IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 紀州技研工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】錠剤用インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20221214BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221214BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C09D11/30
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022123461
(22)【出願日】2022-08-02
【審査請求日】2022-08-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391040870
【氏名又は名称】紀州技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】淺尾 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 智章
【審査官】宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-523751(JP,A)
【文献】特許第6960695(JP,B1)
【文献】特開2020-029537(JP,A)
【文献】特表2000-507820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00-13/00
B41J2/01-2/215
B41M5/00-5/52
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食性の染料と、セラック及びポリビニルピロリドンを含む樹脂成分と、湿潤剤と、エタノール及び水を含む溶剤と、を含有する錠剤用インクジェットインクであって、
前記錠剤用インクジェットインク中の前記染料の含有量が0.3重量%以上5重量%以下、
前記錠剤用インクジェットインク中のポリビニルピロリドンの含有量が0.5重量%以上3.5重量%以下、
前記錠剤用インクジェットインク中のエタノールの含有量が20重量%以上80重量%以下、
前記錠剤用インクジェットインク中の水の含有量が5重量%以上45重量%以下、
前記錠剤用インクジェットインク中のエタノールと水の合計含有量が60重量%以上85重量%以下である、錠剤用インクジェットインク。
【請求項2】
前記錠剤用インクジェットインク中のセラックの含有量が1重量%以上25重量%以下である、請求項1に記載の錠剤用インクジェットインク。
【請求項3】
前記錠剤用インクジェットインク中の前記湿潤剤の含有量が1重量%以上15重量%以下である、請求項1に記載の錠剤用インクジェットインク。
【請求項4】
前記湿潤剤がプロピレングリコールである、請求項1に記載の錠剤用インクジェットインク。
【請求項5】
前記錠剤用インクジェットインク中のセラックとポリビニルピロリドンの重量基準の含有量の比(セラックの含有量/ポリビニルピロリドンの含有量)が0.2/1以上20/1以下である、請求項1に記載の錠剤用インクジェットインク。
【請求項6】
前記染料が、アゾ系染料、トリフェニルメタン系染料及びキサンテン系染料からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の錠剤用インクジェットインク。
【請求項7】
前記アゾ系染料が、赤色102号、黄色4号からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載の錠剤用インクジェットインク。
【請求項8】
前記トリフェニルメタン系染料が、青色1号である、請求項6に記載の錠剤用インクジェットインク。
【請求項9】
前記キサンテン系染料が、赤色3号である、請求項6に記載の錠剤用インクジェットインク。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1項に記載の錠剤用インクジェットインクをドロップオンデマンドインクジェット装置より吐出させて、錠剤に前記インクジェットインクを付着させて印字する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤用インクジェットインクに関し、特に、粉立ちの多い錠剤に対し、ドロップオンデマンド(以下、「DOD」と称する場合がある)方式インクジェットプリンタにより連続的に印字を行うのに適した錠剤用インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の錠剤に製品名や有効成分の含有量をインクジェットインクで直接印字することで、一目で識別することができるため、医療機関における調剤ミスや取り違えを防止することができ、医療事故を防ぐことも可能となる。