(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】細胞及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/074 20100101AFI20221214BHJP
C12N 5/095 20100101ALI20221214BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20221214BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C12N5/074
C12N5/095
C12Q1/04
A01K67/027
(21)【出願番号】P 2019504632
(86)(22)【出願日】2018-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2018008735
(87)【国際公開番号】W WO2018164174
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017042659
(32)【優先日】2017-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】佐谷 秀行
(72)【発明者】
【氏名】有馬 好美
(72)【発明者】
【氏名】千場 隆
(72)【発明者】
【氏名】春日 章良
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0206735(US,A1)
【文献】Cancer Res., 2016, Vol.76, Issue 14 Suppl., Abstract No.4255
【文献】第74回日本癌学会学術総会抄録集, 2015, P-1042
【文献】第36回日本分子生物学会年会プログラム・要旨集, 2013, 3P-0865
【文献】Oncogene, 2014, Vol.33, pp.440-448
【文献】Oncogene, 2010, Vol.29, pp.5687-5699
【文献】Genes Dev., 2001, Vol.15, pp.3249-3262
【文献】Genes Dev., 2003, Vol.17, pp.3112-3126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
A01K 67/02-67/027;67/033
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの癌抑制遺伝子を欠損し、EpCAM及びStem cell antigen-1(Sca-1)を発現しており、EpCAM陽性細胞の50%以上がSca-1陽性である、成体由来上皮系組織幹細胞集団。
【請求項2】
Epithelial cell adhesion molecule(EpCAM)
+CD31
-CD45
-である、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項3】
Surfactant protein-C(SPC)又はSecretoglobin family 1A member 1(CC10)を発現している、請求項1又は2に記載の細胞集団。
【請求項4】
Lymphocyte antigen 6 family member D(Ly6D)を発現している、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項5】
Cytokeratin 19(CK19)を発現している、請求項1又は2に記載の細胞集団。
【請求項6】
前記癌抑制遺伝子が、Ink4a/Arf、p53及びPTENからなる群より選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項7】
少なくとも1つの癌遺伝子を更に発現している、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項8】
前記癌遺伝子が、変異KRAS遺伝子、変異EGFR遺伝子、ALK融合遺伝子又はROS1融合遺伝子である、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞集団を3次元培養する工程を含む、成体由来上皮系組織幹細胞を50%以上含む細胞培養物の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法で製造された、細胞培養物。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞集団又は請求項10に記載の細胞培養物由来の細胞を含む、オルガノイド。
【請求項12】
被験物質の存在下で、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞集団を培養する工程と、
前記細胞集団の形質を評価する工程と、を備える、
細胞形質の変換剤のスクリーニング方法。
【請求項13】
被験物質の存在下で、
請求項7若しくは8に記載の細胞集団、
請求項7若しくは8に記載の細胞集団を3次元培養する工程を含む製造方法により製造された、成体由来上皮系組織幹細胞を50%以上含む細胞培養物由来の細胞又は
請求項7若しくは8に記載の細胞集団若しくは請求項7若しくは8に記載の細胞集団を3次元培養する工程を含む製造方法により製造された、成体由来上皮系組織幹細胞を50%以上含む細胞培養物由来の細胞を含む、オルガノイド
を培養する工程と、
前記細胞又は前記オルガノイドの増殖を測定する工程と、を備える、
抗癌剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
請求項7若しくは8に記載の細胞集団、
請求項7若しくは8に記載の細胞集団を3次元培養する工程を含む製造方法により製造された、成体由来上皮系組織幹細胞を50%以上含む細胞培養物由来の細胞又は
請求項7若しくは8に記載の細胞集団若しくは請求項7若しくは8に記載の細胞集団を3次元培養する工程を含む製造方法により製造された、成体由来上皮系組織幹細胞を50%以上含む細胞培養物由来の細胞を含む、オルガノイド
を非ヒト動物に移植する工程を備える、担癌モデル非ヒト動物の製造方法。
【請求項15】
前記非ヒト動物が、免疫系が正常な非ヒト動物である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の製造方法で製造された、担癌モデル非ヒト動物。
【請求項17】
請求項16に記載の担癌モデル非ヒト動物に被験物質を投与する工程と、
前記担癌モデル非ヒト動物の予後を評価する工程と、を備える、
被験物質の評価方法。
【請求項18】
前記被験物質が、抗癌剤及び免疫作動薬の組み合わせである、請求項17に記載の評価方法。
【請求項19】
請求項16に記載の担癌モデル非ヒト動物の移植部位に形成された腫瘍由来の細胞を3次元培養する工程を備える、癌幹細胞の製造方法。
【請求項20】
請求項16に記載の担癌モデル非ヒト動物の移植部位以外に新たに形成された腫瘍由来の細胞を3次元培養する工程を備える、癌幹細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞及びその使用に関する。より具体的には、成体由来上皮系組織幹細胞、細胞培養物の製造方法、細胞培養物、オルガノイド、細胞形質の変換剤のスクリーニング方法、抗癌剤のスクリーニング方法、担癌モデル非ヒト動物の製造方法、担癌モデル非ヒト動物、被験物質の評価方法、癌幹細胞の製造方法、癌幹細胞及び癌幹細胞に有効な抗癌剤のスクリーニング方法に関する。本願は、2017年3月7日に、日本に出願された特願2017-042659号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
例えば、肺癌は、代表的な難治性癌の1つである。近年、ヒトサンプルを用いた肺癌の大規模な遺伝子解析によって、肺癌に関連する様々な遺伝子変異が見出されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
肺癌の治療に分子標的薬を使用する場合、特定の遺伝子変異を検出し、適切な治療薬を選択することが有効であることが明らかとなっている。しかしながら、近年見出された、様々な遺伝子変異と癌の治療薬の効果との関連は十分に解明されているとはいえない。特定の遺伝子変異を有する癌に対する治療薬の効果を明らかにするためには、その遺伝子変異を有する担癌動物モデルを作製し、治療薬の効果を評価する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Collisson E. A., et al., Comprehensive molecular profiling of lung adenocarcinoma, Nature 511 (7511), 543-550, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、担癌動物モデルとしては、異種移植マウスモデル、遺伝子改変マウスモデル、同種移植マウスモデル等が知られている。
【0006】
異種移植マウスモデルとは、免疫不全マウスにヒト由来癌細胞を移植したモデルである。異種移植マウスモデルでは、癌細胞と癌周辺細胞の動物種が異なっているため、それらの相互作用を完全に再現することができない。また、宿主が免疫不全マウスであるため、免疫系が関わる現象を評価することが困難である。
【0007】
遺伝子改変マウスモデルは、作製に長期間を必要とする。また、それぞれ異なる複数の変異を有する複数の細胞からなる腫瘍モデルの作製は困難である。このため、近年見出された多様な遺伝子変異に対応する多様な担癌動物モデルを作製することが困難である。
【0008】
一方、同種移植マウスモデルは、マウス由来癌細胞を免疫系が正常な同系マウスに移植したモデルである。同種移植マウスモデルは、簡便に作製することができ、腫瘍と免疫細胞との相互作用を研究することも可能である。しかしながら、マウス由来の癌細胞株が極めて少なく、また、生体に存在する細胞であって、近年見出された多様な遺伝子変異に対応する多様なモデル細胞の作製方法はなく、多様な遺伝子変異を有する細胞モデル、モデル非ヒト動物を作製することが困難であった。
【0009】
このような背景のもと、本発明は、多様な遺伝子変異を持つ癌細胞を有し免疫系が正常な担癌動物モデルを、容易に作製する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を含む。
