(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】衛生材料
(51)【国際特許分類】
A61F 13/36 20060101AFI20221214BHJP
A61B 34/30 20160101ALI20221214BHJP
A61F 13/00 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
A61F13/36
A61B34/30
A61F13/00 301A
A61F13/00 301S
(21)【出願番号】P 2022111114
(22)【出願日】2022-07-11
【審査請求日】2022-07-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391047503
【氏名又は名称】白十字株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 一誓
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-167403(JP,A)
【文献】特開2003-19161(JP,A)
【文献】特開平02-299625(JP,A)
【文献】実開昭55-10631(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/00、13/20、13/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹腔鏡下手術やロボット支援下手術等で使用されるロール状の衛生材料であって、
吸液性を有する矩形状のシート材が多層に巻回された形状を有する円柱状の衛生材料本体と、前記衛生材料本体の断面視中心部に位置して前記衛生材料本体の長手方向に延設されたX線造影部材と、前記衛生材料本体の最外層に位置する前記シート材の端部に沿って
複数の千鳥縫製により形成された縫製部とを備え、
前記縫製部は前記衛生材料本体の断面視中心部を除く位置に縫製用縫い糸が縫い込まれて形成され
、互いに隣り合う千鳥縫製は少なくとも一部の縫い糸が互いに交差することを特徴とする衛生材料。
【請求項2】
前記縫製部は、前記シート材の最外層に位置する端部を縫製用縫い糸が跨いで縫い込まれて形成されていることを特徴とする請求項1記載の衛生材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術等で使用されるロール状の衛生材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、手術支援ロボットを使用した遠隔操作による内視鏡外科手術が行われている。手術時において、臓器の圧排(術野確保)、組織保護、血液吸収、圧迫止血等が必要となるが、現状、これらの処置には、ガーゼ等をロール状に巻くことにより対応される。そして、ガーゼ等をロール状に巻いた衛生材料は、手術前に手作業で準備されるため、手間がかかるだけでなく、大きさにばらつきが生じてしまい、一定の品質が得られない不都合がある。
【0003】
そこで、手術前の準備作業を軽減するために、脱脂綿加工品の代替品とした、毛羽立ち、脱落繊維、皮膚刺激性、製品コストを抑えたロール形状の衛生材料が提案されている(下記特許文献1参照)。
【0004】
また、ロール形状のガーゼを、巻軸と交差してガーゼを貫通する糸で縫製し、糸の両端を自由端とする又は自由端の先端を互いに結んだ糸付きガーゼによる衛生材料が提案されている(下記特許文献2参照)。
【0005】
しかし、上記従来の衛生材料は、内視鏡外科手術等の際に、体内に遺残するおそれがあり、体内への遺残リスクが考慮されていないものであった。
【0006】
また、上記以外には、捲縮長繊維集合体の外周に非透水性テープを巻回し、非透水性テープの重ね合わせ部を水不溶性糊剤で接合した棒状スポット吸収材が提案されている(下記特許文献3参照)。
【0007】
しかし、この吸収材においては、捲縮長繊維集合体とは別に非透水性テープを巻回しなければならず、製品コストが高くなる等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-204992号公報
