(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
F16H1/32 A
(21)【出願番号】P 2018196718
(22)【出願日】2018-10-18
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
(72)【発明者】
【氏名】淡島 裕樹
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-191448(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102192277(CN,A)
【文献】特開平11-280854(JP,A)
【文献】特開2016-023700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、
前記内歯歯車と噛み合う第1外歯歯車と、
前記第1外歯歯車の複数の第1挿通孔のそれぞれに挿通された複数の内ピンと、を備えた偏心揺動型減速装置であって、
前記複数の内ピンのそれぞれに外嵌され、前記第1挿通孔の内側に配置される円筒形状の複数の第1内ローラと、
前記複数の内ピンのそれぞれに外嵌され、前記第1内ローラの軸方向移動を規制する複数のスペーサローラと、を備え、
前記第1内ローラは、前記内ピンと接触可能に前記内ピンに外嵌され、
前記スペーサローラは、前記第1内ローラよりもヤング率が小さい素材により構成され
、
前記第1外歯歯車の軸方向一方側に配置された第1キャリヤと、
前記第1外歯歯車の軸方向他方側に配置された第2キャリヤと、
前記第1キャリヤと前記第2キャリヤを連結するキャリヤピンと、
前記キャリヤピンに外嵌され、前記第1キャリヤと前記第2キャリヤとの間の距離を保持する単一のスペーサ部材と、を備え
る偏心揺動型減速装置。
【請求項2】
前記複数のスペーサローラの外接円の半径は、前記内歯歯車の軸心から前記複数の第1挿通孔の外接円までの最大距離より小さくなるように設定される請求項
1に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項3】
前記スペーサローラの外径は、前記第1内ローラの外径と実質的に同じ、又は、前記第1内ローラの外径より小さくなるように設定される請求項1
または2に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項4】
前記内歯歯車と噛み合う第2外歯歯車を備え、
前記複数の内ピンは、前記第2外歯歯車の複数の第2挿通孔のそれぞれに挿通され、
前記複数の内ピンのそれぞれに外嵌され、前記第2挿通孔の内側に配置される複数の第2内ローラを備え、
前記スペーサローラは、前記第1内ローラと前記第2内ローラの間に配置される請求項1から
3のいずれかに記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項5】
前記スペーサローラは、樹脂系素材により構成され、
前記第1内ローラは、金属系素材により構成される請求項1に記載の偏心揺動型減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内歯歯車と、内歯歯車と噛み合う外歯歯車と、外歯歯車を貫通する複数の内ピンとを備えた偏心揺動型減速装置が提案される。この種の減速装置では、複数の内ピンのそれぞれに内ローラを外嵌し、その内ローラの軸方向移動をローラ規制部材により規制することがある。特許文献1の減速装置では、単数のリング状のローラ規制部材によって、外歯歯車内に配置される全ての内ローラの軸方向移動を規制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構造のもとでは、複数の内ピンの位置や形状のばらつきを考慮しつつ、全ての内ローラの軸方向移動を単数のローラ規制部材により規制する必要がある。よって、後述するように、各内ローラの軸方向移動を規制するうえで、複数の内ピンやローラ規制部材に高い精度が要求されてしまう。
【0005】
