(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】カラオケ装置
(51)【国際特許分類】
G10K 15/04 20060101AFI20221214BHJP
G10L 25/51 20130101ALI20221214BHJP
【FI】
G10K15/04 302D
G10L25/51 100
(21)【出願番号】P 2018248164
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390004710
【氏名又は名称】株式会社第一興商
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】橘 聡
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-072698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/04
G10L 25/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラオケ楽曲の歌唱により得られた歌唱音声信号から、所定区間毎に歌唱ピッチを検出する歌唱ピッチ検出部と、
検出した前記歌唱ピッチの中に、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲内であり、且つ所定数以上連続する第1の水平区間及び第2の水平区間と、当該第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチから当該第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチに至るまで、所定の条件で歌唱ピッチが上昇する上昇区間とが存在する場合、ハンマリング・オン歌唱が行われていると特定するハンマリング・オン歌唱特定部と、
前記カラオケ楽曲のリファレンスデータに含まれる一のノートの発音開始タイミングから発音終了タイミングまでの期間において、特定された前記ハンマリング・オン歌唱による歌唱区間のうち、前記第1の水平区間の少なくとも一部、前記上昇区間の全部、及び前記第2の水平区間の少なくとも一部が含まれている場合、当該一のノートに対するハンマリング・オン歌唱が行われたと判定するハンマリング・オン歌唱判定部と、
を有し、
前記ハンマリング・オン歌唱判定部は、更に、前記第2の水平区間の少なくとも一部に含まれる歌唱ピッチが、前記一のノートのピッチに対して一定の範囲に含まれると判断した場合、前記一のノートに対するハンマリング・オン歌唱が行われたと判定することを特徴とするカラオケ装置。
【請求項2】
前記ハンマリング・オン歌唱特定部は、
検出した前記歌唱ピッチのうち、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が前記所定範囲内であり、且つ所定数以上連続している場合、当該ピッチ差を求める際に用いた最初の歌唱ピッチを第1の水平区間の開始時の歌唱ピッチとし、
前記連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が前記所定範囲外となる場合、当該ピッチ差を求める際に用いた最後の歌唱ピッチの一つ前の歌唱ピッチを前記第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチとすることで第1の水平区間を特定し、
前記第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチ以降に検出された歌唱ピッチのうち、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が前記所定範囲内であり、且つ所定数以上連続している場合、当該ピッチ差を求める際に用いた最初の歌唱ピッチを前記第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチとし、
前記連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が前記所定範囲外となる場合、当該ピッチ差を求める際に用いた最後の歌唱ピッチの一つ前の歌唱ピッチを第2の水平区間の終了時の歌唱ピッチとすることで第2の水平区間を特定し、
前記第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチと、前記第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチとのピッチ差が所定値以上である場合、前記第1の水平区間と前記第2の水平区間との間を上昇区間候補とし、
前記上昇区間候補の開始時から終了時までの間に、連続するピッチ差がプラスになるものが一定数以上あり、且つ当該上昇区間候補の開始時から終了時までの間に連続するピッチ差がマイナスになるものが所定割合未満の場合、当該上昇区間候補を前記上昇区間として特定することを特徴とする請求項1記載のカラオケ装置。
【請求項3】
