(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】液体吐出装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
B41J2/165
B41J2/165 101
B41J2/165 401
B41J2/165 211
B41J2/165 301
(21)【出願番号】P 2018148712
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 奈央
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-128010(JP,A)
【文献】特開2007-190882(JP,A)
【文献】特開2015-085660(JP,A)
【文献】特開2007-296779(JP,A)
【文献】特開2013-176898(JP,A)
【文献】特開2014-136372(JP,A)
【文献】特開2016-002721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口を有する吐出ヘッドと、
前記吐出口をキャッピングするためのキャップと、
保湿液を貯留する第1貯留手段と、
洗浄液を貯留する第2貯留手段と、
前記第1貯留手段と前記第2貯留手段のいずれか一方が前記キャップと接続されるように切り替える切替手段と、
前記キャップがキャッピングしていた時間を計測する計測手段と、
前記計測手段により計測した前記時間が第1閾値以上の場合は前記切替手段により前記第1貯留手段と前記キャップとを接続して前記
保湿液を前記キャップに供給する供給手段と、を備えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記吐出ヘッドから前記キャップに対して液体を吐出した吐出数をカウントするカウンタを備え、
前記供給手段は、前記カウンタによりカウントした前記吐出数が第2閾値以上の場合は前記切替手段により前記第2貯留手段と前記キャップとを接続して前記
洗浄液を前記キャップに供給することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記供給手段は、前記
保湿液を供給した後に前記
洗浄液を供給することを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記供給手段が前記
保湿液を前記キャップに供給してから所定時間が経過した後に前記キャップ内の液体を排出する排出手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
液体を吐出する吐出口を有する吐出ヘッドと、
前記吐出口をキャッピングするためのキャップと、
保湿液を貯留する第1貯留手段と、
洗浄液を貯留する第2貯留手段と、
前記第1貯留手段と前記第2貯留手段のいずれか一方が前記キャップと接続されるように切り替える切替手段と、
前記吐出ヘッドから前記キャップに対して液体を吐出した吐出数をカウントするカウンタと、
前記カウンタによりカウントした前記吐出数が第2閾値以上の場合は前記切替手段により前記第2貯留手段と前記キャップとを接続して前記
洗浄液を前記キャップに供給する供給手段と、を備えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項6】
前記
保湿液は水であることを特徴とする請求項
1乃至5のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記第1貯留手段と前記キャップとを接続する第1流路と、
前記第2貯留手段と前記キャップとを接続する第2流路と、
前記第1流路と前記キャップ、及び、前記第2流路と前記キャップをそれぞれ接続する共通の供給経路と、を備え、
前記切替手段は、前記第1流路と前記供給経路が接続される状態と、前記第2流路と前記供給経路が接続される状態と、に切り替え可能な三方弁を含むことを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
記録媒体を搬送する搬送手段を備え、
前記吐出ヘッドは、前記搬送手段により搬送される前記記録媒体の幅に相当する数の吐出口を有することを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記吐出ヘッドへ供給される液体を貯留する貯留部を備え、
前記吐出ヘッドと前記貯留部との間で液体が循環することを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
液体を吐出する吐出口を有する吐出ヘッドと、
前記吐出口をキャッピングするためのキャップと、
保湿液を貯留する第1貯留手段と、
洗浄液を貯留する第2貯留手段と、
前記第1貯留手段と前記第2貯留手段のいずれか一方が前記キャップと接続されるように切り替える切替手段と、
計測手段と、
供給手段と、
を備える液体吐出装置において、
前記計測手段が、前記キャップがキャッピングしていた時間を計測し、
前記供給手段が、前記計測手段により計測した前記時間が第1閾値以上の場合は前記切替手段により前記第1貯留手段と前記キャップとを接続して前記
保湿液を前記キャップに供給することを特徴とする液体吐出装置の制御方法。
【請求項11】
前記液体吐出装置は、前記吐出ヘッドから前記キャップに対して液体を吐出した吐出数をカウントするカウンタを更に備え、
前記供給手段が、前記カウンタによりカウントした前記吐出数が第2閾値以上の場合は前記切替手段により前記第2貯留手段と前記キャップとを接続して前記
洗浄液を前記キャップに供給することを特徴とする請求項
10に記載の液体吐出装置の制御方法。
【請求項12】
前記供給手段が、前記
保湿液を供給した後に前記
洗浄液を供給することを特徴とする請求項
10または
11に記載の液体吐出装置の制御方法。
【請求項13】
液体を吐出する吐出口を有する吐出ヘッドと、
前記吐出口をキャッピングするためのキャップと、
保湿液を貯留する第1貯留手段と、
洗浄液を貯留する第2貯留手段と、
前記第1貯留手段と前記第2貯留手段のいずれか一方が前記キャップと接続されるように切り替える切替手段と、
前記吐出ヘッドから前記キャップに対して液体を吐出した吐出数をカウントするカウンタと、
