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特許7193835加工撚糸の製造方法及び織編物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】加工撚糸の製造方法及び織編物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/08 20060101AFI20221214BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20221214BHJP
   D03D 15/65 20210101ALI20221214BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20221214BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20221214BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
D02G3/08
D02G3/04
D03D15/65
D04B1/14
D04B1/16
D04B21/00 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018154831
(22)【出願日】2018-08-21
(65)【公開番号】P2020029629
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504101005
【氏名又は名称】浅野撚糸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】浅野 雅己
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204812(JP,A)
【文献】特開2006-144183(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132708(WO,A1)
【文献】特開2015-140488(JP,A)
【文献】特開平08-060473(JP,A)
【文献】特開2014-224334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00-3/48
D02J 1/00-13/00
D03D 1/00-27/18
D04B 1/00-1/28
D04B 21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙テープに撚りをかけた紙撚糸に、紙とは異なる素材の繊維の糸である異素材糸の少なくとも一種を添え、前記紙撚糸の撚りの方向とは逆方向に撚る逆撚りを行うことにより加工撚糸を得るものであり、
単位長さの前記紙テープがN回撚られることによって長さLの前記紙撚糸となるとき、
前記逆撚りは、前記紙撚糸の長さL当たりにNの1.0倍を超えると共にNの3.0倍以下の回数の撚りをかけるものであると共に、
前記異素材糸として少なくとも水溶性糸を使用し、
該水溶性糸は、単位長さの前記紙テープがN回撚られることによって長さLとなった前記紙撚糸に対して、前記逆撚りを2N回行った後の前記加工撚糸の長さがL未満であることにより、前記紙撚糸を撚り縮められるものである
ことを特徴とする加工撚糸の製造方法。
【請求項2】
紙テープに撚りをかけた紙撚糸に、紙とは異なる素材の繊維の糸である異素材糸の少なくとも一種を添え、前記紙撚糸の撚りの方向とは逆方向に撚る逆撚りを行うことにより得た加工撚糸を少なくとも用いて製編織するものであり、
単位長さの前記紙テープがN回撚られることによって長さLの前記紙撚糸となるとき、
前記逆撚りは、前記紙撚糸の長さL当たりにNの1.0倍を超えると共にNの3.0倍以下の回数の撚りをかけるものであると共に、
前記異素材糸として少なくとも水溶性糸を使用し、
該水溶性糸は、単位長さの前記紙テープがN回撚られることによって長さLとなった前記紙撚糸に対して、前記逆撚りを2N回行った後の前記加工撚糸の長さがL未満であることにより、前記紙撚糸を撚り縮められるものであり、
前記加工撚糸を製編織する前または後で、前記水溶性糸を水で溶解除去する