このような印字を行うための錠剤用インクジェットインクとして、下記特許文献1には粉末の発生量が多い錠剤であっても連続生産性が良好であり、定着性も良好な錠剤用インクジェットインクが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6960695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
錠剤の識別性をさらに向上させるために印字の色の種類を増やすことが考えられるが、前記特許文献1に記載の錠剤用インクジェットインクは色材として可食性の顔料を用いるため、色の種類が少ない。
【0005】
本発明は、色材として色の種類が比較的多い可食性の染料を用いながら、粉末の発生量が多い錠剤であっても連続生産性が良好であり、定着性も良好な錠剤用インクジェットインクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
可食性の染料と、セラック及びポリビニルピロリドンを含む樹脂成分と、湿潤剤と、エタノール及び水を含む溶剤と、を含有する錠剤用インクジェットインクであって、
前記錠剤用インクジェットインク中の前記染料の含有量が0.3重量%以上5.0重量%以下、
前記錠剤用インクジェットインク中のポリビニルピロリドンの含有量が0.5重量%以上3.5重量%以下、
前記錠剤用インクジェットインク中のエタノールの含有量が10.0重量%以上80.0重量%以下、
前記錠剤用インクジェットインク中の水の含有量が5.0重量%以上60.0重量%以下、
前記錠剤用インクジェットインク中のエタノールと水の合計含有量が60.0重量%以上85.0重量%以下である、錠剤用インクジェットインクである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、色材として色の種類が比較的多い可食性の染料を用いながら、粉末の発生量が多い錠剤であっても連続生産性が良好であり、定着性も良好な錠剤用インクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<錠剤用インクジェットインク>
本実施形態の錠剤用インクジェットインク(以下、「インク」と称する場合がある)は、
前記錠剤用インクジェットインク中の前記染料の含有量が0.3重量%以上5重量%以下、
前記錠剤用インクジェットインク中のポリビニルピロリドンの含有量が0.5重量%以上3.5重量%以下、
前記錠剤用インクジェットインク中のエタノールの含有量が10.0重量%以上80.0重量%以下、
前記錠剤用インクジェットインク中の水の含有量が5.0重量%以上60.0重量%以下、
前記錠剤用インクジェットインク中のエタノールと水の合計含有量が60.0重量%以上85.0重量%以下である。
本実施形態の錠剤用インクジェットインクは、色材として色の種類が比較的多い可食性の染料を用いながら、粉末の発生量が多い錠剤であっても連続生産性が良好であり、定着性も良好である。
【0009】
〔染料〕
前記染料は、可食性の染料であれば特に限定されない。当該染料としては、アゾ系染料、トリフェニルメタン系染料、及びキサンテン系染料からなる群より選ばれる少なくとも1種が例示できる。
【0010】
前記アゾ系染料としては赤色2号、赤色102号、赤色40号、黄色4号、及び黄色5号からなる群より選ばれる少なくとも1種が例示でき、これらの中でも耐光性の観点、及び染料溶解性の観点から、赤色102号、及び黄色4号からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0011】
前記トリフェニルメタン系染料としては青色1号、及び緑色3号からなる群より選ばれる少なくとも1種が例示でき、これらの中でも耐光性の観点、及び染料溶解性の観点から、青色1号が好ましい。
【0012】
前記キサンテン系染料としては赤色3号、赤色104号、赤色105号、及び赤色106号からなる群より選ばれる少なくとも1種が例示でき、これらの中でも耐光性の観点、及び染料溶解性の観点から、赤色3号が好ましい。
【0013】
前記中の前記染料の含有量は、印字の明瞭性の観点、及び耐光性の観点から、0.3重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましく、1.0重量%以上が更に好ましい。前記中の前記染料の含有量は、染料溶解性の観点、及び耐湿性の観点から、5.0重量%以下が好ましく、4.0重量%以下がより好ましく、3.5重量%以下が更に好ましい。