本発明のある態様は、こうした状況に鑑みてなされ、その目的の1つは、減速装置の構成部品に要求される精度を低減できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は偏心揺動型減速装置に関し、内歯歯車と、前記内歯歯車と噛み合う第1外歯歯車と、前記第1外歯歯車の第1挿通孔に挿通された複数の内ピンと、を備えた偏心揺動型減速装置であって、前記複数の内ピンのそれぞれに外嵌され、前記第1挿通孔の内側に配置される複数の第1内ローラと、前記複数の内ピンのそれぞれに外嵌され、前記第1内ローラの軸方向移動を規制するスペーサローラと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明のある態様によれば、減速装置の構成部品に要求される精度を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】
図4(a)は、未変形状態にある内ピンとローラを模式的に示す図であり、
図4(b)は、撓み変形状態にある内ピンとローラを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態の偏心揺動型減速装置を想到するに到った背景を説明する。特許文献1のように、外歯歯車内に配置される全ての内ローラの軸方向移動を単数のローラ規制部材により規制する場合を考える。この場合、複数の内ピンの位置や寸法のばらつきによって、その内ピンに外嵌される内ローラの位置が変化し得る。内ローラは、通常、その肉厚が非常に小さい部材である。よって、複数の内ピンや単数のローラ規制部材の位置や寸法のばらつきが大きくなると、そのローラ規制部材により軸方向移動を規制できない内ローラが存在する可能性が高くなる。これを避けるためには、複数の内ピンや単数のローラ規制部材の位置や寸法に高い精度が要求されてしまい、製品コストの増大を招く。
【0010】
この対策として、本実施形態の減速装置では、複数の内ピンに個別に外嵌される複数のスペーサローラをローラ規制部材として用いている。これにより、一つの内ピンに外嵌している内ローラの軸方向移動を規制するうえで、他の内ピンの位置や寸法のばらつきの影響を排除できる。このため、外歯歯車内に配置される全ての内ローラの軸方向移動を規制するうえで、複数の内ピンやローラ規制部材(スペーサローラ)に要求される位置や寸法の精度を緩和でき、製品コストの低減を図れる。
【0011】
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す。本明細書での「接触」や「接続」とは、特に明示がない限り、言及している条件を二者が直接的に満たす場合の他に、他の部材を介して満たす場合も含む。
【0012】
図1は、実施形態の偏心揺動型減速装置10の側面断面図である。減速装置10は、主に、入力軸12と、クランク軸14と、外歯歯車16、18と、内歯歯車20と、キャリヤ22、24と、ケーシング26と、を備える。
【0013】
減速装置10は、外歯歯車16、18の揺動により外歯歯車16、18及び内歯歯車20の一方の自転を生じさせ、その生じた自転成分を出力部材46から被駆動装置に出力可能である。以下、内歯歯車20の軸心CL1に沿った方向を「軸方向」といい、その軸心CL1を中心とする円の円周方向及び半径方向のそれぞれを「周方向」、「径方向」とする。
【0014】
入力軸12は、駆動装置(不図示)から入力される回転動力によって回転可能である。駆動装置は、たとえば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。駆動装置は、入力軸12より軸方向の片側(
図1の右側。以下、入力側という)に配置される。以下、軸方向の片側とは反対側を反入力側という。
【0015】
クランク軸14は、入力軸12に入力される回転動力によって、自らを通る回転中心線CL2周りに回転可能である。本実施形態のクランク軸14は入力軸12が兼ねている。本実施形態の減速装置10は、クランク軸14の回転中心線CL2が内歯歯車20の軸心CL1と同軸線上に設けられるセンタークランクタイプである。
【0016】
クランク軸14は、軸方向に沿って延びる軸部28と、軸部28と一体的に回転可能に設けられる偏心体30と、を備える。偏心体30は、クランク軸14の回転中心線CL2に対して自らの軸心CL3が偏心しており、外歯歯車16、18を揺動させることが可能である。本実施形態の偏心体30は、クランク軸14の軸部28と別体に構成されるが、その軸部28と同じ部材の一部として構成されてもよい。本実施形態のクランク軸14は複数の偏心体30を備え、複数の偏心体30の偏心方向の位相はずれている。本実施形態では2個の偏心体30が設けられ、隣り合う偏心体30の位相は180°ずれている。
【0017】