供給手段と、
を備える液体吐出装置において、
前記供給手段が、前記カウンタによりカウントした前記吐出数が第2閾値以上の場合は前記切替手段により前記第2貯留手段と前記キャップとを接続して前記
洗浄液を前記キャップに供給することを特徴とする液体吐出装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置を用いてインク像の形成を行う記録装置、特にその吐出装置のメンテナンス機構および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置(以下、ヘッド)によってインク像を形成する画像印刷装置において、ヘッドの吐出性能を維持するために、ヘッドの吐出面と対になる形で吐出面全体を覆うキャップを持つものが公知である。キャップは、ヘッドの液体吐出性能を維持するために用いられる。キャップを用いて、例えば定期的にインクの吐出を行う(以下、予備吐)際のインクを受けたり、吐出口周辺の汚れを洗浄する液(以下、洗浄液)を入れたり、吐出口が乾燥しインクが固着するのを防ぐためヘッドを覆ったりする。キャップによって確実に吐出口の乾燥を防ぐために、以下のような構成およびその制御方法が提案されている。1つはキャップ内に、ヘッドから吐出したインクもしくは、別経路からキャップ内に供給した洗浄液を貯める構成である。洗浄液を貯めたキャップとヘッドの吐出面を当接させる(以下、キャッピングする)ことによって湿度を保ち吐出口の乾燥を防ぐ。または、ヘッドの予備吐出を受けるキャップとは別に、保湿するための専用のキャップを設け、用途に応じてキャップ自体を切り替える構成も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4958533号
【文献】特開2004-209897号公報
【文献】特許第4872849号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来技術のうち、キャップ内に貯める液として固着しやすい成分(顔料等)を含むインクを用いる場合、キャップ内の湿度が上がらず、保湿が不十分になるという課題がある。
【0005】
また、特許文献2では、キャップ内に貯める液として洗浄液を用いる提案がなされている。ただし、インク吐出面を洗浄する機構がキャップのように密閉された構造でない場合、その洗浄液にその液自体の蒸発を防ぐ目的の成分(グリセリン等)を含むことが多い。すると、その洗浄液をキャップ内に貯めていても、キャップ内の湿度が上がらず保湿が不十分になるという課題がある。また、特許文献3のように、インクを受けるキャップとは別に保湿専用のキャップを設ける提案もなされている。しかし目的に応じた液体を入れるキャップを複数設ける場合、その切替機構を含め装置が大型化するという課題がある。
【0006】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、1つのキャップ機構に対し、記録ヘッドのキャップに供給する液体の種類を必要に応じて切り替えることにより、ヘッドの吐出性能を維持する記録装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため本発明の第1の側面では、液体を吐出する吐出口を有する吐出ヘッドと、
前記吐出口をキャッピングするためのキャップと、
保湿液を貯留する第1貯留手段と、
洗浄液を貯留する第2貯留手段と、
前記第1貯留手段と前記第2貯留手段のいずれか一方が前記キャップと接続されるように切り替える切替手段と、
前記キャップがキャッピングしていた時間を計測する計測手段と、
前記計測手段により計測した前記時間が第1閾値以上の場合は前記切替手段により前記第1貯留手段と前記キャップとを接続して前記保湿液を前記キャップに供給する供給手段と、を備えることを特徴とする液体吐出装置が提供される。
また本発明の第2の側面によれば、液体を吐出する吐出口を有する吐出ヘッドと、
前記吐出口をキャッピングするためのキャップと、
保湿液を貯留する第1貯留手段と、
洗浄液を貯留する第2貯留手段と、
前記第1貯留手段と前記第2貯留手段のいずれか一方が前記キャップと接続されるように切り替える切替手段と、
前記吐出ヘッドから前記キャップに対して液体を吐出した吐出数をカウントするカウンタと、
前記カウンタによりカウントした前記吐出数が第2閾値以上の場合は前記切替手段により前記第2貯留手段と前記キャップとを接続して前記洗浄液を前記キャップに供給する供給手段と、を備えることを特徴とする液体吐出装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、1つのキャップ機構に対し、記録ヘッドのキャップに供給する液体の種類を必要に応じて切り替えることにより、ヘッドの吐出性能を維持する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図10】
図9の切替制御部の動作例のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して本発明の実施形態について説明する。各図において、矢印XおよびYは水平方向を示し、互いに直交する。矢印Zは上下方向を示す。
【0011】
<記録システム>
図1は本発明の一実施形態に係る記録システム1を概略的に示した正面図である。記録システム1は、転写体2を介して記録媒体Pにインク像を転写することで記録物P'を製造する、枚葉式のインクジェットプリンタである。記録システム1は、記録装置1Aと、搬送装置1Bとを含む。本実施形態では、X方向、Y方向、Z方向が、それぞれ、記録システム1の幅方向(全長方向)、奥行き方向、高さ方向を示している。記録媒体PはX方向に搬送される。
【0012】
なお、「記録」には、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も含まれ、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。また、本実施形態では「記録媒体」としてシート状の紙を想定するが、布、プラスチック・フィルム等であってもよい。
【0013】
インクの成分については、特に限定はないが、本実施形態では、色材である顔料、水、樹脂を含む水性顔料インクを用いる場合を想定する。
【0014】
<記録装置>
