(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】歯車加工装置、被加工歯車の不良判定方法、及び被加工歯車の不良判定プログラム
(51)【国際特許分類】
B23F 19/06 20060101AFI20221214BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20221214BHJP
B23F 23/12 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
B23F19/06
B23Q17/09 A
B23F23/12
(21)【出願番号】P 2018206051
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0111018(US,A1)
【文献】特開昭61-103720(JP,A)
【文献】特開2004-209575(JP,A)
【文献】特開2012-111009(JP,A)
【文献】特開平03-025335(JP,A)
【文献】特開2018-034255(JP,A)
【文献】特開平05-301113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 9/02、 9/14、19/00-19/12、23/12
B23Q 17/09、17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工歯車を回転可能に支持する支持ユニットと、
前記被加工歯車に噛み合わされ、連れ周りすることで、前記被加工歯車を加工する歯車状の加工具と、
前記加工具を回転駆動する駆動手段と、
前記被加工歯車の加工中に、前記加工具に作用する負荷を検出する検出器と、
前記検出器で検出された負荷に基づいて、前記被加工歯車の適否を判定する判定手段と、
を備
え、
前記判定手段は、前記負荷を示す波形の周期が、前記加工具の1回転の周期よりも前記被加工歯車の1回転の周期に近いときに、前記被加工歯車が不良であると判定する、歯車加工装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記加工具による加工開始後、所定時間内に生じる前記波形に基づいて、判定を行う、請求項
1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
歯車状の加工具を被加工歯車に噛み合わせて回転駆動し、連れ周りすることで、前記被加工歯車を加工するステップと、
前記被加工歯車の加工中に、前記加工具に作用する負荷を検出するステップと、
検出された前記負荷に基づいて、前記被加工歯車の適否を判定するステップと、
を備
え、
前記判定するステップでは、前記負荷を示す波形の周期が、前記加工具の1回転の周期よりも前記被加工歯車の1回転の周期に近いときに、前記被加工歯車が不良であると判定する、被加工歯車の不良判定方法。
【請求項4】
コンピュータに、
歯車状の加工具を被加工歯車に噛み合わせて回転駆動し、連れ周りすることで、前記被加工歯車を加工するステップと、
前記被加工歯車の加工中に、前記加工具に作用する負荷を検出するステップと、
検出された前記負荷に基づいて、前記被加工歯車の適否を判定するステップと、
を実行さ
せ、
前記判定するステップでは、前記負荷を示す波形の周期が、前記加工具の1回転の周期よりも前記被加工歯車の1回転の周期に近いときに、前記被加工歯車が不良であると判定する、被加工歯車の不良判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置、被加工歯車の不良判定方法、及び被加工歯車の不良判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯車の加工においては、仕上げ加工としてシェービング加工やホーニング加工が行われる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これら仕上げ加工においては、例えば、形状が適正でない不良の被加工歯車を仕上げ加工しても、加工の特性上、要求される形状の精度に仕上げることはできない。したがって、不良の被加工歯車が仕上げ加工の対象品に混じってしまった場合には、そのまま仕上げ加工が行われ、市場に流通してしまう可能性がある。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、歯車の仕上げ加工時に、被加工歯車の不良を判定することができる、歯車加工装置、被加工歯車の不良判定方法、及び被加工歯車の不良判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る歯車加工装置は、被加工歯車を回転可能に支持する支持ユニットと、前記被加工歯車に噛み合わされ、連れ周りすることで、前記被加工歯車を加工する歯車状の加工具と、前記加工具を回転駆動する駆動手段と、前記被加工歯車の加工中に、前記加工具に作用する負荷を検出する検出器と、前記検出器で検出された負荷に基づいて、前記被加工歯車の適否を判定する判定手段と、を備えている
【0006】
上記歯車加工装置において、前記判定手段は、前記負荷を示す波形の周期が、前記加工具の1回転の周期よりも前記被加工歯車の1回転の周期に近いときに、前記被加工歯車が不良であると判定することができる。
【0007】
上記歯車加工装置において、前記判定手段は、前記加工具による加工開始後、所定時間内に生じる前記波形に基づいて、判定を行うことができる。
【0008】
