IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カワサキモータース株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-乗物設定変更システム 図1
  • 特許-乗物設定変更システム 図2
  • 特許-乗物設定変更システム 図3
  • 特許-乗物設定変更システム 図4
  • 特許-乗物設定変更システム 図5
  • 特許-乗物設定変更システム 図6
  • 特許-乗物設定変更システム 図7
  • 特許-乗物設定変更システム 図8
  • 特許-乗物設定変更システム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】乗物設定変更システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/10 20120101AFI20221214BHJP
   G10L 15/00 20130101ALI20221214BHJP
   G10L 15/28 20130101ALI20221214BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20221214BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20221214BHJP
【FI】
B60W50/10
G10L15/00 200J
G10L15/28 230J
B60R16/02 655Z
B60W50/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018170605
(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公開番号】P2020040568
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】衣畑 昌範
(72)【発明者】
【氏名】河合 大輔
(72)【発明者】
【氏名】寺井 昭平
(72)【発明者】
【氏名】河田 久之輔
(72)【発明者】
【氏名】志村 拡俊
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-882(JP,A)
【文献】特開2002-012100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B60R 16/00-17/02
G01L 7/00-23/32
G10L 15/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物の設定を変更するための乗物設定変更システムであって、
前記乗物の走行状態が所定の変更許可走行状態であることを含む変更許可条件を満たすか否かを判定する変更許可部と、
前記変更許可条件が満たされたと前記変更許可部が判定した場合に、少なくとも乗物走行中に運転者が発した認識された音声による指示に基づき、前記乗物の設定変更を実行する設定変更実行部と、
前記乗物に設けられた、運転者による操作を受け付ける操作装置と、を備え、
前記変更許可条件には、音声により指示された設定変更を承認するための所定の承認操作が前記操作装置に対して行われることが含まれる、乗物設定変更システム。
【請求項2】
運転者に視認可能に前記乗物に設けられた表示装置を更に備え、
前記表示装置は、音声により指示された設定変更の内容を表示する、請求項に記載の乗物設定変更システム。
【請求項3】
前記変更許可走行状態には、前記乗物の走行挙動が一定にある非過渡状態または運転者による操作とは異なる別の起動条件に基づいた前記乗物の運転を支援するための運転支援制御がオフになっている非支援制御状態が含まれる、請求項1または2に記載の乗物設定変更システム。
【請求項4】
乗物の設定を変更するための乗物設定変更システムであって、
前記乗物の走行状態が所定の変更許可走行状態であることを含む変更許可条件を満たすか否かを判定する変更許可部と、
前記変更許可条件が満たされたと前記変更許可部が判定した場合に、少なくとも乗物走行中に運転者が発した認識された音声による指示に基づき、前記乗物の設定変更を実行する設定変更実行部と、を備え、
前記乗物はリーン車両であり、
前記変更許可走行状態には、鉛直線に対する前記乗物の車体の傾斜角度であるリーン角が所定角度未満であることが含まれる、乗物設定変更システム。
【請求項5】
前記変更許可条件が満たされるまでの間、前記指示の内容を記憶する、前記乗物に設けられた記憶装置を更に備える、請求項1~のいずれか1項に記載の乗物設定変更システム。
【請求項6】
乗物の設定を変更するための乗物設定変更システムであって、
前記乗物の走行状態が所定の変更許可走行状態であることを含む変更許可条件を満たすか否かを判定する変更許可部と、
前記変更許可条件が満たされたと前記変更許可部が判定した場合に、少なくとも乗物走行中に運転者が発した認識された音声による指示に基づき、前記乗物の設定変更を実行する設定変更実行部と、
前記変更許可条件が満たされるまでの間、前記指示の内容を記憶する、前記乗物に設けられた記憶装置と、
運転者に視認可能に前記乗物に設けられた表示装置と、を備え、
前記表示装置は、前記記憶装置が前記指示の内容を記憶した状態にあることを示す情報を表示する、乗物設定変更システム。
【請求項7】
前記表示装置は、前記記憶装置が前記指示の内容を記憶した状態にあることを示す情報とともに、音声により指示された設定変更の内容を表示する、請求項に記載の乗物設定変更システム。
【請求項8】
前記乗物には、変更可能な複数の種類の設定があり、
前記変更許可条件は、音声により変更を指示された設定の種類に応じて異なる、請求項1~のいずれか1項に記載の乗物設定変更システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物の設定を変更するための乗物設定変更システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、乗物に搭載された機器を音声により操作するシステムが提案されている。例えば特許文献1には、運転者が発話した内容を認識するとともに、認識した発話中のキーワードに一致する操作キーを特定し、その操作キーに割り付けられた機能を実行することにより、カーナビゲーション装置を操作するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/128960号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような音声による操作システムを、カーナビゲーション装置などの車載機器ではなく、乗物自体の設定の変更に適用することも考えられる。しかし、乗物の設定変更は運転者の走行フィーリングに大きく影響を与え得る。このため、例えば運転者が発話した内容が誤って認識される、あるいは運転者以外の者の発話が認識されるなどして、運転者の意図に反した設定変更が行われた場合には、運転者の感じる走行フィーリングに違和感が生じることがある。
【0005】
そこで、本発明は、走行フィーリングに違和感が生じることを抑えることができる乗物設定変更システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係る乗物設定変更システムは、乗物の設定を変更するための乗物設定変更システムであって、前記乗物の走行状態が所定の変更許可走行状態であることを含む変更許可条件を満たすか否かを判定する変更許可部と、前記変更許可条件が満たされたと前記変更許可部が判定した場合に、少なくとも乗物走行中に運転者が発した認識された音声による指示に基づき、前記乗物の設定変更を実行する設定変更実行部と、を備える。
【0007】
上記のシステムによれば、運転者は発した音声により乗物の設定変更を指示することができる。また、乗物の走行状態が所定の変更許可走行状態であることを含む変更許可条件が満たされたと変更許可部が判定した場合に乗物の設定変更が実行されるため、設定変更を実行することによる走行フィーリングの違和感を抑えることができる。
【0008】
上記の乗物設定変更システムは、前記乗物に設けられた、運転者による操作を受け付ける操作装置を更に備え、前記変更許可条件には、音声により指示された設定変更を承認するための所定の承認操作が前記操作装置に対して行われることが含まれてもよい。この構成によれば、運転者の承認操作なしで設定変更が実行されるのを防止することができる。運転者による設定変更意図を確かめたうえで設定変更できる。
【0009】
