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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】鉄道車両用制振装置
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/24 20060101AFI20221214BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
B61F5/24 F
F16F15/02 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018206449
(22)【出願日】2018-11-01
(65)【公開番号】P2019167079
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2018053982
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】小林 将之
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-026038(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137294(WO,A1)
【文献】特開2006-281963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/00
F16F 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車体と台車との間に介装されるアクチュエータと、
前記アクチュエータを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記鉄道車両の特定周波数帯の振動が所定振動以上となると前記アクチュエータの推力を小さくするように前記アクチュエータを制御する制御パラメータを変更する
ことを特徴とする鉄道車両用制振装置。
【請求項2】
前記特定周波数帯は、前記台車の共振周波数帯である
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項3】
前記特定周波数帯は、前記車体自体の弾性振動における共振周波数帯である
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記制御パラメータを所定回数変更しても前記特定周波数の振動が前記所定振動以上となる場合、前記アクチュエータを異常と判断する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項5】
前記アクチュエータは、パッシブダンパとして機能するパッシブダンパモードを有し、
前記制御部は、前記制御パラメータを所定回数変更しても前記特定周波数帯の振動が前記所定振動以上となる場合、前記アクチュエータをパッシブダンパとして機能させる
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記アクチュエータをパッシブダンパとして機能させても前記特定周波数の振動が前記所定振動以上となる場合、前記台車を異常と判断する
ことを特徴とする請求項5に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記特定周波数の振動が所定振動以上となった回数を記憶し、前記回数によって前記アクチュエータをアクチュエータとして機能させるかパッシブダンパとして機能させるかを判断する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の鉄道車両用制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両には、車体と台車との間に介装された複動型のアクチュエータと、アクチュエータを制御する制御部を備えて、車体の進行方向に対して左右方向の振動を抑制する鉄道車両用制振装置が設けられる場合がある。
【0003】
このような鉄道車両用制振装置は、鉄道車両の車体のスエー加速度とヨー加速度を検知して、加速度フィードバックによりアクチュエータを制御し、車体の左右動を抑制する(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-1304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の鉄道車両用制振装置では、アクチュエータが正常且つ設計仕様通りに機能する場合、狙い通りの制振効果が得られる。しかしながら、アクチュエータの経年劣化やアクチュエータに設けられたバルブの初期設定不良、或いはアクチュエータ内の作動液体の温度が極低温となる等の理由によって、アクチュエータの推力が過剰となり、狙った制振効果が得られない可能性もある。このように、狙った制振効果が得られない場合、鉄道車両における乗心地が悪化してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、アクチュエータの経年劣化や初期設定不良或いは作動液体の温度変化があっても鉄道車両における乗心地を向上できる鉄道車両用制振装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鉄道車両用制振装置は、鉄道車両の車体と台車との間に介装されるアクチュエータと、アクチュエータを制御する制御部とを備え、制御部が鉄道車両の特定周波数帯の振動が所定振動以上となるとアクチュエータの推力を小さくするようにアクチュエータを制御する制御パラメータを変更する。
【0008】
よって、鉄道車両用制振装置は、鉄道車両の特定周波数帯の振動が所定振動以上となるとアクチュエータの推力を小さくするようにアクチュエータを制御する制御パラメータを変更するので、アクチュエータの経年劣化や初期設定不良或いは作動油の温度変化があってもアクチュエータの推力を低下させて特定周波数帯の振動の励起を抑制できる。
【0009】
また、鉄道車両用制振装置は、特定周波数帯を台車の振動の共振周波数帯として、制御部が台車の振動が所定振動以上となるとアクチュエータの推力を小さくするようにアクチュエータを制御する制御パラメータを変更してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置は、アクチュエータの経年劣化や初期設定不良或いは作動油の温度変化があってもアクチュエータの推力を低下させて台車の振動の励起を抑制できる。
【0010】
さらに、鉄道車両用制振装置は、特定周波数帯を車体自体の弾性振動の共振周波数帯として、制御部が車体自体の弾性振動が所定振動以上となるとアクチュエータの推力を小さくするようにアクチュエータを制御する制御パラメータを変更してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置によれば、アクチュエータの経年劣化や初期設定不良或いは作動油の温度変化があってもアクチュエータの推力を低下させて車体自体の弾性振動の励起を抑制できる。
【0011】
また、鉄道車両用制振装置は、制御部が制御パラメータを所定回数変更しても鉄道車両における特定周波数帯の振動が所定振動以上となる場合、アクチュエータを異常と判断してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置によれば、アクチュエータを制御するための制御パラメータを変更しても鉄道車両における特定周波数帯の振動状態が改善されない場合には、アクチュエータに何らかの異常があると判断するので、アクチュエータの異常を正確に判断できる。
【0012】
さらに、鉄道車両用制振装置は、アクチュエータがパッシブダンパとして機能するパッシブダンパモードを有し、制御部が制御パラメータを所定回数変更しても鉄道車両における特定周波数帯が所定振動以上となる場合アクチュエータをパッシブダンパとして機能させてもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置によれば、アクチュエータが異常と判断されるとアクチュエータをパッシブダンパとして機能させるので、鉄道車両における特定周波数帯の振動を確実に抑制できる。
【0013】
また、鉄道車両用制振装置は、アクチュエータをパッシブダンパとして機能させても鉄道車両における特定周波数帯の振動が所定振動以上となる場合、台車を異常と判断してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置は、アクチュエータをパッシブダンパとすると鉄道車両における特定周波数帯の振動が小さくなる筈であるが、鉄道車両における特定周波数帯の振動が小さくならないことから台車の異常を判断できる。
【0014】
さらに、鉄道車両用制振装置は、制御部が鉄道車両における特定周波数帯の振動が所定振動以上となった回数を記憶し、前記回数によってアクチュエータをアクチュエータとして機能させるかパッシブダンパとして機能させるかを判断してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置によれば、アクチュエータに異常が認められる場合に、再起動した際にアクチュエータを正常であると誤認してアクチュエータとして機能させて鉄道車両における特定周波数帯の振動を励起してしまうのを回避できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の鉄道車両用制振装置によれば、アクチュエータの経年劣化や初期設定不良或いは作動液体の温度変化があっても鉄道車両における乗心地を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】鉄道車両用制振装置を搭載した鉄道車両の平面図である。
