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特許7193914可変遅延回路、PLL周波数シンセサイザ、電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】可変遅延回路、PLL周波数シンセサイザ、電子機器
(51)【国際特許分類】
   H03K 5/131 20140101AFI20221214BHJP
   H03H 11/26 20060101ALI20221214BHJP
   H03L 7/08 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
H03K5/131
H03H11/26 A
H03L7/08 210
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017222105
(22)【出願日】2017-11-17
(65)【公開番号】P2019096936
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(73)【特許権者】
【識別番号】514281304
【氏名又は名称】スティヒティング アイメック ネダーランド
【氏名又は名称原語表記】Stichting IMEC Nederland
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】倉持 隆
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ ホン リウ
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-188720(JP,A)
【文献】特開平11-66854(JP,A)
【文献】特開平1-320816(JP,A)
【文献】特開昭63-48008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K5/13-5/145
H03K5/153-5/1536
H03H11/26
H03H17/08
H03L7/08-7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力パルスを受ける入力バッファと、
前記入力バッファの出力と接続される遅延ラインと、
複数のキャパシタであって、各キャパシタの第1端が前記遅延ラインと接続された複数のキャパシタと、
複数のキャパシタに対応する複数のMOSスイッチであって、各MOSスイッチの第1端が対応する前記キャパシタの第2端と接続され、各MOSスイッチの第2端が接地または電源ラインの所定の一方である基準ラインと接続された、複数のMOSスイッチと、
前記遅延ラインの信号を受け、遅延パルスを出力する出力バッファと、
前記複数のMOSスイッチに対応する複数のビットを含む制御コードをサイクルごとに生成し、前記制御コードは、各ビットの値が対応するMOSスイッチのオン、オフを指定するものである、コントローラと、
を備え、
1サイクルの前記制御コードは、前記入力パルスの遅延対象のエッジより遡る第1期間の間、遅延量を指示する有効コードであり、前記第1期間の直前の第2期間の間、前記複数のMOSスイッチをすべてオンさせるダミーコードであることを特徴とする可変遅延回路。
【請求項2】
前記入力パルスは所定の周波数を有し、
前記第1期間の長さは、前記入力パルスの半周期の長さであることを特徴とする請求項1に記載の可変遅延回路。
【請求項3】
あるサイクルにおける前記第2期間は、そのひとつ前のサイクルの前記遅延パルスにもとづくパルスが、ハイレベルおよびローレベルのうち所定の一方である期間であることを特徴とする請求項1または2に記載の可変遅延回路。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記有効コードを格納する第1フリップフロップと、
前記第1フリップフロップの出力と、前記ダミーコードを供給すべき期間、ハイレベルおよびローレベルのうち所定の一方となるゲート信号とを論理演算し、前記制御コードとして出力する第1論理ゲートと、
を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の可変遅延回路。
【請求項5】
