(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】外科的ガイダンスのための磁気マーカー
(51)【国際特許分類】
A61B 90/98 20160101AFI20221214BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
A61B90/98
A61M37/00 590
(21)【出願番号】P 2020549660
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(86)【国際出願番号】 IB2019052170
(87)【国際公開番号】W WO2019180580
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-03-17
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517421390
【氏名又は名称】エンドマグネティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】アゴスチネリ,ティツィアーノ
(72)【発明者】
【氏名】ロリマー,ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ハーマー,クエンティン
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0354178(US,A1)
【文献】米国特許第6230038(US,B1)
【文献】米国特許第5079006(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0038395(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 90/00 ― 90/98
A61M 37/00
G06K 19/00 ― 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの移植可能マーカーであって、磁性曲線において大バルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも一片の磁性物質を含む移植可能マーカー
を含む磁気マーカーであって、
前記LBJ物質が、少なくとも1つのオーバーラッピングループを含み、該少なくとも1つのオーバーラッピングループが、移植後に前記
磁気マーカーの検出中に該マーカー中に保持されることを特徴とする、
磁気マーカー。
【請求項2】
前記
磁気マーカーが、少なくとも2つの完全な回旋を有する少なくとも一片のLBJ物質を含み、コイルまたは螺旋を形成することを特徴とする、請求項1に記載の磁気マーカー。
【請求項3】
前記複数の回旋が、均一のピッチを有することを特徴とする、請求項2に記載の磁気マーカー。
【請求項4】
前記複数の回旋が、
前記コイルの長さに沿って変化するピッチを有することを特徴とする、請求項2に記載の磁気マーカー。
【請求項5】
前記複数の回旋が、均一の直径を有することを特徴とする、請求項2、3または4に記載の磁気マーカー。
【請求項6】
前記複数の回旋が、
前記磁気マーカーの長さに沿って変化する直径を有することを特徴とする、請求項2、3または4に記載の磁気マーカー。
【請求項7】
前記
磁気マーカーが、前記
磁気マーカーの少なくとも1つのループを少なくとも部分的に介して伸びる少なくとも一片のLBJ物質を含む少なくとも1つの軸方向部材を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気マーカー。
【請求項8】
前記少なくとも1つの軸方向部材が、前記少なくとも1つのループを介して挿入される別個の材料の形態であるか、または、前記
磁気マーカーの一端または両端で少なくとも1つのループと一体的に形成されることを特徴とする、請求項7に記載の磁気マーカー。
【請求項9】
前記コイルが、多条螺旋の形で組み合わされる複数のコイルを含むことを特徴とする、請求項
2~
6のいずれか一項に記載の磁気マーカー。
【請求項10】
より小さい直径の回旋を有する少なくとも1つのコイルが、相対的により大きい直径の回旋を有する少なくとも1つのコイル内に含まれる複数のコイルを含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の磁気マーカー。
【請求項11】
前記LBJ物質が、コーティングされるかまたはハウジング内に提供され、前記コーティングまたはハウジングが、2×10
-7Ωmより大きい抵抗率を有する材料から形成されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の磁気マーカー。
【請求項12】
前記
磁気マーカーが、ニチノール、チタン、ステンレス鋼、または他の生体適合性合金のハウジング内で提供されることを特徴とする、請求項11に記載の磁気マーカー。
【請求項13】
前記
ハウジングが、前記磁性材料の周りに巻かれた1つ以上の材料のストランドを含
むことを特徴とする、請求項11または12に記載の磁気マーカー。
【請求項14】
前記ハウジングが、螺旋の形で
前記磁性物質の周りに巻かれた1つ以上の材料のストランドを含むことを特徴とする、請求項13に記載の磁気マーカー。
【請求項15】
マーカーの位置を特定するための検出システムであって、
請求項1~14のいずれか一項に記載の磁気マーカー;
交番磁場で前記
磁気マーカーを励起するように配置された少なくとも1つの駆動コイル、および前記励起された
磁気マーカーから受信した信号を検出するように配置された少なくとも1つの感知コイル;
前記少なくとも1つの駆動コイルを通して交流磁場を駆動するように構成された磁場発生器;および
前記感知コイルから信号を受信し、前記受信信号内の駆動周波数の1つまたは複数の高調波を検出するように配置された少なくとも1つの検出器
を含む、検出システム。
【請求項16】
前記駆動コイルが、前記
磁気マーカーをそのスイッチングフィールドを超えて励起して前記LBJ物質の双安定スイッチング動作を開始するよう構成されることを特徴とする、請求項15に記載の検出システム。
【請求項17】
前記少なくとも1つの駆動コイルが、前記
磁気マーカーの前記LBJ物質の双安定スイッチング動作を開始するために必要なスイッチングフィールド以下で前記
磁気マーカーを励起することを特徴とする、請求項15に記載の検出システム。
【請求項18】
プローブをさらに含み、前記少なくとも1つの検出器が、前記
磁気マーカーの高調波応答を検出して、プローブからの前記
磁気マーカーの位置
および/
または距離
および/
または近接度を決定することを特徴とする、請求項15、16または17に記載の検出システム。
【請求項19】
前記
磁気マーカーの最大対最小の高調和応答の比が<3であることを特徴とする、請求項17に記載の検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、外科的ガイダンスの分野に関し、より詳細には、外科的切除のための病変の位置特定に役立つ磁気マーカーおよびそのようなマーカーを検出するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば切除が必要な小さい腫瘍のように、所定の領域が物理的に目に見えないまたは触知できない場合に、外科手術中に外科医を当該所定の領域にガイドするためにマーカーが使用される。理想的には、そのようなマーカーは、患者への傷を低減するために、例えば18g~14gのナローゲージ針を介して展開可能であろう。通常、目立たず傷を最小限にするように、そのようなマーカーは10mm未満の長さである。マーカーは、体内の所定の部位、例えば腫瘍病変において、生体検査または他の外科的処置中に配置されてもよい。マーカーは、超音波またはX線/マンモグラフィのような結像ガイダンスの下で配置される。その後の外科手術中に、外科手術をガイドするために外科医に聴覚、視覚または他のフィードバックを提供する手持ち式プローブを用いて、マーカーが検出および位置決定される。通常、マーカーは周囲の組織と共に切除される。
【0003】
そのようなアプローチの1つは、手持ち式ガンマ検出プローブを用いて検出できるヨウ素90のようなラジオアイソトープを含有するマーカーを使用することである。しかしながら、ラジオアイソトープ物質の使用は厳密に規制されており、最大規模の大学診療センターを除き、放射性シードプログラムをセットアップすることは困難となっている。
【0004】