ことを特徴とする織編物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙撚糸を使用した加工撚糸の製造方法、及び、該製造方法により製造された加工撚糸を製編織する織編物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙を細い幅にカットした紙テープに撚りをかけた紙撚糸、及び、紙撚糸を製編織した織編物が周知である。紙は、吸水性・吸湿性に優れる、放湿性が高く乾燥させやすい、独特のドライな肌触りを有するなどの利点を有している。
【0003】
一方、紙撚糸は引張り強度や引裂き強度が低い、伸縮性が乏しいために製編織しにくいという難点を有している。そこで、従前より、紙とは異なる素材の繊維を紙テープまたは紙撚糸と撚り合わせることにより、紙撚糸の難点を改善する試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、紙とは異なる素材の繊維を紙テープまたは紙撚糸と撚り合わせた撚糸では、紙とは異なる素材の繊維が表面に表れる。吸水性・吸湿性や放湿性、ドライな肌触りという上記の利点は、主に撚糸の表面における特性によるものである。そのため、従来の試みでは、紙撚糸の難点を改善するべく使用した異素材の繊維によって、紙の利点が損なわれることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭60-093780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、紙とは異なる素材の繊維によって紙撚糸の難点を改善することができると共に、紙の利点を損なうことがない加工撚糸の製造方法、及び、該製造方法により製造された加工撚糸を使用した織編物の製造方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる加工撚糸の製造方法は、
「紙テープに撚りをかけた紙撚糸に、紙とは異なる素材の繊維の糸である異素材糸の少なくとも一種を添え、前記紙撚糸の撚りの方向とは逆方向に撚る逆撚りを行うことにより加工撚糸を得るものであり、
単位長さの前記紙テープがN回撚られることによって長さLの前記紙撚糸となるとき、
前記逆撚りは、前記紙撚糸の長さL当たりにNの1.0倍を超えると共にNの3.0倍以下の回数の撚りをかける」ものである。
【0008】
以下では、紙テープを紙撚糸とするときの撚りを「元撚り」と称する。
【0009】
本構成では、紙撚糸に異素材糸を添えた状態で、元撚りとは逆方向に撚って加工撚糸を得る。逆撚りの回数は、単位長さの紙テープがN回撚られることによって長さLの紙撚糸となるとき、紙撚糸の長さL当たりNの1.0倍を超える回数とする。つまり、紙撚糸は、撚り数ゼロの状態を超えて、更に元撚りとは逆方向に撚られる。元撚りされた紙撚糸に添えられた状態から紙撚糸と共に撚られる異素材糸は、紙撚糸が撚り数ゼロとなって元の紙テープ状に戻り、更にその状態を超えて逆方向に撚られるとき、紙テープの内側に巻き込まれるように撚り合わされる。従って、逆撚り後の加工撚糸の表面には異素材糸が表れにくい。そのため、紙の有する利点が損なわれるおそれが大幅に低減された加工撚糸を、製造することができる。そして、異素材糸の有する特性によって、本来の紙に乏しい特性を付与することができるため、紙撚糸の難点が改善された加工撚糸とすることができる。
【0010】
なお、単位長さの紙テープに対応した紙撚糸の長さL当たりの逆撚りの回数が、元撚り数Nの3.0倍を超えると、加工撚糸に切れが生じやすくなる。
【0011】
本発明にかかる加工撚糸の製造方法は、上記構成に加え、
「前記異素材糸として少なくとも水溶性糸を使用し、
該水溶性糸は、単位長さの前記紙テープがN回撚られることによって長さLとなった前記紙撚糸に対して、前記逆撚りを2N回行った後の前記加工撚糸の長さがL未満であることにより、前記紙撚糸を撚り縮められるものである」ものである。
【0012】