記録装置1Aは、記録ユニット3、転写ユニット4および周辺ユニット5A~5D、および、供給ユニット6を含む。
【0015】
<記録ユニット>
記録ユニット3は、複数の記録ヘッド30と、キャリッジ31とを含む。
図1と
図2を参照する。
図2は記録ユニット3の斜視図である。記録ヘッド30は、転写体2に液体インクを吐出し、転写体2上に記録画像のインク像を形成する。
【0016】
本実施形態の場合、各記録ヘッド30は、Y方向に延設されたフルラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの記録媒体の画像記録領域の幅分をカバーする範囲にノズルが配列されている。記録ヘッド30は、その下面に、ノズルが開口したインク吐出面を有しており、インク吐出面は、微小隙間(例えば数mm)を介して転写体2の表面と対向している。本実施形態の場合、転写体2は円軌道上を循環的に移動する構成であるため、複数の記録ヘッド30は、放射状に配置されている。
【0017】
各ノズルには吐出素子が設けられている。吐出素子は、例えば、ノズル内に圧力を発生させてノズル内のインクを吐出させる素子であり、公知のインクジェットプリンタのインクジェットヘッドの技術が適用可能である。吐出素子としては、例えば電気-熱変換体によりインクに膜沸騰を生じさせ気泡を形成することでインクを吐出する素子、電気-機械変換体によってインクを吐出する素子、静電気を利用してインクを吐出する素子等が挙げられる。高速で高密度の記録の観点からは電気-熱変換体を利用した吐出素子を用いることができる。
【0018】
本実施形態の場合、記録ヘッド30は、9つ設けられている。各記録ヘッド30は、互いに異なる種類のインクを吐出する。異なる種類のインクとは、例えば、色材が異なるインクであり、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインク等のインクである。1つの記録ヘッド30は1種類のインクを吐出するが、1つの記録ヘッド30が複数種類のインクを吐出する構成であってもよい。このように複数の記録ヘッド30を設けた場合、そのうちの一部が色材を含まないインク(例えばクリアインク)を吐出してもよい。
【0019】
キャリッジ31は、複数の記録ヘッド30を支持する。各記録ヘッド30は、インク吐出面側の端部がキャリッジ31に固定されている。これにより、インク吐出面と転写体2との表面の隙間をより精密に維持することができる。キャリッジ31は、案内部材RLの案内によって、記録ヘッド30を搭載しつつ変位可能に構成されている。本実施形態の場合、案内部材RLは、Y方向に延設されたレール部材であり、X方向に離間して一対設けられている。キャリッジ31のX方向の各側部にはスライド部32が設けられている。スライド部32は案内部材RLと係合し、案内部材RLに沿ってY方向にスライドする。
【0020】
図3は記録ユニット3の変位態様を示しており、記録システム1の右側面を模式的に示した図である。記録システム1の後部には回復ユニット12が設けられている。回復ユニット12は記録ヘッド30の吐出性能を回復する機構を有する。
図8は回復ユニットの斜視図であり、
図9は回復ユニットの概略図である。回復ユニット12の中には記録ヘッド30それぞれと対になる形でインク吐出面をキャッピングするキャップ機構(キャップとも呼ぶ)1201をインクの色毎に有する。キャップ1201は、記録ヘッド30が退避位置(回復のための位置)にあるときに、記録ヘッド30に対向するよう設けられる。また、キャップ1201にインク吐出面の性能を維持するための液を供給する供給経路1202、および駆動部として供給ポンプ1203を有する。供給経路1202の途中には、キャップ1201に供給する2種類の液を切り替えられる三方弁(供給液切替えバルブとも呼ぶ)1204を有する。三方弁の残りの二経路にはヘッド吐出面の洗浄液が貯蔵されている洗浄液タンクTK1と繋がる第1流路1205と、ヘッド吐出面の保湿液を貯蔵する保湿液タンクTK2と繋がる第2流路1206を有する。また、キャップ1201にはその中の液を排出するための、液排出流路1207と排出液を送液する排出ポンプ1208(
図8には不図示)を有する。また、その外の回復機構としては例えばインク吐出面をワイピングするワイパ機構、インク吐出面から記録ヘッド30内のインクを負圧吸引する吸引機構を挙げることができる。なお
図8においては明記されていない液流路は
図9のように接続される。キャップ1201は、たとえば対応する記録ヘッド30に配置されたノズル群を囲い込むように形成されており、キャップ1201を記録ヘッド30に密着させてキャッピングすることができる(キャップクローズ)。キャップクローズ状態のキャップ1210の内部に保湿液などを保持できるように構成されてよい。本実施形態においては、キャップ1201によってキャッピングしていた時間(キャップクローズ時間)を計測するために、キャッピングの開始と同時にタイマー(計測手段)を起動する。
【0021】
図3に示すように、案内部材RLは、転写体2の側方から回復ユニット12に渡って延設されている。記録ユニット3は、案内部材RLの案内により、実線で記録ユニット3を示した吐出位置POS1と、破線で記録ユニット3を示した回復位置POS3との間で変位可能であり、不図示の駆動機構により移動される。また、記録ユニット3が回復位置へ移動する際、インク吐出面を清拭することができるように、不図示の洗浄液が塗布されたローラを有する吐出面清拭機構が設置されている。なお、本実施形態の洗浄液は、液体の蒸散を防ぐために、グリセリンを溶媒としたものを用いる。また、保湿液としては純水を用いる。
【0022】
吐出位置POS1は、記録ユニット3が転写体2にインクを吐出する位置であり、記録ヘッド30のインク吐出面が転写体2の表面に対向する位置である。回復位置POS3は、吐出位置POS1から退避した位置であり、記録ユニット3が回復ユニット12上に位置する位置である。回復ユニット12は記録ユニット3が回復位置POS3に位置した場合に、記録ヘッド30に対する回復処理を実行可能である。本実施形態の場合、記録ユニット3が回復位置POS3に到達する前の移動途中においても回復処理を実行可能である。吐出位置POS1と回復位置POS3の間には予備回復位置POS2があり、回復ユニット12は記録ヘッド30が吐出位置POS1から回復位置POS3へ移動している間に、予備回復位置POS2において記録ヘッド30に対する予備的な回復処理を実行可能である。