前記出力バッファの後段に設けられ、前記遅延パルスの遅延後のエッジに応答してハイレベルおよびローレベルのうち所定の一方に遷移し、前記入力パルスの非遅延対象のエッジに応答してハイレベルおよびローレベルのうち所定の他方に遷移する出力パルスを生成する出力回路をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の可変遅延回路。
【請求項6】
前記出力回路は、入力端子にハイレベルの電圧が入力され、リセット端子に前記入力パルスに応じた信号が入力され、クロック端子に前記遅延パルスが入力された第2フリップフロップを含み、
前記出力パルスは、前記遅延パルスの遅延後のエッジに応答してハイに遷移し、前記入力パルスの非遅延対象のエッジに応答してローレベルに遷移することを特徴とする請求項5に記載の可変遅延回路。
【請求項7】
前記出力回路は、前記遅延パルスと前記入力パルスを受ける第2論理ゲートを含むことを特徴とする請求項5に記載の可変遅延回路。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の可変遅延回路を備えることを特徴とするPLL(Phase Locked Loop)周波数シンセサイザ。
【請求項9】
請求項8に記載のPLL周波数シンセサイザを備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変遅延回路に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな電子回路に、パルス信号を入力として受け、そのエッジに、デジタルの制御コードに応じた遅延を与える可変遅延回路が用いられる。このような可変遅延回路は、デジタルの制御コードを時間情報に変換するため、デジタル-時間コンバータ(DTC:Digital-To-Time Converter)とも称される。図1は、DTC回路100を備える可変遅延回路200Rの回路図である。
【0003】
フリップフロップ201には、遅延量を指定するNビットの制御コードDTC_CODEがロードされ、フリップフロップ201に格納される制御コードDTC_CODEがDTC回路100に供給される。たとえばフリップフロップ201は、基準パルスREFのネガエッジに応答して制御コードDTC_CODEをラッチする。制御コードDTC_CODEの各ビットは、対応するMOSスイッチのオン、オフを指定する。
【0004】
DTC回路100は、入力バッファ102、出力バッファ104、遅延ライン106、複数のキャパシタC~C、複数のMOSスイッチM~Mを備える。
【0005】
複数のキャパシタC~Cの一端は遅延ライン106と接続される。複数のMOSスイッチM~Mはそれぞれ、対応するキャパシタC~Cの他端と接地の間に設けられる。
【0006】
MOSスイッチM~Mのオン、オフに応じて、遅延ライン106から見えるキャパシタC~Cの個数が変化する。キャパシタC~Cの容量値が等しく(Cとする)、M個のMOSスイッチがオン状態であるとき、遅延ライン106に有効に接続される遅延に寄与する総容量CDELAYは、C×Nとなる。
【0007】
入力バッファ(インバータ)102は、基準パルスREFにもとづいて、遅延ライン106およびそれに接続される容量を駆動する。出力バッファ(インバータ)104は、遅延ライン106に発生する電圧REF_Bを、ハイ・ローに2値化し、遅延パルスi_dtc_oを出力する。
【0008】
図2(a)は、図1の可変遅延回路200Rの動作波形図であり、図2(b)は、図1のDTC回路の制御コードと遅延量の関係を示す図である。図2(a)には、基準パルスREFのポジエッジ(リーディングエッジ)が遅延される様子を示す。遅延ライン106の電圧REF_Bは遅延ライン106の容量値CDELAYに応じた時定数で変化する。遅延ライン106の電圧REF_Bが出力バッファ110のしきい値とクロスすると、出力パルスi_dtc_oが変化する。図2(b)に示すように、遅延量τDELAYは、制御コードDTC_CODEの値に対して線形に変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-229548号公報
【文献】特許第5591914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、図1の可変遅延回路200Rについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0011】