本発明に係る被加工歯車の不良判定方法は、歯車状の加工具を被加工歯車に噛み合わせて回転駆動し、連れ周りすることで、前記被加工歯車を加工するステップと、前記被加工歯車の加工中に、前記加工具に作用する負荷を検出するステップと、検出された前記負荷に基づいて、前記被加工歯車の適否を判定するステップと、を備えている。
【0009】
本発明に係る被加工歯車の不良判定プログラムは、コンピュータに、歯車状の加工具を被加工歯車に噛み合わせて回転駆動し、連れ周りすることで、前記被加工歯車を加工するステップと、前記被加工歯車の加工中に、前記加工具に作用する負荷を検出するステップと、検出された前記負荷に基づいて、前記被加工歯車の適否を判定するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、歯車の仕上げ加工時に、被加工歯車の不良を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る歯車加工装置の概略構成を示す一部斜視図である。
【
図3】歯車の仕上げ加工におけるスピンドルモータの負荷、回転数、加工具の切り込み量の経時変化を示すグラフである。
【
図4】正常なワークを加工したときのスピンドルモータの負荷の波形を示すグラフである。
【
図5】異常なワークを加工したときのスピンドルモータの負荷の波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る歯車加工装置の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る歯車加工装置の概略構成を示す一部斜視図、
図2は
図1のブロック図である。
【0013】
図1及び
図2に示すように、歯車加工装置は、歯車の仕上げ加工であるシェービング加工を行う装置であり、被加工歯車である外歯車状のワークWを支持する支持ユニット1と、ワークWを加工する加工具を有する加工具ユニット2と、を備えている。
【0014】
支持ユニット1は、ワークWの軸部W1を挟む支持台11と、テールストック12とを備えている。支持台11は、第1軸部材111と、この第1軸部材111を回転可能に支持する本体部112と、を備えている。一方、テールストック12は、第2軸部材121と、この第2軸部材121を回転可能に支持する本体部122と、備えている。
【0015】
第1軸部材111及び第2軸部材121は、ワークWの軸部W1と、同一直線状に配置されており、支持台11とテールストック12とが近接することで、第1軸部材111及び第2軸部材121に、ワークWの軸部W1が挟まれるようになっている。そのため、支持台11の本体部112と、テールストック12の本体部122は、互いに近接離間するように移動可能に構成されている。この構成により、支持台11とテールストック12は、ワークWを挟持したまま、送り方向Yに移動することができ、加工中に、ワークWを送り方向に移動させることができる。
【0016】
加工具ユニット2は、外歯車状の加工具21と、この加工具21を回転自在に支持する本体部22と、を備えている。本体部22は、支持台11とテールストック12に挟まれたワークWに対し、加工具21を近接離間させるように構成されている。また、本体部22には、減速機221及びスピンドルモータ222が内蔵されており、加工具21の軸部211に、減速機221を介してスピンドルモータ222の主軸が連結されている。そして、このスピンドルモータ222及び減速機221によって、加工具21が回転駆動するようになっている。すなわち、本体部22が、加工具21をワークWに噛み合わせるように移動し(
図2のZ方向)、噛み合わされた加工具21をスピンドルモータ222によって回転させることで、ワークWを連れ周りさせる。このとき、本体部22を駆動し、加工具21をワークWに対して近接させることで、ワークWの歯面が研削(シェービング加工)されるようになっている。なお、上述した支持台11とテールストック12の各軸部材111,121は駆動せず、加工具21の回転駆動により連れ周りする。
【0017】
また、スピンドルモータ222には、主軸の負荷を計測するロードメータ(検出器)223が取付けられている。さらに、本体部22には、加工具21の駆動等を制御するコントローラ23が設けられている。
【0018】
コントローラ23は、CUP,RAM,及び記憶部を有するPLCや汎用のコンピュータによって構成することができ、減速機221及びスピンドルモータ222の駆動を制御するようになっている。また、このコントローラ23は、ロードメータ223によって検出される負荷を経時的に取得し、ワークWの適否の判定を行うようになっている。ロードメータ223は、スピンドルモータ222の主軸が受ける抵抗を電圧の変化として経時的に検出するものである。
【0019】
次に、ロードメータ223によって検出される負荷からワークWの不良を判定する方法について説明する。
【0020】
コントローラ23の記憶部には、スピンドルモータ222、減速機221、ロードメータ223等を駆動し、ワークWの不良を判定するための制御プログラムが記憶されている。そして、この制御プログラムをRAMに展開すると、その制御プログラムをCPUにより解釈及び実行し、ソフトウェア構成として、回転制御部231、負荷取得部232、判定部233を備えたコンピュータとして機能する。回転制御部231は、加工具21の回転を制御し、負荷取得部232は、ロードメータ223により検出された負荷を経時的に取得し、判定部233は、取得された負荷からワークWの不良を判定する。これらについて詳細に説明する。
【0021】
まず、不良のないワークWの加工時の負荷について説明する。以下では、時間の経過に合わせて、
図3に示す区間1~区間7において、加工が行われることとする。
図3に示す例では、歯数が16枚のワークWに、歯数が71枚の加工具21を噛み合わせてシェービング加工を行っている。このときの加工具21の回転数は150回/minである。また、