外歯歯車16、18は、複数の偏心体30に個別に対応して設けられる。外歯歯車16、18は、偏心軸受32を介して対応する偏心体30に回転自在に支持される。外歯歯車16、18は、入力側に配置される第1外歯歯車16と、反入力側に配置される第2外歯歯車18とを含む。
【0018】
図2は、
図1のA-A断面の一部を示す図である。
図1、
図2に示すように、内歯歯車20は、複数の外歯歯車16、18の径方向外側に設けられ、外歯歯車16、18と噛み合う。内歯歯車20は、筒状の内歯歯車本体34と、内歯歯車本体34の内周部に設けられる内歯36と、を備える。内歯歯車20の内歯数(内歯36の数)は、本実施形態において、外歯歯車16、18の外歯数より一つ多い。
【0019】
本実施形態の内歯歯車本体34の内周部には複数のピン溝38が設けられる。本実施形態の内歯36は複数のピン溝38に個別に対応して設けられ、その対応するピン溝38に回転自在に支持される外ピン40が構成する。外ピン40の径方向内側には環状の脱落防止部材42が配置され、外ピン40は脱落防止部材42との接触によってピン溝38からの脱落が防止される。
【0020】
キャリヤ22、24は、外歯歯車16、18の反入力側に配置される反入力側キャリヤ22(第1キャリヤ)と、外歯歯車16、18の入力側に配置される入力側キャリヤ24(第2キャリヤ)とを含む。キャリヤ22、24は円盤状をなし、入力軸軸受44を介して入力軸12を回転自在に支持する。
【0021】
ケーシング26は、全体として筒状をなし、その内側には外歯歯車16、18が配置される。本実施形態のケーシング26は内歯歯車本体34を兼ねており、内歯歯車本体34と一体化される。
【0022】
被駆動装置に回転動力を出力する部材を出力部材46とし、減速装置10を支持するための外部部材に固定される部材を被固定部材48という。本実施形態の出力部材46は反入力側キャリヤ22であり、被固定部材48はケーシング26である。出力部材46は、被固定部材48に主軸受50を介して回転自在に支持される。主軸受50は、キャリヤ22、24とケーシング26の間に配置される。
【0023】
減速装置10は、潤滑剤(本図では不図示)が封入される封入空間52を形成するシール部材54を備える。本実施形態のシール部材54は、ケーシング26と反入力側キャリヤ22の間に配置される第1オイルシール54と、ケーシング26と入力軸12の間に配置される第2オイルシール(不図示)とが含まれる。封入空間52には、複数の外歯歯車16、18や内歯歯車20が構成する減速機構が収納される。潤滑剤は、たとえば、グリース、潤滑油等である。
【0024】
以上の減速装置10の動作を説明する。駆動装置から入力軸12に回転動力が伝達されると、クランク軸14が回転中心線CL2周りに回転し、その偏心体30により外歯歯車16、18が揺動する。このとき、外歯歯車16、18は、自らの軸心CL3が回転中心線CL2周りを回転するように揺動する。外歯歯車16、18が揺動すると、外歯歯車16、18と内歯歯車20の噛合位置が順次に周方向にずれる。この結果、クランク軸14が一回転する毎に、外歯歯車16、18と内歯歯車20との歯数差に相当する分、外歯歯車16、18及び内歯歯車20の一方の自転が発生する。
【0025】
本実施形態のように、反入力側キャリヤ22が出力部材46となり、ケーシング26が被固定部材48となる場合、外歯歯車16、18の自転が発生する。一方、ケーシング26が出力部材46となり、キャリヤ22、24が被固定部材48となる場合、内歯歯車20の自転が発生する。出力部材46は、外歯歯車16、18又は内歯歯車20の自転成分と同期して回転することで、その自転成分を被駆動装置に出力する。このとき、入力軸12の回転は、外歯歯車16、18と内歯歯車20の歯数差に応じた減速比で減速されたうえで被駆動装置に出力される。
【0026】
図3は、
図1の拡大図である。
図2、
図3に示すように、減速装置10は、反入力側キャリヤ22に支持される複数の内ピン60を備える。本実施形態の複数の内ピン60は入力側キャリヤ24にも支持される。本実施形態の内ピン60は、キャリヤ22、24に形成されるピン穴に圧入されることでキャリヤ22、24に支持される。内ピン60は各キャリヤ22、24とは別部材が構成しているが、いずれかのキャリヤ22、24の一部と同じ部材が構成していてもよい。
【0027】
