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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】ピストン
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
A61M5/315 512
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021542470
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2020032958
(87)【国際公開番号】W WO2022044340
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2021-07-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000149000
【氏名又は名称】株式会社大協精工
(74)【代理人】
【識別番号】100139206
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 朋之
(74)【代理人】
【識別番号】100094488
【弁理士】
【氏名又は名称】平石 利子
(72)【発明者】
【氏名】須藤 洋司
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】松田 長親
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第2895773(US,A)
【文献】特開2012-205931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジバレルに挿入して使用される弾性体からなる略円柱状のピストンであって、
前記ピストンは、シリンジバレルに挿入されるとき、内用液に接する上面、プランジャーロッドが接する底面、および前記シリンジバレル内面に接する側面を有し、
前記側面は、その軸方向に、環状突起を複数有し、
前記環状突起の最大径部は、シリンジバレル内に挿入されたときにその内面に接する外径を有し、
シリンジバレルに挿入される準備ができた状態の前記環状突起の少なくとも1つにおいて、前記環状突起の最大径部は、前記環状突起の軸方向長さの1/2よりも前記底面側に近い位置にあり、
前記側面は、その成型後、シリンジバレルに挿入される準備ができた状態となるまでに、変形しないことを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記側面は、その軸方向に、前記上面側から順に、第1の環状突起、環状窪み、および第2の環状突起を有し、
前記第1の環状突起および第2の環状突起の最大径部は、シリンジバレル内に挿入されたときにその内面に接する外径を有し、
シリンジバレルに挿入される準備ができた状態の前記第2の環状突起の最大径部は、前記第2の環状突起の軸方向長さの1/2よりも前記底面側に近い位置にあることを特徴とする請求項1記載のピストン。
【請求項3】
前記側面は、その軸方向に、前記上面側から順に、第1の環状突起、環状窪み、および第2の環状突起を有し、
前記第1の環状突起および第2の環状突起の最大径部は、シリンジバレル内に挿入されたときにその内面に接する外径を有し、
前記第2の環状突起の曲率半径が、前記第1の環状突起の曲率半径よりも小さいことを特徴とする請求項1または2記載のピストン。
【請求項4】
シリンジバレルに挿入される準備ができた状態の前記環状窪みから前記第2の環状突起の最大径部に向かう面の前記環状窪みに対する傾きは、この最大径部から前記底面側に向かう面の前記環状窪みに対する傾きよりも小さいことを特徴とする請求項2または3記載のピストン。
【請求項5】
シリンジバレルに挿入されたとき、前記第2の環状突起が前記シリンジバレルの内面に接する接触面積が、前記第1の環状突起が前記シリンジバレルの内面に接する接触面積よりも小さいことを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば医薬・医療用シリンジに使用することに適したピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、医療用シリンジは、先端に薬液吐出口が設けられているシリンジバレルと、その他端の開口部から挿入されるピストンを軸方向に移動させるシリンジプランジャーとからなる。医療用シリンジ用のピストンには、シリンジバレル内に充填される内用液(薬液)と相互作用がないとともに、シリンジバレル内面との密封性および慴動性という、相反する特性(性能)が必要とされている。
【0003】
特に、近年増加している予め薬液を充填したプレフィルドシリンジ(容器兼注射器)用のピストンには、これらの特性が通常の注射器用ピストンよりもさらに高いレベルで要求され、品質に変化がなく、長期にわたって安全に使用でき、高浸透性薬液に対しても密封性(安全性)を確保し、薬液投与が円滑に行なえるよう十分な慴動性を有することが求められている。
【0004】
【文献】特開昭57-22766号公報