本構成では、異素材糸として少なくとも水溶性糸を使用するが、この水溶性糸は伸縮性の乏しいものを使用する。単位長さの紙テープがN回撚られることによって長さLとなった紙撚糸に対して逆撚りを2N回行うと、紙撚糸は元撚りとは逆方向にN回撚られた状態となる。仮に、水溶性糸が伸縮性に富んでいると、水溶性糸を添わせた紙撚糸を逆撚りする際、水溶性糸は引き伸ばされつつ撚られて行くため、水溶性糸は紙撚糸の長さに影響を与えない。そのため、水溶性糸が伸縮性に富んでいる場合、元撚り状態で長さLであった紙撚糸は、逆撚り後に同じ長さLとなる。これに対し、水溶性糸の伸縮性が乏しいと、紙撚糸が撚り数ゼロの状態を超えて逆方向に撚られて行く際、紙撚糸が水溶性糸によって撚り縮められる。すなわち、単位長さの紙テープがN回撚られることによって長さLとなった紙撚糸に対して、逆撚りを2N回行った後の加工撚糸の長さは、Lより短いものとなる。このように水溶性糸によって紙撚糸が撚り縮められている状態の加工撚糸から、水溶性糸を溶解除去すると、それまで縮められていた紙撚糸に元に戻ろうとする力が作用する。これにより、もともとの紙撚糸には乏しかった伸縮性を、加工撚糸に付与することができる。
【0013】
次に、本発明にかかる織編物の製造方法は、
「紙テープに撚りをかけた紙撚糸に、紙とは異なる素材の繊維の糸である異素材糸の少なくとも一種を添え、前記紙撚糸の撚りの方向とは逆方向に撚る逆撚りを行うことにより加工撚糸を得るものであり、
単位長さの前記紙テープがN回撚られることによって長さLの前記紙撚糸となるとき、
前記逆撚りは、前記紙撚糸の長さL当たりにNの1.0倍を超えると共にNの3.0倍以下の回数の撚りをかけるものである」ものである。
【0014】
これは、上記の加工撚糸の製造方法により製造された加工撚糸を少なくとも用いて製編織する織編物の製造方法である。異素材糸によって本来の紙に乏しい特性を付与しつつ、加工撚糸の表面に異素材糸が表れにくいため、紙の有する利点を十分に活かした織編物を製造することができる。
【0015】
本発明にかかる織編物の製造方法は、上記構成に加え、
「前記異素材糸として少なくとも水溶性糸を使用し、
該水溶性糸は、単位長さの前記紙テープがN回撚られることによって長さLとなった前記紙撚糸に対して、前記逆撚りを2N回行った後の前記加工撚糸の長さがL未満であることにより、前記紙撚糸を撚り縮められるものであり、
前記加工撚糸を製編織する前または後で、前記水溶性糸を水で溶解除去する」ものである。
【0016】
これは、上記の加工撚糸の製造方法において、異素材糸として少なくとも水溶性糸を使用する場合に、製造される加工撚糸を少なくとも用いて製編織する織編物の製造方法であり、製編織の前または後で水溶性糸を水で溶解除去する。上述したように、水溶性糸を溶解除去することによって、もともとの紙撚糸には乏しい伸縮性が加工撚糸に大きく発現する。そのため、製編織のために必要な伸縮性が、異素材糸によっては加工撚糸に付与されていない場合は、製編織の前に水溶性糸を溶解除去すれば、製編織のし易い加工撚糸となると共に、伸縮性に富んだ織編物となる。一方、製編織のために必要な伸縮性が異素材糸によって加工撚糸に付与されている場合は、製編織の後で水溶性糸を溶解除去することもできる。これにより、伸縮性に富んだ織編物となると共に、水溶性糸が溶解したあとに形成される空隙により、ふっくらとした風合いや高い通気性を有する織編物となる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、紙とは異なる素材の繊維によって紙撚糸の難点を改善することができると共に、紙の利点を損なうことがない加工撚糸の製造方法、及び、該製造方法により製造された加工撚糸を使用した織編物の製造方法を、提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態である加工撚糸の製造方法、及び、該製造方法により製造された加工撚糸を使用した織編物の製造方法について説明する。
【0019】
まず、本実施形態の加工撚糸の製造方法は、紙テープに撚りをかけた紙撚糸に、紙とは異なる素材の繊維の糸である異素材糸の少なくとも一種を添え、紙撚糸の撚りの方向とは逆方向に撚る逆撚りを行うことにより加工撚糸を得るものである。
【0020】
紙としては、アサ、コウゾ、ミツマタ、ガンピの樹皮から採取した繊維を含む原料や、木材パルプを含む原料を抄紙して得た紙を、特に限定することなく使用することができる。紙テープの幅は特に限定されるものではないが、幅1mm~5mmであれば、撚り合わせる異素材糸の選択の幅が広く好適である。紙テープを紙撚糸にする際の撚り(元撚り)の回数は、紙テープ1メートル当たり200回~1500回とすることができる。
【0021】
