(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20221214BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20221214BHJP
B60W 40/068 20120101ALI20221214BHJP
B60W 40/09 20120101ALI20221214BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20221214BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20221214BHJP
B60T 8/172 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
B60W30/02
B62D6/00
B60W40/068
B60W40/09
B60W50/14
B60T7/12 D
B60T8/172 B
(21)【出願番号】P 2018084977
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 達夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 章也
(72)【発明者】
【氏名】竹林 洋亮
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-263242(JP,A)
【文献】特開2016-196285(JP,A)
【文献】特表2013-512140(JP,A)
【文献】特開2016-181031(JP,A)
【文献】特開2011-059856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B62D 6/00
B60T 7/12
B60T 8/172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両周辺の路面摩擦係数の上限値、中央値および下限値を推定する路面摩擦係数推定部と、
車両の乗員の運転特徴を取得する運転特徴取得部と、
前記路面摩擦係数の前記中央値と前記運転特徴に基づいて、
車両の加速度又は先行車との車間距離の許容範囲を算出する許容範囲算出部と、
車両の実際の加速度又は車間距離が前記許容範囲内であるか否かに基づいて、運転状態の安全性を判定する判定部と、
前記運転状態の安全性の判定結果に基づいて車両を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記判定部により、前記運転状態が安全であると判定された場合に、前記路面摩擦係数の前記上限値を用いて前記車両の制駆動力を制御し、
前記判定部により、前記運転状態が安全でないと判定された場合に、前記路面摩擦係数の前記下限値を用いて前記車両の制駆動力を制御する
ことを特徴とする、車両の制御装置。
【請求項2】
前記運転状態が安全でないと判定された場合に、車両の運転を手動運転から自動運転に切り換える自動運転切換部を備え、
前記制御部は、自動運転により車両を制御することを特徴とする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記路面摩擦係数がより高い路面を走行するように車両の操舵を制御する、請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、自動運転により車両を停止させることを特徴とする、請求項2又は3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記運転状態が安全でないと判定された場合に、運転者に運転の助言を実施する助言実施部を備えることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記運転状態が安全でないと判定された場合に、判定前よりも車両の駆動力を低減した安全モードで車両を制御することを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記助言を実施した後に前記運転状態が安全でないと判定された場合に、判定前よりも車両の駆動力を低減した安全モードで車両を制御することを特徴とする、請求項5に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記路面摩擦係数に基づいて車両を制御し、前記安全モードでは、判定前よりも小さい路面摩擦係数に基づいて車両を制御することを特徴とする、請求項7に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記乗員は、車両を運転する運転者であることを特徴とする、請求項1~
8のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項10】
前記乗員は、車両を運転しない同乗者であることを特徴とする、請求項1~
9のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項11】
前記制御部は、車両の制駆動力の制御若しくは操舵制御を行うことを特徴とする、請求項1~
10のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項12】
車両の制御装置が、車両周辺の路面摩擦係数の上限値、中央値および下限値を推定するステップと、
前記制御装置が、前記車両の乗員の運転特徴を取得するステップと、
前記制御装置が、前記路面摩擦係数の前記中央値と前記運転特徴に基づいて、
車両の加速度又は先行車との車間距離の許容範囲を算出するステップと、
前記制御装置が、車両の実際の加速度又は車間距離が前記許容範囲内であるか否かに基づいて、運転状態の安全性を判定するステップと、
前記制御装置が、前記運転状態の安全性の判定結果に基づいて前記車両を制御するステップと、
を備え、
前記車両を制御するステップでは、
前記運転状態の安全性を判定するステップにより、前記運転状態が安全であると判定された場合に、前記路面摩擦係数の前記上限値を用いて前記車両の制駆動力を制御し、