【文献】特開2006-181027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえばピストンの表面に摩擦係数の低いポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムを使用しても、摺動性は必ずしも十分とならない。また、密封性と低摺動抵抗値を両立させる手法として、圧縮率と接触面積を特定範囲とすることも知られているが(特許文献1)、必ずしも満足できるものではない。また、ピストン(ガスケット)先端部に複数個のリング状突起を連続的、かつ一体的に形成し密封性と低摺摺抵抗値の両立を図ることも知られているが(特許文献2)、細いリング状突起を金型により作製することが困難であるという問題がある。
【0006】
したがって、金型により容易に作製でき、密封性と低摺動抵抗値を両立させることが可能なシリンジ用ピストンを提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明によるピストンは、シリンジバレルに挿入して使用される弾性体からなる略円柱状のピストンであって、シリンジバレルに挿入されるとき、内用液に接する上面、プランジャーロッドが接する底面、およびシリンジバレル内面に接する側面を有する。側面は、その軸方向に、環状突起を複数有し、環状突起の最大径部は、シリンジバレル内に挿入されたときにその内面に接する外径を有する。環状突起の少なくとも1つにおいて、環状突起の最大径部は、環状突起の軸方向長さの1/2よりも底面側に近い位置にあることを特徴とする。
このように構成することによって、金型により容易に作製でき、密封性と低摺動抵抗値を両立させることが可能なシリンジ用ピストンを提供することができる。
【0008】
(2)本発明の一実施形態によるピストンにおいて、側面は、その軸方向に、上面側から順に、第1の環状突起、環状窪み、および第2の環状突起を有し、第1の環状突起および第2の環状突起の最大径部は、シリンジバレル内に挿入されたときにその内面に接する外径を有し、第2の環状突起の最大径部は、第2の環状突起の軸方向長さの1/2よりも底面側に近い位置にあることを特徴とする。
このように構成することによって、たとえば第1の環状突起の形状により密封性を主に担保し、第2の環状突起の形状により密封性を確保し、かつ摺動抵抗値を低減することが可能であり、金型により容易に作製することに適したシリンジ用ピストンを提供することができる。
【0009】
(3)上記(1)または(2)によるピストンにおいて、側面は、その軸方向に、上面側から順に、第1の環状突起、環状窪み、および第2の環状突起を有し、第1の環状突起および第2の環状突起の最大径部は、シリンジバレル内に挿入されたときにその内面に接する外径を有し、第2の環状突起の曲率半径が、第1の環状突起の曲率半径よりも小さいことを特徴とする。
このように構成することによって、たとえば第1の環状突起の形状により密封性を主に担保し、第2の環状突起の形状により密封性を確保し、かつ摺動抵抗値を好適に低減することが可能であり、金型により容易に作製することに適したシリンジ用ピストンを提供することができる。
【0010】
(4)また、上記(2)または(3)によるピストンにおいて、環状窪みから第2の環状突起の最大径部に向かう面の環状窪みに対する傾きは、この最大径部から底面側に向かう面の環状窪みに対する傾きよりも小さいことを特徴とする。
このように構成することによって、金型により容易に作製でき、密封性と低摺動抵抗値を両立させることが可能な第2の環状突起を有するシリンジ用ピストンを提供することができる。
【0011】
(5)さらに、上記(2)ないし(4)のいずれかのピストンにおいて、シリンジバレルに挿入されたとき、第2の環状突起がシリンジバレルの内面に接する接触面積が、第1の環状突起がシリンジバレルの内面に接する接触面積よりも小さいことを特徴とする。
このように構成することによって、たとえば第1の環状突起の形状により密封性を担保し、第2の環状突起の形状により摺動抵抗値を低減することが可能であり、金型により容易に作製することが可能なシリンジ用ピストンを提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、摺動抵抗値を低減させることができ、かつ密封性を確保し液漏れを防止することが可能なピストンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態によるピストンの構成を示す概略図であり、その右半分は正面図、左半分は断面図である。
図2図1に示すピストンの右端部の形状を示す拡大図である。
図3】(A)は、図1に示すピストンの右半分を示す図であり、(B)は、(A)中の破線で示された部分Bの拡大図である。
図4】(A)は、比較例のピストンの構成を示す概略図であり、その右半分は正面図、左半分は断面図である。(B)は、(A)に示すピストンの右端部の形状を示す拡大図である。
図5】(A)は、図1に示す実施形態によるピストンの右端部を示す図であり、(B)は、(A)中の破線で示された部分Bの拡大図である。
図6】(A)は、図4に示す比較例のピストンの右端部を示す図であり、(B)は、(A)中の破線で示された部分Bの拡大図である。
図7】(A)は、図1に示す実施形態によるピストンをシリンジバレルに挿入した状態を示す概略図であり、(B)は、図4に示す比較例のピストンをシリンジバレルに挿入した状態を示す概略図である。
図8】(A)は、図1に示す実施形態によるピストンをシリンジバレルに挿入し、1日経過後に摺動抵抗値を測定した試験結果を示す図であり、(B)は、図4に示す比較例のピストンをシリンジバレルに挿入し、1日経過後に摺動抵抗値を測定した試験結果を示す図である。
