(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】吸水性編物
(51)【国際特許分類】
D04B 1/16 20060101AFI20221214BHJP
D02G 1/02 20060101ALI20221214BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20221214BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20221214BHJP
D06M 15/647 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
D04B1/16
D02G1/02 B
D02G3/04
D06M15/53
D06M15/647
(21)【出願番号】P 2017207979
(22)【出願日】2017-10-27
【審査請求日】2020-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】冨路本 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】八木 優子
(72)【発明者】
【氏名】大林 徹治
(72)【発明者】
【氏名】倉谷 弘子
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2004-0047412(KR,A)
【文献】特開2017-172101(JP,A)
【文献】特開2015-098661(JP,A)
【文献】特開2010-144288(JP,A)
【文献】特開2008-302043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/16
D02G 1/02
D02G 3/04
D06M 15/53
D06M 15/647
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混繊交絡糸を含み、表面に吸水剤が付着している吸水性編物であって、
前記混繊交絡糸は、単糸繊度が0.2~0.9dtex、かつ総繊度30~100dtexのポリエステル繊維Aと、単糸繊度が1.0~5.0dtex、かつ総繊度が30~100dtexのポリエステル繊維Bとから構成されており、
前記ポリエステル繊維Aと前記ポリエステル繊維Bとの単糸繊度比(A/B)が1/20~1/6であり、
前記ポリエステル繊維Aと前記ポリエステル繊維Bとの質量比率(A/B)が20/80~80/20であり、
前記混繊交絡糸の表面部分において、前記ポリエステル繊維Aによる突出部が形成されており、
前記混繊交絡糸の交絡数が90~300個/mであり、
JIS L 1096:2010に従って測定された伸長率(定荷重法、荷重14.7N)が120%以下であり、
KES-Fシステムによる織編物表面粗さの平均偏差(SMD)が1.5~6.5μmである、吸水性編物。
【請求項2】
JIS L 1907:2010に記載のバイレック法に従って測定された吸水高さが101mm以上である、請求項1に記載の
吸水性編物。
【請求項3】
前記混繊交絡糸の交絡数が130~300個/mである、請求項1又は2に記載の吸水性編物。
【請求項4】
編密度が、55~150コース/2.54cm、且つ45~100ウェール/2.54cmである、請求項1~3の何れか1項に記載の吸水性編物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の吸水性編物を製造する方法であって、
伸度が18~50%である熱収縮性混繊交絡糸を準備する工程と、
前記熱収縮性混繊交絡糸を製編して生機を製造する工程と、
前記生機を熱水収縮処理させて低伸縮性織編物を得る工程と、
前記低伸縮性編物を吸水加工して、本発明の吸水性編物を得る工程、
を含む、吸水性編物の製造方法。
【請求項6】
前記熱収縮性混繊交絡糸を準備する工程が、
(1)単糸繊度が1.0~10.0dtex、総繊度が30~200dtex、伸度が80~150%、沸水収縮率が20%以上のポリエステル高配向未延伸糸Bを延伸倍率1.3~1.7倍で延伸し、ポリエステル延伸糸Bを得る延伸工程、又は、
単糸繊度が0.6~4.8dtex、総繊度が18~96dtex、伸度が15~60%、沸水収縮率が20%以上のポリエステル延伸糸Bを準備する工程と、
(2)単糸繊度が0.20~1.44dtex、総繊度が30~160dtex、伸度が80~150%のポリエステル高配向未延伸糸Aを、加工速度100~700m/分、延伸倍率1.1~1.6倍の条件で仮撚し、ポリエステル仮撚糸Aを得る仮撚り工程と、
(3)前記ポリエステル仮撚糸Aとポリエステル延伸糸Bとを流体ノズルを用いて、エアー圧0.1~1.0Mpa、ポリエステル仮撚糸Aのオーバーフィード率がポリエステル延伸糸Bのオーバーフィード率よりも4~10.0%高くなるオーバーフィード率差で混繊交絡する混繊交絡工程と、
を含む、
請求項5に記載の吸水性編物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた吸水性を有し、且つ風合いが良好な吸水性編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸水性を有し、且つ風合いの良い編物が、ユニフォーム衣料、スポーツ衣料などの分野で要望されており、これまでに多くの吸水性編物が提案されている。昨今では、編物に高い付加価値を持たせる観点から、より安価に高い吸水性能を付与することが要望されているが、単に編物を吸水加工するだけでは、かかる要望には応えられないのが実情である。
【0003】
織編物に高い吸水性を付与するには、第一に織編物に使用する糸の形態を工夫すること、第二に基材たる織編物の構造を吸水性が一層発現し易くなるように工夫すること、第三に使用する吸水剤の組成又は濃度を工夫すること、が有効とされている。中でも糸形態を工夫することは従来から行われている効果的な手法である。
【0004】
特許文献1~3には、異形断面糸を使用した織編物が提案されている。これらの技術を利用すれば、織編物に吸水性を付与できる。
【0005】
特許文献4には、染色性の異なる少なくとも2種の繊維群からなる混繊糸であり、その少なくとも一方の繊維群の断面形状が3個以上の凹部を持つ多葉断面形状をした異形断面繊維であって、異形度が1.7~6.0であるポリエステル異染性混繊糸が開示されており、当該ポリエステル異染性混繊糸を使用することによって、明瞭な杢調、ドライ感、及び軽量感と共に、吸水性を具備させ得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3869107号公報
【文献】特許第5003643号公報
【文献】特開2016-44377号公報
【文献】特開2001-200439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~4に記載されたような異形断面糸を使用することは、編物の設計によらずに、一律に吸水性を付与できる点で有効であるが、吸水性の点では十分に満足できず、更なる改善が望まれている。また、当該異形断面糸を使用した編物の表面は、がさついたタッチとなり、高級感のある風合いを発現し得ないという欠点もある。
【0008】
このような状況下、安価な吸水剤を使用しても、優れた吸水性を付与し、且つ編物表面に、高級感のある独特な風合いを付与する技術が望まれているが、このような技術はこれまでに提案されていない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、安価な吸水剤を使用しても、優れた吸水性を有し、且つ編物表面に、高級感のある独特な風合いが発現する編物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、織編物表面に微細な凹凸構造を設ける従来技術が、専ら、織編物の組織、密度、目付けなど織編物の設計を工夫することで同構造を具現している点に鑑み、もはやそのような工夫では、吸水性と、高級感ある風合いとを更に向上させるための根本的な解決には至らないと考えた。即ち、編物を構成する糸条自身の構造、及び編物の物性を工夫することにより、高い吸水性と、高級感ある風合いとを得ることに着目した。
【0011】
本発明者は、かかる観点から、編物を構成繊維の糸条の構造、及び編物の物性について鋭意検討を重ねた結果、構成繊維として、繊度が異なる2種のポリエステル繊維からなり、一方のポリエステル繊維が熱水処理により収縮するものを使用した混繊交絡糸(熱収縮性混繊交絡糸)を含む編物に熱水収縮処理を施した編物は、吸水剤を使用するだけで、優れた吸水性と、高級感のある独特な風合いとを具備できることを見出した。具体的には、当該編物の構成繊維の糸条において、繊度が小さいポリエステル繊維による突出部が安定に形成され、当該突出部の毛細管現象による吸水作用と吸水剤による吸水作用が相まって、吸水性が高まることを見出した。更に、当該編物の構成繊維の糸条に形成された突出部は、繊度が小さいポリエステル繊維が緩やかに絡み合って形成されているため、編物表面に、起毛感による柔らかで滑らかなタッチが発現すると共に、この細い繊維が絡み合った部分は、糸条の表面部分に多くの空気を保持できる層(空気保持層)を形成し、当該空気保持層が編物の表面において、ふくらみ感又は反発感といった良好な風合いを付与することを見出した。