【0023】
<転写ユニット>
図1を参照して転写ユニット4について説明する。転写ユニット4は、転写ドラム(転写胴)41と圧胴42とを含む。これらの胴は、Y方向の回転軸周りに回転する回転体であり、円筒形状の外周面を有している。
図1において、転写ドラム41および圧胴42の各図形内に示した矢印は、これらの回転方向を示しており、転写ドラム41は時計回りに、圧胴42は反時計回りに回転する。
【0024】
転写ドラム41は、その外周面に転写体2を支持する支持体である。転写体2は、転写ドラム41の外周面上に、周方向に連続的にあるいは間欠的に設けられる。連続的に設けられる場合、転写体2は無端の帯状に形成される。間欠的に設けられる場合、転写体2は、有端の帯状に複数のセグメントに分けて形成され、各セグメントは転写ドラム41の外周面に等ピッチで円弧状に配置することができる。
【0025】
転写ドラム41の回転により、転写体2は円軌道上を循環的に移動する。転写ドラム41の回転位相により、転写体2の位置は、吐出前処理領域R1、吐出領域R2、吐出後処理領域R3およびR4、転写領域R5、転写後処理領域R6に区別することができる。転写体2はこれらの領域を循環的に通過する。
【0026】
吐出前処理領域R1は、記録ユニット3によるインクの吐出前に転写体2に対する前処理を行う領域であり、周辺ユニット5Aによる処理が行われる領域である。本実施形態の場合、反応液が付与される。吐出領域R2は記録ユニット3が転写体2にインクを吐出してインク像を形成する形成領域である。吐出後処理領域R3およびR4はインクの吐出後にインク像に対する処理を行う処理領域であり、吐出後処理領域R3は周辺ユニット5Bによる処理が行われる領域であり、吐出後処理領域R4は周辺ユニット5Cによる処理が行われる領域である。転写領域R5は転写ユニット4により転写体2上のインク像が記録媒体Pに転写される領域である。転写後処理領域R6は、転写後に転写体2に対する後処理を行う領域であり、周辺ユニット5Dによる処理が行われる領域である。
【0027】
本実施形態の場合、吐出領域R2は、一定の区間を有する領域である。他の領域R1、R3~R6は、吐出領域R2に比べるとその区間は狭い。時計の文字盤に喩えると、本実施形態の場合、吐出前処理領域R1は概ね10時の位置であり、吐出領域R2は概ね11時から1時の範囲であり、吐出後処理領域R3は概ね2時の位置であり、吐出後処理領域R4は概ね4時の位置である。転写領域R5は概ね6時の位置であり、転写後処理領域R6は概ね8時の領域である。
【0028】
転写体2は、単層から構成してもよいが、複数層の積層体としてもよい。複数層で構成する場合、例えば、表面層、弾性層、圧縮層の三層を含んでもよい。表面層はインク像が形成される画像形成面を有する最外層である。圧縮層を設けることで、圧縮層が変形を吸収し、局所的な圧力変動に対してその変動を分散し、高速記録時においても転写性を維持することができる。弾性層は表面層と圧縮層との間の層である。
【0029】
表面層の材料としては、樹脂、セラミック等各種材料を適宜用いることができるが、耐久性等の点で圧縮弾性率の高い材料を用いることができる。具体的には、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素含有樹脂、加水分解性有機ケイ素化合物を縮合して得られる縮合物等が挙げられる。表面層には、反応液の濡れ性、画像の転写性等を向上させるために、表面処理を施して用いてもよい。表面処理としては、フレーム処理、コロナ処理、プラズマ処理、研磨処理、粗化処理、活性エネルギー線照射処理、オゾン処理、界面活性剤処理、シランカップリング処理などが挙げられる。これらを複数組み合わせてもよい。また、表面層に任意の表面形状を設けることもできる。
【0030】
圧縮層の材料としては、例えばアクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。このようなゴム材料の成形時には、所定量の加硫剤、加硫促進剤等を配合し、さらに発泡剤、中空微粒子或いは食塩等の充填剤を必要に応じて配合し、多孔質のゴム材料としてもよい。これにより、様々な圧力変動に対して気泡部分が体積変化を伴って圧縮されるため、圧縮方向以外への変形が小さく、より安定した転写性、耐久性を得ることができる。多孔質のゴム材料としては、各気孔が互いに連続した連続気孔構造のものと、各気孔がそれぞれ独立した独立気孔構造のものがあるが、いずれの構造であってもよく、これらの構造を併用してもよい。
【0031】
弾性層の部材としては、樹脂、セラミック等、各種材料を適宜用いることができる。加工特性等の点で、各種エラストマー材料、ゴム材料を用いることができる。具体的には、例えばフルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴム等が挙げられる。また、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、スチレンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン/プロピレン/ブタジエンのコポリマー、ニトリルブタジエンゴム等が挙げられる。特に、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴムは、圧縮永久ひずみが小さいため、寸法安定性、耐久性の面で有利である。また、温度による弾性率の変化が小さく、転写性の点でも有利である。
【0032】
表面層と弾性層の間、弾性層と圧縮層の間には、これらを固定するために各種接着剤や両面テープを用いることもできる。また、転写体2は、転写ドラム41に装着する際の横伸びの抑制や、コシを保つために圧縮弾性率が高い補強層を含んでもよい。また、織布を補強層としてもよい。転写体2は前記材質による各層を任意に組み合わせて作製することができる。
【0033】
圧胴42は、その外周面が転写体2に圧接される。圧胴42の外周面には、記録媒体Pの先端部を保持するグリップ機構が少なくとも一つ設けられている。グリップ機構は圧胴42の周方向に離間して複数設けてもよい。記録媒体Pは圧胴42の外周面に密接して搬送されつつ、圧胴42と転写体2とのニップ部を通過するときに、転写体2上のインク像が転写される。転写ドラム41と圧胴42とを駆動するモータ等の駆動源は、これらに共通とし、歯車機構等の伝達機構により、駆動力を分配することができる。
