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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/14 20060101AFI20221214BHJP
   A63B 37/00 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
A63B37/14
A63B37/00 310
A63B37/00 328
A63B37/00 510
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2016232270
(22)【出願日】2016-11-30
(65)【公開番号】P2018086219
(43)【公開日】2018-06-07
【審査請求日】2019-09-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神野 一也
(72)【発明者】
【氏名】井上 英高
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 俊之
【合議体】
【審判長】古屋野 浩志
【審判官】藤本 義仁
【審判官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-123632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、この本体の外側に位置するペイント層とを備えたゴルフボールであって、
上記本体が、コアとこのコアの外側に位置するカバーとを有しており、
上記ゴルフボールの中心を通過する平面に沿った断面において、この断面に垂直な方向に上記ペイント層が30mgfの力で押されたときの押し込み深さが、390nm以上1500nm以下であり、
上記ペイント層が、主剤であるポリオール組成物と、硬化剤であるポリイソシアネート組成物とを含有するポリウレタン塗料から形成されており、
上記主剤と上記硬化剤との混合比(質量比)が、固形分換算で、3.06/1~6.8/1であり、
上記ポリオール組成物が、ポリオール化合物としてウレタンポリオールを含有し、
上記ウレタンポリオールの出発原料が、数平均分子量630以上2000以下のポリエーテルジオールであり、
上記ポリイソシアネート組成物が、ポリイソシアネート化合物として、トリイソシアネートを含有するゴルフボール。
【請求項2】
上記ペイント層の厚みが5μm以上50μm以下である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
記ペイント層が上記カバーに積層されており、
上記カバーのショアD硬度が20以上46以下である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
上記カバーが樹脂組成物から形成されており、この樹脂組成物の基材ポリマーがポリウレタンである、請求項に記載のゴルフボール。
【請求項5】
上記カバーの厚みが、0.1mm以上2.0mm以下である、請求項3又は4に記載のゴルフボール。
【請求項6】
記ペイント層が上記カバーに積層されており、
上記カバーのショアD硬度が50以上62以下である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項7】
上記カバーが樹脂組成物から形成されており、この樹脂組成物の基材ポリマーがアイオノマー樹脂である、請求項に記載のゴルフボール。
【請求項8】
上記カバーの厚みが、0.5mm以上3.0mm以下である、請求項6又は7に記載のゴルフボール。
【請求項9】
ペイント層を有するゴルフボールを切断して、このゴルフボールの中心を通過する断面を露出するステップ、
及び
上記切断によって露出した上記ペイント層の断面にナノインデンターの圧子を当てて、この断面に対して垂直な方向に押圧し、押圧により進行した圧子の進行距離と圧子の荷重とを計測することにより、このペイント層の押し込み深さを測定するステップ
を含み、
上記押し込み深さに基づいてペイント層の硬度を評価する、ゴルフボールのペイント層の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関する。詳細には、本発明は、その表面にペイント層を有するゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブで打撃されると、ゴルフボールは、バックスピンを伴って飛行する。バックスピンの速度が大きいと、落下後のゴルフボールのランが小さい。バックスピンの速度が大きなゴルフボールを使用することにより、ゴルフプレーヤーは、このゴルフボールを目標地点に静止させることができる。サイドスピンの速度が大きいと、ゴルフボールは曲がりやすい。サイドスピンの速度が大きなゴルフボールを使用することにより、プレーヤーは、このゴルフボールを意図的に曲げることができる。プレーヤーにとって、ゴルフボールのスピン性能は重要である。
【0003】
プレーヤーは、スピン性能と共に、ゴルフボールの打球感を重視する。プレーヤーは、ソフトな打球感を好む。
【0004】
ほとんどのゴルフボールは、その表面にペイント層を有している。ペイント層の役割は、ゴルフボールの外観を高めること、及びゴルフボールの汚染を防止することである。ペイント層はさらに、スピン性能及び打球感にも寄与しうる。
【0005】
特開2011-217820公報には、所定のマルテンス硬度及び所定のモジュラスを有するペイント層を含むゴルフボールが開示されている。このゴルフボールは、ウェット状態でのスピン性能に優れている。
【0006】
特開2013-126541公報には、所定のヤング率を有するペイント層を含むゴルフボールが開示されている。このゴルフボールは、スピン性能に優れる。同様のゴルフボールが、特開2013-126542公報及び特開2013-126543公報にも開示されている。
【0007】
特開2014-14383公報には、所定の貯蔵弾性率及び所定の損失正接を有するペイント層を含むゴルフボールが開示されている。このゴルフボールは、アプローチショットでのスピン性能に優れている。
【0008】
特開2016-123632公報には、所定の弾性率を有するペイント層を含むゴルフボールが開示されている。このゴルフボールは、耐汚染性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-217820公報