Cianna Medicalの特許文献1には、移植可能なレーダーアンテナの形態のマーカーを検出するために、ラジオ周波数(RF)および赤外(IR)線の組合せを用いる位置決定システムが開示される。しかしながら、このシステムは、IR線の低い組織透過深さ、良好なIR伝搬のための緊密な組織接触の必要性、および、アンテナおよび電子回路を含む移植可能装置としばしば関連する頑丈さの不足によって制限される。
【0005】
Health Beaconsの特許文献2には、ペットおよび家畜のための身元マーカーとして使用されてきたラジオ周波数同定(RFID)タグに基づくさらなるシステムが開示される。このアプローチによる欠点は、小さいRFIDタグは、ダイポール軸と垂直にアプローチされると「デッドスポット(deadspots)」を有するダイポールアンテナを構成することである。これにより、病変を位置決定するためにシステムを使用する外科医に混乱が生じうる。使い勝手の良い臨床移植に十分にRFIDタグを小型化することもまた困難である。
【0006】
さらなるアプローチが、本出願人の以前に発行された特許出願(例えば、特許文献3、特許文献4および特許文献5)に論じられ、高い磁化率を有する磁界および磁気マーカーが用いられる。手持ち式プローブによって、磁気感応性マーカーを励磁する交番磁界が生じ、対応する磁界が検出される。このアプローチは、より深い感知に有効であり、RFアプローチの欠点を回避する。しかしながら、これらのシステムは、強磁性外科ツールまたは他の金属性移植装置のようなプローブの近傍の任意の磁気感応性物質を検出するであろう。このことは、効果的な動作のためには、非強磁性の外科手術用器具と共に使用し、他の金属性の移植可能異物から遠ざける必要があることを意味する。さらに、そのようなプローブは、乳癌におけるセンチネルノード検出に使用される鉄酸化物ナノ粒子懸濁液に反応しうる。
【0007】
したがって、病変マーカーを他の磁気感応性物質と区別できる検出システムと共に、病変を位置決定するのに必要な以下の全ての特性を有するマーカーおよび検出システムを提供することが課題であることが示されてきた:小さいサイズ(<10mm長)のマーカー;小さい針(例えば16g~18g)を介してマーカーを供給できること;手持ち式プローブを用いてマーカーを検出できること;および、移植および外科的除去のための頑丈さ。
【0008】
Sullaの非特許文献1には、特にマイクロワイヤーの双安定動作を利用して外部場を与えることにより磁気的に検出できるインプラントとして、医療用途で大きいバルクハウゼンジャンプ動作を示すガラスコーティングされた非晶質マイクロワイヤーの使用が説明されている。この点で、「大きいバルクハウゼンジャンプ」(LBJ)物質は、ワイヤーの瞬間磁気分極に対向する磁界強さが所定の閾値を超える外部磁界によって励磁される場合に、磁気分極の急速反転を受ける。したがって、この物質は、2つの磁気分極状態の間で反転する、双安定行動を示す。磁化のそれぞれの反転によって、高調波成分を有する磁気パルスが生じる。高調波の特性および数が測定されて、他の物質からマーカーを同定する(数十の高調波まで)。Sullaには、機能的感知のためには40mmの長さのワイヤー片が必要とされるが、多くの病変はわずか数ミリメートルのサイズであるためこの長さのマーカーは病変の位置特定には不適切であることが結論付けられる。
【0009】
これらの条件によって、従来技術に記載されるこの大きいバルクハウゼンジャンプ行動は、以下の理由により病変位置決定マーカーとしての使用に不適切なものであることが示される:
・ほとんどのそのような物質の大きいバルクハウゼンジャンプに必要な臨界長さは、5~10mm超であり、これは、わずかに数ミリメートルの大きさである小さい病変を便宜にマークするには大きすぎる。
・スイッチングフィールドは、双安定行動を推進するために閾値HSWを超えなければならず、小さいワイヤーの存在を通常の範囲から検出できるようにする大きい磁場を生じる数十センチメートル範囲において大面積の励磁および感知コイルを必要とする。しかしながら、外科用ガイダンスのためには、手持ち式またはロボットによりガイドされる検出プローブを介してマーカーのずっと正確な位置決定が必要である。これによって、検出コイルのサイズは通常、20mm直径未満に制限され、したがって、マーカーを検出できる距離が制限される。駆動フィールドもプローブ中に生じる場合、検出能力は、プローブからの距離により四次または六次ごとに減少する。したがって、特許文献7は0.6-4.5Oe(0.06~0.45mT)のスイッチングフィールドで励磁可能なEASマーカーを開示し、特許文献8は少なくとも1Oeのスイッチングフィールドによるものを開示するのに対し、手持ち式プローブから約40mmで生成可能な磁場は、電流、電圧、電力および温度範囲の制限が考慮される、すなわち強度が1~2段階低い場合、0.5×10-3~0.05Oe(0.05~5μT)の範囲である。
・いくつかのLBJ物質について、LBJ応答が開始する磁場は、周波数と共に増加する、すなわち、より高い周波数でワイヤーがより励磁し難くなる。この理由のため、従来技術は、周波数を3kHzより低く、好ましくは1kHzよりずっと低く指定する。このことは、検出される非常に小さい磁場から信号対雑音比を最大化するために多くのサイクルに亘ってシグナルを平均化することが所望である外科用ガイダンスには所望でない。より高い周波数によって、ラグまたは遅れを有するように見えるユーザへのフィードバック応答なく、より多くの平均化が可能となる。
【0010】
このタイプのシステムのさらなる欠点は、マーカーワイヤーからの応答の異方性が大きいことであり、これは、軸方向における応答が横断方向における応答よりもはるかに大きいことを意味する。EAS用途において、このことは問題を提起するものではない、なぜならば、システムは検出器からの距離ではなくマーカーの存在を感知する必要があるのみであり、したがって、そのように大きいコイルおよび高い磁場強度によって十分なEAS検出が可能となるからである。しかしながら、手持ち式プローブを用いた外科用ガイダンスにおいて、アプローチの方向に依存して変化する応答は、ユーザにとって紛らわしい、なぜならば、マーカーは、アプローチの位置付けに依存してプローブから異なる距離となるように見えるからである。
【0011】
本出願人の同時継続出願である英国特許出願第1801224.5号は、その内容がここに参照することにより引用され、磁性曲線において大きいバルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも一片の磁性物質を含む移植可能磁気マーカーについて記載するが、マーカーのLBJ物質の双安定スイッチング行動の開始に必要なスイッチングフィールド以下にマーカーを励磁する。マーカーはまた、LBJ物質の双安定スイッチング行動の開始に必要な臨界長さ以下でもよい。「LBJ」ワイヤーについての「臨界長さ」および「スイッチングフィールド」の概念は、例えばVazquezの非特許文献2から既知である。英国特許出願第1801224.5号におけるマーカーは、典型的なスイッチング行動および調波応答の開始に必要であると従来考えられていた「スイッチングフィールド」のものより励磁界が低い場合でも測定可能調波応答を感知させるLBJ物質のための励磁の新しく認識された「サブ-双安定」モードを利用する。
【0012】
当該技術におけるマーカーはすべて、LBJワイヤーの直線状部分を使用する。これは、従来のスイッチング動作はカスケードまたはドミノ効果を介して起こるからであり、LBJワイヤー中の磁性領域はすべて一度に反転し、したがって、駆動磁性フィールドとのすべての領域の位置合わせが重要である。フィールドと実質的に位置合わせされない領域は、反転またはスイッチしない、すなわち、すべての領域が磁化の急速反転を受ける磁性応答の双安定行動が実現されず、したがって、検出のためにストレートワイヤーが使用されることとなる。任意の他の構成の使用は、先行技術文献に基づいて直感に反するものである。
【0013】
しかしながら、LBJワイヤーの直線部分が励磁される際、それが与える磁性応答は指向性がある、つまり、ワイヤーの軸に沿った応答がより大きく、ワイヤーに垂直な方向の応答がはるかに低くなる。このため、LBJ物質を含むマーカーのための励磁の新たに認識された「サブ双安定」モードを使用する同時係属中の英国特許出願第1801224.5号では、発明者は、駆動フィールドの方向におけるLBJ物質の双極子長が調波応答および検出を可能にするためにいかに重要なパラメーターであるかを説明する。したがって、本発明者は、例えば三脚配置において多くのワイヤーを提供し、任意の所定の方向における双極子長が実質的に同様であることを教示する。これにより、より均一な応答を実現でき、マーカーから検出プローブまでの距離を測定することが可能となる。