図9】(A)は、図1に示す実施形態によるピストンをシリンジバレルに挿入し、1か月経過後に摺動抵抗値を測定した試験結果を示す図であり、(B)は、図4に示す比較例のピストンをシリンジバレルに挿入し、1か月経過後に摺動抵抗値を測定した試験結果を示す図である。
図10】(A)は、図1に示す実施形態によるピストンの摺動前、摺動中における第2の環状突起の形状の変化を示す模式図であり、(B)は、図4に示す比較例のピストンの摺動前、摺動中における第2の環状突起の形状の変化を示す模式図である。
図11】(A)~(F)は、本発明の他の実施形態によるピストンの右端部の形状を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態によるピストンの構成を説明する。図1は、本発明の一実施形態によるピストンの構成を示す。ピストン1は、略円柱状の弾性材料の成形体である。注射器を構成するピストンに使用される材料は、密封性を確保するために弾性材料または可撓性材料により構成されていることが好ましい。
【0015】
弾性材料として、例えば、合成ゴムでは、ブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(CIIR)、臭素化ブチルゴム(BIIR)、部分架橋IIR、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)、アクリルゴム(ACM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等を主原料とし、それに充填剤、架橋剤等を配合したものを用いることができる。中でも、ガスバリヤ性や溶出特性等から、ブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(CIIR)、臭素化ブチルゴム(BIIR)などが好ましい。
【0016】
また、弾性材料として、熱可塑性エラストマーを用いることができる。例えば、オレフィン系(TPO)、スチレン系(SBC)、塩化ビニル系(TPVC)、ウレタン系(TPU)、ポリエステル系(TPEE)、ポリアミド系(TPAE)、フッ素系(TPF)、ポリブタジエン系(RB)、ポリイソブチレン系、シリコーン系、エチレン-酢酸ビニル系(EVA、EEA)、ポリイソブチレン系熱可塑性エラストマー(SIBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)系共重合体、スチレン-エチレンブチレン-スチレン(SEBS)系共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)系共重合体等のスチレン系エラストマーや、エチレン-プロピレン-非共役ジエンモノマー(EPDM)系共重合体、エチレン-プロピレン(EPM)系共重合体などから選ばれる1種単独で、或いは2種以上を混合して用いられることが好ましい。
【0017】
中でも、耐熱性や溶出特性等から、スチレン-エチレン-ブタジエン共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン共重合体(SIS)、スチレン-イソブチレン共重合体(SIBS)などが好ましい。
【0018】
可撓性材料としては、例えば、PE系樹脂、PP系樹脂、PC系樹脂、ABS系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂などから選ばれる1種単独で、或いは2種以上を混合して用いられることが好ましい。
【0019】
ピストン1は、一点鎖線で示す中心軸Aを中心とする回転対称形状の外形を有し、図1において、中心軸Aの右側を正面図、その左側を断面図で示す。軸方向長さLaのピストン1は、軸方向長さLbの円柱の一方の端面に軸方向長さLcの円錐の底面を接合した外形を有するように形成されている。この円錐の側面がピストン1の上面2であり、この形状はピストン1が挿入されるシリンジバレル先端の内面の形状と対応することが好ましい。なお、上面2は、完全な円錐の側面であってもよいが、頂点21の近傍が丸みを帯びるような曲面とすることができる。
【0020】
ピストン1の側面3には、上面2側から順に、第1の環状突起31、第1の環状窪み32、第2の環状突起33、第2の環状窪み34、第3の環状突起35、および第3の環状窪み36が形成されている。第3の環状窪み36は、円柱の他方の端面である底面4に連続するように形成されている。底面4の中央部には、ネジ穴5が形成されており、図示しないプランジャーロッドの先端部のネジ山と螺合されるようになっている。
【0021】
図2は、図1中の点線で囲まれた部分Bの拡大図である。図2において、第1の環状突起31、第2の環状突起33、および第3の環状突起35のそれぞれの頂点での外径、すなわち第1の環状突起31、第2の環状突起33、および第3の環状突起35の最大外径は、等しく設定されている。この最大外径は、図1中の円柱の最大外径D1に対応する。第1の環状窪み32および第2の環状窪み34の深さ、すなわちこれら環状窪み32、34の底面と最大径との差は等しく設定されている。ピストン1の側面3において、第1の環状突起31、第2の環状突起33、および第3の環状突起35は、2つの環状窪み32、34の底面を接続するように延長した延長底面37から、それぞれ高さHだけ突き出ている。この延長底面37の部分の外径はD2である。
【0022】