異素材糸は、フィラメント糸(長繊維)であっても紡績糸であっても良い。フィラメント糸としては、ポリウレタン弾性糸を使用することができる。また、その他のフィラメント糸として、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維、セルロース系再生繊維(ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン)を例示することができる。フィラメント糸は、モノフィラメント糸でもマルチフィラメント糸でも良い。更に、フィラメント糸は捲縮糸であっても良く、捲縮糸としてはコンジュゲート糸や仮撚加工糸を使用することができる。
【0022】
異素材糸としての紡績糸は、木綿、羊毛、絹、麻などの天然繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維、セルロース系再生繊維などから選ばれる、一種または二種以上の繊維からなる紡績糸を使用することができる。
【0023】
これらの異素材糸から選ばれる一種または二種以上の異素材糸を、紙撚糸に添わせた状態で、元撚りの方向とは逆方向に撚る逆撚りを行う。この逆撚りは、単位長さの紙テープがN回撚られることによって長さLの紙撚糸となっているとき、長さLの紙撚糸に対して次の関係を満たす回数Mだけ撚るものである。
N×1.0 < M ≦ N×3.0
【0024】
回数MがNの1.0倍を超えていることにより、元撚りされていた紙撚糸は、撚り数ゼロの状態を超えて、更に元撚りとは逆方向に撚られる。元撚りされた紙撚糸に添えられた状態から紙撚糸と共に逆撚りされる異素材糸は、紙撚糸が撚り数ゼロとなって元の紙テープ状に戻り、更にその状態を超えて逆方向に撚られるとき、紙テープの内側に巻き込まれるように撚り合わされる。従って、逆撚り後の加工撚糸の表面には、異素材糸は表れにくい。
【0025】
ここで、単位長さの紙テープに対応した紙撚糸の長さL当たりの逆撚りの回数Mが、元撚り数Nの3.0倍を超えると、加工撚糸に切れが生じやすくなる。また、この逆撚りの回数Mは、Nの1.3倍以上で2.7倍以下であれば異素材糸が表面により表れにくく、糸切れがより生じにくいため望ましい。また、この逆撚りの回数Mは、Nの1.5倍以上であれば異素材糸が表面に更に表れにくいため更に望ましく、Nの1.8倍以上であれば異素材糸が表面にほとんど表れないため特に好ましい。一方、この逆撚りの回数がNの1.0倍を超え、且つ1.3倍未満の範囲であれば、異素材糸が表面に表れにくいと共に、無撚の状態に近く、柔らかな風合いの加工撚糸となる。
【0026】
更に、異素材糸としては、水溶性糸を使用することができる。水溶性糸は、沸点より低い温度の水に浸漬したとき、長時間を要することなく溶解するものが望ましい。具体的には、水溶性糸を単独で温度90℃の水に浸漬して30分間放置したときに、浸漬前の水溶性糸の質量に対して85質量%以上が溶解する水溶性を示すものが望ましく、95質量%以上が溶解する水溶性を示すものがより望ましい。このような水溶性糸としては、水溶性ポリビニルアルコール系繊維、水溶性エチレン-ビニルアルコール系共重合体繊維、水溶性ポリアミド繊維からなるものを使用することができる。水溶性糸は、フィラメント糸であっても紡績糸であっても良い。
【0027】
異素材糸として水溶性糸を使用するとき、この水溶性糸は伸縮性の乏しいものを使用する。単位長さの紙テープがN回撚られることによって長さLとなった紙撚糸に対して、逆撚りを2N回行うと、元撚りとは逆方向にN回撚られた紙撚糸となるが、水溶性糸の伸縮性が乏しい場合、紙撚糸が撚り数ゼロの状態を超えて逆方向に撚られて行く際、紙撚糸が水溶性糸によって撚り縮められるため、逆撚り後の加工撚糸の長さはLより短いものとなる。
【0028】
異素材糸としては、水溶性糸ではない異素材糸のみを一種または二種以上使用しても良いし、水溶性糸のみを使用しても良いし、水溶性糸と水溶性糸ではない異素材糸の一種または二種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0029】
次に、本実施形態の織編物の製造方法について説明する。織編物の製造方法は、上記の実施形態の加工撚糸の製造方法により製造された加工撚糸を、製編織する対象の糸の少なくとも一部に使用して製編織するものである。異素材糸の存在によって、加工撚糸の引張り強度や引裂き強度は紙撚糸より高められているため、紙撚糸だけを製編織する場合に比べて製編織がし易い。また、加工撚糸を製編織して製造された織編物の引張り強度や引裂き強度も、紙撚糸だけが製編織された織編物に比べて高められる。