上記の乗物設定変更システムは、運転者に視認可能に前記乗物に設けられた表示装置を更に備え、前記表示装置は、音声により指示された設定変更の内容を表示してもよい。この構成によれば、運転者は設定変更の内容を視覚的に確認したうえで、承認操作を行うことができる。
【0010】
上記の乗物設定変更システムにおいて、前記変更許可走行状態には、前記乗物の停止状態または所定の速度以下の低速走行状態が含まれてもよい。この構成によれば、乗物が停止状態または低速走行状態にある場合に、設定変更を許容することで、走行フィーリングの違和感を抑えることができる。
【0011】
上記の乗物設定変更システムにおいて、前記変更許可走行状態には、前記乗物の走行挙動が一定にある非過渡状態または運転者による操作とは異なる別の起動条件に基づいた前記乗物の運転を支援するための運転支援制御がオフになっている非支援制御状態が含まれてもよい。この構成によれば、乗物が非過渡状態または非支援制御状態にある場合に、設定変更を許容することで、走行フィーリングの違和感を抑えることができる。
【0012】
上記の乗物設定変更システムにおいて、前記乗物はリーン車両であり、前記変更許可走行状態には、鉛直線に対する前記乗物の車体の傾斜角度であるリーン角が所定角度未満であることが含まれてもよい。この構成によれば、リーン車両におけるリーン角が小さい場合に設定変更を許容することで、走行フィーリングの違和感を抑えることができる。
【0013】
上記の乗物設定変更システムは、前記変更許可条件が満たされるまでの間、前記指示の内容を記憶する、前記乗物に設けられた記憶装置を更に備えてもよい。この構成によれば、変更許可条件が満たされるまでの間、記憶装置が音声による指示の内容を記憶するため、音声による指示の後に変更許可条件が満たされた場合にも、乗物の設定変更を実行できる。
【0014】
上記の乗物設定変更システムは、運転者に視認可能に前記乗物に設けられた表示装置を更に備え、前記表示装置は、前記記憶装置が前記指示の内容を記憶した状態にあることを示す情報を表示してもよい。この構成によれば、乗物設定変更システムが運転者の音声による指示の内容を記憶装置が記憶した状態にあることを、運転者に表示装置を介して認識させることができる。
【0015】
上記の乗物設定変更システムにおいて、前記表示装置は、前記記憶装置が前記指示の内容を記憶した状態にあることを示す情報とともに、音声により指示された設定変更の内容を表示してもよい。この構成によれば、どのような設定変更のための指示を記憶装置が記憶した状態にあるかを、運転者に表示装置を介して認識させることができる。
【0016】
上記の乗物設定変更システムにおいて、前記乗物には、変更可能な複数の種類の設定があり、前記変更許可条件は、音声により変更を指示された設定の種類に応じて異なってもよい。この構成によれば、変更可能な状況を増やしつつ、設定変更によるフィーリング低下を防ぐことができ、利便性を向上できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、走行フィーリングに違和感が生じることを抑えることができる乗物設定変更システムを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態に係る乗物設定変更システムの概略構成図である。
図2図1の乗物設定変更システムの構成と乗物の構成を示すブロック図である。
図3】指示装置のタッチパネルに表示された変更指示画面の一例を示す図である。
図4】乗物の表示装置に表示された通常画面の一例を示す図である。
図5図1の乗物設定変更システムにおける音声取得装置及び指示装置の動作を示すフローチャートである。
図6図1の乗物設定変更システムにおける指示装置及び変更装置の動作を示す設定変更手順を示すフローチャートである。
図7】乗物の表示装置に表示された承認画面の一例を示す図である。
図8】指示装置のタッチパネルに表示された変更完了通知画面の一例を示す図である。
図9】指示装置のタッチパネルに表示された一般設定画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。全図を通じて同一の又は対応する要素には同一の符号を付して詳細説明の重複を省略する。
【0020】
<実施形態>
図1は、本実施形態に係る乗物設定変更システム100の概略構成図である。図2は、乗物設定変更システム100の構成と乗物設定変更システム100により設定が変更される乗物の構成を示すブロック図である。乗物設定変更システム100は、乗物の設定を変更するためのシステムである。
【0021】
乗物設定変更システム100は、乗物に搭載された変更装置40と、乗物の運転者の発した音声を取得する音声取得装置70と、音声取得装置70で取得した音声から運転者による設定変更指示を認識し、変更装置40に送信する指示装置50とを備える。本実施形態では、乗物設定変更システム100により設定変更される乗物として、運転者が跨るシートを備えた鞍乗車両、特にそのなかでも、従動輪である前輪2と駆動輪である後輪3とを備え、旋回するときに旋回する方向に車体4を傾けるリーン車両である自動二輪車1を例示する。
【0022】
(自動二輪車)
まず、変更装置40が搭載される自動二輪車1の主な構成について、図1及び図2を参照しつつ説明する。自動二輪車1は、図1に示すように運転者が騎乗可能な車体4を備えており、車体4は、前輪2を操舵するステアリング軸(図示せず)を回転自在に支持するヘッドパイプ部4aと、ヘッドパイプ部4aから後方に延びるフレーム部4bとを有する。フレーム部4bには、後輪3を駆動する駆動源として、エンジン5が搭載されている。エンジン5には、その動力を変速して後輪3に伝達する変速装置(図示せず)が接続されており、変速装置には、動力伝達を遮断/接続するためのクラッチ(図示せず)が設けられている。フレーム部4bの後部には、スイングアーム6の前端部が軸支され、スイングアーム6の後端部に後輪3が回転自在に軸支されている。エンジン5から出力される動力は、動力伝達部材(例えば、チェーン又はベルト)を介して後輪3に伝達される。
【0023】
ヘッドパイプ部4aに支持されたステアリング軸には、左右方向へ延びるバー型のハンドル7が接続されている。ハンドル7の右側部分には、運転者から加速指令が入力されるアクセル操作子8(例えば、アクセルグリップ)が設けられている。アクセル操作子8の前方には、運転者から制動指令が入力されるブレーキ操作子9(例えば、ブレーキレバー)が設けられている。また、ハンドル7の左側部分には、クラッチを操作するためのクラッチレバー(図示せず)が設けられている。
【0024】
また、ハンドル7の左側部分には、変更装置40を操作するための操作装置10が設けられている。操作装置10は、運転者による操作を受け付ける例えば1つ又は複数のスイッチを含む。但し、操作装置10の態様は、これに限らず、例えばレバー等であってもよい。操作装置10は、変更装置40に運転者の操作に応じた信号を送る送信部10a(図2参照)を有している。また、車体4におけるハンドル7の前側の近傍には、運転者に視認可能に設けられた車速などを表示する表示装置11が配置されている。表示装置11は、表示部としての液晶パネル11aを有する。
【0025】
ハンドル7の後方には燃料タンク12が設けられ、燃料タンク12の後方に運転者が騎乗するシート13が設けられている。車体4の左下部には、自動二輪車1の駐車時に当該自動二輪車1を支えるサイドスタンド(図示せず)が設けられている。サイドスタンドを下方に揺動すると、サイドスタンドおよび前後輪2,3の3点で接地し、車体4が左傾起立する。
【0026】
前輪2には前輪ブレーキ15が設けられている。後輪3には後輪ブレーキ16が設けられている。前輪ブレーキ15及び後輪ブレーキ16は、例えば油圧式である。シート13の下方かつ左右両側には、運転者が足を載せるステップ部材18が設けられている。片側のステップ部材18には、運転者から制動指令が入力されるブレーキ操作子19(例えば、ブレーキペダル)が設けられている。ブレーキ操作子9が操作されると主に前輪ブレーキ15が作動し、ブレーキ操作子19が操作されると主に後輪ブレーキ16が作動する。車体4には、ブレーキECU(Electronic Control Unit)33(図2参照)が搭載されており、前輪ブレーキ15及び後輪ブレーキ16に発生させる制動力は、ブレーキECU33により制御される。
【0027】
図2に示すように、自動二輪車1は、電子制御式のスロットル装置21を備える。スロットル装置21は、エンジン5の吸気ポートに連通する吸気通路に配置されたスロットル弁(図示せず)と、スロットル弁の開度を変更する弁アクチュエータ(図示せず)とを有する。スロットル装置21は、アクセル操作子8の操作量に応じて弁アクチュエータを制御して、スロットル弁の開度、すなわちエンジン5に供給される吸気量を調整する。また、上述の吸気通路には、燃料タンク12からの燃料を吸気通路に噴射するインジェクタ22(図2参照)が設けられている。また、エンジン5には、燃焼室の混合気を着火する点火プラグ23(図2参照)が設けられている。これらスロットル装置21、インジェクタ22、及び点火プラグ23は、エンジンECU31により制御される。