【0014】
〔樹脂成分〕
前記インクは、樹脂成分としてセラック及びポリビニルピロリドンを含有する。
【0015】
[セラック]
セラックは、ラックカイガラ虫由来の樹脂状物質を精製して得た可食性樹脂であり、多種類の樹脂酸およびそのエステル化物、ワックス、色素等の混合物とされていて、錠剤へのインクの密着性や、印字後のインクの強度を付与するための接着用の樹脂(バインダー)として機能する。これにより、印字後の錠剤を擦ったり、それが水に浸漬したりしても、記録したインクの剥がれや溶出を極力抑え、耐摩擦性や耐水性を持たせることができる。
【0016】
セラックは、エタノール可溶性タイプのものが特に好ましく用いられる。前記インクにおいては、セラックのなかでも、ワックスや色素分が予め除去された精製セラックや、漂白処理された白色セラックが好ましく、アルカリ処理された精製セラックがより好ましい。なお、前記白色セラック及び前記精製セラックはいずれも日本薬局方及び食品添加物公定書に収載されている。
【0017】
前記白色セラックは、ラックカイガラ虫由来の樹脂状物質を炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液に溶解させたあと、夾雑物を取り除き、次亜塩素酸ナトリウム等の漂白剤で漂白した後、酸の希薄溶液を添加して樹脂を析出させて作製される。さらに夾雑物を取り除いた後、脱ロウ工程によりワックス分を除去されることもある。
【0018】
前記精製セラックは、前記白色セラックの作製工程において、次亜塩素酸ナトリウム等の漂
白剤による処理を経ずに作製される。また、ラックカイガラ虫由来の樹脂状物質をアルコールに溶解させ、不溶解物を除去した後、溶媒を揮発させることで析出させることでも作製される。このとき、セラックのアルコール溶液を活性炭等を通過させて脱色処理されることもある。
【0019】
前記白色セラックを用いる場合、脱塩素処理されたものを用いることが好ましい。これにより、塩素濃度を低減させることで、インクの金属腐食耐性を向上させることができる。脱塩素処理としては、例えば、イオン交換樹脂や限外濾過による処理などが挙げられる。具体的には、例えば、白色セラック溶液を、OH-型強塩基性陰イオン交換樹脂または活性炭を充填したカラムに通過させる方法が好ましく挙げられる。前記白色セラック溶液の溶媒として、エタノールを用いることで、処理後のエタノール溶液をそのままインクの作製に用いることができる。
【0020】
前記精製セラックのアルカリ処理は、前記精製セラックにアルカリを作用させることを意味する。前記精製セラックのアルカリ処理としては、例えば、精製セラック溶液にアルカリを添加する方法や、精製セラック溶液を、OH-型強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに通過させる方法などが挙げられる。上記において、精製セラック溶液の溶媒として、エタノールを用いることで、処理後のエタノール溶液をそのままインクの作製に用いることができる。
【0021】
前記精製セラックのアルカリ処理は、精製セラックのエタノール溶液にアルカリを添加して、加温する方法が好ましい。この場合、アルカリ処理を行う際の精製セラック-エタノール溶液の濃度としては、特に限定するわけではないが、例えば、10.0~90.0重量%が好ましい。
【0022】
前記精製セラックのアルカリ処理で用いるアルカリの種類としては、特に限定するわけではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、L-アルギニン、L-リシン、L-ヒスチジン、アンモニア、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、ピロリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0023】
前記精製セラックのアルカリ処理において、アルカリの添加量としては、特に限定するわけではないが、例えば、精製セラック100重量部に対し、1~50重量部が好ましい。また、加温の温度条件としては、特に限定するわけではないが、例えば、30~60℃が好ましい。加温の時間としては、特に限定するわけではないが、例えば、1週間~6ヶ月が好ましい。
【0024】
前記インク中のセラックの含有量は、錠剤へのインクの密着性の観点、及び印字後のインクの強度付与、耐湿性の観点から、1.0重量%以上が好ましく、4.0重量%以上がより好ましく、8.0重量%以上が更に好ましい。前記インク中のセラックの含有量は、印字時のインクの吐出安定性の観点、及び印字の明瞭性の観点から、25.0重量%以下が好ましく、20.0重量%以下がより好ましく、15.0重量%以下が更に好ましい。
【0025】