【0014】
しかしながら、各方向で同じ双極子長を有する必要とされる均一な応答を有する十分なマーカーを提供することは、多くの問題に直面する。この点で、病変の位置を特定するための移植可能マーカーは、該して、2mm未満の直径から各方向で同じ双極子長を有する最終形状にマーカーが再構成できることを必要とする小径の展開装置に挿入される。各方向で同様の双極子長を有する物質の三脚配置または他の3D形状により、薄い部分を有するマーカーが生じ、マーカーが脆弱になったり動きに弱くなったりする。マーカーが正しく展開されない場合、応答は不均一かつ不正確になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許出願公開第2017/252124号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/264891号明細書
【文献】国際公開第2011/067576号
【文献】国際公開第2014/032235号
【文献】国際公開第2014/140567号
【非特許文献】
【0016】
【文献】Utilizing Magnetic Microwires For Sensing In Biological Applications, Jnl. of Elec. Eng.,VOL66.NO7/s,2015,161-163
【文献】A soft magnetic wire for senso applications., J. Phys. D: Appl.Phys.29(1996)939-949
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、より丈夫であり、好ましくは展開時に再構成を行う必要がないマーカーが必要である。
【0018】
本発明は、この必要性に取り組むことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の態様に従えば、以下を含む磁気マーカーが提供される:
少なくとも1つの移植可能マーカーであって、磁性曲線において大きいバルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも一片の磁性物質を含み、LBJ物質が少なくとも1つのオーバーラッピングループを含み、少なくとも1つのループがマーカーの検出中に維持される、移植可能マーカー。
【0020】
好ましい実施形態では、マーカーは、コイルまたは螺旋を形成するために、少なくとも2回、好ましくはそれ以上の完全な回旋を有する少なくとも1つのLBJ物質を含む。
【0021】
驚くべきことに、本発明者は、LBJワイヤーのコイルが、直線のLBJワイヤーに加えて、測定可能な高調波応答を生成することを発見した。より高い磁場およびより大きな直径のコイルでは、これは、従来技術で説明されている古典的な双安定スイッチングと質的に類似したスイッチング応答である。しかしながら、より低い磁場が小さく、コイルの直径が小さい場合、本出願人の同時係属特許出願第GB1801224.5に記載されているように、応答は「サブ-双安定」である。
【0022】
さらに、単一のまっすぐなLBJワイヤーは、横方向(軸に垂直)応答よりもはるかに大きい軸方向応答を提供し、さらに驚くべきことに、本発明者は、双安定モードまたはサブ双安定モードのいずれかで励起された場合に、LBJワイヤーのコイルが、長さが直径の数倍の場合でも、軸方向の応答よりも横方向の応答が大きくなる。
【0023】
本発明によるマーカーは、任意の数の完全なターンまたは回旋を有するLBJ物質のコイルまたは螺旋を含んでもよい。コイルの直径および/またはピッチは、より均一な応答を提供するために、軸方向応答に対する横方向応答の比率を含む応答を調整するために変化させることができる。例えば、マーカーは同じピッチの回旋から形成されてもよく、または、回旋はマーカーの縦軸または長さに沿って変化するピッチを有してもよい。同様に、マーカーは同じ直径の回旋で形成されてもよく、または、回旋は、例えば円錐形、樽形、または砂時計形のマーカーを提供するために、マーカーの長さに沿って直径が異なってもよい。
【0024】
マーカーの軸方向応答に対する横方向応答の比率を調整するためにコイル状マーカーの中心を少なくとも部分的に通って延びる少なくとも1つのLBJ物質を含む少なくとも1つの軸方向部材を提供し、より均一な応答を提供することが好ましい。少なくとも1つの軸方向部材は、コイルを通して挿入された別個の材料片の形態であってもよく、またはマーカーの一端または両端にコイルを有して連続的に形成されてもよい。
【0025】
本発明によるマーカーはまた、複数のコイルを含み得る。複数のコイルは、一緒に織り合わせることができ、またはより大きな直径の回旋を有するコイル内に含まれるより小さな直径の回旋を有するコイルを含むことができる。ピッチはコイルごとに異なってもよいが、複数のコイルを密に噛み合わせることができるように同様であることが好ましい。
【0026】
マーカーはまた、病変部位での組織へのマーカーの固定を助けるために、少なくとも1つの組織係合部材を備えてもよい。例えば、コイル状マーカーの一端または両端に、好ましくはマーカーと一体的に形成されたフックまたはプロングを設けることができる。
【0027】
好ましくは、マーカーは、5mg未満のLBJ物質を含む。この物質は、必要なピッチおよび直径のコイルに巻かれたワイヤーの形で提供されてもよい。そのような物質の例には、鉄、コバルト、およびニッケルが豊富なガラスコーティングされた非晶質マイクロワイヤー、鉄-ケイ素-ホウ素ベースの非晶質マイクロワイヤー、鉄-コバルトベースの非晶質マイクロワイヤー、および/またはバルク金属ガラスワイヤーが含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
好ましくは、マーカーは、2mm未満の内径を有する針から展開可能である。より好ましくは、展開前のマーカーのアスペクト比は>3である。コイル状マーカーは、形状の変化を必要とせずに最終的な形で展開可能であることが好ましく、それにより、マーカーからの任意の検出された応答の精度および均一性に影響を与える可能性があるマーカーが正しく展開できない可能性が低減される。
【0029】
ワイヤーは、コーティングされるかまたはハウジング内に提供されてもよい。好ましくは、LBJワイヤーは、強度、剛性、可撓性および生体適合性などの複合特性を提供するために、コーティングされるかまたは非磁性材料の管内に提供される。例えば、ワイヤーは、FEP、パリレン、PTFE、ETFE、PE、PET、PVC、またはシリコーンまたはエポキシベースの封入剤などのポリマーコーティングでコーティングされてもよい。あるいは、ワイヤーは、必要なコイル状マーカー形状に形成される前に、チューブに入れられてもよい。チューブに適した材料には、ニチノール、チタン、ステンレス鋼、その他の生体適合性合金が含まれる。好ましくは、材料は非磁性であり、比較的低い導電率を有する。より好ましくは、ハウジングは、2×10-7Ωmより大きい抵抗率を有する材料から形成される。抵抗率は、例えば断続レーザーカットスパイラルを有する、チューブの選択的カットによっても増加しうる。これは、チューブの巻き取りにも役立つ。
【0030】
チューブは、特に選択的に切断される場合、コイリングの前に生体適合性シース内にさらにコーティングまたはハウジングされてもよい、および/または、コイル状マーカーを同様のシースにハウジングまたはコーティングすることができる。好ましくは、このシースも絶縁層である。
【0031】
マーカーハウジングは、成形または押し出し材料から形成されてもよい。例えば、ポリマーを磁気ワイヤーの周りに押し出して、ループに形成できる被覆ワイヤーを形成することができる。コーティングまたはオーバーモールドに適した材料には、PEEK、PEKK、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルブロックアミド、ポリアミド、PTFE、FEP、およびシリコーンが含まれる。
【0032】
1つの実施形態では、本発明によるマーカーは、例えば螺旋の形で磁性材料の周りに巻かれた1つ以上の材料のストランドを含むハウジングを含み、最終的なマーカーの形状に形成する前に、より頑丈な構造を形成する。好ましくは、周囲の材料は、磁気マーカー材料を完全に囲んでいる。周囲の材料のストランドは、1つの材料または複数のタイプの材料から形成されて、強度、剛性、抵抗率、またはエコー源性などの異なるプロファイルの材料特性を取得できる。周囲の材料は、本発明の範囲内で、単一の層または複数の層に巻かれてもよい。同様に、層は別の向きまたは方向に巻くことができ、異なる材料または断面を含むことができ、コイリングの前に生体適合性シース内にさらにコーティングまたはハウジングされてもよい、および/または、コイル状マーカーを同様のシースにハウジングまたはコーティングされてもよい。
