(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】MEMS制御装置及びMEMS制御方法
(51)【国際特許分類】
B81B 7/00 20060101AFI20221214BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20221214BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
B81B7/00
B81B3/00
G02B26/08 E
(21)【出願番号】P 2019539645
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2018032268
(87)【国際公開番号】W WO2019045021
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2017166405
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】アダマンド並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】神原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】石川 正紀
(72)【発明者】
【氏名】山内 研也
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-192902(JP,A)
【文献】特開2010-256415(JP,A)
【文献】特開2009-244760(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0231557(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 3/00 - 7/00
B81C 1/00 - 99/00
G02B 26/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、2つの支持部と、支持部に支持された2つの揺動部を有
し、2つの支持部の中心軸が互いに直交し、各軸周りに外側櫛歯と内側櫛歯を備え、揺動部が直交する2軸周りで揺動する静電櫛歯型MEMS
の外側櫛歯と内側櫛歯間に電圧が供給されて静電エネルギーが低下する様に、各軸周りの外側櫛歯に各軸周りのトルクが発生し、2つの支持部をそれぞれ中心軸として揺動部に発生する各々の揺動角度を制御する為の各電圧を
同期に供給し、
各電圧が、初期電圧V0(V)から、揺動部の揺動角度を所望の設定値角度に制御する設定電圧V1(V)に遷移する途中で、V0(V)及びV1(V)のどちらも除く電圧値であ
り、揺動部の最大振れ幅を設定値角度とする電圧値である電圧V2(V)を供給するMEMS制御装置。
【請求項2】
前記各電圧の前記V2(V)を、前記V0(V)超及び前記V1(V)未満か、前記V0(V)未満及び前記V1(V)超の何れかとする請求項1に記載のMEMS制御装置。
【請求項3】
前記各電圧の少なくとも1つの前記V2(V)を、前記V0(V)超及び前記V1(V)超か、前記V0(V)未満及び前記V1(V)未満の何れかとする請求項1に記載のMEMS制御装置。
【請求項4】
前記各電圧の各々の前記V2(V)を、共に前記MEMSに同時に供給する請求項1~3の何れかに記載のMEMS制御装置。
【請求項5】
前記揺動部がミラーである請求項1~4の何れかに記載のMEMS制御装置。
【請求項6】
少なくとも、2つの支持部と、支持部に支持された2つの揺動部を有し、2つの支持部の中心軸が互いに直交し、各軸周りに外側櫛歯と内側櫛歯を備え、揺動部が直交する2軸周りで揺動する静電櫛歯型MEMSの外側櫛歯と内側櫛歯間に電圧を供給して静電エネルギーが低下する様に、各軸周りの外側櫛歯に各軸周りのトルクを発生し、2つの支持部をそれぞれ中心軸として揺動部に発生する各々の揺動角度を制御する為の各電圧を同期に供給し、
各電圧が、初期電圧V0(V)から、揺動部の揺動角度を所望の設定値角度に制御する設定電圧V1(V)に遷移する途中で、V0(V)及びV1(V)のどちらも除く電圧値であり、揺動部の最大振れ幅を設定値角度とする電圧値である電圧V2(V)を供給するMEMS制御方法。
【請求項7】
前記各電圧の前記V2(V)を、前記V0(V)超及び前記V1(V)未満か、前記V0(V)未満及び前記V1(V)超の何れかとする請求項6に記載のMEMS制御方法。
