」2%水溶液(40℃)に3分浸漬して行った。「キャタポジット44」はSn-Pd混合コロイドを含むものである。
【0047】
(8)アクセレーター処理工程は、繊維を硫酸10%水溶液(40℃)に5分浸漬して行った。
【0048】
(9)無電解銅めっき工程は、繊維を、奥野製薬工業株式会社の商品名「OPCカッパーHFS」を用いた標準建浴めっき液(40℃)に15分浸漬して行った。
【0049】
(10)電気銅めっき工程は、繊維を、硫酸銅を用いた標準建浴めっき液(30℃)に浸漬し、印加電圧1.0Vで15分行った。
【0050】
上記のとおり作製した実施例1~8と比較例1~8のめっき繊維について、表1の「評価」欄のとおり、めっき膜の固着性を調べた。具体的には、めっき繊維に粘着テープ(ニチバン株式会社の商品名「セロテープ(同社の登録商標)」)を圧着し、その後強く引き剥がし、めっき膜がめっき繊維から剥がれて粘着テープに移るかどうかを調べた。めっき膜が粘着テープに、全く移らなかった場合を良(◎)、疎らな点状に移った場合を可(○)、断続する線状に移った場合を不可(△)、連続する線状に移った場合を固着性なし(×)と評価した。