複数の内ピン60は、内歯歯車20の軸心CL1から径方向にオフセットした位置において、周方向に間隔を空けて設けられる。第1外歯歯車16には複数の内ピン60に個別に対応する複数の第1挿通孔62が形成され、複数の第1挿通孔62のそれぞれには対応する内ピン60が挿通される。第2外歯歯車18には複数の内ピン60に個別に対応する複数の第2挿通孔64が形成され、複数の第2挿通孔64のそれぞれには対応する内ピン60が挿通される。
【0028】
本実施形態のように反入力側キャリヤ22が出力部材46となる場合、内ピン60は、各外歯歯車16、18の自転成分を各内ローラ66、68(後述する)を介して受けて反入力側キャリヤ22に伝達する。一方、キャリヤ22、24が被固定部材48となる場合、内ピン60は、各外歯歯車16、18の自転成分を各内ローラ66、68を介して受けて、その外歯歯車16、18の自転を拘束する。
【0029】
減速装置10は、複数の内ピン60のそれぞれに外嵌される内ローラ66、68を備える。内ローラ66、68は、内ピン60とは別部材であり、内ピン60に回転自在に外嵌される。本実施形態の内ローラ66、68は、円筒状の断面形状をなす。
【0030】
複数の内ローラ66、68には、第1外歯歯車16の各第1挿通孔62の内側に配置される複数の第1内ローラ66と、第2外歯歯車18の各第2挿通孔64の内側に配置される複数の第2内ローラ68とが含まれる。内ローラ66、68は、外歯歯車16、18の挿通孔62、64と内ピン60の双方に転がり接触する。これにより、外歯歯車16、18の挿通孔62、64と内ピン60とが直接に転がり接触するより摩擦抵抗を軽減できる。
【0031】
複数の外歯歯車16、18の挿通孔62、64には共通の内ローラ66、68が挿通されるのではなく、個別の内ローラ66、68が挿通される。つまり、第1内ローラ66と第2内ローラ68は別部材である。これにより、一つの外歯歯車16、18の動きに追従して内ローラ66、68が内ピン60周りに自転したとき、その内ローラ66、68が他の外歯歯車16、18との間で摺動する事態を避けられる。
【0032】
減速装置10は、複数の内ピン60のそれぞれに外嵌される複数のスペーサローラ70を備える。本実施形態のスペーサローラ70は、第1内ローラ66と第2内ローラ68の間に配置される。1つの内ピン60に外嵌される第1内ローラ66、スペーサローラ70及び第2内ローラ68は、その内ピン60を中心として同心上に配置される。スペーサローラ70は、内ピン60とは別部材であり、内ピン60に回転自在に外嵌される。本実施形態のスペーサローラ70は、円筒状の断面形状をなす。
【0033】
スペーサローラ70は、第1内ローラ66及び第2内ローラ68と接触することで、その軸方向移動を規制するローラ規制部材となる。本実施形態の第1内ローラ66や第2内ローラ68は、スペーサローラ70とは軸方向で反対側に配置される他部材(キャリヤ22、24)とも接触することで、その軸方向移動が規制される。これにより、第1内ローラ66や第2内ローラ68は、外歯歯車16、18の挿通孔62、64内に保持される。
【0034】
図1、
図2を参照する。本実施形態において、複数の第1挿通孔62の外接円Caの半径Ra1と複数の第2挿通孔64の外接円Cbの半径Ra2は実質的に同じとなるように設定される。この外接円Ca、Cbとは、軸方向に直交する断面において、言及している複数の挿通孔(複数の挿通孔62または複数の挿通孔64)が形成される外歯歯車16、18の軸心CL3を中心とし、その複数の挿通孔のいずれかに外接する円のなかで最大径となる円をいう。ここでは、複数の挿通孔64の全てに外接する外接円Cbを示すが、ここで説明した条件を満たすのであれば、複数の挿通孔64の何れか一つ以上に外接していればよい。本例では、
図2で外接円Cbのみ示し、外接円Caは省略する。
図2では、この外接円Cbが脱落防止部材42の内周面と重なる例を示す。本明細書での「実質的」とは、言及している条件を厳密に満たす場合に限らず、寸法公差や製造誤差等の誤差の分だけ位置がずれる場合も含まれる。
【0035】
内歯歯車20の軸心CL1から複数の第1挿通孔62の外接円Caまでの最大距離をRmax(Ca)といい、その軸心CL1から複数の第2挿通孔64の外接円Cbまでの最大距離をRmax(Cb)という。内歯歯車20の軸心CL1から外接円Ca、Cbまでの距離は、複数の挿通孔62、64が形成される外歯歯車16、18の最大偏心方向Pbで最大となる。この最大偏心方向Pbは、内歯歯車20の軸心CL1から偏心している複数の外歯歯車16、18に関して、内歯歯車20の軸心CL1から複数の外歯歯車16、18の軸心CL3に延びる方向をいう。つまり、この最大距離Rmax(Ca)、Rmax(Cb)は、この内歯歯車20の軸心CL1から外接円Ca、Cbまでの最大偏心方向Pbでの距離となる。