【文献】特開2013-126541公報
【文献】特開2013-126542公報
【文献】特開2013-126543公報
【文献】特開2014-14383公報
【文献】特開2016-123632公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ペイント層は薄いので、このペイント層の物性を直接測定することには、困難が伴う。特開2011-217820号公報に開示されたマルテンス硬度及びモジュラスは、ペイント層の組成と同じ組成を有するスラブによって測定される。従って、測定結果は、ゴルフボールにおけるペイント層の挙動を正確には反映しない。特開2011-217820号公報に開示されたゴルフボールのスピン性能は、十分ではない。
【0011】
特開2013-126541公報に開示されたヤング率は、厚みが2mmであるシートによって測定される。従って、測定結果は、ゴルフボールにおけるペイント層の挙動を正確には反映しない。特開2013-126541公報に開示されたゴルフボールのスピン性能は、十分ではない。特開2013-126542公報及び特開2013-126543公報に開示されたゴルフボールのスピン性能も、十分ではない。
【0012】
特開2014-14383公報に開示された貯蔵弾性率及び損失正接は、ペイント層の組成と同じ組成を有するフィルムによって測定される。従って、測定結果は、ゴルフボールにおけるペイント層の挙動を正確には反映しない。特開2014-14383公報に開示されたゴルフボールのスピン性能は、十分ではない。
【0013】
特開2016-123632公報に開示された弾性率は、走査型プローブ顕微鏡によって測定される。従って、測定結果は、ペイント層の下にあるカバーの物性の影響を受ける。特開2016-123632公報に開示されたゴルフボールのスピン性能は、十分ではない。
【0014】
本発明の目的は、スピン性能、打球感及び耐汚染性に優れたゴルフボールの提供にある。本発明の他の目的は、ペイント層の真の物性を測定しうる評価方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るゴルフボールは、本体と、この本体の外側に位置するペイント層とを備える。このゴルフボールの中心を通過する平面に沿った断面において、この断面に垂直な方向に、ペイント層が30mgfの力で押されたときの押し込み深さは、300nm以上3000nm以下である。
【0016】
好ましくは、押し込み深さは、400nm以上3000nm以下である。
【0017】
好ましくは、ペイント層の厚みは、5μm以上50μm以下である。
【0018】
本体が、コアとこのコアの外側に位置するカバーとを有してもよい。ペイント層は、このカバーに積層される。好ましくは、カバーのショアD硬度は20以上50以下であり、押し込み深さは400nm以上3000nm以下である。カバーのショアD硬度が50以上80以下であり、押し込み深さが300nm以上2500nm以下であってもよい。
【0019】
本発明に係るゴルフボール評価方法は、
ペイント層を有するゴルフボールを切断するステップ、
及び
この切断によって露出したペイント層の断面を押圧し、このペイント層の押し込み深さを測定するステップ
を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るゴルフボールは、スピン性能、打球感及び耐汚染性に優れる。本発明に係る評価方法により、ゴルフボールのペイント層の物性が客観的に評価されうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボールが示された一部切り欠き断面図である。
図2図2は、本発明の他の実施形態に係るゴルフボールが示された一部切り欠き断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0023】
[第一実施形態]
図1に示されたゴルフボール2は、本体4と、この本体4の外側に位置するペイント層6とを有している。本体4は、球状のコア8と、このコア8の外側に位置する中間層10と、この中間層10の外側に位置するカバー12とを有している。このゴルフボール2は、いわゆるスリーピース構造を有する。このゴルフボール2は、その表面に複数のディンプル14を有している。ゴルフボール2の表面のうちディンプル14以外の部分は、ランド16である。このゴルフボール2が、マーク層を有してもよい。このマーク層は、カバー12とペイント層6との間に位置してよく、ペイント層6の外側に位置してもよい。
【0024】
このゴルフボール2の直径は、40mm以上45mm以下が好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。このゴルフボール2の質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0025】
コア8は、ゴム組成物が架橋されることによって形成されている。ゴム組成物の基材ゴムとして、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体及び天然ゴムが例示される。2種以上のゴムが併用されてもよい。反発性能の観点から、ポリブタジエンが好ましく、特にハイシスポリブタジエンが好ましい。
【0026】
コア8のゴム組成物は、共架橋剤を含んでいる。反発性能の観点から好ましい共架橋剤は、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛及びメタクリル酸マグネシウムである。ゴム組成物が、共架橋剤と共に有機過酸化物を含むことが好ましい。好ましい有機過酸化物として、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン及びジ-t-ブチルパーオキサイドが挙げられる。
【0027】
コア8のゴム組成物が、充填剤、硫黄、加硫促進剤、硫黄化合物、老化防止剤、着色剤、可塑剤及び分散剤のような添加剤を含んでもよい。ゴム組成物が、カルボン酸又はカルボン酸塩を含んでもよい。ゴム組成物が、合成樹脂粉末又は架橋されたゴム粉末を含んでもよい。
【0028】
コア8の直径は30.0mm以上が好ましく、38.0mm以上が特に好ましい。コア8の直径は42.0mm以下が好ましく、41.5mm以下が特に好ましい。コア8が、2以上の層を有してもよい。コア8が、その表面にリブを有してもよい。コア8が中空であってもよい。
【0029】