【0034】
<周辺ユニット>
周辺ユニット5A~5Dは転写ドラム41の周囲に配置されている。本実施形態の場合、周辺ユニット5A~5Dは、順に、付与ユニット、吸収ユニット、加熱ユニット、清掃ユニットである。
【0035】
付与ユニット5Aは、記録ユニット3によるインクの吐出前に、転写体2上に反応液を付与する機構である。反応液は、インクを高粘度化する成分を含有する液体である。ここで、インクの高粘度化とは、インクを構成している色材や樹脂等がインクを高粘度化する成分と接触することによって化学的に反応し、あるいは物理的に吸着し、これによってインクの粘度の上昇が認められることである。このインクの高粘度化には、インク全体の粘度上昇が認められる場合のみならず、色材や樹脂等のインクを構成する成分の一部が凝集することにより局所的に粘度の上昇が生じる場合も含まれる。
【0036】
インクを高粘度化する成分は、金属イオン、高分子凝集剤など、特に制限はないが、インクのpH変化を引き起こして、インク中の色材を凝集させる物質を用いることができ、有機酸を用いることができる。反応液の付与機構としては、例えば、ローラ、記録ヘッド、ダイコーティング装置(ダイコータ)、ブレードコーティング装置(ブレードコータ)などが挙げられる。転写体2に対するインクの吐出前に反応液を転写体2に付与しておくと、転写体2に達したインクを直ちに定着させることができる。これにより、隣接するインク同士が混ざり合うブリーディングを抑制することができる。
【0037】
吸収ユニット5Bは、転写前に、転写体2上のインク像から液体成分を吸収する機構である。インク像の液体成分を減少させることで、記録媒体Pに記録される画像のにじみ等を抑制することができる。液体成分の減少を異なる視点で説明すれば、転写体2上のインク像を構成するインクを濃縮すると表現することもできる。インクを濃縮するとは、インクに含まれる液体成分が減少することによって、インクに含まれる色材や樹脂といった固形分の液体成分に対する含有割合が増加することを意味する。
【0038】
吸収ユニット5Bは、例えば、インク像に接触してインク像の液体成分の量を減少させる液吸収部材を含む。液吸収部材はローラの外周面に形成されてもよいし、液吸収部材が無端のシート状に形成され、循環的に走行されるものでもよい。インク像の保護の点で、液吸収部材の移動速度を転写体2の周速度と同じにして液吸収部材を転写体2と同期して移動させてもよい。
【0039】
液吸収部材は、インク像に接触する多孔質体を含んでもよい。液吸収部材へのインク固形分付着を抑制するため、インク像に接触する面の多孔質体の孔径は、10μm以下であってもよい。ここで、孔径とは平均直径のことを示し、公知の手段、例えば水銀圧入法や、窒素吸着法、SEM画像観察等で測定可能である。なお、液体成分は、一定の形を有さず、流動性があり、ほぼ一定の体積を有するものであれば、特に限定されるものではない。例えば、インクや反応液に含まれる水や有機溶媒等が液体成分として挙げられる 。
【0040】
加熱ユニット5Cは、転写前に、転写体2上のインク像を加熱する機構である。インク像を加熱することで、インク像中の樹脂が溶融し、記録媒体Pへの転写性を向上する。加熱温度は、樹脂の最低造膜温度(MFT)以上とすることができる。MFTは一般的に知られている手法、例えばJIS K 6828-2:2003や、ISO2115:1996に準拠した各装置で測定することが可能である。転写性及び画像の堅牢性の観点から、MFTよりも10℃以上高い温度で加熱してもよく、更に、20℃以上高い温度で加熱してもよい。加熱ユニット5Cは、例えば、赤外線等の各種ランプ、温風ファン等、公知の加熱デバイスを用いることができる。加熱効率の点で、赤外線ヒータを用いることができる。
【0041】
清掃ユニット5Dは、転写後に転写体2上を清掃する機構である。清掃ユニット5Dは、転写体2上に残留したインクや、転写体2上のごみ等を除去する。清掃ユニット5Dは、例えば、多孔質部材を転写体2に接触させる方式、ブラシで転写体2の表面を擦る方式、ブレードで転写体2の表面をかきとる方式等の公知の方式を適宜用いることができる。また、清掃に用いる清掃部材は、ローラ形状、ウェブ形状等、公知の形状を用いることができる。
【0042】
以上の通り、本実施形態では、付与ユニット5A、吸収ユニット5B、加熱ユニット5C、清掃ユニット5Dを周辺ユニットとして備えるが、これらの一部のユニットに転写体2の冷却機能を付与するか、あるいは、冷却ユニットを追加してもよい。本実施形態では、加熱ユニット5Cの熱により転写体2の温度が上昇する場合がある。記録ユニット3により転写体2にインクを吐出した後、インク像がインクの主溶剤である水の沸点を超えると、吸収ユニット5Bによる液体成分の吸収性能が低下する場合がある。吐出されたインクが水の沸点未満に維持されるように転写体2を冷却することで、液体成分の吸収性能を維持することができる。
【0043】
冷却ユニットは、転写体2に送風する送風機構や、転写体2に部材(例えばローラ)を接触させ、この部材を空冷または水冷で冷却する機構であってもよい。また、清掃ユニット5Dの清掃部材を冷却する機構であってもよい。冷却タイミングは、転写後、反応液の付与前までの期間であってもよい。
【0044】
<供給ユニット>
供給ユニット6は、記録ユニット3の各記録ヘッド30にインクを供給する機構である。供給ユニット6は記録システム1の後部側に設けられていてもよい。供給ユニット6は、インクの種類毎に、インクを貯留する貯留部TKを備える。また、洗浄液と保湿液といった保守用液を貯留する保守用貯留部TK1、TK2も備える。貯留部TKは、メインタンクとサブタンクとによって構成されてもよい。各貯留部TKと各記録ヘッド30とは流路6aで連通し、貯留部TKから記録ヘッド30へインクが供給される。流路6aは、貯留部TKと記録ヘッド30との間でインクを循環させる流路であってもよく、供給ユニット6はインクを循環させるポンプ等を備えてもよい。流路6aの途中または貯留部TKには、インク中の気泡を脱気する脱気機構を設けてもよい。流路6aの途中または貯留部TKには、インクの液圧と大気圧との調整を行うバルブを設けてもよい。貯留部TK内のインク液面が、記録ヘッド30のインク吐出面よりも低い位置となるように、貯留部TKと記録ヘッド30のZ方向の高さが設計されてもよい。保守用貯留部TK1、TK2は
