(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B68G 7/05 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
B68G7/05 C
(21)【出願番号】P 2018206573
(22)【出願日】2018-11-01
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】水野 信一
(72)【発明者】
【氏名】石井 厚
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-129645(JP,A)
【文献】特開昭61-125384(JP,A)
【文献】特許第5234684(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B68G 7/05
B60N 2/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートパッドと、前記シートパッドを覆う表皮とを備えるシートの製造方法であって、
熱可塑性樹脂を少なくとも含む熱接着糸を、前記表皮を構成する表皮材に縫い付ける縫付工程と、
前記縫付工程により縫い付けられた前記熱接着糸を加熱し、軟化または溶融後に再硬化した前記熱可塑性樹脂によって前記表皮を前記シートパッドに接着する接着工程と、
前記接着工程前に、前記接着工程における加熱によって軟化、溶融または分解しない縫合糸で前記表皮材同士を縫い合わせて前記表皮を形成する縫合工程と、を備え
、
前記縫付工程では、前記接着工程における加熱によって軟化または溶融する熱可塑性樹脂のみから構成された前記熱接着糸のみを、前記表皮材のうち前記縫合工程により縫い合わされて縫い代となる部位に縫い付けることを特徴とするシートの製造方法。
【請求項2】
前記縫付工程において前記表皮材に縫い付けられる前記熱接着糸のステッチは、前記表皮材の外面に沿う前記熱接着糸の少なくとも一部が前記ステッチの長さ方向と交差する方向に配置されることを特徴とする請求項
1記載のシートの製造方法。
【請求項3】
前記縫付工程は、
前記表皮材の端縁に前記熱接着糸をかがり縫いする
と共に、前記表皮材へのかがり縫いに連続して前記表皮材が存在しない部分もかがり縫いすることで前記熱接着糸だけが編まれた部分を作成し、
前記接着工程は、前記熱接着糸だけが編まれた部分を前記表皮材側へ折り返してから熱接着糸を加熱することを特徴とする請求項
2記載のシートの製造方法。
【請求項4】
前記縫付工程は、1g当たりの長さが8m以下の前記熱接着糸をロックミシンを用いて前記表皮材に縫い付けることを特徴とする請求項
2又は
3に記載のシートの製造方法。
【請求項5】
前記縫合工程は、前記縫付工程の後に
行われ、
前記縫付工程は、前記表皮材のうち前記縫合工程により縫い合わされて縫い代となる部位であって互いに対面する部位に、
前記表皮材ごとに個別に前記熱接着糸を縫い付けることを特徴とする請求項1から
4のいずれかに記載のシートの製造方法。
【請求項6】
シートパッドと、
前記シートパッドを覆
い、表皮材同士が縫合糸で縫い合わされて形成された表皮と、
前記表皮材のうち前記縫合糸で縫い合わされて縫い代となった被接着部を前記シートパッドに接着する熱可塑性樹脂からなる接着剤と、を備え、
前記被接着部には、間隔をあけて並んだ同じ大きさの複数のピンホールが貫通形成され、
複数の前記ピンホールの少なくとも一部の内側に前記接着剤があ
り、複数の前記ピンホールを連続して通る糸が残っていないことを特徴とするシート。
【請求項7】
前記縫合糸で縫い合わされた前記表皮材同士の前記縫い代を割った部分の内側が前記接着剤で前記シートパッドに接着されていることを特徴とする請求項6記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート及びその製造方法に関し、熱可塑性の接着剤を配置し易くできると共に、接着剤の使用量を調整し易くできるシート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クッション材としてのシートパッドを表皮で覆い、表皮の一部をシートパッドに接着したシートが知られている。このシートの製造方法としては、例えば、表皮に縫い付けた熱可塑性のテープ状接着剤を、シートパッドに設けた溝に挿入して加熱し、再硬化したテープ状接着剤によってシートパッドに表皮を接着する方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術において、表皮の適切な位置にテープ状接着剤を縫い付けるには、テープ状接着剤を押さえながら慎重に縫い付ける必要がある。また、接着強度やシートの座り心地に関係するテープ状接着剤の使用量を調整するためには、テープ状接着剤の幅や厚さを変更したり、断続的に複数のテープ状接着剤を縫い付けたりする必要があり、テープ状接着剤の準備や縫製作業の手間が増える。そこで、熱可塑性の接着剤を配置し易くできると共に、熱可塑性の接着剤の使用量を調整し易くすることが望まれている。