【0033】
したがって、マーカーはコイルから形成され、形状の変化を必要とせずに針からその最終的な形で展開することができる。しかしながら、代替的な実施形態では、マーカーは、展開時にコイルがより大きなサイズに拡張するように、LBJワイヤーを含む弾性的に変形可能なチューブを含むことができる。
【0034】
マーカーの断面は特定の形状に限定されないことを理解されたい。例えば、マーカーは、断面が円形、長方形、または三角形であってもよい。例えば長方形または三角形など、実質的に直線の側面があるセクションを有するマーカーを提供し、例えば直線セクションが励磁場と整列する場合に、他の角度に対して磁気応答が増加する角度を提供することが好ましいかもしれない。
【0035】
本発明で使用するためのマーカーは、好ましくは、体内に埋め込まれたとき、交番磁場によって調べられたときのマーカーからの調和応答の大きさが、マーカーに対して任意の方向から測定したときに実質的に同じであり、プローブとマーカーとの間の距離を特定することができる。
【0036】
本発明の第2の態様によれば、マーカーの位置を特定するための検出システムが提供され、このシステムは、
本発明の第1の態様による磁気マーカー;
交番磁場でマーカーを励起するように配置された少なくとも1つの駆動コイル、および励起されたマーカーから受信した信号を検出するように配置された少なくとも1つの感知コイル;
少なくとも1つの駆動コイルを通して交流磁場を駆動するように構成された磁場発生器;および
感知コイルから信号を受信し、受信信号内の駆動周波数の1つまたは複数の高調波を検出するように構成された少なくとも1つの検出器。
【0037】
マーカーのサイズおよび構成に応じて、駆動コイルは、LBJ物質の双安定スイッチング動作を開始する閾値を超えてマーカーを励起しうる。あるいは、そしてより好ましくは、少なくとも1つの駆動コイルは、マーカーのLBJ物質の双安定スイッチング動作を開始するために必要なスイッチングフィールド以下でマーカーを励起する。
【0038】
好ましくは、高調波応答を使用して、プローブからのマーカーの位置/距離/近接度を決定する。より好ましくは、方向を伴う最大対最小の高調和応答の比は<3である。
【0039】
本発明のこの態様の好ましい実施形態では、駆動コイルと感知コイルの両方が手持ち式プローブに設けられる。あるいは、手持ち式プローブに感知コイルのみを設けることもできる。この実施形態では、より大きな駆動コイルをプローブの外部に設けて、増加した磁場をマーカー部位で生成できるようにすることができる。例えば、駆動コイルは、患者の近くまたは下に配置するためのパッド内に提供され得る。
【0040】
検出システムは好ましくは、受け取った調波信号を処理し、感知コイルと相対的なマーカーの位置決定に関してユーザに少なくとも1つの標識を提供するための出力モジュールを有し、指標は例えば、感知コイルに関してマーカーの近傍、距離、方向および/または位置を示す。
【0041】
より好ましくは、システムは、例えば1つ以上の奇数次高調波(例えば、第3および第5)、偶数次高調波(例えば、第2、第4および第6)または両方の組合せの大きさ、あるいはこれらの高調波の互いにまたは基本周波数に対する比率のような、マーカーの高調波応答の1つ以上の態様を処理する。駆動および感知された信号を強調するために適切なフィルタを提供してもよい。
【0042】
出力モジュールは、画像表示または音源を備えてもよい。
【0043】
本発明の第3の態様によれば、移植可能マーカーを検出する方法が提供され、移植可能マーカーは、磁性曲線において大きいバルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも一片の磁性物質を含み、LBJ物質は少なくとも1つのオーバーラッピングループを含み、この方法は、以下の工程を含む:マーカーを励磁し、マーカーのLBJ物質の双安定またはサブ-双安定スイッチング行動を開始するために、マーカーに交番磁場を適用する工程;および、マーカーの磁性の変化により生じる、励磁されたマーカーから受け取る信号の駆動周波数の1つ以上の高調波を検出する工程。
【0044】
好ましくは、マーカーは、双安定スイッチングを開始するのに必要なスイッチングフィールド以下に励磁され、スイッチングフィールド以下にマーカーを励磁するための交番磁界の適用によって、マーカーについて検出されるサブ-双安定応答が検出される。
【0045】
好ましくは、駆動周波数は1kHzより上であり、好ましくは1~100kHzであり、特に10~40kHzである。
【0046】
本発明の方法は好ましくは、マーカーの位置に関して出力を提供するための、マーカーの高調波応答の態様を測定する工程を含む。例えば、これは、1つ以上の奇数次高調波、偶数次高調波または両方の組合せの振幅、これらの高調波の互いにまたは基本周波数に対する比率であってもよい。この方法により提供される出力を強調するために、適切な信号のフィルタリングまたは処理を提供してもよい。
【0047】
本発明をよりよく理解するために、および本発明がどのように実行に移されるかをより明確に示すために、ほんの一例として、添付の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1A】従来技術の一部を形成し、本発明によるマーカーと共に用いるための検出システムの概念図
【
図1B】
図1Aに示される検出システムの構成要素をさらに詳細に示す図
【
図2】移植されたマーカーの位置を特定するための検出システムの使用を示す図
【
図3A】両対数スケールで示される、100Hz励磁場の大きさが増加した際のLBJワイヤーからの第3の高調波(H3)応答(任意単位)
【
図3B】対数線形スケールで示される、100Hz励磁場の大きさが増加した際のLBJワイヤーからの第3の高調波(H3)応答(任意単位)
【
図3C】正弦波により駆動された際の、
図3Aの上のグラフ中の点Aにおけるサブ-双安定領域中のタイムドメイン応答
【
図3D】正弦波により駆動された際の、
図3Aのグラフ中の点Bにおける双安定領域中のタイムドメイン応答
【
図3E】100Hz励磁周波数におけるサブ-双安定および双安定スイッチングモード中のLBJワイヤーからの周波数領域応答
【
図4】本発明のマーカーと共に用いるための磁気検出システムのブロック図
【
図5A】本発明によるマーカーの展開のための展開装置を示す図
【
図5B】本発明によるマーカーの展開のための展開装置を示す図
【
図7A】本発明によるマーカーのさらなる実施形態を示す図
【
図7B】本発明によるマーカーのさらなる実施形態を示す図
【
図7C】本発明によるマーカーのさらなる実施形態を示す図
【
図8A】それぞれ可変ピッチを有する、本発明によるマーカーの代替的な実施形態を示す図
【
図8B】それぞれ可変ピッチを有する、本発明によるマーカーの代替的な実施形態を示す図
【
図9A】コイルの長さに沿って変化する直径の回旋を有する、本発明によるマーカーのさらなる実施形態を示す図
【
図9B】コイルの長さに沿って変化する直径の回旋を有する、本発明によるマーカーのさらなる実施形態を示す図
【
図9C】コイルの長さに沿って変化する直径の回旋を有する、本発明によるマーカーのさらなる実施形態を示す図
【
図10A】複数の互いにかみ合うコイルを含む、本発明によるマーカーのさらなる実施形態を示す図
【
図10B】複数の互いにかみ合うコイルを含む、本発明によるマーカーのさらなる実施形態を示す図
【
図11A】本発明の代替的な実施形態によるマーカーの側面図
【
図11B】本発明の代替的な実施形態によるマーカーの側面図
【
図12A】本発明の代替的な実施形態によるマーカーの正面図
【
図12B】本発明の代替的な実施形態によるマーカーの正面図
【
図13】本発明によるマーカーの別の実施形態を示す図
【
図14】本発明によるマーカーのさらなる実施形態を示す図
【
図15A】磁気物質がストランデッドワイヤーまたはブレイド(braid)の一部である、本発明によるマーカーの別の実施形態を示す図
【
図15B】磁気物質がストランデッドワイヤーまたはブレイド(braid)の一部である、本発明によるマーカーの別の実施形態を示す図
【
図16A】磁気物質が管状ハウジング内にある、本発明によるマーカーのさらに別の実施形態を示す図