前記運転状態の安全性を判定するステップにより、前記運転状態が安全でないと判定された場合に、前記路面摩擦係数の前記下限値を用いて前記車両の制駆動力を制御する
ことを特徴とする、車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置及び車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記の特許文献1には、計測された温度及び集音された車両周辺の音から路面摩擦係数を推定する装置が開示されている。また、下記の特許文献2には、計測された地盤の水分率と温度から路面摩擦係数を推定する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-055787号公報
【文献】特開2008-249560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1,2に記載された技術によれば、路面摩擦を推定し、推定した路面摩擦係数を車両制御に適用することができる。しかし、車両を運転するドライバの運転特徴は、ドライバ毎に個別に異なっており、路面摩擦係数に基づいて車両を制御したとしても、ドライバ毎の運転特徴の相違に応じて最適な車両制御を行うことが困難である。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、路面摩擦係数とドライバの運転特徴に応じて最適な車両制御を行うことが可能な、新規かつ改良された車両の制御装置及び車両の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、車両周辺の路面摩擦係数の上限値、中央値および下限値を推定する路面摩擦係数推定部と、車両の乗員の運転特徴を取得する運転特徴取得部と、前記路面摩擦係数の前記中央値と前記運転特徴に基づいて、車両の加速度又は先行車との車間距離の許容範囲を算出する許容範囲算出部と、車両の実際の加速度又は車間距離が前記許容範囲内であるか否かに基づいて、運転状態の安全性を判定する判定部と、前記運転状態の安全性の判定結果に基づいて車両を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記判定部により、前記運転状態が安全であると判定された場合に、前記路面摩擦係数の前記上限値を用いて前記車両の制駆動力を制御し、前記判定部により、前記運転状態が安全でないと判定された場合に、前記路面摩擦係数の前記下限値を用いて前記車両の制駆動力を制御する車両の制御装置が提供される。
【0006】
前記運転状態が安全でないと判定された場合に、車両の運転を手動運転から自動運転に切り換える自動運転切換部を備え、前記制御部は、自動運転により車両を制御するものであっても良い。
【0007】
また、前記制御部は、前記路面摩擦係数がより高い路面を走行するように車両の操舵を制御するものであっても良い。
【0008】
また、前記制御部は、自動運転により車両を停止させるものであっても良い。
【0009】
また、前記運転状態が安全でないと判定された場合に、運転者に運転の助言を実施する助言実施部を備えるものであっても良い。
【0010】
また、前記制御部は、前記運転状態が安全でないと判定された場合に、判定前よりも車両の駆動力を低減した安全モードで車両を制御するものであっても良い。
【0011】
また、前記制御部は、前記助言を実施した後に前記運転状態が安全でないと判定された場合に、判定前よりも車両の駆動力を低減した安全モードで車両を制御するものであっても良い。
【0012】
また、前記制御部は、前記路面摩擦係数に基づいて車両を制御し、前記安全モードでは、判定前よりも小さい路面摩擦係数に基づいて車両を制御するものであっても良い。
【0015】
また、前記乗員は、車両を運転する運転者であっても良い。
【0016】
また、前記乗員は、車両を運転しない同乗者であっても良い。
【0017】
また、前記制御部は、車両の制駆動力の制御若しくは操舵制御を行うものであっても良い。
【0018】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、車両の制御装置が、車両周辺の路面摩擦係数の上限値、中央値および下限値を推定するステップと、前記制御装置が、前記車両の乗員の運転特徴を取得するステップと、前記制御装置が、前記路面摩擦係数の前記中央値と前記運転特徴に基づいて、車両の加速度又は先行車との車間距離の許容範囲を算出するステップと、前記制御装置が、車両の実際の加速度又は車間距離が前記許容範囲内であるか否かに基づいて、運転状態の安全性を判定するステップと、前記制御装置が、前記運転状態の安全性の判定結果に基づいて前記車両を制御するステップと、を備え、前記車両を制御するステップでは、前記運転状態の安全性を判定するステップにより、前記運転状態が安全であると判定された場合に、前記路面摩擦係数の前記上限値を用いて前記車両の制駆動力を制御し、前記運転状態の安全性を判定するステップにより、前記運転状態が安全でないと判定された場合に、前記路面摩擦係数の前記下限値を用いて前記車両の制駆動力を制御する車両の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば、路面摩擦係数とドライバの運転特徴に応じて最適な車両制御を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るシステムの構成を示す模式図である。
【
図2A】第2の摩擦係数算出部が路面状態を判定する際に使用するマップを示す模式図である。
【
図2B】
図2Aの3次元マップを2次元マップに分解して示す模式図である。
【
図2C】
図2Aの3次元マップを2次元マップに分解して示す模式図である。
【
図2D】
図2Aの3次元マップを2次元マップに分解して示す模式図である。
【
図2E】
図2Aの3次元マップを2次元マップに分解して示す模式図である。
【
図3】路面状態と摩擦係数の関係を予め規定したデータベースの例を示す模式図である。
【
図4】第1の路面摩擦係数μaを算出する処理を示すフローチャートである。
【
図5】路面のノイズの周波数と音量の特性が路面状態によって異なる様子を示す特性図である。