【0028】
また、図2に示すように、自動二輪車1は、フロントサスペンション25とリアサスペンション26を備える。フロントサスペンション25は、車体4の前部に設けられ、前輪2が路面から受ける衝撃を吸収する。リアサスペンション26は、車体4の後部に設けられ、後輪3が路面から受ける衝撃を吸収する。フロントサスペンション25とリアサスペンション26は、いずれも電子制御可能に構成されており、サスペンションECU32により制御される。
【0029】
また、図2に示すように、自動二輪車1は、複数の車載機器27を備える。複数の車載機器27には、各種センサ、例えば、アクセル開度を検出するアクセルポジションセンサ、スロットル開度を検出するスロットルポジションセンサ、変速装置の変速段を検出するギヤポジションセンサ、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ、前輪2の回転速度を検出する前輪車速センサ、後輪3の回転速度を検出する後輪車速センサ、エンジン冷却水温を検出する水温センサ、車間距離を測定する距離センサ、前輪ブレーキ圧を検出する前ブレーキ圧センサ、後輪ブレーキ圧を検出する後ブレーキ圧センサ、燃料残量を検出する燃料残量センサ、車体傾斜角を検出する傾斜角センサなどが含まれる。また、複数の車載機器27には、各種スイッチ、例えば、ブレーキ操作の有無を検出するブレーキスイッチ、クラッチ操作の有無を検出するクラッチスイッチ、サイドスタンドの降下/上昇を検出するサイドスタンドスイッチなどが含まれる。なお、図2では、図の簡単化のため、複数の車載機器27をまとめて1つのブロックで示す。
【0030】
上述したエンジンECU31、サスペンションECU32及びブレーキECU33は、それぞれ、マイコン等の演算装置や各種のメモリ等より構成される。エンジンECU31、サスペンションECU32及びブレーキECU33は、それぞれ、複数の車載機器27のうちの一部の機器と接続されている。エンジンECU31、サスペンションECU32及びブレーキECU33には、車載機器27から信号が直接、又は他のECUなどを介して間接的に送られる。エンジンECU31、サスペンションECU32及びブレーキECU33は、それぞれ車載機器27から送られてきた各種信号に基づき、各々の制御対象を制御する。
【0031】
(乗物設定変更システム)
本実施形態の乗物設定変更システム100は、上述した自動二輪車1の設定を変更する。乗物設定変更システム100は、音声取得装置70、指示装置50及び変更装置40を含む。また、図2に示すように、乗物設定変更システム100は、これら以外に変更装置40に設けられた無線通信部34及び記憶装置46、並びに上述した操作装置10及び表示装置11を含む。無線通信部34は、車体4に搭載されており、アンテナやRF(Radio Frequency)回路等から構成される。記憶装置46は、後述する指示認識部62が音声による指示を認識してから変更許可条件が満たされるまでの間、指示の内容を記憶する装置である。以下、音声取得装置70、指示装置50及び変更装置40について、順に説明する。
【0032】
(音声取得装置)
音声取得装置70は、運転者の頭部に装着されるヘルメット70aに取り付けられている。音声取得装置70は、音声入力部71、音声出力部72及び無線通信部73を備える。無線通信部73は、後述する指示装置50の無線通信部51と無線通信を行うものであり、アンテナやRF(Radio Frequency)回路等から構成される。無線通信部73には、音声入力部71及び音声出力部72がそれぞれ電気的に接続されている。
【0033】
音声入力部71は、少なくとも自動二輪車1の走行中に運転者が発した音声を電気信号に変換する機器であり、例えばマイクである。運転者が発した音声は、音声入力部71にて電気信号に変換された後、音声データとして無線通信部73を介して指示装置50に送られる。音声出力部72は、無線通信部73を介して指示装置50から送られてきた電気信号を音に変換して出力する機器であり、例えばスピーカである。
【0034】
(指示装置)
指示装置50は、自動二輪車1から分離して構成された携帯型のコンピュータであり、本実施形態では、図1に示すように指示装置50として運転者が所有するスマートフォン(多機能携帯電話)が例示される。指示装置50は、例えば自動二輪車1に設けられた不図示のホルダにより保持されている。なお、自動二輪車1に設けられたホルダに保持されていても、当該ホルダから取り外し可能に構成された指示装置50は、乗物から分離して構成された指示装置に含まれる。
【0035】
指示装置50は、無線通信部51、タッチパネル(タッチスクリーン)52、及び制御部53を備える。
【0036】
無線通信部51は、音声取得装置70の無線通信部73及び自動二輪車1側の無線通信部34とそれぞれ無線通信を行うものであり、アンテナやRF(Radio Frequency)回路等から構成される。本実施形態では、無線通信部51、無線通信部73及び無線通信部34が行う無線通信は、ブルートゥース(登録商標)通信であり、ペアリングされることにより無線通信可能となる。ペアリングとは、近くにいる無関係な機器と通信しないように、機器同士(本実施形態では、無線通信部51と無線通信部73との間、並びに、無線通信部51と無線通信部34との間)で通信可能であるように相互認証を行うことである。
【0037】
タッチパネル52は、指示装置50から変更装置40に変更指示を送るための運転者からのタッチ入力を受け付ける入力部、及び設定変更を指示するための変更指示画面P1(図3参照)を表示する表示部を兼ねる。なお、本実施形態の乗物設定変更システム100では、音声取得装置70を用いて設定変更を音声で指示する操作と、変更指示画面P1上での運転者のタッチ入力によって設定変更を指示する操作の双方が可能となっている。
【0038】
制御部53は、ハードウェア面では、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を有する。制御部53は、ソフトウェア面では、通信制御部61、指示認識部62、表示制御部63、及び変更許可部64を有する。通信制御部61、指示認識部62、表示制御部63、及び変更許可部64は、例えば不揮発性メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。
【0039】
通信制御部61は、無線通信部51を制御して、音声取得装置70又は変更装置40へ信号を送信したり、音声取得装置70又は変更装置40から信号を受信したりする。
【0040】
指示認識部62は、音声取得装置70から送られた音声データに基づき、自動二輪車1の設定を変更するために自動二輪車1の運転者が発した音声による指示を認識する。具体的には、指示認識部62は、音声取得装置70から送られた音声データをテキスト変換する音声認識処理を実行してテキストデータを取得し、当該テキストデータから運転者の指示を認識する。
【0041】
ただし、指示認識部62は、制御部53のプロセッサ等で音声認識を行なうことに限定されない。例えば、指示認識部62は、クラウド型音声認識サービスを利用して、運転者が発した音声データをテキストデータに変換してもよい。すなわち、指示認識部62は、音声取得装置70から取得した音声データを、インターネット経由で指示装置50の外部の解析装置に送り、その解析装置が音声データから変換したテキストデータを受信してもよい。
【0042】
表示制御部63は、タッチパネル52の動作を制御する。
【0043】
変更許可部64は、自動二輪車1の走行状態が所定の変更許可走行状態であることを含む変更許可条件を満たすか否かを判定する。さらに、変更許可部64は、変更許可条件を満たすと判定した場合に、指示装置50から変更装置40への設定変更指示の送信を可能にし、変更許可条件を満たさないと判定した場合に、指示装置50から変更装置40への設定変更指示の送信を禁止する。なお、「変更許可走行状態」及び「変更許可条件」について、詳細は後述する。
【0044】
(変更装置)