【0036】
複数のスペーサローラ70の外接円Ccの半径Ra3は、前述の最大距離Rmax(Ca)及びRmax(Cb)の少なくとも一方より小さくなるように設定される。この外接円Ccとは、軸方向に直交する断面において、内歯歯車20の軸心CL1を中心とし、複数のスペーサローラ70のいずれかに外接する円のなかで最大径となる円をいう。ここでは、複数のスペーサローラ70の全てに外接する外接円Ccを示すが、ここで説明した条件を満たすのであれば、複数のスペーサローラ70の何れか一つ以上に外接していればよい。この条件を満たすことで、スペーサローラ70の外接円Ccの径方向外側において、複数の第1挿通孔62及び複数の第2挿通孔64の一方の一部は、軸方向においてスペーサローラ70がある側に開放する。本実施形態の外接円Ccの半径Ra3は、これら最大距離Rmax(Ca)及びRmax(Cb)の両方より小さくなるように設定される。
【0037】
本実施形態のスペーサローラ70は、軸方向から見て、第1外歯歯車16の第1挿通孔62内に収まるように配置される。また、スペーサローラ70は、軸方向から見て、第2外歯歯車18の第2挿通孔64内に収まるように配置される。
【0038】
図3を参照する。本実施形態において、第1内ローラ66の外径Rb1と第2内ローラ68の外径Rb2は実質的に同じとなるように設定される。また、本実施形態において、第1内ローラ66の内径Rc1と第2内ローラ68の内径Rc2は実質的に同じとなるように設定される。スペーサローラ70の外径Rb3は、第1内ローラ66及び第2内ローラ68の外径Rb1、Rb2と実質的に同じとなるように設定される。また、スペーサローラ70の内径Rc3は、第1内ローラ66及び第2内ローラ68の内径Rc1、Rc2と実質的に同じとなるように設定される。
【0039】
以上の減速装置10の効果を説明する。本実施形態では、複数の内ピン60に個別に外嵌される複数のスペーサローラ70をローラ規制部材として用いている。よって、前述の通り、減速装置の構成部品(複数の内ピン60やスペーサローラ70)に要求される精度を緩和できる。
【0040】
また、特許文献1の構造のもとでは、単数(1つ)のローラ規制部材の径方向内側の内側空間と、その径方向外側の外側空間がローラ規制部材により仕切られてしまう。よって、その内側空間と外側空間の間で潤滑剤が行き来し難くなる。
【0041】
この点、本実施形態によれば、複数の内ピン60に個別に外嵌される複数のスペーサローラ70をローラ規制部材として用いている。よって、周方向に隣り合うスペーサローラ70の間を通じて、スペーサローラ70の径方向内側の内側空間72と、その径方向外側の外側空間74とを連通させることができる。このため、内側空間72と外側空間74の間で潤滑剤を行き来させることができ、潤滑剤を広範囲に行き届かせ易くなる。
【0042】
本実施形態のように、外歯歯車16、18の自転成分を内ピン60が受けて反入力側キャリヤ22が自転する場合、外歯歯車16、18の自転に追従して内ピン60が内歯歯車20の軸心CL1周りに公転する。特許文献1の構造のもとでは、内ピン60と一体的に単数のローラ規制部材が公転でき得ない。よって、内ピン60とともに内ローラ66、68が公転したとき、内ローラ66、68の公転に起因して内ローラ66、68とローラ規制部材の間で摺動が生じてしまう。
【0043】
この点、本実施形態によれば、複数の内ピン60に個別にスペーサローラ70が外嵌される。よって、内ピン60と一体的にスペーサローラ70(ローラ規制部材)が公転できる。内ピン60とともに内ローラ66、68の他にスペーサローラ70も公転する。換言すれば、内ローラ66、68とスペーサローラ70がほぼ同様の動きができる。よって、内ローラ66、68の公転に起因する内ローラ66、68とスペーサローラ70(ローラ規制部材)の間での摺動が生じ難くなり、伝達効率の低下を避けられる。
【0044】
スペーサローラ70の外径Rb3は、第1内ローラ66や第2内ローラ68の外径Rb1、Rb2と実質的に同じである。この利点を説明する。
【0045】