[1]少なくとも1つの癌抑制遺伝子を欠損した、成体由来上皮系組織幹細胞。
[2]Epithelial cell adhesion molecule(EpCAM)+CD31-CD45-である、[1]に記載の細胞。
[3]EpCAM及びStem cell antigen-1(Sca-1)を発現しているか、又は、Surfactant protein-C(SPC)及びSecretoglobin family 1A member 1(CC10)を発現している、[1]又は[2]に記載の細胞。
[4]Lymphocyte antigen 6 family member D(Ly6D)を発現している、[1]~[3]のいずれかに記載の細胞。
[5]Cytokeratin 19(CK19)を発現している、[1]又は[2]に記載の細胞。
[6]前記癌抑制遺伝子が、Ink4a/Arf、p53及びPTENからなる群より選択される、[1]~[5]のいずれかに記載の細胞。
[7]少なくとも1つの癌遺伝子を更に発現している、[1]~[6]のいずれかに記載の細胞。
[8]前記癌遺伝子が、変異KRAS遺伝子、変異EGFR遺伝子、ALK融合遺伝子又はROS1融合遺伝子である、[7]に記載の細胞。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の細胞を3次元培養する工程を含む、成体由来上皮系組織幹細胞を50%以上含む細胞培養物の製造方法。
[10][9]に記載の製造方法で製造された、細胞培養物。
[11][1]~[8]のいずれかに記載の細胞又は[10]に記載の細胞培養物由来の細胞を含む、オルガノイド。
[12]被験物質の存在下で、[1]~[6]のいずれかに記載の細胞を培養する工程と、前記細胞の形質を評価する工程と、を備える、細胞形質の変換剤のスクリーニング方法。
[13]被験物質の存在下で、[6]~[8]のいずれかに記載の細胞、[10]に記載の細胞培養物由来の細胞又は[11]に記載のオルガノイドを培養する工程と、前記細胞又は前記オルガノイドの増殖を測定する工程と、を備える、抗癌剤のスクリーニング方法。
[14][7]若しくは[8]に記載の細胞、[10]に記載の細胞培養物由来の細胞又は[11]に記載のオルガノイドを非ヒト動物に移植する工程を備える、担癌モデル非ヒト動物の製造方法。
[15]前記非ヒト動物が、免疫系が正常な非ヒト動物である、[14]に記載の製造方法。
[16][14]又は[15]に記載の製造方法で製造された、担癌モデル非ヒト動物。
[17][16]に記載の担癌モデル非ヒト動物に被験物質を投与する工程と、前記担癌モデル非ヒト動物の予後を評価する工程と、を備える、被験物質の評価方法。
[18]前記被験物質が、抗癌剤及び免疫作動薬の組み合わせである、[17]に記載の評価方法。
[19][16]に記載の担癌モデル非ヒト動物の移植部位に形成された腫瘍由来の細胞を3次元培養する工程を備える、癌幹細胞の製造方法。
[20][16]に記載の担癌モデル非ヒト動物の移植部位に形成された腫瘍より樹立した癌幹細胞。
[21][16]に記載の担癌モデル非ヒト動物の移植部位以外に新たに形成された腫瘍由来の細胞を3次元培養する工程を備える、癌幹細胞の製造方法。
[22][16]に記載の担癌モデル非ヒト動物の移植部位以外に新たに形成された腫瘍より樹立した癌幹細胞。
[23]被験物質の存在下で、[20]又は[22]に記載の癌幹細胞を培養する工程と、前記癌幹細胞の増殖を測定する工程と、を備える、癌幹細胞に有効な抗癌剤のスクリーニング方法。
【0011】
本発明は以下の態様を含むということもできる。
[P1]少なくとも1つの癌抑制遺伝子を欠損した、気管支肺胞幹細胞。
[P2]Epithelial cell adhesion molecule(EpCAM)及びStem cell antigen-1(Sca-1)を発現しているか、又は、Surfactant protein-C(SPC)及びSecretoglobin family 1A member 1(CC10)を発現している、[P1]に記載の細胞。
[P3]前記癌抑制遺伝子が、Ink4a/Arf、p53及びPTENからなる群より選択される、[P1]又は[P2]に記載の細胞。
[P4]少なくとも1つの癌遺伝子を更に発現している、[P1]~[P3]のいずれかに記載の細胞。
[P5]前記癌遺伝子が、変異KRAS遺伝子、変異EGFR遺伝子、ALK融合遺伝子又はROS1融合遺伝子である、[P4]に記載の細胞。
[P6][P1]~[P5]のいずれかに記載の細胞を含む、オルガノイド。
[P7]被験物質の存在下で、[P4]若しくは[P5]に記載の細胞又は[P6]に記載のオルガノイドを培養する工程と、前記細胞又は前記オルガノイドの増殖を測定する工程と、を備える、抗癌剤のスクリーニング方法。
[P8][P4]若しくは[P5]に記載の細胞又は[P6]に記載のオルガノイドを非ヒト動物に移植する工程を備える、担癌モデル非ヒト動物の製造方法。
[P9]前記非ヒト動物が、免疫系が正常な非ヒト動物である、[P8]に記載の製造方法。
[P10][P8]又は[P9]に記載の製造方法で製造された、担癌モデル非ヒト動物。
[P11][P10]に記載の担癌モデル非ヒト動物に被験物質を投与する工程と、前記担癌モデル非ヒト動物の予後を評価する工程と、を備える、被験物質の評価方法。
[P12]前記被験物質が、抗癌剤及び免疫作動薬の組み合わせである、[P11]に記載の評価方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多様な遺伝子変異を持つ癌細胞を有し免疫系が正常な担癌動物モデルを、容易に作製する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実験例2において、CD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞をソーティングした際のフローサイトメトリーのデータである。
【
図2】(a)~(c)は、実験例3において、CD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞を3次元培養した様子を経時的に示す写真である。
【
図3】(a)及び(b)は、実験例3において、CD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞の培養が進むにつれて形成されたオルガノイドの写真である。
【
図4】(a)は、実験例5において、CD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞の初代培養(primary)、2継代目(1回継代、p1)、3継代目(2回継代、p2)の各細胞のEpCAMとSca-1の発現をフローサイトメトリーで解析した結果を示すグラフである。(b)は、(a)の結果をまとめたグラフである。
【
図5】(a)~(d)は、実験例6において、培養したCD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞を蛍光免疫組織染色した結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図6】実験例7で作製したレトロウイルスベクタープラスミドの構造を示す図である。
【
図7】(a)及び(b)は、実験例8において、癌遺伝子であるKRAS
G12Vを導入した肺細胞を3次元培養した結果形成されたオルガノイドの一例を示す写真である。(c)及び(d)は、実験例8において、癌遺伝子であるEML4-ALKを導入した肺細胞を3次元培養した結果形成されたオルガノイドの一例を示す写真である。(a)及び(c)は明視野における顕微鏡写真であり、(b)及び(d)は蛍光顕微鏡写真である。
【
図8】(a)~(d)は、実験例9における免疫組織化学染色の結果を示す写真である。
【
図9】(a)~(d)は、実験例10における免疫組織化学染色の結果を示す写真である。
【
図10】(a)~(d)は、実験例11における免疫組織化学染色の結果を示す写真である。
【
図11】実験例14における担癌モデルマウスの腫瘍体積の測定結果を示すグラフである。
【
図12】(a)及び(b)は、実験例15において、野生型マウスから採取したCD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞の初代培養と3継代目の各細胞のSca-1とLy6Dの発現をフローサイトメトリーで解析した結果を示すグラフである。(c)及び(d)は、実験例15において、Ink4a/Arf
-/- C57BL6/Jマウスから採取したCD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞の初代培養と2継代目の各細胞のSca-1とLy6Dの発現をフローサイトメトリーで解析した結果を示すグラフである。
【
図13】(a)及び(b)は、実験例15において、Ink4a/Arf
-/- C57BL6/Jマウスから採取したCD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞に、KRAS
G12V又はEML4-ALKを導入した各細胞のSca-1とLy6Dの発現をフローサイトメトリーで解析した結果を示すグラフである。
【
図14】(a)は、実験例21において、癌遺伝子を導入した胆管上皮細胞を移植したマウスの肝臓の写真である。(b)は、(a)に示すマウスから摘出した肝臓の写真である。(c)は、(b)に示す肝臓におけるGFPの蛍光を検出した結果を示す写真である。
【
図15】(a)は、実験例21において、癌遺伝子を導入した胆嚢上皮細胞を移植したマウスの肝臓の写真である。(b)は、(a)に示すマウスから摘出した肝臓の写真である。(c)は、(b)に示す肝臓におけるGFPの蛍光を検出した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[細胞]
1実施形態において、本発明は、少なくとも1つの癌抑制遺伝子を欠損した、培養上皮細胞を提供する。本実施形態の培養上皮細胞は、成体(adult)由来上皮系組織幹細胞であってもよい。
【0015】
本実施形態の細胞は、動物組織の上皮由来であれば特に制限されないが、例えば気管支肺胞幹細胞(Bronchioalveolar Stem Cell:BASC)であってもよいし、例えば胆管上皮細胞であってもよいし、例えば胆嚢上皮細胞であってもよい。また本実施形態の細胞は消化管上皮細胞を除く上皮細胞であってもよい。
【0016】