変更装置40は、ハードウェア面では、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を有する。例えば、変更装置40は、エンジンECU31、サスペンションECU32及びブレーキECU33を統合的に制御するメインECUとして機能する。変更装置40は、ソフトウェア面では、通信制御部41、表示制御部42、変更許可部43、及び設定変更実行部44を有する。通信制御部41、表示制御部42、変更許可部43、及び設定変更実行部44は、不揮発性メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。
【0045】
通信制御部41は、無線通信部34を制御して、指示装置50へ信号を送信したり、指示装置50から信号を受信したりする。
【0046】
表示制御部42は、表示装置11の動作を制御する。
【0047】
変更許可部43は、自動二輪車1の走行状態が所定の変更許可走行状態であることを含む変更許可条件を満たすか否かを判定する。
【0048】
設定変更実行部44は、変更許可条件が満たされたと変更許可部43が判定した場合、指示装置50から送られた設定変更指示に基づき、自動二輪車1の設定変更を実行する。また、設定変更実行部44は、変更許可条件が満たされていないと変更許可部43が判定した場合、指示された自動二輪車1の設定変更を実行しない。
【0049】
(設定情報)
自動二輪車1には、変更可能な複数の種類の設定がある。本実施形態では、変更装置40の設定変更実行部44が、変更を指示された自動二輪車1の設定に関する設定情報を変更することにより、自動二輪車1の設定を変更する。変更装置40により変更される設定情報について説明する。設定情報には、自動二輪車1の走行挙動の変更に関する走行挙動情報、表示装置11の表示形式に関する表示形式情報、及び時刻情報が含まれる。本実施形態の乗物設定変更システム100では、運転者の走行フィーリングに影響を与える走行挙動情報が、指示装置50からの変更指示に基づき変更される。
【0050】
走行挙動情報は、自動二輪車1の走行挙動の変更に関する情報であり、変更されることにより、運転者の走行フィーリングに変化を生じさせ得る情報である。走行挙動情報には、エンジン5の制御に関するエンジン制御情報、サスペンション25,26の制御に関するサスペンション制御情報、及びブレーキ15,16の制御に関するブレーキ制御情報が含まれる。例えば、エンジン制御情報は、エンジンECU31のメモリに格納され、サスペンション制御情報は、サスペンションECU32に格納され、ブレーキ制御情報は、ブレーキECU33に格納される。エンジンECU31、サスペンションECU32及びブレーキECU33の各制御対象の制御方法は、それらの各メモリに記憶された走行挙動情報に基づいて定められる。走行挙動情報は、指示装置50から送られる変更指示に基づき変更される。
【0051】
なお、走行挙動情報は、車体4に設けられるアクチュエータの設定を変更するための情報であってもよい。例えば、上述したエンジン5の制御に関わるアクチュエータとしては、スロットル装置21の弁アクチュエータ、インジェクタ22、点火プラグ23が想定される。例えば、上述したサスペンション25,26の制御に関わるアクチュエータとしては、サスペンション用ソレノイドバルブが想定される。例えば、ブレーキ15,16の制御に関わるアクチュエータとしては、ブレーキ用ポンプが想定される。このように、駆動・制動力の設定が走行挙動情報として設定されたり、車体4の姿勢や車体4のディメンションの設定が走行挙動情報として設定されたりする。
【0052】
以下、図3を参照して、走行挙動情報について具体的に説明する。図3は、指示装置50のタッチパネル52に表示された変更指示画面P1の一例を示す図である。変更指示画面P1は、運転者がタッチ入力操作を行って、自動二輪車1の設定変更を指示するための変更指示を変更装置40に送るための画面である。変更指示画面P1は、指示装置50において所定のアプリケーションプログラムを起動(実行)することによりタッチパネル52に表示される。なお、本実施形態では、運転者が変更指示画面P1上でタッチ入力操作する以外に、音声取得装置70を利用して指示装置50に対するタッチ入力操作なしで音声指示を変更装置40に送ることも可能であることは上述したとおりである。
【0053】
変更指示画面P1には、自動二輪車1の走行挙動情報を変更する変更指示を生成するための複数の設定項目が列挙されており、複数の設定を一回の変更指示の送信により一度に変更することが可能となっている。図3に示すように、本実施形態では、設定項目としては、「トラクション制御」、「エンジン出力特性」、「クイックシフター」、「エンジンブレーキ」、「プリロード調整」、「ダンパー調整(前)」、及び「ダンパー調整(後)」などがある。
【0054】
図3に示す設定項目のうち、「トラクション制御」、「エンジン出力特性(パワーモード)」、「クイックシフター」、及び「エンジンブレーキ制御」は、エンジン5に関する設定項目である。
【0055】
「トラクション制御」は、駆動輪である後輪3のスリップ状態に応じてエンジン5の出力を調整するトラクション制御の調整量(すなわち、後輪3を駆動するトルクの調節量)を設定する項目である。本実施形態では、運転者は、変更指示画面P1内のトラクション制御についての設定ボタン52aを選択した後に、トラクション制御を実行しないモードである「オフ(Off)」と、トラクション制御の調整量の異なるいくつかのモードの中から選択できるようになっている。
【0056】
「エンジン出力特性(パワーモード)」は、アクセル操作子8の操作量(例えば、アクセルグリップの回転角度)とアクセル操作子8の操作に応じて開くスロットル弁の開度の比率を設定する項目であり、いわばエンジン5の出力特性を変更するための設定項目である。本実施形態では、運転者は、変更指示画面P1内のエンジン出力特性についての設定ボタン52bを選択した後に、エンジンの出力制限を行わないモードである「フル(Full)」と、エンジンの最大出力を所定の割合に抑えたモードである「ロー(Low)」のいずれかを選択できるようになっている。
【0057】
「クイックシフター」は、クラッチ操作せずにシフトアップを可能にするか否かを設定する項目である。本実施形態では、運転者は、変更指示画面P1内のクイックシフターについての設定ボタン52cを選択した後に、クラッチ操作せずにシフトアップを可能にするモードである「オン(On)」と、可能にしないモードである「オフ(Off)」のいずれかを選択できるようになっている。
【0058】
「エンジンブレーキ」は、エンジンブレーキの利きを調整する項目であり、具体的には、アクセル操作子8を戻したときのエンジン出力を落とす速度を調整する項目である。本実施形態では、運転者は、変更指示画面P1内のエンジンブレーキについての設定ボタン52dを選択した後に、エンジンブレーキの利きを抑えるモードである「オン(On)」と、通常のエンジンブレーキの利きに設定したモードである「オフ(Off)」のいずれかを選択できるようになっている。
【0059】
図3に示す設定項目のうち、「プリロード調整」、「ダンパー調整(前)」、及び「ダンパー調整(後)」は、サスペンション25,26に関する設定項目である。
【0060】
「プリロード調整」は、初期荷重がかかっているときのリアサスペンション26のスプリングの縮み具合を調整する項目である。本実施形態では、運転者は、変更指示画面P1内のプリロード調整についての設定ボタン52eを選択した後に、運転者のみが騎乗するモードである「1人乗り」、運転者と同乗者が騎乗するモードである「2人乗り」、運転者と同乗者が騎乗し且つ荷物も積むモードである「荷物あり」のいずれかを選択できるようになっている。本実施形態では、プリロード調整は、リアサスペンション26のみ設定変更可能であるが、フロントサスペンション25についても設定変更できてもよい。
【0061】
「ダンパー調整(前)」及び「ダンパー調整(後)」は、それぞれフロントサスペンション25及びリアサスペンション26のスプリングの伸び縮みの速さを調整する項目である。本実施形態では、運転者は、変更指示画面P1内の「ダンパー調整(前)」及び「ダンパー調整(後)」の各々についての設定ボタン52f,52gを選択した後に、「ハード(Hard)」、「ノーマル(Normal)」、「ソフト(Soft)」の3つのモードの中からいずれかを選択できるようになっている。「ハード(Hard)」、「ノーマル(Normal)」、「ソフト(Soft)」の3つのモードは、この順にスプリングの減衰力が高くなるように設定される。また、これら3つのモードの各々について、減衰力の微調整が可能となっている。
【0062】
本実施形態では、サスペンション25,26に関する設定項目を変更することにより、ブレーキ15,16の制御、具体的にはABS(Antilock Brake System)制御に関する設定が自動的に変更される。ABS制御は、公知の制御であって、制動時に車輪のスリップ率が大きくなり、ロックするおそれがあるときにはブレーキ液圧を強制的に低下させて、スリップを抑制する制御である。ABS制御についての設定が変更されることで、例えばABS制御の介入するタイミング(すなわち、どの程度の後輪3のスリップ率が検出された場合にABS制御を介入させるか)が変更される。