【0012】
より具体的には、下記(i)~(iv)の特性を有する混繊交絡糸を含み、表面に吸水剤が付着しており、JIS L 1096:2010に従って測定された伸長率(定荷重法、荷重14.7N)が120%以下である吸水性編物は、優れた吸水性及び良好な風合いを兼ね備え得ることを見出した。
(i)単糸繊度が0.2~0.9dtex、かつ総繊度30~100dtexのポリエステル繊維Aと、単糸繊度が1.0~5.0dtex、且つ総繊度が30~100dtexのポリエステル繊維Bとから構成される。
(ii)前記ポリエステル繊維Aと前記ポリエステル繊維Bとの単糸繊度比(A/B)が1/20~1/4の範囲である。
(iii)前記ポリエステル繊維Aと前記ポリエステル繊維Bとの質量比率(A/B)が20/80~80/20の範囲である。
(iv)表面部分において、ポリエステル繊維Aによる突出部が形成されている。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 混繊交絡糸を含み、表面に吸水剤が付着している吸水性編物であって、
前記混繊交絡糸は、単糸繊度が0.2~0.9dtex、かつ総繊度30~100dtexのポリエステル繊維Aと、単糸繊度が1.0~5.0dtex、かつ総繊度が30~100dtexのポリエステル繊維Bとから構成されており、
前記ポリエステル繊維Aと前記ポリエステル繊維Bとの単糸繊度比(A/B)が1/20~1/4であり、
前記ポリエステル繊維Aと前記ポリエステル繊維Bとの質量比率(A/B)が20/80~80/20であり、
前記混繊交絡糸の表面部分において、前記ポリエステル繊維Aによる突出部が形成されており、
JIS L 1096:2010に従って測定された伸長率(定荷重法、荷重14.7N)が120%以下である、吸水性編物
項2. KES-Fシステムによる織編物表面粗さの平均偏差(SMD)が1.5~6.5μmである、項1に記載の吸水性編物。
項3. JIS L 1907:2010に記載のバイレック法に従って測定された吸水高さが101mm以上である、項1又は2に記載の吸水速乾性織編物。
項4. 前記混繊交絡糸の交絡数が90~300個/mである、項1~3のいずれかに記載の吸水性編物。
項5. 編密度が、55~150コース/2.54cm、且つ45~100ウェール/2.54cmである、項1~4の何れか1項に記載の吸水性編物。
項6. 項1~5のいずれかに記載の吸水性編物を製造する方法であって、
伸度が18~50%である熱収縮性混繊交絡糸を準備する工程と、
前記熱収縮性混繊交絡糸を製編して生機を製造する工程と、
前記生機を熱水収縮処理させて低伸縮性織編物を得る工程と、
前記低伸縮性編物を吸水加工して、本発明の吸水性編物を得る工程、
を含む、吸水性編物の製造方法。
項7. 前記熱収縮性混繊交絡糸を準備する工程が、
(1)単糸繊度が1.0~10.0dtex、総繊度が30~200dtex、伸度が80~150%、沸水収縮率が20%以上のポリエステル高配向未延伸糸Bを延伸倍率1.3~1.7倍で延伸し、ポリエステル延伸糸Bを得る延伸工程、又は、
単糸繊度が0.6~4.8dtex、総繊度が18~96dtex、伸度が15~60%、沸水収縮率が20%以上のポリエステル延伸糸Bを準備する工程と、
(2)単糸繊度が0.20~1.44dtex、総繊度が30~160dtex、伸度が80~150%のポリエステル高配向未延伸糸Aを、加工速度100~700m/分、延伸倍率1.1~1.6倍の条件で仮撚し、ポリエステル仮撚糸Aを得る仮撚り工程と、
(3)前記ポリエステル仮撚糸Aとポリエステル延伸糸Bとを流体ノズルを用いて、エアー圧0.1~1.0Mpa、ポリエステル延伸糸Bとポリエステル仮撚糸Aとのオーバーフィード率差が0~10.0%の条件で混繊交絡する混繊交絡工程と、
を含む、項6に記載の吸水性編物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の編物では、構成繊維である混繊交絡糸の表面部分において、細い繊維が突出した突出部が形成されている。この細い繊維の突出部の毛細管現象による吸水作用と、吸水剤の吸水作用が相まって、優れた吸水性が実現されている。そのため、本発明によれば、編物の構造を特段工夫せずに、通常の吸水剤を使用しても、優れた吸水性を有する編物を提供できる。
【0015】
また、本発明の編物では、構成繊維である混繊交絡糸に形成されている細い繊維の突出部により、起毛感による柔らかで滑らかなタッチが発現すると共に、細い繊維の絡み合いによって形成された空気保持層が、反発感やふくらみ感を発現する。そのため、本発明によれば、優れた吸水性だけでなく、高級のある独特な風合いを有する編物を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の吸水性編物(実施例1)に含まれている混繊交絡糸の光学顕微鏡写真である。
【
図2】本発明の吸水性編物(実施例1)における厚み部分の光学顕微鏡写真である。
【
図3】本発明の吸水性編物の製造方法において、熱収縮性混繊交絡糸準備工程の一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の吸水性編物は、特定の構成を有する混繊交絡糸を含み、表面に吸水剤が付着しており、かつJIS L 1096:2010に従って測定された伸長率(定荷重法、荷重14.7N)が120%以下であることを特徴とする。以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
[混繊交絡糸]
本発明で使用される混繊交絡糸は、単糸繊度が0.2~0.9dtex、且つ総繊度が30~100dtexのポリエステル繊維Aと、単糸繊度が1.0~5.0dtex、かつ総繊度が30~100dtexのポリエステル繊維Bとから構成される。この混繊交絡糸は、ポリエステル繊維Aとポリエステル繊維Bとの質量比率(A/B)が20/80~80/20の範囲にあり、当該混繊交絡糸の表面部分において、ポリエステル繊維Aによる突出部(凸部)が形成されている。
【0019】
ポリエステル繊維A及びポリエステル繊維Bの単糸繊度を、それぞれ上述の特定範囲とすることにより、両者を十分に絡めさせることができる。この絡まりにより、混繊交絡糸の表面部分において、相対的に細いポリエステル繊維Aによる微細な突出部が形成されている(
図1参照)。そのため、当該突出部の上に水滴がのった場合に、毛細管現象により水滴が混繊交絡糸の内側に移行しやすくなる。このような突出部の毛細管現象による吸水作用と後述する吸水剤の吸水作用が相まって、本発明の吸水性編物では優れた吸水性を備えることが可能になっている。なお、本発明において、ポリエステル繊維Aによる突出部とは、混繊交絡糸の表面部分において、ポリエステル繊維Aのループ、たるみなどによって、ポリエステル繊維Aが外側に突出した部分をいう。
【0020】
また、後述の通り、この混繊交絡糸は特定の単糸繊度を有する2種類のポリエステル繊維A、Bを特定の質量比で混繊したものであるため、表面部分に相対的に細いポリエステル繊維Aが緩やかに絡み合った部分が形成されている。そして、この細い繊維が絡み合った部分は、空気を保持しやすい層(空気保持層)を形成する。突出部はポリエステル繊維Aが絡み合ったこの部分から突出している。このように混繊交絡糸において、突出部と空気保持層が形成されることにより、本発明の吸水性編物は、のふくらみ感や反発感といった高級感のある独特の風合いを有することが可能になる。なお、混繊交絡糸において、当該空気保持層のさらに内側では、ポリエステル繊維Aと、Bとが絡み合っている。
【0021】
さらに、ポリエステル繊維A及びポリエステル繊維Bの総繊度を、それぞれ上述の特定範囲とすることにより、優れた吸水性及び風合いを有する吸水性編物とすることができる。ここで、単に構成繊維の繊度を細くしただけでは、ボリュームが低減し、ポリエステル繊維Aによる突出部が維持され難くなるため吸水性に劣り、更に風合いの点でも劣る編物しか得られない。しかし、本発明の吸水性編物においては、ポリエステル繊維Bの材料繊維として熱水収縮性の高いものを用い、熱収縮処理が施された混繊交絡糸を含む。そのために、ポリエステル繊維Bは十分に熱収縮されて、ポリエステル繊維Aが突出して形成されている突出部を顕著に維持させやすくなり、細繊度のポリエステル繊維を用いた場合であっても(特に、ポリエステル繊維Aの繊度を十分に細くした場合であっても)突出部が維持される。更に、本発明の吸水性編物では、ポリエステル繊維Bは十分に熱収縮されていることにより、伸縮性が抑制されて、ストレッチ性が弱く伸び難いために、柔らかくなり過ぎず、風合いを良好にすることができる。