【請求項8】
前記各電圧の少なくとも1つの前記V2(V)を、前記V0(V)超及び前記V1(V)超か、前記V0(V)未満及び前記V1(V)未満の何れかとする請求項6に記載のMEMS制御方法。
【請求項9】
前記各電圧の各々の前記V2(V)を、共に前記MEMSに同時に供給する請求項6~8の何れかに記載のMEMS制御方法。
【請求項10】
前記揺動部がミラーである請求項6~9の何れかに記載のMEMS制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS制御装置及びMEMS制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ミラー等の揺動部を有するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)が知られている。
【0003】
ミラーを備えるMEMSとして、例えば光スイッチ(MEMS光スイッチ)が挙げられる。MEMS光スイッチは、1つ若しくは複数の光入力ポートと、同じく1つ若しくは複数の光出力ポートを有する。更にこれら光入出力ポート間の光路に、MEMSによる制御機構を備える可動式のミラー(MEMSミラー)が配置され、光入力ポートと光出力ポートを光学的に結合させる。
【0004】
この様なMEMS光スイッチでは、制御用の電圧を制御機構に印加する事でミラーの傾きを変え、光入力ポートと光出力ポートの光学的な結合を変化させ、光の伝搬路を切り替えている。
【0005】
上記MEMS光スイッチに搭載されるMEMSミラーとして、例えば静電櫛歯型のMEMSミラーが特許文献1に開示されている。特許文献1には、X-X’軸及びY-Y’軸の2軸周りに制御が可能なMEMSミラーが開示されている。
【0006】
特許文献1開示のMEMSミラーの様に、X-X’軸及びY-Y’軸の2軸周りに制御可能にMEMSミラーが構成される事で、より緻密にMEMSミラーの角度制御が可能となり、光入力ポートからの光の反射方向をより正確に制御する事が出来る。従って、複数の光入力ポートと光出力ポートをより正確に光学的に結合する事が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願人は、特許文献1記載のMEMSミラーに
図9上段に示す電圧を供給し、MEMSミラーの揺動動作を検証した。その動作検証の結果を、
図9下段に示す。
図9下段より、MEMSミラーは電圧V1(V)が供給された時点で共振して揺動する事が判明した。その理由として、MEMSミラーが機械的な構造体なので、何らかの共振周波数特性を有する為と本出願人は結論付けた。
【0009】
また
図9下段に示す揺動動作をMEMSミラーが起こした場合の、MEMS光スイッチに於ける光出力ポートからの光出力と経過時間との関係も本出願人は検証した。その結果を
図10に示す。
【0010】
図10より、MEMSミラーが共振して揺動した後に徐々に減衰し、ミラーの傾き角度が設定値角度に収束する過程で、光出力ポートに伝搬される光の光出力にリンギングが発生する事が確認された。MEMS光スイッチの場合、ミラーの共振時の揺動により所望の光出力ポートへの光の伝搬が断続的になってしまい、リンギングが発生する。従って、光学的なスイッチング時間の冗長化を招いてしまう事を、本出願人は検証により確認した。
【0011】
更に、特許文献1記載の2軸周りに制御可能なMEMSミラーでは、片方の軸だけを中心軸としてMEMSミラーを揺動させたい場合、揺動させたい中心軸は1軸にも関わらず、実際には2軸両方に揺動動作が現れる事が、本出願人の検証により判明した。この原因として、二つの軸がMEMSミラーの構造内部で機械的な結合箇所が存在する為、一方の軸の揺動動作が他方に影響を及ぼす為であると、本出願人は考察した。この様に2軸両方に揺動動作が現れる事によって、光出力ポートに伝搬される光の光出力に、更にリンギングが発生する事を本出願人は検証により確認した。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、2軸周りに揺動が可能な揺動部を備えるMEMSに於ける、揺動部の共振の抑制又は防止、一方の軸周りの不必要な揺動の抑制又は防止、共振又は不必要な揺動が発生した場合の速やかな収束が可能なMEMS制御装置とMEMS制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題は、以下の本発明により解決される。