図3のグラフには、主として、スピンドルモータ222の主軸の受ける負荷、スピンドルモータ222の回転数、及び切り込み量が表示されている。
【0022】
まず、加工具21をワークWに近接させ、両者を噛み合わせた状態でスピンドルモータ222を正回転するように駆動し、連れ周りをさせる。そして、区間1においては、加工具21をさらにワークWへ大きく近接させ(切り込ませ)、ワークWの各歯の一方の歯面に対しシェービング加工を行う。この区間1では、急激な切り込み量の増加により、スピンドルモータ222に作用する負荷が急激に大きくなる。そして、区間2では、区間1での初期の切り込み量に対してワークWが削れたため、負荷が低下している。その後、区間3において、切り込み量を徐々に大きくしていくと、スピンドルモータ222の負荷も徐々に大きくなっている。
【0023】
区間4では切り込み量を一定にしており、これによって、スピンドルモータ222の負荷が低下している。そして、区間5においては、減速機221により、スピンドルモータ222の回転を逆転させ、ワークWの他方の歯面をシェービング加工する。これにより、一旦、スピンドルモータ222の負荷が急激に高くなるが、その後、ワークWから一定量が削られると負荷は低下していく。そして、区間6では、切り込み量をやや小さくし、その量を一定にしている。これにより、負荷は低いレベルでおおよそ一定になっているが、その後の区間7において、加工具21をワークWから離間させると、負荷が0になる。
【0024】
以上のような加工を行う間、コントローラ23の回転制御部231は、区間1~4まではスピンドルモータ222の主軸を正回転させるための信号をスピンドルモータ222及び減速機221に送信し、区間5以降、これを逆回転させるための信号を送信する。そして、コントローラ23の負荷取得部232は、加工中のロードメータ223からの負荷信号を受信し続け、これを記憶部またはRAMに記録する。
【0025】
上記
図3で示されるスピンドルモータ222の負荷は、ワークWが正常であるときのものであるが、ワークWの歯の形状が適切であるときには、ワークWの歯は加工具21に対し、概ね一定の力で当接する。これに対して、例えば、ワークWの歯面の形状が適切なものでないと、加工具21の歯に対し、強く当接する部分と弱く当接する部分とが現れ、これらが繰り返し当接することで、ロードメータ223によって検出される負荷に現れる波形がワークWに影響を受ける。例えば、正常なワークWを加工する場合には、
図4に示すように、加工具21の回転に応じた周期(約0.4秒/1回転)に近い振動がロードメータ223によって検出されるが、ワークWに異常がある場合には、
図5に示すように、ワークWの回転に応じた周期(約0.09秒/1回転)に近い振動がロードメータ223によって検出される。
【0026】
また、ワークWが異常である場合の特有の振動は、特に上述した区間2、3といった加工の初期に現れる。そして、加工が進むと、ワークWが削れていくため、異常な振動が徐々に収まっていく。
【0027】
そこで、判定部233は、区間2~3の過程で、検出された負荷の波形の周波数が加工具21の回転よりもワークWの回転に近いものである場合には、異常と判定する。例えば、区間2において)、負荷の波形の周期の平均を算出し、その周期が加工具21の回転周期とワークWの回転周期との中央値よりも、ワークWの回転周期に近ければ、異常と判定する。但し、判定方法は、これに限定されるものではなく、所定の閾値を設け、正常時と比べて異常と判定できればよい。こうして、異常と判定されたワークは、製品として出荷せず、廃棄するか、再加工を行う。
【0028】
以上のように、本実施形態によれば、仕上げ加工において、加工具21を駆動するスピンドルモータ222の負荷を検出し、その負荷を示す波形に基づいて、ワークWの異常を判定している。したがって、仕上げ加工中に、ワークWの異常を判定することができ、異常のあるワークWが出荷されるのを防止することができる。
【0029】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0030】
上記実施形態では、外歯車状の加工具21を用いてシェービング加工を行っているが、本発明は、例えば、内歯車状の加工具を用いたホーニング加工にも適用することができる。
【0031】
上記実施形態では、異常の判定方法として、負荷の波形の周期を用いたが、それ以外のパラメータを用いることもできる。例えば、スピンドルモータ222の主軸の回転数の変動値、検出されたロードメータの電流や電圧の変動値、加工具21をZ方向に切り込むための駆動軸の負荷(電流、電圧等の変動値、周期等)、ワークWを支持する支持台11及びテールストック12の少なくとも一方の各軸部材111,121の負荷(電流、電圧等の変動値、周期等)などを用い、異常時のデータと比較して、正常または異常を判定することができる。
【0032】
上記実施形態では、加工具21を回転させるスピンドルモータ222の主軸の負荷をロードメータ223で測定しているが、これに限定されるものではなく、加工具21が加工中に受ける負荷を経時的に測定できればよい。
【0033】
上記実施形態の
図3で示した加工の手順は、あくまで一例であり、その他の手順で加工を行うこともできる。
【0034】
上記実施形態で示したワークWの支持ユニット1及び加工具ユニット2は一例であり、ワークWに対し、加工具21を噛み合わせつつシェービング加工またはホーニング加工ができる構成であれば、特には限定されない。
【符号の説明】
【0035】
1 支持ユニット
2 加工具ユニット
222 スピンドルモータ(駆動手段)
223 ロードメータ(検出器)
233 判定部(判定手段)