【0022】
編物に対して高い吸水性を付与できる混繊交絡糸とする観点から、ポリエステル繊維Aの単糸繊度としては、好ましくは0.2~0.8dtex程度、より好ましくは0.2~0.6dtex程度、更に好ましくは0.2~0.5dtex程度が挙げられる。なお、ポリエステル繊維Aの単糸繊度が0.2dtex未満になると、繊維が細過ぎて開繊効果が乏しくなり、ポリエステル繊維Bとの絡み効果が小さくなって、交絡不良が発生しやすくなる。一方、ポリエステル繊維Aの単糸繊度が0.9dtexを超えると、繊維が剛直となり、ポリエステル繊維Bとの混繊が不十分となって、交絡不良が生じやすくなる。また、ポリエステル繊維Aが太くなると、繊維が剛直となるため、上述のような空気保持層が形成され難くなり、結果として、所望の吸水性及び風合いを付与しにくくなる。
【0023】
ポリエステル繊維Aの総繊度は30~100dtexであり、30~85dtexであることが好ましく、30~80dtexであることがより好ましい。30dtex以上であると、ポリエステル繊維Bとの絡みが十分となり交絡状態が良好となり、突出部及び空気保持層を維持しやすくなる。100dtex以下であると、軽量性に優れる。
【0024】
ポリエステル繊維Bの単糸繊度が1.0dtex未満になると、ポリエステル繊維Aによって形成された上記の微細な突出部を混繊交絡糸の表面部分において保持することが困難となり、上記のような空気保持層が形成されにくくなる。また、ポリエステル繊維Aとポリエステル繊維Bの単糸繊度とが同程度になると、混繊交絡糸を有する本発明の吸水性編物が柔らかくなり過ぎ、ハリコシのない編物になりやすくなる。一方、ポリエステル繊維Bの単糸繊度が5.0dtexを超えると、上記範囲の単糸繊度を有するポリエステル繊維Aと混繊した場合にも、編物全体として硬い風合いのものとなる。このような織編物は衣料用織編物などとして好ましくない。さらに、ポリエステル繊維Bの単糸繊度が5.0dtexを超えると、交絡状態が悪くなって、編物の表面に、上記のような微細な突出部を形成し難くなり、編物に対して所望の吸水性及び風合いを付与することが難しくなる。優れた吸水性を備えさせつつ、優れた風合いを効果的に備えさせるという観点から、ポリエステル繊維Bの単糸繊度としては、好ましくは1.5~4.0dtex程度、より好ましくは2.0~3.8dtex程度が挙げられる。
【0025】
ポリエステル繊維Bの総繊度は30~100dtexであり、32~90dtexであることが好ましく、40~90dtexであることが更に好ましく、40~85dtexであることがより好ましい。30dtex以上であると、突出部及び空気保持層を形成、維持しやすくなる。100dtex以下であると、軽量性に優れる。
【0026】
ポリエステル繊維Aとポリエステル繊維Bとの単糸繊度比(A/B)は、1/20~1/4に設定すればよいが、1/20~1/5であることが好ましく、1/15~1/6であることがさらに好ましく、1/10~1/6であることがより好ましい。本発明の吸水性編物においては、より軽量とするためにポリエステル繊維Aの繊度を十分に小さくしても、上述したポリエステル繊維Bにより、突出部が形成され易く且つ維持され易くなり、優れた吸水性及び風合いを付与することができる。
【0027】
本発明において、混繊交絡糸における仮撚捲縮の度合い(即ち、捲縮率)としては、低い方が好ましく、例えば10%以下であることがより好ましく、0%であることが特に好ましい。混繊交絡糸はポリエステル繊維Bの熱収縮によって、表面部分に上記のような突出部を形成又は維持することができ、長手方向に熱収縮するために、混繊交絡糸としての捲縮率は実質的には有していないためである。混繊交絡糸の捲縮率が10%を超えると熱収縮処理が不十分であり、所望の吸水性及び風合いが得られ難い傾向が現れることがある。
【0028】
本発明において、混繊交絡糸の捲縮率は、以下の方法により測定して得られる値である。まず、枠周1.125mの検尺機を用いて巻き数5回で混繊交絡糸をカセ取りした後、カセを室温下フリー状態でスタンドに一昼夜吊り下げる。次に、カセに0.000147cN/dtexの荷重を掛けたまま沸水中に投入し30分間湿熱処理する。その後、カセを取り出し、水分を濾紙で軽く取り、室温下フリー状態で30分間放置する。そして、カセに0.000147cN/dtexの荷重及び0.00177cN/dtex(軽重荷)を掛け、長さXを測定する。続いて、0.000147cN/dtexの荷重は掛けたまま、軽重荷に代えて0.044cN/dtexの荷重(重荷重)を掛け、長さYを測定する。その後、捲縮率(%)=(Y-X)/Y×100なる式に基づき、算出する。捲縮率の測定は、混繊交絡糸の5本について行い、それぞれの平均をその糸の捲縮率とする。
【0029】
ポリエステル繊維Aとポリエステル繊維Bとの質量比率(A/B)は、20/80~80/20の範囲にある。ポリエステル繊維Aの質量比率(混率)が20%未満の場合、混繊交絡糸におけるポリエステル繊維Aの割合が少なすぎるため、上記のような突出部を混繊交絡糸の表面部分に形成することが困難となり、織編物に高い吸水性を付与することが難しくなる。一方、ポリエステル繊維Aの混率が80%を超えると、ポリエステル繊維Bの割合が少なすぎて、上記の突出部を表面部分に保持することが難しくなる。このため、微細な突出部が潰れ易くなり、編物に対して優れた吸水性及び風合いを付与することが困難となる。ポリエステル繊維Aとポリエステル繊維Bとの質量比率(A/B)としては、好ましくは30/70~70/30程度が挙げられる。
【0030】
混繊交絡糸は糸全体として混繊交絡されており、その交絡数としては、好ましくは90~300個/m程度が挙げられ、130~300個/mがより好ましく、200~300個/mがさらに好ましい。交絡数が90個/m未満である場合、交絡状態が解け易くなり、混繊交絡糸の表面部分において上記のような微細な突出部を形成することが難しくなる場合がある。また、交絡状態が解け易くなると、織編物の製造工程において必然的に受けるガイド摩耗によって、糸条内部にズレが発生し、編物の欠点を誘発しやすくなる場合がある。一方、交絡数が300個/mを超えると、ポリエステル繊維Aとポリエステル繊維Bとが絡まり過ぎることで上記の突出部も形成されにくくなるため、編物に優れた吸水性及び風合いを付与し難くなる。なお、本発明において、混繊交絡糸の交絡数は、JIS L1013 8.15フック法に基づいて測定して得られた値である。
【0031】
また、本発明で使用される混繊交絡糸において、ポリエステル繊維A及びポリエステル繊維Bの少なくとも一方に対して、適宜の添加剤を含有させることにより、本発明の吸水性編物に副次的な機能を付与することもできる。なお、添加剤によって付与される機能は、通常、添加剤の使用量(絶対量)が増すほど増大することを踏まえると、単糸繊度の大きなポリエステル繊維Bに添加剤を含有させた方が、ポリエステル繊維Aよりも添加剤の使用量を増大できるので好ましい。このような添加剤としては、例えば、太陽光遮断物質、赤外線吸収物質などが挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明で使用される混繊交絡糸が太陽光遮断物質を含む場合には、太陽光遮断効果によって、吸水性編物に清涼感を付与することができる。混繊交絡糸が太陽光遮断物質を含む場合、上述の観点から、ポリエステル繊維Bに太陽光遮断物質が含まれていることが好ましい。本発明で使用される太陽光遮断物質は、太陽光の可視光線や赤外線を透過させない物質であり、かつ、ポリエステル中に分散可能であるものであればよい。優れた太陽光遮断性を備えさせて吸水性編物に良好な清涼感を付与するという観点から、太陽光遮断物質の好適な例として、酸化チタン、チタン酸カリウム、酸化亜鉛、インジウムオキサイドなどが挙げられる。これらの太陽光遮断物質は、1種単独で使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0033】
ポリエステル繊維Aおよび/またはポリエステル繊維Bに太陽光遮断物質を含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば3~10質量%程度、好ましくは3~7質量%程度が挙げられる。このような含有量を充足することによって、紡糸性の低下を抑制しつつ、所望の清涼感を付与することができる。また、ポリエステル繊維Aまたはポリエステル繊維Bの繊維断面を同心芯鞘型として、芯部と鞘部に含まれる太陽光遮断物質の量に差を設けてもよい。例えば、鞘部に含まれる太陽光遮断物質の量を0.8質量%以下にすると同時に、繊維全体では太陽光遮断物質が3~10質量%程度含まれるようにするとよい。鞘部の含有量を減らすことにより、製造工程においてガイド摩耗を受け難くなり、糸切れや毛羽が発生しにくくなる。
【0034】