【
図6】第2の路面摩擦係数μbを算出する処理を示すフローチャートである
【
図7】制御装置で行われる処理を示すフローチャートである。
【
図8】
図7のステップS18で加速度Aの範囲Rを決定する際に使用するマップを示す模式図である。
【
図9】
図7のステップS18で加速度Aの範囲Rを決定する際に使用するマップを示す模式図である。
【
図10】
図7のステップS18で加速度Aの範囲Rを決定する際に使用するマップを示す模式図である。
【
図11】
図7のステップS18で車間距離Lの範囲Rを決定する際に使用するマップを示す模式図である。
【
図12】
図7のステップS18で車間距離Lの範囲Rを決定する際に使用するマップを示す模式図である。
【
図13】
図7のステップS18で車間距離Lの範囲Rを決定する際に使用するマップを示す模式図である。
【
図14】最大出力モード、安全モードで行われる制駆動力及び横力の制御を説明するための模式図である。
【
図15】
図7のステップS34の処理を詳細に示すフローチャートである。
【
図16】路面摩擦係数と制動距離との関係を示す特性図である。
【
図17】
図15のステップS52の処理を示すフローチャートである。
【
図18】
図17のステップS70において、車両を右に移動させて先行車との衝突を回避した場合を示す模式図である。
【
図19】本発明の第2の実施形態に係るシステムの構成を示す模式図である。
【
図20】第2の実施形態において、制御装置で行われる処理を示すフローチャートである。
【
図21A】運転特徴算出部による運転特徴の算出方法を示す模式図である。
【
図21B】運転特徴算出部による運転特徴の算出方法を示す模式図である。
【
図21C】運転特徴算出部による運転特徴の算出方法を示す模式図である。
【
図21D】運転特徴算出部による運転特徴の算出方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
1.第1の実施形態
図1は、本発明の第1の実施形態に係るシステム1000の構成を示す模式図である。このシステム1000は、自動車などの車両に搭載される。
図1に示すように、システム1000は、第1の路面摩擦係数センサ100、第2の路面摩擦係数センサ200、乗員向けの各種デバイス300、駆動装置400、制御装置500、CAN(Controller Area Network)600を備えている。
【0023】
第1の路面摩擦係数センサ100は、車両の車外の環境情報を取得する装置から構成され、カメラ、非接触温度計、近赤外センサ、非接触距離計等を含む。第2の路面摩擦係数センサ200はマイクロフォンから構成され、車外の音、特に車両走行時に路面からの音を取得する。乗員向けの各種デバイス300は、スピーカ、ディスプレイ、メータ、振動子、香料散布器、クーラー/ヒーター、打撃器等を含む。駆動装置400は、ステアリング(操舵装置)、ブレーキ、エンジン、各車輪を駆動するモータ、トランスミッション、車輪等を含む。
【0024】
制御装置500は、車両情報取得部510、路面摩擦係数算出部(路面摩擦係数推定部)520、データベース525,533、運転技量レベル算出部(運転特徴取得部)530、L(A)範囲算出部532、L(A)範囲許容データベース534、L(A)判定部536、助言時間・助言回数計測部538、助言文面決定部540、助言データベース541、音声・声色決定部542、助言実施部544、最大出力モード決定部546、安全モード決定部548、自動運転切換部550、最大出力/安全モード切換部552、操舵制御部554、制動力制御部556、駆動力制御部558、横力制御部560、を有して構成されている。
【0025】
システム1000は、外部のサーバ700と通信可能とされている。通信方法として、例えばBluetooth(登録商標)、WiFi、4G等の方法を用いることができる。なお、通信方式は特に限定されるものではない。
【0026】
システム1000が備えるデータベースに蓄積されたデータは、外部のサーバ700と通信を行うことにより、サーバ700からダウンロードされたものであっても良い。
【0027】
また、これらのデータベースに蓄積されたデータは、サーバ700(クラウド)側で保持していても良い。その場合、システム1000は、データを使用する際にサーバ700にアクセスし、データを取得する。
【0028】
路面摩擦係数算出部520は、第1の路面摩擦係数算出部(μa算出部)522、第2の路面摩擦係数算出部(μb算出部)524、騒音・摩擦係数対応データベース525、データベース533、μm算出部526、μmax算出部528、μmin算出部529を有している。第1の路面摩擦係数算出部522は、第1の路面摩擦係数センサ100が取得した情報に基づいて第1の路面摩擦係数μaを算出する。また、第2の路面摩擦係数算出部524は、第2の路面摩擦係数センサ200であるマイクロフォンが取得した情報に基づいて第2の路面摩擦係数μbを算出する。
【0029】
第1の路面摩擦係数センサ100は、具体的には、車両前方を撮像するカメラ、温度センサ(外気温センサ、路面温度センサ)、近赤外線センサ、レーザ光センサ(TOF(Time of Flight)センサ)等の非接触式センサを備えるハイブリッドタイプのセンサであり、車両前方の画像、温度、路面状態等を検出する。なお、第1の路面摩擦係数センサ100による路面状態の判別の際に、例えば特開2006-46936号公報に記載されている方法を採用しても良い。
【0030】
制御装置500の第1の路面摩擦係数算出部522は、第1の路面摩擦係数センサ100により車両前方の画像、温度等が検出されると、これに基づいて路面の摩擦係数をリアルタイムに算出する。
【0031】
具体的に、第1の路面摩擦係数算出部522は、第1の路面摩擦係数センサ100のカメラの画像から車両前方の路面の色、路面粗さ等を取得する。また、第1の路面摩擦係数算出部522は、第1の路面摩擦係数センサ100の非接触式温度計から、外気温、路面温度を取得する。
【0032】