以下、ピストン1の側面3の形状を、その軸方向断面について説明する。上面2と延長底面37との交点が第1の環状突起31の始点31Bであり、始点31Bから長さL1だけ軸方向に下方の位置で、延長底面37に達し、第1の環状突起31の終点31Eとなる。第1の環状突起31の軸方向断面形状は、始点31Bの近傍および終点31Eの近傍を除きピストン1の内部に中心がある円弧状であり、1つの円の一部、または半径の異なる複数の円の部分を連続的に接続したものである。終点31Eの近傍は、ピストン1の外部に中心がある円弧状になっている。
【0023】
終点31Eから第1の環状窪み32の軸方向の長さL2の間隔をおいて、延長底面37上に第2の環状突起33の始点33Bがあり、始点33Bから長さL3だけ軸方向に下方の位置で、延長底面37に達し、第2の環状突起33の終点33Eとなる。第2の環状突起33の軸方向断面形状は、始点33Bの近傍、終点33Eの近傍および頂点33Tの近傍を除きほぼ直線状であり、頂点33Tを越えた後の部分は終点33Eの近傍を除き、ピストン1の内部に中心がある円弧状であり、1つの円の一部、または半径の異なる複数の円の部分を連続的に接続したものである。始点33Bの近傍および終点33Eの近傍は、ピストン1の外部に中心がある円弧状になっている。
【0024】
終点33Eから第2の環状窪みの軸方向の長さL4の間隔をおいて、延長底面37上に第3の環状突起35の始点35Bがあり、始点35Bから長さL5だけ軸方向に下方の位置で、延長底面37に達し、第3の環状突起35の終点35Eとなる。終点35Eから軸方向長さL6の第3の環状窪み36を経て底面4近傍に至る構造となっている。第3の環状突起35の軸方向断面形状は、始点35Bの近傍および頂点35Tの近傍を除きほぼ直線であり、頂点35Tを越えた後の部分は終点35Eの近傍を除き、ピストン1の内部に中心がある円弧状であり、1つの円の一部、または半径の異なる複数の円の部分を連続的に接続したものである。始点35Bの近傍および終点35Eの近傍は、ピストン1の外部に中心がある円弧状になっている。
【0025】
さらに、ピストン1の側面3の形状を、その軸方向断面について説明する。図2において、第1の環状突起31の頂点31T近傍の曲率半径をRとすると、第2の環状突起33の頂点33T近傍の曲率半径は0.6Rであり、第1の環状突起31の頂点31T近傍の曲率半径Rよりも小さくなっている。第3の環状突起35の頂点35T近傍の曲率半径は0.8Rであり、第1の環状突起31の頂点31Tの近傍の曲率半径Rよりも小さくなっている。
【0026】
また、終点31E、始点33B、終点33E、始点35Bそれぞれの近傍の曲率半径は0.6Rであり、第1の環状突起31、第1の環状窪み32、第2の環状突起33、第2の環状窪み34、および第3の環状突起35がなめらかに連続的に形成されている。なお、図1に示す上面2の頂点21近傍の曲率半径は8Rである。
【0027】
図2において、第1の環状突起31の始点31Bから終点31Eまでの軸方向長さはL1、第1の環状窪み32の軸方向長さはL2、第2の環状突起33の始点33Bから終点33Eまでの軸方向長さはL3、第2の環状窪み34の軸方向長さはL4、第3の環状突起35の始点35Bから終点35Eまでの軸方向長さはL5、第3の環状窪み36の軸方向長さはL6である。
【0028】
第2の環状突起33の始点33Bから頂点33Tまでの軸方向長さL31は、頂点33Tから終点33Eまでの軸方向長さL32よりも長い。また、第3の環状突起35の始点35Bから頂点35Tまでの軸方向長さL51は、頂点35Tから終点35Eまでの軸方向長さL52よりも長い。このように、第2の環状突起33の頂点(最大径部)33Tは、第2の環状突起33の軸方向長さの1/2よりも底面4側に近い位置にある。また、第3の環状突起35の頂点(最大径部)35Tは、第3の環状突起35の軸方向長さの1/2よりも底面4側に近い位置にある。
【0029】
図3(B)は、ピストン1の一部を示す図3(A)の破線で囲まれた部分Bの拡大図である。図3(B)において、第1の環状突起31の頂点31Tと終点31Eとを結んだ線(図中で破線で示す)の延長底面37に対する角度をθ1とする。第2の環状突起33の始点33Bと頂点33Tとを結んだ線(図中で破線で示すが、第2の環状突起33の断面がほぼ直線的な曲面とほとんど重なっている)の延長底面37に対する角度をθ2とする。第2の環状突起33の頂点33Tと終点33Eとを結んだ線(図中で破線で示す)の延長底面37に対する角度をθ3とする。
【0030】
この場合、角度θ2は、角度θ1よりも小さく設定されており、第2の環状突起33のうち始点33Bと頂点33Tとの間の面は、第1の環状突起31のうち頂点31Tと終点31Eとの間の面よりも、延長底面37に対して傾斜が小さくなっている。角度θ2は、角度θ3よりも小さく設定されており、第2の環状突起33のうち始点33Bと頂点33Tとの間の面は、頂点33Tと終点33Eとの間の面よりも、延長底面37に対して傾斜が小さくなっている。
【0031】
図4は、比較例によるピストン1Pの構成を示す。図4(A)において、ピストン1Pは、一点鎖線で示す中心軸Aを中心とする回転対称形状の外形を有し、図4(A)において、中心軸Aの右側を正面図、その左側を断面図で示す。ピストン1Pは、図1に示すピストン1と同様に、円柱の一方の端面に円錐の底面を接合した外形を有するように形成されている。
【0032】
図1中のピストン1と図4(A)中のピストン1Pとの間で、これらの側面3、3Pの形状が異なるが、ピストン全体の軸方向長さLa、円柱部の軸方向長さLb、円錐部の軸方向長さLc、および最大外径D1、環状窪みの延長底面37の外径D2は、それぞれ等しい。
【0033】