あるノートの採点結果が不合格と判定された場合、且つ当該あるノートに対する前記ハンマリング・オン歌唱が行われていた場合、当該あるノートの採点結果を合格と判定する採点処理部を有することを特徴とする請求項
1または2記載のカラオケ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラオケ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カラオケ装置は、マイクにより入力された歌唱音声から抽出した歌唱音声データと、カラオケ演奏された楽曲の主旋律を示すリファレンスデータとを比較することにより、カラオケ歌唱の巧拙を採点する採点機能が搭載されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、カラオケ演奏に合わせてマイクから入力される歌唱音声信号から音高データ及び音長データを抽出し、カラオケ演奏に並行して読み出されるガイドメロディと比較することによって歌唱の巧拙を採点評価する技術が開示されている。
【0004】
また、歌唱者の中にはプロ歌手の歌唱を真似て、しゃくり、フォール、こぶし、シャウトなどの特殊な歌唱技法を用いて歌唱を行う者もいる。特許文献2~5には、このような特殊な歌唱技法を検出し、歌唱を評価する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-69216号公報
【文献】特開2005-107336号公報
【文献】特開2008-225115号公報
【文献】特開2008-268370号公報
【文献】特開2012-078701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、カラオケ歌唱の表現力を高めるために用いる技法としては従来知られていないものも存在する。歌唱者がこのような技法を使用した場合、従来のカラオケ装置ではこのような技法を特定することができない。また、上手いという印象を聴衆に与える歌唱技法であるにもかかわらず、従来の評価技術では減点対象としてしまう事もあった。
【0007】
本発明の目的は、カラオケ歌唱にハンマリング・オン歌唱(後述)が含まれるかどうかを特定することが可能なカラオケ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、聴感上特殊な歌唱と判断される歌唱音声信号に含まれる歌唱ピッチを解析したところ、ある高さで歌唱ピッチを一定期間維持した後、歌唱ピッチを上昇させ、その状態で歌唱ピッチを一定期間維持するという変化を示すことを見出した。このような変化は、特に、歌唱すべきノート(音符)のピッチより低い歌唱ピッチを一定期間維持した後、ノートのピッチと同程度になるまで歌唱ピッチを上昇させ、その状態で歌唱ピッチを一定期間維持するという形で得られる。本発明は、この発見に基づき、完成されたものであって、この歌唱独特のピッチの変化を検出することにより、この歌唱を特定することができる技術である。
【0009】
なお、このような歌唱は、歌唱ピッチの推移がギターなどの弦楽器の演奏方法であるハンマリング・オン(ある弦のあるフレットを人差し指などで押さえてピッキングした後、より高い音に繋がるように同じフレットの弦を薬指などで叩きつけるようにして音を出す方法)のピッチ推移と類似するため、以下「ハンマリング・オン歌唱」という。
【0010】
具体的に、上記目的を達成するための発明は、カラオケ楽曲の歌唱により得られた歌唱音声信号から、所定区間毎に歌唱ピッチを検出する歌唱ピッチ検出部と、検出した前記歌唱ピッチの中に、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲内であり、且つ所定数以上連続する第1の水平区間及び第2の水平区間と、当該第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチから当該第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチに至るまで、所定の条件で歌唱ピッチが上昇する上昇区間とが存在する場合、ハンマリング・オン歌唱が行われていると特定するハンマリング・オン歌唱特定部と、を有するカラオケ装置である。
本発明の他の特徴については、後述する明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カラオケ歌唱にハンマリング・オン歌唱が含まれるかどうかを特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係るカラオケ装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図2】実施形態に係るカラオケ本体のソフトウェア構成例を示す図である。
【
図3】実施形態に係るハンマリング・オン歌唱の特定処理を示すフローチャートである。
【
図4A】実施形態に係る歌唱ピッチ及びピッチ差を示した図である。
【
図4B】実施形態に係る歌唱ピッチ及びピッチ差を示した図である。
【
図5】実施形態に係る一のノートと歌唱ピッチの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