図2】アクチュエータの詳細図である。
図3】鉄道車両用制振装置における制御部の制御ブロック図である。
図4】鉄道車両用制振装置における制御部の制御演算部の制御ブロック図である。
図5】制御演算部におけるヨー抑制力演算部の制御ブロック図である。
図6】制御演算部におけるにおけるスエー抑制力演算部の制御ブロック図である。
図7】制御演算部における制御力演算部の制御ブロック図である。
図8】鉄道車両用制振装置における制御部の異常診断部の制御ブロック図である。
図9】鉄道車両用制振装置における制御部のアクチュエータの異常診断と制御パラメータの変更の処理のフローチャートの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における鉄道車両用制振装置1は、本例では、鉄道車両の車体Bの制振装置として使用され、図1に示すように、車両前後の台車T1,T2と車体Bとの間にそれぞれ設置されたアクチュエータA1,A2と、制御部Cとを備えて構成されている。そして、本例の鉄道車両用制振装置1は、鉄道車両の前後にそれぞれ設置されるアクチュエータA1,A2が発揮する推力で車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の振動を抑制するようになっている。
【0018】
アクチュエータA1,A2は、本例では図2に示すように、車体Bに連結されるシリンダ2と、シリンダ2内に摺動自在に挿入されるピストン3と、シリンダ2内に挿入されてピストン3と鉄道車両の台車T1,T2とに連結されるロッド4と、シリンダ2内にピストン3で区画したロッド側室5とピストン側室6とを備えるシリンダ本体Cyに加え、作動油を貯留するタンク7と、タンク7から作動油を吸い上げてロッド側室5へ作動油を供給するポンプ12と、ポンプ12を駆動するモータ15と、シリンダ本体Cyの伸縮の切換と推力を制御するための流体圧回路HCとを備えており、片ロッド型のアクチュエータとして構成されている。
【0019】
また、前記ロッド側室5とピストン側室6には、本例では、作動液体として作動油が充填されるとともに、タンク7には、作動油の他に気体が充填されている。なお、タンク7内は、特に、気体を圧縮して充填して加圧状態とする必要は無い。また、作動液体は、作動油以外にも他の液体を利用してもよい。
【0020】
流体圧回路HCは、ロッド側室5とピストン側室6とを連通する第一通路8の途中に設けた第一開閉弁9と、ピストン側室6とタンク7とを連通する第二通路10の途中に設けた第二開閉弁11とを備えている。
【0021】
そして、基本的には、第一開閉弁9で第一通路8を連通状態とし、第二開閉弁11を閉じてポンプ12を駆動すると、シリンダ本体Cyが伸長し、第二開閉弁11で第二通路10を連通状態とし、第一開閉弁9を閉じてポンプ12を駆動すると、シリンダ本体Cyが収縮する。
【0022】
以下、アクチュエータA1,A2の各部について詳細に説明する。シリンダ2は筒状であって、その図2中右端は蓋13によって閉塞され、図2中左端には環状のロッドガイド14が取り付けられている。また、前記ロッドガイド14内には、シリンダ2内に移動自在に挿入されるロッド4が摺動自在に挿入されている。このロッド4は、一端をシリンダ2外へ突出させており、シリンダ2内の他端をシリンダ2内に摺動自在に挿入されるピストン3に連結している。
【0023】
なお、ロッドガイド14の外周とシリンダ2との間は図示を省略したシール部材によってシールされており、これによりシリンダ2内は密閉状態に維持されている。そして、シリンダ2内にピストン3によって区画されるロッド側室5とピストン側室6には、前述のように作動油が充填されている。
【0024】
また、このシリンダ本体Cyの場合、ロッド4の断面積をピストン3の断面積の二分の一にして、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積がピストン側室6側の受圧面積の二分の一となるようになっている。よって、伸長作動時と収縮作動時とでロッド側室5の圧力を同じすると、伸縮の双方で発生される推力が等しくなり、シリンダ本体Cyの変位量に対する作動油量も伸縮両側で同じとなる。
【0025】
詳しくは、シリンダ本体Cyを伸長作動させる場合、ロッド側室5とピストン側室6を連通させた状態とする。すると、ロッド側室5内とピストン側室6内の圧力が等しくなり、アクチュエータA1,A2は、ピストン3におけるロッド側室5側とピストン側室6側の受圧面積差に前記圧力を乗じた推力を発生する。反対に、シリンダ本体Cyを収縮作動させる場合、ロッド側室5とピストン側室6との連通を断ちピストン側室6をタンク7に連通させた状態とする。すると、アクチュエータA1,A2は、ロッド側室5内の圧力とピストン3におけるロッド側室5側の受圧面積を乗じた推力を発生する。
【0026】
要するに、アクチュエータA1,A2の発生推力は伸縮の双方でピストン3の断面積の二分の一にロッド側室5の圧力を乗じた値となるのである。したがって、このアクチュエータA1,A2の推力を制御する場合、伸長作動、収縮作動共に、ロッド側室5の圧力を制御すればよい。また、本例のアクチュエータA1,A2では、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積をピストン側室6側の受圧面積の二分の一に設定しているので、伸縮両側で同じ推力を発生する場合に伸長側と収縮側でロッド側室5の圧力が同じとなるので制御が簡素となる。加えて、変位量に対する作動油量も同じとなるので伸縮両側で応答性が同じとなる利点がある。なお、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積をピストン側室6側の受圧面積の二分の一に設定しない場合にあっても、ロッド側室5の圧力でアクチュエータA1,A2の伸縮両側の推力を制御できる点は変わらない。
【0027】
戻って、ロッド4の図2中左端とシリンダ2の右端を閉塞する蓋13とには、図示しない取付部を備えており、このアクチュエータA1,A2を鉄道車両における台車T1,T2と車体Bとの間に介装できるようになっている。
【0028】
そして、ロッド側室5とピストン側室6とは、第一通路8によって連通されており、この第一通路8の途中には、第一開閉弁9が設けられている。この第一通路8は、シリンダ2外でロッド側室5とピストン側室6とを連通しているが、ピストン3に設けられてもよい。
【0029】
第一開閉弁9は、電磁開閉弁とされており、第一通路8を開放してロッド側室5とピストン側室6とを連通する連通ポジションと、第一通路8を遮断してロッド側室5とピストン側室6との連通を断つ遮断ポジションとを備えている。そして、この第一開閉弁9は、通電時に連通ポジションを採り、非通電時に遮断ポジションを採るようになっている。
【0030】
つづいて、ピストン側室6とタンク7とは、第二通路10によって連通されており、この第二通路10の途中には、第二開閉弁11が設けられている。第二開閉弁11は、電磁開閉弁とされており、第二通路10を開放してピストン側室6とタンク7とを連通する連通ポジションと、第二通路10を遮断してピストン側室6とタンク7との連通を断つ遮断ポジションとを備えている。そして、この第二開閉弁11は、通電時に連通ポジションを採り、非通電時に遮断ポジションを採るようになっている。
【0031】
ポンプ12は、モータ15によって駆動され、一方向のみに作動油を吐出するポンプとされている。そして、ポンプ12の吐出口は供給通路16によってロッド側室5へ連通されるとともに吸込口はタンク7に通じていて、ポンプ12は、モータ15によって駆動されるとタンク7から作動油を吸い上げてロッド側室5へ作動油を供給する。
【0032】
前述のようにポンプ12は、一方向のみに作動油を吐出するのみで回転方向の切換動作がないので、回転切換時に吐出量が変化するといった問題は皆無であり、安価なギアポンプ等を使用できる。さらに、ポンプ12の回転方向が常に同一方向であるので、ポンプ12を駆動する駆動源であるモータ15にあっても回転切換に対する高い応答性が要求されず、その分、モータ15も安価なものを使用できる。なお、供給通路16の途中には、ロッド側室5からポンプ12への作動油の逆流を阻止する逆止弁17が設けられている。
【0033】
さらに、本例の流体圧回路HCは、前述の構成に加えて、ロッド側室5とタンク7とを接続する排出通路21と、排出通路21の途中に設けた開弁圧を変更可能な可変リリーフ弁22を備えている。
【0034】
可変リリーフ弁22は、本例では、比例電磁リリーフ弁とされており、供給する電流量に応じて開弁圧を調節でき、電流量を最大とすると開弁圧を最小とし、電流を供給しないと開弁圧を最大とするようになっている。
【0035】
このように、排出通路21と可変リリーフ弁22とを設けると、シリンダ本体Cyを伸縮作動させる際に、ロッド側室5内の圧力を可変リリーフ弁22の開弁圧に調節でき、アクチュエータA1,A2の推力を可変リリーフ弁22へ供給する電流量で制御できる。排出通路21と可変リリーフ弁22とを設けると、アクチュエータA1,A2の推力を調節するために必要なセンサ類が不要となり、ポンプ12の吐出流量の調節のためにモータ15を高度に制御する必要もなくなる。よって、鉄道車両用制振装置1が安価となり、ハードウェア的にもソフトウェア的にも堅牢なシステムを構築できる。
【0036】