また、第1の路面摩擦係数算出部522は、第1の路面摩擦係数センサ100の近赤外線センサの検出値から、路面の水分量を取得する。近赤外線を路面に照射した際に、路面に水分が多いと近赤外線の反射量が少なくなり、路面に水分が少ないと近赤外線の反射量が多くなる。従って、第1の路面摩擦係数算出部522は、近赤外線センサの検出値に基づいて、路面の水分量を取得することができる。
【0033】
また、第1の路面摩擦係数算出部522は、第1の路面摩擦係数センサ100のレーザ光センサから、路面の粗さを取得する。より詳細には、レーザ光を照射してからその反射光が検出されるまでの時間に基づいて、車両前方の路面の粗さ(凹凸)を取得することができる。なお、第1の路面摩擦係数算出部522は、車両速度に基づいて、車両走行に伴う路面の移動分を考慮して、車両前方の領域の路面の粗さを取得する。
【0034】
第1の路面摩擦係数算出部522は、第1の路面摩擦係数センサ100から取得したこれらの情報から、路面状態がドライ(D)、ウェット(W)、雪(S)、氷(I)であるかを判定する。
図2Aは、第1の路面摩擦係数算出部522が路面状態を判定する際に使用するマップを示す模式図である。
図2Aに示すマップは、路面温度、路面凹凸、及び路面の水分量のそれぞれを正規化した値をパラメータとする、3次元マップとされている。
図2B~
図2Eは、
図2Aのマップ3次元マップを2次元マップに分解して示す模式図である。
図2Bは、路面温度(Z軸)、路面凹凸(X軸)、及び路面の水分量(Y軸)の座標系を、
図2Cは
図2Bの(1)面の2次元マップを、
図2Dは
図2Bの(2)面の2次元マップを、
図2Eは
図2Bの(3)面の2次元マップを、それぞれ示している。第1の路面摩擦係数算出部522は、第1の路面摩擦係数センサ100による検出値から取得した路面温度、路面凹凸、路面水分量を
図2Aのマップに当てはめて、路面状態を判定する。
【0035】
そして、第1の路面摩擦係数算出部522は、
図2Aのマップから判定した路面状態を、路面状態と路面摩擦係数の関係を予め規定したデータベースに反映させることで、第1の路面摩擦係数μaを算出する。
図3は、路面状態と摩擦係数の関係を予め規定したデータベースの例を示す模式図である。
図3に示す路面状態と摩擦係数との関係として、例えば(株)日本交通事故鑑識研究所のホームページ(http://weekend.nikkouken.com/week47/409/)に記載された摩擦係数表を用いることができる。
図3に示すデータベースでは、縦方向では、路面状況である「アスファルト」、「コンクリート」、「砂利」、「氷」、「雪」に応じた摩擦係数が示されている。また、横方向では、路面状況として、乾(ドライ(D))、濡(ウェット(W))に応じた摩擦係数が示されている。
【0036】
第1の路面摩擦係数算出部522は、
図2Aのマップから判定した路面状態を
図3のデータベースに当てはめ、第1の路面摩擦係数μaを算出する。この際、「アスファルト」、「コンクリート」、「砂利」の判定については、第1の路面摩擦係数センサ100のカメラから取得した路面の画像と、予め取得しておいた「アスファルト」、「コンクリート」、「砂利」の各画像との類似度を判定した結果から、車両前方の路面が「アスファルト」、「コンクリート」、「砂利」のいずれであるかを判定する。
【0037】
更に、第1の路面摩擦係数算出部522は、車両前方の路面が「アスファルト」であると判定した場合に、第1の路面摩擦係数センサ100のカメラから取得した路面の画像と、予め取得しておいた「新舗装」、「普通舗装」、「舗装摩減」、「タール過剰」の各画像との類似度を判定した結果から、車両前方の路面が「アスファルト」であり、「新舗装」、「普通舗装」、「舗装摩減」、「タール過剰」のいずれであるかを判定する。第1の路面摩擦係数算出部522は、車両前方の路面が「コンクリート」、「砂利」であると判定した場合も同様に、更に細分化した判定を行うことができる。
【0038】
以上により、第1の路面摩擦係数算出部522は、路面状況と車両速度に基づいて、
図3のデータベースから、車両前方の第1の路面摩擦係数μaを算出する。例えば、第1の路面摩擦係数センサ100のカメラの画像から、路面が「アスファルト」の「新舗装」であることが判定され、車速センサから検出される車両速度が40km/hであり、
図2Aのマップから路面状況が乾(ドライ(D))と判定された場合、第1の路面摩擦係数μaの値は0.8~1.0として算出される。なお、
図2A~
図2Eに示すマップ、
図3のデータベースの情報は、データベース533に格納されていても良い。
【0039】
図4は、第1の路面摩擦係数μaを算出する処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS100では、第1の路面摩擦係数センサ100により車両前方の路面状態を判別する。次のステップS102では、CAN600を介して、車輪速センサから車輪速情報を取得する。次のステップS104では、
図3のデータベースに基づき、第1の路面摩擦係数μaを算出する。
【0040】
第2の路面摩擦係数センサ200は、路面左側の音声を取得する路面左側用のマイクロフォンと、路面右側の音声を取得する路面右側用のマイクロフォンとから構成される。車両が走行する際に発生する路面によるノイズは、車両速度や路面状態によって異なることが知られている。
図5は、路面のノイズの周波数と音量の特性が路面状態によって異なる様子を示す特性図である。
図5では、「コンクリート路」、「修復路」、「高速道路」、「ウェット路」、「雪路」のそれぞれにおいて、周波数(横軸)と音量(縦軸)が異なる様子を示している。
【0041】
騒音・摩擦係数対応データベース525は、機械学習によって生成された、「路面からのマイク入力音の特徴量と車速」と、「路面状態と摩擦係数」との関係を示すデータベースである。第2の路面摩擦係数算出部524は、走行時のマイク入力音とデータベースを比較し、第2の路面摩擦係数μbを算出する。マイクロフォンを車両の左右両側に設置することにより、車両の左右のいずれの側の路面摩擦係数が高いかを判定することもできる。
【0042】