図3で説明した通りの構成を持ち、その内部には、保守用液として本例では洗浄液と保湿液とをそれぞれ蓄えており、三方弁1204(
図3参照)の働きにより、いずれか一方の液を選択してキャップ1201に供給できる。なお、保守用貯留部TK1、TK2は供給ユニット6以外の場所に配置されても良く、ユーザによってアクセスしやすい場所であれば記録システム1の内部または外部であってもよい。
【0045】
<搬送装置>
搬送装置1Bは、記録媒体Pを転写ユニット4へ給送し、インク像が転写された記録物P'を転写ユニット4から排出する装置である。搬送装置1Bは、給送ユニット7、複数の搬送胴8、8a、二つのスプロケット8b、チェーン8cおよび回収ユニット8dを含む。
図1において、搬送装置1Bの各構成の図形の内側の矢印はその構成の回転方向を示し、外側の矢印は記録媒体Pまたは記録物P'の搬送経路を示している。記録媒体Pは給送ユニット7から転写ユニット4へ搬送され、記録物P'は転写ユニット4から回収ユニット8dへ搬送される。給送ユニット7側を搬送方向で上流側と呼び、回収ユニット8d側を下流側と呼ぶ場合がある。
【0046】
給送ユニット7は、複数の記録媒体Pが積載される積載部を含むと共に、積載部から一枚ずつ記録媒体Pを、最上流の搬送胴8に給送する給送機構を含む。各搬送胴8、8aはY方向の回転軸周りに回転する回転体であり、円筒形状の外周面を有している。各搬送胴8、8aの外周面には、記録媒体P(または記録物P')の先端部を保持するグリップ機構が少なくとも一つ設けられている。各グリップ機構は、隣接する搬送胴間で記録媒体Pを受け渡されるように、その把持動作および解除動作が制御される。
【0047】
二つの搬送胴8aは、記録媒体Pの反転用の搬送胴である。記録媒体Pを両面記録する場合、表面への転写後に、圧胴42から下流側に隣接する搬送胴8へ記録媒体Pを渡さずに、搬送胴8aに渡す。記録媒体Pは、二つの搬送胴8aを経由して表裏が反転され、圧胴42の上流側の搬送胴8を経由して再び圧胴42へ渡される。これにより、記録媒体Pの裏面が転写ドラム41に面することになり、裏面にインク像が転写される。
【0048】
チェーン8cは、二つのスプロケット8b間に巻き回されている。二つのスプロケット8bの一方は駆動スプロケットであり他方は従動スプロケットである。駆動スプロケットの回転によりチェーン8cが循環的に走行する。チェーン8cには、その長手方向に離間して複数のグリップ機構が設けられている。グリップ機構は、記録物P'の端部を把持する。下流端に位置する搬送胴8からチェーン8cのグリップ機構に記録物P'が渡され、グリップ機構に把持された記録物P'はチェーン8cの走行により回収ユニット8dへ搬送され、把持が解除される。これにより記録物P'が回収ユニット8d内に積載される。
【0049】
<後処理ユニット>
搬送装置1Bには、後処理ユニット10A、10Bが設けられている。後処理ユニット10A、10Bは転写ユニット4よりも下流側に配置され、記録物P'に対して後処理を行う機構である。後処理ユニット10Aは、記録物P'の表面に対する処理を行い、後処理ユニット10Bは、記録物P'の裏面に対する処理を行う。処理の内容としては、例えば、記録物P'の画像記録面に、画像の保護や艶出し等を目的としたコーティングを挙げることができる。コーティングの内容としては、例えば、液体の塗布、シートの溶着、ラミネート等を挙げることができる。
【0050】
<検査ユニット>
搬送装置1Bには、検査ユニット9A、9Bが設けられている。検査ユニット9A、9Bは転写ユニット4よりも下流側に配置され、記録物P'の検査を行う機構である。
【0051】
本実施形態の場合、検査ユニット9Aは、記録物P'に記録された画像を撮影する撮影装置であり、例えば、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子を含む。検査ユニット9Aは、連続的に行われる記録動作中に、記録画像を撮影する。検査ユニット9Aが撮影した画像に基づいて、記録画像の色味などの経時変化を確認し、画像データあるいは記録データの補正の可否を判断することができる。本実施形態の場合、検査ユニット9Aは、圧胴42の外周面に撮像範囲が設定されており、転写直後の記録画像を部分的に撮影可能に配置されている。検査ユニット9Aにより全ての記録画像の検査を行ってもよいし、所定数毎に検査を行ってもよい。
【0052】
本実施形態の場合、検査ユニット9Bも、記録物P'に記録された画像を撮影する撮影装置であり、例えば、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子を含む。検査ユニット9Bは、テスト記録動作において記録画像を撮影する。検査ユニット9Bは、記録画像の全体を撮影し、検査ユニット9Bが撮影した画像に基づいて、記録データに関する各種の補正の基本設定を行うことができる。本実施形態の場合、チェーン8cで搬送される記録物P'を撮影する位置に配置されている。検査ユニット9Bにより記録画像を撮影する場合、チェーン8cの走行を一時的に停止して、その全体を撮影する。検査ユニット9Bは、記録物P'上を走査するスキャナであってもよい。
【0053】
<制御ユニット>
次に、記録システム1の制御ユニットについて説明する。
図4および
図5は記録システム1の制御ユニット13のブロック図である。制御ユニット13は、上位装置(DFE)HC2に通信可能に接続され、また、上位装置HC2はホスト装置HC1に通信可能に接続される。
【0054】
ホスト装置HC1では、記録画像の元になる原稿データが生成、あるいは保存される。ここでの原稿データは、例えば、文書ファイルや画像ファイル等の電子ファイルの形式で生成される。この原稿データは、上位装置HC2へ送信され、上位装置HC2では、受信した原稿データを制御ユニット13で利用可能なデータ形式(例えば、RGBで画像を表現するRGBデータ)に変換する。変換後のデータは、画像データとして上位装置HC2から制御ユニット13へ送信され、制御ユニット13は受信した画像データに基づき、記録動作を開始する。
【0055】