図4(B)は、ピストン1Pの側面3Pの拡大図である。側面3Pは、上面2Pから底面4Pに向かって順に、第1の環状突起31P、第1の環状窪み32P、第2の環状突起33P、第2の環状窪み34P、第3の環状突起35P、および第3の環状窪み36Pが形成されている。
【0034】
第1の環状突起31P、第2の環状突起33P、および第3の環状突起35Pのそれぞれの頂点での外径、すなわち第1の環状突起31P、第2の環状突起33P、および第3の環状突起35Pの最大外径は、等しく設定されている。第1の環状窪み32Pおよび第2の環状窪み34Pの深さ、すなわちこれらの環状窪み32P,34Pの底面と最大外径との差は等しく設定されている。ピストン1Pの側面3Pにおいて、第1の環状突起31P、第2の環状突起33P、および第3の環状突起35Pは、2つの環状窪み32P,34Pの底面を接続するように延長した延長底面37から、それぞれ高さHだけ突き出ている。
【0035】
上面2Pと延長底面37との交点が第1の環状突起31Pの始点31PBであり、始点31PBから長さLP1だけ軸方向に下方の位置で、延長底面37に達し、第1の環状突起31Pの終点31PEとなる。第1の環状突起31Pの頂点31PTは平坦部分を有し、すなわち頂点31PTおよびその近傍の曲率半径は無限大あるいは非常に大きい。始点31PBから平坦部分に連続する曲面の曲率半径は0.5R、平坦部分から第1の環状窪み32Pに向かう曲面の曲率半径はR、終点31PE近傍の曲率半径は0.5Rである。
【0036】
終点31PEから第1の環状窪み32Pの軸方向の長さLP2の間隔をおいて、延長底面37上に第2の環状突起33Pの始点33PBがある。第2の環状突起33Pは、頂点33PTを頂点とし、その上下で対称な断面円弧状の曲面を有する。始点33PBから長さLP3だけ軸方向に下方の位置で、延長底面37に達し、第2の環状突起33Pの終点33PEとなる。始点33PB近傍の曲率半径は0.5Rであり、頂点33PT近傍の曲率半径はRであり、終点33PE近傍の曲率半径は0.5Rである。
【0037】
終点33PEから第2の環状窪み34Pの軸方向の長さLP4の間隔をおいて、延長底面37上に第3の環状突起35Pの始点35PBがあり、始点35PBから長さLP5だけ軸方向に下方の位置で、延長底面37に達し、第3の環状突起35Pの終点35PEとなる。始点35PB近傍の曲率半径は0.5Rであり、頂点35PT近傍の曲率半径はRである。
【0038】
図5(A)は、本発明の一実施形態によるピストン1の右端部を示し、図5(B)は、図5(A)中の破線で示された第2の環状突起33の部分Bの拡大図である。図5(B)において、本発明の一実施形態によるピストン1の第2の環状突起33の軸方向長さはL3であり、始点33Bから頂点33Tまでの軸方向長さL31は、頂点33Tから終点33Eまでの軸方向長さL32よりも長く設定されている。すなわち、第2の環状突起33の最大径部33Tは、第2の環状突起33の軸方向長さの1/2よりも底面4側に近い位置にある。
【0039】
第2の環状突起33の始点33Bと頂点33Tとを結んだ線(図中で破線で示す)の延長底面37に対する角度をθ2とし、頂点33Tと終点33Eとを結んだ線(図中で破線で示す)の延長底面37に対する角度をθ3とする。角度θ2は、角度θ3よりも小さく設定されており、始点33Bから頂点33Tまでの曲面は、頂点33Tから終点33Eまでの曲面よりも角度の小さい斜面となっている。始点33B近傍、頂点33T近傍、および終点33E近傍の曲率半径はいずれも0.6Rである。
【0040】
図6(A)は、図4に示された比較例のピストン1Pの右端部を示し、図6(B)は、図6(A)中の破線で示された第2の環状突起33Pの部分Bの拡大図である。図6(B)において、比較例のピストン1Pの第2の環状突起33Pの軸方向長さはLP3であり、始点33PBから頂点33PTまでの軸方向長さLP31は、頂点33PTから終点33PEまでの軸方向長さLP32と等しい。
【0041】
図4(B)に示すように第1の環状突起31Pの最大外径部を形成する最も底面側の頂点31PTと終点31PEとを結んだ線の延長底面37に対する角度をθP1とする。図6(B)において、始点33PBと頂点33PTとを結んだ線(図中で破線で示す)の延長底面37に対する角度をθP2とし、頂点33PTと終点33PEとを結んだ線(図中で破線で示す)の延長底面37に対する角度をθP3とする。角度θP2は、角度θP1よりも小さく設定されており、角度θP2は、角度θP3と等しく設定されている。すなわち、始点33PBから頂点33PTまでの曲面は、終点33PEから頂点33PTまでの曲面と等しい形状である。始点33PB近傍および終点33PE近傍の曲率半径は0.5Rであり、頂点33PT近傍の曲率半径はRである。
【0042】
本実施形態による第2の環状突起33の頂点33Tの曲率半径は0.6Rであり、比較例の第2の環状突起33Pの頂点33PTの曲率半径Rよりも小さく設定されている。始点33Bと頂点33Tとを結ぶ線と延長底面37とがなす角度θ2は、始点33PBと頂点33PTとを結ぶ線と延長底面37とがなす角度θP2よりも小さく設定されている。
【0043】
本実施形態による第2の環状突起33において、頂点33Tの上下で延長底面37に交わる始点33B、33Eまでの距離が異なり、非対称の形状となっている。一方、比較例の第2の環状突起33Pにおいて、頂点33PTの上下で延長底面37に交わる始点33PB、33PEまでの距離が等しく、対称な形状となっている。
【0044】