【
図16B】磁気物質が管状ハウジング内にある、本発明によるマーカーのさらに別の実施形態を示す図
【
図17A】磁気物質がコーティングを竿萎える、本発明によるマーカーのさらなる実施形態を示す図
【
図17B】磁気物質がコーティングを竿萎える、本発明によるマーカーのさらなる実施形態を示す図
【
図18A】本発明によるマーカーについての可能な断面の例を示す図
【
図18B】本発明によるマーカーについての可能な断面の例を示す図
【
図18C】本発明によるマーカーについての可能な断面の例を示す図
【
図19A】チャートにおいてワイヤーが0-180°の軸に沿って存在する、従来技術によるマーカーについての高調波応答を示す図
【
図19B】チャートにおいてワイヤーが0-180°の軸に沿って存在する、
図6Aに示されるマーカーからの高調波応答を示す図
【
図19C】チャートにおいてワイヤーが0-180°の軸に沿って存在する、
図6Bに示されるマーカーからの高調波応答を示す図
【
図19D】チャートにおいてワイヤーが0-180°の軸に沿って存在する、
図7Bのマーカーからの高調波応答を示す図
【
図20】各線が1つの方向であり、マーカーの長軸に0、30、45、60、および90度の方向が示される、
図7Bのマーカーについてのプローブからの距離によるマーカー磁性H3応答を示す図
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明は、体内の部位、例えば病変の部位をマーキングするために移植でき、その後手持ち式プローブを用いて位置決定できる磁気マーカーに関する。本発明は、体内の移植されたマーカーの位置を位置決定するための検出システムおよび方法を説明する。
【0050】
添付図面の
図1Aおよび1Bは、本発明によるマーカーを検出するために使用され得る、従来技術による検出システムの例の概略図を示す。検出システムは、ベースユニット4に接続されたプローブ2を含む。プローブは、1つまたは複数の駆動コイル8を有し(
図1Bを参照)、これは交番磁場を発生させて磁気マーカー6を励起する。検出システムのプローブ2はさらに、マーカーの磁化の変化によって引き起こされる磁場の変化を検出するように配置された1つまたは複数の感知コイル10を含む。
【0051】
図2は、マーカー6がどのようにして患者の乳房に埋め込まれ、プローブ2を用いて位置づけられるかを示す。
【0052】
プローブによる局在化を高めるための改良されたマーカーを提供することが望ましい。本出願人の同時係属出願である英国特許出願第1801224.5号には、そのようなマーカーが記載されている。マーカーは、大きいバルクハウゼンジャンプ物質(またはLBJ物質)としても知られる、磁化曲線において大きいバルクハウゼンの不連続性を有する少なくとも一片の磁性物質を含む。LBJ物質が、物質の長さの瞬間的な磁気分極に対抗する磁場強度が所定の閾値、スイッチングフィールドHSW、を超える外部磁場に曝されると、その磁気分極は急速に反転する。この磁化の反転により、高調波成分が豊富な磁気パルスが生成される。従来、マーカーは、いわゆる「臨界長」を超えるサイズとされ、この長さにおいて、磁化は、完全な双安定遷移または重大な高調波応答を生成するのに必要な「フリッピング」動作を受ける。しかしながら、本発明者は、新たに認識された「サブ-双安定」モードにおいて、臨界長よりもかなり低い、および/またはスイッチングフィールドHSWよりも低いマーカーから高調波応答が得られること、およびこれが移植可能マーカーの位置特定に使用するのに有利であることを見出した。
【0053】
図3Aから3Eは、移植可能なマーカーに組み込むことができるLBJ物質のこの双安定およびいわゆる「サブ-双安定」動作を示している。
図3Aおよび3Bは、100Hzの励起フィールドの大きさが増加するときのLBJワイヤーからの第3高調波(H3)応答(任意単位)を示し、両対数および対数線形スケールの両方でそれぞれ示される。図示されるように、臨界長さを超える一片のコバルト-鉄非晶質LBJマイクロワイヤーが、100Hzで交番磁界により励磁されると、第3の高調波(H3)応答が
図3Aに示される。ここでH3は、マーカー応答の調和性を表すものと取られる。H3応答がノイズと区別可能であると、励磁界との概して線形の関係において増加する。このことは、スイッチングフィールドに達するまで続き、この点においては双安定スイッチングが開始すると応答が強度において大きく増加する(
図3Aにおける領域B)。臨界長さを超えるLBJ物質が正常に特定可能であるのはこの点である。対数線形および両対数スケールによって、モード中の変化が明確に示される。しかしながら、
図3Aは、「サブ-双安定」モード(
図3Aにおける領域A)を用いることにより、双安定行動に必要なスイッチングフィールドよりも磁場が約2桁低い場合でもマーカーが検出できる。これは、所定の駆動磁場について、マーカーがプローブからはるかに離れた距離で検出できることを意味する。z
【0054】
図3Cは、正弦波により駆動される際のサブ-双安定領域におけるタイムドメイン応答を示す。磁性が反転する際に典型的な短いパルスを示す双安定タイムドメイン応答と対照的に、変形した正弦波として見られる(
図3D参照)。周波数領域において、双安定モードの豊富な高調波は、サブ-双安定モードのより少ない高調波と対照的である(
図3E参照)。しかしながら、そのような高調波応答は、非-双安定非晶質ワイヤーからの応答よりも依然として豊富であり、したがって、ワイヤーの長さが「臨界長さ」以下であり励磁場が「スイッチングフィールド」以下である場合でもこの応答を用いてマーカーを正確に同定できる。
【0055】
添付図面の
図4は、従来技術に従ってまたは本発明の実施形態に従ってマーカー位置を特定するために使用されうる磁性検出システムのブロック図を示す。例えばオシレータまたは波形ジェネレータ(f
Dは100Hz~50kHZ)のような周波数ジェネレータ12は、好ましくは、1つ以上の駆動コイル8を励磁する正弦交番信号を生じる。1つ以上の駆動コイルは、少なくとも一片の大きいバルクハウゼンジャンプ物質(LBJ)を有する磁気マーカー6を含む組織中に交番磁界を生成する。
【0056】
交番磁界によりマーカー6を励磁し、マーカーの磁性により、磁場中に高調波要素が生成される。マーカーの配置に依存して、高調波は、奇数次高調波(第3、第5、第7など)または偶数次高調波(第2、第4、第6など)または偶数次および奇数次高調波の両方の組合せでもよい。マーカーは、1つ以上の高調波周波数の大きさを直接測定することにより、または1つ以上の高調波の他に対するまたは基礎周波数の大きさに対する比率を測定することにより、検出される。
【0057】
マーカーからの応答は、感知電圧または電流を生成するための複数の感知コイル10の1つにより検出される。感知コイルは手持ち式またはロボットプローブでもよい。広域またはノッチフィルター14を配置し、駆動周波数において感知信号の少なくとも構成要素をノイズ除去または軽減してもよく、それによって、生じた信号は、駆動周波数において最小のコンテントを有し、かつ、信号のより高次の高調波構成要素、例えば、2次、3次、4次、5次または7次高調波またはこれらの組合せを有する。フィルタは、例えばキャパシタ、誘導原およびレジスタのような既知の配置を有するパッシブLCRタイプフィルタ、あるいは、例えば1つ以上のオペアンプ(op-amp)に基づく既知の配置を有するアクティブフィルタの形態を取ってもよい。
【0058】
フィルタ処理した信号を、信号の1つ以上の高調波成分を増幅し信号18をプローブからマーカーまでの距離の単位に換算する、高調波検出回路16に供給してもよい。ユーザディスプレイおよび音源20は、例えばマーカーの近さまたは磁性信号の強さを示す視覚および聴覚出力をユーザに提供する。システムは、マーカーの近さ、サイズ、マーカーまでの距離、方向または位置、あるいはこれらの組合せを示しうる。
【0059】
LBJワイヤーの直線部分が励起されると、それが与える磁気応答は方向性がある、つまり、ワイヤーの軸に沿って応答が大きくなり、ワイヤーに垂直な方向では応答がはるかに低くなる。このため、本発明者の同時係属出願である英国特許出願第1801224.5号は、駆動フィールドの方向におけるLBJ物質の双極子長が、高調波応答および検出を可能にするためにいかに重要なパラメーターであるかを説明し、任意の所定の方向における双極子の長さが実質的に同じになるような、例えば三脚配置における多数のワイヤーの使用を開示する。しかしながら、そのようなマーカーは薄い部分を持っており、動きに対して脆弱または傷つきやすくなる。これにより、マーカーの十分な展開が困難になりうる。