【0005】
本発明は上述した要求に応えるためになされたものであり、熱可塑性の接着剤を配置し易くできると共に、接着剤の使用量を調整し易くできるシート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のシートの製造方法は、シートパッドと、前記シートパッドを覆う表皮とを備えるシートを製造する方法であって、熱可塑性樹脂を少なくとも含む熱接着糸を、前記表皮を構成する表皮材に縫い付ける縫付工程と、前記縫付工程により縫い付けられた前記熱接着糸を加熱し、軟化または溶融後に再硬化した前記熱可塑性樹脂によって前記表皮を前記シートパッドに接着する接着工程と、前記接着工程前に、前記接着工程における加熱によって軟化、溶融または分解しない縫合糸で前記表皮材同士を縫い合わせて前記表皮を形成する縫合工程と、を備え、前記縫付工程では、前記接着工程における加熱によって軟化または溶融する熱可塑性樹脂のみから構成された前記熱接着糸のみを、前記表皮材のうち前記縫合工程により縫い合わされて縫い代となる部位に縫い付ける。
【0007】
また、本発明のシートは、シートパッドと、前記シートパッドを覆い、表皮材同士が縫合糸で縫い合わされて形成された表皮と、前記表皮材のうち前記縫合糸で縫い合わされて縫い代となった被接着部を前記シートパッドに接着する熱可塑性樹脂からなる接着剤と、を備え、前記被接着部には、間隔をあけて並んだ同じ大きさの複数のピンホールが貫通形成され、複数の前記ピンホールの少なくとも一部の内側に前記接着剤があり、複数の前記ピンホールを連続して通る糸が残っていない。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載のシートの製造方法によれば、表皮材に縫い付けられた熱可塑性樹脂を含む熱接着糸を加熱後に再硬化させて、表皮をシートパッドに接着する。これにより、熱接着糸の太さやステッチ、ピッチ、縫い付け範囲を適宜設定することで、接着が必要な位置に適切な量の熱接着糸を容易に設けることができる。よって、シートパッドへの表皮の接着強度を確保しつつ、再硬化した熱接着糸によるシートの座り心地の悪化を抑制するために、熱接着糸の使用量を調整し易くできると共に、熱可塑性の接着剤である熱接着糸を配置し易くできる。
【0009】
接着工程前の縫合工程では、接着工程における加熱によって軟化、溶融または分解しない縫合糸で表皮材同士を縫い合わせて表皮を形成する。また、縫付工程では、接着工程における加熱によって軟化または溶融する熱可塑性樹脂のみから構成された熱接着糸のみを、表皮材のうち縫合工程により縫い合わされて縫い代となる部位に縫い付ける。これにより、接着工程後、熱接着糸の加熱によって溶融または軟化しない糸が表皮材の縫い代に縫い付けられたままになって、その表皮材の縫い代が硬くなることを防止できる。よって、シートの座り心地を向上できる。
【0010】
請求項2記載のシートの製造方法によれば、縫付工程において表皮材に縫い付けられる熱接着糸のステッチは、表皮材の外面に沿う熱接着糸の少なくとも一部がステッチの長さ方向と交差する方向に配置される。これにより、熱接着糸のステッチの幅を調整可能となるので、請求項1の効果に加え、熱接着糸の使用量をより調整し易くできる。
【0011】
請求項3記載のシートの製造方法によれば、縫付工程では、表皮材の端縁に熱接着糸をかがり縫いすると共に、表皮材へのかがり縫いに連続して表皮材が存在しない部分もかがり縫いすることで熱接着糸だけが編まれた部分を作成する。接着工程は、熱接着糸だけが編まれた部分を表皮材側へ折り返してから熱接着糸を加熱する。よって、請求項2の効果に加え、熱接着糸だけが編まれた部分によって熱接着糸の使用量を容易に調整できる。
【0012】
請求項4記載のシートの製造方法によれば、縫付工程は、1g当たりの長さが8m以下の熱接着糸をロックミシンを用いて表皮材に縫い付ける。これにより、ロックミシンを用いた縫い付け時の摩擦熱で熱接着糸を切れ難くできる。よって、請求項2又は3の効果に加え、幅のあるステッチの熱接着糸をロックミシンにより素早く容易に配置できる。