図5(B)と図6(B)からわかるように、本実施形態では第2の環状突起33の始点33B近傍から頂点33Tに至る曲面がなだらかな斜面あるのに対して、比較例では第2の環状突起33Pの始点33PB近傍から頂点33PTに至る曲面は比較的大きな勾配で立ち上がる斜面になっている。
【0045】
図7(A)は、図1ないし図3で説明した本発明の一実施形態によるピストン1のネジ穴5にプランジャーロッド7のネジを切った先端部をねじ込んでピストン1とプランジャーロッド7を接続した後、ガラスまたはプラスチックで形成されたシリンジバレル8の円筒部81の中にフランジ部82の開口から押し込んだ状態を示す。円筒部81の内径は、ピストン1の最大外径よりも少し小さく設定されており、第1の環状突起31、第2の環状突起33、および第3の環状突起35は、内面83に押し付けられて、頂点31T、33T、および35Tが少しだけつぶれた状態となる。
【0046】
図7(B)は、図4に示された比較例のピストン1Pのネジ穴5Pにプランジャーロッド7のネジを切った先端部をねじ込んでピストン1Pとプランジャーロッド7を接続した後、ガラスまたはプラスチックで形成されたシリンジバレル8の円筒部81の中にフランジ部82の開口から押し込んだ状態を示す。円筒部81の内径は、ピストン1Pの最大外径よりも少し小さく設定されており、第1の環状突起31P、第2の環状突起33P、および第3の環状突起35Pは、内面83に押し付けられて、頂点31PT、33PT、および35PTが少しだけつぶれた状態となる。
【0047】
ここで、ピストン1とピストン1Pの最大外径は等しく設定されている。すなわち、第1の環状突起31、第2の環状突起33、および第3の環状突起35のそれぞれの最大外径と、第1の環状突起31P、第2の環状突起33P、および第3の環状突起35Pそれぞれの最大外径とは、等しく設定されている。また、図7(A)中のシリンジバレル8と図7(B)中のシリンジバレル8では、それらの円筒部81の内径も等しく設定されている。
【0048】
本実施形態によるピストン1および比較例のピストン1Pについて、シリンジバレル8の内面83に接触する部分の幅を測定した結果を表1に示す。ピストン1について、第1の環状突起31が内面83に接触する部分の幅W1、第2の環状突起33が内面83に接触する部分の幅W2、および第3の環状突起35が内面83に接触する部分の幅W3を、図7(A)中のシリンジバレル8の円筒部81の左側と右側において測定した。
【0049】
また、ピストン1Pについて、第1の環状突起31Pが内面83に接触する部分の幅WP1、第2の環状突起33Pが内面83に接触する部分の幅WP2、および第3の環状突起35Pが内面83に接触する部分の幅WP3を、図7(B)中のシリンジバレル8の円筒部81の左側と右側において測定した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1からわかるように、本実施形態によるピストン1において、第2の環状突起33がシリンジバレル8の内面83に接する接触面積(幅W2に比例)が、第1の環状突起31がシリンジバレル8の内面83に接する接触面積(幅W1に比例)よりも小さい。また、第3の環状突起35がシリンジバレル8の内面83に接する接触面積(幅W3に比例)が、第1の環状突起31がシリンジバレル8の内面83に接する接触面積(幅W1に比例)よりも小さい。
【0052】
また、本実施形態によるピストン1における第1の環状突起31がシリンジバレル8の内面83に接する接触面積(幅W1に比例)は、比較例の第1の環状突起31Pがシリンジバレル8の内面83に接する接触面積(幅WP1に比例)よりも小さい。本実施形態による第2の環状突起33がシリンジバレル8の内面83に接する接触面積(幅W2に比例)は、比較例の第2の環状突起33Pがシリンジバレル8の内面83に接する接触面積(幅WP2に比例)よりも小さい。また、本実施形態による第3の環状突起35がシリンジバレル8の内面83に接する接触面積(幅W3に比例)は、比較例の第3の環状突起35Pがシリンジバレル8の内面83に接する接触面積(幅WP3に比例)よりも小さい。
【0053】
医療用ピストンに求められる一般的な材料特性は、低溶出性、低含水性、そしてバリア性に優れていることである。ピストン1に使用される弾性体の硬度は、JISK6253-3(2012)のショアーA硬度で40~70であることが望ましい。また、JISK6262(2013)の圧縮永久ひずみが40%以下であることが望ましく、3%以上40%以下がより望ましい。
【0054】
図7(A)、(B)に示すように、ラミネートされていないゴムのピストン1、1Pをシリンジバレル8の内面83にシリコーンオイルを塗布して、100mLのシリンジとして組み立てた。内用液としては水を使用し、株式会社島津製作所製精密万能試験機「オートグラフ」により、1日経過後にピストンを押し込む試験を行なった結果を表2、表3に示す。また、横軸をストローク(mm)とし、縦軸を摺動抵抗値(N)とした測定結果を、本実施形態によるピストン1について図8(A)、比較例のピストン1Pについて図8(B)に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
図8(A)、(B)において、ストロークが0mmの近傍は、ピストン1、1Pの動き出し当初に相当し、最大の摺動抵抗値を示すが、急激に摺動抵抗値が減少し、ピストン1、1Pが動き出すと、最小の摺動抵抗値を示し、ピストン1、1Pはシリンジバレルの先端方向に移動して、所定位置まで押し込まれる。図8(A)、(B)および表2、表3からわかるように、本実施形態によるピストン1の方が、比較例のピストン1Pよりも、摺動抵抗値の平均値および最大値のいずれについても、低減が図られている。