なお、第一開閉弁9を連通ポジションとし第二開閉弁11を遮断ポジションとする場合或いは第一開閉弁9を遮断ポジションとし第二開閉弁11を連通ポジションとする場合、ポンプ12の駆動状況に関わらず、伸長或いは収縮のいずれか一方に対してのみアクチュエータA1,A2が減衰力を発揮できる。よって、たとえば、減衰力を発揮する方向が鉄道車両の台車T1,T2の振動により車体Bを加振する方向である場合、そのような方向には減衰力を出さないようにアクチュエータA1,A2を片効きのダンパとすることができる。よって、このアクチュエータA1,A2は、カルノップ理論に基づくセミアクティブ制御を容易に実現できるため、セミアクティブダンパとしても機能できる。
【0037】
なお、可変リリーフ弁22に与える電流量で開弁圧を比例的に変化させる比例電磁リリーフ弁を用いると開弁圧の制御が簡単となるが、可変リリーフ弁22は、開弁圧を調節できる可変リリーフ弁であれば比例電磁リリーフ弁に限定されない。
【0038】
そして、可変リリーフ弁22は、第一開閉弁9および第二開閉弁11の開閉状態に関わらず、シリンダ本体Cyに伸縮方向の過大な入力があって、ロッド側室5の圧力が開弁圧を超える状態となると、排出通路21を開放する。このように、可変リリーフ弁22は、ロッド側室5の圧力が開弁圧以上となると、ロッド側室5内の圧力をタンク7へ排出するので、シリンダ2内の圧力が過大となるのを防止してアクチュエータA1,A2のシステム全体を保護する。よって、排出通路21と可変リリーフ弁22を設けると、システムの保護も可能となる。
【0039】
さらに、本例のアクチュエータA1,A2における流体圧回路HCは、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する整流通路18と、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する吸込通路19を備えている。よって、本例のアクチュエータA1,A2では、第一開閉弁9および第二開閉弁11が閉弁する状態でシリンダ本体Cyが伸縮すると、シリンダ2内から作動油が押し出される。シリンダ2内から排出された作動油の流れに対して可変リリーフ弁22が抵抗を与えるので、第一開閉弁9および第二開閉弁11が閉弁する状態では、本例のアクチュエータA1,A2はユニフロー型のダンパとして機能する。
【0040】
より詳細には、整流通路18は、ピストン側室6とロッド側室5とを連通しており、途中に逆止弁18aが設けられ、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。さらに、吸込通路19は、タンク7とピストン側室6とを連通しており、途中に逆止弁19aが設けられ、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。なお、整流通路18は、第一開閉弁9の遮断ポジションを逆止弁とすると第一通路8に集約でき、吸込通路19についても、第二開閉弁11の遮断ポジションを逆止弁とすると第二通路10に集約できる。
【0041】
このように構成されたアクチュエータA1,A2では、第一開閉弁9と第二開閉弁11がともに遮断ポジションを採っても、整流通路18、吸込通路19および排出通路21で、ロッド側室5、ピストン側室6およびタンク7を数珠繋ぎに連通させる。また、整流通路18、吸込通路19および排出通路21は、一方通行の通路に設定されている。よって、シリンダ本体Cyが外力によって伸縮すると、シリンダ2から必ず作動油が排出されて排出通路21を介してタンク7へ戻され、シリンダ2で足りなくなる作動油は吸込通路19を介してタンク7からシリンダ2内へ供給される。この作動油の流れに対して前記可変リリーフ弁22が抵抗となってシリンダ2内の圧力を開弁圧に調節するので、アクチュエータA1,A2は、パッシブなユニフロー型のダンパとして機能する。
【0042】
また、アクチュエータA1,A2の各機器への通電が不能となるようなフェール時には、第一開閉弁9と第二開閉弁11のそれぞれが遮断ポジションを採り、可変リリーフ弁22は、開弁圧が最大に固定された圧力制御弁として機能する。よって、このようなフェール時には、アクチュエータA1,A2は、自動的に、パッシブダンパモードへ移行してパッシブダンパとして機能する。
【0043】
つづいて、アクチュエータA1,A2に所望の伸長方向の推力を発揮させる場合、制御部Cは、基本的には、モータ15を回転させてポンプ12からシリンダ2内へ作動油を供給しつつ、第一開閉弁9を連通ポジションとし、第二開閉弁11を遮断ポジションとする。このようにすると、ロッド側室5とピストン側室6とが連通状態におかれて両者にポンプ12から作動油が供給され、ピストン3が図2中左方へ押されアクチュエータA1,A2は伸長方向の推力を発揮する。ロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力が可変リリーフ弁22の開弁圧を上回ると、可変リリーフ弁22が開弁して作動油が排出通路21を介してタンク7へ排出される。よって、ロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力は、可変リリーフ弁22に与える電流量で決まる可変リリーフ弁22の開弁圧にコントロールされる。そして、アクチュエータA1,A2は、ピストン3におけるピストン側室6側とロッド側室5側の受圧面積差に可変リリーフ弁22によってコントロールされるロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力を乗じた値の伸長方向の推力を発揮する。
【0044】
これに対して、アクチュエータA1,A2に所望の収縮方向の推力を発揮させる場合、制御部Cは、モータ15を回転させてポンプ12からロッド側室5内へ作動油を供給しつつ、第一開閉弁9を遮断ポジションとし、第二開閉弁11を連通ポジションとする。このようにすると、ピストン側室6とタンク7が連通状態におかれるとともにロッド側室5にポンプ12から作動油が供給されるので、ピストン3が図2中右方へ押されアクチュエータA1,A2は収縮方向の推力を発揮する。そして、前述と同様に、可変リリーフ弁22の電流量を調節すると、アクチュエータA1,A2は、ピストン3におけるロッド側室5側の受圧面積と可変リリーフ弁22にコントロールされるロッド側室5内の圧力を乗じた収縮方向の推力を発揮する。
【0045】
また、アクチュエータA1,A2にあっては、アクチュエータとして機能するのみならず、モータ15の駆動状況に関わらず、第一開閉弁9と第二開閉弁11の開閉のみでダンパとしても機能できる。また、アクチュエータA1,A2をアクチュエータからダンパへ切換る際に、面倒かつ急峻な第一開閉弁9と第二開閉弁11の切換動作を伴わないので、応答性および信頼性が高いシステムを提供できる。
【0046】
なお、本例のアクチュエータA1,A2にあっては、片ロッド型に設定されているので、両ロッド型のアクチュエータと比較してストローク長を確保しやすく、アクチュエータの全長が短くなって、鉄道車両への搭載性が向上する。
【0047】
また、本例のアクチュエータA1,A2におけるポンプ12からの作動油供給および伸縮作動による作動油の流れは、ロッド側室5、ピストン側室6を順に通過して最終的にタンク7へ還流するようになっている。そのため、ロッド側室5あるいはピストン側室6内に気体が混入しても、シリンダ本体Cyの伸縮作動によって自立的にタンク7へ排出されるので、推進力発生の応答性の悪化を阻止できる。したがって、アクチュエータA1,A2の製造にあたって、面倒な油中での組立や真空環境下での組立を強いられず、作動油の高度な脱気も不要となるので、生産性が向上するとともに製造コストを低減できる。さらに、ロッド側室5あるいはピストン側室6内に気体が混入しても、気体は、シリンダ本体Cyの伸縮作動によって自立的にタンク7へ排出されるので、性能回復のためのメンテナンスを頻繁に行う必要もなくなり、保守面における労力とコスト負担を軽減できる。
【0048】
つづいて、制御部Cは、図3に示すように、車体前側としての車体前部Bfの横方向加速度α1を検知する前側加速度センサ41fと、車体後側としての車体後部Brの横方向加速度α2を検知する後側加速度センサ41rと、前後のアクチュエータA1,A2が出力すべき制御力F1,F2を求める制御演算部44と、アクチュエータA1,A2の異常を判断する異常診断部45と、制御演算部44が制御力F1,F2を求める際に使用する制御パラメータを変更する変更部46と、制御力F1,F2に基づいてモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11、可変リリーフ弁22を駆動する駆動部47とを備えている。
【0049】
前側加速度センサ41fと後側加速度センサ41rは、図1中車体Bの中央を左右に通る軸を基準として上方側へ向く方向となる場合に、横方向加速度α1,α2を正の値として検知し、反対に図1中下方側へ向く方向となる場合に負の値として検知する。
【0050】
以下、制御部Cの各部について詳細に説明する。制御演算部44は、図4に示すように、車体Bのヨー方向の振動を抑制するヨー抑制力fωを求めるヨー抑制力演算部50と、車体Bのスエー方向の振動を抑制するスエー抑制力fβを求めるスエー抑制力演算部51と、各アクチュエータA1,A2が発揮すべき制御力F1,F2を求める制御力演算部55とを備えている。
【0051】