即ち本発明のMEMS制御装置は少なくとも、2つの支持部と、支持部に支持された2つの揺動部を有し、2つの支持部の中心軸が互いに直交し、各軸周りに外側櫛歯と内側櫛歯を備え、揺動部が直交する2軸周りで揺動する静電櫛歯型MEMSの外側櫛歯と内側櫛歯間に電圧が供給されて静電エネルギーが低下する様に、各軸周りの外側櫛歯に各軸周りのトルクが発生し、2つの支持部をそれぞれ中心軸として揺動部に発生する各々の揺動角度を制御する為の各電圧を同期に供給し、各電圧が、初期電圧V0(V)から、揺動部の揺動角度を所望の設定値角度に制御する設定電圧V1(V)に遷移する途中で、V0(V)及びV1(V)のどちらも除く電圧値であり、揺動部の最大振れ幅を設定値角度とする電圧値である電圧V2(V)を供給する事を特徴とする。
【0014】
また本発明のMEMS制御方法は少なくとも、2つの支持部と、支持部に支持された2つの揺動部を有し、2つの支持部の中心軸が互いに直交し、各軸周りに外側櫛歯と内側櫛歯を備え、揺動部が直交する2軸周りで揺動する静電櫛歯型MEMSの外側櫛歯と内側櫛歯間に電圧を供給して静電エネルギーが低下する様に、各軸周りの外側櫛歯に各軸周りのトルクを発生し、2つの支持部をそれぞれ中心軸として揺動部に発生する各々の揺動角度を制御する為の各電圧を同期に供給し、各電圧が、初期電圧V0(V)から、揺動部の揺動角度を所望の設定値角度に制御する設定電圧V1(V)に遷移する途中で、V0(V)及びV1(V)のどちらも除く電圧値であり、揺動部の最大振れ幅を設定値角度とする電圧値である電圧V2(V)を供給する事を特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のMEMS制御装置及びMEMS制御方法に依れば、2軸周りに揺動が可能な揺動部を備えるMEMSの構造や機械的な特性に関わらず、供給する電圧を変更するだけで揺動部の共振が抑制又は防止出来る。更に、一方の軸周りの不必要な揺動の抑制又は防止も可能となる。従って、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動が発生したとしても、速やかに収束させる事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るMEMSの構造の一例を模式的に示す平面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るMEMSの構造の変更例を模式的に示す平面図である。
【
図3】本発明の実施形態及び実施例に係るMEMSを制御する電圧の供給例と、MEMS光スイッチに於ける光出力ポートからの光出力と経過時間との関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の他の実施形態及び実施例に係るMEMSを制御する電圧の供給例と、MEMS光スイッチに於ける光出力ポートからの光出力と経過時間との関係を示すグラフである。
【
図5】本発明の更に他の実施形態及び実施例に係るMEMSを制御する電圧の供給例と、MEMS光スイッチに於ける光出力ポートからの光出力と経過時間との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の更に他の実施形態及び実施例に係るMEMSを制御する電圧の供給例と、MEMS光スイッチに於ける光出力ポートからの光出力と経過時間との関係を示すグラフである。
【
図7】比較例に係るMEMSを制御する電圧の供給例と、MEMS光スイッチに於ける光出力ポートからの光出力と経過時間との関係を示すグラフである。
【
図8】他の比較例に係るMEMSを制御する電圧の供給例と、MEMS光スイッチに於ける光出力ポートからの光出力と経過時間との関係を示すグラフである。
【
図9】従来のMEMSミラーを制御する電圧の供給例と、MEMSミラーの揺動角度と経過時間との関係を示すグラフである。
【
図10】従来のMEMS光スイッチに備えられるMEMSミラーが共振を起こした場合に於ける、光出力と経過時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態の第一の特徴は、少なくとも、2つの支持部と、支持部に支持された2つの揺動部を有し、2つの支持部の中心軸が互いに直交し、各軸周りに外側櫛歯と内側櫛歯を備え、揺動部が直交する2軸周りで揺動する静電櫛歯型MEMSの外側櫛歯と内側櫛歯間に電圧が供給されて静電エネルギーが低下する様に、各軸周りの外側櫛歯に各軸周りのトルクが発生し、2つの支持部をそれぞれ中心軸として揺動部に発生する各々の揺動角度を制御する為の各電圧を同期に供給し、各電圧が、初期電圧V0(V)から、揺動部の揺動角度を所望の設定値角度に制御する設定電圧V1(V)に遷移する途中で、V0(V)及びV1(V)のどちらも除く電圧値であり、揺動部の最大振れ幅を設定値角度とする電圧値である電圧V2(V)を供給するMEMS制御装置及びMEMS制御方法とした事である。