【0060】
図5Aおよび5Bは、マーカーを手術部位に供給するために使用され得る、従来技術による展開システムの例を示す。
図5Aは、針202およびプランジャー204を含む展開装置200を示す。使用時、画像ガイダンスの下で針が標的組織に挿入される。展開装置は、プランジャーの押し下げ時に、磁気マーカーが針の端部から標的組織中に展開されるように配置される。
図5Bは、プランジャー204と共に針202内で磁気マーカー6を含む展開装置200の遠位端の詳細を示す。
【0061】
マーカー6が針から正しく展開することが重要である、なぜならば、そうでなければ各方向の双極子長の類似性または同一性が影響を受け、不均一で不正確な応答につながるからである。
【0062】
本発明は、それらの従来の双安定動作を使用してまたは最近道程された「サブ-双安定」モードを使用して検出され得る、LBJ物質を含む改良されたマーカーを提供する。
本発明者は、コイルまたはループに形成されるLBJ物質を有するマーカーが測定可能な高調波応答を生成することを驚くべきことに発見した。このことは、古典的なスイッチング動作はLBJワイヤーの磁区が一度にすべて反転するカスケード効果またはドミノ効果を介して生じるので予期されていなかったものであり、したがって、すべての磁区を駆動磁界と位置合わせすることが重要である。磁場と実質的に位置合わせされない領域は、反転またはスイッチせず、したがって、検出に直線のワイヤーを使用することになる。したがって、当業者は、従来技術の文献に基づいて、任意の他の構成の使用が直感に反すると考えるであろう。本発明によるコイル状マーカーは、より高い磁場およびより大きい直径のコイルにおいて、従来技術に記載された古典的な双安定スイッチングと定性的に同様のスイッチング応答を示し、より低い磁場およびより小さい直径のコイルでは、応答は英国特許出願第1801224.5号に記載のように「サブ-双安定」である。
【0063】
さらに、単一の直線状LBJワイヤーは、横方向(軸に垂直)応答よりもはるかに大きい軸方向応答を提供し、さらに驚くべきことに、本発明者は、LBJワイヤーのコイルがサブ-双安定モード(および実際には双安定モード)において励磁されると、その長さがその直径の数倍であっても、軸方向応答よりも大きい横方向応答を示すことを見出した。
【0064】
図6Aから6Dは、本発明によるマーカー6の異なる実施形態を示している。各マーカー6は、磁性物質のコイル6aを含む。
図6Aは、磁気マーカー物質の単純なコイルを示している。
図6Bは、例えばコイルの内部に軸方向に配置されたワイヤーロッド6bの形態の、さらなる磁性物質片を備えたコイル6aを示す。
図6Cは、コイルの一端がコイルの中心に折り返されてコイル内部に軸要素6cを形成するコイル6aを示す。
図6Dは、コイル6aの両端がコイルの中心を通ってかつ中心に向かって折り返されてコイル内部に軸要素6d、6eを形成する、さらなる実施形態を示す。コイル内部のこれらの軸要素は、軸方向の磁気応答の大きさを増加させ、これは応答の望ましい均一性または非対称性を得るために使用できる。
【0065】
図7Aから7Cは、本発明によるコイル状マーカーを示し、
図6Aから6Dに示されるタイトなピッチと比較してコイル6aのピッチが異なる。
図7Cは、端部6f、6gがコイルの外側で軸方向に続いているコイル状マーカー6を示している。延長された端部は、軸方向の磁気応答の大きさを増加させ、これは、応答の望ましい均一性または非対称性を得るために使用できる。
【0066】
図8Aおよび8Bは、コイルのピッチがその長さを通して変化する、本発明によるコイル状マーカーの実施形態を示す。
図8Aは、より小さいピッチを有する中央領域6hおよびより大きいピッチを有する外側領域6iを有するコイルを示す。対照的に、
図8Bは、より大きいピッチを有する中央領域6jおよびより小さいピッチを有する外側領域6kを有するコイル状マーカーを示す。本発明の範囲内で、ピッチは、不連続でまたは連続でマーカーの長さに沿って任意の態様で変化してもよいことが理解されるべきである。以下の表1の値からわかるように、ピッチの増加は、軸方向の磁気応答の大きさを横方向の応答に対して増加させる。これは、応答の望ましい均一性または非対称性を得るためにも使用できる。
【0067】
図9Aから9Cは、マーカーの直径がマーカーの長さに沿って変化する、本発明によるマーカーの代替的な実施形態を示す。例えば、
図9Aは、コイルの回旋の直径をコイルの一端から別の端に減少させて、円錐形のマーカーを形成する。
図9Bは、コイルの回旋の直径をコイルの両端から中心に向かって減少させて、砂時計形のマーカーを形成する。
図9Cは、コイルの回旋の直径をコイルの両端から中心に向かって増加させて、樽型のマーカーを形成する。その長さに沿ってコイル状マーカーの回旋の直径を変化させることは、異なる方向からの磁気応答を修正するために有利である。異なる直径およびピッチの両方を有するコイル状マーカーは、本発明の範囲内である。コイルの数および直径を増加させると、応答の大きさが累積的に増加するが、コイルが互いに近接しているために多少の損失がある。したがって、これらの配置を使用して、必要に応じて磁気応答の均一性を修正できる。
【0068】
本発明によるマーカーのさらなる実施形態が
図10Aおよび10Bに示されており、マーカーは、マーカー内で組み合わされるかまたは相互にかみ合わされた複数のコイルを備えている。
図10Aは、2つのコイル6l、6mを有するマーカーを示し、
図10Bは、3つのコイル6n、6o、6pを有するマーカーを示す。組み合わされたコイルの各々は、本発明の範囲内で異なる直径および/またはピッチを有することができる。しかしながら、マーカーエンベロープ内のスペースの効率的な使用を最大化するには、
図10Aおよび10Bに示すように、複数のコイルが同様の直径およびピッチを有して互いに密接にかみ合うことが好ましい。コイルが互いに近接しているために多少の損失はあるが、追加のコイルによって、ほぼ加法的に応答の大きさが増加される。
【0069】
図11Aから
図13は、マーカーが患者に埋め込まれた後、組織との係合を助けるために追加の特徴が存在する、マーカーのさらなる実施形態を示す。例として、フックまたはプロングまたは円錐コイル形状が含まれ、マーカーの一端または両端にあるか、あるいはマーカーの側面から突出する。例えば、
図11Aおよび11Bは、コイル状のマーカーを示し、コイルの端部は、コイル6から離れて伸長し係合部材6qを提供する。
図12Aから12Bは、フック状の係合機構6rを形成するように成形されたこれらの端部を有する。この機構は、コイルと同じ材料から、または異なる材料から形成されてもよい。機構はさらに、マーカー展開装置内で圧縮し、次いで、弾性的にまたは形状記憶変化を介して、展開時にそれらの最終形状に変形するように配置されてもよい。そのような機構は、特定の種類の組織との係合を助けるように適合され得る。例えば、
図13に示されているようなより大きい直径のコイルまたは円錐コイルの形状は、肺の内腔、血管、または気道に配置するのに有用でありうる。とげのある形状の機構は、乳房組織または生検腔に配置するために有用でありうる。
【0070】
図14は、マーカー内でより小さいコイル6sがより大きい外径のコイル6tと組み合わされる、本発明によるマーカーのさらに別の実施形態を示す。これは、狭いゲージの供給針によって画定される同じ空間エンベロープ(space envelope)内でより多くの磁性物質を提供するために有利である。この場合も、コイルは、本発明の範囲内で異なる直径およびピッチであり得るが、マーカーエンベロープ内のスペースの効率的な使用を最大にするために、コイルの各ターン間の最小スペースで密に巻かれることが好ましい。
【0071】
本明細書に記載されるようにコイルに巻かれるLBJ磁性物質は、マーカーを改良するために他の材料と組み合わせることができる。例えば、マーカーは、他の材料内にパッケージされてもよい。この点で、移植用のマーカーは、体組織との反応を防ぐために生体適合性があり、かつ丈夫である必要がある。いくつかの好ましい磁性材料は細く(直径0.15mm未満のワイヤー)、非生体適合性材料を含んでいる。したがって、マーカーの生体適合性および堅牢性を改良するために、磁性材料のためのハウジングまたはコーティングを提供することが好ましい。添付図面の
図15Aから
図18Bは、パッケージされたマーカーを形成するための磁性材料と他の材料との代替的な組合せを示している。これは、
図17Aから17Bに示されるように、コーティング22の形態であってもよい。例えば、磁気ワイヤーは、FEP、パリレン、PTFE、ETFE、PE、PET、PVCまたはシリコーン、またはエポキシベースの封止材などのポリマーコーティングでコーティングされてもよい。代替的または追加的に、磁性材料は、