中間層10は、樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物の好ましい基材ポリマーは、アイオノマー樹脂である。好ましいアイオノマー樹脂として、α-オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体が挙げられる。好ましい他のアイオノマー樹脂として、α-オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β-不飽和カルボン酸と炭素数が2以上22以下のα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が挙げられる。この二元共重合体及び三元共重合体において、好ましいα-オレフィンはエチレン及びプロピレンであり、好ましいα,β-不飽和カルボン酸はアクリル酸及びメタクリル酸である。この二元共重合体及び三元共重合体において、カルボキシル基の一部は金属イオンで中和されている。中和のための金属イオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及びネオジムイオンが例示される。
【0030】
アイオノマー樹脂に代えて、又はアイオノマー樹脂と共に、中間層10の樹脂組成物が他のポリマーを含んでもよい。他のポリマーとして、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン及びポリウレタンが例示される。樹脂組成物が、2種以上のポリマーを含んでもよい。
【0031】
中間層10の樹脂組成物が、二酸化チタンのような着色剤、硫酸バリウムのような充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を含んでもよい。比重調整の目的で、この樹脂組成物がタングステン、モリブデン等の高比重金属の粉末を含んでもよい。
【0032】
中間層10のショアD硬度は40以上が好ましく、50以上が特に好ましい。中間層10のショアD硬度は80以下が好ましく、70以下が特に好ましい。中間層10の厚みは0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上が特に好ましい。中間層10の厚みは2.5mm以下が好ましく、2.2mm以下が特に好ましい。中間層10の比重は0.90以上が好ましく、0.95以上が特に好ましい。中間層10の比重は1.10以下が好ましく、1.05以下が特に好ましい。中間層10が、2以上の層を有してもよい。
【0033】
カバー12は、樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物の好ましい基材ポリマーは、ポリウレタンである。樹脂組成物が、熱可塑性ポリウレタンを含んでもよく、熱硬化性ポリウレタンを含んでもよい。生産性の観点から、熱可塑性ポリウレタンが好ましい。熱可塑性ポリウレタンは、ハードセグメントとしてのポリウレタン成分と、ソフトセグメントとしてのポリエステル成分又はポリエーテル成分とを含む。基材がポリウレタンであるカバー12は、ゴルフボール2のスピン性能に寄与しうる。さらにこのカバー12は、ゴルフボール2の打球感にも寄与しうる。
【0034】
ポリウレタンは、分子内にウレタン結合を有する。このウレタン結合は、ポリオールとポリイソシアネートとの反応によって形成されうる。
【0035】
ウレタン結合の原料であるポリオールは、複数のヒドロキシル基を有する。低分子量ポリオール及び高分子量ポリオールが用いられうる。
【0036】
ポリウレタン成分のイソシアネートとして、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートが例示される。特に、脂環式ジイソシアネートが好ましい。脂環式ジイソシアネートは主鎖に二重結合を有さないので、カバー12の黄変が抑制される。脂環式ジイソシアネートとして、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びトランス-1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)が例示される。汎用性及び加工性の観点から、H12MDIが好ましい。
【0037】
ポリウレタンに代えて、カバー12の樹脂組成物が他のポリマーを含んでもよい。他のポリマーとして、アイオノマー樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル及びポリオレフィンが例示される。樹脂組成物が、2種以上のポリマーを含んでもよい。
【0038】
カバー12の樹脂組成物が、二酸化チタンのような着色剤、硫酸バリウムのような充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を含んでもよい。
【0039】
カバー12の硬度Hcは、20以上50以下が好ましい。硬度Hcが20以上であるカバー12は、耐久性に優れる。この観点から、硬度Hcは22以上がより好ましく、24以上が特に好ましい。硬度Hcが50以下であるカバー12を有するゴルフボール2は、スピン性能に優れる。この観点から、硬度Hcは48以下がより好ましく、46以下が特に好ましい。
【0040】
カバー12(又は中間層10)の硬度は、「ASTM-D 2240-68」の規定に準拠して測定される。自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたショアD型硬度計により、硬度が測定される。測定には、熱プレスで成形された、カバー12(又は中間層10)の材料と同一の材料からなる、厚みが約2mmであるシートが用いられる。測定に先立ち、シートは23℃の温度下に2週間保管される。測定時には、3枚のシートが重ね合わされる。
【0041】
スピン性能の観点から、カバー12の厚みは0.1mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましく、0.4mm以上が特に好ましい。ゴルフボール2の飛行性能の観点から、この厚みは2.0mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましく、1.0mm以下が特に好ましい。厚みは、ランド16の直下において測定される。
【0042】
カバー12が、2以上の層を有してもよい。
【0043】