前記染料がキサンテン系染料を含有する場合、前記インク中のセラックの含有量は、錠剤へのインクの密着性の観点、及び印字後のインクの強度付与、耐湿性の観点から、1.0重量%以上が好ましく、4.0重量%以上がより好ましく、8.0重量%以上が更に好ましい。前記インク中のセラックの含有量は、印字時のインクの吐出安定性の観点、及び印字の明瞭性の観点から、25.0重量%以下が好ましく、18.0重量%以下がより好ましく、12.0重量%以下が更に好ましい。
【0026】
前記染料がトリフェニルメタン系染料及びアゾ系染料を含有する場合、前記インク中のセラックの含有量は、錠剤へのインクの密着性の観点、及び印字後のインクの強度付与、耐湿性の観点から、1.0重量%以上が好ましく、4.0重量%以上がより好ましく、8.0重量%以上が更に好ましい。前記インク中のセラックの含有量は、印字時のインクの吐出安定性の観点、及び印字の明瞭性の観点から、25.0重量%以下が好ましく、18.0重量%以下がより好ましく、12.0重量%以下が更に好ましい。
【0027】
前記染料がトリフェニルメタン系染料である場合、前記インク中のセラックの含有量は、錠剤へのインクの密着性の観点、及び印字後のインクの強度付与、耐湿性の観点から、1.0重量%以上が好ましく、4.0重量%以上がより好ましく、12.0重量%以上が更に好ましい。前記インク中のセラックの含有量は、印字時のインクの吐出安定性の観点、及び印字の明瞭性の観点から、25.0重量%以下が好ましく、18.0重量%以下がより好ましく、15.0重量%以下が更に好ましい。
【0028】
[ポリビニルピロリドン]
ポリビニルピロリドン(以下、「PVP」と称する場合がある)は、染料との相溶性、定着性に優れており、また、エタノールに良好な溶解性を示すため、乾燥性の良好なインクとすることができ、錠剤表面での迅速な乾燥を行うことができるとともに、再溶解性の高いインクを得ることができる。また、他の樹脂との相溶性にも優れるため、セラックと併用することで定着性に優れ、吐出安定性が良好なインクジェットインクを得ることができる。
【0029】
PVPの重量平均分子量は、例えば、5000~100000が好ましく、10000~60000であることがより好ましい。PVPの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミッションクロマトグラフィー)に光散乱検出器を組み合わせたGPC-光分散法による測定値とする。溶離液として、DMF(ジメチルホルムアミド)を用い、標準物質として、ポリエチレングリコールを用いる。
【0030】
前記インク中のPVPの含有量は、錠剤へのインクの密着性の観点、及び印字後のインクの強度付与の観点から、0.5重量%以上であり、0.7重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましい。前記インク中のPVPの含有量は、印字時のインクの吐出安定性の観点、及び印字の明瞭性の観点から、3.5重量%以下であり、3.0重量%以下が好ましく、2.5重量%以下がより好ましい。
【0031】
前記錠剤用インクジェットインク中のセラックとポリビニルピロリドンの重量基準の含有量の比(セラックの含有量/ポリビニルピロリドンの含有量)は、吐出安定性の観点から、0.2/1以上が好ましく、1/1以上がより好ましく、3/1以上が更に好ましい。前記錠剤用インクジェットインク中のセラックとポリビニルピロリドンの重量基準の含有量の比(セラックの含有量/ポリビニルピロリドンの含有量)は、定着性の観点から、20/1以下が好ましく、17/1以下がより好ましく、13/1以下が更に好ましい。
【0032】
前記染料がキサンテン系染料を含有する場合、前記錠剤用インクジェットインク中のセラックとポリビニルピロリドンの重量基準の含有量の比(セラックの含有量/ポリビニルピロリドンの含有量)は、吐出安定性の観点から、0.2/1以上が好ましく、2/1以上がより好ましく、3/1以上が更に好ましい。前記錠剤用インクジェットインク中のセラックとポリビニルピロリドンの重量基準の含有量の比(セラックの含有量/ポリビニルピロリドンの含有量)は、定着性の観点から、20/1以下が好ましく、10/1以下がより好ましく、5/1以下が更に好ましい。
【0033】
前記染料がトリフェニルメタン系染料及びアゾ系染料を含有する場合、前記錠剤用インクジェットインク中のセラックとポリビニルピロリドンの重量基準の含有量の比(セラックの含有量/ポリビニルピロリドンの含有量)は、吐出安定性の観点から、0.2/1以上が好ましく、4/1以上がより好ましく、6/1以上が更に好ましい。前記錠剤用インクジェットインク中のセラックとポリビニルピロリドンの重量基準の含有量の比(セラックの含有量/ポリビニルピロリドンの含有量)は、定着性の観点から、20/1以下が好ましく、15/1以下がより好ましく、10/1以下が更に好ましい。