図16Aおよび16Bに示されるように(予備形成された状態で示される)、必要なマーカー形状に形成される前に、管24に入れられてもよい。この配置により、磁性材料の堅牢性が向上する。管に適した材料には、ニチノール、チタン、ステンレス鋼、および他の生体適合性合金が含まれる。好ましくは、材料は非磁性であり、マーカーの磁気応答に影響を与えないように比較的低い導電率を有する。好ましくは、体積抵抗率は2×10
-7Ωm(オーム-メートル)より大きく、磁気応答に影響を与える可能性のあるハウジング内の渦電流の発生を最小限に抑える。
【0072】
好ましい実施形態では、FEP、パリレン、PTFE、ETFE、PE、PET、PVCまたはシリコーンなどの生体適合性で絶縁性のコーティングまたはシースが、管24をさらに取り囲む。この絶縁層は、コイル内のターン間の電気伝導を停止し、マーカーの磁気応答に対する渦電流の影響をさらに低減する。
【0073】
下の表2は、さまざまな管材料でのLJBワイヤーの直線の長さについて高調波応答における管材料の導電率の影響を示している。材料抵抗が0.17×10-7Ωmの銅管内のLBJワイヤーからの信号は、2×10-7Ωmを超える高い抵抗率を持つ他の材料で作製された管内の同様のワイヤーからの信号よりも少なくとも16倍低い。コイリングのための柔軟性も提供する、断続レーザーカットスパイラルなどによる管の選択的切断を用いることは、抵抗を増やし、渦電流の生成を減らすためにも使用できる。ポリマーコーティングは、材料または管がコイルに形成される前または後に適用され得る。
【0074】
好ましい実施形態では、マーカーハウジングは、成型または押出し材料から形成され得る。例えば、ポリマーを磁気ワイヤーの周りに押し出して、ループまたはコイルに形成できる被覆ワイヤーを形成することができる。上記の実施形態のいずれも、ポリマーを用いてオーバーモールドして、マーカーを形成することもできる。そのような実施形態の利点は、ポリマーが生体適合性を提供し、製造プロセスをより簡単かつより安価にしうることである。ポリマーを使用すると、磁気応答に影響を与えうる金属コーティングまたはハウジングで見られる任意の渦電流の影響も最小限になる。コーティングまたはオーバーモールドに適した材料には、PEEK、PEKK、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルブロックアミド、ポリアミド、PTFE、FEP、PET、およびシリコーンが含まれる。
【0075】
別の好ましい実施形態では、本発明によるマーカーは、磁性材料の周りに巻かれる1つ以上の材料のストランド26を含むハウジングを備え、最終的なマーカーの形状に形成される前に、より頑丈な構造を形成する。
図15Aおよび15Bは、例えば、異なる材料26a-fの6本のストランドが螺旋状の配置でその周りに巻かれた1片のマーカー材料6を示す(
図15Bを参照)。周囲の材料は、円形、長方形、またはその他の断面を備えたワイヤーの形にすることができる。好ましくは、周囲の材料は、磁気マーカー材料を完全に囲んでいる。周囲の材料のストランドは、1つの材料または複数のタイプの材料から形成してされ、強度、剛性、抵抗率、磁気応答、放射線不透過性またはエコー源性などの材料特性の異なるプロファイルを取得できる。周囲の材料は、本発明の範囲内で、単一の層または複数の層に巻かれ得る。同様に、層は別の向きまたは方向に巻かれ、異なる材料または断面を含むことができる。周囲の材料に適した材料には、
図16Aおよび16Bの管の実施形態について上に挙げたものが含まれる。ワイヤー状の磁性材料を含む様々な編組または織り方も、本発明の範囲内で想定され得る。
【0076】
上記の実施形態のいずれにおいても、マーカーは、LBJワイヤーを含む弾性的に変形可能な部材(管、ワイヤーストランドまたはコーティング)を含んでもよく、コイルは展開時により大きいサイズに拡張する。拡張は、弾性的に変形可能な材料によって、またはニチノールなどの形状記憶遷移材料によって、弾性的に駆動され得る。
【0077】
さらなる実施形態では、マーカーの断面は、それぞれ
図18Aから18Cに示されるように、円形、長方形、または三角形を含む多くの形をとることができる。特定の例において、(
図18Bおよび18Cにおけるような)実質的に直線の側面がある部分を有するマーカーが、例えば直線部分が励起フィールドと位置合わせされる場合に、他の角度に対して増加した磁気応答がある角度を提供するために有利であり得る。
【0078】
以下の表1は、本発明によるマーカーの特性およびそのH3磁気応答を示す。図面の
図6~10に示される実施形態は、列1で同定される。
【0079】
【0080】
下の表2は、4mmのCo-Fe LBJ材料の直線長のプローブについて、20mmの距離でのH3応答の大きさに対するマーカーのハウジング材料の影響を示している。
【0081】
【0082】
以下の表3は、304ssおよびPETの両方のコイルについて同様のコイルピッチを有するマーカーについて20mmの距離での直径によってH3応答の大きさがどのように変化するかを示し、かつ、対抗する渦電流がより低い材料におけるコイル、例えばコイル(PET)からの増加した応答を示し、直径を持つ単一のコイルについてのターンごとの相対応答の増加を示す。また、直径のより大きいコイルの内側にある直径のより小さいコイルからの信号の増加も示される(
図14)。すべてのコイルは垂直方向で測定される。
【0083】
【0084】
図19Aから19Dは、マーカーが
図1のプローブ配置で励起された場合に、様々なマーカーの応答が、検出プローブに対するマーカー軸の向きと共にどのように変化するかを示す。各場合に、マーカーの長軸は、図中の0~180°軸と位置合わせされる。
【0085】
図19Aは、従来技術の単一のコバルト-鉄非晶質LBJマイクロワイヤーからの磁気応答を示す。高調波(例えばH3)応答は、検知の横方向に対して、軸方向で約40倍だけ強い。この応答の非対称性は、従来技術の文献、例えば、横方向の応答よりも何倍も強い軸方向の応答を説明するvon Gutfeld(von Gutfeld,RJ et al.,Amorphous magnetic wires for Mmedical locator applications,Appl.Phys.Lett.,Vol.81,No.10,2 September 2002)に基づく直線長のLBJワイヤーから予期される。
【0086】
図19Bは、コバルト-鉄非晶質LBJマイクロワイヤーで構成された
図6Aのマーカーからの磁気応答を示し、LBJワイヤーはコイルの形態である。従来の理論によれば、高調波応答を生成するにはLBJワイヤーをまっすぐにする必要がある。しかしながら、驚くべきことに、一片のLBJワイヤーについて、コイルは強い高調波応答を生成する。さらに驚くべきことに、横方向の高調波応答は軸方向の高調波応答よりも強く、これはこの場合約6である物理アスペクト比(長さ:直径)から予想されるものとは逆である(表1を参照)。
【0087】
本発明者は、そのようなマーカーを組み合わせて、より最適なまたは好ましい高調波応答プロファイルを有するマーカーを作成できることを見出した。具体的には、マーカーからの所定の距離における高調波応答が実質的に均一であることが好ましい。したがって、例えば、従来技術の単一の直線ワイヤーを
図6Aのコイルと組み合わせて、
図6Bのマーカーを得ることができる。
【0088】
図19Cは、コバルト-鉄非晶質LBJマイクロワイヤーで構成された
図6Bのそのようなマーカーからの高調波(H3)応答の変化を示し、プローブに対する向きが変化する。マーカーは、磁性材料としてコバルト-鉄非晶質LBJマイクロワイヤーを含む細い銅管のコイルを含み、管は、コイル内に軸方向に配置されたさらなる長さの同じLBJワイヤーでコイルに巻かれる。コイルは直径1.03mm、長さ6mm、および17ターンを有し、ピッチは0.35mmである。軸ワイヤーは3.2mm長である。
【0089】
図19Cでは、高調波磁気応答が検出方向に関係なく実質的に均一であり、具体的には、軸方向のH3応答が横方向の応答と類似していることが示されている。したがって、コイルパラメータの適切な選択および追加の軸方向要素の選択により、高調波応答の均一性を調整および最適化して、所望である応答対方向のプロファイルを得ることができる。これは、横方向応答または軸方向応答の増加でありうるが、最も好ましくは、励起または検知の方向に関係なく、均一または等しい応答である。均一な応答の利点は、信号をプローブからマーカーまでの距離測定値に確実かつ一貫して変換できることである。均一性が乏しい場合、ユーザーは、プローブに対するマーカーの向きに応じて異なる距離測定値を取得するが、これは混乱を招く。応答の均一性は、プローブに対するマーカーの向きによる応答の変動を測定し、最大応答と最小応答の比率を計算することによって推定できる。