ヨー抑制力演算部50は、図5に示すように、横方向加速度α1,α2からヨー加速度ωを求めるヨー加速度演算部501と、ヨー加速度ωを濾波する第一直線区間用バンドパスフィルタ502と、ヨー加速度ωを濾波する第一曲線区間用バンドパスフィルタ503と、直線区間用ヨー制御部504と、曲線区間用ヨー制御部505と、直線区間用ヨー制御部504が求めた直線区間用ヨー抑制力fωsに直線区間用ゲインGs1を乗じるゲイン乗算部506と、曲線区間用ヨー制御部505が求めた曲線区間用ヨー抑制力fωcに曲線区間用ゲインGc1を乗じるゲイン乗算部507と、最終的なヨー抑制力fωを求める選択部508とを備えている。
【0052】
ヨー加速度演算部501は、前側の横方向加速度α1と後側の横方向加速度α2の差を2で割って前側の台車T1と後側の台車T2のそれぞれの直上における車体中心G周りのヨー加速度ωを求める。ヨー加速度演算部501は、車体中心Gを中心として車体Bを時計回り方向へ回転させる方向のヨー加速度ωを正の値とし、これとは反対方向のヨー加速度ωを負の値として求める。前側加速度センサ41fの設置箇所は、ヨー加速度ωを求める都合上、車体Bの車体中心Gを含む前後方向または対角方向に沿う線上であって前側アクチュエータA1の近傍に配置されるとよい。また、後側加速度センサ41rの設置箇所は、車体Bの車体中心Gを含む前後方向または対角方向に沿う線上であって後側アクチュエータA2の近傍に配置されるとよい。しかしながら、車体中心Gと前側加速度センサ41fとの距離および位置関係と、車体中心Gと後側加速度センサ41rとの距離および位置関係と、横方向加速度α1,α2とからヨー加速度ωを求められるので前側加速度センサ41fと後側加速度センサ41r位置を任意に設定してよい。その場合、ヨー加速度ωは、横方向加速度α1と横方向加速度α2の差を2で割って求めるのではなく、前記横方向加速度α1と横方向加速度α2の差と、車体Bの車体中心Gと各加速度センサ41f,41rとの距離、位置関係からヨー加速度ωを得るようにすればよい。具体的には、前側加速度センサ41fと車体Bの車体中心Gとの前後方向距離Lfと、後側加速度センサ41rと車体Bの車体中心Gとの前後方向距離Lrとすると、ヨー加速度ωは、ω=(α1-α2)/(Lf+Lr)で計算できる。本例では、ヨー加速度ωを前側加速度センサ41fと後側加速度センサ41rで加速度を検知して求めているが、ヨー加速度センサを用いて検知するようにしてもよい。
【0053】
第一直線区間用バンドパスフィルタ502は、ヨー加速度ωにおける鉄道車両が直線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。台車T1,T2によって弾性支持される車体Bは、直線区間走行時には車体Bの台車T1,T2に対する横方向の移動を制限範囲に規制するストッパ(図示せず)に通常接触しないので、車体Bの共振周波数は、1Hzから1.5Hzまでの間にある。よって、第一直線区間用バンドパスフィルタ502は、ヨー加速度演算部501が求めたヨー加速度ωを濾波してヨー加速度ωに含まれる1Hzから1.5Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
【0054】
第一曲線区間用バンドパスフィルタ503は、ヨー加速度ωにおける鉄道車両が曲線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。台車T1,T2によって弾性支持される車体Bは、曲線区間走行時には車体Bの図示しない前述のストッパへの接触が想定され、車体Bがストッパに接触する分、車体Bの共振周波数は、直線区間走行時よりも高くなり、2Hzから3Hzまでの間にある。よって、第一曲線区間用バンドパスフィルタ503は、ヨー加速度演算部501が求めたヨー加速度ωを濾波してヨー加速度ωに含まれる2Hzから3Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
【0055】
直線区間用ヨー制御部504は、H∞制御器とされており、第一直線区間用バンドパスフィルタ502が抽出したヨー加速度ωの共振周波数帯の成分から車体Bのヨー方向の振動を抑制する直線区間用ヨー抑制力fωsを演算する。第一直線区間用バンドパスフィルタ502が抽出したヨー加速度ωの共振周波数帯の成分は、直線区間走行時における車体Bのヨー方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、直線区間用ヨー制御部504が求める直線区間用ヨー抑制力fωsは、直線区間走行時における車体Bのヨー方向の振動の抑制に適する抑制力となる。なお、直線区間用ヨー制御部504は、周波数に対する重みづけをする重み関数を利用したH∞制御を実行するが、本実施の形態では、複数パターンの重み関数を保有しており、後述する変更部46によって選択されたパターンを使用して直線区間用ヨー抑制力fωsを演算する。
【0056】
曲線区間用ヨー制御部505は、H∞制御器とされており、第一曲線区間用バンドパスフィルタ503が抽出したヨー加速度ωの共振周波数帯の成分から車体Bのヨー方向の振動を抑制する曲線区間用ヨー抑制力fωcを演算する。第一曲線区間用バンドパスフィルタ503が抽出したヨー加速度ωの共振周波数帯の成分は、曲線区間走行時における車体Bのヨー方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、曲線区間用ヨー制御部505が求める曲線区間用ヨー抑制力fωcは、曲線区間走行時における車体Bのヨー方向の振動の抑制に適する抑制力となる。なお、曲線区間用ヨー制御部505は、周波数に対する重みづけをする重み関数を利用したH∞制御を実行するが、本実施の形態では、複数パターンの重み関数を保有しており、後述する変更部46によって選択されたパターンを使用して曲線区間用ヨー抑制力fωcを演算する。
【0057】
ゲイン乗算部506は、直線区間用ヨー制御部504が求めた直線区間用ヨー抑制力fωsに直線区間用ゲインGs1を乗じて出力する。ゲイン乗算部507は、曲線区間用ヨー制御部505が求めた曲線区間用ヨー抑制力fωcに曲線区間用ゲインGc1を乗じて出力する。なお、直線区間用ゲインGs1および曲線区間用ゲインGc1は、初期設定では1に設定されるが、この値は後述する変更部46によって適宜変更されるようになっている。
【0058】
そして、選択部508は、鉄道車両が走行中の路線が直線区間であるか曲線区間であるかを判定して、直線区間用ゲインGs1が乗じられた直線区間用ヨー抑制力fωsと、曲線区間用ゲインGc1が乗じられた曲線区間用ヨー抑制力fωcの一方を最終的なヨー抑制力fωとして選択する。選択部508は、鉄道車両が走行中の路線が直線区間であると判定する場合には、直線区間用ゲインGs1が乗じられた直線区間用ヨー抑制力fωsを最終的なヨー抑制力fωとして選択する。他方、選択部508は、鉄道車両が走行中の路線が曲線区間であると判定する場合には、曲線区間用ゲインGc1が乗じられた曲線区間用ヨー抑制力fωcを最終的なヨー抑制力fωとして選択する。鉄道車両が曲線区間を走行中であるか否かの判定については、スエー加速度演算部511が横方向加速度α1,α2から求めたスエー加速度βに含まれる定常加速度の絶対値が所定の曲線判定閾値を超えると、選択部508は、鉄道車両が走行中の路線が曲線区間であると判定する。定常加速度は、鉄道車両が曲線区間を走行する際に車体Bに定常的に作用する超過遠心力であり、曲線区間走行時にはこの超過遠心力が大きくなるので、スエー加速度βに基づいて鉄道車両が曲線区間を走行中であるかを判断できる。なお、選択部508は、鉄道車両に設けられる車両モニタ装置から走行地点情報を入手して鉄道車両が曲線区間を走行中であるか否かを判定してもよい。
【0059】
スエー抑制力演算部51は、図6に示すように、横方向加速度α1,α2からスエー加速度βを求めるスエー加速度演算部511と、スエー加速度βを濾波する第二直線区間用バンドパスフィルタ512と、スエー加速度βを濾波する第二曲線区間用バンドパスフィルタ513と、直線区間用スエー制御部514と、曲線区間用スエー制御部515と、直線区間用スエー制御部514が求めた直線区間用スエー抑制力fβsに直線区間用ゲインGs2を乗じるゲイン乗算部516と、曲線区間用スエー制御部515が求めた曲線区間用スエー抑制力fβcに曲線区間用ゲインGc2を乗じるゲイン乗算部517と、最終的なスエー抑制力fβを求める選択部518とを備えている。
【0060】
スエー加速度演算部511は、横方向加速度α1と横方向加速度α2の和を2で割って車体Bの車体中心Gのスエー加速度βを求める。なお、スエー加速度演算部511が求めたスエー加速度βは、選択部508,518にも入力される。スエー加速度演算部511は、図1中車体Bの中央を左右に通る軸を基準として上方側へ向く方向のスエー加速度βを正の値とし、反対方向のスエー加速度βを負の値として求める。
【0061】
第二直線区間用バンドパスフィルタ512は、スエー加速度βにおける鉄道車両が直線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。第二直線区間用バンドパスフィルタ512が通過を許容する周波数帯は、第一直線区間用バンドパスフィルタ502と同様に1Hzから1.5Hzまでの周波数帯に設定されている。よって、第二直線区間用バンドパスフィルタ512は、スエー加速度演算部511が求めたスエー加速度βを濾波してスエー加速度βに含まれる1Hzから1.5Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
【0062】