内ピン60が公転するとき、スペーサローラ70は慣性の影響を受けて内ピン60周りに自転しようとする。このとき、スペーサローラ70は、内ピン60の低速の公転速度に近い速度で自転しようとする。一方、内ローラ66、68は、外歯歯車16、18の挿通孔62、64に転がり接触することで内ピン60周りに自転する。このとき、内ローラ66、68は、クランク軸14の高速の回転速度に近い速度で自転する。
【0046】
このように低速で自転しようとするスペーサローラ70は、高速で自転する内ローラ66、68に接触したとき、その内ローラ66、68の自転速度に近づこうとする。このとき、スペーサローラ70の慣性モーメントが大きくなるほど、内ローラ66、68の自転速度にスペーサローラ70が近づき難くなり、内ローラ66、68とスペーサローラ70の間で周速差が生じ易くなる。
【0047】
(A)ここで、本実施形態によれば、スペーサローラ70の外径Rb3が内ローラ66、68の外径Rb1、Rb2と実質的に同じである。よって、スペーサローラ70の外径Rb3を内ローラ66、68の外径Rb1、Rb2より大きくする場合と比べ、スペーサローラ70の慣性モーメントを小さくできる。これに伴い、内ローラ66、68とスペーサローラ70の間で周速差が生じ難くなり、それらの摺動を抑え易くなる。
【0048】
本実施形態の減速装置10の他の特徴を説明する。
【0049】
本実施形態の第1内ローラ66と第2内ローラ68は同じ素材により構成される。スペーサローラ70は、各内ローラ66、68とヤング率が異なる素材により構成される。本実施形態のスペーサローラ70は、各内ローラ66、68よりヤング率が小さい素材により構成される。
【0050】
詳しくは、各内ローラ66、68は金属系素材を用いて構成される。スペーサローラ70は、第1内ローラ66等を構成する金属系素材よりヤング率が小さい樹脂系素材を用いて構成される。このような素材を用いた場合、スペーサローラ70のヤング率は、たとえば、第1内ローラ66や第2内ローラ68のヤング率の0.1倍以下となる。金属系素材には、たとえば、鋳鉄、鋼を含む鉄系素材、アルミニウム合金を含むアルミニウム系素材が含まれる。樹脂系素材には、エンジニアリングプラスチック等の他、炭素繊維強化樹脂、硝子繊維強化樹脂等の複合材料が含まれる。
【0051】
この効果を説明する。
図4は、内ローラ66、68とスペーサローラ70を模式的に示す図である。本図では内ピン60の中心軸線CL4を示す。
図4(a)は未変形状態にある内ピン60を示し、
図4(b)は撓み変形状態にある内ピン60を示す。
【0052】
反入力側キャリヤ22(第1キャリヤ)にはラジアル荷重が付与されることがある。本実施形態では入力側キャリヤ24(第2キャリヤ)にも同様にラジアル荷重が付与される場合がある。この場合、キャリヤ22、24から内ピン60にラジアル荷重が伝達され、内ピン60が撓み変形しようとする(
図4(b)参照)。
【0053】
(B)このとき、本実施形態によれば、スペーサローラ70と内ローラ66、68のヤング率を同じにする場合と比べ、内ピン60の撓み変形に追従して、ヤング率の小さいローラの一部が変形し易くなる。本実施形態では、内ピン60の撓み変形に追従して、内ピン60の曲げ内側に位置するスペーサローラ70の一部70aが軸方向に圧縮変形し易くなる。これに伴い、内ローラ66、68とスペーサローラ70の間に隙間76を形成できる。よって、その隙間76を通して内ローラ66、68と内ピン60の間や、スペーサローラ70と内ピン60の間に潤滑剤を入り込ませることができる(矢印Pa参照)。よって、これらの接触箇所での潤滑性の向上により、これらの寿命の向上を図れる。
【0054】
図5は、減速装置10の他の側面断面図(軸方向断面図)である。本図では、
図1~
図3とは外歯歯車16、18の回転位相が異なる断面を示す。減速装置10は、
図2、
図5に示すように、入力側キャリヤ24と反入力側キャリヤ22を連結する複数(本実施形態では3本)のキャリヤピン80を備える。本実施形態のキャリヤピン80は、キャリヤ22、24に形成される第2ピン穴に圧入されることでキャリヤ22、24に一体化される。キャリヤピン80は各キャリヤ22、24とは別部材が構成しているが、いずれかのキャリヤ22、24の一部と同じ部材が構成していてもよい。
【0055】