図1~
図5を参照して、実施形態に係るカラオケ装置1について説明する。
【0014】
==カラオケ装置==
カラオケ装置1は、カラオケ演奏及び歌唱者がカラオケ歌唱を行うための装置である。カラオケ装置1は、歌唱者が選曲したカラオケ楽曲を予約待ち行列に登録し、順番にカラオケ演奏を行う。
図1に示すように、カラオケ装置1は、カラオケ本体10、スピーカ20、表示装置30、マイク40、及びリモコン装置50を備える。
【0015】
スピーカ20はカラオケ本体10からの放音信号に基づいて放音するための構成である。表示装置30はカラオケ本体10からの信号に基づいて映像や画像を画面に表示するための構成である。マイク40は歌唱者の歌唱音声(マイク40への入力音声)をアナログの歌唱音声信号に変換してカラオケ本体10に入力するための構成である。リモコン装置50は、カラオケ本体10に対する各種操作をおこなうための装置である。歌唱者はリモコン装置50を用いて歌唱を希望するカラオケ楽曲の選曲(予約)等を行うことができる。リモコン装置50の表示画面には各種操作の指示入力を行うためのアイコン等が表示される。
【0016】
カラオケ本体10は、選曲されたカラオケ楽曲の演奏制御、歌詞や背景映像等の表示制御、マイク40を通じて入力された歌唱音声信号の処理といった、カラオケ歌唱に関する各種の制御を行う。
図1に示すように、カラオケ本体10は、制御部11、通信部12、記憶部13、音響処理部14、表示処理部15及び操作部16を備える。各構成はインターフェース(図示なし)を介してバスBに接続されている。
【0017】
制御部11は、CPU11aおよびメモリ11bを備える。CPU11aは、メモリ11bに記憶された動作プログラムを実行することにより各種の制御機能を実現する。メモリ11bは、CPU11aに実行されるプログラムを記憶したり、プログラムの実行時に各種情報を一時的に記憶したりする記憶装置である。
【0018】
通信部12は、ルーター(図示なし)を介してカラオケ本体10を通信回線に接続するためのインターフェースを提供する。
【0019】
記憶部13は、各種のデータを記憶する大容量の記憶装置であり、たとえばハードディスクドライブなどである。記憶部13は、カラオケ装置1によりカラオケ演奏を行うための複数の楽曲データを記憶する。
【0020】
楽曲データは、個々のカラオケ楽曲を特定するための楽曲IDが付与されている。楽曲データは、伴奏データ、リファレンスデータ等を含む。伴奏データは、カラオケ演奏音の元となるデータである。伴奏データはカラオケ演奏をする際のテンポを示す情報を含む。テンポは、楽曲毎に所定の値が設定されている。リファレンスデータは、歌唱者によるカラオケ歌唱を採点する際の基準として用いられるデータである。リファレンスデータは、複数のノート(音符)から構成され、ノート毎に所定のピッチ(基準ピッチ)が設定されている。
【0021】
また、記憶部13は、各カラオケ楽曲に対応する歌詞を表示装置30等に表示させるための歌詞テロップデータ、カラオケ演奏時に表示装置30等に表示される背景画像等の背景画像データ、楽曲毎のカラオケ演奏時間を示す演奏時間データ及び楽曲の属性情報(歌手名、作詞・作曲者名、ジャンル等の当該楽曲に関する情報)を記憶する。
【0022】
音響処理部14は、制御部11の制御に基づき、カラオケ楽曲に対する演奏の制御およびマイク40を通じて入力された歌唱音声信号の処理を行う。表示処理部15は、制御部11の制御に基づき、表示装置30やリモコン装置50における各種表示に関する処理を行う。たとえば、表示処理部15は、カラオケ楽曲の演奏時における背景映像に歌詞テロップや各種アイコンが重ねられた映像を表示装置30に表示させる制御を行う。或いは、表示処理部15は、リモコン装置50の表示画面に操作入力用の各種アイコンを表示させる。操作部16は、パネルスイッチおよびリモコン受信回路などからなり、歌唱者によるカラオケ装置1のパネルスイッチあるいはリモコン装置50の操作に応じて選曲信号、演奏中止信号などの操作信号を制御部11に対して出力する。制御部11は、操作部16からの操作信号を検出し、対応する処理を実行する。
【0023】
(ソフトウェア構成)
図2はカラオケ本体10のソフトウェア構成例を示す図である。カラオケ本体10は、歌唱ピッチ検出部100、ハンマリング・オン歌唱特定部200、ハンマリング・オン歌唱判定部300、提示部400、及び採点処理部500を備える。歌唱ピッチ検出部100、ハンマリング・オン歌唱特定部200、ハンマリング・オン歌唱判定部300、提示部400、及び採点処理部500は、CPU11aがメモリ11bに記憶されるプログラムを実行することにより実現される。
【0024】
[歌唱ピッチ検出部]
歌唱ピッチ検出部100は、カラオケ楽曲の歌唱により得られた歌唱音声信号から、所定区間毎に歌唱ピッチを検出する。
【0025】