DTC回路100の分解能を高めるためには、キャパシタの容量Cを小さくする必要がある。キャパシタの容量Cが小さくなると、相対的にMOSスイッチMのドレイン容量Cdの影響が無視できなくなる。
【0012】
図3は、DTC回路100の等価回路図である。1個のMOSスイッチMがオン、残りのMOSスイッチがオフの状態を考察する。ドレイン容量Cdは、MOSスイッチMのドレインソース間に存在する。
【0013】
MOSスイッチMがオンのとき、遅延ライン106から見える容量はCである。MOSスイッチM1がオフのとき、遅延ライン106から見える容量はCとCdの直列接続の合成容量(C*Cd)/(C+Cd)である。ここで、ドレイン容量Cdは、キャパシタの容量Cよりも十分に小さい(Cd≪C)。したがってMOSスイッチがオフ時の合成容量は、Cdと近似される。
【0014】
図4(a)はドレイン容量の電圧依存性を示す図である。MOSスイッチMのドレイン容量Cdは、ダイオードの逆方向バイアス特性により、ドレインバイアス電圧vbに依存する。MOSスイッチMがオフのとき、ドレインはハイインピーダンスとなるため、電位vbは不定となる。したがって、ドレイン容量Cdは不確定要素となる。
【0015】
図4(b)は、MOSスイッチMをターンオフさせたときの、遅延ライン106と接地間の容量(REF_B端子容量という)の応答特性を示す図である。MOSスイッチがターンオフした瞬間、MOSスイッチMのドレインはフローティングノードとなり、そのときの電圧値vbは不定である。MOSスイッチのターンオフ後、ドレイン電圧vbが安定するまでには非常に長い時間を要し、したがってドレイン容量CdがCdに安定化するのには非常に長い時間を有する。
【0016】
反対にMOSスイッチがターンオンする際には、MOSスイッチM1のオン抵抗は直ちに0Ωとなり、ドレインバイアス電圧vbは直ちに0Vとなるから、REF_B端子容量は、キャパシタの値Cに素早く確定する。
【0017】
MOSスイッチをターンオンするときと、ターンオフするときの安定化時間の相違は、DTC回路100に顕著な非線形性をもたらす。図5(a)は、制御コードDTC_CODEをスイープアップしたときの、図5(b)は、制御コードDTC_CODEをスイープダウンしたときの積分非直線性誤差(INL)を示す図である。図5(a)、(b)の対比から分かるように、INLは、制御コードDTC_CODEの遷移の履歴の影響を大きく受けてしまう。
【0018】
なお、この問題を当業者の一般的な認識として捉えてはならず、さらに言えば本発明者らが独自に認識したものである。
【0019】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、改善された特性を有する可変遅延回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のある態様は、可変遅延回路に関する。可変遅延回路は、DTC(Digital To Time Converter)回路と、そのコントローラと、を備える。DTC回路は、複数のキャパシタと、制御コードに応じてオン、オフされる複数のMOSスイッチと、を含み、入力パルスを受け、その遅延対象のエッジに制御コードに応じた遅延を与え、遅延パルスを出力する。コントローラは、DTC回路に制御コードを供給する。コントローラは、入力パルスの遅延対象のエッジより所定時間前から遅延対象のエッジまでの期間、制御コードとして、遅延量を指示する有効コードを与え、その直前に、制御コードとして、DTC回路の内部の複数のMOSスイッチをすべてオンさせるダミーコードを供給する。
【0021】
本発明の別の態様は、PLL(Phase Locked Loop)回路に関する。PLL回路は、上述のいずれかの可変遅延回路を備えてもよい。これにより、ジッタの小さいパルスを生成できる。
【0022】
本発明の別の態様は、周波数シンセサイザに関する。周波数シンセサイザは、上述のPLL回路を備えてもよい。
【0023】
本発明の別の態様は、無線通信機器に関する。無線通信機器は、上述のPLL回路を備えてもよい。
【0024】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0025】
本発明のある態様によれば、可変遅延回路の特性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】DTC回路の回路図である。