実施例において後述するように、発明者らは、本実施形態の細胞に任意の癌遺伝子を導入し、免疫系が正常な同種の非ヒト動物に移植することにより、担癌非ヒト動物モデルを容易に作製することができることを明らかにした。したがって、本実施形態の細胞は、任意の癌遺伝子を導入する宿主細胞として有用である。
【0017】
本実施形態の細胞は、ヒト由来の細胞であってもよく、非ヒト動物由来の細胞であってもよい。非ヒト動物としては、例えば、ネコ、イヌ、ウマ、サル、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ラット、マウス等が挙げられる。また、本実施形態の細胞は、肺由来の細胞であることが好ましい。
【0018】
本実施形態の細胞は、EpCAM+CD31-CD45-であることが好ましい。実施例において後述するように、肺、胆嚢、胆管等の組織からEpCAM+CD31-CD45-を回収して3次元培養することにより、本実施形態の細胞を得ることができる。
【0019】
本実施形態の細胞は、EpCAM及びSca-1を発現していてもよいし、SPC及びCC10を発現していてもよい。実施例において後述するように、本実施形態の細胞は、幹細胞性を高く維持した気管支肺胞幹細胞であってもよい。EpCAMとSca-1との共発現、又は、SPCとCC10との共発現はBASCのマーカーである。すなわち、EpCAM+Sca-1+細胞、又は、SPC+CC10+細胞はBASCである。
【0020】
本実施形態の細胞は、EpCAM+Sca-1+SPC+細胞であってもよいし、EpCAM+Sca-1+CC10+細胞であってもよいし、EpCAM+SPC+CC10+細胞であってもよいし、Sca-1+SPC+CC10+細胞であってもよいし、EpCAM+Sca-1+SPC+CC10+細胞であってもよい。
【0021】
なお、ヒトEpCAMタンパク質のRefSeq IDはNP_002345.2であり、マウスEpCAMタンパク質のRefSeq IDはNP_032558.2である。また、マウスSca-1タンパク質のRefSeq IDはNP_001258345.1である。上記以外の動物種の細胞を用いる場合には、これらのホモログを発現している細胞を用いればよい。
【0022】
また、ヒトSPCタンパク質のRefSeq IDはNP_001165828.1、NP_001304707.1、NP_001304708.1等であり、マウスSPCタンパク質のRefSeq IDはNP_035489.2である。また、ヒトCC10タンパク質のRefSeq IDはNP_003348.1であり、マウスCC10タンパク質のRefSeq IDはNP_035811.1である。上記以外の動物種の細胞を用いる場合には、これらのホモログを発現している細胞を用いればよい。
【0023】
また、実施例において後述するように、本実施形態の細胞はLy6Dを発現していてもよい。また、実施例において後述するように、本実施形態の細胞はCK19を発現していてもよい。
【0024】
ヒトLy6Dタンパク質のRefSeq IDはNP_003686.1等であり、マウスLy6Dタンパク質のRefSeq IDはNP_034872.1等である。また、ヒトCK19タンパク質のRefSeq IDはNP_002267.2等であり、マウスCK19タンパク質のRefSeq IDはNP_032497.1等である。上記以外の動物種の細胞を用いる場合には、これらのホモログを発現している細胞を用いればよい。
【0025】
本実施形態の細胞において、癌抑制遺伝子としては、Ink4a/Arf、p53、PTEN等が挙げられる。
【0026】
本実施形態の細胞は、上記の癌抑制遺伝子が破壊された非ヒト動物から調製してもよい。あるいは、EpCAM及びSca-1を発現している細胞、EpCAM+CD31-CD45-細胞、すなわち、EpCAMを発現しており、CD31及びCD45を発現していない細胞、Ly6Dを発現している細胞、CK19を発現している細胞等を、フローサイトメトリー、抗体修飾磁気ビーズ及びマグネティックスタンドを用いた方法等により分離した後、ゲノム編集、shRNA発現ベクターの導入等により、少なくとも1つの癌抑制遺伝子を欠損させてもよい。本明細書において、遺伝子を欠損させるとは、対象遺伝子の少なくとも一部を欠損させること、又は対象遺伝子の発現を低下させること等により、対象遺伝子の機能を低下又は欠損させることを意味する。
【0027】
実施例において後述するように、本実施形態の細胞は、無血清培地中で3次元培養することにより、幹細胞性を高く維持した状態の、気管支肺胞幹細胞(Bronchioalveolar Stem Cell:BASC)、胆管上皮細胞、胆嚢上皮細胞を豊富に含む状態で維持することができ、様々な形態のオルガノイドを形成することができる。3次元培養の方法としては特に限定されず、例えば、マトリゲルを用いる方法、コラーゲンを用いる方法、ラミニンを用いる方法等が挙げられる。
【0028】
したがって、1実施形態において、本発明は、上記実施形態の細胞を3次元培養する工程を含む、上皮幹細胞を50%以上含む細胞培養物の製造方法を提供するものであるということもできる。また、本発明は、上皮幹細胞を50%以上含む細胞培養物を提供する。ここで、上皮幹細胞は、成体由来上皮系組織幹細胞であってもよい。
【0029】
本実施形態の細胞は、少なくとも1つの癌遺伝子を更に発現していてもよい。実施例において後述するように、癌遺伝子を導入した本実施形態の細胞を動物に移植することにより、腫瘍を形成させることができる。
【0030】
本実施形態の細胞に導入する癌遺伝子としては、特に限定されず、近年見出された様々な遺伝子変異を有する癌関連遺伝子を使用することができる。より具体的には、変異KRAS遺伝子、変異EGFR遺伝子、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子等が挙げられる。
【0031】
変異KRAS遺伝子としては、例えば、KRASG12V、KRASG12D等が挙げられる。ALK融合遺伝子としては、例えば、EML4-ALK、KIF5B-ALK等が挙げられる。
【0032】
実施例において後述するように、癌遺伝子を導入した後の本実施形態の細胞は、無血清培地を用いて3次元培養することにより維持することができる。
【0033】
したがって、1実施形態において、本発明は、癌遺伝子を導入した後の上記実施形態の細胞を3次元培養する工程を含む、上皮幹細胞を50%以上含む細胞培養物の製造方法を提供するものであるということもできる。また、本発明は、上皮幹細胞を50%以上含む細胞培養物を提供する。ここで、上皮幹細胞は、成体由来上皮系組織幹細胞であってもよい。
【0034】
また、癌遺伝子を導入した後の本実施形態の細胞も、様々な形態のオルガノイドを形成することができる。したがって、本実施形態の細胞はオルガノイドであってもよい。本明細書において、オルガノイドとは、細胞を3次元培養することにより得られた臓器様組織を意味する。また、本明細書では、本実施形態の細胞を培養して得られた細胞塊もオルガノイドに含めるものとする。
【0035】
[細胞形質の変換剤のスクリーニング方法]
1実施形態において、本発明は、被験物質の存在下で、上述した細胞、上述した細胞培養物由来の細胞又は上述したオルガノイドを培養する工程と、前記細胞の形質を評価する工程と、を備える、細胞形質の変換剤のスクリーニング方法を提供する。本実施形態のスクリーニング方法において、細胞又はオルガノイドは、少なくとも1つの癌抑制遺伝子を欠損しており、癌遺伝子が導入されていない細胞又はオルガノイドであってもよい。
【0036】
本実施形態のスクリーニング方法において評価する細胞の形質としては、分化及び脱分化が挙げられる。細胞の分化及び脱分化は、例えば、顕微鏡観察、マーカー遺伝子又はマーカータンパク質の発現を測定すること等により評価することができる。
【0037】
また、細胞形質の変換剤としては、分化誘導剤、脱分化誘導剤、分化抑制剤、脱分化誘導剤等が挙げられる。
【0038】
[抗癌剤のスクリーニング方法]
1実施形態において、本発明は、被験物質の存在下で上述した細胞、上述した細胞培養物由来の細胞又はオルガノイドを培養する工程と、前記細胞又はオルガノイドの増殖を測定する工程と、を備える、抗癌剤のスクリーニング方法を提供する。ここで、上述した細胞又はオルガノイドとは、少なくとも1つの癌抑制遺伝子を欠損しており、少なくとも1つの癌遺伝子を発現している若しくは癌遺伝子を発現していない、培養上皮細胞又は当該細胞を培養して得られたオルガノイドである。上述したように、培養上皮細胞としては、気管支肺胞幹細胞、胆管上皮細胞、胆嚢上皮細胞等が挙げられる。
【0039】
本実施形態の方法によりスクリーニングされる抗癌剤は、癌幹細胞に有効な抗癌剤であるということもできる。
【0040】
本実施形態のスクリーニング方法において、癌遺伝子としては特に限定されず、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0041】
被験物質としては特に制限されず、例えば、天然化合物ライブラリ、合成化合物ライブラリ等の化合物ライブラリ、既存薬ライブラリ、代謝物ライブラリ等が挙げられる。具体的には、被験物質を、上述した細胞の培地に添加し、細胞の増殖に対する影響を検討することが挙げられる。より具体的には、例えば、ウェルプレートに細胞を播種し、化合物ライブラリの存在下で1~30日間程度培養する。培養は、例えば、無血清培地を用いた3次元培養により行ってもよいし、血清を含む培地を用いた通常の培養により行ってもよい。
【0042】
その後、例えばテトラゾリウム塩の還元による発色により、生細胞数を測定することにより、細胞又はオルガノイドの増殖を測定する。細胞又はオルガノイドの増殖を抑制する化合物は、抗癌剤の候補である。テトラゾリウム塩としては、市販の3-[4,5-ジメチルチアゾル-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)(MTT)等を利用することができる。
【0043】
本実施形態のスクリーニング方法により、近年見出された様々な遺伝子変異を有する癌を効果的に治療することができる抗癌剤を迅速にスクリーニングすることが可能となる。
【0044】
[担癌モデル非ヒト動物]
1実施形態において、本発明は、少なくとも1つの癌抑制遺伝子を欠損しており、少なくとも1つの癌遺伝子を発現している培養上皮細胞又は当該細胞を培養して得られたオルガノイドが移植された、担癌モデル非ヒト動物を提供する。本発明はまた、少なくとも1つの癌抑制遺伝子を欠損しており、少なくとも1つの癌遺伝子を発現している培養上皮細胞又は当該細胞を培養して得られたオルガノイドを移植する工程を備える、担癌モデル非ヒト動物の製造方法を提供する。上述したように、培養上皮細胞としては、気管支肺胞幹細胞、胆管上皮細胞、胆嚢上皮細胞等が挙げられる。