また、本発明で使用される混繊交絡糸が赤外線吸収物質を含む場合には、吸水性編物に保温性を付与することができる。混繊交絡糸が赤外線吸収物質を含む場合には、上述の観点から、ポリエステル繊維Bに赤外線吸収物質が含まれていることが好ましい。本発明で使用される紫外線吸収物質は、赤外線を吸収して熱に変換できる物質であり、かつポリエステル中に分散可能であるものであればよい。優れた赤外線吸収性を備えさせて吸水性編物に良好な保温性を付与するという観点から、赤外線吸収物質の好適な例として、炭化ジルコニウム、炭化ケイ素、アンチモンドープ酸化インジュームなどが挙げられる。これらの赤外線吸収物質は、1種単独で使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0035】
ポリエステル繊維Aおよび/またはポリエステル繊維Bに赤外線吸収物質を含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば0.5~5質量%程度が挙げられる。このような含有量を充足することによって、紡糸性の低下を抑制しつつ、所望の保温性を付与することができる。また、ポリエステル繊維A又はポリエステル繊維Bの繊維断面を同心芯鞘型として、芯部と鞘部に含まれる赤外線吸収物質の量に差を設けてもよい。例えば、芯部に含まれる赤外線吸収物質の量を5~25質量%程度、より好ましくは7~17質量%程度にすると同時に、繊維全体では赤外線吸収物質が0.5~5質量%程度含まれるようにするとよい。鞘部の含有量を減らすことにより、製造工程においてガイド摩耗を受け難くなり、糸切れや毛羽が発生しにくくなる。
【0036】
また、本発明の吸水性編物に意匠性を付与するために、ポリエステル繊維A及び/又はポリエステル繊維Bとして、カチオン可染ポリエステルを使用してもよい。カチオン可染ポリエステルを使用すると、染色加工時にカチオン染料で染色を行うことにより、杢感を付与することができる。
【0037】
カチオン可染ポリエステルとしては、カチオン染料で染色されるものであることを限度として特に制限されないが、エチレンテレフタレート単位に5-スルホイソフタル酸が全酸成分に対して0.5~5.0モル%程度共重合されてなるポリエステルが好適である。
【0038】
[吸水剤]
本発明の吸水性編物では、織編物の少なくとも一方の表面に吸水剤が付着している。本発明の吸水性編物において、後述する透湿防水層を積層させる場合には、当該防湿防水層が設けられる面とは反対側の面に吸水剤が付着していればよく、後述する透湿防水層を積層させない場合には、編物の一方の面又は双方の面に吸水剤が付着していればよい。
【0039】
吸水剤とは、繊維に対して親水性を付与し、水との親和性を向上させる添加剤であり、吸水加工剤、吸水性付与剤等とも称されることがある。吸水剤としては、繊維製品に付着して水に対する親和性を付与できる親水性物質であればよく、繊維分野において通常使用されているものを用いることができる。上述の通り、本発明の吸水性編物において、編物を構成する混繊交絡糸の表面構造を特定のものとすることにより、吸水性と風合いが向上されており、従来公知の安価な吸水剤を使用しても、優れた吸水性を備えることができる。したがって、本発明において使用される吸水剤の種類は、特に制限されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド付加ポリエステル系化合物(ポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートのブロック共重合体等)、ポリエチレンオキサイド付加フッ素系化合物、ポリエチレンオキサイド付加シリコン系化合物等のポリエチレンオキサイド系化合物;ジオレイルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩等が挙げられる。これらの吸水剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの吸水剤の中でも、好ましくはポリエチレンオキサイド系化合物、更に好ましくはポリエチレンオキサイド付加ポリエステル系化合物が挙げられる。
【0040】
本発明の吸水性編物に付着させる吸水剤の量については、使用する吸水剤の種類、目的とする吸水性の程度等に応じて適宜設定すればよい。例えば、編物に付着させる吸水剤の量を高めると、例えばスポーツウェア等に使用した場合に、汗を吸収する能力が高くなる。本発明の吸水性編物における吸水剤の固形分量としては、例えば、0.0001~5g/m2、好ましくは0.01~0.5g/m2が挙げられる。
【0041】
また、本発明の吸水性編物において、吸水剤の付着性を高めておくことにより、繰り返し洗濯を行った後でも良好な吸水速乾性を保つことができ、実使用の場面で繰り返し着用しても、快適な着用感を得ることができる。吸水剤の付着性を高めるには、例えば、架橋剤を用いて吸水剤を編物に結合させたり、ポリエステル繊維に結合する反応性基を有する吸水剤を使用したりすればよい。
【0042】
[吸水性編物の構造・特性]
本発明の吸水性編物において、構成糸の少なくとも一部に前記混繊交絡糸が使用されていればよいが、優れた吸水性及び風合いを備えさせるという観点から、編物における前記混繊交絡糸の使用量として、20質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、より一層好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、90%以上、95質量%以上、又は100質量%が挙げられる。
【0043】
本発明の吸水性編物は、JIS L 1096:2010に従って測定された伸長率(定荷重法、荷重14.7N)が120%以下である。当該伸長率として、好ましくは30~100%、更に好ましくは40~90%が挙げられる。伸長率(伸縮性)が上記範囲であると、混繊交絡糸に含まれるポリエステル繊維Bが十分に熱収縮されることで、風合いが良好な編物であることの指標となる。更に、伸長率(伸縮性)が上記範囲であると、さらに混繊交絡糸におけるポリエステル繊維Bが十分に熱水収縮されて、上記のようなポリエステル繊維Aに起因する微細な突出部が十分に形成、維持されているため、編物としての吸水性が高められていることの指標となる。なお、伸縮性の下限は、風合いが硬くなり過ぎないために、30%程度であることが好ましい。本発明の吸水性編物において、伸長率を上記範囲とするために、例えば、編物における前記混繊交絡糸の使用量を20質量%以上に設定すればよい。
【0044】
本発明の吸水性編物において、混繊交絡糸の表面部分に形成された突出部の微細の程度の指標として、KES-Fシステムによる織編物表面粗さの平均偏差(SMD)を用いることができる。本発明の吸水性編物において、KES-Fシステムによる織物表面粗さの平均偏差(SMD)が、1.5~5.0μmにあることが好ましい。当該平均偏差(SMD)が1.5μm未満の場合、突出部が微細になり過ぎ、むしろ平坦な形状に近くなる。そうすると、ふくらみ感、反発感に乏しい風合いとなることがある。一方、当該平均偏差(SMD)が6.5μmを超えると、突出部が大きくなり過ぎ、ざらざらとした粗悪な風合いになることがある。当該平均偏差(SMD)を前記範囲内に設定するには、本発明の吸水性編物における前記混繊交絡糸の使用量を調節すればよく、例えば、編物における前記混繊交絡糸の使用量を20質量%以上に設定すればよい。
【0045】
また、本発明の吸水性編物において、軽量性を向上させるためにポリエステル繊維A及びポリエステル繊維Bとして細繊度のものを用いても、ポリエステル繊維Bが熱水収縮されているために、混繊交絡糸の突出部を容易に形成及び維持させることができ、1.5以上のSMDを達成することができる。
【0046】
なお、本発明において、KES-Fシステムによる織編物表面粗さの平均偏差(SMD)は、自動化表面試験機を用いて以下の測定条件で求められる値である。
(1)測定対象となる吸水性編物を20cm四方の試験片に切り出し、試験片に400gの張力をかけて自動化表面試験機に設置する。
(2)金属摩擦子を含めて50gの垂直方向の荷重を試験片に掛け、バネの接触圧により10gの力で摩擦子を接触させた状態で、試験片を前後に30mm移動して、試験片の表面粗さの変動を計測する。
(3)測定は、WARP、WEFTの2方向で各3回行い、その平均値を平均偏差(SMD)とする。
【0047】
本発明の吸水性編物は優れた吸水性を有しており、かかる吸水性は、JIS L 1907:2010に記載のバイレック法における吸水高さを指標として評価することができる。本発明の吸水性編物が有する吸水性として、JIS L 1907:2010に記載のバイレック法における吸水高さが、例えば、101mm以上、好ましくは120mm以上、更に好ましくは150mm以上が挙げられる。
【0048】
また、本発明において吸水性をより一層向上させるという観点から、編物のカバーファクター(CF)が1500~3000であることが好ましく、2200~2800であることがより好ましい。カバーファクターが1500を下回ると、組織点の粗い編物となり、編物内に空隙が増える。そのため、その空隙に水滴が落ちる傾向となり、毛細管現象が適切に発現できなくなることがある。また、カバーファクターが3000を上回ると、組織点による拘束が強まり、上述の混繊交絡糸の表面部分における微細な突出部が失われる傾向が現れ、吸水性の向上が期待できなくなることがあると共に、柔らかで滑らかな風合いが失われる場合がある。