第二曲線区間用バンドパスフィルタ513は、スエー加速度βにおける鉄道車両が曲線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。第二曲線区間用バンドパスフィルタ513が通過を許容する周波数帯は、第一曲線区間用バンドパスフィルタ503と同様に2Hzから3Hzまでの周波数帯に設定されている。よって、第二曲線区間用バンドパスフィルタ513は、スエー加速度演算部511が求めたスエー加速度βを濾波してスエー加速度βに含まれる2Hzから3Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
【0063】
直線区間用スエー制御部514は、H∞制御器とされており、第二直線区間用バンドパスフィルタ512が抽出したスエー加速度βの共振周波数帯の成分から車体Bのスエー方向の振動を抑制する直線区間用スエー抑制力fβsを演算する。第二直線区間用バンドパスフィルタ512が抽出したスエー加速度βの共振周波数帯の成分は、直線区間走行時における車体Bのスエー方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、直線区間用スエー制御部514が求める直線区間用スエー抑制力fβsは、直線区間走行時における車体Bのスエー方向の振動の抑制に適する抑制力となる。なお、直線区間用スエー制御部514は、周波数に対する重みづけをする重み関数を利用したH∞制御を実行するが、本実施の形態では、複数パターンの重み関数を保有しており、後述する変更部46によって選択されたパターンを使用して直線区間用スエー抑制力fβsを演算する。
【0064】
曲線区間用スエー制御部515は、H∞制御器とされており、第二曲線区間用バンドパスフィルタ513が抽出したスエー加速度βの共振周波数帯の成分から車体Bのスエー方向の振動を抑制する曲線区間用スエー抑制力fβcを演算する。第二曲線区間用バンドパスフィルタ513が抽出したスエー加速度βの共振周波数帯の成分は、曲線区間走行時における車体Bのスエー方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、曲線区間用スエー制御部515が求める曲線区間用スエー抑制力fβcは、曲線区間走行時における車体Bのスエー方向の振動の抑制に適する抑制力となる。なお、曲線区間用スエー制御部515は、周波数に対する重みづけをする重み関数を利用したH∞制御を実行するが、本実施の形態では、複数パターンの重み関数を保有しており、後述する変更部46によって選択されたパターンを使用して曲線区間用スエー抑制力fβcを演算する。
【0065】
ゲイン乗算部516は、直線区間用スエー制御部514が求めた直線区間用スエー抑制力fβsに直線区間用ゲインGs2を乗じて出力する。ゲイン乗算部517は、曲線区間用スエー制御部515が求めた曲線区間用スエー抑制力fβcに曲線区間用ゲインGc2を乗じて出力する。なお、直線区間用ゲインGs2および曲線区間用ゲインGc2は、初期設定では1に設定されるが、この値は後述する変更部46によって適宜変更されるようになっている。
【0066】
そして、選択部518は、鉄道車両が走行中の路線が直線区間であるか曲線区間であるかを判定して、直線区間用ゲインGs2が乗じられた直線区間用スエー抑制力fβsと、曲線区間用ゲインGc2が乗じられた曲線区間用スエー抑制力fβcの一方を最終的なヨー抑制力fωとして選択する。選択部518は、鉄道車両が走行中の路線が直線区間であると判定する場合には、直線区間用ゲインGs2が乗じられた直線区間用スエー抑制力fβsを最終的なスエー抑制力fβとして選択する。他方、選択部518は、鉄道車両が走行中の路線が曲線区間であると判定する場合には、曲線区間用ゲインGc2が乗じられた曲線区間用スエー抑制力fβcを最終的なスエー抑制力fβとして選択する。選択部518における鉄道車両が曲線区間を走行中であるか否かの判定については、選択部508と同様である。
【0067】
制御力演算部55は、図7に示すように、ヨー抑制力fωおよびスエー抑制力fβとから前側のアクチュエータA1と後側のアクチュエータA2との制御力F1,F2を求める制御力算出部551と、不感帯処理部552と、リミッタ553とを備えている。
【0068】
制御力算出部551は、ヨー抑制力fωとスエー抑制力fβとを加算した値を2で割って前側のアクチュエータA1の制御力F1を求める。また、制御力算出部551は、スエー抑制力fβからヨー抑制力fωを差し引いた値を2で割って後側のアクチュエータA2の制御力F2を求める。さらに、制御力F1,F2は、不感帯処理部552によって、制御力F1,F2の絶対値が制御力下限値γを未満であると不感帯処理して制御力F1,F2を0とする。また、制御力F1,F2は、リミッタ553によって上限値を超える場合には上限値に制限されて、駆動部47に入力される。なお、不感帯処理部552の処理で使用される制御力下限値γは、初期設定では0に設定されるが、この値は後述する変更部46によって適宜変更されるようになっている。
【0069】
駆動部47は、モータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22を駆動するドライバ回路を備えている。駆動部47は、制御力F1,F2に応じて、各アクチュエータA1,A2におけるモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22へ供給する電流量を制御して、制御力F1,F2通りに各アクチュエータA1,A2に推力を発揮させる。
【0070】
前述したように、アクチュエータA1,A2の推力の調節は、可変リリーフ弁22によって行われるので、駆動部47は、制御力F1,F2が指示する推力の大きさによって、可変リリーフ弁22に与える目標電流を求めて、可変リリーフ弁22に流れる電流量を目標電流となるように調節する。駆動部47は、制御力F1,F2から目標電流を求める際に制御力F1,F2が指示する推力に制御ゲインを乗じて目標電流を求める。本実施の形態の場合、可変リリーフ弁22が非通電時に開弁圧を最大とするので、制御ゲインを大きくすればするほど可変リリーフ弁22の開弁圧が低くなるように誘導される。なお、駆動部47の処理で使用される制御ゲインは、初期設定では1に設定されるが、この値は後述する変更部46によって適宜変更されるようになっている。
【0071】
このように鉄道車両用制振装置1では、鉄道車両の走行区間に最適な制御力F1,F2を求めるようになっており、アクチュエータA1,A2が制御力F1,F2を発揮して車体Bの振動を抑制する。
【0072】
つづいて、異常診断部45は、台車T1,T2の振動を監視してアクチュエータA1,A2の異常の有無を診断する。異常診断部45は、本実施の形態では、前側加速度センサ41fが検知した横方向加速度α1と後側加速度センサ41rが検知した横方向加速度α2を処理して特定周波数帯の振動を抽出する。具体的には、特定周波数帯を台車T1,T2の共振周波数帯と車体B自体の弾性振動の共振周波数帯として、異常診断部45は、横方向加速度α1,α2を処理して、台車T1,T2の共振周波数帯の振動と車体Bの弾性振動の共振周波数帯の振動を抽出する。車体Bは、図示はしないが、台車T1,T2との間に介装されるばねによって弾性支持されていて台車T1,T2に対して左右方向へ振動する他に、箱形に形成された車体B自体が弾性を備えているので或る周波数の振動に対して共振する。本書では、外部入力によって自身が備える弾性によって車体B自体が振動するのを弾性振動としており、この弾性振動の共振周波数帯は、車体Bがばねで支持されることに起因する1Hz前後の車体Bの共振周波数帯よりも高周波域にある。なお、特定周波数帯は、本実施の形態では、車体Bが台車T1,T2に対してばねによって弾性支持されることによって車体Bが台車T1,T2に対して横方向へ振動する際の共振周波数帯である1Hz前後の周波数帯よりも高周波数の帯域に設定されているが、振動状況を監視したい周波数帯に設定すればよく、車体Bの左右方向の振動を監視したい場合、車体Bがばねによって支持されていることに起因する車体Bの共振周波数帯(1Hz周辺の周波数帯)に設定されてもよい。
【0073】
異常診断部45は、図8に示すように、横方向加速度α1,α2から台車T1,T2の共振周波数帯の加速度を抽出するフィルタ451と、横方向加速度α1,α2から車体Bの弾性振動の共振周波数帯の加速度を抽出するフィルタ452と、台車T1,T2の共振周波数帯の加速度と車体Bの弾性振動の共振周波数帯の加速度の波高値を求める波高値演算部453と、波高値演算部453が求めた各加速度における波高値に基づいてアクチュエータA1,A2の異常を診断する診断部454と、記憶部455とを備える。
【0074】
本実施の形態では、アクチュエータA1,A2の制御を行うために、前側加速度センサ41fと後側加速度センサ41rとを備えているので、横方向加速度α1,α2から台車T1,T2の振動を求めるが、台車T1,T2の加速度を直接検知してもよいし、アクチュエータA1,A2のストロークから台車T1,T2の振動を検知してもよい。異常診断部45は、台車T1,T2の振動の大きさによってアクチュエータA1,A2の異常を診断するので、台車T1,T2の振動の大きさを認識できる物理量を検知すればよい。
【0075】
フィルタ451は、横方向加速度α1,α2から台車T1,T2の共振周波数帯である10Hzから15Hz程度の周波数帯の加速度を抽出するバンドパスフィルタとされている。前側加速度センサ41fと後側加速度センサ41rが検知する横方向加速度α1,α2は車体Bの横方向加速度であるが、台車T1,T2の振動が直上の車体Bに伝達されるので、横方向加速度α1,α2から台車T1,T2の共振周波数帯の振動を抽出すると、台車T1,T2の振動情報が得られる。
【0076】
