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  • 特許-短期間造腫瘍性スクリーニングシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】短期間造腫瘍性スクリーニングシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20221214BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221214BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20221214BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019534529
(86)(22)【出願日】2018-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2018028654
(87)【国際公開番号】W WO2019026903
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2017148605
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構[再生医療実現拠点ネットワークプログラム(再生医療の実現化ハイウェイ)]「iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】榛村 重人
(72)【発明者】
【氏名】羽藤 晋
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 絵海
(72)【発明者】
【氏名】坪田 一男
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】Wei Zhu et al.,Transplantation of iPSC-derived TM cells rescues glaucoma phenotypes in vivo,PNAS,2016年06月06日,Vol.113,No.25,PP.E3492-E3500
【文献】Shixuan Wang et al.,Role of TRAIL and IFN-gamma in CD4+ T cell-dependent tumor rejection in the anterior chamber of the eye,The Journal of Immunology,2003年09月05日,Vol.171,No.6,PP.2789-2796
【文献】Les White et al.,Heterotransplantation of Human Lymphoid Neoplasms Using a Nude Mouse Intraocular Xenograft Model1,CANCER RESEARCH,Vol.50,1990年03月15日,PP.3078-3081
【文献】T.Mathiesen et al.,Prolonged survival and vascularization of xenografted human glioblastoma cells in the central nervous system of Cyclosporine A treated rats settings,CancerLetters,Vol.44,No.22,PP.151-156
【文献】Shin Kawamata et al.,Design of a Tumorigenicity Test for Induced Pluripotent Stem Cell (iPSC)-Derived Cell Products,J. Clin. Med.,2015年01月14日,Vol.4,No.1,PP.159-171
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラットの前眼房内に被検細胞を移植し、腫瘍形成の有無を観察することを特徴とする、該細胞の造腫瘍性の評価方法であって、移植細胞数が10 5 細胞以上である、方法
【請求項2】
観察期間が4~8週間である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
移植細胞数が105細胞~107細胞である、請求項記載の方法。
【請求項4】
ラットが免疫不全動物である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
被検細胞が幹細胞又はそこから分化誘導された体細胞である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
被検細胞ががん細胞である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ラットに、試験化合物をさらに投与し、腫瘍形成を指標として該化合物の抗腫瘍活性を評価することを特徴とする、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の造腫瘍性を短期間で評価することができる新規な造腫瘍性のスクリーニングシステムに関する。本発明はまた、前記スクリーニングシステムを用いた抗がん薬の薬効評価方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
iPS細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞等の幹細胞を用いた再生医療において、移植細胞の安全性の確保(特に腫瘍化リスクの低減)は最も重要な課題の一つである。幹細胞やそこから誘導した分化細胞を用いた細胞移植療法を行う際には、必ずその細胞の造腫瘍性をチェックする必要がある。原材料に用いられる細胞を基準とした場合、ES/iPS 細胞、体性幹細胞、体細胞の順に悪性形質転換のリスクは高く、さらにES/iPS 細胞由来製品では、多能性幹細胞の残存による奇形腫形成のリスクについても評価する必要がある。