図6は、第2の路面摩擦係数μbを算出する処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS110では、第2の路面摩擦係数センサ200により車両前方の路面状態を判別する。次のステップS120では、車輪速センサにより車輪速情報を取得する。次のステップS130では、騒音・摩擦係数対応データベース525に基づき、第2の路面摩擦係数μbを算出する。
【0043】
μm算出部526、μmax算出部528、μmin算出部529は、第1の路面摩擦係数μa、第2の路面摩擦係数μbに基づいて、μm、μmax、μminをそれぞれ算出する。ここで、μmは、第1の路面摩擦係数μa及び第2の路面摩擦係数μbに基づいて算出される最も確からしい路面摩擦係数である。また、μmaxは誤差も含めた路面摩擦係数の上限値であり、μminは誤差も含めた路面摩擦係数の下限値である。
【0044】
一例として、μmax算出部528は、第1の路面摩擦係数μaと第2の路面摩擦係数μbのそれぞれが誤差範囲を含めて上限値と下限値を有している場合、第1の路面摩擦係数μaの上限値と第2の路面摩擦係数μbの上限値のうち値が大きいものをμmaxとして算出する。また、μmin算出部529は、第1の路面摩擦係数μaと第2の路面摩擦係数μbのそれぞれが誤差範囲を含めて上限値と下限値を有している場合、第1の路面摩擦係数μaの下限値と第2の路面摩擦係数μbの下限値のうち値が小さいものをμminとして算出する。また、μm算出部526は、第1の路面摩擦係数μaと第2の路面摩擦係数μbのそれぞれが誤差範囲を含めて上限値と下限値を有している場合、第1の路面摩擦係数μaの中央値と第2の路面摩擦係数μbの中央値の平均をμmとして算出する。以上のように、第1の路面摩擦係数μaと第2の路面摩擦係数μbに基づいて路面摩擦係数を算出することで、路面摩擦係数を高精度に算出することが可能である。
【0045】
本実施形態では、3種類のμm、μmax、μminを取捨選択して各種制御に最適に適用する。例えば、車間距離や加速度の判定にはμmを用いる。また、通常運転時にはμmaxを用いて制駆動力を制御する最大出力モードを適用する。また、車間距離や加速度が安全でない範囲に入った場合には、安全マージンを勘案して安全運転を支援するために、μminを用いて制駆動力を制御する安全モードに切り換える。
【0046】
図7は、制御装置500で行われる処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS10では、車両の運転モードが最大出力モードに設定される。最大出力モードでは、μmaxに基づいて車両の制駆動力、横力が制御される。
【0047】
次のステップS12では、運転技量レベル算出部530が、ドライバの運転技量レベルNを取得する。ドライバの運転技量レベルNは、例えば、左右力差ステアが発生した場合にそれを打ち消すための操舵が速やかに行われるか、停止ショックの大きさ、信号や一時停止無視をしたか、速度違反をしたか、急ハンドル、急発進、急減速等の頻度、等を判定することによって取得できる。これらの判定による運転技量レベルの判定は、例えば特開平3-217362号公報、特開平5-196632号公報、特許第3036268号公報等に記載されている手法を適宜適用して行うことができる。
【0048】
一例として、運転技量レベル算出部530は、ドライバの運転技量レベルNを3段階に分けて取得することができる。運転技量レベルL1は技量が低く、運転技量レベルL2は技量が中程度であり、運転技量レベルL3は技量が高い。運転技量レベルL1の場合は安全マージンがより必要であるから、必要な車間距離を例えば一律1.2倍にし、運転技量レベルL3の場合は必要車間距離を0.8倍にする。
【0049】
次のステップS14では、車両速度Vを取得する。次のステップS16では、上述した方法によりμm、μmax、μminを算出する。次のステップS18では、運転技量N、路面摩擦係数、車両速度Vに基づいて、L(A)範囲算出部532が、車両を安全に運転できる加速度A(または車間距離L)の範囲Rを決定する。
【0050】
図8~
図10は、ステップS18で加速度Aの範囲Rを決定する際に使用するマップを示す模式図であって、車両速度Vと加速度Aの絶対値の関係を示している。
図8~
図10に示すように、加速度Aは、ドライバの運転技量レベルL1,L2,L3が高いほど大きな値に設定される。
図8~
図10のマップから求まる加速度Aから加速度0までの加速度が範囲Rとなる。
【0051】
図8は、低μの場合(摩擦係数μl)を示しており、
図9は、中μの場合(摩擦係数=μmid)を示しており、
図10は高μの場合(摩擦係数=μh)を示している。一例として、μl<0.4、0.4≦μmid<0.7、0.7≦μhである。
図8~
図10に示すように、低μの場合ほど、加速度Aの値は小さくなる。従って、車両が滑り易い場合ほど、加速度Aは小さく設定される。
【0052】
また、
図11~
図13は、ステップS18で車間距離Lの範囲Rを決定する際に使用するマップを示す模式図であって、車両速度Vと車間距離Lの関係を示している。
図11~
図13に示すように、車間距離Lは、ドライバの運転技量レベルL1,L2,L3が高いほど小さい値に設定される。
図11~
図13のマップから求まる車間距離L以上の車間距離が範囲Rとなる。
【0053】
図11は、低μの場合(摩擦係数μl)を示しており、
図12は、中μの場合(摩擦係数=μmid)を示しており、
図13は高μの場合(摩擦係数=μh)を示している。一例として、μl<0.4、0.4≦μmid<0.7、0.7≦μhである。
図11~
図13に示すように、低μの場合ほど、車間距離Lの値は大きくなる。従って、車両が滑り易い場合ほど、車間距離が長めに設定される。
図8~
図13に示すマップは、L(A)許容範囲データベース534に格納されている。
【0054】
次のステップS20では、L(A)判定部536が、車両の実際の加速度A(または車間距離L)がステップS18で決定した範囲Rに収まっているか否かを判定し、車両の実際の加速度A(または車間距離L)が範囲Rに収まっている場合はステップS12に戻る。
【0055】