本実施の形態では、車体B自体の弾性振動の共振周波数帯が23Hzの周辺であるので、フィルタ452は、横方向加速度α1,α2から車体Bの弾性振動の共振周波数帯である23Hzを中心として前後1Hz程度の周波数帯の加速度を抽出するバンドパスフィルタとされている。前側加速度センサ41fと後側加速度センサ41rが検知する横方向加速度α1,α2は車体Bの横方向加速度であるので、フィルタ452で処理すれば、車体B自体の弾性振動の共振周波数帯の加速度成分を抽出できる。
【0077】
波高値演算部453は、フィルタ451,452によってそれぞれ処理された横方向加速度α1,α2の波高値を求める。診断部454は、求められた波高値が波高値閾値以上であると数値異常として、数値異常が検知された回数が所定回数に達するとアクチュエータA1,A2が異常であると判断する。波高値閾値は、台車T1,T2の共振周波数帯の振動の加速度に対して設定される台車振動に係る異常検知用の波高値閾値と、車体B自体の弾性振動の共振周波数帯の振動の加速度に対して設定される車体弾性振動に係る異常検知用の波高値閾値とがある。台車振動に係る波高値閾値と車体弾性振動に係る波高値閾値とは、別個独立に設定される。よって、診断部454は、数値異常の検知に際して、台車振動に係る波高値が台車振動に係る波高値閾値以上となった回数を数えるとともに、車体弾性振動に係る波高値が車体弾性振動に係る波高値閾値以上となった回数を数える。
そして、診断部454は、車振動に係る波高値が台車振動に係る波高値閾値以上となった回数を台車振動に係る数値異常の回数とし、車体弾性振動に係る波高値が車体弾性振動に係る波高値閾値以上となった回数を車体弾性振動に係る数値異常の回数として、各数値異常の回数のいずれか一方でも所定回数に達するとアクチュエータA1,A2が異常であると判断する。
【0078】
以上のように、診断部454は、特定周波数帯を台車T1,T2の共振周波数帯と車体B自体の弾性振動の共振周波数帯として、台車振動に係る波高値が台車振動に係る波高値閾値以上となったことをもってして台車T1,T2の振動が所定振動以上になったと判断し、車体弾性振動に係る波高値が車体弾性振動に係る波高値閾値以上となったことをもってして車体B自体の弾性振動が所定振動以上になったと判断する。
【0079】
また、診断部454は、数値異常の検知に際して、誤検知を防止するために、台車振動に係る波高値が予め決められた時間内に予め決められた回数以上、台車振動に係る波高値が波高値閾値以上となると、これをトリガとして台車振動に係る数値異常とし、車体弾性振動に係る波高値が予め決められた時間内に予め決められた回数以上、車体弾性振動に係る波高値が波高値閾値以上となると、これをのトリガとして車体弾性振動に係る数値異常としてもよい。
【0080】
異常診断部45は、台車T1,T2の振動或いは車体B自体の弾性振動が所定振動以上になると数値異常として変更部46へ数値異常信号を出力する。なお、異常診断部45は、診断部455が数値異常を検知すると、検知した波高値と数値異常を検知した日時、走行線区、走行地点とを紐づけして記憶部455に記憶させるとともに、異常検知回数についても記憶部455へ記憶させる。診断部455は、記憶された異常検知回数が所定回数に達するとアクチュエータA1,A2が異常であると判断する。なお、所定回数は、本実施の形態では、三回とされているが、任意に設定できる。このように鉄道車両用制振装置1にあっては、数値異常を検知した日時、走行線区、走行地点を紐づけして異常な数値を記憶するので、後の数値異常の解析に役立て得る。また、鉄道車両用制振装置1は、数値異常を検知すると都度、数値異常を検知した日時、走行線区、走行地点に紐づけされた異常な数値を車両モニタ装置に出力してもよい。
【0081】
台車T1,T2の振動或いは車体B自体の弾性振動が大きくなる理由としては、高周波数の振幅の小さな振動を抑制する際のアクチュエータA1,A2の推力が過大となって台車T1,T2の振動や車体B自体の弾性振動を励起していると考えら得る。なお、アクチュエータA1,A2の推力が過大となるのは、アクチュエータA1,A2の経年劣化によるサスペンションパラメータ変化、可変リリーフ弁22の弁体を附勢するばねの初期荷重が大きすぎる初期設定不良、アクチュエータA1,A2内の作動油の温度低下による粘度増加に伴う推力過多といった理由が考えられる。このような場合、アクチュエータA1,A2の推力を小さくするようにアクチュエータA1,A2の制御パラメータを調整すると、アクチュエータA1,A2の推力を低下させて台車T1,T2の振動を抑制できる。
【0082】
そこで、変更部46は、台車T1,T2の振動が所定振動以上であることを検知した異常診断部45から数値異常信号を受け取ると、制御演算部44が制御力F1,F2を求める際に使用する制御パラメータを変更する。また、変更部46は、台車T1,T2の振動に係る異常の診断に平行して、車体Bの弾性振動が所定振動以上であることを検知した異常診断部45から数値異常信号を受け取ると、制御演算部44が制御力F1,F2を求める際に使用する制御パラメータを変更する。以下、図9に示したフローチャートに即して異常診断部45と変更部46の処理について説明する。
【0083】
まず、異常診断部45は、前述のように、台車振動に係る数値異常を検知すると(ステップS1)、変更部46の制御パラメータの変更処理を実行する。変更部46は、異常診断部45から台車振動に係る数値異常信号を受け取ると駆動部47にパッシブモード移行信号を出力してアクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させる(ステップS2)。駆動部47は、緊急指令を受け取ると、モータ15を停止し、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22への通電を停止する。このように、モータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22への通電が停止されるとアクチュエータA1,A2は前述のようにパッシブダンパとして機能する。なお、パッシブモード移行信号は、異常診断部45から駆動部47に入力されてもよい。アクチュエータA1,A2がパッシブダンパとして機能すると、台車T1,T2が正常であれば、台車T1,T2の振動励起は収まって安定方向に向かうので台車T1,T2の振動は小さくなる。よって、この鉄道車両用制振装置1では、台車T1,T2の振動が大きくなると、一旦、アクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させて台車T1、T2の振動を小さくする。
【0084】
変更部46は、また、数値異常信号を受け取ると、制御パラメータである直線区間用ヨー制御部504、曲線区間用ヨー制御部505、直線区間用スエー制御部514および曲線区間用スエー制御部515で利用する各重み関数、ゲイン乗算部506,507,516,517で利用する各ゲインGs1,Gs2,Gc1,Gc2、不感帯処理部552で利用する制御力下限値γを変更する(ステップS3)。変更部46は、これら各制御パラメータの全部を変更してもよいが、本実施の形態では、段階に分けて、一部の制御パラメータを変更し、最終的に全部の制御パラメータを変更する。
【0085】
具体的には、本実施の形態では、異常診断部45が第一回目に数値異常を検知すると、変更部46は、不感帯を設定する制御力下限値γの現在値より大きな値に設定するとともに、可変リリーフ弁22の制御ゲインを現在値より大きな値に設定する。アクチュエータA1,A2内の作動油の温度が低下して粘度が増加する場合や可変リリーフ弁22のばねの初期荷重が設計値よりも大きい場合、可変リリーフ弁22における圧力損失が大きくなるので、アクチュエータA1,A2に低推力を発揮させようとしても推力が大きくなって台車T1,T2の振動を励起する場合がある。このように、不感帯を設定する制御力下限値γの値を大きくすると、制御力F1,F2が低推力を指示する際に、アクチュエータA1,A2の推力を0にする。また、可変リリーフ弁22の制御ゲインを大きくすれば、可変リリーフ弁22に供給される電流量が増加するように誘導されるので可変リリーフ弁22の開弁圧が低下する。よって、変更部46の制御力下限値γと可変リリーフ弁22の制御ゲインを増加させる変更によって、制御演算部44が求める制御力F1,F2が変化しなくとも可変リリーフ弁22における圧力損失が低下してアクチュエータA1,A2の推力が低下するとともに、制御力F1,F2が極低い力を指示する場合はアクチュエータA1,A2が推力を発揮しないので台車T1,T2の振動の励起を抑制できる。
【0086】
変更部46は、異常診断部45による第一回目の数値異常の検知に対して制御パラメータを変更した後、駆動部47に通常制御を行うための復帰信号を出力する。駆動部47は、復帰信号を受け取ると、制御演算部44が出力する制御力F1,F2に応じてモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22へ通電する。よって、アクチュエータA1,A2は、パッシブダンパとして機能するパッシブダンパモードからアクチュエータとして機能するアクチュエータモードへ復帰して車体Bの振動を抑制する推力を発揮する(ステップS4)。なお、制御演算部44は、変更部46によって変更された制御パラメータを利用して順次制御力F1,F2を求め、駆動部47は、変更された制御パラメータを利用して可変リリーフ弁22の電流を調節する。つまり、異常診断部45によって数値異常が検知されると変更部46によって制御パラメータが変更されて、制御部Cは、変更後の制御パラメータを利用してアクチュエータA1,A2を制御する。また、この鉄道車両用制振装置1では、台車T1,T2の振動が大きくなると、一旦、アクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させて台車T1、T2の振動を小さくしてからアクチュエータA1,A2をアクチュエータとして機能させるので、台車T1,T2の振動を効果的に抑制できる。