【0018】
以上のMEMS制御装置及びMEMS制御方法に依れば、2軸周りに揺動が可能な揺動部を備えるMEMSの構造や機械的な特性に関わらず、供給する電圧を変更するだけで揺動部の共振が抑制又は防止出来る。更に、一方の軸周りの不必要な揺動の抑制又は防止も可能となる。従って、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動が発生したとしても、速やかに収束させる事が出来る。更に、前記各効果に加えて、各電圧を同期に供給する事で、MEMSの一方の支持部を中心軸として共振又は不必要な揺動が発生しても、その共振又は揺動が発生した時点で、もう一方の支持部に電圧を供給する事が出来る。従って、MEMSの一方の支持部を中心軸として共振又は不必要な揺動が発生しても、その共振又は揺動を抑える方向に、もう一方の支持部を中心軸とする揺動を発生させる事が可能となる。よって、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動が発生しても、速やかに収束させる事が出来る。更に、前記各効果に加えて、2つの支持部の互いの中心軸が直交している事で、揺動部の制御がより容易となる。従って、より容易に揺動部の共振を抑制又は防止する事が出来る。更に一方の軸周りの不必要な揺動も、より容易に抑制又は防止可能となる。従って、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動を、より容易に収束させる事が出来る。
【0019】
第二の特徴は、各電圧のV2(V)を、V0(V)超及びV1(V)未満か、V0(V)未満及びV1(V)超の何れかとするMEMS制御装置及びMEMS制御方法とした事である。
【0020】
以上のMEMS制御装置及びMEMS制御方法に依れば、MEMSの揺動部の共振を、より抑制又はより確実に防止する事が出来る。更に、一方の軸周りの不必要な揺動を、より抑制又はより確実に防止可能となる。従って、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動が発生したとしても、より速やかに収束させる事が出来る。
【0021】
第三の特徴は、各電圧の少なくとも1つのV2(V)を、V0(V)超及びV1(V)超か、V0(V)未満及びV1(V)未満の何れかとするMEMS制御装置及びMEMS制御方法とした事である。
【0022】
以上のMEMS制御装置及びMEMS制御方法に依れば、MEMSの揺動部の共振を、最も確実に抑制又は防止する事が出来る。更に、一方の軸周りの不必要な揺動を、最も確実に抑制又は防止する事が可能となる。従って、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動が発生したとしても、確実により速やかに収束させる事が出来る。
【0025】
なお本発明に於ける同期とは、電圧供給開始によりMEMSの揺動部の制御を開始する時点(タイミング)が、2つの支持部間で同一である、という意味である。
【0026】
第四の特徴は、各電圧の各々のV2(V)を、共にMEMSに同時に供給するMEMS制御装置及びMEMS制御方法とした事である。
【0027】
以上のMEMS制御装置及びMEMS制御方法に依れば、前記各効果に加えて、MEMSの一方の支持部を中心軸として共振又は不必要な揺動が発生しても、もう一方の支持部に電圧を供給する事が出来る。従って、MEMSの一方の支持部を中心軸として共振又は不必要な揺動が発生しても、その共振又は揺動を抑える方向に、もう一方の支持部を中心軸とする揺動を発生させる事が可能となる。よって、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動が発生しても、速やかに収束させる事が出来る。
【0030】
第五の特徴は、揺動部がミラーであるMEMS制御装置及びMEMS制御方法とした事である。
【0031】