本実施形態の場合、制御ユニット13は、メインコントローラ13Aと、エンジンコントローラ13Bとに大別される。メインコントローラ13Aは、処理部131、記憶部132、操作部133、画像処理部134、通信I/F(インタフェース)135、バッファ136および通信I/F137を含む。
【0056】
処理部131は、CPU等のプロセッサであり、記憶部132に記憶されたプログラムを実行し、メインコントローラ13A全体の制御を行う。記憶部132は、RAM、ROM、ハードディスク、SSD等の記憶デバイスであり、CPU131が実行するプログラムや、データを格納し、また、CPU131にワークエリアを提供する。操作部133は、例えば、タッチパネル、キーボード、マウス等の入力デバイスであり、ユーザの指示を受け付ける。
【0057】
画像処理部134は例えば画像処理プロセッサを有する電子回路である。バッファ136は、例えば、RAM、ハードディスクやSSDである。通信I/F135は上位装置HC2との通信を行い、通信I/F137はエンジンコントローラ13Bとの通信を行う。
図4において破線矢印は、画像データの処理の流れを例示している。上位装置HC2から通信IF135を介して受信された画像データは、バッファ136に蓄積される。画像処理部134はバッファ136から画像データを読み出し、読み出した画像データに所定の画像処理を施して、再びバッファ136に格納する。バッファ136に格納された画像処理後の画像データは、プリントエンジンが用いる記録データとして、通信I/F137からエンジンコントローラ13Bへ送信される。
【0058】
図5に示すように、エンジンコントローラ13Bは、制御部14、15A~15Eを含み、記録システム1が備えるセンサ群およびアクチュエータ群16の検知結果の取得および駆動制御を行う。これらの各制御部は、CPU等のプロセッサ、RAMやROM等の記憶デバイス、外部デバイスとのインタフェースを含む。なお、制御部の区分けは一例であり、一部の制御を更に細分化した複数の制御部で実行してもよいし、逆に、複数の制御部を統合して、それらの制御内容を一つの制御部で行うように構成してもよい。
【0059】
エンジン制御部14は、エンジンコントローラ13Bの全体の制御を行う。記録制御部15Aは、メインコントローラ13Aから受信した記録データをラスタデータ等、記録ヘッド30の駆動に適したデータ形式に変換する。記録制御部15Aは、各記録ヘッド30の吐出制御を行う。
【0060】
転写制御部15Bは、付与ユニット5Aの制御、吸収ユニット5Bの制御、加熱ユニット5Cの制御、および清掃ユニット5Dの制御を行う。
【0061】
信頼性制御部15Cは、供給ユニット6の制御、回復ユニット12の制御、および記録ユニット3を吐出位置POS1と回復位置POS3との間で移動させる駆動機構の制御を行う。
【0062】
搬送制御部15Dは、転写ユニット4の駆動制御や、搬送装置1Bの制御を行う。検査制御部15Eは、検査ユニット9Bの制御、および検査ユニット9Aの制御を行う。
【0063】
センサ群およびアクチュエータ群16のうち、センサ群には、可動部の位置や速度を検知するセンサ、温度を検知するセンサ、撮像素子等が含まれる。アクチュエータ群にはモータ、電磁ソレノイド、電磁バルブ等が含まれる。
【0064】
<動作例>
図6は記録動作の例を模式的に示す図である。転写ドラム41および圧胴42が回転されつつ、以下の各工程が循環的に行われる。状態ST1に示すように、始めに転写体2上に付与ユニット5Aから反応液Lが付与される。転写体2上の反応液Lが付与された部位は転写ドラム41の回転に伴って移動していく。反応液Lが付与された部位が記録ヘッド30の下に到達すると、状態ST2に示すように記録ヘッド30から転写体2にインクが吐出される。これによりインク像IMが形成される。その際、吐出されるインクが転写体2上の反応液Lと混ざりあうことで、色材の凝集が促進される。吐出されるインクは、供給ユニット6の貯留部TKから記録ヘッド30に供給される。
【0065】
転写体2上のインク像IMは転写体2の回転に伴って移動していく。インク像IMが吸収ユニット5Bに到達すると状態ST3に示すように吸収ユニット5Bによりインク像IMから液体成分が吸収される。インク像IMが加熱ユニット5Cに到達すると状態ST4に示すように加熱ユニット5Cによりインク像IMが加熱され、インク像IM中の樹脂が溶融し、インク像IMが造膜される。このようなインク像IMの形成に同期して、搬送装置1Bにより記録媒体Pが搬送される。
【0066】
状態ST5に示すように、インク像IMと記録媒体Pとが転写体2と圧胴42とのニップ部に到達し、記録媒体Pにインク像IMが転写され、記録物P'が製造される。ニップ部を通過すると、記録物P'に記録された画像が検査ユニット9Aにより撮影され、記録画像が検査される。記録物P'は搬送装置1Bにより回収ユニット8dへ搬送される。
【0067】
転写体2上のインク像IMが形成されていた部分は、清掃ユニット5Dに到達すると状態ST6に示すように清掃ユニット5Dにより清掃される。清掃後、転写体2は一回転したことになり、同様の手順で記録媒体Pへのインク像の転写が繰り返し行われる。上記の説明では理解を容易にするために、転写体2の一回転で一枚の記録媒体Pへのインク像IMの転写が一回行われるように説明したが、転写体2の一回転で複数枚の記録媒体Pへのインク像IMの転写が連続的に行うことができる。
【0068】
このような記録動作を継続していくと、各記録ヘッド30のメンテナンスが必要となる。
図7は各記録ヘッド30のメンテナンスの際の動作例を示している。状態ST11は、吐出位置POS1に記録ユニット3が位置している状態を示す。状態ST12は、記録ユニット3が予備回復位置POS2を通過している状態を示し、通過中に回復ユニット12により記録ユニット3の各記録ヘッド30の吐出性能を回復する処理が実行される。その後、状態ST13に示すように、記録ユニット3が回復位置POS3に位置した状態で、回復ユニット12により各記録ヘッド30の吐出性能を回復する回復処理が実行される。
【0069】
●回復処理
図10を参照して、信頼性制御部15Cによる回復ユニット12の制御について説明する。