【文献】特開2012-139322号公報
【文献】特開平2-299625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の不都合を解消して、本発明は、手術支援ロボットを使用した内視鏡外科手術等で使用した際に体内への遺残リスクを低減すると共に、製品コストを抑えた衛生材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明は、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術等で使用されるロール状の衛生材料であって、吸液性を有する矩形状のシート材が多層に巻回された形状を有する円柱状の衛生材料本体と、前記衛生材料本体の断面視中心部に位置して前記衛生材料本体の長手方向に延設されたX線造影部材と、前記衛生材料本体の最外層に位置する前記シート材の端部に沿って複数の千鳥縫製により形成された縫製部とを備え、前記縫製部は前記衛生材料本体の断面視中心部を除く位置に縫製用縫い糸が縫い込まれて形成され、互いに隣り合う千鳥縫製は少なくとも一部の縫い糸が互いに交差することを特徴とする。なお、本発明における衛生材料本体の断面視中心部としては、衛生材料本体の断面視中心であってもよく、衛生材料本体の断面視中心近傍であってもよい。
【0011】
本発明による上記構成の衛生材料は、先ず、矩形状のシート材の一側端部に沿ってX線造影部材を延設し、次いで、X線造影部材を延設した一側端部側から矩形状のシート材を巻回して多層の円柱状の衛生材料本体を形成する。続いて、縫製部によってシート材の最外層に位置する端部(巻回したシート材の巻き終わり端部)を衛生材料本体に縫い付ける。このように、構造簡単で製造工程を少なく製造することができるので、製品コストを抑えることができる。
【0012】
更に、本発明によれば、衛生材料本体の断面中心部を除いて縫製用縫い糸を縫い込むことで縫製部が形成されている。これにより、衛生材料本体の断面中心部に設けられているX線造影部材を縫い針等で損傷させることなく縫製することができ、X線造影部材の断裂や切れカスの発生を防止することができる。従って、本発明によれば、手術での使用時に、体内への遺残リスクを低減することができる。
【0013】
本発明の前記縫製部は、前記シート材の最外層に位置する端部を縫製用縫い糸が跨いで縫い込まれて形成されていることを特徴とする。
【0014】
上述したように、ガーゼ等をロール状に巻いた衛生材料は既に存在し、ロール状態を保持する方法としては縫製、接着剤、熱融着が考えられた。シート材の最外層に位置する端部(巻回したシート材の巻き終わり端部)を接着剤や熱融着で止めると、接着部分が硬くなるため、本発明においてはロール状態を保持する方法として縫製を採用した。
【0015】
これは、糸で縫製することで縫製部を硬くさせないためである。縫製はロール状に巻いた衛生材料を断面方向に貫通して縫製してしまうとロール状に巻いた衛生材料自体が硬くなってしまい、しなやかさが無くなってしまうため、本発明ではシート材の最外層に位置する端部(巻回したシート材の巻き終わり端部)の表面のみを縫製するようにした。
【0016】
なお、本発明における縫製は、衛生材料本体の最外層に位置する前記シート材の端部に沿って形成されるものであり、千鳥縫製、なみ縫い、返し縫い、まつり縫い等を挙げることができる。
【0017】
更に本発明においては、縫製部が千鳥縫製により形成されていることにより、縫い目が比較的疎であっても強固な縫い付け状態が形成できる。従って、衛生材料本体の柔軟性を低下させることのない縫製部を設けることができる。更に、千鳥縫製により、シート材の最外層に位置する端部を縫い糸が跨いで覆うことが可能なので、当該端部の捲れ等を抑えることができる。
【0018】
更に、本発明の前記縫製部は、複数の千鳥縫製により形成され、互いに隣り合う千鳥縫製は少なくとも一部の縫い糸が互いに交差することを特徴とする。これによれば、互いに隣り合う千鳥縫製の縫い糸同士がシート材の最外層に位置する端部を比較的巾広に覆うことができる。
【0019】