以上のMEMS制御装置及びMEMS制御方法に依れば、前記各効果に加えて、ミラーを例えばMEMS光スイッチに使用した場合に、光出力ポートに伝搬される光のリンギングの発生が防止される。よって、光入力ポート及び/又は光出力ポートの光学的なスイッチング時間が短縮され、高速でのスイッチング動作が可能となる。
【0032】
以下、
図1~
図6を参照して本発明の実施形態に係るMEMS制御装置とMEMS制御方法を説明する。
【0033】
本実施形態に於いて被制御対象となるMEMSは少なくとも、2つの支持部と、支持部に支持された2つの揺動部を有する。具体的な構造としては、
図1に示すように、2つの支持部の中心軸が互いに直交し静電引力により制御される、平板電極型MEMS1(以下、MEMS1と記載)が一例として挙げられる。なお、
図1は断面図では無いものの、MEMS1の構造の見易さを優先してハッチングを掛けている。
【0034】
図1のようなMEMS1に、図示しないMEMS制御装置から電圧が供給される。電圧の供給によりMEMS1の揺動部2aは、支持部3aを中心軸として、X軸周りで揺動する。また、揺動部2bは支持部2bを中心軸として、Y軸周りで揺動する。即ち、MEMS制御装置からMEMSに供給する電圧には、X軸制御用電圧(X電圧)と、Y軸制御用電圧(Y電圧)の、各電圧が有る。揺動部2a及び2bに発生するX軸周り及びY軸周りの各々の揺動角度は、これら各電圧により制御される。
【0035】
MEMS制御装置は、電圧出力装置等により構成する事ができ、切換スケジュールに従って電圧をX軸及びY軸毎に、図示しない電極に供給する。
【0036】
支持部3aはX軸方向に延設して揺動部2aと2bとを連結し、支持部3aをX軸周りに揺動可能に支持している。揺動部2bは、揺動部2aの外周に設けられ、且つ揺動部2aを包囲する様に形成されている。更に、支持部3bはY軸方向に延設して揺動部2bと外側固定枠部4とを連結し、支持部3bをY軸周りに揺動可能に支持している。従って揺動部2aは、支持部3bにより揺動部2bごとY軸周りで揺動可能に支持されている。よって揺動部2aは、X軸、及び直交するY軸の2軸周りの揺動が可能である。
【0037】
MEMS1は、少なくとも二層のシリコンウエハで形成されており、各シリコンウエハは、n型又はp型にドープされた導電性のシリコンから成る。更に、二層のシリコンウエハ間には、電気的な絶縁層としてシリコン酸化物が形成されており、そのシリコン酸化物を介して二層のシリコンウエハが接合されている。MEMS1の前述した各構成要素が、各層のシリコンウエハ毎に一体形成され、各層は電気的に等電位である。なお二層のシリコンウエハと絶縁層が予め一体化された、シリコンオンインシュレータ(SOI:Silicon-on-Insulator)ウエハを用いても良い。
【0038】
本実施形態のMEMSは、
図2に示すような2つの支持部3a、3bの中心軸が互いに直交し静電引力により制御される、静電櫛歯型MEMS5(以下、MEMS5と記載)でも良い。なお、MEMS1と同一箇所には同一の引き出し番号を付し、重複する説明は省略又は簡略化して記載する。なお、
図2も断面図では無いものの、MEMS5の構造の見易さを優先してハッチングを掛けている。
【0039】
X軸周りに於いて、外側櫛歯2a1と内側櫛歯2b1間に図示しないMEMS制御装置から電圧が供給されると、静電エネルギーが低下する様に、X軸周りの外側櫛歯2a1、即ち揺動部2aにX軸周りのトルクが発生する。
【0040】
またY軸周りに於いて、外側櫛歯2b2と内側櫛歯4a間に電圧が印加されると、静電エネルギーが低下する様に、Y軸周りの外側櫛歯2b2、即ち、揺動部2aに一体に連結されている内側可動枠体(即ち揺動部2b)にY軸周りのトルクが発生する。よって、揺動部2aはX軸及び直交するY軸の2軸周りの揺動が可能になる。
【0041】
揺動部2aの揺動角度を所望の角度に制御するに当たり、X軸及びY軸毎に各電圧を、初期電圧V0(V)から、揺動部2aの揺動角度を所望の設定値角度θに制御する設定電圧V1(V)に遷移させて供給する。但し本実施形態では、各電圧を初期電圧V0(V)からV1(V)に遷移する途中で、
図3~
図6に示すようにV0(V)及びV1(V)のどちらも除く電圧値である電圧V2(V)をMEMS1又は5に供給するように、各電圧の供給を制御する。
【0042】
V2(V)の電圧値は、そのV2(V)を揺動部2aに供給した時、揺動部2aの最大振れ幅が設定値角度θとなる電圧値とする。V2(V)の供給により設定値角度θまで揺動部2aが振れた時点(タイミング)でV1(V)を供給する。
【0043】