【0063】
また、図に示さないが、変更指示画面P1では、上述の複数の設定項目を運転状況に適したものに一括変更できるように、運転モードを選択できるようになっている。運転モードには、雨の日の運転に適した設定となる「レインモード」、市街地の運転に適した設定となる「ロードモード」、エンジン5のレスポンスを高めた設定となる「スポーツモード」、各項目を手動で個別に設定可能な「マニュアルモード」がある。レインモード、ロードモード及びスポーツモードを選択した場合、選択したモードに応じた設定に選択される。
【0064】
変更指示画面P1には、上述の設定項目を設定するための設定ボタン52a~52gの他、設定受信ボタン52hと設定送信ボタン52iが配置される。設定受信ボタン52hは、自動二輪車1の現在の設定を受信するためソフトウェアボタンである。指示装置50と変更装置40とが通信接続されている場合に、運転者が設定受信ボタン52hをタップすることにより、指示装置50から変更装置40に現在の走行挙動情報を要求し、その要求に応答して、変更装置40は、現在の走行挙動情報を指示装置50に送る。これにより、指示装置50のタッチパネル52には、現在の設定が選択された状態の変更指示画面P1が表示される。
【0065】
設定送信ボタン52iは、変更指示画面P1にて選択した内容の変更指示を変更装置40に送るためのソフトウェアボタンである。なお、本実施形態では、変更指示の送信は、変更許可部64が自動二輪車1の設定変更を許可した場合に制限される。また、音声取得装置70を利用して音声により設定変更を指示する場合、変更指示画面P1上での入力操作は不要である。
【0066】
図4は、自動二輪車1の表示装置11(より詳しくは、液晶パネル11a)に表示される通常画面D1の一例を示す図である。通常画面D1には、車速表示領域81、運転モード表示領域82、残量表示領域83、設定表示領域84が配置される。車速表示領域81には、自動二輪車1の車速が表示される。運転モード表示領域82には、現在設定されている運転モードが表示される。残量表示領域83には、燃料タンク12内の燃料の残量が表示される。設定表示領域84には、走行挙動情報に関する現在の設定が表示される。運転者は、設定表示領域84を見て、自動二輪車1の現在の設定を確認することが可能となっている。
【0067】
また、通常画面D1には、時刻表示領域85、通信接続報知アイコン86、電話着信報知アイコン87及びメール着信報知アイコン88も表示される。時刻表示領域85は、現在の時刻を表示するための領域である。通信接続報知アイコン86は、変更装置40の無線通信部34と指示装置50の無線通信部51との通信接続が確立したことを報知するアイコンである。本実施形態では、通信接続報知アイコン86が表示されているか否かによって、変更装置40の無線通信部34と指示装置50の無線通信部51との通信接続が確立したか否かを示す。電話着信報知アイコン87は、電話として機能する指示装置50に電話着信があったことを報知する。メール着信報知アイコン88は、電子メール受信装置として機能する指示装置50に電子メールの着信があったことを報知する。
【0068】
これら時刻表示領域85、通信接続報知アイコン86、電話着信報知アイコン87及びメール着信報知アイコン88は、設定情報のうち、上述した時刻情報及び表示形式情報に関連する。表示形式情報及び時刻情報は、例えば変更装置40が有するメモリに格納される。表示形式情報には、例えば、表示装置11が表示する時刻の表示形式や日付の表示形式、速度や温度などの単位の表示形式など、各種表示形式を定める情報が含まれる。変更装置40による時刻情報及び表示形式情報の変更について、詳細は後述する。
【0069】
(変更許可条件)
次に、変更許可部43が判定する変更許可条件について説明する。上述したように、走行挙動情報を変更するための変更許可条件には、変更許可走行状態であることが含まれる。本明細書及び特許請求の範囲において、変更許可走行状態は、指示された設定変更を設定変更実行部が実行した場合でも、運転者に走行フィーリングの違和感が生じない又は生じにくいと想定される予め定められた走行状態をいう。
【0070】
本実施形態では、変更許可走行状態には、以下の状態(i)~(v)が含まれ得る。
(i) 自動二輪車1が停止した停止状態
(ii) 自動二輪車1が所定の速度以下の速度で低速走行する低速走行状態
(iii) 走行挙動が一定にある非過渡状態
(iv) 運転者による操作とは異なる別の起動条件に基づいた自動二輪車1の運転を支援するための運転支援制御がオフになっている非支援制御状態
(v) 鉛直線に対して車体4が傾斜した角度であるリーン角が所定角度未満である状態
【0071】
なお、(iii)の非過渡状態は、言い換えれば、走行挙動が変化中にある「過渡状態」にない状態とも言える。具体的に、過渡状態には、時間当たりの走行速度の変化量が所定値以上である状態の他、自動二輪車1の旋回開始段階、旋回終了段階、変速段階が含まれる。旋回開始や旋回終了は、例えば時間当たりの操舵角の変化量が所定値以上であるか否かで判断される。
【0072】
また、(iv)の運転支援制御には、例えば、オートクルーズ制御、トラクション制御、ABS制御、サスペンション制御、ステアリング制御、コーナリングライトなどが含まれ得る。なお、コーナリングライトとは、自動二輪車1が旋回する際に、旋回方向奥側を自動的にライトで照らす機能である。
【0073】
変更許可条件は、音声により変更を指示された設定の種類に応じて異なるように設定されている。すなわち、変更許可条件の厳しさは、設定の種類に応じて異なる。例えば、ある設定については、上述の状態(i)~(v)のいずれの状態も変更許可走行状態としてもよいし、別のある設定については、上述の状態(i)~(v)のうちの一部(例えば(i)及び(ii))のみを、変更許可走行状態としてもよい。また、上述の状態(i)~(v)以外の状態を、変更許可走行状態とする設定があってもよい。また、例えば、「トラクション制御」、「プリロード調整」、「ダンパー調整(前)」、及び「ダンパー調整(後)」の変更許可条件は、「エンジン出力特性」、「クイックシフター」、及び「エンジンブレーキ」、並びにコーナリングライトの変更許可条件よりも厳しく設定されてもよい。
【0074】
例えば、「プリロード調整」、「ダンパー調整(前)」、及び「ダンパー調整(後)」などのサスペンション25,26に関する設定変更については、変更許可部43は、上述の状態(i)~(v)のいずれかが満たされた場合に、自動二輪車1の走行状態が変更許可走行状態であると判定し、一方、「エンジン出力特性」、「クイックシフター」などのエンジン5に関する設定変更については、変更許可部43は、上述の状態(i)~(v)のうち、状態(i)又は状態(ii)が満たされた場合のみ、自動二輪車1の走行状態が変更許可走行状態であると判定してもよい。また、例えば、「ABS制御」の設定変更については、変更許可部43は、上述の状態(i)~(v)を判定する代わりに、ブレーキ操作中以外の全ての状態を変更許可走行状態であると判定してもよい。
【0075】
なお、後述するように、これら走行挙動情報を変更するための変更許可条件は、表示形式情報及び時刻情報を変更するための変更許可条件よりも厳しく設定される。
【0076】
本実施形態では、走行挙動情報を変更するための変更許可条件には、音声により指示された設定変更を承認するための所定の承認操作が操作装置10に対して行われることが含まれている。これについては、後述する。
【0077】
(設定変更の流れ)
次に、乗物設定変更システム100における音声による設定変更の流れについて、図5及び図6を参照しながら説明する。図5及び図6は、乗物設定変更システム100における設定変更手順を示すフローチャートである。なお、図5及び図6に示す設定変更手順の説明において、指示装置50の無線通信部51と音声取得装置70の無線通信部73との間、並びに、指示装置50の無線通信部51と変更装置40の無線通信部34との間では、既にペアリングがなされているものとして説明する。
【0078】
図5に示すように、まず例えば自動二輪車1の設定を変更するための所定のアプリケーションプログラムを起動した状態の指示装置50と音声取得装置70とが、無線通信部51と無線通信部73とが通信できるよう近づくことで、無線通信部51と無線通信部73との間で通信接続が確立される(ステップS1,S2)。
【0079】