具体的に、歌唱ピッチ検出部100は、歌唱音声信号を解析し、歌唱ピッチを検出する。歌唱ピッチは、たとえば所定時間長(たとえば20msec)のフレーム単位で1サンプルずつ時系列に検出する。歌唱ピッチ検出部100は、検出した歌唱ピッチを、ハンマリング・オン歌唱特定部200に順次出力する。なお、歌唱ピッチの検出は、カラオケ楽曲の歌唱に伴って順次行ってもよいし、一のカラオケ楽曲の歌唱が全て終了した後にまとめて行ってもよい。すなわち本実施形態においては、時間長20msecのフレームが、歌唱ピッチ検出における所定区間に相当する。
【0026】
[ハンマリング・オン歌唱特定部]
ハンマリング・オン歌唱特定部200は、検出した歌唱ピッチの中に、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲内であり、且つ所定数以上連続する第1の水平区間及び第2の水平区間と、当該第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチから当該第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチに至るまで、所定の条件で歌唱ピッチが上昇する上昇区間とが存在する場合、ハンマリング・オン歌唱が行われていると特定する。
【0027】
水平区間は、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲内であり、且つ所定数以上連続する区間である。所定範囲は、水平区間を特定するにあたり、許容可能な連続する2つの歌唱ピッチのずれの幅である。所定数は、水平区間を特定するにあたり、最低限必要な、所定範囲内に含まれるピッチ差の歌唱ピッチが連続する数である。所定範囲及び所定数は、特定するハンマリング・オン歌唱の程度に応じて、予め任意の値が設定されている。たとえば、所定範囲は±1cent~±10centであり、所定数は3~8である。
【0028】
第2の水平区間は、あるカラオケ楽曲の歌唱において、第1の水平区間よりも後に特定される水平区間である。なお、第1の水平区間と第2の水平区間とで所定範囲や所定数が異なっていてもよい。
【0029】
上昇区間は、第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチから第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチに至るまで、所定の条件で歌唱ピッチが上昇する区間である。所定の条件は、上昇区間を特定するための条件である。所定の条件は、特定するハンマリング・オン歌唱の程度に応じて、予め任意の条件が設定されている。
【0030】
ここで、
図3~
図4Bを参照して、ハンマリング・オン歌唱の特定処理について詳細に説明を行う。
図3は、ハンマリング・オン歌唱の特定処理を示すフローチャートである。
図4A及び
図4Bは、カラオケ楽曲Xの歌唱により得られた歌唱音声信号を解析して検出された所定区間毎の歌唱ピッチと、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差を示した図である。
図4A及び
図4Bの例において、ピッチ差はcent値で示す。
【0031】
まず、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、検出した歌唱ピッチのうち、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲内であり、且つ所定数以上連続している場合、当該ピッチ差を求める際に用いた最初の歌唱ピッチを第1の水平区間の開始時の歌唱ピッチとする(第1の水平区間の開始時の歌唱ピッチの特定。ステップ10)。
【0032】
具体的に、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差を求め、当該ピッチ差が所定範囲内にあるかどうかを判断する。本実施形態における所定範囲は「±2cent」とする。
【0033】
図4Aによれば、歌唱ピッチP(1)と歌唱ピッチP(2)とのピッチ差Pd(1)は、「+13cent」である。ここで、Pd(1)=P(2)-P(1)で算出するものとし、以下も同様である。この場合、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、ピッチ差Pd(1)は所定範囲内にないと判断する。一方、歌唱ピッチP(2)と歌唱ピッチP(3)とのピッチ差Pd(2)は、「+2cent」である。この場合、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、ピッチ差Pd(2)は所定範囲内にあると判断する。なお、この例において、歌唱ピッチP(2)よりも前の歌唱ピッチについては考慮しないものとする。
【0034】
ハンマリング・オン歌唱特定部200は、検出された連続する2つの歌唱ピッチについて、順次、ピッチ差を求め、所定範囲内にあるかどうかを判断する。この際、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、所定範囲内にあるピッチ差が所定数以上連続するかどうかを判断する。所定数以上連続する場合、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、ピッチ差を求める際に用いた最初の歌唱ピッチを第1の水平区間の開始時の歌唱ピッチとする。本実施形態における所定数は「5」とする。