【0087】
次に、本実施の形態では、変更部46が前述のように制御パラメータを変更した後に異常診断部45が第二回目の数値異常を検知する(ステップS5)と、変更部46は、さらにアクチュエータA1,A2の推力を小さくするように制御パラメータを変更する。また、変更部46は、パッシブモード移行信号を駆動部47へ出力してアクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させる(ステップS6)。本実施の形態では、変更部46は、不感帯を設定する制御力下限値γをさらに大きな値に設定し、可変リリーフ弁22の制御ゲインをさらに大きな値に設定する。さらに、変更部46は、ゲイン乗算部506,507,516,517で利用する各ゲインGs1,Gs2,Gc1,Gc2を現在値より小さな値に変更する。また、変更部46は、直線区間用ヨー制御部504、曲線区間用ヨー制御部505、直線区間用スエー制御部514および曲線区間用スエー制御部515で利用する各重み関数を、初期に利用していた重み関数からアクチュエータA1,A2の推力が小さくなるような重み関数に変更する。この重み関数の変更に関しては、予め複数パターンの重み関数を制御部Cで記憶しており、変更部46は、使用する重み関数を指定する形で変更する(ステップS7)。
【0088】
変更部46は、異常診断部45による第二回目の数値異常の検知に対して制御パラメータを変更した後、駆動部47に通常制御を行うための復帰信号を出力する。駆動部47は、復帰信号を受け取ると、制御演算部44が出力する制御力F1,F2に応じてモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22へ通電する。よって、アクチュエータA1,A2は、パッシブダンパとして機能するパッシブダンパモードからアクチュエータとして機能するアクチュエータモードへ復帰して、車体Bの振動を抑制する推力を発揮する(ステップS8)。よって、変更部46の制御パラメータの変更によって、制御演算部44が求める制御力F1,F2が小さくなって、アクチュエータA1,A2の推力が低下するので台車T1,T2の振動の励起を抑制できる。
【0089】
さらに、変更部46が異常診断部45の第二回目の数値異常の検知に対して、前述のように制御パラメータを変更した後にさらに異常診断部45が第三回目の数値異常を検知する(ステップS9)と、異常診断部45は、アクチュエータA1,A2を異常と判断して、制御部CにおけるアクチュエータA1,A2の制御を中止させてアクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させる(ステップS10)。異常診断部45は、台車振動に係る数値異常の検知回数を記憶部454に記憶させており、異常を検知した回数が三回となると、台車T1,T2の振動が収束しないので、制御部CのアクチュエータA1,A2の制御を中止させるとともに、アクチュエータA1,A2が異常であると判断し(ステップS11)、エラー信号を車両モニタ装置に出力する。
【0090】
なお、異常診断部45は、エラー信号を出力した後も台車T1,T2の振動を監視し、アクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させても台車T1,T2の振動の波高値が波高値閾値以上である場合、台車T1,T2の異常と診断する。
【0091】
また、鉄道車両用制振装置1を再起動しても、変更部46が変更した制御パラメータは有効とされており、制御部Cは、変更後の制御パラメータによってアクチュエータA1,A2を制御する。また、制御部Cは、再起動時に数値異常回数を読み込んで、台車T1,T2の振動の数値異常回数が三回以上であれば、アクチュエータA1,A2の制御を行わずモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22への通電を行わずにアクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させる。
【0092】
このように、本発明の鉄道車両用制振装置1は、鉄道車両の車体Bと台車T1,T2との間に介装されるアクチュエータA1,A2と、アクチュエータA1,A2を制御する制御部Cとを備え、制御部Cが台車T1,T2の振動が所定振動以上となるとアクチュエータA1,A2の推力を小さくするようにアクチュエータA1,A2を制御する制御パラメータを変更する。
【0093】
よって、本発明の鉄道車両用制振装置1は、台車T1,T2の振動が所定振動以上となるとアクチュエータA1,A2の推力を小さくするようにアクチュエータA1,A2を制御する制御パラメータを変更するので、アクチュエータA1,A2の経年劣化や初期設定不良或いは作動油の温度変化があってもアクチュエータA1,A2の推力を低下させて台車T1,T2の振動の励起を抑制できる。以上より、本発明の鉄道車両用制振装置1によれば、アクチュエータA1,A2の経年劣化や初期設定不良或いは作動油の温度変化があっても鉄道車両における乗心地を向上できる。
【0094】
なお、変更部46は、台車振動に係る異常が発生すると前述した手順でアクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させ、制御パラメータを変更するが、車体弾性振動に係る異常の発生に対しても、図9に示した前述の手順と同様の手順で前述の制御パラメータを変更する。つまり、変更部46は、異常診断部45が車体弾性振動に係る数値異常を検知すると(ステップS1)、変更部46の制御パラメータの変更処理を実行する。そして、変更部46は、異常診断部45から車体弾性振動に係る数値異常信号を受け取ると駆動部47にパッシブモード移行信号を出力してアクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させる(ステップS2)。アクチュエータA1,A2がパッシブダンパとして機能すると、アクチュエータA1,A2で車体Bを加振することが無くなるので、車体B自体の弾性振動が励起されず、弾性振動は収まって安定方向に向かい、車体Bの弾性振動は小さくなる。よって、この鉄道車両用制振装置1では、車体B自体の弾性振動が大きくなると、一旦、アクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させて車体B自体の弾性振動を小さくする。
【0095】
変更部46は、また、車体弾性振動に係る数値異常信号を受け取ると、台車振動に係る数値異常信号を受け取った場合と同様に制御パラメータである直線区間用ヨー制御部504、曲線区間用ヨー制御部505、直線区間用スエー制御部514および曲線区間用スエー制御部515で利用する各重み関数、ゲイン乗算部506,507,516,517で利用する各ゲインGs1,Gs2,Gc1,Gc2、不感帯処理部552で利用する制御力下限値γを変更する(ステップS3)。変更部46は、これら各制御パラメータの全部を変更してもよいが、本実施の形態では、段階に分けて、一部の制御パラメータを変更し、最終的に全部の制御パラメータを変更する。
【0096】
変更部46は、不感帯を設定する制御力下限値γを現在値より大きな値に設定するとともに、可変リリーフ弁22の制御ゲインを現在値より大きくし(ステップS3)、その後、駆動部47に復帰信号を出力して、アクチュエータA1,A2をパッシブダンパモードからアクチュエータモードへ復帰させる(ステップS4)。さらに、変更部46が前述のように制御パラメータを変更した後に、異常診断部45が車体弾性振動に係る第二回目の数値異常を検知する(ステップS5)と、アクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させ(ステップS6)、変更部46は、台車振動に係る第二回目の数値異常を検知した場合と同様に、さらにアクチュエータA1,A2の推力を小さくするように制御パラメータを変更する(ステップS7)。その後、変更部46は、駆動部47に復帰信号を出力して、アクチュエータA1,A2をパッシブダンパモードからアクチュエータモードへ復帰させる(ステップS8)。
【0097】
さらに、変更部46が異常診断部45の車体弾性振動に係る第二回目の数値異常の検知に対して、前述のように制御パラメータを変更した後にさらに異常診断部45が車体弾性振動に係る第三回目の数値異常を検知する(ステップS9)と、異常診断部45は、アクチュエータA1,A2を異常と判断して、制御部CにおけるアクチュエータA1,A2の制御を中止させてアクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させる(ステップS10)。異常診断部45は、数値異常の検知回数を記憶部454に記憶させており、異常を検知した回数が三回となると、車体弾性振動が収束しないので制御部CのアクチュエータA1,A2の制御を中止させるとともに、アクチュエータA1,A2が異常であると判断し(ステップS11)、エラー信号を車両モニタ装置に出力する。
【0098】
なお、異常診断部45は、エラー信号を出力した後も車体弾性振動を監視し、アクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させても車体弾性振動の波高値が波高値閾値以上である場合、車体B自体に異常があると診断する。