また、各種癌細胞の悪性度の評価や、抗がん剤の効果判定などにおいても、造腫瘍性は評価項目の一つである。
【0003】
造腫瘍性試験として、マウス等の免疫不全動物を用い、動物の生体内に被検細胞を皮下移植して腫瘍形成能を評価する方法が広く行われている。しかし、この方法では、腫瘍サイズがかなり大きくならないと腫瘍を検知できないため、多くの匹数と、数カ月間の長期観察が必要であった。In vivo造腫瘍性試験の国際ガイドライン(非特許文献1)では、ヌードマウス等の動物10匹に10^7個皮下投与投与して、HeLa細胞などと比較することを16週間におよび検討すべきとされている。
【0004】
1回目の造腫瘍試験で腫瘍形成が認められてしまった場合や、造腫瘍試験後に誘導方法や製造方法等のプロトコルに改変があった場合は、また一から造腫瘍試験をやり直さなければならない。そのため、より短期間で造腫瘍性を評価することができ、かつ個体間のばらつきが小さい新規なin vivoスクリーニング系の開発が望まれている。がん細胞、多能性幹細胞やそこから分化誘導した細胞の、奇形腫形成を含む造腫瘍性を簡便かつ短期間で評価するためのin vitro及びin vivoのアッセイ系が報告されているが(非特許文献2~7)、前者は、移植細胞が生着する微小環境における造腫瘍性を評価するために、結局in vivo試験を必要とするし、後者も、皮下等に細胞を移植するため、造腫瘍性の評価が煩雑となる。
【0005】
従って、依然として、短期間でかつ簡便に造腫瘍性を評価し得るスクリーニング系が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“Requirements for Use of Animal Cells as in vitro Substrates for the Production of Biologicals” in WHO Expert Committee on Biological Standardization, 47th Report (1998) (technical report series number 878, TRS 878)
【文献】Cell Med., 3: 103-112 (2012)
【文献】Exp. Anim., 63(1): 55-62 (2014)
【文献】PLOS ONE, 9(6): e98319 (2014)
【文献】Cytotherapy, 15:578-585 (2013)
【文献】PLOS ONE, 9(8): e106110 (2014)
【文献】PLOS ONE, 9(1): e85336 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、短期間でかつ簡便に造腫瘍性を評価し得る新規なスクリーニング系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、前眼房の視認性のよさに着目し、ラットの前眼房内に被検細胞としてiPS細胞を移植して、経過観察を実施した。その結果、わずか4週間で、造腫瘍性(奇形腫形成)をほぼ100%の確度で検出することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]実験動物の前眼房内に被検細胞を移植し、腫瘍形成の有無を観察することを特徴とする、該細胞の造腫瘍性の評価方法。
[2]観察期間が4~8週間である、[1]記載の方法。
[3]移植細胞数が105細胞以上である、[1]又は[2]記載の方法。
[4]移植細胞数が105細胞~107細胞である、[3]記載の方法。
[5]実験動物が免疫不全動物である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]実験動物がラットである、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]被検細胞が幹細胞又はそこから分化誘導された体細胞である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]被検細胞ががん細胞である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[9]実験動物に、試験化合物をさらに投与し、腫瘍形成を指標として該化合物の抗腫瘍活性を評価することを特徴とする、[8]記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、これまで数カ月の観察期間と多くの匹数の実験動物を要した造腫瘍評価を、4ないし8週間程度に期間短縮し、匹数も削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】前眼房を用いた造腫瘍性試験のプロトコルを示す図である。
図2】免疫不全ラットの前眼房内にヒトiPS細胞201B7株を投与1カ月後の奇形腫形成(右)及び累積生存率(左)を示す図である。
図3】免疫不全ラットの前眼房内にヒトiPS細胞FFI-01株を投与1カ月後の奇形腫形成(下)及び累積生存率(上)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をより具体的に説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常に用いられる意味を有する。
【0013】
本発明は、実験動物の前眼房内に被検細胞を移植し、腫瘍形成の有無を観察することを特徴とする、該細胞の造腫瘍性の評価方法(以下、「本発明の評価方法」ともいう)。ここで「造腫瘍性」とは、がん細胞だけでなく、未分化細胞における奇形腫を形成する能力も包含する意味で用いることとする。
【0014】