初期電圧V0(V)から設定電圧V1(V)への遷移途中にV2(V)を供給して揺動部2aを設定値角度θまで予め振らせておき、揺動部2aが設定値角度θまで振れた時点(例えば
図3中の時間t2経過時点)でV1(V)を供給する。この様にV2(V)を供給する事で、揺動部2aが初期状態から直接、設定値角度θで共振する事が防止可能である事を、本出願人は検証により見出した。即ち、V2(V)の供給により揺動部2aが設定値角度θに揺動部2aが振れようとする為、揺動部2aの共振が抑制又は防止可能となる。
【0044】
なお
図6のように、X軸及びY軸毎の設定値角度θまでの遷移時間が異なる場合(X軸及びY軸のどちらかの軸の遷移時間が長い場合)、時間が長い方のV1(V)供給開始に伴って揺動部2aの共振が抑制又は解消される。
【0045】
このように本実施形態に係るMEMS制御装置及びMEMS制御方法に依れば、2軸周りに揺動が可能な揺動部2aを備えるMEMS1又は5の構造や機械的な特性に関わらず、供給する各電圧をV0(V)からV1(V)に遷移する途中でV2(V)を供給するように変更するだけで、揺動部2aの共振が抑制又は防止出来る。更に、一方の軸周りの不必要な揺動の抑制又は防止も可能となる。従って、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動が発生したとしても、速やかに収束させる事が出来る。
【0046】
V2(V)の設定値としては、
図3に示すように各電圧のV2(V)をV0(V)超及びV1(V)未満か、
図4に示すようにV0(V)未満及びV1(V)超の何れかとする。又は、
図5に示すように各電圧の少なくとも1つのV2(V)をV0(V)超及びV1(V)超(オーバーシュート)か、
図6に示すようにV0(V)未満及びV1(V)未満(アンダーシュート)の何れかにV2(V)の値を設定すれば良い。
【0047】
V2(V)をV0(V)超及びV1(V)未満か、V0(V)未満及びV1(V)超に設定する場合は、
図3又は
図4以外にも供給形態が考えられる。例えば、一方の支持部に供給する電圧のV2(V)を、V0(V)超及びV1(V)未満に設定した場合は、他方の支持部に供給する電圧のV2(V)を、V0(V)未満及びV1(V)超に設定しても良い。
【0048】
この様に、X軸及びY軸に於けるV2(V)の設定値を共に、V0(V)超及びV1(V)未満か、V0(V)未満及びV1(V)超の何れかに設定する事により、MEMS1又は5の揺動部2aの共振を、より抑制又はより確実に防止する事が出来る。更に、一方の軸周りの不必要な揺動を、より抑制又はより確実に防止可能となる。従って、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動が発生したとしても、より速やかに収束させる事が出来る。
【0049】
また、
図5か
図6に示すように各電圧の少なくとも1つのV2(V)を、V0(V)超及びV1(V)超か、V0(V)未満及びV1(V)未満の何れかに設定する事により、MEMS1又は5の揺動部2aの共振を、最も確実に抑制又は防止する事が出来る。更に、一方の軸周りの不必要な揺動を、最も確実に抑制又は防止する事が可能となる。従って、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動が発生したとしても、確実により速やかに収束させる事が出来る。
【0050】
なお、各電圧は
図3~
図6に示すようにそれぞれ同期に供給する事がより好ましい。その理由として、MEMS1又は5の一方の支持部を中心軸として共振又は不必要な揺動が発生しても、その共振又は揺動が発生した時点で、もう一方の支持部に電圧を供給する事が出来る為である。従って、MEMS1又は5の一方の支持部を中心軸として共振又は不必要な揺動が発生しても、その共振又は揺動を抑える方向に、もう一方の支持部を中心軸とする揺動を発生させる事が可能となる。よって、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動が発生しても、速やかに収束させる事が出来る。
【0051】
なお本実施形態に於ける同期とは、電圧供給開始によりMEMS1又は5の揺動部2aの制御を開始する時点(タイミング)が、2つの支持部3a、3b間で同一である、という意味である。
【0052】
更に、各電圧の各々のV2(V)を両方共にMEMS1又は5に同時に供給する時点(タイミング)が有る事がより望ましい。即ち、
図3~