【0049】
なお、カバーファクター(CF)とは、編物の粗密を数値化したものであり、織物の場合、以下の式により算出される。
【数1】
【0050】
本発明の吸水性編物において、編密度については、特に制限されないが、例えば、55~150コース/2.54cm且つ45~100ウェール/2.54cm、好ましくは50~100コース/2.54cm且つ45~85ウェール/2.54cmが挙げられる。コース密度、ウェール密度のそれぞれの範囲を下回ると組織点の粗い編物となり、編物内に空隙が増える傾向が現れる。そのため、その空隙に水滴が落ちる傾向となり、毛細管現象が適切に発現できなくなることがある。一方、コース密度、ウェール密度のそれぞれの範囲を上回ると組織点による拘束が強まり、編物としての引裂強力や破裂強力が低下することがある。
【0051】
本発明の吸水性編物は、構成繊維として細繊度のものを用いることで軽量性に優れる。本発明の吸水性編物の目付けについては、特に制限されないが、例えば、200g/m2以下であることが好ましく、150g/m2以下であることがより好ましい。目付けの下限値は、特に限定されないが、例えば、80g/m2である。
【0052】
また、本発明の吸水性編物の編組織としては、制限されず、用途に応じて組織を適宜採用すればよい。本発明の吸水性編物の編組織として、具体的には、平編、スムース編、ゴム編、パール編等の丸編;ハーフ編、サテン編等の経編が挙げられ、必要に応じて多重組織であってもよい。本発明の吸水性編物においては、上記混繊交絡糸の微細な突出部をそのまま保持した編物とすることにより、吸水性及び風合いをより一層向上できるので、上記混繊交絡糸は、無撚状態で織編組織に配されるのが好ましい。また、同様の観点から、上述の編組織の中でも、表面が平滑な組織(例えば、丸編であればスムース、タックメッシュ等、経編であればハーフ、サテン等)が好ましい。
【0053】
図2は、実施例1で得られた本発明の吸水性編物における、厚み部分を光学顕微鏡で撮影した写真である(倍率:100倍)。
図1から明らかなように、ポリエステル繊維Bが熱収縮されていることにより、編物自体が押し込められて、ポリエステル繊維Aによる突出部が維持されていることが理解できる。これにより、構成繊維の繊度を細くして軽量性を高めた場合であっても、特にポリエステル繊維Aの繊度をポリエステル繊維Bと比較してより細くした場合であっても、突出部が十分に維持されて平坦な編物表面とならず、優れた吸水性を有することができる。
【0054】
本発明の吸水性編物は、片面に透湿防水層を積層させて積層生地にしてもよい。このように透湿防水層を設けることによって、透湿性と防水性を兼ね備えさせることができる。本発明の吸水性編物において、吸水剤が一方の表面のみに付着している場合には、前記透水防湿層は、吸水剤が付着していない側に設ければよい。
【0055】
透湿防水層を構成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、主成分としてのポリウレタン樹脂から構成されるものが挙げられる。また、吸水性編物と透湿防水層の間には接着剤層を含んでもよい。また、透湿防水層上に、さらに別の繊維布帛が積層されていてもよい。
【0056】
[その他の加工]
本発明の吸水性編物には、必要に応じて、抗菌加工、染色加工、撥水裏吸水加工、UVカット加工、蓄熱加工、制菌加工、抗菌防臭加工、消臭加工、防汚加工、防蚊加工、カレンダー加工、プリント加工等の後加工が施されていてもよい。いずれの加工においても、本発明の効果が喪失する程度にまで突出部がつぶれないような条件で行うことが好ましい。
【0057】
[吸水性編物の用途]
本発明の吸水性編物は、吸水性及び軽量性に優れ、更に良好な風合いを有する。そのため、ユニフォーム衣料、スポーツ衣料、カジュアルウェア等の衣料製品、アウトドア製品等の用途において、好適に用いられる。
【0058】
[吸水性編物の製造方法]
本発明の吸水性編物の製造方法は、伸度が18~50%である熱収縮性混繊交絡糸を準備する工程(熱収縮性混繊交絡糸準備工程)と、熱収縮性混繊交絡糸を製編して生機を製造する工程(生機製造工程)と、生機を熱水収縮処理させて低伸縮性織編物を得る工程(熱水収縮処理工程)と、低伸縮性編物を吸水加工して、本発明の吸水性編物を得る工程(吸水加工工程)と、をこの順に含む。
【0059】
また、本発明の吸水性編物に透湿防水層を積層させる場合には、前記吸水加工工程後の吸水性編物の片面に、透湿防水層を積層させる工程(透湿防水層積層工程)を含む。
【0060】
以下、本発明の吸水性編物物の製造方法について、工程毎に具体的に説明する。
【0061】
(熱収縮性混繊交絡糸準備工程)
熱収縮性混繊交絡糸準備工程は、伸度が18~50%である熱収縮性混繊交絡糸を準備すればよい。準備する熱収縮性混繊交絡糸の伸度として、好ましくは18~45%、さらに好ましくは18~40%が挙げられる。熱収縮性混繊交絡糸の伸度は、JIS L1013 8.5.1に基づいて、定速伸長型の引張り試験機を用いて、試料長200mm、引張り速度200mm/minの条件で引張試験を行うことによって求められる値である。後述するポリエステル高配向未延伸糸A及びポリエステル高配向未延伸糸Bの伸度の測定方法も同様である。
【0062】
熱収縮性混繊交絡糸準備工程の具体的実施態様については、特に制限されないが、例えば、以下の工程を含む態様が挙げられる。
(1)単糸繊度が1.0~10.0dtex、総繊度が30~200dtex、沸水収縮率が20%以上、伸度が80~150%のポリエステル高配向未延伸糸Bを延伸倍率1.3~1.7倍で延伸し、ポリエステル延伸糸Bを得る延伸工程、又は
単糸繊度が0.6~4.8dtex、総繊度が18~96dtex、伸度が15~60%、沸水収縮率が20%以上のポリエステル延伸糸Bを準備する工程と、
(2)単糸繊度が0.2~1.44dtex、総繊度が30~160dtex、伸度が80~150%のポリエステル高配向未延伸糸Aを、加工速度100~700m/分、延伸倍率1.1~1.6倍の条件で仮撚りし、ポリエステル仮撚糸Aを得る仮撚り工程。
(3)延伸工程で延伸されたポリエステル延伸糸Bと、仮撚り工程で仮撚りされたポリエステル仮撚糸Aとを、流体ノズルを用いて、エアー圧0.1~1.0Mpa、ポリエステル延伸糸Bとポリエステル仮撚糸Aとのオーバーフィード率差が0~10.0%の条件で混繊交絡する混繊交絡工程。
【0063】
熱収縮性混繊交絡糸準備工程で準備される熱収縮性混繊交絡糸は、生機製造工程、熱水収縮処理工程、及び吸水加工工程を経て、本発明の吸水性編物に含まれる混繊交絡糸となり得るものである。熱収縮性混繊交絡糸準備工程においては、特定のポリエステル高配向未延伸糸B(混繊交絡糸を構成するポリエステル繊維Bとなる)を予め特定の延伸倍率にて延伸し、ポリエステル延伸糸Bとする延伸工程を行う。これにより、ポリエステル高配向未延伸糸A(混繊交絡糸を構成するポリエステル繊維Aとなる)及びポリエステル延伸糸Bの伸度は、ほぼ同じになるかポリエステル延伸糸Bの方がやや低くなる。次に、ポリエステル高配向未延伸糸Aを予め仮撚りし、ポリエステル仮撚糸Aを得る仮撚り工程を行う。これにより、ポリエステル高配向未延伸糸Aが開繊し、ポリエステル延伸糸Bと交絡しやすくなる。その後、延伸工程で延伸されたポリエステル延伸糸Bと、混繊の相手方となるポリエステル仮撚糸Aとを複合する混繊交絡工程を行い、熱収縮性混繊交絡糸を得る。熱収縮性混繊交絡糸においては、両者のオーバーフィード率を調整することによりポリエステル仮撚糸Aが外側(表面側)に多く配されることが好ましい。
【0064】
なお、生機製造工程、熱水収縮処理工程、及び吸水加工工程を経て得られた本発明の吸水性編物において、ポリエステル高配向未延伸糸Aが、混繊交絡糸を構成する上記のポリエステル繊維Aとなり、ポリエステル高配向未延伸糸Bが、混繊交絡糸を構成する上記のポリエステル繊維Bとなる。
【0065】
ポリエステル高配向未延伸糸とは、ポリエステルポリマーを2000~4000m/分程度の速度で紡糸して巻き取られたマルチフィラメント糸をいう。ポリエステルポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等を単独で用いたり、複数併用したりすることができる。また、ポリエステルポリマーは、共重合ポリエステルであってもよい。共重合成分としては、イソフタル酸、5-アルカリイソフタル酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、セバシン酸、コハク酸などの脂肪族ジカルボン酸;ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロへキサンジオールなどの脂肪族または脂環式ジオール;P-ヒドロキシ安息香酸などの共重合成分が挙げられる。ポリエステルポリマーは、必要に応じて、艶消し剤、安定剤、難燃剤、着色剤等の改質剤を含んでいてもよい。ポリエステル高配向未延伸糸は、複数の高配向未延伸繊維が束になって構成されており、例えば、繊維断面を同心芯鞘型とする場合には、芯部、鞘部それぞれに配されるポリマーの相溶性を考慮して、両者のポリエステルポリマーを同一のものとするのが好ましい。