図10の処理は例えば記録装置1の起動時(電源投入時など)に、それぞれのキャップ1201を対象として実行される。記録装置1の起動時において、S101で前回の装置終了状態が正常終了であったかを判断する。ここにおける正常終了とは、エラーが発生せずに記録ヘッド30をキャッピングした状態で装置の電源が落とされたことを指す。この判定は、たとえば装置の電源オフ時に正常であれば正常終了であることを示す情報を所定の不揮発性記憶領域に記憶しておき、起動時にS101でその領域を参照することで行える。したがって処理ステップがS101からS102へ遷移する際には、その正常終了であることを示す情報を消去しておく。このS101の判定結果が、正常終了だった場合、S102においてキャップクローズ時間が閾値未満かどうかを判定する。キャップクローズ時間は、
図3を参照して説明したように、キャップ1201のクローズ時に起動したタイマーを参照することで取得できる。
【0070】
S101の判定結果が、正常終了でなかった場合、またはS102の判定結果が閾値以上であった場合は、後述するS103の保湿処理を実行する。これは例えば、記録ヘッド30が乾燥している可能性があるためである。すなわち、記録ヘッド30が乾燥している可能性があると判定した場合には保湿処理によりキャップ1201に保湿液を供給する。その後、S103の実施有無にかかわらず、S104において予備吐を実施する。S105において、カウンタによって算出されたキャップ内への予備吐出ドットカウントの累計が所定の閾値を超えているか判定する。その結果、所定の閾値を超えている場合、後述するS106の洗浄処理を実施する。これは例えば、予備吐により吐出したインクの残留物がキャップ1201内の吸収体などに堆積している可能性があるためである。すなわち、キャップ1201に堆積物がある可能性があると判定した場合には洗浄処理により洗浄液をキャップ1201に供給する。
【0071】
図10における保湿処理S103を、
図11を参照して説明する。S111において、供給液切替えバルブ1204を保湿液が供給できる方向(保湿液タンクTK2に接続された、第2流路1206側)に切り替える。S112において排出ポンプ1208を駆動させ、その状態でS113において供給ポンプ1203を一定量駆動させる。この一定量とは、キャップ内への供給経路1202およびキャップ1201内の残存液を保湿液で共洗いする量である。その後S114において、排出ポンプ1208の駆動を停止する。S115において、供給ポンプ1203を一定量駆動し、キャップ1201を保湿液で満たす。S116において所定の保湿時間が経過するのを待った後、S117において、排出ポンプ1208を一定量駆動し、キャップ内の保湿液を排出する。
【0072】
図10における洗浄処理S106を、
図12を参照して説明する。S121において、供給液切替えバルブ1204を洗浄液が供給できる方向(洗浄液タンクTK1に接続された、第1流路1205側)に切り替える。S122において排出ポンプ1208の駆動を開始させ、その状態でS123において供給ポンプ1203を一定量駆動させる。この一定量とは、キャップ内への供給経路1202およびキャップ1201内の残存液を洗浄液で共洗いする量である。その後S124において、排出ポンプ1208の駆動を停止する。S125において、供給ポンプ1203を一定量駆動し、キャップ1201を洗浄液で満たす。S126において、キャップからの液排出ポンプ1208を一定量駆動し、キャップ内の洗浄液を排出する。
【0073】
以上の制御動作によって、1つのキャップ機構に対し、キャップ内に満たす液体の種類を必要に応じて、複数種類の保守用液のうちの一つを選択的に供給することができる。すなわち上記例では、例えば保湿と洗浄とを切り替えることができる。これにより、記録ヘッドの吐出性能を維持することが可能となる。
【0074】
本実施例の場合、TK1の液を洗浄液、TK2の液を保湿液としているが、この構成は一例であり、キャップ内に入れる液体の種類は別のものであってもよい。また、各ポンプの駆動時間や、閾値などは、あらかじめ決められた固定値でも、入力手段等から与えられる可変の値であってもよい。また、上記例では保守用液の切り替えはバルブによって行っている。これに対して、TK1、TK2それぞれから記録ヘッドへと独立した供給経路を通して液を供給できるよう構成し、どの供給経路のポンプを駆動するかを選択することで、供給する保守用液の種類を切り替えてもよい。
【0075】
また
図10の処理は記録装置1の起動時(電源投入時など)に実行されるものとしたが、たとえば所定時間の記録動作或いは所定量の記録動作を行い、回復処理が必要と判断された場合に、記録ヘッド30を回復位置POS3に移動した状態で開始されてもよい。その場合にはS101は行わず、S102から開始してもよい。さらに
図10乃至
図12の手順は、エンジンコントローラ13Bの信頼性制御部15Cで実行するものとしたが、他の制御部たとえばメインコントローラ13Aの処理部131で実行してもよい。その場合にはメインコントローラ13Aから遠隔的にセンサ群/アクチュエータ群16を制御する。
【0076】
<他の実施形態>
上記実施形態では、記録ユニット3が複数の記録ヘッド30を有するが、一つの記録ヘッド30を有してもよい。記録ヘッド30はフルラインヘッドでなくてもよく、記録ヘッド30を着脱自在に搭載するキャリッジをY方向に移動させながら記録ヘッド30からインクを吐出してインク像を形成するシリアル方式であってもよい。
【0077】
記録媒体Pの搬送機構は、ローラ対によって記録媒体Pを挟持して搬送する方式等、他の方式であってもよい。ローラ対によって記録媒体Pを搬送する方式等においては、記録媒体Pとしてロールシートを用いてもよく、転写後にロールシートをカットして記録物P'を製造してもよい。
【0078】
上記実施形態では、転写体2を転写ドラム41の外周面に設けたが、転写体2を無端の帯状に形成し、循環的に走行させる方式等、他の方式であってもよい。
【0079】
また、本発明は上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0080】
1A 記録装置、12 回復ユニット、13 制御ユニット、13A メインコントローラ、13B エンジンコントローラ、15C 信頼性制御部、16 センサ群およびアクチュエータ群、3 記録ユニット、30 記録ヘッド、TK インクタンク、TK1 洗浄液タンク、TK2 保湿液タンク、1202 供給経路、1203 供給ポンプ、1204 供給液切替えバルブ、1205 第1流路、1206 第2流路、1207 排出路、1208 排出ポンプ