図6での各電圧の供給時間軸上に於いて、各々のV2(V)が重なり合って供給される時間が存在すると云う事である。
【0053】
各々のV2(V)を両方共にMEMS1又は5に同時に供給する事により、MEMS1又は5の一方の支持部を中心軸として共振又は不必要な揺動が発生しても、もう一方の支持部に電圧を供給する事が出来る。従って、MEMS1又は5の一方の支持部を中心軸として共振又は不必要な揺動が発生しても、その共振又は揺動を抑える方向に、もう一方の支持部を中心軸とする揺動を発生させる事が可能となる。よって、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動が発生しても、速やかに収束させる事が出来る。
【0054】
なお被制御対象であるMEMSは、MEMS1又は5のように2つの支持部3a、3bの互いの中心軸が直交している構造が好ましい。その理由は、2つの支持部3a、3bの互いの中心軸が直交している事により、揺動部2aの揺動角度の制御がより容易になる為である。従って、より容易に揺動部2aの共振を抑制又は防止する事が出来る。更に一方の軸周りの不必要な揺動も、より容易に抑制又は防止可能となる。従って、共振又は一方の軸周りの不必要な揺動を、より容易に収束させる事が出来る。
【0055】
本実施形態に係るMEMS1又は5、MEMS制御装置、及びMEMS制御方法は、種々の分野や装置に適用可能であるが、一例としてMEMS1又は5を、揺動部2aをミラーとしたMEMSミラーとしても良い。揺動部2aをミラーとする場合、揺動部2aの表面上には、鏡面加工、又は金やアルミニウム等の金属膜を蒸着等によりコーティングすれば良い。更にこのMEMSミラーを備えるMEMS光スイッチを形成する事も可能となる。このようなMEMSミラーを使用してMEMS光スイッチを形成する事により、前記各効果に加えて、光出力ポートに伝搬される光のリンギングの発生が防止される。よって、光入力ポート及び/又は光出力ポートの光学的なスイッチング時間が短縮され、高速でのスイッチング動作が可能となる。
【0056】
なお、各電圧に於ける時間t2の長さ(即ち、V2(V)の供給時間)は、任意に設定可能であり、2つの支持部3a、3bの中心軸毎の揺動に於ける共振が抑制又は防止出来るか、一方の軸周りの不必要な揺動の抑制又は防止が可能となる程度に、それぞれ設定すれば良い。
【0057】
本実施形態は種々変更可能であり、2つの支持部3a、3bの互いの中心軸が非直交であるMEMSにも、本発明のMEMS制御装置又はMEMS制御方法は適用可能である。またMEMSの構造は静電型式以外でも良いし、支持部3aが揺動部2bに連結されると共に、支持部3bが揺動部2aに連結されている構造のMEMSでも良い。
【実施例】
【0058】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されない。
【0059】
本実施例のMEMSとして、
図1に示すMEMS1を被制御対象とすると共に、揺動部2aをミラーとし、更にMEMS1をMEMS光スイッチに適用した。そのMEMS1にMEMS制御装置からX電圧(V)とY電圧(V)をそれぞれ供給し、揺動部2aで反射し光出力ポートに光学的に結合した光パワー(%)を、出力結果とした。なお、X軸及びY軸毎の設定値角度θは、それぞれ1度(degree)に設定した。
【0060】
X電圧とY電圧の各電圧に於ける電圧V2(V)の制御は、
図3~
図6に示す4例とした。各図に於ける光パワーのリンギング有無を評価した結果、各例に於いてリンギングが抑制され、ほぼ解消されている事が確認された。
【0061】
次に比較例として、
図7及び
図8に示すようなV0(V)からV1(V)に直接遷移するX電圧(V)とY電圧(V)をそれぞれ供給した。比較例でもMEMS1を被制御対象とし、揺動部2aで反射し光出力ポートに光学的に結合した光パワー(%)を、出力結果とした。また、X軸及びY軸毎の設定値角度θは、それぞれ1度(degree)に設定した。
【0062】
図7及び
図8於ける光パワーのリンギング有無を評価した結果、リンギングの発生が確認された。更に、V1(V)の供給開始時点(0msec時点)からリンギングが収束するまで30msecに亘る時間が必要となる事も判明し、スイッチング時間の冗長化を招いてしまう事も確認された。
【符号の説明】
【0063】
1 平板電極型MEMS
2a、2b 揺動部
2a1、2b2 外側櫛歯
2b1 内側櫛歯
3a、3b 支持部
4 外側固定枠部
4a 内側櫛歯
5 静電櫛歯型MEMS