【0013】
請求項5記載のシートの製造方法によれば、縫合工程の前に行われる縫付工程では、表皮材のうち縫合工程により縫い合わされて縫い代となる部位であって互いに対面する部位に、表皮材ごとに個別に熱接着糸を縫い付ける。これにより、縫い合わされた表皮材の縫い代を割り、その縫い代の互いに対面していた部位をシートパッドに接着できるので、シートパッドと表皮との接着面積を多くできる。よって、請求項1から4のいずれかの効果に加え、熱接着糸による接着強度を確保しつつ、熱接着糸の使用量を削減してシートの座り心地を向上できる。
【0014】
請求項6記載のシートによれば、表皮材同士が縫合糸で縫い合わされて表皮が形成され、表皮材のうち縫合糸で縫い合わされて縫い代となった被接着部には、間隔をあけて並んだ同じ大きさの複数のピンホールが貫通形成される。その複数のピンホールの少なくとも一部には、被接着部をシートパッドに接着する熱可塑性樹脂からなる接着剤がある。これにより、複数のピンホールを通って縫い付けられていた糸状の熱可塑性樹脂が軟化または溶融して再硬化した接着剤により、シートパッドに被接着部が接着されていることが分かる。糸状の熱可塑性樹脂の太さやステッチ、ピッチ、縫い付け範囲を適宜設定することで、接着が必要な位置に適切な量の熱接着糸を容易に設けることができる。よって、糸状の熱可塑性樹脂の使用量を調整し易くできると共に、熱可塑性樹脂を配置し易くできる。また、複数のピンホールを連続して通る糸が残っていないので、その糸によって被接着部が硬くなることを防止でき、シートの座り心地を向上できる。
請求項7記載のシートによれば、縫合糸で縫い合わされた表皮材同士の縫い代を割った部分の内側が接着剤でシートパッドに接着されている。これにより、シートパッドと表皮との接着面積を多くできるので、請求項6の効果に加え、接着剤による接着強度を確保しつつ、接着剤の使用量を削減してシートの座り心地を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態におけるシートの斜視図である。
【
図2】
図1のII-II線におけるシートの断面図である。
【
図3】
図1のIII-III線におけるシートの断面図である。
【
図4】(a)は熱接着糸が縫い付けられた表皮の斜視図であり、(b)は表皮の平面図である。
【
図5】第2実施形態におけるシートの断面図である。
【
図6】(a)は表皮材同士を縫い合わせる前の説明図であり、(b)は表皮材同士を縫い合わせた後の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。まず、
図1、
図2及び
図3を参照して、第1実施形態におけるシート1について説明する。
図1は第1実施形態におけるシート1の斜視図である。
図2は
図1のII-II線におけるシート1の断面図である。
図3は
図1のIII-III線におけるシート1の断面図である。
【0017】
図1に示すように、シート1は、車両に搭載される座席である。シート1は、着座者の臀部を支持するシートクッション2と、着座者の背もたれとなるシートバック3と、着座者の頭部を支えるヘッドレスト4とを、主に備える。
【0018】
図2及び
図3に示すように、シートクッション2は、弾力性のある軟質ポリウレタンフォーム等の発泡合成樹脂製のクッション材からなるシートパッド10と、シートパッド10を覆う表皮20と、シートパッド10を支持するフレーム(図示せず)とを備える。なお、シートバック3やヘッドレスト4は、詳細形状は異なるがシートクッション2と同様に、シートパッド10を表皮20で覆って構成されている。よって、シートクッション2のシートパッド10及び表皮20を用いて説明する構成は、シートバック3やヘッドレスト4にも適用可能である。
【0019】
シートパッド10は、シートクッション2の外形形状を設定する部位であり、着座者側の表面10aに溝11が形成されている。表皮20は、ファブリックや合成皮革、皮革、布状の発泡合成樹脂などの単層または複数層からなる複数の表皮材21,22を備える。
【0020】
図2に示すように、表皮20は、表皮材21,22同士の端縁23,24側を、端縁23,24に沿って縫合糸25により直線状に縫い合わせて形成されている。表皮材21の表面21aと表皮材22の表面22aとが互いに接触した状態で縫い合わされている。縫合糸25は、後述する接着工程における熱接着糸31の加熱により軟化、溶融または分解しない糸である。
【0021】