ここで、車両の実際の加速度Aは、車両が備える加速度センサにより計測され、CAN600を介して車両情報取得部510により取得される。また、先行車との間の実際の車間距離は、カメラで撮像した撮像画像から取得することができる。カメラとして、第1の路面摩擦係数センサ100のカメラを用いても良いし、車間距離計測用にカメラを別途設けても良い。具体的には、ステレオカメラの左右1組のカメラによって撮像した左右1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって対象物までの距離情報を生成して取得することができる。これにより、車両情報取得部510は、自車と先行車との車間距離を取得できる。同時に、車両情報取得部510は、画像情報から被写体の位置情報を取得することができる。なお、車両情報取得部510は、三角測量の原理によって生成した距離情報に対して、周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め設定しておいた三次元的な立体物データ等と比較することにより、立体物データや白線データ等を検出する。これにより、車両情報取得部510は、人物、他車両、一時停止の標識、停止線、ETCゲートなどを認識することもできる。
【0056】
また車両情報取得部510は、三角測量の原理によって生成した人物、他車両との距離情報を用いて、人物や他車両との距離の変化量、相対速度を算出することができる。距離の変化量は、単位時間ごとに検知されるフレーム画像間の距離を積算することにより求めることができる。また、相対速度は、単位時間ごとに検知される距離を当該単位時間で割ることにより求めることができる。このように、車両情報取得部510は、カメラから得られる車両外の画像情報を取得して画像分析処理を行い、画像情報を分析して車両外の環境情報を取得することができる。
【0057】
また、ステップS20で車両の実際の加速度A(または車間距離L)がステップS18で決定した範囲Rに収まっていない場合は、ステップS22へ進む。ステップS22では、助言実施部544が、各種デバイス300を動作させ、ドライバに対する助言を実施する。助言は、例えば「急にアクセル、ブレーキを踏まないでください」、「車間距離を大きくしてください」等の文言をディスプレイ、またはメータに表示し、またはスピーカから発音することによって行う。また、振動子、香料散布器、打撃器等によりドライバに警告を行うようにしても良い。
【0058】
ドライバに対する助言は、助言文面決定部540により決定される。音声・音色決定部542は、助言を行う際の音声、音色を決定する。また、助言時間・助言回数計測部538は、助言を行ってからの経過時間、助言を行った回数を計測する。
【0059】
次のステップS24では、一定時間が経過したか否かを判定し、一定時間が経過した場合はステップS26へ進む。ステップS26では、車両の実際の加速度A(または車間距離L)がステップS18で決定した範囲Rに収まっているか否かを判定し、車両の実際の加速度A(または車間距離L)が範囲Rに収まっている場合はステップS12に戻る。
【0060】
また、ステップS26で車両の実際の加速度A(または車間距離L)がステップS18で決定した範囲Rに収まっていない場合は、ステップS28へ進む。ステップS28では、最大出力/安全モード切換部552が最大出力モードから安全モードへの切り換えを行う。
【0061】
上述したように、最大出力モードでは、μmaxに基づいて車両の制駆動力、横力が制御される。ステップS28で最大出力モードから安全モードへの切り換えが行われると、μminに基づいて車両の制駆動力、横力が制御される。これにより、車両の制駆動力、横力をより抑制することができる。
【0062】
図14は、最大出力モード、安全モードで行われる制駆動力及び横力の制御を説明するための模式図であって、最大出力モードと安全モードで摩擦円の大きさが変化する様子を示している。
図14に示すように、破線の摩擦円10は、最大出力モードの摩擦円を示している。最大出力モードでは、破線で示す摩擦円10の範囲内で車両の制駆動力及び横力が制御される。摩擦円10は、μmaxに基づいて設定される。
【0063】
なお、制動力の制御は制動力制御部556によって行われ、駆動力の制御は駆動力制御部558によって行われ、横力の制御は横力制御部560によって行われる。最大出力モード決定部546は、μmax算出部528が算出したμmaxに基づいて制動力、駆動力、横力の許容値を決定する。制動力制御部556、駆動力制御部558、横力制御部560は、最大出力モード決定部546が決定した制動力、駆動力、横力の許容値の範囲内で制動力、駆動力、横力を制御する。最大出力モードでは、制動力制御部556、駆動力制御部558、横力制御部560が、駆動装置400のステアリング、ブレーキ、エンジン、モータ等を制御することで、車両の制駆動力及び横力が摩擦円10の範囲に収まるように制御を行う。
【0064】
また、
図14に示すように、一点鎖線の摩擦円20は、安全モードの摩擦円を示している。安全モードでは、一点鎖線で示す摩擦円20の範囲内で車両の制駆動力及び横力が制御される。摩擦円20は、μminに基づいて設定される。安全モード決定部548は、μmin算出部529が算出したμminに基づいて制動力、駆動力、横力の許容値を決定する。制動力制御部556、駆動力制御部558、横力制御部560は、安全モード決定部548が決定した制動力、駆動力、横力の許容値の範囲内で制動力、駆動力、横力を制御する。安全モードでは、制動力制御部556、駆動力制御部558、横力制御部560が、駆動装置400のステアリング、ブレーキ、エンジン、モータ等を制御することで、車両の制駆動力及び横力が摩擦円20の範囲に収まるように制御を行う。
【0065】
なお、制動力、駆動力、横力の制御方法は特に限定されるものではないが、例えばハブユニットセンサ等によりタイヤにかかる制動力、駆動力、横力を計測し、フィードバック制御により制動力、駆動力、横力を制御しても良い。以上のように、制動力制御部556、駆動力制御部558、横力制御部560により、車両を制御する制御部が構成されている。また、後述する操舵制御部554も車両を制御する制御部を構成する。
【0066】