【0030】
また、異素材糸として伸縮性に富んだ糸を使用すれば、加工撚糸の伸縮性を紙撚糸より高めることができるため、紙撚糸だけを製編織する場合に比べて製編織がし易い。
【0031】
加えて、紙撚糸と異素材糸とを逆撚りしていることにより、加工撚糸の表面に異素材糸が表れにくいため、加工撚糸を製編織して製造された織編物の表面にも異素材糸が表れにくい。換言すれば、織編物の表面における紙の割合を十分に高めることができ、紙の有する優れた吸湿性や放湿性を、十分に発揮する織編物を製造することができる。例えば、アサを原料とする紙撚糸(王子ファイバー株式会社製、OJO(登録商標)、1515スタンダード、メートル番手1/41)と綿糸(メートル番手20/1)とで吸湿性、及び放湿性を対比すると、次のようである。
<吸湿性>
紙撚糸:11.80%
綿糸:11.90%
<放湿性>
紙撚糸:15.40%
綿糸:25.00%
【0032】
つまり、紙撚糸は、吸湿性が高い繊維であると言われている綿糸と同程度の吸湿性を有し、放湿性(乾燥のし易さ)は綿糸に比べて非常に高い。ここで、吸湿性は、絶乾試料を温度20℃、相対湿度95%の恒温恒湿空間に60分間放置した後の水分率で評価しており、数値が大きいほど吸湿性が高い。また、放湿性は、水に完全に浸漬した試料を脱水後に質量測定し、その試料を温度20℃、相対湿度65%の恒温恒湿空間に60分間放置した後の水分率で評価しており、数値が小さいほど放湿性が高く乾燥しやすい。
【0033】
異素材糸として水溶性糸のみを使用した加工撚糸を製編織する場合、或いは、異素材糸として二種以上を使用し、その中に水溶性糸を含んでいる加工撚糸を製編織する場合、製編織の前または後で水溶性糸を水で溶解除去する。加工撚糸では水溶性糸によって紙撚糸が撚り縮められた状態にあるため、その加工撚糸から水溶性糸を溶解除去すると、それまで縮められていた状態から元に戻ろうとする力が紙撚糸に作用する。従って、製編織の前に水溶性糸を溶解除去する場合は、加工撚糸に発現する伸縮性によって製編織がし易くなると共に、伸縮性に富んだ織編物が製造される。一方、製編織の後に水溶性糸を溶解除去する場合は、伸縮性に富んだ織編物が製造されると共に、水溶性糸が溶解したあとに形成される空隙により、ふっくらとした風合いを有し通気性の高い織編物となる。
【実施例
【0034】
紙撚糸(王子ファイバー株式会社製、OJO(登録商標)、1515スタンダード、メートル番手1/41、左撚り500回/m)に、ポリエチレン系マルチフィラメント糸(144本)、150デニールを添え、長さ1mの紙テープに対応した紙撚糸の長さ(長さ1mの紙テープを500回左撚りしたときの長さ)当たり1000回、右撚り(逆撚り)することにより、実施例S1の加工撚糸を製造した。ここでの逆撚り数は、単位長さの紙テープに対応した紙撚糸の長さ当たり、元撚り数Nの2.0倍である。
【0035】
実施例S1と同一の紙撚糸(左撚り500回/m)に、ポリウレタン弾性糸(東レ・オペロンテックス株式会社製、ライクラ(登録商標)、40デニール・3フィラメント)を添え、長さ1mの紙テープに対応した紙撚糸の長さ当たり1000回、右撚り(逆撚り)することにより、実施例S2の加工撚糸を製造した。
【0036】
実施例S1,S2と同一の紙撚糸(左撚り500回/m)に、水溶性ポリビニルアルコール系水溶性糸(クラレトレーディング株式会社製、ミントバール(登録商標)、50デニール)を添え、長さ1mの紙テープに対応した紙撚糸の長さ当たり1000回、右撚り(逆撚り)することにより、実施例S11の加工撚糸を製造した。
【0037】
実施例S1,S2,S11と同一の紙撚糸(左撚り500回/m)に、実施例S2と同一のポリウレタン弾性糸、40デニール・3フィラメント、及び、実施例S11と同一の水溶性ポリビニルアルコール系水溶性糸、50デニールを添え、長さ1mの紙テープに対応した紙撚糸の長さ当たり1000回、右撚り(逆撚り)することにより、実施例S12の加工撚糸を製造した。
【0038】
比較のために、実施例S1,S2,S11、S12と同一の紙撚糸(左撚り500回/m)だけで異素材糸と逆撚りしていない糸を、比較例R1の撚糸とした。また、綿100%の紡績糸(番手1/16)を、比較例R2の撚糸とした。