表皮材21,22のうち、端縁23,24から縫合糸25の縫い目までの部位がそれぞれ縫い代26,27である。縫い代26,27及び端縁23,24は、シートパッド10の溝11に挿入される。そして、熱可塑性樹脂からなる接着剤30によって縫い代(被接着部)26,27が溝11の底面や壁面に接着されている。
【0022】
図3に示すように、表皮20は、シートパッド10の表面10aだけでなくシートパッド10の裏面10bの一部を覆っている。この表皮20(表皮材21)の端縁28近傍の部位である被接着部36は、接着剤30によって裏面10bに接着されている。
【0023】
次に、
図2及び
図3に加えて
図4を参照し、シート1の製造方法について説明する。
図4(a)は熱接着糸31が縫い付けられた表皮20の斜視図である。
図4(b)は
図4(a)の表皮20の平面図である。
図4(a)は表皮材21,22の縫い代26,27の外形線を二点鎖線で示している。
図4(a)及び
図4(b)には、縫い代26,27の一部分を示し、その他の部分を省略している。
【0024】
シート1を製造するには、まず、複数の表皮材21,22を縫合糸25により縫い合わせる(縫合工程)。次いで、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、複数のピンホール35を貫通形成しながら表皮材21,22に熱接着糸31を縫い付ける(縫付工程)。縫付工程後の接着工程では、表皮材21,22に縫い付けられた熱接着糸31を加熱して軟化または溶融させると共に、その熱接着糸31近傍の表皮材21,22をシートパッド10(
図2及び
図3参照)に押し付ける。そして、熱接着糸31を軟化または溶融後に再硬化させた接着剤30によって表皮20の一部をシートパッド10に接着する。
【0025】
本実施形態では、縫合工程により複数の表皮材21,22の全てを縫い合わせて表皮20を形成した後、縫付工程により表皮材21,22に熱接着糸31を縫い付けている。なお、複数の表皮材21,22の一部を縫い合わせた後、表皮材21,22に熱接着糸31を縫い付け、その後に残りの表皮材21,22を縫い合わせて表皮20を形成しても良い。
【0026】
熱接着糸31は、接着工程における加熱によって軟化または溶融する熱可塑性樹脂から全体が構成されている。熱接着糸31の熱可塑性樹脂の融点は、その融点までシートパッド10や表皮20を加熱したときに、シートパッド10や表皮材21,22、縫合糸25等が軟化、溶融または分解しないように設定される。本実施形態では、熱接着糸31は、融点が約80℃のナイロンから構成されている。熱接着糸31は、毛番手において8番手以下、即ち、1g当たりの長さが8m以下となる太さの糸である。
【0027】
縫付工程では、オーバーロックミシン(図示せず)を用いて、表皮材21,22の端縁23,24側である縫い代26,27同士を重ねた部位に熱接着糸31をかがり縫いする。かがり縫い(オーバーロックステッチ)とは、熱接着糸31の一部が表皮材21,22の端縁23,24を包んでいるステッチである。なお、
図4(a)及び
図4(b)には2本の熱接着糸31を用いたかがり縫いを例示しているが、3本以上の熱接着糸31を用いたり、ステッチの形状を変更したりしても良い。
【0028】
端縁23,24に沿ってかがり縫いされているので、そのかがり縫いによるステッチの長さ方向Aは、端縁23,24の配置方向と略平行になっている。このステッチは、熱接着糸31の一部が端縁23,24に沿う縁部32と、熱接着糸31の一部が表皮材21,22の裏面21b,22b(外面)に沿う外面部33,34とを備える。
【0029】
外面部33,34は、裏面21b,22bのそれぞれに設けられる。外面部33は、縁部32と外面部34とを繋いで、ステッチの長さ方向Aと交差する方向に配置される。この外面部33によって、かがり縫いによるステッチは幅Wを有する。外面部34は、長さ方向Aに離れた外面部34同士を繋いで、ステッチの長さ方向Aに沿って配置される。
【0030】
なお図示しないが、縫付工程では、縫い代26,27へのかがり縫いと同様に、表皮20(表皮材21)の被接着部36にも熱接着糸31をかがり縫いする。この場合、縁部32が被接着部36の端縁28に沿い、外面部33,34がそれぞれ被接着部36の表面21a及び裏面21bに沿う。
【0031】
接着工程では、シートパッド10に蒸気ノズル(図示せず)を挿入し、その蒸気ノズルから噴出する蒸気により、表皮材21,22の裏面21b,22b側から熱接着糸31を80℃以上に加熱して熱接着糸31を軟化または溶融させる。なお、表皮材21,22が蒸気を通し易い、表皮材21,22の熱伝導率が良い等、表皮材21,22の材質によっては表皮材21,22の表面21a,22a側から熱接着糸31を、蒸気やヒータ等により加熱しても良い。