【0045】
従来の同種移植マウスモデルは、マウス由来の癌細胞株が極めて少ないことから、多様な遺伝子変異に対応する多様なモデルを作製することが困難であった。
【0046】
これに対し、本実施形態の担癌モデル非ヒト動物によれば、任意の癌遺伝子を導入した細胞を用いて迅速かつ容易に多様な担癌モデル非ヒト動物を作製することができる。このため、本実施形態の担癌モデル非ヒト動物を解析することにより、近年見出された様々な遺伝子変異を有する癌の性状を明らかにし、治療法を開発することができる。
【0047】
非ヒト動物への細胞の移植においては、上述したオルガノイドを移植してもよいし、オルガノイドを形成している細胞を単一細胞に分散させた後に移植してもよい。
【0048】
また、移植箇所としては特に限定されず、皮下、腎被膜下、肺、尾静脈、腹腔内、心腔内、肝臓等が挙げられる。
【0049】
また、非ヒト動物としては、例えば、ネコ、イヌ、ウマ、サル、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ラット、マウス等が挙げられる。
【0050】
本実施形態の担癌モデル非ヒト動物は、免疫不全非ヒト動物であってもよいし、免疫系が正常な非ヒト動物であってもよい。免疫系が正常な非ヒト動物を使用した場合には、癌細胞、免疫細胞及び腫瘍周辺の組織との相互作用を解析することができる。近年、癌細胞を標的とした治療薬以外にも、腫瘍血管形成や腫瘍免疫等を標的とした治療薬が開発され、癌の治療薬は多様化している。このため、本実施形態の担癌モデル非ヒト動物はこのような治療薬の開発や評価にも有用である。
【0051】
実施例において示すように、本実施形態の担癌モデル非ヒト動物によれば、ヒトの肺癌組織を病理学的に反映した腺構造を形成することもできる。このため、例えば、肺癌の治療方法を開発するのに好適に用いることができる。
【0052】
[被験物質の評価方法]
1実施形態において、本発明は、上述した担癌モデル非ヒト動物に被験物質を投与する工程と、前記担癌モデル非ヒト動物の予後を評価する工程と、を備える、被験物質の評価方法を提供する。
【0053】
上述したように、担癌モデル非ヒト動物としては、免疫系が正常な非ヒト動物を用いることができる。したがって、本実施形態の評価方法により、様々な遺伝子変異を持つ癌細胞と免疫細胞との相互作用を評価することができる。
【0054】
上述したように、従来の担癌動物モデルでは、宿主が免疫不全であったり、作製が困難であること等により、例えば、抗癌剤及び免疫作動薬の組み合わせの効果を評価することは困難であった。これに対し、本実施形態の評価方法によれば、被験物質として、抗癌剤及び免疫作動薬の組み合わせを用いることもできる。
【0055】
抗癌剤としては、特に制限されず、既存の薬剤又は将来開発される薬剤を用いることができる。具体的には、例えば、ゲムシタビン、ペメトレキセド等の代謝拮抗薬;ゲフィチニブ、エルロチニブ、クリゾチニブ、アレクチニブ等の分子標的薬等が挙げられる。
【0056】
また、免疫作動薬としては、特に制限されず、既存の又は将来開発される薬剤を用いることができる。具体的には、例えば、イミキモド、レシキモド等のTLR作動薬;ニボルマブ、イピリムマブ、ペンブロリズマブ等の免疫チェックポイント阻害薬等が挙げられる。
【0057】
被験物質の投与は経口投与により行ってもよいし、静脈内注射、腹腔内注射、吸入、皮膚への貼付等により行ってもよい。
【0058】
本実施形態の評価方法において、予後の評価としては、特に限定されず、例えば、腫瘍組織の大きさ、癌の転移の評価、体重の変化、生存率、蛍光イメージング画像、発光イメージング画像等を評価することが挙げられる。
【0059】
対照物質を投与した場合と比較して、被験物質を投与した場合に担癌モデル非ヒト動物の予後が改善した場合には、被験物質は癌の治療薬として有効であると判断することができる。したがって、本実施形態の評価方法は、癌の治療薬のスクリーニング方法であるということもできる。
【0060】
[癌幹細胞の製造方法及び癌幹細胞]
1実施形態において、本発明は、上述した担癌モデル非ヒト動物において、上述した細胞又はオルガノイドの移植部位に形成された腫瘍由来の細胞を3次元培養する工程を備える、癌幹細胞の製造方法を提供する。
【0061】
本実施形態の製造方法により、幹細胞性を高く維持した状態の癌細胞、すなわち癌幹細胞を、高い割合で含む細胞集団を製造することができる。本実施形態の製造方法は、癌幹細胞の濃縮方法であるということもできる。
【0062】
3次元培養の方法としては特に限定されず、例えば、マトリゲルを用いる方法、コラーゲンを用いる方法、ラミニンを用いる方法等が挙げられる。
【0063】
1実施形態において、本発明は、上記の製造方法により樹立した癌幹細胞を提供する。本実施形態の癌幹細胞は、少なくとも1つの癌抑制遺伝子を欠損し、多様な癌遺伝子を発現した癌幹細胞である。したがって、自然に発生する癌幹細胞とは、発現するマーカータンパク質の組み合わせ、エピジェネティックな変化等に相違が存在すると考えられる。しかしながら、このようなマーカータンパク質の組み合わせやエピジェネティックな変化を特定することは困難である。
【0064】
1実施形態において、本発明は、上述した担癌モデル非ヒト動物において、上述した細胞又はオルガノイドの移植部位以外に新たに形成された腫瘍由来の細胞を3次元培養する工程を備える、癌幹細胞の製造方法を提供する。
【0065】
本実施形態の製造方法により、原発巣から転移した腫瘍由来の癌幹細胞を製造することができる。3次元培養の方法としては特に限定されず、例えば、マトリゲルを用いる方法、コラーゲンを用いる方法、ラミニンを用いる方法等が挙げられる。
【0066】
1実施形態において、本発明は、上記の製造方法により樹立した癌幹細胞を提供する。本実施形態の癌幹細胞は、少なくとも1つの癌抑制遺伝子を欠損し、多様な癌遺伝子を発現した癌幹細胞であり、更に原発巣から転移した履歴を有する癌幹細胞である。したがって、自然に発生する癌幹細胞とは、発現するマーカータンパク質の組み合わせ、エピジェネティックな変化等に相違が存在すると考えられる。しかしながら、このようなマーカータンパク質の組み合わせやエピジェネティックな変化を特定することは困難である。
【0067】
[癌幹細胞に有効な抗癌剤のスクリーニング方法]
1実施形態において、本発明は、被験物質の存在下で、上述した癌幹細胞を培養する工程と、前記癌幹細胞の増殖を測定する工程と、を備える、癌幹細胞に有効な抗癌剤のスクリーニング方法を提供する。
【0068】
本実施形態のスクリーニング方法における癌幹細胞は、上述した担癌モデル非ヒト動物において、上述した細胞又はオルガノイドの移植部位に形成された腫瘍、又は移植部位以外に新たに形成された腫瘍に由来する癌幹細胞である。
【0069】
本実施形態のスクリーニング方法において、被験物質としては、上述したものと同様であり、例えば、化合物ライブラリ、既存薬ライブラリ、代謝物ライブラリ等が挙げられる。また、細胞の増殖の測定も上述したものと同様に行うことができ、例えば、テトラゾリウム塩の還元による発色により測定することができる。
【実施例】
【0070】
次に実験例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0071】
[実験例1]
(Ink4a/Arf-/-マウス肺細胞の分離)
Ink4a/Arf-/-マウス(Mouse Models of Human Cancers Consortium(NCI-Frederick)より入手)から肺細胞を分離した。具体的には、まず、Ink4a/Arf-/- C57BL6/Jマウスに、マウス1匹あたり0.3mLのペントバルビタール(最終濃度7.2mg/mL、共立製薬、cat.no.SOM02-YA1312)を腹腔内注射して麻酔した。
【0072】
続いて、マウスを仰臥位に固定し、皮膚を下腹部から顎部まで正中切開し、左右に皮膚を剥離した。続いて、顎下腺を除去し、気管周囲筋群を切開して気管を露出させた。続いて、腹膜を正中及び肋骨弓に沿ってT字に切開し、腹部大動脈と下大静脈を露出させた。続いて、左右頸動脈、腹部大動脈及び下大静脈を切断し、十分に瀉血した。
【0073】
続いて、横隔膜と胸郭を除去して肺と心臓を露出させ、左心室に切れ込みを入れ、シリンジと23ゲージの針を用いて予め冷却したリン酸緩衝液(PBS)を右心室から15mL注入し、肺内の血液を洗い流した。
【0074】
続いて、22ゲージの静脈留置針を気管に刺入し、シリンジを用いてコラゲナーゼ/ディスパーゼ(最終濃度2.5mg/mL、ロシュ社、cat.no.11097113001)を1.5mL肺内に注入した後、素早くシリンジを交換してアガロース(最終濃度0.5%、ナカライテスク、cat.no.02468-95)を0.5mL注入した。
【0075】
続いて、肺の上に氷を置いてアガロースを固め、2分後、氷を除去して各肺葉を摘出し、コラゲナーゼ/ディスパーゼを入れたコニカルチューブへ移し、37℃の恒温槽中に10分間静置した。
【0076】
続いて、酵素処理した肺組織をハサミで細切した後、再びコラゲナーゼ/ディスパーゼを入れたコニカルチューブへ移し、37℃で45分間振盪した。続いて、溶液中にDNase I(最終濃度0.5mg/mL、シグマ社、cat.no.DN25-1G)を加えて1000μLピペットで50~60回ピペッティングし、100μmのセルストレイナー(ファルコン社、cat.no.352360)を通した。続いて、200×g、4℃で3分間遠心し、上清を除去した後、赤血球溶血緩衝液を10mL加え、40μmのセルストレイナー(ファルコン社、cat.no.352340)を通した。続いて、200×g、4℃で3分間遠心し、上清を除去した後、10%ウシ胎児血清(FBS)/PBS(洗浄バッファー)中に懸濁し、肺細胞を得た。
【0077】
[実験例2]
(CD31-CD45-EpCAM+肺細胞の分離)
実験例1で調製した肺細胞から、フローサイトメーター(型式「MoFlo XDP flow cytometer」、ベックマンコールター社)を用いて、CD31-CD45-EpCAM+肺細胞をソーティングして分離した。なお、CD31は血管内皮細胞のマーカーであり、CD45は汎血球マーカーであり、EpCAMは肺上皮細胞のマーカーである。
【0078】