ゴルフボール2が、中間層10とカバー12との間に、補強層を備えてもよい。補強層は、中間層10と堅固に密着し、カバー12とも堅固に密着する。補強層は、中間層10からのカバー12の剥離を抑制する。補強層は、ポリマー組成物からなる。補強層の基材ポリマーとして、二液硬化型エポキシ樹脂及び二液硬化型ウレタン樹脂が例示される。
【0044】
ペイント層6は、カバー12と積層されている。このペイント層6は、樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物の基材として、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂及びポリエステルが例示される。特に好ましい基材樹脂は、ポリウレタンである。ポリウレタンは、ゴルフボール2のスピン性能に寄与しうる。
【0045】
典型的には、ペイント層6は、ポリウレタン塗料から形成される。この塗料は、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とを含有する。この塗料では、ポリオールが主剤であり、ポリイソシアネートが硬化剤である。
【0046】
上記ポリオール組成物は、ポリオール化合物を含有する。ポリオール化合物は、分子中に2以上の水酸基を有する。ポリオール化合物が分子の末端に水酸基を有してもよく、分子の末端以外に水酸基を有してもよい。ポリオール組成物が、2種以上のポリオール化合物を有してもよい。
【0047】
分子の末端に水酸基を有するポリオール化合物には、低分子量ポリオール及び高分子量ポリオールが含まれる。
【0048】
低分子量ポリオールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6-ヘキサンジオールのようなジオール;並びにグリセリン、トリメチロールプロパン及びヘキサントリオールのようなトリオールが例示される。
【0049】
高分子量のポリオールとして、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ウレタンポリオール及びアクリルポリオールが例示される。ポリエーテルポリオールとして、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)及びポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)が例示される。ポリエステルポリオールとして、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)及びポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)が例示される。ポリカプロラクトンポリオールとして、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)が例示される。ポリカーボネートポリオールとして、ポリヘキサメチレンカーボネートが例示される。
【0050】
塗料の硬化時間が短いとの観点から、好ましいポリオール化合物は、ウレタンポリオールである。ウレタンポリオールは、2以上のウレタン結合を有し、かつ2以上の水酸基を有する。ウレタンポリオールは、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とが、ポリオール成分の水酸基がポリイソシアネート成分のイソシアネート基に対して過剰になるような条件で反応させられることで、得られうる。
【0051】
ウレタンポリオールの出発原料であるポリオール成分として、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール及びポリカーボネートジオールが例示される。好ましいポリオール成分は、ポリエーテルジオールである。ポリエーテルジオールとして、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール及びポリオキシテトラメチレングリコールが例示される。好ましいポリエーテルジオールは、ポリオキシテトラメチレングリコールである。
【0052】
上記ポリエーテルジオールの数平均分子量は、550以上が好ましい。この分子量が550以上であるポリエーテルジオールは、スピン性能に寄与しうる。この観点から、この分子量は600以上がより好ましく、630以上が特に好ましい。この分子量は、3000以下が好ましい。この分子量が3000以下であるポリエーテルジオールは、ペイント層6の耐汚染性に寄与しうる。この観点から、この分子量は2500以下がより好ましく、2000以下が特に好ましい。ポリオール成分の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される。測定条件は、以下の通りである。
標準物質:ポリスチレン
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム:有機溶媒系GPC用カラム(昭和電工社の商品名「Shodex KFシリ ーズ」)
【0053】
ウレタンポリオールにおけるポリエーテルジオールの含有率は、60質量%以上が好ましい。この含有率が60質量%以上であるウレタンポリオールは、スピン性能に寄与しうる。この観点から、この含有率は62質量%以上がより好ましく、65質量%以上が特に好ましい。
【0054】
上記ウレタンポリオールの出発原料であるポリオール成分として、低分子量ポリオールが用いられうる。この低分子量ポリオールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6-ヘキサンジオールのようなジオール;並びにグリセリン、トリメチロールプロパン及びヘキサントリオールのようなトリオールが例示される。出発原料として、2種以上の低分子量ポリオールが用いられてもよい。
【0055】
ウレタンポリオールの出発原料であるポリイソシアネート成分は、2以上のイソシアネート基を有する。ポリイソシアネート成分として、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ビトリレン-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)及びパラフェニレンジイソシアネート(PPDI)のような芳香族ポリイソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(HXDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びノルボルネンジイソシアネート(NBDI)のような脂環式ポリイソシアネート;並びに脂肪族ポリイソシアネートが例示される。出発原料として、2種以上のポリイソシアネートが用いられてもよい。