【0032】
図2及び
図3に示すように、接着工程後のシート1の縫い代(被接着部)26,27や被接着部36には、熱接着糸31を縫い付けたときに針が通った複数のピンホール35が貫通形成されている。縫い代26,27や被接着部36に特定のステッチで同じ針を用いて熱接着糸31を縫い付けるので、同じ大きさの複数のピンホール35が間隔をあけて並んでいる。なお、本明細書では、同じ針を用いて形成した複数のピンホール35の大きさが若干ばらついたとしても、複数のピンホール35の大きさが同じであるとする。
【0033】
接着工程において軟化または溶融させた熱接着糸31が完全に複数のピンホール35から排出することは殆どないので、再硬化した接着剤30の一部が複数のピンホール35の少なくとも一部に残る。そこで、接着工程後のシート1において、熱可塑性樹脂からなる接着剤30によって縫い代26,27や被接着部36がシートパッド10に接着され、縫い代26,27や被接着部36に設けられた複数のピンホール35の少なくとも一部に接着剤30があることを確認する。
【0034】
これらが確認された場合、シート1の製造方法を確認しなくても、複数のピンホール35を通って縫い付けられていた熱接着糸31(糸状の熱可塑性樹脂)が軟化または溶融して再硬化した接着剤30により、シートパッド10に縫い代26,27や被接着部36が接着されていることが、接着工程後のシート1から分かる。
【0035】
また、接着工程後のシート1において、複数のピンホール35を連続して通っている糸がないことを確認する。この糸としては、糸自体の外面が互いに結合しておらず、略一様な太さを有しており、接着剤30の軟化点や融点以下では軟化、溶融または分解しないものを指す。このような糸が複数のピンホール35を連続して通っていなければ、シート1の製造方法において、接着工程における加熱により軟化または溶融する熱可塑性樹脂から全体が構成される熱接着糸31がピンホール35を通っていたことが、接着工程後のシート1から分かる。
【0036】
以上のようなシート1の製造方法によれば、表皮材21,22に縫い付けられた熱可塑性樹脂製の熱接着糸31を加熱後に再硬化させ、熱接着糸31を再硬化させた接着剤30により表皮20をシートパッド10に接着する。これにより、熱接着糸31の太さやステッチ、ピッチ、縫い付け範囲を適宜設定することで、接着が必要な位置に適切な量の熱接着糸31(接着剤30)を容易に設けることができる。よって、熱接着糸31の使用量を調整し易くできると共に、熱接着糸31を配置し易くできる。
【0037】
特に、熱接着糸31のステッチ、ピッチ、縫い付け範囲は、熱接着糸31の種類を変えることなく変更できるので、熱接着糸31の太さを固定することによって、熱接着糸31の使用量をより調整し易くできる。なお、熱接着糸31(接着剤30)の使用量を適切に設定することで、シートパッド10への表皮20の接着強度を確保できると共に、再硬化した接着剤30によるシート1の座り心地の悪化を抑制できる。
【0038】
また、表皮20よりもシートパッド10の方が通気性が良く変形し易いので、表皮20に縫い付けられた熱接着糸31をシートパッド10に密着させ易い。そのため、予めシートパッド10に接着剤30を設ける場合と比べて、接着強度を確保するために必要な熱接着糸31の使用量を削減できる。よって、接着強度を確保しつつシート1の座り心地を良くできる。
【0039】
さらに、熱接着糸31の縫い付け時のピンホール35に、再硬化した接着剤30の一部が残ることで、接着剤30を表皮20に強固に固着できる。これにより、接着強度を確保するために必要な熱接着糸31の使用量を削減できるので、接着強度を確保しつつシート1の座り心地を良くできる。
【0040】
接着工程における加熱によって軟化または溶融する熱可塑性樹脂から熱接着糸31の全体が構成されている。これにより、接着工程後、熱接着糸31の加熱によって溶融または軟化しない糸が表皮材21,22の一部に縫い付けられたままになって、その表皮材21,22の一部が硬くなることを防止できる。その結果、シート1の座り心地を向上できる。
【0041】
表面21a,22a同士を接触させて、互いに重ねた状態の表皮材21,22の縫い代26,27に熱接着糸31を縫い付けるので、表皮材21,22にそれぞれ熱接着糸31を縫い付ける場合と比べて、縫付工程にかかる時間を短縮できる。また、シートパッド10に接触しない表皮材21,22の表面21a,22aに熱接着糸31を設けないようにできるので、接着強度に殆ど関係ない部分の熱接着糸31を省略して表皮20が硬くなることを防止でき、シート1の座り心地を向上できる。