【0035】
図4Aによれば、所定範囲(±2cent)内にあるピッチ差は、最初に所定範囲内にあると判断されたピッチ差Pd(2)から、少なくともピッチ差Pd(6)まで5つ連続している。この場合、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、ピッチ差Pd(2)を求める際に用いた最初の歌唱ピッチP(2)を第1の水平区間HZ1の開始時の歌唱ピッチとする。
【0036】
次に、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲外となる場合、当該ピッチ差を求める際に用いた最後の歌唱ピッチの一つ前の歌唱ピッチを第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチとすることで第1の水平区間を特定する(第1の水平区間の特定。ステップ11)。
【0037】
具体的に、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、順次求めるピッチ差が所定範囲外となるかどうかを判断する。ピッチ差が所定範囲外となった場合、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、所定範囲外となったピッチ差を求める際に用いた最後の歌唱ピッチの一つ前の歌唱ピッチを第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチとすることで第1の水平区間を特定する。
【0038】
図4Aによれば、ピッチ差Pd(n)が、所定範囲外となっている。この場合、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、ピッチ差Pd(n)を求める際に用いた最後の歌唱ピッチP(n+1)の一つ前の歌唱ピッチP(n)を第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチとすることで第1の水平区間HZ1を特定する。すなわち、
図4Aの例では、歌唱ピッチP(2)が検出された所定区間から歌唱ピッチP(n)が検出された所定区間までが第1の水平区間HZ1に相当する。
【0039】
第1の水平区間を特定した後、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、同様の方法で第2の水平区間を特定する。
【0040】
すなわち、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチ以降に検出された歌唱ピッチのうち、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲内であり、且つ所定数以上が連続している場合、当該ピッチ差を求める際に用いた最初の歌唱ピッチを第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチとする(第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチの特定。ステップ12)。
【0041】
次に、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲外となる場合、当該ピッチ差を求める際に用いた最後の歌唱ピッチの一つ前の歌唱ピッチを第2の水平区間の終了時の歌唱ピッチとすることで第2の水平区間を特定する(第2の水平区間の特定。ステップ13)。
【0042】
更に、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチと、第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチとのピッチ差が所定値以上である場合、第1の水平区間と第2の水平区間との間を上昇区間候補とする(上昇区間候補の特定。ステップ14)。
【0043】
所定値は、第1の水平区間の歌唱ピッチに対して第2の水平区間の歌唱ピッチが上昇しているかどうかを判断するための値である。所定値は、特定するハンマリング・オン歌唱の程度に応じて、予め任意の値が設定されている。所定値は、たとえば+40cent~+120centである。本実施形態における所定値は「+80cent」とする。所定値は「所定の条件」の一例である。
【0044】
たとえば、第2の水平区間HZ2の開始時の歌唱ピッチから第1の水平区間HZ1の終了時の歌唱ピッチを減じたピッチ差が、「+100cent」であったとする。この場合、当該ピッチ差は所定値(+80cent)以上となる。従って、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、第1の水平区間HZ1と第2の水平区間HZ2との間を上昇区間候補RCとする。
【0045】