【0058】
表2、3および図8(A)、(B)に示した試験と同様に、ラミネートされていないゴムのピストン1、1Pをシリンジバレル8の内面83にシリコーンオイルを塗布して、100mLのシリンジとして組み立てた。内用液としては水を使用し、株式会社島津製作所製精密万能試験機「オートグラフ」により、1か月経過後にピストンを押し込む試験を行なった結果を表4、表5に示す。また、横軸をストローク(mm)とし、縦軸を摺動抵抗値(N)とした測定結果を、本実施形態によるピストン1について図9(A)、比較例のピストン1Pについて図9(B)に示す。これは、ピストン1、1Pをプレフィルドシリンジに使用する場合を想定した試験であり、薬剤をシリンジに充填して出荷した後、医療機関などで1か月経過後に薬剤投与を行う場合を想定したものである。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
図9(A)、(B)に示す試験結果は、図8(A)、(B)の試験結果と同様、ストロークが0mmの近傍は、ピストン1、1Pの動き出し当初に相当し、最大の摺動抵抗値を示すが、急激に摺動抵抗値が減少し、ピストン1、1Pが動き出すと、最小の摺動抵抗値を示し、ピストン1、1Pはシリンジバレルの先端方向に移動して、所定位置まで押し込まれる。1か月経過後の摺動抵抗値は、1日経過後の摺動抵抗値に比べて大きくなっている。
【0062】
図9(A)、(B)および表4、表5からわかるように、1か月経過後にも、本実施形態によるピストン1の方が、比較例のピストン1Pよりも、摺動抵抗値の平均値および最大値のいずれについても、低減が図られている。また、1か月経過後には、本実施形態によるピストン1の方が、摺動抵抗値の最小値についても、低減が図られている。したがって、プレフィルドシリンジに使用した場合にも、本実施形態によれば、シリンジバレルに挿入されたピストンの摺動抵抗値を好適に低減することができる。
【0063】
図10(A)、(B)は、本実施形態により摺動抵抗値が低減される理由の1つとして考えられる第2の環状突起の形状について説明するための模式図である。図10(A)において、本実施形態による第2の環状突起33は、シリンジバレルに挿入して矢印で図示された方向に摺動させたとき、頂点33Tは摺動方向後方にdだけ変位する。一方、図10(B)において、比較例の第2の環状突起33Pは、シリンジバレルに挿入して矢印で図示された方向に摺動させたとき、頂点33PTは摺動方向後方にdpだけ変位する。
【0064】
図示されているように、変位dが変位dpよりも小さい、すなわち、本実施形態によるピストン1が元の位置に戻ろうとする力、すなわち第2の環状突起33が元の形状に戻ろうとする力が、比較例のピストン1Pが元の位置に戻ろうとする力、すなわち第2の環状突起33Pが元の形状に戻ろうとする力よりも小さくなることが、摺動抵抗値が小さくなることに寄与していると考えられる。
【0065】
なお、比較例の第2の環状突起33Pの高さHを小さくすると摺動抵抗値が小さくなるが、密封性が担保できなくなる。一方、本実施形態による第2の環状突起33の高さHを小さくすることなく、摺動抵抗値を小さくすることができ、かつ密封性を担保することができる。
【0066】
本実施形態によるピストン1において、第1の環状突起31は、軸方向断面が円弧状の曲面を有し、頂点31Tの曲率半径がRであり、第2の環状突起33の頂点33Tの曲率半径0.6R、第3の環状突起35の頂点35Tの曲率半径0.8Rよりも大きい。これにより、第1の環状突起31の形状は、密封性を確保することを主に担い、第2の環状突起33および第3の環状突起35の形状は、密封性を担保しつつ、摺動抵抗値を小さくすることを担っていると考えられる。
【0067】
本実施形態では、3個の環状突起を設け、第2の環状突起33の最大径部33Tは、第2の環状突起33の軸方向長さの1/2よりも底面4側に近い位置にある。しかし、環状突起の数は3個に限定されるものではなく、2個であっても、4個以上でもよいが、好ましくは、2~3個である。第2の環状突起33に限らず、いずれの環状突起についてその最大径部が環状突起の軸方向長さの1/2よりも底面側に近い位置にあるようにしてもよいが、好ましくはピストン先端側から数えて2つ目以降に、少なくとも1つ設けることが望ましい。
【0068】
以上説明した実施形態では、ピストンをラミネートされていないゴムで形成しているが、薬液と接触する面あるいはピストン慴動面を、フッ素樹脂、超高分子量ポリエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロンなどのプラスチックフィルムでラミネートされたもの(プラスチックラミネートピストン)も使用することができる。ピストンの接液部の安定性や撥水性などの点から、ピストンの周囲がフッ素樹脂フィルムで被覆されていてもよい。また、本発明によるピストンは、(1)フッ素樹脂フィルムで被覆されていないピストン、(2)周囲(上面と側面部)がフッ素樹脂フィルムで被覆されているピストン、または(3)周囲(少なくとも上面側の接液面のみ)がフッ素樹脂フィルムで被覆されているピストンであってもよい。
【0069】
なお、フッ素樹脂として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー)、PFE(パーフルオロアルコキシアルカン)、PFA(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)など、あるいはこれらと他のポリマーとのアロイなどを適宜選択することができる。