【0039】
ここで、実施例S11では、水溶性糸と共に逆撚りした後の加工撚糸の長さは、逆撚りを開始する前の紙撚糸の長さの87%~88%であり、大きく撚り縮められていた。これは、水溶性糸の伸縮性が乏しいためと考えられた。一方、実施例S2では、ポリウレタン弾性糸と共に逆撚りした後の加工撚糸の長さは、逆撚りをする前の紙撚糸の長さ、すなわち、異素材糸と逆撚りをしていない比較例R1の紙撚糸の長さと同一であった。これは、ポリウレタン弾性糸が非常に伸縮性に富んでいるために、ポリウレタン弾性糸が引き伸ばされつつ逆撚りが進行するためと考えられた。
【0040】
実施例S1,S2,S11,S12の加工撚糸、及び、比較例R1,R2の撚糸について、JIS L1013(化学繊維フィラメント糸試験方法、2010年)が規定する伸縮性C法に準拠して、伸縮性の評価を行った。異素材糸として水溶性糸を使用している実施例S11、S12の加工撚糸については、水溶性糸を水で溶解除去してから伸縮性の評価を行った。水溶性糸の溶解除去は、枠周1mの検尺機を使用し加工撚糸に初荷重をかけて巻き数10回のかせを作成し、治具に巻き付けたかせを温度90℃±2℃の水に30分浸漬することにより行い、水溶性糸を除去した後の加工撚糸を温水で洗浄し吊り下げ乾燥させた後、伸縮性の評価を行った。加工撚糸を浸漬する水には、非イオン界面活性剤(第一工業製薬株式会社製、ノイゲン(登録商標)EA-120)を2g/Lの濃度となるように添加した。各試料について測定された伸縮伸長率(%)を、表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示すように、紙撚糸(比較例R1)の伸縮伸長率は0.6%と、綿糸(比較例R2)の1.0%より小さく、伸縮性に乏しい。これに対し、水溶性糸ではない異素材糸と逆撚りした実施例S1,S2の加工撚糸では、伸縮伸長率が1.7%,2.0%と高められている。更に、異素材糸として水溶性糸を使用している実施例S11,S12の加工撚糸では、伸縮伸長率が6.0%,8.6%と大きく高められている。これは、伸縮性に乏しい水溶性糸と共に逆撚りすることによって撚り縮められていた紙撚糸から、その状態を拘束していた水溶性糸が除去されることにより、元に戻ろうとする力が作用して、紙撚糸に伸縮性が生じたためと考えられた。
【0043】
また、異素材糸として水溶性糸のみを使用した実施例S11より、異素材糸として水溶性糸に加えてポリウレタン弾性糸を使用した実施例S12の方が、伸縮伸長率がより大きく高められている。これは、紙撚糸を撚り縮めていた水溶性糸の消失により紙撚糸に伸縮性が発現したことと、水溶性糸の消失によってポリウレタン弾性糸が自身の伸縮性をより発揮できるようになったこと、との相乗効果によるものと考えられた。
【0044】
水溶性糸を除去する前の実施例S12の加工撚糸を横糸(緯糸)に使用し、経糸に綿糸を使用して製編織することにより、実施形態の織編物を製造した。織編物は、朱子織のジーンズ生地とし、横糸が裏面に多く表れるようにした。紙撚糸のみを製編織する場合は、製編織が困難で歩留まりが30%程度であるところ、実施例S12の加工撚糸の製編織は非常にスムーズであり、歩留まりは100%であった。製編織後に、織編物から水溶性糸を水で溶解除去した。
【0045】
水溶性糸を溶解除去した後の織編物は、非常に伸縮性に富んでおり、特に横方向の伸縮性が高いものであった。また、ジーンズ生地の裏面はほぼ全体に紙が表れており、紙特有のドライでさらさらとした感触であった。ジーンズ生地でジーンズ(ズボン)を作製した場合、裏面は着用者の肌に接することとなる。そのため、紙の有する優れた吸湿性によって汗が速やかに生地に吸収され、更に紙の有する優れた放湿性によって速やかに放散されるため、快適な着心地となると考えられた。
【0046】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0047】
例えば、上記では、実施例S12の加工撚糸を製編織し、製編織の後で水溶性糸を溶解除去する場合を例示したが、実施例S11の加工撚糸を製編織した場合も、非常に伸縮性に富んだ織編物を得ることができる。この場合は、製編織の前に水溶性糸を除去すれば、非常に伸縮性の高い加工撚糸となるため、良好に製編織を行うことができる。