千鳥縫製の縫い糸同士を巾広に覆うことで、例えば、臓器の圧排時、臓器に対してより圧排したい時(臓器に対して摩擦力が必要な場合)には千鳥縫製部側を臓器に対して使用することで、縫い糸の凹凸等でずれにくく、圧排しやすくなり、臓器に対し微力の圧排の時(臓器に対して摩擦力が必要ない場合)もしくは圧排を均等にさせたい時には、千鳥縫製部ではない側面を臓器に対して使用することができる。従って、用途に応じて適宜使用面を選択することができる。
【0020】
更には、千鳥縫製の縫い糸同士を巾広に覆うことで、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術等で使用される鉗子が、巾広部分を掴みやすくすることが期待できる。
【0021】
なお、前記X線造影部材の色は、前記衛生材料本体と異なることが好ましい。これによれば、X線造影部材の有無を目視により容易に確認することができるので、例えば、衛生材料の使用時に、X線造影部材を有する衛生材料の選択が迅速に行える。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の衛生材料1は、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術等で使用されるものである。
【0024】
先ず、本実施形態の衛生材料1の構造を説明する。衛生材料1は、
図1に示すように、円柱状の衛生材料本体2と、縫製部3とを備え、
図2に示すように、X線造影糸4(X線造影部材)を備えている。
【0025】
衛生材料本体2は、
図3に展開して示すように、矩形状のシート材21により形成されている。シート材21は、吸液性、保液性、及び柔軟性を有する材料のものが採用され、手術時における血液吸収、組織保護、術野確保等に好適なものが選択される。
【0026】
シート材21としては、天然繊維不織布、再生繊維不織布、ガーゼ等を挙げることができる。天然繊維不織布としては、例えば、コットン不織布(日清紡テキスタイル株式会社 オイコス)、再生繊維不織布としては、例えば、レーヨン不織布が挙げられるが、本発明においては、コットン原料の連続長繊維不織布ベンリーゼ(登録商標)を採用した。連続長繊維のベンリーゼ(登録商標)は短繊維素材よりもリント(脱落する短い繊維カス等の脱落繊維)の発生が少ないからである。
【0027】
X線造影糸4は、
図3に示すように、衛生材料本体2を形成するシート材21の一側端部に延設されている。X線造影糸4は、シート材21の端縁から所定距離を存した位置に固着されている。
【0028】
なお、X線造影糸4の好適な材料の一例として、スチレン系エラストマーに硫酸バリウムを混合したモノフィラメントを挙げることができるが、これに限らない。
【0029】
更に、X線造影糸4は、衛生材料本体2を構成するシート材21と異なる色のものが採用されている。これによれば、X線造影糸4がシート材21と同じ色である場合に比べ、X線造影糸4の目視による確認が容易となる。
【0030】
従って、例えば手術時に、X線造影糸4を有する衛生材料1の選択を迅速に行うことができる。また、製造後に、X線造影糸4の有無の目視確認が容易に行えるので、品質管理における作業効率も向上する。
【0031】
衛生材料本体2は、後述するように、シート材21を、X線造影糸4が設けられている側の端から巻回することにより形成される。これにより、
図2に示すように、衛生材料本体2は、渦巻状の断面となり、X線造影糸4は、衛生材料本体2の断面視中心、又は、断面視中心から少しずれた中心近傍に位置する。
【0032】
縫製部3は、
図1に示すように、縫製用縫い糸31a,31bが衛生材料本体2の最外層に位置するシート材21の端部(後述する巻回したシート材21の巻き終わり端部21a)を跨いで縫い付けられた千鳥縫製により形成されている。この千鳥縫製は、複数列構成(本実施形態では2列構成)の千鳥縫製により形成されており、互いに隣り合う2つの千鳥縫製の縫い糸31a,31bの一部が公差する。
【0033】
千鳥縫製を採用することにより、縫製部3の柔軟性を十分に得ながら、衛生材料本体2の最外層に位置するシート材21の端部21aを強固に縫い付け固定できる。
【0034】
なお、縫製部3は、衛生材料本体の最外層に位置する前記シート材の端部に沿って形成されたものであればよく、
図1に示す複数列構成の千鳥縫製により形成される以外に、例えば、