【0034】
前記染料がトリフェニルメタン系染料である場合、前記錠剤用インクジェットインク中のセラックとポリビニルピロリドンの重量基準の含有量の比(セラックの含有量/ポリビニルピロリドンの含有量)は、吐出安定性の観点から、0.2/1以上が好ましく、4/1以上がより好ましく、8/1以上が更に好ましい。前記錠剤用インクジェットインク中のセラックとポリビニルピロリドンの重量基準の含有量の比(セラックの含有量/ポリビニルピロリドンの含有量)は、定着性の観点から、20/1以下が好ましく、15/1以下がより好ましく、13/1以下が更に好ましい。
【0035】
〔湿潤剤〕
前記湿潤剤は、インクの乾燥性の調整、インク粘度の調整等の役目をなす。また、浸透性を調整する効果も有する。前記湿潤剤としてはプロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等、水よりも沸点が高く、かつ人体へ経口摂取されても問題ない水溶性の有機溶剤を用いることができ、特に、プロピレングリコールは、乾燥性の適度な調整が可能であり、好ましい。
【0036】
前記インク中の湿潤剤の含有量は、インクの錠剤への浸透性の観点、及び吐出安定性の観点から、1.0重量%以上が好ましく、3.0重量%以上が好ましく、5.0重量%以上がより好ましい。前記インク中の湿潤剤の含有量は、インクの乾燥性の観点、及びインク粘度の調整の観点から、15.0重量%以下が好ましく、12.0重量%以下が好ましく、10.0重量%以下がより好ましい。
【0037】
〔溶剤〕
前記インクは、溶剤としてエタノール及び水を含有する。
【0038】
[エタノール]
エタノールは、インク塗膜の定着性を向上させるセラックを溶解させ、さらに錠剤上のインク塗膜の乾燥速度を向上させる。錠剤という用途上、食品用の発酵エタノール又は変性エタノールを用いることが好ましい。
【0039】
前記インク中のエタノールの含有量は、セラックの溶解性の観点、及び錠剤上のインク塗膜の乾燥速度向上の観点から、10.0重量%以上であり、20.0重量%以上が好ましく、25.0重量%以上がより好ましい。前記インク中のエタノールの含有量は、染料の溶解性の観点から、80.0重量%以下であり、75.0重量%以下が好ましく、65.0重量%以下がより好ましい。
【0040】
前記染料がキサンテン系染料を含有する場合、前記インク中のエタノールの含有量は、セラックの溶解性の観点、及び錠剤上のインク塗膜の乾燥速度向上の観点から、10.0重量%以上であり、20.0重量%以上が好ましく、25.0重量%以上がより好ましい。前記インク中のエタノールの含有量は、染料の溶解性の観点から、80.0重量%以下であり、50.0重量%以下が好ましく、40.0重量%以下がより好ましい。
【0041】
前記染料がトリフェニルメタン系染料及びアゾ系染料を含有する場合、前記インク中のエタノールの含有量は、セラックの溶解性の観点、及び錠剤上のインク塗膜の乾燥速度向上の観点から、10.0重量%以上であり、20.0重量%以上が好ましく、30.0重量%以上がより好ましい。前記インク中のエタノールの含有量は、染料の溶解性の観点から、80.0重量%以下であり、50.0重量%以下が好ましく、45.0重量%以下がより好ましい。
【0042】
前記染料がトリフェニルメタン系染料である場合、前記インク中のエタノールの含有量は、セラックの溶解性の観点、及び錠剤上のインク塗膜の乾燥速度向上の観点から、10.0重量%以上であり、40.0重量%以上が好ましく、55.0重量%以上がより好ましい。前記インク中のエタノールの含有量は、染料の溶解性の観点から、80.0重量%以下であり、75.0重量%以下が好ましく、65.0重量%以下がより好ましい。
【0043】
[水]
前記インク中の水の含有量は、染料の溶解性の観点から、5.0重量%以上であり、7.0重量%以上が好ましく、9.0重量%以上がより好ましい。前記インク中の水の含有量は、乾燥性の観点から、60.0重量%以下であり、55.0重量%以下が好ましく、45.0重量%以下がより好ましい。
【0044】
前記染料がキサンテン系染料を含有する場合、前記インク中の水の含有量は、染料の溶解性の観点から、5.0重量%以上であり、25.0重量%以上が好ましく、35.0重量%以上がより好ましい。前記インク中の水の含有量は、乾燥性の観点から、60.0重量%以下であり、50.0重量%以下が好ましく、45.0重量%以下がより好ましい。
【0045】
前記染料がトリフェニルメタン系染料及びアゾ系染料を含有する場合、前記インク中の水の含有量は、染料の溶解性の観点から、5.0重量%以上であり、25.0重量%以上が好ましく、35.0重量%以上がより好ましい。前記インク中の水の含有量は、乾燥性の観点から、60.0重量%以下であり、50.0重量%以下が好ましく、45.0重量%以下がより好ましい。