抗体及び色素としては、以下のものを使用した。Phycoerythrin(PE)標識抗マウスCD31ラットモノクローナル抗体(バイオレジェンド社、cat.no.102408)、PE標識抗マウスCD45ラットモノクローナル抗体(eBioscience、cat.no.12-0451-83)、PE標識ラットイムノグロブリンG2b(IgG2b)アイソタイプコントロール(eBioscience、cat.no.12-4031-83)、Allophycocyanin(APC)標識抗マウスCD326(EpCAM)ラットモノクローナル抗体(バイオレジェンド社、cat.no.118241)、APC標識ラットIgG2aκアイソタイプコントロール(バイオレジェンド社、cat.no.400512)、Propidium iodide(PI)(シグマ社、no.P4170-10MG)。
【0079】
図1は、CD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞をソーティングした際のフローサイトメトリーのデータである。図中の四角で囲まれた領域の細胞を回収した。
【0080】
[実験例3]
(CD31-CD45-EpCAM+肺細胞の培養)
あらかじめ50μLのマトリゲル(コーニング社、cat.no.356230)を0.4μmセルカルチャーインサート(ファルコン社、cat.no.353095)に入れ、37℃で30分間静置してゲル化させた。
【0081】
基本培地として、無血清培地である、DMEM/Ham’s F-12 with L-glutamine(和光、cat.no.048-29785)、1×B-27 supplement(ギブコ社、cat.no.12587-010)、HEPES(最終濃度15mM、ギブコ社、no.15630-080)、Epidermal growth factor(最終濃度20ng/mL、ペプロテック社、cat.no.AF-100-15)、Keratinocyte growth factor(最終濃度10ng/mL、バイオレジェンド社、cat.no.752240)、ROCK阻害剤(用事調製、最終濃度10μM、メルクミリポア社、cat.no.688000-1MG)を使用した。
【0082】
実験例2で分離した細胞の細胞数をカウントした後、600×g、4℃で3分間遠心した。続いて、得られた細胞ペレットに、ペニシリン(最終濃度100U/mL、ナカライテスク、cat.no.26253-84)、ストレプトマイシン(最終濃度100μg/mL、ナカライテスク、cat.no.26253-84)、アンホテリシンB(最終濃度0.25μg/mL、ギブコ社、cat.no.15240-062)を加えた基本培地を加え、細胞密度が5×104個/mLとなるように懸濁した。
【0083】
続いて、1つのインサートにつき200μLの細胞懸濁液を播種し、インサート下のウェルに400μLの抗菌薬入り基本培地を加え3次元培養した。2~3日おきに抗菌薬を加えない基本培地で培地交換を行った。
【0084】
図2(a)~(c)は、CD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞を3次元培養した様子を経時的に示す写真である。
図2(a)は培養開始から2日後の写真であり、
図2(b)は培養開始から7日後の写真であり、
図2(c)は培養開始から14日後の写真である。また、
図3(a)及び(b)は、培養が進むにつれて形成されたオルガノイドの写真である。
図3(a)及び(b)中、スケールバーは100μmを示す。
図3(a)及び(b)に示すように、CD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞を3次元培養することにより、様々な形態のオルガノイドが形成された。
【0085】
[実験例4]
(CD31-CD45-EpCAM+肺細胞の継代)
あらかじめ50μLのマトリゲル(コーニング社、cat.no.356230)を0.4μmセルカルチャーインサート(ファルコン社、cat.no.353095)に入れ、37℃で30分間静置してゲル化させた。
【0086】
続いて、細胞がコンフルエントに至ったインサートの培地を除去し、300μLのコラゲナーゼ/ディスパーゼ(最終濃度1mg/mL)を加え、1000μLピペットで撹拌及びピペッティングしてゲルを崩し、1.5mLチューブにコロニーを回収した。
【0087】
続いて、1.5mLチューブを37℃の恒温槽に浸して20分間静置し、ゲルを溶解させた。続いて、チューブを600×g、4℃で3分間遠心し、上清を除去し、0.05%トリプシン/EDTA(ギブコ社、cat.no.15400-054)を500μL加え、200μLピペットで50~60回ピペッティングして37℃の恒温槽に浸して10分間静置した。
【0088】
その後、再度200μLピペットで50~60回ピペッティングして37℃の恒温槽に浸して10分間静置し、Trypsin neutralizing solution(TNS、ロンザ社、cat.no.CC-5002)を500μL加えた。
【0089】
続いて、1.5mLチューブを600×g、4℃で3分間遠心し、上清を除去し、細胞ペレットを得た。続いて、得られた細胞ペレットを基本培地で懸濁し、1つのインサートにつき200μLの細胞懸濁液を播種し、インサート下のウェルに400μLの基本培地を加え3次元培養した。2~3日おきに基本培地で培地交換を行った。
【0090】
[実験例5]
(気管支肺胞幹細胞(Bronchioalveolar Stem Cell:BASC)の解析)
実験例3及び4で培養したCD31-CD45-EpCAM+肺細胞の初代培養、2継代目、3継代目をそれぞれフローサイトメーターで解析した。
【0091】
抗体及び色素としては、以下のものを使用した。PE標識抗マウスSca-1抗体(バイオレジェンド社、cat.no.108107)、PE標識ラットIgG2bアイソタイプコントロール(eBioscience、cat.no.12-4031-83)、APC標識抗マウスEpCAMラットモノクローナル抗体(バイオレジェンド社、cat.no.118241)、APC標識ラットIgG2aκアイソタイプコントロール(バイオレジェンド社、cat.no.400512)、PI(シグマ社、no.P4170-10MG)。
【0092】
図4(a)は、CD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞の初代培養(primary)、2継代目(1回継代、p1)、3継代目(2回継代、p2)の各細胞を、PI
-CD31
-CD45
-集団又はPI
-集団に限定してEpCAMとSca-1の発現をフローサイトメトリーで解析した結果を示すグラフである。
図4(b)は、
図4(a)の結果をまとめたグラフである。
【0093】
その結果、無血清培地を用いた3次元培養によってCD31-CD45-EpCAM+肺細胞の継代を進めるにつれて、EpCAMとSca-1を共発現する気管支肺胞幹細胞(bronchioalveolar stem cell:BASC)が有意に増加することが明らかとなった。
【0094】
[実験例6]
(培養したCD31-CD45-EpCAM+肺細胞の固定及び蛍光免疫組織染色)
実験例3及び4と同様にして培養したCD31-CD45-EpCAM+肺細胞を固定し、蛍光免疫組織染色を行った。まず、細胞がコンフルエントに至ったインサートの培地を除去し、300μLのコラゲナーゼ/ディスパーゼ(最終濃度1mg/mL)を加えた。続いて、先端をカットした1000μLピペットで撹拌及びピペッティングしてゲルを崩し、1.5mLチューブにコロニーを回収した。続いて、1.5mLチューブを37℃の恒温槽に浸して20分間静置し、ゲルを溶解させた。続いて、チューブを600×g、4℃で3分間遠心し、上清を除去し、iPGell(ジェノスタッフ社、cat.no.PG20-1)を用いてコロニーをゲル中に包埋した。
【0095】
続いて、コロニーを包埋したゲルを4%パラホルムアルデヒド(ナカライテスク、cat.no.09154-85)に浸し、細胞を固定した。続いて、パラフィン包埋ブロックを作製し、薄切切片を作製した。続いて薄切切片をスライドグラスに貼り付けた。続いて、キシレンで脱パラフィンを行い、10mMクエン酸バッファー(pH6.0)中で加熱処理することにより抗原の賦活化を行った。続いて、3%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBSでブロッキングを行った。続いて、1次抗体として、ウサギ抗SPCポリクローナル抗体(サンタクルーズ社、cat.no.sc-13979)、ヤギ抗CC10モノクローナル抗体(サンタクルーズ社、cat.no.sc-9772)を4℃で一晩反応させた。続いて、2次抗体として、ヤギ抗ウサギIgG-Alexa Flour488抗体(ライフテクノロジーズ社、cat.no.A11034)と、ロバ抗ヤギIgG-Alexa Flour594抗体(ライフテクノロジーズ社、cat.no.A11034)を室温で30分間反応させ、VECTASIELD MOUNTING MEDIUM with DAPI(ベクター社、cat.no.H-1200)を用いて封入した。
【0096】
図5(a)~(d)は、蛍光免疫組織染色した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図5(a)はDAPIにより染色された核を観察した蛍光顕微鏡写真である。
図5(b)は、SPCの局在を示す蛍光顕微鏡写真である。
図5(c)は、CC10の局在を示す蛍光顕微鏡写真である。
図5(d)は、
図5(a)~(c)をマージした写真である。
図5(a)~(d)中、スケールバーは100μmを示す。その結果、CD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞を培養した細胞集団に、SPC及びCC10を発現する細胞が含まれることが明らかとなった。上述したように、SPC及びCC10はBASCのマーカーである。したがって、この結果は、CD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞がBASCを含むことを更に支持するものである。
【0097】
[実験例7]
(癌遺伝子を発現するレトロウイルスの作製)
癌遺伝子である、KRAS
G12V及びEML4-ALK融合遺伝子を発現するレトロウイルスを作製した。具体的には、まず、パッケージング細胞であるGP2-293細胞を10cmの培養皿2枚にそれぞれ4×10
6個/dishの細胞密度で播種した。続いて、4~6時間後、レトロウイルスベクタープラスミド(pMXs-KRAS