本発明に用いられる実験動物としては、1×106個程度の細胞を注入するのに十分な容積がある前眼房を有する実験動物であれば特に制限されず、例えば、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ等が挙げられる。好ましくは、ラット、ウサギ、モルモットであり、より好ましくはラットである。
【0015】
本発明で用いられる非ヒト動物は、得られた本発明のモデル動物を用いた評価実験を行うのに適するように、遺伝学的及び微生物学的に統御されているものを用いることが望ましい。即ち、遺伝学的には、近交系を用いることが好ましい。例えばラットの場合、Wistar系、Sprague-Dawley系等が例示される。また、微生物学的には、SPFもしくはノトバイオートのグレードのものを用いることが好ましい。
【0016】
実験動物の性別、齢等は、前眼房の容積が上記の条件を満たし得る限り、特に制限されず、動物種に応じて、任意の性別、齢のものを用いることができる。
【0017】
本発明の評価方法の評価対象となる被検細胞は、再生医療への適用可能性や抗がん薬のスクリーニング系としての使用を考慮すれば、好ましくはヒト細胞であるから、一実施態様においては、本発明の評価方法に用いる実験動物は、ヒト細胞を拒絶しないように、免疫不全動物であることが望ましい。例えば、ラットの場合、T細胞機能を欠如するF344/NJcl-rnu/rnuラットや、SCIDラット、X-SCIDラット、SCIDとXSCIDの両遺伝子を欠損するFSGラット等が挙げられる。
【0018】
しかしながら、眼は免疫特権部位であり、移植細胞が拒絶されにくいことが知られているので、別の一実施態様においては、実験動物として、正常な免疫系を有する通常の動物を使用することも可能である。免疫不全動物は種類に制限があり、また高価であることから、正常な実験動物の使用は、本発明の評価方法の汎用性を高めるという意味で、極めて有意義である。
【0019】
本発明の評価方法の評価対象となる被検細胞は、造腫瘍性を有する可能性のある細胞であれば特に制限されず、任意の細胞が用いられ得る。好ましい一実施態様においては、本発明の評価方法は、移植用細胞としての安全性評価に用いられるので、被検細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞(MSC)等の多能性幹細胞や、そこから分化誘導して得られる体性幹細胞(例、神経幹細胞等)、体細胞(例、角膜細胞、肝細胞、腎細胞、膵β細胞、心筋細胞、血液細胞等)、あるいはそれらから構築される組織(例、角膜、網膜色素上皮、肝組織、腎組織、膵組織、心筋等)が挙げられる。in vivo試験の必要性が移植部位の微小環境の影響による造腫瘍性の評価にあることを考慮すれば、好ましくは、被検細胞は、眼を構成する細胞・組織であることが望ましいが、他の組織を構成する細胞であっても、移植部位での試験に先立つ一次スクリーニングの手段として、本発明の評価方法を適用することができる。
あるいは、別の一実施態様においては、本発明の評価方法はがんの悪性度の評価や、抗がん薬のスクリーニング系として用いられるので、各種がん細胞(例、生検等にて患者から採取したがん細胞、がん細胞株等)もまた、被検細胞として使用可能である。
【0020】
被検細胞はいかなる動物由来であってもよいが、好ましくは、ヒト及びペット動物(例、イヌ、ネコ等)又は家畜動物(例、ウシ、ブタ等)もしくは家禽類(例、ニワトリ、アヒル等)などの温血動物由来の細胞であり、より好ましくはヒト細胞である。
【0021】
本発明の評価方法に必要な被検細胞の数は、105細胞以上であれば特に制限はないが、移植部位である前眼房の容積を考慮すれば、105細胞~107細胞であることが好ましい。WHOが提唱する国際的ガイドラインでは、107細胞を移植することとされているが、本発明の評価方法であれば、105細胞で60%程度、106細胞ではほぼ100%の確度で、造腫瘍性を検出することができるので、より好ましくは、被検細胞の数は105細胞~106細胞であり、特に好ましくは、約106細胞(例、5x105細胞以上、5x106細胞未満)である。
【0022】
被検細胞は、上記の量を、例えば5~10μlの適当な培地又は等張液(例、生理食塩水、PBS等)に懸濁して、移植に用いることができる。被検細胞の前眼房内での滞留性を高めるために、該細胞懸濁液をマトリゲル等の自体公知の細胞外基質と混合した後に、前眼房内に移植することができる。
【0023】
前眼房とは、虹彩と角膜の最内層の内皮細胞との間の眼の内側の領域であり、眼房水によって満たされている。前眼房は角膜を通して、移植した細胞の様子をいつでも容易に経過観察することが可能であり、腫瘍形成を簡便かつ早期に検出することができる。上記で調製した細胞懸濁液を眼角膜輪部より注入することにより、被検細胞を前眼房内に移植することができる。移植は片方の眼に対して行えばよく、他方の眼をコントロールとして用いることができる。
【0024】
移植後、実験動物は移植前と同様にして飼育することができる。経過観察は、例えば、適当な間隔をおいて、実態顕微鏡下で腫瘍形成を目視観察することにより実施することができる。本発明の評価方法においては、例えば、前眼房内容積の1/4以上を占める腫瘍形成をもって死亡(造腫瘍性あり)と判定することができる。
また、一定期間経過後に眼球を摘出して、組織染色(例、HE染色、組織特異的マーカーによる免疫染色)等により奇形腫を含む腫瘍形成を確認することもできる。
【0025】
従来の皮下移植による評価では、腫瘍が20mm程度の大きさに増殖しないと判定できず、その間は皮下であるために観察不能であった。一方、本発明の評価方法によれば、実験動物を生かしたまま、移植細胞をいつでも観察することができるため、腫瘍形成を鋭敏に検知することができる。そのため、被検細胞の種類や移植細胞数にもよるが、移植後4週目の時点においてほぼ100%の腫瘍形成を検知することが可能である。移植細胞数が105細胞程度と少ない場合でも、移植後8週間以内で高確度に腫瘍形成を検知することができる。