【0066】
ポリエステル高配向未延伸糸Aは、単糸繊度が0.2~1.44dtex、総繊度が30~160dtex、伸度が80~150%であればよいが、単糸繊度が0.2~0.9dtex、総繊度が30~130dtex、伸度が85~140%であることが好ましく、単糸繊度が0.22~0.9dtex、総繊度が30~100dtex、伸度が85~130%であることがより好ましく、単糸繊度が0.22~0.85dtex、総繊度が33~100dtexであることが特に好ましい。ポリエステル高配向未延伸糸Aの単糸繊度が0.2dtex未満では、単糸が細過ぎて開繊効果が乏しくなり、後述のポリエステル高配向未延伸糸Bとの十分な混繊が難しくなって、交絡不良が生じ易くなる。その結果、本発明の吸水性編物において、突出部が混繊交絡糸の表面部分に形成され難くなり、糸切れや毛羽も発生し易くなるため好ましくない。一方、ポリエステル高配向未延伸糸Aの単糸繊度が1.44dtexを超えると、糸条内に大きな空隙ができやすく、ポリエステル高配向未延伸糸Bと十分に混繊し難くなり、交絡不良が生じ易くなる。その結果、突出部が形成され難くなる。
【0067】
また、ポリエステル高配向未延伸糸Aの沸水収縮率は、ポリエステル高配向未延伸糸Bよりも低い範囲であることが好ましく、例えば、15~35%、好ましくは15~30%、さらに好ましくは15%以上20%未満が挙げられる。ここで、ポリエステル高配向未延伸糸Aの沸水収縮率は、JIS L1013 8.18.1に規定されている「かせ寸法変化率(A法)」において、100℃の熱水中で30分間浸漬する条件で測定されるかせ寸法変化率である。また、後述するポリエステル高配向未延伸糸Bの沸水収縮率の測定方法も同様である。
【0068】
ポリエステル高配向未延伸糸Aの総繊度が30dtex以上であると、ポリエステル高配向未延伸糸Bとの絡みが良好となり、突出部及び空気保持層を維持しやすくなる。一方、160dtex以下であると、軽量性に優れる吸水性編物を得ることができる。
【0069】
ポリエステル高配向未延伸糸Aの伸度が80%未満である場合、後述の仮撚り工程において、糸切れが多発するおそれがある。一方、伸度が150%を超える高配向未延伸糸を得ようとしても、製造時に糸切れや品質低下等が発生して、安定供給が難しくなる。
【0070】
ポリエステル高配向未延伸糸Bは、単糸繊度が1.0~10.0dtex、総繊度が30~200dtex、沸水収縮率が20%以上、伸度が80~150%であればよいが、単糸繊度が1.0~5.0dtex、総繊度が30~100dtex、沸水収縮率が20~50%、伸度が85~150%であることが好ましく、単糸繊度が1.5~5.0dtex、総繊度が30~90dtex、沸水収縮率が20~40%、伸度が90~150%であることがより好ましい。ポリエステル高配向未延伸糸Bの単糸繊度が1.0dtex未満の場合、吸水性編物に含まれる混繊交絡糸となった後において、ポリエステル繊維Aからなる突出部を強固に保持することができず、突出部が潰れ易くなる。しかも、糸条全体が細くなり過ぎて、織編物の風合いがハリコシ感に乏しいものとなる。また、単糸繊度が10.0dtexを超えると、交絡状態が悪くなる。さらに、吸水性編物の風合いが悪くなり、好ましくない。
【0071】
また、ポリエステル高配向未延伸糸Bの総繊度が30dtex以上であると、突出部及び空気保持層を維持し易くなる。一方、200dtex以下であると軽量性に優れる編物を得ることができる。
【0072】
また、ポリエステル高配向未延伸糸Bの沸水収縮率が20%以上であると、後述の熱水収縮処理工程を経ることで、伸縮性及びSMDを上述のような範囲とすることができ、吸水性に優れた編物を得ることができる。さらに、良好な風合いの吸水性編物が得られるため好ましい。ここで、ポリエステル高配向未延伸糸Bの沸水収縮率は、JIS L1013 8.18.1に規定されている「かせ寸法変化率(A法)」において、100℃の熱水中で30分間浸漬する条件で測定されるかせ寸法変化率である。
【0073】
また、ポリエステル高配向未延伸糸Bの伸度が80%未満になると、後述の延伸工程において、糸切れが多発するおそれがある。また、伸度が150%を超えると、混繊交絡糸の伸度が高くなり過ぎて、品質安定の観点から好ましくない。
【0074】
次に、熱収縮性混繊交絡糸準備工程を、
図3の模式図を参照しながら詳述する。まず、上記のポリエステル高配向未延伸糸A、BのパッケージYA、YBをそれぞれクリールに仕掛ける。次にポリエステル高配向未延伸糸Bを第一供給ローラ1へ導入する。そして、第一供給ローラ1と第1引取ローラ3との間で、ヒーター2で熱を加えながらポリエステル高配向未延伸糸Bを延伸する延伸工程を行う。
【0075】
延伸工程において、延伸倍率は、1.3~1.7倍に設定すればよいが、好ましくは1.35~1.7倍程度、更に好ましくは1.4~1.7倍程度である。これにより、ポリエステル高配向未延伸糸Aとポリエステル延伸糸Bの伸度は、ほぼ同じになる。ここで、延伸工程における延伸倍率とは、第一供給ローラ1の表面速度と第1引取ローラ3の表面速度との比(延伸倍率=第1引取ローラ3の表面速度/第一供給ローラ1の表面速度)をいう。なお、ポリエステル高配向未延伸糸Bを延伸することにより、その単糸繊度をより好ましいものに微調整できると共に、ポリエステル高配向未延伸糸Aとポリエステル延伸糸Bの混率をより好ましいものに微調整することもできる。ポリエステル高配向未延伸糸Bの延伸は、ヒーターなどを設置して熱を与えながら行う。ヒーターで加熱することで糸物性の安定した延伸糸Bを得ることができる。
【0076】
ポリエステル高配向未延伸糸Bの延伸倍率が1.3倍未満の場合、混繊交絡糸全体の伸度が高くなり、後加工(例えば、染色加工なども含む一連の加工)において、必然的に付加される張力により混繊交絡糸の物性が変動しやすくなり、織編物の品位品質面でのトラブル発生の要因となり得る。一方、延伸倍率が1.7倍を超えると、糸切れが多発しやすくなる。
【0077】
また、上記延伸工程に代えて、単糸繊度が0.6~4.8dtex、総繊度が18~96dtex、伸度が15~60%、沸水収縮率が20%以上のポリエステル延伸糸Bを市販等から準備し、当該ポリエステル延伸糸Bを混繊交絡工程に供してもよい。準備するポリエステル延伸糸Bとして、好ましくは単糸繊度が0.8~3.8dtex、総繊度が26~76dtex、伸度が16~40%、沸水収縮率が20~45%が挙げられる。
【0078】
次に、上記ポリエステル高配向未延伸糸Aを所定条件下で仮撚りする仮撚り工程を行う。すなわち、ポリエステル高配向未延伸糸Aを、加工速度100~700m/分、延伸倍率1.1~1.6倍の条件で仮撚りする。具体的には、
図3に示すように、ポリエステル高配向未延伸糸Aを第二供給ローラ4へ導入し、ヒーター5、仮撚具6を経て、第二引取ローラ7から引き出すことで、ポリエステル仮撚糸Aを得る。ここで、
図3の第二供給ローラ4と第二引取ローラ7との間が複合仮撚域となる。具体的には、第二供給ローラ4と仮撚具6との間が加撚域T1となり、仮撚具6と第二引取ローラ7との間が解撚域T2となる。
【0079】
仮撚り工程において、加工速度とは、第二引取ローラ7から糸を引き出すときの糸速をいい、すなわち、第二引取ローラ7の表面速度をいう。
【0080】
仮撚りの方式は、一般に、スピンドル方式とフリクション方式とに大別される。本発明では、これらのいずれの方式も採用できる。一般に、仮撚具6としては、スピンドル方式の場合はピンタイプのものを使用し、フリクション方式の場合はディスクタイプのものを使用する。
【0081】
仮撚り工程において、加工速度は100~700m/分であればよいが、スピンドル方式とフリクション方式とでは、好ましい仮撚条件が若干異なる。例えば、加工速度については、スピンドル方式では100~200m/分程度が好ましく、フリクション方式では200~700m/分程度が好ましい。また、ヒーター温度は、スピンドル方式では150~200℃程度が好ましい。一方、フリクション方式では、接触式ヒーターで170~200℃程度、点接触式ヒーターで200~300℃程度の範囲がそれぞれ好ましい。ヒーター温度が上記範囲を下回ると、いずれの方式であっても十分な捲縮が付与し難く、また、上記範囲を上回ると、いずれの方式であっても繊維同士が融着し易くなり、繊維が十分開繊しなくなるので、後に混繊し難くなる。
【0082】
さらに、スピンドル方式とフリクション方式とでは、加撚・解撚の機構も若干異なる。
【0083】