【0046】
前記染料がトリフェニルメタン系染料である場合、前記インク中の水の含有量は、染料の溶解性の観点から、5.0重量%以上であり、7.0重量%以上が好ましく、9.0重量%以上がより好ましい。前記インク中の水の含有量は、乾燥性の観点から、60.0重量%以下であり、30.0重量%以下が好ましく、20.0重量%以下がより好ましい。
【0047】
前記インク中のエタノールと水の合計含有量は、その他インク材料の溶解性の観点から、60.0重量%以上であり、65.0重量%以上が好ましく、67.0重量%以上がより好ましい。前記インク中のエタノールと水の合計含有量は、その他インク材料による効果を十分に付与する観点から、85.0重量%以下であり、80.0重量%以下が好ましく、77.0重量%以下がより好ましい。
【0048】
〔その他の成分〕
前記インクは、本発明の効果を損なわない限り、その他の添加剤を含有していてもよい。前記添加剤としては、水溶性樹脂、有機アミン、界面活性剤、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤等が挙げられる。前記添加剤は、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものであることが好ましい。これらの添加剤の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0049】
〔インクの製造方法〕
前記インクは、前記各成分を公知の方法で混合することよって製造することができる。
【0050】
まず、水に染料を溶解させて、染料水溶液を作成する。当該染料水溶液とは別に、白色セラック溶液又は精製セラック溶液を調製する。そして、白色セラック溶液又は精製セラック溶液に前記脱塩素処理又は前記アルカリ処理を施す。
【0051】
次いで、前記染料水溶液と、前記セラック溶液と、PVPと、プロピレングリコールなどの湿潤剤とを、適宜、水、エタノールやその他の成分も加えて、撹拌混合することで、前記インクを製造することができる。
【0052】
なお、インクに含まれる樹脂の溶解性や安定性を調整するなどのために、上記いずれかの工程において、pH調整剤を加えることもできる。酸性への調整には、酢酸、クエン酸等、アルカリ性への調整には、炭酸アンモニウム等が例示できる。
【0053】
<印字方法>
本実施形態の印字方法は、上記インクをDODインクジェット装置より吐出させて、錠剤に前記インクを付着させて印字する印字方法である。前記印字方法は、DODインクジェット装置より吐出される前記インクジェットインクを、前記DODインクジェット装置のインクジェットヘッドとインクタンク筐体との間で循環させておく印字方法が好ましい。従来のDOD方式では、エタノールのようなアルコールを多く含むインクは、ノズルでの乾燥が速すぎて安定した吐出がとれないことが一般的であった。したがって、エタノールを含有させる場合にも5重量%程度が限界とされていた。前記印字方法では、ノズル部とインク供給部との間において、インクの循環を行い、吐出を行わないときのノズル部での微振動等の付与方式を設けることで、また、両者を併用することで、乾燥性の付与したインクでも安定した連続吐出性が確保できる。
【0054】
本実施形態の印字方法によれば、粉立ちの多い錠剤に対しても、優れた定着性を発揮しつつ、安定的な連続印字を行うことができる。
【0055】
粉立ちの多い錠剤としては、例えば、口腔内崩壊錠(OD錠)や素錠などが挙げられる。また、乳糖、D-マンニトールなどの糖アルコール、アスパルテームなどの甘味料、軽質無水ケイ酸、微粒二酸化ケイ素、酸化マグネシウムなどの無機賦形剤などの低分子量の賦形剤を主要な賦形剤として用いた錠剤では、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの高分子量の賦形剤を用いた錠剤に比べて、粉立ちが多い。
【0056】
<錠剤>
本実施形態の錠剤は、前記インクの乾燥皮膜を表面に有する。
【実施例
【0057】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
<インクの調製>
〔実施例1〕
水43.5重量部に赤色3号3.0重量部を溶解させ、染料水溶液を作成した。次に、精製セラック25.0重量部をエタノール75.0重量部に溶解させ、この溶液に炭酸アンモニウムを1.0重量部添加後、40℃で1ヶ月間インキュベートし、25重量%セラック-エタノール溶液を得た。続いて、前記染料水溶液と、PVP(重量平均分子量45000)を2.0重量部、上記25重量%セラック-エタノール溶液を34.8重量部、炭酸アンモニウムを1.7重量部、プロピレングリコールを10.0重量部、エタノールを5.0重量部の割合でガラス製のビーカーに入れ、ステンレス製のプロペラで攪拌混合した後、ろ過精度1μmのフィルタでろ過し、DODインクジェット装置用のインクを作成した。