【0042】
ステッチの長さ方向Aと交差する方向に配置される外面部33(熱接着糸31の一部)によって、熱接着糸31のステッチが幅Wを有する。このステッチの幅Wを調整可能となるので、接着が必要な位置に適切な量の熱接着糸31をより容易に設けることができる。よって、熱接着糸31の使用量をより調整し易くできる。
【0043】
溝11に挿入される表皮材21,22の端縁23,24(縫い代26,27)に熱接着糸31がかがり縫いされて縁部32及び外面部33,34が形成される。そのため、縁部32の熱接着糸31によって表皮材21,22の端縁23,24を溝11の底面に接着でき、外面部33,34の熱接着糸31によって縫い代26,27の裏面21b,22bを溝11の壁面に接着できる。これにより、シートパッド10と表皮20との接着面積を大きくできる。その結果、熱接着糸31による接着強度を確保しつつ、熱接着糸31の使用量を削減してシート1の座り心地を向上できる。
【0044】
熱接着糸31の1g当たりの長さが8m以下となる太さなので、オーバーロックミシンを用いた縫い付け時の摩擦熱で熱接着糸31を切れ難くできる。その結果、オーバーロックミシンにより熱接着糸31を素早く容易にかがり縫いできる。即ち、幅Wのあるステッチの熱接着糸31をオーバーロックミシンによって素早く容易に配置できる。
【0045】
また、オーバーロックミシンでは、表皮材21,22への熱接着糸31のかがり縫いに連続して何もないところをかがり縫いし、熱接着糸31だけが編まれた部分を作ることができる。表皮材21,22側へ折り返した熱接着糸31だけの部分によってもシートパッド10と表皮20とを接着できる。この熱接着糸31だけの部分によっても熱接着糸31の使用量を容易に調整できる。
【0046】
次に
図5及び
図6を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、縫合工程により表皮材21,22を縫い合わせた後、互いに重ねた状態の縫い代26,27に熱接着糸31を縫い付ける場合について説明した。これに対し第2実施形態では、表皮材21,22にそれぞれ熱接着糸31を縫い付けた後、縫合工程により表皮材21,22同士を縫い合わせる場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0047】
図5は第2実施形態におけるシート40の断面図である。
図6(a)は表皮材21,22同士を縫い合わせる前の説明図である。
図6(b)は表皮材21,22同士を縫い合わせた後の説明図である。なお、
図6(a)及び
図6(b)には、熱接着糸31がかがり縫いされた範囲をハッチングにより模式的に示している。
【0048】
図5に示すように、シート(シートクッション)40は、シートパッド10と、シートパッド10を覆う表皮20と、を主に備えている。表面21a,22a同士を接触させた状態で縫合糸25により表皮材21,22同士を縫い合わせ、その縫い代26,27の表面21a,22aがそれぞれ接着剤30によってシートパッド10の溝11の底面に接着されている。
【0049】
図6に示すように、このシート40を製造するには、まず表皮材21,22の端縁23,24にそれぞれ熱接着糸31をかがり縫いする(縫付工程)。縫付工程後、表皮材21,22にかがり縫いされた熱接着糸31が縫い代26,27に位置するように、表皮材21,22同士を縫合糸25によって縫い合わせる(縫合工程)。縫合工程後の表皮20の各部位に熱接着糸31を縫い付ける場合と比べて、縫合工程の前に1枚の表皮材21,22にそれぞれ熱接着糸31を縫い付ける方が、表皮材21,22に熱接着糸31を縫い付けやすくできる。
【0050】
縫付工程によって表皮材21,22にそれぞれ熱接着糸31がかがり縫いされるので、縫合工程により縫い合わされて縫い代26,27となる部位であって互いに対面する表面21a,22aに熱接着糸31を縫い付けることができる。これにより、縫合工程後に縫い合わされた表皮材21,22の縫い代26,27を割り、その縫い代26,27の表面21a,22aに設けた熱接着糸31をそれぞれシートパッド10に押し付けることができる。
【0051】
この状態で熱接着糸31を加熱し、熱接着糸31を溶融または軟化後に再硬化させた接着剤30によって縫い代26,27の表面21a,22aをシートパッド10に接着できる。これにより、シートパッド10と表皮20との接着面積を多くできるので、熱接着糸31による接着強度を確保しつつ、熱接着糸31の使用量を削減してシート40の座り心地を向上できる。