G12V-IRES-EGFP又はpMXs-EML4-ALK-IRES-EGFP)及びpVSV-Gを、FuGENE HD(プロメガ社、cat.no.E2312)を用いてGP2-293細胞にトランスフェクションした。翌日、10%FBSを含むDMEM(ナカライテスク、cat.no.08459-64)に培地交換を行った。
図4にレトロウイルスベクタープラスミドの構造を示す。
図6に示すように、癌遺伝子である、KRAS
G12V又はEML4-ALK融合遺伝子の下流にinternal ribosome entry sites(IRES)配列をはさんでEGFP遺伝子が連結されていた。
【0098】
続いて、トランスフェクションから3日目、培地を0.45μmフィルター(イワキ、cat.no.2053-025)を通して50mLチューブに回収し、4℃、23,000×gで6~7時間遠心し、レトロウイルスのペレットを得た。続いて、上清を除去し、ウイルスのペレットを基本培地(ROCK阻害剤を含まないもの)中に懸濁し、1.5mLチューブに移して-80℃で保存した。
【0099】
[実験例8]
(肺細胞への癌遺伝子導入)
あらかじめ50μLのマトリゲル(コーニング社、cat.no.356230)を0.4μmセルカルチャーインサート(ファルコン社、cat.no.353095)に入れ、37℃で30分間静置してゲル化させた。
【0100】
続いて、3~4継代したCD31-CD45-EpCAM+肺細胞を、実験例4と同様の方法で細胞ペレットにした。続いて、得られた細胞ペレットに、実験例7で作製したウイルス液を解凍したもの200μL、ROCK阻害剤(最終濃度10mM)及びプロタミン(最終濃度10μg/mL、シグマ社)を加え、1×105個/200μLとなるように懸濁した。続いて、1つのインサートにつき200μLの細胞懸濁液を播種し、インサート下のウェルに400μLの基本培地を加えて3次元培養した。3日後に基本培地で培地交換を行い、以後は2~3日おきに培地交換を行った。
【0101】
ウイルス感染から12~14日後、実験例4と同様の方法で細胞ペレットを得た。続いて、細胞ペレットを、PI(最終濃度0.1μg/mL)を加えた洗浄バッファーで懸濁し、フローサイトメーター(型式「MoFlo XDP flow cytometer」、ベックマンコールター社)でGFP陽性細胞を分離した。
【0102】
分離した細胞を基本培地200μLに懸濁し、インサート上に播種した。インサート下のウェルにも400μLの基本培地を加えて3次元培養し、2~3日おきに培地交換を行った。細胞のコロニーは1週間程度でコンフルエントになった。コンフルエントになった細胞を、実験例4と同様の方法で継代した。
【0103】
図7(a)及び(b)は、癌遺伝子であるKRAS
G12Vを導入した肺細胞を3次元培養した結果形成されたオルガノイドの一例を示す写真である。
図7(a)は明視野における写真であり、
図7(b)は
図7(a)と同じ視野においてGFPの蛍光を観察した写真である。
【0104】
図7(c)及び(d)は、EML4-ALK融合遺伝子を導入した肺細胞を3次元培養した結果形成されたオルガノイドの一例を示す写真である。
図7(c)は明視野における写真であり、
図7(d)は
図7(c)と同じ視野においてGFPの蛍光を観察した写真である。
【0105】
[実験例9]
(癌遺伝子を導入した肺細胞のマウスへの移植(皮下))
実験例8で作製した、癌遺伝子KRASG12Vを導入した肺細胞を野生型C57BL/6Jマウスの皮下に移植した。具体的には、まず、細胞がコンフルエントに至ったインサートの培地を除去し、300μLのコラゲナーゼ/ディスパーゼ(最終濃度1mg/mL)を加え、1000μLピペットで撹拌及びピペッティングしてゲルを崩し、1.5mLチューブにコロニーを回収した。
【0106】
続いて、1.5mLチューブを37℃の恒温槽に浸して20分間静置し、ゲルを溶解させた。続いて、チューブを600×g、4℃で3分間遠心し、上清を除去し、0.05%トリプシン/EDTA(ギブコ社、cat.no.15400-054)を500μL加え、200μLピペットで50~60回ピペッティングして37℃の恒温槽に浸して10分間静置した。
【0107】
その後、再度200μLピペットで50~60回ピペッティングして37℃の恒温槽に浸して10分間静置し、Trypsin neutralizing solution(TNS、ロンザ社、cat.no.CC-5002)を500μL加えた。
【0108】
続いて、1.5mLチューブを600×g、4℃で3分間遠心し、上清を除去し、細胞ペレットを得た。続いて、得られた細胞ペレットをPBSで懸濁した。これに、あらかじめ氷上で溶解させておいたマトリゲルを1:1で混合し、5×105個/100μLとなるように調整した。続いて、野生型C57BL6/Jマウスの背部を剃毛し、左右1箇所ずつ、100μLの細胞懸濁液を皮下注射した。
【0109】
細胞移植から3週間飼育後、腫瘍の形成が認められ、担癌モデルマウスが得られた。続いて、担癌モデルマウスから腫瘍を摘出し、免疫組織化学染色により解析した。
【0110】
具体的にはまず、摘出した腫瘍組織を4%パラホルムアルデヒド(ナカライテスク、cat.no.09154-85)で固定した。続いて、パラフィン包埋ブロックを作製し、薄切切片を作製した。続いて薄切切片をスライドグラスに貼り付けた。続いて、キシレンで脱パラフィンを行い、10mMクエン酸バッファー(pH6.0)中で加熱処理することにより抗原の賦活化を行った。続いて、3%過酸化水素/PBSに浸漬することにより内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害した。続いて、3%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBSでブロッキングを行った。
【0111】
続いて、1次抗体として、ウサギ抗GFPポリクローナル抗体(サンタクルーズ社、cat.no.sc-8334)、又はウサギ抗TTF-1モノクローナル抗体(アブカム社、cat.no.ab76013)を4℃で一晩反応させた。Thyroid transcription factor-1(TTF-1)は、甲状腺と肺の発生に関与する転写因子であり、肺腺癌のマーカーでもある。
【0112】
続いて、2次抗体として、ビオチン標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(ベクター社、cat.no.PK-6101)を室温で30分間反応させた。
【0113】
続いて、VECTASTAIN Elite ABC(ベクター社、cat.no.PK-6101)を室温で30分間反応させた後、ImmPACT DAB(ベクター社、cat.no.SK-4105)を反応させ、発色させた。
【0114】
図8(a)は腫瘍組織の薄切切片のヘマトキシリン・エオシン染色の結果を示す顕微鏡写真である。スケールバーは100μmである。また、
図8(b)は
図8(a)の四角で囲んだ領域を拡大した顕微鏡写真である。その結果、癌遺伝子を導入した肺細胞は、皮下環境においても、acinar型腫瘍、papillary型腫瘍等のヒト肺腺癌でよく観察される分化型腺癌の組織型の腫瘍を形成したことが明らかとなった。これらの腫瘍は従来の技術による移植肺癌モデルでは観察が極めて難しい組織型である。この結果から、よりヒトに近い担癌モデル非ヒト動物を作製する手法として、本実験例の方法が顕著に優位であることが明らかとなった。
【0115】
また、
図8(c)は、腫瘍組織の薄切切片を抗GFP抗体で染色した結果を示す顕微鏡写真であり、
図8(d)は、腫瘍組織の薄切切片を抗TTF-1抗体で染色した結果を示す顕微鏡写真である。その結果、肺の分化マーカー及び肺腺癌マーカーであるTTF-1の発現が陽性であることが明らかとなった。
【0116】
[実験例10]
(癌遺伝子を導入した肺細胞のマウスへの移植(腎被膜下))
実験例8で作製した、癌遺伝子KRASG12Vを導入した肺細胞を野生型C57BL/6Jマウスの腎被膜下に移植した。具体的には、まず、細胞がコンフルエントに至ったインサートの培地を除去し、300μLのコラゲナーゼ/ディスパーゼ(最終濃度1mg/mL)を加え、1000μLピペットで撹拌及びピペッティングしてゲルを崩し、1.5mLチューブにコロニーを回収した。
【0117】
続いて、1.5mLチューブを37℃の恒温槽に浸して20分間静置し、ゲルを溶解させた。続いて、チューブを600×g、4℃で3分間遠心し、上清を除去し、0.05%トリプシン/EDTA(ギブコ社、cat.no.15400-054)を500μL加え、200μLピペットで50~60回ピペッティングして37℃の恒温槽に浸して10分間静置した。
【0118】
その後、再度200μLピペットで50~60回ピペッティングして37℃の恒温槽に浸して10分間静置し、Trypsin neutralizing solution(TNS、ロンザ社、cat.no.CC-5002)を500μL加えた。
【0119】
続いて、1.5mLチューブを600×g、4℃で3分間遠心し、上清を除去し、細胞ペレットを得た。続いて、得られた細胞ペレットをPBSで懸濁した。続いて、野生型C57BL6/Jマウスを麻酔下にて背部を剃毛し、背部皮膚を切開し、腎臓を体表に牽引・露出させ、27ゲージの針を下極から上極方向に刺入した。続いて、一旦針を抜去し、200μLチップで細胞懸濁液10μLを上極の腎被膜下に注入した。この操作を両腎に行った後、腹膜、皮膚を縫合した。
【0120】
細胞移植から5週間飼育後、腫瘍の形成が認められ、担癌モデルマウスが得られた。続いて、担癌モデルマウスから腫瘍を摘出し、実験例9と同様にして免疫組織化学染色により解析した。
【0121】
図9(a)は腫瘍組織の薄切切片のヘマトキシリン・エオシン染色の結果を示す顕微鏡写真である。スケールバーは100μmである。また、
図9(b)は
図9(a)の四角で囲んだ領域を拡大した顕微鏡写真である。その結果、癌遺伝子を導入した肺細胞は、腎被膜下環境においても、粘液産生性のacinar型腫瘍と呼ばれるヒト肺腺癌でよく観察される組織型の腫瘍を形成したことが明らかとなった。
【0122】
また、
図9(c)は、腫瘍組織の薄切切片を抗GFP抗体で染色した結果を示す顕微鏡写真であり、
図9(d)は、腫瘍組織の薄切切片を抗TTF-1抗体で染色した結果を示す顕微鏡写真である。その結果、肺の分化マーカー及び肺腺癌マーカーであるTTF-1の発現が陽性であることが明らかとなった。
【0123】
[実験例11]
(融合遺伝子を導入した肺細胞のマウスへの移植(皮下))