図2図2(a)は、図1のDTC回路の動作波形図であり、図2(b)は、図1のDTC回路の制御コードと遅延量の関係を示す図である。
図3】DTC回路の等価回路図である。
図4図4(a)は、ドレイン容量の電圧依存性を示す図であり、図4(b)は、MOSスイッチMをターンオフさせたときの、遅延ラインと接地間の容量の応答特性を示す図である。
図5図5(a)は、制御コードDTC_CODEをスイープアップしたときの、図5(b)は、制御コードDTC_CODEをスイープダウンしたときの積分非直線性誤差(INL)を示す図である。
図6】実施の形態に係る可変遅延回路の回路図である。
図7図6の可変遅延回路の動作を示すタイムチャートである。
図8図8(a)、(b)は、ひとつのMOSトランジスタの動作を示すタイムチャートである。
図9図9(a)は、制御コードDTC_CODEをスイープアップしたときの、図9(b)は、制御コードDTC_CODEをスイープダウンしたときの積分非直線性誤差(INL)を示す図である。
図10】第1実施例に係る可変遅延回路の回路図である。
図11】第2実施例に係る可変遅延回路の回路図である。
図12】フラクショナルNタイプPLL回路を用いたPLL周波数シンセサイザのブロック図である。
図13図12のPLL周波数シンセサイザの動作波形図である。
図14】無線通信機能を備える電子機器のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(概要)
本開示は、可変遅延回路に関する。可変遅延回路は、入力パルスを受け、その遅延対象のエッジに制御コードに応じた遅延を与え、遅延パルスを出力するDTC(Digital To Time Converter)回路と、DTC回路に制御コードを供給するコントローラと、を備える。DTC回路は、複数のキャパシタと、制御コードに応じてオン、オフされる複数のMOSスイッチと、を含む。コントローラは、入力パルスの遅延対象のエッジより所定時間前から遅延対象のエッジまでの期間、制御コードとして、遅延量を指示する有効コードを与え、その直前に、制御コードとして、DTC回路の内部の複数のMOSスイッチをすべてオンさせるダミーコードを供給する。
【0028】
この可変遅延回路では、ダミーコードによってすべてのMOSトランジスタをターンオンすることで、MOSトランジスタとキャパシタの接続ノードの電位を確定させる。遅延対象のエッジは、有効な制御コードが与えられてから所定時間経過後に入力されるため、MOSトランジスタのドレイン容量のばらつきを抑制でき、特性を改善できる。
【0029】
入力パルスは所定の周波数を有してもよい。所定時間は、入力パルスの半周期の長さであってもよい。これにより毎サイクル、制御コードが与えられてから遅延対象のエッジが発生するまでの時間を揃えることができる。
【0030】
ダミーコードは、前のサイクルの遅延パルスにもとづくパルスが所定レベルである期間、供給されてもよい。前のサイクルの遅延パルスを利用して、ダミーコードを生成することで回路を簡素化できる。
【0031】
コントローラは、有効コードを格納する第1フリップフロップと、第1フリップフロップの出力と、ダミーコードを供給すべき期間、所定レベルとなるゲート信号とを論理演算し、DTC回路に供給する第1論理ゲートと、を含んでもよい。
第1論理ゲートとしては、ORゲートを用いることができる。
【0032】
ある態様の可変遅延回路は、DTC回路の後段に設けられ、遅延パルスの遅延後のエッジに応答して第1レベルに遷移し、入力パルスの非遅延対象のエッジに応答して第2レベルに遷移する出力パルスを生成する出力回路をさらに備えてもよい。
【0033】
出力回路は、入力端子にハイが入力され、リセット端子に入力パルスに応じた信号が入力され、クロック端子に遅延パルスが入力された第2フリップフロップを含んでもよい。
【0034】
出力回路は、遅延パルスと入力パルスを受ける第2論理ゲートを含んでもよい。たとえば第2論理ゲートは、遅延パルス、入力パルスが正論理である場合、ANDゲートを用いることができる。
【0035】
(実施の形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0036】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0037】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0038】