スピンドル方式では、スピンドルの回転によってピンタイプの仮撚具6が回転し、糸が加撚される。このときの加撚の度合い、すなわち仮撚係数を20000~34000とするのが好ましく、22000~30000とするのがより好ましい。仮撚係数とは、K=T×D1/2なる式で算出されるものである。なお、式中において、Kは仮撚係数、Tは仮撚数(T/M)、Dは複合仮撚糸の総繊度(dtex)である。仮撚数とは、T=スピンドル回転数(rpm)/第二引取ローラ7の表面速度(m/分)で算出されるものである。仮撚係数が20000未満になると、捲縮が弱くなり、仮撚糸Aに十分なクリンプを付与し難くなる。このため、本発明の吸水性編物に含まれる混繊交絡糸の表面部分における上述の微細な突出部が形成されにくくなる。一方、仮撚係数が34000を超えると、クリンプ形状が緻密になり過ぎて、混繊交絡糸の表面部分において、上述の空気保持層が形成されにくくなる。
【0084】
他方、フリクション方式では、一般に、加撚の度合いを仮撚係数で管理するのではなく、K値及びディスク枚数で管理する。これは、両方式の加撚・解撚機構の違いによる。K値とは、解撚張力(F2)と加撚張力(F1)との比(F2/F1)をいい、F2とはディスクを通過した直後の糸張力を、F1とはディスクへ導入される直前の糸張力をいう。フリクション方式では、ディスクの回転により撚りがかかる。したがって、加撚の度合いは、ディスクスピードとディスク枚数とにより決定づけられることになる。ただし、ディスクスピードを直接的に管理することは、工程管理上あまり効率的とはいえないため、ディスクスピードの変動によりK値が変動する点に鑑み、K値を管理することが一般に効率的であるとされている。
【0085】
フリクション方式において、ディスクとしては、一般にポリウレタン製のものが使用される。ディスク枚数としては、一般に5~7枚が好ましく、ディスクの厚さとしては5~10mmが好ましい。また、K値としては、0.6~1.2が好ましい。K値が0.6未満になると、糸切れが増えることに加え、毛羽の多い仮撚糸となる場合がある。一方、1.2を超えると、サージングが生じやすくなる。なお、サージングとは、加撚された撚りが解撚域で解かれず撚りが残った状態をいう。
【0086】
仮撚り工程において、延伸倍率は、1.1~1.6倍であればよいが、1.1~1.55倍程度が好ましく、1.15~1.5倍程度がより好ましい。仮撚り工程における延伸倍率とは、第二供給ローラ4の表面速度と第二引取ローラ7の表面速度との比(延伸倍率=第二引取ローラ7の表面速度/第二供給ローラ4の表面速度)をいう。延伸倍率が1.1倍未満では、ポリエステル仮撚糸Aの品質安定化も難しくなる。また、延伸倍率が1.6倍を超えると、仮撚り工程において、毛羽や糸切れが多発する要因となるため、好ましくない。
【0087】
仮撚り工程の後、ポリエステル仮撚糸Aは、ポリステル延伸糸Bとともに流体ノズル8へ導かれ、流体ノズル8を用い、エアー圧0.1~1.0Mpa、ポリエステル延伸糸Bとポリエステル仮撚糸Aとのオーバーフィード率差が0~10.0%の条件で混繊交絡工程に供し、熱収縮性混繊交絡糸とする。熱収縮性混繊交絡糸において、ポリエステル仮撚糸Aの糸長をポリエステル延伸糸Bの糸長よりも、10%以下程度長くすることが好ましく、4~8%程度長くすることがより好ましい。10%を超えてポリエステル仮撚糸Aがポリエステル延伸糸Bよりも長くなると、熱収縮性混繊交絡糸の嵩高性が増すため、本発明の吸水性編物表面の突出部が過度に大きくなり、吸水性が低下するので好ましくない。
【0088】
混繊交絡工程で使用される流体ノズルとしては、特に限定されないが、一般にタスランノズル又はインターレースノズルが好適である。また、その際のオーバーフィード率は、同一供給速度(オーバーフィード率差が0%)で供給する引き揃え混繊法では、1~5%であることが好ましい。供給速度を変化させる、いわゆる芯/鞘混繊法では、ポリエステル仮撚糸Aとポリエステル延伸糸Bとのオーバーフィード率差を1~7%としたうえで、ポリエステル延伸糸B(芯)のオーバーフィード率0.5~3.0%、ポリエステル仮撚糸A(鞘)のオーバーフィード率4.0~9.5%の条件下が好ましい。オーバーフィード率とは、流体ノズルへ導入される直前の糸速をV1、流体ノズルを通過した直後の糸速をV2としたとき、オーバーフィード率=(V1-V2)/V2×100(%)なる式で算出される。
図3の場合では、オーバーフィード率=(第一引取ローラ3の表面速度-第三引取ローラ9の表面速度)/第三引取ローラ9の表面速度×100(%)、又はオーバーフィード率=(第二引取ローラ7の表面速度-第三引取ローラ9の表面速度)/第三引取ローラ9の表面速度×100(%)なる式で算出される。上記条件で混繊交絡することでポリエステル繊維Aによる突出部を伴った上述の空気保持層が形成される。混繊交絡の条件が上記の範囲を外れると、本発明の吸水性編物において、ポリエステル繊維Aによる突出部が適度な大きさのものとならず、混繊交絡糸の表面部分に上述のような空気保持層が形成されにくくなる。
【0089】
熱収縮性混繊交絡糸は、第三引取ローラ9を通過した後、巻取ローラ10によりパッケージ11に捲き取られる。なお、本発明の吸水性編物に含まれる混繊交絡糸においては、目安として、交絡数が90~300個/m程度の範囲にあると、適度な混繊交絡を有しているといえる。
【0090】
一般に、繊維は太くなれば剛直となり、細ければしなやかになるが、本発明においては、このような繊維の特性を利用し、仮撚り工程及び混繊交絡工程において、相対的に太いポリエステル延伸糸Bの間に生じる大きな空隙に、相対的に細いポリエステル仮撚糸Aを入り込ませることにより、織編物とした場合に、ポリエステル繊維Aを混繊交絡糸の表面部分において突出させることができる。
【0091】
(生機製造工程)
生機製造工程においては、上記の熱収縮性混繊交絡糸を製編して生機を得る。製編は、公知の編機を用いて行えばよく、製編に先立つ準備工程も公知の設備を使用すればよい。
【0092】
(熱水収縮処理工程)
熱水収縮処理工程においては、熱水中に生機を所定時間浸漬することで、ポリエステル延伸糸Bを十分に熱収縮させて、低伸縮性編物を得る。熱水収縮処理は、例えば、80~135℃程度で10~30分程度でおこなうことができる。特定範囲の沸騰水収縮率のポリエステル高配向延伸糸Bから調製されたポリエステル延伸糸Bを用い、熱水収縮処理させることで、ポリエステル延伸糸Bを十分に熱収縮させ、突出部が十分に維持され、伸縮性が低減された編物とすることができる。熱水収縮処理工程は精練加工及び染色加工において、実行されるものであってもよい。具体的には、熱水収縮処理工程は、精練処理として80~120℃程度で10~30分程度、染色処理として100~135℃程度で10~30分程度で行うことができ、より好ましくは精練処理として80~100℃程度で10~30分程度、染色処理として120~135℃程度で10~30分程度の条件でおこなうことができる。また、精練と染色を一緒に施しても構わない。
【0093】
以下に一例を示す。まず、生機を精練する。精練は、80~130℃の温度下で連続方式またはバッチ方式により行えばよい。通常は、100℃以下でバッチ方式により行うのが好ましく、特にジェットノズルを備えた高圧液流染色機を用いて行うのが好ましい。精練した後は、必要に応じて、プレセットを行ってもよい。プレセットは通常、ピンテンターを用いて170℃~200℃で30~120秒間乾熱処理する。その後、常法に従って染色加工を行う。カチオン可染ポリエステルを構成素材として使用している場合には、カチオン染料で染色加工を行えばよい。また、必要に応じてファイナルセットを行ってもよい。
【0094】
本発明の製造方法において、生機(生機製造工程にて得られたもの)の厚みに対する、吸水性編物の厚みが、1.01~2.00倍であることが好ましく、1.20~1.80倍であることがより好ましい。1.01倍以上であると、ポリエステル繊維Bが十分に熱収縮されていることとなり、混繊交絡糸においてポリエステル繊維Aによる突出部が十分に維持されて、吸水性及び風合いに優れる編物となる。2.00倍以下であると得られた製編が過度に硬くならず、適切な風合いを具現化できる。
【0095】
斯くして得られる低伸縮性編物を、後述する吸水加工工程に供することによって本発明の吸水性編物が得られるので、当該低伸縮性編物は、吸水性編物の製造中間体として使用することができる。
【0096】
(吸水加工工程)
吸水加工工程では、低伸縮性編物を吸水加工する。例えば、まず、吸水剤を含む水溶液を調製し、次に、パディング法、スプレー法、キスロールコータ法、スリットコータ法などに基づき、低伸縮性編物に上記水溶液を付与し、105~190℃で30~150秒間乾熱処理すればよい。上記水溶液には、必要に応じて架橋剤、柔軟剤、帯電防止剤などを併せて含ませてもよい。吸水加工後に得られた本発明の吸水性編物は、カレンダー加工などが施されてもよい。
【0097】
また、吸水加工工程は、染色浴中で、吸水剤及び染色剤を含む水溶液を用いて、染色加工と同時に行ってもよい。
【0098】
(透湿防水層・繊維布帛の積層工程)
本発明の吸水性編物に透湿防水層を積層させる場合は、公知の手法に従って、透湿防水層を積層させればよい。更に、透湿防水層上に繊維布帛を積層させる場合は、公知の手法に従って、繊維布帛を積層させればよい。