以上のように、第1の摩擦係数算出部552及び第2の摩擦係数算出部524で算出した摩擦係数は誤差等を含んでおり、算出した摩擦係数は最大値(μmax)と最小値(μmin)の間の範囲で規定される。このため、μmaxを最大出力モードとし、μminを安全モードとすることで、路面摩擦係数の最大値及び最小値に基づいて摩擦円を設定することができる。そして、現在のモードに応じた摩擦円の範囲に収まるように車両の制駆動力及び横力が制御される。従って、例えばドライバがアクセルペダルまたはブレーキペダルを踏み込むことで要求する制駆動力が摩擦円の範囲を逸脱する場合は、ドライバが要求する制駆動力を出力しないように駆動力の制御が行われ、車両の制駆動力を摩擦円の範囲に収める制御が実行される。
【0067】
ステップS28の後はステップS30へ進む。ステップS30では、安全モードに切り換えてから一定時間が経過したか否かを判定し、一定時間が経過した場合はステップS32へ進む。ステップS32では、車両の実際の加速度A(または車間距離L)がステップS18で決定した範囲Rに収まっているか否かを判定し、車両の実際の加速度A(または車間距離L)が範囲Rに収まっている場合はステップS12に戻る。
【0068】
また、ステップS32で車両の実際の加速度A(または車間距離L)がステップS18で決定した範囲Rに収まっていない場合は、ステップS34へ進む。ステップS34では、車両を安全な場所に自動停止させる。
【0069】
図15は、
図7のステップS34の処理を詳細に示すフローチャートである。先ず、ステップS40では、自動運転切換部550が、手動運転から自動運転への切り換えを行う。次のステップS42では、カメラで先行車との車間距離を検出し、前方の路面の状態を検出する。次のステップS44では、操舵を行わずに先行車と衝突することなく停止可能であるか否かを判定し、操舵を行わずに先行車と衝突することなく停止可能な場合は、ステップS46へ進む。ステップS46では、制動力制御部558がブレーキを制御し、車両を減速させる。
【0070】
次のステップS48では、車両が停止しているか否かを判定し、車両が停止している場合はステップS50へ進む。ステップS50では、自動運転を停止する。ステップS50の後は処理を終了する。ステップS48で車両が停止していない場合は、ステップS42へ戻る。
【0071】
また、ステップS44で操舵を行わずに先行車と衝突することなく停止可能でない場合は、ステップS52へ進む。この場合、操舵を行わないと先行車に衝突するため、ステップS52では回避アルゴリズムを適用する。ステップS52の後はステップS42へ戻る。
【0072】
図16は、路面摩擦係数と制動距離との関係を示す特性図である。
図16は、所定の車両速度の場合の特性を示しており、車両速度毎に複数の特性が予め取得されている。
図16に示すように、現在の車速において、制動距離は路面摩擦係数によって変化する。
図16に示すように、路面摩擦係数が大きいほど制動距離の許容範囲は大きくなる。
図15のステップS44では、車両速度V、路面摩擦係数μm、及び、先行車との距離を
図16の特性に当てはめ、先行車との距離が
図16の制動距離の許容範囲よりも長い場合は、操舵を行わずに衝突することなく停止可能であると判定する。
【0073】
図17は、
図15のステップS52の処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS60では、第1の路面摩擦係数センサ100のカメラで前方の左右の路面の画像を取得する。次のステップS62では、左右の路面の画像に基づいて、左右の路面の種別が異なるか否かを判定し、左右の路面の種別が異なる場合はステップS64へ進む。ステップS64では、左右路面のそれぞれの摩擦係数を取得する。
【0074】
一方、ステップS62で左右の路面の種別が同じであると判定した場合は、ステップS66へ進む。ステップS66では、第2の路面摩擦係数センサ200の検出に基づき、左右の路面のそれぞれの摩擦係数を取得する。
【0075】
ステップS64,S66の後はステップS68へ進む。ステップS68では、右路面の摩擦係数が左路面の摩擦係数よりも高いか否かを判定し、右路面の摩擦係数が左路面の摩擦係数よりも高い場合はステップS70へ進む。ステップS70では、操舵制御部554によりステアリングを操舵し、車両を右に移動させて先行車との衝突を回避する。
【0076】
また、ステップS68で右路面の摩擦係数が左路面の摩擦係数以下の場合はステップS72へ進む。ステップS72では、操舵制御部554によりステアリングを操舵し、車両を左に移動させて先行車との衝突を回避する。
【0077】
図18は、
図17のステップS70において、車両2000を右に移動させて先行車2010との衝突を回避した場合を示す模式図である。車間距離が規定値を下回った場合、自動運転に切り替え停止を試みるが、前方の摩擦係数に応じて、停止できない車間距離の場合は、左右の摩擦係数を取得し、
図18に示すように、摩擦係数が高い方へステアリングを操作する。
【0078】
以上説明したように第1の実施形態によれば、路面摩擦係数とドライバの運転技量レベルNに応じて定まる範囲Rに加速度又は車間距離が収まっているか否かを判定し、加速度又は車間距離が範囲Rから逸脱している場合は、ドライバに助言を与え、安全モードへの切り換えを行うようにした。これにより、加速度又は車間距離を範囲R内に確実に収めることが可能となる。
【0079】
また、加速度又は車間距離が範囲Rから逸脱している場合は、自動運転に切り換えて車両を停止させるようにした。更に、操舵を行わずに先行車との衝突を回避できない場合は、左右の路面摩擦係数を推定し、摩擦係数の高い方に操舵を行うようにした。これにより、安全に車両を停止させることが可能となる。
【0080】
2.第2の実施形態
図19は、本発明の第2の実施形態に係るシステム1000の構成を示す模式図である。第2の実施形態に係るシステム1000では、第1の実施形態のシステム1000におけるドライバの運転技量レベルを算出する運転技量レベル算出部530に代えて、同乗者の運転特徴を算出する運転特徴算出部562が設けられている。また、第2の実施形態に係るシステム1000は、同乗者運転特徴取得部(運転特徴取得部)564、運転特徴データベース566を備えている。第2の実施形態に係るシステム1000の他の構成は、第1の実施形態に係るシステム1000の構成と同様である。
【0081】