図6は、実施の形態に係る可変遅延回路200の回路図である。可変遅延回路200は、入力パルスREFの遅延対象のエッジに、外部から与えられる制御コード(外部制御コード)DTC_CODEに応じた遅延を与え、遅延後の出力パルスDEL_REFを出力する。本実施の形態において、遅延対象のエッジはポジエッジ(リーディングエッジ)であるとする。
【0039】
可変遅延回路200は、DTC(Digital To Time Converter)回路100に加えて、コントローラ210を備える。
【0040】
DTC回路100は、入力パルスREFを受け、その遅延対象のエッジに制御コードA_DTC_CODEに応じた遅延を与え、遅延パルスi_dtc_oを出力する。DTC回路100は、複数のキャパシタと、制御コードA_DTC_CODEに応じてオン、オフされる複数のMOSスイッチと、を含む。DTC回路100の構成は特に限定されないが、たとえば図1のDTC回路100と同様に構成することができる。MOSスイッチの個数がNであるとき、制御コードA_DTC_CODEのビット数はNである。N個のキャパシタの容量はすべて等しくCであるとする。またN個のMOSスイッチのサイズ(W/L)もすべて等しく、それらのドレイン容量Cdも等しいものとする。
【0041】
コントローラ210は、外部制御コードDTC_CODEを受け、DTC回路100に制御コードA_DTC_CODEを供給する。コントローラ210は、入力パルスREFの遅延対象のエッジ(ポジエッジ)より所定時間TCONST前から遅延対象のエッジ(ポジエッジ)までの期間、制御コードA_DTC_CODEとして、遅延量τDELAYを指示する有効コード(すなわち、外部制御コードDTC_CODE)を与え、その直前に、制御コードA_DTC_CODEとして、DTC回路100の内部の複数のMOSスイッチをすべてオンさせるダミーコードDUMMY_CODEを供給する。
【0042】
たとえばi番目のMOSスイッチは、制御コードA_DTC_CODE[N-1:0]のうち、下位iビット目A_DTC_CODE[i-1]に対応付けられており、値が1のときにオン、値が0のときにオフとなる。このときダミーコードDUMMY_CODE[N-1:0]は、[111・・・1](オール1)である。
【0043】
以上が可変遅延回路200の基本構成である。続いてその動作を説明する。図7は、図6の可変遅延回路200の動作を示すタイムチャートである。
【0044】
外部制御コードDTC_CODEは、入力パルスREFと同じ周期で更新される。更新のタイミングは特に限定されない。図中、A,B,C,Dは、サイクルごとに外部制御コードDTC_CODEの値が変化しうることを模式的に示すものであり、値A,B,C,Dに対応する遅延量は、τDELAYA,τDELAYB,τDELAYC,τDELAYDとして示される。
【0045】
2番目のサイクルに着目する。入力パルスREFの遅延対象のエッジE2に対する制御コードA_DTC_CODEは、そのエッジE2の時刻tから所定時間TCONSTだけ遡る時刻tに確定する。つまり、入力パルスREFの遅延対象のエッジE2は、有効な制御コードBが与えられた時刻tから所定時間TCONST経過後に発生することが保証される。
【0046】
時刻tの直前の期間t~t)においては、制御コードA_DTC_CODEとしてダミーコードDUMMY_CODE(オール1)が供給される。
【0047】
図8(a)、(b)は、ひとつのMOSトランジスタの動作を示すタイムチャートである。
【0048】
図8(a)を参照して、制御コードDTC_CODEの対応するビットの値が0であるときの動作を説明する。期間t~tの間に、ダミーコードDUMMY_CODEによって、MOSトランジスタがオンとなる。これによりMOSトランジスタとキャパシタの接続ノードの電位(つまりドレイン電圧vb)が0Vに確定する。
【0049】
そして時刻tに、制御コードDTC_CODEの対応するビット(値0)によって、MOSトランジスタがターンオフする。ドレイン電圧vbは、ターンオフ直後に負電圧となり、その後、0Vに向かって収束していく。REF_B端子容量は、ドレイン電圧vbの変化に応じて、値Cdに向かって収束していく。入力パルスREFの遅延対象のエッジEは、時刻tから所定時間TCONSTの経過後に発生するから、このエッジEのタイミングtにおけるREF_B端子容量は、所定値をとることが保証される。図8(a)では、所定時間TCONSTは、ドレイン電圧vbの安定化時間と等しいかそれより長いため、エッジEのタイミングtにおけるREF_B端子容量はCdとなる。