【0099】
[その他の加工]
本発明の吸水性編物に、抗菌加工、染色加工、撥水裏吸水加工、UVカット加工、蓄熱加工、制菌加工、抗菌防臭加工、消臭加工、防汚加工、防蚊加工、カレンダー加工、プリント加工等を施す場合には、これらの加工は、前記吸水加工工程の前、同時又は後、或は前記透湿防水層積層工程の前又は後に行えばよい。
【実施例】
【0100】
以下、実施例に従って本発明を具体的に説明する。本発明はこの実施例に限定されない。
【0101】
[測定方法・評価方法]
実施例及び比較例において、1.混繊交絡糸の表面形状、2.高配向未延伸糸、延伸糸及び混繊交絡糸の単糸繊度、総繊度、3.高配向未延伸糸の伸度、4.混繊交絡糸の交絡数、5.吸水性(バイレック法による吸水高さ)、6.織編物表面粗さの平均偏差(SMD)、7.織編物の風合いは、それぞれ、以下の方法により測定、評価を行った。
【0102】
1.混繊交絡糸の表面形状
光学顕微鏡(株式会社キーエンス製「マイクロスコープVHX-900」)を使用して、フリー状態で混繊交絡糸の表面形状を200倍で観察し、ポリエステル繊維Aによる突出部が形成され、且つ混繊交絡糸の表面部分においてポリエステル繊維Aが緩やかに絡み合って形成された空気が保持されやすい層状の部分(風合い向上などに寄与する空気保持層)が形成されている場合を「良好」、そうでない場合を「不良」と評価した。
【0103】
2.高配向未延伸糸及び混繊交絡糸の単糸繊度、トータル繊度
高配向未延伸糸及び混繊交絡糸の単糸繊度、トータル繊度は、それぞれ、JIS L1013 8.3.1の規定に基づいて測定した。
【0104】
3.高配向未延伸糸の伸度
高配向未延伸糸の伸度は、JIS L1013 8.5.1に基づいて測定した。
【0105】
4.混繊交絡糸の交絡数
混繊交絡糸の交絡数(個/m)は、JIS L1013 8.15フック法に基づいて測定した。
【0106】
5.吸水性
JIS L 1907:2010に記載のバイレック法に基づいて吸水高さを測定し、吸水性を評価した。
【0107】
6.織編物表面粗さの平均偏差(SMD)
自動化表面試験機(カトーテック株式会社製「KESFB4-AUTO-A」)を使用してSMDを測定した。まず、20cm四方の試験片を採取し、400gの張力をかけた試験片を上記試験機に設置した。次に、金属摩擦子を含めて50gの垂直方向の荷重を掛け、バネの接触圧により10gの力で摩擦子を接触させ、試験片を前後に30mm移動して、試験片の表面粗さの変動を計測した。測定は、WARP、WEFTの2方向で各3回行い、その平均値をSMDとした。SMDは表面粗さの変動を示すものであり、値が大きいほど突出部による凹凸があると判定できる。なお、SMDの測定は、吸水性編物の縦方向に摩擦子を移動させることによって行った。
【0108】
8.織編物の風合い
被験者5人に対して、触感により、織編物の表面を、柔らかさ、滑らかさ、ふくらみ感、反発感などの風合いを評価した。下記の基準で判断した。
○:被験者5人中4人以上が織編物の風合いが良いと評価した。
△:被験者5人中2~3人が織編物の風合いが良いと評価した。
×:被験者5人中1人以下が織編物の風合いが良いと評価した。
【0109】
[撥水性織編物の製造]
(実施例1)
伸度104%、単糸繊度0.54dtex、沸水収縮率19.3%、総繊度45dtex84フィラメントのポリエステル高配向未延伸糸Aを用意した。一方、伸度118%、単糸繊度4.7dtex、総繊度56dtex12フィラメント、沸水収縮率22.3%のポリエステル高配向未延伸糸Bを用意した。そして、ポリエステル高配向未延伸糸A及びBを
図3に示すような熱収縮性混繊交絡糸の製造工程に供した。仮撚具5としてディスクタイプのものを使用し、複合仮撚条件及び混繊交絡条件は下記の通りとし、伸度26.6%の熱収縮性混繊交絡糸を得た。
【0110】
<延伸条件>
第一供給ローラ1の表面速度:284m/分
ヒーター2(非接触式ヒーター)の温度:245℃
ポリエステル高配向未延伸糸Bの延伸倍率:1.6倍
第一引取ローラ3の表面速度:455m/分
【0111】
<仮撚り条件>
第二供給ローラ4の表面速度:367m/分
ヒーター5(接触式ヒーター)の温度:160℃
撚り方向:Z方向
仮撚具6(ディスク)の構造:1-6-1
仮撚具6(ディスク)の厚さ:9mm
K値:1.0
第二引取ローラ7の表面速度:477m/分
仮撚時の延伸倍率:1.3倍
【0112】
<混繊交絡条件>
第三引取ローラ9の表面速度:450m/分
流体ノズル8:タスランノズル
エアー圧力:0.735MPa
ポリエステル仮撚糸Aのオーバーフィード率:6%
ポリエステル延伸糸Bのオーバーフィード率:1%
【0113】
次に、得られた混繊交絡糸を、福原精機株式会社製の丸編機(33インチ、46ゲージ)を用い、天竺組織にて製編し、編密度が60コース/2.54cm、48ウェール/2.54cmの丸編地の生機を得た。
【0114】
次に、液流染色機を使用して、得られた生機を、日華化学社製の精練剤「サンモールFL(商品名)」を含む浴(浴比1:30)で、80℃で30分間精練した。その後、ダイスター社製の分散染料「Dianix Blue UN-SE(商品名)」を1.0%o.m.f、酢酸を0.2cc/L、日華化学社製の分散均染剤「ニッカサンソルトSN-130(商品名)」を0.5g/L及び高松油脂社製の吸水加工剤「SR1801(商品名)」を3.0%o.m.f含む吸水・染色加工液(生機:吸水・染色加工液の重量比は1:50)で、135℃で20分間の条件で丸編地に吸水加工及び染色加工を施した。その後、ピンテンターを使用して丸編物を仕上げセットし、吸水性編物(編密度94コース/2.54cm、70ウェール/2.54cm、目付180g/m2)を得た。
【0115】
(実施例2)
表面に実施例1で使用した熱収縮性混繊交絡糸を無撚状態で用い、裏面に56dtex24フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を無撚状態で用い、福原精機株式会社製の丸編機(LPJ-H型,33インチ,32ゲージ)にて、編密度が45コース/2.54cm、34ウェール/2.54cmのメッシュ組織の編地を製編した。この編地を用い、以降は実施例1と同様に、精練、染色加工及び吸水加工し、吸水性編物(編密度78コース/2.54cm、55ウェール/2.54cm)を得た。この吸水性織編物において、混繊交絡糸の混率は39質量%であった。
【0116】
(比較例1)
実施例1で用いた高配向未延伸糸Bを、伸度131%、単糸繊度3.3dtex、総繊度45dtex12フィラメント、沸水収縮率5.1%のポリエステル高配向未延伸糸Bに変更したこと以外は、実施例1と同条件で、吸水性編物(編密度68コース/2.54cm、50ウェール/2.54cm、目付140g/m2)を得た。
【0117】
(比較例2)
実施例1で用いた混繊交絡糸を市販のポリエステル仮撚加工糸84デシテックス36フィラメントに変更した以外は実施例1と同様に比較例2に吸水性編物(編密度70コース/2.54cm、60ウェール/2.54cm、目付140g/m2)を得た。
【0118】
[試験結果]
実施例及び比較例の吸水性編物の構成及び評価結果を表1及び2に表す。また、
図1には実施例1で得られた吸水性編物に含まれる混繊交絡糸の光学顕微鏡写真を示し、
図2には実施例1で得られた吸水性編物の厚み分の光学顕微鏡写真を示す。
【表1】
【表2】
【0119】
実施例1及び2の吸水性編物において、構成している混繊交絡糸は、ポリエステル繊維Aのループやたるみなどによって連続的に突出部が形成されており、当該突出部の内側(混繊交絡糸の内部側)には、細いポリエステル繊維Aが緩やかに絡み合って形成された空気保持層が形成されていた。表1に示す通り、実施例1及び2の吸水性編物では、優れた吸水性及び風合いを有していた。
【0120】
一方、比較例1の吸水性編物では、熱水収縮性の高いポリエステル高配向未延伸糸Bを用いて形成した混繊交絡糸を使用していないことから、混繊交絡糸に微細な突出部が十分に形成できておらず、また、編物の伸長率が高くなっており、その結果、吸水性及び風合が満足できるものではなかった。
【0121】
また、比較例2の吸水性編物では、混繊交絡糸ではなく一般的な仮撚加工糸を用いたために、繊維表面の形状は微細な突出部が形成されておらず、実施例1及び2に比べて吸水性に劣る結果となった。更に、比較例2の吸水性編物では、表面のタッチが粗く硬いものとなり、ふくらみ感、反発感も十分ではなく、良好な風合いが達成されなかった。
【符号の説明】
【0122】
YA ポリエステル高配向未延伸糸Aのパッケージ
YB ポリエステル高配向未延伸糸Bのパッケージ
A ポリエステル高配向未延伸糸A
B ポリエステル高配向未延伸糸B
1 第一供給ローラ
2 ヒーター
3 第一引取ローラ
4 第二供給ローラ
5 ヒーター
6 仮撚具
7 第二引取ローラ
8 流体ノズル
9 第三引取ローラ
10 巻取ローラ
11 パッケージ
T1 加撚域
T2 解撚域