そして、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、上昇区間候補の開始時から終了時までの間に、連続するピッチ差がプラスになるものが一定数以上あり、且つ当該上昇区間候補の開始時から終了時までの間に連続するピッチ差がマイナスになるものが所定割合未満の場合、当該上昇区間候補を上昇区間として特定する(上昇区間の特定。ステップ15)。
【0046】
上昇区間候補の開始時の歌唱ピッチは、第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチの次に検出された歌唱ピッチに相当する。また、上昇区間候補の終了時の歌唱ピッチは、第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチの一つ前に検出された歌唱ピッチに相当する。また、一定数及び所定割合は、上昇区間候補とした区間が、実際に上昇区間であるかどうかを判断するための値である。一定数及び所定割合は、特定するハンマリング・オン歌唱の程度に応じて、予め任意の値が設定されている。たとえば、一定数は3~8であり、所定割合は(上昇区間候補に含まれるピッチ差の数全体の)10%~40%である。本実施形態における一定数は「6」であり、所定割合は「30%」とする。一定数及び所定割合は「所定の条件」の一例である。
【0047】
図4Bによれば、上昇区間候補RCに含まれるピッチ差Pd(n+1)~ピッチ差Pd(s-1)の10個のうち、ピッチ差がプラスになっているものは「8」であり、且つピッチ差がマイナスになるものの割合は「20%」である。従って、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、
図4Bに示した上昇区間候補RCを上昇区間RZとして特定する。
【0048】
このように、第1の水平区間、第2の水平区間、及び上昇区間が存在する場合、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、ハンマリング・オン歌唱が行われていると特定する(ハンマリング・オン歌唱の特定。ステップ16)。すなわち、特定された第1の水平区間、第2の水平区間、及び上昇区間が、ハンマリング・オン歌唱による歌唱区間となる。
【0049】
[ハンマリング・オン歌唱判定部]
ハンマリング・オン歌唱判定部300は、カラオケ楽曲のリファレンスデータに含まれる一のノートの発音開始タイミングから発音終了タイミングまでの期間において、特定されたハンマリング・オン歌唱による歌唱区間のうち、第1の水平区間の少なくとも一部、上昇区間の全部、及び第2の水平区間の少なくとも一部が含まれている場合、当該一のノートに対するハンマリング・オン歌唱が行われたと判定する。
【0050】
発音開始タイミングは、ノートを歌唱する際に発音を開始すべき時刻を示す。ノートの発音開始タイミングは、カラオケ楽曲の演奏開始時点を0とした場合の、当該ノートまでの経過時間に相当する。発音終了タイミングは、ノートを歌唱する際に発音を終了すべき時刻を示す。
【0051】
ハンマリング・オン歌唱判定部300は、ハンマリング・オン特定部200で特定されたハンマリング・オン歌唱が、一のノートに対して行われたものかどうかを判定する。
【0052】
あるハンマリング・オン歌唱が一のノートに対して行われたかどうかは、一のノートの発音開始タイミングから発音終了タイミングまでの期間において、ハンマリング・オン歌唱の歌唱区間のうち、第1の水平区間の少なくとも一部、上昇区間の全部、及び第2の水平区間の少なくとも一部が含まれているかどうかにより判定する。
【0053】
図5は、一のノートと歌唱ピッチの関係を示した図である。
図5において、ノートNのピッチ(基準ピッチ)をピッチPnで示す。また、開始時刻TsはノートNの発音開始タイミングであり、終了時刻TeはノートNの発音終了タイミングである。
図5における縦軸は歌唱ピッチを示し、横軸は時刻を示すが、横軸は連続する時間長20msecの所定区間と解してもよく所定区間毎に歌唱ピッチが検出される。
【0054】
図5に示したように、ノートNの開始時刻Tsから終了時刻Teまでの間に、第1の水平区間HZ1の全部、上昇区間RZの全部、及び第2の水平区間HZ2の全部が含まれる場合(
図5(a)参照)、第1の水平区間HZ1の一部、上昇区間RZの全部、及び第2の水平区間HZ2の全部が含まれる場合(
図5(b)参照)、第1の水平区間HZ1の全部、上昇区間RZの全部、及び第2の水平区間HZ2の一部が含まれる場合(
図5(c)参照)、または第1の水平区間HZ1の一部、上昇区間RZの全部、及び第2の水平区間HZ2の一部が含まれる場合(
図5(d)参照)のいずれかの条件を満たす場合、ハンマリング・オン歌唱判定部300は、ノートNに対するハンマリング・オン歌唱が行われたと判定する。
【0055】
なお、ハンマリング・オン歌唱判定部300は、更に、第2の水平区間の少なくとも一部に含まれる歌唱ピッチが、一のノートのピッチに対して一定の範囲に含まれると判断した場合、一のノートに対するハンマリング・オン歌唱が行われたと判定してもよい。一定の範囲は、ハンマリング・オン歌唱の判定精度に応じて、予め任意の値が設定されている。たとえば、一定の範囲は、ノートのピッチを基準として±10cent~±50centである。或いは、一定の範囲は、ノートのピッチよりも高い範囲(たとえばノートのピッチから+30centまでの範囲)や低い範囲(たとえばノートのピッチから-30centまでの範囲)とすることも可能である。