【0050】
なお、もし所定時間TCONSTをドレイン電圧vbの安定化時間より短かく設定したとしても、エッジEのタイミングtにおけるREF_B端子容量は一意に確定する。
【0051】
図8(b)を参照して、制御コードDTC_CODEの対応するビットの値が1であるときの動作を説明する。期間t~tの間に、ダミーコードDUMMY_CODEによって、MOSトランジスタがオンとなる。これによりMOSトランジスタとキャパシタの接続ノードの電位(つまりドレイン電圧vb)が0Vに確定し、REF_B端子容量はCとなる。
【0052】
そして時刻tに、制御コードDTC_CODEの対応するビット(値1)が入力されると、MOSトランジスタはオン状態を維持する。ドレイン電圧vbは0Vのままであり、REF_B端子容量はCを維持する。
【0053】
以上が可変遅延回路200の動作である。続いてその利点を説明する。
【0054】
この可変遅延回路200によれば、入力パルスREFが伝搬する遅延ラインから見える容量(REF_B端子容量)を、入力パルスREFの遅延対象のエッジ(ポジエッジ)のタイミングにおいて確定させることができる。これにより、直前のコードが遅延量τDELAYに及ぼす影響を低減できる。
【0055】
図9(a)は、制御コードDTC_CODEをスイープアップしたときの、図9(b)は、制御コードDTC_CODEをスイープダウンしたときの積分非直線性誤差(INL)を示す図である。図9(a)、(b)の対比から分かるように、図6のDTC回路100によれば、制御コードDTC_CODEの遷移の履歴が、遅延量に与える影響を低減できる。
【0056】
図7に戻り、コントローラ210のさらなる特徴を説明する。
【0057】
入力パルスREFは所定の周波数を有し、ハイ期間、ロー期間の長さが固定される。この場合に、入力パルスREFのロー区間を、所定時間TCONSTとして用いるとよい。具体的にはコントローラ210は、入力パルスREFのネガエッジをトリガとして、DTC回路100に与えるコードA_DTC_CODEを、ダミーコードDUMMY_CODEから制御コードDTC_CODEに変化させる。これにより、特別なハードウェアを追加することなく、所定時間TCONSTを簡単に生成できる。
【0058】
さらにコントローラ210は、前のサイクルの遅延パルスDEL_REFが所定レベル(ハイ)である期間、ダミーコードDUMMY_CODEを供給するとよい。ポジエッジが遅延対象である場合、前のサイクルの遅延パルスDEL_DELは、時刻tの直前にハイレベルである。この関係を利用することで、ダミーコードDUMMY_CODEの供給タイミングを簡単に生成できる。
【0059】
本発明は、図6のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、回路に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や回路動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や変形例を説明する。
【0060】
(第1実施例)
図10は、第1実施例に係る可変遅延回路200Aの回路図である。可変遅延回路200Aは、DTC回路100の後段に設けられた出力回路220Aをさらに備える。出力回路220Aは、遅延パルスi_dtc_oの遅延後のエッジ(ポジエッジ)に応答して第1レベル(たとえばハイ)に遷移し、入力パルスREFの非遅延対象のエッジ(ネガエッジ)に応答して第2レベル(たとえばロー)に遷移する出力パルスDEL_REFを生成する。
【0061】
たとえば出力回路220Aは、第2フリップフロップ222を含む。たとえば第2フリップフロップ222は、Dフリップフロップであり、その入力(D)にはハイレベルの電圧Vが入力される。第2フリップフロップ222のクロック端子には、DTC回路100からの遅延パルスi_dtc_oが入力され、そのリセット端子には、インバータ224によって反転された入力パルス#REFが入力される。第2フリップフロップ222としてSRフリップフロップを用いてもよい。
【0062】
出力回路220Aを追加することにより、出力パルスDEL_REFのネガエッジのジッタをさらに抑制できる。