【0056】
ウレタンポリオールの重量平均分子量は、4000以上が好ましい。この分子量が4000以上であるウレタンポリオールは、スピン性能に寄与しうる。この観点から、この分子量は4300以上がより好ましく、4500以上が特に好ましい。この分子量は、20000以下が好ましい。この分子量が20000以下であるウレタンポリオールは、ペイント層6の耐汚染性に寄与しうる。この観点から、この分子量は18000以下がより好ましく、16000以下が特に好ましい。
【0057】
ウレタンポリオールの水酸基価は、10mgKOH/g以上が好ましく、15mgKOH/g以上がより好ましく、20mgKOH/g以上が特に好ましい。水酸基価は200mgKOH/g以下が好ましく、190mgKOH/g以下がより好ましく、180mgKOH/g以下が特に好ましい。水酸基価は、「JIS K 1557-1」の規定に準拠して測定される。測定には、アセチル化法が採用される。
【0058】
塗料における硬化剤液であるポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート化合物を含有する。このポリイソシアネート化合物は、2以上のイソシアネート基を有する。
【0059】
ポリイソシアネート化合物として、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ビトリレン-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)及びパラフェニレンジイソシアネート(PPDI)のような芳香族ジイソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びノルボルネンジイソシアネート(NBDI)のような脂環式又は脂肪族ジイソシアネート;並びにジイソシアネートのアロハネート体、ビュレット体、イソシアヌレート体及びアダクト体のようなトリイソシアネートが例示される。ポリイソシアネート化合物が、2種以上のイソシアネートを含んでもよい。
【0060】
好ましいトリイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット体、及びイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体が例示される。
【0061】
好ましくは、ポリイソシアネート組成物は、トリイソシアネート化合物を含有する。ポリイソシアネート組成物における、ポリイソシアネートの全量に対する、トリイソシアネート化合物の比率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が特に好ましい。ポリイソシアネート組成物が、ポリイソシアネート化合物として、トリイソシアネート化合物のみを含有してもよい。
【0062】
ポリイソシアネート組成物が含有するポリイソシアネートのイソシアネート基量(NCO%)は、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上が特に好ましい。イソシアネート基量は45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が特に好ましい。イソシアネート基量(NCO%)は、下記数式によって算出される。
NCO = (100 × Mi × 42) / Wi
Mi:ポリイソシアネート中のイソシアネート基のモル数
42:NCOの分子量
Wi:ポリイソシアネートの総質量(g)
【0063】
ポリイソシアネートの具体例として、DIC社の商品名「バーノックD-800」、「バーノックDN-950」及び「バーノックDN-955」;住化バイエルウレタン社の商品名「デスモジュールN75MPA/X」、「デスモジュールN3300」、「デスモジュールL75(C)」、「デスモジュールZ4470」及び「スミジュールE21-1」;日本ポリウレタン工業社の商品名「コロネートHX」及び「コロネートHK」;旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネート24A-100」、「デュラネート21S-75E」、「デュラネートTPA-100」及び「デュラネートTKA-100」;並びにデグサ社の商品名「VESTANAT T1890」が例示される。
【0064】
硬化型塗料組成物において、主剤が有する水酸基(OH基)と硬化剤が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)は、0.1以上が好ましい。モル比(NCO基/OH基)が0.1以上である組成物から、耐汚染性に優れたペイント層6が形成されうる。この観点から、このモル比は0.2以上が特に好ましい。このモル比は、2.0以下が好ましい。このモル比が2.0以下である組成物は、ゴルフボール2のスピン性能に寄与しうる。この観点から、この比率は1.8以下がより好ましく、1.6以下が特に好ましい。
【0065】
ペイント層6は、本体4の表面に塗料が塗布されることで形成されうる。塗料が、重ね塗りされてもよい。重ね塗りの場合、先に塗布される塗料と後で塗布される塗料とが、同種であっても良く、異種であっても良い。
【0066】
ペイント層6の厚みTpは、5μm以上50μm以下が好ましい。厚みTpが5μm以上であるペイント層6は、スピン性能に寄与しうる。この観点から、厚みTpは6μm以上がより好ましく、7μm以上が特に好ましい。厚みTpが50μm以下であるペイント層6は、耐久性に優れる。この観点から、厚みTpは40μm以下がより好ましく、30μm以下が特に好ましい。塗料が重ね塗りされる場合、複数の層の合計の厚みが上記範囲内であればよい。
【0067】
ペイント層6の押し込み深さは、300nm以上3000nm以下が好ましい。押し込み深さが300nm以上であるペイント層6は、スピン性能に寄与しうる。この観点から、押し込み深さは400nm以上がより好ましく、500nm以上が特に好ましい。押し込み深さが3000nm以下であるペイント層6は、耐汚染性に優れる。この観点から、押し込み深さは2500nm以下がより好ましく、2000nm以下が特に好ましい。
【0068】