【0056】
第2の水平区間の少なくとも一部に含まれる歌唱ピッチが、一のノートのピッチに対して一定の範囲に含まれるかどうかの判断は様々な基準で行うことができる。たとえば、ハンマリング・オン歌唱判定部300は、第2の水平区間に含まれる歌唱ピッチそれぞれについて、一定の範囲に含まれるかどうかを判断し、ある割合以上(たとえば80%以上)が一定の範囲に含まれる場合に、ハンマリング・オン歌唱が行われたと判断する。或いは、ハンマリング・オン歌唱判定部300は、第2の水平区間に含まれる歌唱ピッチの平均値を求め、その平均値が一定の範囲に含まれるかどうかを判断してもよい。
【0057】
また、一のノートの発音開始タイミングから発音終了タイミングまでの期間において、第2の水平区間の全部が含まれる場合、ハンマリング・オン歌唱判定部300は、第2の水平区間に含まれる全ての歌唱ピッチについて、一定の範囲に含まれるかどうかを判断してもよいし、その一部の歌唱ピッチのみについて、一定の範囲に含まれるかどうかを判断してもよい。
【0058】
[提示部]
提示部400は、ハンマリング・オン歌唱判定部300による判定結果を歌唱者に提示する。たとえば、ノートNに対するハンマリング・オン歌唱が行われたとの判定結果が入力された場合、提示部400は、たとえば、表示装置30に表示されるノートNに対応するガイドメロディ画像近傍にハンマリング・オン歌唱が行われた旨のアイコンを表示させることができる。ガイドメロディ画像は、歌唱者のカラオケ歌唱を支援するために、カラオケ楽曲のメロディを画像として表示させたものである。ガイドメロディ画像の表示については公知の手法を用いることが可能である(たとえば特開2004-205817号公報参照)。
【0059】
なお、提示部400は、ガイドメロディ画像と関係なく、ハンマリング・オン歌唱が行われた旨のアイコンのみを表示させることもできる。或いは、提示部400は、ハンマリング・オン歌唱が行われた旨のアイコンを表示させる代わりにスピーカ20を介して音声(拍手、歓声等)でハンマリング・オン歌唱が行われた旨を報知することでもよい。
【0060】
[採点処理部]
採点処理部500は、カラオケ楽曲の歌唱により得られる歌唱音声信号を当該カラオケ楽曲のリファレンスデータと比較し、採点値を算出する。採点値を算出する処理は公知の手法を用いることができる。たとえば、採点処理部500は、マイク40から入力された歌唱音声信号に基づく歌唱ピッチと、リファレンスデータに基づく基準ピッチにより、歌唱音程の正確さについての採点処理を行う。
【0061】
ここで、本実施形態に係る採点処理部500は、あるノートの採点結果が不合格と判定された場合、且つ当該あるノートに対するハンマリング・オン歌唱が行われていた場合、当該あるノートの採点結果を合格と判定する。
図5に示すように、ハンマリング・オン歌唱は、ノートの基準ピッチとのずれが大きくなるため、一般的な採点処理によれば、不合格となる可能性が高い。そこで、採点処理部500は、あるノートの採点結果が不合格となった場合であっても、ハンマリング・オン歌唱判定部300により、当該あるノートに対してハンマリング・オン歌唱が行われたと判定された場合には、当該あるノートを合格として判定する。
【0062】
以上から明らかなように、本実施形態に係るカラオケ装置1は、カラオケ楽曲の歌唱により得られた歌唱音声信号から、所定区間毎に歌唱ピッチを検出する歌唱ピッチ検出部100と、検出した歌唱ピッチの中に、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲内であり、且つ所定数以上連続する第1の水平区間及び第2の水平区間と、当該第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチから当該第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチに至るまで、所定の条件で歌唱ピッチが上昇する上昇区間とが存在する場合、ハンマリング・オン歌唱が行われていると特定するハンマリング・オン歌唱特定部200と、を有する。このようなカラオケ装置1によれば、カラオケ歌唱にハンマリング・オン歌唱が含まれるかどうかを特定することができる。
【0063】