【0063】
コントローラ210Aは、第1フリップフロップ212、第1論理ゲート214、インバータ216を含む。第1フリップフロップ212は、有効コードとして使用される外部制御コードDTC_CODEを格納する。たとえば第1フリップフロップ212は、入力パルスREFのネガエッジのタイミングで、外部制御コードDTC_CODEを取り込んでもよい。
【0064】
第1論理ゲート214は、第1フリップフロップ212の出力I_DTC_CODEと、ゲート信号I_GATEとを論理演算して得られる制御コードA_DTC_CODEをDTC回路100に供給する。ゲート信号I_GATEは、ダミーコードDUMMY_CODEを供給すべき期間、所定レベル(たとえばハイ)となる。ゲート信号I_GATEとしては、DTC回路100の出力i_dtc_o(もしくは可変遅延回路200Aの出力DEL_REF)を用いることができる。
【0065】
本実施例において第1論理ゲート214はOR(論理和)ゲートである。ゲート信号I_GATEがハイ(すなわち値1)であるとき、第1論理ゲート214の出力である制御コードA_DTC_CODEは、I_DTC_CODEの値によらずにハイ(1)となり、したがって制御コードA_DTC_CODEはダミーコードとなる。ゲート信号I_GATEがロー(すなわち値0)であるとき、第1論理ゲート214の出力である制御コードA_DTC_CODEは、I_DTC_CODEの値と一致する。
【0066】
図10の可変遅延回路200Aによれば、図7の動作を実現できる。
【0067】
図11は、第2実施例に係る可変遅延回路200Bの回路図である。第2実施例では、出力回路220Bの構成が第1実施例の出力回路220Aと異なっている。出力回路220Bは、第2論理ゲート224を含む。第2論理ゲート224は、遅延パルスi_dtc_oと入力パルスREFを受け、それらを論理演算して、出力パルスDEL_REFを生成する。たとえば第2論理ゲート224はANDゲートである。
【0068】
図11の可変遅延回路200Bによれば、図7の動作を実現できる。出力回路220Aにフリップフロップを用いないため、回路構成がシンプルであり、出力パルスDEL_REFに付加されるジッター(雑音)を低減することができる。また入力パルスREFの高周波化にも対応しやすい。
【0069】
(用途)
続いて可変遅延回路200の用途を説明する。図12は、フラクショナルNタイプPLL(Phase Locked Loop)回路を用いたPLL周波数シンセサイザ300のブロック図である。PLL周波数シンセサイザ300は、DTC回路302、PFD(Phase-Frequency Detector)回路304、ループフィルタ306、VCO(電圧制御発振器)308、プログラマブル分周器310を備える。
【0070】
DTC回路302は、上述の可変遅延回路200に相当するブロックであり、基準クロックREFのエッジ(たとえばポジエッジ)にコードcodeに応じた遅延を与える。
【0071】
VCO308は、ループフィルタ306からの出力信号LPF_OUTに応じた周波数で発振する。プログラマブル分周器310は、VCO308の出力Foutを、時分割的に2値で変化する分周比(1/3または1/4)で分周し、DIV_OUT信号を生成する。PFD回路304は、DEL_REF信号のポジエッジと、DIV_OUT信号のポジエッジの位相差を検出し、位相差に応じた制御信号PFD_OUTを生成する。PFD_OUT信号は、ループフィルタ306によって平滑化され、LPF_OUT信号が生成される。
【0072】
以上がPLL周波数シンセサイザ300の構成である。図13は、図12のPLL周波数シンセサイザ300の動作波形図である。分周比N=3.25(周波数は1/3.25)のときの動作を実線で示す。比較のために、整数NタイプPLL回路の動作(N=3)を併せて示す。分周比3.25を得るために、プログラマブル分周器310の分周比(DIV_RATIO)は、時間的に値3と4を3:1の割合でとる。
【0073】
出力信号Foutの位相(Fout_phase)と基準クロックREFのポジエッジの関係に着目すると、基準クロックREFのポジエッジが1回発生する度に、出力信号Foutの位相Fout_phaseは3.25×2π[rad]進む。このためDTC回路302を用いて、サイクル毎に、0.75×2π[rad]、0.5×2π[rad]、0.25×2π[rad]、0[rad]ずつ、基準クロックREFのポジエッジを遅延させると、遅延後のDEL_REF信号のポジエッジとDIV_OUT信号のエッジのタイミングが揃うこととなる。したがって、遅延後のDEL_REF信号をリファレンスとして、DIV_OUT信号の位相をフィードバック制御することにより、所望の分周比3.25を得ることができる。