【0052】
熱接着糸31が縫い代26,27にかがり縫いされているので、縫い代26,27の表面21a,22aを溝11の底面に接着できるのに加えて、縫い代26,27の端縁23,24をそれぞれ溝11の壁面に接着できる。これにより、シートパッド10と表皮20との接着面積をより多くできるので、熱接着糸31による接着強度を確保しつつ、熱接着糸31の使用量をより削減してシート40の座り心地をより向上できる。
【0053】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、シートクッション2やシートバック3、ヘッドレスト4の形状を適宜変更しても良い。また、シートパッド10を表皮20で覆ったものであれば、シートクッション2やシートバック3、ヘッドレスト4以外のもの(例えばアームレスト)に本発明を適用することは可能である。
【0054】
上記形態では、シート1,40が車両に搭載される座席である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。船舶や航空機など車両以外の乗物の座席にシート1,40を適用しても良く、家具用の座席にシート1,40を適用しても良い。
【0055】
上記形態では、シートパッド10が軟質ポリウレタンフォーム等の発泡合成樹脂製である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、シートパッド10の材質は適宜変更可能である。発泡合成樹脂以外の他の材質としては、例えば、合成樹脂製等の繊維をウレタン等のバインダで硬化(結合)したもの、合成樹脂製の繊維を熱で溶融して互いに溶着させたもの等が挙げられる。
【0056】
上記形態では、表皮材21,22に熱接着糸31がかがり縫いされる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、熱接着糸31のステッチを適宜変更しても良い。例えば、カバーロックミシンを用いて、熱接着糸31を偏平縫い(カバーステッチ)によって表皮材21,22に縫い付けても良い。この偏平縫いは、表皮材21,22の表面21a,22aに複数本の直線状の熱接着糸31のステッチが現れ、表皮材21,22の裏面21b,22bにかがり縫いと同様の熱接着糸31のステッチが現れる。これにより、裏面21b,22bのみをシートパッド10に接着する場合、熱接着糸31の使用量を削減してシート40の座り心地を向上できる。
【0057】
なお、本明細書では、オーバーロックミシン、カバーロックミシン、それらの複合機を総称してロックミシンと言う。熱接着糸31の1g当たりの長さが8m以下となる太さであれば、オーバーロックミシン以外のロックミシンを用いた縫い付け時にも摩擦熱で熱接着糸31を切れ難くできる。なお、熱接着糸31の縫い付けにロックミシンを用いない場合、熱接着糸31の1g当たりの長さが8mより大きくなる太さにしても良い。
【0058】
また、直線状の本縫いや単環縫い、二重環縫い等のステッチによって表皮材21,22に熱接着糸31を縫い付けても良い。直線状のステッチを複数列設け、その列数を変更することで熱接着糸31による接着強度を調整できる。また、表皮材21,22の表面21a,22aや裏面21b,22bに沿う熱接着糸31の少なくとも一部が長さ方向Aと交差する方向に配置される非直線状の本縫いや単環縫い、二重環縫い等のステッチによって、表皮材21,22に熱接着糸31を縫い付けても良い。この場合、ステッチの幅を変更することで熱接着糸31による接着強度を調整できる。
【0059】
上記形態では、接着工程による加熱によって軟化または溶融する熱可塑性樹脂から熱接着糸31の全体が構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。接着工程による加熱によって軟化または溶融する熱可塑性樹脂を熱接着糸が含んでいれば、接着工程による加熱によって軟化または溶融しない糸が残る熱接着糸を用いても良い。接着工程による加熱によって軟化または溶融しない糸が残る熱接着糸によって表皮材21,22を縫い合わせることで、表皮材21,22を縫い合わせる縫合糸25を省略できる。
【符号の説明】
【0060】
1,40 シート
10 シートパッド
11 溝
20 表皮
21,22 表皮材
21a,22a 表面(外面)
21b,22b 裏面(外面)
23,24,28 端縁
26,27 縫い代(被接着部)
30 接着剤
31 熱接着糸
35 ピンホール
36 被接着部
A 長さ方向