【0070】
また、以上説明した実施形態では、100mLのシリンジに使用されるピストンについて説明したが、この大きさのピストンに限定されることはなく、これよりも大容量のシリンジ用のピストン、あるいは小容量のシリンジ用のピストンにも、本発明は適用することができる。
【0071】
次に、第1の環状突起、第1の環状窪み、第2の環状突起、第2の環状窪みに関し、本発明の他の実施形態について図11を参照して説明する。図11(A)に示すように、断面が円弧状の第1の環状突起31a、平坦な部分を有する第1の環状窪み32a、および第2の環状突起33aとすることでも、密封性を担保しつつ、摺動抵抗値を小さくすることが可能である。この実施形態では、図3(B)に示す実施形態と同様に、第2の環状突起の角度θ2は第1の環状突起の角度θ1よりも小さく設定されている。ここで、角度θ1および角度θ2は図示されていないが、図3(B)について示したものと同様の部分の角度である。
【0072】
図11(B)に示すように、断面の一部が円弧状であって、(A)の第1の環状突起31aよりも軸方向長さが長い第1の環状突起31b、平坦な部分が(A)の第1の環状窪み32aよりも短い第1の環状窪み32b、および第2の環状突起33bとすることでも、密封性を担保しつつ、摺動抵抗値を小さくすることが可能である。なお、第1の環状突起31bの頂点から第1の環状窪み32bに向かって小さな傾きの斜面となっている。この実施形態では、第2の環状突起の角度θ2は第1の環状突起の角度θ1と同じ、あるいは環状突起の角度θ1よりも大きくあるいは小さく設定することができる。
【0073】
図11(C)に示すように、断面が円弧状であって、(A)の第1の環状突起31aよりも軸方向長さが長い第1の環状突起31c、平坦な部分が(A)の第1の環状窪み32bよりも短い第1の環状窪み32c、および第2の環状突起33cとすることでも、密封性を担保しつつ、摺動抵抗値を小さくすることが可能である。この実施形態では、第2の環状突起の角度θ2は第1の環状突起の角度θ1と同じ、あるいは環状突起の角度θ1よりも大きくあるいは小さく設定することができる。
【0074】
図11(D)に示すように、断面が円弧状の第1の環状突起31d、平坦な部分がない第1の環状窪み32d、および第2の環状突起33dとすることでも、密封性を担保しつつ、摺動抵抗値を小さくすることが可能である。この実施形態では、第2の環状突起の角度θ2は第1の環状突起の角度θ1よりも小さく設定されている。
【0075】
図11(E)に示すように、(A)の第1の環状突起31aよりも軸方向長さが長く平坦な部分を有する第1の環状突起31e、平坦な部分が(A)の第1の環状窪み32aよりも短い第1の環状窪み32e、および第2の環状突起33bとすることでも、密封性を担保しつつ、摺動抵抗値を小さくすることが可能である。なお、第1の環状突起31eの平坦部分から第1の環状窪み32eに向かって小さな傾きの斜面となっている。この実施形態では、第2の環状突起の角度θ2は第1の環状突起の角度θ1と同じ、あるいは環状突起の角度θ1よりも大きくあるいは小さく設定することができる。
【0076】
図11(F)に示すように、(A)の第1の環状突起31aよりも軸方向長さが長く平坦な部分を有する第1の環状突起31f、平坦な部分がない第1の環状窪み32f、および第2の環状突起33fとすることでも、密封性を担保しつつ、摺動抵抗値を小さくすることが可能である。この実施形態では、第2の環状突起の角度θ2は第1の環状突起の角度θ1よりも小さく設定されている。
【0077】
図11(A)~(F)に示すように、断面が円弧状の第1の環状突起31a、31b、31c、31dの頂点部分および第1の環状突起31e、31fの平坦部分の外径と、第2の環状突起33a、33b、33c、33d、33e、33fの頂点部分の外径とが等しく設定されている。第1の環状窪み32a、32b、32c、32eの底部の外径と、第2の環状窪み34a、34b、34c34eの底部の外径とは等しく設定されているが、第1の環状窪み32d、32fの底部の外径を、第2の環状窪み34d、34fの底部の外径と異なる大きさに設定することもできる。
【0078】
以上説明した実施形態によれば、摺動抵抗を低減させることができ、さらに液漏れを防止できる。摺動方向とは逆の方向への摺動圧が高くなると思われ、滅菌時や保管時、輸送時にもピストンが後退せず、確実に密封性を確保できる。また、本実施形態によるピストンは、予め薬液をシリンジバレルに充填し、組み立てられたプレフィルドシリンジに好適である。プレフィルドシリンジに使用した場合、摺動方向とは逆の方向への摺動圧が高くなり、滅菌時や保管時、輸送時にもピストンが後退せず、確実に密封性を確保できる。
【符号の説明】
【0079】
1、1P ピストン
2、2P 上面
3、3P 側面
4、4P 底面
5 ネジ穴
21 頂点
31、31P 第1の環状突起
32,32P 第1の環状窪み
33、33P 第2の環状突起
34、34P 第2の環状窪み
35、35P 第3の環状突起
36 第3の環状窪み
31T、31PT 頂点
33T、33PT 頂点
35T、35PT 頂点
37 延長底面
8 シリンジバレル
81 円筒部
82 フランジ部
83 内面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11