第1の実施形態では、運転者の運転技量レベルに基づいて設定される範囲Rに加速度A(または車間距離L)が収まっているか否かを判定した。第2の実施形態では、車両のドライバではない同乗者の運転特徴に基づいて設定される範囲Rに加速度A(または車間距離L)が収まっているか否かを判定する。同乗者の運転特徴に基づいて設定される範囲Rに加速度A(または車間距離L)を収めることで、同乗者が安心して車両に同乗することができる。
【0082】
このため、第2の実施形態では、事前に特定の人が車両を運転した際に、運転特徴取得部562が運転特徴を予め取得し、運転特徴データベース566に蓄積しておく。その後、運転特徴が取得された人が助手席などに同乗し、他のドライバが車両を運転した際に、同乗者運転特徴取得部564が、運転特徴データベース566から、運転特徴が事前に取得された人(同乗者)の運転特徴を取得する。そして、同乗者の運転特徴に基づき、範囲算出部532により範囲Rが算出される。以降の処理は第1の実施形態と同様である。すなわち、範囲Rに加速度A(または車間距離L)が収まるように助言が行われ、更に自動運転による車両の停止制御が行われる。なお、同乗者運転特徴取得部564が運転特徴データベース566から同乗者の運転特徴を取得する際には、同乗者を識別するための識別情報(氏名等)を取得し、識別情報に基づいて該当する同乗者の運転特徴を取得する。また、同乗者の認証を行い、認証により得られた情報に基づいて該当する同乗者の運転特徴を取得しても良い。
【0083】
図20は、第2の実施形態において、制御装置500で行われる処理を示すフローチャートである。
図20に示すフローチャートでは、
図7のフローチャートに対して、ステップS80の処理が追加され、ステップS18の代わりにステップS82の処理が行われる。以下では、
図7のフローチャートと異なる点を中心に処理の流れを説明する。
【0084】
ステップS80では、同乗者運転特徴取得部564が、運転特徴データベース566から、同乗者の運転特徴を取得する。ステップS82では、同乗者の運転特徴、路面摩擦係数、車両速度Vに基づいて、車両を安全に運転できる加速度A(または車間距離L)の範囲Rを決定する。
【0085】
また、
図20に示すフローチャートでは、
図7のフローチャートに対して、再助言を行うステップS84と、再助言を行ってから一定時間が経過したか否かを判定するステップS86が追加されている。このため、
図7のフローチャートにおけるステップS28の処理は行われない。ステップS26で車両の実際の加速度A(または車間距離L)がステップS82で決定した範囲Rに収まっていない場合は、ステップS84へ進み、ドライバへの再助言が行われる。この際、ステップS22で既に助言を行っているため、ステップS84で行われる助言は、ドライバに対する警告の度合いがより強いものとなる。このため、助言文面決定部540が、助言時間・助言回数計測部538が計測した助言時間、助言回数に基づき、既に行われた助言時間が長いほど、または既に行われた助言回数が多いほど、ドライバに対する警告の度合いを強めた助言の文面を作成する。また、音声・声色決定部542は、既に行われた助言時間が長いほど、または既に行われた助言回数が多いほど、ドライバに対する警告の度合いを強めた音声、声色を決定する。助言実施部544は、助言文面決定部540が決定した助言の文面、音声・声色決定部542が決定した音声、声色により、ドライバに対する助言を実施する。
【0086】
なお、
図20の処理においても、例えばステップS32の後に
図7のステップS28~S32の処理を行うこともできる。また、
図7の処理においても、
図20と同様に、1回目の助言を行った後、再助言を行うこともできる。
【0087】
図21A~
図21Dは、運転特徴算出部562による運転特徴の算出方法を示す模式図である。運転特徴算出部562は、任意の人が車両を運転した際に、各運転状況での車両速度と車間距離(又は加速度)の関係をプロットし、その人の車間距離または加速度の許容範囲を運転特徴として算出する。
【0088】
図21A及び
図21Bは、高速道路の走行時に車両速度(横軸)と車間距離との関係をプロットした図である。
図21Aは雨天時(μ=0.5)を示しており、
図21Bは晴天時(μ=0.6)を示している。
【0089】
また、
図21C及び
図21Dは、高速道路の走行時に車両速度(横軸)と加速度との関係をプロットした図である。
図21Cは雨天時(μ=0.5)を示しており、
図21Dは晴天時(μ=0.6)を示している。
【0090】
運転特徴算出部562が
図21A~
図21Dに示す運転特徴を算出すると、この運転特徴は運転特徴データベース566に保存される。
【0091】
図21A~
図21Dに示す運転特徴を有する人が同乗者として運転席以外に乗り込むと、同乗者運転特徴取得部564が、運転特徴データベース566から
図21A~
図21Dに示す運転特徴を取得する。そして、同乗者の運転特徴に基づき、範囲算出部532により車間距離または加速度の範囲Rが算出される。例えば、
図21Aに示す同乗者の運転特徴によれば、雨天時に高速道路を80km/hで走行すると、車間距離を50m~82mの範囲に保つことが判る。従って、80km/h走行時の車間距離の範囲Rは50m~82mに設定される。これにより、50m~82mの範囲に車間距離が収まるように助言が行われ、安全モードへの切り換えが行われ、更に自動運転による車両の停止制御が行われる。
【0092】
以上説明したように第2の実施形態によれば、路面摩擦係数と同乗者の運転特徴に応じて定まる範囲Rに加速度又は車間距離が収まっているか否かを判定し、加速度又は車間距離が範囲Rから逸脱している場合は、ドライバに助言を与え、安全モードへの切り換えを行うようにした。これにより、加速度又は車間距離を範囲R内に確実に収めることが可能となり、同乗者に安心感を与えることが可能となる。
【0093】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0094】
500 制御装置
520 路面摩擦係数算出部
530 運転技量レベル算出部
532 L(A)範囲算出部
556 制動力制御部
558 駆動力制御部
560 横力制御部
562 運転特徴算出部