押し込み深さの測定では、ゴルフボール2が割られて、半球が得られる。この半球には、ゴルフボール2の中心を通過する断面が露出する。この断面は、ペイント層6の断面を含んでいる。クライオミクロトームにより、この半球の断面が水平とされる。この断面のペイント層6に、ナノインデンターの圧子が当てられ、断面に対して垂直な方向に押圧される。押圧により、圧子は進行する。圧子の荷重と進行距離とが、計測される。測定時の条件は、以下の通りである。
ナノインデンター:株式会社エリオニクスの「ENT-2100」
温度:30℃
圧子:バーコビッチ圧子(65.03° As(h)=26.43h
分割数:500ステップ
ステップインターバル:20msec (100mgf)
圧子の荷重は、50mgfに到達するまで、徐々に高められる。荷重が30mgfであるときの圧子の進行距離が、計測される。
【0069】
この押し込み深さの測定により、カバー12の硬度の影響を受けることなく、ペイント層6の硬度が評価されうる。本発明に係る評価方法は、
(1)ペイント層6を有するゴルフボール2を切断するステップ、
及び
(2)上記切断によって露出した上記ペイント層6の断面を押圧し、このペイント層6の押し込み深さを測定するステップ
を含む。
【0070】
[第二実施形態]
図2に示されたゴルフボール20は、本体22と、この本体22の外側に位置するペイント層24とを有している。本体22は、球状のコア26と、このコア26の外側に位置するカバー28とを有している。このゴルフボール20は、いわゆるツーピース構造を有する。このゴルフボール20は、その表面に複数のディンプル30を有している。ゴルフボール20の表面のうちディンプル30以外の部分は、ランド32である。このゴルフボール20が、マーク層を有してもよい。このマーク層は、カバー28とペイント層24との間に位置してよく、ペイント層24の外側に位置してもよい。
【0071】
このゴルフボール20の直径は、40mm以上45mm以下が好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。このゴルフボール20の質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0072】
コア26は、ゴム組成物が架橋されることによって形成されている。コア26には、図1に示されたコア8のゴム組成物と同様のゴム組成物が用いられうる。
【0073】
コア26の直径は30.0mm以上が好ましく、38.0mm以上が特に好ましい。コア26の直径は42.0mm以下が好ましく、41.5mm以下が特に好ましい。コア26が、2以上の層を有してもよい。コア26が、その表面にリブを有してもよい。コア26が中空であってもよい。
【0074】
カバー28は、樹脂組成物から形成されている。カバー28には、図1に示された中間層10の樹脂組成物と同様の樹脂組成物が用いられうる。この樹脂組成物の好ましい基材ポリマーは、アイオノマー樹脂である。
【0075】
アイオノマー樹脂に代えて、又はアイオノマー樹脂と共に、カバー28の樹脂組成物が他のポリマーを含んでもよい。他のポリマーとして、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン及びポリウレタンが例示される。樹脂組成物が、2種以上のポリマーを含んでもよい。
【0076】
カバー28の硬度Hcは、50以上80以下が好ましい。硬度Hcが50以上であるカバー28は、反発性能に優れる。この観点から、硬度Hcは52以上がより好ましく、54以上が特に好ましい。硬度Hcが80以下であるカバー28を有するゴルフボール20は、打球感及びスピン性能に優れる。この観点から、硬度Hcは78以下がより好ましく、76以下が特に好ましい。
【0077】
カバー28の硬度Hcは、「ASTM-D 2240-68」の規定に準拠して測定される。自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたショアD型硬度計により、硬度Hcが測定される。測定には、熱プレスで成形された、カバー28の材料と同一の材料からなる、厚みが約2mmであるシートが用いられる。測定に先立ち、シートは23℃の温度下に2週間保管される。測定時には、3枚のシートが重ね合わされる。
【0078】
耐久性の観点から、カバー28の厚みTcは0.5mm以上が好ましく、0.8mm以上がより好ましく、1.0mm以上が特に好ましい。打球感の観点から、この厚みTcは3.0mm以下が好ましく、2.7mm以下がより好ましく、2.5mm以下が特に好ましい。厚みTcは、ランド32の直下において測定される。
【0079】
ペイント層24は、カバー28と積層されている。このペイント層24は、樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物の基材として、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂及びポリエステルが例示される。特に好ましい基材樹脂は、ポリウレタンである。ポリウレタンは、ゴルフボール20のスピン性能に寄与しうる。ペイント層24には、図1に示されたペイント層6の樹脂組成物と同様の樹脂組成物が用いられうる。
【0080】
ペイント層24は、本体22の表面に塗料が塗布されることで形成されうる。塗料が、重ね塗りされてもよい。重ね塗りの場合、先に塗布される塗料と後で塗布される塗料とが、同種であっても良く、異種であっても良い。
【0081】
ペイント層24の厚みTpは、5μm以上50μm以下が好ましい。厚みTpが5μm以上であるペイント層24は、スピン性能に寄与しうる。この観点から、厚みTpは6μm以上がより好ましく、7μm以上が特に好ましい。厚みTpが50μm以下であるペイント層24は、耐久性に優れる。この観点から、厚みTpは40μm以下がより好ましく、30μm以下が特に好ましい。塗料が重ね塗りされる場合、複数の層の合計の厚みが上記範囲内であればよい。
【0082】
ペイント層24の押し込み深さは、300nm以上3000nm以下が好ましい。押し込み深さが300nm以上であるペイント層24は、スピン性能に寄与しうる。この観点から、押し込み深さは400nm以上がより好ましく、450nm以上が特に好ましい。押し込み深さが3000nm以下であるペイント層24は、耐汚染性に優れる。この観点から、押し込み深さは2800nm以下がより好ましく、2500nm以下が特に好ましい。
【0083】
[カバーの硬度と押し込み深さとの好ましい組み合わせ]
硬度Hcが20以上50以下であるカバーと、押し込み深さが400nm以上3000nm以下であるペイント層との組み合わせが、好ましい。硬度Hcが50以上80以下であるカバーと、押し込み深さが300nm以上2500nm以下であるペイント層との組み合わせも、好ましい。