例えば自動二輪車1の走行中に、運転者が設定変更を行なうための指示音声を発すると、その音声が音声入力部71に入力される(ステップS3)。運転者が発した指示音声は、音声入力部71にて電気信号に変換された後、音声データとして無線通信部73により指示装置50に送られる(ステップS4)。
【0080】
指示認識部62は、音声取得装置70から送られた音声データに基づき、自動二輪車1の設定を変更するために自動二輪車1の運転者が発した音声による指示を認識する(ステップS5)。
【0081】
指示認識部62が運転者が発した音声による指示を認識すると、図6に示すように、指示装置50の無線通信部51は、通信接続先を、音声取得装置70の無線通信部73から、変更装置40の無線通信部34に切り替える(ステップT1,T2)。
【0082】
指示装置50の無線通信部51と変更装置40の無線通信部34との接続が確立すると、指示装置50の通信制御部61は、判定情報を要求する判定情報要求を変更装置40に送信する(ステップT3)。判定情報は、自動二輪車1が変更許可走行状態にあるか否かを指示装置50の変更許可部64が判定するための情報である。判定情報には、車載機器27である各種センサやスイッチ等が取得した検出結果を示す情報が含まれ、例えば自動二輪車1の車速情報、アクセルポジションセンサの検出値、傾斜角センサが検出した車体傾斜角などが含まれる。
【0083】
変更装置40の通信制御部41は、受信した判定情報要求に応答して、車載機器27から取得した判定情報を指示装置50に送信する(ステップT4)。なお、判定情報は、変更装置40により指示装置50に送信される必要はない。例えば、判定情報は、車載機器27、あるいは車載機器27から検出結果を取得したエンジンECU31などから、変更装置40を介さずに指示装置50に送信されてもよい。
【0084】
指示装置50が判定情報を受信すると、指示装置50の変更許可部64は、判定情報に基づき、自動二輪車1が変更許可走行状態にあるか否かを判定する(ステップT5)。
【0085】
指示装置50の変更許可部64が、自動二輪車1が変更許可走行状態にあると判定した場合(ステップT5:YES)、指示装置50の変更許可部64は、指示装置50の通信制御部61が変更指示を変更装置40に送信するのを許可する。許可された通信制御部61は、変更指示を変更装置40に送信する(ステップT6)。
【0086】
指示装置50の変更許可部64が、自動二輪車1が変更許可走行状態にないと判定した場合(ステップT5:NO)、指示装置50の変更許可部64は、指示装置50が変更指示を変更装置40に送信しない。指示装置50の変更許可部64は、自動二輪車1が変更許可走行状態になるまで指示内容を、制御部53が有するメモリに一時的に記憶した状態で待機する(ステップT7)。そして、自動二輪車1が変更許可走行状態になったときに、指示装置50の変更許可部64が、自動二輪車1が変更許可走行状態にあると判定し、ステップT6に移る。
【0087】
なお、指示装置50の変更許可部64が、自動二輪車1が変更許可走行状態にないと判定した場合に、指示装置50の変更許可部64は、指示内容を一時的に記憶した状態で待機するとともに、自動二輪車1が変更許可走行状態にないことを報知する音声データを音声取得装置70に送ってもよい。
【0088】
変更装置40が指示装置50から変更指示を受信したとき、変更装置40の表示制御部42は、表示装置11の液晶パネル11aに、承認画面D2を表示する(ステップT8)。承認画面D2には、音声により指示された設定変更の内容が表示される。
【0089】
図7は、自動二輪車1の表示装置11に表示された承認画面D2の一例を示す図である。承認画面D2は、指示装置50から受信した変更指示に基づく自動二輪車1の設定変更を、運転者が承認するか否かを選択するための画面である。図7に示すように、承認画面D2には、承認ボタン111、キャンセルボタン112、及び変更指示内容表示領域113が配置される。
【0090】
承認画面D2では、運転者が操作装置10を操作することにより、承認ボタン111とキャンセルボタン112のいずれかを選択できるようになっている。変更指示内容表示領域113には、設定変更内容を示す情報が表示される。本実施形態では、変更指示内容表示領域113に、現在の設定である変更前の設定内容と、変更後の設定内容とが示される。本実施形態では、変更指示内容表示領域113に、変更指示されていない設定項目については表示されないが、変更指示されていない設定項目(すなわち、承認しても設定が変更されない項目)も表示されてもよい。
【0091】
承認画面D2が表示されている間、変更装置40の変更許可部43は、上述した判定情報に基づき、自動二輪車1が変更許可走行状態にあるか否かを判定する(ステップT9)。変更許可部43は、自動二輪車1が所定の期間継続して変更許可走行状態にあるか否かを判定してもよい。
【0092】
変更装置40の変更許可部43が、自動二輪車1が変更許可走行状態にないと判定した場合(ステップT9:NO)、変更装置40の変更許可部43は、指示認識部が音声による指示を認識してから変更許可条件が満たされるまでの間、記憶装置46に指示の内容を記憶した状態で待機する(ステップT11)。
【0093】
変更許可条件が満たされるまでの待機中において、表示装置11は、記憶装置46が指示の内容を記憶した状態にあることを示す情報を表示してもよい。また、変更許可条件が満たされるまでの待機中において、表示装置11は、例えば図7に示した承認画面D2を表示し続けるなどして、記憶装置46が指示の内容を記憶した状態にあることを示す情報とともに、音声により指示された設定変更の内容を表示してもよい。この場合、承認画面D2は、運転者が自動二輪車1の設定変更を承認する操作、すなわち承認ボタン111を選択する操作を受け付けないように設定されていてもよい。例えば、変更許可条件が満たされるまでの待機中において、承認画面D2における承認ボタン111及びキャンセルボタン112は、選択不能となるようグレーアウト表示されてもよいし、あるいは表示されなくてもよい。
【0094】
変更装置40の変更許可部43が、自動二輪車1が変更許可走行状態にあると判定した場合に(ステップT9:YES)、指示装置50の変更許可部64は、承認画面D2が承認ボタン111の選択を受付可能な状態で待機し、承認ボタン111が選択されたか否かを判定する(ステップT10)。
【0095】
運転者が自動二輪車1の設定変更を承認する操作、すなわち承認ボタン111を選択する操作を行うと、操作装置10の送信部10aから承認信号が変更許可部43に送信される。変更許可部43は、送信部10aから送信される承認信号を受信した場合に(ステップT10:YES)、自動二輪車1の設定変更を許可する。設定変更を許可された設定変更実行部44は、自動二輪車1の設定変更を実行する(ステップT12)。例えば、設定変更実行部44は、変更前の設定情報の数値から変更後の設定情報の数値に、徐々に又は段階的に変えていってもよい。なお、変更許可部43が送信部10aから送信される承認信号を受信しない間(ステップT10:NO)、ステップT9を繰り返す。
【0096】
設定変更実行部44が自動二輪車1の設定変更を実行したときに、通信制御部41は、設定変更が完了したことを知らせる変更完了通知を指示装置50に送信する(ステップT13)。
【0097】
ステップT10で、運転者が自動二輪車1の設定変更を承認しない操作、すなわちキャンセルボタン112を選択する操作を行うと、操作装置10の送信部10aからキャンセル信号が変更許可部43に送信され、変更許可部43は、自動二輪車1の設定変更を禁止する。設定変更を禁止された設定変更実行部44は、自動二輪車1の設定変更を実行せず、通信制御部41は、設定変更がキャンセルされたことを知らせる通知を指示装置50に送信する。
【0098】
なお、設定変更実行部44が自動二輪車1の設定変更を実行した後、表示装置11には、設定変更内容が表示され続けてもよい。また、指示装置50が変更完了通知を受信した後、指示装置50の表示制御部63は、図8に示すように、変更完了通知をタッチパネル52に表示してもよい。図8は、指示装置50のタッチパネル52に表示された変更完了通知画面P2の一例を示す図である。図8に示すように、変更完了通知画面P2には、変更指示に基づく設定変更が完了したことを示すメッセージ(例えば、「設定変更が完了しました。」というメッセージ)が記述された通知ウィンドウ93が含まれる。
【0099】
図5に戻って、指示装置50が、図6のステップT13で、変更装置40から変更完了通知を受信した後、指示装置50の通信制御部61は、設定完了を運転者に報知するための音声データを音声取得装置70に送信する(ステップS6)。音声取得装置70では、音声出力部72が無線通信部73を介して指示装置50から音声データを受信し、設定完了を運転者に報知する音声を出力する(ステップS7)。