【0099】
制御部Cは、車振動に係る波高値が台車振動に係る波高値閾値以上となった数値異常に対する処理と、車体弾性振動に係る波高値が車体弾性振動に係る波高値閾値以上となった数値異常に対する処理とを並列して行って、いずれか一方の数値異常の回数が三回に達すると、異常診断部45がアクチュエータA1,A2が異常であると判断して、エラー信号を車両モニタ装置に出力する。
【0100】
なお、異常診断部45は、台車振動に係る波高値が台車振動に係る波高値閾値以上となった数値異常の回数と、車体弾性振動に係る波高値が車体弾性振動に係る波高値閾値以上となった数値異常の回数との合計回数が三回に達すると、異常診断部45がアクチュエータA1,A2が異常であると判断してアクチュエータA1,A2をパッシブダンパとし、エラー信号を車両モニタ装置に出力してもよい。この場合、台車T1,T2の振動に係る数値異常の検知でも車体弾性振動に係る数値異常の検知でも、変更部46は、制御パラメータの現在の値からアクチュエータA1,A2の推力を小さくするように変更すればよい。さらに、アクチュエータA1,A2をパッシブダンパとしてエラー信号を出力する条件である、数値異常の回数は三回よりも大きな回数に設定されてもよい。
【0101】
また、鉄道車両用制振装置1を再起動しても、変更部46が変更した制御パラメータは有効とされており、制御部Cは、変更後の制御パラメータによってアクチュエータA1,A2を制御する。また、制御部Cは、再起動時に数値異常回数を読み込んで、車体弾性振動に係る数値異常回数が三回以上であれば、アクチュエータA1,A2の制御を行わずモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22への通電を行わずにアクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させる。
【0102】
このように、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、車体Bと台車T1,T2との間に介装されるアクチュエータA1,A2と、アクチュエータA1,A2を制御する制御部Cとを備え、制御部Cが鉄道車両の特定周波数帯の振動が所定振動以上となるとアクチュエータA1,A2の推力を小さくするようにアクチュエータA1,A2を制御する制御パラメータを変更する。
【0103】
よって、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、鉄道車両の特定周波数帯の振動が所定振動以上となるとアクチュエータA1,A2の推力を小さくするようにアクチュエータA1,A2を制御する制御パラメータを変更するので、アクチュエータA1,A2の経年劣化や初期設定不良或いは作動油の温度変化があってもアクチュエータA1,A2の推力を低下させて特定周波数帯の振動の励起を抑制できる。以上より、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1によれば、アクチュエータA1,A2の経年劣化や初期設定不良或いは作動油の温度変化があっても鉄道車両における乗心地を向上できる。
【0104】
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、制御部Cが台車T1,T2の振動が所定振動以上となるとアクチュエータA1,A2の推力を小さくするようにアクチュエータA1,A2を制御する制御パラメータを変更する。よって、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、アクチュエータA1,A2の経年劣化や初期設定不良或いは作動油の温度変化があってもアクチュエータA1,A2の推力を低下させて台車T1,T2の振動の励起を抑制できる。
【0105】
さらに、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、制御部Cが車体B自体の弾性振動が所定振動以上となるとアクチュエータA1,A2の推力を小さくするようにアクチュエータA1,A2を制御する制御パラメータを変更する。よって、本発明の鉄道車両用制振装置1は、アクチュエータA1,A2の経年劣化や初期設定不良或いは作動油の温度変化があってもアクチュエータA1,A2の推力を低下させて車体B自体の弾性振動の励起を抑制できる。
【0106】
なお、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1では、特定周波数帯を台車T1,T2の共振周波数帯および車体Bの弾性振動の共振周波数帯としているので、アクチュエータA1,A2の制御パラメータの最適化を行いつつ、アクチュエータA1,A2の異常の診断の他、台車T1,T2の異常および車体B自体の異常を診断できるが、異常を検知したい鉄道車両の部位の周波数帯に特定周波数帯に設定すれば鉄道車両の他の部位の異常を診断できる。
【0107】
また、制御パラメータの変更については、制御部CでアクチュエータA1,A2の推力を制御するための制御パラメータの全てを変更してもよいし、一部のみを変更してアクチュエータA1,A2の推力を低下させて台車T1,T2の振動或いは車体弾性振動を抑制してもよい。さらに、全制御パラメータのうち、一回目と二回目の数値異常の検知で変更の対象とする制御パラメータは、台車T1,T2の振動、車体B自体の弾性振動の励起を解消できるように選択されればよい。
【0108】
また、本実施の形態では、車体Bのヨー加速度ωとスエー加速度βを検知して車体Bの前後の台車T1,T2に設けたアクチュエータA1,A2を制御しているが、制御部Cは、車体Bの横方向加速度から一つの台車T1(T2)のアクチュエータA1(A2)の制御力を求めるものであってもよい。制御部Cは、アクチュエータA1(A2)の推力を求めるうえで推力を調節できる制御パラメータを利用する制御を行うものであれば、車体Bの振動を参照してどのような制御側を用いてアクチュエータA1(A2)を制御してもよく、本発明の効果を享受できる。
【0109】
さらに、本実施の形態では、台車T1,T2の振動の大きさおよび車体B自体の弾性振動を加速度の波高値で認識しているが、これは一例であって、振動の大きさを認識できるものであれば他の数値を利用してもよく、たとえば、加速度の絶対値の平均値や一定時間内の最大加速度で認識してもよい。
【0110】
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、制御部Cが制御パラメータを所定回数変更しても台車T1,T2の振動および車体B自体の弾性振動が所定振動以上となる場合、アクチュエータA1,A2を異常と判断する。このように構成された鉄道車両用制振装置1によれば、アクチュエータA1,A2を制御するための制御パラメータを変更しても台車T1,T2の振動および車体B自体の弾性振動の状態が改善されない場合には、アクチュエータA1,A2に何らかの異常があると判断するので、アクチュエータA1,A2の異常を正確に判断できる。
【0111】
さらに、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、アクチュエータA1,A2がパッシブダンパとして機能するパッシブダンパモードを有し、制御部Cが制御パラメータを所定回数変更しても台車T1,T2の振動或いは車体B自体の弾性振動が所定振動以上となる場合、アクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させる。このように構成された鉄道車両用制振装置1によれば、アクチュエータA1,A2が異常と判断されるとアクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させるので、台車T1,T2の振動および車体B自体の弾性振動を確実に抑制できる。
【0112】
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、アクチュエータA1,A2をパッシブダンパとして機能させても台車T1,T2の振動或いは車体B自体の弾性振動が所定振動以上となる場合、台車T1,T2或いは車体B自体を異常と判断する。このように構成された鉄道車両用制振装置1は、アクチュエータA1,A2をパッシブダンパとすると台車T1,T2の振動および車体B自体の弾性振動が小さくなる筈であるが、台車T1,T2の振動或いは車体B自体の弾性振動が小さくならないことから台車T1,T2或いは車体B自体の弾性振動の異常を判断できる。
【0113】
さらに、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、制御部Cが台車T1,T2の振動が所定振動以上となった回数を記憶し、前記回数によってアクチュエータA1,A2をアクチュエータとして機能させるかパッシブダンパとして機能させるかを判断する。このように構成された鉄道車両用制振装置1によれば、アクチュエータA1,A2に異常が認められる場合に、再起動した際にアクチュエータA1,A2を正常であると誤認してアクチュエータとして機能させて台車T1,T2の振動および車体B自体の弾性振動を励起してしまうのを回避できる。
【0114】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0115】
1・・・鉄道車両用制振装置、A1,A2・・・アクチュエータ、B・・・車体、C・・・制御部、T1,T2・・・台車
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9