実験例8で作製した、EML4-ALK融合遺伝子を導入した肺細胞を実験例9と同様にして野生型C57BL/6Jマウスの皮下に移植した。
【0124】
細胞移植から5週間飼育後、腫瘍の形成が認められ、担癌モデルマウスが得られた。続いて、担癌モデルマウスから腫瘍を摘出し、実験例9と同様にして免疫組織化学染色により解析した。
【0125】
図10(a)は腫瘍組織の薄切切片のヘマトキシリン・エオシン染色の結果を示す顕微鏡写真である。スケールバーは100μmである。また、
図10(b)は
図10(a)の四角で囲んだ領域を拡大した顕微鏡写真である。その結果、癌遺伝子を導入した肺細胞は、皮下環境においても、粘液産生性のacinar型腫瘍と呼ばれるヒト肺腺癌でよく観察される組織型の腫瘍を形成したことが明らかとなった。
【0126】
また、
図10(c)は、腫瘍組織の薄切切片を抗GFP抗体で染色した結果を示す顕微鏡写真であり、
図10(d)は、腫瘍組織の薄切切片を抗TTF-1抗体で染色した結果を示す顕微鏡写真である。その結果、肺の分化マーカー及び肺腺癌マーカーであるTTF-1の発現が陽性であることが明らかとなった。
【0127】
[実験例12]
(癌遺伝子を導入した肺細胞のマウスへの移植(肺))
実験例8で作製した、癌遺伝子を導入した肺細胞を野生型C57BL/6Jマウスの肺に移植して担癌モデルマウスを作製し、腫瘍組織を免疫組織化学的に解析した。C57BL/6Jマウスには、細胞移植の10~14日前に、ブレオマイシン0.025Uを経気道的に投与した。
【0128】
その結果、癌遺伝子を導入した肺細胞を肺に移植した場合においても、実験例9~11と同様の結果が得られた。すなわち、acinar型腫瘍、papillary型腫瘍等のヒト肺腺癌でよく観察される組織型の腫瘍が観察され、肺の分化マーカー及び肺腺癌マーカーであるTTF-1の発現が陽性であることが明らかとなった。
【0129】
[実験例13]
(癌抑制遺伝子が正常な細胞に癌遺伝子を導入した肺細胞の検討)
野生型のC57BL6/JマウスからCD31-CD45-EpCAM+肺細胞を分離した点以外は実験例2~4、8と同様にして細胞を培養し、癌遺伝子KRASG12Vを導入した。しかしながら、癌抑制遺伝子が正常なマウスからCD31-CD45-EpCAM+肺細胞を分離し、癌遺伝子KRASG12Vを導入した肺細胞は、増殖しなかったため、細胞株の樹立及びマウスへの移植は行えなかった。
【0130】
この結果は、担癌モデルマウスを作製するためには、癌抑制遺伝子が欠損した細胞に癌遺伝子を導入して移植する必要があることを示す。
【0131】
[実験例14]
(担癌モデルマウスを用いたクリゾチニブ治療実験)
実験例8で作製した、癌遺伝子であるEML4-ALK融合遺伝子を導入した肺細胞を、胸腺欠損マウスの背部皮下に移植し、担癌モデルマウスを作製した。具体的には、まず、細胞がコンフルエントに至ったインサートの培地を除去し、300μLのコラゲナーゼ/ディスパーゼ(最終濃度1mg/mL)を加え、1000μLピペットで撹拌及びピペッティングしてゲルを崩し、1.5mLチューブにコロニーを回収した。
【0132】
続いて、1.5mLチューブを37℃の恒温槽に浸して20分間静置し、ゲルを溶解させた。続いて、チューブを600×g、4℃で3分間遠心し、上清を除去し、0.05%トリプシン/EDTA(ギブコ社、cat.no.15400-054)を500μL加え、200μLピペットで50~60回ピペッティングして37℃の恒温槽に浸して10分間静置した。
【0133】
その後、再度200μLピペットで50~60回ピペッティングして37℃の恒温槽に浸して10分間静置し、Trypsin neutralizing solution(TNS、ロンザ社、cat.no.CC-5002)を500μL加えた。
【0134】
続いて、1.5mLチューブを600×g、4℃で3分間遠心し、上清を除去し、細胞ペレットを得た。続いて、得られた細胞ペレットをPBSで懸濁した。これに、あらかじめ氷上で溶解させておいたマトリゲルを1:1で混合し、5×106個/100μLとなるように調整した。
【0135】
続いて、胸腺欠損マウスの背部皮下に1箇所ずつ、100μLの細胞懸濁液を皮下注射した。
【0136】
続いて、細胞移植から28日飼育後、腫瘍の形成が認められ、担癌モデルマウスが得られた。続いて、腫瘍形成が確認できた個体に抗癌剤の一種であるクリゾチニブ(150mg/kg、ファイザー社)を14日間連続で経口投与した。また、対照として、メチルセルロース(和光、cat.no.131-17811)を14日間連続で経口投与した群も用意した。各群のマウスの腫瘍体積を継時的に測定した。
【0137】
図11は、各群のマウスの腫瘍体積の測定結果を示すグラフである(n=3)。
図11中、グラフは平均値±標準誤差を示す。また、横軸はクリゾニチブ又はメチルセルロースの投与開始からの時間(日)を示す。また、「*」はスチューデントのt検定によりP<0.05で有意差が存在することを示す。その結果、クリゾチニブ投与群では有意に腫瘍増殖が抑制されたことが明らかとなった。
【0138】
[実験例15]
(肺細胞におけるSca-1とLy6D発現の解析)
野生型マウスから採取したCD31-CD45-EpCAM+肺細胞の初代培養と3継代目の細胞、Ink4a/Arf-/- C57BL6/Jマウスから採取したCD31-CD45-EpCAM+肺細胞の初代培養と2継代目の細胞、KRASG12V又はEML4-ALKを導入した肺細胞をそれぞれフローサイトメーターで解析した。いずれの細胞も無血清培地を用いて3次元培養した。
【0139】
抗体、色素としては、以下のものを使用した。PE-Cy7標識抗マウスSca-1抗体(バイオレジェンド社、cat.no.122513)、PE-Cy7標識ラットIgG2aアイソタイプコントロール(バイオレジェンド社、、cat.no.400521)、PE標識抗マウスLy6D抗体(バイオレジェンド社、cat.no.138603)、PE標識ラットIgG2bアイソタイプコントロール、APC標識抗マウスEpCAMラットモノクローナル抗体、APC標識ラットIgG2aκアイソタイプコントロール、PI(シグマ社、no.P4170-10MG)。
【0140】
図12(a)及び(b)は、それぞれ、野生型マウスから採取したCD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞の初代培養と3継代目の各細胞を、PI
-CD31
-CD45
-EpCAM
+集団又はPI
-EpCAM
+集団に限定してSca-1とLy6Dの発現をフローサイトメトリーで解析した結果を示すグラフである。
【0141】
図12(c)及び(d)は、それぞれ、Ink4a/Arf
-/- C57BL6/Jマウスから採取したCD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞の初代培養と2継代目の各細胞を、PI
-CD31
-CD45
-EpCAM
+集団又はPI
-EpCAM
+集団に限定してSca-1とLy6Dの発現をフローサイトメトリーで解析した結果を示すグラフである。
【0142】
図13(a)及び(b)は、それぞれ、Ink4a/Arf
-/- C57BL6/Jマウスから採取したCD31
-CD45
-EpCAM
+肺細胞に、KRAS
G12V又はEML4-ALKを導入した各細胞を、PI
-EpCAM
+集団に限定してSca-1とLy6Dの発現をフローサイトメトリーで解析した結果を示すグラフである。
【0143】
その結果、無血清培地を用いた3次元培養により、Ly6DもSca-1と同様に発現が増加し、癌遺伝子導入後もその発現が維持されていることが明らかとなった。
【0144】
[実験例16]
(Ink4a/Arf-/-マウスの肝臓、胆嚢、肝外胆管の組織及び細胞分離)
肺以外の組織から、少なくとも1つの癌抑制遺伝子を欠損した培養上皮細胞を調製した。具体的には、Ink4a/Arf-/-マウスから、肝臓、胆嚢、肝外胆管を分離した。
【0145】
まず、Ink4a/Arf-/- C57BL6/Jマウスに、マウス1匹あたり0.3mLのペントバルビタール(最終濃度7.2mg/mL、共立製薬、cat.no.SOM02-YA1312)を腹腔内注射して麻酔した。
【0146】
続いて、マウスを仰臥位に固定し、皮膚を下腹部から心窩部まで正中切開し、左右に皮膚を剥離した。続いて、腹膜を正中及び肋骨弓に沿ってT字に切開し、肝臓を露出し、横隔膜に付着している肝鎌状間膜を切離した。続いて、肝臓を横隔膜側へ脱転し、胃、十二指腸、肝十二指腸間膜を露出した。続いて、肝十二指腸間膜内にある肝外胆管を露出し、膵臓上縁から肝門部までの肝外胆管を摘出した。続いて、胆嚢を胆嚢管まで剥離・露出し胆嚢を摘出した。続いて、下大動静脈、横隔膜下の上大動静脈を切断し、肝右葉、中葉、方形葉、左外側葉をまとめて肝臓を摘出した。
【0147】
続いて、摘出した肝臓、胆嚢、肝外胆管を、それぞれ剪刀で細切した後、コラゲナーゼD(最終濃度2mg/mL、ロシュ社、cat.no.11088866001)、ディスパーゼII(最終濃度0.125mg/mL、サーモフィッシャー社、cat.no.17105041)、DNase I(最終濃度0.1mg/mL、シグマ-アルドリッチ社、cat.no.DN25-100MG)を添加したDMEM/Ham’s F-12 with L-glutamine(和光、cat.no.048-29785)を入れたコニカルチューブへ移し、37℃で45分間振盪した。
【0148】
続いて、100μmのセルストレイナー(ファルコン社、cat.no.352360)を通した後、40μmのセルストレイナー(ファルコン社、cat.no.352340)を通した。
【0149】
続いて、300×gで5分間遠心し、上清を除去した後、DNase I(最終濃度0.1mg/mL、シグマ-アルドリッチ社、cat.no.DN25-100MG)を入れたTripLETM(ギブコ社、cat.no.12604021)10mLを入れ、37℃で5分間振盪した。続いて、40μmのセルストレイナー(ファルコン社、cat.no.352340)を通した。続いて、300×gで5分間遠心し、上清を除去した後、DNase I(最終濃度0.1mg/mL、シグマ-アルドリッチ社、cat.no.DN25-100MG)を入れた赤血球溶血緩衝液を10mL加え、5分間、4℃で静置した。
【0150】