【0059】
〔実施例2~24〕
実施例1と同様にして、下表1に示す処方で実施例2~24に係るインクを作成した。
【0060】
〔比較例1~13〕
実施例1と同様にして、下表2に示す処方で比較例1~13に係るインクを作成した。
【0061】
<評価方法>
〔粘度〕
粘度(20℃、mPa・s)は、TOKI産業社製の粘度計(EHコーン型)を用いて測定した。
【0062】
〔染料溶解性〕
インクを-5℃の環境試験室に30日以上保管したとき、析出物の発生を目視で確認した。
◎:30日以上析出物が発生しなかった。
×:29日以内に析出物が発生した。
【0063】
〔連続吐出安定性〕
ドロップオンデマンド式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製の試作品)にて酸化マグネシウムを主要な賦形剤とするOD錠に対して、間隔を空けずに連続で印字し続ける際、印字かすれが発生するまでの時間により評価した。
◎:60分以上、印字かすれが発生しない。
○:30分以上60分未満で印字かすれが発生する。
△:15分以上30分未満で印字かすれが発生する。
×:15分未満で印字かすれが発生する。
【0064】
〔間欠吐出安定性〕
ドロップオンデマンド式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製の試作品)にて酸化マグネシウムを主要な賦形剤とするOD錠に対して、5分間隔で印字する際、間隔を空けた直後の印字の状態を目視により以下の基準で評価した。
◎:印字かすれがなく、視認性が良好。
○:若干印字かすれが生じるが、判読可能。
×:印字かすれが生じ、判読不可能。
【0065】
〔定着性(耐転写性)〕
酸化マグネシウムを主要な賦形剤とするOD錠にドロップオンデマンド式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製の試作品)にて印字直後、30錠をポリエチレン袋に入れ、10秒間手で振とうした後のインクの転写の程度を以下の基準で評価した。
◎:目視で確認し辛い転写が5錠以下。
○:目視で確認し辛い転写が6~10錠。
△:目視で容易に確認できる転写が11~15錠。
×:目視で容易に確認できる転写が16錠以上。
【0066】
〔耐光性〕
酸化マグネシウムを主要な賦形剤とするOD錠にドロップオンデマンド式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製の試作品)にて印字し、印字面にキセノン耐光試験機(株式会社東洋精機製、サンテスト CPS+)を用いて積算照度120万lux・hとなる条件で光を当て、印刷された文字の変色の有無を目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎:若干退色が見られるが、十分に印字の判読が可能である。
○:退色または変色が見られるものの、印字の判読が可能である。
△:上記○に比べ薄い印象を受けるが、印字の判読が可能である。
×:印字が完全に消失し、判読不可能である。
【0067】
〔耐湿性〕
酸化マグネシウムを主要な賦形剤とするOD錠にドロップオンデマンド式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製の試作品)にて印字したものを50℃、湿度80%の環境に1ヶ月間放置したときの印字のにじみの有無を目視により評価した。
◎:にじみは全くなし。
○:若干にじみはあるが、印字の判読が可能である。
△:上記○に比べ薄い印象を受けるが、印字の判読が可能である。
×:にじみが顕著に発生し、判読不可能である。
【0068】
各評価結果を表1又は表2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【要約】
【課題】
色材として色の種類が比較的多い可食性の染料を用いながら、粉末の発生量が多い錠剤であっても連続生産性が良好であり、定着性も良好な錠剤用インクジェットインクを提供すること。
【解決手段】
可食性の染料と、セラック及びポリビニルピロリドンを含む樹脂成分と、湿潤剤と、エタノール及び水を含む溶剤と、を含有する錠剤用インクジェットインクであって、前記染料の含有量が0.3重量%以上5重量%以下、ポリビニルピロリドンの含有量が0.5重量%以上3.5重量%以下、エタノールの含有量が10重量%以上80重量%以下、水の含有量が5重量%以上60重量%以下、エタノールと水の合計含有量が60重量%以上85重量%以下である、錠剤用インクジェットインク。
【選択図】なし