【0074】
実施の形態に係るDTC回路302として、上述の可変遅延回路200(200A,200B)を用いることにより、遅延量が安定した遅延パルスDEL_REFを得ることができ、ひいては高周波クロックFoutのジッタ(位相雑音)を抑制できる。
【0075】
図14は、無線通信機能を備える電子機器400のブロック図である。ここでは中間周波数IFを利用したヘテロダイン方式を例とするが、ダイレクトコンバージョン方式の周波数シンセサイザにも、実施の形態に係るPLL周波数シンセサイザ300は利用可能である。
【0076】
PLL周波数シンセサイザ300は、中間周波数を有するIF信号と、無線周波数を有するRFキャリア信号を生成する。π/2移相器401は、同相成分と直交成分のIF信号を生成する。直交変調器404は、ベースバンドIC402からのベースバンド信号TXI,TXQを、移相器401からのIF信号を利用して直交変調する。
【0077】
周波数ミキサー406は、直交変調器404によって直交変調されたTX信号を、RFキャリア信号を利用して周波数アップコンバージョンする。周波数ミキサー406の出力は、バンドパスフィルタ408、パワーアンプ410、スイッチ412、バンドパスフィルタ414を経て、アンテナ416から送信される。
【0078】
続いて受信側を説明する。アンテナ416が受信したRF受信信号は、バンドパスフィルタ414、スイッチ412、LNA(ローノイズアンプ)418、バンドパスフィルタ420を介して、周波数ミキサー422に入力される。周波数ミキサー422は、RF受信信号を、RFキャリア信号を利用して周波数ダウンコンバージョンする。直交復調器424は、周波数ミキサー422からのIF受信信号を、移相器401からのIF信号を利用して直交復調し、復調後のベースバンド信号RXI,RXQをベースバンドIC402に供給する。
【0079】
以上が電子機器400の無線トランシーバの構成である。この無線トランシーバによれば、位相雑音の少ないRFキャリア信号やIF信号を得ることができるため、通信品質を高めることができる。
【0080】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0081】
(変形例1)
実施の形態では、遅延対象のエッジをポジエッジとしたがその限りでなく、ネガエッジ(トレーリングエッジ、フォーリングエッジ)を遅延対象としてもよい。当業者によれば、各信号の論理を適宜反転したり、論理ゲートの種類を変更することにより、ネガエッジの遅延に対応させることが可能である。
【0082】
(変形例2)
図1のDTC回路では、遅延ラインと接地の間に、キャパシタおよびMOSスイッチを設けたがその限りでなく、MOSスイッチとキャパシタを、遅延ラインと電源ラインの間に直列に設けてもよい。
【0083】
(変形例3)
実施の形態では、DTC回路100における複数のキャパシタの容量がすべて等しいものとしたがその限りでなく、容量値はバイナリで重み付けされてもよい。この場合、複数のMOSスイッチのサイズ(W/L)も、容量値にしたがってバイナリで重み付けするとよい。
【0084】
(変形例4)
実施の形態に係る可変遅延回路200の用途は、PLL周波数シンセサイザには限定されず、パルス信号のエッジを高精度でデジタル制御したいさまざまな用途に用いることができる。その他の用途としては、クロックリカバリー回路などが例示される。
【0085】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0086】
100 DTC回路
200 可変遅延回路
210 コントローラ
212 第1フリップフロップ
214 第1論理ゲート
216 インバータ
220 出力回路
222 第2フリップフロップ
224 インバータ
300 PLL周波数シンセサイザ
302 DTC回路
304 PFD回路
306 ループフィルタ
308 VCO
310 プログラマブル分周器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14