複数のキャリヤピン80は、内歯歯車20の軸心CL1から径方向にオフセットした位置において、周方向に間隔を空けて設けられる。第1外歯歯車16には複数のキャリヤピン80に個別に対応する複数の第1貫通孔82が形成され、その第1貫通孔82には対応するキャリヤピン80が挿通される。第2外歯歯車18には複数のキャリヤピン80に個別に対応する複数の第2貫通孔84が形成され、その第2貫通孔84には対応するキャリヤピン80が挿通される。このようなキャリヤピン80は、内ピン60とは異なり、各外歯歯車16、18の自転成分を受ける役割を持たない。つまり、キャリヤピン80は、貫通孔82、84の内周面と接触しない。
【0056】
減速装置10は、キャリヤピン80に外嵌される単一のスペーサ部材86を備える。単一のスペーサ部材86は、複数のキャリヤピン80に個別に対応して設けられる。一つのキャリヤピン80につき一つのスペーサ部材86が設けられることになる。スペーサ部材86は、反入力側キャリヤ22や入力側キャリヤ24と接触することで、反入力側キャリヤ22と入力側キャリヤ24との間を距離を保持する役割を持つ。これにより、一つのキャリヤピン80に複数のスペーサ部材86を外嵌する場合と比べて部品点数を削減でき、製品コストの低減を図れる。
【0057】
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。次に、各構成要素の変形例を説明する。
【0058】
実施形態の偏心揺動型減速装置は、センタークランクタイプを例に説明したが、その種類は特に限定されない。たとえば、内歯歯車20の軸心CL1からオフセットした位置に複数のクランク軸14が配置される振り分けタイプの偏心揺動型減速装置に適用されてもよい。
【0059】
出力部材46はケーシング26であり、被固定部材48はキャリヤ22、24でもよい。
【0060】
第1外歯歯車16は反入力側に配置され、第2外歯歯車18は入力側に配置されてもよい。減速装置10は、第1外歯歯車16、第2外歯歯車18とは異なる一つ以上の外歯歯車を備えてもよい。減速装置10は、第1外歯歯車16のみを備えることとし、第2外歯歯車18を備えていなくともよい。
【0061】
第1キャリヤは反入力側キャリヤ22であり、第2キャリヤは入力側キャリヤ24である例を説明した。第1キャリヤは入力側キャリヤ24であり、第2キャリヤは反入力側キャリヤ22でもよい。いずれの捉え方をした場合でも、減速装置10は第1キャリヤのみを備え、第2キャリヤを備えなくともよい。
【0062】
複数のスペーサローラ70の外接円Ccの半径Ra3は、前述の最大距離Rmax(Ca)及びRmax(Cb)の一方又は両方と同じに設定されてもよい。また、スペーサローラ70の外接円Ccの半径Ra3は、これら最大距離Rmax(Ca)及びRmax(Cb)一方又は両方より大きく設定されてもよい。
【0063】
前述の(A)の効果を得るうえで、スペーサローラ70の外径Rb3は、第1内ローラ66の外径Rb1と実質的に同じであればよく、第2内ローラ68の外径Rb2との関係は問わない。これは、第1内ローラ66と第2内ローラ68の外径Rb1、Rb2が異なる場合を想定している。また、前述の(A)の効果を得るうえで、スペーサローラ70の外径Rb3は、第1内ローラ66の外径Rb1より小さくなるように設定されていてもよい。
【0064】
スペーサローラ70の外径Rb3は、第1内ローラ66や第2内ローラ68の外径Rb1、Rb2より大きくなるように設定されていてもよい。
【0065】
前述の(B)の効果を得るうえで、スペーサローラ70は、第1内ローラ66のヤング率と異なっていればよく、第2内ローラ68のヤング率との関係は問わない。これは、第1内ローラ66と第2内ローラ68のヤング率が異なる場合を想定している。また、前述の(B)の効果を得るうえで、スペーサローラ70は、第1内ローラ66よりヤング率が大きい素材により構成されてもよい。
【0066】
共通のキャリヤピン80には複数のスペーサ部材86が外嵌されていてもよい。
【0067】
以上、本発明の実施形態や変形例について詳細に説明した。前述した実施形態や変形例は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態や変形例の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【符号の説明】
【0068】
10…偏心揺動型減速装置、16…第1外歯歯車、18…第2外歯歯車、20…内歯歯車、22…反入力側キャリヤ(第1キャリヤ)、24…入力側キャリヤ(第2キャリヤ)、60…内ピン、62…第1挿通孔、64…第2挿通孔、66…第1内ローラ、68…第2内ローラ、70…スペーサローラ、80…キャリヤピン、86…スペーサ部材。