続いて、300×gで5分間遠心した。続いて、上清を除去した後、DNase I(最終濃度0.1mg/mL、シグマ-アルドリッチ社、cat.no.DN25-100MG)、Y27632(最終濃度10μM、ミルテニーバイオテク社、cat.no.130-106-538)、ペニシリン(最終濃度100U/mL、ナカライテスク、cat.no.26253-84)、ストレプトマイシン(最終濃度100μg/mL、ナカライテスク、cat.no.26253-84)、アンホテリシンB(最終濃度0.25μg/mL、ギブコ社、cat.no.15240-062)を入れた10%FBS/PBS(洗浄バッファー)で懸濁し、40μmのセルストレイナー(ファルコン社、cat.no.352340)を通し、肝臓、胆嚢、肝外胆管に由来する細胞をそれぞれ得た。
【0151】
[実験例17]
(CD31-CD45-EpCAM+胆管上皮細胞及び胆嚢上皮細胞の分離)
実験例16で調製した胆管上皮細胞及び胆嚢上皮細胞から、フローサイトメーター(型式「MoFlo XDP flow cytometer」、ベックマンコールター社)を用いて、CD31-CD45-EpCAM+胆管上皮細胞及びCD31-CD45-EpCAM+胆嚢上皮細胞をそれぞれ分離した。
【0152】
抗体及び色素としては、以下のものを使用した。FITC標識抗マウスCD31ラットモノクローナル抗体(バイオレジェンド社、cat.no.102406)、FITC標識抗マウスCD45ラットモノクローナル抗体(バイオレジェンド社、cat.no.103108)、FITC標識ラットIgG2bアイソタイプコントロール(バイオレジェンド社、cat.no.400505)、APC標識抗マウスCD326(EpCAM)ラットモノクローナル抗体(バイオレジェンド社、cat.no.118214)、APC標識ラットIgG2aκアイソタイプコントロール(バイオレジェンド社、cat.no.400512)、PI(シグマ社、no.P4170-10MG)。
【0153】
[実験例18]
(CD31-CD45-EpCAM+胆管上皮細胞及び胆嚢上皮細胞の培養)
あらかじめ50μLのマトリゲル(コーニング社、cat.no.356230)を0.4μmセルカルチャーインサート(ファルコン社、cat.no.353095)に入れ、37℃で30分静置してゲル化させた。
【0154】
基本培地として、無血清培地である、DMEM/Ham’s F-12 with L-glutamine(和光、cat.no.048-29785)、Hepatocyte growth factor(最終濃度50ng/mL、バイオレジェンド社、cat.no.596402)、Epidermal growth factor(最終濃度50ng/mL、ペプロテック社、cat.no.AF-100-15)、Fibroblast growth factor 10(最終濃度100ng/mL、バイオレジェンド社、cat.no.559302)、R-spondin 1(最終濃度0.5μg/mL、ミルテニーバイオテク社、cat.no.130-105-799)、Nicotinamide(最終濃度10mM、シグマ-アルドリッチ社、cat.no.N0636-100G)、1×B-27 supplement(ギブコ社、cat.no.12587-010)、Y27632(最終濃度10μM、ミルテニーバイオテク社、cat.no.130-106-538)を使用した。
【0155】
実験例17で分離した細胞の細胞数をカウントした後、600×g、5分間遠心した。続いて、得られた細胞ペレットを基本培地中で懸濁し、5×104個/mLとなるように懸濁した。
【0156】
続いて、1つのインサートにつき200μLの細胞懸濁液を播種し、インサート下のウェルに400μLの基本培地を加え3次元培養した。2~3日おきに基本培地で培地交換を行った。
【0157】
[実験例19]
(CD31-CD45-EpCAM+胆管上皮細胞及び胆嚢上皮細胞の継代)
コンフルエントに至ったインサートの培地を除去し、300μLのDMEM/Ham’s F-12 with L-glutamine(和光、cat.no.048-29785)を加え、1000μLピペットで撹拌、ピペッティングしてゲルを崩し、1.5mLチューブにコロニーを回収した。
【0158】
続いて、チューブを600×gで5分間遠心し、上清を除去し、TripLETM(ギブコ社、cat.no.12604021)を1ml加え、1000μLピペットで50~60回ピペッティングして37℃の恒温槽に5分間静置した。
【0159】
続いて、再度1000μLピペットで50~60回ピペッティングして、40μmのセルストレイナー(ファルコン社、cat.no.352340)を通した。続いて、チューブを600×gで5分間遠心し、上清を除去し、1000μLのDMEM/Ham’s F-12 with L-glutamine(和光、cat.no.048-29785)を加えた。
【0160】
続いて、チューブを600×gで5分間遠心し、上清を除去し、2×104個の細胞ペレットあたり100μLのマトリゲルを加えて懸濁し、インサートに細胞懸濁液を播種し、37℃で30分間静置してゲル化させた。続いて、インサート下のウェルに500μLの基本培地を加えて3次元培養した。2~3日おきに基本培地で培地交換を行った。
【0161】
[実験例20]
(胆管上皮細胞及び胆嚢上皮細胞への癌遺伝子導入)
あらかじめ50μLのマトリゲルを0.4μmセルカルチャーインサートに入れ、37℃で30分間静置してゲル化させた。
【0162】
続いて、3~4継代したCD31-CD45-EpCAM+胆管上皮細胞及びCD31-CD45-EpCAM+胆嚢上皮細胞を、継代する際と同様の手技でそれぞれ細胞ペレットにした。
【0163】
続いて、実験例7で作製したウイルス液を解凍したものを添加し、2×104個/200μLとなるように懸濁した。続いて、1つのインサートにつき200μLの細胞懸濁液を播種し、インサート下のウェルに400μLの基本培地を加えて3次元培養した。3日後に基本培地で培地交換を行い、7日後に継代を行った。
【0164】
ウイルス感染から14日後、継代する際と同様の手技で細胞ペレットを得た。続いて、細胞ペレットをPI(最終濃度0.1μg/mL)、DNase I(最終濃度0.1mg/mL、シグマ-アルドリッチ社、cat.no.DN25-100MG)、Y27632(最終濃度10μM、ミルテニーバイオテク社、cat.no.130-106-538)、ペニシリン(最終濃度100U/mL、ナカライテスク、cat.no.26253-84)、ストレプトマイシン(最終濃度100μg/mL、ナカライテスク、cat.no.26253-84)、アンホテリシンB(最終濃度0.25μg/mL、ギブコ社、cat.no.15240-062)を入れた洗浄バッファーで懸濁し、フローサイトメーター(型式「MoFlo XDP flow cytometer」、ベックマンコールター社)でGFP陽性細胞を分離した。
【0165】
分離した細胞をマトリゲルに懸濁し、インサート上に播種した。インサート下のウェルに500μLの基本培地を加えて3次元培養し、2~3日おきに培地交換を行った。細胞のコロニーは1週間程度でコンフルエントになった。近フル塩とになった細胞を、
実験例19と同様の方法で継代した。
【0166】
[実験例21]
(癌遺伝子を導入した胆管上皮細胞及び胆嚢上皮細胞の移植(肝内))
実験例20で作製した、癌遺伝子KRASG12Vを導入した胆管上皮細胞及び胆嚢上皮細胞を、それぞれ野生型C57BL6/Jマウスの肝内に移植した。具体的には、まず、細胞がコンフルエントに至ったインサートの培地を除去し、300μLのDMEM/Ham’s F-12 with L-glutamine(和光、cat.no.048-29785)を加え、1000μLピペットで撹拌及びピペッティングしてゲルを崩し、1.5mLチューブにコロニーを回収した。
【0167】
続いて、1.5mLチューブを600×gで5分間遠心し、上清を除去し、TripLETM(ギブコ社、cat.no.12604021)を1mL加え、1000μLピペットで50~60回ピペッティングして37℃の恒温槽に5分間静置した。
【0168】
続いて、再度1000μLピペットで50~60回ピペッティングして、40μmのセルストレイナー(ファルコン社、cat.no.352340)を通した。続いて、チューブを600×gで5分間遠心し、上清を除去し、1000μLのDMEM/Ham’s F-12 with L-glutamine(和光、cat.no.048-29785)を加えた。続いて、チューブを600×gで5分間遠心し、上清を除去し、5×104個の細胞ペレットあたり50μLのマトリゲルを加えて懸濁し、4℃で静置した。
【0169】
続いて、野生型C57BL6/Jマウスに対して、メデトミジン0.03mg/mL、ミダゾラム0.4mg/mL及びブトルファノール0.5mg/mLを含む麻酔液をマウス体重(g)あたり10μL腹腔内注射し麻酔した。
【0170】
続いて、腹側正中皮膚を約1cm切開し、肝直上の腹膜を切開し、肝左外側葉を腹腔外へ引き出した。続いて、29G注射針付きシリンジを刺入し、準備しておいたマトリゲル50μLと懸濁した細胞を注入した。注入後、圧迫止血を行った。続いて、肝を腹腔内に戻し、腹膜を1針、皮膚を2針縫合し閉創した。
【0171】
細胞移植から28日飼育後、各マウスを安楽死させて肝臓を露出させ、観察した。
図14(a)は、癌遺伝子を導入した胆管上皮細胞を移植したマウスの肝臓の写真である。その結果、肝臓に腫瘍が形成されたことが確認された。
図14(a)中矢印は腫瘍が形成された部位を示す。
【0172】
図14(b)は、
図14(a)に示すマウスから摘出した肝臓の写真である。また、
図14(c)は、
図14(b)に示す肝臓におけるGFPの蛍光を検出した結果を示す写真である。
【0173】
図15(a)は、癌遺伝子を導入した胆嚢上皮細胞を移植したマウスの肝臓の写真である。その結果、肝臓に腫瘍が形成されたことが確認された。
図15(a)中矢印は腫瘍が形成された部位を示す。
【0174】
図15(b)は、
図15(a)に示すマウスから摘出した肝臓の写真である。また、
図15(c)は、
図15(b)に示す肝臓におけるGFPの蛍光を検出した結果を示す写真である。
【0175】
以上の結果から、癌遺伝子を導入した胆管上皮細胞を野生型のマウスに移植することにより、担癌モデルを作製することができることが明らかとなった。
【0176】
また、癌遺伝子を導入した胆嚢上皮細胞を野生型のマウスに移植することによっても、担癌モデルを作製することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明によれば、多様な遺伝子変異を持つ癌細胞を作製することができ、更に免疫系が正常な担癌動物モデルを、容易に作製する技術を提供することができる。