【実施例
【0084】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0085】
[実施例1]
100質量部のハイシスポリブタジエン(JSR社の商品名「BR-730」)、23.5質量部のアクリル酸亜鉛、5質量部の酸化亜鉛、適量の硫酸バリウム及び0.95質量部のジクミルパーオキサイドを混練し、ゴム組成物を得た。このゴム組成物を共に半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に投入し、155℃の温度下で18分間加熱して、直径が38.7mmであるコアを得た。所定の質量のコアが得られるように、硫酸バリウムの量を調整した。
【0086】
55質量部のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミランAM7329」)、45質量部の他のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1555」)、適量の硫酸バリウム及び3質量部の二酸化チタンを二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を射出成形法にてコアの周りに被覆し、カバーを形成した。このカバーの厚みは、2.0mmであった。
【0087】
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、数平均分子量650)及びトリメチロールプロパン(TMP)を溶剤(トルエン及びメチルエチルケトン)に溶解した。モル比(PTMG:TMP)は、1.8:1.0であった。この溶液に、触媒として、主剤全量に対して0.1質量%のジブチル錫ジラウレートを添加した。このポリオール溶液を80℃に保持しながら、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を滴下混合した。この混合液のモル比(NCO/OH)は、0.6であった。滴下後にイソシアネートがなくなるまで攪拌を続け、その後常温で冷却し、ウレタンポリオール組成物である主剤を得た。この主剤の詳細は、以下の通りである。
固形分:30質量%
PTMGの含有率:67質量%
固形分の水酸基価:67.4mgKOH/g
ウレタンポリオールの重量平均分子量:4867
【0088】
30質量部のヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネートTKA-100」、NCO含有率:21.7質量%)、30質量部のヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネート21S-75E」、NCO含有率:15.5質量%)、及び40質量部のイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(BAYER社の商品名「デスモジュールZ4470」、NCO含有率:11.9質量%)を混合した。この混合物に、溶媒として、メチルエチルケトン、酢酸n-ブチル及びトルエンの混合溶媒を添加し、ポリイソシアネート組成物である硬化剤を得た。この硬化剤におけるポリイソシアネート成分の濃度は、60質量%であった。
【0089】
前述の主剤(ウレタンポリオール組成物)と硬化剤(ポリイソシアネート組成物)とを混合し、塗料を得た。主剤と硬化剤との混合比(質量比)は、6.4/1であった。前述のコア及びカバーからなる本体の表面をサンドブラストによって処理し、このカバーの周りに塗料を塗布した。この塗料を、40℃の温度下で24時間乾燥させ、ペイント層を有するゴルフボールを得た。このゴルフボールでは、直径は約42.7mmであり、質量は約45.6gであった。
【0090】
[実施例2及び3並びに比較例1及び2]
ウレタンポリオール組成物とポリイソシアネート組成物との混合比を、下記の表3及び4に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2及び3並びに比較例1及び2のゴルフボールを得た。
【0091】
[実施例4及び5]
カバーの組成を下記の表4に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例4及び5のゴルフボールを得た。カバーの組成の詳細が、下記の表2に示されている。
【0092】
[実施例6]
100質量部のハイシスポリブタジエン(JSR社の商品名「BR-730」)、30.5質量部のアクリル酸亜鉛、10質量部の酸化亜鉛、適量の硫酸バリウム、0.1質量部の2-チオナフトール、0.3質量部のペンタブロモジフェニルジスルフィド、0.7質量部のジクミルパーオキサイド及び2質量部の安息香酸を混練し、ゴム組成物を得た。このゴム組成物を共に半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に投入し、150℃の温度下で19分間加熱して、直径が39.7mmであるコアを得た。所定の質量のコアが得られるように、硫酸バリウムの量を調整した。
【0093】
55質量部のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミランAM7329」)、45質量部の他のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1555」)、適量の硫酸バリウム及び3質量部の二酸化チタンを二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を射出成形法にてコアの周りに被覆し、中間層を形成した。この中間層の厚みは、1.0mmであった。
【0094】
二液硬化型エポキシ樹脂を基材ポリマーとする塗料組成物(神東塗料社の商品名「ポリン750LE)を、調製した。この塗料組成物の主剤液は、30質量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂と、70質量部の溶剤とを含む。この塗料組成物の硬化剤液は、40質量部の変性ポリアミドアミンと、55質量部の溶剤と、5質量部の二酸化チタンとを含む。主剤液と硬化剤液との質量比は、1/1である。この塗料組成物を中間層の表面にスプレーガンで塗布し、23℃の雰囲気下で12時間保持して、補強層を得た。この補強層の厚みは、10μmであった。
【0095】