従って、本発明の評価方法においては、経過観察の期間は、好ましくは4~8週間である。
【0026】
また、本発明の評価方法によれば、実験動物の個体数が5であれば造腫瘍性の有無を十分な確度をもって評価することが可能である。WHOが提唱する国際的ガイドラインでは、10個体を用いて試験することとされているが、本発明の評価方法は個体間のばらつきが少ないので、評価に用いる個体数を従来よりも低減することができる点でも有利である。
【0027】
本発明の評価方法において、被検細胞としてがん細胞、例えば、患者から採取したがん細胞を用いることにより、該がん細胞の悪性度を評価することができる。例えば、まず臨床的に悪性度の低いことが既知のがん細胞について本発明の評価方法を実施し、がん細胞が増殖しない移植細胞数を決定し、次いで、被検がん細胞を当該細胞数、実験動物の前眼房内に移植して経過観察を行うことにより、腫瘍形成を認めた場合には、該被検がん細胞は悪性度が高いと判定することができる。
【0028】
また、本発明の評価方法において、がん細胞、例えば、従来より抗がん薬の評価のために使用されている各種がん細胞株を被検細胞として用い、実験動物に抗がん薬の候補化合物を試験化合物として投与して、実験動物の前眼房内における腫瘍形成を調べることにより、抗腫瘍活性を有する試験化合物をスクリーニングすることができる。例えば、まず被検がん細胞株が腫瘍形成し得る移植細胞数を決定し、次いで、被検がん細胞を当該細胞数、実験動物の前眼房内に移植するとともに試験化合物を投与して、経過観察を行うことにより、腫瘍形成の抑制を認めた場合には、該試験化合物は抗腫瘍活性を有すると判定することができる。試験化合物は、任意の投与経路、投与量にて実験動物に投与することができるが、好ましい一実施態様においては、眼局所投与することができる。眼局所投与は、細胞移植と同様に前眼房内への注射により実施してもよいし、あるいは点眼により行うこともできる。この場合、両方の眼に対してがん細胞の移植を行い、片方の眼にのみ薬剤投与を行い、両方の眼を比較することにより腫瘍形成の抑制効果を評価することもできる。
【0029】
がん細胞株を用いた一次スクリーニングの結果、抗腫瘍活性を有するものとして選択された化合物、あるいは既存の抗がん薬について、被検細胞を患者由来のがん細胞に代えて、本発明の評価方法を実施することにより、該患者に有効な抗がん薬を選択することが可能であり、テーラーメイドのがん治療を行うことができる。
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例
【0031】
(1)方法
実験動物として、免疫不全ラットF344/NJcl-rnu/rnu(5週令、日本クレア)を使用した。ドミトール (塩酸メデトミジン) 75 μg/ml、ドルミカム (ミタゾラム) 0.4 mg/ml、ベトルファール (酒石酸ブトルファノール) 0.5 mg/ml の3種混合麻酔液を、500 μl/100 gで腹腔内注射し、全身麻酔した。また、ベノキシール(0.4%, オキシブプロカイン塩酸塩点眼液)点眼により局所麻酔を行った。ヒトiPS細胞株201B7(http://cell.brc.riken.jp/ja/hps/hps0063_info)又はFFI-01(http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ ciRA 京都大学 iPS細胞研究所) 1x10^4細胞~1×10^7 細胞を含む細胞懸濁液5 μlと、Matrigel 5 μlとを混合した液を、実体顕微鏡下に安置したラット(各群5匹)の片眼に注入した。抗菌剤として、クラビット点眼液(0.5%、レボフロキサシン水和物)を点眼した。移植後、一定期間(直後~数か月)の経過観察を行い、その後より詳細な解析を行うため、ペントバルビタールを腹腔内に過量投与 (120mg/kg) することによりラットを安楽死させ、眼球を回収し、HE染色等を行って、奇形腫形成(三胚葉系列への分化)を確認した。本試験のプロトコルを図1に示す。
【0032】
(2)結果
前房内容積の1/4以上を占める腫瘍形成をもって死亡と判定し、Kaplan-Meier生存曲線を作成した。201B7株の場合、1×10^6 細胞を移植すると、移植後4週目で5匹すべてのラットで死亡(奇形腫形成能あり)と判定された(図2左上)。HE染色の結果、三胚葉系列への分化が確認された(図2右)。1×10^5 細胞を移植した場合でも、8週間以内に60%(3/5匹)が死亡と判定された(図2左下)。FFI-01株を移植した場合も、同様の結果が得られた(図3)。尚、1×10^7 細胞を移植した場合は、いずれのiPS細胞株でも、移植後4週目にすべてのラットが死亡と判定された。一方、1×10^4 細胞を移植した場合には、いずれの細胞株でも腫瘍形成を認めなかった。
【0033】
従来の皮下移植による評価では、腫瘍が20mm程度の大きさに増殖しないと判定できず、その間は皮下であるために観察不能であった。一方、本発明の評価方法によれば、ラットを生かしたまま、移植細胞をいつでも観察することができるため、腫瘍形成を鋭敏に検知することができ、移植後4週目の時点において、100%の確度で腫瘍形成の検知が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、これまで数カ月の観察期間と多くの匹数の実験動物を要した造腫瘍評価を、4週間ないし8週間程度に期間短縮し、匹数を削減することができるので、移植用細胞における造腫瘍性のin vivoスクリーニングに有用である。また、がんの悪性度の評価や抗がん薬のスクリーニング系として利用できる点でも、きわめて有用である。
【0035】
本出願は、2017年7月31日付で日本国に出願された特願2017-148605を基礎としており、ここで言及することによりそれらの内容は全て本明細書に包含される。
図1
図2
図3