【0100】
(表示形式情報及び時刻情報の変更)
本実施形態の乗物設定変更システム100では、走行挙動情報だけでなく、表示形式情報及び時刻情報も、指示装置50からの変更指示に基づき変更される。以下では、表示形式情報及び時刻情報の変更について、図4及び図9を参照しつつ説明する。
【0101】
図9は、指示装置50のタッチパネル52に表示された一般設定画面P3の一例を示す図である。一般設定画面P3は、変更装置40と通信接続されているときの指示装置50の動作を設定する画面である。一般設定画面P3には、自動同期ボタン121、日付表示形式ボタン122、時刻表示形式ボタン123、電話着信通知ボタン124、メール着信通知ボタン125、速度単位ボタン126が配置される。
【0102】
自動同期ボタン121は、変更装置40の無線通信部34と指示装置50の無線通信部51との通信接続が確立した場合に、指示装置50の時刻に変更装置40の時刻を自動的に同期させるか否かを指定するためのソフトウェアボタンである。
【0103】
指示装置50が有するメモリには、時刻情報(以下、「第1時刻情報」と呼ぶ。)が格納されており、指示装置50は、外部から取得した別の時刻情報に基づき、この第1時刻情報を時刻合わせする。指示装置50の時刻合わせは、例えば、GPS(Global Positioning System)、NTP(Network Time Protocol)、NITZ(Network Identity and Time Zone))などの仕組みにより実現される。自動同期ボタン121がオンになっている場合、変更装置40と指示装置50との通信接続が確立したときに、指示装置50の通信制御部61は、指示装置50の第1時刻情報を変更装置40へ送信する。変更装置40は、受信した第1時刻情報に基づき、変更装置40がメモリに格納する時刻情報(以下、「第2時刻情報」と呼ぶ。)を修正し、指示装置50の時刻と同期を行う。表示制御部42は、同期された時刻を表示装置11(より詳しくは、通常画面D1の時刻表示領域85)に反映する。
【0104】
日付表示形式ボタン122は、表示装置11に表示される日付の表示形式をいくつかの形式(例えば、「YYYY/MM/DD」、「MM.DD.YYYY」、「DD/MM/YYYY」など)の中から選択するためのソフトウェアボタンである。時刻表示形式ボタン123は、表示装置11に表示される時刻の表示形式をいくつかの形式(例えば、「24時間表記」、「12時間表記」など)の中から選択するためのソフトウェアボタンである。
【0105】
日付表示形式ボタン122又は時刻表示形式ボタン123を操作すると、その操作に対応した表示形式変更信号が指示装置50から変更装置40に送られる。変更装置40は、受信した表示形式変更信号に基づき、変更装置40のメモリに格納された表示形式情報を変更し、表示制御部42が、例えば図4に示す時刻表示領域85に反映する。
【0106】
電話着信通知ボタン124は、電話として機能する指示装置50に電話着信があった場合に、表示装置11に電話着信報知アイコン87を表示させるか否かを選択するためのソフトウェアボタンである。電話着信通知ボタン124がオンになっている場合に指示装置50に電話着信があると、指示装置50は、電話着信報知信号を変更装置40へ送る。変更装置40は、電話着信報知信号を受信した場合に、図4に示すように電話着信報知アイコン87を表示装置11に表示する。
【0107】
メール着信通知ボタン125は、電子メール受信装置として機能する指示装置50に電子メールの着信があった場合に、表示装置11にメール着信報知アイコン88を表示させるか否かを選択するためのソフトウェアボタンである。メール着信通知ボタン125がオンになっている場合に指示装置50に電子メールの着信があると、指示装置50は、電子メール着信報知信号を変更装置40へ送る。変更装置40は、電子メール着信報知信号を受信した場合に、図4に示すようにメール着信報知アイコン88を表示装置11に表示する。
【0108】
速度単位ボタン126は、表示装置11に表示される速度の単位をいくつかの単位(例えば、「km/h」、「MPH」など)の中から選択するためのソフトウェアボタンである。速度単位ボタン126を操作すると、その操作に対応した表示形式変更信号が指示装置50から変更装置40に送られる。変更装置40は、受信した表示形式変更信号に基づき、変更装置40のメモリに格納された表示形式情報を変更し、表示制御部42が、図4に示す単位の表記81aに反映する。
【0109】
なお、運転者が一般設定画面P3上でタッチ入力操作する以外に、音声取得装置70を利用して指示装置50に対するタッチ入力操作なしで音声指示を変更装置40に送ることができることは、走行挙動情報に関する設定変更指示と同様である。
【0110】
表示形式情報及び時刻情報は、変更されても走行フィーリングに影響を与えるものでないため、表示形式情報及び時刻情報の設定変更は、走行挙動情報の設定変更に比べて制約が少なくなっている。言い換えれば、表示形式情報及び/又は時刻情報を変更するための変更許可条件は、走行挙動情報を変更するための変更許可条件よりも緩やかに設定されている。
【0111】
例えば、走行挙動情報を変更するための変更許可条件には、変更許可走行状態であることが含まれたが、表示形式情報及び/又は時刻情報を変更するための変更許可条件には、自動二輪車の状態が変更許可走行状態であるという条件が含まれなくてもよい。例えば、表示形式情報及び/又は時刻情報を変更するための変更許可条件は、音声により指示された設定変更を承認するための所定の承認操作が操作装置10に対して行われることのみであってもよい。
【0112】
あるいは、例えば、表示形式情報及び時刻情報の設定変更については、制約自体がなくてもよい。言い換えれば、表示形式情報及び時刻情報の設定変更に対しては、操作装置10に対する承認操作なしで、且つ、いかなる走行状態においても設定変更が実行されてもよい。
【0113】
以上に説明したように、本実施形態に係る乗物設定変更システム100によれば、運転者は発した音声により自動二輪車1の設定変更を指示することができる。また、自動二輪車1の走行状態が所定の変更許可走行状態であることを含む変更許可条件が満たされたと変更許可部43が判定した場合に自動二輪車1の設定変更の実行されるため、設定変更を実行することによる走行フィーリングの違和感を抑えることができる。
【0114】
また、本実施形態では、変更許可条件に、音声により指示された設定変更を承認するための所定の承認操作が操作装置10に対して行われることが含まれるため、運転者の承認操作なしで設定変更が実行されるのを防止することができる。運転者による設定変更意図を確かめたうえで設定変更できる。
【0115】
また、本実施形態では、表示装置11は、音声により指示された設定変更の内容を表示するため、設定変更の内容を確認したうえで、承認操作を行うことができる。
【0116】
また、変更許可走行状態には、自動二輪車1の停止状態または所定の速度以下の低速走行状態が含まれるため、自動二輪車1が停止状態または低速走行状態にある場合に、設定変更を許容することで、走行フィーリングの違和感を抑えることができる。
【0117】
また、変更許可走行状態には、自動二輪車1の走行挙動が一定にある非過渡状態または運転者による操作とは異なる別の起動条件に基づいた自動二輪車1の運転を支援するための運転支援制御がオフになっている非支援制御状態が含まれるため、自動二輪車1が非過渡状態または非支援制御状態にある場合に、設定変更を許容することで、走行フィーリングの違和感を抑えることができる。
【0118】
また、変更許可走行状態には、鉛直線に対する自動二輪車1の車体の傾斜角度であるリーン角が所定角度未満であることが含まれるため、リーン車両におけるリーン角が小さい場合では、走行フィーリングの違和感を抑えることができる。
【0119】
また、本実施形態では、変更装置40が変更指示を指示装置50から受信してから変更許可条件が満たされるまでの間、自動二輪車1に設けられた記憶装置46が指示の内容を記憶する。このため、音声による指示の後に変更許可条件が満たされた場合にも、自動二輪車1の設定変更を実行できる。
【0120】
また、表示装置11は、記憶装置46が指示の内容を記憶した状態にあることを示す情報を表示するため、運転者の音声による指示の内容を記憶装置46が記憶した状態にあることを、運転者に表示装置11を介して認識させることができる。
【0121】
さらに、表示装置11は、記憶装置46が指示の内容を記憶した状態にあることを示す情報とともに、音声により指示された設定変更の内容を表示するため、どのような設定変更のための指示を記憶装置46が記憶した状態にあるかを、運転者に表示装置11を介して認識させることができる。