100質量部の熱可塑性ポリウレタンエラストマー(BASFジャパン社の商品名「エラストランNY80A」)、4質量部の二酸化チタン及び0.04質量部のウルトラマリンブルーを二軸混練押出機で混練し、樹脂組成を得た。この樹脂組成物から、圧縮成形法にて、ハーフシェルを得た。このハーフシェル2枚で、コア、中間層及び補強層からなる球体を被覆した。これらのハーフシェル及び球体を、それぞれが半球状キャビティを備え、キャビティ面に多数のピンプルを備えた上型及び下型からなるファイナル金型に投入し、圧縮成形法にてカバーを得た。カバーの厚みは、0.5mmであった。
【0096】
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、数平均分子量650)及びトリメチロールプロパン(TMP)を溶剤(トルエン及びメチルエチルケトン)に溶解した。モル比(PTMG:TMP)は、1.8:1.0であった。この溶液に、触媒として、主剤全量に対して0.1質量%のジブチル錫ジラウレートを添加した。このポリオール溶液を80℃に保持しながら、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を滴下混合した。この混合液のモル比(NCO/OH)は、0.6であった。滴下後にイソシアネートがなくなるまで攪拌を続け、その後常温で冷却し、ウレタンポリオール組成物である主剤を得た。この組成物の詳細は、以下の通りである。
固形分:30質量%
PTMGの含有率:67質量%
固形分の水酸基価:67.4mgKOH/g
ウレタンポリオールの重量平均分子量:4867
【0097】
30質量部のヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネートTKA-100」、NCO含有率:21.7質量%)、30質量部のヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネート21S-75E」、NCO含有率:15.5質量%)、及び40質量部のイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(BAYER社の商品名「デスモジュールZ4470」、NCO含有率:11.9質量%)を混合した。この混合物に、溶媒として、メチルエチルケトン、酢酸n-ブチル及びトルエンの混合溶媒を添加し、硬化剤であるポリイソシアネート組成物を得た。この組成物におけるポリイソシアネート成分の濃度は、60質量%であった。
【0098】
前述の主剤(ウレタンポリオール組成物)と硬化剤(ポリイソシアネート組成物)とを混合し、塗料を得た。主剤と硬化剤との混合比(質量比)は、固形分換算で、6.4/1であった。前述のコア、中間層、補強層及びカバーからなる本体の表面をサンドブラストによって処理し、このカバーの周りに塗料を塗布した。この塗料を、40℃の温度下で24時間乾燥させ、ペイント層を有するゴルフボールを得た。このゴルフボールでは、直径は約42.7mmであり、質量は約45.6gであった。
【0099】
[実施例7及び8並びに比較例3及び4]
ウレタンポリオール組成物とポリイソシアネート組成物との混合比を、下記表5及び6に示される通りとした他は実施例6と同様にして、実施例7及び8並びに比較例3及び4のゴルフボールを得た。
【0100】
[実施例9]
カバーの組成を下記の表6に示される通りとした他は実施例6と同様にして、実施例9のゴルフボールを得た。カバーの組成の詳細が、下記の表2に示されている。
【0101】
[圧縮変形量]
YAMADA式コンプレッションテスターにより、ゴルフボールの圧縮変形量を測定した。このテスターでは、ゴルフボールが金属製の剛板の上に置かれる。このゴルフボールに向かって、金属製の円柱が徐々に降下する。この円柱の底面と剛板との間に挟まれたゴルフボールは、変形する。ゴルフボールに98Nの初荷重がかかった状態から1274Nの終荷重がかかった状態までの円柱の移動距離が、測定される。初荷重がかかるまでの円柱の移動速度は、0.83mm/sである。初荷重がかかってから終荷重がかかるまでの円柱の移動速度は、1.67mm/sである。
【0102】
[スピン速度]
ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、サンドウェッジを装着した。ヘッド速度が16m/secである条件でゴルフボールを打撃して、バックスピンの速度を測定した。10回の測定で得られたデータの平均値が、下記の表3-6に示されている。
【0103】
[打球感]
30名のプレーヤーにウエッジにてゴルフボールを打撃させ、打球感を聞き取った。「打球感がよい」と答えたプレーヤーの数に基づき、下記の格付けを行った。
A:25人以上
B:20-24人
C:15-19人
D:14人以下
この結果が、下記の表3-6に示されている。
【0104】
[耐汚染性]
ゴルフボールの表面の色調(L,a,b)を、色差計(コニカミノルタ社の「CM3500D)にて測定した。6質量%のヨウ素と4質量%のヨウ化カリウムとを含むエタノール溶液(すなわちヨードチンキ)を用意した。このヨードチンキを水で40倍に希釈した。この希釈液に、ゴルフボールを30秒間浸漬した。希釈液から取り出したゴルフボールの表面に付着した希釈液を、拭き取った。このゴルフボールの色調を、再度測定した。下記の数式に基づき、色差ΔEを算出した。
ΔE = (ΔL + Δa + Δb1/2
この色差ΔEに基づき、下記の格付けを行った。
A:ΔEが15以下である。
B:ΔEが15を超えて20以下である。
C:ΔEが20を超えて25以下である。
D:ΔEが25を超えている。
この結果が、下記の表3-6に示されている。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
表3-6に示されるように、各実施例のゴルフボールは、諸性能に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上説明されたペイント層は、ツーピースボール及びスリーピースボールのみならず、ワンピースボール、フォーピースボール、ファイブピースボール、シックスピースボール、糸巻きボール等にも適用されうる。本発明に係るゴルフボールは、ゴルフコースでのプレイ、ドライビングレンジでのプラクティス等に適している。
【符号の説明】
【0113】
2、18・・・ゴルフボール
4、22・・・本体
6、24・・・ペイント層
8、26・・・コア
10・・・中間層
12、28・・・カバー
14、30・・・ディンプル
16、32・・・ランド
図1
図2