図4に示すように、縫製用縫い糸32による単一の千鳥縫製を採用した縫製部3を設けてもよい。或いは、図示しないが、なみ縫い、返し縫い、まつり縫い等を採用しても良い。
【0035】
縫製部3を形成する縫製用縫い糸31a,31bは、
図2に示すように、衛生材料本体2の断面視中心部(即ち、X線造影糸4が設けられている位置)から離れた外周位置に縫い込まれている。なお、
図2において仮想線で示す領域Wは、図示しないミシンの縫い針が刺通される領域を示している。
【0036】
これにより、X線造影糸4と縫製用縫い糸31a,31bとは衛生材料本体2の内部で接することはなく、後述するような縫製作業時の縫い針によるX線造影糸4の損傷を防止することができる。従って、X線造影糸4の断裂や切れカスの発生が防止でき、手術時における遺残リスクを極力減らすことができる。
【0037】
次に、本実施形態の衛生材料1の製造方法の一例について説明する。まず、所定の大きさ(例えば、縦100~200mm、横300mm)に裁断されたシート材21にX線造影糸4を固着させる。X線造影糸4は、
図3に示すように、シート材21の横方向の一側端縁から約10mmの距離を存して縦方向に延設する。このとき、X線造影糸4をシート材21に、例えば、超音波接着等により約180℃で熱溶着させて固定する。
【0038】
X線造影糸4は、シート材21に熱溶着することにより、例えば縫い付ける等に比べて、シート材21への固定力が高く、製造工程や使用中にX線造影糸4のズレや脱落を防止することができる。
【0039】
続いて、図示しない直径1mm程度の巻き芯(棒)を用い、シート材21をX線造影糸4の配設側から巻回し、直径10mm程度のロール状の円柱体を形成する。そして、シート材21の巻き終わりの端部21aには、接着剤(例えばポリビニルアルコール)を塗布して仮留めする。これにより、衛生材料本体2が形成される。なお、接着剤による仮留めは必要に応じて行えばよく、省略することも可能である。
【0040】
次いで、
図1に示すように、シート材21の巻き終わりの端部21aに縫製部3を形成する。縫製部3は綿100%の縫製用縫い糸31a,31bを用いた千鳥縫製が採用され、例えばミシンを用いて縫製作業が行われる。
【0041】
縫製部3を形成するときには、
図2に示すように、衛生材料本体2の断面視中心部(即ち、X線造影糸4が設けられている位置)を除く位置(領域W)に縫い針(図示しない)を刺通させることにより、縫製用縫い糸31a,31bで縫い付ける。これによれば、縫い針がX線造影糸4に接触しないので、X線造影糸4の断裂や切れカスを発生させることなく縫製部3を形成することができる。
【0042】
また、縫製部3は、
図1に示すように、縫製用縫い糸31a,31bがシート材21の巻き終わりの端部21aを跨ぐように千鳥縫製することにより、シート材21の端部21aの剥離や捲れ等を抑えることができ、術野を狭める等を防止することができる。
【0043】
以上のようにして衛生材料1が形成されるが、更に、衛生材料1は、使用に際して切断することにより、容易に所望の長さ(例えば、20mm~50mm等)にすることができる。
【0044】
なお、衛生材料1の製造方法は、上述したものに限らない。また、各部の寸法や材質についても本実施形態で記載したもの限るものではなく、所望の寸法や好適なものを選択することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…衛生材料
2…衛生材料本体
21…シート材
21a…シート材端部
3…縫製部
31a,31b,32…縫製用縫い糸
4…X線造影糸(X線造影部材)
【要約】
【課題】手術支援ロボットを使用した内視鏡外科手術等で使用した際に体内への遺残リスクを低減すると共に、製品コストを抑えた衛生材料を提供する。
【解決手段】シート材21が巻回されてなる衛生材料本体2と、衛生材料本体2の断面視中心部に位置して衛生材料本体2の長手方向に延設されたX線造影部材4と、衛生材料本体2の最外層に位置するシート材21の端部に沿って形成された縫製部3とを備え、縫製部3は衛生材料本体2の断面視中心部を除く位置に縫製用縫い糸31a,31bが縫い込まれて形成されている。
【選択図】
図1