【0122】
また、本実施形態では、自動二輪車1に、変更可能な複数の種類の設定があり、変更許可条件は、音声により変更を指示された設定の種類に応じて異なるため、変更可能な状況を増やしつつ、設定変更によるフィーリング低下を防ぐことができ、利便性を向上できる。
【0123】
<その他の実施形態>
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0124】
例えば、上記実施形態では、変更装置40の変更許可部43が変更許可条件が満たされたと判定した場合に、設定変更実行部44が乗物の設定変更を行なったが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明の「変更許可部」は、変更装置40の変更許可部43ではなく、指示装置50の変更許可部64であってもよい。すなわち、指示装置50の変更許可部64が変更許可条件が満たされたか否かを判定して、その判定結果を変更装置40に送り、その判定結果に基づき、変更装置40の設定変更実行部44が乗物の設定変更を行なってもよい。
【0125】
変更装置40の変更許可部43と指示装置50の変更許可部64の双方が、本発明の「変更許可部」として機能してもよい。例えば、上記実施形態では、変更装置40の変更許可部43が、自動二輪車1が変更許可走行状態にあるか否かを判定したが、例えば指示装置50の変更許可部64がこの判定を行なってもよい。そして、指示装置50の変更許可部64が判定結果を変更装置40に送り、変更装置40の変更許可部43がその判定結果を利用して、変更許可条件を満たすか否かを判定してもよい。
【0126】
指示装置50は、変更許可部64を有さなくてもよい。この場合、指示装置50の指示認識部62が運転者からの音声指示を認識した後、通信制御部61は、変更指示を変更装置40に送信してもよい(つまり、ステップS5の後、ステップS6に移動してもよい)。
【0127】
操作装置10は、ハンドル7の左側部分に設けられていたが、操作装置10は、アクセル操作子8と同じハンドル7の右側部分に設けられていてもよいし、表示装置11の液晶パネル11aの側方などに設けられていてもよい。ただし、上記実施形態のように操作装置10がハンドル7におけるアクセル操作子8と反対側に設けられている場合、アクセル操作している状態でも操作装置10を操作しやすい。
【0128】
また、上記実施形態では、走行挙動情報を変更するための変更許可条件に、所定の承認操作が操作装置10に対して行われることが含まれていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、変更許可条件は、乗物の走行状態が所定の変更許可走行状態であることのみであってもよい。この場合、乗物設定変更システムに操作装置10は不要である。
【0129】
また、操作装置10を複数のスイッチにより構成し、操作装置10に対する承認操作を、複数のスイッチに対して行うものとしてもよい。承認操作を難しくすることで、意図しない変更を抑えることができる。
【0130】
また、上記実施形態では、変更装置40の変更許可部43が、自動二輪車1が変更許可走行状態にないと判定した場合に、変更許可条件が満たされるまでの間、記憶装置46に指示の内容を記憶した状態で待機したが(図6のステップT11参照)、待機時間が所定の時間を超えた場合には、変更許可部43は、自動的に設定変更指示をキャンセルしてもよい。また、乗物のエンジン等がオフになったときも、変更許可部43は、自動的に設定変更指示をキャンセルしてもよい。
【0131】
また、設定変更実行部44が自動二輪車1の設定変更を実行した後に、変更前の設定に戻せるよう、例えば記憶装置46に、設定変更前の設定情報が所定の期間記憶されていてもよい。
【0132】
走行挙動情報及びそれを変更するための乗物の設定項目は、上記実施形態で説明されたものに限定されない。例えば、上記実施形態では、サスペンション25,26に関する設定の変更に、ブレーキ15,16のABS制御に関する設定の変更が関連付けられていたが、乗物の設定項目に、サスペンションとは別に、ABS制御についての設定項目が含まれてもよい。また、フロントサスペンション25及びリアサスペンション26のスプリングの伸び縮みの速さを調整する設定項目について、例えば、スプリングが伸びる速さと縮む速さを個別に調整できてもよい。また、走行挙動情報は、変更されることにより運転者の走行フィーリングに変化を生じさせ得る情報であればよく、例えば、走行挙動情報は、電制ステアリングとして用いられるステアリングアクチュエータ、エンジンから駆動輪への動力を伝達状態と非伝達状態とで切り替えるクラッチアクチュエータ、変速位置を切り替えるギヤアクチュエータ、グリップヒータ、及び可変ウインドシールドなどの設定情報であってもよい。
【0133】
また、上記実施形態で説明された一般設定画面P3も一例であり、例えば、一般設定画面P3に、速度単位ボタン126の他、温度単位など別の単位の表示形式に関するボタンが表示されてもよい。
【0134】
また、上記で説明された表示装置11の液晶パネル11aの表示態様も一例にすぎない。表示装置11の液晶パネル11aにおける通常画面D1は、表示モードを切り替え可能であってもよく、表示モードを切り替えることにより、例えば設定表示領域84の代わりに、自動二輪車1の通算走行距離やエンジン5を冷却する冷却水の温度などが表示されてもよい。また、表示装置11は、液晶パネル11aの代わりに又は加えて、表示ランプ等を備えていてもよい。
【0135】
変更装置40は、エンジンECU31、サスペンションECU32及びブレーキECU33を統合的に制御するメインECUとして機能しなくてもよい。変更装置40は、他のECU31~33のうちの一部または全部の機能を有する構成であってもよい。すなわち、変更装置40は、他のECU31~33と一つにまとめられてもよい。設定情報は、1つのメモリに格納されてもよい。
【0136】
指示装置50から送られる変更指示に基づき変更装置40が変更する走行挙動情報は、変更されることにより、運転者の走行フィーリングに変化を生じさせ得る情報であればよく、エンジン制御情報、サスペンション制御情報、及びブレーキ制御情報に限定されない。また、上記実施形態では、変更装置40が変更する走行挙動情報として、エンジン制御情報、サスペンション制御情報、及びブレーキ制御情報が説明されたが、走行挙動情報は、エンジン制御情報、サスペンション制御情報、及びブレーキ制御情報の少なくとも1つを含んでいればよい。
【0137】
また、上記実施形態では、設定変更のための音声を発する者が運転者であるものとして説明したが、本発明はこれに限定されず、運転者と変更装置40に変更指示を送る者とが異なってもよい。例えば音声取得装置70は、ヘルメット70aに取り付けられている必要はなく、例えば指示装置50と一体であってもよい。
【0138】
指示装置50は、スマートフォンでなくてもよく、電話や電子メール受信装置として機能しないものでもよい。例えば指示装置50は、タブレットPC(Personal Computer)、ノートPC、携帯情報端末等の他の種類の携帯型のコンピュータでもよいし、据置型のコンピュータでもよい。また、上記実施形態では、指示装置50は、運転者からの入力を受け付ける入力部及び変更指示画面を表示する表示部を兼ねたタッチパネルを備えていたが、指示装置50は、入力部と表示部を別個に備えていてもよい。また、指示装置50は、無線通信により変更装置40へ変更指示を送信するものでなくてもよく、有線通信により変更装置40へ変更指示を送信するものでもよい。
【0139】
上記実施形態では、駆動輪を駆動する駆動源として、吸気系に開度可変のスロットル弁を装備したエンジン5が示されたが、駆動源には、エンジン5に代えて又は加えて電気モータが用いられてもよい。また、乗物の一例として、自動二輪車を例示したが、本発明は、自動二輪車以外の乗物、例えばPWC(パーソナルウォータークラフト)やユーティリティビークル等の設定変更にも適用可能である。
【符号の説明】
【0140】
100 :乗物設定変更システム
1 :自動二輪車(乗物)
7 :ハンドル
10 :操作装置
10a :送信部
11 :表示装置
34 :無線通信部
40 :変更装置
41 :通信制御部
42 :表示制御部
43 :変更許可部
44 :設定変更実行部
46 :記憶装置
50 :指示装置
51 :無線通信部
52 :タッチパネル
53 :制御部
61 :通信制御部
62 :指示認識部
63 :表示制御部
64 :変更許可部
70 :音声取得装置
70a :ヘルメット
71 :音声入力部
72 :音声出力部
73 :無線通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9