【0090】
本開示の文脈において、均一な応答とは、測定されている応答(H3、または他の磁気応答)の最大と最小の大きさの比が、3未満、好ましくは2未満であることを意味する。
図1と同様の配置で検出された場合の磁気応答は、距離の3乗~5乗で低下するため、最大と最小の磁気応答の比が2未満の場合、マーカーの向きが変化する際の測定距離の変化は、小さい範囲内、通常は±1~2mm未満である。
【0091】
図20は、マーカーのいくつかの方向に対する
図7BのマーカーについてのH3磁気応答対距離(
図1の構成を使用)のプロットを示している。これは、プローブに対するマーカーの向きに関係なく、距離測定の精度を±1~2mm内に維持する方法を示している。上記の表1は、異なる構造のマーカーの範囲に対するH3応答の最大:最小比を示している。
【0092】
応答の均一性は、ピッチ、ターン/回旋の数、長さ、直径、計s上、断面およびコイルの端部構成を調整することにより、および、コイルの長さに沿った異なる位置でのターンの直径またはピッチを変えることによって、変化できる。
【0093】
図19Dは、増加したピッチを有する
図7Bの実施形態からの応答を示す。マーカーは、長さ7mm、直径1.01mm、および0.82mmのピッチを与える8.5ターンのコバルト-鉄非晶質LBJマイクロワイヤーのコイルを含む。
図6Aのマーカーと比較してピッチを増加させることにより、横方向高調波に対して軸方向高調波(H3)応答を増加させ、検知の方向に関係なく、応答を実質的に均一にできる。この場合、H3応答の最大:最小比は1.2である。
【0094】
応答の均一性を改良するためにピッチを大きくすると、所定の大きさの応答に対するマーカーの長さが増加するか、または所定の長さのマーカーの回旋の数が減少する。本発明者は、この場合、2つ以上のコイルを多条螺旋の形で組み合わせて、マーカーの小さいサイズを維持しながら応答を高めることができることを見出した。
図10Aおよび10Bは、2つのそのような例を示し、1つは2コイルでおよび1つは3コイルをそれぞれ有しマーカー内で組み合わせられる。これらの例では、組み合わされたコイルのピッチは同じであるが、組み合わされたコイルのピッチを変化させて、所望の応答プロファイルを得ることができることを理解されたい。
【0095】
本発明は、マーカーを検出するためのシステムおよび方法において使用しうる新しく改良された磁気マーカーを提供し、それにより、外科的切除のための病変の位置を特定することができる。マーカーは、少なくとも1つ、好ましくはそれ以上の回旋を有するコイルに巻かれた少なくとも1つのLBJ磁性物質を含む。マーカーは、スイッチングフィールド(双安定モード)または双安定スイッチングフィールドよりも低い磁場で(サブ-双安定モード)で励起されてもよく、任意の方向から測定される生成された高調波によってマーカーの位置および方向を特定する。実施形態において、マーカーはまた、双安定スイッチング行動を可能とするのに必要なLBJ物質の臨界長さ未満で提供されてもよい。
他の実施形態
1. 少なくとも1つの移植可能マーカーであって、磁性曲線において大きいバルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも一片の磁性物質を含む移植可能マーカー
を含む磁気マーカーであって、
前記LBJ物質が、少なくとも1つのオーバーラッピングループを含み、該少なくとも1つのループが、前記マーカーの検出中に維持されることを特徴とする、
磁気マーカー。
2. 前記マーカーが、少なくとも2つ、好ましくはそれ以上の完全な回旋を有する少なくとも一片のLBJ物質を含み、コイルまたは螺旋を形成することを特徴とする、実施形態1に記載の磁気マーカー。
3. 前記複数の回旋が、均一または可変のピッチを有することを特徴とする、実施形態2に記載の磁気マーカー。
4. 前記複数の回旋が、均一または可変の直径を有することを特徴とする、実施形態2または3に記載の磁気マーカー。
5. 前記マーカーが、前記マーカーの少なくとも1つのループを少なくとも部分的に介して伸びる少なくとも一片のLBJ物質を含む少なくとも1つの軸方向部材を含むことを特徴とする、実施形態1~4のいずれかに記載の磁気マーカー。
6. 前記少なくとも1つの軸方向部材が、前記少なくとも1つのループを介して挿入される別個の材料の形態であるか、または、前記マーカーの一端または両端で少なくとも1つのループと一体的に形成されることを特徴とする、実施形態5に記載の磁気マーカー。
7. 前記複数のコイルが、一緒に織り合わせられるか、または、より大きい直径の回旋を有する少なくとも1つのコイル内に含まれるより小さい直径の回旋を有する少なくとも1つのコイルを含むことを特徴とする、実施形態1~6のいずれかに記載の磁気マーカー。
8. 前記LBJ物質が、コーティングされるかまたはハウジング内に提供され、前記コーティングまたはハウジングが、比較的低い導電率を有し、好ましくは、2×10
-7
Ωmより大きい抵抗率を有する材料から形成されることを特徴とする、実施形態1~7のいずれかに記載の磁気マーカー。
9. ニチノール、チタン、ステンレス鋼、または他の生体適合性合金のハウジング内で提供されることを特徴とする、実施形態8に記載の磁気マーカー。
10. 前記マーカーが、最終的なマーカーの形状に形成される前に、好ましくは螺旋の形で前記磁性材料の周りに巻かれた1つ以上の材料のストランドを含むハウジングを含むことを特徴とする、実施形態8または9に記載の磁気マーカー。
11. 前記マーカーが、ハウジング内で提供される、または、FEP、パリレン、PTFE、ETFE、PE、PET、PVC、またはシリコーンまたはエポキシベースの封入剤、あるいは他の生体適合性ポリマー材料でコーティングされることを特徴とする、実施形態8に記載の磁気マーカー。
12. 前記マーカーが、針の形状の変化を必要とせずに前記針から最終的な形で展開できるコイルから形成されることを特徴とする、実施形態1~11のいずれかに記載の磁気マーカー。
13. マーカーの位置を特定するための検出システムであって、
実施形態1~12のいずれかに記載の磁気マーカー;
交番磁場で前記マーカーを励起するように配置された少なくとも1つの駆動コイル、および前記励起されたマーカーから受信した信号を検出するように配置された少なくとも1つの感知コイル;
前記少なくとも1つの駆動コイルを通して交流磁場を駆動するように構成された磁場発生器;および
前記感知コイルから信号を受信し、前記受信信号内の駆動周波数の1つまたは複数の高調波を検出するように配置された少なくとも1つの検出器
を含む、検出システム。
14. 前記駆動コイルが、前記マーカーをそのスイッチングフィールドを超えて励起して前記LBJ物質の双安定スイッチング動作を開始する、またはより好ましくは、前記少なくとも1つの駆動コイルが、前記マーカーの前記LBJ物質の双安定スイッチング動作を開始するために必要なスイッチングフィールド以下で前記マーカーを励起する、ことを特徴とする、実施形態13に記載の検出システム。
15. 高調波応答を使用して、プローブからのマーカーの位置/距離/近接度を決定し、好ましくは、最大対最小の高調和応答の比は<3であることを特徴とする、実施形態13または14に記載の検出システム。
16. 移植可能マーカーを検出する方法であって、
前記マーカーは、磁性曲線において大きいバルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも一片の磁性物質を含み、前記LBJ物質は、検出中に前記マーカー中に維持される少なくとも1つのオーバーラッピングループを含み、
前記方法は、前記マーカーを励起して前記マーカーの前記LBJ物質の双安定またはサブ-双安定スイッチング動作を開始するために、前記マーカーに交番磁場を適用する工程;および、前記マーカーの磁性の変化により生じる、前記励起されたマーカーから受け取る信号の駆動周波数の1つ以上の高調波を検出する工程、を含むことを特徴とする、
方法。
17. 前記マーカーが、双安定スイッチングを開始するのに必要なスイッチングフィールド以下に励起され、前記スイッチングフィールド以下に前記マーカーを励起するための交番磁界の適用によって、前記マーカーについて検出されるサブ-双安定応答が生じることを特徴とする、実施形態16に記載の方法。