より、具体的に、ハンマリング・オン歌唱特定部200は、検出した歌唱ピッチのうち、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲内であり、且つ所定数以上連続している場合、当該ピッチ差を求める際に用いた最初の歌唱ピッチを第1の水平区間の開始時の歌唱ピッチとし、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲外となる場合、当該ピッチ差を求める際に用いた最後の歌唱ピッチの一つ前の歌唱ピッチを第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチとすることで第1の水平区間を特定し、第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチ以降に検出された歌唱ピッチのうち、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲内であり、且つ所定数以上連続している場合、当該ピッチ差を求める際に用いた最初の歌唱ピッチを第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチとし、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲外となる場合、当該ピッチ差を求める際に用いた最後の歌唱ピッチの一つ前の歌唱ピッチを第2の水平区間の終了時の歌唱ピッチとすることで第2の水平区間を特定し、第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチと、第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチとのピッチ差が所定値以上である場合、第1の水平区間と第2の水平区間との間を上昇区間候補とし、上昇区間候補の開始時から終了時までの間に、連続するピッチ差がプラスになるものが一定数以上あり、且つ当該上昇区間候補の開始時から終了時までの間に連続するピッチ差がマイナスになるものが所定割合未満の場合、当該上昇区間候補を上昇区間として特定する。ハンマリング・オン歌唱特定部200がこのような処理を実行することにより、カラオケ歌唱にハンマリング・オン歌唱が含まれるかどうかを特定することができる。
【0064】
また、本実施形態に係るカラオケ装置1は、カラオケ楽曲のリファレンスデータに含まれる一のノートの発音開始タイミングから発音終了タイミングまでの期間において、特定されたハンマリング・オン歌唱による歌唱区間のうち、第1の水平区間の少なくとも一部、上昇区間の全部、及び第2の水平区間の少なくとも一部が含まれている場合、当該一のノートに対するハンマリング・オン歌唱が行われたと判定するハンマリング・オン歌唱判定部300を有する。このようなカラオケ装置1によれば、あるノートの歌唱にハンマリング・オン歌唱が含まれるかどうかを判定することができる。
【0065】
また、ハンマリング・オン歌唱判定部300は、更に、第2の水平区間の少なくとも一部に含まれる歌唱ピッチが、一のノートのピッチに対して一定の範囲に含まれると判断した場合、一のノートに対するハンマリング・オン歌唱が行われたと判定することも可能である。このようなカラオケ装置によれば、あるノートの歌唱にハンマリング・オン歌唱が含まれるかどうかをより正確に判定することができる。
【0066】
更に、本実施形態に係るカラオケ装置1は、あるノートの採点結果が不合格と判定された場合、且つ当該あるノートに対するハンマリング・オン歌唱が行われていた場合、当該あるノートの採点結果を合格と判定する採点処理部500を有する。このようなカラオケ装置によれば、ハンマリング・オン歌唱という歌唱技法が用いられたにも関わらず、それが反映されない採点結果となることを回避できる。
【0067】
<その他>
上記実施形態で説明した制御部11の構成のうち、ハンマリング・オン歌唱を特定するためには、少なくとも歌唱ピッチ検出部100及びハンマリング・オン歌唱特定部200があればよい。
【0068】
また、上記実施形態で説明したハンマリング・オン歌唱の特定処理や判定処理等をプログラムとして提供することも可能である。たとえば、当該プログラムは、コンピューター(たとえば、カラオケ装置)に、カラオケ楽曲の歌唱により得られた歌唱音声信号から、所定区間毎に歌唱ピッチを検出させ、検出した歌唱ピッチの中に、連続する2つの歌唱ピッチのピッチ差が所定範囲内であり、且つ所定数以上連続する第1の水平区間及び第2の水平区間と、当該第1の水平区間の終了時の歌唱ピッチから当該第2の水平区間の開始時の歌唱ピッチに至るまで、所定の条件で歌唱ピッチが上昇する上昇区間とが存在する場合、ハンマリング・オン歌唱が行われていると特定させる。
【0069】
また、上記プログラムが記憶された非一時的なコンピューター可読媒体(non-transitory computer readable medium with an executable program thereon)を用いて、コンピューターにプログラムを供給することも可能である。なお、非一時的なコンピューターの可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、CD-ROM(Read Only Memory)等がある。
【0070】
上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。上記の構成は、適宜組み合わせて実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1 カラオケ装置
10 カラオケ本体
11 制御部
100 歌唱ピッチ検出部
200 ハンマリング・オン歌唱特定部
300 ハンマリング・オン歌唱判定部
400 提示部
500 採点処理部